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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1337762
審判番号 不服2017-2492  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-21 
確定日 2018-03-13 
事件の表示 特願2014-125182「用紙加湿装置及び画像形成システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月12日出願公開、特開2016- 4190、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月18日の出願であって、平成28年8月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年10月28日付けで手続補正がされ、平成28年11月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年2月21日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成29年8月8日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年10月23日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1乃至10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」などという。)は、平成29年10月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定される発明である。
「【請求項1】
用紙を加湿する加湿部と、
前記加湿部により用紙の所定の一部のみを加湿させる、又は前記所定の一部を他の部分より多く加湿させる制御部と、を備え、
前記制御部は、前記所定の一部の用紙搬送方向における長さをジョブの内容に応じて設定することを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項2】
用紙を加湿する加湿部と、
前記加湿部により用紙の所定の一部のみを加湿させる、又は前記所定の一部を他の部分より多く加湿させる制御部と、を備え、
前記制御部は、用紙処理の内容に応じて前記所定の一部の位置を設定することを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項3】
前記加湿部は、用紙を加湿する加湿ローラー対と、前記加湿ローラー対を回転させる駆動部と、を有し、
前記加湿ローラー対の外周面に水を供給する給水部を備え、
前記制御部は、前記給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面に水を供給させた後、前記駆動部により回転させた前記加湿ローラー対に用紙を挟持させて用紙を加湿させることを特徴とする請求項1又は2に記載の用紙加湿装置。
【請求項4】
前記給水部は、ローラーであり、
前記加湿ローラー対と前記給水部とは、当接および離間可能に構成されており、
前記制御部は、前記加湿ローラー対と前記給水部との当接タイミングを制御することにより前記所定の一部の用紙搬送方向における長さを可変に制御することを特徴とする請求項3に記載の用紙加湿装置。
【請求項5】
用紙を加湿する加湿ローラー対と、前記加湿ローラーを回転させる駆動部と、を有する加湿部と、
前記加湿ローラー対の外周面に水を供給する給水部と、
前記給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面の所定の一部にのみ水を供給した後、前記駆動部により回転させた前記加湿ローラー対に用紙を挟持させ、前記所定の一部を用紙における用紙処理を実行する範囲に接触させる制御部と、を備え、
前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部と、前記用紙における用紙処理を実行する範囲とは、用紙搬送方向において同一の長さであり、
前記制御部は、前記用紙における用紙処理を実行する範囲の用紙搬送方向先端部が前記加湿ローラー対のニップ部に到達するタイミングで、前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部を用紙に接触させるとともに、前記駆動部を制御して、前記加湿ローラー対の回転速度を下げることを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項6】
用紙を加湿する加湿ローラー対と、前記加湿ローラーを回転させる駆動部と、を有する加湿部と、
前記加湿ローラー対の外周面に水を供給する給水部と、
前記給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面の所定の一部にのみ水を供給した後、前記駆動部により回転させた前記加湿ローラー対に用紙を挟持させ、前記所定の一部を用紙における用紙処理を実行する範囲に接触させる制御部と、を備え、
前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部と、前記用紙における用紙処理を実行する範囲とは、用紙搬送方向において同一の長さであり、
前記制御部は、前記用紙における用紙処理を実行する範囲の用紙搬送方向中央部が前記加湿ローラー対のニップ部に到達するタイミングで、前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部を用紙に接触させるとともに、前記駆動部を制御して、前記加湿ローラー対の回転を所定時間停止させることを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項7】
用紙を加湿する加湿ローラー対と、前記加湿ローラーを回転させる駆動部と、を有する加湿部と、
前記加湿ローラー対の外周面に水を供給する給水部と、
前記給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面の所定の一部にのみ水を供給した後、前記駆動部により回転させた前記加湿ローラー対に用紙を挟持させ、前記所定の一部を用紙における用紙処理を実行する範囲に接触させる制御部と、を備え、
前記加湿部は、前記加湿ローラー対に対して用紙搬送方向上流部に設けられた、用紙を搬送する搬送部材を備え、
前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部は、前記用紙における用紙処理を実行する範囲よりも用紙搬送方向において長く、
前記制御部は、前記用紙における用紙処理を実行する範囲の用紙搬送方向先端部が前記加湿ローラー対のニップ部に到達するタイミングで、前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部を用紙に接触させるとともに、前記駆動部を制御して、前記搬送部材が用紙を搬送する速度よりも前記加湿ローラー対の表面における速度が速くなるように、前記加湿ローラー対の回転速度を上げ、前記用紙における用紙処理を実行する範囲の用紙搬送方向先端部が前記加湿ローラー対のニップ部に到達後の用紙の送り制御において、前記加湿ローラー対を用紙の表面でスリップさせることを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項8】
用紙を加湿する加湿ローラー対と、前記加湿ローラーを回転させる駆動部と、を有する加湿部と、
前記加湿ローラー対の外周面に水を供給する給水部と、
前記給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面の所定の一部にのみ水を供給した後、前記駆動部により回転させた前記加湿ローラー対に用紙を挟持させ、前記所定の一部を用紙における用紙処理を実行する範囲に接触させる制御部と、を備え、
前記制御部は、用紙の種類に応じ、前記加湿ローラー対の一方に対してのみ前記給水部により水を供給することを特徴とする用紙加湿装置。
【請求項9】
前記加湿ローラー対の外周面の所定の一部と、前記用紙における用紙処理を実行する範囲とは、用紙搬送方向において同一の長さであることを特徴とする請求項8に記載の用紙加湿装置。
【請求項10】
用紙に対して画像を形成する画像形成装置と、
前記画像形成装置により画像が形成された用紙を加湿する請求項1?9の何れか一項に記載の用紙加湿装置と、
を備えたことを特徴とする画像形成システム。」

なお、平成28年11月18日付け拒絶査定において拒絶された請求項は、平成28年10月28日付け手続補正書における請求項1乃至5及び12である。
そして、当審による平成29年8月8日付け拒絶理由通知に応じて、平成29年10月23日付け手続補正により、請求項が補正されたため、拒絶査定の前後の請求項の関係について、以下のとおり概略を述べる。
拒絶査定後の平成29年10月23日付け手続補正による請求項1(以下、「新請求項1」という。他の請求項も同じ)は、拒絶査定前の請求項2(以下、「旧請求項2」という。他の請求項も同じ)に実質的に対応している。
新請求項2乃至8は、旧請求項3乃至9に実質的に対応している。
新請求項9及び10は、旧請求項11及び12に実質的に対応している。
旧請求項1及び10は、削除された。
したがって、拒絶査定の適否に関して本審決において検討する請求項は、新請求項1乃至4及び10とする。

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(実願昭50-142973号(実開昭52-57702号)のマイクロフィルム)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「本考案はオフセット輪転印刷機における印刷紙の加湿装置に関するものである。」(第1頁下から第4?3行)

イ 「以下実施例を示す第1図乃至第5図について説明する。同図において、1は中空ローラにして、その両端軸部がフレーム2,2′に設けられた軸受3,3′により回転自在に支持されている。この中空ローラ1の外周長手方向には溝1aが削設されており、この溝1aの底部には該ローラ1の内部空胴1bに通ずる細穴1cが複数個設けられている。上記した複数個の細穴1c上すなわち溝1aにはスポンジ4が取付けられており、且つ中空ローラ1の一端軸部には、図示せずの駆動歯車と噛合する従動歯車5が取付けられている。また中空ローラ1の他端軸部にはロータリジョイント6が取付けられており、このロータリジョイント6には三方向の出入口が設けられている。一方の入口には水源7と接続する給水管8が取付けられており、且つ他方の出口には上記した給水管8よりの水を一定量、中空ローラ1の内部空胴1bに流出させる管9が接続している。ついで今一つの出口には余剰の水を排水する排水管10が接続している。」(第2頁第10行?第3頁第9行)

ウ 「水源7より供給された水は給水管8、ロータリジョイント6、および管9を通して中空ローラ1の内部空胴1bに流出する。この流出された内部空胴1bの水は細穴1cを通つてスポンジ4に浸透する。同時に中空ローラ1が図示せずの駆動歯車により従動歯車5を介して回転しているので、これに取付けられたスポンジ4が印刷紙11の両面で対向し、これによつて第3図に示す二つ折印刷紙11の斜線部分11a(製本時の綴じ込み部)を加湿する。」(第3頁第12行?第4頁第2行)
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「両端軸部がフレーム2,2′に設けられた軸受3,3′により回転自在に支持されている中空ローラ1であって、
上記中空ローラ1の外周長手方向には、底部に該ローラ1の内部空胴1bに通ずる細穴1cが複数個設けられ、かつ、スポンジ4が取付けられた溝1aが削設されており、
上記中空ローラ1の一端軸部には、駆動歯車と噛合する従動歯車5が取付けられ、
上記中空ローラ1の他端軸部にはロータリジョイント6が取付けられ、
該ロータリジョイント6には、水源7と接続する給水管8と、給水管8よりの水を一定量中空ローラ1の内部空胴1bに流出させる管9と、余剰の水を排水する排水管10がそれぞれ接続する三方向の出入口が設けられ、
水源7より供給された水は給水管8、ロータリジョイント6、及び管9を通して中空ローラ1の内部空胴1bに流出し、
該内部空胴1bに流出した水は細穴1cを通つてスポンジ4に浸透し、
上記中空ローラ1の従動歯車5を介した回転により、上記スポンジ4が印刷紙11の両面で対向して、二つ折印刷紙11の製本時の綴じ込み部を加湿する、
印刷紙の加湿装置。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-256339号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

エ 「【0032】
用紙処理装置20は、画像形成装置10の後段に配置されており、画像形成装置10から供給される用紙Pに対して、用紙Pの所定辺の端部に一つ以上の貫通孔を形成するパンチ処理を行う。この用紙処理装置20は、加湿部30と、切断部としてのパンチ部40と、用紙処理制御部60とを主体に構成されている。なお、用紙処理装置20は、パンチ処理が施された用紙Pに対して、その他の処理(例えば所定の部材により複数枚の用紙を束ねる処理であるリングバインド処理など)を追加的に行うことができる構成であってもよい。」

オ 「【0039】
加湿部30は、一対の加湿ローラー31、給水ローラー32、給水槽33を主体に構成されている。図3に示すように、一対の加湿ローラー31は互いに圧接して構成されており、当該ローラーのニップ部が用紙Pの搬送経路と対応して配置されている。一対の加湿ローラー31にはそれぞれ給水ローラー32に接触しており、個々の給水ローラー32はそれぞれ給水槽33に収容されて、その内部に貯水された加湿液、例えば水に浸漬されている。給水槽33には、この給水槽33に所定容量の水が貯水されるように、図示しない水タンクから必要量の水が適宜給水される。
【0040】
この加湿部30において、加湿ローラー31及び給水ローラー32は用紙Pの搬送に対応してそれぞれ回転し、給水ローラー32から加湿ローラー31へと水が補給される。そして、加湿ローラー31から用紙Pへと水が付与されることにより、用紙Pの両面に対する加湿が行われつつ、用紙Pが搬送される。これにより、用紙Pがパンチ部40へと供給されるシーンにおいて、用紙Pの先端が用紙先端ストッパー(ダイ42)に到達するまでに、用紙Pの先端側の所定領域が当該加湿ローラー31を通過する。また、用紙Pがパンチ部40から排出されるシーンにおいて、用紙Pの後端(用紙Pがパンチ部40へと供給されるシーンにおける用紙Pの先端に相当)が加湿部30を抜けるまでに、用紙Pの後端側の所定領域が当該加湿ローラー31を通過する。
【0041】
本実施形態において、加湿ローラー31は、用紙搬送方向FDと直行する用紙幅方向にそって均等な径を備えており、用紙幅方向にかけてニップ部が連続的に形成されている。これにより、図4(a)に示すように、用紙搬送方向FDにおいて範囲が制限された用紙Pの所定領域Raが、用紙Pの全面のなかで選択的に加湿されることとなる。この所定領域Raは、パンチ部40により切断されるパンチ領域Paを含んで構成されている。
【0042】
もっとも、加湿ローラー31は、用紙幅方向にかけて径を異ならせることにより、パンチ領域Paの位置に対応してニップ部を部分的に形成してもよい。この場合、図4(b)に示すように、用紙搬送方向FD及び用紙幅方向において範囲がそれぞれ制限された用紙Pの所定領域Raが、用紙Pの全面のなかで選択的に加湿されることとなる。この所定領域Raは、同様に、パンチ部40により切断されるパンチ領域Paを含んで構成されている。
【0043】
また、この加湿部30において、一対の加湿ローラー31を圧接状態から離間状態へと切り換えたり、又は、加湿ローラー31から給水ローラー32を離間させたりすることにより、加湿動作を停止することもできる。加湿動作の有無は、後述する用紙処理制御部60により切換制御される。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「画像形成装置10の後段に配置された用紙処理装置20であって、
用紙処理装置20は、加湿部30と、切断部としてのパンチ部40と、用紙処理制御部60とを主体に構成され、
加湿部30は、一対の加湿ローラー31、給水ローラー32、給水槽33を主体に構成され、
一対の加湿ローラー31は互いに圧接して構成されており、当該ローラーのニップ部が用紙Pの搬送経路と対応して配置され、
一対の加湿ローラー31にはそれぞれ給水ローラー32に接触しており、個々の給水ローラー32はそれぞれ給水槽33に収容されて、その内部に貯水された加湿液に浸漬され、
加湿ローラー31及び給水ローラー32は用紙Pの搬送に対応してそれぞれ回転し、給水ローラー32から加湿ローラー31へと水が補給されることで、加湿ローラー31から用紙Pへと水が付与されることにより、用紙Pの両面に対する加湿が行われつつ用紙Pが搬送され、これにより、パンチ部40により切断されるパンチ領域Paを含んで構成される用紙搬送方向FDにおいて範囲が制限された用紙Pの所定領域Raが用紙Pの全面のなかで選択的に加湿されることとなり、
用紙幅方向にかけて加湿ローラー31の径を異ならせることにより、パンチ領域Paの位置に対応してニップ部を部分的に形成することで、用紙搬送方向FD及び用紙幅方向において範囲がそれぞれ制限された用紙Pの所定領域Raが用紙Pの全面のなかで選択的に加湿することも可能となり、
また、用紙処理制御部60による切換制御により、加湿ローラー31から給水ローラー32を離間させることにより、加湿動作を停止することもできる用紙処理装置。」

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
後者の「加湿装置」は、前者の「用紙加湿装置」に相当する。
後者の「中空ローラ1」は、印刷紙に直接接触して加湿しているスポンジ4を備えるから、前者の「加湿部」に相当する。
後者の「二つ折印刷紙11の製本時の綴じ込み部」は、所定の部位に定められ加湿される用紙の一部であるから、前者の「用紙の所定の一部」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「用紙を加湿する加湿部と、
前記加湿部により用紙の所定の一部のみを加湿させる用紙加湿装置。」
(相違点)
相違点1:本願発明1は「制御部」を有し、「(加湿に係る)所定の一部の用紙搬送方向における長さをジョブの内容に応じて設定」するのに対し、引用発明1は「制御部」を有するものでもなく、そのような制御を行うものでもない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明2における「用紙処理制御部60」は、加湿ローラー31から給水ローラー32を離間させることにより、加湿動作を停止する制御を行っているものではあるが、加湿動作を実行するか、停止するかを制御するにとどまり、加湿する長さをジョブの内容に応じて設定するような制御を行うものではなく、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項に関して、記載も示唆もない。
そして、本願発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることによって、「ジョブの内容、例えば用紙の種類、用紙の枚数、用紙処理の種類に応じて加湿処理条件を設定する。」(段落【0043】)との作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことではない。
また,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が,本願出願前において周知技術であるともいえないし,当業者にとって設計的事項とする根拠もない。

2.本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明1とを対比する。
後者の「加湿装置」は、前者の「用紙加湿装置」に相当する。
後者の「中空ローラ1」は、印刷紙に直接接触して加湿しているスポンジ4を備えるから、前者の「加湿部」に相当する。
後者の「二つ折印刷紙11の製本時の綴じ込み部」は、所定の部位に定められ加湿される用紙の一部であるから、前者の「用紙の所定の一部」に相当する。
したがって、本願発明2と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「用紙を加湿する加湿部と、
前記加湿部により用紙の所定の一部のみを加湿させる用紙加湿装置。」
(相違点)
相違点2:本願発明2は「制御部」を有し、「(加湿に係る)所定の一部の位置を用紙処理の内容に応じて設定」するのに対し、引用発明1は「制御部」を有するものでもなくそのような制御を行うものでもない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点2について検討する。
引用発明2における「用紙処理制御部60」は、加湿ローラー31から給水ローラー32を離間させることにより、加湿動作を停止する制御を行っているものではあるが、加湿動作を実行するか、停止するかを制御するにとどまり、加湿する位置を用紙処理の内容に応じて設定するような制御を行うものではなく、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に関して、記載も示唆もない。
そして、本願発明2は、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることによって、「ジョブの内容、例えば用紙の種類、用紙の枚数、用紙処理の種類に応じて加湿処理条件を設定する。」(段落【0043】)との作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点2に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことではない。
また,相違点2に係る本願発明2の発明特定事項が,本願出願前において周知技術であるともいえないし,当業者にとって設計的事項とする根拠もない。

3.本願発明3、4及び10について
本願発明3、4及び10は、いずれも、本願発明1又は2の「制御部」という発明特定事項を備え、さらに他の発明特定事項を限定したものであるから、本願発明1又は2と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、旧請求項1-5、12について上記引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年10月23日付け手続補正により補正された旧請求項1-5、12に対応する新請求項1乃至4及び10のうち、独立請求項である請求項1及び2は、それぞれ、「(加湿に係る)所定の一部の用紙搬送方向における長さをジョブの内容に応じて設定する」(本願発明1)、及び「(加湿に係る)所定の一部の位置を用紙処理の内容に応じて設定する」(本願発明2)という、「制御部」を含む発明特定事項事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1乃至4及び10は、上記引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1の「所定の一部の用紙搬送方向における長さを可変に制御する」という記載、請求項2の「所定の一部の用紙搬送方向における長さをジョブの内容に応じて設定する」という記載、請求項6、7、8、9、10の「加湿ローラー対のニップ部」という記載、請求項1の「所定の一部の用紙搬送方向における長さを可変に制御する」という記載、請求項1の「所定の一部の用紙搬送方向における長さを可変に制御する」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年10月23日付けの手続補正による補正の結果、この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第1号について
当審では、請求項8及び10に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨の拒絶の理由を通知しているが、平成29年10月23日付けの手続補正による補正の結果、この拒絶の理由は解消した。

3.特許法第36条第4項第1号について
当審では、請求項6、7、8、9、10の「給水部により前記加湿ローラー対の少なくとも一方の外周面の所定の一部に他の部分より多く水を供給」という記載に関して、請求項6、7、8、9、10に記載された発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨の拒絶の理由を通知しているが、平成29年10月23日付けの手続補正による補正の結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1乃至4及び10は、当業者が引用発明1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-26 
出願番号 特願2014-125182(P2014-125182)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 536- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齋藤 卓司  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
吉村 尚
発明の名称 用紙加湿装置及び画像形成システム  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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