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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09B |
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管理番号 | 1337791 |
審判番号 | 不服2017-10350 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-07-12 |
確定日 | 2018-03-20 |
事件の表示 | 特願2012-223927「会話補助端末」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月1日出願公開、特開2014-77822、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年10月9日の出願であって,平成28年10月13日付けで拒絶理由通知がされ,平成28年12月6日付けで手続補正がされ,平成29年4月11日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成29年7月12日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 現査定の概要 原査定(平成29年4月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1乃至4に係る発明は,以下の引用文献1乃至4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2002-297643号公報 2.特開平8-137385号公報 3.特開2002-366545号公報 4.特開2008-276618号公報 なお,上記拒絶査定では,上記引用文献1乃至4により請求項1を拒絶しているところ,平成28年10月13日付け拒絶理由通知書では,上記引用文献1乃至3により請求項1を拒絶しており,両者に相違が認められるが,「第4 対比・判断」では,引用文献1乃至4により,請求項1が拒絶されたとして,以下検討する。 第3 本願発明 本願請求項1乃至4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」などという。)は,平成28年12月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される発明である。 「【請求項1】 発話困難者の代わりに会話で使用されるメッセージを音声出力する会話補助端末において, 入力装置と, 表示装置と, 所定の施設における会話で使用されるメッセージを音声出力される順序に従って階層化したスクリプトを登録しておくスクリプト記憶部と, 前記施設毎に,当該施設の位置情報と,当該施設で使用される前記スクリプトの識別子と,を含む施設情報を登録しておく施設情報記憶部と, 前記会話補助端末の現在位置情報を取得する位置情報取得部と, 前記位置情報取得部が取得した現在位置情報に基づき,前記施設情報記憶部を参照して当該会話補助端末が位置する施設を特定する施設判定部と, 前記スクリプトの実行に際して,前記メッセージに関する情報を前記表示装置に表示する際のインタフェースであって,各メッセージに対応して前記表示装置に表示される表示画像を含むインタフェースを登録しておくインタフェース記憶部と, 前記施設判定部が特定した施設に設定されている前記スクリプトに基づき,前記入力装置を介して前記表示装置に表示された前記表示画像が発話困難者により選択されると,当該表示画像に対応する前記メッセージを前記会話補助端末から音声出力させるスクリプト実行部と,を備えることを特徴とする会話補助端末。 【請求項2】 前記表示画像は,前記表示装置に選択可能に表示されるアイコンボタンであり, 前記スクリプト実行部は,前記入力装置により選択された前記アイコンボタンに対応する前記メッセージを音声出力することを特徴とする請求項1記載の会話補助端末。 【請求項3】 前記アイコンボタンは,一つの画面内に連続する複数の階層の前記アイコンボタンが表示され,対応する前記メッセージの階層順にのみ選択可能であることを特徴とする請求項2記載の会話補助端末。 【請求項4】 携帯端末に,発話困難者の代わりに会話で使用されるメッセージを音声出力させるための会話補助プログラムにおいて, 所定の施設における会話で使用されるメッセージを音声出力される順序に従って階層化したスクリプトを前記携帯端末に登録しておくスクリプト記憶ステップと, 前記施設毎に,当該施設の位置情報と,当該施設で使用される前記スクリプトの識別子と,を含む施設情報を前記携帯端末に登録しておく施設情報記憶ステップと, 前記スクリプトの実行に際して,前記メッセージに関する情報を前記携帯端末の表示装置に表示する際のインタフェースであって,各メッセージに対応して前記表示装置に表示される表示画像を含むインタフェースを登録しておくインタフェース記憶ステップと, 前記携帯端末の現在位置情報を取得する位置情報取得ステップと, 前記位置情報取得ステップにおいて取得した現在位置情報に基づき,前記施設情報を参照して当該携帯端末が位置する施設を特定する施設判定ステップと, 前記施設判定ステップにおいて特定した施設に設定されている前記スクリプトに基づき,前記携帯端末の入力装置を介して前記表示装置に表示された前記表示画像が発話困難者により選択されると,当該表示画像に対応する前記メッセージを当該携帯端末から音声出力させるスクリプト実行ステップと,を前記携帯端末に実行させることを特徴とする会話補助プログラム。」 なお,平成28年12月6日付け手続補正による,補正後の請求項について,以下のとおり概略を述べる。 請求項1と請求項4は独立形式の請求項であって,それぞれ末尾が「会話補助端末」,「会話補助プログラム」となっており,発明特定事項も,それらの末尾に合わせた記載となっているが,実質的な内容に相違はない。 請求項2及び3は,それぞれ請求項1及び2を引用する,引用形式の請求項である。 第4 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2002-297643号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,何らかの事情で他人に情報を提示したい人を補助し,状況に応じた適切な情報を本人に代わって他人に提示するための情報提示装置に関する。例えば,会話の不自由な人が他人に道順などを尋ねるときや,ある種の機械装置に不慣れな人がその機械装置を使っていて疑問が生じたときなどに好適に使用できるものである。」 イ 「【0011】本形態に係る情報提示装置は,図1に示すような外観構成を有している。その前面には,表示部3,操作入力部4,確定ボタン5,音声入力部6,およびスピーカ7が設けられている。また,情報提示装置1の外部には,情報データベース2があり,相互に交信が可能である。なお,情報データベース2に相当するものを,情報提示装置1に内蔵していてもよい。また,情報提示装置1は,GPS端末,あるいは,携帯電話の基地局からの信号を受信することにより,現在位置を検出できるようになっている。 【0012】次に,本形態に係る情報提示装置1の動作について説明する。情報提示装置1は,ユーザが目的地に移動するまでの間に,または目的地に着いてから,何らかの質問をしたくなった場合に使用される。まず,ユーザは,目的種類等に関わる情報を,操作入力部4または音声入力部6を用いて入力する。目的種類等に関わる情報とは,例えば,「デパートに行く」のような目的行動に関する情報である。この場合,「デパート」が目的地であり,目的の内容は「移動」である。情報提示装置1は,これらの情報が入力されると,自動的に目的地までの各ポイントを決定する。なお,決定したポイントは,手動により修正することも可能である。ここでいうポイントとは,質問文データを更新する場所のことである。 【0013】次に,ユーザは,質問をしたくなったとき,現在位置のポイントを操作入力部4または音声入力部6で選択し,確定ボタン5を押下する。情報提示装置1は,確定ボタン5が押下されると,質問文を情報データベース2から取得する。また,現在位置を自動検出して質問文を取得することとしてもよい。次に,ユーザが質問文を利用しやすくするために,取得した質問文の加工を行う。この加工処理には,グループ化や優先順位付け等がある。加工された質問文は,表示部3に表示される。最後に,ユーザが質問を選択し確定ボタン5を押下すると,スピーカ7より質問文を音声出力する。なお,質問文の出力は,音声によるものの他,耳の不自由な人のために表示部3で表示を行ってもよい。また,緊急時等のために遠隔地の出力手段に通信して出力させてもよい。」 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「会話の不自由な人など何らかの事情で他人に情報を提示したい人を補助し,状況に応じた適切な情報を本人に代わって他人に提示するための情報提示装置1において, 表示部3,操作入力部4,確定ボタン5,音声入力部6,およびスピーカ7が設けられ, さらに,情報提示装置1は情報データベース2に相当するものを内蔵していてよく,また,GPS端末,あるいは,携帯電話の基地局からの信号を受信することにより,現在位置を検出でき, ユーザは,目的種類等に関わる情報を,操作入力部4または音声入力部6を用いて入力し,情報提示装置1は,目的種類等に関わる情報が入力されると,自動的に目的地までの質問文データを更新する場所である各ポイントを決定し, ユーザは,質問をしたくなったとき,現在位置のポイントを操作入力部4または音声入力部6で選択するか,現在位置を自動検出させた後に,確定ボタン5を押下し,情報提示装置1は,確定ボタン5の押下に伴い,質問文を情報データベース2から取得し,ユーザが質問文を利用しやすくするために,取得した質問文の加工を行った後に表示部3に表示され,ユーザが質問を選択し確定ボタン5を押下すると,スピーカ7より質問文を音声出力する情報提示装置1。」 2.引用文献2について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平8-137385号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ウ 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,言語機能や聴覚に障害を持つ利用者の会話を補助する携帯用の会話装置に関する。」 エ 「【0013】 【実施例】図1は本発明による実施例の会話装置の外観を表したものである。会話装置101は,例文を表示するための表示画面102と,例文を音声合成したものを出力するためのスピーカ103を備えている。画面102は,液晶ディスプレイとタッチパネルを組み合わせた構成になっており,指またはペンを用いて画面に表示されている対象(例文やメニューボタン等)を直接選択する。また画面102は,装置利用者のための表示領域104と,その会話相手のための表示領域105とに分割されており,それぞれの領域は対面して会話するのに便利なように,互いに上下が反転した方向に表示される。 【0014】装置利用者用の表示領域104はさらに,場面/キーワード名やメッセージを表示する領域106と,例文やキーワードをテキスト形式で表示する領域107と,会話制御や場面選択のための画面上のメニューボタン等を表示する領域108から構成されている。会話相手側の表示領域105も,同様にメッセージ領域109,テキスト表示領域110,メニューボタン表示領域111を備えている。 【0015】図2は,本会話装置の簡単なハードウェアである。会話装置は,装置の制御を行うためのCPU201,プログラムやデータを保存するためのメモリ202,音声を出力するためのスピーカ203,例文等の表示を行うための液晶画面204,例文選択等の入力を得るためのタッチパネル205で構成されている。 【0016】メモリ202には,処理を制御するプログラム206および例文のデータ207が保存されており,プログラム206は電源を入れるとロードされる。 【0017】図3は,システム構成とデータの流れを示したものである。全体の処理は制御プログラム301によって制御されている。制御プログラム301は,ドライバソフト302と呼ばれるハードウェアを直接制御するプログラムを呼び出すことによって画面の表示や例文の選択等の制御を行う。ドライバソフト302には,主に音声出力ドライバ303,画面表示ドライバ304,座標入力ドライバ305の3種類のプログラムがある。音声出力ドライバ303は,制御プログラム301からの音声出力の命令を受けて,メモリ207より取り出した例文データから音声合成を行い,これをスピーカ203を通して出力する。画面表示ドライバ304は,制御プログラム301からの画面表示の命令を受けて,表示すべき例文の集合のデータをメモリ207から取り出し,これを液晶画面204に表示する。座標入力ドライバ305は,タッチパネル205からの入力を受け取って,その座標を制御プログラム301に返す。」 オ 「【0019】図4は,場面「緊急」に含まれる例文を,装置利用者が選択しているときの画面を示したものである。装置利用者用の表示領域104には,「緊急」という場面名401と,その場面に含まれる文章の候補である例文402から407が表示されている。なお,場面「緊急」は,「緊急」の場面選択ボタン408を選択することにより呼び出している。例文の選択は,所望の例文を直接指またはペンで押してから離すことにより完了する。 【0020】図4では,利用者の手409により,例文403「私の代わりに03-1234-5678に電話してください」が指先で押されている。この状態で選択しようとしている文章を確認できるように,例文403が白黒反転して表示される。なお,装置利用者が例文を選択している間は,会話相手用の表示領域105に,「これから話す文に答えてください」と,メッセージ410が表示される。 【0021】図5は,図4での例文の選択が完了したところである。指を離すと,選択した例文の内容が利用者用表示領域104と会話相手用表示領域105の両方に表示される(501,502)。また,この例文の内容が音声合成されてスピーカから発声され(503),同時に発声していることを表すマーク504が利用者用表示領域104に表示される。これに対して,会話相手用表示領域105には例文「私の代わりに03-1234-5678に電話してください」に対する回答文の候補として,例文505「いいですよ」と例文506「今急いでいますので,電話できません」が表示される。ここで会話相手がそのうちの一つの例文を選択すると,その内容が装置利用者に伝えられて会話が成立する。会話相手からの回答にさらに回答文が登録されていれば(例えば,相手からの回答文「いいですよ」に対して,電話して伝えて欲しい内容やさらに詳しい情報等),さらに双方向の会話を続けて行うことができる。」 したがって,上記引用文献2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「言語機能や聴覚に障害を持つ利用者の会話を補助する携帯用の会話装置において, 会話装置は,装置の制御を行うためのCPU201,プログラムやデータを保存するためのメモリ202,音声を出力するためのスピーカ203,例文等の表示を行うための液晶画面204,例文選択等の入力を得るためのタッチパネル205で構成され, 液晶ディスプレイ204とタッチパネル205を組み合わせた構成である画面102は,装置利用者のための表示領域104と,その会話相手のための表示領域105とに分割されており, メモリ202には,処理を制御するプログラム206および例文のデータ207が保存され, 制御プログラム301は,ドライバソフト302と呼ばれるハードウェアを直接制御するプログラムを呼び出すことによって画面の表示や例文の選択等の制御を行い, 音声出力ドライバ303は,制御プログラム301からの音声出力の命令を受けて,メモリ207より取り出した例文データから音声合成を行い,これをスピーカ203を通して出力し, 画面表示ドライバ304は,制御プログラム301からの画面表示の命令を受けて,表示すべき例文の集合のデータをメモリ207から取り出し,これを液晶画面204に表示するものであって, 装置利用者用の表示領域104には,場面選択ボタン408を選択することにより呼び出される場面名401と,その場面に含まれる文章の候補である例文402から407が表示され, 例文の選択が完了すると,選択した例文の内容が利用者用表示領域104と会話相手用表示領域105の両方に表示されるとともに,この例文の内容が音声合成されてスピーカから発声され, 会話相手用表示領域105に,上記例文に対する回答文の候補が表示され,会話相手がそのうちの一つを選択すると,その内容が装置利用者に伝えられて会話が成立するものであって, 会話相手からの回答にさらに回答文が登録されていれば,さらに双方向の会話を続けて行うことができる会話装置。」 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2002-366545号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 カ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,外国語会話支援装置に関し,より詳細には,位置検出装置を備え,外国語会話支援装置が使用される空港,ホテル,病院等の場所の言語圏の言語に翻訳され且つその場所での会話文を自動的に選択する外国語会話支援装置に関する。」 キ 「【0006】 【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態について説明する。図1は,本発明が適用される外国語会話支援装置としての携帯電話機の外観説明図であり,携帯電話機1には,箱型ケース20の上端20Aに引出し収納式のアンテナ21が設けられており,前面20Bには液晶ディスプレイからなる表示部22と,操作キーからなる入力部23が設けられている。また前面20Bの上側内部には,スピーカ24が,前面20B下側内部にはマイク25が収納されている。更に側面20Cには,着脱自在なメモリ,例えばメモリスティック(登録商標:ソニー株式会社)26を装着するためのスロット27,イヤフォンジャック28が設けられている。 【0007】図2は,携帯電話機の内部概略構成図であり,制御部30は図示しないCPU,ROM及びRAMを備えており,ROMに予め格納されている基本プログラム及びアプリケーションをRAMにロードし,ロードされた基本プログラムやアプリケーションに従って携帯電話機を制御する。電話機としての機能を実現する場合,まず送信時には,入力部23からのキー操作により,電話番号を入力したり或いは発呼要求をすると,それに応じて制御部30は,通信処理部31及びアンテナ21を通して図示しない基地局を介して通話相手側電話機と接続する。次にマイク25から収音された音声データを通信処理部31により変調処理し,変調された音声データを,アンテナ21を介して基地局に送信する。受信時には,アンテナ21から受信データを通信処理部31に取り込み,復調処理した後,スピーカ24を介して音声出力し,通話を実現させる。なお,アンテナ33,位置データ検出部34は,本機が後述する外国語会話支援装置として機能するときの位置検出に使用するものであり,アンテナ33は内蔵タイプのものが使用される。」 ク 「【0012】更に前記アプリケーションの起動によって,位置データ検出部34が制御部30に接続されて作動状態に入る。位置データ検出部34は,GPS(Global Positioning System)による自己位置検出装置であり,前記操作により携帯電話機が存在している位置の座標データを一定時間毎に把握しており,このデータにが制御部30に供給されると,メモリスティック26にロードされている言語地図データを参照し,現在地がどの言語圏に該当しているか,つまり,現在地で常用されている言語を判別し,言語判別情報を図示しないCPUに供給する。この動作が常時行われることによりCPUは自己位置で常用されている言語を判別することができる。同様に地図データを参照し,現在地判別情報をCPUに供給することにより現在地がどの場所に該当しているか,つまり,空港,乗り物,ホテル等のいずれの場所であるか判別することができるため,当該言語に対応する当該場所における会話文例をメモリスティック26から選択することができる。例えば,ロンドンの空港にいる場合は自動的に英語に関する空港の対訳文例が表示され,スイスのホテルにいる場合は地域毎に異なる言語に対応するホテルの対訳文例が自動的に表示部22に表示されることになる。」 したがって,上記引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「位置検出装置を備え,外国語会話支援装置が使用される場所の言語圏の言語に翻訳され且つその場所での会話文を自動的に選択する外国語会話支援装置において, 外国語会話支援装置としての携帯電話機であって, 該携帯電話機1には,液晶ディスプレイからなる表示部22,操作キーからなる入力部23,スピーカ24,着脱自在なメモリであるメモリスティック26を装着するためのスロット27が設けられ, 制御部30はCPU,ROM及びRAMを備えており,ROMに予め格納されている基本プログラム及びアプリケーションをRAMにロードし,ロードされた基本プログラムやアプリケーションに従って携帯電話機を制御するものであって, 内蔵タイプのアンテナ33,位置データ検出部34は,外国語会話支援装置として機能するときの位置検出に使用され, アプリケーションの起動によって,GPS(Global Positioning System)による自己位置検出装置位置であるデータ検出部34が制御部30に接続されて作動状態に入り, 携帯電話機が存在している位置の座標データを一定時間毎に把握し,このデータが制御部30に供給されると,メモリスティック26にロードされている言語地図データを参照し,現在地がどの言語圏に該当しているかを判別し,言語判別情報をCPUに供給し, さらに,地図データを参照し,現在地判別情報をCPUに供給することにより現在地がいずれの場所であるか判別することができるため,当該言語に対応する当該場所における会話文例をメモリスティック26から選択することができ, 対訳文例が自動的に表示部22に表示される外国語会話支援装置。」 4.引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2008-276618号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ケ 「【0033】 図2は,携帯型翻訳機1のハードウェア構成を示す図である。 図2を参照して,携帯型翻訳機1は,当該携帯型翻訳機1の動作を全体的に制御する制御部10を備えている。制御部10は,CPU(Central Processing Unit)を含む。また,携帯型翻訳機1は,ユーザが情報を入力する入力部11と情報を表示する表示部12を含む。入力部11は,ボタン,表示部12に表示されるタッチキーやタッチパネル,および/または,音声を入力するマイクを含む。また,携帯型翻訳機1は,音声を出力するためのD/A変換部13,出力アンプ14,スピーカ15を含む。 【0034】 また,携帯型翻訳機1は,複数の言語の会話の例文および所定の言語対の辞書データおよび例文を記憶する辞書データ記憶部16,会話の例文の音声データを記憶する音声データ記憶部17,種々の情報を記憶する情報記憶部18,および,インターネット等のネットワーク上のサーバやGPS衛星と通信を行なう通信部19を含む。」 コ 「【0036】 情報記憶部18に格納されている情報には,制御部10が実行する処理のプログラム,会話事例DB104,会話履歴DB108,および,情報変換用DB110が含まれる。辞書データ記憶部16に格納されている情報には,翻訳・辞書DB105が含まれる。 【0037】 携帯型翻訳機1では,制御部10が情報記憶部18に格納されるプログラムを適宜実行することによって,会話エンジン101および情報処理エンジン102が実現される。 【0038】 携帯型翻訳機1は,会話履歴DB108に,当該携帯型翻訳機1が出力した会話文に関する情報を記憶している。そして,携帯型翻訳機1は,ユーザから会話文の出力を要求されると,その時点の時刻情報に応じた情報と関連付けられている会話文を出力する。会話履歴DB108に記憶されているデータ(会話履歴テーブル)の一例を表2に示す。」 サ 「【0042】 まず図3を参照して,制御部10は,まずステップS101で,通信部19にGPS衛星と通信させることにより,自機の位置情報を取得する。なお,上記したように,自機の位置情報を取得する方法は,GPS衛星との通信に限定されない。 【0043】 次に,ステップS102で,制御部10は,現在位置の<建物情報>を取得する。なお,ステップS102の処理内容を,当該処理のサブルーチンのフローチャートである図4を参照して詳細に説明する。」 シ 「【0086】 図7を参照して,会話候補文出力処理では,制御部10は,まずステップS501で,携帯型翻訳機1の現在の位置情報を取得する。 【0087】 次に,制御部10は,ステップS502で,会話履歴DB108に格納された各会話候補文の住所フィールド(表2参照)から,住所情報を取得する。なお,ステップS502で取得される住所情報とは,たとえば,国,または,一年における気候および/または生活習慣を同じくする地域の規模で,場所を特定する情報とされる。また,情報変換用DB110には,会話履歴DB108の住所フィールドに格納された情報を上記の住所情報に変換するためのテーブルが適宜記憶されており,制御部10は,当該テーブルを参照することにより上記の住所情報を取得する。 【0088】 次に,制御部10は,ステップS503で,時間帯変換テーブル1101から,位置情報と住所情報に基づいて時間帯変換情報を取得する。位置情報とは,ステップS501で取得した位置情報であり,住所情報とは,ステップS502で取得した住所情報である。」 ス 「【0091】 次に,ステップS504では,制御部10は,会話履歴DB108に格納された各会話候補文の日時フィールド(表2参照)から,各会話候補文に関連付けられた時刻情報を取得して,ステップS505(図8参照)に処理を進める。 【0092】 図8を参照して,ステップS505では,制御部10は,タイマ20から現在の時刻情報を取得し,ステップS506へ処理を進める。 【0093】 ステップS506では,制御部10は,ステップS505で取得した現在時刻情報から,検索キーワードを生成して,ステップS507へ処理を進める。なお,ステップS506の処理の内容を,当該処理のサブルーチンのフローチャートである図10を参照して説明する。」 セ 「【0102】 再度図8を参照して,ステップS506の後,制御部10は,ステップS507で,ステップS503で取得した時間帯変換情報を利用して,ステップS506で取得した検索キーワードを補正する。」 したがって,上記引用文献4には次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。 「CPUを含む制御部10と,ユーザが情報を入力する入力部11と,情報を表示する表示部12と,音声を出力するためのD/A変換部13,出力アンプ14,スピーカ15を含む携帯型翻訳機1において, 複数の言語の会話の例文および所定の言語対の辞書データおよび例文を記憶する辞書データ記憶部16,会話の例文の音声データを記憶する音声データ記憶部17,制御部10が実行する処理のプログラム,会話事例DB104,会話履歴DB108,および,情報変換用DB110が含まれる種々の情報を記憶する情報記憶部18,および,インターネット等のネットワーク上のサーバやGPS衛星と通信を行なう通信部19をさらに含み, 携帯型翻訳機1は,ユーザから会話文の出力を要求されると,その時点の時刻情報に応じた情報と関連付けられている会話文を出力するものであって, 制御部10は,通信部19にGPS衛星と通信させることにより,自機の位置情報を取得し,会話履歴DB108に格納された各会話候補文の住所フィールドから,住所情報を取得し,時間帯変換テーブル1101から,位置情報と住所情報に基づいて時間帯変換情報を取得し,会話履歴DB108に格納された各会話候補文の日時フィールドから,各会話候補文に関連付けられた時刻情報を取得し,現在時刻情報から,検索キーワードを生成し,時間帯変換情報を利用して,検索キーワードを補正する携帯型翻訳機。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 後者の「情報提示装置1」は,会話の不自由な人など何らかの事情で他人に情報を提示したい人を補助し,状況に応じた適切な情報を本人に代わって他人に提示するための装置であって,スピーカ7より質問文を音声出力するから,前者の「発話困難者の代わりに会話で使用されるメッセージを音声出力する会話補助端末」に相当する。 後者の「操作入力部4,確定ボタン5,音声入力部6」は,前者の「入力装置」に相当する。 後者の「表示部3」は,前者の「表示装置」に相当する。 後者は「GPS端末,あるいは,携帯電話の基地局からの信号を受信することにより,現在位置を検出」できるから,前者の「会話補助端末の現在位置情報を取得する位置情報取得部」に相当する構成を備えていることは自明である。 したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「発話困難者の代わりに会話で使用されるメッセージを音声出力する会話補助端末において, 入力装置と, 表示装置と, 前記会話補助端末の現在位置情報を取得する位置情報取得部とを備える会話補助端末。」 (相違点) 相違点1:本願発明1は「所定の施設における会話で使用されるメッセージを音声出力される順序に従って階層化したスクリプトを登録しておくスクリプト記憶部」を有しているのに対し,引用発明1はそのような「スクリプト記憶部」を有するものではない点。 相違点2:本願発明1の「施設情報記憶部」は,「施設毎に,当該施設の位置情報と,当該施設で使用される前記スクリプトの識別子と,を含む施設情報を登録」しているのに対し,引用発明1は「現在位置を自動検出」し,「質問文を情報データベース2から取得」しており,情報データベース2から取得された質問文は,自動検出された現在位置に適合するものであることは明らかであって,本願発明1の「施設毎に,当該施設の位置情報を含む施設情報を登録しておく施設情報記憶部」に相当する構成を備えているとまではいえるものの「スクリプトの識別子」を含まない点。 相違点3:本願発明1の「施設判定部」は,「位置情報取得部が取得した現在位置情報に基づき,前記施設情報記憶部を参照して当該会話補助端末が位置する施設を特定」しているのに対し,引用発明1は,相違点2で述べたように「施設毎に,当該施設の位置情報を含む施設情報を登録しておく施設情報記憶部」に相当する構成を備えているから,本願発明1の「位置情報取得部が取得した現在位置情報に基づき,当該会話補助端末が位置する施設を特定する施設判定部」に相当する構成を備えているとまではいえるものの「スクリプトの識別子を含む施設情報記憶部」を参照するものではない点。 相違点4:本願発明1の「インタフェース記憶部」は「スクリプトの実行に際して,前記メッセージに関する情報を前記表示装置に表示する際のインタフェースであって,各メッセージに対応して前記表示装置に表示される表示画像を含むインタフェースを登録」しておくものであるのに対し,引用発明1は「取得した質問文の加工を行った後に表示部3に表示」しているから,本願発明1の「メッセージに関する情報を前記表示装置に表示する際のインタフェースであって,各メッセージに対応して前記表示装置に表示される表示画像を含むインタフェースを登録しておくインタフェース記憶部」に相当する構成を備えているとまではいえるものの「スクリプトの実行」に係るものではない点。 相違点5:本願発明1の「スクリプト実行部」は「施設判定部が特定した施設に設定されている前記スクリプトに基づき,前記入力装置を介して前記表示装置に表示された前記表示画像が発話困難者により選択されると,当該表示画像に対応する前記メッセージを前記会話補助端末から音声出力」させるものであるのに対し,引用発明1は「取得した質問文の加工を行った後に表示部3に表示され,ユーザが質問を選択し確定ボタン5を押下すると,スピーカ7より質問文を音声出力」しているから,本願発明1の「入力装置を介して前記表示装置に表示された前記表示画像が発話困難者により選択されると,当該表示画像に対応する前記メッセージを前記会話補助端末から音声出力」するに相当する構成を備えているとまではいえるものの「施設判定部が特定した施設に設定されている前記スクリプト」に基づくものではない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討する。 引用発明2には「会話相手からの回答にさらに回答文が登録されていれば,さらに双方向の会話を続けて行うことができる」と記載されているところから,本願発明1における「会話で使用されるメッセージを音声出力される順序に従って階層化したスクリプトを登録しておくスクリプト記憶部」に相当する構成を有していることは認められるものの,引用発明2の回答文は「所定の施設」に対応したものではないから,「施設毎に,当該施設の位置情報と,当該施設で使用される前記スクリプトの識別子と,を含む施設情報を登録」しているものではない。 引用発明3は「当該場所における会話文例をメモリスティック26から選択」しているものの,該会話文例は階層化されたスクリプトではない。 引用発明4は「ユーザから会話文の出力を要求されると,その時点の時刻情報に応じた情報と関連付けられている会話文を出力」し,「位置情報と住所情報に基づいて?検索キーワードを補正」しているものの,該会話文は階層化されたスクリプトではない。 したがって,引用文献2乃至4には,上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に関して,記載も示唆もない。 そして,本願発明1は,上記相違点2に係る発明特定事項を備えることによって,「会話補助端末10の位置情報に基づいて,発話困難者が位置している施設での使用に最適な会話のスクリプトが自動的に選択されるので,発話困難者が容易に会話補助機能を利用することができる。」(段落【0041】)との作用効果を奏するものである。 また,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が,本願出願前において周知技術であるともいえないし,当業者にとって設計的事項とする根拠もない。 したがって,本願発明1は,他の相違点を検討するまでもなく,当業者であっても引用発明1乃至4に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2,3及び4について 本願発明2,3は,いずれも,本願発明1の「施設情報記憶部」という発明特定事項を備え,さらに他の発明特定事項を限定したものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1乃至4に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 本願発明4は,本願発明1と末尾が異なるほかは,本願発明1と実質的内容に相違がないため,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1乃至4に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明1乃至4は,当業者が引用発明1乃至4に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-03-08 |
出願番号 | 特願2012-223927(P2012-223927) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G09B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 柴田 和雄 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
吉村 尚 藤本 義仁 |
発明の名称 | 会話補助端末 |
代理人 | 相原 正 |