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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06N
管理番号 1337834
審判番号 不服2017-6339  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-01 
確定日 2018-03-20 
事件の表示 特願2013- 31187「解探索装置、解探索方法及びプログラム、スケジュール生成装置、スケジュール生成方法及びプログラム、並びに充電制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日出願公開、特開2014-160399、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成25年2月20日の出願であって,平成28年9月8日付けで拒絶の理由が通知され,同年11月14日に手続補正書が提出され,平成29年2月3日付けで拒絶査定(謄本送達日同年2月7日)がなされ,これに対して同年5月1日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年6月6日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成29年2月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-11に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.高濱 徹行 ほか,ε制約遺伝的アルゴリズムによる制約付き最適化,情報処理学会論文誌 第47巻 第6号,2006年 6月,pp.1861-1871
2.掛水 貴之 ほか,TS法によるコンタクトセンター要員シフト作成法,第68回(平成18年)全国大会講演論文集(2) 人工知能と認知科学,2006年 3月,pp.2-133 ? 2-134
3.特開2012-213316号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正(以下,「本件補正」という。))は,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。以下に,各補正事項について検討する。(なお下線は,説明のために当審にて付加。以下同様。)

1 請求項1及び4について
本件補正によって請求項1,4に「電力受給に係るスケジュールについて」という事項,「かつ電気代が小さいほど」という事項,及び「電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する」という事項(以上3つの事項を併せて,以下「追加事項」という。)を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか,また,追加事項は,当初明細書の段落24及び29に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものではないかについて検討する。
まず,「電力受給に係るスケジュールについて」という事項については,本件補正前の「制約条件を満たす解を探索する」との発明特定事項を,限定的に減縮するものである。
次に,「かつ電気代が小さいほど」という事項については,本件補正前の「仮評価関数」につき,本件補正前は「前記個体が前記制約条件を満たす値に近いほど高い評価を示す評価値を導出する」と特定されていたものを,さらに「前記個体が前記制約条件を満たす値に近く、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する」と限定的に減縮するものである。
最後に,「電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する」という事項については,本件補正前の「評価関数」につき,本件補正前は「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数である」とされていたものを,「前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する」と限定的に減縮するものである。
以上総合して,追加事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また,上記段落24には,
「【0024】
《第1の実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
第1の実施形態に係るスケジュール生成装置100(解探索装置)は、二次電池を搭載する複数のEVと当該EVを充電する複数の充電器とを備える設備において、契約電力の条件を満たしつつ全体の電気代を抑えるための、二次電池の充電スケジュールを生成する装置である。ここで、契約電力とは、単位時間に電力系統から供給を受けることができる電力の上限値として、電力会社との契約で定められた電力のことである。なお、第1の実施形態に係る設備には、複数の充電器が備えられており、1つの充電器は同時に2以上のEVの二次電池を充電することができない。」
と記載され,同段落29には
「【0029】
評価値算出部104は、シミュレータ部103によるシミュレーション結果と所定の評価関数または仮評価関数を用いて、各個体について評価値を算出する。本実施形態において評価関数は、電気代が安くなる個体ほど高い評価値を導出する関数である。また、本実施形態において仮評価関数は、電気代が安くかつピーク電力が小さい個体ほど高い評価値を導出する関数である。ここで、ピーク電力とは、単位時間に設備が電力系統から供給を受ける電力の最大値を示す。なお、評価値は、高い値であるほど適正度、評価が高いことを示す。」
と記載されていることから,上記追加事項は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,本件補正後の請求項1乃至11に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

2 請求項5について
請求項5についても,請求項1及び4と同様の,「電力受給に係るスケジュールに係る個体であって」という事項,「かつ電気代が小さいほど」という事項,及び「電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する」という事項を追加する補正は,上記「1 請求項1及び4について」の項で検討したとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とし,新規事項を追加するものではない。

3 請求項6及び9乃至11について
請求項6及び9乃至11についても同様に,「かつ電気代が小さいほど」という事項を加える補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,新規事項を追加するものではない。


第4 本願発明

本願請求項1乃至11に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明11」などという。)は,平成29年5月1日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された,次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
電力受給に係るスケジュールについて制約条件を満たす解を探索する解探索装置であって、
前記制約条件より緩い条件である仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部と、
前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで、前記個体が前記制約条件を満たす値に近く、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部と、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮制約条件を前記制約条件に近い条件に変更する条件変更部と、
前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値に基づいて、前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体から解を導き出す解導出部と
を備えることを特徴とする解探索装置。
【請求項2】
前記世代計算部は、前記仮制約条件の少なくとも1つの条件に違反しない範囲で、前記遺伝的操作を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の解探索装置。
【請求項3】
前記世代計算部は、前記遺伝的操作において突然変異操作を行う場合に、前記個体のうち前記評価値が変動しやすい部分が前記遺伝的操作の対象となる確率が高くなる所定の確率に基づいて前記遺伝的操作を行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の解探索装置。
【請求項4】
電力受給に係るスケジュールについて制約条件を満たす解を探索する解探索装置を用いた解探索方法であって、
個体生成部が、前記制約条件より緩い条件である仮制約条件を満たす個体を生成するステップと、
評価値算出部が、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで、前記個体が前記制約条件を満たす値に近く、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出するステップと、
世代計算部が、前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行するステップと、
条件変更部が、前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮制約条件を前記制約条件に近い条件に変更するステップと、
前記評価値算出部が、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出するステップと、
解導出部が、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値に基づいて、前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体から解を導き出すステップと
を有することを特徴とする解探索方法。
【請求項5】
コンピュータを、
電力受給に係るスケジュールに係る個体であって所定の制約条件より緩い条件である仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部、
前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで、前記個体が前記制約条件を満たす値に近く、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部、
前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮制約条件を前記制約条件に近い条件に変更する条件変更部、
前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値に基づいて、前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体から解を導き出す解導出部
として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
二次電池を備える設備における当該二次電池の充電スケジュールを生成するスケジュール生成装置であって、
単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力が所定の契約電力より高い電力である仮契約電力を超えないようにする、という条件を含む仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部と、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなるまで、単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力の最大値が小さく、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部と、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮契約電力を前記契約電力に近い値に変更する条件変更部と、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値および前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体に基づいて、前記充電スケジュールを生成する解導出部と
を備えることを特徴とするスケジュール生成装置。
【請求項7】
前記設備は、前記二次電池及び当該二次電池を充電する充電器を複数備え、
前記仮制約条件は、前記充電器それぞれが同時に複数の二次電池を充電してはならないという条件を含み、
前記世代計算部は、前記遺伝的操作において交叉操作または突然変異操作を行う場合に、前記充電器単位で操作を行う
ことを特徴とする請求項6に記載のスケジュール生成装置。
【請求項8】
前記世代計算部は、前記遺伝的操作において突然変異操作を行う場合に、前記個体のうち電気代が安い時間帯が前記遺伝的操作の対象となる確率が高くなる所定の確率に基づいて前記遺伝的操作を行う
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のスケジュール生成装置。
【請求項9】
二次電池を備える設備における当該二次電池の充電スケジュールを生成するスケジュール生成装置を用いたスケジュール生成方法であって、
個体生成部が、単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力が所定の契約電力より高い値の仮契約電力を超えないようにする、という条件を含む仮制約条件を満たす個体を生成するステップと、
評価値算出部が、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなるまで、単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力の最大値が小さく、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出するステップと、
世代計算部が、前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行するステップと、
条件変更部が、前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮契約電力を前記契約電力に近い値に変更するステップと、
前記評価値算出部が、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出するステップと、
解導出部が、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値および前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体に基づいて、前記充電スケジュールを生成するステップと
を有することを特徴とするスケジュール生成方法。
【請求項10】
コンピュータを、
二次電池を備える設備が単位時間に電力系統から供給を受ける電力が所定の契約電力より高い値の仮契約電力を超えないようにする、という条件を含む仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなるまで、単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力の最大値が小さく、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部、
前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により、前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮契約電力を前記契約電力に近い値に変更する条件変更部、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値および前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体に基づいて、前記二次電池の充電スケジュールを生成する解導出部
として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
二次電池を備える設備における当該二次電池の充電を制御する充電制御システムであって、
単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力が所定の契約電力より高い電力である仮契約電力を超えないようにする、という条件を含む仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部と、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなるまで、単位時間に前記設備が電力系統から供給を受ける電力の最大値が小さく、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部と、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮契約電力を前記契約電力に近い値に変更する条件変更部と、
前記仮契約電力が前記契約電力と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値および前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体に基づいて、前記二次電池の充電スケジュールを生成する解導出部と
を備えるスケジュール生成装置と、
前記解導出部が生成した充電スケジュールに従って前記二次電池の充電を行う充電器と
を備えることを特徴とする充電制御システム。」


第5 引用例

1 引用例に記載された事項
原審における平成28年9月8日付けの拒絶理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,“高濱 徹行 ほか,ε制約遺伝的アルゴリズムによる制約付き最適化,情報処理学会論文誌 第47巻 第6号,2006年 6月,pp.1861-1871”には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A 「1.はじめに
進化的アルゴリズム(Evolutionary Algorithm, EA)は,生物進化の過程をモデル化した最適化アルゴリズムの総称であり,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)や進化的戦略(Evolutionary Strategy, ES)がよく知られている.EAは,最適化の対象である目的関数の値だけを利用して解を求めることができる直接探索法であり,たとえば微分可能性のような目的関数に対する制限がなく,アルゴリズムの実装が容易であることから,様々な最適化問題を解くために利用されるようになってきている.
EAは基本的に制約のない最適化問題を解くためのアルゴリズムであるが,実世界の最適化問題の多くは与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である.このため,EAに基づく制約付き最適化法もさかんに研究され,従来の数理的方法を超える結果が得られることも示されてきている.」(1861ページ左欄1行?右欄1行)

B 「本研究では,ε制約法をGAに適用したεGAを提案する.親の選択方法として,ルーレット選択やランキング選択ではなく,均等に親を選択し,親と子の中で上位の個体を次世代に残すという単純な方法を採用することにより,確率的選択による揺らぎをおさえるとともに,探索をより高速化する.これにより,探索の安定性が高まるとともに,目的関数の評価回数が減少することが期待できる.なお,この選択方法はESで標準的に用いられている方法である.交叉として,実数値GAでよく利用されている算術交叉ではなく,より単純な一様交叉を用い積極的な組替えを行う.突然変異として,Gauss突然変異に加え,より広範囲の変異を可能にするCauchy突然変異を導入する.これらにより,局所解からの脱出が容易になるとともに,安定した探索が行われることが期待できる.」(同36行?1863ページ左欄4行)

C 「3.ε制約遺伝的アルゴリズムεGA
ε制約法は,目的関数値の大小関係のみに基づく最適化アルゴリズムと組み合わせることができる.本研究では,適合度の大小関係のみに依存する戦略である,均等な親選択および親と子の上位個体を選択する生存者選択を採用することにより,GAにε制約法を適用する.」(1864ページ左欄30行?36行)

D 「3.1 アルゴリズム
εGAのアルゴリズムを以下に示す.
(1)初期集団の生成:初期個体をランダムにN個体生成する.すなわち,探索空間S内に各遺伝子を[l_(i), u_(i)]の一様乱数で生成する.
(2)終了判定:本論文では最大世代数Tに達したとき,実行を終了する.
(3)εレベルの決定:通常はε=0として探索すればよい.しかし,等式制約のように実行可能領域が非常に狭い場合には,実行可能領域が狭すぎて有効な最適化が行えない.このため,εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆく必要がある(3.3節参照).
(4)親選択(parent selection):すべての個体を親として選択し,遺伝子プールにランダムに配置する.
(5)交叉(crossover):交叉確率P_(c)で親を一様交叉し,子を生成する.一様交叉とは,2個体の親から2個体の子を生成する際,ある遺伝子座の遺伝子を子がどちらの親から受け取るかを等確率で決定し,他の子は異なる親から遺伝子を受け取るという交叉である.なお,交叉しない場合には親がそのまま子になったと見なす.
(6)突然変異(mutation):広い領域を網羅的に探索するとともに,精度の高い探索を実現するため,変異幅が世代とともに減少するGauss突然変異とCauchy突然変異を採用する(3.2節参照).
(7)生存者選択(survivor selection):親と子の2N個体からε比較による上位N個体を選択し,次世代に残す.(2)へ戻る.」(1864ページ左欄下から8行?右欄上から25行)

E 「3.3 εレベルの制御
本論文では,等式制約を含む最適化問題に対して,次のような制御方法を採用する.εレベルを制御する際には,そのレベル以下の個体がつねにある程度含まれるように0に減少し,0になった後もある程度の最適化を行うことが望ましい.そこで,初期値ε(0)を初期集団の中で制約逸脱度が小さい上位20%番目の個体の制約逸脱度とし,最大世代数Tの80%以降はつねに0となる,以下のような世代tのベキ乗関数による制御を提案する.」(1865ページ左欄下から10行?下から1行)

2 引用発明

ア 上記記載事項Aの,「進化的アルゴリズム(Evolutionary Algorithm, EA)は,生物進化の過程をモデル化した最適化アルゴリズムの総称であり,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)や進化的戦略(Evolutionary Strategy, ES)がよく知られている.」との記載,同Bの「本研究では,ε制約法をGAに適用したεGAを提案する.」との記載,同Cの「3.ε制約遺伝的アルゴリズムεGA」との記載から,引用例1は,“遺伝的アルゴリズムであるGAに,ε制約法を適用したεGA”について記載されているものと認める。

イ 上記記載事項Aの「EAは,最適化の対象である目的関数の値だけを利用して解を求めることができる直接探索法であり…(中略)…様々な最適化問題を解くために利用されるようになってきている.」との記載,「EAは基本的に制約のない最適化問題を解くためのアルゴリズムであるが,実世界の最適化問題の多くは与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である.」との記載,及び上記アで検討した事項を踏まえると,引用例1には,εGAは,“与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である実世界の最適化問題を解くために利用でき”るものであることを読取ることができる。

ウ 上記記載事項Dから,“εGAのアルゴリズム”が,
“(1)初期個体をランダムにN個体生成する初期集団の生成ステップと,
(2)最大世代数Tに達したとき,実行を終了する終了判定ステップと,
(3)εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆくεレベルの決定ステップと,
(4)すべての個体を親として選択し,遺伝子プールにランダムに配置する親選択ステップと,
(5)交叉確率P_(c)で親を一様交叉し,子を生成する交叉ステップと,
(6)突然変異ステップと,
(7)親と子の2N個体からε比較による上位N個体を選択し,次世代に残す生存者選択ステップと,
からなり,上記(2)へ戻る”ものであることを読取ることができる。

エ 上記記載事項Dの「(3)εレベルの決定:通常はε=0として探索すればよい.しかし,等式制約のように実行可能領域が非常に狭い場合には,実行可能領域が狭すぎて有効な最適化が行えない.このため,εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆく必要がある(3.3節参照).」との記載,及び同Eの記載から,引用例1には,“εレベルの決定ステップは,初期値ε(0)を初期集団の中で制約逸脱度が小さい上位20%番目の個体の制約逸脱度とし,最大世代数Tの80%以降はつねに0となるベキ乗関数による制御”を行うものであることを読取ることができる。

オ 以上,ア乃至エで検討した事項により,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「遺伝的アルゴリズムであるGAに,ε制約法を適用したεGAであって,
与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である実世界の最適化問題を解くために利用でき,
前記εGAのアルゴリズムは,
(1)初期個体をランダムにN個体生成する初期集団の生成ステップと,
(2)最大世代数Tに達したとき,実行を終了する終了判定ステップと,
(3)εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆくεレベルの決定ステップと,
(4)すべての個体を親として選択し,遺伝子プールにランダムに配置する親選択ステップと,
(5)交叉確率P_(c)で親を一様交叉し,子を生成する交叉ステップと,
(6)突然変異ステップと,
(7)親と子の2N個体からε比較による上位N個体を選択し,次世代に残す生存者選択ステップと,
からなり,上記(2)へ戻るものであり,
前記εレベルの決定ステップは,初期値ε(0)を初期集団の中で制約逸脱度が小さい上位20%番目の個体の制約逸脱度とし,最大世代数Tの80%以降はつねに0となるベキ乗関数による制御を行うものである,εGA。」


第6 対比・判断

1 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「εGA」は,「与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である実世界の最適化問題を解くために利用でき」るものであって,当該「εGA」のアルゴリズムを所定のコンピュータによって実行することを想定することができるから,当該εGAを実行するコンピュータは,本願発明1の,“制約条件を満たす解を探索する解探索装置”に相当するといえる。

(2)引用発明の「εGAのアルゴリズム」のうち,「(3)εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆくεレベルの決定ステップ」は,「初期値ε(0)を初期集団の中で制約逸脱度が小さい上位20%番目の個体の制約逸脱度とし,最大世代数Tの80%以降はつねに0となるベキ乗関数による制御を行うもの」であり,また引用発明の(1)初期個体をランダムにN個体生成する初期集団の生成ステップ」及び「(7)親と子の2N個体からε比較による上位N個体を選択し,次世代に残す生存者選択ステップ」とをあわせ考慮するならば,本願発明1と,“前記制約条件より緩い条件である仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部”を有する点で共通するといえる。

(3)引用発明の「εGA」は,「遺伝的アルゴリズムであるGAに,ε制約法を適用した」ものであり,引用発明の「(1)初期個体をランダムにN個体生成する初期集団の生成ステップと,
(2)最大世代数Tに達したとき,実行を終了する終了判定ステップと,
(3)εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆくεレベルの決定ステップと,
(4)すべての個体を親として選択し,遺伝子プールにランダムに配置する親選択ステップと,
(5)交叉確率Pcで親を一様交叉し,子を生成する交叉ステップと,
(6)突然変異ステップと,
(7)親と子の2N個体からε比較による上位N個体を選択し,次世代に残す生存者選択ステップと,
からなり,上記(2)へ戻る」とのアルゴリズムによって処理されるものであることから,本願発明1と“前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部”を有する点で共通するといえる。

(4)引用発明の「(3)εレベルを制御することにより,初期には制約条件を緩和して目的関数の最適化を優先し,次第に制約条件を厳しくしてゆくεレベルの決定ステップ」は,引用発明における「(1)生成ステップ…(7)…生存者選択ステップ」を実行する,すなわち,“世代計算を実行”したときに,“仮制約条件”を“制約条件に近い条件に変更”しているといい得ることから,引用発明と本願発明1とは,“前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮制約条件を前記制約条件に近い条件に変更する条件変更部”を有する点で共通するといえる。

(5)引用発明は,「(2)最大世代数Tに達したとき,実行を終了する終了判定ステップ」を経た上で求まる「個体」を用いて,「実世界の最適化問題を解」くものであることから,本願発明1の“前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体から解を導き出す解導出部”と共通する構成を有するものといえる。

(6)以上,(1)乃至(5)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
制約条件を満たす解を探索する解探索装置であって、
前記制約条件より緩い条件である仮制約条件を満たす個体を生成する個体生成部と、
前記個体を選択して、遺伝的アルゴリズムに係る遺伝的操作により前記仮制約条件を満たす新たな個体を生成する世代計算を繰り返し実行する世代計算部と、
前記世代計算部が前記世代計算を実行したときに、前記仮制約条件を前記制約条件に近い条件に変更する条件変更部と、
前記世代計算部の前記世代計算によって生成された個体から解を導き出す解導出部と
を備える解探索装置。

〈相違点1〉
本願発明1の「解探索装置」が,「電力受給に係るスケジュールについて制約条件を満たす解を探索する」ものであるのに対し,引用発明は,「与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である実世界の最適化問題を解くため」のものである点。

〈相違点2〉
本願発明1が,「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで、前記個体が前記制約条件を満たす値に近く、かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出し、前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて、前記個体について評価値を算出する評価値算出部」を有するのに対し,引用発明は,そのような仮評価関数を用いることが特定されていない点。

〈相違点3〉
本願発明1の「世代計算部」が,「前記評価値算出部が算出した評価値に基づく確率に基づいて前記個体を選択」するものであるのに対し,引用発明は,そのような評価値に基づく確率に基づいて個体を選択するものではない点。

〈相違点4〉
本願発明1の「解導出部」は,「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に、前記評価値算出部が前記評価関数を用いて算出した評価値に基づいて」解を導き出すものであるのに対し,引用発明は評価関数を用いることが特定されていない点。

2 判断
(1)本願発明1について
事案に鑑みて,上記相違点1及び2について先に検討する。
引用発明は,「与えられた制約の下で目的関数を最適化する制約付き最適化問題である実世界の最適化問題を解くために利用でき」るものであるが,当該「実世界の最適化問題」が何であるかの記載は,引用例1の中には見当たらず,また,「電力受給に係るスケジュールについて制約条件を満たす解」を求める動機付けも,引用例1の中に見いだすことはできない。
さらに,引用発明には,本願発明1の「評価値」に相当する値を求める,「仮評価関数」や,「評価関数」に相当する関数を見いだすことはできないから,当業者といえども,仮に,「実世界の最適化問題」の1具体例として,「電力受給に係るスケジュールについて制約条件を満たす解」を求めることを想起できたとしても,引用発明及び引用例1に記載された技術的事項,さらに引用例2及び3に記載された技術的事項から,とりわけ,相違点2に係る本願発明1の「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで,前記個体が前記制約条件を満たす値に近く,かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出し,前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に,前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出する評価値算出部」という構成を容易に想到することはできず,したがって,上記相違点3乃至4について判断するまでもなく,本願発明1は,引用発明及び引用例1乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明2,3について
本願発明2,3も,本願発明1の「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで,前記個体が前記制約条件を満たす値に近く,かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出し,前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に,前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出する評価値算出部」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例1乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(3)本願発明4乃至11について
本願発明4,5は,本願発明1と単にカテゴリー表現が異なるのみであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例1乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
さらに,本願発明6,9乃至11も,本願発明1の「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで,前記個体が前記制約条件を満たす値に近く,かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出し,前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に,前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出する評価値算出部」と実質的に同一の構成を備えるものであり,本願請求項7,8は,当該本願発明6を引用するものであることから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例1乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

審判請求時の補正により,本願発明1乃至11は「前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなるまで,前記個体が前記制約条件を満たす値に近く,かつ電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する仮評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出し,前記仮制約条件が前記制約条件と等しくなった後に,前記仮評価関数と異なる関数であって電気代が小さいほど高い評価を示す評価値を導出する評価関数を用いて,前記個体について評価値を算出する評価値算出部」という事項を実質的に有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用例1乃至3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-31187(P2013-31187)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉浦 孝光長谷川 篤男  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 須田 勝巳
山崎 慎一
発明の名称 解探索装置、解探索方法及びプログラム、スケジュール生成装置、スケジュール生成方法及びプログラム、並びに充電制御システム  
代理人 山崎 哲男  
代理人 松沼 泰史  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 森 隆一郎  
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