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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01S |
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管理番号 | 1337857 |
審判番号 | 不服2017-500 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-13 |
確定日 | 2018-02-27 |
事件の表示 | 特願2015- 83511「測位データを得るための方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-163893〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2003年4月14日(パリ条約による優先権 外国庁受理 2002年4月15日(以下、「優先日」という。) 米国、2002年11月12日 米国)を国際出願日とする出願である特願2003-584999号の一部を、平成21年4月17日に新たな特許出願とした特願2009-101044号の一部を、さらに平成27年4月15日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月28日付けの拒絶理由通知に対して平成28年4月8日付けで手続補正がなされたが、平成28年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年1月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成29年1月13日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年1月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正 本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、 「【請求項1】 ロボットであって、 1つまたは複数の位置要素のそれぞれによって放射されたそれぞれの連続した超音波波形のそれぞれのバージョンを受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサであって、前記それぞれの連続した超音波波形のそれぞれは、それぞれの変調された搬送波を備える、音響センサと、 前記位置要素の同一のそれぞれの1つの、それぞれの光学放射器によって放射されたそれぞれの光学信号を受信するための光学センサであって、前記それぞれの光学信号は、前記位置要素の前記同一のそれぞれの1つによって放射された前記それぞれの連続した超音波波形と協調して放射される、光学センサと、 コンピューティング装置であって、 前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号を復号して前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号の間の時間遅延を測定し、 前記それぞれの時間遅延をそれぞれの距離に変換し、 前記それぞれの距離を三角測量して前記位置要素の前記それぞれの1つのそれぞれの位置を決定するためのコンピューティング装置とを備え、 前記ロボットは、各決定されたそれぞれの位置に基づいて動作する、ロボット。」 とあったところを、 「【請求項1】 ロボットであって、 1つまたは複数の位置要素のそれぞれによって放射されたそれぞれの連続した超音波信号を受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサであって、前記それぞれの連続した超音波信号のそれぞれは、それぞれの変調された搬送波を備える、音響センサと、 前記位置要素の同一のそれぞれの1つの、それぞれの光学放射器によって放射されたそれぞれの光学信号を受信するための光学センサであって、前記それぞれの光学信号は、前記位置要素の前記同一のそれぞれの1つによって放射された前記それぞれの連続した超音波信号と協調して放射され、前記光学センサは、予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサと、 コンピューティング装置であって、 前記それぞれの連続した超音波信号および前記それぞれの光学信号を復号して前記それぞれの連続した超音波信号および前記それぞれの光学信号の間の時間遅延を測定し、 前記少なくとも2つの光学感知領域によって検出された前記それぞれの光学信号の差に基づいて前記それぞれの光学放射器の方向を決定し、 前記それぞれの時間遅延をそれぞれの距離に変換し、 前記それぞれの距離および前記方向を用いて三角測量して前記位置要素の前記それぞれの1つのそれぞれの位置を決定するためのコンピューティング装置とを備え、 前記ロボットは、各決定されたそれぞれの位置に基づいて動作する、ロボット。」 とすることを含むものである(下線は補正箇所を示す。)。 そこで、上記補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項に規定する要件を満たすかについて検討する。 2 本願の当初明細書等の記載 本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。 a 「【0148】 ポインティング装置14は、赤外信号のような光速信号と超音波信号のような音速信号の組合せを使用することが好ましい。次いで各受信器までの距離を、二つの信号の到達時間の差から算出することができる。赤外信号の到達は事実上瞬時であるので、基地局20は単一の赤外センサ24を持つことによって簡素化することができ、二つまたは三つの別個のセンサ22を超音波の感知専用とすることができる。」 b 「【0164】 音響測位 好適な実施形態は音響測位を利用する。音響測位の概念は、センサアレイに到達する異なる速度の二つの信号間の時間差を測定することである。時間差は、発生源までの距離の指標を与える。二つの異なるセンサを使用する場合、三角測量を使用して発生源の位置を確定することができる。三つの適切に配置されたセンサを使用する場合、三次元の位置を得ることができる。二つの信号は、好適な実施形態では音響信号と、IRまたは他の電磁信号である。」 c 「【0209】 光による測位 今、図8を参照すると、それは、光方向検知センサを使用する上述した実施形態の変形を示す簡易ブロック図である。従前の図と同じ部品は同じ参照番号が付いており、本図の理解に必要な程度以外は再度説明しない。センサ90は、予め定められた角度だけ偏位した二つのLED(当審注:フォトダイオードの誤記)92および94を含む。各々のLEDの電流のレベル間の差を測定するために、その二つの差動入力の各々を介して、二つのLED92および94の間に差動増幅器96が接続される。ポインティング装置14のLED28は細い光ビームを発生し、その方向をセンサから測定することができる。センサ90は、感知領域を網羅し、かつ予め定められた視界から発する光が感知領域に直接到来することを確実にするために、レンズ98および100の形の光学機器で構成することが好ましい。 【0210】 基地局は、マイクロホンの代わりに光方向検知センサ90があり、かつ同期化および類似の機能が全て光方向検知センサのフォトダイオードによって引き継がれるので別個のRフォトダイオードが不要であることを除くと、図3のそれと本質的に同じである。 【0211】 対応する復号アルゴリズムは信号の異なる種類の情報部を処理するが、基礎を成す情報は実質的に同様の仕方で処理される。方向および距離の検知は立体視覚の背後にある原理に似ており、二つのセンサにおける角度が明らかになり、三角測量されて位置が得られる。それ以外に、従前の実施形態の復号アルゴリズムの場合と同じ問題、つまりシステムがアナログ入力およびコンピューティング装置のハードウェアを利用する場合、低サンプリングレートおよび低周波数が必要であるという問題が当てはまる。」 d 「【0237】 わかりやすいように個別の態様として説明した本発明のいくつかの特徴を1つの態様に組み合わせて提供できることは理解されるだろう。逆に、簡潔に説明するために1つの態様として説明した本発明の様々な特徴を個別に提供するか、一部を適当に組み合わせて提供することもできる。」 e 図8より、ポインティング装置14は、バッテリ、LED28、コントローラ30及びスイッチ34を備えるが、スピーカを備えていないことが見て取れる。 3 本件補正が新規事項の追加を含むか否かの判断 (1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1について 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に、次の発明特定事項を付加している。 ア 発明特定事項1 本件補正前の「光学センサ」について、本件補正後の「前記光学センサは、予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む」と限定する事項。 イ 発明特定事項2 本件補正前の「コンピューティング装置」について、本件補正後の「前記少なくとも2つの光学感知領域によって検出された前記それぞれの光学信号の差に基づいて前記それぞれの光学放射器の方向を決定し」と限定する事項。 ウ 発明特定事項3 本件補正前の、それぞれの連続した超音波波形およびそれぞれの光学信号の間の時間遅延を測定し、それぞれの時間遅延をそれぞれの距離に変換して、「前記それぞれの距離を三角測量して」いることについて、本件補正後は「前記それぞれの距離および前記方向を用いて三角測量して」いると限定している事項。 (2)付加した発明特定事項が、新たな技術的事項を含むか否かの判断。 ア 発明特定事項1について 当初明細書等には「センサ90は、予め定められた角度だけ偏位した二つのLED92および94を含む。」(段落【0209】(上記「2 c」))と記載されており、本件補正後の「前記光学センサは、予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む」は、当初明細書等に記載した事項である。 イ 発明特定事項2について 当初明細書等には「各々のLEDの電流のレベル間の差を測定するために、その二つの差動入力の各々を介して、二つのLED92および94の間に差動増幅器96が接続される。ポインティング装置14のLED28は細い光ビームを発生し、その方向をセンサから測定することができる。」(段落【0209】(上記「2 c」))と記載されており、本件補正後の「前記少なくとも2つの光学感知領域によって検出された前記それぞれの光学信号の差に基づいて前記それぞれの光学放射器の方向を決定し」は、当初明細書等に記載した事項である。 ウ 発明特定事項3について 当初明細書等には「ポインティング装置14は、赤外信号のような光速信号と超音波信号のような音速信号の組合せを使用することが好ましい。次いで各受信器までの距離を、二つの信号の到達時間の差から算出することができる。」(段落【0148】(上記「2 a」))、「音響測位の概念は、センサアレイに到達する異なる速度の二つの信号間の時間差を測定することである。時間差は、発生源までの距離の指標を与える。二つの異なるセンサを使用する場合、三角測量を使用して発生源の位置を確定することができる。」(段落【0164】(上記「2 b」))と、「距離」を用いて三角測量することが記載されている。 また、当初明細書等には「センサ90は、予め定められた角度だけ偏位した二つのLED92および94を含む。各々のLEDの電流のレベル間の差を測定するために、その二つの差動入力の各々を介して、二つのLED92および94の間に差動増幅器96が接続される。ポインティング装置14のLED28は細い光ビームを発生し、その方向をセンサから測定することができる。」(段落【0209】(上記「2 c」))、「二つのセンサにおける角度が明らかになり、三角測量されて位置が得られる。」(段落【0211】(上記「2 c」))と、光学放射器の「方向」を用いて三角測量をすることが記載されている。 しかしながら、「距離」及び光学放射器の「方向」を用いて三角測量をすることは、当初明細書等に明示的に記載されていない。 そこで、「距離」及び光学放射器の「方向」を用いて三角測量をすることが、当初明細書等の記載から自明な事項であるか検討する。 まず、「距離」及び光学放射器の「方向」を用いて三角測量するためには、基地局に、「音響センサ」と「予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサ」の両方を設ける必要があるが、 図8記載のポインティング装置14は、スピーカを備えられておらず(上記「2 e」)、かつ、当初明細書等の「基地局は、マイクロホンの代わりに光方向検知センサ90があり」(段落【0210】(上記「2 c」))の記載からすると、基地局に、「音響センサ」と「予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサ」の両方を設けることは自明とはいえず、むしろ、両方を設けることを妨げることが記載されているといえる。 一方、当初明細書等には「わかりやすいように個別の態様として説明した本発明のいくつかの特徴を1つの態様に組み合わせて提供できることは理解されるだろう。逆に、簡潔に説明するために1つの態様として説明した本発明の様々な特徴を個別に提供するか、一部を適当に組み合わせて提供することもできる。」(段落【0237】(上記「2 d」))と記載されているが、 上記記載は具体的構成を何ら開示するものではなく、かえって上記のように当初明細書等(段落【0210】)には、基地局に、「音響センサ」と「予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサ」の両方を設けることを妨げる記載があるので、段落【0237】に記載の「一部を適当に組み合わせて提供する」「態様」として、「音響センサ」と「予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサ」の両方を設ける「態様」は、想定できないことである。 したがって、当初明細書等からの記載からは、基地局に、「音響センサ」と「予め定められた角度だけ偏位された少なくとも2つの光学感知領域を含む、光学センサ」の両方を設けることが想定できないので、「距離」及び光学放射器の「方向」を用いて三角測量をすることが、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。 よって、本件補正により、請求項1に「前記それぞれの距離および前記方向を用いて三角測量して」の発明特定事項を付加することは、本願の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。 4 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、平成29年1月13日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成28年4月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであるが、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)を再掲すれば、次の通りである。 「【請求項1】 ロボットであって、 1つまたは複数の位置要素のそれぞれによって放射されたそれぞれの連続した超音波波形のそれぞれのバージョンを受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサであって、前記それぞれの連続した超音波波形のそれぞれは、それぞれの変調された搬送波を備える、音響センサと、 前記位置要素の同一のそれぞれの1つの、それぞれの光学放射器によって放射されたそれぞれの光学信号を受信するための光学センサであって、前記それぞれの光学信号は、前記位置要素の前記同一のそれぞれの1つによって放射された前記それぞれの連続した超音波波形と協調して放射される、光学センサと、 コンピューティング装置であって、 前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号を復号して前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号の間の時間遅延を測定し、 前記それぞれの時間遅延をそれぞれの距離に変換し、 前記それぞれの距離を三角測量して前記位置要素の前記それぞれの1つのそれぞれの位置を決定するためのコンピューティング装置とを備え、 前記ロボットは、各決定されたそれぞれの位置に基づいて動作する、ロボット。」 2 引用例及びその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由(理由2)に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-102477号公報(平成2年4月16日公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下、同様。)。 a 「本発明は、目標物までの距離を測定する超音波測距装置に関する。」(第1頁右下欄第3-4行) b 「送信部Tは、バースト波による超音波信号を超音波振動子1から送信する超音波送信器2と、微弱電波によるパルス状のトリガ電波をアンテナ3から送信するトリガ電波送信器4と、超音波信号の送信とトリガ電波の送信との同期をとるべく各送信器2,4の送信制御を行なわせる制御回路5とによって構成されている。」(第2頁左下欄第1-7行) c 「受信部Rは、超音波信号を超音波振動子6を介して受信する超音波受信器7と、トリガ電波をアンテナ8を介して受信するトリガ電波受信器9と、それら各受信器7,9によってそれぞれ受信されるトリガ電波と超音波信号との各受信のずれ時間を計測して目標物までの距離を所定の演算によって求める演算回路10とによって構成されている。」(第2頁左下欄第8-14行) d 「なお、超音波信号の送,受信を行なわせる際に、超音波送信器2からスペクトラム拡散(M系列離散)によるランダム波による超音波信号を送信させ、超音波受信器7において受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするようにすれば、ノイズの影響を受けることなくその超音波信号の送,受信を高精度に行なわせることができる。 第3図に、スペクトラム拡散によるランダム波を用いた超音波信号の送,受信を行なわせる場合における超音波送信器2および超音波受信器7の具体的な構成例を示している。 同図の構成にあって、超音波送信器2では、搬送波発振器21からの搬送波とランダム波発生器22からのスペクトラム拡散によるランダム波とがバランスミキサ23においてミキシングされ、そのミキシング信号が超音波送信器本体24から超音波振動子1を介して超音波信号として送信されるようになっている。」(第2頁右下欄第12行-第3頁左上欄第11行) e 「さらに本発明では、第5図に示すように、測定側に超音波受信装置7を4台設けて、2つの超音波振動子6A,6Bを水平方向に設置するとともに(設置間隔W1は既知となる)、それと直交するように2つの超音波振動子6C,6Dを垂直方向に設置して(設置間隔W2は既知となる)、三次元による三角測量の原理によって目標物Oまでの距離およびその三次元的な位置,方向をわり出すことができるようにしている。なおこの場合、測定側に超音波受信装置7を4台設けなくとも3台で目標物Oの三次元的なわり出しを行なわせることができ、残りの1台を補正用とするようにしてもよい。」(第3頁左下欄第8-20行) f 「本発明による超音波測距装置を利用すれば、例えば第7図に示すように、自走ロボット11に超音波受信器7およびトリガ電波受信器9が組み込まれた受信装置12を搭載して、前述のように平面構造としたトリガ電波と超音波信号との受信部13を走行ロボット11の前面に取り付けて、人間14が超音波送信器2およびトリガ電波送信器4とが組み込まれた送信装置15をもって移動したとき、走行ロボット11がその受信装置12によって送信装置15に対する距離,方向を検出しながら、一定の距離を保って人間14の移動に追尾させるようにすることが可能となる。」(第3頁右下欄第12行-第4頁左下欄第3行) したがって、上記引用例に記載された事項、図面の記載を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用例の記載箇所である。)。 「自走ロボット11は、 超音波受信器7およびトリガ電波受信器9が組み込まれた受信装置12を搭載し(上記「f」)、 超音波受信器7は、超音波信号を受信し、 トリガ電波受信器9は、トリガ電波を受信し、 各受信器7,9によってそれぞれ受信されるトリガ電波と超音波信号との各受信のずれ時間を計測して目標物までの距離を所定の演算によって求める演算回路10とによって構成されて(上記「c」)、 人間が持つ、超音波送信器2およびトリガ電波送信器4とが組み込まれた送信装置15は(上記「f」)、超音波送信器2が、バースト波による超音波信号を送信し、トリガ電波送信器4が、パルス状のトリガ電波を送信し、超音波信号の送信とトリガ電波の送信は同期がとられ(上記「b」)、 超音波信号の送,受信を行なわせる際に、超音波送信器2から搬送波とランダム波とがミキシングされ、超音波信号として送信させ、超音波受信器7において受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするようにし(上記「d」)、 超音波受信装置7を4台設けて、三次元による三角測量の原理によって目標物Oまでの距離およびその三次元的な位置,方向をわり出すことができるようにし(上記「e」)、 走行ロボット11がその受信装置12によって送信装置15に対する距離,方向を検出しながら、一定の距離を保って人間14の移動に追尾させるようにする、自走ロボット11(上記「f」)。」 (2)原査定の拒絶の理由(理由2)に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-176331号公報(昭和61年8月8日公開、以下「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a 「第1図は本発明装置の一実施例を示すブロック図である。1は詳細を後述するM系列符号発生部であり、自己相関及び相互相関の少ない系列符号を発生する。2は基準波たる連続波を発生する連続波発生部、3は連続波を前記M系列符号で変調して出力するM系列変調部、4は変調出力に基づいて振動子を駆動する振動子駆動回路、5は被検体11に超音波を送信する複数の送信振動子、6は被検体11から得られる超音波反射信号を受信する複数の受信振動子、7は受信振動子から得られた受信信号(エコー)を、前記M系列符号で復調して出力するエコー復調部、8はエコー復調信号を後段のフレームメモリに格納するためのスキャンコンバータ、9は画像データを記憶するフレームメモリ、10は超音波画像を表示する画像表示部である。」(第2頁左上欄第12行-右上欄第7行) (3)原査定の拒絶の理由(理由2)に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭63-237674号公報(昭和63年10月4日公開、以下「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a 「発振器1はセルフ操影時に被写体である本人がカメラに向けて不図示のスイッチを入れることにより、リモートレリーズ信号発生回路1-1が動作して近赤外光投光装置1-2と超音波発生装置1-3を同時に作動させる。近赤外光投光装置1-2は作動と同時に近赤外光を投光する装置で、超音波発生装置1-3は作動と同時に超音波を発生する装置である。・・・すなわち超音波の速度をVa、近赤外光の速度をVb,信号Aを受信してから信号Bを受信するまでの時間をTとすると、距離は、VaVb/(Vb-Va)×Tで算出できる。」(第2頁左上欄第12行-右上欄第16行) b 「また上記実施例では近赤外光と超音波との組合せで説明したが電波と超音波との組合せでもよい。」(第3頁左上欄第5-7行) (4) 原査定の備考で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願平3-52067号(実開平5-4075号)のCD-ROM(平成5年1月22日公開、以下「周知例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a 「【0018】 【実施例】 以下、本考案をカムコーダに適用した実施例により説明する。先づ、本考案の実施例を説明するのに先立ってその基本概念を説明すると、この測距装置は、測距対象物体に保持された発信装置と、オートフォーカス機能を有するカムコーダ内に一体的に保持された受信手段とからなり、空間伝播速度の異なる2種類の信号、例えば音波と光波あるいは音波と電波を発信装置から発信する。これを第1,第2の受信手段で各別に受信し、その到達時間差より送信装置までの距離を測距するもので、例えば落雷位置を認識する原理に類似している。」 b 「【0029】 図7は、上記発信装置10の詳細を示すブロック構成図で、パルス変調された特定コード、具体的には後記図9で説明する数字1,2,…に相当するデジタルコードを発生するデジタルコード発生器21と、このデジタルコードに従ってIRED(赤外発光ダイオード)24をオン・オフ制御するIREDドライバ22と、同じデジタルコードに従ってトーンバーストという形で超音波振動子25をオン・オフ制御するUSVドライバ23と、電源スイッチ26を介して上記各回路に給電するバッテリ27とで構成されている。 【0030】 そして、電源スイッチ26がオンされると、この発信装置の各部がパワーオンリセットされた後、IRED24から第1の波動である光波が、超音波振動子23から第2の波動である超音波が、それぞれ所定のデジタルコードに相応して同時に投射される。 【0031】 図8は、上記図6における第1,第2の受信手段30の詳細を示すブロック構成図で、フォトダイオードもしくはフォトトランジスタからなり光信号を受信するPS(フォトセンサ)41と、超音波信号を受信するUSS(超音波センサ)42と、背景光等の定常光成分を除去して信号光成分のみを抽出するアクティブ B.P.Fを含み、レベル調整,AGC制御等を行うプリアンプ43と、周囲に自然発生的に存在する各種ノイズを除去して信号に関係する超音波成分のみを抽出するアクティブBPFを含むプリアンプ44と、これら光信号と超音波信号とを各別にデコードしてパルス光とパルス音との対応関係を決定するデコーダ45,46と、これら光信号と超音波信号との時間差を計測するタイミング比較器47とから構成されている。」 c 「【0047】 さて、上述のように構成された測距装置を有するカムコーダが複数台、近くで使用されている場合、発信装置から投射された信号が本来の自分の発信装置からの信号か、他のカムコーダの発信装置からの信号かを識別できない。そのような場合には、上記図10に示す送信コード中の識別コード部にカメラの識別コードを併設すれば、混同を防ぐことができる。このような操作は、例えば着脱可能な発信装置と受信手段とがカムコーダに一体化されたとき、相互に情報を取り合って識別可能な情報の設定を行うようにすればよい。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明と引用発明との対比は、本願発明の「位置要素」が、その個数について「1つまたは複数」と選択的であり、「位置要素」が、「1つ」だけの場合を含むので、そのこととを前提として行う。 (1)引用発明の「自走ロボット11」、「送信装置15」、「超音波信号」、「超音波受信器7」は、それぞれ、本願発明の「ロボット」、「位置要素」、「超音波波形」、「音響センサ」に相当する。 (2)引用発明の「送信装置15」に「組み込まれた」「超音波送信器2が、」「送信し」た「バースト波による超音波信号」と、本願発明の「1つまたは複数の位置要素のそれぞれによって放射されたそれぞれの連続した超音波波形」とは、「1つ位置要素によって放射された超音波波形」である点で共通する。 (3)引用発明の「超音波信号を受信」する「4台」の「超音波受信装置7」と、本願発明の「連続した超音波波形のそれぞれのバージョンを受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサ」とは、「超音波波形を受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサ」である点で共通する。 (4)引用発明の「超音波信号」は、「超音波送信器2から搬送波とランダム波とがミキシングされ、超音波信号として送信させ」るものであるから、変調された「搬送波」を備えるといえるで、本願発明の「前記それぞれの連続した超音波波形のそれぞれは、それぞれの変調された搬送波を備える」と、「前記超音波波形は、変調された搬送波を備える」点で共通する。 (5)引用発明の「送信装置15」に「組み込まれた」「トリガ電波送信器4」と、本願発明の「前記位置要素の同一のそれぞれの1つの、それぞれの光学放射器」とは、「前記位置要素の電磁波放射器」である点で共通する。 (6)引用発明の「トリガ電波送信器4が、」「送信し」た「トリガ電波を受信」する「トリガ電波受信器9」と、本願発明の「光学放射器によって放射されたそれぞれの光学信号を受信するための光学センサ」とは、「電磁波放射器によって放射された電磁波信号を受信するための電磁波センサ」である点で共通する。 (7)引用発明の「送信装置15」に「組み込まれた」「超音波送信器2が」「送信し」た「超音波信号」と、本願発明の「前記位置要素の前記同一のそれぞれの1つによって放射された前記それぞれの連続した超音波波形」とは、「前記位置要素によって放射された前記超音波波形」である点で共通する。 したがって、引用発明の「超音波信号の送信とトリガ電波の送信は同期がとられ」ていることと、本願発明の「前記それぞれの光学信号は、前記位置要素の前記同一のそれぞれの1つによって放射された前記それぞれの連続した超音波波形と協調して放射される」とは、「前記電磁波信号は、前記位置要素によって放射された前記超音波波形と協調して放射される」点で共通する。 (8)引用発明は「超音波受信器7において受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするようにし」ているので、受信した「超音波信号」を復号しているといえる。 したがって、引用発明の「超音波受信器7において受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするようにし」「各受信器7,9によってそれぞれ受信されるトリガ電波と超音波信号との各受信のずれ時間を計測し」と、本願発明の「前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号を復号して前記それぞれの連続した超音波波形の前記それぞれのバージョンおよび前記それぞれの光学信号の間の時間遅延を測定し」とは、「前記超音波波形を復号して前記超音波波形および前記電磁波信号の間の時間遅延を測定し」ている点で共通する。 (9)引用発明の「ずれ時間を計測して目標物までの距離を所定の演算によって求める」と、本願発明の「前記それぞれの時間遅延をそれぞれの距離に変換し」とは、「前記時間遅延を距離に変換し」ている点で共通する。 (10)引用発明は「三角測量の原理」によっているので、「距離」を「三角測量」しており、引用発明の「三次元による三角測量の原理によって目標物Oまでの距離およびその三次元的な位置,方向をわり出すことができるようにし」と、本願発明の「前記それぞれの距離を三角測量して前記位置要素の前記それぞれの1つのそれぞれの位置を決定する」とは、「前記距離を三角測量して前記位置要素の位置を決定する」点で共通する。 (11)引用発明は、「受信されるトリガ電波と超音波信号との各受信のずれ時間を計測して目標物までの距離を所定の演算によって求める」ことは、「演算回路10」でおこなっている。 また、引用発明は、「受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするように」すること、及び、「三次元による三角測量の原理によって目標物Oまでの距離およびその三次元的な位置,方向をわり出すことができるよう」にすることを行う装置は特定されていないが、何らかの「装置」で行っていることは明らかである。 したがって、引用発明の「演算回路10」及び上記特定されていない「装置」と、本願発明の「コンピューティング装置」とは、「装置」である点で共通する。 (12)引用発明の「走行ロボット11がその受信装置12によって送信装置15に対する距離,方向を検出しながら、一定の距離を保って人間14の移動に追尾させるようにする」は、本願発明の「前記ロボットは、各決定された位置に基づいて動作する」に相当する。 すると本願補正発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。 (一致点) 「ロボットであって、 1つ位置要素によって放射された超音波波形を受信するための、離れて配置された少なくとも二つの音響センサであって、前記超音波波形は、変調された搬送波を備える、音響センサと、 前記位置要素の電磁波放射器によって放射された電磁波信号を受信するための電磁波センサであって、前記電磁波信号は、前記位置要素によって放射された前記超音波波形と協調して放射される、電磁波センサと、 前記超音波波形を復号して前記超音波波形および前記電磁波信号の間の時間遅延を測定し、 前記時間遅延を距離に変換し、 前記距離を三角測量して前記位置要素の位置を決定するための装置とを備え、 前記ロボットは、各決定された位置に基づいて動作する、ロボット。」 (相違点1) 超音波波形が、本願発明は、「連続した超音波波形」であるのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。 (相違点2) 電磁波放射器が、本願発明は、「光学放射器」であるのに対して、引用発明は、「トリガ電波送信器4」である点。 (相違点3) 電磁波信号が、本願発明は、「光学信号」であるのに対して、引用発明は、「トリガ電波」である点。 (相違点4) 電磁波センサが、本願発明は、「光学センサ」であるのに対して、引用発明は、「トリガ電波受信器9」である点。 (相違点5) 本願発明が、「光学信号」を「復号」しているのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。 (相違点6) 超音波波形を復号して超音波波形および電磁波信号の間の時間遅延を測定し、時間遅延を距離に変換し、距離を三角測量して位置要素の位置を決定するための装置が、本願発明は、「コンピューティング装置」であるのに対して、引用発明は、超音波波形および電磁波信号の間の時間遅延を測定し、時間遅延を距離に変換する装置が、「演算回路10」であることが明記されているが、超音波波形を復号すること、及び、距離を三角測量して位置要素の位置を決定することを行う装置が、特定されていない点。 4 判断 (1)相違点1について 超音波を用いる測定装置において、連続した超音波を用いる技術は周知であり(上記「2 (2)」)、引用発明においても、上記周知技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2-4にについて 技術的な関連性から、相違点2-4をまとめて判断する。 近赤外光と超音波を同時に発生させて距離を測定する技術は周知であり(周知例1。上記「2 (3)a」)、また、周知例2に「近赤外光と超音波との組合せで説明したが電波と超音波との組合せでもよい。」(上記「2 (3)b」)及び周知例3に「空間伝播速度の異なる2種類の信号、例えば音波と光波あるいは音波と電波を発信装置から発信する。」(上記「2 (4)a」)との記載があることからしても、引用発明において、「トリガ電波」に換えて、「光学信号」を用いて、上記相違点2-4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (3)相違点5について 超音波波形と光学信号を変調して送信し、受信後に復号する技術は周知であり(周知例3。上記「2 (4) b」)、引用発明においても、トリガ電波を変調・「復号」することとして、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (4)相違点6について 引用発明において、「受信されるトリガ電波と超音波信号との各受信のずれ時間を計測して目標物までの距離を所定の演算によって求める」ことと、「受信した超音波信号と受信器側に予め記憶されている前記ランダム波との相関のピークを求め、その求められたピークをもって超音波信号の受信とするように」すること、及び、「三次元による三角測量の原理によって目標物Oまでの距離およびその三次元的な位置,方向をわり出すことができるよう」にすることは、超音波信号およびトリガ電波を受信してからの、一続きのデータ処理であるといえ、これらのデータ処理をまとめて、「演算回路10」で行うこととして、上記相違点6に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用発明、引用例に記載された事項及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。 よって、本願発明は、引用発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)一応の相違点について (一応の相違点) 前述のように、本願発明は「位置要素」が、「1つ」だけの場合を含むものであるが、本願発明の「位置要素」が複数とした場合は、次の相違点を有する。 本願発明は、「位置要素」が複数であり、「音響センサ」は、「複数の位置要素のそれぞれによって放射されたそれぞれの連続した超音波波形のそれぞれのバージョンを受信し」、「超音波波形のそれぞれは、それぞれの変調され」ているが、引用発明は、そのような特定がない点。 そこで、念のため、上記(一応の相違点)について検討する。 周知例3には、「音波と光波」を発信する「発信装置」(本願発明の「位置要素」に相当する。)を用いる測距装置を複数台使用する場合において、複数の「発振装置」を識別するため、送信コード中の識別コード部にそのための識別コードを持たせる技術が記載されている(上記「2 (4)c」)。 引用発明において、「自走ロボット11」を近接した場所で、複数台使用することは、十分に想定できる使用方法であり、引用発明において、上記複数の「発振装置」を識別する技術を適用し、上記一応の相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 よって、一応の相違点を考慮した場合も、本願発明は、引用発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-09-28 |
結審通知日 | 2017-10-02 |
審決日 | 2017-10-16 |
出願番号 | 特願2015-83511(P2015-83511) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01S)
P 1 8・ 561- Z (G01S) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 説志 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 須原 宏光 |
発明の名称 | 測位データを得るための方法およびシステム |
代理人 | 黒田 晋平 |
代理人 | 村山 靖彦 |