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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1338040
審判番号 不服2016-5377  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-12 
確定日 2018-03-06 
事件の表示 特願2014-533692「組み込み式の熱拡散」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日国際公開,WO2013/049243,平成26年12月18日国内公表,特表2014-534618〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2012年9月26日(パリ条約による優先権主張2011年9月30日,米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成26年5月16日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面の翻訳文(特許法184条の6第2項の規定により,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文はそれぞれ願書に添付して提出した明細書及び特許請求の範囲とみなされ,国際出願日における図面及び図面の中の説明の翻訳文は願書に添付して提出した図面とみなされる。以下,それぞれを「明細書」,「特許請求の範囲」及び「図面」という。)が提出され,平成27年3月27日付けで拒絶理由が通知され,同年7月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年12月16日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成28年4月12日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成29年3月7日付けで拒絶理由が通知され,同年5月25日に意見書及び手続補正書が提出され,同年6月7日付けで拒絶理由が通知され,同年8月31日に意見書が提出された。


2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は,平成29年5月25日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ装置であって,
ポリマー層上のOLEDディスプレイスタックと,
前記ポリマー層に隣接して配置された熱伝導層と,を備え,前記ポリマー層は前記OLEDディスプレイスタック及び前記熱伝導層との間に配置され,前記熱伝導層は約20マイクロメートルから500マイクロメートルの厚さを有し,前記OLEDディスプレイスタックの相対的高温領域から前記OLEDディスプレイスタックの相対的低温領域に熱を伝達するように構成され,
前記ディスプレイ装置は基板を備え,前記熱伝導層が前記基板の上に配置され,前記OLEDディスプレイスタック及び前記ポリマー層が前記熱伝導層の上に配置され,
前記ディスプレイ装置は前記基板の下に配置された複数の電子コンポーネントを備え,当該複数の電子コンポーネントは前記OLEDディスプレイスタックから前記基板,前記熱伝導層及び前記ポリマー層によって分離され,前記複数の電子コンポーネントによって発生した熱は前記熱伝導層によって前記OLEDディスプレイスタックに拡散する,ディスプレイ装置。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成29年6月7日付けで本願発明に関して通知された拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)は,概略,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1ないし5は,次のとおりである。
引用文献1:特開2010-147179号公報
引用文献2:特開2002-63985号公報
引用文献3:特表2007-525713号公報
引用文献4:米国特許出願公開第2011/0063265号明細書
引用文献5:特開2011-65122号公報


4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1(特開2010-147179号公報)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機エレクトロルミネッセンス素子(以下,有機EL素子という場合がある)面状光源,照明装置,および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0003】
電力が供給されて有機EL素子が発光する際には,供給される電力の一部がジュール熱などにより熱エネルギーに変換され,有機EL素子が発熱する。有機EL素子は,駆動時の温度が高くなるほど素子の寿命が短くなる傾向があり,駆動時の高温化は,輝度などの発光特性の低下や,有機EL素子自体の劣化を引き起こす要因の1つと考えられている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機EL素子においては,さらに発光性能を向上させることが要求されている。従来の技術の有機EL素子では,印加する電圧の変化に対する色味の変化が大きいという指摘がある。・・・(中略)・・・さらに,有機EL素子に対しては,長時間,高輝度での使用にも耐える耐久性向上の要望も強い。耐久性向上を実現するための一つの手段として,有機EL素子が発する熱を装置外に効率よく放出することが求められる。
【0006】
本発明は,電極に印加する電圧の変化に対して,色味の変化の少なく,かつ耐久性の高い,発光性能の優れた有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,上記課題を解決するために,下記構成を有する有機EL素子およびこれを実装する装置を提供する。
〔1〕陽極と,
陰極と,
前記陽極および陰極の間において,発光する光のピーク波長のより長い発光層ほど前記陽極により近い位置に配置されている複数の発光層が積層されて成る複層発光部と,
前記陽極,前記陰極および前記複層発光部を含む積層体が搭載される支持基板と,
該支持基板と対向して配置され,前記支持基板とともに前記積層体を挟む封止基板と,
前記支持基板の少なくとも一方の主面,または,前記封止基板の少なくとも一方の主面に配置され,かつ熱放射率が0.70以上である放熱層と,
を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・(中略)・・・
〔9〕前記放熱層が,高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有する,上記〔8〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔10〕前記高熱伝導性層が,アルミニウム,銅,銀,セラミックス材料,およびこれらから選ばれる2種以上の合金からなる群より選ばれる無機材料,または高熱伝導性の樹脂で形成されてなる,上記〔9〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔11〕前記支持基板がガラス基板であり,当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に,前記放熱層が設けられる,上記〔1〕から〔10〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・(中略)・・・
〔14〕前記ガラス基板の前記積層体が搭載される主面とは反対側の主面に前記放熱層が設けられ,かつ,前記ガラス基板の前記積層体側の主面に高熱伝導性層が設けられる,上記〔11〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・(中略)・・・
〔18〕上記〔1〕から〔15〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,電極に印加する電圧の変化に対して,色味の変化の少なく,かつ,放熱性に優れ,耐久性の高い,有機EL素子およびこれを実装した装置が提供される。」

(イ) 「【0012】
<有機EL素子の第1の実施形態>
図1を参照しつつ,有機EL素子の第1の実施形態およびその変形例について説明する。図1は,有機EL素子の第1の実施形態を示す断面図である。
【0013】
<1.基板>
有機EL素子1を構成する基板として,支持基板10と封止基板30がある。支持基板10は,その一方の主面に,発光機能部20が搭載されている。封止基板30は支持基板10上の発光機能部20を覆い,素子を封止する。図1に示すように,封止基板30と支持基板10とは接着部40によって張り合わされている。
【0014】
支持基板10は,発光機能部20を搭載できる領域を有する平面状の基板である。本明細書では,平板状または薄膜状(フィルム状)の基板が有する2つの主たる平面をそれぞれ主面という。支持基板10は,リジッド基板でも,フレキシブル基板でもよい。・・・(中略)・・・
【0015】
封止基板30の形状は,支持基板10と貼り合わせて,発光機能部20を封止できるものであればよく,図1に示すように平板状であってもよいし,発光機能部20を収容するザグリが表面部に形成された板状の基板を用いてもよい(不図示)。図1に示す例では,封止基板30と発光機能部20との間は空隙となっているが,この空隙に樹脂などの充填材を設けてもよい。封止基板30は,リジッド基板でも,フレキシブル基板でもよい。封止基板30は,発光機能部を保護する役割を担う。上記支持基板10について例示した例と同様のものを採用してよい。
【0016】
基板を構成する材料となり得るものとしては,上記のような材料が挙げられるが,取り扱いの容易さなどの観点からはガラスが好適である。その反面,ガラスは熱放射性が低い材料である。以下に詳説するとおり,本発明は放熱性に優れた構成を採用しており,ガラスなどの熱放射性が低い材料を基板に用いた場合に放熱性が低下するという課題を克服することができる。
【0017】
<1.2.発光機能部>
発光機能部20は,陽極21,陰極22およびこれらの間に位置する複層発光部23を備える。発光機能部20には,さらに任意の層を付加して設けてもよい。
【0018】
<A>複層発光部
複層発光部23は,複数の発光層を含み,好ましくは3層以上の発光層を含む。図1に示す本実施形態では,赤色を発光する発光層(以下,赤色発光層という場合がある)23aと,緑色を発光する発光層(以下,緑色発光層という場合がある)23bと,青色を発光する発光層(以下,青色発光層という場合がある)23cとがこの順で積層されて構成されている。・・・(中略)・・・
【0031】
以上のように,発光する光のピーク波長が長い発光層ほど,陽極21寄りに配置する構成の有機EL素子1では,電極に印加する電圧の変化に対して,色味の変化の少なく,かつ高効率で発光する有機EL素子を実現することができ,陽極21と陰極22との間に印加する電圧を変化させたときの,外に取出される光の色度座標における座標値xと,座標値yとの変化の幅が,それぞれ0.05以下に抑えることができる。ここで印加する電圧を変化させるときの印加電圧の範囲は,通常,輝度が100cd/m^(2)?10000cd/m^(2)となる範囲であり,少なくとも4000cd/m^(2)?6000cd/m^(2)となる範囲である。また外に取出される光は,各発光層23a,23b,23cからの光が重ね合わされた光のことである。なお,本明細書において,色度座標の規定は国際照明委員会(CIE)の定めるCIE1931に従う。
・・・(中略)・・・
【0033】
<B>陽極
本実施形態では,陽極21が支持基板10の上に設けられている。・・・(中略)・・・
【0035】
<C>陰極
本実施形態では,陰極22は,複層発光部23の上に積層されて設けられている。・・・(中略)・・・
【0038】
<D>任意の構成層
・・・(中略)・・・陽極21および陰極22の間には必須の構成として複層発光部23が設けられればよく,さらに他の任意の構成層を1または2以上設けてもよい。発光機能部20に設けられ得る任意の構成層としては,例えば,正孔注入層,正孔輸送層,正孔ブロック層,電子注入層,電子輸送層,電子ブロック層などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0059】
さらに,他の任意の構成層として,例えば,電極との密着性向上や,電極からの電荷注入の改善のために,電極に隣接して膜厚が2nm以下の絶縁層などを設けてもよい。さらに,他の任意の構成層として,界面の密着性向上や混合の防止等のために,隣接する前記各層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
・・・(中略)・・・
【0061】
<1.4.放熱層>
放熱層60は,高い熱放射性を発揮する層であり,熱放射率が0.70以上である。本明細書において,熱放射とは,物体から熱エネルギーが電磁波として放出される現象,あるいはその電磁波のことをいう(岩波理化学辞典,岩波書店,1998年,第5版)。放熱層60の熱放射率は,0.70以上であり,好ましくは0.85以上である。熱を逃がすという観点から,熱放射率の上限は特に規定するに及ばない。熱放射率とは,ある温度の物質の表面から放射されるエネルギー量と,前記ある温度と同温度の黒体(放射で与えられたエネルギーを100%吸収する仮想物質)から放射されるエネルギー量の比率のことをいう。熱放射率は,フーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)に従って測定することができる。熱放射性の高い材料としては,黒色系材料が挙げられ,黒色塗料の顔料成分などを好適に用い得る。例えば,カーボン材料とプラスチック材料との混合材料(カーボンプラスチック),所定の金属元素などをドーピングしたTiO_(2),チタニアと所定の金属微粒子とが分散したコロイド,Fe_(3)O_(4)などが例示される。
【0062】
放熱層60は,熱放射性が高い材料であるのみならず,熱伝導性も高い材料で形成されることが好ましい。本明細書において,熱伝導とは,物質の移動や放射によるエネルギー輸送なしに熱が物体の高温部から低温部に移る現象をいう(岩波理化学辞典,岩波書店,1998年,第5版)。放熱層60は,高い熱放射性を発揮するとともに,高い熱伝導性を発揮するものが好ましく,熱伝導率が,1W/mK以上のものが好ましく,より好ましくは10W/mK以上のものであり,さらに好ましくは200W/mKのものである。熱を逃がすという観点から,熱伝導率の上限は特に規定するに及ばない。熱伝導率は,物体内部の等温面の単位面積を通って単位時間に垂直に流れる熱量と,この方向における温度勾配との比のことをいう(岩波理化学事典,同上)。熱伝導率は,例えば,ASTM D5470(American Society For Testing and D5470)の方法により測定することができる。熱伝導性の高い材料としては,例えば,アルミニウム,銅,銀,セラミックス材料,およびこれらから選ばれる2種以上の合金からなる群より選ばれる無機材料,または高熱伝導性の樹脂などが挙げられる。高熱伝導性の樹脂としては,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,アクリル樹脂などが挙げられる。
【0063】
放熱層60は,単層で形成されてもよいし,2つ以上の複数の層を有する積層構造を有していてもよい。単層の場合としては,例えば樹脂材料中に高熱伝導性の微粒子を分散させると共に,黒色系の顔料を混合し,この樹脂材料を基板に塗布して形成された層などの形態が挙げられる。また複数の層を含む放熱層60としては,高熱伝導性層と,高熱放射性を示す黒色系材料層とを含む積層体の形態が挙げられる。複数の層を含む放熱層は,黒色系材料層などの高熱放射性を示す高熱放射性層および高熱伝導性層がそれぞれ複数層積層されて構成されていてもよい。
【0064】
<1.5.トップエミッション型およびボトムエミッション型>
有機EL素子は,発光層からの光を放出するために,通常,複層発光部のいずれか一方側の層を全て光が透過可能なものとする。具体的には例えば,支持基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/複層発光部/電子輸送層/電子注入層/陰極/封止基板という構成を有する有機EL素子の場合,支持基板,陽極,正孔注入層および正孔輸送層の全てを光が透過可能なものとし,所謂ボトムエミッション型の素子とし得る。あるいは,電子輸送層,電子注入層,陰極および封止部材の全てを光が透過可能なものとし,所謂トップエミッション型の素子とすることもできる。
・・・(中略)・・・
【0066】
本発明においては,放熱層が設けられる。放熱層を不透光性の材料で形成する場合には,放熱層を設けた側とは反対側の基板側から採光することになる。
・・・(中略)・・・
【0069】
<有機EL素子の第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態およびその変形例について図3-1から図3-5を参照しつつ説明する。図3-1に第3の実施形態の有機EL素子3A(以下,「第3の実施形態の素子」という場合がある)の断面図を示す。図3-1中,第1の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し,以下,第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0070】
有機EL素子3Aは,封止基板側から採光するトップエミッション型の素子である。有機EL素子3Aでは,支持基板10の発光機能部20側の主面とは反対側の主面に放熱層63が設けられている。放熱層63は,2つの層で構成されている。一方の層は,黒色系材料層63aであり,他方の層は高熱伝導性層としてのアルミニウム層63bでありる(審決注:「ある」の誤記と解される)。放熱層63は,アルミニウム層63bが支持基板10に接して設けられている。発光層の発熱により支持基板10には熱が伝わる。支持基板10としてガラス基板のような熱伝導性の低い材料が用いられている場合は特に,熱が支持基板10に停滞してしまいやすい。しかし,有機EL素子3Aにおいては,高熱伝導性を有するアルミニウム層63bが支持基板10に接触して設けられていることにより,支持基板10およびアルミニウム層63bでの熱の拡散を促し,また熱を支持基板10の外部へと逃がすことを助ける。さらに,アルミニウム層63bには,黒色塗料を塗布して形成された黒色系材料層63aが設けられており,黒色系材料層63aに伝達された熱の外界への放射が促進される。
【0071】
図3-2に,第3の実施形態の素子の一変形例である有機EL素子3Bを示す。有機EL素子3Aでは支持基板10の一方の主面にのみ放熱層63が設けられていたが,有機EL素子3Bにおいては,支持基板10の両方の主面に放熱層63が設けられている。・・・(中略)・・・
【0072】
・・・(中略)・・・なお,以下,図3-3から図3-5において発光機能部20等の上部構成は図3-2と同様なので省略している。・・・(中略)・・・
【0075】
図3-5に,第3の実施形態の素子のさらに別の変形例を示す。図3-5に示す変形例では,支持基板10の発光機能部側の主面(図3-5では,支持基板10の上面)には,アルミニウム層63bのみが設けれて(審決注:「設けられて」の誤記と解される。)いる。発光機能部を設ける側には,黒色系材料層を設けたくない場合などに採用し得る。
・・・(中略)・・・
【0104】
<E>放熱層の形成方法
・・・(中略)・・・
【0105】
・・・(中略)・・・高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層体は,例えば,高熱伝導性を示す材料から成る高熱伝導性シート(高熱伝導層)の一面または両面に,黒色系の顔料を含む塗料を塗布することにより作製することができる。このような複合シートは,予め作製し,これを支持基板に貼り合わせてもよし,または支持基板上で各層を順次形成してもよい。複数の層を含む放熱層60は,黒色系材料層などの高熱放射性を示す高熱放射性層および高熱伝導性層がそれぞれ複数層積層されて構成されていてもよい。
【0106】
より具体的には,例えば,黒色塗料をアルミニウムシートの一方の主面に塗布して,黒色系材料層が形成されたシートを作製し,これを支持基板に接着剤(不図示)など用いて接着する形態が挙げられる。また,他の形態としては,支持基板に予めアルミニウムを蒸着しておき,形成されたアルミニウム層の表面に黒色塗料を塗布して黒色系材料層を形成する形態が挙げられる。
【0107】
シート状の放熱層は,接着剤を介在させて基板に貼り付けてもよい。・・・(中略)・・・
【0109】
3.本発明の有機EL素子を搭載した装置
上記本発明の有機EL素子は,面状光源,照明装置,および表示装置などに用いられる。有機EL素子1を備える表示装置としては,セグメント表示装置,ドットマトリックス表示装置,および液晶表示装置などを挙げることができる。ドットマトリックス表示装置において有機EL素子は,画素またはバックライトとして用いられ,液晶表示装置において,有機EL素子は,バックライトとして用いられる。」

(ウ) 「【0132】
<放熱性,熱伝導性に関する検証実験等>
検証実験は,図5に示すような試験装置を用いて行った。本発明は,有機EL素子の発光機能部部分の構造には実質的に依存しないと考えられるため,熱源として自作のポイントヒーターを用い,ガラス,熱放射率の高い素材が被覆されたアルミニウムシートなどを用いて評価をおこなった。図5に示すように試験台80の上にはホットプレート81が設けられ,その中央部には,円柱形状の熱伝導部83が設けれられている。熱伝導部83は真鍮製であり,また,熱伝導部83の側面には断熱シート82が巻かれている。熱伝導部83の上端部には試験基板保持ガラス12が設けられている。そして,試験基板保持ガラス12上に,被試験体となる試験基板15が載置される。試験基板15上面部は,その上方からから温度センサー84によって温度が測定される。当該試験基板15の上面部から放射熱を測定する。
【0133】
図6に,試験基板保持ガラス12上に載置された試験基板15の平面図を示す。試験基板15上に示すA?Kの符号は,温度センサー84による上方からの測定位置を示す。また,中央部の破線は,試験基板保持ガラス12の下にある熱伝導部83の上端面の位置を示す。このように中央部に熱源を設け,試験基板15の一方の角部から中央部さらに対角にある他方の角部まで複数の位置を測定することにより,試験基板15の熱拡散性を測定することができる。
【0134】
各試験基板の評価は次の要領にて行った。まず,放熱効果については,最大温度(試験基板の中心部)の低下レベルを指標とした。具体的には,比較試験例1(ガラス基板のみ)における試験基板の最大温度(中心部の温度)を最大温度の最高値とし,この最高値を他の試験基板の中心部の最大温度から引いた差として求めた。最大温度が低く,最大温度の差がマイナス側に大きくなるほど熱放射性が優れることを示す。また,均熱性(熱分散性)については,各試験基板内での測定位置ごとの温度により示される温度分布を指標とした。試験基板内での温度分布に偏りが少ないほど,均熱化に優れることを示す。
・・・(中略)・・・
【0138】
<実施試験例3>
試験基板として図7-3に示すものを用いた点以外は,上記実施試験例1と同様にして,試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。実施試験例3の試験基板は,図7-3に示すように,ガラス基板の外面側(発光機能部が形成される側とは反対側)表面に高熱伝導性および高熱放射性を有する層が貼付され,他方,内面側表面にはアルミニウムシートのみ貼付されている。したがって,実施試験例3の試験基板は,試験基板保持ガラス12側から順に,アルミニウム層63b/ガラス基板11/アルミニウム層63b/黒色系材料層63aが順次積層された積層体で構成されている。
【0139】
<比較試験例1>
試験基板として図7-4に示すものを用いた点以外は,上記実施試験例1と同様にして,試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。比較試験例3の試験基板としては,図7-4に示すようにガラス基板11単体が用いられた。
・・・(中略)・・・
【0141】
<評価>
以上の実施試験例1から3,並びに比較試験例1および2についての上記検証試験結果を図8および表3に示す。
【0142】
【表3】

・・・(中略)・・・
【0144】
表3に示されるとおり,実施試験例1?3のいずれも,比較試験例1および2よりも最大温度が低く,最大温度を示す中央部において熱をより多く逃がしていることが明らかになった。また,比較試験例1および2の方が最大-最小温度差の値が大きく,同一基板内での温度差が大きいことが明らかになった。
【0145】
図8に示されるように,比較例1および2においては,試験基板周辺部の測定位置A?CおよびI?Kが約40?55℃程度であるのに対し,基板中央部の測定位置D?Hにおいては,約80?90℃程度と顕著な温度差が認められた。このように比較試験例1および2に供された試験基板は,均熱性(熱分散性)が低いことが明らかとなった。
【0146】
これに対し,実施試験例1?3については,測定位置A?K間における温度分布が,およそ70?80℃程度の間でなだらかに分布していることが明らかとなった。すなわち,実施試験例1?3に供された試験基板は,均熱性(熱分散性)が高いことが明らかとなった。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機EL素子の断面図である。
・・・(中略)・・・
【図3-1】本発明の第3の実施形態を示す断面図である。
【図3-2】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【図3-5】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である
・・・(中略)・・・
【図5】検証実験装置の側面を示す図である。
【図6】検証実験装置上に載置される試験基板および測定位置を示す平面図である。
・・・(中略)・・・
【図7-3】実施試験例3に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図7-4】比較試験例1に供された試験基板の断面図を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図8】検証試験結果を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3-1】

【図3-2】

・・・(中略)・・・
【図3-5】

・・・(中略)・・・
【図5】

【図6】

・・・(中略)・・・
【図7-3】

【図7-4】

・・・(中略)・・・
【図8】



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の図1及び図3-2から,図3-2に示された「第3の実施形態の素子の一変形例」における発光機能部20が,図1に示された「第1の実施形態の素子」における発光機能部20と同じ層構成であることを看取でき,【0072】の記載から,図3-5に示された「第3の実施形態の素子のさらに別の変形例」である有機EL素子3Aの発光機能部20も,図1に示された「第1の実施形態の素子」における発光機能部20と同じ層構成であることを理解でき,さらに,図3-1及び図3-5から,図3-5に示された「第3の実施形態の素子のさらに別の変形例」において,支持基板10の発光機能部側の主面とは反対側の主面に放熱部63が設けられていること,及び,当該放熱部63が,図3-1に示された「第3の実施形態の素子」において支持基板10の発光機能部側の主面とは反対側の主面に設けられた放熱部63と同じ層構成であることを看取できる。
そして,前記ア(ア)ないし(エ)を含む引用文献1の全記載から,図3-5に示された「第3の実施形態の素子のさらに別の変形例」である有機EL素子3Aを画素として用いたドットマトリックス表示装置についての発明を把握することができるところ,前記看取できる事項を踏まえれば,当該発明の構成は次のとおりである。

「トップエミッション型の有機EL素子3Aを画素として用いたドットマトリックス表示装置であって,
前記有機EL素子3Aは,
ガラス製の支持基板10と,
前記支持基板10上に設けられた陽極21,前記陽極21上に設けられた赤色発光層23a,前記赤色発光層23aに設けられた緑色発光層23b,前記緑色発光層23b上に設けられた青色発光層23c,及び前記青色発光層23c上に設けられた陰極22を含む発光機能部20と,
前記発光機能部20を覆うように前記支持基板10と張り合わされて素子を封止する封止基板30と,
前記支持基板10と前記陽極21の間であって,前記支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63bと,
前記支持基板10の他方側の主面に設けられ,前記支持基板10に接して設けられたアルミニウム層63bと当該アルミニウム層63b上に黒色塗料を塗布して形成された黒色系材料層63aとから構成され,熱放射率が0.70以上である放熱層63と,
を有するものであり,
前記アルミニウム層63bは,支持基板10及びアルミニウム層63bでの熱の拡散を促し,また熱を支持基板10の外部へと逃がすことを助ける高熱伝導性層として機能し,
前記黒色系材料層63aは,伝達された熱の外界への放射を促進するよう機能する,
ドットマトリックス表示装置。」(以下,「引用発明」という。)

(2) 引用文献2
ア 引用文献2の記載
引用文献2(特開2002-63985号公報)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,有機EL素子に関し,特にプラスチック基板を使用した有機エレクトロルミネッセンス素子(以下,「エレクトロルミネッセンス」を「EL」と略称する)の放熱構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】・・・(中略)・・・
【0003】従来の有機EL素子は,図3に示すように,ガラス基板20上に陽極6,正孔輸送層7,発光層8,電子輸送層9,陰極10を順次形成した構成を有している。正孔輸送層7,発光層8,電子輸送層9には有機材料が用いられる。陽極6から注入される正孔と陰極10から注入される電子が発光層8において再結合することによって発光する。
【0004】この有機EL素子の正孔輸送層,発光層,電子輸送層に利用する有機材料の中には100℃程度で凝集,結晶化する材料もあり,有機EL素子を数100mA/cm^(2)程度の電流密度で駆動する際には,素子部の局所的な発熱によって有機EL素子の特性が劣化する問題があった。
・・・(中略)・・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,プラスチック基板上に形成した有機EL素子は,プラスチック基板が熱伝導性がガラス基板に比べて小さいために,上記の従来のガラス基板上に形成した素子に比べ,低い電流密度で素子特性が劣化する。そのために,最高輝度が小さくなり,連続駆動時の寿命が短い等の問題がある。
・・・(中略)・・・
【0010】したがって,本発明の目的は,放熱特性が改善され,高輝度かつ安定に発光するプラスチック基板を用いた有機EL素子を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】・・・(中略)・・・
・・・(中略)・・・
【0012】本発明の第1の構成は,プラスチック製基板上に,少なくとも陽極,有機発光層,および陰極を積層してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって,前記基板は,該基板の熱伝導率より高い熱伝導率を有する材料よりなる放熱層で被覆されていることを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0016】本発明の上記第2の構成の有機EL素子においては,陽極間に絶縁層を配置することにより,陽極縁部からの漏電防止と有機EL素子の表示コントラストの向上ができる。また,この絶縁層に熱伝導性のよい材料を使用することによって,上記の第1の構成の有機EL素子よりもさらに素子の放熱効果も向上させることができる。」

(イ) 「【0017】
【発明の実施の形態】次に,本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】図1は,本発明の第1の実施の形態の有機EL素子の概略断面図である。本実施の形態の有機EL素子は,プラスチック製の基板1の片面または両面(図1では基板1の下面のみ)に基板1から水分や揮発性物質の拡散を抑制するガスバリア層3と傷付き防止のためのコート層2が順次成膜されており,さらに基板1の上面には放熱層4,絶縁層5が順次形成されている。絶縁層5の上には陽極6,正孔輸送層7,発光層8,電子輸送層9が順次形成されており,さらに電子輸送層9の上には陰極10が形成されて有機EL素子が構成されている。なお,図1において,ガスバリア層3は基板1の裏面に形成されているが,ガスバリア層は基板1の表側(発光層8が形成される側)でもよく,基板の両面に形成してもよい。また,基板からの水分等の拡散が問題ない場合には,ガスバリア層3やコート層2は必ずしも必要ではない。また絶縁層5も放熱層4と陽極間の絶縁性が問題ない場合には省くことができる。
・・・(中略)・・・
【0021】放熱層4は上記のように,基板1上の有機EL素子を積層する側の形成し,プラスチック製の基板1より高い熱伝導率を有する材料よりなり,好ましくは一桁以上熱伝導率が高い材料よりなる。例えば,基板1としてポリカーボネイト(熱伝導率:0.2W/m・K)を用いる場合には,Ag,Au,Al,SiC,BeO,AlN,Al_(2)O_(3)等の材料を用いることが好ましい。放熱層4の形成方法は特に限定されず,真空蒸着法,スパッタリング法,イオンプレーティング法等適宜使用できる。
【0022】絶縁層5としてはSiO_(x),Si_(3)N_(4),Al_(2)O_(3)等の材料を使用することができ,真空蒸着法,スパッタリング法,イオンプレーティング法等によって形成される。
・・・(中略)・・・
【0044】次に本発明の第2の実施の形態の有機EL素子について図面を参照して説明する。・・・(中略)・・・
【0045】本実施の形態の有機EL素子は,複数の陽極の各陽極間を充填し,有機EL素子の絶縁性の放熱層4(SiO_(x),Si_(3)N_(4),Al_(2)O_(3)等の絶縁膜からなる)に接続された絶縁層12を形成したものである。この絶縁層12により陽極縁部からの漏電防止と有機EL素子の表示コントラストの向上ができる。また,この絶縁層12に熱伝導性のよい材料を使用すれば上記の第1の実施の形態の有機EL素子よりもさらに素子の放熱効果も向上させることができる。絶縁層12の材料としては,SiO_(x),Al_(2)O_(3)等の酸化物,Si_(3)N_(4),AlN等の窒化物やあるいは熱伝導性ポリイミド樹脂等を使用することができる。本実施の形態における陽極,陰極,有機発光層等の形成は,上記の第1の実施の形態と同様な方法によって行うことができる。」

(ウ) 「【0049】
【発明の効果】以上説明したように,本発明ではプラスチック製の基板を使用した有機EL素子において,基板と陽極の間に放熱層を設けることによって,素子駆動中に発生する熱をこの放熱層から放熱することができ,素子部の局所的な温度上昇を抑制し,高輝度かつ安定に発光する有機EL素子を提供できる効果がある。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の有機EL素子の概略断面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】



イ 引用文献2に記載された技術事項
引用文献2の【0018】の「絶縁層5も放熱層4と陽極間の絶縁性が問題ない場合には省くことができる。」との記載が,放熱層4として絶縁性を有するものを用いたときには絶縁層5が必要なく,放熱層4として導電性を有するものを用いたときには絶縁層5が必要になることを意味していることが,当業者に自明であり,かつ,【0018】等に記載された「第1の実施の形態」における「絶縁層5」の材料としてポリイミド樹脂を用いることができることは,【0045】の記載から当業者に自明であるから,引用文献2に,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「有機EL素子において,素子駆動中に発生する熱を放熱するための放熱層を基板と陽極の間に設ける場合,
放熱層として導電性を有するものを用いるときには,前記陽極と前記放熱層間を絶縁するための絶縁層を,前記陽極と前記放熱層との間に設ける必要があること,
及び,
前記絶縁層の材質としては,ポリイミド樹脂を用いることができること。」(以下,「引用文献2記載事項」という。)

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載
引用文献3(特表2007-525713号公報)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献3記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機発光ディスプレイ装置に関する。より詳細には,本発明は,有機発光ディスプレイ装置内部での発熱に起因する局所的な老化を減らすことに関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
有機発光ダイオードから効率的な高輝度ディスプレイを作ることができる。しかしディスプレイが高輝度モードで動作している間に発生する熱がディスプレイの寿命を制限する可能性がある。なぜならOLEDディスプレイ内の発光材料は,高い温度で使用するほど劣化が早いからである。OLEDディスプレイの全体的な明るさを維持することは重要であるが,ディスプレイ内部の局所的な劣化を避けることのほうがはるかに重要である。ヒトの視覚系は,ディスプレイの明るさの違いに非常に敏感である。したがってユーザーは,ただちに均一性の違いに気づく。OLEDディスプレイにおける均一性の局所的な差は,ディスプレイ上に静的パターンを表示する結果として起こる可能性がある。例えばグラフィック・ユーザー・インターフェイスは,一定の場所に明るいアイコンを表示し続けることがしばしばある。このような局所的パターンによってOLEDディスプレイの局所的老化が起こるだけでなく,ディスプレイに局所的な熱いスポットも生じることになる。そのためその局所的パターン内の発光素子がさらに劣化する。ガラス支持体とプラスチック支持体は,ディスプレイが作動しているときに基板全体を均一な温度にするほどの熱伝導性はなかろう。したがって熱管理技術が改善されると,有機ディスプレイ装置の予想寿命が大きく延びる可能性がある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の1つの目的は,OLEDディスプレイ内の熱分布をより均一にするとともに,OLEDディスプレイ装置からの熱除去を最適化して,ディスプレイの寿命を延ばすことである。本発明のさらに別の目的は,基板またはカバーを環境ストレスや物理的損傷から保護し,ディスプレイを取り付けるための特徴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様によると,OLEDディスプレイは,基板と;その基板上に形成された第1の電極と,第1の電極の上に位置する1つ以上のOLED発光層と,そのOLED発光層の上に位置する第2の電極とを備える1つ以上のOLED発光素子と;第2の電極の上方に位置する封止用カバーと;封止用カバーまたは基板の外面上に延在しそこに熱伝導性接着剤で接着された実質的に平坦な熱伝導性背面プレートとを含んでなり,この背面プレートの熱伝導率が基板またはカバーの熱伝導率よりも大きく,かつ,熱伝導性接着剤の熱伝導率が,0.2W/mKよりも大きいか,この熱伝導性接着剤が付着するカバーまたは基板の熱伝導率以上である。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1aには,本発明の一実施態様によるトップ・エミッション型OLEDディスプレイの側面図が示してある。このOLEDディスプレイは,基板22と,基板上に形成された第1の電極30と,第1の電極30の上に位置する1つ以上のOLED発光層32と,OLED発光層32の上に位置する第2の電極34とをそれぞれが備える1つ以上のOLED発光素子,ギャップ24,第2の電極34の上方に位置して基板22に固定されている封止用カバー12,熱伝導性接着剤26,及び熱伝導性接着剤26によって基板22に接着された熱伝導性背面プレート20を備えている。背面プレート20は実質的に平坦であり,基板22の外面全体に延在している。・・・(中略)・・・
【0014】
・・・(中略)・・・熱伝導性背面プレート20は,例えば,Al,Cu,Ag,Fe,Cr,Mgなどの金属,その合金,ステンレス鋼で構成することができる。・・・(中略)・・・本発明のようなフラット-パネル・ディスプレイはできるだけ薄くしなくてはならないため,熱伝導性背面プレート20はできるだけ薄くしなくてはならない。厚さは1000μm未満であることが好ましく,500μm未満であることがより好ましい。出願人は,300μmの熱伝導性金属背面プレートを用いるとよい結果が得られることを明らかにした。」

イ 引用文献3に記載された技術事項
前記アで摘記した引用文献3の記載から,引用文献3に,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「できるだけ薄くすることが要求されるOLEDディスプレイにおいて,OLEDディスプレイ内の熱分布を均一にすることでOLEDディスプレイ内部での発熱に起因する局所的な老化を減らすために,基板の外面に設けられる熱伝導性背面プレートとしては,300μmの金属プレートを用いるとよい結果が得られること。」(以下,「引用文献3記載事項」という。)

(4)引用文献4,5に記載された技術的事項
ア 引用文献4の記載
引用文献4(米国特許出願公開第2011/0063265号明細書)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献4又は5記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「

」(図面1及び2ページ)

(イ) 「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0002] 1. Field of the Invention
[0003] The present invention relates to a flat panel display (FPD) and, more particularly, to a flat panel display capable of effectively dispersing the heat generated by a panel, and a printed circuit board (PCB) and(審決注:当該記載中のカンマの位置は誤記であり,正しくは「by a panel and a printed circuit board (PCB), and」と解される。) blocking electromagnetic interference (EMI) generated therein to improve resistance against electromagnetic compatibility (EMC).
[0004] 2. Description of the Related Art
[0005] A flat panel display (FPD) is divided into an emission type flat panel display, such as an organic light emitting display (OLED) and a plasma display panel (PDP); and a non-emission type flat panel display which does not emit light like a liquid crystal display (LCD).
[0006] The flat panel display includes a display panel for displaying an image, a driver for providing a predetermined signal to the pixels provided in the display panel, and a controller for controlling the driver.
[0007] In this regard, the driver and the controller are mounted on printed circuit boards (PCBs) and the printed circuit boards are provided on the back surface of the display panel.
[0008] The printed circuit board on which the driver is mounted and the printed circuit board on which the controller is mounted are positioned on the opposite surface, that is, the back surface of the display panel for displaying an image. A plurality of signal lines for transmitting and receiving signals between the driver and the controller are formed between the printed circuit board on which the driver is mounted and the printed circuit board on which the controller is mounted. The printed circuit boards and the signal lines are fixed to the back surface of the panel by an adhesive tape.
[0009] A front frame which is positioned on the front surface of the display panel and in which an image display region is opened, and a back frame positioned on the back surface of the display panel, are fastened to each other so that the assembly of the flat panel display is completed.
・・・(中略)・・・
[0014] In addition, in the case of the flat panel display having the above structure, since the printed circuit boards are directly attached on the back surface of the display panel by the adhesive tape, a path which can effectively disperse the heat generated by the display panel and the heat generated by the printed circuit board is not formed so that, when the flat panel display operates for a long time, the flat panel display is vulnerable to the heat.
SUMMARY OF THE INVENTION
[0015] Accordingly, the present invention has been developed to provide a flat panel display (FPD) in which a conductive heat proof plate is inserted between the back surface of a display panel on which printed circuit boards (PCBs) and signal lines are formed; and in which a back frame positioned on the back surface of the display panel is provided to cover the printed circuit boards and the signal lines, in which a shield can is formed in the internal surface region of the back frame corresponding to the printed circuit board on which a timing controller is mounted, and in which the shield can is electrically coupled to the heat proof plate to improve resistance against the electromagnetic compatibility of a large flat panel display and to improve a thermal characteristic.
[0016] In order to achieve the foregoing and/or other aspects of the present invention, the present invention provides a flat panel display (FPD), comprising a display module including a display panel for displaying an image on a front surface, first and second printed circuit boards (PCB) attached on a back surface of the display panel and electrically coupled to a scan driver and a data driver, a third printed circuit board on which a timing controller is mounted, a plurality of signal lines coupled between the printed circuit boards to transmit and receive signals between the printed circuit boards, and a heat proof plate inserted between the back surface of the display panel and the first to third printed circuit board and a front frame and a back frame coupled to a front surface and a back surface of the display module, respectively. A shield can formed to cover the timing controller is formed in an internal surface region of the back frame corresponding to a third printed circuit board on which the timing controller is mounted.
[0017] The shield can completely overlaps an area of the third printed circuit board on which the timing controller is mounted and includes walls corresponding to circumferential edges of the third printed circuit board.
[0018] A conductive tape is formed on a bottom surface of the shield can walls that contact the heat proof plate so that the heat proof plate is electrically coupled to the shield can.
・・・(中略)・・・
[0022] The scan driver and the data driver are formed of a plurality of ICs. The plurality of ICs that constitute the data driver are mounted on flexible printed circuit boards (FPCBs), and the flexible printed circuit boards are coupled to the second printed circuit board.
[0023] The heat proof plate is made of a material having high conductivity and thermal conductivity. An external surface of the heat proof plate is formed of an adhesive material. The heat proof plate is made of a material having a color having high reflectance.」
(日本語訳)
「発明の背景
[0002] 1.本発明の分野
[0003] 本発明は平面型表示装置(FPD)に関し,より具体的には,パネル及びプリント回路基板(PCB)で発生する熱を効果的に分散することができるとともに,電磁環境両立性(EMC)への抵抗力を向上させるために内部で発生する電磁干渉(EMI)を遮蔽することができる平面型表示装置に関する。
[0004] 2.先行技術の記載
[0005] 平面型表示装置(FPD)は有機EL表示装置(OLED)やプラズマディスプレイパネル(PDP)のような発光型の平面型表示装置と,液晶表示装置(LCD)のように発光を伴わない非発光型の平面型表示装置とに分類される。
[0006] 平面型表示装置は,画像を表示するための表示パネル及び表示装置内に備えられた画素に所定の信号を送信する駆動部,並びに駆動部を制御する制御部を有する。
[0007] その際,駆動部及び制御部はプリント回路基板(PCBs)上に実装され,プリント回路基板は表示パネルの背面に設けられる。
[0008] 駆動部が実装されるプリント回路基板及び制御部が実装されるプリント回路基板は,反対側の面すなわち画像を表示する表示パネルの背面に配置される。駆動部及び制御部間の信号を送受信する複数の信号線は駆動部が実装されるプリント回路基板及び制御部が実装されるプリント回路基板間にて形成される。プリント回路基板及び信号線は粘着テープによりパネルの背面に固定される。
[0009] 表示パネルの前面に配置され画像表示領域に開口が設けられた前フレームと,表示パネルの背面に配置された後フレームとを互いに緊結することによって,平面型表示装置の組立てが完成する。
・・・(中略)・・・
[0014] さらに,上述の構造を有する平面型表示装置の場合には,プリント回路基板は粘着テープにより表示パネルの背面上に直接取り付けられるので,表示パネルから発生する熱やプリント回路基板から発生する熱を効果的に分散させることができる経路が形成されず,平面型表示装置が長時間作動する場合にその熱に対して弱くなる。
発明の概要
[0015] したがって,本発明は,表示パネルの背面と,その上に設けられた複数のプリント回路基板(PCBs)及び信号線との間に,耐熱伝導板を設けた平面型表示装置(FPD)を提供するためになされたものであり;前記表示パネルの背面に位置する後フレームが前記複数のプリント回路基板及び信号線を覆うように設けられ,前記後フレームの内面であってタイミング制御部が実装されたプリント回路基板に対応する位置には遮蔽缶が設けられるとともに,前記遮蔽缶は,前記耐熱伝導板に電気的に接続され,大型の平面型表示装置における電磁環境両立性に対する対応力を改善し,熱特性を改善する。
[0016] 本発明の前述の及び/又は他の目的を達成するために,本発明は,前面に画像を表示する表示パネルと,前記表示パネルの背面に取り付けられるとともに走査駆動部及びデータ駆動部に電気的に接続された第1及び第2プリント回路基板(PCB)と,タイミング制御部が実装された第3プリント回路基板と,前記プリント回路基板間で信号を送受信するために当該プリント回路基板同士を接続する複数の信号線と,前記表示パネルの背面と前記第1ないし第3プリント回路基板との間に設けられた耐熱伝導板と,ディスプレイモジュールの前面及び背面にそれぞれ連結された前フレーム及び後フレームと,を含むディスプレイモジュールを具備する平面型表示装置(FPD)を提供する。前記後フレームの内面であって前記タイミング制御部が実装された第3プリント回路基板に対応する位置に,前記タイミング制御部を覆うように設けられた遮蔽缶が実装される。
[0017] 前記遮蔽缶は,前記タイミング制御部が実装される前記第3プリント回路基板の領域を完全に覆うよう構成されているとともに,前記第3プリント回路基板の周辺端部に対応する壁を有している。
[0018] 導電性テープが,前記耐熱伝導板と接触する前記遮蔽缶の壁の底面に設けられ,したがって前記耐熱伝導板は前記遮蔽缶に電気的に接続される。
・・・(中略)・・・
[0022] 前記走査駆動部及びデータ駆動部は複数のICで構成される。前記データ駆動部を構成する複数のICは複数の可撓性プリント回路基板(FPCBs)上に実装され,当該複数の可撓性プリント回路基板は前記第2プリント回路基板に連結される。
[0023] 前記耐熱伝導板は導電性及び熱伝導性が高い材料からなる。前記耐熱伝導板の外面は接着材料からなる。前記耐熱伝導板は反射率の高い色を有する材料からなる。」

(ウ) 「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
[0025]・・・(中略)・・・
[0026] FIG.1 is a block diagram illustrating the structure of a flat panel display (FPD) according to an embodiment of the present invention;
[0027] FIG.2 is an exploded perspective view illustrating the structure of the flat panel display according to an embodiment of the present invention;」
(日本語訳)
「図の簡単な説明
[0025]・・・(中略)・・・
[0026] 図1は本発明の実施形態に係る平面パネル型ディスプレイ(FPD)の構造を示すブロック図である;
[0027] 図2は本発明の実施形態に係る平面型表示装置の構造を示す分解斜視図である;」

(オ) 「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
[0030] ・・・(中略)・・・
[0032] FIG.1 is a block diagram illustrating the structure of a flat panel display (FPD) according to an embodiment of the present invention.
・・・(中略)・・・
[0034] Referring to FIG.1, the organic light emitting display as the flat panel display according to the embodiment of the present invention includes a display panel 30 including a plurality of pixels 40 coupled to scan lines S1 to Sn and data lines D1 to Dm, a scan driver 10 for driving scan lines S1 to Sn, a data driver 20 for driving data lines D1 to Dm, and a timing controller 50 for controlling the scan driver 10 and the data driver 20.
・・・(中略)・・・
[0039] That is, the flat panel display according to the embodiment of the present invention includes a display panel 30 for displaying an image, the scan/data drivers 10 and 20 for providing predetermined signals, that is, the scan signals and the data signals to the pixels 40 provided in the display panel 30, and a timing controller 50 for controlling the scan/data drivers.
[0040] In this regard, the scan driver 10 and the data driver 20 are realized by a plurality of ICs and are mounted on a printed circuit board (PCB) or a flexible printed circuit board (FPCB) so as to be electrically coupled to the printed circuit board on which various elements are mounted. The timing controller 50 is mounted on an additional printed circuit board. A plurality of signal lines for transmitting signals between the scan/data driver and the timing controller are formed between the printed circuit boards.
・・・(中略)・・・
[0042] The scan/data drivers 10 and 20 and the timing controller 50 are mounted on printed circuit boards, and the printed circuit boards are positioned on the back surface of the display panel 30.
[0043] In this regard, the structure including the display panel 30, the scan/data drivers 10 and 20, and the timing controller 50 is referred to as a display module. A frame (not shown) is coupled to the front and back surfaces of the display module so that the assembly of the flat panel display is completed.
・・・(中略)・・・
[0045] FIG.2 is an exploded perspective view illustrating the structure of the flat panel display according to the embodiment of the present invention. FIG.3 is a perspective view illustrating the front surface of the back frame of FIG.2.
[0046] Referring to FIG.2, the flat panel display according to the embodiment of the present invention includes a display module 100, a front frame 200 and a back frame 300, the front frame 200 being coupled to the back frame 300.
[0047] The display module 100 includes a display panel 30 for displaying an image, flexible printed circuit boards 24 in which IC type data drivers 22 are mounted on the opposite surface, that is, the back surface 32 of the display panel 30, first printed circuit boards 15 in which an IC type scan driver (not shown) is formed on the front surface of the display panel 30 and which is electrically coupled to the scan driver, second printed circuit boards 25 electrically coupled to the flexible printed circuit boards 24, a third printed circuit board 55 on which the timing controller (not shown) is mounted, and a plurality of signal lines 70 formed between the first/second printed circuit boards 15 / 25 and the third printed circuit board 55 for transmitting and receiving signals between the scan/data drivers and the timing controller.
・・・(中略)・・・
[0051] In addition, when the printed circuit boards are directly attached on the back surface 32 of the display panel 30, a path which can effectively disperse the heat generated by the display panel 30 and the heat generated by the printed circuit board is not formed so that, when the flat panel display operates for a long time, the flat panel display is vulnerable to heat.
[0052] According to the embodiment of the present invention, a conductive heat proof plate 60 is inserted into the back surface 32 of the display panel 30 on which the printed circuit boards 15, 25, and 55 and the signal lines 70 are formed. A shield can 310 covering the timing controller (not shown) is formed in the internal surface region of the back frame 300 corresponding to the third printed circuit board 55 on which the timing controller is mounted. The shield can 310 is electrically coupled to the heat proof plate 60 to reduce the electromagnetic interference noise generated by the timing controller, and to reduce electromagnetic susceptibility (EMS) against the external electromagnetic wave environment. Therefore, the resistance against the electromagnetic waves of the flat panel display is enhanced, that is, the resistance against electromagnetic compatibility (EMC) and the thermal characteristic can be improved.
[0053] To be specific, referring to FIGS. 2 and 3, according to the embodiment of the present invention, the heat proof plate 60 made of a material having high conductivity and thermal conductivity is attached to the back surface 32 of the display panel 30.
[0054] In this regard, since the heat proof plate 60 has adhesiveness on both surfaces, the heat proof plate 60 is attached to the back surface 32 of the display panel, and the first to third printed circuit boards 15, 25, and 55 are fixed to one surface of the heat proof plate 60 without an additional adhesive tape.
[0055] As described above, the heat proof plate 60 is provided between the rear surface 32 of the display panel and the first to third printed circuit boards 15, 25, and 55 so that a path which can effectively disperse the heat generated by the display panel 30 and the heat generated by the printed circuit boards is formed, and a heat proof characteristic is improved.」
(日本語訳)
「発明の詳細な説明
[0030]・・・(中略)・・・
[0032] 図1は本発明の実施形態に係る平面型表示装置(FPD)の構造を図示している分解組立図である。
・・・(中略)・・・
[0034] 図1を参照すると,本発明の実施形態の平面型表示装置としての有機EL表示装置は,走査線S1ないしSn及びデータ線D1ないしDmに接続される複数の画素40と,走査線S1ないしSnを駆動する走査駆動部10と,データ線D1ないしDmを駆動するデータ駆動部20と,前記走査駆動部10及び前記データ駆動部20を制御するタイミング制御部50とを含む表示パネル30を有している。
・・・(中略)・・・
[0039] つまり,本発明の実施形態に係る平面型表示装置は,画像を表示するための表示パネル30と,所定の信号すなわち走査信号及びデータ信号を前記表示パネル30に設けられた画素40に供給する走査駆動部10及びデータ駆動部20と,前記走査駆動部及びデータ駆動部を制御するためのタイミング制御部50とを有する。
[0040] ここで,前記走査駆動部10及びデータ駆動部20は,複数のICにより実現され,プリント回路基板(PCB)又は可撓性プリント回路基板(FPCB)に実装されて,各種部品が実装されたプリント回路基板と電気的に接続される。前記タイミング制御部50は,追加のプリント回路基板に実装される。走査/データ駆動部とタイミング制御部の間で信号を伝達するための複数の信号線は,プリント回路基板間に設けられる。
・・・(中略)・・・
[0042] 前記走査駆動部10,前記データ駆動部20及び前記タイミング制御部50は,複数のプリント回路基板に実装され,当該複数のプリント回路基板は,表示パネル30の背面に配置される。
[0043] ここで,前記表示パネル30,前記走査駆動部10,前記データ駆動部20及び前記タイミング制御部50を含む構造体はディスプレイモジュールと呼ばれる。フレーム(図示していない)が,前記ディスプレイモジュールの前面及び背面に連結されることで,平面型表示装置の組立ては完成する。
・・・(中略)・・・
[0045] 図2は本発明の実施形態に係る平面型表示装置の構造を示す分解斜視図である。図3は図2の後フレームの前面を示す斜視図である。
[0046] 図2を参照すると,本発明の実施形態に係る平面型表示装置は,ディスプレイモジュール100と前フレーム200と後フレーム300とを有しており,前記前フレーム200は前記後フレーム300に連結される。
[0047] 前記ディスプレイモジュール100は,画像を表示するための表示パネル30と,ICタイプのデータ駆動部22が反対面にすなわち表示パネル30の背面32に実装された複数の可撓性プリント回路基板24と,ICタイプの走査駆動部(図示していない)が前記表示パネル30の前面に設けられるとともに前記走査駆動部に電気的に接続された複数の第1プリント回路基板15と,前記可撓性の複数のプリント回路基板24に電気的に接続された複数の第2プリント回路基板25と,前記タイミング制御部(図示していない)が実装された一つの第3プリント回路基板と,前記複数の第1プリント回路基板15及び前記複数の第2プリント回路基板25と前記一つの第3プリント回路基板との間に設けられ前記走査/データ駆動部と前記タイミング制御部間で信号を送受信するための複数の信号線70と,を含む。
・・・(中略)・・・
[0051] さらに,前記各プリント回路基板が前記表示パネル30の背面32上に直接取り付けられるときには,前記表示パネル30が発生する熱や前記プリント回路基板が発生する熱を効果的に分散させることができる経路が形成されず,平面型表示装置が長時間作動する場合にその熱に対して弱くなる。
[0052] 本発明に係る実施形態によると,耐熱伝導板60が,前記表示パネル30の背面32とその上に設けられる前記プリント回路基板15,25,55及び前記信号線70との間に挿入される。前記タイミング制御部(図示していない)を覆う遮蔽缶が,当該タイミング制御部が実装された前記第3プリント回路基板55に対応する位置の前記後フレーム300の内面に設けられる。当該遮蔽缶310は,前記タイミング制御部が発する電磁波妨害ノイズを減少させ,外部の電磁波環境に対して電磁感受性(EMS)を減少させるために,前記耐熱伝導板60に電気的に接続される。したがって,平面型表示装置の電磁波に対する抵抗力が向上し,つまりは電磁環境両立性(EMC)に対する抵抗力及び熱特性が改善する。
[0053] より詳細には,図2及び図3を参照し本発明の実施形態によると,導電性及び熱伝導性の高い材料で製造される前記耐熱伝導板60は,前記表示パネル30の背面32に取り付けられる。
[0054] ここで,前記耐熱伝導板60は,その両面に接着性を有していて,前記表示パネルの背面32に取り付けられ,前記第1ないし第3プリント回路基板15,25,55は,粘着テープなしで前記耐熱伝導板60の一方の面に固定される。
[0055] 上述したように,前記耐熱伝導板60は,前記表示パネルの背面32と前記第1ないし第3プリント回路基板15,25,55との間に設けられているので,前記表示パネル30が発する熱及び前記各プリント回路基板が発する熱を効果的に分散させることができる経路が形成され,耐熱特性が改善する。」

イ 引用文献5の記載
引用文献5(特開2011-65122号公報)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献4又は5記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,平板表示装置に関し,特にパネル及びPCBで発生する熱を効果的に分散させると共に電磁両立性(Electro-Magnetic Compatibility,EMC)に対する対応力を向上させる平板表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常,平板表示装置は,パネル自ら光を発生させる有機電界発光表示装置(Organic Light Emitting Device,OLED),およびプラズマ表示装置(Plasma Display Panel,PDP)などの発光型平板表示装置と,液晶表示装置(Liquid Crystal Display,LCD)のように自ら光を発することができない非発光型平板表示装置とに分けられる。
【0003】
このような平板表示装置は,画像を表示する表示パネルと,前記表示パネルに備えられた画素に所定の信号を提供する駆動部と,前記駆動部を制御する制御部と,から構成される。
【0004】
このとき,前記駆動部及び制御部は,それぞれ印刷回路基板(Printed Circuit Board,PCB)上に実装され,前記PCBは表示パネルの背面に位置するのが一般的である。
【0005】
即ち,画像を表示する表示パネルの反対面,即ち,表示パネルの背面には駆動部が実装されたPCBと制御部が実装されたPCBが位置し,前記駆動部が実装されたPCBと制御部が実装されたPCBの間には前記駆動部と制御部間の信号を送受信するための多数の信号線が形成され,前記PCB及び信号線は接着テープなどによりパネル後面に固定される。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
・・・(中略)・・・
【0011】
また,前記構造を有する平板表示装置の場合,表示パネルの背面にPCBが接着テープにより直接付着されているので,前記表示パネルで発生する熱及び前記PCBで発生する熱を効果的に分散させることができる経路が形成されず,平板表示装置が長時間動作する場合に熱に弱くなるという短所がある。
【0012】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,大型平板表示装置のEMC対応力を向上させると同時に,熱特性の改善を実現することが可能な,新規かつ改良された平板表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,複数の画素が含まれ,前記複数の画素により画像を表示する表示パネルと,前記表示パネルに備えられた画素にそれぞれ走査信号及びデータ信号を提供する走査駆動部及びデータ駆動部と,前記走査駆動部及びデータ駆動部に所定の制御信号を印加して前記走査駆動部及びデータ駆動部を制御するタイミング制御部と,前記走査駆動部及びデータ駆動部と電気的に連結された第1印刷回路基板及び第2印刷回路基板と,前記タイミング制御部が実装される第3印刷回路基板と,前記第3印刷回路基板と第1,2印刷回路基板の間に前記タイミング制御部と前記走査及びデータ駆動間の信号を伝達する複数の信号線と,前記表示パネルの背面と前記第1?第3印刷回路基板の間に挿入される放熱板と,前記複数の信号線を覆う遮蔽部と,を備えることを特徴とする,平板表示装置が提供される。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば,大型平板表示装置のEMC対応力を向上させると同時に,熱特性の改善を実現できるという効果を奏する。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る平板表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る平板表示装置の背面構造に対する平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る平板表示装置の特定領域I-I’に対する断面図である。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0021】
・・・(中略)・・・
【0023】
図1を参照すると,本発明の実施形態に係る平板表示装置としての有機電界発光表示装置は,走査線S1?Sn及びデータ線D1?Dmと接続された複数の画素40を含む表示パネル30と,走査線S1?Snを駆動するための走査駆動部10と,データ線D1?Dmを駆動するためのデータ駆動部20と,走査駆動部10及びデータ駆動部20を制御するためのタイミング制御部50とを備える。
・・・(中略)・・・
【0028】
即ち,本発明の実施形態に係る平板表示装置は,画像を表示する表示パネル30と,前記表示パネル30に備えられた画素40に所定の信号,即ち,走査信号及びデータ信号を提供する走査/データ駆動部10,20と,前記走査/データ駆動部を制御するタイミング制御部50とから構成される。
【0029】
このとき,前記走査駆動部10及びデータ駆動部20は,多数のICで実現されて印刷回路基板(PCB)に実装されてもよいし,軟性回路基板(FPCB)上に実装されて各種素子が実装されたPCBと電気的に連結されてもよい。前記タイミング制御部50は別途のPCB上に実装され,前記PCBの間には前記走査/データ駆動部とタイミング制御部間の信号伝達のために多数の信号線が形成される。
・・・(中略)・・・
【0031】
ここで,前記走査/データ駆動部10,20及びタイミング制御部50は,それぞれ印刷回路基板(Printed Circuit Board,PCB)上に実装され,前記PCBは表示パネルの背面に位置するのが一般的である。
【0032】
図2及び図3は,本発明の実施形態に係る平板表示装置の背面構造に対する平面図及び特定領域I-I’に対する断面図であって,図2及び図3を参照すれば,前記画像を表示する表示パネル30の反対面,即ち,表示パネルの背面には,IC形態のデータ駆動部22がそれぞれ実装されたFPCB24と電気的に連結される第2PCB25と,前記表示パネル20の前面にIC形態の走査駆動部(図示せず)が形成され,前記走査駆動部と電気的に連結される第1PCB15及びタイミング制御部が実装された第3PCB55が位置する。前記第2PCB25と第3PCB55,第1PCB15と第3PCB55の間には前記走査/データ駆動部とタイミング制御部間の信号を送受信するための多数の信号線70が形成されている。
・・・(中略)・・・
【0034】
・・・(中略)・・・前記表示パネルの背面にPCBが直接取り付けられる場合,前記表示パネルで発生する熱及び前記PCBで発生する熱を効果的に分散させることができる経路が形成されず,平板表示装置が長時間動作する場合,熱に弱いという問題が発生し得る。
【0035】
これにより,本発明の実施形態では前記PCB15,25,55及び信号線70が形成された表示パネル30の下面に導電性放熱板60を挿入し,前記信号線70を遮蔽部80で覆い,前記遮蔽部の外面84が導電性物質で実現されて前記放熱板60と電気的に連結されることにより,前記平板表示装置から不要に発生するEMIノイズを減らし,外部電磁波環境に対して電磁感受性(EMS)を低減して前記平板表示装置自らの電磁波耐性の強化,即ち,EMCに対する対応力の向上を実現すると共に熱特性の改善を実現できることを特徴とする。
【0036】
より具体的に,図2及び図3を参照すれば,本発明の実施形態による場合,前記表示パネル30の背面32には導電性及び熱伝導性の高い材質で実現される放熱板60が取り付けられる。
【0037】
このとき,前記放熱板60は両面に接着性質を有しているので,放熱板60が前記表示パネルの背面32に取り付けられると共に,前記第1?第3PCB15,25,55は別途の接着テープなしに前記放熱板60の一面に固定される。
【0038】
このように,前記放熱板60が表示パネルの背面32と前記第1?第3PCB15,25,55の間に備えられることにより,前記表示パネル30で発生する熱及び前記PCBで発生する熱を効果的に分散させることができる経路が形成されて放熱特性が改善される。
【0039】
また,前記放熱板60は反射率の高い色を有する物質で実現されることが好ましく,これを通じて前記表示パネル30から出射される光の反射率を高めて光損失を低減できるという効果も得られる。」

(エ) 「【図1】

【図2】

【図3】



ウ 引用文献4又は5の記載から把握される技術的事項
前記ア及びイで摘記した引用文献4及び5の記載から,引用文献4又は5に,次の技術的事項が記載されていたと認められる。

「データ信号を表示パネルの画素に供給する複数のデータ駆動部が前記表示パネルの背面に配置され,走査信号を前記表示パネルの画素に供給する複数の走査駆動部が前記表示パネルの前面に配置され,前記複数のデータ駆動部及び前記複数の走査駆動部を制御する一つのタイミング制御部が前記表示パネルの背面に配置された有機EL表示装置において,
前記表示パネルの背面と,前記複数のデータ駆動部及び前記タイミング制御部との間の位置に,耐熱伝導板を設けることによって,熱を効果的に分散させることができる経路が形成され,耐熱特性が改善されること。」(以下,「引用文献4又は5記載事項」という。)

5 対比
(1) 引用発明の「有機EL素子3Aを画素として用いたドットマトリックス表示装置」,「発光機能部20」,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」及び「支持基板10」は,本願発明の「有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ装置」,「OLEDディスプレイスタック」,「熱伝導層」及び「基板」に,それぞれ相当する。

(2) 引用発明は有機EL素子3Aを有し,当該有機EL素子3Aは「発光機能部20」(本願発明の「OLEDディスプレイスタック」に相当する。以下,「5 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付された()内の文言は,当該引用発明の構成に対応する本願発明の発明特定事項を指す。)と「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)とを有しているから,引用発明は,「OLEDディスプレイスタックと,熱伝導層と,を備え」るという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3) 引用文献1の【0062】に記載されているように,「熱伝導」とは熱が物体の高温部から低温部に移る現象のことをいうから,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)が,熱の拡散を促す高熱伝導性層として機能するとは,熱を物体の高温部から低温部に伝達する能力に優れていることにほかならない。
しかるに,引用発明においては,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)によって支持基板10及び当該「アルミニウム層63b」(熱伝導層)での熱の拡散が促されるところ,「アルミニウム層63b」(熱伝導層)での熱の拡散がなされれば,支持基板10ばかりでなく,当該「アルミニウム層63b」(熱伝導層)上に設けられた「発光機能層20」(OLEDディスプレイスタック)においても当該「アルミニウム層63b」(熱伝導層)を通じて熱が高温部から低温部に移ることが明らかである。
したがって,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)は,「OLEDディスプレイスタックの相対的高温領域からOLEDディスプレイスタックの相対的低温領域に熱を伝達するように構成され」ているという本願発明の「熱伝導層」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

(4) 引用発明は,「支持基板10」(基板)を有しており,当該「支持基板10」(基板)の発光機能部側の主面に「アルミニウム層63b」(熱伝導層)が設けられているから,「ディスプレイ装置は基板を備え,熱伝導層が基板の上に配置され」るという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(5) 前記(3)で述べたように,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)は,「発光機能層20」(OLEDディスプレイスタック)で熱を高温部から低温に伝達する作用を有しているところ,熱を高温部から低温に伝達することは「熱の拡散」にほかならないから,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)は,「発光機能層20」(OLEDディスプレイスタック)で熱を拡散する作用を有している。しかるに,引用文献1の【0003】等の記載からみて,引用発明が,当該「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)により拡散する熱として,専ら,電力が供給されて有機EL素子が発光する際に供給される電力の一部がジュール熱などにより熱エネルギーに変換されることにより発生した熱を想定したものであることは明らかであるから,引用発明は,「ドットマトリックス表示装置」(ディスプレイ装置)内で発生した熱を「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」(熱伝導層)によって「発光機能層20」(OLEDディスプレイスタック)に拡散するものであるといえる。
一方,本願発明は,「複数の電子コンポーネントによって発生した熱は熱伝導層によってOLEDディスプレイスタックに拡散する」ものであるところ,「複数の電子コンポーネント」はディスプレイ装置の構成部材であるから,「複数の電子コンポーネントによって発生した熱」は「ディスプレイ装置」内で発生した熱である。
そうすると,本願発明と引用発明とは,「ディスプレイ装置内で発生した熱は熱伝導層によってOLEDディスプレイスタックに拡散する」ものである点で共通するといえる。

(6) 前記(1)ないし(5)に照らせば,本願発明と引用発明は,
「有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ装置であって,
OLEDディスプレイスタックと,
熱伝導層と,を備え,前記熱伝導層は,前記OLEDディスプレイスタックの相対的高温領域から前記OLEDディスプレイスタックの相対的低温領域に熱を伝達するように構成され,
前記ディスプレイ装置は基板を備え,前記熱伝導層が前記基板の上に配置され,
ディスプレイ装置内で発生した熱は前記熱伝導層によって前記OLEDディスプレイスタックに拡散する,ディスプレイ装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願発明は,OLEDディスプレイスタック及び熱伝導層との間で,熱伝導層に隣接して配置されたポリマー層を有しているのに対して,
引用発明では,このようなポリマー層を有することは特定されていない点。

相違点2:
本願発明の「熱伝導層」は,約20マイクロメートルから500マイクロメートルの厚さを有するのに対して,
引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」の厚さは,特定されていない点。

相違点3:
本願発明は,基板の下に配置された複数の電子コンポーネントを備えており,当該複数の電子コンポーネントはOLEDディスプレイスタックから基板,熱伝導層及びポリマー層によって分離され,「熱伝導層」が当該複数の電子コンポーネントによって発生した熱を拡散するように構成されているのに対して,
引用発明では,このような配置の電子コンポーネントを備えることは特定されておらず,したがって,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」が拡散する「ディスプレイ装置内で発生した熱」がこのような配置の複数の電子コンポーネントによって発生した熱であるとはいえない点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 前記4(2)イで認定したように,引用文献2記載事項は「有機EL素子において,素子駆動中に発生する熱を放熱するための放熱層を基板と陽極の間に設ける場合,放熱層として導電性を有するものを用いるときには,前記陽極と前記放熱層間を絶縁するための絶縁層を,前記陽極と前記放熱層との間に設ける必要があること,及び,前記絶縁層の材質としては,ポリイミド樹脂を用いることができること。」であるところ,引用発明の「有機EL素子3A」,「支持基板10」,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」及び「陽極21」は,引用文献2記載事項における「有機EL素子」,「基板」,「放熱層」及び「陽極」にそれぞれ相当し,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」は導電性を有するアルミニウムから形成されているのだから,引用発明は,引用文献2記載事項が前提とする「素子駆動中に発生する熱を放熱するための放熱層を基板と陽極の間に設ける場合,放熱層として導電性を有するものを用い」た「有機EL素子」を,画素として用いたものである。
そうすると,引用発明において,「陽極21」と「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」間を絶縁するための絶縁層を,当該「陽極21」と当該「アルミニウム層63b」との間に設ける必要があること,及び,当該絶縁層の材質としてポリイミド樹脂を用いることができることは,引用文献2記載事項に基づいて,当業者が容易に理解できることというほかない。

イ また,そもそも,引用発明において,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」上に直接陽極21を形成したのでは,前記アルミニウム層63bが陽極21と導通してしまい,外部と短絡してしまうおそれがあり,これに対する対策をとる必要があることは,たとえ引用文献1に記載や示唆がなくとも,当業者に自明な事項である。
そうすると,技術的観点からみて,引用発明を実施するに際して,引用文献2記載事項における陽極と放熱層間に係る絶縁構造を採用することには,動機付けがあるといえる。

ウ 前記ア及びイに照らせば,引用発明において,引用文献2記載事項を適用して,「陽極21」と「アルミニウム層63b」との間にポリイミド樹脂からなる絶縁層を設けること,すなわち,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明において,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」の厚さを如何ほどに設定するのかは,引用発明において当該アルミニウム層63bに要求される熱伝達能力や表示装置の厚さ等を総合的に考慮して当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎない。
しかるに,前記4(3)イで認定したように,引用文献3には「できるだけ薄くすることが要求されるOLEDディスプレイにおいて,OLEDディスプレイ内の熱分布を均一にすることでOLEDディスプレイ内部での発熱に起因する局所的な老化を減らすために,基板の外面に設けられる熱伝導性背面プレートとしては,300μmの金属プレートを用いるとよい結果が得られること。」(引用文献3記載事項)が記載されているところ,当該引用文献3記載事項を参考にして,引用発明の「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」の厚さを300μm程度に設定すること,すなわち,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(3)相違点3について
ア 前記4(4)ウで認定したように,引用文献4又は5には,「データ信号を表示パネルの画素に供給する複数のデータ駆動部が前記表示パネルの背面に配置され,走査信号を前記表示パネルの画素に供給する複数の走査駆動部が前記表示パネルの前面に配置され,前記複数のデータ駆動部及び前記複数の走査駆動部を制御する一つのタイミング制御部が前記表示パネルの背面に配置された有機EL表示装置において,前記表示パネルの背面と,前記複数のデータ駆動部及び前記タイミング制御部との間の位置に,耐熱伝導板を設けることによって,熱を効果的に分散させることができる経路が形成され,耐熱特性が改善されること。」(引用文献4又は5記載事項)が記載されていたと認められる。
引用発明は,有機EL素子3Aを画素として用いたドットマトリックス表示装置であるところ,当該ドットマトリックス表示装置に画像を表示させるためには,各画素にデータ信号を供給する「データ駆動部」,各画素に走査信号を供給する「走査駆動部」及びデータ駆動部と走査駆動部を制御する「タイミング制御部」が必要であることは,たとえ引用文献1に記載や示唆がなくとも,当業者に自明の事項であるから,引用発明において,前記引用文献4又は5記載事項を適用し,「複数のデータ駆動部」及び「タイミング制御部」を表示パネルの背面である「放熱層63」上に配置し,「複数の走査駆動部」を表示パネルの前面に配置することは,当業者が容易になし得たことである。

イ 本願の請求項3は,請求項1の記載を間接的に引用する形式で記載されたものであり,かつ,「前記複数の電子コンポーネントが,プロセッサ,GPU,送信機,バッテリ,ディスプレイドライバ,又はこれらのいずれかの組合せを含む」と記載されているところ,本願発明の発明特定事項である「複数の電子コンポーネント」が,画素にデータ信号を供給する「データ駆動部」やデータ駆動部と走査駆動部を制御する「タイミング制御部」を包含する概念であることは明らかである。そうすると,前記(1)ウで述べた構成の変更及び前記アで述べた構成の変更を行った引用発明においては,「放熱層63」上に「複数の電子コンポーネント(複数のデータ駆動部及びタイミング制御部)」が配置され,当該「複数の電子コンポーネント」が,「OLEDスタック(発光機能部20)」から「基板(支持基板10)」,「熱伝導層(放熱層63)」及び「ポリマー層(ポリイミド樹脂からなる絶縁層)」によって分離されることとなる。
また,前記(1)ウで述べた構成の変更及び前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,「複数の電子コンポーネント」によって発生した熱が,「放熱層63」ばかりでなく,「支持基板10の発光機能部側の主面に設けられたアルミニウム層63b」にも伝わり,当該「アルミニウム層63b」によって拡散されることは,自然法則から明らかである。なお,このことは,前記4(1)ア(ウ)で摘記した引用文献1の記載(【0132】ないし【0146】)や前記4(1)ア(エ)に示した図8に示された検証実験において,実施試験例1ないし3(実施試験例3が引用発明に対応する構造を有するものである。)における温度分布が完全に均一になっていないことからも確認できることである。
以上によれば,前記(1)ウで述べた構成の変更及び前記アで述べた構成の変更を行った引用発明は,相違点3に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 前記ア及びイのとおりであるから,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献4又は5記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
本願発明が有する効果は,当業者が予測できた程度のものである。


7 むすび
本願の請求項1に係る発明は,引用発明,引用文献2記載事項,引用文献3記載事項及び引用文献4又は5記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-03 
結審通知日 2017-10-10 
審決日 2017-10-23 
出願番号 特願2014-533692(P2014-533692)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
発明の名称 組み込み式の熱拡散  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 那須 威夫  

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