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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1338058
審判番号 不服2016-12019  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-09 
確定日 2018-03-09 
事件の表示 特願2014-556536「複合ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月22日国際公開、WO2013/122650、平成27年 3月 5日国内公表、特表2015-507058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成24年11月29日(パリ条約に基づく優先権主張:2012年2月14日、米国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成26年 7月18日 国内書面(願書翻訳文)
平成26年 9月 9日 翻訳文提出(明細書等)
同日 出願審査請求
平成27年 6月 4日付け 拒絶理由通知
平成27年12月 1日 意見書・手続補正書
平成28年 4月12日付け 拒絶査定
平成28年 8月 9日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成28年 8月16日付け 審査前置移管
平成28年 9月 5日付け 前置報告書
平成28年 9月 9日付け 審査前置解除
平成28年11月17日 上申書

第2 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成27年6月4日付け拒絶理由通知書で概略以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって平成28年4月12日付けで下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理由

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(中略)・・

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・理由 1(1)、2(1)
・請求項 1-18
・引用文献 1
・備考
・・(中略)・・
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明と同一ないし該文献に基いて当業者が容易になし得るものである。

・理由 1(2)、2(2)
・請求項 1-18
・引用文献 2
・備考
・・(中略)・・
よって、本願発明は、引用文献2に記載された発明と同一ないし該文献に基いて当業者が容易になし得るものである。
・・(中略)・・
<引用文献等一覧>

1.特開2011-93990号公報
2.特開2010-89483号公報」

<拒絶査定>
「この出願については、平成27年 6月 4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(同法同条第2項)について
(1)
・請求項 1-18
・引用文献 1
(2)
・請求項 1-18
・引用文献 2
・備考
・・(中略)・・
よって、出願人の主張は採用することができず、拒絶理由通知書に記載した理由1、2は依然として解消しない。

<引用文献等一覧>

1.特開2011-93990号公報
2.特開2010-89483号公報」

第3 当審の判断
当審は、平成28年8月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、依然として、特許法第29条の規定に違反し、特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.本願特許請求の範囲に記載された事項
上記手続補正書により補正された本願の特許請求の範囲には、その請求項1ないし6に項分け記載された「組成物」に関する事項が記載されている。
そのうち、請求項1には、以下の事項が記載されている。
「10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む組成物であって、
該繊維は、組成物全体に実質的にばらけた形態で分散しており、熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度は、分散試験によって決定される場合、90%に等しいかまたはそれよりも大きい、上記組成物。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

II.各引用文献に記載された事項
なお、以下の各文献の摘示において、下線は当審が付した。

1.引用文献1(特開2011-93990号公報)
上記原査定で引用された引用文献1(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ式密閉型混練装置に備えられた撹拌室内部で、少なくとも熱可塑性樹脂と非フィブリル化繊維状セルロースとを、回転軸に配設された回転羽根の高速回転により溶融混練するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、該バッチ式密閉型混練装置が、該撹拌室内部の非フィブリル化繊維状セルロースから発生する水蒸気の過剰分を外部へ解放する水蒸気の解放機構を有しており、かつ、該回転羽根が配設された該回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に、溶融混練を終了し、被混練物を取り出すことを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
非フィブリル化繊維状セルロースの含水率が、30?90質量%である請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との乾燥状態での質量比が10/90?70/30である請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂。
【請求項5】
請求項4記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を射出成形してなるセルロース含有熱可塑性樹脂成形体。
【請求項6】
請求項4記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を押出成形してなるセルロース含有熱可塑性樹脂成形体。」

(1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、非フィブリル化繊維状セルロースを含有したセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、その製造方法で製造したセルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体に関するものである。」

(1c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、繊維状セルロースとしてナノセルロースに限定されることなく、十分に特性の不均一を解消した、肉厚の薄い成形体も作製できるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供することにある。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0010】
上記の本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法によれば、繊維状セルロースとして、ミクロフィブリル化したナノセルロースを用いなくても、均一な特性のセルロース含有熱可塑性樹脂を得ることができる。さらに、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を用いれば、肉厚の薄い成形体を得ることができる。そのため、複雑な形状の成形体を得ることができる。」

(1d)
「【0012】
本発明における非フィブリル化繊維状セルロースとは、その形状が繊維状であり、植物細胞壁を原料とするものであれば特に制限されない。例えば、具体的には、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹等の天然セルロースを主成分とするパルプが使用される。パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプ等)、化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプ等)等であってもよい。本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂あるいはその成形体の外観を良好とするためには、化学的に漂白されたクラフトパルプ(N-BKP、L-BKP等)が好ましく用いられる。非フィブリル化繊維状セルロースは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、非フィブリル化繊維状セルロースは、脱脂処理等の精製処理が施された繊維(例えば、脱脂綿等)であってもよい。本発明で用いられる非フィブリル化繊維状セルロースは、粒状、粉状ではなく、繊維状すなわち糸状であることが必要であり、アスペクト比(長さ/直径)が5より大きく、500より小さいものが好ましい。さらに好ましくは、アスペクト比(長さ/直径)が10より大きく、500より小さい非フィブリル化繊維状セルロースである。」

(1e)
「【0014】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度または融点まで加熱されることによって軟化し、目的の形に成形できる樹脂のことであり、例えば、具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンからなるポリエチレン類、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等からなるポリエステル樹脂類等を挙げることができるが、熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではない。
【0015】
さらに、熱可塑性樹脂として、生分解性樹脂を用いることもできる。生分解性樹脂を用いることにより、廃棄の際、成形品を土中に埋設等することにより該成形品が微生物により分解されることが期待される。生分解性樹脂としては、環境的に分解される樹脂、特に微生物の作用により分解される樹脂であれば特に制限されない。例えば、具体的には、高分子多糖類、微生物ポリエステル、脂肪族ポリエステル等が挙げられ、より具体的には、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネートカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリヒドロキシアルカノート(例えば、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)(PHV))、ラクトン樹脂、低分子量脂肪族ジカルボン酸と低分子量脂肪族ジオールから得られるポリエステル樹脂、酢酸セルロース系等の複合体、変性デンプン-変性ポリビニルアルコール複合体、その他の複合体を挙げることができるが、生分解性樹脂であれば特に制限されるものではない。」

(1f)
「【0017】
本発明において、バッチ式密閉型混練装置の撹拌室内に非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とを投入する際、繊維状セルロースの含水率が、30?90質量%であることが好ましく、30?80質量%がより好ましく、35?70質量%がさらに好ましい。本発明における含水率とは、乾燥温度を120℃±2℃として、JIS P8203に則った操作方法で求めた絶乾率を、100質量%から除した数値をいう。非フィブリル化繊維状セルロースの含水率が前記範囲にあると、非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との親和性が増し、非フィブリル化繊維状セルロースの熱可塑性樹脂マトリックス中での分散性が良化し、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の均一性が向上して、結果的にその成形体の強度がより向上する。」

(1g)
「【0029】
本発明において、非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂以外に各種添加剤を適宜加えることができる。添加剤としては、相溶化剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、透明核剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤等の添加剤を、単独または2種類以上併せて使用することができるが、これらに限定されるわけではない。特に、有機系酸化防止剤、有機系紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤を添加することにより、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の用途が広がるために好ましい。有機系酸化防止剤の例としては、フェノール系、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系およびホスファイト系のものが挙げられる。」

(1h)
「【0031】
本発明において、非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90?70/30であることが好ましく、20/80?60/40がより好ましく、40/60?60/40がさらに好ましい。非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との質量比がこの範囲にあると、反応後、撹拌室より取り出されたセルロース含有熱可塑性樹脂がフレーク状小片であり、次工程である成形工程での取り扱いが容易となる。また、非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との質量比がこの範囲にあると、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂でできた成形品を焼却した際に発生する燃焼熱量が少なくてすむ。
・・(中略)・・
【0036】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂では、繊維状セルロースが非常に均一に熱可塑性樹脂中に分散されているため、一度成形された成形体を再度粉砕してから溶融成形する際の混練時間が短くてすむ。そのため、含有されている繊維状セルロースの熱によるダメージが少ないため成形材料として再利用することができる。」

(1i)
「【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
非フィブリル化繊維状セルロースとして、広葉樹晒クラフトパルプ(L-BKP)のウェットパルプシートを用意し、固形分濃度が25質量%となるように調製して、離解機に投入して離解した後、脱水して、含水率60質量%である非フィブリル化繊維状セルロースを作製した。非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)とを質量比で50:50となるように調製し、バッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。その後、回転数1500rpm(回転羽根先端の周速で26m/秒相当)で回転羽根を回転させた。回転開始と同時に解放機構部より水蒸気が漏洩しだした。およそ5分後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから20秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。この間、解放機構部より水蒸気は漏洩していた上、撹拌室の内部圧力は一定値を保持せず減少傾向を示した。モーターのスイッチを切った時点の撹拌室内部の温度は380℃であった。完全に回転羽根の回転が停止した後、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を取り出した。なお、得られた本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、全体的にフレーク状の小片であり、その小片が固まった塊はその中には見られなかった。
・・(中略)・・
【0041】
(実施例4)
非フィブリル化繊維状セルロースを針葉樹晒クラフトパルプ(N-BKP)のウェットパルプシートに変更した以外は、実施例3と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、得られた本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、全体的にフレーク状の小片であり、その小片が固まった塊はその中には見られなかった。
【0042】
(実施例5)
非フィブリル化繊維状セルロースを広葉樹のケミグランドパルプ(CGP)のウェットパルプシートに変更した以外は、実施例3と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、得られた本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、全体的にフレーク状の小片であり、その小片が固まった塊はその中には見られなかった。
【0043】
(実施例6)
バッチ式密閉型混練装置に投入した配合を、非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、商品名:モディック(登録商標)P928)=50/45/5に変更した以外は実施例3と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、得られた本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、全体的にフレーク状の小片であり、その小片が固まった塊はその中には見られなかった。
・・(中略)・・
【0068】
(比較例1)
バッチ式密閉型混練装置を、ヘンシェルミキサー(登録商標)に変更した以外は、実施例2と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、回転羽根の回転開始と同時にヘンシェルミキサー(登録商標)より蒸気が漏れだし、溶融混練作業中継続して水蒸気は漏洩し続け、その際、撹拌室内部の圧力は常圧である0.1MPaを示した。
【0069】
(比較例2)
回転トルクが最大値を示した後、低下しだし最小値に達する直前に溶融混練を終了した以外は実施例3と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0070】
(比較例3)
回転トルクが最小値を示してから20分後に溶融混練を終了した以外は実施例3と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、溶融混練終了直前の撹拌室内部の温度は480℃であった。
【0071】
(比較例4)
回転トルクが最大値となってから低下し始めたところで溶融混練を終了した以外は実施例3と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0072】
(比較例5)
回転トルクが最大値となってから低下し始め、最大値の50%となった時点で溶融混練
を終了した以外は実施例3と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0073】
(精密成形性)
寸法精度が良好なものほど細かな形状を成形したときに変形等が起こりにくく精密成形性が良好である。そこで、線膨張係数の横/縦比(異方性)をもって寸法精度、すなわち精密成形性の尺度とした。数値は小さいほど精密成形性が良好である。測定は、ASTM D696に則って行った(昇温速度:2℃/分、温度範囲:23?80℃、測定機:(株)パーキンエルマージャパン製、商品名:DMA7)。
【0074】
(反り)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×1mm)を射出成形した。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。作製した板を平らな台の上に置き持ち上がり量を測定した。測定は、四隅のうち1点を台と密着させた際に持ち上がり量が最も高い隅の持ち上がり量を測定した。持ち上がり量は小さい方が良好で、樹脂特性が均一なため反りが少ないと判断される。
【0075】
(曲げ弾性率)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いてJIS K7171に則り曲げ弾性率を測定した。数値は大きい方が曲げ弾性率が高い。
【0076】
(外観性)
実施例および比較例で得たセルロース含有熱可塑性樹脂を90℃に設定した乾燥機中で3時間乾燥した後、射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で厚み2mmのプレート(80mm×50mm)を20枚成形し、目視で外観を評価し、フローマークおよび表面荒れの発生がなく外観が良好なものの枚数をもって評価結果とした。数値は大きい方が良好である。
【0077】
(押出成形性)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて押出成形機で異形成形(アイ・ケー・ジー(株)製異形成形装置、金型形状:150mm×5mm)を行った。出来上がった成形品を長さ200mmに切断して、平らな平面上において成形品に反り、捻じれ等がないか確認する。押出成形性が良好なものは、金型から押し出されたときに自重により撓むこと、あるいは角が丸くなることがないため、反り、捻じれ等が発生しない。反り、捻じれ等がないものを○、わずかでも発生したものを×とした。
【0078】
評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】


【0080】
表1より明らかなように、実施例は、比較例と比べて、精密成形性、反り、曲げ弾性率、外観性、押出成形性の全ての評価項目において優れている。特に、精密成形性、曲げ弾性率が、実施例で作製した本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の方が比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂より優れていることから、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂では、繊維状セルロースが熱可塑性樹脂マトリックス中に均一に分散し、また、両者の親和性が良好であることがわかる。
【0081】
また、繊維状セルロース/熱可塑性樹脂の比率が同じである実施例7、8、9、10(非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂=50/50)と実施例11、15、19、23、27(非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂=7/93)と実施例12、16、20、24、28(非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂=10/90)と実施例13、17、21、25、29(非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂=70/30)と実施例14、18、22、26、30(非フィブリル化繊維状セルロース/熱可塑性樹脂=74/26)のそれぞれの組み合わせの中で、曲げ弾性率を比較すると、繊維状セルロースの含水率が30?90質量%の範囲にあると、曲げ弾性率がより向上することがわかる。
【0082】
実施例において、繊維状セルロース/熱可塑性樹脂の比率が10/90より繊維状セルロースが少ないと、精密成形性が若干大きく出る傾向があること、また、70/30より繊維状セルロースが多いと、曲げ弾性率が若干低下する傾向があることがわかる。また、繊維状セルロース/熱可塑性樹脂との比率が10/90?70/30の範囲にあるものでは、得られたセルロース含有熱可塑性樹脂中に、小片が固まった塊が発生していなかったが、該比率がこの範囲以外のものでは、小片の固まった塊が発生した。塊は、次工程である成形工程において、大きな障害となるほどのものではなかったが、発生しない方が好ましい。故に、本発明において、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との比率は10/90?70/30がより好ましいことがわかる。」

2.引用文献2(特開2010-89483号公報)
上記原査定で引用された引用文献2(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的手段でセルロース集合体を解繊する工程、
混合機に解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌することで、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる混合物を得る工程、
前記混合物を、加温装置を備えた混練手段に供給して混練する工程であり、前工程の混合時の温度よりも50℃を超える温度まで低下させることなく混練する工程、
を有している、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項3】
機械的手段でセルロース集合体を解繊する工程、
混合機に解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌することで、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる混合物を得る工程、
前記混合物を押出成形機にて溶融混練し、60?200メッシュ(JIS Z8801及びISO 3310)のメッシュ部を通過させた後、押し出す工程を有している、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記機械的手段でセルロース集合体を解繊する工程が、攪拌手段として回転羽根を有するミキサー中にセルロース繊維集合体を入れ、高速攪拌することにより、前記セルロース繊維集合体を解繊する工程である、請求項1?3のいずれか1項記載の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項記載の製造方法により得られたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物から得られた樹脂成形体であり、下記要件(a)及び(b)を満たす樹脂成形体。
(a)前記組成物から射出成形して得られた厚さ3mmの樹脂成形体の表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が5個/500cm^(2)以下であること。
(b)前記組成物7gから得られた厚さ100?800μmのプレス成形体に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が20個/7g以下であること。
【請求項12】
密度が0.4?1.3g/cm^(3)である、請求項11記載の樹脂成形体。」

(2b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法と、前記方法で得られた組成物からなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の機械的強度を高めるため、ガラス繊維等の無機繊維を配合したものが汎用されている(特許文献1?4)。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要があるため、無機繊維を使用しない樹脂成形体が求められている。
・・(中略)・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献5に記載の方法により得られた木粉含有コンパウンドからなる成形体は、焼却時に燃焼残渣を生じない点で優れているが、成形体は重く、機械的強度が充分ではない。
【0005】
木粉に代えてセルロース繊維を使用した場合、成形体の機械的強度を高めることができるが、セルロース繊維の解繊が充分でないと、成形体中にセルロースが均一に分散されず、成形体の機械的強度にむらが生じてしまい、実用できない。
【0006】
本願出願人は、先にセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物に関する発明を出願している(特許文献6)。前記組成物から得られた樹脂成形体は、セルロース繊維の分散性が良いため、成形品外観が美しく、機械的強度も優れているものである。
【0007】
特許文献6の発明は、セルロース繊維集合体を解繊する第1工程、解繊されたセルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る第2工程、前記混合物を冷却しながら低速攪拌する第3工程を有しています。そして、押出成形機に供給できる形態にするため、第2工程から第3工程に移行するときに冷却して造粒する操作が必要となる。実施例では、第2工程から第3工程に移行するとき、80℃に冷却して造粒物を得た後、押出機に供給して、190℃で押出成形している。よって、一旦80℃まで冷却したものを190℃まで加温しなければならず、エネルギー損失が大きく、生産効率も悪いという点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、セルロース繊維集合体を解繊して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂が均一に混合されたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を得る製造方法を提供するものであり、製造時に要するエネルギー量を低減することができ、生産効率も高く、更にセルロース繊維の分散性をより高めることで、より美しい外観を有する成形体が得られる製造方法を提供することを課題とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロース繊維含有組成物の製造方法によれば、エネルギー消費量を低減させることができ、効率的に連続的に解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂の混合物を得ることができる。このため、セルロース繊維含有組成物を用いて成形する場合には成形性も良く、得られた樹脂成形体中には、セルロース繊維が均一に分散され、軽量で機械的強度が高い。」

(2c)
「【0044】
第1工程(第1a、第1b、第1c、第1d工程)で用いるセルロース繊維集合体は、多数のセルロース繊維が結合一体化されたものであり、天然物でも工業製品でもよく、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等の集合体を用いることができる。
【0045】
セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0046】
セルロース繊維集合体としては、パルプシート又はその切断物が好ましい。パルプシート又はその切断物の厚み、形状、大きさは特に制限されず、ミキサーへの投入作業や攪拌作業が円滑にできる範囲で選択することができる。
【0047】
セルロース繊維集合体がシートの場合は、例えば、厚さが0.1?5mm、好ましくは1?3mmで、幅1?50cmで、長さ3?100cm程度のものを用いることができる。
【0048】
セルロース繊維集合体がシートの切断物の場合は、例えば、厚さが0.1?5mm、好ましくは1?3mmで、幅2mm?1cmで、長さ3mm?3cm程度の短冊状のもの、又は一辺が2mm?1cm程度の四角形状のものが好ましい。」

(2d)
「【0051】
(2)第2工程
第2工程は、混合機に解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌することで、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる混合物を得る工程である。
【0052】
第2工程では、混合機として、攪拌手段として回転羽根を有するミキサーを使用する方法(第2a工程)、加温手段を備えた混練手段を使用する方法(第2b工程)を適用することができる。
【0053】
(第2a工程)
第2a工程では、攪拌手段として回転羽根を有するミキサーを使用し、前記ミキサーに解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌することで、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させ、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる混合物を得る。この第2a工程では、攪拌手段として回転羽根を有するミキサーを使用するため、前記混合物は、解繊されたセルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物になっている。
・・(中略)・・
【0055】
この状態で撹拌を継続した場合、再び動力が上昇するので、連結する次の第3工程で使用する冷却ミキサーに混合物を排出する。このとき、この混合物では、解繊されたセルロース繊維が熱可塑性樹脂中にほぼ均一に付着している。
【0056】
第2a工程では、ミキサー内の昇温を補助して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物の製造を容易にするため、加温手段により、ミキサーを加温することもできる。このときの温度は120?200℃程度が好ましい。
【0057】
(第2b工程)
第2b工程では、加温手段を備えた混練手段(上記の回転羽根を有するミキサーは除く)を使用し、前記混練手段に解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて加温しながら攪拌することで、前記熱可塑性樹脂を溶融させ、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる混合物を得る。この第2b工程では、加温手段を備えた混練手段を用いるため、前記混合物は、解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂が互いに分散した混合物となり、第2a工程のように、解繊されたセルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物にはならない。
【0058】
第2b工程で使用する加温手段を備えた混練手段としては、第1d工程で使用したものを同じものを挙げることができる。
【0059】
第2工程(第2a工程又は第2b工程)で用いる熱可塑性樹脂としては、融点230℃以下の結晶性樹脂及び非晶性樹脂から選ばれるものを用いることができる。
【0060】
融点230℃以下の結晶性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド6、11、12、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、生分解性樹脂〔PBS(ポリブチレンサクシネート)系、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)系、PCL(ポリカプロラクトン)系、PLA(ポリ乳酸)系、セルロースアセテート系〕等が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
・・(中略)・・
【0062】
第2工程(第2a工程又は第2b工程)で用いるセルロース繊維と熱可塑性樹脂の総量は、ミキサーの容量等に応じて設定する。セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維5?500質量部が好ましく、より好ましくは7?450質量部、更に好ましくは10?400質量部である。
【0063】
特に、セルロース繊維の配合比率を多くする場合、例えば、樹脂100質量部に対しセルロース繊維を67質量部超えて配合する場合は、熱可塑性樹脂として粘度が低いものを用いることが望ましい。
【0064】
例えば、ポリプロピレンを用いる場合、そのメルトフローレートは、温度230℃、荷重21.6Nの条件下、20?200g/10分のものが好ましく、ポリエチレンを用いる場合、そのメルトフローレートは、温度190℃、荷重21.6Nの条件下、10?200g/10分のものが好ましい。
【0065】
また例えば、ABS樹脂を用いる場合、そのメルトフローレートは、温度220℃、荷重100Nの条件下、10?200g/10分のものが好ましく、ポリスチレンを用いる場合、温度200℃、荷重50Nの条件下、5?100g/10分のものが好ましい。」

(2e)
「【0066】
(3)第3工程
第3工程は、第2工程(第2a工程又は第2b工程)で得られた混合物を、加温装置を備えた混練手段に供給して混練する工程であり、前工程の混合時の温度よりも20℃を超える温度まで低下させることなく混練する工程である。
【0067】
第3工程は、第2工程における混合時の温度を積極的に低下させることなく、即ち冷却することなく混練することを目的とする工程である。このため、第2工程から第3工程への移行時、即ち、第2工程で用いるミキサーから、第3工程で用いる加温手段を備えた混練手段に混合物を移し替えるときの自然冷却等による温度低下を除いて、冷却することはしない。
【0068】
第3工程では、第2工程の混合時の温度よりも20℃を超える温度まで低下させることなく(第2工程の混合温度が120℃であると、第3工程の混合温度は100℃未満にはしない。)、好ましくは15℃、より好ましくは10℃、更に好ましくは5℃を超える温度まで低下させることなく混合する。
【0069】
加温手段を備えた混練手段としては、第1d工程で使用したものを同じものを挙げることができる。」

(2f)
「【0076】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、本発明の製造方法により得られたセルロース繊維含有組成物の固化物(造粒物)を用い、押出機や射出成形機により、所望形状に成形して得ることができる。なお、前記固化物(造粒物)の粒径が不揃いである場合には、必要に応じて、成形前に粉砕して粒径を揃えることができる。
【0077】
本発明の樹脂成形体の製造に際しては、必要に応じて、セルロース繊維含有組成物の固化物(造粒物)に加えて、更に熱可塑性樹脂(成形体用の熱可塑性樹脂)を追加することができる。成形体用の熱可塑性樹脂としては、セルロース繊維含有組成物の製造に用いた樹脂のほか、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。成形体用の熱可塑性樹脂とセルロース繊維含有組成物の熱可塑性樹脂は同じもの又は相溶性のあるものを用いることが好ましいが、必要に応じて公知の相溶化剤を併用することで、相溶性のないものを用いてもよい。
【0078】
樹脂成形体の製造時には、必要に応じて、カーボンブラック、無機顔料、有機顔料、染料、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤、及び耐衝撃性改良用のエラストマー等を配合することができる。
【0079】
本発明の樹脂成形体は、成形材料となるセルロース繊維含有組成物が解繊機により解繊されたセルロース繊維を使用して製造されているため、樹脂成形体中に解繊されたセルロース繊維が均一に分散されている。このため、下記要件(a)及び(b)を満たす樹脂成形体を得ることができる。
(a)前記組成物から射出成形して得られた厚さ3mmの樹脂成形体の表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が5個/500cm^(2)以下(好ましくは3個/500cm^(2)以下)であること。
(b)前記組成物7gから得られた厚さ100?800μmのプレス成形体に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が20個/7g以下(好ましくは10個/7g以下)であること。」

(2g)
「【実施例】
【0090】
実施例1
(第1a工程)
ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量20L,品名ヘンシェルミキサーFM20C/I,三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、下記のセルロースシートを投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。約2分経過時点において、セルロース繊維品が綿状に変化した。
(セルロースシート)
日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径25μm,平均繊維長さ1.8mm,αセルロース含有量90%からなる、幅60cm、長さ80cm、厚み1.1mmのシートを、幅10cm、長さ20cmに切断したもの。
【0091】
(第2a工程)
引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPP(酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業(株)製 ユーメックス1010)を投入し攪拌を続けた。
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。
【0092】
(第3工程)
低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時ミキサー内の温度は、175℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、溶融状態の塊状混練物を、185℃、50rpmに設定したフィーダールーダー(モリヤマ製のMS式2軸テーパースクリューとスクリュー押出機を組み合わせた押出機)に投入し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は15分10秒であった。
・・(中略)・・
【0096】
実施例3
(第1c工程)
解繊機(ターボ工業株式会社;ターボミル T-250)内に実施例1と同じセルロースシートを投入し、解繊した。目視上は、きれいに完全に解繊されていることを確認した。運転条件は8300rpm、処理能力は約20kg/hであった。
【0097】
(第2a工程)
引き続き、ヒーターミキサー内に解繊したセルロースとポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。
【0098】
(第3工程)
低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時、ミキサー内の温度は、178℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定でメッシュを入れずに押出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分20秒であった。
【0099】
実施例4
実施例3の第2工程後、低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので、ミキサーの排出口をあけ、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定で60メッシュと20メッシュの金網を入れ、押出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分30秒であった。
【0100】
実施例5
(第1d工程及び第2b工程)
実施例1の第1a工程と同じセルロースシートを容量5Lの加圧型ニーダー(温度180℃に設定)に投入し、更に水200gを加えてシートを湿潤させた状態で、50rpmで5分間ブレードを回転させて解繊した。その後、引き続き50rpmでブレードを回転させながら、ポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した。
【0101】
(第3工程)
その後、加圧型ニーダーの排出口を開け、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定で押し出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット2.3kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分55秒であった。
【0102】
比較例1
(第1a工程)
ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量20L,品名ヘンシェルミキサーFM20C/I,三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、下記のセルロースシートを投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。約2分経過時点において、セルロース繊維品が綿状に変化した。
(セルロースシート)
日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径25μm,平均繊維長さ1.8mm,αセルロース含有量90%からなる、幅60cm、長さ80cm、厚み1.1mmのシートを、幅10cm、長さ20cmに切断したもの。
【0103】
(第2a工程)
引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力が4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時、ミキサー内の温度は180℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、接続する冷却ミキサーに排出した。
冷却ミキサー(回転羽根:冷却用標準羽根、水冷手段(20℃)及び温度計付き、容量45L、品名クーラーミキサーFD20C/K、三井鉱山(株)製)を用い、平均周速10m/秒で攪拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で攪拌を終了した。
この処理により、セルロース繊維とポリプロピレンの混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度の造粒物が得られた。
【0104】
(第3工程)
得た造粒物を2軸押出機に投入し、溶融混練し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.6kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、21分10秒であった。
【0105】
実施例と比較例で得られた組成物を用いて成形体を製造し、下記の各試験を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(1)要件(a):成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm^(2))
実施例及び比較例の組成物を用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にてカラープレート(50mm×100mm×3mm)を10枚成形した。そのカラープレート10枚の片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、合計500cm^(2)中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数えた。
【0107】
(2)曲げ強さ(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0108】
(3)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0109】
(4)ペレット2kgを製造するに要した時間
各実施例及び比較例で得られたペレット量をXkgとし、その製造に要した時間(全工程で要した合計時間)をY分としたとき、2Y/Xから求めた。
【0110】
【表1】


【0111】
表1から明らかなとおり、本発明の製造方法を適用することにより、同量のペレットを得るために要する製造時間を短縮することができるため、消費エネルギーも減少させることができる。よって、製造量がトン単位となった場合の消費エネルギーの低減量は、非常に大きなものとなる。」

III.検討

1.各引用例に記載された発明

(1)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、「非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との乾燥状態での質量比が10/90?70/30である」「セルロース含有熱可塑性樹脂」が記載されており(摘示(1a)参照)、当該「非フィブリル化繊維状セルロース」は、「その形状が繊維状であり、」「例えば、具体的には、木材(針葉樹、広葉樹)・・等の天然セルロースを主成分とするパルプが使用される」とともに、「セルロース含有熱可塑性樹脂あるいはその成形体の外観を良好とするためには、化学的に漂白されたクラフトパルプ(N-BKP、L-BKP等)が好ましく用いられる」ことも記載されている(摘示(1d)【0012】参照)。
また、上記引用例1には、上記「セルロース含有熱可塑性樹脂」について、「繊維状セルロースが非常に均一に熱可塑性樹脂中に分散されている」ことも記載されている(摘示(1h)【0036】参照)。
してみると、上記引用例1には、上記(1a)ないし(1i)の記載事項からみて、
「非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とを乾燥状態での質量比で10/90?70/30の範囲で含むセルロース含有熱可塑性樹脂」
に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)引用例2に記載された発明
上記引用例2には、「解繊されたセルロース繊維と前記熱可塑性樹脂からなる・・セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」が記載されており(摘示(2a)【請求項1】及び【請求項3】参照)、当該「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」における「セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維・・好ましくは10?400質量部である」こと(摘示(2d)【0062】参照)も記載されている。
そして、引用例2には、上記「解繊されたセルロース繊維」は、「パルプシート又はその切断物」などの「木材繊維・・等の集合体」である「セルロース繊維集合体」が「第1工程」で解繊されたものであることが記載されており(摘示(2c)及び(2d)参照)、当該セルロース繊維集合体として、「NDP-T」なる商品名のサルファイト法クラフトパルプシート(必要ならば日本製紙グループの下記URLのホームページ参照。)を使用した実施例も記載されている(摘示(2g)参照)。
また、上記引用例2には、上記「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」について、「樹脂成形体中に解繊されたセルロース繊維が均一に分散されている・・ため」、セルロース繊維塊が一定以下に低減化されることも記載されている(摘示(2f)【0079】参照)。
してみると、上記引用例2には、上記(2a)ないし(2g)の記載事項からみて、
「解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂からなるセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物であって、セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)が熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維10?400質量部であるセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

参考ホームページURL:
http://www.nipponpapergroup.com/products/chemical/dp/sulfite.html

2.検討

(1)引用発明1に基づく検討

ア.対比
本願発明と上記引用発明1とを対比すると、引用発明1における「非フィブリル化繊維状セルロース」、「熱可塑性樹脂」及び「セルロース含有熱可塑性樹脂」は、それぞれ、本願発明における「繊維」、「熱可塑性ポリマー」及び「組成物」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明1とは、
「繊維と熱可塑性ポリマーとを含む組成物」
の点で一致し、以下の2点で一応相違するものと認められる。

相違点1:本願発明では、繊維と熱可塑性ポリマー(樹脂)との量比につき「10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む」のに対して、引用発明1では、「非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とを乾燥状態での質量比で10/90?70/30の範囲で含む」点
相違点2:本願発明では、「繊維は、組成物全体に実質的にばらけた形態で分散しており、熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度は、分散試験によって決定される場合、90%に等しいかまたはそれよりも大きい」のに対して、引用発明1では、「熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度」につき特定されていない点
相違点3:「繊維」につき、本願発明では、「木材パルプ繊維」であるのに対して、引用発明1では「非フィブリル化繊維状セルロース」である点

イ.各相違点に係る検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、上記引用例1の実施例1ないし5(摘示(1i)参照)に見られるとおり、非フィブリル化繊維状セルロース及び熱可塑性ポリマーのみからなる態様が記載されているから、引用発明1における非フィブリル化繊維状セルロース及び熱可塑性ポリマーの質量比率は、組成物全体に対する各成分の質量比率に換算できるところ、引用発明1における「非フィブリル化繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とを乾燥状態での質量比で10/90?70/30の範囲で含む」は、「非フィブリル化繊維状セルロース」の「10?70質量%」と「熱可塑性樹脂」の「30?90質量%」を含むことを意味するから、本願発明における「10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む」との含有量範囲と大部分で重複して包含されているものといえる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願発明において、上記含有量範囲とした点に何らかの技術的意義又は臨界的意義が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明1において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、引用例1には、引用発明1の「樹脂」において、「繊維状セルロースが非常に均一に熱可塑性樹脂中に分散されている」ことが記載されている(摘示(1h)【0036】)から、引用発明1の「樹脂」においても、本願発明でいう「熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度」が90%以上となっている蓋然性が高いものと認められる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明の「組成物」の製造方法につき、引用例1に記載された引用発明1の「セルロース含有熱可塑性樹脂」の製造方法との間で、製造条件等に係る実質的な差異が存するものとは認められないから、本願発明の「組成物」と引用発明1の「セルロース含有熱可塑性樹脂」との間で、繊維の分散度又は物性等が異なるであろうと当業者が認識できるような技術的要因が存するものとも認められない。
さらに、仮に相違しているとしても、上記のとおり、引用例1には、引用発明1の「樹脂」において、「繊維状セルロースが非常に均一に熱可塑性樹脂中に分散されている」ことが記載されているから、その非常に均一な分散性につき、平均分散度を用いてその下限値を90%と規定することは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明1において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(ウ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、引用例1には、「非フィブリル化繊維状セルロース」は、「その形状が繊維状であり、」「例えば、具体的には、木材(針葉樹、広葉樹)・・等の天然セルロースを主成分とするパルプが使用される」とともに、「セルロース含有熱可塑性樹脂あるいはその成形体の外観を良好とするためには、化学的に漂白されたクラフトパルプ(N-BKP、L-BKP等)が好ましく用いられる」ことが記載されている(摘示(1d)【0012】参照)のであるから、引用発明1における「非フィブリル化繊維状セルロース」につき「木材パルプ繊維」と表現した点に格別な技術的創意はなく、実質的な相違点であるとはいえないか、仮に相違点であったとしても、引用例1における「非フィブリル化繊維状セルロース」として「木材パルプ繊維」を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点3は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明1において、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)本願発明の効果について
本願発明の効果につき本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても、本願発明が、例えば引用発明1のような従来技術に比して、有意な効果を奏することを当業者が認識することができる記載又は示唆が存するものとは認められない。
してみると、本願発明が、引用発明1に比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

ウ.小括
したがって、本願発明は、引用発明1と同一であるか、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用発明2に基づく検討

ア.対比
本願発明と上記引用発明2とを対比すると、引用発明2における「解繊されたセルロース繊維」、「熱可塑性樹脂」及び「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」は、それぞれ、本願発明における「繊維」、「熱可塑性ポリマー」及び「組成物」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明2とは、
「繊維と熱可塑性ポリマーとを含む組成物」
の点で一致し、以下の2点で一応相違するものと認められる。

相違点4:本願発明では、繊維と熱可塑性ポリマー(樹脂)との量比につき「10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む」のに対して、引用発明2では、「セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)が熱可塑性樹脂100質量部に対して、繊維10?400質量部である」点
相違点5:本願発明では、「繊維は、組成物全体に実質的にばらけた形態で分散しており、熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度は、分散試験によって決定される場合、90%に等しいかまたはそれよりも大きい」のに対して、引用発明2では、「熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度」につき特定されていない点
相違点6:「繊維」につき、本願発明では、「木材パルプ繊維」であるのに対して、引用発明2では「解繊されたセルロース繊維」である点

イ.各相違点に係る検討

(ア)相違点4について
上記相違点4につき検討すると、上記引用例2の実施例1ないし5(摘示(2g)参照)に見られるとおり、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂のみからなる態様が記載されているから、引用発明2におけるセルロース繊維及び熱可塑性樹脂の質量比率は、組成物全体に対する各成分の質量比率に換算できるところ、引用発明2における「セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)が熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維10?400質量部である」は、「セルロース繊維」の「9?80質量%」と「熱可塑性樹脂」の「20?91質量%」を含むことを意味するから、本願発明における「10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む」との含有量範囲と大部分で重複して包含されているものといえる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願発明において、上記含有量範囲とした点に何らかの技術的意義又は臨界的意義が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点4は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明2において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(イ)相違点5について
上記相違点5につき検討すると、引用例2には、引用発明2の「樹脂組成物」において、「樹脂成形体中に解繊されたセルロース繊維が均一に分散されている・・ため、」セルロース繊維塊が一定以下に低減化されることが記載されている(摘示(2f)【0079】参照)から、引用発明2の「樹脂組成物」においても、本願発明でいう「熱可塑性ポリマー組成物中の繊維の平均分散度」が90%以上となっている蓋然性が高いものと認められる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明の「組成物」の製造方法につき、引用例2に記載された引用発明2の「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」の製造方法との間で、製造条件等に係る実質的な差異が存するものとは認められないから、本願発明の「組成物」と引用発明2の「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物」との間で、繊維の分散度又は物性等が異なるであろうと当業者が認識できるような技術的要因が存するものとも認められない。
さらに、仮に相違しているとしても、上記のとおり、引用例2には、引用発明2の「樹脂組成物」において、当該樹脂組成物で形成される「樹脂成形体中に解繊されたセルロース繊維が均一に分散されている」ことが記載されているから、その均一な分散性につき、平均分散度を用いてその下限値を90%と規定することは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点5は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明2において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(ウ)相違点6について
上記相違点6につき検討すると、引用例2には、「解繊されたセルロース繊維」は、「パルプシート又はその切断物」などの「木材繊維・・等の集合体」である「セルロース繊維集合体」が「第1工程」で解繊されたものであることが記載されており(摘示(2c)及び(2d)参照)、当該セルロース繊維集合体として、「NDP-T」なる商品名のサルファイト法クラフトパルプシートを使用した実施例も記載されている(摘示(2g)参照)のであるから、引用発明2における「解繊されたセルロース繊維」につき「木材パルプ繊維」と表現した点に格別な技術的創意はなく、実質的な相違点であるとはいえないか、仮に相違点であったとしても、引用発明2における「解繊されたセルロース繊維」として「木材パルプ繊維」を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点6は、実質的な相違点であるとはいえないか、引用発明2において、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)本願発明の効果について
本願発明の効果につき本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても、本願発明が、例えば引用発明2のような従来技術に比して、格別な効果を奏することを当業者が認識することができる記載又は示唆が存するものとは認められない。
してみると、本願発明が、引用発明2に比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

ウ.小括
したがって、本願発明は、引用発明2と同一であるか、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものでないか、引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
したがって、本願は、請求項1に記載された事項で特定される発明が、特許法第29条の規定により、特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に係る発明につき更に検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-10 
結審通知日 2017-10-11 
審決日 2017-10-30 
出願番号 特願2014-556536(P2014-556536)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀谷 のぞみ  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 橋本 栄和
佐久 敬
発明の名称 複合ポリマー  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 充利  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  

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