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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
管理番号 1338070
審判番号 不服2016-9055  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-17 
確定日 2018-03-08 
事件の表示 特願2014-207409「自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月12日出願公開、特開2016-74072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成26年10月8日の出願であって、
平成27年9月15日に審査請求がなされ、
平成28年1月7日付けで拒絶理由通知(同年同月12日発送)がなされ、
これに対して同年2月19日に意見書が提出され、
同年3月30日付けで拒絶査定がなされた(謄本送達同年4月5日)。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成28年6月17日に審判請求がなされたものである。
その後、当審合議体より平成29年7月20日付けで拒絶理由通知がなされ、
これに対して同年9月15日付けで意見書が提出されると共に同日付で手続補正がなされたものである。


2.本願発明について

本願の請求項1に係る発明は、平成29年9月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次の事項により特定されるものである。(以下、「本願発明」という。)

「複数の工具を格納でき特定の位置に任意の工具を位置決め可能な刃物台と、前記刃物台を駆動させる刃物台駆動モータと、前記刃物台において特定の位置に割出された工具と主軸に装着された工具を交換する機構から構成された自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置において、
工具交換前における刃物台の工具交換位置の工具ポット番号と工具交換の指令コードから工具割出し時の刃物台駆動モータの移動量を推測する推測手段と、
工具割出し時の刃物台駆動モータの移動量を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した刃物台駆動モータ移動量が前記推測手段で推測した刃物台駆動モータ移動量から許容範囲を超えて異なる場合に異常を通知する異常通知手段
を有することを特徴とした自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置。」


3.引用文献及び引用発明

本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、平成29年7月20日付けの当審合議体が通知した拒絶理由において引用された、特開2010-99799号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている(摘記中の下線は理解を助けるため、当審にて付与した。)。

A「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工具を収納する工具マガジンと、保持ブレーキを有し且つ数値制御装置からの指令により工具マガジンを回動させるサーボモータとを有し、主軸に対して工具を交換する工具交換装置を備えた工作機械において、
前記工具交換装置は、前記サーボモータの回動位置を検出する回動位置検出手段を備え、
前記数値制御装置は、前記回動位置検出手段により検出した前記サーボモータの回動位置と、数値制御装置からサーボモータに指令した指令値に示される前記サーボモータの回動位置との偏差量が所定の閾値を超えたとき、前記サーボモータを減速制御しながら前記保持ブレーキを所定時間作動させ、前記所定時間経過後、前記サーボモータを非励磁状態に作動させることを特徴とする工作機械。」

B「【0008】
本発明の目的は、工具交換装置を備えた工作機械において、サーボモータにより回動させる工具マガジンの実際の回動位置と、工具マガジンの割出指定位置との偏差量が過大になったとき、工具マガジンの回動を緩やかに停止させることである。」

C「【0019】
次に、工具交換装置2について説明する。
図1、図2に示すように、工具交換装置2は、複数の工具を支持する工具マガジン10と、マガジンモータ55と、減速機15等を有する。工具マガジン10は、鍔付き円筒状のマガジンベース11と、マガジンベース11の外周に放射状に支持した複数のグリップアーム20を主体に構成してある。1対のフレーム6の前端部に固定したマガジン支持台(図示略)が、マガジン軸14に対してマガジンベース11を回動自在に支持している。
【0020】
図1、図2に示すように、マガジンベース11は、マガジン軸14が内挿される筒状のボス部13と、ボス部13の前端側に鍔状に設けた鍔部12とを主体に構成してある。
マガジン軸14の外周側に減速機15を配設してあり、減速機15の上側には、保持ブレーキ55b(図3参照)付きのマガジンモータ55を配設してある。このマガジンモータ55は、減速機15を介して工具マガジン10を回動させる。マガジンベース11の外周側には、14枚のカバー21が所要の中心角で周方向に配列した状態となり、14本のグリップアーム20を覆い隠すことができる。」

D「【0022】
次に、工作機械1の制御系の電気的構成について説明する。
図3に示すように、制御装置30は、マイクロコンピュータを含んで構成してあり、入力インターフェース34と、CPU31と、ROM32と、RAM33と、入出力インターフェース35とを備えている。入力インターフェース34はキーボード36と、主軸3AのZ軸における原点(Z軸原点)を検知するZ軸原点センサ37に接続している。入出力インターフェース35は、夫々駆動回路41?45を介してX軸モータ51、Y軸モータ52、Z軸モータ53、主軸モータ54、マガジンモータ55に接続している。
【0023】
X軸モータ51、Y軸モータ52は、夫々、テーブル(図示略)をX軸方向、Y軸方向に移動させるものである。Z軸モータ53は、主軸ヘッド3をZ軸方向に昇降駆動させるものである。マガジンモータ55は工具マガジン10を回動させる為のものである。主軸モータ54は、前記主軸3Aを回転させる為のものである。これらモータ51?55はサーボモータからなり、モータ51?55の回動位置を検出するエンコーダ51a?55aを夫々備えている。尚、マガジンモータ55が備えるエンコーダ55aが回動位置検出手段に相当する。
【0024】
駆動回路41?45は、CPU31からの移動指令量を受けて、この移動指令量に応じた駆動電流をモータ51?55に出力する。駆動回路41?45は、エンコーダ51a?55aから位置フィードバック信号を受けて、位置のフィードバック制御を行う。さらに、入出力インターフェース35は、CRT駆動回路46を介してディスプレイ56に接続している。
【0025】
CPU31は、エンコーダ55aが検出したマガジンモータ55の回動位置と、減速機15の変速比とに基づいて工具マガジン10の実際の回動位置(マガジン軸位置)を算出する。これと同様に、CPU31は、マガジン駆動回路45に対する移動指令量に示されたマガジンモータ55の回動位置と、減速機15の変速比とに基づいて工具マガジン10の回動位置(マガジン割出指定位置)を算出する。
【0026】
ROM32は、工作機械1の加工プログラムを機能させるメインの制御プログラム、図4に示す偏差量過大エラー検知制御の制御プログラム、図5に示すマガジン軸動作停止処理の制御プログラム、図7に示すマガジン軸動作停止後の復旧処理の制御プログラム等を記憶している。RAM33は、工具マガジン10の実際の回動位置と、工具マガジン10の割出指定位置との偏差量のオーバーフロー値である偏差カウンタオーバーフロー値、マガジン軸位置偏差量許容比率などを記憶している。
【0027】
尚、マガジン軸位置偏差量許容比率と偏差カウンタオーバーフロー値については、メーカー側が工作機械1の出荷前に予め設定してあり、このマガジン軸位置偏差量許容比率と偏差カウンタオーバーフロー値とに基づいて、後述する偏差量過大エラーに関する閾値を設定することができる。
【0028】
次に、制御装置30が実行する偏差量過大エラー検知制御について、図4、図5のフローチャートに基づいて説明する。尚、図中Si(i=1,2・・・)は各ステップを示す。
この偏差量過大エラー検知制御は、工具交換装置2による工具交換時に制御装置30が実行するものである。先ず、エンコーダ55aからマガジン駆動回路45に送信した回動位置検出信号、CPU31からマガジン駆動回路45に送信したマガジンモータ55の移動指令量、RAM33より偏差カウンタオーバーフロー値及びマガジン軸位置偏差量許容比率などの各種信号を読み込む(S1)。
【0029】
次に、マガジン軸14の位置偏差量を算出する(S2)。具体的には、マガジンモータ55における実際の回動位置と移動指令量に示される回動位置との差より算出する。偏差カウンタオーバーフロー値と、マガジン軸位置偏差量許容比率/100との乗算により偏差量過大エラーに関する閾値を算出し、マガジン軸位置偏差量が、この閾値よりも大きいか否かを判定する。閾値よりもマガジン軸位置偏差量の方が大きい場合(S3;Yes)、偏差量過大エラーによるアラームが発生したものと判定し(S4)、S5へ移行する。但し、閾値よりもマガジン軸位置偏差量の方が小さい場合又はマガジン軸位置偏差量が閾値と同じ値の場合は(S3;No)、S1へ移行する。」

(図面看取事項)
図1及び図2には、工作機械1に対して円形の工具マガジン10を回転させる工具交換装置2が取り付けられた様が見てとれる。当該円形に図示された工具マガジン10は、外周に沿って個別に区画された複数のカバー21が配列されており、工具交換装置2の内部断面を図示した図2には、工具マガジン10の中心に位置するマガジン軸14の端部に連結された部材を介してマガジンモータ55があることが見てとれる。

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「複数の工具を収納する工具マガジン10と、数値制御装置30からの指令により工具マガジン10を回動させ主軸3Aの位置へ指定の工具を位置させるサーボモータであるマガジンモータ55とを有し、主軸3Aに対して工具を交換する工具交換装置2を備えた工作機械1であって、
前記工具交換装置2は、前記マガジンモータ55の回動位置を検出する回動位置検出手段であるエンコーダ55aを備え、
前記数値制御装置は、前記回動位置検出手段55aにより検出した前記サーボモータの回動位置及び減速機15の変速比から算出した工具マガジン10の実際の回動位置であるマガジン軸位置と、数値制御装置30からマガジンモータ55に指令した移動指令量に示される前記サーボモータの回動位置と減速機15の変速比とに基づき算出した工具マガジンの回動位置であるマガジン割出指定位置との偏差量が所定の閾値を超えたとき、偏差量過大エラーによるアラーム発生として前記サーボモータを非励磁状態に作動させることを特徴とする工作機械。」

同じく平成29年7月20日付けの当審合議体が通知した拒絶理由において引用された、特開2006-326711号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている。
a「【0017】
この発明の一実施形態を図1ないし図9と共に説明する。図1は、制御対象となるチェンジャー付き加工設備の平面図である。この加工設備は、加工機であるパンチプレス1と、プリセッター2と、工具ホルダチェンジャー3と、ローダ4とを備える。パンチプレス1は、機内工具ホルダマガジン5を備え、個別工具8を搭載した複数の工具ホルダ7を、機内工具ホルダマガジン5に交換可能に装備するものである。工具ホルダチェンジャー3は、パンチプレス1およびプリセッター2にそれぞれ設けられた機内工具ホルダマガジン5および機外工具ホルダマガジン6の間で工具ホルダ7を自動交換する装置である。
【0018】
工具ホルダ7は、図3に示すように、平面形状が円形のタレットであり、一つまたは複数の個別工具8が搭載される。個別工具8は、工具ホルダ7に設けられた貫通孔等からなる工具支持部7a内に、交換自在に搭載される。個別工具8は、パンチ工具またはダイ工具である。」

b「【0021】
図1において、パンチプレス1は、工具割出機構として、マガジン割出部と工具ホルダ割出部(いずれも図示せず)とを有する。マガジン割出部は、機内工具ホルダマガジン5の任意の工具ホルダ保持部5aが所定のプレスヘッド位置Qに来るように機内工具ホルダマガジン5を旋回させる機構である。工具ホルダ割出部は、プレスヘッド位置Qにある工具ホルダ7を保持してその工具ホルダ中心回りに旋回させ、工具ホルダ7の任意の個別工具8を所定のパンチ位置Pに割出す機構である。
パンチ位置Pに割り出された個別工具8は、サーボモータ等のパンチ駆動原により、昇降自在なラムを介してパンチ加工のための昇降動作が与えられる。」

c「【0030】
加工プログラム36は、基本的には、一つの孔を加工する加工命令60を順次並べて記述したものとされる。加工命令60は、板材Wを移動させる移動命令60aと、工具割出命令60bとを1行に記述したものである。加工機制御装置31は、加工命令60を読み出すと、その移動命令60aで指定された各軸方向の位置へ板材Wを移動させ、工具割出命令60bで指定された個別工具8をパンチ位置Pに割出し、その割り出された個別工具8をパンチ動作させる一連の制御を行う。個別工具8のパンチ位置Pへの割出しは、機内工具ホルダマガジン5の旋回割出し過程と、工具ホルダ7の旋回割出し過程とを含む。同じ工具ホルダ7を続けて使用する場合は、工具ホルダマガジン5の旋回割出は不要であり、その動作は生じない。移動命令60aは、移動の軸方向X,Yを示す文字と移動量または座標値を示す文字、例えば「X-Y-」として示される。
【0031】
工具割出命令60bは、例えば「T0101」等のように、工具ホルダ7の識別番号「T01」に続いて、その工具ホルダ7におけるどの工具支持部7aであるかを指定する番号「01」を記述したものである。
【0032】
加工機制御装置31は、保有工具ホルダ記憶手段55を有していて、これに機内工具ホルダマガジン5の各工具ホルダ保持部5aのアドレス「M1,M2,…」と、そのアドレスの工具ホルダ保持部5aに保持されている工具ホルダ7の識別番号とを対応させた情報が記憶されている。保有工具ホルダ記憶手段55の記憶情報は、機内工具ホルダマガジン5の保持する工具ホルダ7が出入りする毎に、その出入りした工具ホルダ7の識別番号に対応した内容に適宜の手段で更新される。
【0033】
この工具割出命令60bに対して、加工機制御装置31は、保有工具ホルダ記憶手段55から機内工具ホルダマガジン5の工具ホルダ保持部5aのアドレス「M1,M2,…」を認識し、そのアドレスの工具ホルダ保持部5aをプレスヘッド位置Qに旋回割出する指令を出力する。
また、加工機制御装置31は、工具ホルダ7の工具支持部7aの原点位置からの位相角度の情報を、全ての工具ホルダ7につき、その識別番号「T01 ,T02,…」およびこれに続く「01」等の工具支持部7aの指定番号と対応させて記憶した手段(図示せず)を有しており、この記憶内容を用いて、プレスヘッド位置Qの工具ホルダ7を、指定の位相角度に旋回割出させる。」


4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「複数の工具を収納する工具マガジン10」は、本願発明の「複数の工具を格納でき特定の位置に任意の工具を位置決め可能な刃物台」に相当する。
また、引用発明の「数値制御装置30からの指令により工具マガジン10を回動させ主軸3Aの位置へ指定の工具を位置させるサーボモータであるマガジンモータ55」は、本願発明の「前記刃物台を駆動させる刃物台駆動モータ」に相当する。
また、引用発明の「工具交換装置2」が「主軸3Aに対して工具を交換する」とした点は、本願発明の「前記刃物台において特定の位置に割出された工具と主軸に装着された工具を交換する機構」に相当し、引用発明の「数値制御装置」は、本願発明の「制御装置」に相当する。
さらに、引用発明の「前記マガジンモータ55の回動位置を検出する回動位置検出手段であるエンコーダ55a」は、モータの回動に関する状態量を検出する限りにおいては、本願発明の「工具割出し時の刃物台駆動モータの」「取得手段」に相当し、引用発明の「数値制御装置」が「マガジン軸位置と」「工具マガジンの回動位置であるマガジン割出指定位置との偏差量が所定の閾値を超えたとき、偏差量過大エラーによるアラーム発生として」とする点は、判定に使用する比較の変量を除く限りにおいて、工具の割り出し動作が正常か異常かを判定し通知している点で一致するので、本願発明の「許容範囲を超えて異なる場合に異常を通知する異常通知手段」に相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)
「複数の工具を格納でき特定の位置に任意の工具を位置決め可能な刃物台と、前記刃物台を駆動させる刃物台駆動モータと、前記刃物台において特定の位置に割出された工具と主軸に装着された工具を交換する機構から構成された自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置において、
工具割出し時の刃物台駆動モータの回動に関する状態量を取得する手段と、
刃物台駆動モータの状態量が刃物台駆動モータの状態指定量から許容範囲を超えて異なる場合に異常を通知する異常通知手段
を有することを特徴とした自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置。」

(相違点1)
本願発明は、「工具交換前における刃物台の工具交換位置の工具ポット番号と工具交換の指令コードから工具割出し時の刃物台駆動モータの移動量を推測する推測手段」を有するとしているのに対して、引用発明は「工具マガジンの回動位置であるマガジン割出指定位置」を「数値制御装置」が「算出」するとしている点。
(相違点2)
本願発明の「制御装置」が有する「異常通知手段」では、許容範囲を越えたか否かを量る状態量として、「取得手段で取得した刃物台駆動モータ移動量」と「推測手段で推測した刃物台駆動モータ移動量」を用いるとしているのに対して、引用発明の「数値制御装置」が行う「所定の閾値を超えた」判定で用いている状態量は、「回動位置検出手段55aにより検出した前記サーボモータの回動位置及び減速機15の変速比から算出した工具マガジン10の実際の回動位置であるマガジン軸位置」と「数値制御装置30からマガジンモータ55に指令した移動指令量に示される前記サーボモータの回動位置と減速機15の変速比とに基づき算出した工具マガジンの回動位置であるマガジン割出指定位置」としている点。


5.当審の判断

上記相違点1及び2について検討する。

(相違点1について)
当審で通知した拒絶理由に引用した、上記「3.引用文献及び引用発明」の引用文献2の摘記事項a及びbには、円形のタレットに一つ又は複数の個別工具8が搭載された工具ホルダ7がM1?M8と指定されて8個搭載された機内工具ホルダマガジン5を備え、該マガジン1の旋回割り出しと、工具ホルダ7に複数の工具8がある場合には工具ホルダ7も旋回割り出しすることによって工具の交換を行うことができる加工機1が示され、当該加工機1の自動工具交換装置を備える工作機械では、工具交換を行うためにモータを回動させる必要がある関係から、次に使用する工具を指定する指令コードからモータへの回転指令を作成するようにしている点が、【0030】に「工具割出命令60bで指定された個別工具8をパンチ位置Pに割出し」と記載されているとおり、一般的に行われていることが窺われる。
前記引用文献2の摘記では、「割出し」とされた表記が直ちに「工具割出し時の刃物台駆動モータの移動量」を意味するか否かが不明ではあるものの、本件明細書で推測手段に関して説明がされた【0020】?【0021】の記載内容を参考に検討した場合であっても、説明内容とおよそ同一内容が、例えば特開2002-200535号公報の【0025】?【0026】に、
「パラメータ書換処理部15は、図5に示すように、プログラム解析部12から送信される次工具の割出指令(次工具の工具番号)を確認し(ステップS1)、次工具の割出指令を受信した場合には、次にパラメータ記憶部14に格納されたデータから当該工具を保持した工具保持ポット4のポット番号T1を認識する(ステップS2)。尚、パラメータ書換処理部15は、このようにして認識される工具保持ポット4のポット番号を一時的に記憶するようになっている。ステップS2においてポット番号を認識すると、次に、パラメータ書換処理部15は、認識されたポット番号T_(1)と、現在交換準備位置にある工具保持ポット4のポット番号T_(0)とを基に、以下の数式1により、次に工具保持ポット4を交換準備位置に割り出す際のポット移動個数T_(M)を算出する(ステップS3)。
【数1】 T_(M)=|T_(1)-T_(0)|」
とされているとおり、自動工具交換装置が属する技術分野で当業者に周知の内容であるというべきであり、上記相違点1に係る本願発明が採用した「推測手段」は当業者にとり十分に周知かつ慣用技術に過ぎないというべきであり、引用発明においても実質的には同様の形で採用されていると見るべきである。
よって、相違点1は当業者にとり周知かつ慣用の技術的事項の単なる採用にすぎず、容易想到であると認められる。
(相違点2について)
相違点2を整理すると、引用発明では移動指令量から指定位置を算出、すなわち、回動前位置に対して移動指令量を加算することで回動後のマガジン割出指定位置を得る演算をした上で、現実のマガジン軸位置と比較することで異常を判定していると解することができ、他方本願発明では、移動指令量と等価な「移動量」を得るに留め、移動量同士の比較で異常を判定しているのが、当該相違点2で示す相違であると理解できる。
前記理解を踏まえた相違は、回動で発生する状況を数学的に見た場合、回動前位置+回動増分(=指定位置)での比較であるか、回動増分の比較であるかの違いに帰結するので、両者の判定演算に質の上での違いはない。
そうすると、引用発明に接した当業者であれば、比較に使用する状態量を増分に簡略化する程度のことは慣用的に行う演算の省略にて達成可能と判断されるので、相違点2に係る相違についても、当業者が容易想到であるというべきである。

以上のことから本願発明は、引用発明及び自動工具交換装置付き工作機械の技術常識並びに慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明できたと認められる。

また、引用発明の作用効果は、本願発明の効果となんら違いはない。

上記で検討したごとく、各相違点はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、請求人は平成29年9月15日提出の意見書にて、
「引用発明1には、・・・(中略)・・・マガジンモータ55における実際の回動位置と、移動指令量に示される回動位置とを異常検知のための指標としております。その為、この2つ(実際の回動位置と、移動指令により示される回動位置)が閾値内に収まっている場合は正常な動作が行われたものという検出結果が出力されます。しかしながら、このような動作の判断手法を使った場合、以下の様な不具合が生じます。
(1)ソフトウェアの不具合または作業者の誤操作により、位置の座標に誤ったオフセットが入力・設定された場合、制御装置上ではモータが正しい位置に移動したと検出された場合であっても、物理的に割り出された位置が正常ではない場合があります。この様な場合には、モータの移動量に着目して検出すれば正しく移動したか否かを検出することが可能ですが、引用発明1のように位置で検出した場合、制御装置側では誤った位置へと移動したことを検出できない場合があります。
(2)刃物台駆動モータの位置検出器の故障により、原点位置にずれが生じた場合、制御装置上のモータが正しい位置に移動したと検出された場合であっても、物理的に割り出された位置が正しくない場合があります。この様な場合には、モータの移動量に着目して検出すれば正しく移動したか否かを検出することが可能ですが、引用発明1のように位置で検出した場合、制御装置側では誤った位置へと移動したことを検出できない場合があります。
(3)工具交換装置の刃物台が円形である場合において、位置(0?360°)で検出しようとしても、正転で180°回転させた場合と、逆方向に180°回転させた場合の区別が付かなくなります。その為、引用発明1では、例えばモータの極性の接続誤り時に180°回転させた際の回転方向誤りを検出できません。」と指摘しつつ、
「この点について審判官殿は、・・・(中略)・・・とのご認定ですが、それは物理的な違いを述べたものであり、実際の工具交換装置と言う機械に適用した場合における、位置と移動量との判定演算の違いを説明できるものではありません。このような、検出できる事象の違いがある以上、これらの相違は工具交換装置に適用した場合の相違に他ならないと思料いたします。」
と主張している。
ところが、請求人が挙げた指摘の(1)?(3)は、いずれも人為的乃至偶発的な不具合が発生したときに装置が通常の動作を行えないことを示すに過ぎず、かかる状況は引用発明に限らずすべての装置に同様に起こりえる事象であるため、引用発明と本件発明との間に生じる有利/不利とは扱えない。加えて本件の明細書全体を見ても、人為的乃至偶発的な不具合に対して堅牢な装置構成を得ることを目的として発明したものとはされてもいない。
よって、請求人の主張は、発明の容易想到性の判断要因として採り上げるに足らない。


6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-04 
結審通知日 2018-01-09 
審決日 2018-01-22 
出願番号 特願2014-207409(P2014-207409)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B23Q)
P 1 8・ 121- WZ (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 彬  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 刈間 宏信
西村 泰英
発明の名称 自動工具交換装置を備えた工作機械の制御装置  
代理人 あいわ特許業務法人  

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