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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60N |
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管理番号 | 1338107 |
異議申立番号 | 異議2016-700786 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-30 |
確定日 | 2018-01-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5870731号発明「帯電防止表皮材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5870731号の特許請求の範囲[1、2]を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5870731号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5870731号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年2月13日に特許出願され、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人成田忍により特許異議の申立てがされ、当審において同年12月8日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年2月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされ、当審において同年3月28日付けで特許異議申立人に対して通知書を通知し、その指定期間内である同年4月26日付けで意見書の提出がなされ、当審において平成29年8月31日付けで取消理由通知(決定の予告)を通知し、同年10月27日付けで特許件者から意見書の提出がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「レザー層」を、 「天然皮革のレザー層」(下線は審決で付した。以下同じ。)と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の 「レザー層」を、 「天然皮革のレザー層」と訂正する。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1、2について 訂正事項1、2は、「レザー層」に関して、材料を「天然皮革」と具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1、2は、願書に添付した明細書(段落【0012】)に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)一群の請求項について 訂正前の各請求項において、請求項2は、請求項1を引用するものであるので、これらの訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 また、訂正により請求項の引用関係に変更はないから、訂正後の請求項1、2は、一群の請求項である。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1、2は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。 第3.当審の判断 1.本件訂正特許発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」、「本件訂正特許発明2」という。)。 【請求項1】 天然皮革のレザー層と、前記レザー層上に直接配置された第1トップコート層と、前記第1トップコート層上に配置された第2トップコート層とを含む表皮材であって、前記第1トップコート層がイオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質を含む、前記表皮材。 【請求項2】 天然皮革のレザー層上に、イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質を含む第1トップコートを直接適用し、第1トップコート層を形成する工程;及び 前記第1トップコート層上に、第2トップコートを適用し、第2トップコート層を形成する工程; を含む、請求項1に記載の表皮材の製造方法。 2.甲各号証の記載 (1)甲1号証 甲1号証(特開平5-331500号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0002】 【従来の技術】従来、織物あるいはニット地の帯電防止を、その裏面にカーボン入りバッキング層等の導電層を重合することによって行っているもの、また、合成皮革の帯電防止を、その表面に導電物質入り発泡層等の導電層を重合するとともにさらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合することによって行っているもの等が知られている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】今、自動車等の座席、靴あるいは各種の衣料等に使用される天然皮革の帯電防止を、上記織物あるいはニット地の場合のように、その裏面にカーボン入りバッキング層等の導電層を重合することにより行うと、その導電層が製革工程の仕上げ処理中に部分的に剥離脱落するとか、その導電層がカーボン等の導電物質が混入しているだけに脆く、したがって、当該製品として使用中に同じく部分的に剥離脱落するとかひび割れするとかの欠点を生じる。 【0004】その上、導電層が天然皮革の裏面に位置している分だけ、摩擦により静電気を発生する皮革表面から導電層までの距離が大きくなるために、製品の放電効果が弱まってしまうという欠点がある。 【0005】同じく、天然皮革の帯電防止を、上記合成皮革の場合のように、天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合することにより行った場合、所望の導電率を得るのに必要な量の導電物質が混入しているために、その層の天然皮革表面への密着度が悪くなり、この導電層を含む表面の仕上げ塗装層の強度を著しく低下させ、当該製品の品質を著しく低下させるという欠点がある。」 イ.上記段落【0005】には「天然皮革の帯電防止」は「合成皮革の場合のように」行うと記載され、同段落【0002】の「合成皮革の帯電防止を、その表面に導電物質入り発泡層等の導電層を重合するとともにさらにその表面に導電物質入り発泡層等の導電層を重合するとともにさらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合することによって行」うと記載されているので、天然皮革の場合にも導電層の表面に保護層を重合することは自明であるといえる。 ウ.上記「ア」の記載から、自動車等の座席に使用される天然皮革の製造方法が示されているといえる これらの記載を総合すると、甲1号証には、次の二つの発明(以下、それぞれ「引用発明1-1」、「引用発明1-2」という。)が記載されているものと認められる。 エ.引用発明1-1 「天然皮革の帯電防止を、天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合することにより行い、さらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合することによって行う、自動車等の座席に使用される天然皮革。」 オ.引用発明1-2 「天然皮革の帯電防止を、天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合することにより行い、さらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合することによって行う、自動車等の座席に使用される天然皮革の製造方法。」 (2)甲2号証 甲2号証(特開2011-187042号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【請求項4】 前記帯電防止剤は、アルキルリン酸ナトリウム塩、伝導性カーボンブラック、炭素ナノチューブ(CNT)、伝導性高分子、および界面活性剤の中から選ばれた少なくとも1種を使用し、 前記伝導性高分子はポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレン)、ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレン、ポリイソチアナフテン(polyisothianaphthene)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、またはポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)であり、 前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、天然界面活性剤または高分子界面活性剤であり、 前記陽イオン界面活性剤はトリメチルアンモニウムエトキシド、トリメチルアンモニウムブトキシド、トリメチルアンモニウムフェノキシド、トリメチルアンモニウム-p-クロロフェノキシド、トリメチルアンモニウムラウロキシド、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルメチルアンモニウムまたは塩化ベンザルコニウムであり、 前記陰イオン界面活性剤は3-(ラウラミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、カボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸塩またはリン酸エステルであり、 前記両性界面活性剤はアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタインまたは2-アルキル-エン-カルボキシ-エン-ヒドロキシイミダゾリニウムベタインであり、 前記非イオン界面活性剤はポリオキシエチレン型、多価アルコールエステル型またはエチレンオキシドプロピレンオキシドブロック共重合体であり、 前記天然界面活性剤はレシチンであることを特徴とする、請求項2に記載のタッチスクリーン。」 イ.上記「ア」で列挙された各物質は、帯電防止剤であるから、上記には、帯電防止のために伝導性高分子であるポリアセチレンを用いることが記載されているといえる。 これらの記載を総合すると、甲2号証には、次の技術事項(以下、「甲2の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために伝導性高分子であるポリアセチレンを用いること。」 (3)甲3号証 甲3号証(特開2001-81413号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【課題】 環境の影響を受けない、再現性のある帯電防止コーティング膜が得られ、その効果が永久的に持続する帯電防止コーティング剤を提供する。 【解決手段】 電気導電性ポリマー粒子、およびフィルム形成性ポリマーからなる帯電防止コーティング組成物において、電気導電性ポリマー粒子がポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(パラフェニレンビニレン)等から選ばれた少なくとも1種電気導電性ポリマー、可とう性樹脂、安定剤からなることを特徴とする方法。」 イ.上記「ア」で列挙された各物質は、帯電防止コーティング剤であるから、上記「ア」には、帯電防止のために電気導電性ポリマー粒子であるポリアセチレンを用いることが記載されているといえる。 これらの記載を総合すると、甲3号証には、次の技術事項(以下、「甲3の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために電気導電性ポリマー粒子であるポリアセチレンを用いること。」 (4)甲4号証 甲4号証(特開2000-52522号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0020】導電性ポリマーとしては、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン等を例示することができる。また、ドーパントとしては、Cl-、Br-、ClO4-、パラトルエンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン、ポリメタクリル酸、スルホン化ポリビニルアルコール等を用いることができる。・・・」 イ.「【0075】 【発明の効果】本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、5?50nmの一次粒子径を有する導電性酸化物のコロイド粒子と導電性ポリマーのコロイド粒子とからなる有機-無機複合導電性ゾル(A)を含む塗液を塗布してつくられた帯電防止性塗膜が設けられていることを特徴とする帯電防止性ポリエステルフィルムである。この帯電防止ポリエステルフィルムは、帯電防止性、特に低湿度環境下における帯電防止性に優れているので、磁気カード、磁気デイスク、印刷材料、グラフィック材料、感光材料等に有用である。」 ウ.上記「イ」には、「導電性酸化物のコロイド粒子と導電性ポリマーのコロイド粒子とからなる有機-無機複合導電性ゾル(A)を含む塗液を塗布してつくられた帯電防止性塗膜」が記載されており、上記「ア」には、「導電性ポリマーとして・・・ポリアセチレン」が記載されているから、上記上記「ア」、「イ」には、帯電防止のために導電性ポリマーであるポリアセチレンを用いることが記載されているといえる。 これらの記載を総合すると、甲4号証には、次の技術事項(以下、「甲4の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性ポリマーであるポリアセチレンを用いること。」 (5)甲5号証 甲5号証(株式会社東レリサーチセンター発行、高分子用機能性添加剤の新展開、 1999年10月1日、p243)には、次の事項が記載されている。 ア.「表2-5-9 永久帯電防止剤の種類」(243頁)、「ポリエチレンオキシド」(表2-5-9の一段目) イ.上記「ア」の「永久帯電防止剤」は帯電防止のためのものであり、導電性をもつことは自明である。 これらの記載を総合すると、甲5号証には、次の技術事項(以下、「甲5の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるポリエチレンオキシドを用いること。」 (6)甲6号証 甲6号証(特開2001-341236号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0034】<実施例2>Tダイ共押し出しニーラムラミネーション加工およびドライラミネーション加工により、シーラント層側から高分子(型)帯電防止剤としてポリエチレンオキサイドを主成分とする高分子(型)帯電防止剤を8重量部添加した無添加LDPE(MI=2)樹脂層(厚み70μm)、接着剤層、実施例1で得られた帯電防止剤コートPETフィルム(厚み12μm)の順に積層した。・・・」 イ.上記「ア」の「高分子(型)帯電防止剤」は帯電防止のためのものであり、導電性をもつことは自明である。 ウ.上記「ア」の「ポリエチレンオキサイド」は、上記オの「ポリエチレンオキシド」と同じものであるので、整理のために「ポリエチレンオキシド」と統一する。 これらの記載を総合すると、甲6号証には、次の技術事項(以下、「甲6の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるポリエチレンオキシドを用いること。」 (7)甲7号証 甲7号証(特開2009-72979号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【請求項1】 下記の式(I)で示されるポリエチレンオキシドを必須成分としてなることを特徴とするオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物。」 イ.上記「ア」の「濃縮帯電防止剤組成物」は帯電防止のためのものであり、導電性をもつことは自明である。 これらの記載を総合すると、甲7号証には、次の技術事項(以下、「甲7の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるポリエチレンオキシドを用いること。」 (8)甲8号証 甲8号証(特開平11-61108号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0023】パーム油および/またはパーム核油に含まれるモノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、高級アルコールエチレンオキサイド付加体、ソルダビン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加体また、高分子系帯電防止剤としては、例えば、下記のものが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。 【0024】・ポリエーテル型 ・ポリエチレンオキシド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド、エチレンオキシド/エピハロヒドリン共重合体・・・」 イ.上記「ア」の「高分子系帯電防止剤」は帯電防止のためのものであり、導電性をもつことは自明である。 これらの記載を総合すると、甲8号証には、次の技術事項(以下、「甲8の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるポリエチレンオキシドを用いること。」 (9)甲9号証 甲9号証(特開2009-120768号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0055】 前記ビスアルキルスルホコハク酸アニオンまたは前記ビスアルキルリン酸アニオンと、前記四級アンモニウムカチオンおよび前記ピリジニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオンとからなる塩は、電荷を持つ化合物であるため、湿度が低い環境下でも帯電防止性に優れている。また、ハロゲンフリーでかつ融点が十分に低く(好ましくは25℃以下)、室温で液体であるという性質を有するイオン性液体であり、繊維などの基材表面への濡れ性が良好である。さらに、難揮発性、難燃性という特性も有するものでもある。また、上述した塩の粘度(E型粘度計により標準ローターを使用し、25℃で測定)は特に限定されないが、工業的な取り扱いの容易性、効率性という観点から、20000mPa・s以下であることが好ましい。」 イ.上記「ア」の「イオン性液体」は帯電防止のためのものであり、イオン性の液体であるから、導電性をもつことは自明である。 これらの記載を総合すると、甲9号証には、次の技術事項(以下、「甲9の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるイオン性液体を用いること。」 (10)甲10号証 甲10号証(特開2007-70421号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0071】 本発明の導電性付与剤は、イオン導電材としてイオン性液体であるピリジン誘導体のオニウム塩が所定の割合で配合されており、該ピリジン誘導体のオニウム塩は樹脂等への相溶性が良く、耐熱性に優れ、表面へのブリードによる汚染が低減されるという効果を有し、導電性が高く、樹脂あるいはゴムに混練させても発熱、発火の危険性がなく、優れた導電性付与剤である。 【0072】 また、本発明の導電性付与剤を用いてなる導電性材料は、耐ブリード性、耐熱性、帯電防止性に優れ、長期間安定した特性を持続でき、また透明性にも優れているので、防塵シート、除電マット及び帯電防止床材などの導電性シート、帯電防止フィルム、帯電防止剥離フィルム、各種ディスプレイの帯電防止剤、粘着剤、導電性塗料、導電性コーティング剤、電子写真式プリンターや複写機の導電性ロール(帯電ロール、クリーニングロール、現像ロールなど)、ポリマー2次電池などの電気化学デバイス用電解質、磁気記録媒体用基材、半導体用素材、液晶ディスプレイの保護フィルムなどへ適用できる。」 イ.上記「ア」には、帯電防止のための導電性付与剤にはイオン導電材としてイオン性液体が所定の割合で配合されていることが記載されている。 これらの記載を総合すると、甲10号証には、次の技術事項(以下、「甲10の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 「帯電防止のために導電性であるイオン性液体を用いること。」 (11)上記(1)乃至(2)の各技術事項から、「帯電防止のために導電性であるイオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンを用いること」が周知技術(以下、「周知技術」という。)であるといえる。 2.判断 (1)本件訂正特許発明1について ア.対比 本件訂正特許発明1と引用発明1-1とを対比すると、 後者における、「天然皮革」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「天然皮革のレザー層」に相当し、以下同様に「導電物質」は、「導電性物質」に、「導電層」は「第1トップコート」に、「保護層」は「第2トップコート層」に、それぞれ相当する。 後者は、「自動車等の座席に使用される天然皮革」であり、「天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合」し「さらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合」したものである。 上記「導電層」は、甲1号証の【発明が解決しようとする課題】今、自動車等の座席、靴あるいは各種の衣料等に使用される天然皮革の帯電防止を、上記織物あるいはニット地の場合のように、その裏面にカーボン入りバッキング層等の導電層を重合することにより行うと、その導電層が製革工程の仕上げ処理中に部分的に剥離脱落するとか、その導電層がカーボン等の導電物質が混入しているだけに脆く、したがって、当該製品として使用中に同じく部分的に剥離脱落するとかひび割れするとかの欠点を生じる。」(段落「【0003】)の記載からみて、帯電防止のために設けられるものである。 上記のとおり、後者は上記帯電防止のための「導電層」と、「保護層」を備え、座席に用いられるものであるから、本願発明1と同様に「表皮材」であるといえる。 したがって、両者は、 「天然皮革のレザー層と、前記レザー層上に直接配置された第1トップコート層と、前記第1トップコート層上に配置された第2トップコート層とを含む表皮材であって、前記第1トップコート層が導電性物質を含む、前記表皮材。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本件訂正特許発明1の「前記第1トップコート層」が含む「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質」に対して、引用発明1-1の「導電層」(第1トップコート層)に入る「導電物質」には材料の特定がない点。 イ.判断 上記周知技術は、「帯電防止のために導電性であるポリアセチレン、ポリエチレンオキシド、イオン性液体を用いること」であるから、相違点1に係る発明特定事項である「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質」が備えられているといえる。 引用発明1-1と上記周知技術は、帯電防止という共通の技術分野に属し、共に導電性物質を用いて帯電防止をするものであるから、引用発明1-1に上記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、引用発明1-1において、上記周知技術を適用することにより上記相違点1に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえるものである。 そして、本件訂正特許発明1の発明特定事項全体によって奏される効果も、引用発明1-1、及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 (1)本件訂正特許発明2について ア.対比 本件訂正特許発明2と引用発明1-2とを対比すると、 後者における、「天然皮革」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「天然皮革のレザー層」に相当し、以下同様に「導電物質」は、「導電性物質」に、「導電層」は「第1トップコート」に、「保護層」は「第2トップコート層」に、「天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合すること」は、「第1トップコートを直接適用し、第1トップコート層を形成する工程」、「さらにその表面にポリウレタン等の保護層を重合する」は、「第1トップコート層上に、第2トップコートを適用し、第2トップコート層を形成する工程」に、それぞれ相当する。 [相違点2] 本件訂正特許発明2の「前記第1トップコート層」が含む「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質」に対して、引用発明1-2の「導電層」(第1トップコート層)に入る「導電物質」には材料の特定がない点。 イ.判断 上記周知技術は、「帯電防止のために導電性であるポリアセチレン、ポリエチレンオキシド、イオン性液体を用いること」であるから、相違点1に係る発明特定事項である「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質」が備えられているといえる。 引用発明1-2と上記周知技術は、帯電防止という共通の技術分野に属し、共に導電性物質を用いて帯電防止をするものであるから、引用発明1-2に上記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、引用発明1-2において、上記周知技術を適用することにより上記相違点2に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえるものである。 そして、本件訂正特許発明2の発明特定事項全体によって奏される効果も、引用発明1-2、及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 なお、本件特許権者は、平成29年10月27日付意見書において、甲第1号証の段落【0005】は、「皮革の表面に導電性物質入り発泡層等の導電層を直接重合する」方法は、天然皮革には適用できないことを示しており、引用発明1-1及び引用発明1-2が甲第1号証に記載されていると認めることはできない旨の主張(4頁15行?7頁10行、以下「主張1」という。)と、甲第2乃至10号証から明らかなように、「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレン」の適用対象は無数に存在し、「導電性物質」の種類も無数に存在するので、無数に存在する「導電性物質」の中から、「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレン」を選択し、甲2乃至10号証のいずれかにも言及されていない天然皮革に適用することは当業者が容易に試みることはできない旨の主張(7頁11?24行、以下「主張2」という。)をしている。 上記主張1を検討すると、甲第1号証の「同じく、天然皮革の帯電防止を、上記合成皮革の場合のように、天然皮革の表面に導電物質入り発泡層等の導電層を直接重合することにより行った場合、所望の導電率を得るのに必要な量の導電物質が混入しているために、その層の天然皮革表面への密着度が悪くなり、この導電層を含む表面の仕上げ塗装層の強度を著しく低下させ、当該製品の品質を著しく低下させるという欠点がある。」(段落【0005】)との記載は、「天然皮革の表面に導電性物質入り発泡層等の導電層を直接重合する」ことが、技術的に不可能であることを示してはいないので、引用発明1-1及び引用発明1-2は、甲第1号証に記載されていないとはいえない。 上記主張2を検討すると、甲第1号証には、導電物質の材料について「カーボン等」の記載があるものの、特定の材料の採用による効果等の記載はないから、引用発明1-1及び引用発明1-2の導電物質は、特に材料を特定するものではないといえる。 上記第3、2(11)のとおり、「帯電防止のために導電性であるイオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンを用いること」は、周知技術である。 本願特許明細書には、「導電性物質としては、電気を通すことができる物質であれば特に限定されない。例えば、イオン性液体、ポリエチレンオキシド、ポリアセチレン等を挙げることができる。導電性物質は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。」(段落【0014】)と記載されているので、本件訂正特許発明1及び本件訂正特許発明2の発明特定事項の「イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質」は、「電気を通すことができる物質」から「例えば・・・挙げることができる」程度のものであり、天然皮革に使用することに関して、格別の効果を伴うものではないといえる。 したがって、引用発明1-1及び引用発明1-2の「導電物質」に、周知技術である「ポリアセチレン、ポリエチレンオキシド、イオン性液体」を用いて、本件訂正特許発明1及び本件訂正特許発明2を想到することは、当業者にとって格別困難なことではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正特許発明1は、引用発明1-1、及び上記周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正特許発明2は、引用発明1-2、及び上記周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 天然皮革のレザー層と、前記レザー層上に直接配置された第1トップコート層と、前記第1トップコート層上に配置された第2トップコート層とを含む表皮材であって、前記第1トップコート層がイオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質を含む、前記表皮材。 【請求項2】 天然皮革のレザー層上に、イオン性液体、ポリエチレンオキシド及びポリアセチレンからなる群から選択される導電性物質を含む第1トップコートを直接適用し、第1トップコート層を形成する工程;及び 前記第1トップコート層上に、第2トップコートを適用し、第2トップコート層を形成する工程; を含む、請求項1に記載の表皮材の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-30 |
出願番号 | 特願2012-28783(P2012-28783) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(B60N)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 松田 長親、古川 峻弘、植前 津子、角田 貴章 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
吉村 尚 畑井 順一 |
登録日 | 2016-01-22 |
登録番号 | 特許第5870731号(P5870731) |
権利者 | トヨタ自動車株式会社 |
発明の名称 | 帯電防止表皮材 |
代理人 | 島村 直己 |
代理人 | 島村 直己 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 藤田 節 |