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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1338124 |
異議申立番号 | 異議2017-700529 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-29 |
確定日 | 2018-01-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6033522号発明「絶縁回路基板、パワーモジュールおよびパワーユニット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6033522号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6033522号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6033522号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成27年10月13日(優先権主張 平成26年12月18日)を国際出願日として特許出願され、平成28年11月4日にその特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし12に係る特許について、特許異議申立人 畠 明により特許異議の申立てがなされ、平成29年8月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 畠 明から同年12月18日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正請求による訂正の適否 1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容 平成29年10月26日付けの訂正請求の趣旨は、 「特許第6033522号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。」 というものである。 そして、上記訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 (a)「平面形状が多角形状の第1の電極」と記載されているのを、「平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極」に訂正し、 (b)「平面形状が多角形状の第2の電極」と記載されているのを、「平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極」に訂正し、 (c)「前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点から離れた曲線状の部分とに囲まれた平面形状」と記載されているのを、「前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶ曲線状の部分とに囲まれた平面形状」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項3?12も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 (a)「平面形状が多角形状の第1の電極」と記載されているのを、「平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極」に訂正し、 (b)「平面形状が多角形状の第2の電極」と記載されているのを、「平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極」に訂正する。 (請求項2を引用する請求項3?12も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に「前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。」と記載されているのを、「前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である、請求項3に記載の絶縁回路基板。」に訂正する。 (請求項5を引用する請求項6?12も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「前記第1および第2の電極の少なくともいずれかは」と記載されているのを、「前記第1の電極は」に訂正する。 (請求項8を引用する請求項9?12も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項9に、 (a)「請求項1?8のいずれか1項に記載の絶縁回路基板」と記載されているのを、「請求項1?8のいずれか1項に記載の前記絶縁回路基板」に訂正し、 (b)「前記絶縁回路基板の表面上に載置されたパワー半導体素子」と記載されているのを、「前記絶縁回路基板の表面上に載置された前記パワー半導体素子」に訂正する。 (請求項8を引用する請求項9?12も同様に訂正する。) 2.訂正の適否の判断 (1)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1,3ないし12について、請求項3ないし12は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 同様に、本件訂正前の請求項2ないし12について、請求項3ないし12は請求項2を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。 そして、これらは、共通する請求項3ないし12を有していることから、組み合わされて1つの一群の請求項となる。したがって、訂正前の請求項1ないし12に対応する訂正後の請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正事項1 ア.訂正の目的について 訂正事項1は、 (a)本件訂正前の請求項1に係る特許発明の発明特定事項である「第1の電極」について、「パワー半導体素子に接続されるために用いられる」旨の限定を付加し、 (b)同じく本件訂正前の請求項1に係る特許発明の発明特定事項である「第2の電極」について、「単層」であることの限定を付加し、 (c)同じく本件訂正前の請求項1に係る特許発明の発明特定事項である、薄肉部の「平面形状」について、「第1および第2の辺」と「曲線状の部分」との間の位置関係が不明瞭であったところを明確にするものであるから、 特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、及び第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項1のうちの上記(a)については、本件特許明細書の段落【0016】に「後述するように、実際のパワーモジュールにおいては、表面電極2aの表面上にパワー半導体素子51(半導体素子が形成された半導体チップ)がたとえばはんだ接合層により接続(搭載)されている。」と記載され、また、段落【0096】に「・・パワー半導体素子51は、絶縁回路基板100の表面電極2aの表面上に、はんだ接合層53により接合されるように載置されている。」と記載され、また、図17?20には、表面電極2a(第1の電極)の表面上にパワー半導体素子51が接続(搭載)されていることが示されており、 訂正事項1のうちの上記(b)については、本件特許明細書の段落【0083】に「・・実施の形態1の銅からなる単層で形成された電極2・・」と記載(なお、「電極2」とは、表面電極2aおよび裏面電極2bである。)され、また、例えば図1(B)?(D)からは、裏面電極2b(第2の電極)が、図15に示される2つの層の積層構造からなるものとの比較から明らかなように、単層であると見てとることができ、 訂正事項1のうちの上記(c)については、図12には、「曲線状の部分」は、第1および第2の辺の頂点4と反対側の端部を結ぶものであることが示されている(なお、請求項2にも同様の記載(表現)がある)ことから、 上記(a)?(c)のいずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、本件訂正前の請求項1,3ないし12について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (3)訂正事項2 ア.訂正の目的について 訂正事項2は、訂正事項1についての上記「(2)ア.(a)(b)」と同様であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項1についての上記「(2)イ.」のうちの(a)(b)と同様に、訂正事項2は、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、本件訂正前の請求項2ないし12について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項2に係る訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (4)訂正事項3 ア.訂正の目的について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項5が請求項1ないし4のいずれか1項を引用するものであったのを、請求項1,2,4の引用を削除し、請求項3のみを引用するようにしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項3は、引用する請求項の一部を削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、本件訂正前の請求項5ないし12について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項5に係る訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (5)訂正事項4 ア.訂正の目的について 訂正事項4は、訂正事項1,2により「第2の電極」が「単層」であると訂正されたことに伴い、本件訂正前の請求項8に「前記第1および第2の電極の少なくともいずれかは」と記載され、電極について複数の選択肢があったものを、「前記第1の電極は」と訂正し、選択肢から第2の電極を削除したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項4は、上記「ア.」に記載したとおり、一部の選択肢(第2の電極に係る選択肢)を削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、本件訂正前の請求項8ないし12について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項8に係る訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (6)訂正事項5 ア.訂正の目的について 訂正事項5のうちの上記(a)については、本件訂正前の請求項9に記載の「絶縁回路基板」と、引用する請求項1ないし8に記載の「絶縁回路基板」との関係が不明瞭であったところを明確にし、 訂正事項5のうちの上記(b)については、訂正事項1,2に伴い、本件訂正前の請求項9に記載の「パワー半導体素子」と、訂正後の請求項1,2に記載の「パワー半導体素子」との関係を明確にするものであるから、 特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるといえる。 イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項5は、上記「ア.」に記載したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないことは明らかであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。 「【請求項1】 絶縁基板と、 前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、 前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極とを備え、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶ曲線状の部分とに囲まれた平面形状を有する、絶縁回路基板。 【請求項2】 絶縁基板と、 前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、 前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極とを備え、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶように前記第1および第2の辺に対して傾いた方向に延びる第3の辺とに囲まれた三角形の平面形状を有する、絶縁回路基板。 【請求項3】 前記薄肉部は前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの複数の頂点のうちの1つの前記頂点を含む平面形状を有しており、 前記薄肉部は、前記薄肉部に含まれる1つの前記頂点から、前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部以外の領域までの最短距離が、前記薄肉部の厚みの5倍以上10倍以下である、請求項1または2に記載の絶縁回路基板。 【請求項4】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの厚みが0.6mm以上1.5mm以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項5】 前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である、請求項3に記載の絶縁回路基板。 【請求項6】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかは、前記一方の主表面上または前記他方の主表面上において互いに間隔をあけて複数に分割されている、請求項1?5のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項7】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの前記薄肉部は、前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの前記外縁に沿う外縁部において、前記外縁に沿って延びる延長部を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項8】 前記第1の電極は、前記一方の主表面または前記他方の主表面を覆うように形成された第1の層と、前記第1の層の表面を覆うように形成された第2の層とを含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の前記絶縁回路基板と、 前記絶縁回路基板の表面上に載置された前記パワー半導体素子とを備える、パワーモジュール。 【請求項10】 前記パワー半導体素子はワイドバンドギャップ半導体により形成される、請求項9に記載のパワーモジュール。 【請求項11】 前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料またはダイヤモンドからなる群からなるいずれかである、請求項10に記載のパワーモジュール。 【請求項12】 請求項9?11のいずれか1項に記載の前記パワーモジュールがヒートシンクの表面上に載置された、パワーユニット。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 当審において、訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)理由A(特許法第29条第2項) 本件特許の請求項1,2,6,8,9,12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物3,5に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 本件特許の請求項5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物4に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 本件特許の請求項10,11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物5に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 刊行物1:特開2008-294284号公報(甲第1号証) 刊行物2:特開平10-4156号公報(甲第2号証) 刊行物3:特開昭64-59986号公報(甲第3号証) 刊行物4:特開2001-168482号公報(甲第4号証) 刊行物5:特開2014-118310号公報(甲第5号証) (2)理由B(特許法第36条第6項第2号) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ア.請求項1の「第1の電極」、「第2の電極」なる用語について、技術的にいかなる意味であるのか不明である。なお、請求項1を引用する請求項3ない12も同様の理由である。(特に、「電極」とは何を意味するのか不明である。本件特許の【発明の詳細な説明】を参酌すると、特に絶縁回路基板をパワーモジュールに適用した例である【図17】ないし【図20】から明らかなように、一方の表面電極2aには、パワー半導体素子51が接続されているいるものの、他方の裏面電極2bには、ヒートシンク55ないし放熱ベース板59が接続されており、少なくとも裏面電極2bについては、例えば電圧を印加するための「電極」として使用されてない「金属板」も含むものであるといえ、「電極」として使用されているとは限らない。なお、「電極」がいかなる意味であるのかを釈明する際には、【発明の詳細な説明】のいずれの記載に基づくものであるのか、その根拠も併せて示されたい。) イ.請求項1には、「前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点から離れた曲線状の部分とに囲まれた平面形状を有する」なる記載があるが、「前記第1および第2の辺の前記頂点から離れた曲線状の部分」について、第1および第2の辺と曲線状の部分との位置関係が不明りょうである。なお、請求項1を引用する請求項3ない12も同様の理由である。(特に、「前記第1および第2の辺の前記頂点から離れた」なる記載が何を意味するのか不明である。) ウ.請求項2の「第1の電極」、「第2の電極」なる用語について、上記「ア.」と同様の理由で、技術的にいかなる意味であるのか不明である。なお、請求項2を引用する請求項3ない12も同様の理由である。 したがって、上記「ア.」ないし「ウ.」のとおり、請求項1ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)理由C(特許法第36条第6項第1号) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項5には、「前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である」ことが特定されているが、該記載まで拡張ないし一般化できるとはいえない。なお、請求項5を引用する請求項6ないし12も同様の理由である。 本件特許の【発明の詳細な説明】の段落【0043】ないし【0046】を参照すると、角薄肉部3の規格化された最短幅が5以上10以下の範囲を角薄肉部3の妥当な寸法とした場合に、角薄肉部3の厚みが0.2mm、0.3mm、0.4mmの場合が熱応力の相対値が0.7以下となっていることが記載されているだけであり、【図6】からも明らかなように、角薄肉部3の厚みが0.2mm、0.3mm、0.4mmであれば、角薄肉部3の規格化された最短幅のあらゆる範囲において、熱応力の相対値が0.7以下となるわけではない。 してみれば、薄肉部の厚みを特定するのみで熱応力の緩和を実現できるわけではないため、請求項5の「前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である」との記載まで、拡張ないし一般化できるとはいえない。(請求項5は、請求項3を引用すべきである。) したがって、請求項5ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.理由A(特許法第29条第2項)について (1)刊行物1の記載 刊行物1(特開2008-294284号公報、甲第1号証)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 絶縁基板の一面に第1金属板が接合されるとともに他面に第2金属板が接合されて形成された回路基板を備え、前記第1金属板に半導体素子が接合されるとともに前記第2金属板に前記半導体素子の冷却を行う放熱装置が熱的に結合された半導体装置であって、 前記第2金属板と放熱装置との間に板状をなす応力緩和部材が介在され、該応力緩和部材が平面視多角形状をなす高熱伝導性材料のコーナ部を平面視がラウンド形状をなすように機械的に加工してなることを特徴とする半導体装置。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【請求項3】 前記応力緩和部材のコーナ部と、該コーナ部に対向する位置にある第2金属板のコーナ部とは段差構造をなす請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。」 イ.「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかし、近年では半導体装置において熱応力の緩和を達成しつつ、さらなる冷却性能の向上、すなわち半導体素子から放熱装置に至る熱伝導性の向上が切望されている。また、特許文献3における熱応力の緩和のための構成は、半田付け前の電子部品や基板に設けられた金属層に丸みを持たせるため、電子部品や基板に負担の少ない化学処理(めっき処理)を行わざるをえず、熱応力緩和のための構成を備えた電子回路装置の製造に非常に時間を要するという問題があった。この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、半導体素子から放熱装置に至る熱伝導性を優れたものとしつつ、優れた応力緩和機能を発揮することができるとともに短時間で製造することができる半導体装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、絶縁基板の一面に第1金属板が接合されるとともに他面に第2金属板が接合されて形成された回路基板を備え、前記第1金属板に半導体素子が接合されるとともに前記第2金属板に前記半導体素子の冷却を行う放熱装置が熱的に結合された半導体装置であって、前記第2金属板と放熱装置との間に板状をなす応力緩和部材が介在され、該応力緩和部材が平面視多角形状をなす高熱伝導性材料のコーナ部を平面視がラウンド形状をなすように機械的に加工してなることを特徴とするものである。 【0008】 この発明によれば、回路基板における絶縁基板と放熱装置との線膨張係数の相違に起因して半導体装置に熱応力が発生したとき、応力緩和部材が変形して熱応力を緩和することができる。ここで、熱応力は応力緩和部材の内側より周縁部の方が大きく作用し、コーナ部は最も大きく作用する。そして、応力緩和部材においてはコーナ部がラウンド形状に形成されることにより、該コーナ部がピン角状に形成されている場合に比して作用する熱応力を低減させることができる。よって、半導体装置においては、コーナ部がラウンド形状に形成された応力緩和部材を設けることで優れた応力緩和機能を発揮することができる。さらに、応力緩和部材は、半導体素子や基板等が一体化されたものではなく、該半導体素子や基板に負荷を掛けないように考慮する必要がない。よって、応力緩和部材のコーナ部は、高熱伝導性材料をプレス加工のように、直接機械的に加工することにより形成される。よって、コーナ部をラウンド形状にするため、例えば、高熱伝導性材料を化学処理(めっきやエッチング)する場合に比して応力緩和部材を簡単、かつ短時間で製造することができ、ひいては半導体装置を短時間で製造することができる。」 ウ.「【0016】 図2に示すように、半導体装置10は、回路基板11に半導体素子12が接合されるとともに放熱装置としてのヒートシンク13が熱的に結合されたものである。まず、前記回路基板11の構成について説明する。回路基板11は、絶縁基板としての四角板状をなすセラミック基板14と、該セラミック基板14の一面14aに接合された第1金属板としての2個の金属回路15と、セラミック基板14において前記一面14aに背向する他面14bに接合された第2金属板としての金属板16とから形成されている。金属板16は、セラミック基板14とヒートシンク13とを接合する接合層として機能する。」 【0017】 前記回路基板11において、セラミック基板14は、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素等により形成されている。また、金属回路15及び金属板16は、例えば、アルミニウム系金属や銅等で形成されている。前記ヒートシンク13はアルミニウム系金属や銅等で形成されている。なお、アルミニウム系金属とはアルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。 【0018】 また、図1に示すように、前記半導体素子12は平面視四角形状をなす。そして、半導体素子12は、半田層H(図2参照)を介して金属回路15に接合され、半導体素子12はセラミック基板14の一面14aに金属回路15を介して熱的に結合されている。なお、半導体素子12は、1個の金属回路15に2個接合されている。半導体素子12は、例えば、IGBT(Insurated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET、ダイオードが用いられている。 【0019】 図2に示すように、前記ヒートシンク13の内部には流体(例えば、冷却水)が流れる流路13aが形成されている。また、ヒートシンク13と、回路基板11における金属板16との間には、該回路基板11とヒートシンク13との接合領域を形成する応力緩和部材20が介装されている。応力緩和部材20は、アルミニウムといった高熱伝導性材料から平面視が略四角形の平板状に形成されている。そして、応力緩和部材20は、一面20e全体が金属板16にろう付けされ、前記一面20eに背向する他面20f全体がヒートシンク13にろう付けされている。すなわち、応力緩和部材20と金属板16の間、及び応力緩和部材20とヒートシンク13との間にはろう材よりなる接合部が形成されている(図示せず)。」 エ.「【0021】 次に、応力緩和部材20について詳細に説明する。なお、図3(a)は半導体装置10の平面図であるが、応力緩和部材20を分かり易く図示するため、セラミック基板14、金属板16及び半導体素子12を2点鎖線で示している。また、図3(a)において、応力緩和部材20の上下に対向する側辺を第1側辺20aと第2側辺20bとし、左右に対向する側辺を第3側辺20cと第4側辺20dとする。そして、前記第1?第4側辺20a?20dと、四つのコーナ部Cとによって応力緩和部材20の周縁部が形成されている。この応力緩和部材20は、平面視四角形状なす高熱伝導性材料の四つのコーナ部Cを、プレス加工(機械的加工)により平面視ラウンド形状に形成することにより製造されている。 【0022】 コーナ部Cは、該コーナ部Cを形成する隣接する2側辺(第1側辺20aと第4側辺20d、第2側辺20bと第4側辺20d、第2側辺20bと第3側辺20c、第1側辺20aと第3側辺20c)同士を円弧状に繋ぐように平面視がラウンド形状に形成されている。すなわち、コーナ部Cは、該コーナ部Cを形成する隣接する2側辺との間にピン角状をなす部位が形成されないように滑らかな円弧状に形成されている。また、コーナ部Cは、応力緩和部材20の内側に向けて凹むのではなく、応力緩和部材20の外側に向けて凸となる円弧状に形成されている。 【0023】 なお、本実施形態では応力緩和部材20が一辺30mmの正方形状に形成されている。そして、応力緩和部材20の平面形状と金属板16の平面形状はほぼ同じになっており、応力緩和部材20と金属板16は同じサイズとなっている。このような応力緩和部材20において、コーナ部Cは直径3.5?10mmの円の一部を形成する円弧状に形成されるのが好ましく、直径3.5?5mmの円の一部を形成する円弧状に形成されるのが特に好ましい。直径が3.5mmより小さいと、コーナ部Cに集中する熱応力の緩和機能を十分に発揮できず好ましくないからである。一方、直径が10mmを越えると、応力緩和部材20のコーナ部Cを形成するために切除される部位が多くなり、応力緩和部材20の面積が小さくなってしまう。すると、応力緩和部材20の、回路基板11(金属板16)及びヒートシンク13に対する接合面積が小さくなり、半導体素子12から発せられた熱の伝熱面積が小さくなって好ましくないからである。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0026】 また、応力緩和部材20は、ラウンド形状のコーナ部Cが形成される前の高熱伝導性材料の平面形状では金属板16の平面形状と同じになっている。このため、応力緩和部材20において、コーナ部C以外の縁は、金属板16の縁と合致するようになっている。よって、図3(b)に示すように、応力緩和部材20の各コーナ部Cは、金属板16のコーナ部16aより内側に位置し、応力緩和部材20の各コーナ部Cと該コーナ部Cに対向する金属板16のコーナ部16aとは、回路基板11の厚み方向に段差構造をなしている。そして、応力緩和部材20の各コーナ部Cは、金属板16の直下であり、ヒートシンク13の直上に位置している。このため、金属板16とヒートシンク13との間には、応力緩和部材20の各コーナ部Cによって応力緩和空間Sが形成されている。」 オ.「【0043】 ○ 図4に示すように、応力緩和部材20の各コーナ部20kを直線状に面取りしてラウンド形状にしてもよい。 ○ コーナ部Cの形状は、実施形態のような円弧状や図4に示す直線状に面取りした形状以外であってもよく、さらには、基準線L1?L4に対して対応するコーナ部C同士が非対称な形状であってもよい。すなわち、応力緩和部材20のコーナ部Cの形状は、該応力緩和部材20が対応する金属板16のコーナ部16aにおいて、最も鋭角なコーナ部16aよりも鈍な角であれば任意に変更してもよい。」 上記「ア.」ないし「オ.」の記載事項(特に下線を付した記載部分を参照)、及び図1ないし図4を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「セラミック基板と、 前記セラミック基板の一面に接合され、IGBTなどの半導体素子が接合される第1金属板としての金属回路と、 前記セラミック基板において前記一面に背向する他面に接合され、平面形状が正方形状である第2金属板としての金属板と、を備える回路基板であって、 ヒートシンクと前記金属板との間には、アルミニウムといった高熱伝導性材料からなり、平面形状が前記金属板の平面形状とほぼ同じである板状の応力緩和部材が介装され、当該応力緩和部材は、その一面全体が前記金属板にろう付けされ、 前記応力緩和部材は、第1?第4側辺、四つのコーナ部によって周辺部が形成されており、四つの各コーナ部は、前記金属板のコーナ部より内側に位置し、当該応力緩和部材の各コーナ部と当該コーナー部に対向する前記金属板のコーナ部とは、厚み方向に段差構造を有しており、 前記応力緩和部材の各コーナ部を形成する隣接する2側辺同士を円弧状または直線状に繋ぐように平面視がラウンド形状に形成されている回路基板。」 (2)対比・判断 (2-1)本件特許発明1について 本件特許発明1と引用発明を対比する。 ア.引用発明における「セラミック基板と、前記セラミック基板の一面に接合され、半導体素子が接合される第1金属板としての金属回路と、前記セラミック基板において前記一面に背向する他面に接合され、平面形状が正方形状である第2金属板としての金属板と、を備える回路基板であって、ヒートシンクと前記金属板との間には、アルミニウムといった高熱伝導性材料からなり、平面形状が前記金属板の平面形状とほぼ同じである板状の応力緩和部材が介装され、当該応力緩和部材は、その一面全体が前記金属板にろう付けされ」によれば、 (a)引用発明における「セラミック基板」は、本件特許発明1でいう「絶縁基板」に相当し、 (b)引用発明における、セラミック基板の一面に接合された「第1金属板としての金属回路」は、IGBTなどの半導体素子が接合されることから、本件特許発明1でいう、絶縁基板の一方の主表面上に形成された「第1の電極」に相当するといえる。 (c)また、引用発明における、セラミック基板において他面に接合された「第2金属板としての金属板」は、平面形状が正方形状であるから、本件特許発明1と同様に「平面形状が多角形状」であるといえる。 そして、引用発明における「応力緩和部材」は、「アルミニウム」といった高熱伝導性材料であることから、「金属板」であるといえ、平面形状が金属板の平面形状とほぼ同じであり、その一面全体が金属板にろう付けされてなるものであることを踏まえると、 引用発明における「金属板」及び「応力緩和部材」が、本件特許発明1でいう「第2の電極」に対応し、両者は「第2の金属板」である点で共通するとみることができる。 したがって、本件特許発明1と引用発明とは、「絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、パワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状の第2の金属板と」を備えるものである点で共通するといえる。 ただし、「第1の電極」について、本件特許発明1では、平面形状が「多角形状」であると特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違し、 また、「第2の金属板」について、本件特許発明1では、「単層」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違し、 さらに、「第2の金属板」について、本件特許発明1では、「電極」と特定しているのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点で一応相違している。 イ.引用発明における「前記応力緩和部材は、第1?第4側辺、四つのコーナ部によって周辺部が形成されており、四つの各コーナ部は、前記金属板のコーナ部より内側に位置し、当該応力緩和部材の各コーナ部と当該コーナー部に対向する前記金属板のコーナ部とは、厚み方向に段差構造を有しており」によれば、 引用発明において、「金属板」及び「応力緩和部材」によって、各コーナ部に形成される厚み方向の「段差構造」は、本件特許発明1の第2の金属板の「平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く」なっている構成に相当するということができ、 本件特許発明1と引用発明とは、「前記第1の電極および前記第2の金属板の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く」なっている点で共通するといえる。 ただし、上記「ア.」と同様に、「第2の金属板」について、本件特許発明1では、「電極」と特定しているのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点で一応相違している。 ウ.引用発明における「前記応力緩和部材の各コーナ部を形成する隣接する2側辺同士を円弧状または直線状に繋ぐように平面視がラウンド形状に形成されている・・」によれば、 引用発明における「隣接する2側辺」、その2側辺を「円弧状」に繋ぐように形成された「平面視がラウンド形状」の部分は、それぞれ本件特許発明1でいう、頂点から外縁の一部として互いに直交する「第1および第2の辺」、頂点と反対側の端部を結ぶ「曲線状の部分」に相当し、 本件特許発明1と引用発明とは、「前記第1の電極および前記第2の金属板の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点から離れた曲線状の部分とに囲まれた平面形状を有する」点で共通するといえる。 ただし、上記「ア.」と同様に、「第2の金属板」について、本件特許発明1では、「電極」と特定しているのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点で一応相違している。 エ.そして、引用発明における「回路基板」は、本件特許発明1でいう「絶縁回路基板」に相当するものである。 よって、本件特許発明1と引用発明とは、 「絶縁基板と、 前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、パワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、 前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状である第2の金属板とを備え、 前記第1の電極および前記第2の金属板の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く、 前記第1の電極および前記第2の金属板の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶ曲線状の部分とに囲まれた平面形状を有する、絶縁回路基板。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 第1の電極について、本件特許発明1は、「平面形状が多角形状」であると特定しているのに対して、甲1発明はそのような特定を有していない点。 [相違点2] 第2の金属板について、本件特許発明1では、「単層」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 [相違点3] 第2の金属板について、本件特許発明1では、「電極」と特定しているのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点 。 そこで、まず[相違点2]について検討する。 刊行物1の段落【0006】?【0008】の記載(上記「(1)イ.」を参照)によれば、熱応力の緩和のために、金属層のコーナ部に丸みを持たせる(ラウンド形状とする)に際し、従来技術(特許文献3)のものでは、金属層が基板等に設けられているため、基板等に負担の少ない化学処理を行わざるをえず、製造に非常に時間を要するという問題があったところを、引用発明では、基板等に設けられた金属層(第2金属板としての金属板)とは別個に「応力緩和部材」を設けることによって、かかる応力緩和部材に対して、そのコーナ部に熱応力緩和のための丸み(ラウンド形状)を化学処理によらずにプレス加工等の機械的加工によって形成できるようにしたものであると理解することができ、したがって、引用発明は、第2金属板としての「金属板」と「応力緩和部材」とは互いに別部材であることを前提とするものであるといえる。 そのため、たとえ刊行物1の段落【0017】、【0019】に記載(上記「(1)ウ.」を参照)のように、第2金属板としての「金属板」と「応力緩和部材」とが同じ材料(アルミニウム)で形成できるとしても、これら「金属板」と「応力緩和部材」とは互いに別部材として設けられることに変わりはなく、引用発明において、これら「金属板」と「応力緩和部材」とを「単層」、つまり一部材とする構成に変更することには阻害要因がある。 なお、そもそも引用発明にあっては、上述したように、熱応力緩和のために応力緩和部材のコーナ部に丸みを持たせる(ラウンド形状とする)ようにしたものであって、かかる応力緩和部材を、コーナ部に丸みを持たせる(ラウンド形状とする)処理をしていない金属板に積層した結果として、コーナ部に本件特許発明1でいう「薄肉部」が形成されているとみることができるだけであり、熱応力緩和のために、コーナ部に「薄肉部」を形成するという技術思想が開示されているわけでもない。 よって、本件特許発明1における、絶縁基板の一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された第2の電極を「単層」とする発明特定事項については、刊行物1から導き出すことはできない。 以上のことから、他の相違点(相違点1,3)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2-2)本件特許発明2について 独立形式で記載された請求項2に係る本件特許発明2は、本件特許発明1における、絶縁基板の一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された第2の電極を「単層」とする発明特定事項を共通して有するものであるから、上記本件特許発明1の判断と同様の理由により、本件特許発明2は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2-3)本件特許発明3ないし12について 請求項3ないし12は、請求項1または請求項2に従属する請求項であり、本件特許発明3ないし12は、本件特許発明1または本件特許発明2の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1または本件特許発明2の判断と同様の理由により、本件特許発明3ないし12は、引用発明及び刊行物2ないし5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできない。 3.理由B(特許法第36条第6項第2号)について (1)理由Bの上記「ア.」及び「ウ.」の指摘に対して、 平成29年10月26日付けで意見書とともに乙第1?12号証が提出された。 そして、例えば乙第1号証(特開2001-102521号公報)、乙第4号証(特開平11-284115号公報)、乙第6号証(特開2013-38259号公報)等に記載のように、パワー半導体モジュールに用いられる絶縁回路基板の両面に形成される導電部材(金属板)を「電極(板)」と称することは当業者に慣用されており、また、上記乙第1号証、乙第9号証(特開2008-147446号公報)、乙第10号証(特開2002-171037号公報)等に記載のように、絶縁回路基板の裏面側の導電部材(金属板)についても、当該絶縁回路基板の絶縁耐圧の測定などのために電圧が印加され、適宜「電極」として機能し得るものであると認められる。 (2)理由Bの上記「イ.」の指摘に対して、 上記平成29年10月26日付け訂正請求による訂正(訂正事項1)により、請求項1において、薄肉部の「平面形状」について、「第1および第2の辺」と「曲線状の部分」との間の位置関係を明確にする訂正がなされた。 したがって、当審による取消理由で理由Bとして指摘した不備な点はすべて解消され、本件の請求項1ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 4.理由C(特許法第36条第6項第1号)について 理由Cの指摘に対して、上記平成29年10月26日付け訂正請求による訂正(訂正事項3)により、請求項5は、請求項3のみを引用するものに訂正された。 したがって、当審による取消理由で理由Cとして指摘した不備な点は解消され、本件の請求項5ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関して、特許異議申立書において、次のような記載不備(特許法第36条第6項第1号違反)の理由を主張している。 (1)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、電極の角部における薄肉部の平面形状が「正方形状」を有するものについての冷熱サイクル試験結果しか記載されておらず、角部における薄肉部の平面形状が、請求項1のように「第1および第2の辺と曲線状の部分とに囲まれた形状」の場合や、請求項2のように「三角形の形状」の場合についても、「冷熱サイクルが加わることによる熱応力の増加を抑制し、かつ熱抵抗の増加を抑制する」という作用効果を奏することについて何ら記載されていない。 (2)請求項1、2には、第1および第2の電極の厚みについて何ら記載(特定)されていないが、本件特許明細書の【表3】によれば、第1および第2の電極の少なくともいずれかの厚みが1.6mm以上の場合に「剥離有」となっており、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、第1および第2の電極の少なくともいずれかの厚みが1.6mm以上の場合にも「冷熱サイクルが加わることによる熱応力の増加を抑制し、かつ熱抵抗の増加を抑制する」という作用効果を奏することについて何ら記載されていない。 しかしながら、 上記(1)については、電極の角部における薄肉部の平面形状が、請求項1のように「第1および第2の辺と曲線状の部分とに囲まれた形状」の場合や、請求項2のように「三角形の形状」の場合というのは、「正方形状」の場合の変形例にすぎず、これらの場合の冷熱サイクル試験結果が記載されていなくても、「正方形状」の場合と同様、第1および第2の電極の少なくともいずれかの厚みを厚くしたとしても熱応力の増加が抑制され、熱応力の増加に起因する電極の剥離を抑制することができるという作用効果を奏することは、当業者であれば当然推測し得ることである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、請求項1のように「第1および第2の辺と曲線状の部分とに囲まれた形状」の場合や、請求項2のように「三角形の形状」の場合の冷熱サイクル試験結果が記載されていないからといって、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないとまではいえない。 また、上記(2)については、請求項1,2における、課題を解決するために必要な手段は、第1および第2の電極の少なくともいずれかの角部に薄肉部を形成したことであって、電極の厚みについては、電極自体の材料やサイズ、薄肉部のサイズなどに応じて剥離が生じない範囲で適宜定め得るものであるといえる。 したがって、請求項1,2において、第1および第2の電極の厚みの範囲(特に上限値)が特定されていないからといって、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないとはいえない。 よって、特許異議申立人が特許異議申立書において主張する上記(1)及び(2)はいずれも理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 絶縁基板と、 前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、 前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極とを備え、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶ曲線状の部分とに囲まれた平面形状を有する、絶縁回路基板。 【請求項2】 絶縁基板と、 前記絶縁基板の一方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつパワー半導体素子に接続されるために用いられる第1の電極と、 前記絶縁基板の前記一方の主表面と反対側の他方の主表面上に形成された、平面形状が多角形状でありかつ単層の第2の電極とを備え、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの平面視における頂点から外縁に沿う方向に関して前記外縁の長さの一部分を占める領域である角部に薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記薄肉部以外の領域よりも厚みが薄く、 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部は、前記頂点から前記外縁の一部として互いに直交する第1および第2の辺と、前記第1および第2の辺の前記頂点と反対側の端部を結ぶように前記第1および第2の辺に対して傾いた方向に延びる第3の辺とに囲まれた三角形の平面形状を有する、絶縁回路基板。 【請求項3】 前記薄肉部は前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの複数の頂点のうちの1つの前記頂点を含む平面形状を有しており、 前記薄肉部は、前記薄肉部に含まれる1つの前記頂点から、前記第1および第2の電極の少なくともいずれかにおける前記薄肉部以外の領域までの最短距離が、前記薄肉部の厚みの5倍以上10倍以下である、請求項1または2に記載の絶縁回路基板。 【請求項4】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの厚みが0.6mm以上1.5mm以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項5】 前記薄肉部の厚みが0.2mm以上0.4mm以下である、請求項3に記載の絶縁回路基板。 【請求項6】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかは、前記一方の主表面上または前記他方の主表面上において互いに間隔をあけて複数に分割されている、請求項1?5のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項7】 前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの前記薄肉部は、前記第1および第2の電極の少なくともいずれかの前記外縁に沿う外縁部において、前記外縁に沿って延びる延長部を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項8】 前記第1の電極は、前記一方の主表面または前記他方の主表面を覆うように形成された第1の層と、前記第1の層の表面を覆うように形成された第2の層とを含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の絶縁回路基板。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の前記絶縁回路基板と、 前記絶縁回路基板の表面上に載置された前記パワー半導体素子とを備える、パワーモジュール。 【請求項10】 前記パワー半導体素子はワイドバンドギャップ半導体により形成される、請求項9に記載のパワーモジュール。 【請求項11】 前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料またはダイヤモンドからなる群からなるいずれかである、請求項10に記載のパワーモジュール。 【請求項12】 請求項9?11のいずれか1項に記載の前記パワーモジュールがヒートシンクの表面上に載置された、パワーユニット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-01-18 |
出願番号 | 特願2016-551338(P2016-551338) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 秋山 直人 |
特許庁審判長 |
國分 直樹 |
特許庁審判官 |
井上 信一 関谷 隆一 |
登録日 | 2016-11-04 |
登録番号 | 特許第6033522号(P6033522) |
権利者 | 三菱電機株式会社 |
発明の名称 | 絶縁回路基板、パワーモジュールおよびパワーユニット |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |