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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1338129
異議申立番号 異議2017-700371  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-14 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6022260号発明「皮膚状態の評価方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6022260号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正することを認める。 特許第6022260号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6022260号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成24年8月22日に特許出願され、平成28年10月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 藤本 信男により特許異議の申立てがされ、平成29年7月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、同年10月5日付けでその訂正の請求を申立人に通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、特許異議申立人からは何ら応答がなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1及び2のとおりである。(下線は、訂正箇所として当審で付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含む、肌質評価方法。」
と記載されているのを、
「 被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う、肌質評価方法。」
と訂正する。
これにより、請求項1を引用する請求項2?10も同様に訂正される。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11に、
「被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含む、肌質試験方法。」
と記載されているのを、
「被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う、肌質試験方法。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1及び2の訂正事項に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には【0028】に「・・・IL-1RA測定後に、角層抽出液で抽出した後のテープに付着した角層サンプルをタンパク質加水分解物の定量に供した。」と、また【0030】に「・・・前述のIL-1RA量の測定を終えた角層サンプルを、乾燥させ、タンパク質分解物の定量に供した。・・・」と記載されていることから、「角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う」発明は明細書に記載されているものと認められる。
上記訂正事項1及び2の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において測定に用いる角質試料を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1に係る訂正前の請求項1?10について、請求項2?10はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし11に係る発明(以下「本件訂正発明1ないし11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「 【請求項1】
被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う、肌質評価方法。
【請求項2】
肌質が炎症の程度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
肌質が肌荒れの程度である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
肌質が、肌老化の程度である、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
肌質が、肌の光老化の程度である、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
タンパク質が分解されたタンパク質である、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
分解されたタンパク質がアルカリで分解された分解物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
角層試料におけるタンパク質の量を、オルトフタルアルデヒド法により測定する、請求項1?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
角層試料におけるインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量を、エンザイムイムノアッセイ法により測定する、請求項1?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
角層試料におけるタンパク質の量の測定を、インターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の測定を終えた角層試料を用いて行う、請求項1?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う、肌質試験方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許(以下、「本件特許発明1ないし11」という。)に対して平成29年7月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1について
本件特許発明1は、「肌質の指標」の基準となる「タンパク質の量」が「被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量」としか規定されていないから、「肌質の指標」の基準となる「タンパク質の量」として、角層抽出液で抽出されたタンパク質(いわゆる可溶性タンパク質)の量、角層抽出液で抽出する前の角層試料中の全タンパク質(いわゆる可溶性タンパク質と不溶性タンパク質の合計)の量、角層抽出液に溶けないタンパク質(いわゆる不溶性タンパク質)の量のいずれも含むものとなっている。
しかしながら、本件発明の実施例の「被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量」は、「被験者から採取された角層試料における」「角層抽出液」に溶けないタンパク質の量であり、本件明細書には、他の実施例は記載されていない。
また、タンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする際の「タンパク質の量」として、可溶性タンパク質の量、可溶性タンパク質と不溶性タンパク質の合計の量、不溶性タンパク質の量のいずれを採用しても同等の結果となるとの出願時の技術常識も存在しない。
そうすると、本件発明の実施例の角層抽出液に溶けないタンパク質の量を、角層抽出液で抽出されたタンパク質の量、角層抽出液で抽出する前の角層試料中の全タンパク質の量を含むタンパク質の量まで拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
そして、本件特許発明1を引用する本件特許発明2?10、及び、本件特許発明1と同じ指標を使用した、肌質試験方法である本件特許発明11にも上記本件特許発明1と同様の理由がある。
してみると、本件特許発明1ないし11に係る特許はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2について
本件特許発明2ないし5は、評価対象の肌質に関して、「炎症の程度」、「肌荒れの程度」、「肌老化の程度」及び「肌の光老化の程度」を、「被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率」を指標として評価している。
本件発明の詳細な説明では、「角層試料におけるタンパク質の量当たりのIL-1RAの量」と「肌のバリア機能の指標となる経表皮水分蒸散量(TEWL)」との相関を取っているだけであって、「肌のバリア機能の指標となる経表皮水分蒸散量(TEWL)」と「炎症の程度」、「肌荒れの程度」、「肌老化の程度」及び「肌の光老化の程度」との間に、何らかの関連があることは記載されているものの、「肌のバリア機能の指標となる経表皮水分蒸散量(TEWL)」から、「炎症の程度」、「肌荒れの程度」、「肌老化の程度」及び「肌の光老化の程度」のそれぞれの評価をどの様に行うのかは記載されていない。また、技術常識であるとは、認められない。
そうすると、本件発明の詳細な説明には、本件特許発明2?5を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
そして、本件特許発明2?5を引用している本件特許発明6?10についても上記本件特許発明2?5と同様の理由がある。
してみると、本件特許発明2ないし10に係る特許はいずれも、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3について
上記(1)で説示したとおり、本件特許発明1?11の「肌質の指標」の基準となる「タンパク質の量」には、角層抽出液で抽出されたタンパク質の量、角層抽出液で抽出する前の角層試料中の全タンパク質の量が含まれており、それらのタンパク質の量の場合において、本件特許発明1?11は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第10号証に記載された発明や、当該技術分野において周知の事項から、当業者が容易に想到できた発明である。
そうすると、本件特許発明1ないし11に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証 CINDY M. DE JONGH, MAARTEN M. VERBERK, CARIEN E. T. WITHAGEN, JOHN J. L. JACOBS, THOMAS RUSTEMEYER AND SANJA KEZIC、”Stratum corneum cytokines and skin irritation response to sodium lauryl sulfate”、CONTACT DERMATITIS、2006.06.発行、Vol.54、p.325-333

甲第2号証 Mary A. Perkins, Marcia A. Osterhues, Miranda A. Farage and Michael K. Robinson、”A noninvasive method to assess skin irritation and compromised skin conditions using simple tape adsorption of molecular markers of inflammation”、Skin Research and Technology、デンマーク、2001.11.発行、Vol.7、p.227-237

甲第3号証 de Jongh et al.、”Cytokines at different stratum corneum levels in normal and sodium lauryl sulphate-irritated skin”、Skin Research and Technology、2007.03.発行、Vol.13、p.390-398

甲第4号証 Terui et al.、”An increased ratio of interleukin-1 receptor antagonist to interleukin-1α in inflammatory skin diseases”、Exp. Dermatol.、デンマーク、1998.12.発行、Vol.7、p.327-334

甲第5号証 針谷 毅、平尾 哲二、横山 智子、市川 秀之、「いわゆる敏感肌の角層中IL-1receptor antagonist/IL-1α ratioに関する検討」、皮膚、日本、2001.02.発行、第43巻・第1号、第10-18頁

甲第6号証 HIRAO ET AL.、”Elevation of Interleukin 1 Receptor Antagonist in the Stratum Corneum of Sun-exposed and Ultraviolet B-irradiated Human Skin”、THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY、米国、1996.05.発行、Vol.106,No.5、p.1102-1107

甲第7号証 特開2009-174867号公報

甲第8号証 VASSINA ET AL.、”Increased Expression and a Potential Anti-Inflammatory Role of TRAIL in Atopic Dermatitis”、THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY、米国、2005.10.発行、Vol.125,No.4、p.746-752

甲第9号証 BARR ET AL.、”Suppressed Alloantigen Presentation, Increased TNF-α, IL-1, IL-1Ra, IL-10, and Modulation of TNF-R in UV-Irradiated Human Skin”、THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY、米国、1999.05.発行、Vol.112,No.5、p.692-698

甲第10号証 de Jongh et al.、”Differential cytokine expression in skin after single and repeated irritation by sodium lauryl sulphate”、Experimental Dermatology、日本、2007.09.発行、Vol.16、p.1032-1040

3 甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には,以下の記載がある。

(甲1a)甲第1号証にはテープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-1RAを定量すること、角層タンパク質量当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されている。(326頁右欄下6行?327頁右欄5行)

(甲1b)「ベースラインのSCサイトカインレベルとTEWL及び紅斑反応
対照部位のIL-1RAの量(ベースライン)と、単回SLS曝露後の部位の△TEWLと△紅斑度で、正の相関が認められた(表1、それぞれr=0.61とr=0.60;P<0.01、両側検定)。」(329頁右欄下9行?下3行)

(甲1c)「IL-1RAと、17日目(曝露最終日)に測定したA紅斑度との相関関係が認められた(r=0.53;P<0.05、両側検定)以外、ベースラインのSCサイトカインレベルと、繰り返しSLS曝露後の皮膚の反応に相関関係は認められなかった。」(330頁左欄7行?12行)

(甲1d)「我々は、SCのIL-1RAベースラインレベルが、単回SLS被曝後のTEWLと紅斑度に相関することを発見した。・・・また、IL-1RAベースラインレベルが高いと、繰り返しSLS被曝後の紅斑度の上昇がより大きいことが分かった。これらの結果から、SCのIL-1RAとIL-8のベースラインレベルが高い被験者では、皮膚刺激の反応がより強くなることが示唆された。」(331頁左欄下9行?右欄3行)

(甲1e)「我々は、さらに、IL-1RAとIL-8のベースラインレベルが皮膚過敏性の指標であることを明らかとした。」(331頁右欄下16行?右欄下14行)

(甲1f)「曝露のない皮膚と繰り返し曝露された皮膚のSCサイトカインレベル
繰り返しSLS曝露した部位からSCを完全に採取するために、合計28±4のテープを必要とし、対照部位では26±5のテープを必要とした。図3は、可溶性蛋白質含有量により標準化したサイトカイン(IL-1α、IL-1RA、IL-8)の量と、対照部位から得られたSCと繰り返しSLS曝露した部位から得られたSCでのIL-1RA/IL-1α比(21日目に測定)を示す。以下のサイトカインはどのSCサンプルからも検出されなかった(検出限界(LOD)値を括弧内に表示):IL-2(30pg/strip)、IL-6(6pg/strip)、IL-10(8pg/strip)、TNF-α(2pg/strip)。図3から分かるように、サイトカインレベルでかなりの個人差が認められた。対照部位と比較して、繰り返しSLS曝露後では、SC中で、IL-1αが30%低下(P=0.04、両側検定)し、IL-1RAが10倍増加(P<0.001、両側検定)した。」(328頁右欄下12行?329頁左欄9行)

(甲1a)?(甲1f)の記載から、甲第1号証には、IL-1RAレベルの高い人は、界面活性剤であるSLSの単回曝露によるTEWLの上昇や、紅斑が生じやすいこと、IL-1RAレベルの高い人は、SLSの繰り返し曝露による紅斑度のレベルが高いこと、IL-1RAは、SLSの繰り返し曝露で増加すること、SLSの繰り返し刺激を受けた肌のIL-1RA量は10倍に増加したこと、さらにはIL-1RAのレベルが皮膚過敏性の指標となることが記載されている。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

(甲2a)「2種目の乳幼児による臨床調査では、オムツかぶれの発生と重症度を、主観的な目視による等級分けにより評価した。セブテープサンプルを、等級分けされたかぶれ部位と正常に見える皮膚から採取し、テープ抽出物中のIL-1α(図示せず)、IL-1RA(図7aと7b)、IL-8(図8aと8b)を測定した。オムツかぶれ及び正常皮膚部位から採取し、全回収蛋白質で標準化したIL-1RA/全回収蛋白質量は、被験者によってある程度のばらつきを示した。かぶれの等級とIL-1RA/全回収蛋白質回収量の間に一方向の相関性が見られ、この傾向は特に高めの(等級2.5)オムツかぶれ部位において顕著であったが、これらのかぶれ部位では、IL-1RAのばらつきも大きかった(図7b)。」(233頁左欄下5行?右欄9行)

(甲2b)「図7 オムツ装着部位の皮膚反応の重症度とIL-1RA回収量の相関関係。対照とオムツかぶれ部位での標準化したIL-1RAレベルを全てのかぶれ等級別に示し、被験者別にはパネルaに示す(なお、被験者10、21、23のかぶれ部位の結果は示していない)。標準化したIL-1RAレベル(平均値±標準誤差)は、かぶれの等級の重症度と正の相関関係を示す(r^(2)=0.82;パネルb」。」(233頁図7脚注)

(甲2a)及び(甲2b)の記載を踏まえれば、甲第2号証には、テープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-RAを定量すること、全タンパク質当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されており、そしてオムツかぶれの炎症の増大に伴ってIL-1RAが増加することが記載されている。

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。

(甲3a)「試験1(正常皮膚)
非曝露部皮膚の角層から剥離したストリップ全数が同様の研究目的のテープであった。ダイヤモンドテープ24(20-32)ストリップ、D-スカム29(22-32)、センテガ24(20-50)(P>0.1;中央値(最小-最大))を用いた。ダイヤモンドテープは、全タンパく質の累積収率が高かった(表1)。一方可溶性タンパク質の収率は3つのテープとも同様だった(P>0.1,表1)。
(中略)ストリップ当たりの全蛋白量は、全テープとも低層の角層(SC)のレベルとして減少していた(図1a)。SCの上層から回収したタンパク質(最初の 8ストリップ)の総量は、それぞれダイヤモンド46±5%、D-スカム45.9±9%、センテガ51±12%であった。全タンパク質とは逆に、可溶性タンパク質は角層の全層で変化しなかった。」(392頁右欄最終段落?393頁左欄第3段落末尾)

(甲3b)「試験2:SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)曝露皮膚
試験では、サイトカイン回収用にセンテガテープを使用した。全30例(20-36歳)のテープは、SLS曝露部位と比較として26例(15-36歳)のコントロール部位からSCを完全採取することが必要であった(P=0.06中央値(最小一最大))。可溶性タンパク質の累積回収量は、SLS曝露部位皮膚のテープからは、非曝露部位と比較すると低かった(94±43μg可溶性タンパク質 142±79μg可溶性タンパク質:P=0.02)。
IL-1α、IL-1RA及びIL-8のサイトカイン総量は、SLSの繰り返し曝露部位とコントロール部位から得られた角層の上層、中層と下層については、可溶性タンパク質に基づいて標準化して図3に示した。IL-8は、コントロール部位では極めて低量であった。11検体が検出限界(LOD)ぎりぎりであった(0.86pg/ストリップ)。IL-8の値がLOD以下のサンプルは0.43pg/ストリップの値であった(=1/2 LOD)。コントロール部位と比較してSLS曝露部位の全SCで、可溶性タンパク質に対して標準化したIL-1αaは、30%低下した(P<0.05)。一方IL-1RAは10倍増加し、IL-8は4倍増加した(P<0.001)。非曝露部位皮膚では、同じようなサイトカイン濃度が、3つの部位で確認された(P>0.10、図3)。一方SLS刺激皮膚では異なる値を示した(図3)。低層では、IL-1αは中層、上層に比較して減少していた(それぞれP=0.09,P<0.07)。IL-1RAは、上層では、中層、下層に比較して減少する傾向を示していた(それぞれP=0.02,P<0.001)。IL-8は、上層に比較して中層で減少していた。」(393頁右欄下4行?395頁第1段落末尾)

(甲3c)甲第3号証にはテープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-1RAを定量すること、タンパク質当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されている。(391頁右欄第2段落?392頁左欄第1段落)

(甲3e)図l(Figl)からは、粘着性テープを用いて角層を採取する場合、角層の剥離条件や部位によって得られる全蛋白量は大きく変動するが、可溶性タンパク質は、変動が少なく安定であることを読み取ることができる。

(甲3f)図3中段(Fig3 IL-1RA)
図3中段のグラフからは、皮膚をラウリル硫酸ナトリウムに曝露すると皮膚角層中のIL-1RA量が増加することを読み取ることができる。

(甲3a)?(甲3f)の記載によれば、甲第3号証には、テープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-1RAを定量すること、タンパク質当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されており、さらに次の2点が記載されている。
A.皮膚から粘着テープで角層を剥離する場合、粘着テープに付着している全タンパく質量はテープの種類や条件によって大きく変動するが可溶性タンパク質の量は安定である。
B.ラウリル硫酸ナトリウムで刺激を受けた皮膚には、皮膚の角層中に対照にくらべて10倍量のIL-1RAが蓄積される。

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。

(甲4a)「表皮角質(SC)のIL-1α及びIL-ra濃度が日光曝露部位と日光遮蔽部位の間で異なること。最初に、われわれは顔、日光曝露部・体幹、手及び足を除く四肢、対照部位として比較的日光から隠れている部分から正常なSC試料を採取し、IL-1α及びIL-1raを測定した。SC抽出物中のIL-1α及びIL-1raの測定は特異的ELISA法を用いて行った。われわれは、既知の測定結果を参照することで、日光曝露部のSC試料のIL-1α及びIL-1ra含有量が、日光から隠れている部位の値より高濃度であることを確認した(表1?3)。その結果、SC試料のIL-1αに対するIL-1raの比は、大きな相違があることが確認された。すなわち顔では、77.6±14.5(平均値±SE,n=23)、体幹では1.4±0.3(平均値±SE,n=22)、四肢では2.2±0.3(平均値±SE,n=86)であった。このように最近の研究で、手及び足を除く四肢の3部位の比較が行われていた。」(329頁左欄7行?331頁左欄9行)

(甲4b)また甲第4号証には、テープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-RAを定量すること、タンパク質当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されている。(328頁右欄第3段落?329頁第1段落)

(甲4c)表l(Table1)には、健常人とアトピー性患者の顔皮膚のIL-1RA測定結果が記載されている。健常人のIL-1RA値とアトピー性患者のIL-1RA値を読み取ることができる。

(甲4d)表2(Table2)には、健常人とアトピー性患者、乾癖症、老人性乾皮症の体幹部皮膚のIL-1RA測定結果が記載されている。健常人のIL-1RA値とアトピー性患者の炎症部皮膚、乾癖症皮膚、老人性乾皮症の皮膚の炎症部IL-1RA値を読み取ることができる。

(甲4e)表3(Table3)には、健常人と健常人とアトピー性患者、乾癖症、老人性乾皮症の四肢部皮膚のIL-1RA測定結果が記載されている。健常人のIL-1RA値とアトピー性患者の炎症部皮膚、乾癖症皮膚、老人性乾皮症の皮膚の炎症部IL-1RA値を読み取ることができる。そして表1?3を通じてアトピー患者のIL-1RA値が高く、IL-1RA値は、皮膚の状態を反映していることが読み取れる。

(甲4f)さらに、表1?3から、健常者において露光部の顔より非露光部である体幹や四肢の方が低いと読み取れる。

(甲4a)?(甲4f)の記載によれば、甲第4号証には、皮膚角層のIL-1RAを測定することで皮膚の炎症状態や日光曝露の状態を知ることができることが記載されている。

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。

(甲5a)「その結果、敏感肌では単位タンパク(細胞数)あたりの角層IL-1α量が有意に低値であることとIL-1ra量が高値であることが認められ、その結果としてIL-1αの生物活性を示すIL-1ra/IL-1α 比としては敏感肌では高値を示した。」(12頁左欄第2段落)

(甲5b)また甲第5号証には、テープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-RAを定量すること、タンパク質当たりのIL-1RAで測定して評価することが記載されている。(11頁左欄第3段落?右欄第1段落)

(甲5c)13頁Fig2(b)からは、健常肌と敏感肌ではTEWLに相違があることが読み取れる。

(甲5d)また13頁Fig3(b)からは、健常肌と敏感肌のIL-raを比較して、敏感肌の方が高いことが読み取れる。

(甲5a)?(甲5d)の記載によれば、甲第5号証には、敏感肌では、TEWLが増加するが、IL-1RAも増加しており、皮膚角層のIL-1RAを測定することで敏感肌であることを評価できることが記載されている。

(6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。

(甲6a)「角層におけるIL-1αとIL-1raの含有量の部位間の相違
皮膚角層のIL-1αとIL-1raの含有量は、特異的ELSA法で測定した。図1に示すように、太陽光に曝露している部位(顔)は、太陽光から遮蔽されている部位(上腕内側)と比較して、IL-1RAが有意に多く、IL-1αが少なかった。したがって、IL-1αに対するIL-1ra比率において大きな差があった、太陽光曝露部角層における値、302±38(平均値±SEM n=64)と太陽光非曝露部位角層における値、7.4±0.9(平均値±SEM n=64)。IL-1βは、両方の部位の角層で検出されなかった。」(1103頁右欄第7段落2?11行)

(甲6b)「年齢との相関
角層におけるIL-1αとIL-1raの含有量の加齢の効果は、ELISA法を用いて試験した。結果は図4に散布図で示した。上腕内側部のIL-1α含量は、全年齢の顔の値より大きかった(図4a)。一方、上腕内側部のIL-1ra含量は、全年齢の顔の値より低値であった(図4b)。顔角層のIL-1αとIL-1raの含有量は、一定の値を示し、年齢に非依存的であった。しかしながら、上腕内側部の角層ではIL-1αは、加齢とともに増加する傾向であった。そしてIL-1raは加齢に伴って減少する傾向を示した。これらの結果は、上腕内側部の角層のIL-1αに対するIL-1ra比率の年齢依存性の減少を結論付けている(図4c)。加齢に伴うこの比率の低下は、嬰児において特に注目されている。嬰児は成人に比較して、顔と上腕内側部の局所的な差が殆ど認められない。性差による違いも認められない。」(1104頁右欄第2段落)

(甲6c)「UVB刺激によるIL-1raの誘導
UVB刺激は、刺激6?48時間後紅斑を含む、即発性の炎症をもたらす。続いて色素沈着と剥離が起こる。テープストリッピングによる角層のサンプルは、UV刺激後の様々な時点で採取した。そしてIL-1αとIL-1raの含有量を分析した。予備試験で角層におけるUVBの刺激量依存性反応としてIL-1ra誘導を試験した。UVBとして、1MED以上で2又は3MED(最小紅斑量)の刺激を与え、角層中のIL-1raの上昇を確認した(データなし)。さらに確定試験としてMEDの2倍値で試験を行った。結果を表1に示す。角層中のIL-1RAは、試験終了までに、わずかに増加しただけであった(有意差なし)。しかし角層中のIL-1raは皮膚の剥離を伴って、著しく増加した。UVB刺激によるIL-1raの容量は、pg/μgタンパク質、又はpg/mlで示した。すなわち角層中のピコグラム/面積を意味している。背部の、IL-1αに対するIL-1ra比率は、当初の4.9±2.2(平均値±SD)及び上腕内側部の値と同等である(背部は非曝露部位である)。刺激11?15日後には、この値は50を超えた。増加比率は、顔に近づいていた。背部をUVB刺激した後のIL-1αに対するIL-1ra比率に基づいて、太陽光曝露部の値に対する非曝露部の値の差に変換される。照射1ヵ月後においても、この比率は高いままであったが、低下してゆく傾向にあった。」(1104頁右欄第3段落?1105頁右欄2行)

(甲6d)また甲第6号証にはテープストリッピング法で角層を採取し、ELISA法でIL-1RAを定量すること、タンパク質当たりのIL-1RAで評価することが記載されている。(1103頁左欄第3、4段落)

(甲6e)図1b(Fig1b)から、太陽光に常時曝露されている顔のIL-1RA量は、太陽光にさらされていない上腕内側部のIL-1RA量よりも著しく高値を示すことが読み取れる。

(甲6f)図4b(Fig4b)から、上腕内側部のIL-1ra含量は、全年齢で、顔の値より低値であったことが読み取れる。顔角層のIL-1raの含有量は、年齢に依存的であることが読み取れる。

(甲6g)表1から、背部への紫外線照射によってIL-1RAは増加し、太陽光にさらされていない上腕内側部のIL-1RA量よりも著しく高値を示すことが読み取れる。

(甲6a)?(甲6g)の記載から、甲第6号証には太陽光曝露によって皮膚角層IL-1RAは増加し、常時太陽光にさらされる顔のIL-1RAは、太陽光にさらされていない上腕内側部のIL-1RA量よりも著しく高値を示すことが記載されている。

(7)甲第7号証
甲第7号証には,以下の記載がある。

甲第7号証の請求項1?3及び発明の詳細な説明には、角層をテープストリッピングにより採取し、この採取した角層から可溶性タンパク質を抽出して定量し、さらに抽出後のテープの不溶性タンパク質を還元剤で溶出したのち定量し、可溶性タンパク質定量値の不溶性タンパク質の定量値の比として求める方法が記載されている。

(8)甲第8号証
甲第8号証には,以下の記載がある。

(甲8a)「AD(アトピー性皮膚炎)症状の表皮は,IL-1Raの発現の増加が認められた。既報告の論文ではケラチノサイトがIL-1Raを発現していることを示唆している(Leverkus他,2003a)。われわれは,免疫蛍光法でAD患者と正常人皮膚の生検を行ったケラチノサイトのIL-1Ra発現量を比較した。AD症状の表皮のIL-1Raの発現量は、タクロリムス処理したAD患者皮膚及び正常人皮膚と比較してより大きな蛍光強度が観察された(Fig3)。染色は、細胞内に局在していた。症状のある皮膚の陽性細胞は、基底層を含む全体に分布しており、これに対して正常皮膚では、陽性細胞は基底層上に限られていた。」(748頁右欄4-12行)

(甲8b)また、甲第8号証には、IL-1RAをELISA法で測定することが記載されている。

(甲8c)またFig3(図3)には、アトピー性皮膚炎患者の皮膚と正常皮膚のIL-1RAの発現量を抗体染色した画像が掲載されており、IL-1RAはアトピー患者の皮膚に多く発現し、免疫抑制剤治療で低下することが理解できる。

(甲8a)?(甲8c)の記載によれば、甲第8号証には、皮膚角層中のIL-1RAがアトピー性皮膚炎の皮膚で増加し、皮膚の炎症状態の指標とすることができることが記載されている。

(9)甲第9号証
甲第9号証には,以下の記載がある。

(甲9a)「太陽光刺激性照射(SSR)誘導性IL-1α及びIL-16はTNF-αより遅れて出現するが持続する。しかしIL-1RaはSSR後全ての時間帯で増加する。IL-1αもIL-1βの両方ともSSRによって4又は8時間後TNF-αは上昇するが,刺激15時間後にIL-1α及びIL-1β含有量は刺激した皮膚において18例中12例及びボランティア11例中11例で増加した(図5、上段、中段)。コントロールの皮膚中からの浸出液中のIL-1αの分布は、大きなばらつきがあった(平均値±SD,151±208;中央値6.3、1?3の4分範囲、26-165pgIL-1α/ml;n=65)。コントロールの皮膚の浸出液10サンプルは、IL-1α>300pg/mlであった。このためIL-1αについてノンパラメトリック解析を行った。コントロール中のIL-1β濃度の個体間の変動性は実質的にIL-1αより低かった(図5中段)。15時間後のSSR誘発性IL-1βの増加(平均値±SD,41±11;刺激のない場合6.5±4.8pg/ml)は、IL-1α(中央値SSR刺激363、刺激なしll0pg/ml)より顕著であった(図6ab)。IL-1α及びIL-1βのいずれもTNF-αと異なり、皮膚刺激後72時間、濃度増加を維持した。4時点で測定したIL-1Raは、全てのボランティアにおいてSSR後増加した(図5下段、図6C)。」(694頁右欄最終段落?695頁左欄末尾)

(甲9b)図5下段からIL-1RAが太陽光の皮膚刺激によって増加することが読み取れる。また図6(C)から太陽光刺激によるIL-1RAの増加は、刺激から72時間以上経過しても低下しないことが読み取れる。

(甲9a)及び(甲9b)の記載によれば、甲第9号証には、太陽光により紅斑(炎症)が発生するような刺激で、皮膚にはIL-1RAが増加し、蓄積されることが記載されている。

(10)甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載がある。

(甲10a)「われわれは、経皮採取液(TDF)試料において、28種の炎症性メディエータの内17種を検出した。検出量の多い13種のメディエータの結果を図3に示す。・・・中略・・・。刺激に対して単回曝露した場合と繰り返し曝露した結果を図3に示す。皮膚刺激前後のIL-1αとIL-1RAの測定結果では、IL-1αのレベルは、単回刺激の場合、無刺激の部位のほぼ2倍(P=0.03)、一方IL-1RAは、繰り返し曝露すると、単回曝露の場合並びに無刺激部位との比較で2?3倍以上上昇した(P=0.008,P=0.05)。このことは、皮膚の単回刺激に対して、繰り返し刺激は、IL-1RAと IL-1αの比率で3倍以上になると結論付けられる(P=0.05)。」(1035頁左欄下3行?右欄23行)

(甲10b)また甲第10号証にはIL-1RAをELISA法で測定することが記載されている。(1034頁左欄下から14?12行)

(甲10c)Fig3(a)(図3(a))から、ラウリル硫酸ナトリウムによる刺激によって皮膚のIL-1RAが増加することが読み取ることができる。

(甲10a)?(甲10c)の記載によれば、甲第10号証には、界面活性剤の繰り返し刺激によって、皮膚には肌荒れが発生してIL-1RAが増加することが記載されている。

4 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 取消理由1について
本件特許発明1及び11のタンパク質の量の測定を行う角質試料が、訂正により、「水可溶性画分を抽出した後の角質試料」に訂正された。そうすると、本件訂正発明1及び11の「肌質の指標」の基準となる「タンパク質の量」が、不溶性タンパク質の量のみとなったから、取消理由1は解消した。

イ 取消理由2について
本件特許明細書には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付した。)
「 【0026】
・・・
本発明方法では、角層試料におけるタンパク質の量に対するIL-1RA量の比率を肌質の指標にする。タンパク質の量当たりのIL-1RAの量の値が高値であることは、肌質が悪いことを意味する。
【0027】
本発明方法は、被験角層試料におけるタンパク質の量に対するIL-1RA量の比率が基準値と比べて高い場合に、基準よりも肌質が悪い(肌荒れの程度が大きい、炎症の程度が大きい、肌のキメが乱れている、肌のバリア機能が低下している、老化の程度が大きい等)と評価、判定、又は判断する工程を含むことができる。・・・」

上記記載より、本件特許明細書には、角質試料におけるタンパク質の量に対するIL-1RAの量の比率が大きくなると、肌質が悪くなること、さらには、より具体的な肌質として、「肌荒れの程度」(請求項3)、「炎症の程度」(請求項2)、「老化の程度」(請求項4及び5)などが悪いほど、IL-1RAの量の比率が高値を示すことを明確に開示しているといえる。
そうすると、当業者であれば、IL-1RAの量の比率を測定し、その値が大きくなるにつれて、炎症等の具体的な症状を含めた肌質が悪化していると評価でき、このことは本件特許発明において規定するIL-1RAの比率が肌質の指標となることが理解でき、発明の詳細な説明の記載は当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。

ウ 取消理由3について
本件訂正発明1と甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明とを対比すると、甲各号証に記載された発明は、「角質試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角質試料を用いて行う」構成、即ち、「肌質の指標」の基準となる「タンパク質の量」を、不溶性タンパク質の量のみとする事項を有していない。そして、当該事項により、本件訂正発明1は、顕著な効果を奏するものであり、本件訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明ではないし、また、これらの発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?10、及び、本件訂正発明1と同じ指標を使用した、肌質試験方法である本件訂正発明11も、上記理由と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明ではないし、また、これらの発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由は、全て取消理由において採用したので、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角層試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角層試料を用いて行う、肌質評価方法。
【請求項2】
肌質が炎症の程度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
肌質が肌荒れの程度である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
肌質が、肌老化の程度である、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
肌質が、肌の光老化の程度である、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
タンパク質が分解されたタンパク質である、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
分解されたタンパク質がアルカリで分解された分解物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
角層試料におけるタンパク質の量を、オルトフタルアルデヒド法により測定する、請求項1?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
角層試料におけるインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量を、エンザイムイムノアッセイ法により測定する、請求項1?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
角層試料におけるタンパク質の量の測定を、インターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の測定を終えた角層試料を用いて行う、請求項1?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
被験者から採取された角層試料におけるタンパク質の量に対するインターロイキン1レセプターアンタゴニストの量の比率を肌質の指標とする工程を含み、角層試料におけるタンパク質の量の測定を、水可溶性画分を抽出した後の角層試料を用いて行う、肌質試験方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2012-183108(P2012-183108)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 536- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三木 隆  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
福島 浩司
登録日 2016-10-14 
登録番号 特許第6022260号(P6022260)
権利者 ロート製薬株式会社
発明の名称 皮膚状態の評価方法  
代理人 岩谷 龍  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 勝又 政徳  

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