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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
管理番号 1338130
異議申立番号 異議2017-700393  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-19 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6010544号発明「重質石油および他の炭化水素資源中の親分子のコアまたは構成単位の決定および親分子の再構築」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6010544号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6010544号の請求項1ないし3、7ないし9、11及び12に係る特許を維持する。 特許第6010544号の請求項4ないし6、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6010544号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)12月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年12月16日 米国、2011年6月24日 米国)を国際出願日として特許出願され、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 猪瀬則之 により特許異議の申立てがなされ、平成29年8月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月7日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年12月28日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、請求項1ないし12を一群の請求項として訂正することを求めるものであり、その具体的内容は、以下の訂正事項1ないし12のとおりである(下線は訂正箇所を表す。)。

(1)請求項1に係る訂正

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素」とあるのを、「少なくとも343℃の初期沸点を有する減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される重質石油炭化水素」に訂正する。

(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項1に「400?1350Da」とあるのを、「400?1200Da」に訂正する。

(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項1に「20kcal/モル(83.7kJ/モル)?40kcal/モル(167kJ/モル)」とあるのを、「35kcal/モル?40kcal/モル」に訂正する。

(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項1に「衝突エネルギー」とあるのを、「質量中心の衝突エネルギー」に訂正する。

(訂正事項5)
特許請求の範囲の請求項1に「イオン濃度」とあるのを、「2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度、」に訂正する。

(訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項1に「他の機器パラメータ」とあるのを、「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」に訂正する。

請求項1の訂正に伴い、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、7ないし9、11及び12も同様に訂正される。

(2)請求項4に係る訂正

(訂正事項7)
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)請求項5に係る訂正

(訂正事項8)
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)請求項6に係る訂正

(訂正事項9)
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)請求項10に係る訂正

(訂正事項10)
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(6)請求項11に係る訂正

(訂正事項11)
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?3および7?9のいずれか1項」に訂正する。

請求項11の訂正に伴い、請求項11を引用する請求項12も同様に訂正される。

(7)請求項12に係る訂正

(訂正事項12)
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?3、7?9および11のいずれか1項」に訂正する。

2 一群の請求項について

訂正前の請求項1ないし請求項12は、上記訂正事項1ないし6に係る請求項1の記載を請求項2ないし請求項12がそれぞれ直接又は間接的に引用しているものであるから一群の請求項であり、上記訂正事項1ないし12は、この一群の請求項について訂正を請求するものと認められ、これらの訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)請求項1に係る訂正について

ア 訂正の目的の適否

(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、「少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素」を、更に「減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される」少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、形成する分子イオン及び擬分子イオンの分子量の範囲に関して、訂正前の「400?1350Da」から「400?1200Da」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、衝突エネルギーの範囲に関して、訂正前の「20kcal/モル(83.7kJ/モル)?40kcal/モル(167kJ/モル)」から「35kcal/モル?40kcal/モル」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、「衝突エネルギー」を、「質量中心の」衝突エネルギーに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(オ)訂正事項5について
訂正事項5のうち、「2mg/10ccの試料濃度に基づく」を追加することは、「イオン濃度」を、「2mg/10ccの試料濃度に基づく」イオン濃度に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「イオン濃度」の後に「、」を追加することは、「イオン濃度」に「2mg/10ccの試料濃度に基づく」なる修飾語が付加されたことに伴い、前後の語句との関係を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(カ)訂正事項6について
訂正事項6は、「他の機器パラメータ」を、「0?10秒のイオン蓄積時間である」他の機器パラメータに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無

(ア)訂正事項1について
本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の段落【0004】に「減圧ガスオイルは、約343℃(650°F)?537℃(1000°F)で沸騰する原油留分である。減圧残油は、原油の減圧蒸留によって得られる残油であり、約537℃より高い温度で沸騰する。」と記載されていることから、減圧ガスオイル及び減圧残油が少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素であることが読み取れる。
そして、特許明細書等の請求項1には、コアを決定する対象として「少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素」と記載されており、その初期沸点は減圧ガスオイル及び減圧残油の初期沸点を包含している。
また、特許明細書等の段落【0070】に「石油留分のCID・・・減圧残油試料については、衝突エネルギーは30eVに設定される。・・・同様のCM衝突エネルギーを得るために、実験室エネルギーは、VGO試料のCIDについては20eVに設定される。」と記載されていることから、減圧残油及び減圧ガスオイル(VGO)に対して衝突遊離解離(CID)を行い、コアを決定することが読み取れる。
してみると、「少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素」を「少なくとも343℃の初期沸点を有する減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される重質石油炭化水素」に訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
特許明細書等の段落【0070】に「APPIによってイオン化される減圧残油分子は、400?1200Daの分子量範囲」と記載されていることから、形成する分子イオン及び擬分子イオンの分子量の範囲の上限を1200Daと訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3について
特許明細書等の段落【0085】に「35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーは、C1?C4置換コアへの残油分子の脱アルキル化を可能にする。」と記載されていることから、衝突エネルギーとして35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーを用いることが読み取れる。
よって、衝突エネルギーの下限を「35kcal/モル」に訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(エ)訂正事項4について
特許明細書等の段落【0021】に「フラグメンテーションパターンは、方程式1により実験室衝突エネルギー(eV単位でのElab)について定義される質量中心の衝突エネルギー(kcal/モル単位のECM)に従う。」と、段落【0085】に「35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーは、C1?C4置換コアへの残油分子の脱アルキル化を可能にする」と、それぞれ記載されていることから、衝突エネルギーとしてkcal/モル単位で表される質量中心の衝突エネルギーを用いることが読み取れる。
そして、特許明細書等の請求項1には、衝突エネルギーの数値として「20kcal/モル」、「40kcal/モル」とkcal/モル単位を用いた数値が記載されている。
してみると、「衝突エネルギー」を「質量中心の衝突エネルギー」に訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(オ)訂正事項5について
特許明細書等の段落【0026】に「すべての石油試料について、試料の濃度は、約2mg/10cc(約200ppm W/V)で調製される」と、段落【0071】に「すべてのVR DAO画分について、試料の濃度は、約2mg/10cc(約200ppm W/V)で調製される・・・」と記載されていることから、減圧ガスオイル及び減圧残油(VR)のDAO画分について2mg/10ccの試料濃度を用いることが読み取れる。
してみると、イオン濃度を「2mg/10ccの試料濃度に基づく」ものに訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
また、「イオン濃度」の後に「、」を追加することにより、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されないことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(カ)訂正事項6について
特許明細書等の段落【0036】に「品質保証(QA)試料のフラグメンテーションパターンを制御するために機器パラメータを調整する・・・b.衝突セル中のイオン蓄積時間は0?10秒で変わる」と記載されていることから、フラグメンテーションパターンを制御するための機器パラメータとして衝突セル中のイオン蓄積時間を用い、それを0?10秒に設定することが読み取れる。
そして、特許明細書等の請求項1に記載されたイオンのフラグメント化を制御する工程で用いるパラメータは、「衝突エネルギー」、「イオン濃度」及び「他の機器パラメータ」であることから、「衝突エネルギー」及び「イオン濃度」に該当しない「衝突セル中のイオン蓄積時間」は、「他の機器パラメータ」に包含されるものといえる。
よって、他の機器パラメータを「0?10秒のイオン蓄積時間である」ものに訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項6は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1ないし6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)請求項4、5、6及び10に係る訂正について

ア 訂正事項7について

訂正事項7は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項8について

訂正事項8は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項9について

訂正事項9は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項10について

訂正事項10は、請求項10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)請求項11及び12に係る訂正について

ア 訂正事項11について

訂正事項11は、請求項11において、引用する請求項から請求項4ないし6及び10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項12について

訂正事項12は、請求項12において、引用する請求項から請求項4ないし6及び10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

本件訂正により訂正された訂正請求項1ないし12に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、平成29年11月7日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
芳香族コアを有する分子を含み、少なくとも343℃の初期沸点を有する減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される重質石油炭化水素においてコアを決定する方法であって、
前記重質石油炭化水素を質量分析計内でソフトにイオン化して、400?1200Daの分子量を有する分子イオンおよび擬分子イオンを形成する工程と、
実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するために、前記イオンのヘテロ原子を含む脂肪族結合のみを壊すように、衝突セル中において、35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギーでの衝突誘起解離および2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度、ならびに0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータによって、質量分析計の内部で前記イオンのフラグメント化を制御する工程と
を含む方法。
【請求項2】
約95kcal/モル未満の結合エネルギーを有する結合が壊される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオンの芳香族-芳香族炭素結合、芳香族-脂肪族炭素結合および芳香族炭素-ヘテロ原子結合が壊されないままである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記フラグメント化の制御が、多重極蓄積支援解離によって増進される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フラグメント化の制御が、赤外多光子解離によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フラグメント化の制御が、衝突セル中かイオンサイクロトロン共鳴質量分析計のセル中かのいずれかで起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記イオン化工程がソフトイオン化であり、分子イオンまたは擬分子イオン構造が無傷のままである、請求項1?3および7?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記イオン化工程が、エレクトロスプレーイオン化、常圧化学イオン化、常圧光イオン化(または光子イオン化)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化、直接レーザー脱離イオン化および電界脱離イオン化の1つによって行われる、請求項1?3、7?9および11のいずれか1項に記載の方法。

2 取消理由及び申立理由の概要

(1)訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対して平成29年8月4日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

ア 取消理由1

請求項1ないし12に係る発明は、「衝突エネルギー」がどのようなエネルギーを意味するのかが不明瞭であることから明確でない。よって、請求項1ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由2

本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、以下の(ア)ないし(カ)の点で当業者が請求項1ないし12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。よって、請求項1ないし12に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(ア)衝突エネルギー29kcal/モルの場合のC22アルキル化ジ-ナフチルエタンのCID質量スペクトルからは、20kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の衝突エネルギーでの衝突誘起解離により、C22アルキル化ジ-ナフチルエタンから実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成することができるか否かは、不明である。

(イ)分子イオン及び擬分子イオンの分子量と採用可能な衝突エネルギーとの関係を示す記載がないことから、少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素に含まれる全ての化合物の分子量に対して採用可能な衝突エネルギーを特定することは、当業者に期待し得る程度を超える過度の実験を要するものと認められる。

(ウ)発明の詳細な説明に記載された極少数のモデル化合物が、CIDによるフラグメント化に関して、少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素に含まれる化合物を代表し得るものであるとは認められない。

(エ)CID生成物分布に影響を及ぼす因子である「衝突エネルギー」、「イオン濃度」及び「他の機器パラメータ」の適切な範囲の組合せが示されていない。

(オ)請求項4に係る発明を具現化するための具体的な記載がない。

(カ)請求項5に係る発明を具現化するための具体的な記載がない。

ウ 取消理由3

上記取消理由2に示したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1ないし12は、発明の詳細な説明に記載したものということもできない。よって、請求項1ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、要旨次のとおりである。

ア 申立理由1-1
請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由1-2
請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 証拠方法
甲第1号証:D.J.Porter,P.M.Mayer,“Analysis of Petroleum Resins Using Electrospray Ionization Tandem Mass Spectrometry”,Energy & Fuels,2004,Vol.18,No.4,p.987-994
甲第2号証:特開2008-058281号公報
甲第3号証:宮林恵子,鳥居孝洋,“質量分析法による重質油の詳細構造解析”,PETROTECH,2010年8月,第33巻,第8号,p.589-593
甲第4号証:Keiko Miyabayashi,Yasuhide Naito,Mikiko Miyake,“Characterization of Heavy Oil by FT-ICR MS Coupled with Various Ionization Techniques”,Journal of the Japan Petroleum Institute,2009,Vol.52,No.4,p.159-171
甲第5号証:湯川泰秀,向山光昭監訳,“パイン有機化学[1]”,第5版,株式会社廣川書店,平成9年2月25日,p.40-43
甲第6号証:田中隆三,“石油精製における重質油の構造と反応性”,PETROTECH,1999年11月,第22巻,第11号,p.898-904
甲第7号証:特開2005-166369号公報
甲第8号証:特開2005-183328号公報
甲第9号証:特開2009-014424号公報
甲第10号証:特開2006-351532号公報
甲第11号証:特開2010-248476号公報
甲第12号証:特開2010-261725号公報

エ 申立理由2
平成28年3月23日付けの手続補正書によりなされた請求項1に「少なくとも343℃の初期沸点を有する」及び「20kcal/モル(83.7kJ/モル)?40kcal/モル(167kJ/モル)の範囲内」なる記載を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでない。よって、請求項1ないし12に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

オ 申立理由3-1
請求項1ないし12に係る発明は、請求項1に「実質的に」なる記載、請求項2に「約」なる記載があることから明確でない。よって、請求項1ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 当審の判断

(1)取消理由1について

本件訂正により、請求項1に記載の「衝突エネルギー」が「質量中心の衝突エネルギー」に特定されたことにより、「衝突エネルギー」の意味する内容は明瞭になった。
よって、本件発明1ないし12が明確でないとはいえず、当審の取消理由1によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2について

ア 本件訂正により、請求項1における衝突エネルギーの範囲は、「20kcal/モル(83.7kJ/モル)?40kcal/モル(167kJ/モル)の範囲内の衝突エネルギー」から「35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギー」に限定された。

特許明細書等の、「CIDがオンの場合、フラグメンテーションの程度は、衝突エネルギーの増加とともに増加する。」(段落【0060】)、「減圧残油試料については、衝突エネルギーは30eVに設定される。APPIによってイオン化される減圧残油分子は、400?1200Daの分子量範囲および約700Daのピークを有する。これは、約37kcal/モルの平均CM衝突エネルギーになる。モデル化合物研究に基づき、このエネルギーは、分子のほとんどをC1?C3置換コアへ変換するはずである。」(段落【0070】)、及び「35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーは、C1?C4置換コアへの残油分子の脱アルキル化を可能にする。」(段落【0085】)との記載に鑑みれば、「35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギー」により、実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成することができるものと理解できる。

イ また、「35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギー」により、実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成することができるものと理解できることから、採用可能な衝突エネルギーを特定することは、当業者に期待し得る程度を超える過度の実験を要するものとはいえない。

ウ 本件特許の発明の詳細な説明に記載されたモデル化合物が、シングルコアを有するジ-C16アルキルナフタレン及びジ-C16アルキルジベンゾチオフェン、並びに、マルチコアを有するビナフチルテトラデカン、ナフタレン-C14-ピレン、ジベンゾチオフェン-C14-フェナントレン、カルバゾール-C14-フェナントレン、C22アルキル化p-ジ-トリルメタン及びC22アルキル化ジ-フェニルスルフィドと、イオン化ポテンシャルの異なる複数種のコア構造を包含していることに鑑みれば、これらのモデル化合物が、CIDによるフラグメント化に関して、少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素に含まれる化合物を代表し得るものであるといえる。

エ 本件訂正により、請求項1において、衝突エネルギーの範囲に加え、「イオン濃度」が「2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度」に、「他の機器パラメータ」が「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」に、それぞれ特定されたことにより、「衝突エネルギー」、「イオン濃度」及び「他の機器パラメータ」の適切な範囲の組合せは、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載において整合するものとなった。

オ 本件訂正により、請求項4は削除された。

カ 本件訂正により、請求項5は削除された。

キ 以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1ないし12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。よって、当審の取消理由2によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3について

上記(2)に示したように、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件発明1ないし12は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。よって、当審の取消理由3によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由1-1について

甲第1号証には、「原油、燃料油及びディーゼルに対して、エレクトロスプレイイオン化タンデム質量分析装置を用いて、衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを求め、構成成分を分析する発明」が記載されているものと認める。
しかしながら、甲第1号証には、実験室衝突エネルギーとして複数の値を用いたことが記載されているものの、本件発明1の発明特定事項に係る「実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するために、前記イオンのヘテロ原子を含む脂肪族結合のみを壊すように、衝突セル中において、35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギーでの衝突誘起解離および2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度、ならびに0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータによって、質量分析計の内部で前記イオンのフラグメント化を制御する工程」(以下「本件発明特定事項」という。)については記載されていないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
よって、特許異議申立人の申立理由1-1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(5)申立理由1-2について

本件発明特定事項は、甲第1号証のみならず、甲第2号証ないし甲第12号証にも記載されていない。
そして、甲第1号証ないし甲第12号証には、重質石油炭化水素に対するイオンのフラグメント化において、実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するように行うことを示唆する記載はなく、重質石油炭化水素のコア構造の分析においてそのようなフラグメント化を行うことが、本件特許についての出願の優先権主張日当時における技術常識であったとも認められない。
してみると、甲第1号証ないし甲第12号証に接した当業者といえども、本件発明特定事項を容易に想起することができたとはいえないから、本件発明1ないし12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、特許異議申立人の申立理由1-2によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(6)申立理由2について

ア 当初明細書等の段落【0070】に「石油留分のCID・・・減圧残油試料については、衝突エネルギーは30eVに設定される。・・・同様のCM衝突エネルギーを得るために、実験室エネルギーは、VGO試料のCIDについては20eVに設定される。」と記載されていることから、減圧残油及び減圧ガスオイル(VGO)に対して衝突遊離解離(CID)を行い、コアを決定することが読み取れる。
また、当初明細書等の段落【0004】に「減圧ガスオイルは、約343℃(650°F)?537℃(1000°F)で沸騰する原油留分である。減圧残油は、原油の減圧蒸留によって得られる残油であり、約537℃より高い温度で沸騰する。」と記載されていることから、減圧ガスオイル及び減圧残油が少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素であることが読み取れる。
してみると、コアを決定する対象である「重質石油炭化水素」を「少なくとも343℃の初期沸点を有する重質石油炭化水素」に補正することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

イ 本件訂正により、請求項1の記載において、衝突エネルギーの範囲の下限値は、「35kcal/モル」に訂正された。
当初明細書等の段落【0085】に「35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーは、C1?C4置換コアへの残油分子の脱アルキル化を可能にする。」と記載されていることから、衝突エネルギーとして35?40kcal/モルの質量中心の衝突エネルギーを用いることが読み取れる。
よって、衝突エネルギーの下限を「35kcal/モル」に訂正することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

ウ 以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立理由2によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(7)申立理由3-1について

ア 請求項1の「実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するために」なる記載における「実質的に」は、生成される芳香族コアが厳密にC1?C3置換芳香族コアのみでなくてもよいことを意味するものと解される。

イ 請求項2の「約95kcal/モル未満の結合エネルギーを有する結合が壊される」なる記載における「約」は、壊される結合が厳密に95kcal/モル未満の結合エネルギーを有する結合のみでなくてもよいことを意味するものと解される。

ウ よって、請求項1に「実質的に」なる記載及び請求項2に「約」なる記載があることにより、本件発明1ないし12が不明確になっているとはいえない。

エ 以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立理由3-1によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

(8)特許異議申立人の意見書による主張について

特許異議申立人は、平成29年12月28日付け意見書において、概ね、ア)訂正要件を満たしていない、イ)新たな取消理由が発生している、ウ)取消理由が解消していない、の3点について主張しているが、これらについては以下のとおりであり、意見書の主張によって本件特許を取り消すには至らない。

ア 訂正要件を満たしていないことについて

訂正事項1に係る「減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される」こと、訂正事項3に係る衝突エネルギーが「35kcal/モル?40kcal/モル」の範囲内であること、訂正事項4に係る衝突エネルギーが「質量中心の」衝突エネルギーであること、訂正事項5に係るイオン濃度が「2mg/10ccの試料濃度に基づく」ものであること、訂正事項6に係る他の機器パラメータが「0?10秒のイオン蓄積時間である」ことについて、訂正要件を満たしていないことを主張しているが、上記第2の3で述べたように、これらの訂正事項は、いずれも特許法第120条の5第2項、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項に規定する全ての訂正要件を満たすものである。

イ 新たな取消理由の発生について

「35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギー」、「2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度」及び「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」は不明確であり、「2mg/10ccの試料濃度」は発明の詳細な説明の記載によりサポートされておらず、「2mg/10ccの試料濃度」及び「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」に関して実施可能要件違反であることを主張している。
しかしながら、「35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギー」、「2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度」及び「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」は、いずれも明確に特定されるものである。
そして、「2mg/10ccの試料濃度」については、特許明細書等の段落【0071】には、アスファルテン試料の濃度を約500ppmとすることが記載されているが、その理由は、同段落の記載によれば「不十分な感度を有する」ためであり、段落【0026】に「すべての石油試料について、試料の濃度は、約2mg/10cc(約200ppm W/V)で調製される」と記載されていることを併せて勘案すれば、試料濃度2mg/10ccのアスファルテン試料を用いてフラグメント化を行うことは不可能ではなく、段落【0071】の記載は、試料濃度2mg/10ccのアスファルテン試料を用いることを排除するものとはいえない。よって、「2mg/10ccの試料濃度」は、サポート要件違反でも、実施可能要件違反でもない。
さらに、「0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータ」における「0」は、技術常識上、限りなく0に近い数値を含む程度の意味であり、実施可能要件違反ではない。

ウ 取消理由が解消していないことについて

上記(1)ないし(3)で述べたように、いずれの取消理由も解消されている。
特に、「実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するため」と特許明細書等の段落【0085】の「C1?C4置換コア」との対応関係について、図5及び図14等の記載を参照しても明らかなとおり、35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギーによってC1?C3置換芳香族コアのみを生成するということではなく、大方C1?C3置換芳香族コアが発生するが、それら以外にも、例えば、C4の置換芳香族コアも多少発生し得るという意味での「実質的」であり、当該事項が何ら不明確でも、発明の詳細な説明に記載されていないものでも、実施可能要件を満たさないものでもない。

エ 特許法第29条関連の申立理由について

特許異議申立人は、「万一本件訂正が認められたとしても、後述のとおり、依然として本件取消理由通知に記載の取消理由(明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反)によって特許取消を免れません。」(意見書第1頁下から2行?第2頁1行)と記載しているように、特許法第29条関連については、特許異議申立書に記載した以上の主張はしていない。

4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3、7ないし9、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1ないし3、7ないし9、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により請求項4ないし6及び10が削除されたため、本件特許の請求項4ないし6及び10に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族コアを有する分子を含み、少なくとも343℃の初期沸点を有する減圧残油および減圧ガスオイルからなる群から選択される重質石油炭化水素においてコアを決定する方法であって、
前記重質石油炭化水素を質量分析計内でソフトにイオン化して、400?1200Daの分子量を有する分子イオンおよび擬分子イオンを形成する工程と、
実質的にC1?C3置換芳香族コアを生成するために、前記イオンのヘテロ原子を含む脂肪族結合のみを壊すように、衝突セル中において、35kcal/モル?40kcal/モルの範囲内の質量中心の衝突エネルギーでの衝突誘起解離および2mg/10ccの試料濃度に基づくイオン濃度、ならびに0?10秒のイオン蓄積時間である他の機器パラメータによって、質量分析計の内部で前記イオンのフラグメント化を制御する工程と
を含む方法。
【請求項2】
約95kcal/モル未満の結合エネルギーを有する結合が壊される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオンの芳香族-芳香族炭素結合、芳香族-脂肪族炭素結合および芳香族炭素-ヘテロ原子結合が壊されないままである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記フラグメント化の制御が、多重極蓄積支援解離によって増進される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フラグメント化の制御が、赤外多光子解離によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フラグメント化の制御が、衝突セル中かイオンサイクロトロン共鳴質量分析計のセル中かのいずれかで起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記イオン化工程がソフトイオン化であり、分子イオンまたは擬分子イオン構造が無傷のままである、請求項1?3および7?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記イオン化工程が、エレクトロスプレーイオン化、常圧化学イオン化、常圧光イオン化(または光子イオン化)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化、直接レーザー脱離イオン化および電界脱離イオン化の1つによって行われる、請求項1?3、7?9および11のいずれか1項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2013-544567(P2013-544567)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 536- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 裕美  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6010544号(P6010544)
権利者 エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー
発明の名称 重質石油および他の炭化水素資源中の親分子のコアまたは構成単位の決定および親分子の再構築  
代理人 吉田 環  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  
代理人 福政 充睦  
代理人 鮫島 睦  
代理人 言上 惠一  
代理人 言上 惠一  
代理人 新免 勝利  
代理人 新免 勝利  
代理人 福政 充睦  

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