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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F21S
審判 一部申し立て 特29条の2  F21S
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F21S
管理番号 1338131
異議申立番号 異議2017-700550  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-31 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6039947号発明「車両用灯具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6039947号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、4〕、3について訂正することを認める。 特許第6039947号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6039947号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年7月13日に特許出願され、平成28年11月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許の請求項1に係る特許について、特許異議申立人 小宮邦彦により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年8月17日付けで取消理由を通知し、同年10月20日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。
なお、当審において、平成29年11月16日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をし、特許異議申立人に、期間を指定して前記訂正の請求に対して意見書を提出する機会を与えたが、何らの応答もなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成29年10月20日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
なお、下線部は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられることを特徴とする車両用灯具。」
とあるのを、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記リフレクタを支持する共通のブラケットと、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材、前記リフレクタ、前記ブラケット及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記リフレクタは、前記光路と交わらないように、且つ前記保護部材よりも前記レーザ光源の近傍に位置するように設定され、
前記ブラケットは、前記ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられることを特徴とする車両用灯具。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記保護部材は、レーザ光を受けて発光する発光部材を含む請求項1に記載の車両用灯具。」
とあるのを、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記保護部材は、レーザ光を受けて発光する発光部材を含むことを特徴とする車両用灯具。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねる請求項1又は2に記載の車両用灯具。」
とあるうち、請求項1を引用するものを、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねることを特徴とする車両用灯具。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねる請求項1又は2に記載の車両用灯具。」
とあるうち、請求項2を引用するものを新たな請求項4として、
「前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねる請求項2に記載の車両用灯具。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0006】を、
「【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、レーザ光源、発光部材及びリフレクタを支持する共通のブラケットと、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材、リフレクタ、ブラケット及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、リフレクタは、光路と交わらないように、且つ保護部材よりもレーザ光源の近傍に位置するように設定され、ブラケットは、ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられる。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0008】を、
「【0008】
本発明の他の態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、保護部材は、レーザ光を受けて発光する発光部材を含む。この態様によれば、発光部材の全部又は一部が本来あるべき位置から消失したことを発見しやすくすることができる。上記態様において、保護部材は、エクステンション部材を兼ねてもよい。
また、本発明のさらに他の態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、保護部材は、エクステンション部材を兼ねる。」
に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に「リフレクタ」及び「ブラケット」を車両用灯具の構成として追加するとともに、「リフレクタ」の配置及び「ブラケット」の取り付け態様を追加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
本件特許の願書に添付した明細書には、
「【0013】
灯具ユニット10は、・・・ブラケット部12と、発光部材搭載部14と、発光部材16と、レーザ光源18と、リフレクタ20と、シェード部22と、投影レンズ24と、放熱フィン26と、保護部材28とを備える。」
「【0023】
発光部材16の上側露出面16bから出射された白色光Wは、リフレクタ20の反射面20aで反射され、・・・投影レンズ24に入射する。投影レンズ24に入射した光は、投影レンズ24から略平行な光として灯具前方に照射される。・・・」
「【0025】
・・・しかしながら、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失すると、紫外レーザ光が発光部材16で波長変換されることなく、発光部材16の先の光路Pを進行してランプボディ2や透光カバー4等の部材に照射されてしまい、これらの部材が損傷してしまうおそれがある。」
と記載されている。
段落【0013】、【0023】の上記記載は、「発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタ」との事項を示しているといえ、また、段落【0025】の上記記載は【図1】を併せみれば、「リフレクタは、光路と交わらないように、且つ保護部材よりもレーザ光源の近傍に位置するように設定され」ているとの事項を示しているといえる。
また、本件特許の願書に添付した明細書には、
「【0014】
・・・ブラケット部12の灯具前方側の主表面には、発光部材搭載部14が固定されている。・・・ブラケット部12は、辺縁部の所定位置に螺孔を有し、ランプボディ2を貫通して前方に延出するエイミングスクリュー30がこの螺孔に螺合している。これにより、ブラケット部12がランプボディ2に取り付けられている。車両用灯具1は、エイミングスクリュー30によって、灯具ユニット10の光軸を水平方向あるいは鉛直方向に調整することができる。・・・」
「【0016】
・・・発光部材16は、枠状の支持部材32を介して発光部材搭載部14に固定されている。・・・」
「【0017】
・・・レーザ光源18は、ブラケット部12に設けられた開口12aに挿通されて、ブラケット部12に固定されている。・・・」
「【0020】
リフレクタ20は、・・・発光部材16の上方に配置されて発光部材搭載部14に固定されている。・・・」
と記載されている。
上記の段落の記載は、「レーザ光源、発光部材及びリフレクタを支持する共通のブラケット」との事項、「ブラケットは、ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられる」との事項を示しているといえる。
そして、段落【0013】の上記記載及び【図1】は、「リフレクタ」及び「ブラケット」を備えた「灯具ユニット10」がランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容されていることを示しているといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に発明特定事項を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するといえる。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する記載であった訂正前の請求項2の記載を、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは、明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するといえる。

(3)訂正事項3、4について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項3の記載は、訂正前の請求項1または2を引用する記載であった。
(ア)
訂正事項3は、訂正前の請求項3のうちの、訂正前の請求項1を引用する記載であった訂正前の請求項3の記載を、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。
(イ)
訂正事項4は、訂正前の請求項3のうちの、訂正前の請求項2を引用する記載であった訂正前の請求項3の記載を、訂正後の請求項2を引用する請求項の記載に改める訂正である。
訂正事項4は、訂正前の請求項3に対して、訂正事項3により訂正前の請求項1を引用する部分が独立形式請求項に改められたことに伴い、残された請求項2を引用する部分について訂正の前後において整合を図るためになされた訂正といえる。
そうすると、訂正事項4は、訂正事項3による訂正に伴いなされた、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは、明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するといえる。
訂正事項4は、訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項3を、訂正後の請求項2を引用する請求項4とするものである。
ここで、訂正事項2による請求項2の訂正は、訂正の前後において内容の変更を伴うものではないので(上記「(2)イ」を参照)、訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項3と、訂正後の請求項2を引用する請求項4との間に、内容の変更はない。
よって、訂正事項4は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは、明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するといえる。

(4)訂正事項5、6
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正事項1により特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、対応する明細書の記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
訂正事項6は、訂正事項2?4により特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、対応する明細書の記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1?4は、上記「(1)イ」、「(2)イ」、「(3)イ」で述べたとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは、明らかであるので、訂正事項5、6も同様であることは明らかといえる。
よって、訂正事項5、6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するといえる。

(5)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の要件は課されない。
訂正事項2?6は、それらの訂正の目的からみて、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の要件は課されない。

(6)一群の請求項
訂正前の請求項2、3は訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるので、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項〔1?4〕は、一群の請求項である。
よって、訂正事項1?4は、一群の請求項ごとに請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

訂正事項5、6は、訂正事項1?4の訂正に伴いなされた明細書の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する

(7)別の訂正単位とする求め
特許権者は、訂正事項2?4による訂正後の請求項2?4についての訂正が認められる場合には、請求項2?4は、請求項1とは別途訂正することを求めており(訂正請求書15頁5?9行)、これを認め、訂正後の請求項〔2、4〕及び訂正後の請求項3を訂正後の請求項1とは別の訂正単位とすることを認める。

(8)小括
以上のとおりであるので、訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、〔2、4〕、3について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記リフレクタを支持する共通のブラケットと、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材、前記リフレクタ、前記ブラケット及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記リフレクタは、前記光路と交わらないように、且つ前記保護部材よりも前記レーザ光源の近傍に位置するように設定され、
前記ブラケットは、前記ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられることを特徴とする車両用灯具。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して平成29年8月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[取消理由1]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[取消理由2]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[取消理由3]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開がされた下記の特許出願(先の出願6)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-119170号公報
引用文献2:特開2012-99279号公報
引用文献3:特開2007-294203号公報
引用文献4:特開2010-218728号公報
引用文献5:特開2007-59075号公報
先の出願6:特願2011-245923号(特開2013-101887号 参照)

3.引用文献等に記載の事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明1
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

「【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子から出射された励起光を受けて可視光を出射する蛍光体と、
前記蛍光体から出射された可視光を反射させる反射面を有するリフレクタと、
を備える車両用灯具において、
前記リフレクタの反射面は、前記蛍光体から当該反射面に入射した前記励起光を拡散させるか、当該励起光を前記蛍光体へ反射させるか、又は当該励起光を当該反射面の後方へ透過させる光学構造を有することを特徴とする車両用灯具。」

「【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【0002】
従来、自動車用ヘッドライトなどの車両用灯具として、光源に半導体発光素子と蛍光体を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の車両用灯具では、半導体発光素子から蛍光体へ励起光(例えば青色光)を照射することによって、蛍光体が励起されて発する光(例えば黄色光)と励起光とを混色させて可視光(例えば白色光)を出射させ、この可視光を投影レンズ等の光学系によって車両前方へ投影している。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の車両用灯具では、一部の励起光が蛍光体で正反射されるなどして、所定の色に混色されることなくそのまま投影レンズ等から出射されてしまうため、投影像に部分的な色ムラが生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、投影像の色ムラを抑制することのできる車両用灯具の提供を課題とする。」

「【0010】
本発明によれば、リフレクタの反射面が、蛍光体から当該反射面に入射した励起光を拡散させるか、当該励起光を蛍光体へ反射させるか、又は当該励起光を当該反射面の後方へ透過させる光学構造を有するので、蛍光体で可視光とされなかった一部の励起光が反射面に入射すると、当該励起光は光学構造によって拡散されるか、蛍光体へ反射されるか、又は後方へ透過される。したがって、励起光が半導体発光素子から出射された強度のまま灯具外へ出射されることを防止でき、ひいては投影像の色ムラを抑制することができる。」

「【0014】
図2に示すように、車両用灯具1は、レーザーダイオード(以下、LDという)11と、蛍光体12と、リフレクタ13と、シェード14と、投影レンズ15とを備えている。
このうち、LD11は、本発明に係る半導体発光素子であり、蛍光体12の励起光としての青色のレーザー光を上方へ向けて出射する。また、LD11は、左右方向(図2の紙面垂直方向)に長尺なレーザー出射口を有しており、左右方向に幅広なレーザー光を出射する。」

「【0032】
[2 第二の実施形態]
続いて、本発明の第二の実施形態について説明する。なお、上記第一の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
図1に示すように、車両用前照灯100は、透光カバー101で前方を覆われた灯室内に本第二の実施形態における複数の車両用灯具2,…を備えており、これら複数の車両用灯具2,…から照射される光によって車両前方にすれ違い配光パターンを形成する。
【0034】
図6は、車両用灯具2の側断面図である。
この図に示すように、車両用灯具2は、上記第一の実施形態と同様に構成されたLD11,シェード14及び投影レンズ15の他、蛍光体22と、リフレクタ23と、集光レンズ27とを備えており、青色光を蛍光体22の下面から上面へ透過させるように構成されている点で上記第一の実施形態における車両用灯具1と異なっている。
・・・
【0036】
蛍光体22は、上記第一の実施形態における蛍光体12と同様の蛍光材料であり、上面及び下面を露出させた状態で集光レンズ27の上方に配置されている。この蛍光体22は、集光レンズ27によって集光されたLD11からの青色光を下方から受けて白色光を上方へ放射状に出射するように構成されており、上面及び下面の面積が青色光の集光スポット径の面積と略同一となるように形成されている。
【0037】
リフレクタ23は、下方斜め前方に開口する湾曲板状に形成され、蛍光体22の上方を覆うように配設されている。リフレクタ23の下面は、蛍光体22の上面に対向する反射面231を構成している。
【0038】
反射面231は、蛍光体22の位置を第1焦点とする回転楕円面が基調とされた自由曲面であり、離心率が鉛直断面から水平断面に向かって徐々に大きくなるように形成されている。この反射面231は、蛍光体22から上方へ出射された白色光を、鉛直断面ではシェード14のやや前方に集光させ、水平断面に向かうにつれて徐々に前方に集光させるように反射させる。
また、反射面231には、表面に荒らし加工が施された拡散部Dが形成されている。拡散部Dは、反射面231のうち、集光レンズ27で集光されて蛍光体22を上方へ透過した青色光が照射される部分に形成されている(図7(a)参照)。この拡散部Dは、本発明に係る光学構造であり、蛍光体22で白色光とされずに当該蛍光体22を透過して反射面231に入射した青色光を拡散させる。
【0039】
以上の構成を具備する車両用灯具2では、図7(a)に示すように、LD11から出射された青色光(励起光)が集光レンズ27によって蛍光体22に集光され、その殆どが白色光とされて上方へ出射される。このとき、蛍光体22に集光された青色光の一部が白色光とされずに蛍光体22を透過して反射面231に向かうものの、反射面231の拡散部Dに入射して拡散されるため、青色光がLD11から出射された強度のまま投影レンズ15から出射されることを防止できる。
蛍光体22から出射された白色光は、図7(b)に示すように、リフレクタ23の反射面231で反射されて投影レンズ15から車両前方へ照射され、上記第一の実施形態と同様にすれ違い配光パターンが形成される。
【0040】
以上の車両用灯具2によれば、上記第一の実施形態における車両用灯具1と同様の効果を奏することができる。すなわち、蛍光体22で白色光とされずに当該蛍光体22を透過した青色光が拡散部Dによって拡散されるので、青色光がLD11から出射された強度のまま投影レンズ15から灯具外へ出射されることを防止でき、ひいては投影像(すれ違い配光パターン)の色ムラを抑制することができるとともに、人体に対する安全性を確保することができる。」

【図6】から、リフレクタ23の反射面231におけるレーザーダイオード11の励起光の光路上に拡散部Dが設けられていることを看取しうる。

以上のア?カの記載事項及び【図6】、【図7】の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明1〕
「レーザーダイオード11と、
前記レーザーダイオード11から出射された励起光を受けて可視光を出射する蛍光体22と、
前記蛍光体22から出射された可視光を反射させるリフレクタ23の反射面231における前記レーザーダイオード11から出射された励起光の光路上に、前記蛍光体22を透過して当該反射面231に入射した前記励起光を拡散させる拡散部Dを設けた車両用灯具2を、
透光カバー101で前方を覆われた灯室内に備えた、車両用前照灯100。」

(2)先の出願6の当初明細書等に記載された事項及び引用発明2
先の出願6の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
一方向に励起光を発光する励起光源と、
上記励起光を受けて非励起光を発光する発光部と、
上記非励起光を、上記励起光の発光方向と異なる方向である照明方向に反射させる反射部と、
を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項2】
上記発光部を介して上記励起光源と対向する位置に、上記励起光を終端させる励起光終端部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
・・・」

「【0001】
本発明は、半導体レーザ等の励起光源と蛍光体等の発光部とを組み合わせた照明装置およびこの照明装置を備えた車両用前照灯に関する。」

「【0006】
しかしながら、特許文献1および2では、何らかの拍子で発光部が所定の場所からずれる、あるいは励起光源の光軸がずれて励起光源からの励起光が発光部に当たらなくなると、励起光源からの励起光が装置外部に放出され、その励起光が人の目に照射されると、人の目を害する場合がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、励起光源からの励起光を発光部に照射することで発光部から非励起光を放出させ、その非励起光を照明光として利用する照明装置であって、発光部がずれる、あるいは励起光源の光軸がずれて励起光源からの励起光が発光部に当たらなくなっても、励起光源からの励起光が装置外部に放出されることを防止することができる照明装置およびこの照明装置を備えた車両用前照灯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る照明装置は、一方向に励起光を発光する励起光源と、上記励起光を受けて非励起光を発光する発光部と、上記非励起光を、上記励起光の発光方向と異なる方向である照明方向に反射させる反射部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、励起光源からの励起光が発光部によって非励起光に変換され、その非励起光が照明光として放出される。よって、励起光源を用いて輝度の高い照明光を得ることできる。
【0010】
また、励起光の発光方向は、照明光の照明方向と異なる方向に設定される。よって、発光部の位置または励起光の発光方向がずれて、励起光が発光部から外れても、励起光が照明方向に出射されること(すなわち、励起光が照明光として放出されること)を防止できる。
【0011】
上記発光部を介して上記励起光源と対向する位置に、上記励起光を終端させる励起光終端部をさらに備えることが望ましい。
【0012】
上記の構成によれば、発光部を介して励起光源と対向する位置に励起光終端部が配置されるので、発光部の位置がずれる、あるいは励起光源の光軸がずれて励起光が発光部から外れると、励起光源からの励起光は、励起光終端部に入射して終端される。
【0013】
よって、発光部の位置がずれる、あるいは励起光源の光軸がずれて励起光が発光部から外れても、励起光が当該照明装置の外部に放出されることを防止できる。」

「【0041】
(1.構成)
本発明の照明装置に関する実施の一形態について、図1および図2に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0042】
本発明の照明装置1は、例えば自動車用の走行用前照灯(ハイビーム)の配光特性基準を満たすヘッドランプに利用可能である。ただし、本発明の照明装置は、自動車用のすれ違い用前照灯(ロービーム)の配光特性基準を満たすヘッドランプ、・・・として実現されてもよい。・・・
【0043】
この照明装置1は、図1に示すように、励起光C1を発光する励起光源3と、励起光C1を受けて非励起光C3を発光する発光部5と、補助照明光C2を発光する補助照明光源7と、非励起光C3および補助照明光C2からなる照明光C4を所定の照明方向Hに照射させるリフレクタ(反射部)9と、励起光源3からの励起光C1を終端させる励起光終端部11と、励起光C1が照明装置1の外部に漏れることを防止するための励起光カットフィルタ13とを備えている。
・・・
【0045】
(発光部5)
発光部5は、リフレクタ9の内部(例えば焦点位置)に配置される。発光部5は、例えば、励起光源3からの励起光C1を受けて励起されて蛍光(非励起光)C3を発する蛍光体(不図示)と、上記蛍光体を封止する蛍光体保持物質(不図示)とから構成される。上記蛍光体保持物質は、無機材料であることが好ましい。
・・・
【0047】
上記蛍光体は、例えば、酸窒化物系、または窒化物系のものであり、青色、緑色および赤色の蛍光体が低融点ガラスに分されている。励起光源3は、後述のように例えば半導体レーザとして構成されており、405nm(青紫色)のレーザ光を発振するため、発光部5に当該レーザ光が照射されると白色光が発生する。それゆえ、発光部5は、波長変換材料であるといえる。」

「【0074】
励起光終端部11は、励起光源3から出射されて発光部5で吸収されずに通過した励起光C1を終端させるものである。
【0075】
なお、終端とは、有効な光路の末端において、適切な反射率および適切な熱特性を有する拡散反射体または吸収体で励起光C1を終端させることを指す。ここで、適切な反射率とは、励起光C1が反射しても、その反射した励起光C1の出力が人に対して害を及ぼさない程度の出力になるような反射率のことであり、適切な熱特性とは、励起光C1を吸収した際に発生する局所的な熱が励起光終端部11を破壊しない程度に拡散されうる熱伝導率を有することを指す。
【0076】
(励起光終端部11)
励起光終端部11は、リフレクタ9の、発光部5を介して励起光源3と対向する位置に配設される。リフレクタ9の当該配設位置には、励起光排出用開口部9dが形成されている。」

以上のキ?サの記載事項及び【図1】の記載からみて、先の出願6の当初明細書等には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明2〕
「一方向に励起光C1を発光する半導体レーザとして構成された励起光源3と、
上記励起光C1を受けて非励起光C3を発光する発光部5と、
上記非励起光C3を、上記励起光C1の発光方向と異なる方向である照明方向に反射させるリフレクタ9と、
上記リフレクタ9の、上記発光部5を介して上記励起光源3と対向する位置に、上記励起光源3から出射されて上記発光部5で吸収されずに通過した上記励起光C1を拡散反射体または吸収体で終端させる励起光終端部11を備える照明装置1を備えた車両用前照灯。」

4.判断
(1)取消理由1及び2について
本件発明と引用発明1とを対比する。
後者の「レーザーダイオード11」は、前者の「レーザ光源」に相当し、後者の「レーザーダイオード11から出射された励起光」は、前者の「レーザ光源からのレーザ光」に相当する。
後者の「レーザーダイオード11から出射された励起光を受けて可視光を出射する蛍光体22」は、前者の「レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材」に相当する。
後者の「蛍光体22から出射された可視光を反射させるリフレクタ23」は、その機能からみて、前者の「発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタ」に相当する。
後者の「蛍光体22を透過して反射面231に入射した励起光を拡散させる拡散部D」は、前者の「レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材」に相当する。
後者の「透光カバー101」は、前者の「透光カバー」に相当し、後者の「透光カバー101で前方を覆われた灯室」は、前者の「ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室」と、「透光カバーにより形成される灯室」である限りにおいて一致する。
後者の「レーザーダイオード11」、「蛍光体22」、「リフレクタ23」、「拡散部D」を設けた「車両用灯具2」を「透光カバー101で前方を覆われた灯室内に備え」ることは、前者の「レーザ光源、発光部材、リフレクタ、ブラケット及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され」ることと、「レーザ光源、発光部材、リフレクタ及び保護部材は、透光カバーにより形成される灯室内に収容され」る限りにおいて一致する。
後者の「車両用前照灯100」は、前者の「車両用灯具」に相当する。

そうすると、両者は、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、
レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材、前記リフレクタ及び前記保護部材は、前記透光カバーにより形成される灯室内に収容された、車両用灯具。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1〕
本件発明は、「保護部材」が「発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ」るものであるのに対して、引用発明1は、「拡散部D」が「蛍光体22から出射された可視光を反射させるリフレクタ23の反射面231における前記レーザーダイオード11から出射された励起光の光路上に」設けたものである点。
〔相違点2〕
本件発明は、「開口部を有するランプボディ」を有し、「透光カバー」がその「開口部を覆うように取り付けられ」、レーザ光源、発光部材、リフレクタ及び保護部材は、「ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室」内に収容されたものであり、「レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられる」との事項を有しているのに対して、引用発明1は、ランプボディを有するとは特定されておらず、「レーザーダイオード11から出射された励起光の光路」は「蛍光体22から出射された可視光を反射させるリフレクタ23の反射面231」と交わり、当該「反射面231におけるレーザーダイオード11から出射された励起光の光路上に」「拡散部D」が設けられている点。
〔相違点3〕
本件発明は、「レーザ光源、発光部材及びリフレクタを支持する共通のブラケット」を有し、「ブラケットは、ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられる」ものであるのに対して、引用発明1は、レーザーダイオード11,蛍光体22及びリフレクタ23が、そのような共通のブラケットに支持されるとは特定されていない点。
〔相違点4〕
本件発明は、「リフレクタは、」レーザ光の「光路と交わらないように、且つ保護部材よりもレーザ光源の近傍に位置するように設定され」ているのに対して、引用発明1は、リフレクタ23の反射面231におけるレーザーダイオード11から出射された励起光の光路上に、励起光を拡散させる拡散部Dを設けている点。

事案に鑑み、相違点4について検討する。
〔相違点4について〕
引用文献1には、半導体発光素子から蛍光体へ励起光(例えば青色光)を照射することによって、蛍光体が励起されて発する光(例えば黄色光)と励起光とを混色させて可視光(例えば白色光)を出射させる車両用灯具において、一部の励起光が蛍光体で正反射されるなどして、所定の色に混色されることなくそのまま投影レンズ等から出射され、投影像に部分的な色ムラが生じることを、発明が解決しようとする課題とし(上記「3.(1)イ」を参照。)、リフレクタの反射面が、蛍光体から当該反射面に入射した励起光を拡散させることで、励起光が半導体発光素子から出射された強度のまま灯具外へ出射されることを防止でき、ひいては投影像の色ムラを抑制することができるとの作用効果を得るものである(上記「3.(1)ウ」を参照。)。
そうすると、引用発明1において、レーザーダイオード11から出射された励起光の光路上にリフレクタ23が存在するとの構成は、発明の前提となる構成といえ、これを相違点4に係る本件発明の構成とすることは、動機付けもなく、設計事項ともいえない。
また、引用文献2?5は、透光カバーとランプボディから灯室を形成することを示すに過ぎず、本件発明の「保護部材」について何ら示唆するものではない。
したがって、引用発明1を相違点4に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

よって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明1)とはいえず、引用発明1及び引用文献2?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)取消理由3について
本件発明と引用発明2とを対比する。
後者の「半導体レーザとして構成された励起光源3」は、前者の「レーザ光源」に相当し、後者の励起光源3が発する「励起光C1」は、前者の「レーザ光源からのレーザ光」に相当する。
後者の「励起光C1を受けて非励起光C3を発光する発光部5」は、前者の「レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材」に相当する。
後者の「非励起光C3を、励起光C1の発光方向と異なる方向である照明方向に反射させるリフレクタ9」は、前者の「発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタ」に相当する。
後者は、先の出願6の当初明細書等の段落【0007】(上記「3.(2)ケ」参照)に記載されているように、励起光を非励起光とする発光部が励起光源の光軸からずれ、励起光が発光部に当たらずにそのまま装置外に放出されることを防止することを目的とするものである。そうすると、後者の「リフレクタ9の、発光部5を介して励起光源3と対向する位置」は、その技術的意味からみて、前者の「発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上」に相当し、後者の前記の対向する位置に備えられる「励起光源3から出射されて発光部5で吸収されずに通過した励起光C1を拡散反射体または吸収体で終端させる励起光終端部11」は、前者の前記光路上に設けられる「レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材」に相当する。
後者の「照明装置1を備えた車両用前照灯」は、前者の「車両用灯具」に相当する。

そうすると、両者は、
「レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
を備えた、車両用灯具。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点5〕
本件発明は、「開口部を有するランプボディ」と、「開口部を覆うように取り付けられた透光カバー」とを備え、「レーザ光源、発光部材、リフレクタ、ブラケット及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され」、「レーザ光源は、光路が前記ランプボディと交わるように設定され」、「保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられる」と特定されているのに対して、引用発明2は、そのように特定されていない点。
〔相違点6〕
本件発明は、「レーザ光源、発光部材及びリフレクタを支持する共通のブラケット」を有し、「ブラケットは、ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられる」ものであるのに対して、引用発明2は、励起光源3、発光部5及びリフレクタ9が、そのような共通のブラケットに支持されるとは特定されていない点。
〔相違点7〕
本件発明は、「リフレクタは、」レーザ光の「光路と交わらないように、且つ保護部材よりもレーザ光源の近傍に位置するように設定され」ているのに対して、引用発明2は、リフレクタ9の、発光部5を介して励起光源3と対向する位置に、励起光終端部11が設けられるものである点。

事案に鑑み、相違点7について検討する。
〔相違点7について〕
先の出願6の当初明細書等には、励起光源からの励起光を発光部に照射することで発光部から非励起光を放出させ、その非励起光を照明光として利用する照明装置において、発光部がずれる、あるいは励起光源の光軸がずれて励起光源からの励起光が発光部に当たらなくなっても、励起光源からの励起光が装置外部に放出されることを防止することができる照明装置を備えた車両用前照灯を提供することを目的とし(上記「3.(2)ケ」を参照)、リフレクタ9の、発光部5を介して励起光源3と対向する位置に、励起光終端部11を設けるものといえる。
そうすると、引用発明2は、励起光源3の光路上にリフレクタ9が位置していることを前提としており、相違点7に係る本件発明の構成とすることが設計上の微差ということはできない。

よって、相違点5、6について検討するまでもなく、本件発明は、先の出願6の当初明細書等に記載された発明(引用発明2)と同一であるとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由に実質的に等しい取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用灯具
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関し、特に自動車などの車両に用いられる車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光を出射する半導体レーザと、蛍光体を含みレーザ光を受けて発光する発光部とを備えた車両用前照灯が開示される。この車両用前照灯では、半導体レーザから405nmの波長のレーザ光(青紫色)が出射される。また、発光体は青色、緑色及び赤色の蛍光体を含むシリコーン樹脂であり、青紫色のレーザ光を受けて白色光を生成する。発光体で生成された白色光は、反射鏡により灯具前方に反射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-129375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、レーザ光源を用いた車両用灯具について鋭意研究を重ねた結果、以下の課題を認識するに至った。すなわち、車両の振動等による発光部材の脱落、発光部材の全部又は一部の破損等によって、発光部材の全部又は一部が本来あるべき位置から消失した場合、レーザ光源から出射されたコヒーレントなレーザ光が、発光部材の延長上にあるランプボディや透光カバー(アウターレンズ)等を含む車両用灯具の構成部材に直接照射されうる。この場合、レーザ光の照射を受けた構成部材に溶損等が生じるおそれがあった。そのため、車両用灯具のさらなる長寿命化を図る上で対策を講ずる余地があった。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用灯具の長寿命化を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、レーザ光源、発光部材及びリフレクタを支持する共通のブラケットと、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材、リフレクタ、ブラケット及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、リフレクタは、光路と交わらないように、且つ保護部材よりもレーザ光源の近傍に位置するように設定され、ブラケットは、ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられる。
【0007】
この態様によれば、前記光路上に位置する車両用灯具の構成部材がレーザ光によって損傷することを、保護部材によって抑制することができる。そのため、車両用灯具の長寿命化を図ることができる。
【0008】
本発明の他の態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、保護部材は、レーザ光を受けて発光する発光部材を含む。この態様によれば、発光部材の全部又は一部が本来あるべき位置から消失したことを発見しやすくすることができる。上記態様において、保護部材は、エクステンション部材を兼ねてもよい。
また、本発明のさらに他の態様は車両用灯具である。当該車両用灯具は、レーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、開口部を有するランプボディと、開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、を備え、レーザ光源、発光部材及び保護部材は、ランプボディと透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、レーザ光源は、光路がランプボディと交わるように設定され、保護部材は、光路上におけるランプボディよりも上流側に設けられ、保護部材は、エクステンション部材を兼ねる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両用灯具の長寿命化を図る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 実施の形態に係る車両用灯具の概略構造を示す鉛直断面図である。
【図2】 図2(A)は、実施の形態に係る車両用灯具における発光部材近傍の概略構造を示す鉛直断面図である。図2(B)は、変形例に係る車両用灯具における発光部材近傍の概略構造を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る車両用灯具の概略構造を示す鉛直断面図である。図2(A)は、実施の形態に係る車両用灯具における発光部材近傍の概略構造を示す鉛直断面図である。本実施の形態に係る車両用灯具1は、例えば、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置である。一対の前照灯ユニットは、実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具1として左右いずれかの前照灯ユニットの構成を示す。車両用灯具1は、車両前方側に開口部を有するランプボディ2と、ランプボディ2の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー4とを備える。透光カバー4は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成されている。ランプボディ2と透光カバー4とにより形成される灯室3内には、灯具ユニット10が収容されている。
【0013】
灯具ユニット10は、いわゆるプロジェクタ型の灯具ユニットであり、ブラケット部12と、発光部材搭載部14と、発光部材16と、レーザ光源18と、リフレクタ20と、シェード部22と、投影レンズ24と、放熱フィン26と、保護部材28とを備える。
【0014】
ブラケット部12は、例えばアルミなどの金属材料で形成された略板状の部材であり、主表面が灯具前後方向を向くように配置されている。ブラケット部12の灯具前方側の主表面には、発光部材搭載部14が固定されている。本実施の形態では、ブラケット部12と発光部材搭載部14とは一体成形されている。ブラケット部12の灯具後方側の主表面には、放熱フィン26が固定されている。ブラケット部12は、辺縁部の所定位置に螺孔を有し、ランプボディ2を貫通して前方に延出するエイミングスクリュー30がこの螺孔に螺合している。これにより、ブラケット部12がランプボディ2に取り付けられている。車両用灯具1は、エイミングスクリュー30によって、灯具ユニット10の光軸を水平方向あるいは鉛直方向に調整することができる。なお、ブラケット部12の形状は特にこれに限定されない。
【0015】
発光部材搭載部14は、例えばアルミなどの金属材料で形成され、ブラケット部12の灯具前方側の主表面から灯具前方側に突出している。発光部材搭載部14は、略板状であり、主表面が灯具上下方向を向くように配置されている。発光部材搭載部14には、上下方向に貫通する貫通孔14aが設けられている。
【0016】
発光部材16は、レーザ光源18からのレーザ光Lを受けて発光する部材であり、例えば蛍光体で構成される。発光部材16は、枠状の支持部材32を介して発光部材搭載部14に固定されている。より詳細には、発光部材16が支持部材32の枠内に嵌め込まれ、支持部材32が発光部材搭載部14の貫通孔14aに嵌め込まれることで、発光部材16が発光部材搭載部14に固定されている。発光部材16の熱は、支持部材32、発光部材搭載部14、ブラケット部12及び放熱フィン26を介して放熱される。発光部材16は、発光部材搭載部14の下主表面側で灯室空間に露出する下側露出面16aと、発光部材搭載部14の上主表面側で灯室空間に露出する上側露出面16bとを有する。下側露出面16aは、レーザ光Lの入射面を構成し、上側露出面16bは、レーザ光Lを受けて励起した発光部材16から出射される非コヒーレント光の出射面を構成している。したがって、上側露出面16bは、発光部材16の発光面に相当する。
【0017】
レーザ光源18は、レーザ光Lを出射するレーザダイオードと、レンズ18aとを有する。レンズ18aは、例えば、レーザダイオードから出射されたレーザ光を平行光に変換するコリメートレンズ、あるいはレーザダイオードから出射されたレーザ光を集光する集光レンズである。レーザ光源18の内部構造は従来公知であるため、その詳細な説明は省略する。レーザ光源18は、ブラケット部12に設けられた開口12aに挿通されて、ブラケット部12に固定されている。また、レーザ光源18は、レーザ光Lが発光部材16の下側露出面16aに照射されるように姿勢が定められている。レーザ光源18から発生した熱は、ブラケット部12及び放熱フィン26を介して放熱される。
【0018】
本実施の形態に係る車両用灯具1は、レーザ光Lの照射により発光部材16を励起させて、これにより生成される非コヒーレント光を照射する構成を備える。発光部材16とレーザ光源18との組み合わせとしては、例えば以下のものを挙げることができる。すなわち、レーザ光源18は、紫外レーザ光を照射する光源である。発光部材16は、紫外レーザ光を青色光に波長変換する青色発光蛍光体と、紫外レーザ光を黄色光に波長変換する黄色発光蛍光体とを含む部材である。例えば、発光部材16は、青色発光蛍光体と黄色発光蛍光体とを含む透明セラミック素地を焼結して得られる、いわゆる蛍光セラミックである。なお、発光部材16は、セラミックに限られず、例えば蛍光材料を含むガラス、または蛍光材料を含み且つ透光性を有する樹脂によって形成されてもよい。この組み合わせでは、レーザ光源18から出射された紫外レーザ光は、下側露出面16aから発光部材16に入射されて、発光部材16により青色光及び黄色光に波長変換される。発光部材16の上側露出面16bから発せられた青色光及び黄色光は、加法混色されて白色光Wとなり、リフレクタ20に向けて進行する。
【0019】
また、レーザ光源18を、青色レーザ光を照射する光源とし、発光部材16を、青色レーザ光を黄色光に波長変換する蛍光体としてもよい。この場合は、レーザ光源18から出射された青色レーザ光の一部は、発光部材16により黄色光に波長変換され、上側露出面16bから出射される。また、残りの青色レーザ光は、発光部材16を通過して上側露出面16bから出射される。そして、発光部材16で生成された黄色光と発光部材16を通過した青色レーザ光とが混色されて白色光Wとなり、リフレクタ20に向けて進行する。
【0020】
リフレクタ20は、略ドーム状の部材であり、発光部材16の上方に配置されて発光部材搭載部14に固定されている。リフレクタ20は、回転楕円面の一部で構成される反射面20aを内側に有する。この反射面20aは、第1焦点と、第1焦点よりも灯具前方側に位置する第2焦点とを有する。リフレクタ20は、発光部材16が反射面20aの第1焦点と略一致するように、発光部材16との位置関係が定められている。
【0021】
発光部材搭載部14の灯具前方側には、シェード部22が設けられている。シェード部22は、発光部材搭載部14の灯具前方側端部に溶接等により固定されている。なお、シェード部22は、ブラケット部12及び発光部材搭載部14と一体成形されていてもよい。シェード部22は、平面部22aと、湾曲部22bとを有する。平面部22aは、発光部材搭載部14の上主表面と略面一となるように配置されている。湾曲部22bは、平面部22aよりも灯具前方側で、発光部材16から照射された光の投影レンズ24への入射を遮らないように下方に湾曲している。シェード部22とリフレクタ20とは、シェード部22の平面部22aと湾曲部22bとが為す稜線22cが、反射面20aの第2焦点の近傍に位置するように、互いの位置関係が定められている。
【0022】
シェード部22は、レンズホルダとしても機能し、湾曲部22bの先端に投影レンズ24が固定されている。投影レンズ24は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、投影レンズ24の後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影レンズ24は、灯具ユニット10の光軸上、且つ後方焦点が反射面20aの第2焦点と略一致する位置に設けられている。
【0023】
発光部材16の上側露出面16bから出射された白色光Wは、リフレクタ20の反射面20aで反射され、反射面20aの第2焦点、すなわち稜線22cの近傍を通って投影レンズ24に入射する。投影レンズ24に入射した光は、投影レンズ24から略平行な光として灯具前方に照射される。また、一部の光がシェード部22の平面部22a上で反射されることにより、稜線22cを境界線として、発光部材16の光が選択的にカットされる。これにより、稜線22cの形状に対応するカットオフラインを有する配光パターンが車両前方に投影される。
【0024】
保護部材28は、耐熱性、耐燃性等を備え、レーザ光の照射によって損傷しにくい部材、例えば金属で構成されている。また、保護部材28は、レーザ光Lを吸収又は散乱させる特性を備えている。保護部材28は、レーザ光Lの光路P上に設けられて、ランプボディ2に固定されている。ここで、光路Pは、発光部材16の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光Lが進行する光路又はレーザ光Lの光量が増大する光路である。例えば、レーザ光Lは、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失するとその光路が変更され、保護部材28は、変更された光路上に設けられている。
【0025】
発光部材16は、車両の振動等によって受ける衝撃や経年劣化等によって、発光部材搭載部14から外れて脱落したり、本来の搭載位置からずれたり、全部又は一部が溶けたり、一部が欠けたりして、全部又は一部が本来あるべき位置から消失する可能性がある。上述した紫外レーザ光と青色蛍光体及び黄色蛍光体との組み合わせで白色光Wを生成する構成においては、実質的に全ての紫外レーザ光が発光部材16において波長変換されるため、発光部材16の先に紫外レーザ光が進行することはない。しかしながら、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失すると、紫外レーザ光が発光部材16で波長変換されることなく、発光部材16の先の光路Pを進行してランプボディ2や透光カバー4等の部材に照射されてしまい、これらの部材が損傷してしまうおそれがある。
【0026】
また、紫外レーザ光と青色蛍光体及び黄色蛍光体との組み合わせで白色光Wを生成する構成において、紫外レーザ光の一部が発光部材16で波長変換されずに、発光部材16を通過してしまう可能性もゼロではない。この場合、発光部材16を通過するレーザ光の光量は小さいため、発光部材16の先にある部材がレーザ光によって損傷する可能性は低い。しかしながら、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失すると、発光部材16の先の光路Pを進行するレーザ光Lの光量が増大して、光路P上にある部材が損傷してしまうおそれがある。
【0027】
また、上述した青色レーザ光と黄色蛍光体との組み合わせで白色光Wを生成する構成においては、青色レーザ光の一部が発光部材16を通過するが、その光量は発光部材16の先にある部材が損傷するほどのものではない。しかしながら、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失すると、発光部材16の先の光路Pを進行するレーザ光Lの光量が増大して、光路P上にある部材が損傷してしまうおそれがある。
【0028】
これに対し、本実施の形態では、光路P上におけるランプボディ2や透光カバー4等の車両用灯具1の構成部材よりも上流側に、保護部材28が設けられている。保護部材28は、発光部材16を除く全ての車両用灯具1の構成部材の中で光路Pの最上流側に配置されている。これにより、発光部材16の先に進行したレーザ光Lは、保護部材28によって吸収又は散乱させられる。そのため、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失しても、車両用灯具1の構成部材がレーザ光Lによって損傷することを抑制可能である。本実施の形態では、光路Pを進行するレーザ光Lが車両用灯具1によって形成される配光パターンの範囲から外れるように、各部が設定されている。さらに本実施の形態では、光路Pを進行するレーザ光Lが灯室3外に照射されないように、すなわち光路Pが透光カバー4と交わらないように各部が設定されている。また、さらに本実施の形態では、光路Pがランプボディ2と交わるように各部が設定されており、保護部材28は、レーザ光Lの照射によるランプボディ2の溶損を防いでいる。なお、保護部材28がブラケット部12、発光部材搭載部14、リフレクタ20、シェード部22等の他の構成部材を保護するように構成されていてもよい。
【0029】
また、本実施の形態の保護部材28は、レーザ光Lを受けて発光する発光部材を含む。この発光部材としては、レーザ光源18から出射されるレーザ光Lを所定の色に波長変換する蛍光体を用いることができる。保護部材28が発光部材を含むため、発光部材16の全部又は一部が欠損してレーザ光Lが保護部材28に照射されると、保護部材28が発光する。これにより、発光部材搭載部14に搭載された発光部材16に異常が発生したことを、灯具外部から視認しやすくすることができる。発光部材16の異常の早期発見の観点から、保護部材28に含有される発光部材は、発光部材16とは異なる発光色のものであることが好ましい。
【0030】
また、本実施の形態の保護部材28は、灯具前方から見てランプボディ2の前面開口部と灯具ユニット10との間に延在するエクステンション部材を兼ねている。言い換えれば、エクステンション部材を保護部材28として利用している。これによれば、保護部材28を設けることによる、車両用灯具1の部品点数や組み付け工程数の増大を抑制することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具1は、レーザ光源18と、レーザ光源18からのレーザ光Lを受けて発光する発光部材16と、発光部材16の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光Lが進行する光路P上又はレーザ光Lの光量が増大する光路P上に設けられ、レーザ光Lを吸収又は散乱させる保護部材28とを備えている。これにより、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失した場合であっても、光路P上に位置する車両用灯具1の構成部材がレーザ光Lによって損傷することを抑制することができる。そのため、車両用灯具1の長寿命化を図ることができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る車両用灯具1において、保護部材28は、レーザ光Lを受けて発光する発光部材を含んでいる。これにより、発光部材16の全部又は一部が本来あるべき位置から消失したことを発見しやすくすることができる。
【0033】
本発明は、上述した実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、実施の形態及び変形例を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などのさらなる変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくはさらなる変形が加えられた実施の形態や変形例も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態や変形例、及び上述した実施の形態や変形例と以下の変形との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態、変形例及びさらなる変形それぞれの効果をあわせもつ。
【0034】
上述した実施の形態では、枠状の支持部材32の枠内に発光部材16を固定しているが、次のような構造であってもよい。図2(B)は、変形例に係る車両用灯具における発光部材近傍の概略構造を示す鉛直断面図である。変形例に係る車両用灯具1では、板状の支持部材32が発光部材搭載部14の貫通孔14aに嵌め込まれている。発光部材16は、支持部材32の一方の主表面に固定されている。支持部材32は、透光性を有し、且つレーザ光Lの照射によって損傷しにくい部材で構成されている。レーザ光源18から出射されたレーザ光Lは、支持部材32の他方の主表面から支持部材32内に入射する。そして、レーザ光Lは、支持部材32の内部を進行し、支持部材32の一方の主表面から発光部材16に入射される。発光部材16に入射されたレーザ光Lは、発光部材16においてから波長変換され、発光部材16から白色光Wが出射される。
【0035】
上述した実施の形態において、灯具ユニット10は、プロジェクタ型の灯具ユニットであるが、特にこれに限定されず、反射型の灯具ユニットであってもよい。また、発光部材16から白色光Wを照射しているが、アンバー色光等の他の色の光を照射してもよい。また、上述した実施の形態において、車両用灯具1は、発光部材16の下側露出面16aからレーザ光Lが入射され上側露出面16bから白色光Wが出射される、いわゆる透過型の構造を有するが、特にこれに限定されない。例えば、車両用灯具1は、上側露出面16bからレーザ光Lが入射され上側露出面16bから白色光Wが出射される、いわゆる反射型の構造を有してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 車両用灯具、 16 発光部材、 18 レーザ光源、 28 保護部材、 L レーザ光、 P 光路。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材から出射される光を、当該光が灯具前方に照射されるように反射するリフレクタと、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記リフレクタを支持する共通のブラケットと、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材、前記リフレクタ、前記ブラケット及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記リフレクタは、前記光路と交わらないように、且つ前記保護部材よりも前記レーザ光源の近傍に位置するように設定され、
前記ブラケットは、前記ランプボディに対して姿勢を調整可能に取り付けられることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記保護部材は、レーザ光を受けて発光する発光部材を含むことを特徴とする車両用灯具。
【請求項3】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を受けて発光する発光部材と、
前記発光部材の少なくとも一部が本来あるべき位置から消失した場合に、レーザ光が進行する光路上又はレーザ光の光量が増大する光路上に設けられ、レーザ光を吸収又は散乱させる保護部材と、
開口部を有するランプボディと、
前記開口部を覆うように取り付けられた透光カバーと、
を備え、
前記レーザ光源、前記発光部材及び前記保護部材は、前記ランプボディと前記透光カバーとにより形成される灯室内に収容され、
前記レーザ光源は、前記光路が前記ランプボディと交わるように設定され、
前記保護部材は、前記光路上における前記ランプボディよりも上流側に設けられ、
前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねることを特徴とする車両用灯具。
【請求項4】
前記保護部材は、エクステンション部材を兼ねる請求項2に記載の車両用灯具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-31 
出願番号 特願2012-157132(P2012-157132)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (F21S)
P 1 652・ 121- YAA (F21S)
P 1 652・ 16- YAA (F21S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 丸山 裕樹河村 勝也當間 庸裕  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 平田 信勝
尾崎 和寛
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6039947号(P6039947)
権利者 株式会社小糸製作所
発明の名称 車両用灯具  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  
代理人 村田 雄祐  
代理人 三木 友由  
代理人 三木 友由  
代理人 森下 賢樹  

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