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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A47K |
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管理番号 | 1338135 |
異議申立番号 | 異議2017-701218 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-21 |
確定日 | 2018-02-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6150843号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6150843号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6150843号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年5月18日(優先権主張 平成27年4月21日)に特許出願され、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人村上清子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 特許第6150843号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。 3 申立理由の概要 申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、本件発明1ないし本件発明6は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。 甲第1号証:特開2014-188342号公報 甲第2号証:特開2003-275128号公報 甲第3号証:再公表特許2012/043378号 甲第4号証:特許第4914156号公報 甲第5号証:特開2002-69896号公報 甲第6号証:「仕上」、紙パルプ技術協会、2000年12月8日、37-39頁 4 刊行物 (1)甲第1号証 甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (下線は決定で付与した。) ア 「【請求項1】 2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、 当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである衛生薄葉紙ロール。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。一方、これらの不具合を補うために紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を弱めると、柔らかさや滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに収まり難くなる問題がある。また、エンボス処理を強めると、紙厚が高くなりすぎたり、紙の表裏の使用感の差が大きくなるなどの問題がある。また、坪量を下げずに、カレンダー処理を強くして紙厚を薄くすると、ロール径を小さくすることはできるが、柔らかさがなく、品質が劣る問題がある。 従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。」 ウ 「【発明の効果】 【0009】 この発明によれば、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールを得ることができる。」 エ 「【発明を実施するための形態】 【0011】 以下に本発明の好ましい実施形態につき説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。 図1に示すように、本発明の実施形態に係る衛生薄葉紙ロール10は、2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体10xをロール状に巻き取ってなり、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、ロールの巻長(巻き取り長さ)が74?93m、巻直径DRが100?130mmである。巻直径DRは、好ましくは100?125mmである。 1枚当りの衛生薄葉紙の坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、詳しくは後述するが、衛生薄葉紙の原紙ウェブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積、カレンダー処理前後の紙厚差)及びエンボス条件(エンボス処理後の紙厚及び比容積、エンボス処理前後の紙厚差)を規定する。」 オ 「【0031】 (3)エンボス処理及びロール巻取り加工 図6はロール巻取り加工機150の一例を示す。原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって巻直径が100?130mmの幅広衛生薄葉紙原ロール10Wに巻き取られる。その後、原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、衛生薄葉紙ロール10となる。 ロール巻取り加工機150は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支持しながら巻取る方法であり、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、巻き径のコントロールがし易く、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。本発明においては、いずれの方法でも巻き取ることができるが、好ましくはサーフェイス方式である。 なお、ロール巻取り加工機150にマシンワインダー100を組み込み、ロール巻取り加工機にてプライアップ、カレンダー処理、エンボス処理をこの順で行ってもよい。又、1枚ずつの衛生薄葉紙をそれぞれカレンダー処理後にプライアップし、エンボス処理してもよい。 【0032】 ロール巻取り加工機150においてエンボスを施すことで、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下の範囲であっても、嵩を高くして柔らかさと、ほぐれ易さを向上させることができる。 エンボス処理前後の衛生薄葉紙の紙厚の差ΔE(エンボス処理前の紙厚-エンボス処理後の紙厚)を好ましくは-0.20?0.18mm/10枚、より好ましくは-0.10?0.10mm/10枚とする。ΔEが上記範囲を超えると、エンボス処理が十分でなくプライが剥がれたり、柔らかさが劣る場合がある。ΔEが上記範囲未満であると、エンボス処理が強すぎて、滑らかさの表裏差が大きくなる場合がある。ここで、エンボス処理前とは、カレンダー処理後と同じ意味である。 なお、エンボス処理を行うと、エンボス処理後の紙厚は、エンボス処理前より高くなり、ΔEはマイナスになる。しかし、ロール加工機では、紙を引っ張りながら巻き取るため、紙が伸びて紙厚が低くなる。従って、ロール加工機では、エンボスと紙の伸びの影響を考慮しながら、ΔEが-0.20?0.18mm/10枚となるよう、巻き取ることが好ましい。 エンボスの強さは、エンボスロールとゴムロールのニップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によっても異なるが、好ましくは20?40mm、より好ましくは20?30mmである。ニップ幅が40mmを超えると、エンボスが強くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm以下であると、エンボスが弱くなり、ふっくら感がなくなったり、プライが剥がれやすくなる。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定することができる。測定方法としては、まず、エンボスロールのニップを逃がし、カーボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロールにニップをかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボスロールでニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写されるので、ニップ幅を測定することができる。」 カ 【0039】の【表1】を参照すると、実施例1、3?8は、巻長が74?91m、巻直径が114?129mmの範囲にあり、コア外径は39mmである。 キ 上記アないしカからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 「2枚のエンボス処理された衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、 巻長が74?91m、巻直径が114?129mmの範囲にあり、コア外径が39mである、 衛生薄葉紙ロール。」 (2)甲第2号証 甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 エンボス入りのトイレットペーパー、ペーパータオル、ティシュペーパー等の紙製品において、下記のエンボス 1)エンボス個数が50?200個/cm^(2) 2)エンボス深さが0.05?1.0mm 3)エンボス掛け後のウェブの厚さが0.5?2.5mm/10ply 4)縦と横方向の引張り強さ(gf/15mm)の相乗平均(GMT)がトイレットペーパーおよびティシュペーパーでは200gf以下、ペーパータオルでは300gf以下 5)嵩がトイレットペーパーおよびティシュペーパーでは5.0?6.5cm^(3)/g、ペーパータオルでは6.0?9.0cm^(3)/gを施したことを特徴とするエンボス入り紙製品。 【請求項2】 請求項1記載のエンボス入り紙製品を製造するためのエンボスロール。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はエンボス入りのトイレットペーパー、ペーパータオル、ティシュペーパー等の紙製品全般に関するものである。 【0002】 【従来の技術】トイレットペーパーやキッチンタオル等の衛生紙製品には、風合い、吸液性、美粧性、拭き取りやすさ等の要求される特性に応じたエンボス加工が広く施されている。多くの場合にエンボスによりシートは嵩高となるが、この結果、巻取りにおいて大径となり、積層体の場合においては積層体高さが増し、物流コストを引き上げることとなっていた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】この対策として、加工時にシートのテンションを高めとしたり、積層後に圧縮処理等を行うなどすると、エンボスの潰れや消えが起き、美粧性が損なわれてしまう。さらに、嵩を出さない様に浅くエンボスを入れる場合には、エンボスの効果が十分発揮されない。加工時にテンションを高めて固巻きとしたり、圧縮処理を行っても、エンボスが潰れにくく、風合いに優れ、かつコンパクトなエンボス入り紙製品の開発がのぞまれている。近年、微少なエンボスを施したトイレットペーパー等も存在するが、上記課題を満足するには到っていない。 【0004】 【課題を解決するための手段】1プライまたは複数プライの原紙に下記のエンボスを施す。潰れにくく、巻取りあるいは積層後に風合いに優れ且つコンパクトな製品が可能となる。 1)エンボス個数が50?200個/cm^(2) 2)エンボス深さが0.05?1.0mm 3)エンボス掛け後のウェブ厚さが0.5?2.5mm/10plyである 4)GMT(注-1)がトイレットティシュでは200gf以下、ペーパータオルでは300gf以下 5)嵩がトイレットティシュでは5.0?6.5cm^(3)/g、ペーパータオルでは6.0?9.0cm^(3)/gであるようなエンボスが施されたウェブ及びそれを製造するためのエンボスロール。 ※注-1 GMT=縦と横方向の引張り強度(gf/15mm)の相乗平均 【0005】 【作用】エンボス個数が、50個/cm^(2)より少ないと凹凸の触感を強く感じる。また200個/cm^(2)より多くても風合いの改善効果が劣り、またエンボスロールの詰まりが発生するなど操業性も悪化する。また、エンボス深さが0.05mmより小さいと美粧効果が得られず、1.0mm以上では、その後の加工によりエンボス潰れが生じてエンボスの効果が失われる。さらに、強度をGMTとしてトイレットペーパーで200gf、ペーパータオルで300gf以下とすることで風合いの良好で且つコンパクトな製品が得られる。 【0006】 【発明の効果】本発明の効果を要約して列記すると次の通りである。 1)肌触りの向上 シートの表面性及び柔軟性が改善される。 2)コンパクト化 ロール製品においては、同径で長尺化が可能となる。また積層体でもコンパクト化が可能で物流コスト等の削減が可能である。 3)美粧性 エンボス処理後の巻き取りや圧縮加工によってもエンボスパターンが失われにくい。 【0007】 【実施例】以下に本発明の実施例を示すが、これは例示の目的で掲げたもので、これにより本発明を限定するものではない。 【0008】[実施例1]トイレットティシュ(トイレットペーパーおよびティシュペーパー) 10プライのトイレットティシュ用原紙が図1に示すように本発明の範囲の数密度50?200個/cm^(2)および深さ0.05?1.0mmのエンボスを施し、その結果を表1に実施例1?3として示した。また比較のためエンボスの数密度および深さが本発明の範囲外のものを比較例1、2として示した。尚参考のため数密度100個/cm2および300個/cm^(2)のエンボスを図2および図3として示した。」 ウ 【0009】の【表1】を参照する。 「エンボス」の「深さ」についてみると、実施例1と実施例2は0.40mm、実施例3は0.10mmであって、それらの評価については、実施例1?実施例3共に、「加工後の潰れ」と「肌触り(平滑さ/風合い)」が「○」となっている。 同様に、比較例1は1.05mm、比較例2は0.04mmであって、比較例1の「加工後の潰れ」が「×」、比較例1と比較例2の「肌触り(平滑さ/風合い)」が「△」となっている。 エ 「【0012】上記表1及び表2の結果から本発明のエンボス範囲内のものが、エンボス範囲外のものに比し、加工後の潰れおよび肌触り(平滑さ/風合い)のいずれにおいても優れていることが明らかにされた。」 4 当審の判断 (1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件特許明細書には、「巻密度」について、「巻密度は、(巻長×プライ数)÷(ロールの断面積)で表される。ロールの断面積は、{ロールの外径(巻直径DR)部分の断面積}-(コア外径部分の断面積)で表される。コア外径DI(図1参照)は、ロールの中心孔の直径である。」(【0013】)と記載されており、甲1発明が「2枚の衛生薄葉紙」であること、及び「巻長が74?91m、巻直径が114?129mmの範囲にあり、コア外径が39m」であることからみて、甲1発明の巻密度は、1.3?1.7m/cm^(2)(特許異議申立書12頁の【抽出表】における、実施例1、3?8の巻密度の欄参照。)となる。 (イ)上記(ア)の巻密度の数値を参照して、本件発明1と甲1発明を対比すると、以下の2点で相違している。 相違点1:エンボス深さD1(mm)とエンボス深さD2(mm)の比{(D2/D1)×100}について、本件発明1は、45?100%であるのに対し、甲1発明は不明である点。 相違点2:エンボス深さD1とエンボス深さD2について、本件発明1は、それぞれ0.05?0.40mmと0.05?0.35mmであるのに対し、甲1発明は、不明である点。 両相違点において、エンボス深さD1は、該トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁から前記巻長の10%に相当する位置における前記エンボスの深さであり、エンボス深さD2は前記端縁から前記巻長の90%に相当する位置における前記エンボスの深さである。 イ 判断 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点1 a エンボス深さD1(mm)とエンボス深さD2(mm)について(エンボス深さD1は、該トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁から前記巻長の10%に相当する位置における前記エンボスの深さであり、エンボス深さD2は前記端縁から前記巻長の90%に相当する位置における前記エンボスの深さである。)、その比{(D2/D1)×100}を定義したことは、申立人が提示した甲第2号証ないし甲第6号証にも記載されておらず、示唆する記載もない。 よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲第1号証及び甲第2号証、さらには甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たことではない。 b 相違点1について、申立人は、「しかるに、甲第2号証は、『美粧性 エンボス処理後の巻き取りや圧縮加工によってもエンボスパターンが失われにくい。』(2欄31行?33行)というものであるから、当然に、巻き取りの初期から終期までエンボス潰れが生じにくく、エンボスパターンが失われにくいことがないようにしていることは明らかである。 本件特許発明の{(D2/D1)×100}の意味について検討すると、{(D2/D1)×100}が100%である場合は、『巻き取りや圧縮加工によって』巻き取りの初期から終期までエンボス潰れが生じていないことを意味し、{(D2/D1)×100}は45%より小さくなるに従って、巻き取りの終期段階でのエンボス潰れの度合いが大きくなることを意味する。 甲第2号証において、所定のエンボス深さとすることで『美粧性 エンボス処理後の巻き取りや圧縮加工によってもエンボスパターンが失われにくい。』ということは、巻き取りの初期から終期までエンボス潰れが生じる度合いが小さいことを意味している。 つまり、甲第2号証においてエンボスパターンが『失われにくい』ことは、本件特許発明の評価基準{(D2/D1)×100}で評価する場合、100%であることは、巻き取りの初期から終期までエンボス深さが同一であることを意味する。100%未満であるものの過度に小さい百分率ではないことは、巻き取りの初期のエンボス深さが小さく、終期のエンボス深さが大きいものの、その差は小さいことを意味する。とりわけエンボス深さの差が小さいことはエンボス潰れにくいことを意味している(他に、エンボス深さの変化させる要素として巻き取りに伴う要素以外は考えにくい)。 したがって、本件特許発明の評価基準 {(D2/D1)×100}が45?100%であることは、所定のエンボス深さとすることで『エンボス処理後の巻き取りや圧縮加工によってもエンボスパターンが失われにくい。』ものを提供する甲第2号証に開示があるというべきである。 よって、相違点1についても進歩性を見出すことはできない。」(特許異議申立書18頁8行?19頁2行)と主張している。 しかしながら、甲第2号証に記載されたエンボスが、申立人が主張するように、巻き取り初期から終期において潰れにくいものであって、本件発明におけるエンボス深さD1とD2との比率を採用する意味と同様のものであったとしても、甲第2号証には、本件発明1のエンボス深さD1とD2との比率、つまり、トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁から前記巻長の10%に相当する位置における前記エンボスの深さであるエンボス深さD1と、前記端縁から前記巻長の90%に相当する位置における前記エンボスの深さであるエンボス深さD2との比率をどの程度の数値範囲とするかについては記載されておらず、本件発明1のエンボス深さD1とD2の比率が甲第2号証に開示されているということはできない。 よって、申立人の主張を採用することはできない。 (イ)相違点2 a 甲第2号証には、エンボス深さの数値として、0.10mmと0.40mmが記載されており、この数値は、相違点2に係るエンボス深さD1の0.05?0.40mm、エンボス深さD2の0.05?0.35mmの数値範囲に含まれるか、当該数値範囲に近いものである。 しかしながら、甲第2号証の上記数値は、段落【0008】に記載されているとおり、「トイレットティシュ(トイレットペーパーおよびティシュペーパー)」「用の原紙」のエンボス深さの数値であるから、本願発明のエンボス深さD1とD2(エンボス深さD1は、該トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁から前記巻長の10%に相当する位置における前記エンボスの深さであり、エンボス深さD2は前記端縁から前記巻長の90%に相当する位置における前記エンボスの深さである。)とは、深さを定義したエンボスの条件が相違しているから、甲第2号証に記載されたエンボス深さの数値を、甲1発明のエンボス深さに適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成とはならない。 また、申立人が提示した甲第3?6号証には、上記深さを定義したエンボスの条件について、記載も示唆もされていない。 よって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証及び甲第2号証、さらには甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 b 相違点2について、申立人は、「そもそも甲1発明は、・・・、甲2発明も、・・・、共通の課題を有しているものであるから、甲1発明のエンボスを施す際に、甲2発明のエンボス、すなわち、『エンボス深さが0.05?1.0mm』のエンボスとする(甲1発明に甲2発明のエンボス深さを適用する)ことにつき、当業者にとってなんら格別の創意を要求されるものではないことは明らかである。 他方、甲2発明の実施例1及び実施例2ではエンボス深さ0.40mm、実施例3ではエンボス深さ0.10mmとし、エンボス深さが1.05mmの比較1は加工後の潰れが生じ、エンボス深さが0.04mmの比較2では肌触りが△と評価しているのであるから、本件特許発明の数値範囲と大幅に重複し、また、上下限を超える場合の不具合の理由も共通している。したがって、本件特許発明において『エンボス深さD1が0.05?0.40mm』『エンボス深さD2が0.05?0.35mm』とすることに臨界的な意義を見出すことはできない。」(申立書17頁18行?18頁1行)と主張している。 申立人が主張するように、甲第2号証の表1には、エンボス深さの数値として、0.10mmや0.40mmが記載されているが、当該数値が計測されたエンボスが形成されるトイレットペーパーは、「トイレットティシュ(トイレットペーパーおよびティシュペーパー)用」「原紙」であって、本件発明1のエンボス深さD1及びD2のように、トイレットロールを巻きほぐした際の特定の場所のエンボス深さではないから、甲1発明に甲第2号証に記載されたエンボス深さの数値を適用したとしても、上記相違点2に係る構成とはならない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証、さらには甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2ないし6について 本件発明2ないし6は、本件発明1に更に構成を加えて減縮したものであるから、上記(1)の本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 8 むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-14 |
出願番号 | 特願2015-100722(P2015-100722) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A47K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 渋谷 知子 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
西田 秀彦 住田 秀弘 |
登録日 | 2017-06-02 |
登録番号 | 特許第6150843号(P6150843) |
権利者 | 日本製紙クレシア株式会社 |
発明の名称 | トイレットロール |
代理人 | 下田 昭 |
代理人 | 赤尾 謙一郎 |
代理人 | 栗原 和彦 |