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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16K
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16K
管理番号 1338146
異議申立番号 異議2017-701184  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-13 
確定日 2018-03-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6148715号発明「湯水混合栓」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6148715号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6148715号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年12月10日に特許出願され、平成29年5月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年12月13日に特許異議申立人 山下 雄一郎 により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

特許第6148715号の請求項1ないし6の特許に係る発明は、それぞれ、本件特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)。そのうち、独立形式で記載された請求項1及び6に記載された事項により特定される本件特許発明1及び6はそれぞれ以下のとおりのものである。

「【請求項1】
固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
上記固定弁体の下側に設けられた下ケースと、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされており、
上記固定弁体が水圧により受ける上向きの力がFUとされ、上記固定弁体が水圧により受ける下向きの力がFDとされるとき、
上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記力FUが上記力FDよりも大きい湯水混合栓。」

「【請求項6】
固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされており、
上記固定弁体が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uと、水圧により下向きの力を受ける受圧面Dとを有しており、
上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記受圧面Uの平面投影面積MU1が、上記受圧面Dの平面投影面積MD1よりも大きい湯水混合栓。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要

特許異議申立書には、特許異議申立人が主張する特許異議の申立ての理由が記載されているとともに、証拠として次の甲各号証が表示されている。

甲第1号証:特開2013-29184号公報
甲第2号証:特開平8-21543号公報

特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由として、次の申立理由1ないし4があり、その概要は以下のとおりである。

申立理由1:特許法第29条第1項
本件特許発明1及び6は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と実質同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明であり、本件請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

申立理由2:特許法第29条第2項
本件特許発明1及び6は、当業者が甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由3:特許法第36条第4項第1号
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許異議申立書3(4)エ(ア)(第24ページ第17行ないし第25ページ第28行)に記載された記載不備の理由により、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由4:特許法第36条第6項第1号
本件特許請求の範囲は、特許異議申立書3(4)エ(イ)(第26ページ第1行ないし第28ページ第27行)に記載された記載不備の理由により、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 当審の判断

1 申立理由1(特許法第29条第1項)について

(1)甲各号証に記載された事項

ア 甲第1号証に記載された事項

甲第1号証には、図面とともに、次の(ア)ないし(ツ)の記載がある(なお、下線は当審で付加した。)。

(ア)「【0001】
本発明は、固定ナット及び湯水混合水栓に関する。」

(イ)「【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、排水と防水とを両立することのできる固定ナット及び湯水混合水栓を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0012】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係る固定ナットを備える水栓装置の概略構成例を示す説明図である。なお、以下の説明では、本実施形態に係る固定ナット70が備えられる水栓装置5の通常の使用態様時における上下方向を、水栓装置5及び固定ナット70の上下方向として説明する。本実施形態に係る固定ナット70が備えられる水栓装置5は、洗面台(図示省略)等のカウンタ1に設置されている。この水栓装置5は、水を吐水する吐水部10と、吐水部10による吐水と止水との切り替えを行ったり、吐水する水の流量や温度を調節したりする湯水混合水栓である水栓本体20と、を有している。この水栓装置5は、水を吐水する吐水部10と、吐水部10による吐水と止水との切り替えを行ったり、吐水する水の流量や温度を調節したりする湯水混合水栓である水栓本体20と、を有している。」

(エ)「【0018】
図2は、図1に示す水栓本体の要部断面図である。…(略)…水栓本体20は、水や湯の流量を調節する際における要部となる弁ユニット80と、…(略)…を有している。…(略)…」

(オ)「【0024】
図7は、図2に示す弁ユニットの断面図である。…(略)…弁ユニット80は、ユニットケース100と、軸受120と、ディスクキャップ130と、可動ディスク140と、固定ディスク150と、裏蓋160と、操作部であるレバー軸90とを組み合わせることにより構成されている。…(略)…また、この弁ユニット80は、複数の流路から流入する流体を混合して流出させることができると共に、操作部であるレバー軸90を傾倒させることにより混合の割合と流出量とを調節可能に構成されている。」

(カ)「【0029】
図11は、図7に示すユニットケースの正面図である。図12は、図11のB-B断面図である。図13は、図11に示すユニットケースの斜視図である。ユニットケース100は、略円筒形の形状で形成されるケース本体部101の一端側に、軸受120を保持する軸受保持部110が一体に設けられることにより構成されている。」

(キ)「【0042】
図22は、図7に示す可動ディスクの断面図である。図23は、図7に示す可動ディスクの底面図である。…(略)…
【0044】
また、可動ディスク下面142には、流入孔41や流出孔42を流れる水や湯の流れ方を切り換える切換穴147が形成されている。…(略)…」

(ク)「【0045】
図25は、図7に示す固定ディスクの断面図である。図26は、図7に示す固定ディスクの上面図である。図27は、図7に示す固定ディスクの底面図である。図28は、図25に示す固定ディスクの斜視図である。固定ディスク150は、略円板形状で形成されており、板厚方向における一方の面である固定ディスク上面151から、他方の面である固定ディスク下面152にかけて、3つの孔が貫通している。この3つの孔のうち2つは、弁ユニット80の外部から流入する水や湯を可動ディスク140側に流すディスク側流入孔155として形成されており、残りの1つの孔は、可動ディスク140側からの水や湯を弁ユニット80の外部に流すディスク側流出孔158として形成されている。」

(ケ)「【0049】
図29は、図7に示す裏蓋の断面図である。図30は、図7に示す裏蓋の上面図である。…(略)…
【0050】
…(略)…つまり、裏蓋側流入孔167と裏蓋側流出孔168とは、裏蓋160と固定ディスク150とを重ねた場合に、裏蓋側流出孔168とディスク側流出孔158、及び2つの裏蓋側流入孔167と2つのディスク側流入孔155が、連通するように形成されている。」

(コ)「【0062】
さらに、可動ディスク140における可動ディスク下面142側には、固定ディスク上面151が可動ディスク140に対向する向きで固定ディスク150が配設され、固定ディスク150は、ユニットケース100に取り付けられる裏蓋160によって保持される。」

(サ)「【0084】
また、カウンタ1は、水栓装置5を使用する際の通常の使用形態における手前側が、奥の方よりも若干低くなる方向に緩やかに傾斜している。水栓本体20をカウンタ1に設置する際には、このカウンタ1の傾斜によって相対的な高さが低くなる側にカバー取付部51の排水部55が位置する向きで設置する。即ち、水栓本体20は、排水部55が手前側に位置する向きでカウンタ1に設置する。」

(シ)「【0092】
次に、水栓装置5による吐水の調整について説明すると、2本の流入管181には、給水管や温水装置から常時水圧が作用しており、水栓装置5は、流入管181側から流出管182側に流れる水や湯の流量を水栓本体20で調節することにより、吐水口15からの吐水量や温度を調節する。このように、水栓本体20で吐水量を調節する場合には、レバー170の傾倒角度や傾倒方向を変化させることにより調節する。」

(ス)「【0093】
ここで、レバー170の動作について説明すると、レバー170は、弁ユニット80のレバー軸90に接続されており、レバー軸90は、球状部91がユニットケース100のケース側レバー軸支持部115と軸受120の軸受側レバー軸支持部124より支持されている。さらに、球状部91に設けられるピン92は、レバー軸支持部溝部125に入り込んでいる。
【0094】
このため、レバー170及びレバー軸90は、球状部91の中心部分を中心として、レバー軸支持部溝部125の形成方向と、ピン92の中心軸を中心とする回転方向との2方向に傾倒可能に支持されており、このため、あらゆる方向に傾倒可能に支持されている。一方、球状部91に設けられているピン92は、レバー軸支持部溝部125に入り込んでいるため、レバー軸90は、当該レバー軸90の中心軸を中心とする回転は規制されている。
【0095】
また、レバー軸90における球状端部95側の部分は、扇状の形状で開口している動作範囲制限孔126を通り抜けている。このため、あらゆる方向に傾倒可能なレバー軸90は、傾倒方向及び角度が、この動作範囲制限孔126によって制限される。即ち、レバー軸90は、球状端部95側の部分が、動作範囲制限孔126に当接する範囲内で、傾倒可能になっている。このため、レバー軸90は、中立状態、即ち、傾倒角度がケース本体部101等の中心軸に沿っている状態から、球状端部95側が、ケース本体部101の回転規制孔104が位置する部分から離れる方向の所定の範囲内で、傾倒可能になっている。」

(セ)「【0098】
また、この可動ディスク140は、レバー軸90を傾倒させることによって移動するディスクキャップ130と共に移動するため、切換穴147を介するディスク側流入孔155とディスク側流出孔158との連通状態は、レバー軸90の傾倒状態によって切り換えられる。」

(ソ)「【0101】
これらに対し、レバー軸90を、動作範囲制限孔126に当接する範囲内で傾倒させた場合、軸端挿入部136に球状端部95が挿入されているディスクキャップ130は、レバー軸90の傾倒に応じて移動する。図42は、図7のレバー軸を傾倒させた場合の説明図である。例えば、レバー軸90を、球状端部95側が回転規制孔104から離れる方向に傾倒させた場合には、ディスクキャップ130は、回転規制部137が回転規制孔104から抜け出る方向に移動する。この場合、可動ディスク140も、ディスクキャップ130と共に移動し、切換穴147を介するディスク側流入孔155とディスク側流出孔158との連通状態が、レバー軸90が中立状態の場合から変化する。」

(タ)「【0102】
図43は、図42のQ-Q断面図であり、レバー軸を傾倒させた状態における可動ディスクと固定ディスクとの関係を示す説明図である。可動ディスク140が、回転規制孔104から離れる方向に移動した場合、可動ディスク140に形成される切換穴147も、レバー軸90が中立状態の場合と比較して、回転規制孔104から離れる方向に移動する。この場合でも、レバー軸90は、動作範囲制限孔126によって傾倒範囲が制限されているため、切換穴147は、ディスク側流出孔158と連通している状態が維持される。
【0103】
また、固定ディスク150において、回転規制孔104から離れた方向にはディスク側流入孔155が形成されているため、可動ディスク140が、回転規制孔104から離れる方向に移動した場合には、切換穴147は、冷水側流入孔156と温水側流入孔157との双方と重なる。これにより、切換穴147は、冷水側流入孔156や温水側流入孔157と連通する。
【0104】
また、切換穴147は、ディスク側流出孔158と連通している状態が維持されているため、切換穴147は、冷水側流入孔156と温水側流入孔157とディスク側流出孔158とに連通する。換言すると、ディスク側流出孔158は切換穴147を介して、冷水側流入孔156と温水側流入孔157との双方に連通する。
【0105】
これにより、冷水側流入孔156に流れる水と温水側流入孔157に流れる湯とは切換穴147を介して共にディスク側流出孔158に流れ、双方が混合された状態で流出管182に流れる。この水と湯との混合水は、ホース185を通って吐水ヘッド14に流入し、吐水ヘッド14の吐水口15から吐水される。」

(チ)「【0106】
図44は、レバー軸の操作範囲についての説明図である。レバー軸90は、動作範囲制限孔126に当接する範囲内で傾倒させることが可能になっているが、動作範囲制限孔126は、扇状の形状で開口しているため、レバー軸90を傾倒させることができる範囲である操作範囲OAも、扇状になっている。また、固定ディスク150の冷水側流入孔156と温水側流入孔157、及びディスク側流出孔158の連通状態は、レバー軸90を傾倒させることによって移動する可動ディスク140の切換穴147の位置によって変化する。
【0107】
詳しくは、レバー軸90は、回転規制部137がケース本体部101の回転規制孔104から抜け出る方向に傾倒させた場合でも、傾倒範囲が制限されているため、回転規制部137が回転規制孔104から完全に抜け出ることはないが、回転規制部137が抜け出る量が多い場合、ディスクキャップ130は、水平方向にも移動が可能になる。つまり、レバー軸90を傾倒させることにより、回転規制部137が回転規制孔104から抜け出る部分が多くなった場合には、ディスクキャップ130は、回転規制部137と回転規制孔104との当接部分を中心にして、水平方向に回動することが可能になる。
【0108】
このため、可動ディスク140も、ディスクキャップ130と共に水平方向に回動することができ、可動ディスク140の切換穴147が、固定ディスク150の冷水側流入孔156や温水側流入孔157に重なる範囲は、この可動ディスク140の水平方向の位置によって変化する。
【0109】
従って、冷水側流入孔156からディスク側流出孔158に流れる水の流量や、温水側流入孔157からディスク側流出孔158に流れる湯の流量は、可動ディスク140の位置によって変化し、即ち、操作範囲OA上のレバー軸90の位置によって変化する。例えば、操作範囲OAにおける、扇状の円弧の部分の一端側は、冷水側流入孔156からディスク側流出孔158への流量が最も多くなる低温位置LPになっており、円弧の他端側は、温水側流入孔157からディスク側流出孔158への流量が最も多くなる高温位置HPになっている。」

(ツ)「【0110】
図45は、図42のQ-Q断面図であり、レバー軸が低温位置の状態における可動ディスクと固定ディスクとの関係を示す説明図である。レバー軸90が低温位置LPの状態の場合は、可動ディスク140は、ケース本体部101の回転規制孔104から離れつつ、冷水側流入孔156寄りの位置に回動する。このため、可動ディスク140の切換穴147は、冷水側流入孔156とディスク側流出孔158とのみ連通し、温水側流入孔157は、可動ディスク140によって塞がれる。
【0111】
従って、温水側流入孔157に流入する湯は、可動ディスク140によって遮断される一方、ディスク側流出孔158には、冷水側流入孔156に流入する水が切換穴147を介して流れるため、吐水ヘッド14の吐水口15からは、給水管から水栓本体20に流入する水のみが吐水される。
【0112】
図46は、図42のQ-Q断面図であり、レバー軸が高温位置の状態における可動ディスクと固定ディスクとの関係を示す説明図である。レバー軸90が高温位置HPの状態の場合は、可動ディスク140は、回転規制孔104から離れつつ、温水側流入孔157寄りの位置に回動する。このため、可動ディスク140の切換穴147は、温水側流入孔157とディスク側流出孔158とのみ連通し、冷水側流入孔156は、可動ディスク140によって塞がれる。
【0113】
従って、冷水側流入孔156に流入する水は、可動ディスク140によって遮断される一方、ディスク側流出孔158には、温水側流入孔157に流入する湯が切換穴147を介して流れるため、吐水ヘッド14の吐水口15からは、温水装置から水栓本体20に流入する湯のみが吐水される。
【0114】
水栓装置5で吐水を行う場合には、これらのように、レバー軸90に接続されるレバー170を、操作範囲OA内で傾倒させて操作することにより、吐水量や吐水の温度を調節することができる。」

更に、甲第1号証の上記記載及び図面の記載から、次の(テ)ないし(ハ)に示す事項が理解できる。

(テ)段落【0101】ないし【0114】の記載並びに図7及び図41ないし図46の記載から、可動ディスク140は、固定ディスク150の上で移動しうるものであって、当該移動は固定ディスク150との摺動であることが理解できる。

(ト)段落【0062】の記載並びに図7及び図42の記載から、裏蓋160は固定ディスク150の下側に設けられたものであることが理解できる。

(ナ)段落【0098】及び【0101】ないし【0114】の記載並びに図7及び図41ないし図46の記載から、レバー軸90の操作範囲OA上の位置によって可動ディスク140の位置が変化することが理解できるので、レバー軸90は可動ディスク140を操作しうるものであるといえる。

(ニ)段落【0012】、【0018】及び【0024】の記載並びに図1、図2及び図7の記載から、水栓装置5は湯水混合水栓である水栓本体20を有し、水栓本体20は弁ユニット80を有し、弁ユニット80は可動ディスク140と固定ディスク150と裏蓋160とレバー軸90と有していることから、水栓装置5は、固定ディスク150と、可動ディスク140と、裏蓋160と、レバー軸90とを有していることが理解できる。

(ヌ)段落【0084】の記載及び図2及び図47の記載から、水栓装置5の通常の使用形態における手前側に排水部55が位置する向きとなるよう、水栓本体20がカウンタ1に設置されるので、図2及び図47における図視左方向が当該手前側であり、図視左右方向が当該手前側から見て前後方向であることが理解できる。

(ネ)段落【0093】ないし【0095】及び【0106】の記載並びに図2、図14ないし図17及び図44の記載から、レバー軸90は、操作範囲OA内において、図44での図視上下方向及び左右方向の傾倒が可能であることが理解できる。レバー軸90が中立状態の場合に、ディスクキャップ130の回転規制部137は、ケース本体部101の回転規制孔104に入り込み、特に図2、図7、図12、図18及び図42の記載から、回転規制部137及び回転規制部137は、図2の記載では中心軸より左側(排水部55が位置する、水栓装置5の通常の使用形態における手前側とは反対側となる奥側)、図7及び図42の記載では中心軸より右側に位置することが看取できる。図42の記載におけるレバー軸90(レバー170の接続側)の傾倒方向は左方向であるから、図42及び図44における図視左右方向は一致する。したがって、図44の図視右方向が水栓装置5の通常の使用形態における手前側となり、図44の図視上下方向は当該手前側から見て左右方向となるので、レバー軸90は当該手前側から見て左右方向及び前後方向の傾倒が可能であることが理解できる。

(ノ)段落【0024】、【0092】及び【0101】ないし【0114】の記載並びに図7及び図41ないし図46の記載から、レバー軸90を操作範囲OA内で傾倒させて操作することにより、吐水量や吐水の温度(湯水混合の割合)を調節することができ、図44の図視上下方向及び左右方向、すなわち水栓装置5の通常の使用形態における手前側から見て左右方向及び前後方向に傾倒角度を変化させることにより、それぞれ湯水混合の割合及び吐水量の調節が可能とされていることが理解できる。

(ハ)段落【0012】、【0029】、【0045】、【0049】、【0050】及び【0101】ないし【0114】の記載並びに図2、図7、図11ないし図13、図25ないし図30及び図41ないし図46の記載から、ユニットケース100において略円筒形の形状で形成されるケース本体部101の軸方向は水栓装置5の通常の使用態様時における上下方向となっており、固定ディスク150は、水圧により当該上下方向の上向き及び下向きの力を受ける受圧面をそれぞれ有し、当該受圧面により、固定ディスク150は水圧により上向き及び下向きの力を受けることが理解できる。当該上向き及び下向きの力を受ける受圧面は、概ね、特許異議申立書(第9ないし11ページ)に記載された参考図1ないし参考図4において、それぞれ赤色及び青色で示された部分であるといえる。

そうすると、甲第1号証の記載事項を総合し、本件請求項1の記載ぶりに倣って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1A発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定ディスク150と、
上記固定ディスク150の上で摺動しうる可動ディスク140と、
上記固定ディスク150の下側に設けられた裏蓋160と、
水栓装置5の通常の使用形態における手前側から見て左右方向及び前後方向の傾倒が可能であり上記可動ディスク140を操作しうるレバー軸90と、
を有しており、
上記レバー軸90の上記左右方向の傾倒角度の変化により、湯水混合の割合の調節が可能とされており、
上記レバー軸90の上記前後方向の傾倒角度の変化により、吐水量の調節が可能とされており、
上記固定ディスク150が水圧により上向きの力及び下向きの力を受ける水栓装置5。」

また、甲第1号証の記載事項を総合し、本件請求項6の記載ぶりに倣って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定ディスク150と、
上記固定ディスク150の上で摺動しうる可動ディスク140と、
水栓装置5の通常の使用形態における手前側から見て左右方向及び前後方向の傾倒が可能であり上記可動ディスク140を操作しうるレバー軸90と、
を有しており、
上記レバー軸90の上記左右方向の傾倒角度の変化により、湯水混合の割合の調節が可能とされており、
上記レバー軸90の上記前後方向の傾倒角度の変化により、吐水量の調節が可能とされており、
上記固定ディスク150が、水圧により上向きの力を受ける受圧面と、水圧により下向きの力を受ける受圧面とを有している水栓装置5。」

特許異議申立人は、特許異議申立書(第11ないし12ページ)において、甲第1号証に記載された事項について、以下のとおり主張している。
「図27、図43、図45、及び図46(参考図1?4)の縮尺を同じにし、固定ディスク150が、水圧により上向きの力を受ける受圧面U(参考図1の赤色部分)の平面投影面積MU1、及び水圧により下向きの力を受ける受圧面D(参考図2?4の青色部分)の平面投影面積MD1を測定した。
その結果、図27(参考図1)から看取できる固定ディスク150が水圧により上向きの力を受ける受圧面Uの平面投影面積MU1を100とすると、図43、図45、図46(参考図2?4)の夫々から看取できる固定ディスク150が水圧により下向きの力を受ける受圧面Dの平面投影面積MD1は約62、約57、約57であった。このように、図43、図45、図46(参考図2?4)に示される受圧面Dの平面投影面積MD1を測定したが、これらにおいて、受圧面Uの平面投影面積MU1が受圧面Dの平面投影面積MD1よりも圧倒的に大きいことから、可動ディスク140が固定ディスク150に対して取り得る他のどの位置においても受圧面Uの平面投影面積MU1が受圧面Dの平面投影面積MD1よりも大きいことは明らかである。」
しかしながら、甲第1号証は公開特許公報であるところ、一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書の記載内容を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから、当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。甲第1号証についても同様であり、甲第1号証に係る特許出願において特許を受けようとする発明は、「排水と防水とを両立することのできる固定ナット及び湯水混合水栓を提供することを目的とする」(段落【0005】)ものであって、固定ディスク150が水圧により受ける上向き及び下向きの力や、当該力を受ける受圧面の平面投影面積に技術的意義があるものではなく、当該面積の大小関係が図面に明確に反映されているとはいえないので、特許異議申立書に記載された上記主張は採用できない。

そして、甲第1号証の全ての記載を参照しても、レバー軸90の傾倒角度に関わらず、固定ディスク150が水圧により受ける上向きの力が下向きの力よりも大きいこと、及び当該上向きの力を受ける受圧面の平面投影面積が当該下向きの力を受ける受圧面の平面投影面積よりも大きいことを示す記載又は示唆は認められない。

イ 甲第2号証に記載された事項

甲第2号証には、図面とともに、次の(ア)ないし(オ)の記載がある(なお、下線は当審で付加した。)。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一つのハンドルレバーを操作することにより、止水,吐水の切り換え、流量の制御、混合水温度の制御等を行うシングルレバー式水栓等の水栓におけるディスク弁体のシール構造に関するものである。」

(イ)「【0010】本発明は従来の前記課題に鑑みてこれを改良除去するために、ディスク弁体が移動してもシール不良がなく、且つディスク弁体に大きな押圧力を加えることのない水栓におけるディスク弁体のシール構造を提供せんとするものである。」

(ウ)「【0015】
【実施例】以下に、本発明の構成を図面に示す実施例に基づいて説明すると次の通りである。図1乃至図11は、本発明の一実施例に係るシングルレバー式水栓を示すものである。この実施例の水栓にあっては、シングルレバー式水栓のヘッド部5を、ヘッドケース27、レバー軸28、回転軸29、ディスクキャップ30、可動ディスク弁体31、固定ディスク弁体32、裏蓋33とで構成している。」

(ウ)「【0023】可動ディスク弁体31の上面側には、前記ディスクキャップ30の小判形又は楕円状の凸部49と嵌合する凹部52が形成されており(図8参照)、両者間にはゴムパッキン53が装着されるようになっている。また可動ディスク弁体31の下面側には混合室形成用の凹部54が形成されており、該凹部54と前記凹部52とは連通している。
【0024】これに対して、固定ディスク弁体32は、平面視した状態で金魚の形をしている。この固定ディスク弁体32には、図9の図(a)及び図(b)に示すように、湯の流入ポート55と、水の流入ポート56と、混合水の流出ポート57とが上下面を貫通して形成されている。これらのポート55,56,57のディスク弁体下面側には、それぞれ凹部58が形成されている。
【0025】また裏蓋33には、図10に示すように、前記固定ディスク弁体32と同位置に同じ形状の湯水の流入ポート59,60及び混合水の流出ポート61が形成されており、これらの各ポートのディスク弁体上面側には、図7及び図11に示す如く、上方に向かって縮径するテーパー面62が外周に形成された筒状突出部68が設けられている。…(略)…」

(エ)「【0034】このようにシールリング63は、水圧とバランスする位置で停止するため、固定ディスク弁体32に対して大きな押圧力を加えることがなく、固定ディスク弁体32と可動ディスク弁体32との摺動抵抗を大きくすることなく、ハンドルレバー12の良好な操作性を確保する。」

(オ)「【0035】而して、この実施例の水栓の使用態様は、従来の場合と同じように、ハンドルレバー12の上げ下げと、回動操作とによって、吐出流量と混合水温度とを制御する。ハンドルレバー12を上げ下げすることによってレバー軸28のメイン操作部35及びサブ操作部36を介してディスクキャップ30及びこれと一体的に動作する可動ディスク弁体31が図1の止水状態から図2の最大吐出流量の状態まで移動する。
【0036】このとき、前記メイン操作部35と、サブ操作部36とは、インボリュート曲面を介してディスクキャップ30と接合しており、その接合面が相互に変化するので、局部的に摩耗が進行し、ガタツキの原因となる等のことはない。またインボリュート曲面を利用することにより、レバー軸28のピン14を支点とする回動動作があっても、ディスクキャップ30をこじあげることなく、水平移動させることが可能であり、弁体の円滑な動作を確保することが可能である。なお、前記インボリュート曲面は、サイクロイド曲面であっても同一の効果を得ることが可能である。
【0037】またハンドルレバー12を回動操作することによって、回転軸29のスライド溝43,43とディスクキャップ30の凸条46,46との係合によって両者が一体的に回動動作するようになる。ディスクキャップ30の下面側には、小判形又は楕円状の凹凸部49,52を介して可動ディスク弁体31が装着されているので、可動ディスク弁体31は、その混合室54へ連通開口する固定ディスク弁体32の湯ポート55と、水ポート56との開口面積比率を変更するようになり、混合水の温度を変更する。」

更に、甲第2号証の上記記載及び図面の記載から、次の(カ)ないし(シ)に示す事項が理解できる。

(カ)段落【0034】及び【0035】の記載並びに図1及び図2の記載から、可動ディスク弁体31は固定ディスク弁体32の上で摺動しうるものであることが理解できる。

(キ)段落【0015】の記載並びに図1及び図2の記載から、裏蓋33は固定ディスク弁体32の下側に設けられたものであることが理解できる。

(ク)段落【0035】ないし【0037】の記載並びに図1及び図2の記載から、レバー軸28は可動ディスク弁体31を操作しうるものであることが理解できる。

(ケ)段落【0015】の記載並びに図1及び図2の記載から、シングルレバー式水栓は、固定ディスク弁体32と、可動ディスク弁体31と、裏蓋33と、レバー軸28とを有していることが理解できる。

(コ)段落【0035】及び【0036】の記載並びに図1ないし図3の記載から、ハンドルレバー12を上げ下げすることによって、レバー軸28はピン14を支点とする回動動作をし、レバー軸28を介して可動ディスク弁体31が図1の止水状態から図2の最大吐出流量の状態まで移動可能であって、これにより吐出流量の制御が可能であることが理解できる。ハンドルレバー12が上げ下げされる際のレバー軸28の回動方向は、側面図である図1ないし図3の図視左右方向であって、シングルレバー式水栓の正面視では前後方向に当たるので、レバー軸28は、当該前後方向の回動が可能であって、これにより吐出流量の制御が可能であるといえる。

(サ)段落【0035】及び【0037】の記載並びに図1ないし図3の記載から、シングルレバー式水栓の正面視で水平方向にハンドルレバー12を回動操作することによって、共に回動するレバー軸28を介して可動ディスク弁体31も水平面内で回動し、混合室54へ連通開口する固定ディスク弁体32の湯ポート55と水ポート56との開口面積比率が変化され、これにより混合水温度、つまり湯と水の混合比率の制御が可能であることが理解できる。

(シ)段落【0015】及び【0023】ないし【0025】の記載並びに図1ないし図4及び図7ないし図11の記載から、ヘッドケース27は筒状に形成され、その外面の円周面の軸方向はシングルレバー式水栓の正面視で上下方向となっており、固定ディスク弁体32は水圧により当該上下方向の上向き及び下向きの力を受ける受圧面をそれぞれ有し、当該受圧面により、固定ディスク弁体32は水圧により上向き及び下向きの力を受けることが理解できる。当該上向き及び下向きの力を受ける受圧面は、概ね、特許異議申立書(第14ないし16ページ)に記載された参考図5ないし参考図9において、それぞれ赤色及び青色で示された部分であるといえる。

そうすると、甲第2号証の記載事項を総合し、本件請求項1の記載ぶりに倣って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定ディスク弁体32と、
上記固定ディスク弁体32の上で摺動しうる可動ディスク弁体31と、
上記固定ディスク弁体32の下側に設けられた裏蓋33と、
シングルレバー式水栓の正面視で水平方向及び前後方向の回動が可能であり上記可動ディスク弁体31を操作しうるレバー軸28と、
を有しており、
上記レバー軸28の上記水平方向での回動により、湯と水の混合比率の制御が可能とされており、
上記レバー軸28の上記前後方向での回動により、吐出流量の制御が可能とされており、
上記固定ディスク弁体32が水圧により上向きの力及び下向きの力を受けるシングルレバー式水栓。」

また、甲第2号証の記載事項を総合し、本件請求項6の記載ぶりに倣って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2B発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定ディスク弁体32と、
上記固定ディスク弁体32の上で摺動しうる可動ディスク弁体31と、
シングルレバー式水栓の正面視で水平方向及び前後方向の回動が可能であり上記可動ディスク弁体31を操作しうるレバー軸28と、
を有しており、
上記レバー軸28の上記水平方向での回動により、湯と水の混合比率の制御が可能とされており、
上記レバー軸28の上記前後方向での回動により、吐出流量の制御が可能とされており、
上記固定ディスク弁体32が、水圧により上向きの力を受ける受圧面と、水圧により下向きの力を受ける受圧面とを有しているシングルレバー式水栓。」

特許異議申立人は、特許異議申立書(第16ないし17ページ)において、甲第2号証に記載された事項について、以下のとおり主張している。
「図8(b)、図9(a)、(b)(参考図5?9)の縮尺を同じにし、固定ディスク弁体32が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uの平面投影面積MU1、及び水圧により下向きの力を受ける受圧面Dの平面投影面積MD1を測定した。
その結果、図9(a)(参考図5)から看取できる吐水状態において固定ディスク弁体32が水圧により上向きの力を受ける受圧面U(参考図5の赤色部分)の平面投影面積MU1を100とすると、参考図6?8の夫々から看取できる固定ディスク弁体32が水圧により下向きの力を受ける受圧面D(参考図6?8の青色部分)の平面投影面積MD1は約44、約43、約43であった。また、止水状態における固定ディスク弁体32が水圧により上向きの力を受ける受圧面Uは、参考図5において、湯の流入ポート55と水の流入ポート56の周りの赤色に示した部分であり、この受圧面Uの平面投影面積MU1を100とすると、参考図9から看取できる止水状態における固定ディスク弁体32が水圧により下向きの力を受ける受圧面Dの平面投影面積MD1は約12であった。このように、参考図6?9に示される受圧面Dの平面投影面積MD1を測定したが、これらにおいて、受圧面Uの平面投影面積MU1が受圧面Dの平面投影面積MD1よりも圧倒的に大きいことから、可動ディスク弁体31が固定ディスク弁体32に対して取り得る他のどの位置においても受圧面Uの平面投影面積MU1が受圧面Dの平面投影面積MD1よりも大きいことは明らかである。」
しかしながら、甲第2号証は公開特許公報であるところ、一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書の記載内容を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから、当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。甲第2号証についても同様であり、甲第2号証に係る特許出願において特許を受けようとする発明は、「ディスク弁体が移動してもシール不良がなく、且つディスク弁体に大きな押圧力を加えることのない水栓におけるディスク弁体のシール構造を提供せんとするもの」(段落【0010】)であって、固定ディスク弁体32が水圧により受ける上向き及び下向きの力や、当該力を受ける受圧面の平面投影面積に技術的意義があるものではなく、当該面積の大小関係が図面に明確に反映されているとはいえないので、特許異議申立書に記載された上記主張は採用できない。

そして、甲第2号証の全ての記載を参照しても、レバー軸28の回動の大きさに関わらず、固定ディスク弁体32が水圧により受ける上向きの力が下向きの力よりも大きいこと、及び当該上向きの力を受ける受圧面の平面投影面積が当該下向きの力を受ける受圧面の平面投影面積よりも大きいことを示す記載又は示唆は認められない。

(2)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と甲1A発明との対比

本件特許発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「固定ディスク150」は本件特許発明1の「固定弁体」に相当し、以下同様に、「可動ディスク140」は「可動弁体」に、「裏蓋160」は「下ケース」に、「レバー軸90」は「レバー」に、「水栓装置5」は「湯水混合栓」にそれぞれ相当する。
甲1A発明において「レバー軸90」が「水栓装置5の通常の使用形態における手前側から見て左右方向及び前後方向の傾倒が可能」であることは、本件特許発明1において「レバー」が「左右回動及び前後回動が可能」であることに相当し、甲1A発明における「レバー軸90」の「上記左右方向の傾倒角度の変化」及び「上記前後方向の傾倒角度の変化」は、本件特許発明1における「上記レバーの左右回動位置の変化」及び「上記レバーの前後回動位置の変化」に相当する。甲1A発明の「湯水混合の割合」及び「吐水量」は本件特許発明1の「湯水混合比率」及び「吐出量」にそれぞれ相当する。以上をまとめると、甲1A発明の「上記レバー軸90の上記左右方向の傾倒角度の変化により、湯水混合の割合の調節が可能」とされていること、及び「上記レバー軸90の上記前後方向の傾倒角度の変化により、吐水量の調節が可能」とされていることは、本件特許発明1の「上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能」とされていること、及び「上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能」とされていることにそれぞれ相当する。
本件特許発明1における「上向き」及び「下向き」について、本件特許明細書の記載によれば「なお、本願において、上ケース120(後述)の外面の円周面に基づいて、軸方向、径方向及び周方向が定義される。理解を容易とすべく、本願では、当該軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するとみなして、「上」、「上方」、「上側」、「下」、「下方」「下側」等の文言が用いられる。」(段落【0022】)とされており、甲1A発明における「上向き」及び「下向き」は水栓装置5の通常の使用態様時における上下方向であって、当該方向はユニットケース100において略円筒形の形状で形成されるケース本体部101の軸方向に一致するものであるから(上記第4,1(1)ア(ハ)参照)、甲1A発明の「上向き」及び「下向き」は本件特許発明1の「上向き」及び「下向き」にそれぞれ相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1A発明は、
「固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
上記固定弁体の下側に設けられた下ケースと、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされてている、
湯水混合栓。」
の点で一致し、以下の相違点1-1で相違する。

〈相違点1-1〉
本件特許発明1では、
「上記固定弁体が水圧により受ける上向きの力がFUとされ、上記固定弁体が水圧により受ける下向きの力がFDとされるとき、
上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記力FUが上記力FDよりも大きい」
のに対して、甲1A発明では、「上記固定ディスク150が水圧により上向きの力及び下向きの力を受ける」ものの、「上記レバー軸90の上記左右方向の傾倒角度」及び「上記レバー軸90の上記前後方向の傾倒角度」に関わらず、上記「上向きの力」が上記「下向きの力」よりも大きいか不明である点。

以上のとおり、相違点1-1において、本件特許発明1と甲1A発明とは相違するので、本件特許発明1は、甲第1号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明ではない。

イ 本件特許発明1と甲2A発明との対比

本件特許発明1と甲2A発明とを対比すると、甲2A発明の「固定ディスク弁体32」は本件特許発明1の「固定弁体」に相当し、以下同様に、「可動ディスク弁体31」は「可動弁体」に、「裏蓋33」は「下ケース」に、「レバー軸28」は「レバー」に、「シングルレバー式水栓」は「湯水混合栓」にそれぞれ相当する。
甲2A発明において「シングルレバー式水栓の正面視で水平方向及び前後方向」は、本件特許発明1においてそれぞれ「左右」及び「前後」の方向に相当し、甲2A発明において「レバー軸28」が「シングルレバー式水栓の正面視で水平方向及び前後方向の回動が可能」であることは、本件特許発明1において「レバー」が「左右回動及び前後回動が可能」であることに相当する。
甲2A発明の「湯と水の混合比率」及び「吐出流量」は本件特許発明1の「湯水混合比率」及び「吐出量」にそれぞれ相当し、甲2A発明の「上記レバー軸28の上記水平方向での回動により、湯と水の混合比率の制御が可能」とされていること、及び「上記レバー軸28の上記前後方向での回動により、吐出流量の制御が可能」とされていることは、本件特許発明1の「上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能」とされていること、及び「上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能」とされていることにそれぞれ相当する。
本件特許発明1における「上向き」及び「下向き」について、本件特許明細書の記載によれば「なお、本願において、上ケース120(後述)の外面の円周面に基づいて、軸方向、径方向及び周方向が定義される。理解を容易とすべく、本願では、当該軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するとみなして、「上」、「上方」、「上側」、「下」、「下方」「下側」等の文言が用いられる。」(段落【0022】)とされており、甲2A発明における「上向き」及び「下向き」はシングルレバー式水栓の正面視での上下方向であって、当該方向は筒状に形成されたヘッドケース27外面の円周面の軸方向に一致するものであるから(上記第4,1(1)イ(シ)参照)、甲2A発明の「上向き」及び「下向き」は本件特許発明1の「上向き」及び「下向き」にそれぞれ相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲2A発明は、
「固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
上記固定弁体の下側に設けられた下ケースと、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされてている、
湯水混合栓。」
の点で一致し、以下の相違点1-2で相違する。

〈相違点1-2〉
本件特許発明1では、
「上記固定弁体が水圧により受ける上向きの力がFUとされ、上記固定弁体が水圧により受ける下向きの力がFDとされるとき、
上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記力FUが上記力FDよりも大きい」
のに対して、甲2A発明では、「上記固定ディスク弁体32が水圧により上向きの力及び下向きの力を受ける」ものの、「上記レバー軸28の上記水平方向での回動」及び「上記レバー軸28の上記前後方向での回動」の大きさに関わらず、上記「上向きの力」が上記「下向きの力」よりも大きいか不明である点。

以上のとおり、相違点1-2において、本件特許発明1と甲2A発明とは相違するので、本件特許発明1は、甲第2号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明ではない。

(3)本件特許発明6について

ア 本件特許発明6と甲1B発明との対比

本件特許発明6において本件特許発明1と一致する構成と、甲1B発明において甲1A発明と一致する構成との対比については、上記第4,1(2)アにおいて検討したとおりである。
更に、本件特許発明6において本件特許発明1と一致しない構成について、甲1B発明と対比すると、甲1B発明の「上記固定ディスク150が、水圧により上向きの力を受ける受圧面と、水圧により下向きの力を受ける受圧面とを有し」ていることは、本件特許発明6の「上記固定弁体が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uと、水圧により下向きの力を受ける受圧面Dとを有し」ていることに相当する。

そうすると、本件特許発明6と甲1B発明は、
「固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされており、
上記固定弁体が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uと、水圧により下向きの力を受ける受圧面Dとを有している湯水混合栓。」
の点で一致し、以下の相違点6-1で相違する。

〈相違点6-1〉
本件特許発明6では、
「上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記受圧面Uの平面投影面積MU1が、上記受圧面Dの平面投影面積MD1よりも大きい」
のに対して、甲1B発明では、「上記レバー軸90の上記左右方向の傾倒角度」及び「上記レバー軸90の上記前後方向の傾倒角度」に関わらず、「固定ディスク150」が「水圧により上向きの力を受ける受圧面」の平面投影面積が、「水圧により下向きの力を受ける受圧面」の平面投影面積よりも大きいか不明である点。

以上のとおり、相違点6-1において、本件特許発明6と甲1B発明とは相違するので、本件特許発明6は、甲第1号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明ではない。

イ 本件特許発明6と甲2B発明との対比

本件特許発明6において本件特許発明1と一致する構成と、甲2B発明において甲2A発明と一致する構成との対比については、上記第4,1(2)イにおいて検討したとおりである。
更に、本件特許発明6において本件特許発明1と一致しない構成について、甲2B発明と対比すると、甲2B発明の「上記固定ディスク弁体32が、水圧により上向きの力を受ける受圧面と、水圧により下向きの力を受ける受圧面とを有し」ていることは、本件特許発明6の「上記固定弁体が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uと、水圧により下向きの力を受ける受圧面Dとを有し」ていることに相当する。

そうすると、本件特許発明6と甲2B発明は、
「固定弁体と、
上記固定弁体の上で摺動しうる可動弁体と、
左右回動及び前後回動が可能であり上記可動弁体を操作しうるレバーと、
を有しており、
上記レバーの左右回動位置の変化により、湯水混合比率の調節が可能とされており、
上記レバーの前後回動位置の変化により、吐出量の調節が可能とされており、
上記固定弁体が、水圧により上向きの力を受ける受圧面Uと、水圧により下向きの力を受ける受圧面Dとを有している湯水混合栓。」
の点で一致し、以下の相違点6-2で相違する。

〈相違点6-2〉
本件特許発明6では、
「上記レバーの上記左右回動位置及び上記前後回動位置に関わらず、上記受圧面Uの平面投影面積MU1が、上記受圧面Dの平面投影面積MD1よりも大きい」
のに対して、甲2B発明では、「上記レバー軸28の上記水平方向での回動」及び「上記レバー軸28の上記前後方向での回動」の大きさに関わらず、「固定ディスク弁体32」が「水圧により上向きの力を受ける受圧面」の平面投影面積が、「水圧により下向きの力を受ける受圧面」の平面投影面積よりも大きいか不明である点。

以上のとおり、相違点6-2において、本件特許発明6と甲2B発明とは相違するので、本件特許発明6は、甲第2号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明ではない。

(4)まとめ

したがって、本件特許発明1及び6は、甲第1号証又は甲第2号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明ではない。
したがって、本件請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではないので、申立理由1は理由がない。

2 申立理由2(特許法第29条第2項)について

(1)本件特許発明1について

ア 相違点1-1についての判断

相違点1-1に係る本件特許発明1の構成は、証拠として提示された甲第1号証及び甲第2号証に何ら記載されておらず、また自明な事項でもないから、それらの記載事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものではない。
特許異議申立書では、「あるいは、固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられることは周知技術である(甲2号証の段落【0009】参照)ため、本件特許発明1は、甲1発明から当業者であれば容易に発明できる」(第20ページ第7ないし10行)との主張が記載されている。しかし、「固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられること」という技術的事項は、当該相違点に係る構成を何ら充足するものではなく、本件特許発明1は甲1A発明及び当該技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとする理由は見いだせない。

イ 相違点1-2についての判断

相違点1-2に係る本件特許発明1の構成は、証拠として提示された甲第1号証及び甲第2号証に何ら記載されておらず、また自明な事項でもないから、それらの記載事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものではない。
特許異議申立書では、「あるいは、固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられることは周知技術である(甲2号証の段落【0009】参照)ため、本件特許発明1は、甲2発明から当業者であれば容易に発明できる」(第22ページ第11ないし14行)との主張が記載されている。しかし、「固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられること」という技術的事項は、当該相違点に係る構成を何ら充足するものではなく、本件特許発明1は甲2A発明及び当該技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとする理由は見いだせない。

(2)本件特許発明6について

ア 相違点6-1についての判断

相違点6-1に係る本件特許発明6の構成は、証拠として提示された甲第1号証及び甲第2号証に何ら記載されておらず、また自明な事項でもないから、それらの記載事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものではない。
特許異議申立書では、「あるいは、固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられることは周知技術である(甲2号証の段落【0009】参照)ため、本件特許発明6は、甲1発明から当業者であれば容易に発明できる」(第23ページ第9ないし12行)との主張が記載されている。しかし、「固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられること」という技術的事項は、当該相違点に係る構成を何ら充足するものではなく、本件特許発明6は甲1B発明及び当該技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとする理由は見いだせない。

イ 相違点6-2についての判断

相違点6-2に係る本件特許発明6の構成は、証拠として提示された甲第1号証及び甲第2号証に何ら記載されておらず、また自明な事項でもないから、それらの記載事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものではない。
特許異議申立書では、「あるいは、固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられることは周知技術である(甲2号証の段落【0009】参照)ため、本件特許発明6は、甲2発明から当業者であれば容易に発明できる」(第24ページ第9ないし12行)との主張が記載されている。しかし、「固定弁体を押し上げて可動ディスクとの間の摺動面のシールを行うこと、及び固定弁体が水圧によって押し上げられること」という技術的事項は、当該相違点に係る構成を何ら充足するものではなく、本件特許発明6は甲2B発明及び当該技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとする理由は見いだせない。

(3)まとめ

以上のとおりであるから、本件特許発明1及び6は、当業者が甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、申立理由2は理由がない。

3 申立理由3(特許法第36条第4項第1号)について

(1)申立理由3に係る記載不備の概略

特許異議申立書3(4)エ(ア)(第24ページ第17行ないし第25ページ第28行)に記載された申立理由3に係る記載不備は、概略、以下のとおりである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「表1が示すように、状態2A及び状態3Aでは、受圧面間で圧力が相違している。このような場合は、各受圧面毎に、当該受圧面に作用する水圧を乗じて、圧力が算出される。」(段落【0151】)と記載されているが、受圧面間で圧力が相違した場合の力FUと力FDとの関係について記載がなく、受圧面間で圧力が相違した場合にレバーの左右回動位置及びレバーの前後回動位置に関わらず、必ず力FUが力FDよりも大きいか不明確である。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「同じ弁孔流通状態であっても、受圧面D5の面積は変化しうる。しかし、この受圧面D5の面積が最大となる場合であっても、面積MU1は面積MD1よりも大きい。すなわち、固定弁体520と可動弁本体240との位置関係に関わらず、あらゆる弁孔流通状態(状態2A、2B、3A、3B、4A及び4B)において、面積MU1は面積MD1よりも大きい。弁孔止水状態(状態1A及び1B)においても、面積MU1は面積MD1よりも大きい。レバーの左右回動位置及びレバーの前後回動位置に関わらず、面積MU1は面積MD1よりも大きい。本実施形態において、弁孔流通状態における受圧面D5の面積の変化は、最小値が28.76mm^(2)であり、最大値が51.6mm^(2)である。」(段落【0152】)と記載されているが、可動弁本体240の可動範囲が不明であるため、どうして受圧面D5の面積が段落【0152】記載の範囲で変化するのか不明である。つまり、レバーの左右回動位置及びレバーの前後回動位置に関わらず、必ず面積MU1が面積MD1よりも大きくなるか不明である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1ないし6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(2)申立理由3に係る記載不備についての検討

ア 受圧面間で圧力が相違した場合の力FUと力FDとの関係について

特許異議申立書では、上記(1)のとおり、受圧面間で圧力が相違した場合の力FUと力FDとの関係について記載がないと主張されているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には「なお、表1が示すように、状態2A及び状態3Aでは、受圧面間で圧力が相違している。このような場合は、各受圧面毎に、当該受圧面に作用する水圧を乗じて、圧力が算出される。」(段落【0151】)と記載されているのであるから、各受圧面毎に当該受圧面に作用する水圧を乗じ、それらを合計することで、力FU及び力FDが算出できることは、発明の詳細な説明の記載から明らかなことである。
更に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「受圧面積のバランスを考慮することで、水圧により固定弁体に上向きの力を付与することができる。」(段落【0019】)、「固定弁下部材360の下面を用いることで、広い受圧面Uが確保されている。」(段落【0154】)、「また、固定弁本体280の各弁孔の形状を工夫することで、受圧面Uを増加させることもできる。」(段落【0155】)との記載があり、受圧面Uの平面投影面積を大きくするほど、水圧により受ける上向きの力が大きくなることは自明なことであるので、仮に、受圧面間で圧力が相違した場合の力FUと力FDを算出した結果、力FUが力FDよりも小さい場合には、受圧面Uの平面投影面積をより大きくし、レバーの左右回動位置及びレバーの前後回動位置に関わらず、必ず力FUが力FDよりも大きくなるように、固定弁体の形状を適宜設計変更すればよいことは、発明の詳細な説明の記載から当業者が十分に理解できることであり、当該設計変更が当業者にとって過度な試行錯誤を要するものであるとはいえない。

イ 可動弁本体240の可動範囲について

特許異議申立書では、上記(1)のとおり、可動弁本体240の可動範囲が不明であると主張されているが、発明の詳細な説明の記載において可動弁本体240の可動範囲についての具体的な範囲の図示はないもの、受圧面D5の面積が段落【0152】記載の範囲で変化するような範囲に、可動弁本体240の可動範囲が設定されていることまでは理解できるといえる。
そして、発明の詳細な説明の段落【0149】及び【0150】には、受圧面D5の面積が段落【0152】記載の最大値である51.6mm^(2)のときに面積MU1及び面積MD1を算出しても、面積MU1が面積MD1よりも大きいことが記載されているのであるから、レバーの左右回動位置及びレバーの前後回動位置に関わらず、必ず面積MU1が面積MD1よりも大きくなるようにされていることは、発明の詳細な説明の記載から理解できる。
したがって、発明の詳細な説明の記載において可動弁本体240の具体的な可動範囲が不明であることをもって、発明の詳細な説明の記載に基づき当業者が本件特許発明1ないし6の実施をすることができないとはいえない。

(3)まとめ

以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、申立理由3に係る記載不備の理由により、当業者が本件特許発明1ないし6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
したがって、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないので、申立理由3は理由がない。

4 申立理由4(特許法第36条第6項第1号)について

(1)申立理由4に係る記載不備の概略

特許異議申立書3(4)エ(イ)(第26ページ第1行ないし第28ページ第27行)に記載された申立理由4に係る記載不備は、概略、以下のとおりである。
特許異議申立書に記載された参考図10ないし参考図12は、本件特許図面の図11(b)、図14(b)及び図26(弁孔流通状態における弁孔間の重なりの一例を示す平面図)において、それぞれ受圧面U1?U3を青色で、受圧面U5を青色で、及び受圧面D1?D3,D5を赤色で示したものである。そして、参考図10ないし参考図12の縮尺を同じにして各受圧面の面積を測定した結果、受圧面Uの平面投影面積MU1が受圧面Dの平面投影面積MD1よりも小さいことが明らかである。また、この結果、力FU及び力FDは当該平面投影面積に比例することから、力FUは力FDよりも小さいことになる。
このため、本件特許発明1ないし6は発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)申立理由4に係る記載不備についての検討

本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落【0148】ないし【0152】)において、弁孔流通状態における各受圧面の面積(平面投影面積)の具体的な値が記載されており、それらを合計した結果として、弁孔流通状態において面積MU1は面積MD1よりも大きいことが記載されている。
一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書の記載内容を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから、当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。
本件特許図面においても同様であり、本件特許明細書には上記のとおり平面投影面積の具体的な値が記載されていることから、本件特許明細書の記載内容を補完する本件特許図面の記載においては、当該平面投影面積の大小関係まで反映される正確性を備えていなくても、本件特許発明1ないし6に係る技術内容を当業者が理解するためには十分足りるというべきである。
したがって、本件特許図面に当該平面投影面積の大小関係が正確に反映されていないということをもって、本件特許発明1ないし6は発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。

(3)まとめ

以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の記載は、申立理由4に係る記載不備の理由により、本件特許発明1ないし6が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
したがって、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないので、申立理由4は理由がない。

第5 むすび

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-21 
出願番号 特願2015-240760(P2015-240760)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16K)
P 1 651・ 536- Y (F16K)
P 1 651・ 537- Y (F16K)
P 1 651・ 113- Y (F16K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 正木 裕也  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 久保 竜一
永田 和彦
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6148715号(P6148715)
権利者 株式会社タカギ
発明の名称 湯水混合栓  
代理人 笠川 寛  
代理人 染矢 啓  
代理人 室橋 克義  
代理人 岡 憲吾  
代理人 住友 教郎  

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