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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1338147
異議申立番号 異議2017-701065  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-10 
確定日 2018-03-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6123772号発明「多層樹脂シート、照明用カバーおよび照明機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6123772号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6123772号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年11月4日(優先権主張 平成25年11月6日)の出願であって、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人土田修史(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1?6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シリコーン樹脂含有ガラスクロスシートおよびポリカーボネート樹脂シートを用いて積層した多層樹脂シートであって、
前記多層樹脂シートの透過率が、20%以上65%以下であり、
前記シリコーン樹脂含有ガラスクロスシートに用いるガラスクロスシートの厚さが、0.03mm以上0.3mm以下であり、
前記多層樹脂シートの厚さが、0.28mm以上2.0mm以下であることを特徴とする多層樹脂シート。」

3.申立理由の概要
申立人は、甲第1号証及び参考資料1?3を提出し、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2011-140165号公報
参考資料1:国際公開第2013/021837号
参考資料2:特開2012-113982号公報
参考資料3:信越化学工業株式会社、「シランカップリング剤」、[online]、[2017年11月9日検索]、<URL:https://www.silicone.jp/products/type/silanecoup/index.shtml>

4.当審の判断
(1)甲第1号証には、「ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体」について、以下の記載がある。
「【請求項6】
ポリカーボネート樹脂の溶液を含浸させたガラス繊維織物から、前記溶液中の溶媒を除去して得た、ガラス含有率が60?95質量%の樹脂含浸シートと、ポリカーボネート樹脂フィルムとの積層体を、加熱及び加圧して得られる、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体であって、
ガラス含有率は5?40質量%であり、ヘーズが5?91%である、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体。」
「【0007】
本発明は、ポリカーボネート樹脂の溶液(以下、場合により「ポリカーボネート樹脂溶液」という。)を含浸させたガラス繊維織物から、溶液中の溶媒を除去して得た樹脂含浸シートと、ポリカーボネート樹脂フィルムとの積層体を、加熱及び加圧する、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法であって、樹脂含浸シートのガラス含有率は60?95質量%であり、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体のガラス含有率は5?40質量%である、製造方法を提供する。」
「【0026】
・・・・ガラス繊維織物の厚さは0.04?0.2mmであることが好ましい。
【0027】
ガラス繊維織物とポリカーボネート樹脂との親和性を向上させ、密着性を増大して樹脂含浸工程における空隙の形成を抑制するために、ガラス繊維織物を、シランカップリング剤を含む処理剤で表面処理することがより好ましい。」
「【0040】
ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体の厚さは0.1?5mmであることが好ましく、0.5?3mmであることがより好ましく、約2mmがより好ましい。・・・・」

よって、甲第1号証には、
「ポリカーボネート樹脂の溶液を含浸させたガラス繊維織物から得た樹脂含浸シートと、ポリカーボネート樹脂フィルムとを積層した、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体であって、
ガラス繊維織物とポリカーボネート樹脂との親和性を向上させ、密着性を増大して樹脂含浸工程における空隙の形成を抑制するために、ガラス繊維織物は、シランカップリング剤を含む処理剤で表面処理したものであり、
ガラス繊維織物の厚さは0.04?0.2mmであり、
ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体の厚さは0.1?5mmである、ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)本件発明1と甲1発明を対比すると、積層体を構成するガラスクロスシート(ガラス繊維織物)について、
本件発明1が「シリコーン樹脂含有ガラスクロスシート」であるのに対し、甲1発明は「ポリカーボネート樹脂の溶液を含浸させたガラス繊維織物から得た樹脂含浸シート」であって、「ガラス繊維織物は、シランカップリング剤を含む処理剤で表面処理したもの」である点で、少なくとも相違する。

(3)この相違点について検討する。
ア.甲1発明の「ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体」の「ガラス繊維織物」は、シランカップリング剤を含む処理剤で表面処理されているが、シランカップリング剤は、ガラス繊維織物とポリカーボネート樹脂との親和性を向上させ、密着性を増大して樹脂含浸工程における空隙の形成を抑制するために付与されるものであり、「ガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体」は、シリコーン樹脂を含有するものではない。
申立人は、「甲第1号証の付与されたシランカップリング剤(液状)が加熱及び加圧により、結果的に固体としてガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体に残存するものは、本件特許発明1のシラン化合物(1)を縮合させ、結果的に固体として多層樹脂シートに残存するシリコーン樹脂に相当するといえる」(特許異議申立書9頁9?13行)旨主張する。
しかし、甲第1号証には、ガラス繊維織物を表面処理するために付与されたシランカップリング剤が、重合してシリコーン樹脂として残存するとは記載されていないし、そのようなことが技術常識であることを示す証拠も示されていない。
よって、甲1発明は「ポリカーボネート樹脂の溶液を含浸させたガラス繊維織物から得た樹脂含浸シート」は、シリコーン樹脂を含有するものではないから、上記相違点は実質的なものであり、本件発明1は、甲1発明ではない。
イ.上記相違点について、申立人は、「多層樹脂シートの分野においては、ガラスクロスにシリコーン樹脂を含有させることは周知慣用技術であるともいえる(参考資料1、参考資料2)」、「甲第1号証のガラス繊維織物にシリコーン樹脂を付加すること、或いは、ポリカーボネート樹脂の代わりにガラス繊維織物にシリコーン樹脂を含有させること、或いは、シリカカップリング剤の代わりにガラス繊維織物に同じケイ素系であるシリコーン樹脂を含有させることは、当業者に取って容易に想到し得るものである」(特許異議申立書9頁18?24行)とも主張する。
そこで、甲第1号証の記載をみると、甲1発明は、「透明性、耐衝撃性に優れていることから、板ガラスの代替品として注目されている」ポリカーボネート樹脂について(本件特許明細書【0002】)、「ガラス繊維織物と熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂とを積層し、加熱プレスによりガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体を製造すると、成形体中に気泡が形成され、その気泡が白濁して見えるため美観に欠ける。これは、成形体中のガラス繊維織物に樹脂含浸不良部分が形成されるためである。気泡のないガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体を製造するためには、真空プレスやオートクレーブなどの高額な設備と煩雑な工程により、気泡を抜く操作が必要である」(同【0005】)との課題があることから、「気泡がなく熱膨張係数が低いガラス繊維織物強化ポリカーボネート樹脂成形体」を提供すること(同【0006】)を目的として成されたものである。
このことからすると、「透明性、耐衝撃性に優れている」ことから「ポリカーボネート樹脂」を採用する甲1発明において、その「ポリカーボネート樹脂」に換えてシリコーン樹脂を用いる動機付けはないし、「ポリカーボネート樹脂」からなる成形体に、シリコーン樹脂を更に付加すること、或いは、シランカップリング剤をシリコーン樹脂に換える動機付けもない。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的に含むものであるところ、上記のように、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2?6についても、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

5.むすび
以上より、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-20 
出願番号 特願2014-223942(P2014-223942)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 小野田 達志
井上 茂夫
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6123772号(P6123772)
権利者 住友ベークライト株式会社
発明の名称 多層樹脂シート、照明用カバーおよび照明機器  

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