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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1338158
異議申立番号 異議2017-700643  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2018-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6124097号発明「排ガス処理装置及び排ガス処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6124097号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6124097号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年2月2日(優先権主張 平成27年2月18日 平成27年11月18日 共に日本国)を国際出願日とする特願2016-519397号の一部を平成28年8月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年6月21日に特許異議申立人 鈴木友子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6124097号の請求項1ないし8の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
ここで、以下の各請求項の記載における「(A)」等の符号は異議申立人の項分けを参考に当審で付与したものであり、「(A)」と「(A’)」のように「’」の有無は「排ガス処理装置」と「排ガス処理方法」、「制御装置」と「制御工程」のように、カテゴリーのみ相違し内容は同一であることを意味する。

【請求項1】
(A)炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
(B)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備え、
(C)制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(D)制御装置における制御は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値の活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達した後に、水銀濃度測定値の増加にしたがって、所定の最小値から直線的に活性炭供給量を増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の最大値の供給量とし、水銀濃度測定値が上記第二の所定水銀濃度に達した後には、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つことを特徴とする排ガス処理装置。

【請求項2】
(A)炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
(B)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備え、
(C)制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(H)制御装置における制御は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値で第一の供給量とする活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達したときに、階段状に活性炭供給量を所定の第二の供給量にまで増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、活性炭供給量を第二の供給量で一定に保ち、さらに、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の第三の供給量にまで増大させるように、水銀濃度測定値の増加にしたがって、階段状に活性炭供給量を増大させることを繰り返し、活性炭供給量を所定の最大値にまで増大させた後は、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つことを特徴とする排ガス処理装置。

【請求項3】
(A)炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
(B)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備え、
(C)制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(L)上記活性炭供給量の所定の最小値を、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度の設定値に対する比率である上流側水銀濃度比率に対して、上記上流側水銀濃度比率の区分ごとに定める対応関係に基づき定め、上記上流側水銀濃度比率と活性炭供給量の所定の最小値との対応関係を次の関係とし、上記上流側水銀濃度比率が20?200の範囲であるとき、上記活性炭供給量の所定の最小値を10?200mg/Nm^(3)の範囲で制御することを特徴とする排ガス処理装置。


【請求項4】
(A)炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
(B)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備え、
(C)制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(P)さらに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度の設定値に対する比率である上流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御し、上記活性炭供給量の所定の最大値を、上記上流側水銀濃度比率に対して、上記上流側水銀濃度比率の区分ごとに定める対応関係に基づき定め、上記上流側水銀濃度比率と活性炭供給量の所定の最大値との対応関係を次の関係とし、上記上流側水銀濃度比率が20?200の範囲であるとき、上記活性炭供給量の所定の最大値を300?1000mg/Nm^(3)の範囲で制御することを特徴とする排ガス処理装置。


【請求項5】
(A’)炉から排出され水銀を含む排ガスを集塵装置で除塵処理し、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を活性炭供給装置から吹き込むこととする排ガス処理方法において、
(B’)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を上流側水銀濃度計で測定する測定工程と、制御装置で活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御工程を備え、
(C’)制御工程で、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(D’)制御工程は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値の活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達した後に、水銀濃度測定値の増加にしたがって、所定の最小値から直線的に活性炭供給量を増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の最大値の供給量とし、水銀濃度測定値が上記第二の所定水銀濃度に達した後には、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つことを特徴とする排ガス処理方法。

【請求項6】
(A’)炉から排出され水銀を含む排ガスを集塵装置で除塵処理し、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を活性炭供給装置から吹き込むこととする排ガス処理方法において、
(B’)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を上流側水銀濃度計で測定する測定工程と、制御装置で活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御工程を備え、
(C’)制御工程では、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(H’)制御工程は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値で第一の供給量とする活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達したときに、階段状に活性炭供給量を所定の第二の供給量にまで増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、活性炭供給量を第二の供給量で一定に保ち、さらに、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の第三の供給量にまで増大させるように、水銀濃度測定値の増加にしたがって、階段状に活性炭供給量を増大させることを繰り返し、活性炭供給量を所定の最大値にまで増大させた後は、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つことを特徴とする排ガス処理方法。

【請求項7】
(A’)炉から排出され水銀を含む排ガスを集塵装置で除塵処理し、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を活性炭供給装置から吹き込むこととする排ガス処理方法において、
(B’)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を上流側水銀濃度計で測定する測定工程と、制御装置で活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御工程を備え、
(C’)制御工程では、活性炭供給量を所定範囲の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(L’)上記活性炭供給量の所定の最小値を、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度の設定値に対する比率である上流側水銀濃度比率に対して、上記上流側水銀濃度比率の区分ごとに定める対応関係に基づき定め、上記上流側水銀濃度比率と活性炭供給量の所定の最小値との対応関係を次の関係とし、上記上流側水銀濃度比率が20?200の範囲であるとき、上記活性炭供給量の所定の最小値を10?200mg/Nm^(3)の範囲で制御することを特徴とする排ガス処理方法。


【請求項8】
(A’)炉から排出され水銀を含む排ガスを集塵装置で除塵処理し、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を活性炭供給装置から吹き込むこととする排ガス処理方法において、
(B’)炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で排ガス中の水銀濃度を上流側水銀濃度計で測定する測定工程と、制御装置で活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御工程を備え、
(C’)制御工程では、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(P’)さらに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度の設定値に対する比率である上流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御し、上記活性炭供給量の所定の最大値を、上記上流側水銀濃度比率に対して、上記上流側水銀濃度比率の区分ごとに定める対応関係に基づき定め、上記上流側水銀濃度比率と活性炭供給量の所定の最大値との対応関係を次の関係とし、上記上流側水銀濃度比率が20?200の範囲であるとき、上記活性炭供給量の所定の最大値を300?1000mg/Nm^(3)の範囲で制御することを特徴とする排ガス処理方法。


第3 異議申立理由の概要について
異議申立人は、後記する甲各号証を証拠として提出し、以下の申立理由により、請求項1ないし8に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。
<申立理由1>進歩性要件違反
本件発明1,2,5,6に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明と甲第2ないし4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
<申立理由2>進歩性要件違反
本件発明3,4,7,8に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明と甲第2ないし3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
<証拠>
○甲第1号証:特開平9-308817号公報
○甲第2号証:特開2008-259992号公報
○甲第3号証:特開2010-137163号公報
○甲第4号証:特開2016-169124号公報

第4 当審の判断
1.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載がある。
(ア)「【0016】【発明の実施の形態】本発明の排ガス処理システムの実施例1を図1に示した。焼却炉1で発生した排ガスは排熱回収器2と冷却器(例えば水スプレ式冷却器)3で温度180℃まで温度低下した後に消石灰供給器4と活性炭供給器5より消石灰と活性炭が添加されてバグフィルタ6に入り、煤塵とともに塩化水素、重金属、有機ハロゲン系化合物が除去され、煙突7から大気に放出される。バグフィルタ6出口の排ガスは必要に応じて塩化水素分析計8、水銀分析計9で分析され監視される。」
(イ)「【0020】水銀濃度の制御においても、濃度の検出値を取込み、あらかじめ設定している濃度の下限値、上限値と比較して制御する。水銀濃度検出値が下限値より小さい場合には過剰の活性炭が供給されている状態にあるので、活性炭供給量の設定値を減少させ、粉体流量調節器22を変動させて活性炭供給量を減少させる。水銀濃度検出値が下限値と上限値の間にある場合には適量の活性炭が供給されている状態にあるので、活性炭供給量の設定値は変更せずに所定の時間を置いてもとの塩化水素濃度制御の段階に戻る。
【0021】水銀濃度検出値が上限値より大きい場合には単純に活性炭が不足している状態にある場合と何らかの原因で粉末層が不良の場合がある。消石灰供給量制御で塩化水素が低減する場合には前者と判定して不足している活性炭を追加した後に、所定の時間を置いてもとの塩化水素濃度制御の段階に戻る。消石灰供給量制御で塩化水素が低減せず塩化水素の上限値を超えている場合には後者と判定してオペレータが原因を判定して対策すべく、自動制御のルーチンを終了させる。」
(ウ)「【0037】粉体層全体の状態はバグフィルタ出口の塩化水素濃度を測定すれば把握できる。塩化水素濃度が所定値より上昇すれば粉体層の状態が標準より悪化していることを示している。つまり、塩化水素を吸収する粉体層内の消石灰が不足している、粉体層の厚さが不足して吸収に必要な接触時間が確保できない、または層の分布もしくは厚さが不均一で排ガスの一部が処理されないまま流出しているかのいずれかである。いずれも消石灰供給量を増せば改善される。塩化水素濃度が所定値より下降すれば粉体層が必要以上の消石灰で形成されていることを示している。したがって、塩化水素のモニタによってバグフィルタ表面の粉体層形成に使用される消石灰量を制御して増減すれば、消石灰を過不足なく供給できる。
【0038】粉体層中の活性炭、活性コークスなどの炭素の微粉の状態はバグフィルタ出口の水銀、もしくは有機ハロゲン化合物を含む炭化水素濃度を測定すれば把握できる。活性炭等の多孔質炭素は塩化水素をほとんど吸収しないので、塩化水素からは層内炭素の状態は把握できない。充分な消石灰が供給されている状態で水銀もしくは炭化水素の濃度が所定値より上昇すれば、粉体層内の炭素状態が標準より悪化していることを示している。つまり、水銀、炭化水素を吸収する粉体層内の炭素が劣化している、炭素量が不足して吸収に必要な接触時間が確保できない、層内の炭素分布が不均一で排ガスの一部が処理されないまま流出しているかである。いずれも炭素供給量を増せば改善される。水銀、炭化水素濃度が所定値より下降すれば粉体層内に必要以上の炭素が存在することを示している。したがって、水銀、炭化水素のモニタによって粉体層内に分布させる炭素の量を制御して増減すれば、活性炭等の多孔質炭素を過不足なく供給できる。
【0039】水銀、炭化水素の濃度が所定値より上昇する現象は粉体層内の炭素状態が標準より悪化している場合だけでなく、粉体層全体の状態が標準より悪化している場合もあり得る。水銀、炭化水素は層内の多孔質炭素に吸収される作用、ならびに消石灰の多い粉体層全体で濾過されて捕捉される作用の2つの作用によって除去される。いずれの場合にも炭素粉末の供給量増加によって改善し、水銀、炭化水素濃度を下げることがでる。
【0040】しかし、粉体層全体の状態が標準より悪化して水銀、炭化水素が流出する場合には無理に活性炭の増加で層の濾過性能を向上させる必要はなく、より入手の容易な消石灰粉末の増加で向上できる。同じ効果が得られるので入手が難しい活性炭よりも消石灰を優先して使用するのが好ましい。粉体層全体の状態が標準より悪化している場合には、水銀、炭化水素だけでなく塩化水素も流出する。したがって、塩化水素ならびに炭化水素、水銀濃度がいずれも目標値を超えて流出する場合には、まず優先して消石灰の制御だけで粉体層全体の状態を改善する。消石灰を増加させても塩化水素濃度が下がらない場合は、別の原因で粉体層全体の状態が悪化している。例えば濾布の破損、バグフィルタの払い落とし条件の不良であり、原因を探索して処理する必要がある。」
(エ)「本発明の排ガス処理システムを採用した焼却システムのフローを示す図」(【図面の簡単な説明】)と説明される【図1】を以下に示す。


2.甲第1号証に記載された発明
i)「有害物」について、「塩化水素」と「重金属」である「水銀」の吸着処理と「排ガス」の流れる方向に着目すると、上記甲第1号証の記載事項(ア)と同(エ)の図1から、甲第1号証には、「排ガス処理システム」であって、「焼却炉1」から排出され「塩化水素」「水銀」を含有する「排ガス」を「バグフィルタ6」で「煤塵と共に」処理し、「焼却炉1」から「バグフィルタ6」へ排ガスを導く「煙道11」へ「消石灰供給器4」「活性炭供給器5」からそれぞれ「消石灰」「活性炭」を供給し、「バグフィルタ6出口」に位置する「塩化水素分析計8」「水銀分析計9」で「排ガス」の「塩化水素」「水銀」の濃度を検出し、「流量設定器21」「粉体流量調節器22」で「消石灰」「活性炭」の供給量を「制御」するものが記載されている。
ii)当該「制御」について、同(イ)から、「水銀濃度検出値」が「下限値より小さい場合」には「活性炭供給量を減少」させ、「水銀濃度検出値」が「下限値と上限値の間にある場合」には「活性炭供給量」を「変更せず」、「水銀濃度検出値が上限値より大きい場合」には、「消石灰供給量制御で塩化水素が低減する場合」は「活性炭を追加」するように制御することが記載されているといえる。
iii)以上から、本件請求項1の記載に則して整理すれば、甲第1号証には、
「焼却炉から排出され塩化水素と水銀を含有する排ガスをバグフィルタで煤塵と共に処理し、焼却炉からバグフィルタへ排ガスを導く煙道へ消石灰供給器と活性炭供給器から消石灰と活性炭を供給する排ガス処理システムにおいて、
バグフィルタ出口に位置し、排ガスの塩化水素濃度と水銀濃度を検出する塩化水素分析計と水銀分析計と、消石灰供給量と活性炭供給量を制御する流量設定器及び粉体流量調節器を備え、
水銀濃度の検出値が、所定の下限値より小さい場合は活性炭供給量を減少させ、所定の上下限値の間にある場合は活性炭供給量を変更せず、所定の上限値より大きく、消石灰供給量制御により塩化水素が低減する場合は活性炭を追加するように制御する、排ガス処理システム。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されていると認められる。

3.本件発明1と引用発明との対比
i)引用発明の「焼却炉」、「バグフィルタ」は本件発明1の「炉」、「集塵装置」に相当する。
また、引用発明の「排ガス」を「バグフィルタ」で「煤塵と共に処理」することは、本件発明1の「排ガス」を「集塵装置」で「除塵処理」することに相当する。
ii)すると、「システム」は「装置」といえるので、本件発明1の「炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置」は、引用発明の「焼却炉から排出され塩化水素と水銀を含有する排ガスをバグフィルタで煤塵と共に処理し、焼却炉からバグフィルタへ排ガスを導く煙道へ消石灰供給器と活性炭供給器から消石灰と活性炭を供給する排ガス処理システム」を包含するといえる。
iii)また、引用発明の「流量設定器」と「粉体流量調節器」は「消石灰」と「活性炭」の供給量を制御するものなので、本件発明1の「活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置」に相当する。
iv)本件発明1の「排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計」と、引用発明の「排ガスの塩化水素濃度と水銀濃度を計測する塩化水素分析計と水銀分析計」とは、「排ガス中の水銀濃度を測定する水銀濃度計」の点で一致する。
v)以上から、本件発明1と引用発明とは、
「炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
排ガス中の水銀濃度を測定する水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備えた、排ガス処理装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>本件発明1では「炉の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側」で「水銀濃度」を計測するのに対して、引用発明では「バグフィルタ出口に位置」するところで「水銀濃度」を計測する点。

<相違点2>「活性炭」の供給の制御に関して、
本件発明1では、
(C)制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値に基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御し、
(D)制御装置における制御は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値の活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、
水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達した後に、水銀濃度測定値の増加にしたがって、所定の最小値から直線的に活性炭供給量を増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の最大値の供給量とし、
水銀濃度測定値が上記第二の所定水銀濃度に達した後には、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つものであるのに対して、
引用発明では、
水銀濃度の検出値が、所定の下限値より小さい場合は活性炭供給量を減少させ、所定の上下限値の間にある場合は活性炭供給量を変更せず、所定の上限値より大きく、消石灰供給量制御により塩化水素が低減する場合は活性炭を追加するように制御するものである点。

4.相違点の検討
相違点1について検討する。
i)甲第2号証には、以下に図示するように、「ボイラ1」から排出された「無水硫酸(SO_(3))」、「水銀(Hg)」を含む「排ガス2」中の「ばいじんの大半を除去」する「乾式電気集塵器6」と、「ボイラ1」から「乾式電気集塵器6」へ「排ガス2」を導く流路へ、「塩基性物質」を吹き込む「塩基性物質噴霧装置11」と、活性炭を吹き込む「活性炭噴霧装置12」を備える「排ガス浄化システム」において、本件発明1と同様に、「ボイラ1」の下流側でかつ活性炭を吹き込む位置の上流側で「排ガス2」中の水銀濃度を検出する「水銀濃度計13」を設け、「活性炭噴霧量を算出」し「必要量の活性炭を噴霧」する「制御装置15」を備える「排ガス浄化システム」(【0025】、【0026】、【0031】及び【図1】)が記載されている。
以下に、甲第2号証の【図1】を示す。

ii)なお、甲第3号証には、引用発明と同じく「水銀測定器23」は「フィルタ装置22」の下流側にあることが記載されているにすぎず、甲第4号証は、平成28年9月23日に公開された刊行物であり、公知文献でない。
iii)ここで、甲第1号証の記載事項(ウ)の記載によれば、引用発明は、バグフィルタの出口において塩化水素と水銀の濃度を共に検出することにより、バグフィルタにおける活性炭を含む粉体層の状態を把握した上で、消石灰と活性炭の供給量を制御するものと認められるのに対し、甲第2号証に記載の「水銀濃度計13」の配置では、水銀濃度の検出によりバグフィルタに対応する「乾式電気集塵器6」における活性炭の状態を把握することはできない。
したがって、引用発明において、水銀濃度の検出を、「活性炭供給器5」の上流すなわち「バグフィルタ6」の上流に変更することには阻害要因があるといえる。

5.異議申立理由についての結論
以上から、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明、甲第2ないし3号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでなく、取り消されるべきものでない。
また、本件発明2ないし8も、本件発明1と同じ相違点1に係る特定事項B(B’)を有するので、本件発明1と同様に取り消されるべきものでない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-26 
出願番号 特願2016-151491(P2016-151491)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 瞳  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
中澤 登
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6124097号(P6124097)
権利者 JFEエンジニアリング株式会社
発明の名称 排ガス処理装置及び排ガス処理方法  
代理人 藤岡 徹  
代理人 藤岡 努  

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