• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1338162
異議申立番号 異議2017-701018  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-24 
確定日 2018-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6134391号発明「シール材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6134391号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6134391号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成26年11月13日(優先権主張 平成25年12月27日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年4月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月24日に特許公報への掲載がなされたものであり、その後、その請求項1ないし7に係る特許のうち、請求項1ないし3に係る特許に対し、特許異議申立人 青木一幸(以下、「申立人」という。)により同年10月24日(受理日:同月26日)に特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6134391号の請求項1ないし3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである (以下、順に、「本件特許発明1」等といい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」ということもある。)。

「【請求項1】
フッ素ゴム組成物の架橋物からなる半導体製造装置用シール材であって、
前記フッ素ゴム組成物は、水素原子含有フッ素ゴムと、水素原子含有フッ素樹脂(ただし、フッ素系熱可塑性エラストマーは含まれない。)と、有機過酸化物と、共架橋剤とを含み、
前記水素原子含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体を含み、
前記水素原子含有フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記水素原子含有フッ素樹脂の含有量が、前記水素原子含有フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部であるシール材。
【請求項2】
無機充填剤を含まない、請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体製造装置用シール材の製造方法であって、
前記フッ素ゴム組成物を架橋成形する工程を含む、シール材の製造方法。」


第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1及び2号証を提出し、下記の申立理由を挙げ、本件特許発明1ないし3に係る特許は、取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1) 甲第1号証:国際公開第2011/002080号
(2) 甲第2号証:特開2000-119468号公報
(以下、「甲1」等という。)


第4 当審の判断
当審は、申立人の特許異議申立ての申立理由1及び2について、いずれについても理由がないものと判断する。
以下、詳述する。

1 申立理由1及び2(特許法第29条第2項)について
(1)甲号証の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
(甲1ア)
「[0001]本発明は、架橋性フッ素ゴム組成物、それを架橋して得られる成形品および成形品の製造方法に関する。これらは各種のシール材や摺動部品、非粘着部品、撥水撥油性表面を有する部品として好適である。」

(甲1イ)
「[0010]本発明は、従来の積層法や塗装法とは異なって、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを共凝析することによって得られた架橋性フッ素ゴム組成物を、架橋させ、さらに特定の条件下に熱処理すると、意外なことに成形品表面のフッ素樹脂比率が著しく増大し、摩擦係数の課題を解決しえたフッ素ゴム成形品が得られることを見出し、完成されたものである。
[0011]すなわち、本発明は、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られたものであることを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物に関する。
[0012]フッ素樹脂(B)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及び、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
[0013]フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)の質量割合(A)/(B)が、60/40?97/3であることが好ましい。
[0014]本発明は、架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム成形品でもある。
[0015]本発明は、
(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して上記架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含むフッ素ゴム成形品の製造方法にも関する。
・・・
[0017]フッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材として好適に使用できる。
・・・
発明の効果
[0019]本発明によれば、フッ素ゴムの表面のフッ素樹脂比率が増大した低摩擦性で、非粘着性でかつ表面撥水撥油性のフッ素ゴム成形品を提供することができる。本発明のフッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材または表面に撥水撥油性を有する成形品として有用である。」

(甲1ウ)
「[0024]上記フッ素ゴム(A)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)共重合体、VdF/CTFE共重合体等を挙げることができる。
[0025]上記フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド単位を含む共重合体又はテトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(P)共重合体からなるフッ素ゴムであることが好ましい。」

(甲1エ)
「[0034]このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種または2種以上が好ましくあげられる。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体がとくに好ましい。」

(甲1オ)
「[0055]上記フッ素ゴムは、用途によって架橋系を選択することができる。架橋系としては、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系、トリアジン架橋系、放射線架橋系等があげられる。本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、それぞれの架橋系において使用される架橋剤又はアンモニア発生化合物を含むものであってよい。
[0056]パーオキサイド架橋は、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤として有機過酸化物を使用することにより行うことができる。」

(甲1カ)
「[0059]架橋剤が有機過酸化物である場合、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′-テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性及び成形品の物性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。」

(甲1キ)
「[0101] (B)フッ素樹脂
フッ素樹脂(B)としては、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有する含フッ素エチレン性重合体であることが好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、式(21):
CF_(2)=CF-R_(f)^(3) (21)
(式中、R_(f)^(3)は、-CF_(3)または-OR_(f)^(4)を表す。R_(f)^(4)は、炭素原子数1?5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などの1種または2種以上のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニリデン〔VdF〕、フッ化ビニル、式(22):
CH_(2)=CX^(2)(CF_(2))_(n)X^(3) (22)
(式中、X^(2)は、水素原子またはフッ素原子を表し、X^(3)は、水素原子、フッ素原子または塩素原子を表し、nは、1?10の整数を表す。)
で表されるフルオロオレフィンなどをあげることができる。
[0102]フッ素樹脂(B)は、上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有する含フッ素エチレン性重合体であってもよく、このような単量体としては、上記パーフルオロオレフィン及びフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、またはアルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1?5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
[0103]これらの中でも、摩擦係数低減効果が良好な点から、つぎの含フッ素重合体が好ましい。
(1)エチレン/TFE共重合体〔ETFE〕
(2)TFEと式(21):
CF_(2)=CF-Rf^(3) (21)
(式中、R_(f)^(3)は、-CF_(3)または-OR_(f)^(4)を表す。R_(f)^(4)は、炭素原子数1?5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の1種または2種以上からなる共重合体、たとえばTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕またはTFE/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕
(3)TFEとVdFと式(21):
CF_(2)=CF-R_(f)^(3) (21)
(式中、R_(f)^(3)は、-CF_(3)または-OR_(f)^(4)を表す。R_(f)^(4)は、炭素原子数1?5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の1種または2種以上からなる共重合体
、たとえばTFE/VdF/HFP共重合体
(4)ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕
(5)CTFE/TFE共重合体
[0104]上記フッ素樹脂は、ETFE、FEP、PFA、TFE/VdF/HFP共重合体、PVdF、及び、CTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ETFE、FEP、PFA及びCTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、ETFE、FEP及びCTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましく、フッ素ゴム(A)との相溶性に特に優れる点からFEPであることが最も好ましい。」

(甲1ク)
「[0130]本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との質量割合(A)/(B)が60/40?97/3であることが好ましい。フッ素樹脂(B)が少なすぎると摩擦係数低減の効果が充分に得られないおそれがあり、一方、フッ素樹脂(B)が多すぎると、ゴム弾性が著しく損なわれ、柔軟性が失われるおそれがある。柔軟性と低摩擦性の両方が良好な点から、(A)/(B)は、65/35?95/5であることがより好ましく、70/30?90/10であることがさらに好ましい。
[0131]本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の配合剤、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤、配合剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
[0132]なお、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、含フッ素熱可塑性エラストマーは含まない。」

(甲1ケ)
「[0142](II)成形架橋工程
この工程は、混合工程(I)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形し架橋して架橋成形品を製造する工程である。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋とを同時に行ってもよい。」

(甲1コ)
「[0160]本発明のフッ素ゴム成形品は、その低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性(高接触角)を利用して、シール材、摺動部材、非粘着性部材などとして有用である。
[0161]具体的には、つぎの成形品が例示できるが、これらに限定されるものではない。
[0162]シール材:
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)-リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、その他の各種シール材等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのO-リング、シール材として、クォーツウィンドウのO-リング、その他の各種シール材として、チャンバーのO-リング、その他の各種シール材として、ゲートのO-リング、その他の各種シール材として、ベルジャーのO-リング、その他の各種シール材として、カップリングのO-リング、その他の各種シール材として、ポンプのO-リング、ダイアフラム、その他の各種シール材として、半導体用ガス制御装置のO-リング、その他の各種シール材として、レジスト現像液、剥離液用のO-リング、その他の各種シール材として用いることができる。」

(甲1サ)
「[0174]また、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)用のガスケット、半導体製造装置やウェハー等のデバイス保管庫等のシールリング材等のクリーン設備用シール材に特に好適に用いられる。」

(甲1シ)
「 実施例
・・・
[0188]フッ素ゴムA
VdF/HFP/TFE/シアノ基含有モノマー=50/30/19/1(モル%)の共重合体
ML_(1+10)(121℃)=88
[0189]フッ素樹脂B
ダイキン工業製ネオフロンFEPディスパージョン
(商品名;ND-1、MFR;1.7g/10min、融点;約240℃)
[0190]充填剤
カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
[0191]アンモニア発生化合物
ウレア(尿素)(キシダ化学社製、特級試薬)
[0192]実施例1
(I)工程
フッ素ゴムAのディスパージョン(ポリマー含量24質量%)とフッ素樹脂Bのディスパージョン(ポリマー含量32質量%)を、フッ素ゴムA:フッ素樹脂Bの固形分質量比が70:30となるように混合したものをディスパージョンDとする。
次にディスパージョンD 400gを純水500gに投入後、ミキサーで混合しながら硫酸アルミニウムを2g添加し、約3分混合して固形分を取り出した。
この固形分を、80℃のオーブンで20時間乾燥したものを、共凝析物とする。
[0193]得られた共凝析物を8インチロール2本を備えたオープンロールに巻き付け、充填剤を14質量部、アンモニア発生化合物を0.3質量部添加し、20分間混練りした。さらに得られた混合物を24時間冷却し、再度8インチロール2本を備えたオープンロールを用いて、30?80℃で20分間混練りしてフルコンパウンド(架橋性フッ素ゴム組成物)を調製した。
[0194]このフルコンパウンドの架橋(加硫)特性を調べた。結果を表1に示す。」

(甲1ス)
「[請求項1]
フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、
フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られたものである
ことを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。
[請求項2]
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリデンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
[請求項3]
フッ素ゴム(A)は、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む請求項1又は2記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
[請求項4]
フッ素樹脂(B)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及び、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
[請求項5]
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)の質量割合(A)/(B)が、60/40?97/3である請求項1又は2記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
[請求項6]
請求項1、2、3、4又は5記載の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム成形品。
[請求項7]
(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して請求項1、2、3、4又は5記載の架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、
及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含むフッ素ゴム成形品の製造方法。
[請求項9]
シール材である請求項4又は6記載のフッ素ゴム成形品。」(特許請求の範囲請求項1ないし7及び9)

イ 甲2に記載された事項
(甲2ア)
「【請求項1】架橋可能な含フッ素エラストマー(A)と、該含フッ素エラストマーとの相溶性に優れた共架橋剤(B)と、重合開始剤(C)とを含有し、粒状充填剤を含有していないことを特徴とする含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】上記架橋可能な含フッ素エラストマー(A)が、
ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、
ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、
テトラフルオロエチレン(TFE)-プロピレン(Pr)系重合体、
ビニリデンフルオライド(VDF)-プロピレン(Pr)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、
エチレン(E)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、
ビニリデンフルオライド(VDF)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、および
ビニリデンフルオライド(VDF)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体のうちから選択される1種または2種以上のエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項8】上記粒状充填剤がカーボンブラック及びシリカである請求項1?7の何れかに記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項9】請求項1?8の何れかに記載の含フッ素エラストマー組成物を架橋してなる含フッ素エラストマー架橋体。
【請求項10】酸素プラズマを照射した場合に、パーティクルの発生がないことを特徴とする請求項9に記載の含フッ素エラストマー架橋体。
【請求項14】上記請求項9?13の何れかに記載の含フッ素エラストマー架橋体からなる液晶・半導体製造装置用のシール材あるいは搬送用ベルト。」(特許請求の範囲の請求項1、2,8ないし10、14)

(甲2イ)
「【0010】
【発明の概要】本発明に係る含フッ素エラストマー組成物は、架橋可能な含フッ素エラストマー(A)と、該含フッ素エラストマー(A)との相溶性に優れた共架橋剤(B)と、重合開始剤(C)とを含有し、粒状充填剤を含有していないことを特徴としている。
【0011】本発明の好ましい態様においては、上記架橋可能な含フッ素エラストマー(A)が、ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)-プロピレン(Pr)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-プロピレン(Pr)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、エチレン(E)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、およびビニリデンフルオライド(VDF)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体のうちから選択される1種または2種以上のエラストマーであることが望ましい。」

(甲2ウ)
「【0015】本発明に係る含フッ素エラストマー架橋体は、上記の含フッ素エラストマー組成物を架橋してなっている。本発明の含フッ素エラストマー架橋体の好ましい態様においては、酸素プラズマを照射した場合に、パーティクルの発生がないことが望ましい。」

(甲2エ)
「【0019】本発明に係る液晶・半導体製造装置用のシール材あるいは搬送用ベルトは、上記含フッ素エラストマー架橋体からなっている。本発明によれば、材料自身の優れた純粋性とプラズマ雰囲気下の使用に対して卓越した低粉塵性(低パーティクル性)を保持しつつ、従来使用できなかったような高温領域でも使用可能であるような耐熱性(圧縮永久歪性)を有し、さらにパーフロロエラストマーベースの透明性フッ素ゴムよりも機械的強度、耐摩耗性の点で優れた含フッ素エラストマー架橋体が得られるような含フッ素エラストマー組成物が提供される。
【0020】また本発明によれば、上記含フッ素エラストマー組成物の架橋体を用いてなり、上記諸特性を備えた液晶・半導体製造装置用の搬送ベルトあるいはシール材が提供される。
【0021】
【発明の具体的説明】以下、本発明に係る含フッ素エラストマー組成物、その架橋体、並びにその用途について具体的に説明する。
<含フッ素エラストマー組成物>本発明に係る含フッ素エラストマー組成物には、架橋可能な含フッ素エラストマー(A)と共架橋剤(B)と重合開始剤(C)とが含有され、必要によりさらに加工助剤(D)が含有されていてもよい。但し、パーティクルの発生につながる粒状充填剤は配合されない。
【0022】以下、各成分について順次説明する。
<含フッ素エラストマー(A)> 上記架橋可能な含フッ素エラストマーとしては、具体的には、例えば、
○1(合議体注:以下、○付き数字を示す。)ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、
○2 ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、
○3 テトラフルオロエチレン(TFE)-プロピレン(Pr)系重合体、
○4 ビニリデンフルオライド(VDF)-プロピレン(Pr)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、
○5 エチレン(E)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、
○6 ビニリデンフルオライド(VDF)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、
○7 ビニリデンフルオライド(VDF)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体などが挙げられ、これらの含フッ素エラストマーは、ラジカル重合開始剤にて架橋可能である。
【0023】これらの含フッ素エラストマーのうちでは、ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)-テトラフルオロエチレン(TFE)系のものが好ましく用いられる。」

(甲2オ)
「【0029】これに対して、上記した含フッ素エラストマー(A)の架橋体が、加硫ゴムに分類され、通常の架橋フッ素ゴムと同様、高分子鎖間を化学結合により結びつけ、架橋点を形成させることで、塑性変形を抑制しゴム弾性を持たせているのとは、ポリマー構造上の大きな相違点がある。
<共架橋剤(B)>共架橋剤(Co-agent)は、一般に有機過酸化物架橋において用いられる助剤であって、具体的には、例えば、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレンジメタクリレート、1,4-ブチレンジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、2,2’-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロパンメタクリレート、オリゴエステルアクリレート、(メタ)クリル酸金属塩[例:アルミニウム(メタ)アクリレート、ジンク(メタ)アクリレート、マグネシウム(メタ)アクリレート、カルシウム(メタ)アクリレート]、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルフタレート、ジアリルクロレンデエート、ジビニルベンゼン、2-ビニルピリジン、N、N’-メチレンビスアクリルアミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、1,2-ポリブタジエン、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド、硫黄、トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。」

(甲2カ)
「【0033】<重合開始剤(C)>重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤など、従来より公知の種々のものを使用しうるが、本発明では、ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤としては以下のものが好ましい。
【0034】ラジカル重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物(例:3,5,6-トリクロロパーフルオロヘキサノイルパーオキサイド、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等)、アゾ化合物(例:アゾビスイソブチロニトリル)、有機金属化合物、金属(例:Li、K、Na、Mg、Zn、Hg、Al等)等が挙げられ、これらのうち、有機過酸化物が好ましく用いられる。」

(甲2キ)
「【0045】・・・
<含フッ素エラストマー成形体の用途>該含フッ素エラストマー成形体は、透明性、純粋性、低粉塵性、耐熱性等に優れており、液晶・半導体製造装置用のシール材あるいは搬送用ベルト等に適している。」

(甲2ク)
「【0049】
【発明の効果】本発明によれば、材料自身の優れた純粋性とプラズマ雰囲気下の使用に対して卓越した低粉塵性(低パーティクル性)を保持しつつ、従来使用できなかったような200℃程度までの高温領域でも使用可能であるような耐熱性(圧縮永久歪性)を有し、さらにパーフロロエラストマーベースの透明性フッ素ゴムよりも機械的強度、耐摩耗性の点で優れた透明性含フッ素エラストマー架橋体が得られるような含フッ素エラストマー組成物が提供される。
【0050】また本発明によれば、上記含フッ素エラストマー組成物の架橋体を用い、純粋性、低粉塵性、機械的強度、体摩耗性を有し、しかも150℃を超える環境下での使用が可能な液晶・半導体製造装置用の搬送ベルトあるいはシール材が提供される。このようなベルトやシール材を用いることにより、液晶・半導体製造における歩留り改善等の生産性向上に貢献できる。
【0051】さらに詳説すると、上記本発明に係る含フッ素エラストマー成形体には、従来のエラストマーで機械的強度向上用として用いられていたようなカーボンブラック等の充填材や添加剤を全く使用しないため、プラズマ発生装置に使用しても卓越した低粉塵性を有する。これに対して、従来のカーボンブラック配合シール材では、プラズマ発生装置に使用すると、シール材のゴム部がプラズマに基づく作用を受けてエッチングされ、充填材や添加剤がシール材から脱落あるいは飛散し、粉塵発生につながり問題となる。
【0052】また本発明に係る含フッ素エラストマー成形体には、液晶・半導体製造工程で嫌われる不純物発生の原因となる充填材や金属酸化物が配合されていないため、材料自身の純粋性に優れる。」

ウ 甲1に記載された発明
摘記事項(甲1ア)ないし(甲1ス)、特に(甲1ス)の請求項1、5、6及び9の記載からみて、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。

「フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、
フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られたものであり、
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)の質量割合(A)/(B)が、60/40?97/3である架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム成形品であるシール材」(以下、「甲1発明1」という。)

また、摘記事項(甲1ス)、特に請求項7の記載からみて、以下の製造方法の発明も記載されている。

「(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して質量割合(A)/(B)が、60/40?97/3である架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、
及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含むフッ素ゴム成形品の製造方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1発明1を比較する。
甲1発明1の「フッ素ゴム組成物」、「架橋して得られるフッ素ゴム成形品」は、本件特許発明1の「フッ素ゴム組成物」、「架橋物」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明1の「フッ素ゴム」、「フッ素樹脂」は、本件特許発明1の「水素原子含有フッ素ゴム」、「水素原子含有フッ素樹脂」に、「水素原子含有」との特定を除外した「フッ素ゴム」、「フッ素樹脂」という限りにおいてそれぞれ相当し、さらに、それらの限りとの前提において、配合量についても、甲1発明1の「フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して質量割合(A)/(B)が、60/40?97/3」は、本件特許発明1の「(水素原子含有)フッ素樹脂の含有量が、(水素原子含有)フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部」と重複する。
そして、甲1発明1の「シール材」は、本件特許発明1の「半導体製造装置用シール材」に、用途を除外した「シール材」という限りにおいて相当する。
なお、摘記事項(甲1ク)の[0132]の記載からみて、甲1発明1のフッ素ゴム組成物には、含フッ素熱可塑性エラストマーは含まれないので、本件特許発明1のただし書「(ただし、フッ素系熱可塑性エラストマーは含まれない。)」との要件も充足している。
すると、両発明は、
「フッ素ゴム組成物の架橋物からなるシール材であって、
前記フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムと、フッ素樹脂(ただし、フッ素系熱可塑性エラストマーは含まれない。)を含み、
フッ素樹脂の含有量が、フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部であるシール材。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件特許発明1に係るフッ素ゴム組成物は、有機過酸化物と、共架橋剤を含むのに対し、甲1発明1にはこれらの配合についての特定がない点。

<相違点2>
フッ素ゴム及びフッ素樹脂について、本件特許発明1においては「水素原子含有」のフッ素ゴム及びフッ素樹脂であり、かつ、「水素原子含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体を含み、
水素原子含有フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種」であり、また、「前記水素原子含有フッ素樹脂の含有量が、前記水素原子含有フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部である」と特定されるのに対し、甲1発明1では、水素原子含有フッ素ゴム及び水素原子含有フッ素樹脂の特定の組合せに関する組合せ及び含有量の特定はない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、シール材の用途について、「半導体製造装置用」であるのに対し、甲1発明1には、シール材の用途の特定がない点。

(イ) 判断
上記相違点1について検討する。
甲1の摘記事項(甲1オ)、(甲1カ)には、架橋する際に、有機過酸化物と共架橋剤を含むことが記載されているから、これらを配合することは当業者であれば容易になし得たことである。
次に、相違点2、3について検討する。
本件特許発明1の課題及び目的は、本願特許明細書の段落【0007】及び【0008】に記載されているとおり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合したフッ素ゴムシール材をプラズマ環境下で使用するとPTFE粒子が析出して表面が白化する問題があるので、「半導体製造装置用」のシール材として、プラズマ環境下で使用されるときに表面白化の問題が生じず、かつ、機械的強度(硬度やモジュラス)にも優れる架橋ゴム成形体を形成できるフッ素ゴム組成物、該組成物を用いた架橋ゴム成形体及びその製造方法を提供することにあり、これら課題及び目的を特定の「水素原子含有フッ素ゴム」と「水素原子含有フッ素樹脂」を、特定の範囲で配合することにより解決するものである。
確かに、甲1には、摘記事項(甲1コ)に、シール材の用途として、「半導体製造装置」がその一例として記載され、また、摘記事項(甲1ス)の請求項2及び4、摘記事項(甲1ウ)、(甲1エ)及び(甲1キ)に、フッ素ゴムの具体的なゴムの一例として、「ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体」が、また、フッ素樹脂の一例として「ポリフッ化ビニリデン」、「エチレン-TFE共重合体(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体に相当)」等が挙げられている。しかしながら、本件特許発明1の上記課題・目的に関する記載はなく、また、「水素原子含有フッ素ゴム」及び「水素原子原子含有フッ素樹脂」を併用することについての記載ないし示唆はない。
そうすると、甲1発明1において、相違点3に係るシール材の用途として「半導体製造装置用」とすることが当業者にとって容易に想到し得ることだとしても、相違点2に係る構成については、当業者が容易になし得たこととまではいえない。
そして、本件特許発明1は、「水素原子含有フッ素ゴム」及び「水素原子原子含有フッ素樹脂」を特定の割合で併用することにより、「半導体製造装置用」のシール材として、表面白化もなく、機械的強度にも優れるとの格別顕著な効果を奏するものである。
よって、本件特許発明1は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、申立理由1は、その理由がない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、甲1発明1に対して、本件特許発明1と同様に相違点2、3を有しているから、上記アで述べたように、同じ判断がされる。
また、この相違点2、3について、甲2の摘記事項(甲2ア)ないし(甲2ク)等をみても記載や示唆はない。
よって、本件特許発明2は、相違点2、3について、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、申立理由2は、その理由がない。

ウ 本件特許発明3について
(ア) 対比
本件特許発明3は、請求項1又は2を引用するシール材の製造方法の発明であり、本件特許発明3と甲1発明2を比較すると、各構成は上記ア(ア)における対比と同様の相当関係にあり、また、甲1発明2の「架橋成形品」が「シール材」であることは明らかであるから、両発明は
「フッ素ゴム組成物の架橋物からなるシール材の製造方法であって、
前記フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムと、フッ素樹脂(ただし、フッ素系熱可塑性エラストマーは含まれない。)を含み、
フッ素樹脂の含有量が、フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部であるシール材であり、
フッ素ゴム組成物を架橋成形する工程を含む、シール材の製造方法。」
の発明である点で一致し、本件特許発明1と甲1発明1との相違点1ないし3と同様に以下の点で相違している。

<相違点4>
本件特許発明3に係るフッ素ゴム組成物は、有機過酸化物と、共架橋剤を含むのに対し、甲1発明2にはこれらの配合についての特定がない点。

<相違点5>
フッ素ゴム及びフッ素樹脂について、本件特許発明3においては「水素原子含有」のフッ素ゴム及びフッ素樹脂であり、かつ、「水素原子含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体を含み、
水素原子含有フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種」であり、また、「前記水素原子含有フッ素樹脂の含有量が、前記水素原子含有フッ素ゴム100重量部あたり10?20重量部である」と特定されるのに対し、甲1発明2では、水素原子含有フッ素ゴム及び水素原子含有フッ素樹脂の特定の組合せに関する組合せ及び含有量の特定はない点。

<相違点6>
本件特許発明3は、シール材の用途について、「半導体製造装置用」であるのに対し、甲1発明2には、シール材の用途の特定がない点。

(イ) 判断
相違点4ないし6は、それぞれ本件特許発明1と甲1発明1との対比における相違点1ないし3に相当し、これらの判断についても同じであるので、本件特許発明3は、相違点2、3に相当する相違点5、6において甲1発明2と異なり、甲1の他の記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明3は、相違点5、6について、甲1発明2及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、申立理由1は、その理由がない。

なお、請求項2を引用した本件特許発明3について念のため検討するに、相違点5、6について、甲1発明2並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ まとめ
本件特許発明1及び3は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることはできたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
本件特許発明2は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることはできたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、この発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-26 
出願番号 特願2015-554668(P2015-554668)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 昌弘  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小柳 健悟
岡崎 美穂
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6134391号(P6134391)
権利者 日本バルカー工業株式会社
発明の名称 シール材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ