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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1338177
異議申立番号 異議2017-700827  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-31 
確定日 2018-03-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6085806号発明「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の、急性脳血管疾患の治療用医薬の製造における使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6085806号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
特許第6085806号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成21年10月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月11日 中国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月1日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月31日にその特許について、特許異議申立人 日本臓器製薬株式会社(以下、単に「申立人」ということがある)より特許異議の申立てがなされ、同年10月23日付で取消理由が通知され、その指定期間内に平成30年1月25日付の意見書の提出があったものである。

[2]本件の特許発明
特許第6085806号の請求項1?2の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、順に「特許発明1」?「特許発明2」ということがあり、また、これらをまとめて単に「特許発明」ということがある)。

『 【請求項1】
哺乳動物において、急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するための医薬の製造における、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の使用であって、
前記ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物が、アナルジェシンであり、且つ
前記医薬は、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いられる、前記使用。
【請求項2】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の使用。 』

[3]取消理由の概要

[3-1] 特許発明1?2に対し、平成29年10月23日付の取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。

(1) 下記の請求項に係る本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 下記の請求項に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

[ 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ]

・理由:(1)、(2)について
・請求項:1,2
・引用文献等:1
取消理由の詳細については、本件特許異議申立人日本臓器製薬株式会社が提出した特許異議申立書を参照のこと。引用文献1は、同申立書中の甲第1号証として提出されたものである。

なお、これらの取消理由への対応に際し、例えば以下のa、b:
a.本件特許明細書の実施例1のMCAOラットのような、本件特許の請求項1、2の「急性脳虚血」系に伴う神経細胞の損傷において、H_(2)O_(2)がその「発症に関与する」(本件特許明細書【0009】第3段落)こと;
b.同実施例2のような、PC12細胞を神経細胞モデルとしその保護効果をみる試験系において、PC12をNGFで分化させる前処理は必ずしも要しないこと;
がいずれも、本件特許出願時当業者にとり技術常識又は周知技術であった、ということを根拠に反論を行うのであれば、当該a,bの各技術常識又は周知技術の存在を示す適切な公知文献を乙号証として提示した上で、上記実施例1及び2の試験結果を含む本件特許明細書の記載、ならびに当該技術常識又は周知技術を踏まえれば本件特許の請求項1,2に係る発明について申立理由に係る記載不備はない、ということを意見書にて説明されたい。

<引用文献等一覧>
1 神経細胞培養ハンドブック、DSファーマバイオメディカル株式会社、http://www.dspbio.co.jp/pdf/square2/neuron.pdf

そして、上記取消理由において参照される特許異議申立書に記載の理由は概要次の(i)?(iii)のとおりである。
(i) 本件特許明細書の実施例中、H_(2)O_(2)誘発性損傷に対する細胞保護効果を調べているのは、実施例2のみであるところ、甲第1号証に示されるとおり、PC12細胞は、副腎髄質由来の細胞であり、それ自身が神経細胞ではないことは明らかであり、また、PC12細胞は、神経成長因子(NGF)の添加により交感神経細胞様に分化する細胞であるが、実施例2においては、「神経成長因子」なる用語や「NGF」なる用語はどこにも記載されていない。そうしてみると、実施例2で使用されている細胞は、PC12細胞をNGFによって分化させて得られた神経細胞ではなく、PC12細胞そのもの、すなわち副腎髄質細胞に他ならないといえる。よって、実施例2では、H_(2)O_(2)誘発性損傷に対するPC12細胞(副腎髄質細胞)保護効果が調べられているに留まり、神経細胞を保護できた実験結果はどこにも記載されていない。[特許異議申立書第5頁下から第2行?第9頁第16行]
(ii) また、本件特許の請求項1の「前記医薬は、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いられる」に関し、本件特許明細書においてアナルジェシンを「発症から2、6、20、24及び47時間後に投与」している実施例1においては、脳梗塞が体積等調べられた旨が記載されているものの、「急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護する」作用について記載された箇所、あるいはそれが当業者に推認できることを認めるに足る記載がされた箇所も存在しない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アナルジェシンを「急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用い」ることによって、「急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護」できた実験結果は、どこにも記載されていない。[特許異議申立書第9頁第17行?第10頁第5行]
(iii) そうすると、
・本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アナルジェシンが、H_(2)O_(2)誘発性損傷からPC12細胞(副腎髄質細胞)を保護することが記載されているに留まり、急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護できることは記載されておらず;
・また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アナルジェシンを「急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用い」ることによって、「急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護」できることは、どこにも記載されていない;
のだから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-2に係る発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものではなく、また、特許発明1-2に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明を拡張ないし一般化することはできない。[特許異議申立書第10頁第6行?第11頁第5行]

[3-2] 上の取消理由に対し、特許権者は、平成30年1月25日付の意見書中で、以下の乙第1?5号証の写しを添付し引用すると共に、取消理由(1)及び(2)はいずれも理由がなく、特許発明1?2はいずれも特許維持されるべきものであることを主張する。
・乙第1号証:Journal of Neuroscience research, (2002) 68 p.463-469
・乙第2号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA, (1976) 73(7) p.2424-2428
・乙第3号証:Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol., (2004) 287 p.H29-H39
・乙第4号証:Ann.N.Y.Acad.Sci., (2002) 965 p.487-496
・乙第5号証:Exp.Brain Res., (2008)(Published online:24 Aug.2007) 184 p.307-312

[4]合議体の判断

[4-1]取消理由(1)について(実施可能要件)

(1)特許発明1について
(i) 特許発明1は、請求項1の規定からみて、「急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するための」、「急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いられる」医薬の製造にお」いて、「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物」である「アナルジェシン」を使用する方法の発明と解されるものである。
そうすると、特許発明1について、発明の詳細な説明が「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載したものであること(実施可能要件)、とは、発明の詳細な説明が、特許発明1の「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物」である「アナルジェシン」を、「急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用い」ることによって「急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護する」という薬理作用をもたらす医薬を製造するために使用できる、ということを当業者が理解できるように記載されていること、である。
そして、発明の詳細な説明が、特許発明1の「ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物」である「アナルジェシン」を、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることによって、哺乳動物の急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用をもたらす医薬を製造するために使用できること、を当業者が理解できるように記載されている、といえるためには、発明の詳細な説明中で、特許発明1の医薬中の成分であるアナルジェシンが、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることによって、哺乳動物の急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用をもたらす、ということが、当業者に理解できるように記載されていることが必要である。

そこで、以下、特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、特許発明1の医薬に含まれるアナルジェシンが、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることによって、哺乳動物の急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用をもたらす、ということが理解できるか否か、という点について検討する。


(ii) 哺乳動物における急性脳虚血等の虚血性脳血管疾患に伴う神経細胞の損傷及びそれに関連する症状、ならびに、それら損傷や関連症状に対しアナルジェシンが及ぼす神経細胞に対する保護作用に関し、特許明細書中には以下の記載がある[下線は合議体による]。

(ii-1)特許明細書の記載事項

a.『 【技術分野】
【0001】
本発明は、急性脳血管疾患の治療に係る。特に、本発明は、ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の、急性脳血管疾患の治療用医薬の製造における使用に係る。
【背景技術】
【0002】
急性脳血管疾患の一つである発作は、世界的な住人における第三の主要な死因であり、また様々な疾患の中でも最高の能力障害率を生じる。・・・
該脳血管疾患は、主として2つの型、即ち出血性および虚血性脳血管疾患に分類され、後者が60-70%を占めており、これが最も一般的な型の脳血管疾患である。虚血性脳血管疾患の病態生理学的メカニズムを研究し、またニューロン保護剤として機能する薬物を探索することが重要である。』

b.『 【0007】
虚血性脳血管疾患は、塞栓症による、動脈血供給の幾つかの領域における、血流の一過性のまたは永続的な減少によって引起され、またその病理的な過程は、複雑な一時的および空間的なカスケード反応と関連している。・・・、発作の最初の発症に係る臨床例において、該中大脳動脈閉塞の割合は高く、従って中大脳動脈閉塞(MCAO)の動物モデルによりシミュレートされたその病理過程は、臨床的な発作のそれと著しい類似性を有している。
ベダーソン(Bederson)の評価およびスロープテストの結果は、神経学的徴候学的損傷の徴候、例えば反対側の手足の虚弱化および麻痺が、ラットにおける脳組織の虚血後に引起されることを示した。本発明者等は、アナルジェシンが、動物のこれら神経学的な症状を顕著に改善し得ることを見出した。従って、一態様においては、アナルジェシンを、脳血管疾患の治療のために使用して、神経機能を改善することができる。 』

c.『 【0008】
脳梗塞病巣の領域は、虚血の程度と関連し、反対側脳組織のTTC染色は白色を示し、また液化する病巣は、片側の中脳動脈の塞栓形成後、24時間に渡り観測できた。・・・中間的用量のアナルジェシン投与群における脳梗塞の体積は、損傷を受けた群の該体積と比較して、有意に減少した。従って、一態様においては、アナルジェシンを、脳血管疾患の治療のために使用して、脳梗塞領域を低減させる。
・・・。ニューロンは、大脳皮質または脳全体において酸素を消費する主要な部分を構成し、また虚血および低酸素症傷害に対して極めて敏感である。新鮮な酸素源が存在しない場合、該組織は、その高エネルギーリン酸塩化合物の蓄積分のみを使用することができ、更に代謝により、蓄積されているグルコースおよびグリコーゲンをMDAとすることによって、エネルギーを得ることができる。該脳組織の虚血および/または低酸素症は、エネルギーの枯渇に導き、エネルギーポンプ機能障害、神経細胞におけるカルシウムイオンの過負荷、有害な酸素ラジカルの増大、細胞の酸中毒を含む一連の連鎖反応を結果し、また細胞膜の構造およびその保全性が損傷を受け、その結果、該膜の透過性が増大し、細胞毒性浮腫の程度が拡大され、また幾分かの細胞内酵素が、血液中に大量に放出される。これら結果は、虚血後に、脳組織中の乳酸およびMDAの濃度が著しく高められ、一方で脳組織中の乳酸の濃度は、アナルジェシンの介入により大幅に減じられることを示した。従って、一態様においては、アナルジェシンを、脳血管疾患の治療のために使用して、脳組織中の乳酸の濃度を低下させる。 』

d.『 【0009】
SODは重要な酸化防止性酵素であり、該酵素は、遊離基反応を効果的に阻害し、また高いSOD活性は強力な酸化防止能力を表す。ラットにおける脳組織の該SOD活性は、大幅に低下し、従って遊離基排除能力は、脳虚血傷害後に減少した。これらの結果は、該SOD活性を、アナルジェシンの介入によって増強することができることを示した。このことは、該アナルジェシンが、脳組織の酸化防止能力を高めることから、ニューロンの保護においてある役割を演じている可能性があることを示している。従って、一態様においては、アナルジェシンを、脳血管疾患の治療において使用して、該SOD活性を高める。
もう一つの局面において、本発明者は、アナルジェシンが、神経細胞の損傷に対して保護作用を持つことができることを見出した。
H_(2)O_(2)は、脳虚血、外傷、脳の老化、アルツハイマー病等の神経系の諸疾患の発症に関与する、重要な反応性酸素成分である。これは、膜脂質を過剰酸化し、細胞膜の流動性を低下し、細胞内タンパク質の成分および活性を変更し、クロマチンを濃厚化し、かつDNAを破壊し、しかも最終的に細胞死をもたらす。従って、一態様においては、アナルジェシンを使用して、PC12細胞のH_(2)O_(2)誘発性傷害を改善する。 』

e.『 【0010】
・・・。グルタミン酸は、用量依存様式で、神経細胞系および一次神経細胞を損傷する可能性がある。これは、高い細胞内カルシウムイオンおよび遮断されたシスチンの取込みによるものであり、またこれは、細胞内で減少したグルタチオン(GSH)の喪失、高い酸素ラジカル濃度および神経細胞の死滅を誘発する。・・・、アナルジェシンは、PC12細胞のグルタミン酸-誘発性損傷を改善・・・するために有用である。
・・・ 』

f.『 【0014】
・・・
実施例1:ラットにおける急性脳虚血(MCAO)に及ぼす、アナルジェシンの保護効果
実験材料:
1. 薬物および試薬:
10U/mLアナルジェシン注射、25mL/バイアル(ファンワールドファーマシューティカル社(Vanworld Pharmaceutical)(ルガオ(Rugao)) Co. Ltd)により提供されたもの);2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)、シグマ(Sigma)社(米国)により製造されたもの;MDA、SODおよびラクテートデヒドロゲナーゼキット、ナンジンバイオエンジニアリングインスティチュート(Nanjing Bioengineering Institute)により製造されたもの。
2. テスト動物およびグループ分け:
体重280-300gの、雄ウィスタ(Wistar)ラットは、・・・
【0015】
これらラットを、ランダムに6つのグループに分けた:即ち、擬似薬投与群、傷害モデル群(ビヒクルコントロール)、アナルジェシン投与(10U/kg、20U/kg、40U/kg)群、およびエダラボン投与(3mg/kg)群に分割した。該薬物は、外科手術後2時間から開始して、該動物に5回に渡り(2時間、6時間、20時間、24時間および47時間)投与した。これら動物を、外科手術の48時間後に屠殺し、次いで各テストを行った。
実験方法:
1: 中大脳動脈閉塞のラットモデルの調製:
・・・
1.2: 外科手術前の麻酔:
ラットを、400mg/kgにて、10%抱水クロラール溶液で腹腔内注射した。
【0016】
1.3: 外科手術工程:
・・・
ラットをその背面位置に固定し、その首部の丁度真ん中の皮膚の切開を行った。該動物の左総頸動脈(CCA)を、組織の層を大まかに切開した後に露出させた。
・・・
内頸動脈(ICA)を、外頸動脈から二股に分かれる点の最終部分まで、迷走神経および気管の損傷を回避するように、注意して分離し、また糸を後の使用のために配置した。同側の外頸動脈を分離し、ECAの分岐の開始点から約0.8cmの位置において結サツを行った。
(3) 中脳動脈の結サツ:
CCAの近位端部において把持するために、ブルドッグクランプを使用し、ECAの結サツ部と二股に分かれる点との間で、径約2mmの「V」字型切開を行った。該ブルドッグクランプを外す前に、上記ナイロン糸を、該切開部からCCA内に徐々に挿入し、また次いで内頸動脈と外頸動脈との間の該二股に分かれる点を介して、該内頸動脈に通した。該ナイロン糸を、幾分かの抵抗力が現れるまで、約18.5±0.5mmなる深さで、頭蓋内方向にICA部分に向けて徐々に押込み、次いで該ナイロン糸の他端部を、より細い前大脳動脈に達するように、外MCAの始点に通した。左中大脳動脈における血流の遮断は、この瞬間において達成され、次いで該ICAを縫合して、該ナイロン糸を確保し、かつ出血を回避し、・・・、層状に縫合した。外科手術および血管分離操作前の麻酔は、擬似薬投与群においては、結サツおよび該糸の導入なしに行った。・・・
・・・
【0023】
アッセイの結果
1. ラットにおける急性脳虚血の神経学的徴候学に及ぼすアナルジェシンの効果
・・・。モデル群における動物は、脳虚血後に、神経機能に関する評点の有意な増加(P<0.01)を伴って、神経損傷の明確な症状を示したが、40U/kgのアナルジェシンは、該神経機能の症状を有意に(P<0.05)改善し、一方で10、20U/kgのアナルジェシン投与群は、如何なる有意な改善効果も示さなかった。上記エダラボン投与群とモデル群との間に、有意な差は見られなかった。これらの結果を、以下の表1に示す。
・・・

・・・
【0025】
2. ラットにおける急性脳虚血に起因する脳梗塞の体積に及ぼすアナルジェシンの効果
・・・。エダラボン投与群および中-用量のアナルジェシン投与群における脳梗塞領域は、有意に減少した。これらの結果を図1に示す。
3. ラットの急性虚血脳組織における乳酸の濃度に及ぼす、アナルジェシンの効果
ラット脳組織中の乳酸の濃度は、擬似薬投与群に比して、有意な差(P<0.01)を持って、虚血傷害後に、0.98±0.09mM/gタンパクまで増大した。40U/kgアナルジェシン投与群における乳酸の濃度は、モデル群と比較して、統計的有意性(P<0.05)を持って、0.70±0.07mM/gタンパクまで有意に増大した。エダラボン投与群における乳酸の濃度は、モデル群と比較して、統計的有意性(P<0.05)を持って、0.64±0.08mM/gタンパクまで有意に増大した。これらの結果を以下の表2に示す。
・・・

・・・
【0027】
4. ラット脳組織におけるスーパーオキシドジスムターゼ活性に及ぼすアナルジェシンの効果
ラット脳組織におけるSODの濃度は、虚血傷害を被った後、擬似薬投与群と比較して有意な差(P<0.01)を持って、165.84±13.14nM/gタンパクまで低下した。20u/kgおよび40u/kgのアナルジェシン投与群においては、モデル群と比較して、該濃度は有意に増大した(P<0.05)。エダラボン投与群におけるSODの濃度は、モデル群と比較して、有意に増大した(P<0.01)。これらの結果を以下の表3に示す。
・・・

・・・ 』
[※ 合議体注:
摘記f中の【0025】に
『40U/kgアナルジェシン投与群における乳酸の濃度は、モデル群と比較して、統計的有意性(P<0.05)を持って、0.70±0.07mM/gタンパクまで有意に増大した。エダラボン投与群における乳酸の濃度は、モデル群と比較して、統計的有意性(P<0.05)を持って、0.64±0.08mM/gタンパクまで有意に増大した。』
との記載がみられるが、
・当該記載の直後の表2によれば、「モデル群」の乳酸濃度は「0.98±0.09」であって、当該記載箇所の各数はこれより低い(即ち「増大」ではなく「減少又は「低下」している)こと;
・摘記c中に.『 ・・・、虚血後に、脳組織中の乳酸およびMDAの濃度が著しく高められ、一方で脳組織中の乳酸の濃度は、アナルジェシンの介入により大幅に減じられることを示した。従って、一態様においては、アナルジェシンを、脳血管疾患の治療のために使用して、脳組織中の乳酸の濃度を低下させる。』と記載されていること;
と整合しないことから、上記【0025】の各「増大した」はいずれも例えば「減少した」の誤記と解される。]

g.『 【0029】
実施例2:H_(2)O_(2)-誘発性PC12細胞障害に及ぼすアナルジェシンの効果
実験材料:
1. 薬物および試薬:
PC12細胞は、インスティチュートオブベーシックメディカルサイエンスズオブチャイニーズアカデミーオブメディカルサイエンスズ(Institute of Basic Medical Sciences of Chinese Academy of Medical Sciences)から購入した。3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)、トリプサーゼ(trypsase)、ポリリジン、標準牛胎児血清(FBS)、1640培地、LDHキット(これらは、上記と同様に入手可能)。・・・
・・・
【0030】
実験法
1. PC12細胞の培養:
・・・PC12細胞を、恒温インキュベータ内で、37℃、5%CO2なる条件下で、完全1640培地(10%のウマ血清、5%牛胎児血清、10U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含む)中で培養し、該培地を2-3日毎に交換した[6]。
2. 細胞の処理:
正常なコントロール群:PC12細胞を、血清含有DMEM培地で正規に培養した。H_(2)O_(2)モデル群:PC12細胞の培養物が単層まで密集成長した後に、該元の培地を除去し、200μM/Lなる最終的濃度にてH_(2)O_(2)を含む、血清を含まない培地を添加し、該培養物を、37℃、5%CO2なる条件下で、24時間に渡り恒温インキュベータ内でインキュベートした。サンプル処理群:該PC12細胞培養物が、単層まで密集成長した後に、該元の培地を除去し、サンプルを添加して、1時間に渡り予備処理し、引続き200μM/Lなる最終的濃度にてH_(2)O_(2)で処理し、次いで該培養物を、血清を含まない条件下で24時間に渡りインキュベートした。
【0031】
3. 細胞の生存能力に関するアッセイ
各ウエルに、最終濃度0.5mg/mLとなるように、100μLのMTT溶液を添加し、この培養物を、更に37℃、5%CO2なる条件下で、4時間に渡りインキュベートし、次いでその上澄を捨てた。100μLのDMSOを各ウエルに添加し、振とうし、次いで吸光度のOD値を540nmにて測定した。細胞の生存能力= Aテストウエル/A正常なコントロールウエル*100%。
アッセイの結果
PC12細胞の生存能力は、71.94±3.54%に低下したが、これは、過酸化水素による傷害を受けた後の、正常なコントロール群と比較して、有意な差を示した(P<0.01)。また、0.25、0.5、1U/mLなるアナルジェシン投与群における該生存能力は、モデル群と比較して、有意に増大した(P<0.05)。
・・・

・・・ 』

h.『 【0033】
実施例3:グルタミン酸による傷害を受けた神経細胞に及ぼす、アナルジェシンの保護効果
実験物質:
1. 薬物および試薬:
PC12細胞は、インスティチュートオブベーシックメディカルサイエンスズオブチャイニーズアカデミーオブメディカルサイエンスズから購入した;3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)、トリプサーゼ(trypsase)、ポリリジンは、シグマ(Sigma)社から購入した。標準牛胎児血清(FBS)、1640培地は、ギブコ(Gibco)社から購入した。・・・
・・・
【0034】
実験法
1. PC12細胞の培養:
PC12細胞を、恒温インキュベータ内で、37℃、5%CO2なる条件下で、完全1640培地(10%のウマ血清、5%牛胎児血清、10U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含む)中で培養し、・・・
2. 細胞の処理:
PC12細胞の培養物が単層まで密集成長した後に、該元の培地を除去し、1mMのL-グルタミン酸を含む、Mg2+を含まない-イーグルズ(Earle's)溶液(142.6mM/LのNaCl、5.4mM/LのKCl、1.8mM/LのCaCl2、1.0mM/LのNaH2PO4、2.38mM/LのHEPERS、5.6mM/Lのグルコース、pH 7.4、0.5μMのL-gly)を添加した。15分後に、該溶液を、血清を含まない1640培地で置換えた。測定は24時間後に行った。投与群における該溶液を、薬物を含有し、血清を含まない1640培地で置換え、該細胞を24時間に渡り培養した後に、測定を行った。
【0035】
3. 細胞生存能力のアッセイ
各ウエルに、最終濃度0.5mg/mLとなるように、100μLのMTT溶液を添加し、この培養物を、更に37℃、5%CO2なる条件下で、4時間に渡りインキュベートした。次いで、その上澄を捨てた。100μLのDMSOを、各ウエルに添加し、振とうし、次いで吸光度のOD値を540nmにて測定した。細胞生存能力=A_(テストウエル)/A_(正常なコントロールウエル)*100%。
アッセイの結果
以下の表5は、グルタミン酸により傷害を受けたPC12細胞に及ぼすアナルジェシンの保護効果に関する結果を示す。
PC12細胞の生存能力は、グルタミン酸により傷害を受けた後、74.76±4.86%に低下したが、これは、正常なコントロール群と比較して、有意な差を示した(P<0.01)。また、0.25、0.5、1U/mLなるアナルジェシン投与群における該生存能力は、モデル群と比較して、有意に増大した(P<0.01)。
・・・

・・・ 』

また、特許権者が提出した上記乙第1?5号証には、次のような記載がある[乙第1?5号証はいずれも英語で記されているため、特許権者が提出した訳文を参考に合議体で作成した日本語文にて記す。下線は合議体による]。

(ii-2)乙号証の記載事項

<1>乙第1号証:Journal of Neuroscience research, (2002) 68 p.463-469

ア 標題
『 虚血に曝された褐色細胞腫PC12細胞におけるカルノシン及びホモカルノシンの神経保護効果』

イ 要約
『 虚血性傷害に対する神経保護薬の開発は、薬理学的インビトロモデルの欠如により妨げられている。我々は、酸素-グルコース-欠乏化(OGD)及びそれに続く通常の大気酸素レベル下での酸素負荷(18時間)に暴露されたPC12細胞培養物を用いた虚血モデルを開発した。このモデルで誘導された毒性は、一部は反応性酸素種(ROS)の生成を原因とするものであり、乳酸脱水素酵素(LDH)及びプロスタグランジンPGE_(2)の細胞からの放出によるのみならず形態学的観点からも測定された。カルノシンやホモカルノシン、ヒスチジンジペプチドといった抗酸化物質は、脳中に高濃度で見出されるものであるところ、これまで神経保護作用を提供するものであることが示唆されてきた。OGDモデルを用いて、我々は、5mMカルノシンならびに1mMホモカルノシンがOGD傷害に対しおよそ50%の最大の神経保護作用を提供することを見出した。この神経保護効果は、既知の抗酸化物質である4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルのそれと類似しており、血清を欠いたPC12細胞毒性モデルにおいては観察されなかったが、このことは、カルノシンならびにホモカルノシンが脳内で抗酸化神経保護薬として作用するのかもしれないことを示している。我々の虚血モデルは、ヒスチジンジペプチドにより負担される神経保護作用に関するメカニズムを調査するための有用なツールを提供するかもしれない。』

ウ 第463頁左欄下から第12?8行
『 虚血性損傷(酸素及びグルコースの欠乏化、OGD)は、組織への血液供給が遮断された時に生じる。虚血におけるような血液供給を妨害する、もしくは、低酸素症(>1%O_(2))及び無酸素症(0%O_(2))におけるような酸素供給を妨害する、脳への傷害は、迅速な神経細胞死につながる。・・・』

エ 第463頁右欄第14?29行
『 未分化PC12細胞はNGFや他の成長因子の作用機序の研究のための有用な実験系を提供する、なぜなら該細胞は培養液中で生存し増殖するからである(Fujita他、1989)。NGF処理により交感神経細胞へと完全に分化してカテコールアミンを合成及び放出するこれらの細胞は、神経伝達物質の放出及びニューロン分化の研究のためのパラダイムを構成する(Fujita他、1989)。ある特殊な装置及び未分化のPC12細胞を用いて、我々は酸素及びグルコースの欠乏の組合せによる虚血のインビトロモデルを確立した(Abu-Raya他、1993)。)このモデルでは、OGDに曝露されたPC12細胞は多量のプロスタグランジンPGE_(2)を放出し、細胞内ATPレベルを50%まで減少させ、そして乳酸脱水素酵素(LDH)放出により測定される細胞死プロセスに入る((Abu-Raya他、1993)。・・・』

オ 第464頁左欄第31?35行
『・・・。我々は、カルノシンやホモカルノシンといったCRCの潜在的神経保護の役割を理解すべく、PC12細胞における虚血性(OGD)細胞死に対する神経保護を測定するために調整された改変OGD装置を提供する。』

カ 第464頁左欄第45行?右欄第5行
『 PC12細胞培養
PC12細胞は、7%FCS、7%ウマ血清、100μg/mlストレプトマイシン、及び100U/mlペニシリン・・・を追加されたダルベコ変法イーグル(DMEM)培地中で生育された。・・・培地は週2回交換され、培養物は週に1回1:6の割合で分割された(Abu-Raya他、1993)。・・・

虚血装置
虚血性損傷(OGD)を誘導するため、PC12細胞はペトリ皿上で培養され、以前に我々により示され(Abu-Raya他、1993)今回改変されアップグレードされた虚血装置へと導入された(図1)。・・・』

キ 第468頁左欄第1?4行
『 NGFで分化させていないPC12細胞及びNGFで分化させたPC12細胞は、いずれも、パーキンソン、アルツハイマー、低血糖、脳卒中及び虚血などの神経系疾患に関する神経科学の一般的な細胞モデルとなっている。・・・』

<2>乙第2号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA, (1976) 73(7) p.2424-2428

ア 標題
『 神経成長因子に応答するラット副腎褐色細胞腫細胞ノルアドレナリン作用性クローン株の確立 』

イ 要約
『 可逆的に神経成長因子(NGF)に反応する単一細胞クローン株が移植可能なラット副腎褐色細胞腫から確立された。PC12と名付けられた本株は、二倍体に近い40の染色体を有している。1週間のNGFへの曝露により、PC12細胞は増殖を止め、一次細胞培養における交感神経細胞により産生されるのと類似する分枝した結節状のプロセスの拡大を開始する。数週間のNGFへの曝露により、PC12は長さ500-1000μmに達する。NGFの除去に次いで、24時間以内のプロセスの縮退及び72時間以内の細胞増殖の再開が生じる。NGFの存在下又は非存在下で成長したPC12細胞は直径350nmに達する高密度コア状のクロマフィン用顆粒を含む。NGF処理された細胞はまたバリコシティ及び末端に蓄積する小胞を含んでいる。PC12細胞はカテコールアミン神経伝達因子であるドーパミン及びノルエピネフリンを合成し貯蔵する。PC12細胞におけるカテコールアミンならびに合成酵素のレベル(mgタンパク質あたり)は副腎に見出されるそれに匹敵するか又はより高い。PC12のNGF処理は細胞ベースでの発現上はカテコールアミン又は合成酵素のレベルにおいて変化をもたらさないが、mgタンパク質ベースでの発現上は4?6倍のレベルの減少をもたらす。PC12細胞はエピネフリンを合成せず、デキサメタゾン処理によってはそのように[エピネフリン合成性に]誘導され得ない。PC12細胞株は神経生物学的及び神経化学的研究のための有用なモデル系であろう。 』

ウ 第2425頁 図1説明文
『 図1. (A-D) NGF非存在下(A)、NGF存在下で14日間(B)及び22日間(C)、ならびにNGF非存在下で1日間に続きNGF存在下で16日間培養された、非固定PC12細胞の位相差顕微鏡写真。・・・ 』

エ 第2426頁左欄第40?49行
『 カテコールアミン代謝。 ・・・
PC12細胞(NGF-処理及び未処理)が様々なカテコールアミン神経伝達因子及びカテコールアミン代謝に関連する様々な酵素の含有量について解析された。これらのアッセイの結果が未クローン化腫瘍及び全ラット副腎の各ホモジェネートから得られた比較データと共に表1に要約されている。・・・』

オ 第2427頁 表1[※罫線略]
『 表1:PC12細胞のノルアドレナリン作動特性
PC12細 NGF処理 ・・・ ・・・
胞 したP
C12
細胞
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
ドーパミン 16.6±1.7 4.4±0.4 ・・・ ・・・
(2.9±0.5) (3.3±0.5)
ノルエピネフリン 6.1±6 1.5±0.2 ・・・ ・・・
ン (1.0±0.2) (1.2±0.2)
エピネフリン <0.15 <0.15 ・・・ ・・・

PC12細胞はコラーゲン被覆された35mm組織培養皿上で2週間NGFの存在下又は非存在下で成育された。・・・ 』

カ 第2427頁右欄第20?24行
『 本データから、PC12細胞は、かなりの量の神経伝達物質ドーパミン及びノルエピネフリンを合成及び貯蔵するが、エピネフリンはそれほど合成及び貯蔵しないことが明らかになった。これらの点に関して、PC12細胞は、ノルアドレナリン作動性の副腎クロム親和性細胞及び交感神経ニューロンに類似する。』

<3>乙第3号証:Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol., (2004) 287 p.H29-H39

ア 標題
『 細胞外ノルエピネフリンはPC12細胞において酸化ストレスにより神経細胞のノルエピネフリン取込みを減少させる 』

イ 要約
『 心臓のノルエピネフリン(NE)取り込み活性はうっ血性心不全において減少する。インタクトな動物における我々の研究は、心臓の交感神経末端へのこの作用が酸化ストレス及び/又はNE由来のNE毒性代謝産物を原因とするものであることを示唆している。本研究で、我々は、神経細胞のNE取込み活性及びNE輸送体へのNEの直接的な作用を、未分化のPC12細胞を用いて調査した。細胞はNE(1-500μM)単独下又はフェントン反応によるフリーラジカル形成を促進するCu^(2+)硫酸塩(1μM)との組合せ下で24時間インキュベートされた。NE取込み活性は[^(3)H]NEを用いて測定された。細胞の生存率はトリパンブルー色素排除及び3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミドアッセイを用いて測定され、細胞の酸化ストレスはジクロロジヒドロフルオレセイン蛍光及びGSH/GSSG比により測定された。細胞の生存率は>100μMのNEにより減少した。低用量では、NEは酸化ストレスを産生し細胞生存率に有意に影響を及ぼすことなく用量依存的にNE取込み活性の減少をもたらした。Cu^(2+)は、NEの取込み活性への直接の影響は及ぼさないが、酸化ストレスならびにNEによるNE取込み活性低減化を増強した。このNE取込み活性の低減化は・・・NE取込み結合部位及びNETタンパク発現の減少と関連していたが、NETの遺伝子の発現には変化がなかった。加えて、フリーラジカルスカベンジャーであるマンニトール、ならびに抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ及びカタラーゼは、酸化ストレスを減少させ、NE/CuによりもたらされるNE取込み活性及びNETタンパク質の低減化を減弱させた。したがって、我々の結果は、NEによる神経細胞のNE取込み活性低減化作用の仲介における酸化ストレスの機能的役割、ならびに、このNEのNETに対する作用は転写後の事象であるということを支持するものである。 』

ウ 第H29頁右欄第16?23行
『 本研究の目的は、シナプス接合を欠いている未分化のラット褐色細胞腫PC12細胞を用いて、NEが交感神経ニューロンにおけるNEのニューロンへの取り込み活性を低減するという直接的な証拠を提供することにあった(20)。PC12細胞は、NET(9)を大量に発現し、NETへの介入の直接的な作用及びNET発現を制御する因子を研究する有用なモデル系である(43、74、75)。』

エ 第H30頁左欄第4?11行
『 PC12細胞培養
PC12細胞は、American Type Culture Collection (Manassas, VA)から入手し、95%の空気及び5%の二酸化炭素を含む加湿インキュベーター内で、37℃で、10%の熱不活性化ウマ血清及び2.5%のウシ胎仔血清を含むHEPES-modified RPMI 1640培地の75cm^(2)フラスコ中で培養した。培地は、1週間に3回交換した。細胞は、4?5日後に継代培養した。全ての実験は、6?15回継代したPC12細胞を用いて行った。』

オ 第H35頁右欄第7?21行
『 これまでPC12細胞株は交感神経の機能及びモノアミン神経伝達因子の研究のために広範囲で用いられて来た。当該細胞はドーパミンやNEを合成する酵素を含むのみならず、・・・(20)。PC12からクローン化されたNETのcDNAは617アミノ酸の膜タンパク質をコードしている(9)。それは脳におけるヒトNETと高レベルのホモロジーを示す。しかしながら、インタクトな動物又は単離された器官における交感神経末端とは異なり、未分化のPC12細胞は他の細胞型とシナプス性の接触を有しておらず、NEを代謝する動物組織又は組織酵素中に一定に存在する炎症性顆粒球によっては影響を受けない。これらNEのPC12への作用は、細胞外NE又はその自動酸化産物の作用に直接的に起因するものであると考えることができる。 』

<4>乙第4号証:Ann.N.Y.Acad.Sci., (2002) 965 p.487-496

ア 標題
『 未分化のPC12細胞に対するオピオイドならびに覚醒剤の中毒作用 』

イ 要約
『 これまでに細胞死及び反応性酸素種の産生が薬物濫用誘導性の神経変性に関与していることが示唆されてきた。この研究において、未分化PC12細胞をドーパミン作動性の神経モデルとして用いて、以下の乱用薬:ヘロイン、モルヒネ、d-アンフェタミン及びコカインの毒性を分析した。我々のデータが示すのは、オピオイド薬物(ヘロインならびにモルヒネ)は覚醒剤(d-アンフェタミンならびにコカイン)より毒性が強いということである。ヘロイン誘導性の毒性作用は細胞間のドーパミン減少、DOPACレベルの増大、及びROSの形成と関連している一方、アンフェタミン誘導性の毒性作用は細胞間ドーパミンの減少及びATP/ADPレベルの減少と関連している。コカインとは対照的に、アンフェタミン及びヘロインの双方共にアポトーシスの特徴を誘導した。本データが示唆するのは、乱用薬物により誘導される培養PC12細胞の細胞死が細胞間ドーパミンレベルの減少と関連しており、これは増大したドーパミンのターンオーバー及び酸化性細胞損傷と関連している可能性があるということである。 』

ウ 第488頁第12?22行
『 方法
未分化PC12細胞の培養
PC12細胞^(10)は、10%(v/v)のウマ血清、5%(v/v)のウシ血清、50U/mLのペニシリン及び50mg/mLのストレプトマイシンを補ったRPMI1640培地中の75cm^(2)フラスコ中で培養された。培養物は、95%空気と5%二酸化炭素を含む加湿インキュベーター内で37℃に保たれ、1週間に2回継代された。当該細胞は、ポリ-L-リシンでコーティングされたマルチウェル上に、MTT研究用には50000細胞/cm^(2)の密度で、他の研究用には160000細胞/cm^(2)の密度で撒かれた。クロマチン凝縮の分析のために、当該細胞は、180000細胞/mLで懸濁液中で培養された。当該細胞は、乱用薬モルヒネ、ヘロイン、コカイン及びアンフェタミンを用いて24時間、48時間又は96時間更に培養された。』

<5>乙第5号証:Exp.Brain Res., (2008)(Published online:24 Aug.2007) 184 p.307-312

ア 標題
『 PC12細胞におけるZ-リグスチリドの過酸化水素誘導性損傷に対する保護作用 』

イ 要約
『 Z-リグスチリド(Z-LIG)は、中国の薬剤Danggui(Radix Angelica sinensis)の主要な親油性化合物である。これまでの研究から、Z-LIGは、一過性的な脳虚血及び永続的な脳虚血において、恐らくは抗酸化及び抗アポトーシスメカニズムを介して、有意な神経保護の可能性を有していることが実証された。本研究では、PC12細胞における過酸化水素(H_(2)O_(2))誘導性障害に関するZ-LIGのメカニズムを調査した。細胞のH_(2)O_(2)(500μM)への曝露により、細胞生存率及び全抗酸化能力(TAC)の有意な減少、ならびに増大した細胞内反応性酸素種(ROS)が観察された。加えて、H_(2)O_(2)処理は有意にBax発現、開裂型カスパーゼ3、及び細胞質シトクローム-cをアップレギュレートし、ならびにBcl-2タンパクレベルを減少させた。細胞のZ-LIGによる前処理(0.1,1.0,2.5,又は5.0μg/ml)はH_(2)O_(2)誘導性細胞死を有意に減弱させ、細胞内ROSレベルの増大を減弱させ、そしてBax発現、開裂型カスパーゼ3、及びシトクローム-cを減少させた。さらに、Z-LIGは細胞TACを向上させ、濃度依存的にBcl-2発現をアップレギュレートした。これらの結果が実証するのは、Z-LIGが、少なくとも部分的には細胞の抗酸化性防御の改善及びミトコンドリアのアポトーシス経路の阻害を通して、誘導性細胞毒性に対する顕著な保護作用を有しているということである。これらの発見が示唆するのは、Z-LIGが、酸化ストレス及びアポトーシスが主に関連する神経変性障害の処置において、有用であるかもしれないということである。 』

ウ 第307頁右欄第1行?下から第5行
『 序
神経変性障害は、認知機能の進行性喪失により特徴付けられる通常疾患の大きな部分を占める。・・・、これまでに多くの研究が、酸化ストレス及びアポトーシスが神経変性疾患の病態形成において重要な役割を演じていることを示唆して来た(Buttke及びSandstrom 1994;Gots他 1994;Selkoe 1994)。過酸化水素(H_(2)O_(2))は、酵素的オキシダーゼ作用の自然な副産物として形成され、細胞の酸化ストレスのバックグラウンドレベルに寄与するヒドロキシルフリーラジカルの内在性の供給源である(Halliwell 1992;Richardson他、1992)。外因性のH_(2)O_(2)は、内在性抗酸化的防御の保護的能力を超えて酸化ストレスを上昇させ、ミトコンドリアの機能不全を惹起することでアポトーシス性の細胞死を誘導し得る(Maroto及びPerez-Poro 1997;Tong及びPerez-Poro 1996)。従って、H_(2)O_(2)は、神経保護の可能性と、新たな薬物療法の作用機序を探索するための神経損傷の誘導物質として広く使用されている。』

エ 第308頁左欄下から第3行?右欄第13行
『 細胞培養及び薬剤処理
American Type Culture Collection(Rockville, MD, USA)からの未分化のPC12細胞は、5%FBS、10%ウマ血清、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを補った高グルコースDMEM中に95%の空気及び5%の二酸化炭素環境下37℃で保持された。PC12細胞は、2.5×10^(5)細胞/mlの密度でプレート上に生育された。PC12細胞に対するZ-LIGで24時間前培養し、過酸化水素(500)μM)を種々の期間培地に添加した。最終培養培地中のDMSOの濃度は、0.1%であり、細胞の生存能力には影響を及ぼさない量であった。指し示された時間のH_(2)O_(2)処理で、細胞の生存能力、反応性酸素種(ROS)、TAC及びミトコンドリア経路のアポトーシスタンパクのためのアッセイをそれぞれ行った。』

オ 第309頁右欄第9?17行
『 結果
Z-LIGは、H_(2)O_(2)誘導性の細胞毒性からPC12細胞を保護した
H_(2)O_(2)-誘導性の細胞毒性に対するZ-LIGの作用を測定するため、PC12細胞が様々な濃度のZ-LIGで24時間前処理された。500μMのH_(2)O_(2)がさらなる24時間インキュベーションで添加された。細胞生存率がMTTミトコンドリア機能アッセイを用いて試験された。図1に示されるように、・・・』

カ 第311頁右欄第22?26行
『 ・・・。故に、神経細胞を模倣するより正確なモデルである分化PC12細胞においてZ-LIGの神経保護効果を研究することは、虚血性脳卒中又は神経変性疾患におけるその潜在的治療用途のより直接的な証拠を提供するだろう。 』

(iii) そして、これら(i)の発明の詳細な説明の記載、及び、(ii)の乙第1?5号証の記載を併せみた当業者は、概要以下のA?Cの事項を把握し得るものである。

A 特許明細書の実施例1によれば、ヒトの急性脳虚血を模した中大脳動脈閉塞(MCAO)ラットモデルを作成することで、当該モデルにおいて、神経学的徴候、脳梗塞、脳組織における乳酸濃度、SOD活性の低下といった、神経細胞の損傷又はそれに関連する諸症状が誘発されること、ならびに、かかる損傷及び諸症状を呈するモデル動物に対し、アナルジェシンをMCAO手術後2、6、20、24及び47時間後に投与することで、それら損傷又は諸症状に対し神経細胞を保護する作用が現実にもたらされること、を把握することができる。

B ここで、同実施例1では、急性脳虚血モデルにおける神経細胞の損傷及び関連諸症状のいずれかが特にH_(2)O_(2)誘発性のものであることについて、そのことを直接的に示す試験を以て確認されているわけではない。
しかしながら、
1) 特許権者の提出した乙第5号証の記載によれば、虚血性脳卒中等の一過性的又は永続的な脳虚血を含む神経変性障害において、H_(2)O_(2)による酸化ストレス及びアポトーシスレベルの上昇がその病理形成に寄与することは、同乙第5号証以前にも多くの研究により示唆されており、よって、当業者が広く認識し得ていたことであるといえる。
そうすると、かかる乙第5号証の記載からみて、取消理由通知書で審尋された事項a:
a: 特許明細書の実施例1のMCAOラットのような、本件特許の請求項1、2の「急性脳虚血」系に伴う神経細胞の損傷において、H_(2)O_(2)がその「発症に関与する」(本件特許明細書【0009】第3段落)こと;
は、本件特許出願時、当業者にとり広く認識されていた技術常識であったものということができる。
2) さらに、乙第5号証には、当該H_(2)O_(2)による酸化ストレス及びアポトーシスのモデル系として、未分化のPC12細胞に対しH_(2)O_(2)処理したものを採用することも記載されている。
また、それ以外にも、神経細胞モデルとして未分化の又はNGFにより分化されてなるPC12細胞を採用すること自体、乙第1?4号証の記載にもみられるとおり、これまた本件特許出願時当業者にとり広く知られていたことであったといえる。そして、中でも乙第1,3,4号証では、虚血(乙第1号証)、酸化ストレス(乙第3号証)、オピオイド又は覚醒剤による中毒作用(乙第4号証)による各神経細胞損傷又はその関連症状のモデルの作成に際し、特に未分化の(NGFによる分化誘導を施していない)PC12細胞が用いられることが実際に記載されている。
即ち、これら乙第1?5号証の記載からみて、神経細胞モデルとしてPC12細胞を用いること、及びその際、PC12細胞をNGFにより分化させてなるものを用いるか、もしくは未分化のまま用いるかは、試験の目的(例えば、神経細胞モデルとしてのPC12細胞について、の生存/死や増殖性の変化をみるのか、あるいはそれ以外の変化をみるのか)等によって、適宜選択し得る事項であり、少なくとも、分化PC12細胞を用いることのみならず、未分化のままのPC12細胞もまた神経細胞モデルとして用いること、いいかえれば、取消理由通知書で審尋された事項b:
b: 特許明細書の実施例2のような、PC12細胞を神経細胞モデルとしその保護効果をみる試験系において、PC12をNGFで分化させる前処理は必ずしも要しないこと;
もまた、本件特許出願時、当業者にとり広く認識されていた技術常識であったものということができる。
[ なお、この点に関し、乙第5号証には、同号証の試験において、分化PC12細胞が神経細胞を模倣するより正確なモデルであり、これを用いた研究をさらに行うことで虚血性脳卒中又は神経変性疾患におけるZ-LIGの潜在的治療用途のより直接的な証拠を提供するであろうことも記載されているが(上掲の摘記(v)カ)、これは、同乙第5号証におけるZ-LIGの作用を調べる試験系についての著者の見解を示唆したものであって、かかる示唆は、上記bの事項が本件特許出願時の技術常識であったということを妨げるほどのものではない。 ]
そして、特許明細書の実施例2では、そのような未分化の(前以てNGFで分化誘導処理されているとは認められない)PC12細胞に対し、事前にアナルジェシンを添加投与することで、その後のH_(2)O_(2)処理により誘発される損傷から当該PC12細胞を保護する作用がもたらされたことが、具体的な薬理試験データと共に示されているのである。

C そうすると、上述のAに対し、これらB1)?2)の事項をさらに併せ考慮すれば、特許明細書の実施例1の試験においては、採用されている急性脳虚血モデル(MCAO)動物に伴う神経細胞の損傷がH_(2)O_(2)誘発性のものであることこそ現実の試験結果を以て確認されてはいないものの、
・MCAOモデルラットにおいて誘発され、、MCAO状態の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されたアナルジェシンにより薬理作用がもたらされている、様々な観点からみた神経細胞における損傷及び関連症状のいずれかについて、H_(2)O_(2)がその誘発に寄与するものであること;
・そのような、H_(2)O_(2)がその誘発に寄与する神経細胞における損傷及び関連症状のいずれかに対し、実施例1で用いられたのと同じ薬効成分であるアナルジェシンの添加により、保護作用がもたされることは、実施例2の未分化PC12細胞をモデルとした薬理試験の結果を以て裏付けられていること;
は、いずれも当業者にとり十分に理解し得た、ということができる。

(iv) してみれば、上述の実施例1及び2の薬理試験結果を含む特許明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、乙第1?5号証に例示される本件特許出願時の技術常識を踏まえれば、特許発明1の医薬に含まれるアナルジェシンが、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることによって、哺乳動物の急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用をもたらす、ということは、当業者にとり十分に理解できることである。

したがって、特許明細書の発明の詳細な説明は、特許発明1について、当業者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分な記載がなされているといえる。

(2)特許発明2について
特許発明2は、特許発明1の哺乳動物がヒトに限定されたものであるところ、特許発明1の哺乳動物が主にヒトを意図するものであることは、例えば「【0002】 急性脳血管疾患の一つである発作は、世界的な住人における第三の主要な死因であり、・・・」((1)の摘記(ii-1)a)といった記載を含む特許明細書全体の記載から明らかであり、また、特に、特許明細書の実施例1で急性脳虚血のモデルとして採用されている中大脳動脈閉塞(MCAO)ラットは、(ヒトの)虚血性脳疾患における発作の最初の発症に係る臨床例と著しい類似性を示すモデルである((1)の摘記(ii-1)b)。
(1)での検討結果と併せこれらの事項を踏まえれば、哺乳動物が特にヒトである場合にも、アナルジェシンが、当該ヒトの急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることによって、当該ヒトの急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという、薬理作用をもたらし得ることは、当業者にとり特段の不合理性なく理解し得たことといえる。
したがって、特許明細書の発明の詳細な説明には、特許発明2についても、当業者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分な記載がなされているといえる。

[4-2]取消理由(2)について(サポート要件)

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

ここで、特許発明1が解決すべき課題は、その規定からみて、
「急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いられる」医薬であって「哺乳動物において、急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護する」医薬の製造において、アナルジェシンを使用することができること;
であると解されるが、これは即ち、
アナルジェシンを、急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いる医薬成分とすることにより、哺乳動物において急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護する、という薬理作用をもたらすこと;
に他ならない。

そして、乙第1?5号証に例示される本件特許出願時の技術常識を併せ踏まえると、特許明細書の発明の詳細な説明には、アナルジェシンを急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されるように用いることにより、哺乳動物において、急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用をもたらしめることについて、当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされている、といえることは、[4-1]で詳述したとおりである。
そうすると、このような発明の詳細な説明の記載、及び本件特許出願時の技術常識を併せ踏まえることにより、アナルジェシンが急性脳虚血の発症から2、6、20、24及び47時間後に投与されることで、哺乳動物における急性脳虚血に伴うH_(2)O_(2)誘発性損傷から神経細胞を保護するという薬理作用がもたらされることは、当業者が十分に認識できることといえるものである。

したがって、特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである、といえるから、いわゆるサポート要件を満たすものである。
特許発明2についても同様である。

[4-3]申立人の主張について

上の[3]のとおり、申立人が主張する申立理由は、上記した取消理由(1)(2)と同旨であるから、[4-1]?[4-2]で詳述したように、いずれも理由のないものである。

[4-4]むすび

以上のとおりであるから、上記取消理由(申立理由)によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-06 
出願番号 特願2011-534986(P2011-534986)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田村 直寛  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 冨永 みどり
大久保 元浩
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6085806号(P6085806)
権利者 バンワールド ファーマシューティカル(ルガオ) カンパニー リミテッド
発明の名称 ワクシニアウイルスによって炎症を起こしたウサギ皮膚由来の抽出物の、急性脳血管疾患の治療用医薬の製造における使用  
代理人 浅井 賢治  
代理人 佐々木 康匡  
代理人 服部 博信  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  

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