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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1338182
異議申立番号 異議2017-701225  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2018-03-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6152161号発明「二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6152161号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6152161号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成27年12月14日を出願日とする出願であって、平成29年 6月 2日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月21日に特許異議申立人竹口美穂(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明13」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲8」という。)を提出し、特許異議申立書(以下、「異議申立書」という。)において、以下の理由により、本件特許が取り消されるべきものであることを主張している。
1 特許法第29条第2項(以下、「進歩性に係る申立理由」という。)
本件特許発明1?8、10?13は、甲1?甲7に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号(以下、「サポート要件に係る申立理由」という。)
本件特許発明1、2、4?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 特許法第36条第6項第2号(以下、「明確性要件に係る申立理由」という。)
本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲1:特開平10-195310号公報
甲2:特開2012-38597号公報
甲3:特開2014-212132号公報
甲4:特開2014-229406号公報
甲5:三洋化成工業株式会社カタログ
甲6:花王株式会社カタログ
甲7:株式会社ADEKAカタログ
甲8:青木油脂工業株式会社カタログ

第4 甲1?甲8に開示された事項
1 甲1について
甲1には、以下の記載がある(「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粘接着剤、不織布等の繊維処理剤、紙塗工用組成物の原材料として有用な共重合体ラテックスに関する。本発明のラテックスは、特に電池用バインダーとして使用したとき、電池の容量が大きく、充放電を繰り返しても活物質の電極からの脱落の少ない電池を得ることができる。」

「【0011】本発明に用いることのできる非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル・・・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル・・・などを挙げることができるが、なかでもポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。」

「【0016】本発明で用いる非イオン性単量体の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族化合物;1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸エステル・・・などを挙げることができるが、カルボキシル基等のイオン解離性の基を含有するモノマーは好ましくない。」

「【0017】その他重合のさいに系に添加することが知られている種々の添加剤、例えばpH調整剤、連鎖移動剤等の使用も任意であるが、本発明の重合法においては全てのものがイオン解離性でないことが好ましい。」

「【0018】本発明の重合法は乳化重合法の範ちゅうに含まれるが、重合安定性の見地からは、乳化重合法のなかでも、とりわけシード重合法に依るのが良い。単量体の添加方法は、一括重合、連続添加、分割添加などいずれの方法でもよく、添加のさいの単量体は、エマルジョンプロップでもよいし、単量体のみの添加でもよく、特に制限はない。また、重合系には必要に応じてアルコール、ケトン等の親水性有機溶剤を添加してもよい。重合温度は、通常0?100℃、好ましくは5?95℃であり、重合転化率は通常90%以上、好ましくは95%以上である。」

「【0021】本発明のラテックスには、本発明の条件を乱さない範囲で、用途に応じて消泡剤、防腐剤、成膜助剤、湿潤剤、防錆剤、顔料等を添加することができるが、これらの添加剤もイオン解離性でないものが好ましい。」

「【0026】(電極)本発明の電池用バインダーを用いて電極を製造するには、電池用バインダーに活物質を配合してスラリーを調製し、電極基体に塗布し、溶媒を除去することにより、電極基体表面に形成されたバインダーのマトリックス中に活物質を固定することにより得られる。
【0027】この場合に用いる活物質は、活物質として機能する限り特に限定されず、通常は、負極活物質として炭素を用い、正極活物質としてモリブデン、バナジウム、チタン、ニオブなどの酸化物、硫化物、セレン化物などのほか、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物などのリチウム含有複合酸化物などが用いられる。固定する活物質としては、バインダーマトリックス中に特にしっかりと固定され、電池の電極としての使用中に脱落しにくいことから、炭素が好ましい。」

「【0034】実施例1
イオン交換水46重量部、スチレン30重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル65重量部、オキシエチレン平均重合度が85のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、商品名エマルゲン985)3重量部及び2,2′-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕(和光純薬工業社製、商品名VA-86)2.75重量部を撹拌混合して、第二段単量体乳化物を得た。一方、反応器に、イオン交換水58重量部に、オキシエチレン平均重合度が20のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、商品名エマルゲン920)2重量部を添加し、更にスチレン5重量部を添加して撹拌して乳化分散させた第一段単量体乳化物を得た。この系の温度を70℃に昇温し、VA-860.25重量部を添加して重合を開始させた。重合開始から1時間後に、系の温度を80℃に昇温した後、前記第一段単量体乳化物を3時間かけて添加した。添加終了後、更に2時間重合を継続した。重合転化率は98%であった。次いで、残留単量体を常法により除去した後、固形分濃度を40重量%に調整して、本発明のラテックスを得た。このラテックスのpHは、7.5、平均粒子径は185nmであった。また、固形分濃度を10重量%に調整して測定した電気伝導度は160μS/cmであった(表1?6参照)。参考までにラテックス製造の際に使用される各成分の単体としての電気伝導度を表7に示す。
【0035】実施例2?3、比較例1?3
単量体組成、界面活性剤、重合開始剤の種類及び量を表1?6に示すように変更したほかは、実施例1と同様にしてラテックスを得た。それらのラテックスの特性は、表2、4、6に示すとおりであった。
【0036】エマルゲン985、エマルゲン920はいずれも非イオン性界面活性剤であり、エマルゲン985は花王社製のオキシエチレン平均重合度が85のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの商品名、エマルゲン920は花王社製のオキシエチレン平均重合度が20のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの商品名である。レベノールWZ、エマールNCはいずれも花王社製のノニオンアニオン系界面活性剤であって、レベノールWZはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(オキシエチレン平均重合度=20)の商品名であり、エマールNCはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(オキシエチレン平均重合度=5)の商品名である。エマール2Fは、花王社製のアニオン系界面活性剤であるラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム塩の商品名である。表中の比較例1?5の数字の下にアンダーラインがあるものは、それが原因で本発明の範囲外になることを示す。」

「【表1】

【表2】



「【0043】(電池への応用例)実施例1?3および比較例1?5で得られたラテックス約22重量部(固形分量10重量部)にカルボキシルメチルセルロース5重量部を加えた本発明の電池用バインダー組成物に負極活物質である炭素(ロンザ社製、KS15)90重量部を加えて混合、撹拌して均一なスラリーとし、厚さ0.1mmの銅箔上に塗布し、120℃に3時間保持して乾燥し、ロールプレスにより厚さが0.7mm均一の活物質を固定したバインダー層を形成して電極(負極)とした。
【0044】また、ポリビニリデンフルオライド10重量部、N-メチルピロリドン100重量部、およびコバルト酸リチウム90重量部を撹拌して均一なスラリーとし、厚さ0.05mmのアルミ箔上に塗布し、130℃に5時間保持して乾燥し、ロールプレスにより厚さが0.7mm均一の活物質を固定したバインダー層を形成して電極(正極)を製造した。
【0045】活物質を固定したバインダー層を形成した銅箔とアルミ箔を直径15mmの円形に切り抜き、直径16mm、厚さ50μmの円形のポリプロピレン製微多孔膜(繊維不織布)からなるセパレーターを介在させて、互いに活物質を固定したバインダー層を対向させて、ポリプロピレン製パッキンを配置したステンレス鋼製の外装容器中(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.2mmの底面が一つだけある円筒状容器)に収納した。容器中に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容積比で1:1に混合した溶媒にLiPF_(6)を1mol/リットルの濃度に溶解した電解液を空気が残らないように注入して、厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器とキャップを固定し、それぞれキャップに銅箔が、容器底面にアルミ箔が接触するように内容物を封止して、直径20mm、厚さ2.0mmのコイン型電池を製造した。
【0046】この電池に定電流法(電流密度:0.1mA/cm^(2))で4.2Vに充電し、3.2Vまで放電する充放電を行い、容量の変化を測定した。1回目の充電時の容量、100回目の充電時の容量は、表8および表9に示すとおりであった。」

「【0048】(不織布用バインダーとしての応用例)固形分濃度25%に調整した本発明および比較例のラテックスを、大きさ25cm×40cmのポリエステルスパンボンド不織布(使用繊維=1デニール、目付30g/m^(2))の片面に、No.18のワイヤバーを用いて塗布し、その後130℃のオーブン中で4分間乾燥した。次に、ホットメルト樹脂パウダー(商品名ダイアミド250、ダイセル・ヒュルス社製ポリアミド樹脂)1gをラテックス塗布面上に均一に散布した後、130℃で3分間加熱処理して接着芯地を得た。この接着芯地の上に紳士服地を置いてその上から130℃のプレス機を用いて加重2kg/10cm^(2)で30秒間加圧して、接着させた。次に、これを3cm×3cmの大きさに裁断して、試験片を得た。この試験片について、JIS K6854に準拠して、初期接着力としてのT型剥離強度を測定した。結果を表8および9に示した。また、上記試験片を、家庭用洗濯機を使用して、家庭用洗濯石鹸10gを溶解した20℃の水30リットルで5分間洗濯し、排水後1分間脱水し、更に20℃の水30リットルで5分間水洗して、排水後1分間脱水した後、20℃、相対湿度65%雰囲気下に一晩放置・風乾して耐水接着力測定用試験片を得た。この試験片について、初期接着力の評価と同様な方法で、T型剥離強度を測定して耐水接着力とした。この結果を、表8および9に示した。」


2 甲2について
甲2には、以下の記載がある。

「【請求項1】
非水電解質二次電池の負極活物質層形成成分を含む負極活物質層形成用水系ペーストであって、
前記負極活物質層形成成分が、黒鉛粒子100質量部、70?100℃の範囲に曇点を有するノニオン系界面活性剤0.1?1.5質量部、エーテル化度0.8以下のカルボキシメチルセルロース0.4?2質量部及びバインダ粒子0.4?1.5質量部を含み、
前記カルボキシメチルセルロースの含有割合が前記ノニオン系界面活性剤の含有割合の1?4倍の範囲であることを特徴とする負極活物質層形成用水系ペースト。」

「【請求項3】
前記ノニオン系界面活性剤のHLBが8?16である請求項1または2に記載の負極活物質層形成用水系ペースト。」

「【0060】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
(1)負極の作製
天然黒鉛粒子(平均粒径20μm、BET比表面積4.8m^(2)/g)100質量部、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」とするエーテル化度0.6)1質量部、スチレンブタジエン系のバインダ粒子エマルジョン(固形分濃度48.5質量%)約2.065質量部(バインダ粒子として1質量部)、ノニオン系界面活性剤(商品名:エマルミンNL80、曇点72℃、HLB13.1、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、三洋化成工業(株)製)0.5質量部および適量の水を、双腕型混練機で混練し、水系ペーストを調製した。」

3 甲3について
甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
(A)スチレンブタジエン共重合体ラテックス、及びアクリルエマルジョンからなる群より選択される少なくとも一種のポリマー水分散体100質量部(但し固形分として)と、
(B)曇点が70℃以下の、ポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の非イオン系界面活性剤1?20質量部と、を含有する二次電池電極用バインダー組成物。」

「【0040】
・・・ここで、本明細書にいう「曇点」とは、外見上透明な試料の水溶液を加熱して徐々にその温度を上昇させた場合に、試料が析出して水溶液が濁りはじめるときの温度をいう。曇点の具体的な測定方法を以下に説明する。先ず、測定対象となる試料の1質量%水溶液を調製する。図1に示すような、加温器1、温度計2、及び撹拌翼3を備えた測定装置4の容器5に、調製した水溶液6を100g入れる。次に、水溶液6が透明である(試料が十分に溶解されている)ことを確認できるまで、撹拌翼3を200rpmの回転速度で回転させながら加熱撹拌する。水溶液6が透明であることが確認できたら、撹拌翼3の回転速度を80rpmとし、加熱することにより1℃/1分の速度で温度上昇させ、乳状の不連続な相が現れる温度を「曇点」として測定する。」

「【0079】
(実施例1)
天然黒鉛(商品名「NC-C」(関西熱化学社製))100部、導電性カーボン(商品名「デンカブラック」(旭電化社製))5部、カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製)1部、(A)成分としてポリマー水分散体A1を1部、及び(B)成分として商品名「エマルゲン1108」(花王社製)(曇点:66℃)を、(A)成分100質量部に対する量で5部使用し、スラリー固形分濃度が45%になるようにイオン交換水を加えて撹拌することにより、均一な電池電極用スラリーを調製した。厚さ18μmの銅箔表面上に、調製した電池電極スラリーをドクターブレード法によって均一に塗布した。120℃、15分間乾燥機で乾燥した後、更に真空乾燥機にて5mmHg、150℃で2時間減圧乾燥した。室温まで冷却した後、活物質密度が1.7g/cm^(3)となるようにロールプレスして電池電極(負極)を得た。得られた負極のピール強度は108g/cmであった。」

「【0082】
(実施例2?5、比較例1?5)
表1に示す配合処方としたこと以外は、上述した実施例1と同様の操作により、電池電極用スラリーを調製した。また、同じく上述した実施例1と同様の操作により、負極及び正極を得た。得られた負極のピール強度を表1に示す。更に、同じく上述した実施例1と同様の操作により、二次電池を作製した。作製した二次電池の各種物性値を表1に示す。なお、表1中、「エマルゲン1108(曇点:66℃)」、「エマルゲン109P(曇点
:83℃)」はポリオキシエチレンアルキルエーテルの商品名(花王社製)、「アデカプルロニックL-62(曇点:32℃))」はポリオキシエチレンーポリオキシプロピレン縮合物の商品名(旭電化社製)である。「アデカトールLB-83(曇点:54℃)」はポリオキシエチレンーポリオキシプロピレンアルキルエーテルの商品名(旭電化社製)である。なお、「ポリN-イソプロピルアクリルアミド(曇点:32℃)」は、J.Macromol.Sci.Chem.,A2,1441(1968)に記載の方法に従って合成したものである。」

「【表1】



4 甲4について
甲4には、以下の記載がある。
「【請求項8】
有機セパレーターと、
前記有機セパレーターの表面に設けられた、請求項7に記載の二次電池用多孔膜とを備える、二次電池用セパレーター。」

「【請求項10】
正極、負極、セパレーターおよび電解液を備え、
前記セパレーターが、請求項8に記載の二次電池用セパレーターである、二次電池。」

「【0001】
本発明は、二次電池多孔膜用スラリー組成物、それを用いた二次電池用多孔膜の製造方法および二次電池用多孔膜、並びに、その二次電池用多孔膜を備える二次電池用セパレーター、二次電池用電極および二次電池に関する。」

「【0024】
<非導電性微粒子>
非導電性微粒子としては、無機微粒子と有機微粒子との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子を用いる。なかでも、非導電性微粒子の材料としては、電気化学的に安定であり、また、非水溶性粒子状重合体と混合して多孔膜用スラリー組成物を調製するのに適した材料が好ましい。このような観点から、非導電性微粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO_(3)、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。さらに、非導電性微粒子は、1つの粒子の中に、前記の材料のうち1種類を単独で含むものであってもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものであってもよい。また、非導電性微粒子は、異なる材料で形成された2種類以上の粒子を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、多孔膜用スラリー組成物を用いて調製した多孔膜を二次電池に適用した際の電解液中での安定性と電位安定性の観点からは、酸化物粒子が好ましく、なかでも吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点から酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムがより好ましく、酸化アルミニウムが特に好ましい。」

「【0063】
<スラリー組成物の泡立ち高さ>
そして、上述した乳化剤および消泡剤を含有する多孔膜用スラリー組成物は、JIS K3362に準拠して測定した初期泡立ち高さが100mm以上200mm以下であり、かつ、5分後の泡立ち高さが120mm以下であることが必要である。初期泡立ち高さが100mm以上であれば、多孔膜用スラリー組成物を塗布する際の塗布ムラの発生に起因したピンホール、ハジキの発生を抑制することができると共に、スラリー組成物の経時的な安定性を良好なものとすることができる。また、初期泡立ち高さが200mm以下であり、かつ、5分後の泡立ち高さが120mm以下であれば、泡立ちに起因して多孔膜にピンホール、ハジキが発生するのを抑制することができる。」


5 甲5について
甲5には、以下の記載がある。


6 甲6について
甲6には、以下の記載がある。


7 甲7について
甲7には、以下の記載がある。


8 甲8について
甲8には、以下の記載がある。



第5 判断
1 進歩性に係る申立理由について
(1) 甲1発明
甲1は、本件特許に係る出願日前に日本国内において頒布された刊行物である。甲1の段落【0034】には実施例1に関し記載されており、甲1の段落【0035】には実施例2に関し「単量体組成、界面活性剤、重合開始剤の種類及び量を表1?6に示すように変更したほかは、実施例1と同様にしてラテックスを得た。」と記載されているから、実施例2のラテックスに注目し、段落【0034】に記載された事項と、【表1】及び【表2】の実施例2に関する事項とを総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(当審注:甲1の段落【0034】の「前記第一段単量体乳化物を3時間かけて添加した。」は、文脈からみて、「前記第二段単量体乳化物を3時間かけて添加した。」の誤記であると認められる。
また、商品名エマルゲン985で示されるオキシエチレン平均重合度が85のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルのことを、以下、単に「エマルゲン985」といい、商品名エマルゲン920で示されるオキシエチレン平均重合度が20のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルのことを、以下、単に「エマルゲン920」という。)
(甲1発明)
「電池用バインダーとして用いられるラテックスであって、
イオン交換水:46重量部、スチレン:30重量部、アクリル酸ブチル:30重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル:35重量部、エマルゲン985:3重量部及び2,2′-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕(和光純薬工業社製、商品名VA-86):2.75重量部を撹拌混合して、第二段単量体乳化物を得て、
反応器に、イオン交換水:58重量部に、エマルゲン920:2重量部を添加し、更にスチレン:5重量部を添加して撹拌して乳化分散させて、第一段単量体乳化物を得て、
前記第一段単量体乳化物の系の温度を70℃に昇温し、VA-86:0.25重量部を添加して重合を開始させ、
重合開始から1時間後に、系の温度を80℃に昇温した後、前記第二段単量体乳化物を3時間かけて添加して、添加終了後、更に2時間重合を継続して重合転化率は98%とし、
次いで、残留単量体を常法により除去した後、固形分濃度を40重量%に調整することにより得られた、ラテックス。」

(2) 本件特許発明1の進歩性について
ア 甲1発明の「ラテックス」は、組成物であるといえる。そして、甲1発明の「ラテックス」が含有するエマルゲン920及びエマルゲン985は、いずれも、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルであるから、アルキレンオキサイド付加物である。したがって、本件特許発明1と、甲1発明とは、二種類のアルキレンオキサイド付加物を含有する組成物である点で共通している。
イ そうすると、本件特許発明1と、甲1発明とは、少なくとも以下の相違点1で相違するものである。
(相違点1)
組成物が含有する二種類のアルキレンオキサイド付加物が、本件特許発明1では「成分(A):ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃である、アルキレンオキサイド付加物A」と「成分(B):有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が30℃以上である、アルキレンオキサイド付加物B」であるのに対し、甲1発明ではエマルゲン985とエマルゲン920であって、これらが「成分(A)」又は「成分(B)」に相当するか否かが不明である点
ウ 甲1発明において、当業者が、相違点1に係る構成を容易に想到し得たかどうかを検討する。
(ア) 異議申立人が提出したいずれの証拠にも、エマルゲン985及びエマルゲン920のBDG法による曇点は記載されておらず、また、有効濃度が1重量%の水溶液の曇点は記載されていないから、エマルゲン985及びエマルゲン920の各曇点は不明である。したがって、エマルゲン985及びエマルゲン920のいずれか一方が「成分(A)」に相当し、他方が「成分(B)」に相当するということはできない。
また、異議申立人が提出したいずれの証拠にも、「成分(A):ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃であるアルキレンオキサイド付加物A」に相当する化合物は、開示されていない。
(イ) したがって、「成分(A):ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃であるアルキレンオキサイド付加物A」に相当する化合物がいずれの証拠にも開示されていない以上、甲1発明において、相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) a 「成分(A)」に相当する化合物の開示に関し、異議申立人は、
「甲第3号証の[0082]実施例3では、曇点が70℃以下の非イオン性界面活性剤として、「アデカトールLB-83」(曇点:54℃)が使用されている。・・・これはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテルであることが甲第3号証の[0082]に記載されていることから、本件特許発明3で規定する、成分(A)及び成分(B)として好ましい構造式を参照すると成分(A)に相当すると考えられる。」(異議申立書第26頁第15行?第22行)
として、甲3に記載の「アデカトールLB-83」が、「成分(A)」に相当すると考えられる旨を主張している。
しかしながら、甲3の段落【0040】には「本明細書にいう『曇点』とは、外見上透明な試料の水溶液を加熱して徐々にその温度を上昇させた場合に、試料が析出して水溶液が濁りはじめるときの温度をいう。曇点の具体的な測定方法を以下に説明する。先ず、測定対象となる試料の1質量%水溶液を調製する。・・・次に、水溶液6が透明である(試料が十分に溶解されている)ことを確認できるまで、・・・加熱撹拌する。水溶液6が透明であることが確認できたら、撹拌翼3の回転速度を80rpmとし、加熱することにより1℃/1分の速度で温度上昇させ、乳状の不連続な相が現れる温度を『曇点』として測定する。」との記載があるから、甲3に記載された、「アデカトールLB-83」の曇点である「54℃」という数値は、1質量%水溶液の曇点であって、「ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点」ではない。
したがって、「アデカトールLB-83」が、本件特許発明1における「成分(A):ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃である、アルキレンオキサイド付加物A」に相当するとはいえないので、当該主張は採用できない。
b また、異議申立人は、
「構成(カ)として規定される『曇点が20℃?95℃であるアルキレンオキサイド付加物A』、構成(キ)として規定される『曇点が30℃以上であるアルキレンオキサイド付加物B』について、・・・甲第3号証には曇点が構成(カ)及び(キ)で規定する範囲内である非イオン性界面活性剤が多数[「エマルゲン1108(曇点:66℃)」、「エマルゲン109P(曇点:83℃)」、「アデカプルロニックL-62(曇点:32℃)」、「アデカトールLB-83(曇点:54℃)」、「ポリN-イソプロピルアクリルアミド(曇点:32℃)」]記載されている。」(異議申立書第29頁第16行?第24行)
として、甲3に、曇点が「成分(A)」及び「成分(B)」で規定する範囲内である非イオン性界面活性剤が多数記載されていると主張している。
しかしながら、上記aで検討したとおり、甲3の段落【0040】の記載によれば、甲3に記載された曇点は、1質量%水溶液の曇点であるから、甲3に記載の各非イオン性界面活性剤の曇点は、「成分(A)」で規定する範囲内であるとはいえない。したがって、当該主張は採用できない。
c また、異議申立人は、
「エマルゲン920、エマルゲン980の曇点は甲第1号証に記載されておらず不明であるが、一方が成分(A)であるアルキレンオキサイド付加物Aに相当し、他方が成分(B)であるアルキレンオキサイド付加物Bに相当する可能性があると推定される。」(異議申立書第19頁下から第5行?下から第1行)
とも主張しているが、エマルゲン920及びエマルゲン985のいずれか一方が「成分(A)」に相当する可能性があると推定できる具体的な根拠は何ら示されていないため、当該主張は採用できない。
エ 以上の検討のとおり、甲1発明において相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得たといえないことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 本件特許発明2?8、10?13の進歩性について
ア 本件特許発明2?6は、本件特許発明1に対し更に発明特定事項を付加したものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明7は、「成分(A):ブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃である、アルキレンオキサイド付加物A」を含有する「二次電池スラリー組成物」の発明である。前記(2)で検討したとおり、当該「成分(A)」が、いずれの証拠にも開示されていない以上、本件特許発明7についても、本件特許発明1と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明8は、本件特許発明7に対し更に発明特定事項を付加したものであるから、本件特許発明7と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明10?13は、「請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる」との発明特定事項を備えるものであるから、本件特許発明7、8と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 進歩性に関するまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明1?8、10?13は、甲1?甲7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないので、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2 サポート要件に係る申立理由について
(1) 異議申立人が主張するサポート要件に係る申立理由は、概略、以下のとおりである(異議申立書第6頁、第43頁第9行?第45頁第14行)。以下、各申立理由を、それぞれ、サポート要件に係る申立理由1、サポート要件に係る申立理由2という。

ア サポート要件に係る申立理由1
本件明細書に記載された実施例において、成分(A)としては請求項3で規定する一般式(1)を満たすものしか使用されておらず、成分(B)としては請求項3で規定する一般式(2)を満たすものしか使用されていない。
そして、本件明細書を参照しても、成分(A)が一般式(1)を満たし、成分(B)が一般式(2)を満たす場合以外の組合せで、本件特許発明1で解決すべき課題である「分散安定性及び濡れ性」といった課題を解決できることが開示されているとは認められない。
すなわち、本件特許発明1の範囲にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。本件特許発明2、4?13についても同様である。

イ サポート要件に係る申立理由2
本件明細書の段落【0143】には、〔製造例1〕として二次電池スラリー用分散媒組成物を得る工程が以下のように記載されている。
「【0143】
〔製造例1〕
成分(A)であるアルキレンオキサイド付加物A-1を60gと、成分(B)であるアルキレンオキサイド付加物B-1を40gと、成分(C)であるアクリル系高分子粒子1を300g含むアクリル系高分子粒子C-1エマルションの750gと、成分(D)であるデヒドロ酢酸の10gと成分(E)であるポリシロキサン系消泡剤1の10gと成分(F)である水酸化ナトリウムの2gとイオン交換水50gを均一に混合して、二次電池スラリー用分散剤組成物を得た。」
この記載からは、成分(A)?(F)及びイオン交換水が一度に均一に混合されていることを読み取れる一方、本件特許発明9において特定されている「下記成分(A)、下記成分(B)及び溶媒を混合して混合液を得る工程(a)」及び「前記混合液及び下記成分(C)を混合して分散剤組成物を得る工程(b)」が行われていない。
そして、本件特許発明9において特定された手順により課題を解決できることが実験的な裏付けをもって記載されているとはいえないので、本件特許発明9は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(2) 検討
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されるので、以下、この立場から、サポート要件に係る申立理由1及び2について検討する。
ア サポート要件に係る申立理由1について
(ア) 本件明細書の段落【0001】には、技術分野として、「本発明は、二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用に関する。さらに詳細には、スラリーの分散安定性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物、塗布性、被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物、耐熱性および保液性に優れた二次電池用被膜、およびその製造方法に関する。」と記載され、段落【0007】には、発明が解決しようとする課題として、「本発明の目的は、分散安定性及び濡れ性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物と、塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物と、該二次電池スラリー組成物を用いて作製された二次電池用材料及び二次電池を提供することである。」と記載されている。
そして、本件明細書の実施例の欄の、特に【表6】、【表7】、段落【0145】?【0149】では、所定の二次電池スラリー用分散剤組成物を含む二次電池スラリー組成物である実施例1?21が、分散安定性及び塗布性に優れたものであることが記載されている。
これらの記載を総合すると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、単に「本件課題」という。)は、実質的には、「分散安定性及び塗布性が良好となるような二次電池スラリー組成物のための二次電池スラリー用分散剤組成物、及び、そのような二次電池スラリー組成物を提供すること」にあるものと解される。
(イ) 本件明細書の段落【0027】には、「成分(A)」が「二次電池用スラリーの塗布性に寄与する成分」であると記載され、また、段落【0038】には、「成分(B)」が「無機粒子の分散性に寄与する成分」であると記載されていることから、当業者は、「成分(A)」及び「成分(B)」が、本件課題の解決に貢献していることが理解できる。
そして、本件明細書の実施例の欄の、特に【表6】、【表7】、段落【0145】?【0149】には、「成分(A)」及び「成分(B)」を含有する二次電池スラリー用分散剤組成物を用いて得られた二次電池スラリー組成物である実施例1?21が分散安定性及び塗布性に優れているとの記載があるから、「成分(A)」及び「成分(B)」を含有する二次電池スラリー用分散剤組成物、及び当該分散剤組成物を用いた二次電池スラリー組成物が、本件課題を解決できることが、本件明細書において、実験的に裏付けられているといえる。
(ウ) そうすると、「成分(A)」及び「成分(B)」を含有する「二次電池スラリー用分散剤組成物」である本件特許発明1や、「成分(A)」及び「成分(B)」を含有する「二次電池スラリー組成物」である本件特許発明7は、本件明細書の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(エ) そして、本件明細書の段落【0027】及び【0038】には、「成分(A)」は「特に限定はない」が「一般式(1)で表される化合物であると好ましい」ものであり、また、「成分(B)」は「特に限定はない」が「一般式(2)で表される化合物であると好ましい」ものであると記載されていることに照らすと、当業者は、「成分(A)」及び「成分(B)」が、それぞれ「一般式(1)」及び「一般式(2)」に限定されないものであることを把握できる。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明7において「一般式(1)」及び「一般式(2)」が規定されていないとしても、直ちに、本件特許発明1及び本件特許発明7が、本件明細書の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲を超えているということはできない。
(オ) よって、サポート要件に係る申立理由1は理由がなく、本件特許発明1、7は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
そして、「成分(A)」及び「成分(B)」について、本件特許発明1、7と同じ発明特定事項を備える本件特許発明2、4?6、8?13も、同様の理由で、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

イ サポート要件に係る申立理由2について
(ア) 本件明細書の段落【0143】には、成分(A)?成分(F)及びイオン交換水を「均一に混合」すると記載されているのであって、「一度に均一に混合」するとは記載されていない。また、本件明細書の全体を参照しても、段落【0143】の上記記載を、成分(A)?成分(F)及びイオン交換水を「一度に均一に混合」するという意味として解さなければならない事情は存在しない。
したがって、本件明細書に記載の製造例1が、「成分(A)?(F)及びイオン交換水が一度に均一に混合されている」ことを前提としている、サポート要件に係る申立理由2は、その前提において誤っているものである。
(イ) また、本件明細書の段落【0148】?【0149】には、実施例21として、「成分(A)であるアルキレンオキサイド付加物A-1の60g、成分(B)であるアルキレンオキサイド付加物B-1の40g・・・を混合してX剤を得た。・・・次に、成分(C)であるアクリル系高分子粒子1を300g含むアクリル系高分子粒子1エマルションの750gと・・・を混合してY剤を得た。上記で得たX剤およびY剤を混合して得られた二次電池スラリー用分散剤組成物の25gと無機粒子であるαアルミナ1の100gとイオン交換水100gを均一に混合して、二次電池スラリー組成物を得た。」という製造方法が記載されており、このようにして得られた二次電池スラリー組成物が分散安定性及び塗布性に優れていたことも記載されている。
したがって、本件特許発明9のように、「下記成分(A)、下記成分(B)及び溶媒を混合して混合液を得る工程(a)」と、「前記混合液及び下記成分(C)を混合して分散剤組成物を得る工程(b)」を含む製造方法によって、本件課題を解決できることは、実験的な裏付けを伴って、本件明細書に記載されているといえる。
(ウ) したがって、本件特許発明9は、本件明細書の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(エ) よって、サポート要件に係る申立理由2は理由がなく、本件特許発明9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(3) サポート要件についてのまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明1、2、4?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとはいえない。

3 明確性要件に係る申立理由について
(1) 異議申立人が主張する明確性要件に係る申立理由は、概略、以下のとおりである(異議申立書第6頁、第45頁第15行?第46頁最下行)。以下、各申立理由を、それぞれ、明確性要件に係る申立理由1、明確性要件に係る申立理由2という。

明確性要件に係る申立理由1
本件明細書の段落【0160】の【表4】には、製造例5において調製された二次電池スラリー用分散剤組成物に関して、HLB(B)-HLB(A)の値が14.3であると記載されているが、これは、本件特許発明1の「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との事項の範囲外である。
同様に、前記製造例5で製造された分散剤組成物を使用した実施例5、16及び17に係る二次電池スラリー組成物及び二次電池用材料の製造方法は、本件特許発明7及び本件特許発明9の「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との事項の範囲外である。
しかしながら、実施例5、16、17において全ての評価結果が○又は◎となっており、他の実施例と遜色ない程度に良好な結果が示されていることから、本件特許発明1、7、9及びの範囲が不明確なものとなっている。同様に、本件特許発明2?6、8、10?13の範囲も不明確なものとなっている。

明確性要件に係る申立理由2
本件明細書の段落【0157】の【表1】に示される製造例(A-7)で製造されたアルキレンオキサイド付加物(A-7)は、甲8に記載の「ブラウノンL-205」(商品名)と同じ構造であるので、アルキレンオキサイド付加物(A-7)の1重量%水溶液の曇点は59℃であるといえる。
このように、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物は、「成分(A)」であるのか「成分(B)」であるのかが不明確であるといえる。
そして、アルキレンオキサイド付加物として(A-7)及び(B-7)を使用した製造例8は成分(B)を2種類併用して成分(A)を使用していない組成物であるとも解される。このように解した場合は、本件特許発明1の範囲外の分散剤組成物となる。
しかしながら、製造例8で製造された分散剤組成物を使用した実施例8、18及び20において全ての評価結果が○又は◎となっている。
このことから、本件特許発明1、2、4?13の範囲が不明確なものとなっている。

(2) 検討
明確性要件に係る申立理由1について
(ア) 本件特許発明1、7、9において規定される「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との事項の意味について、その記載のとおりの意味として解釈できない特段の事情は存在しないから、当該事項は、「HLB(B)-HLB(A)」の上限が14未満であることを意味すると解釈すべきものである。
(イ) 本件特許発明1、7、9の範囲は、本件特許発明1、7、9の発明特定事項によって定められるものであって、ある具体的な物が、本件特許発明1、7、9の範囲に含まれるか否かは、その具体的な物が、本件特許発明1、7、9の発明特定事項を備えるか否かによって判断されるものである。そうすると、「HLB(B)-HLB(A)」の値が14.3である製造例5の二次電池スラリー用分散剤組成物は、本件特許発明1において規定される「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との事項を備えないものであるから、本件特許発明1の範囲外のものとなる。同様に、製造例5を使用した実施例5、16、17の二次電池スラリー組成物は、本件特許発明7及び9の範囲外のものとなる。
(ウ) そして、製造例5の二次電池スラリー用分散剤組成物を用いた実施例5、16、17の二次電池スラリー組成物の評価結果が他の実施例と遜色ない程度に良好なものであったとしても、当該二次電池スラリー用分散剤組成物及び二次電池スラリー組成物が、当該本件特許発明に規定される「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との事項を備えない以上、本件特許発明の範囲外のものと解されることにかわりはない。
(エ) したがって、製造例5の二次電池スラリー用分散剤組成物や、実施例5、16、17の二次電池スラリー組成物に関する記載があることによって、本件特許発明1、7、9の範囲が不明確なものとなることはない。
(オ) よって、明確性要件に係る申立理由1は理由がなく、本件特許発明1、7、9は、不明確なものとなっているとはいえない。
そして、「2<HLB(B)-HLB(A)<14」との発明特定事項を備える本件特許発明2?6、8、10?13も、同様の理由で、不明確なものとなっているとはいえない。

明確性要件に係る申立理由2について
この申立理由2に係る主張を、以下の(ア)及び(イ)に分けて検討する。
(ア) 異議申立人は、製造例(A-7)で製造されるアルキレンオキサイド付加物A-7が、「成分(A)」及び「成分(B)」の曇点の条件をともに満たすものであるとし、このような、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物は、「成分(A)」であるのか「成分(B)」であるのかが不明確であると主張している。
この主張は、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物が存在することを前提とした主張となっているから、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物が存在するか否かについてまず検討する。
a 本件明細書の【表1】に、アルキレンオキサイド付加物A-7の水への溶解性が0.05g/1000mlであることが記載されていることを踏まえると、当該アルキレンオキサイド付加物A-7は、有効濃度が1重量%の水溶液を調製することができない程度に水への溶解性が低いものであるから、有効濃度が1重量%の水溶液の曇点を測定できない。
したがって、アルキレンオキサイド付加物A-7は、「成分(A)」の曇点の条件を満たすものであって、「成分(B)」の曇点を満たすものではない。
b 本件明細書の段落【0027】の「前記成分(A)は疎水性が強いため、1重量%濃度水溶液の曇点は30℃未満であり、後述する成分(B)とは全く別の成分である。前記成分(A)を1重量%水溶液で測定しても測定不能であるか、測定可能であっても測定値の信頼性に欠ける。」との記載を踏まえると、「成分(A)」のアルキレンオキサイド付加物と、「成分(B)」のアルキレンオキサイド付加物とは、疎水性の強さが異なる点で、全く別の化合物として認識されるものと認められる。そして、異議申立人が提出した全ての証拠を参照しても、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物は示されているとはいえない。
c 上記a及びbの検討によれば、「成分(A)」の定義としての曇点の条件と、「成分(B)」の定義としての曇点の条件をともに満たすアルキレンオキサイド付加物は、実際にはその存在を想定し難いものであるから、異議申立人の前記主張は、その前提において誤っており、採用できない。
(イ) 異議申立人は、製造例8で製造された分散剤組成物を使用した実施例8、18及び20において全ての評価結果が○又は◎となっていることから、本件特許発明1、2、4?13の範囲が不明確なものとなっていると主張している。
a しかしながら、前記ア(ア)及び(イ)でも述べたとおり、本件特許発明の範囲は、本件特許発明の発明特定事項によって定められるものであって、ある具体的な物が本件特許発明の範囲に含まれるか否かは、その具体的な物が、本件特許発明の発明特定事項を備えるか否かによって判断されるものである。
そのため、全ての評価結果が○又は◎となっている実施例8、18、20において使用されている製造例8の分散剤組成物が、本件特許発明1の発明特定事項を備えていれば、本件特許発明1の範囲内のものであるし、当該製造例8の分散剤組成物が、本件特許発明1の発明特定事項を備えていなければ、本件特許発明1の範囲外のものである。なお、製造例8は、本件明細書の【表1】、【表2】及び【表4】によれば、本件特許発明1の「成分(A)」の曇点の条件に係る発明特定事項を備えるアルキレンオキサイド付加物A-7と、「成分(B)」の曇点の条件に係る発明特定事項を備えるアルキレンオキサイド付加物B-7を含有するものである。
b したがって、製造例8の分散剤組成物を使用した実施例8、18及び20の評価結果が○又は◎であることによって、本件特許発明1の範囲が不明確なものとなることはない。本件特許発明2、4?13の範囲についても同様の理由で不明確なものとなることはない。よって、異議申立人の前記主張は採用できない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)にて検討したとおり、明確性要件に係る申立理由2は理由がなく、本件特許発明1、2、4?13は、不明確なものとなっているとはいえない。

(3) 明確性要件についてのまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第6 むすび
したがって、請求項1?13に係る特許は、特許異議申立書において申立てられた申立理由及び証拠によって、取り消すことができない。
また、他に、請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-05 
出願番号 特願2015-243244(P2015-243244)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
▲辻▼ 弘輔
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6152161号(P6152161)
権利者 松本油脂製薬株式会社
発明の名称 二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用  

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