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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16H
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16H
管理番号 1338427
審判番号 訂正2017-390105  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-10-04 
確定日 2018-03-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3997743号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3997743号の明細書、特許請求の範囲及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第3997743号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年10月18日の出願であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成19年8月17日に特許権の設定登録がなされ、平成29年10月4日に本件訂正審判の請求がなされたものである。
そして、当審において平成29年11月27日付けで訂正拒絶理由を通知したのに対し、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 平成29年12月27日付け手続補正書による手続補正の適否について
平成29年12月27日付け手続補正書による手続補正は、審判請求書の請求の理由において、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6を削除するものである。
同補正は、審判請求書の要旨を変更するものではないから、特許法第131条の2第1項の規定を満たすものである。

第3 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件審判の請求の趣旨は、「特許第3997743号の明細書、特許請求の範囲、及び図面を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲、及び図面のとおり訂正することを求める、との審決を求める。」ものであり、その訂正内容は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0018】から「さらにこの発明の好ましい形態では、前記R加工部の表面荒さが0.2μmRa以下である。」を削除する。

(3)訂正事項4
明細書の段落【0043】から「請求項3に記載した発明によれば、R加工部の表面荒さを0.2μmRa以下としたことによって、ボールの移動がさらにスムーズとなり、ボールねじ装置の耐久性が向上する。」の記載を削除する。

第4 当審の判断
1 訂正事項1
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、当該訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができなくなる理由は見出せない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法126条第7項の規定を満たすものである。

2 訂正事項2
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項2は、訂正事項1(請求項3の削除)に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0018】から訂正前請求項3の記載に相当する「さらにこの発明の好ましい形態では、前記R加工部の表面粗さが0.2μm以下である。」との記載を削除するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項2は、上記(1)のとおり訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の訂正前請求項3の記載に相当する記載を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項2は、上記(1)のとおり訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の訂正前請求項3の記載に相当する記載を削除するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

3 訂正事項4
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項4は、訂正事項1(請求項3の削除)に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0043】から訂正前請求項3の効果に関する「請求項3に記載した発明によれば、R加工部の表面粗さを0.2μm以下としたことによって、ボールの移動がさらにスムーズとなり、ボールねじ装置の耐久性が向上する。」との記載を削除するものである。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項4は、上記(1)のとおり訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の訂正前請求項3の効果に関する記載を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項4は、上記(1)のとおり訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の訂正前請求項3の効果に関する記載を削除するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

4 当審の通知した訂正拒絶理由
当審は、平成29年12月27日提出の手続補正書による手続補正前の訂正の請求のうち訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることの、いずれかをも目的とするものではないから、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれかを目的としたものではないので、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6を含む本件訂正は不適法なものであるから、これを認めることはできない旨を平成29年11月27日付けで通知した。
しかし、上記第2に記載したように平成29年12月27日提出の手続補正書による手続補正によって、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6は、審判請求書の請求の理由から削除された結果、この訂正拒絶理由は解消した。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定を満たすものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ボールねじ装置
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、各種の機器の送り機構等に用いられるボールねじ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ボールねじ装置は、回転運動を直線運動に変換することのできる機械要素である。ボールねじ装置は、外周面にボールねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸の外周に嵌合するナットとを備えている。ナットの内周面には、前記ねじ軸のボールねじ溝に対向するボールねじ溝が形成されている。
【0003】
互いに対向するねじ軸のボールねじ溝とナットのボールねじ溝とによって、螺旋状のボール転動路が構成されている。このボール転動路の、互いに離間した一部と他の一部とが、ナットに設けられた接続路により接続されている。これらボール転動路と接続路とによって、無端状のボール循環路が構成されている。このボール循環路内に、多数のボールが、無端状に連続した状態で収容されている。
【0004】
前記ナットは、前記ねじ軸に対して、相対的に回転することができる。たとえばナットに対してねじ軸が回転するとき、ねじ軸とナットとの間のボールが回転しながら、各ボールが前記循環路内を無限循環する。このように、ねじ軸の回転に伴って、ボールが前記循環路を無限循環することにより、ナットが、ねじ軸の軸線方向に、精度良く、円滑に相対移動することができる。
【0005】
図8は、従来のチューブ方式のボールねじ装置100の断面を模式的に示している。ねじ軸1の外周に、ナット2が装着されている。ねじ軸1の外周面にボールねじ溝1aが形成されている。ナット2の内周面にもボールねじ溝2aが形成されている。このボールねじ溝2aは、ねじ軸1のボールねじ溝1aに対向している。これらボールねじ溝1a,2aは、螺旋状のボール転動路3を構成している。
【0006】
ナット2の周壁に透孔4a,4bが形成されている。これら透孔4a,4bがチューブ5で接続されている。チューブ5は、ナット2の外周部に配置されている。チューブ5の両端部が透孔4a,4b内に挿入されている。透孔4a,4bとチューブ5によって、接続路6が構成されている。接続路6は、ボール転動路3の互いに離れた一部と他の一部とを接続している。
【0007】
このようにボール転動路3の両端が接続路6を介して連通することにより、無端状のボール循環路7が構成される。ボール循環路7内に多数のボール8が収容されている。これらのボール8は循環路7内において無端状に配列されている。各ボール8は、鋼、セラミック、プラスチックなどから選択された材料によって形成されている。これらボール8は、ねじ軸1が回転する際に、循環路7内を転動しながら無限循環する。
【0008】
ねじ軸1に対してナット2が、例えば図8中の矢印Fで示す方向に回転する場合、各ボール8は、ねじ溝1aに沿って矢印F方向に転動する。ボール8の移動速度はナット2の回転速度よりも遅い。このため各ボール8は、チューブ5から一方の透孔4aを通ってナット2のねじ溝2aに向かって、矢印Fとは逆の方向に相対的に移動する。
【0009】
従来のボールねじ装置100は、転動路3と接続路6との接続部分、すなわちねじ溝2aと接続路6との境界に角部10が存在している。このため従来のボールねじ装置100は、循環路7を循環するボール8のスムーズな循環運動が角部10により妨げられることがあった。このことは、ボールねじ装置100としての作動性や耐久性を低下させる原因となる。
【0010】
ボールねじ装置100に外部荷重が作用すると、ねじ溝1a,2a間の距離が狭まった状態となる。ねじ溝1a,2a間の距離が狭まる理由は、一方のねじ溝1aとボール8との間のHertz接触と、他方のねじ溝2aとボール8との間のHertz接触と、ボール8自体の弾性変形による。この明細書では、ねじ溝1a,2a間の距離が狭まった状態を“弾性接近”と称する。
【0011】
弾性接近が生じている状態で、無負荷圏であるチューブ5内から、負荷圏であるねじ溝1a,2a間にボール8が入ることになる。ここで前記弾性接近が生じていると、ボール8は、自力でねじ溝1a,2a間に入ることができない。このため先行するボール8は、後続のボール8によって押されることにより、ねじ溝1a,2a間に入ることになる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ボールねじ溝2aは、ナット2の内周全体にわたって、ボール8の中心径に基いて連続加工されている。このため、前述の外部荷重が作用したとき、ねじ溝1a,2aどうしがナット2の内周全体にわたって接近することになる。その結果、ボール8がチューブ5からねじ溝1a,2aに入った瞬間に、ボール8が急激に圧縮される。
【0013】
このため、ボール8に応力が集中したり、ねじ溝2aとチューブ5の端との間の角部10に応力が集中し、そこを起点にして剥離(flaking)が発生することがある。また、角部10付近でボール8が詰まりやすくなり、ボール8が円滑に循環することができなくなる。場合によっては、ボール8がチューブ5からねじ溝2aに入る際に、先行するボール8が、後続のボール8によって押されることで、ボールが損傷したり、摩耗する。このこともボールねじ装置の耐久性を低下させる原因となる。
【0014】
本出願人は、特開平13-141019号公報に開示されたように、ボール転動路と接続路との間の角部を削ることによって、テーパ状の加工処理部を設けることを提案した。しかし本発明者らが行った耐久試験によると、特に高速回転するボールねじ装置のように、前記加工処理部にボールが衝突する際の衝突荷重が大きいボールねじ装置では、耐久性に関してさらなる改善の余地があった。
【0015】
従ってこの発明の目的は、ボールをさらにスムーズに循環運動させることができ、耐久性の高いボールねじ装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明のボールねじ装置は、外周面にボールねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の外周に嵌合され、内周面に前記ねじ軸のボールねじ溝に対向するボールねじ溝が形成されたナットと、互いに対向する前記ねじ軸と前記ナットの各ボールねじ溝によって構成されるボール転動路と、前記ナットに設けられ、前記ボール転動路の一部と他の一部とを連通させるチューブからなる接続路と、前記接続路と前記ボール転動路とで構成される無端状のボール循環路と、前記ボール循環路内に収容された複数のボールとを備えたボールねじ装置であって、前記ボール転動路と前記接続路との接続部分の角部を削り取ることによって、前記ナットのボールねじ溝から前記接続路に向かって前記ボール転動路が次第に広がるような円弧状の曲面からなるR加工部が形成され、このR加工部の曲率中心が前記ナットのボールねじ溝に対してナット外周側に位置し、かつ、前記チューブの端部から突出して前記R加工部と向かい合いタング部を有し、該タング部が前記ボールねじ溝の方向に曲がっていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、ボールねじ装置が製作された直後の初期段階から、ボールがスムーズに循環する。この発明のボールねじ装置は作動性が良好であり、耐久性を高めることができる。また、接続路内部の無負荷圏から各ねじ溝間の負荷圏にボールが入りやすくなるため、ボールどうしの接触による損傷や摩耗を抑制することができる。
【0018】
この発明の好ましい形態では、前記R加工部の曲率半径が前記ボールの直径以上である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に第1の形態について、図1と図2を参照して説明する。
図1は第1の形態に係るチューブ方式のボールねじ装置1Aの要部を示している。ねじ軸1の外周面に、螺旋状のボールねじ溝1aが形成されている。図2に示すように、ねじ軸1の外周にナット2が装着されている。ナット2の内周面には、ねじ軸1のボールねじ溝1aに対向する螺旋状のボールねじ溝2aが形成されている。互いに対向するボールねじ溝1a,2aによって、螺旋状のボール転動路3が構成されている。
【0020】
ナット2の周壁に透孔4a,4bが形成されている。これら透孔4a,4bがチューブ5によって接続されている。チューブ5はナット2の外周部に配置されている。チューブ5の両端部が透孔4a,4b内に挿入されている。これら透孔4a,4bとチューブ5とによって、接続路6が構成されている。接続路6によって、ボール転動路3の互いに離れた一部と他の一部とが連通している。
【0021】
接続路6によってボール転動路3が無端状に連続することにより、ボール循環路7が構成される。ボール循環路7内に、多数のボール8が収容されている。これらのボール8は、循環路7内に、無端状に連続して配列されている。各ボール8は、鋼、セラミック、プラスチックなどから選択された材料によって形成されている。これらのボール8は、ねじ軸1とナット2が相対回転する際に、循環路7内を転動しつつ無限循環する。
【0022】
ねじ軸1に対してナット2が例えば矢印F(図1に示す)方向に相対回転すると、各ボール8は、ねじ溝1aに沿って矢印F方向に転動する。ボール8の移動速度はナット2の回転速度よりも遅いため、各ボール8は、チューブ5から一方の透孔4aを通って、ナット2のねじ溝2aに向かって、矢印F′方向に移動する。
【0023】
図8に示す従来のボールねじ装置100は、製造直後のボール転動路3と接続路6との接続部分に角部10が存在している。この角部10は、ナット2のねじ溝2aに沿う円弧2bと接続路6の内面6aとが交わる箇所に形成されていた。
【0024】
これに対し図1に示すボールねじ装置1Aは、その製作段階において前記角部10を削り取ることにより、曲率半径Rの円弧状の曲面からなるR加工部11が形成されている。このR加工部11は、ナット2のボールねじ溝2aと接続路6との接続部分において、ナット2の周方向に角度θにわたって、機械加工(研削等)によって形成されている。
【0025】
すなわちR加工部11は、ボール転動路3と接続路6との接続部分において、ボールねじ溝2aから接続路6に向かってボール転動路3が次第に広がるような円弧状の曲面からなる。このR加工部11の曲率中心X1は、ボールねじ溝2aに沿う円弧2bに対してナット2の外周2c側に位置している。
【0026】
このように構成されたボールねじ装置1Aにおいては、ボール転動路3と接続路6とが滑らかに連続する。このため、ボールねじ装置1Aの製作直後の初期段階から、ボール8がボール循環路7をスムーズに循環することができる。このことにより、ボールねじ装置1Aの作動初期段階から、ボール8やボール循環路7の摩耗がほとんど生じることがなく、作動性が良好に保たれ、耐久性も高まる。特に、ボール8の衝突荷重が高くなる高速回転域で作動性を良好に保つことができ、高速で使われるボールねじ装置の耐久性を高めることができる。
【0027】
図3は、第2の形態に係るチューブ方式のボールねじ装置1Bを示している。このボールねじ装置1Bは、R加工部11以外の構成が第1の形態のボールねじ装置1Aと同様である。このためこのボールねじ装置1Bに関し、第1の形態のボールねじ装置1Aと共通する箇所には両者に共通の符号を付して説明を省略する。
【0028】
ボールねじ装置1Bのナット2の内面に、R加工部11が形成されている。このR加工部11は、ボール8の直径よりも十分大きい曲率半径Rの円弧状の曲面からなる。このR加工部11は、ボール転動路3と接続路6との接続部分において、ボールねじ溝2aから接続路6に向かってボール転動路3が次第に広がるような円弧状の曲面からなる。
【0029】
このR加工部11は、前記角部10を例えば砥石等の研磨手段を用いるクラウニング加工によって削り取ることにより成形されている。R加工部11の曲率中心X2は、ボールねじ溝2aに沿う円弧2bに対してナット2の外周2c側に位置している。
【0030】
このようなR加工部11を設けたことにより、ボール転動路3と接続路6とが滑らかに連続し、各ボール8が接続路6からボール転動路3に入りやすくなる。しかも、ボールねじ溝2aと接続路6との接続部分をボール8が移動する際に、ボール8が徐々に圧縮されるため、ねじ溝2aに応力集中が生じることが回避される。
【0031】
このため、ボールねじ装置1Bの製作直後の作動初期段階から、各ボール8が循環路7内をスムーズに循環する。これにより、ボールねじ装置1Bの作動初期段階から、ボール8や循環路7の摩耗が抑制され、良好な作動性が得られるとともに、耐久性が高まる。特に、ボール8の衝突荷重が高くなる高速回転域で作動性を良好に保つことができ、高速回転するボールねじ装置の耐久性をさらに高めることができる。
【0032】
次表1と、図4?図6は、試験品No.1からNo.29までの各実施例と、No.30からNo.32までの比較例について、耐久試験を行った結果を示している。この耐久試験に使用したボールねじ装置はJIS1192に示されるもので、ねじ軸の軸径:25mm、リード:10mm、軸長:500mm、ボール径:3/16インチである。また、アキシャル荷重:1960N、モーメント荷重:2940N、加速度荷重:490?1470N、回転数:300?2000rpm、ストローク:300mmであり、潤滑グリースとして昭和シェル石油のアルバニアNo.2を使用した。
【0033】
この耐久試験は、ボールねじ耐久寿命試験機を用い、許容限度を越える摩耗や剥離等の破損が生じるまでの試験時間を記録した。そしてワイブル関数分布により、10個の試験品のうち、短寿命側から10%のボールねじ装置が寿命に達する時間を求め、これを試験寿命T1とした。そして前記試験条件による計算寿命T2を算出し、この計算寿命T2に対する前記試験時間T1の比(T1/T2)を、表1のL10寿命比で表した。
【0034】
表1中の“R比”は、ボールの直径Dに対するR加工部11の曲率半径Rすなわち(R/D)を表している。曲率半径Rは、R加工部11を形状測定器によって計測し、実際の曲率半径を求めた。“R比”の値が大きいほど、R寸法が大きい。
【0035】
【表1】

【0036】
図4は同一試験条件でR比の違いによる寿命試験結果を示している。R加工部11を形成しないものはR比がゼロである。R比が大きくなると、ボールの衝突荷重が緩和され、寿命が延びている。Rの値がボール径よりも大きいほど、ボールとR加工部11との衝突時の互いの接触面積が大きくなり、衝撃緩和効果が高くなるため、長寿命効果が顕著に見られた。従ってR比が1以上、すなわち曲率半径Rがボールの直径以上であることが望ましい。
【0037】
図5は、R比がボール径の2倍以上の条件のもとで、表1中のNo.5,6,21,25?29について、R加工部11の加工精度(表面粗さ)と耐久性との関係を調べた結果である。同等のR比(2.1?2.2)でも、R加工部11の粗さが悪くなると、長寿命効果が減少することがわかる。図5から、R比を1以上とし、かつ、粗さを0.2μmRa以下にすることが望ましい。
【0038】
図6はR比が2以上(2.1?2.2)でかつR加工部11の粗さが0.2μmRa以下(特に0.08μmRa)の条件のもとで、表1中のNo.9,13?18,21について、種々の回転数で耐久試験を行った場合の回転数と寿命との関係を示している。ボール8の衝突荷重が高くなる高回転域において、R比の大きいR加工部11による長寿命効果が高いことがわかる。すなわちR加工部11を有する本発明のボールねじ装置は、1000rpm以上の高回転域で使用される場合に、より長寿命効果を発揮することができる。
【0039】
図7は、本発明の一実施形態に係るボールねじ装置1Cを示している。このボールねじ装置1Cは、チューブ5以外の構成が第2の形態のボールねじ装置1Bと同様である。チューブ5は、ナット2に形成された孔5aに挿入される端部5bと、端部5bの一部から突出するタング部5cとを備えている。タング部5cは、R加工部11と向かい合っている。タング部5cは、ボールねじ溝2aの方向に曲がっている。
【0040】
タング部5cとボールねじ溝2aとにより、ボールすくい上げ空間Sが形成されている。このような形状のタング部5cを設けたことにより、ボール転動路3と接続路6とが、ボールすくい上げ空間Sを介して緩やかな曲線を描いて互いに連続する。このためボールすくい上げ空間Sを通るボール8は、その配列が大きく乱れることが防止され、各ボール8が整列状態を維持しつつ、接続路6とボール転動路3との間を、さらにスムーズに移動することができる。
【0041】
なお本発明は、チューブ5によって接続路6が構成されるチューブ式ボールねじ装置以外に、接続路用のこまを用いる内部循環式ボールねじ装置に適用することができる。また、接続路がエンドキャップに形成されたボールねじ装置に適用することもできる。要するに本発明のボールねじ装置は、ナットの接続路とナットのボールねじ溝との間の角部を削り取ることにより、滑らかに連続するR加工部を形成すればよい。
【0042】
【発明の効果】
請求項1に記載した発明によれば、ボール転動路と接続路との接続部分に前記R加工部を形成したことによって、ボールねじ装置の製作初期段階からボールがスムーズに循環する。この発明のボールねじ装置は作動性が良好であり、耐久性を高めることができる。また、接続路内部の無負荷圏からねじ溝間の負荷圏にボールが入りやすくなるため、ボールどうしの接触による損傷や摩耗を抑制することができる。本発明では、タング部とボールねじ溝とにより、ボールすくい上げ空間が形成されている。このような形状のタング部を設けたことにより、ボール転動路と接続路とが、ボールすくい上げ空間を介して緩やかな曲線を描いて互いに連続する。このためボールすくい上げ空間を通るボールは、その配列が大きく乱れることが防止され、各ボールが整列状態を維持しつつ、接続路とボール転動路との間を、さらにスムーズに移動することができる。
【0043】
請求項2に記載した発明によれば、R加工部の曲率半径をボールの直径以上としたことにより、ボールの移動がさらにスムーズになり、特に高速回転で使用されるボールねじ装置の耐久性を高める上で大きな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の形態に係るボールねじ装置の一部の断面図。
【図2】 図1に示されたボールねじ装置の全体の斜視図。
【図3】 第2の形態に係るボールねじ装置の一部の断面図。
【図4】 R加工部のR比とボールねじ装置の寿命との関係を示す図。
【図5】 R加工部の粗さとボールねじ装置の寿命との関係を示す図。
【図6】 ボールねじ装置の回転数と寿命との関係を示す図。
【図7】 本発明の一実施形態に係るボールねじ装置の一部の断面図。
【図8】 従来のボールねじ装置の断面図。
【符号の説明】
1A,1B,1C…ボールねじ装置
1…ねじ軸
1a…ボールねじ溝
2…ナット
2a…ボールねじ溝
2c…ナットの外周
3…ボール転動路
5…チューブ
6…接続路
7…ボール循環路
8…ボール
11…R加工部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にボールねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の外周に嵌合され、内周面に前記ねじ軸のボールねじ溝に対向するボールねじ溝が形成されたナットと、
互いに対向する前記ねじ軸と前記ナットの各ボールねじ溝によって構成されるボール転動路と、
前記ナットに設けられ、前記ボール転動路の一部と他の一部とを連通させるチューブからなる接続路と、
前記接続路と前記ボール転動路とで構成される無端状のボール循環路と、
前記ボール循環路内に収容された複数のボールとを備え、
前記ボール転動路と前記接続路との接続部分に、前記ナットのボールねじ溝から前記接続路に向かって前記ボール転動路が次第に広がるような円弧状の曲面からなるR加工部が形成され、該R加工部の曲率中心が前記ナットのボールねじ溝に対してナット外周側に位置し、かつ、前記チューブの端部から突出して前記R加工部と向かい合うタング部を有し、該タング部が前記ボールねじ溝の方向に曲がっていることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記R加工部の曲率半径が前記ボールの直径以上であることを特徴とする請求項1記載のボールねじ装置。
【請求項3】(削除)
【図面】








 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-02-06 
結審通知日 2018-02-08 
審決日 2018-02-20 
出願番号 特願2001-320950(P2001-320950)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F16H)
P 1 41・ 851- Y (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 滝谷 亮一
小関 峰夫
登録日 2007-08-17 
登録番号 特許第3997743号(P3997743)
発明の名称 ボールねじ装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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