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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1338429
審判番号 無効2014-800132  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-08-13 
確定日 2018-02-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4277306号「美顔器」の特許無効審判事件についてされた平成27年 6月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10144号、平成28年 9月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4277306号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?6〕について訂正することを認める。 特許第4277306号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。  
理由 第1 手続の経緯
本件特許4277306号に係る発明についての出願は、平成19年4月10日(以下、「原出願日」という。)に出願した実用新案登録第3136465号に基づいて、平成19年11月8日に特許出願したものであって、平成21年3月19日にその請求項1?6に係る発明について特許の設定登録がなされた。

そして、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成26年 8月13日 本件無効審判請求
平成26年10月31日 審判事件答弁書提出
平成27年 2月 3日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 2月 3日及び同年2月17日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 2月17日 被請求人より上申書提出
平成27年 2月17日 口頭審理
平成27年 3月13日 被請求人より上申書提出
平成27年 3月13日 請求人より上申書提出
平成27年 4月 9日 請求人より上申書提出
平成27年 4月14日 被請求人より上申書提出
平成27年 5月29日 請求人より上申書提出
平成27年 5月29日 被請求人より上申書提出
平成27年 6月23日付 審決(一次審決)
平成28年 9月28日 審決取消判決言渡(平成27年(行ケ)第10144号)
平成28年11月28日 訂正請求書提出
平成29年 2月 3日 請求人より審判事件弁駁書提出
平成29年 2月27日付 審尋
平成29年 3月29日 請求人より審尋回答書提出
平成29年 4月 3日 被請求人より回答書提出
平成29年 9月 4日付 審決の予告

なお、平成29年9月4日付けの審決の予告により、期間を指定して被請求人に訂正を請求する機会を与えたが、被請求人から訂正の請求がなされることなく上記期間が経過した。

第2 訂正について
1 訂正請求の内容
平成28年11月28日付けの訂正請求書により、被請求人が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、3?6からなる一群の請求項について訂正しようとするものであって、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示すものであり、当審において付与した。)。
(1)訂正事項1
訂正事項1-1
請求項1の「引き込まれる導管」を「引き込まれる一つの導管」と訂正する。

訂正事項1-2
請求項1の「導管の先端に設けられた噴出ノズルを有するスプレー本体」を「導管の先端に設けられた噴出ノズルを有し、一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするスプレー本体」と訂正する。

訂正事項1-3
請求項1の「炭酸ガス供給用パイプと、而も前記スプレー本体」を「炭酸ガス供給用パイプと、導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングと、而も前記スプレー本体」と訂正する。

なお、被請求人は、訂正事項2として、「特許請求の範囲3?6を、訂正後の請求項1を引用するものとなるように訂正する。」と請求しているが、後述のように、訂正事項1に係る訂正後の請求項3?6は、当該訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される一群の請求項であるから、訂正事項1に含まれるものとして扱う。

2 請求項1、3?6からなる一群の請求項に係る訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1-1に係る訂正について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である導管について、「一つの」との発明特定事項を付加することにより、導管の数が一つであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合する。

そして、本件明細書には、【図3】とともに
「【0007】・・・
図2は、美顔器の全体構成図である。而して具体的には図3及び4に示す如く、スプレー本体1には握手部2と直交する筒部3を内蔵配置している。この筒部3は導管4を主として成している。
而してこの導管4の前方位置には所定量の化粧水Wを収納する化粧水収納カップ5を装備している。この化粧水Wとしては、例えば一般化粧剤にゲルマニウム粒子を混合させれば、炭酸成分の保湿性と美白効果が一層強まり、美容目的、即ちソフト的効能が一層好適となる。この化粧水収納カップ5はキャップ6と導管4にねじ込まれる下端の滴下口7とより成っている。また、導管4の先端には噴出ノズル8が設けられている。」
と記載されている。上記記載および【図3】から、スプレー本体に内蔵され、化粧水が引き込まれる導管は一つであることは明らかである。
よって、訂正事項1-1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。

(2)訂正事項1-2に係る訂正について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の発明特定事項であるスプレー本体について、「一つの操作で導管の内孔を開閉可能とする」との発明特定事項を直列的に付加することにより、スプレー本体を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合する。

そして、本件明細書には、
「【0008】
スプレー本体1の握手部2には、炭酸ガス供給用ボンベBに連結された炭酸ガス供給用パイプ9を収納し、その引込口10を導管4に接続している。 また、この握手部2には反転自在に軸11にて支持された操作リバー12が装備されており、リンク13にて上下にスライドして導管4の内孔4aを開閉するシャッター板14に連携している。
このシャッター板14は、化粧水収納カップ5と炭酸ガス供給用パイプ9の引込口10との間に位置し、操作レバー12の引き付けによりリンク13を介して縦溝15を下方向にスライドし、導管4の内孔4aを開く。」、
「【0011】
次に本発明美顔器の使用順序を説明すると、図1に示す如くは顔肌に噴出ノズル8を向けると共に、操作レバー12を引く。
この操作レバー12を引くことによりシャッター板14が降下し、炭酸ガス供給用ボンベBからの炭酸ガスが炭酸ガス供給用パイプ9を通して導管4の内孔4aを直進し、化粧水収納カップ5からの化粧水を誘引して炭酸混合化粧水として噴出ノズル8から一気に噴霧状に顔肌に吹き付ける。勿論、そのガス噴出量、噴出度は噴出調整用摘子16にて適度に調整する。
更に、使用を中止または終了する時は、操作レバー12の引きを解けば、シャッター板14が上昇して導管4の内孔4aを閉塞し炭酸ガス供給を断つこととなる。」
と記載されており、本件明細書には、操作レバー12の引き付けという一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするスプレー本体が記載されている。
よって、訂正事項1-2に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。

(3)訂正事項1-3に係る訂正について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1の発明特定事項である美顔器について、「導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングと、」との発明特定事項を付加することにより、美顔器を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合する。

そして、本件明細書には、
「【0009】・・・
また、導管4の先端噴出ノズル8にはパッキン18にてシールドするカップリング19を螺着する。」
と記載されており、本件明細書には、美顔器が導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングを備えることが記載されている。
よって、訂正事項1-3に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、特許請求の範囲の拡張・変更するものでもない。

(4)一群の請求項についての検討
訂正事項1-1ないし1-3に係る訂正前の請求項1、3?6について、訂正前の請求項3?6は請求項1を直接的に引用するものであるから、請求項1、3?6は特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項1は、一群の請求項である請求項1、3?6について訂正するものであるから、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

(5)独立特許要件について
請求項3ないし6は、本件無効審判の請求がされていないから、訂正後の請求項3ないし6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、訂正後の請求項3ないし6に係る発明の独立特許要件について検討すると、請求項3ないし6に係る発明について、請求人は無効理由を挙げておらず、当審は、これらの発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。また、請求人も、訂正後の請求項3ないし6に係る発明について、独立特許要件を充足しない、との主張はしていない。
よって、訂正後の請求項3ないし6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない、とすることはできない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、同第134条の2第3項の規定、同第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」という。)。
「【請求項1】
所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップと、該化粧水収納カップを装備すると共に、前記化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる一つの導管を内蔵し、且つ該導管の先端に設けられた噴出ノズルを有し、一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするスプレー本体と、更にこの導管内において前記滴下化粧水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベと、この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプと、導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングと、而も前記スプレー本体に備えられた炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子とで成したことを特徴とする美顔器。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人の主張する請求の趣旨は、請求項1に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求めるものである。
また、その請求の要旨は、審判請求書、平成27年2月3日付け口頭審理陳述要領書、平成27年3月13日付け上申書、平成27年4月9日付け上申書、平成27年5月29日付け上申書、平成29年2月3日付け弁駁書、平成29年3月29日付け審尋回答書の記載からみて、以下のとおりである。

(1)本件訂正発明1に対する特許法第29条第2項違反の無効理由
本件訂正発明1は、甲第2号証に記載の発明と、甲第3号証、甲第4号証又は甲第5号証、並びに甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

(2)証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して甲第1号証?甲第6号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して甲第7号証?甲第11の2号証を提出し、平成27年3月13日付け上申書に添付して甲第12号証?甲第19号証を提出し、平成27年4月9日付け上申書に添付して甲第20号証を提出し、弁駁書に添付して甲第21号証?甲第31号証を提出した。
なお、平成27年2月17日の口頭審理において、平成27年2月3日付け陳述要領書における甲第9号証の追加は許可しない決定がされた。

甲第1号証:特許第4277306号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開平1-110304号公報
甲第3号証:実願昭62-164205号(実開平1-69649号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願平2-83536号(実開平4-41746号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開2004-298765号公報
甲第6号証:特開2003-88781号公報
甲第7号証:特許・実用新案審査基準 第III部 第III節 明細書又は図面の補正に関する事例集 限定的減縮の判断に関する事例24、編集 特許庁、発行所 公益社団法人発明協会、発行日 2000年12月
甲第8号証の1:YouTubeの動画(タイトル「エアブラシメイクMagic『かんたん・うす付き・キレイ』HOLLYWOOD」 URL「https://www.youtube.com/watch?v=1zUBh0AHCsg」)、作成者 Hollywood Air TV、アップロード日2009年12月18日
甲第8号証の2:YouTubeの動画(タイトル「エアブラシのダブルアクションを使ってみよう!」 URL「https://www.youtube.com/watch?v=AdId5WStngospfreload=10」、作成者 echiltv(越後谷勇樹)、アップロード日2011年10月21日
甲第10号証:カンペキ塗装ガイド2、006頁、007頁、009頁 発行所 株式会社メディアワークス、発行日 2006年12月15日
甲第11号証の1:air fairyホームページ(URL「http://school.airfairy.jp/products/ctg197.html」、 ダウンロード日 2015年1月19日
甲第11号証の2:air fairyホームページ(URL「http://airfairy.jp/%e3%82%a8%e3%82%a2%e3%83%96%e3%83%a9%e3%82%b7%e6%9c%ac%e4%bd/93/」)、ダウンロード日 2015年1月19日
甲第12号証:特開昭61-260006号公報
甲第13号証:特開昭64-47707号公報
甲第14号証:特開平8-113521号公報
甲第15号証:特開平2001-172118号公報
甲第16号証:特開昭60-88177号公報
甲第17号証:特開2006-81832号公報
甲第18号証:特開平5-261006号公報
甲第19号証:写真報告書 作成者 請求人代理人弁理士 小林徳夫、作成日 平成27年3月10日
甲第20号証:平成26年(ワ)第11110号判決文(平成27年3月25日 東京地方裁判所民事第29部)
甲第21号証:特開昭62-84010号公報
甲第22号証:特開昭62-108805号公報
甲第23号証:特開2003-54662号公報
甲第24号証:特開2003-277218号公報
甲第25号証:特公平3-14284号公報
甲第26号証:特開平11-171755号公報
甲第27号証:特開2003-34612号公報
甲第28号証:特開2005-219758号公報
甲第29号証:特開平11-228334号公報
甲第30号証:特開2005-2046号公報
甲第31号証:平成27年(ネ)第10067号判決文(平成28年9月28日 知的財産高等裁判所第2部)

2 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、口頭審理陳述要領書に添付して乙第1号証?乙第8号証を提出し、平成27年3月13日付け上申書に添付して乙第9号証?乙第19号証の2を提出し、平成29年4月3日付け回答書に添付して乙第20号証?乙第21号証を提出した。

乙第1号証:「スキンケア基本事典」 64、68、69頁、著者 吉木伸子、発行所 株式会社池田書店、発行日 2013年11月20日
乙第2号証:「化粧品科学ガイドブック」 26?28、56、57頁、編集発行 日本化粧品技術者会、発行所 株式会社洋文社、発行日 昭和54年5月26日
乙第3号証:「メークアップ-演劇メークの入門から歌舞伎・現代劇まで-」5、6、9、10、20?23頁、著者 深町稜子、発行所 萌文社、発行日 2004年7月28日
乙第4号証:「歌舞伎の化粧」 30?35、98、108、109頁、編著者 長谷一美、発行所 株式会社雄山閣、発行日 平成26年8月25日
乙第5号証:「Professional Make-up 美容編」 20、22?24頁、企画編集 三善メークアップ研究所、発行所 株式会社三善、発行日 2002年9月
乙第6号証:「美 炭酸ライフを始めよう。」 26、36頁、監修 平石貴久、著者 林毅 他、発行所 株式会社ベースボール・マガジン社、発行日 平成18年7月25日
乙第7号証:「機械設計便覧」新版3版 747?749頁、著者 木内石、発行所 日刊工業新聞社、発行日 昭和53年7月10日
乙第8号証:「塗料と塗装」4版 173頁、著者 児玉正雄 他、発行所 株式会社パワー社、発行日 昭和60年7月30日
乙第9号証:「SHISEIDO PRODUCT CATALOG 2014年度資生堂商品カタログ1社内用」 3、118、119、121頁、発行所 株式会社資生堂、発行日 2014年3月
乙第10号証:「SKIN CARE CATALOGUE SHISEIDO スキンケアカタログ 2015.2.21?」 カタログ(縦25.6cm、横90.4cm、表裏両面)の一部の複写3頁分(複写の各頁は、カタログの隣接する頁の一部を含む。)の最終頁、発行所 株式会社資生堂
乙第11号証:「TOTAL BEAUTY MAXFACTOR 2014 Edition」 1、2、17、25頁、発行所 P&Gマックスファクター合同会社
乙第12号証:「化粧品と美容の用語事典」 522頁、著者 竹村功、発行所 (有)あむすく、発行日 2005年3月3日
乙第13号証:「化粧品事典」 663、664頁、編者 日本化粧品技術者会、発行所 丸善株式会社、発行日 平成15年12月15日
乙第14号証:「メークアップの基本と実際」 目次の一部頁、39、45、46頁、著者 ビンセント J-R キーホー、訳者 木畠通代、編集 野口忠夫、発行所 広放図書、発行日 1971年6月30日
乙第15号証:「スキンケアとメイクの教科書」 36、37、52?56頁、著者 室岡洋希、発行所 株式会社新星出版社、発行日 2012年3月25日
乙第16号証の1:商品A?Eの写真
商品A:資生堂パウダーパフ、パウダー用パフ(ポリエステル) 「パウダーパフ123」、
商品B:資生堂パウダーパフ(コットン毛)、パウダー用パフ(コットン) 「パウダーパフ122」、
商品C:資生堂スポンジパフソフト(両用・パウダリー兼用)パウダリータイプ用 「スポンジパフソフト114」、
商品D:株式会社コーセー化粧用コットン「PURE&SOFT COTTON ピュア&ソフト コットン」
商品E:資生堂 「お手入れコットン SHISEIDO」
乙第16号証の2:商品Aの正面の複写
乙第16号証の3:商品Aの背面の複写
乙第16号証の4:商品Bの正面の複写
乙第16号証の5:商品Bの背面の複写
乙第16号証の6:商品Cの正面の複写
乙第16号証の7:商品Cの背面の複写
乙第16号証の8:商品Dの平面の複写
乙第16号証の9:商品Dの底面の複写
乙第16号証の10:商品Dの左側面の複写
乙第16号証の11:商品Eの平面の複写
乙第16号証の12:商品Eの底面の複写
乙第16号証の13:商品Eの左側面の複写
乙第17号証:「三善 プロ用化粧品 2014年4月現在」カタログ カタログの一部の複写6頁分、複写の各頁は、カタログの隣接する頁の一部を含む。発行所 株式会社 三善
乙第18号証の1: 商品1(水おしろい「リキッドメークアップミニホワイト(おしろい)100mL」株式会社三善製)の外観を示す正面の写真
乙第18号証の2:商品1の外観を示す背面の写真
乙第19号証の1: 商品2(顔用「ユウキ化粧水PG-F〈化粧水〉100mL」株式会社遊気創健美倶楽部製)の外観を示す正面の写真
乙第19号証の2:商品2の外観を示す背面の写真
乙第20号証:「広辞苑」 第4版 855、1301、1756頁、編者 新村出、発行所 株式会社岩波書店、発行日 1991年11月15日
乙第21号証:「機械工学辞典」 9頁、編集者 越後亮三 他、発行所 株式会社朝倉書店、発行日 1993年6月1日

第5 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(1)甲第2号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(甲2-1)「〈産業上の利用分野〉
本発明は、化粧料を噴霧して吹き付ける方法に関する。」(第1頁左欄第12-14行)
(甲2-2)「〈従来の技術〉
化粧料の噴霧吹付については、頭髪用化粧料を噴霧して吹き付けるエアゾル式噴霧缶と、香水を噴霧して吹き付けるポンプ式噴霧器が知られている。
皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料は、パフ、ブラシ、筆等の化粧道具を用いて塗布している。
役者やモデル等の化粧姿を見せる職業人に皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料を塗布する場合にも、パフ、ブラシ、筆等の化粧道具を用いている。
皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料を噴霧して吹き付けることは行なわれていないようである。」(第1頁左欄第18行-右欄第12行)
(甲2-3)「ところが、化粧料の塗布にパフ、ブラシ、筆等の化粧道具を用いると、皮膚を摩擦して刺激を与え、また、化粧道具が皮膚と化粧料を往復することによって化粧料に雑菌が付着することがある。」(第1頁右欄第14-17行)
(甲2-4)「本発明者は、上記の問題点を解決するために、化粧料を、手作業によって塗布する代りに、工業的に吹き付けることに気が付き、塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。
即ち、本発明は、高圧気体源に弁を介して接続した気体噴射口と、化粧料容器に弁を介して接続した化粧料噴射口とを近接して配置し、気体噴射口から気体を噴射することによって化粧料噴射口から化粧料を噴霧して吹き付けることを特徴とする化粧料の吹付方法である。」(第2頁右上欄第1-11行)
(甲2-5)「本発明の化粧料の吹付方法においては、化粧料を噴霧して吹き付けるので、パフ、ブラシ、筆等の化粧道具を必要としない。
従って、化粧道具を用いる従来の方法とは異なり、皮膚を摩擦して刺激を与えることがなく、また、化粧料に雑菌が付着することがない。」(第2頁右上欄第13-18行)
(甲2-6)「また、エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いる方法とは異なり、化粧料容器に吹付途中で化粧料を追加することができるので、化粧料を長期間吹き付けることができる。」(第2頁左下欄第8-11行)
(甲2-7)「吹付器1は、図面に示すように、棒状の器体2の前部の軸芯位置に化粧料通路3を穿設し、化粧料通路3の前端を器体2の前端面に開口して化粧料噴射口4に形成し、化粧料通路3の基端側に化粧料供給口5を器体2の外周面に開口して設けている。
化粧料通路3には、図面に示すように、ニードル弁の針軸6を挿入し、針軸6の先細状前端部を化粧料噴射口4から突出し、針軸6の後端の大径筒部7を器体2の筒状中央部に摺嵌し、器体2の筒状中央部に、針軸6の大径筒部7を前方に押圧する螺旋ばね8を設け、螺旋ばね8に抗して針軸6を後退させると、化粧料噴射口4が開口し、更に針軸6を後退させるに従って、化粧料噴射口4の開口面積が増大する構成にしている。
器体2の後端には、図面に示すように、調整軸9を螺合して貫通し、調整軸9の前端部を針軸6の大径筒部7に摺嵌し、針軸6の後退によって針軸6の大径筒部7の底が調整軸9の前端に当接可能にして、前後動可能な調整軸9の前端の位置によって針軸6の後退量を調整可能に、従って、化粧料噴射口4の開口面積を調整可能に構成している。
即ち、化粧料通路3の化粧料噴射口4と化粧料供給口5の間には、化粧料の噴霧量を調整するニードル弁の調整弁6を設けている。
器体2の化粧料通路3に近接した位置には図面に示すように、気体通路10を穿設し、気体通路10の前端を器体2の前端面の化粧料噴射口4の回りに円環状に開口して気体噴射口11に形成し、気体通路10の基端を、器体2の中央部下側に突設した軸部12の下端に開口して、気体供給口13に形成している。
器体2の軸部12内の気体通路10には、図面に示すように、弁軸14を挿入し、弁軸14の下端の円錐台状の弁板部を気体通路10の弁座部に嵌合し、気体通路10内に弁軸14の弁板部を気体通路10の弁座部に押圧する螺旋ばね15を設け、螺旋ばね15に抗して弁軸14を下降させると、気体通路10の弁座部が開口する構成にしている。」(第2頁右下欄第7行-第3頁右上欄第7行)
(甲2-8)「器体2の筒状中央部には、図面に示すように、弁軸14の上端を針軸6の大径筒部7の前側位置に突出して配置し、弁軸14の突出上端に操作杆16の下端を枢着して、操作杆16の上端を器体2の筒状中央部の上側に突出し、操作杆16を弁軸14の軸芯方向に昇降可能に、かつ、前後方向に回動可能に設け、操作杆16と針軸6の大径筒部7の間に湾曲した板ばね17を介在して、操作杆16の後方への回動によって針軸6を後退させる構成にしている。」(第3頁右上欄第11-20行)
(甲2-9)「即ち、操作杆16を下降させると、気体通路10の開閉弁14が開放し、操作杆16を後方へ回動させると、化粧料通路3の調整弁6が開放する構成にしている。」(第3頁左下欄第1-4行)
(甲2-10)「吹付器1の化粧料供給口5には、図面に示すように、液状の化粧料を入れる化粧料容器18を接続し、また、吹付器1の気体供給口13に、空気圧縮機、空気ボンベ、炭酸ガスボンベ、窒素ガスボンベ等の高圧気体源19を接続している。」(第3頁左下欄第5-9行)
(甲2-11)「この化粧料の吹付装置を用いて本例の化粧料の吹付方法を実施する場合、化粧料容器18に所望の液状化粧料を入れ、吹付器1の操作杆16を下降させる。
すると、操作杆16の下降によって気体通路10の開閉弁14が開放し、高圧気体源19から気体通路10の気体供給口13に供給された高圧気体が開放中の開閉弁14を経て気体通路13を流通して気体噴射口11から噴射する。
気体噴射口11から気体が噴射すると、気体噴射口11に近接して配置された化粧料噴射口4の付近が負圧になり、化粧料通路3の調整弁6が開放すると化粧料噴射口4から化粧料が吸い出される状態になる。
次に、吹付器1の前端を被化粧者に向けて配置し、操作杆16を下降させたままの状態で後方へ回動する。
すると、操作杆16の後方への回動によって化粧料通路3の調整弁6が開放し、化粧料容器18の化粧料が化粧料供給口5を経て化粧料通路3に流入し、その流入化粧料が開放中の調整弁6を経て化粧料噴射口4から噴霧されて被化粧者の皮膚に吹き付けられる。
化粧料噴射口4から噴霧される化粧料の流量を調整する場合は、調整軸9を前後動させて調整軸9の前端の位置を調整し、操作杆16を後方へ回動させたときの針軸6の後退量を調整して、化粧料噴射口4の開口面積を調整する。
化粧料の吹付によって化粧料容器18の化粧料が少なくなれば、吹付後又は吹付途中に、化粧料容器18に化粧料を追加する。」(第3頁左下欄第10行-右下欄第20行)
(甲2-12)「図面の簡単な説明
図面は本発明の実施例の化粧料の吹付方法に用いる化粧料の吹付装置の縦断面図である。」(第4頁第10-12行)

(甲2-13)摘記事項(甲2-7)の「化粧料通路3には、図面に示すように、ニードル弁の針軸6を挿入し、針軸6の先細状前端部を化粧料噴射口4から突出し、針軸6の後端の大径筒部7を器体2の筒状中央部に摺嵌し、器体2の筒状中央部に、針軸6の大径筒部7を前方に押圧する螺旋ばね8を設け、螺旋ばね8に抗して針軸6を後退させると、化粧料噴射口4が開口し、更に針軸6を後退させるに従って、化粧料噴射口4の開口面積が増大する構成にしている。」、「即ち、化粧料通路3の化粧料噴射口4と化粧料供給口5の間には、化粧料の噴霧量を調整するニードル弁の調整弁6を設けている。」との記載、及び摘記事項(甲2-8)の「器体2の筒状中央部には、図面に示すように、弁軸14の上端を針軸6の大径筒部7の前側位置に突出して配置し、・・・、操作杆16を・・・、かつ、前後方向に回動可能に設け、操作杆16と針軸6の大径筒部7の間に湾曲した板ばね17を介在して、操作杆16の後方への回動によって針軸6を後退させる構成にしている。」との記載から、化粧料通路3の化粧料噴射口4は、操作杆16の前後方向への回動により針軸6が前後に移動することによって開閉されるものといえる。
また、摘記事項(2-7)の「器体2の軸部12内の気体通路10には、図面に示すように、弁軸14を挿入し、弁軸14の下端の円錐台状の弁板部を気体通路10の弁座部に嵌合し、気体通路10内に弁軸14の弁板部を気体通路10の弁座部に押圧する螺旋ばね15を設け、螺旋ばね15に抗して弁軸14を下降させると、気体通路10の弁座部が開口する構成にしている。」との記載、及び摘記事項(2-8)の「器体2の筒状中央部には、図面に示すように、弁軸14の上端を針軸6の大径筒部7の前側位置に突出して配置し、弁軸14の突出上端に操作杆16の下端を枢着して、操作杆16の上端を器体2の筒状中央部の上側に突出し、操作杆16を弁軸14の軸芯方向に昇降可能に、かつ、・・・構成にしている。」との記載から、気体通路10は操作杆16の弁軸14の軸心方向の昇降により弁座部が開閉することにより開閉されるものといえる。
したがって、吹付器1は、操作杆16の前後方向への回動と弁軸14の軸心方向の昇降により、化粧料通路3と気体通路10をそれぞれ開閉可能であるといえる。
(甲2-14)摘記事項(2-7)の「化粧料通路3の前端を器体2の前端面に開口して化粧料噴射口4に形成し、」、「気体通路10の前端を器体2の前端面の化粧料噴射口4の回りに円環状に開口して気体噴射口11に形成し、気体通路10の基端を、器体2の中央部下側に突設した軸部12の下端に開口して、気体供給口13に形成している。」との記載、摘記事項(2-10)の「吹付器1の気体供給口13に、・・・、炭酸ガスボンベ、・・・等の高圧気体源19を接続している。」との記載、及び摘記事項(2-11)の「すると、操作杆16の下降によって気体通路10の開閉弁14が開放し、高圧気体源19から気体通路10の気体供給口13に供給された高圧気体が開放中の開閉弁14を経て気体通路13を流通して気体噴射口11から噴射する。
気体噴射口11から気体が噴射すると、気体噴射口11に近接して配置された化粧料噴射口4の付近が負圧になり、化粧料通路3の調整弁6が開放すると化粧料噴射口4から化粧料が吸い出される状態になる。・・・、操作杆16の後方への回動によって化粧料通路3の調整弁6が開放し、化粧料容器18の化粧料が化粧料供給口5を経て化粧料通路3に流入し、その流入化粧料が開放中の調整弁6を経て化粧料噴射口4から噴霧されて被化粧者の皮膚に吹き付けられる。」との記載から、炭酸ガスボンベは、気体通路10の先端に設けられた気体噴射口11から炭酸ガスを噴射することにより、化粧料通路3の先端に設けられた化粧料噴射口4から化粧料を吸い出すとともに噴霧させるといえる。

上記摘記事項(甲2-1)?(甲2-12)及び上記認定事項(甲2-13)、(甲2-14)を図面を参照しつつ技術常識をふまえて整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されている。

「所定量の基礎化粧料を収納する化粧料容器18と、該化粧料容器18を接続すると共に、前記化粧料容器18から流入する基礎化粧料が化粧料通路3を介して吸い出される化粧料噴射口4の周りに開口する気体噴射口11を有する気体通路10を内蔵し、前記化粧料通路3と前記気体通路10をそれぞれ開閉可能とする吹付器1と、更に該気体通路10の先端に設けられた気体噴射口11から炭酸ガスを噴射することにより該化粧料通路3の先端に設けられた化粧料噴射口4から前記基礎化粧料を吸い出すとともに噴霧させる炭酸ガスボンベと、この炭酸ガスボンベと前記吹付器1内の気体通路10とを接続する手段と、而も前記吹付器1に備えられた基礎化粧料の噴出量を調整する調整軸9とで成した基礎化粧料の吹付装置。」 (以下、「甲2発明」という。)

(2)甲第3号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(甲3-1)「〔技術分野〕
この考案は、水性塗料用スプレー塗装装置に関するものである。」(第1頁第15-17行)
(甲3-2)「第1図はその一実施例の概要を示す。すなわち、この実施例のスプレー塗装装置は、スプレーガン5を備えていて、そのヘッド8には、加圧塗料タンク1から塗料ホース1bを通して水性塗料1aが供給され、空気圧縮機2から、エアホース10a、10bを介し、エアトランスホーマ3と水分供給手段4を経て圧縮空気が圧送され、前記ヘッド8で両者を混合噴霧化して、被塗物に吹付け塗装するようになっている。」(第3頁第9-17行)
(甲3-3)「スプレーガン5は、圧送された加圧塗料と圧縮空気を混合噴出する形式、通称エアコンビ方式の圧送形スプレーガンである。すなわち、第2図および第3図に拡大してみるように、引金6が図の右方向に引かれると、エアバルブ7aに連結している棒状のバルブステム7bが押圧されてエアバルブ7aが開き、圧縮空気がスプレーガン5の内部に導入される。スプレーガン5の内部には、圧縮空気の導入口であるエアニップル7cからヘッド8のエア吐出口であるエアオリフィス8bに至るエアの通路5aが形成されている。7dはエアオリフィス8bから流出するエアの量を調節するエア調節部であり、エア調節ねじ7eを弛めると吐出エア量が増し、逆に締め付けると最小零まで吐出エア量が減るようになっており、吐出エア量を零の状態にするとエアレススプレーガンとして使用することができるものである。 9は塗料ノズル8cの弁としての働きをする塗料ニードルで、先端が針状になっていて、図において最左端にあるとき先端が塗料ノズル8cの内壁面に密着するようになっており、水性塗料の通路5bを閉じるようになっている。前記引金6はこの塗料ニードル9にも連結しているので、引金6が図において右に引かれると、引金6の動きにつれて塗料ニードル9は同じく右方向に移動し、その先端が塗料ノズル8cから離れてこれを開口し、加圧塗料タンク1内の圧力で圧送された水性塗料1aが塗料の吐出口である塗料オリフィス8aに噴流するようになっている。」(第5頁第12行-第6頁第20行)
(甲3-4)「第4図は、この考案にかかる水性塗料用スプレー塗装装置の別の実施例の要部を示している。すなわち、この実施例は、塗料ノズル内で塗料と圧縮空気が混合される、内部混合形式のスプレーガンを使用したものである。そのヘッド15は、中央に塗料オリフィス15aである孔が、塗料オリフィス15aの周囲にエアオリフィス15bである孔が、それぞれ設けられたものであり、塗料ニードル16が右方向に引かれると、塗料ニードル16の針状の先端は塗料ノズル15cの内壁から離れてこれを開口しつつ、塗料ニードル16の移動にともないエアバルブが開けられて、圧縮空気が通路13aに導入されるようになっている。エアの通路13aは、塗料ノズル15c付近で塗料の通路13bと一体になっており、エアが塗料ノズル15cへ噴流する際に、同通路13bへ塗料11aを吸い上げ、混合するようになっている。
この構成において、上記塗料ノズル15cを通過する塗料11aとエアの激しい混合噴流は、塗料オリフィス15aから吐出され、さらに、水分供給手段12によって水分を付与されたのちエアオリフィス15bから噴出するエアと衝突して噴霧化されるようになっている。」(第11頁第15行-第12頁第17行)
(甲3-5)第4図には、ヘッド15の中央に開口する塗料オリフィス15aに至るエアの通路13aには、塗料ニードル16が挿入されているとともに、塗料の通路13bが接続されていることが図示されている。

(甲3-6)摘記事項(甲3-4)「第4図は、この考案にかかる水性塗料用スプレー塗装装置の別の実施例の要部を示している。すなわち、この実施例は、塗料ノズル内で塗料と圧縮空気が混合される、内部混合形式のスプレーガンを使用したものである。」との記載によれば、第4図に図示されたものは、内部混合形式のスプレーガンの要部であることが理解できる。そして、当該スプレーガンは、そのエアの通路13aに圧縮空気を導入するための導入口を備えることは、自明である。
これらをふまえ、同(甲3-4)「エアの通路13aは、塗料ノズル15c付近で塗料の通路13bと一体になっており、エアが塗料ノズル15cへ噴流する際に、同通路13bへ塗料11aを吸い上げ、混合するようになっている。
この構成において、上記塗料ノズル15cを通過する塗料11aとエアの激しい混合噴流は、塗料オリフィス15aから吐出され」との記載及び図示事項(甲3-5)を整理すると、エアの通路13aは、スプレーガンの圧縮空気の導入口から、塗料の通路13bとの接続点を介し、塗料オリフィス15aに至るものであることが理解できる。
そして、このエアの通路13aの構成を前提として、摘記事項(甲3-4)における「エアが塗料ノズル15cへ噴流する際に、同通路13bへ塗料11aを吸い上げ、混合する」との記載をみれば、空気圧縮機2から圧縮空気がエアの通路13aに導入されることにより生じた負圧により、塗料11aは塗料の通路13bに吸い上げられるとともに、エアの通路13aと塗料の通路13bとの接続点を経て、エアの通路13aに引き込まれ、一つのエアの通路13a内において圧縮空気と混合することは技術的に明らかである。

してみると、上記摘記事項(甲3-1)?(甲3-4)及び図示事項(甲3-5)並びに認定事項(甲3-6)を技術常識をふまえて整理すると、甲第3号証には、以下の事項が記載されているということができる。

「水性塗料用スプレー塗装装置の塗料ノズル内で塗料と圧縮空気が混合する内部混合形式のスプレーガンにおいて、該スプレーガンは圧縮空気の導入口から、塗料の通路13bとの接続点を介し、塗料オリフィス15aに至る一つのエアの通路13aを備え、空気圧縮機2から圧縮空気が該エアの通路13aに導入されることにより生じた負圧により塗料11aを吸い上げ、エアの通路13a内において塗料11aと圧縮空気とを混合して、塗料オリフィス15aから吐出すること。」(以下、「甲3事項A」という。)

また、上記摘記事項(甲3-3)「7dはエアオリフィス8bから流出するエアの量を調節するエア調節部であり、エア調節ねじ7eを弛めると吐出エア量が増し、逆に締め付けると最小零まで吐出エア量が減る」との記載からみて、甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

「スプレーガン5に備えられたエア調節ねじ7eにより、エアオリフィス8bから流出するエアの量を調節すること。」(以下、「甲3事項B」という。)

(3)甲第4号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(甲4-1)「〔産業上の利用分野〕
この考案は、消臭除菌剤や殺虫剤等の薬剤や化粧料等を、随時、簡単にスプレーすることのできる携帯用スプレー装置に関するものである。」(第2頁第1-4行)
(甲4-2)「すなわち、この考案は、液体の吸入方法としていわゆるインジエクタ方式を採用したもので、・・・、上記ガスボンベに取り付けられた開閉弁を開くだけで、小型ボトル容器内の液体を、小型ガスボンベから噴射する不燃性ガスによつて吸入してノズル先端から吐出できるようになつている。」(第4頁第12-19行)
(甲4-3)「第1図はこの考案の一実施例の縦断面図を示し、第2図は外観斜視図を示している。これらの図において、1はスプレー液を収容する小型のボトル容器で、その広口の口部2に、ねじ結合により蓋体3が着脱自在に取り付けられている。この蓋体3には、液体吸入パイプ4が挿通されており、その下端部4aが上記ボトル容器1の底部近傍まで垂下している。また、上記液体吸入パイプ4の上端部には、吸入室5が配設されていて、その内部と液体吸入パイプ4の内部とが連通されている。そして、この吸入室5の向かつて左側の端面には吸入室5の内部に連通するスプレー配管6が延びており、その先端に、スプレーノズル7が着脱自在に取り付けられている。一方、8は不燃性圧縮空気が充填された小型のガスボンベで、その口部8aに、着脱自在に開閉弁9が取り付けられている。そして、この開閉弁9から圧縮空気供給配管10が延びており、その先端が上記吸入室5内に挿入されている。
上記吸入室5内では、第3図に示すように、上記圧縮空気供給配管10の先端部10aと、スプレー配管6とが、テーパ状の混合管11を介して対峙されており、いわゆるインジエクタを構成している。なお、上記圧縮空気供給配管10の先端部10aは先すぼまりのテーパ状で、その内側にニードル弁12が取り付けられている。12aはニードル弁12を進退自在に支受するガイドブロツクである。」(第5頁第8行-第6頁第15行)
(甲4-4)「そして、上記カバー13の一方の側面の外側には、スプレーノズル7が突き出しており、また反対側の側面の外側には、上記ニードル弁12を進退させて上記圧縮空気供給配管10から吸入室5内への圧縮空気噴射圧を調節する調節ねじ16と、ガスボンベ8に取り付けられた開閉弁9の開閉コツク17が突き出している。」(第7頁第3-9行)
(甲4-5)「そして、上記外側の開閉コツク17を開いて圧縮空気供給配管10から吸入室5内に圧縮空気を導入することによつて、容器ボトル1内の液体を、液体吸入パイプ4から吸い上げてスプレーノズル7から噴射させることができる。」(第7頁第14-19行)
(甲4-6) 第1図から、ガスボンベの口部8aから開閉弁9、圧縮空気供給配管10、吸入室5、スプレー配管6を介してスプレーノズル7までが管路として連結されていることが見てとれる。

(甲4-7)摘記事項(甲4-3)「上記液体吸入パイプ4の上端部には、吸入室5が配設されていて、その内部と液体吸入パイプ4の内部とが連通されている。そして、この吸入室5の向かつて左側の端面には吸入室5の内部に連通するスプレー配管6が延びており、その先端に、スプレーノズル7が着脱自在に取り付けられている。一方、8は不燃性圧縮空気が充填された小型のガスボンベで、その口部8aに、着脱自在に開閉弁9が取り付けられている。そして、この開閉弁9から圧縮空気供給配管10が延びており、その先端が上記吸入室5内に挿入されている。」、同(甲4-4)及び(甲4-5)並びに図示事項(甲4-6)とを圧縮空気が導入される管路の構成に着目して整理すると、圧縮空気が導入される管路は、ガスボンベの口部8aから、液体吸入パイプ4と連通された吸入室5を介し、スプレーノズル7に至るものであることが理解できる。
(甲4-8)摘記事項(甲4-3)「上記吸入室5内では、第3図に示すように、上記圧縮空気供給配管10の先端部10aと、スプレー配管6とが、テーパ状の混合管11を介して対峙されており、いわゆるインジエクタを構成している。」及び摘記事項(甲4-5)を技術常識をふまえて整理すると、携帯用スプレー装置は、ガスボンベから圧縮空気が管路内に導入されることにより生じた負圧により液体を吸い上げ、管路の一部である吸入室内において液体と圧縮空気を混合して、スプレーノズル7から噴射させるものということができる。

上記摘記事項(甲4-1)?(甲4-5)及び図示事項(甲4-6)並びに認定事項(甲4-7)、(甲4-8)を技術常識をふまえて整理すると、甲第4号証には、次の事項が記載されている。

「携帯用スプレー装置において、ガスボンベの口部8aから、液体吸入パイプ4と連通された吸入室5を介し、スプレーノズル7に至る一つの管路を備え、ガスボンベから炭酸ガスが該管路内に導入されることにより生じた負圧により液体を吸い上げ、管路内において液体と圧縮空気を混合して、スプレーノズル7から噴射すること。」(以下、「甲4事項A」という。)

さらに、上記摘記事項(甲4-4)から、甲第4号証には、次の事項が記載されていることが理解できる。

「携帯用スプレー装置に設けられたニードル弁調節ねじ16により、圧縮空気噴射圧を調節すること。」(以下、「甲4事項B」という。)

(4)甲第5号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(甲5-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、気液混合装置に関し、詳しくは、電気電子等の精密部品の微細洗浄、製鉄工程における鋳片の冷却、製品への塗料の塗布等に好適に用いられる二流体ノズルの流体供給部に設けられ、供給する液体量を減少させても気体が液体供給路に逆流しないようにしているものである。」
(甲5-2)「【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は第1実施形態を示し、該第1実施形態では、二流体ノズルのアダプタ11と15からなる気液混合装置10を設け、アダプタ11の先端にノズル本体12を連結している。
【0016】
アダプタ11には軸線に沿って主流路13を貫通し、該主流路13の基端は大径の気体供給管連結部13aとしている。その内周面にネジを刻設し、気体供給管14とネジ締めで連結する構成としている。
主流路13は、気体供給管連結部13aに続いて、小径流路からなるオリフィス13bを設け、該オリフィス13bの下流に大径化した気液混合部13cを設け、該気液混合部13cより先端にかけて同径の気液混合流路13dとしている。
【0017】
アダプタ11には気液混合部13cの周壁に、主流路13と直交方向に穴11aを外周面にかけて貫通して穿設し、該穴11aを主流路13に開口する小径穴と大径穴から構成し、大径穴に液体供給用のアダプタ15を螺合していると共に、小径穴を後述する液体供給路の第1オリフィスとしている。」(甲5-3) 「【0019】
上記のように、気体が軸線方向から流入される気液混合部13cに対して軸線方向と直交方向に、液体供給管連結部15a、第2オリフィス15b、拡径流路15c、第1オリフィス15dからなる液体流路16を設け、該液体流路16を通して気液混合部13cに液体を吐出し、気体に側面衝突で混合させている。」
(甲5-4)「【0021】
上記アダプタ11の先端側の外周面にネジ11bを設けると共に、該アダプタ11の先端に接合するノズル本体12の基端側外周面にフランジ12aを設け、止め具16のネジ16aをネジ11bに螺合して、アダプタ11の先端にノズル本体12をはさみ込んで固定している。該ノズル本体12にはアダプタ11の主流路13と連通する気液混合流路12bを設け、該気液混合流路12bの先端を縮径して噴射口12cを設けている。」

(甲5-5)摘記事項(甲5-2)?(甲5-4)を、【図1】を参照しつつ技術常識を踏まえて、気体が供給される管路の構成に着目して整理すると、気体が供給される管路は、気体供給管連結部13aからオリフィス13b、軸線方向と直交する方向に設けられた流体通路16を備えた気液混合部13cを介し、気液混合流路13d、ノズル本体12に至るものであることが理解できる。そして、この気体が供給される管路の構成及び気体は気体供給源から供給されることは自明であることをふまえ、上記摘記事項(甲5-3)「気体が軸線方向から流入される気液混合部13cに対して軸線方向と直交方向に・・・液体流路16を設け、該液体流路16を通して気液混合部13cに液体を吐出し、気体に側面衝突で混合させている。」との記載をみれば、気体供給源から気体が気体供給管連結部13aに供給され、オリフィス13bを通過することにより生じた負圧により、液体は液体流路16を通して気液混合部13cに吐出され、気体が供給される管路の一部である気液混合部13c及び気液混合流路13d内において気体と混合されることは、技術的に明らかである。

上記摘記事項(甲5-1)?(甲5-4)及び認定事項(甲5-5)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲第5号証には、次の事項が記載されている。

「塗料の塗布等に用いられる気液混合装置10において、気体供給管連結部13aから、軸線方向と直交する方向に設けられた流体通路16を備えた気液混合部13cを介し、ノズル本体12に至る気体が供給される一つの管路を備え、気体供給源から気体を気体が供給される管路に供給することにより生じた負圧により、液体は液体流路16を通して気液混合部13cに吐出し、気体が供給される管路内において液体と気体とを混合して、ノズル本体12から噴射すること。」(以下、「甲5事項A」という。)

さらに、上記摘記事項(甲5-1)、(甲5-2)、(甲5-4)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲第5号証には、次の事項が記載されている。

「塗料の塗布等に用いられる気液混合装置において、気液混合装置の先端にノズル本体12を螺着する止め具16を設けたこと。」(以下、「甲5事項B」という。)

(5)甲第6号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(甲6-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗料カートリッジ内に収容される塗料を流体スプレーから噴出するエアやガス等の流体を用いて噴射する塗装スプレー装置に関する。」
(甲6-2)「【0012】塗装スプレー装置1は、塗料カートリッジ2と、該塗料カートリッジ2にスライド可能に組み合わせされる流体スプレー3とを備えており、流体スプレー3には、別途のエアコンプレッサやガスボンベ等の流体供給源(図示せず)につながるホース4が接続されている。」
(甲6-3)「【0020】前記スプレー本体10は、中間部を交差するホルダ10aに操作ボタン14を配置し、先端側に先細りの流体噴き出しノズル15を備えるとともに、流量調整ロッド16に付設の操作ダイヤル16aを後端部に突出させている。ホルダ10aの下部には小径のホース接続管10bが垂設されており、該接続管10bに前述のホース4が接続されている。」
(甲6-4)「【0030】また、操作ボタン14の操作板14bを押し下げると、操作ボタン14の全体が下降して弾性弁体18が弁座19から離間し、スプレー本体10とホルダ10aの流体通路20a,20bとが連通して、流体供給源からの流体がスプレー本体10の流体通路20aへ流入する。流体通路20aへ流入した流体は、ニードル16dの先端及び流体噴出孔21の後端に設定したテーパ面16e,21aの間隙Cを通って流体噴出孔21に入り、流体噴き出しノズル15の先端15aから噴出する。」

上記摘記事項(甲6-1)?(甲6-4)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲第6号証には、次の事項が記載されている。

「塗料カートリッジ内に収容される塗料を流体スプレーから噴出するガス等の流体を用いて噴射する塗料スプレー装置において、ガスボンベと塗装スプレー装置1内の流体流路20a、20bとを接続するホース4を備えたこと。」(以下、「甲6事項」という。)

2 対比
本件訂正発明1(以下、「前者」という。)と甲2発明(以下、「後者」という。)とを対比する。
技術常識を踏まえつつ、両者の構成部材の構造及び機能からみて、後者の「吹付器1」は前者の「スプレー本体」に相当し、同様に後者の「炭酸ガスボンベ」は前者の「炭酸ガス供給用ボンベ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「容器18」は前者の「収納カップ」に相当するとともに、基礎化粧料とは、一般的にメイクアップ化粧料に対して、皮膚を健やかに保ち肌質自体を整えることを目的とする化粧料を指し、請求人の提出した甲第12号証ないし甲第15号証等にも記載されているように、化粧水を含むものであることは明らかであるから、後者の「所定量の基礎化粧料を収納する化粧料容器18」は、前者の「所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップ」に相当する。
また、後者の「化粧料通路3」と「気体通路10」は前者の「導管」と、「管路」という限りで一致するから、後者の「化粧料容器18から流入する基礎化粧料が化粧料通路3を介して吸い出される化粧料噴射口4の周りに開口する気体噴射口11を有する気体通路10」は、前者の「化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる一つの導管」と、「化粧水収納カップから供給された化粧水が流入する管路」という限りで一致する。
また、後者の「気体通路10の先端に設けられた気体噴射口11から炭酸ガスを噴射することにより該化粧料通路3の先端に設けられた化粧料噴射口4から前記基礎化粧料を吸い出すとともに噴霧させる炭酸ガスボンベ」は、前者の「滴下化粧水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベ」と、「化粧水を霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベ」という限りで一致し、同様に後者の「この炭酸ガスボンベと前記吹付器1内の気体通路10とを接続する手段」は、前者の「この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプ」と、「この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の管路とを接続する手段」という限りで一致し、後者の「基礎化粧料の噴出量を調整する調整軸9」は、前者の「炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子」と、「調整用摘子」という限りで一致する。
そして、後者の「基礎化粧料の吹付装置」は、化粧姿を見せることを職業とする人の化粧に用いるものであるから、それらの人の顔の化粧にも使用され、その美観を高めるために用いるものであって、前者の「美顔器」といえる。
してみると、両者は、「所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップと、前記化粧水収納カップから供給された化粧水が流入する管路を内蔵するスプレー本体と、化粧水を霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベと、この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の管路とを接続する手段と、而も前記スプレー本体に備えられた調整用摘子とで成した美顔器。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、スプレー本体が化粧水収納カップを「装備する」のに対し、甲2発明は、吹付器1が化粧料容器18を「装備する」のか不明な点。

(相違点2)
本件訂正発明1は、スプレー本体が、化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる一つの導管を内蔵し、一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするものであるのに対し、甲2発明は、吹付器1が、化粧料容器18から流入する基礎化粧料が化粧料通路3を介して吸い出される化粧料噴射口4の周りに開口する気体噴射口11を有する気体通路10を内蔵し、前記化粧料通路3と前記気体通路10をそれぞれ開閉可能とするものである点。

(相違点3)
本件訂正発明1は、スプレー本体が、導管の先端に設けられた噴出ノズルを有するのに対し、甲2発明は、吹付器1が、そのような構成を有するか明らかでない点。

(相違点4)
本件訂正発明1は、炭酸ガス供給用ボンベが、導管内において滴下化粧水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させるのに対し、甲2発明は、炭酸ガスボンベが、気体通路10の先端に設けられた気体噴出口11から炭酸ガスを噴射することにより化粧料通路3の先端に設けられた化粧料噴射口4から基礎化粧料を吸い出すとともに噴霧させる点。

(相違点5)
本件訂正発明1は、炭酸ガス供給用ボンベとスプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプを有するのに対し、甲2発明は、炭酸ガスボンベと吹付器1内の気体通路10とを接続する手段の構成が不明な点。

(相違点6)
本件訂正発明1は、導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングを有するのに対し、甲2発明は、そのような構成を有さない点。

(相違点7)
本件訂正発明1は、噴出調整用摘子が炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子であるのに対し、甲2発明は、調整軸9が基礎化粧料の噴出量を調整するものである点。

3 判断
(1)相違点2、4、7について
事案に鑑み、相違点2、4、7から検討する。
まず、本件訂正発明1の導管の構成及び炭酸ガスと化粧水とを導管内で混合する点について、甲3事項A、甲4事項A及び甲5事項Aについて検討すると、いずれも、液体と気体とを混合して噴霧するための装置において、気体が導入される一つの管路は、その途中に液体が供給される構成となっており、気体源から該管路に気体が導入されることにより生じた負圧により液体を引き込み、該管路内で液体と気体とを混合して、ノズルから噴霧するものであることが理解できる。そして、甲3?5号証の開示内容をふまえれば、上記の“液体と気体とを混合して噴霧するための装置において、気体が導入される一つの管路は、その途中に液体が供給される構成となっており、気体源から該管路に気体が導入されることにより生じた負圧により液体を引き込み、該管路内で液体と気体とを混合して、ノズルから噴霧すること”は、本件特許の原出願日前に、当該技術分野において周知の技術であるといえる。(以下、「周知技術1」という。)
そして、摘記事項(甲2-11)「・・・化粧料容器18に所望の液状化粧料を入れ、吹付器1の操作杆16を下降させる。・・・高圧気体が開放中の開閉弁14を経て気体通路13を流通して気体噴射口11から噴射する。気体噴射口11から気体が噴射すると、気体噴射口11に近接して配置された化粧料噴射口4の付近が負圧になり、化粧料通路3の調整弁6が開放すると化粧料噴射口4から化粧料が吸い出される状態になる。次に、吹付器1の前端を被化粧者に向けて配置し、操作杆16を下降させたままの状態で後方へ回動する。すると、操作杆16の後方への回動によって化粧料通路3の調整弁6が開放し、化粧料容器18の化粧料が化粧料供給口5を経て化粧料通路3に流入し、その流入化粧料が開放中の調整弁6を経て化粧料噴射口4から噴霧されて被化粧者の皮膚に吹き付けられる。」との記載からみて、甲2発明も液体と気体とを混合して噴霧するための装置において、管路に気体が導入されることにより生じた負圧により液体を吸い出し、液体と気体とを混合して、ノズルから噴霧するものといえる。
してみると、甲2発明において周知技術1を採用することにより、基礎化粧料が引き込まれる一つの気体通路を内蔵し、炭酸ガスボンベが、気体通路内において炭酸ガスと基礎化粧料とを混合して炭酸混合化粧水を気体噴出口から噴霧、すなわち霧状に噴出させるよう構成することは、当業者が容易に想到できたことといえる。

また、本件訂正発明1の化粧水が、化粧水収納カップから滴下されたものである点について、甲第2号証の図面をみても、化粧料容器18を器体2の上方に備えていることからみて、当該化粧料容器18内の基礎化粧料は滴下されたものであるといえるから、実質的な相違点ではない。

さらに、本件訂正発明1のスプレー本体が、一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするものである点について、摘記事項(甲2-7)「・・・器体2の軸部12内の気体通路10には、図面に示すように、弁軸14を挿入し、弁軸14の下端の円錐台状の弁板部を気体通路10の弁座部に嵌合し、気体通路10内に弁軸14の弁板部を気体通路10の弁座部に押圧する螺旋ばね15を設け、螺旋ばね15に抗して弁軸14を下降させると、気体通路10の弁座部が開口する構成にしている。」、摘記事項(甲2-11)「この化粧料の吹付装置を用いて本例の化粧料の吹付方法を実施する場合、化粧料容器18に所望の液状化粧料を入れ、吹付器1の操作杆16を下降させる。すると、操作杆16の下降によって気体通路10の開閉弁14が開放し、高圧気体源19から気体通路10の気体供給口13に供給された高圧気体が開放中の開閉弁14を経て気体通路13を流通して気体噴射口11から噴射する・・・」との記載からみて、甲2発明の吹付器1は、操作杆16の下降という一つの操作でその気体通路10の弁座部が開口する、すなわち気体通路10の内孔を開閉可能としたものといえるから、実質的な相違点ではない。
さらに、本件訂正発明1において、噴出調整用摘子が炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子である点について、上記甲3事項B、甲4事項Bについて検討すると、この種の手で保持して使用するスプレー装置に設けられた調節用ねじは、手で摘むことにより操作することが自然であることをふまえると、いずれもスプレー装置に圧縮ガスの噴出量を調整するための摘みを設けたことということができる。そして、甲第3、4号証の開示内容からみて、上記“スプレー装置に圧縮ガスの噴出量を調整するための摘みを設けたこと”は、本件特許の原出願日前に、当該技術分野において周知の技術であるといえる。(以下、「周知技術2」という。)
そして、甲2発明に周知技術1及び2を適用したものについて、周知技術2の摘みにより炭酸ガスの噴出量を調整すれば、間接的に炭酸ガスと基礎化粧料を混合したものの噴出が調整されることは明らかである。
よって、甲2発明に周知技術1及び2を適用することにより、相違点2、4、7に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点1について
次に相違点1について検討すると、容器に収納される液体を噴霧装置の内部に流入させるための容器と噴霧装置の接続形態として、容器を噴霧装置と一体的に設けて、装備する形態とすることは、美顔器に係る技術分野に限らず広く知られている(例えば甲第10号証を参照。)から、吹付器に化粧料容器を装備することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

被請求人は、「甲2では、化粧料容器18は、長時間の間化粧料を一定に噴霧しつづけることで課題を解決したものであり、長時間の間化粧料を一定に噴霧できるほど大量の化粧料を収納するものであるので、吹付器1とは分離して備えなければ、課題を解決できない。」(平成29年4月3日付け回答書の第31頁第18-21行)とし、それを前提として、相違点1について甲2発明は何も示唆しないと主張している。
しかしながら、甲第2号証には、化粧料容器18が大量の化粧料を収納するような大容量のものであるとの記載はなく、摘記事項(甲2-6)「また、エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いる方法とは異なり、化粧料容器に吹付途中で化粧料を追加することができるので、化粧料を長期間吹き付けることができる。」および摘記事項(甲2-11)「化粧料の吹付によって化粧料容器18の化粧料が少なくなれば、吹付後又は吹付途中に、化粧料容器18に化粧料を追加する。」との記載のとおり、長時間の吹き付けを実現するという課題を解決するための手段として、容器の容量を増加することに限らず、化粧料を追加することも想定していることからみて、甲第2号証の化粧料容器18が手で保持できる程度の小容量の化粧料容器であることも十分想定できる。
そうすると、甲2発明の化粧料容器18は、大量の化粧料を収納するものであるかどうか不明であるのみならず、小容量のものであることも十分想定できるから、被請求人の上記主張はその前提において理由がない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

(3)相違点3及び相違点6について
次に相違点3について検討すると、一般に、「ノズル」とは、「筒状で先端の細孔から流体を噴出する装置」(広辞苑第六版、株式会社岩波書店)を意味することは明らかである。
また、本件明細書には、「【0008】・・・また、導管4の先端には噴出ノズル8が設けられている。」「【0009】・・・また、導管4の先端噴出ノズル8にはパッキン18にてシールドするカップリング19を螺着する。更に、噴出ノズル8には顔肌に添わせる吸引パット20を適宜装着する。勿論、この吸引パット20を使用せずして直接顔肌に噴出ノズル8からの噴霧混合化粧水を吹き付けてもよい。」「【0011】次に本発明美顔器の使用順序を説明すると、図1に示す如くは顔肌に噴出ノズル8を向けると共に、操作レバー12を引く。
この操作レバー12を引くことにより・・・炭酸混合化粧水として噴出ノズル8から一気に噴霧状に顔肌に吹き付ける。」と記載されている。
したがって、本件訂正発明1の相違点3に係る構成の「噴出ノズル」は、当該記載から、噴出ノズルが導管4の先端に存在するものであること、および、噴出ノズルから炭酸混合化粧水が噴霧状に吹き付けられることが理解できる。
一方、甲2発明を見てみると、摘記事項(甲2-7)(甲2-11)および図示内容から、気体通路10の先端の、化粧料噴射口4と気体噴射口11の間の部分は、円環状、すなわち筒状で、先端の細孔から高圧気体と化粧料の混合流を噴霧する。してみると、甲第2号証には「ノズル」について明示的な記載はないが、甲2発明の気体通路10も実質的に本件訂正発明1の噴出ノズルに相当するものを有しているといえる。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。

さらに、相違点6について、甲2発明において、甲5事項Bを採用することにより、管路の先端に設けられた噴出ノズルと、当該噴出ノズルを管路の先端箇所で螺着するカップリングとを有するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

被請求人は、相違点3について「甲2発明の負圧吸引の構成と、甲5発明の加圧水と加圧空気とを強制的に混合する構成とは、相違しているので、甲2発明に甲5発明を組合わせる動機付けがない。」(同回答書の第46頁第6-8行)、相違点6について「甲2発明には、気液混合流体を噴出する噴出ノズルが存在しないので、カップリングは、もともと螺着不可能、不要であり、甲2はカップリングを開示も示唆もしない。」(同回答書の第50頁第11-13行)と主張している。
しかしながら、管路の先端に噴出ノズルを設けることと、液体と気体との混合形式との間には直接的な関連は見出せない。したがって、混合形式が相違していることによって、甲2発明に甲5事項Bを組合わせる動機付けがないとはいえない。また、さきに示したとおり、甲2発明の気体通路10も実質的に本件訂正発明1の噴出ノズルに相当するものを有しているといえるから、相違点6についての被請求人の主張はその前提を欠くものである。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

(4)相違点5について
高圧気体と液体を混合して噴霧する装置において、高圧気体源と噴霧装置の管路を接続する手段として、パイプを用いることは常とう手段(例えば、甲6事項参照。)であって、高圧気体が炭酸ガスであれば、炭酸ガス供給用パイプを採用することは、設計的事項にすぎない。

被請求人は、相違点5について、「甲2発明は、工業的かつ長時間噴出させ得る量の炭酸ガスが充填された炭酸ガスボンベでなければ甲2発明の課題を解決できず、卓上型ガスボンベを示唆せず、炭酸ガスボンベと吹付器1内の気体通路10とを接続する炭酸ガスボンベ接続手段を有する。よって、訂正発明1のような単なるパイプで事足りるのかどうかは不明である。」(同回答書第49頁第12-18行)と主張している。
しかしながら、甲2発明も本件訂正発明1と同様に、基礎化粧料を人の肌に吹き付けることを考慮すると、本件訂正発明1の炭酸ガス供給用パイプと甲2発明の上記炭酸ガスボンベ接続手段を通過する炭酸ガスの流量や圧力に特筆すべき差があるとは認められず、要求される強度も同程度と考えられるから、被請求人の主張はその前提において失当であり、採用することができない。

(5)まとめ
本件訂正発明1が奏する効果は、全体としてみても、甲2発明、甲5事項B、上記周知技術及び上記常とう手段から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別のものとはいえない。
よって、本件訂正発明1は、甲2発明、甲5事項B、上記周知技術及び上記常とう手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1についての本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当するので、無効にすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップと、該化粧水収納カップを装備すると共に、前記化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる一つの導管を内蔵し、且つ該導管の先端に設けられた噴出ノズルを有し、一つの操作で導管の内孔を開閉可能とするスプレー本体と、更にこの導管内において前記滴下化粧水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベと、この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプと、導管の先端箇所で噴出ノズルを螺着するカップリングと、而も前記スプレー本体に備えられた炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子とで成したことを特徴とする美顔器。
【請求項2】
炭酸ガス供給用ボンベを直立収納する筒部と、該炭酸ガス供給用ボンベに連結された炭酸ガス供給用パイプを収納すると共に、化粧水収納カップを備えたボックス部と、前記炭酸ガス供給用パイプを前面から進退自在に引出すと共に、後部の前記炭酸ガス供給用ボンベ及び前記化粧水収納カップを遮蔽する前板とで構成されたデスクトップ器体と、この前板から引出した前記炭酸ガス供給用パイプに接続されたスプレー本体と、更に前記デスクトップ器体に備えられた炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子とで成したことを特徴とする美顔器。
【請求項3】
導管の前方に化粧水収納カップを位置させ、後方端に該導管の内孔を進退自在に移動する様に装備される噴出調整用摘子を位置させ、更に噴出調整用摘子と化粧水収納カップとの間に炭酸ガス供給用パイプの引込口を位置させたことを特徴とする請求項1記載の美顔器。
【請求項4】
化粧水収納カップと炭酸ガス供給用パイプの引込口との間に、操作レバーにて上下にスライドして導管の内孔を開閉するシャッター板を介在させたことを特徴とする請求項1記載の美顔器。
【請求項5】
導管内孔の炭酸ガスが化粧水収納カップ側に流入しないよう、該化粧水収納カップの滴下口に逆止弁を装備したことを特徴とする請求項1記載の美顔器。
【請求項6】
スプレー本体を、握手部とこの握手部に対し直交する筒部とで構成し、この筒部の内部に導管を長手方向に内臓配置すると共に噴出調整用摘子を後端に装備し、更に炭酸ガス供給用ボンベからの炭酸ガス供給用パイプを前記握手部の内部を挿通して前記導管に接続し、且つ前記握手部にシャッター板を上下にスライドする操作レバーを装備したことを特徴とする請求項1記載の美顔器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-11-30 
結審通知日 2017-12-04 
審決日 2017-12-26 
出願番号 特願2007-317681(P2007-317681)
審決分類 P 1 123・ 121- ZAA (A61H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 一郎鈴木 洋昭  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 高木 彰
根本 徳子
登録日 2009-03-19 
登録番号 特許第4277306号(P4277306)
発明の名称 美顔器  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 小林 徳夫  

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