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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する G10K
管理番号 1338442
審判番号 訂正2018-390016  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-01-23 
確定日 2018-03-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5742815号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5742815号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許5742815号は、平成18年11月7日に出願した特願2006-301247号の一部を平成24年10月17日に新たな特許出願とした特願2012-230081号の請求項1ないし10に係る発明について、平成27年5月15日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、平成30年1月23日に本件訂正審判が請求された。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5742815号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、下記訂正事項1ないし3のとおりである。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前期第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、」とあるのを、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、」と訂正する。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前期第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成ステップと、」とあるのを、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成ステップと、」と訂正する。

3 訂正事項3
明細書の段落【0009】に、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前期第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、」とあるのを、
「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、」と訂正する。

第3 当審の判断
1 訂正の目的
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1の「音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前期第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、」という記載(下線は当審で付与した。)においては、「前期第2のノイズ低減信号」という部分においてのみ、ノイズ低減信号に対して「前期」と記載されており、他のノイズ低減信号に対しては、「前期」ではなく「前記」と記載されている。
また、明細書の発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】の欄には、第2のノイズ低減信号を複数の期間に分けることや、その最初の期間の信号を「前期第2のノイズ低減信号」と呼ぶことは、記載も示唆もされていない。
以上の点と、請求項1の記載全体の意味内容とを総合勘案すると、上記「前期第2のノイズ低減信号」という記載は「前記第2のノイズ低減信号」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3についても訂正事項1と同様に、「前期第2のノイズ低減信号」という記載は「前記第2のノイズ低減信号」の誤記であることは明らかであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること
訂正事項1ないし3は、誤記を訂正するものであって、新たな技術事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

3 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1ないし3は、誤記を訂正するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

4 訂正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせない。
よって、訂正事項1ないし3は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7号の規定に適合するものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ノイズキャンセリング装置、ノイズキャンセリング方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、再生された音楽等を聴取するための騒音を低減させるノイズキャンセリング装置、ノイズキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドホンに搭載されているアクティブなノイズキャンセリングシステム(ノイズ低減システム)が存在している。そして、現状実用化されているノイズキャンセリングシステムは、すべてアナログ回路での構成となっており、現行方式としては、大別すると、フィードバック方式とフィードフォワード方式との2つの方式がある。
【0003】
例えば、後に記す特許文献1(特開平3-214892号公報)には、ユーザの耳に装着される音響管1内に設けられるマイクロホンユニット6で収音した音響管内部の騒音を位相反転させて当該マイクロホンユニット6の近傍に設けられるイヤホンユニット3から放音させることにより、外部騒音を低減させるようにする発明が開示されている。
【0004】
また、後に記す特許文献2(特開平3-96199号公報)には、装着時において、ヘッドホン1とユーザの耳道との間に位置する第2のマイクロホン3の出力を用いて、装着時において耳の近傍に設けられる外部騒音を収音する第1のマイクロホン2からヘッドホン1までの伝達特性を、外部騒音が耳道に到達するまでの伝達特性に同定することにより、ヘッドホンの装着の仕方に係わらず、外部騒音を低減できるようにする騒音低減ヘッドホンについての発明が開示されている。
【0005】
なお、上記の特許文献1、特許文献2は、以下の通りである。
【特許文献1】特開平3-214892号公報
【特許文献2】特開平3-96199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムは、ノイズをキャンセルできる帯域(ノイズを低減できる帯域)は狭いが、比較的に大きな低減が可能であるという特徴がある。一方、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムは、ノイズをキャンセルできる帯域は広く、安定性があるものの、ノイズ源との位置関係などにより想定していた伝達関数と合致しない時に、当該周波数においてノイズが増えてしまう可能性があると考えられる。
【0007】
このため、ノイズをキャンセルできる帯域が広く、安定性のあるフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムを用いた場合、ノイズが減っている帯域が広くても、特定の狭い帯域でのノイズが目立ってしまうような場合には、低減効果を聴取者(ユーザ)が感じることができない場合があると考えられる。
【0008】
以上のことに鑑み、この発明は、ノイズをキャンセルできる帯域が広く、かつ、安定してノイズの大きな低減効果を得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明のノイズキャンセリング装置は、ユーザの耳部に装着される筐体の内部に設けられた第1の音声集音手段で収集された当該筐体の内部に漏れ込んでくる第1のノイズ信号が入力され、前記第1のノイズ信号から所定のキャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第1のノイズ低減信号を形成する第1の信号処理手段と、ユーザの耳部に装着される前記筐体の外部に設けられた第2の音声集音手段で収集されたノイズ源からの第2のノイズ信号とが入力され、前記第2のノイズ信号から前記キャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第2のノイズ低減信号を形成する第2の信号処理手段と、音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、前記合成手段で合成された信号を増幅処理する増幅手段と、前記増幅手段からの合成された信号を出力する出力手段とを備える。
【0010】
この請求項1に記載の発明のノイズキャンセリング装置によれば、第1の信号処理手段と、合成手段と、増幅手段と、出力手段とで構成されるフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分と、第2の信号処理手段と、合成手段と、増幅手段と、出力手段とで構成されるフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分との一方又は両方が機能するようにされ、キャンセルポイントにおけるノイズが低減するようにされる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムと、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの一方又は両方を機能させることで、フィードフォワード方式とフィードバック方式のいずれかの特性もしくは両方の特性を生かしたノイズキャンセルを行うことができ、適切なノイズ低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明するための図である。
【図2】フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムについて説明するための図である。
【図3】図1に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの特性を示す計算式を説明するための図である。
【図4】フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおける位相余裕とゲイン余裕について説明するためのボード線図である。
【図5】図2に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの特性を示す計算式を説明するための図である。
【図6】FFフィルタ回路22、FBフィルタ回路12を、デジタルフィルタの構成とした場合の構成例を説明するためのブロック図である。
【図7】フィードフォワード方式の問題点について説明するための図である。
【図8】ノイズキャンセリングシステムの第1の例を説明するためのブロック図である。
【図9】図8に示したFFフィルタ回路22とFBフィルタ回路12を説明するためのブロック図である。
【図10】フィードバック方式とフィードフォワード方式とのそれぞれのノイズキャンセリングシステムの減衰特性の一般的な違いを説明するための図である。
【図11】図8に示した構成を有するツイン方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性について説明するための図である。
【図12】ノイズキャンセリングシステムの第2の例を説明するためのブロック図である。
【図13】ノイズキャンセリングシステムの第3の例を説明するためのブロック図である。
【図14】ノイズキャンセリングシステムの第3の例を説明するためのブロック図である。
【図15】FBフィルタ回路12の構成、特に、ADC121とDAC123との構成について説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しながら、この発明の一実施の形態について説明する。
【0014】
[ノイズキャンセリングシステムについて]
現在、ヘッドホンやイヤホンを対象として外部騒音をアクティブに低減するシステム、所謂ノイズキャンセリングシステムが、普及しはじめている。製品化されているものに関しては、ほとんどがアナログ回路により構成されているものであり、そのノイズキャンセリング手法としては、フィードバック方式とフィードフォワード方式とに大別される。
【0015】
まず、この発明の一実施の形態の具体的な説明をするに先立って、図1?図5を参照しながら、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの構成例と動作原理と、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの構成例と動作原理とについて説明する。
【0016】
なお、図1は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明するための図であり、図2は、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムについて説明するための図である。また、図3は、図1に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの特性を示す計算式を説明するための図であり、図4は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおける位相余裕とゲイン余裕について説明するためのボード線図である。また、図5は、図2に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの特性を示す計算式を説明するための図である。
【0017】
[フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて]
まず、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明する。図1(A)は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムが適用されたヘッドホンシステムが、ユーザヘッド(ユーザ(聴取者)の頭部)HDに装着された場合の右チャンネル側の構成を示しており、図1(B)は、当該フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの全体構成を示している。
【0018】
フィードバック方式は、一般的に図1(A)のようにヘッドホン筐体(ハウジング部)HPの内側にマイクロホン111(以下、マイクと略称する。)があり、当該マイク111で収音した信号(ノイズ信号)の逆相成分(ノイズ低減信号)を戻しサーボ制御することで、外部からヘッドホン筐体HPに入ってきたノイズを減衰させるものである。この場合、マイク111の位置が聴取者の耳位置に相当するキャンセルポイント(制御点)CPとなるため、ノイズ減衰効果を考慮し、通常、聴取者の耳に近い位置、つまりドライバ15の振動板前面にマイク111が置かれることが多い。
【0019】
具体的に、図1(B)のブロック図を参照しながら、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明する。図1(B)に示すフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムは、マイク111とマイクアンプ112からなるマイク及びマイクアンプ部11と、フィードバック制御のために設計されたフィルタ回路(以下、FBフィルタ回路という。)12と、合成部13と、パワーアンプ14と、ドライブ回路151とスピーカ152からなるドライバ15と、イコライザ16とを備えたものである。
【0020】
図1(B)において、各ブロック内に記載された文字A、D、M、-βは、パワーアンプ14、ドライバ15、マイク及びマイクアンプ部11、FBフィルタ回路12の各伝達関数とする。同様に、図1(B)において、イコライザ16のブロック内の文字Eは、聴取する目的である信号Sに掛けられるイコライザ16の伝達関数であり、ドライバ15とキャンセルポイントCP間に置かれたブロックの文字Hは、ドライバ15からマイク111までの空間の伝達関数(ドライバ-キャンセルポイント間の伝達関数)である。これらの各伝達関数は、複素表現されているものとする。
【0021】
また、図1(A)、(B)において、文字Nは、外部のノイズソース(ノイズ源)NSからヘッドホン筐体HP内のマイク位置近辺に侵入してきたノイズであり、文字Pは、聴取者の耳に届く音圧(出力音声)を表すものとする。ノイズNがヘッドホン筐体HP内に伝わってくる原因としては、例えば、ヘッドホン筐体HPのイヤーパッド部の隙間から音圧として漏れてくる場合や、ヘッドホン筐体HPが音圧を受けて振動した結果として筐体内部に音が伝わるなどのことが考えられる。
【0022】
この時、図1(B)において、聴取者の耳に届く音圧Pは、図3の(1)式のように表現することができる。この図3の(1)式において、ノイズNに着目すれば、ノイズNは、1/(1+ADHMβ)に減衰していることがわかる。ただし、図3の(1)式の系がノイズ低減対象帯域にてノイズキャンセリング機構として安定して動作するためには、図3の(2)式が成立している必要がある。
【0023】
一般的には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおける各伝達関数の積の絶対値が1以上(1<<|ADHMβ|)であること、また古典制御理論におけるNyquistの安定性判別と合わせて、図3の(2)式に関わる系の安定性は以下のように解釈できる。
【0024】
図1(B)において、ノイズNに関わるループ部分を1箇所切断してできる(-ADHMβ)の「オープンループ」を考える。例えば、図1(B)において、マイク及びマイクアンプ部11とFBフィルタ回路12との間に切断箇所を設けるようにすれば、「オープンループ」を形成できる。このオープンループは、例えば図4に示すようなボード線図で表現される特性を持つものである。
【0025】
このオープンループを対象とした場合、Nyquistの安定性判別より、
(1)位相0deg.(0度)の点を通過する時、ゲインは0dB(0デシベル)より小さくなくてはならない。
(2)ゲインが0dB以上である時、位相0deg.の点を含んではいけない。
という(1)、(2)の2つの条件を満たす必要がある。
【0026】
上記の(1)、(2)の条件を満たさない場合、ループは正帰還がかかり発振(ハウリング)を起こすことになる。図4において、記号Pa、Pbは位相余裕を、記号Ga、Gbはゲイン余裕を表しており、これらの余裕が小さいと、ノイズキャンセリングシステムが適用されたヘッドホンを利用する聴取者の種々の個人差や当該ヘッドホンの装着のばらつきなどにより、発振の危険性が増すことになる。
【0027】
すなわち、図4において、横軸は周波数である。そして、縦軸は、下半分がゲインであり、上半分が位相である。そして、位相0deg.の点を通過するときには、図4においてゲイン余裕Ga、Gbが示すように、ゲインは0dBより小さくなければ、ループは正帰還がかかり発振を起こし、また、ゲインが0dB以上であるときには、図4において位相余裕Pa、Pbが示すように、位相0deg.を含まないようになっていなければ、ループは正帰還がかかり発振を起こすことになる。
【0028】
次に、図1(B)に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいて、上述したノイズ低減機能に加え必要な音をヘッドホンから再生する場合について説明する。図1(B)における入力音声Sは、例えば、音楽再生装置からの音楽信号の他、筐体外部のマイクの音(補聴機能として使う場合)や、電話通信などの通信を介した音声信号(ヘッドセットとして使う場合)など、本来、ヘッドホンのドライバで再生すべき音声信号の総称である。
【0029】
図3の(1)式において、入力音声Sに着目すると、イコライザ16の伝達関数Eは、図3の(3)式のように示すことができる。そして、図3の(3)式のイコライザ16の伝達関数Eをも考慮すると、図1(B)のノイズキャンセリングシステムの出力音声Pは、図3の(4)式のように表現することができる。
【0030】
マイク111の位置が耳位置に非常に近いとすると、文字Hがドライバ115からマイク111(耳)までの伝達関数、文字Aや文字Dがそれぞれパワーアンプ114、ドライバ115の伝達関数であるので、通常のノイズ低減機能を持たないヘッドホンと同様の特性が得られることがわかる。なお、この時イコライザ16の伝達特性Eは、周波数軸でみたオープンループ特性とほぼ同等の特性になっている。
【0031】
[フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムについて]
次に、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムに関して説明する。図2(A)は、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムが適用されたヘッドホンシステムが、ユーザヘッド(ユーザ(聴取者)の頭部)HDに装着された場合の右チャンネル側の構成を示しており、図2(B)は、当該フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの全体構成を示している。
【0032】
フィードフォワード方式は、基本的に図2(A)に示すようにヘッドホン筐体HPの外部にマイク211が設置されており、このマイク211で収音したノイズに対して適切なフィルタリング処理をして、ヘッドホン筐体HP内部のドライバ25にてこれを再生し、耳に近いところでこのノイズをキャンセルすることを意図した方式である。
【0033】
具体的に、図2(B)のブロック図を参照しながら、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムについて説明する。図2(B)に示すフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムは、マイク211とマイクアンプ212からなるマイク及びマイクアンプ部21と、フィードフォワード制御のために設計されたフィルタ回路(以下、FFフィルタ回路という。)22と、合成部23と、パワーアンプ24と、ドライブ回路251とスピーカ252からなるドライバ25とを備えたものである。
【0034】
この図2(B)に示すフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにおいても、各ブロック内に記載された文字A、D、Mは、パワーアンプ24、ドライバ25、マイク及びマイクアンプ部21の各伝達関数である。また、図2において、文字Nは、外部のノイズソース(ノイズ源)を示している。ノイズソースNに応じたノイズがヘッドホン筐体HP内に侵入してくる主な理由はフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいて説明した通りである。
【0035】
また、図2(B)においては、外部のノイズソースNの位置から耳位置CPに至るまでの伝達関数(ノイズソース-キャンセルポイント間の伝達関数)を文字Fで表し、ノイズソースNからマイク211に至るまでの伝達関数(ノイズソース-マイク間の伝達関数)を文字F’で表し、ドライバ25からキャンセルポイント(耳位置)CPに至るまでの伝達関数(ドライバ-キャンセルポイント間の伝達関数)を文字Hで表している。
【0036】
そして、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの核となるFFフィルタ回路22の伝達関数を、-αと置くと、図2(B)において、聴取者の耳に届く音圧P(出力音声)は、図5の(1)式のように表現することができる。
【0037】
ここで、理想的な状態を考えると、ノイズソース-キャンセルポイント間の伝達関数Fは、図5の(2)式のように表すことができる。そして、図5の(2)式を図5の(1)式に代入すれば、第1項と第2項とは相殺されるので、結果として、図2(B)に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにおいて、出力音声Pは、図5の(3)式に示すように表すことができ、ノイズはキャンセルされ、音楽信号(または聴取する目的の音声信号等)だけが残り、通常のヘッドホン動作と同様の音を聴取できることがわかる。
【0038】
ただし、実際は、図5に示した(2)式が完全に成立するような伝達関数を持つ完全なフィルタの構成は困難である。特に中高域に関して、人により耳の形状は異なるし、また、ヘッドホンの装着状態もまちまちであるなど、個人差が大きいことと、ノイズの位置やマイク位置などにより特性が変化する、などの理由のため通常は中高域に関してはこのアクティブなノイズ低減処理を行わず、ヘッドホン筐体でパッシブな遮音をすることが多い。なお、図5の(2)式は、数式を見れば自明であるが、ノイズ源から耳位置までの伝達関数を、伝達関数αを含めた電気回路にて模倣することを意味している。
【0039】
なお、図2に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにおけるキャンセルポイントCPは、図2(A)に示した通り、図1(A)のフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムと異なり、聴取者の任意の耳位置において設定することができる。しかしながら、通常の場合、伝達関数αは固定的であり、設計段階においては、なんらかのターゲット特性を対象とした決めうちになることになり、聴取者よって耳の形状が違うため、十分なノイズキャンセル効果が得られなかったり、ノイズ成分を非逆相で加算してしまったりして、異音がするなどの現象が起こる可能性もある。
【0040】
これらのことより、一般的にフィードフォワード方式は、発振する可能性が低く安定度が高いが、十分な減衰量を得るのは困難であり、一方、フィードバック方式は大きな減衰量が期待できる代わりに、系の安定性に注意が必要となる。フィードバック方式とフィードフォワード方式とには、それぞれに特徴を有している。
【0041】
また、別途、適応信号処理手法を用いたノイズ低減ヘッドホンが提案されている。この適応信号処理手法を用いたノイズ低減ヘッドホンの場合、通常、ヘッドホン筐体内部及び外部の両方にマイクが設置される。内部のマイクはフィルタ処理成分とのキャンセルを試みたエラー信号を解析し、新たな適応フィルタを生成・更新する際に用いてはいるが、基本的にヘッドホン筐体外部のノイズをデジタルフィルタ処理してドライバで再生していることから、大きな枠組みとしてはフィードフォワード方式の形をとっている。
【0042】
[この発明によるノイズキャンセリングシステムについて]
そして、この発明では、上述したフィードバック方式とフィードフォワード方式の双方の利点を持つものである。なお、以下に説明するこの発明が適用された実施の形態のノイズキャンセリングシステムにおいても、図1、図2を用いて説明したノイズキャンセリングシステムと同様に構成される部分には、同じ参照符号を付し、それらの詳細な説明は省略することとする。
【0043】
また、以下に説明する実施の形態おいては、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにおけるFFフィルタ回路(当該回路の伝達関数-αにちなんで、α回路という場合もある。)22と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおけるFBフィルタ回路(当該回路の伝達関数-βにちなんで、β回路という場合もある。)12とをデジタルフィルタの構成を有するものとして説明する。
【0044】
図6は、FFフィルタ回路22、FBフィルタ回路12を、デジタルフィルタの構成とした場合の構成例を説明するためのブロック図である。図6(A)に示すように、図2に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにおけるFFフィルタ回路22は、マイクアンプ212と、パワーアンプ24との間に設けられるものである。また、図6(B)に示すように、図1に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムのFBフィルタ回路12は、マイクアンプ112とパワーアンプ14との間に設けられるものである。
【0045】
そして、これらFFフィルタ回路22、FBフィルタ回路12を、デジタルフィルタの構成とする場合には、図6(C)に示すように、マイクで収音されたアナログノイズ信号をデジタルノイズ信号に変換するADC(Analog Digital Converter)と、デジタルノイズ信号からノイズを低減させるノイズ低減信号を演算により形成するDSP(Digital Signal Processor)/CPU(Central Processing Unit)と、DSP/CPUからのデジタルノイズ低減信号を、アナログノイズ低減信号に変換するDAC(Digital Analog Converter)とにより構成することができる。なお、図6(C)において、DSP/CPUという記載は、DSPまたはCPUのいずれかを用いることを意味している。
【0046】
このように、FFフィルタ回路12やFBフィルタ回路12をデジタルフィルタの構成とすることにより、(1)複数のモードを自動的、またはユーザが手動にて選択可能なシステムが構成可能になり、ユーザからみた使用性能が高まる。(2)細かい制御が可能なデジタルフィルタリングを行うことで、ばらつきが少なく高精度な制御品質を得ることができ、結果的にノイズ低減量、低減帯域の拡大につながる。
【0047】
また、(3)部品点数を変更することなく、演算処理装置(DSP(Digital Signal Processor)/CPU(Central Processing Unit))に対するソフトウェアの変更で、フィルタ形状を変更することができるようにされるため、システム設計やデバイス特性変更に伴う改変が容易になる。(4)音楽再生や通話などの外部入力に対しても、同じADC/DACやDSP/CPUを共用することで、これら外部入力信号に対しても、高精度のデジタルイコライジングを施すことで、高音質な再生が期待できる。
【0048】
このように、FFフィルタ回路22、FBフィルタ回路12を、デジタル化することにより、少なくとも上述した(1)?(4)に記載した効果を期待することができ、種々の場合に対応して柔軟な制御が可能になり、使用する聴取者を選ばず、高品位にノイズをキャンセルできるシステムを構成することができるようになる。
【0049】
[フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの問題点について]
フィードフォワード方式は前述の通り、高い安定性を大きな特長としている。しかし、1つの問題点を内在している。図7は、フィードフォワード方式の問題点について説明するための図であり、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムが適用されたヘッドホンシステムが、ユーザヘッド(ユーザ(聴取者)の頭部)HDに装着された場合の右チャンネル側の構成を示す図である。
【0050】
図7(A)において、ノイズ源NSを起点とし、ヘッドホン筐体内側の耳道近辺に設けられるようにされるキャンセルポイント(ノイズキャンセルのターゲットポイント)CPまでの伝達関数をF1とし、同じく、ノイズ源NSからヘッドホンの筐体外部に設けられたマイク211までの伝達関数をF1’とする。
【0051】
この時、ヘッドホン筐体外部に設置されたマイク211で収音された音を使いFFフィルタ回路(α回路)22のフィルタを調整し、図5の(3)で表されるとおり、キャンセルポイントCPまでの伝達関数F1を(F1’ADHMα)により模擬し、最終的にはヘッドホン内部での音響空間内で減算され、ノイズ低減に繋がるものである。ここで通常は低域にのみ図5の(3)式は適用され、高域では位相があわなくなってくるため、FFフィルタ回路22のゲインをとらない(キャンセルは行わない)のが通常である。
【0052】
さて、ここでFFフィルタ回路22のフィルタは固定であり、図7(A)に示したようなノイズ位置関係の時に伝達特性αの特性を最適化してあり、またノイズの収音を行うマイクの位置も変化させず、個数も1つである、と考えると、図7(B)において、ノイズ源NSが示すように、マイク211とは反対側にノイズ源が存在するような場合に好ましくない。
【0053】
つまり、図7(B)に示した例の場合は、ノイズ源NSから発せられたノイズの音波はまず先にヘッドホンと頭部の隙間から漏れ入り、ヘッドホン筐体内で不快なノイズとなる。その後ヘッドホン外側に到達し、マイク211で収音されて、FFフィルタ回路12で特定のフィルタリング(-α)を受けて、ドライバで再生されることになる。
【0054】
図7(B)と図7(A)とを比較すると分かるように、図7(A)の方は漏れ入ってくるノイズと、ドライバ25から再生される再生信号が同時刻にキャンセルポイントCPに到着し、双方が逆位相の関係になる帯域が広いため一定のノイズ低減効果が得られる。しかし、図7(B)の場合には、ヘッドホン筐体内に漏れ入るノイズと、マイクロホン211に到達するノイズとが存在することになり、結果として想定していない時間差のある信号を加えることになって、特に中高域で位相が逆相になるのではなく、正相として加算される帯域が増えてくる。
【0055】
したがって、図7(B)に示した状態にある場合には、結果として、ノイズ減衰を目的としていたが、位相が一致してしまう周波数に対してノイズが増えることになる。この時、広い帯域にて大きな減衰が実現できていたとしても、人間の聴覚は、狭い帯域でもノイズが発生していることに対して違和感を覚えるため、あまり実用的ではない。
【0056】
こういったことは、当然ながら位相回転の速い高域にいけばいくほど、その状況を生みやすい。したがって、これがフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムのFFフィルタ回路22において、ノイズキャンセルの有効効果帯域(α特性のゲインがある帯域)を狭めることの原因になっている。
【0057】
[この発明の一実施の形態が適用されたノイズキャンセリングシステムについて]
そこで、この実施の形態のノイズキャンセリングシステムは、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムと、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムとを重ね合わせたものを基本として、1つのノイズキャンセリングシステムを構成するようにしている。
【0058】
すなわち、以下に説明する実施の形態のノイズキャンセリングシステムは、図7(A)に示したような状態にあるときには、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムによって、広帯域に渡って安定してノイズキャンセリングを行えるようにすると共に、図7(B)に示したような状態にあるときには、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムによって、ヘッドホン筐体内に漏れ込んでくるノイズについても効果的にノイズキャンセリングできるようにするものである。
【0059】
[第1の例のノイズキャンセリングシステムについて]
図8は、この実施の形態のノイズキャンセリングシステムの第1の例を説明するためのブロック図である。また、図9は、図8に示したFFフィルタ回路22とFBフィルタ回路12を説明するためのブロック図である。図8に示すように、この第1のノイズキャンセリングシステムは、向かって右側に形成されたフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムと、向かって左側に形成されたフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムとからなるものである。
【0060】
すなわち、図8において、マイク211とマイクアンプ212とからなるマイク及びマイクアンプ部21と、FFフィルタ回路(α回路)22と、パワーアンプ24と、ドライバ25とからなる部分が、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分である。ここで、FFフィルタ回路22は、図9(A)に示すように、ADC221、DSP/CPU部222、DAC223からなるデジタルフィルタの構成とされたものである。
【0061】
また、この例において、ADC27は、例えば、外部の音楽再生装置や補聴器のマイクロホンなどからのアナログ信号である入力音声を受け付けて、デジタル信号に変換し、これをDSP/CPU部222に供給するものである。これにより、DSP/CPU部222において、外部から供給された入力音声に対して、ノイズを低減するためのノイズ低減信号を加算することができるようにしている。
【0062】
なお、図8に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分において、マイク及びマイクアンプ部21の伝達関数は「M1」であり、FFフィルタ回路22の伝達関数は「-α」であり、パワーアンプ24の伝達関数は「A1」であり、ドライバ25の伝達関数は「D1」である。また、当該フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分においては、ドライバ-キャンセルポイント間の伝達関数「H1」と、ノイズソース-キャンセルポイント間の伝達関数「F」と、ノイズソース-マイク間の伝達関数「F’」を考慮することができるものである。
【0063】
また、図8において、マイク111とマイクアンプ112とからなるマイク及びマイクアンプ部11と、FBフィルタ回路(β回路)12と、パワーアンプ14と、ドライブ回路151とスピーカ152とからなるドライバ15とからなる部分が、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムである。ここで、FBフィルタ回路12は、図9(B)に示すように、ADC121、DSP/CPU部122、DAC123からなるデジタルフィルタの構成とされたものである。
【0064】
なお、図8に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分において、マイク及びマイクアンプ部11の伝達関数は「M2」であり、FBフィルタ回路12の伝達関数は「-β」であり、パワーアンプ14の伝達関数は「A2」であり、ドライバ15の伝達関数は「D2」である。また、当該フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分においては、ノイズソース-キャンセルポイント間の伝達関数「H2」を考慮することができるものである。
【0065】
この図8に示した構成のノイズキャンセリングシステムの場合には、まず外部のノイズ音はフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分において取り込まれてキャンセルするようにされる。ところが、ノイズ音の発信源やその音波の性質(例えば、球面波、平面波的な振る舞い)によって、現実的には上述もしたようにヘッドホン筐体内部において、ノイズ低減される帯域が得られる一方で、ノイズを効果的にキャンセルすることができず、結果としてノイズが残存する帯域も起こり得る。これはヘッドホンの装着状態や、個人の耳の形状においても同様の問題が発生する。
【0066】
しかし、図8に示した構成のノイズキャンセリングシステムの場合には、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分で残留してしまったノイズ成分や、ヘッドホン筐体内部にもれ込んできたノイズ成分については、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分の働きによって効果的にキャンセルすることができるようにされる。すなわち、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とを同時に機能させることによって、それぞれ単体で使用したとき以上のノイズキャンセル効果(ノイズ低減効果)を得ることができるようにしている。
【0067】
このように、この図8に示したノイズキャンセリングシステムの場合には、ヘッドホン筐体内部に漏れ込んできたノイズについては、図8において右側に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分によってキャンセルポイントCPにおいて適切にノイズをキャンセルすることができると共に、ヘッドホン筐体外部のノイズ源Nからのノイズについては、図8において左側に示したフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分によってキャンセルポイントCPにおいて適切にノイズをキャンセルすることができるものである。
【0068】
なお、図8に示したノイズキャンセリングシステムは、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とで、それぞれ別個にマイク及びアンプ部、パワーアンプ、ドライバを備えているものである。
【0069】
図10は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムとフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性の一般的な違いを説明するための図である。図10において、横軸は周波数、縦軸は減衰量である。そして、上述もし、また、図10にも示すように、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性は、狭帯域、高レベルであるのに対して、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性は、広帯域、低レベルである。
【0070】
しかし、図8に示したノイズキャンセリングシステムの場合には、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分を備えた、言わばツイン方式のノイズキャンセリングシステムであり、このツイン方式の場合には、図10に示したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの特性とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの特性とを合わせたかたちの減衰特性を有するものとなる。
【0071】
図11は、図8に示した構成を有するツイン方式のノイズキャンセリングシステムを用いた場合の減衰特性の実測値と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムを用いた場合の減衰特性の実測値と、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムを用いた場合の減衰特性の実測値とを示す図である。
【0072】
図11において、横軸は周波数、縦軸は減衰量である。そして、図11において、粗い点線で示され、「Feed Back」の文字が付すようにされているグラフがフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性を示しており、細かい点線で示され、「Feed Forward」の文字が付すようにされているグラフがフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性を示しており、実線で示され、「Twin」の文字が付すようにされているグラフが、図8に示した構成を有するツイン方式のノイズキャンセリングシステムの減衰特性を示すグラフである。
【0073】
この図11からも分かるように、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムの場合には、狭帯域、高レベルの減衰特性を有し、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムの場合には、広帯域、低レベルの減衰特性を有していることが分かる。そして、ツイン方式の場合には、広帯域に渡って、高レベルの減衰特性を実現していることが分かる。
【0074】
このように、図8に示した構成のいわゆるツイン方式のノイズキャンセリングシステムの場合には、フィードバック方式とフィードフォワード方式の減衰特性を合わせ持ち、広帯域、高レベルの減衰特性を実現することができるものである。
【0075】
[第2の例のノイズキャンセリングシステムについて]
図12は、この実施の形態のノイズキャンセリングシステムの第2の例を説明するためのブロック図である。図12に示すノイズキャンセリングシステムの第2の例の場合には、マイク211とマイクアンプ212とからなるマイク及ぶマイクアンプ部21と、ADC321とDSP/CPU部322とDAC323とからなるFFフィルタ回路22と、パワーアンプ33と、ドライブ回路341とスピーカ342とからなるドライバ34とによって、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分を形成している。
【0076】
さらに、図12に示すノイズキャンセリングシステムの第2の例の場合には、マイク111とマイクアンプ112とからなるマイク及ぶマイクアンプ部11と、ADC324とDSP/CPU部322とDAC323とからなるFBフィルタ回路12と、パワーアンプ33と、ドライブ回路341とスピーカ342とからなるドライバ34とによって、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分を形成している。
【0077】
すなわち、図8に示したノイズキャンセリングシステムの第1の例の場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とを別個独立に形成して接続した構成を有するのに対して、この図12に示すノイズキャンセリングシステムの第2の例の場合には、DSP/CPU322と、DAC323と、パワーアンプ33と、ドライバ34とを、フィードバック方式とフィードフォワード方式とで共通化するようにしたものである。
【0078】
そして、この図12に示すノイズキャンセリングシステムの第2の例の場合、マイク及びマイクアンプ部21の伝達関数は「M1」であり、FFフィルタ回路22の伝達関数は「-α」であり、パワーアンプ33の伝達関数は「A」であり、ドライバ34の伝達関数は「D」である。マイク及びマイクアンプ部11の伝達関数は「M2」であり、FBフィルタ回路22の伝達関数は「-β」である。
【0079】
また、図12に示すノイズキャンセリングシステムの第2の例の場合においても、ドライバ-キャンセルポイント間の伝達関数「H」と、ノイズソース-キャンセルポイント間の伝達関数「F」と、ノイズソース-マイク間の伝達関数「F’」とを考慮することができるものである。
【0080】
また、この図12に示した第2の例の場合にも、入力音声がADC35を介してDSP/CPU部322に供給され、ここで、ノイズ低減信号と加算することができるようにしている。
【0081】
したがって、図12に示す第2の例のノイズキャンセリングシステムにおいて、DSP/CPU322は、ヘッドホン筐体外部のマイク211で収音された音声に基づいてノイズ低減信号を形成すると共に、ヘッドホン筐体内部のマイク111で収音された音声に基づいてノイズ低減信号を形成し、これらを合成する処理をも行うことができるものである。さらに、この図12に示した例の場合には、DSP/CPU322は、ADC35を通じて受け付けた入力音声を受け付けて調整処理し、ノイズ低減信号に合成するようにする機能をも実現するものである。すなわち、DSP/CPU322は、入力音声についての入力回路(イコライザ)としての機能をも実現することができるものである。
【0082】
このように、図12に示した第2の例のノイズキャンセリングシステムの場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とで共通化する部分を設けることにより、部品点数を抑え、構成を簡単にすることができるものである。
【0083】
しかし、上述もしたように、マイク及ぶマイクアンプ部21と、FFフィルタ回路22と、パワーアンプ33と、ドライバ34とからなるフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分と、マイク及ぶマイクアンプ部11と、FBフィルタ回路12と、パワーアンプ33と、ドライバ34とからなるフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とを同時に機能させることにより、広帯域、高レベルの減衰特性を実現するツイン方式のノイズキャンセリングシステムを構成することができる。
【0084】
[第3の例のノイズキャンセリングシステムについて]
ところで、図8、図12に示したツイン方式のノイズキャンセリングシステムにおいて、入力音声Sが示すように、音楽再生装置からの音楽信号や補聴器のマイクで収音した音声信号などの外部ソースを聴取する場合には、音声や音楽などが聞こえているため、ノイズの低減量はそれほど大きくなくてもよい場合もある。反面、外部ソースを聴取する必要はないが、騒音を低減させることにより、高品位な無音状態を形成したい場合もある。例えば、ひどい騒音の中で作業しなければならない場合においては、高品位に騒音を低減したいとする要求が高い。
【0085】
そこで、この第3の例は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とを合わせ持つツイン方式のノイズキャンセリングシステムであるが、外部ソースを聴取する場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分との内のいずれか一方だけを機能させ、外部ソースを聴取する必要はなく、高品位な無音状態(できるだけ無音に近い状態)を形成した場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分との両方を機能させることができるように構成したものである。
【0086】
図13、図14は、この実施の形態のノイズキャンセリングシステムの第3の例を説明するためのブロック図である。図13、図14に示すこの第3の例のノイズキャンセリングシステムの構成は、基本的には、図12に示した第2の例のノイズキャンセリングシステムと同様に構成されるものである。このため、図13、図14において、図12に示した第2の例のノイズキャンセリングシステムと同様に構成される部分には、同じ参照符号を付し、その詳細な説明については省略することとする。
【0087】
そして、図13に示す第3の例のノイズキャンセリングシステムは、図12に示した第2の例のノイズキャンセリングシステムにおいて、マイク及びマイクアンプ部11とADC324との間にスイッチ回路36を設け、マイク及びマイクアンプ部11からの音声信号をADC324に供給するか、外部から供給される外部ソースとしての入力音声SをADC324に供給するかを切り換えることができるようにしたものである。
【0088】
したがって、図13に示す第3の例のノイズキャンセリングシステムの場合には、スイッチ回路36が、入力端a側に切り換えられた場合には、入力音声Sは供給されなくなり、FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22とが機能することにより、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とが共に機能することによって、高品位な無音状態を形成することができるようにされる。
【0089】
また、スイッチ回路36が、入力端b側に切り換えられた場合には、マイク及びマイクアンプ部11からの音声は供給されなくなり、ADC324、DSP/CPU部322は、入力音声Sの入力回路(イコライザ)として機能するようにされる。そして、この場合には、FFフィルタ回路22が機能することにより、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分のみが機能してノイズをキャンセルしながら、入力音声Sについて聴取することができるようにされる。
【0090】
したがって、この場合、ADC321、DSP/CPU322、DAC323が、FFフィルタ回路22の機能を実現し、ADC324、DSP/CPU322、DAC323が、入力音声Sについてのイコライザの機能を実現する。すなわち、DSP/CPU322、DAC323は、FFフィルタ回路の機能と入力音声Sを処理するイコライザとしての機能を合わせ持つものである。
【0091】
また、図14に示す第3の例のノイズキャンセリングシステムは、図12に示した第2の例のノイズキャンセリングシステムにおいて、マイク及びマイクアンプ部21とADC321との間にスイッチ回路37を設け、マイク及びマイクアンプ部21からの音声信号をADC321に供給するか、外部から供給される外部ソースとしての入力音声SをADC321に供給するかを切り換えることができるようにしたものである。
【0092】
したがって、図14に示す第3の例のノイズキャンセリングシステムの場合には、スイッチ回路37が、入力端a側に切り換えられた場合には、入力音声Sは供給されなくなり、FFフィルタ回路22とFBフィルタ回路12とが機能することにより、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分とが共に機能することによって、高品位な無音状態を形成することができるようにされる。
【0093】
また、スイッチ回路37が、入力端b側に切り換えられた場合には、マイク及びマイクアンプ部21からの音声は供給されなくなり、ADC321、DSP/CPU部322は、入力音声Sの入力回路(イコライザ)として機能することになる。そして、この場合には、FBフィルタ回路12が機能することにより、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分のみが機能してノイズをキャンセルしながら、入力音声Sについて聴取することができるようにされる。
【0094】
したがって、この場合、ADC324、DSP/CPU322、DAC323が、FBフィルタ回路12の機能を実現し、ADC321、DSP/CPU322、DAC323が、入力音声Sについてのイコライザの機能を実現する。すなわち、DSP/CPU322、DAC323は、FBフィルタ回路の機能と入力音声Sを処理するイコライザとしての機能を合わせ持つものである。
【0095】
このように、図13、図14を用いて説明した第3の例のノイズキャンセリングシステムの場合には、外部ソースである入力音声Sを聴取する場合には、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分の何れか一方のみを機能させて、ノイズをキャンセルしながら(ノイズを低減させながら)入力音声を良好に聴取することができるようにされる。
【0096】
さらに、聴取者が無音状態を聞きたい状況下においては、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分との両方を使用して、外界からのノイズと、位相不適合のため自己発生するノイズの両方をキャンセルするようにして、高品位な無音状態を形成し、大きなノイズ低減効果を体感することができるようにされる。
【0097】
なお、図13に示した第3の例のノイズキャンセリングシステムは、入力音声Sを再生する場合には、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムだけを機能させるものとして構成したものであり、図14に示した第3の例のノイズキャンセリングシステムは、入力音声Sを再生する場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムだけを機能させるものとして構成したものである。しかし、これに限るものではなく、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分を機能させるか、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分を機能させるかを、聴取者が切り換えられるようにすることも可能である。
【0098】
すなわち、図13、図14に示した第3の例のノイズキャンセリングシステムを合体させ、スイッチ回路36とスイッチ回路37との両方を設けるようにする。そして、さらに、入力音声Sをスイッチ回路36に供給するのか、スイッチ回路37に供給するのかを切り換えるスイッチ回路を設けるようにする。
【0099】
そして、新たに設けるスイッチ回路を切り換えて、入力音声Sをスイッチ回路36に供給するようにした場合には、スイッチ回路36は入力端b側に切り換えると共に、スイッチ回路37は入力端a側に切り換えるようにすることによって、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分のみを機能させた上で、入力音声Sを聴取することができるようにされる。
【0100】
逆に、新たに設けるスイッチ回路を切り換えて、入力音声Sをスイッチ回路37に供給するようにした場合には、スイッチ回路37は入力端b側に切り換えると共に、スイッチ回路36は入力端a側に切り換えるようにすることによって、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分のみを機能させた上で、入力音声Sを聴取することができるようにされる。
【0101】
もちろん、この場合においても、高品位な無音状態を形成したい場合には、スイッチ回路36とスイッチ回路37とを共に入力端a側に切り換えることにより、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分とフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分との両方を機能させて、高品位な無音状態を形成することもできるようにされる。
【0102】
なお、上述した各スイッチ回路36、37及び新たに設けるスイッチ回路は、メカニカルなスイッチの構成とすることもできるし、電気的なスイッチの構成とすることもできる。
【0103】
また、図8、図12、図13、図14に示したノイズキャンセリングシステムは、いずれの場合にも、外部ソースである入力音声Sの供給を受けることができるものとして説明したが、これに限るものではない。外部からの入力音声Sを受け付ける入力端部を備えない、単なる騒音低減のためのノイズキャンセリングシステムとして実現することももちろん可能である。
【0104】
[FBフィルタ回路12、FFフィルタ回路22のデジタル化の具体例について]
FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22と二ついては、これらをデジタル化する場合には、ADCと、DSP/CPU部と、DACとで構成されることについては、図6(C)、図9を用いて上述した通りである。この場合、ADC、DACについては、例えば、遂次変換型の高速変換可能なものを用いることによって、適切なタイミングでノイズ低減信号を生成し、ノイズの低減を実現することが可能である。
【0105】
しかし、遂次変換型の高速変換可能なADC、DACは、高価なものであり、FBフィルタ回路12、FFフィルタ回路22のコストアップを招いてしまう。そこで、従来から用いられているいわゆるシグマ・デルタ(Σ・Δ)方式のADCやDACを用いた場合であっても、大きな遅延を生じさせることなく、適切なタイミングでノイズ低減信号を生成できるようにする技術について説明する。なお、以下においては説明を簡単にするため、FBフィルタ回路12に当該技術を提供する場合を例にして説明するが、FFフィルタ回路22に対しても同様に適用することができるものである。
【0106】
図15は、FBフィルタ回路12の構成、特に、ADC121とDAC123との構成について説明するためのブロック図である。図6(C)にも示し、また、図15(A)にも示すように、FBフィルタ回路12は、ADC121と、DSP/CPU部122と、DAC123とかなっている。そして、図15(B)に示すように、ADC121は、非エリアシングフィルタ1211と、シグマ・デルタ(Σ・Δ)ADC部1212と、間引きフィルタ1213とからなり、DAC123は、補間フィルタ1231と、シグマ・デルタ(Σ・Δ)DAC部1232と、低域通過フィルタ1233とからなっている。
【0107】
一般的に、ADC121、DAC123はともにオーバーサンプリング手法、及び、1bit(ビット)信号を用いるシグマ・デルタ変調が使われることが多い。例えば、図15(B)に示したように、アナログ入力を、DSP/CPU部122でデジタル信号処理する場合には、1Fs/Multi bit(多くは16bit?24bit)に変換するが、Σ・Δ方式では通常サンプリング周波数Fs[Hz]をM倍のMFs[Hz]まで持っていって、オーバーサンプリング(Over Sampling)処理することが多い。
【0108】
図15(B)に示したように、ADC121の入り口に設置された非エリアシング(Anti-Aliasing)フィルタ1211及び、DAC123の出口部に設置された低域通過(Low-Pass)フィルタ1233で、各サンプリング周波数Fsの1/2(2分の1)を超える帯域の信号が入出力されないようになっている。しかし、実際に、これらはいずれもアナログで構成されるため、Fs/2(2分のFs)近辺では急峻な減衰特性を得ることは困難である。
【0109】
つまり、図15(B)において、ADC側に間引き(Decimation)フィルタ1213が内包され、DAC側に補間(Interpolation)フィルタ1231が内包され、これらのフィルタが用いられて、間引き処理や補間処理(補間内挿処理)をしており、同時に各内部では、高次数で急峻なデジタルフィルタを使い帯域制限(LPF)も掛けることで、アナログ信号を受け付ける非エリアシングフィルタ1211や、アナログ信号を出力する低域通過フィルタ1233の負担を減らしている。
【0110】
さて、ADC121、DAC123で起こる遅延というのは、ほとんどが、この間引きフィルタ1213、及び、補間フィルタ1231内の高次デジタルフィルタで発生する。つまり、Fs/2近辺で急峻な特性を得るために、MFs[Hz]のサンプリング周波数を持つ領域で次数の高いフィルタ(FIR(Finite Impulse Response)フィルタの場合、タップ数の長いフィルタ)を用いるため、結果、群遅延が発生することになる。
【0111】
このデジタルフィルタ部においては、位相歪みによる時間波形の劣化の悪影響を避けるため、直線位相特性を持つFIRフィルタが使われ、中でもSINC関数(sin(x)/x)による補間特性が実現できる移動平均フィルタをベースとしたものが好んで使われる傾向にある。なお、直線位相形のフィルタの場合を考えると、フィルタ長の半分の時間がおよそ遅延量となる。
【0112】
FIRフィルタは当然ながら次数(タップ数)が多いほど急峻で、減衰効果の大きい特性を表現できる。次数が短いフィルタは、減衰量が十分でなく(漏れが多く)、エリアシングの影響が大きくなるため一般的にあまり使われない。しかし、このフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムに使用する場合には、後述のような条件のFIRフィルタの使用が可能となり結果、遅延時間を短くすることができる。
【0113】
遅延時間が短くなれば、位相回転が減ることになり、結果、FBフィルタ回路12を設計し、図4を用いて説明したような総合的なオープンループ特性を作る際、特性が0dB以上となる帯域を広げることができ、ノイズキャンセリング機構において、帯域及びその減衰特性において、大きな効果を得る。加えてフィルタ作成時における自由度も増えることになることは容易に想定できる。
【0114】
そこで、図15(B)において、デジタルフィルタである間引きフィルタ1213、補間フィルタ1231を形成するFIRフィルタについて、(1)サンプリング周波数をFsとして、およそ(Fs-4kHz)?(Fs+4kHz)程度に渡った帯域に対して-60dB以上の減衰が確保されているものを用いるようにすればよい。
【0115】
この場合、(2)可聴帯域の2倍以上(およそ40kHz)以上のサンプリング周波数Fsを用いると共に、(3)変換方式として、シグマ・デルタ(Σ・Δ)方式を用いるものとする。また、(4)条件(1)で示した帯域以外の他の帯域に関するエリアシング漏れ成分を認めることで、変換処理装置内部の処理機構で発生する、デジタルフィルタの群遅延を1ms以下に抑えたものを用いるようにすればよい。
【0116】
上述した(1)、(4)の条件を満足するFIRフィルタを間引きフィルタ1213、補間フィルタ1231として用いると共に、サンプリング周波数Fsについては(2)の条件を満足し、変換方式については(3)の条件を満足することにより、コストアップさせることなく、従来からのΣ・Δ方式のADCやDACを用いてデジタル化したFBフィルタ回路12を構成することが可能となる。
【0117】
なお、上述した(1)?(4)の条件を満足することにより、大きな遅延を発生させないデジタルフィルタを形成できることの詳細な根拠については、この出願の発明者による他の出願である特願2006-301211に詳細に説明されている。
【0118】
[まとめ]
(1).図8を用いて説明したノイズキャンセリングシステムのように、ヘッドホン筐体の内側及び外側の双方において、各々1つ以上のマイク機構を持ち、外側に設置されたマイクで収音された信号を特定のフィルタを通してヘッドホン筐体内側のドライバで再生することでヘッドホン内部に漏れ入るノイズを低減させ、同時に内側のマイクにて収音された信号を特定のフィルタを通して内側のドライバで再生することで、より帯域が広く、減衰効果量の大きなノイズ低減を行うシステムが構成できる。
【0119】
(2).図12を用いて説明したノイズキャンセリングシステムのように、上記(1)について、内側マイクのフィルタリングされた信号、外側マイクのフィルタリングされた信号は、それぞれアナログ、もしくはデジタル手段にてミキシングすることで、ドライバを1つのみとすることができる。
【0120】
(3).図6(C)、図9、図15を用いて説明したように、FBフィルタ回路やFFフィルタ回路として実現されるフィルタの部分をDSPまたはCPUからなる演算装置にてデジタルフィルタリングを行うために、少なくとも1つ以上のADC、および1つ以上のDACをシステム内に持つことで、デジタルフィルタの構成とすることができる。
【0121】
(4).図13、図14を用いて説明したノイズキャンセリングシステムのように、ヘッドホン筐体の内側のマイクと外側のマイクからの出力信号の双方がADCに入りデジタル処理するノイズ低減システムを構成している第1のモードと、外側・内側のどちらかのマイク信号の一方の入力を外部信号(音楽信号、通話信号)に切り換えて同一のADCに接続し、同時にDSP/CPU部に対してノイズ低減プログラムからイコライザプログラムになるように指示する第2のモードとを備えたシステムを構成することができる。
【0122】
この場合、第1のモードを用いた場合には、高品位な無音状態を形成することができ、第2のモードを用いた場合には、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分と、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分の一方のみを機能させて、ノイズの低減を図りながら外部ソースである入力音声を再生して聴取することができる。また、第1のモードと第2のモードとを設けることにより、ADCの数を抑制することができる。
【0123】
[この発明による方法について]
また、図8を用いて説明したように、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムを実現する部分と、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムを実現する部分とを同時に機能させ、フィードバック方式でもフィードフォワード方式でも同時にノイズキャンセルさせるようにすることによって、この発明による第1の方法を実現できる。
【0124】
また、図12を用いて説明したように、FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22とにおいて、共通にDSP/CPU322、DAC323を用いるようにし、DSP/CPU322において、それぞれのノイズ低減信号を形成すると共に、形成したそれぞれのノイズ低減信号を合成することによって、1つのパワーアンプ33、1つのドライバ34を用いて、ノイズを効果的に低減させるようにするこの発明による第2の方法を実現できる。
【0125】
また、FBフィルタ回路12やFFフィルタ回路22を、ADCと、DSP/CPUと、DACとによって、アナログ/デジタル変換→ノイズ低減信号生成処理→デジタル/アナログ変換というように処理できるようにすることによって、この発明による第3の方法を実現することができる。
【0126】
また、図12に示したように、DSP/CPU322と、DAC323とを、FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22とで共用するようにすることにより、すなわち、DSP/CPU322において、フィードバック方式のノイズ低減信号を形成すると共に、フィードフォワード方式のノイズ低減信号をも形成し、これを合成できるようにすることによって、この発明による第4の方法を実現することができる。
【0127】
また、図13、図14に示したように、マイクで収音した音声と、入力音声Sとのどちらを処理するようにするかを切り換えるようにすることによって、この発明による第5の方法を実現することができる。
【0128】
[その他]
なお、上述した実施の形態においては、主にマイクロホン111が第1の音声収音手段としての機能を実現し、FBフィルタ回路12が第1の信号処理手段としての機能を実現し、パワーアンプ14が第1の増幅手段としての機能を実現し、スピーカ152を含むドライバ15が第1の放音手段としての機能を実現することにより、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム部分を構成している。
【0129】
また、主にマイクロホン211が第2の音声収音手段としての機能を実現し、FFフィルタ回路22が第2の信号処理手段としての機能を実現し、パワーアンプ24が第2の増幅手段としての機能を実現し、スピーカ252を含むドライバ25が第2の放音手段としての機能を実現することにより、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム部分を構成している。
【0130】
また、FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22とが合成手段としての機能を実現している。擬態的には、図12に示したように、FBフィルタ回路12とFFフィルタ回路22との共用部分であるDSP/CPUが、フィードバック方式とフィードフォワード方式とのそれぞれのノイズ低減信号を形成する機能を有すると共に、その形成したそれぞれのノイズ低減信号を合成する機能をも実現している。
【0131】
そして、図12において、パワーアンプ33が合成手段で合成された1つの信号を増幅する1つの増幅手段としての機能を実現し、ドライバ34が当該1つの増幅手段で増幅された信号に応じた音声を放音するようにするための1つの放音手段としての機能を実現するものである。また、図13のスイッチ回路36と図14のスイッチ回路37とのそれぞれが、出力信号を切り換える切換手段としての機能を実現している。
【0132】
また、上述した実施の形態においては、FBフィルタ回路12、FFフィルタ回路22は、いずれもデジタルフィルタの構成とされた場合を例にして説明したが、これに限るものではない。FBフィルタ回路12、FFフィルタ回路22をアナログフィルタの構成した場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0133】
また、上述した実施の形態においては、外部ソースとして入力音声Sを受け付けることができるものとして説明したが、必ずしも外部ソースを受け付ける機能を備えたもので出なくてもよい。すなわち、音楽などの外部ソースを聴取する必要はなく、騒音だけを低減できるようにする騒音低減システムとして構成することも可能である。
【0134】
また、上述した実施の形態においては、説明を簡単にするためにヘッドホンシステムに適用した場合を例にして説明したが、ヘッドホン本体内にすべてのシステムが実装されている必要はない。例えば、FBフィルタ回路、FFフィルタ回路、パワーアンプ等の処理機構が外部にボックスとして分割されていたり、あるいは、他の機器と組み合わせて構成したりすることも可能である。ここで、他の機器とは、例えばポータブルオーディオプレイヤーや、電話機器、ネットワーク音声通信機器、など、音声・音楽信号を再生可能な多種のハードウェアが考えられる。
【0135】
特に、携帯電話端末と、これに接続するヘッドセットとに、この発明を適用することにより、例えば、外出先の騒音の非常に多い環境下においても、騒音を低減し、良好に通話できるようにすることが可能になる。この場合、FFフィルタ回路、FBフィルタ回路、ドライブ回路等を携帯電話端末側に設けるようにすることによって、ヘッドセット側の構成を簡単にすることができる。もちろん全ての構成をヘッドセット側に設け、携帯電話端末からの音声の供給を受けることができるように構成することもできる。
【符号の説明】
【0136】
11…マイク及びマイクアンプ部、111…マイク、112…マイクアンプ、12…FBフィルタ回路、121…ADC、122…DSP/CPU、123…DAC、13…合成部、14…パワーアンプ、15…ドライバ、151…ドライブ回路、152…スピーカ、16…イコライザ、CP…キャンセルポイント、S…入力音声、P…出力音声、21…マイク及びマイクアンプ部、211…マイク、212…マイクアンプ、22…FFフィルタ回路、221…ADC、222…DSP/CPU、223…DAC、23…合成部、24…パワーアンプ、25…ドライバ、251…ドライブ回路、252…スピーカ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの耳部に装着される筐体の内部に設けられた第1の音声集音手段で収集された当該筐体の内部に漏れ込んでくる第1のノイズ信号が入力され、前記第1のノイズ信号から所定のキャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第1のノイズ低減信号を形成する第1の信号処理手段と、
ユーザの耳部に装着される前記筐体の外部に設けられた第2の音声集音手段で収集されたノイズ源からの第2のノイズ信号とが入力され、前記第2のノイズ信号から前記キャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第2のノイズ低減信号を形成する第2の信号処理手段と、
音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成手段と、
前記合成手段で合成された信号を増幅処理する増幅手段と、
前記増幅手段からの合成された信号を出力する出力手段と、
を備えたノイズキャンセリング装置。
【請求項2】
前記第1の信号処理手段と、前記第2の信号処理手段とは、
入力されたノイズ信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換手段と、
前記アナログ/デジタル変換手段からのデジタル信号とされたノイズ信号の供給を受けて、演算によりノイズ低減信号を形成する演算処理手段と、
前記演算処理手段により形成されたデジタル信号であるノイズ低減信号をアナログ信号に変換するデジタル/アナログ変換手段と、
からなるデジタルフィルタ回路の構成としたものである請求項1に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項3】
前記第1の信号処理手段と前記第2の信号処理手段とにおいて、前記演算処理手段と、前記デジタル/アナログ変換手段とを共通に用いる請求項2に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項4】
前記第1のノイズ信号を前記第1の信号処理手段に供給するか、前記音声信号を前記第1の信号処理手段に供給するかを切り換える切換手段を備え、
前記切換手段が、前記音声信号を前記第1の信号処理手段に供給するように切り換えられた場合には、前記第1の信号処理手段は、前記音声信号に対してイコライザとして機能する請求項1に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項5】
前記第2のノイズ信号を前記第2の信号処理手段に供給するか、前記音声信号を前記第2の信号処理手段に供給するかを切り換える切換手段を備え、
前記切換手段が、前記音声信号を前記第2の信号処理手段に供給するように切り換えられた場合には、前記第2の信号処理手段は、前記音声信号に対してイコライザとして機能する請求項1に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項6】
前記第1の信号処理手段と、前記第2の信号処理手段と、前記合成手段は、
前記第1のノイズ信号をデジタル信号に変換する第1のアナログ/デジタル変換手段と、
前記第2のノイズ信号をデジタル信号に変換する第2のアナログ/デジタル変換手段と、
前記音声信号をデジタル信号に変換する第3のアナログ/デジタル変換手段と、
前記第1及び第2のアナログ/デジタル変換手段からのデジタル信号とされた前記第1及び第2のノイズ信号の供給を受けて、デジタルフィルタ演算により前記第1及び第2のノイズ低減信号を形成するとともに、該第1及び第2のノイズ低減信号と、前記第3のアナログ/デジタル変換手段からのデジタル信号とされた前記音声信号とを用いた信号合成を行う演算処理手段と、
前記演算処理手段で合成されたデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル/アナログ変換手段と、
により形成される請求項1に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項7】
イコライザを備え、
前記音声信号は、前記イコライザで調整処理されて、前記合成手段に供給される請求項1に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項8】
前記第1及び第2のアナログ/デジタル変換手段、及び前記デジタル/アナログ変換手段は、変換方式としてΣ・Δ方式を用いている請求項6に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項9】
前記演算処理手段では、FIRフィルタ演算処理により、前記第1及び第2のノイズ低減信号を形成する請求項6に記載のノイズキャンセリング装置。
【請求項10】
ユーザの耳部に装着される筐体の内部に設けられた第1の音声集音手段で収集された当該筐体の内部に漏れ込んでくる第1のノイズ信号から、所定のキャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第1のノイズ低減信号を形成する第1の信号処理ステップと、
ユーザの耳部に装着される前記筐体の外部に設けられた第2の音声集音手段で収集されたノイズ源からの第2のノイズ信号から、前記キャンセルポイントにおいてのノイズを低減させるための第2のノイズ低減信号を形成する第2の信号処理ステップと、
音声信号に対し、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号の少なくとも一方を合成する信号合成と、前記第1のノイズ低減信号と前記第2のノイズ低減信号とを合成する信号合成とを、選択的に行う合成ステップと、
前記合成ステップで合成された信号を増幅処理する増幅ステップと、
前記増幅ステップで合成された信号を出力する出力ステップと、
を備えたノイズキャンセリング方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-02-14 
結審通知日 2018-02-16 
審決日 2018-02-27 
出願番号 特願2012-230081(P2012-230081)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (G10K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邊 正宏  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 國分 直樹
関谷 隆一
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5742815号(P5742815)
発明の名称 ノイズキャンセリング装置、ノイズキャンセリング方法  
代理人 中川 裕人  
代理人 中川 裕人  
代理人 岩田 雅信  
代理人 岩田 雅信  

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