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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01M |
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管理番号 | 1338487 |
審判番号 | 不服2017-7997 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-05 |
確定日 | 2018-04-03 |
事件の表示 | 特願2011-278139「高温電子監視システム用ハブユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月12日出願公開、特開2012-132916、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、平成23年12月20日(パリ条約による優先権主張2010年12月23日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月8日付けで翻訳文が提出され、平成27年7月17日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月25日付けで手続補正がなされ、平成28年6月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年12月29日付けで手続補正がなさたれたが、平成29年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年6月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、平成29年7月25日付けで手続補正(方式)(審判請求書の請求の理由の変更)がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年2月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1-10 ・引用文献1-2 引用文献1.特開2006-165737号公報 引用文献2.特開平06-094576号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-9に係る発明は、平成29年6月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 運転中のガスタービンエンジン(108)のエンジン性能パラメータを検知してアナログセンサ出力を生成するため該エンジン(108)上に装着されるセンサ(20)を含むエンジン性能パラメータを監視するための監視システム(10)において使用するよう適応されたハブユニット(14)であって、 ハウジング(44)と、 前記ハウジング(44)内の制御回路ボード(22)及び少なくとも1つの信号調整回路ボード(24)と、 を備え、前記信号調整回路ボード(24)が前記センサ(20)からアナログセンサ出力を受けるように適応され、前記制御回路ボード(22)が、前記信号調整回路ボード(24)に接続され且つ前記アナログセンサ出力に対応するデジタルデータを生成するよう適応されており、 前記制御回路ボード(22)及び前記信号調整回路ボード(24)が、アナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素を備え、前記電気回路構成要素は、経年変化並びに前記ハブユニット(14)が受ける温度変化に応答して精度がドリフトする特性を有し、 前記ハブユニット(14)が更に、 標準電圧及びゼロ電圧を前記信号調整回路ボード(24)に周期的に印加して、前記制御回路ボード(22)及び前記信号調整回路ボード(24)の電気回路構成要素のドリフトにより生じる前記アナログ信号処理経路における誤差を決定及び除去することによる連続較正方式を実施する手段(22)と、 前記信号調整回路ボード(24)上で、前記センサ(20)によって発生する複数の前記アナログセンサ出力を多重化して、個々の多重アナログ出力を生成する手段(60、62、64)と、 前記個々の多重アナログ出力のアナログセンサ出力をスケール調整し、対応するデジタルデータが生成される個々の調整済み多重アナログ出力を生成するため、調整可能ゲイン(64)を備えた少なくとも1つの増幅器(62)とを備え、 前記増幅器(62)及び調整可能ゲイン(64)が、前記制御回路ボード(22)により制御され、前記増幅器(62)が差動増幅器であり、全ての電圧をA/D変換に必要な正のみの電圧範囲にスケール調整する、ハブユニット(14)。」 なお、本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2006-165737号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、制御対象から入力されるアナログ信号を所定の周期でサンプリングするプログラマブルロジックコントローラー用のアナログ信号処理装置に関する。詳しくは、アナログ信号処理装置における温度補正機能の改良に関する。」 「【0006】 また、A/D変換器は、周囲温度によって出力が変動する温度特性を有するので、その温度特性を補償する必要がある。つまり、周囲温度が変化すると、同じアナログ入力電圧であってもA/D変換器から出力されるディジタルデータがわずかに変動し、そのままでは精密な測定を行うことが難しい。温度特性の補償(以下、温度補正という)のためには、基準電圧(基準アナログ信号)をA/D変換器に入力する必要がある。例えば、オフセット補正値及びゲイン補正値に対応する基準電圧をA/D変換器に与え、そのディジタル出力がオフセット補正値及びゲイン補正に一致するように温度補正を行えばよい。」 「【0020】 以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。 【0021】 図1は、本発明の実施例に係るアナログ信号処理装置であるアナログ入力ユニットを用いたプログラマブルロジックコントローラー(PLC)の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、CPUユニット1とアナログ入力ユニット2とが接続され、制御対象からのアナログ信号がアナログ入力ユニット2に入力されている。制御対象として、例えば光電センサー、圧力センサー等の各種センサー装置が接続され、その出力信号であるアナログ信号(電圧、電流等)がアナログ入力ユニット2に入力される。 【0022】 アナログ入力ユニット2は、アナログ回路21、処理部22、データ収集メモリ23、スレーブASIC24を内蔵している。制御対象からアナログ入力ユニット2に入力されたアナログ信号は、所定のサンプリング周期ごとにアナログ回路21でA/D変換され、その出力(ディジタルデータ)が処理部22に与えられる。処理部22は、そのディジタルデータに演算を行い、サンプリング周期ごとのディジタル値を出力する。この演算には、A/D変換器のオフセット補正及びゲイン補正が含まれる。」 「【0025】 なお、CPUユニット1がアナログ入力ユニット2とバス通信を行ってバッファメモリ241に記憶されているディジタル値を読み出すタイミングとして、制御サイクルに1回の定期的なタイミングの他に、ユーザーの指令にしたがって読み出すタイミングもある。ユーザーは、例えばタッチパネルを用いたプログラム表示器を操作してCPUユニット1に指令を与えることができる。」 「【0026】 図2は、アナログ入力ユニット中のアナログ回路及び処理部の内部構成を示すブロック図である。通常、複数のアナログ回路21が処理部22に接続され、複数の制御対象から複数のアナログ信号を同時に(並行して)入力できるように構成される。図示の例では、2チャンネルのアナログ回路21が処理部22に接続されている。なお、複数のアナログ回路21は互いに絶縁され、各アナログ回路21には個別の絶縁された電源が内蔵されている。また、各アナログ回路21と処理部22とはフォトカップラ25で接続され、電気的に両者が絶縁された状態で、アナログ回路21の出力(ディジタル信号)が処理部22へ渡される。 【0027】 アナログ回路21は、基準電圧発生回路(VREF)211、マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213及びA/D変換器(ADC)214を内蔵している。基準電圧発生回路211は、A/D変換器214のばらつき補正及び温度補正のための基準電圧(基準アナログ信号)を発生する基準アナログ信号発生部に相当する。マルチプレクサ212は、制御対象からのアナログ信号入力と基準電圧発生回路211からの基準電圧とを択一的に切り替える働きを有する。マルチプレクサ212から出力されたアナログ電圧信号は増幅器213で増幅された後、A/D変換器214でディジタル信号(データ)に変換され、アナログ回路21からの出力となる。この出力は、フォトカップラ25を介して処理部22に渡される。 【0028】 処理部22は、ディジタル値演算部221、サンプリング周期設定部222、温度補正実行部223、温度補正指令部224及び記憶部225を有する。例えば処理部22の全体がマイクロコンピュータで構成される場合、上記の各部はマイクロコンピュータのハードウェア及びソフトウェアによって構成される。ディジタル値演算部221は、アナログ回路21のA/D変換器214から与えられたディジタルデータにオフセット補正及びゲイン補正を施してサンプリング周期ごとのディジタル値を出力する。したがって、A/D変換器214及びディジタル値演算部221が、サンプリング周期ごとにアナログ信号をA/D変換し、所定のオフセット及びゲインにしたがってディジタル値を出力するAD変換部に相当する。」 「【0031】 そこで、例えば工場出荷時の検査工程等において、アナログ入力として0V(下限値)及び10V(上限値)を与えたときのディジタル出力d及びD2から切片d及び傾きβ(=(D2-d)/10)を求めることができる。これらの値がオフセット補正値及びゲイン補正値として記憶される。ディジタル値演算部221は、これらの補正値に基づいて、測定時に得られるA/D変換器214の出力のばらつき補正(オフセット補正及びゲイン補正)を実行する。 【0032】 上記の例における0V(下限値)及び10V(上限値)は、図2における各アナログ回路21の基準電圧発生回路211によって発生される。また、マルチプレクサ212の入力は基準電圧発生回路211側に切り替えられてオフセット補正値及びゲイン補正値の取得が実行される。処理部22のディジタル値演算部221(又は記憶部225)には、複数のアナログ回路21のオフセット補正値及びゲイン補正値がチャンネルごとに記憶される。なお、オフセット補正及びゲイン補正の具体的な演算方法については説明を省略するが、その概念は図3を用いて説明した通りである。また、記憶されるオフセット補正値及びゲイン補正値についても、上記の例示に限らず、種々の形態が考えられる。」 「【0033】 上記のように工場出荷時の検査工程等において行われるオフセット補正値及びゲイン補正値の取得と記憶は、管理された所定温度(例えば室温25℃)において行われる。そして、A/D変換器214の出力が周囲温度によって変動する温度特性を有するので、その補償(温度補正)を行う必要がある。つまり、所定温度で基準電圧から得られた第1基準ディジタル値を記憶部225に記憶しておき、測定時に所定の温度補正周期ごとに基準電圧から得られた第2基準ディジタル値が第1基準ディジタル値に等しくなるように、オフセット補正値及びゲイン補正値を補正することによって温度補正を行う。この温度補正を実行するのが温度補正実行部223であり、温度補正の実行を温度補正実行部223に指令するのが温度補正指令部224である。」 「【0041】 上記のように、本実施例によれば、温度補正指令部224は、サンプリング周期Tsの設定値がサンプリング単位時間Taの3倍以上であれば温度補正周期Ttごとに温度補正用データ(第2基準ディジタル値の取得)を指令する。温度補正実行部223は、温度補正指令部224からの指令に従って、通常のデータ取得が終了した後のサンプリング周期Tsにおける残り時間を有効に用いて、オフセット温度補正用データ及びゲイン温度補正用データを続けて取得することができる。したがって、測定データの欠落を回避しながら温度補正を迅速に行うことができる。」 したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「制御対象から入力されるアナログ信号を所定の周期でサンプリングするプログラマブルロジックコントローラー用のアナログ信号処理装置(段落【0001】より。以下同様。)であって、 アナログ信号処理装置であるアナログ入力ユニットは、CPUユニット1と接続され、各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号(電圧、電流等)がアナログ入力ユニットに入力され(【0021】)、 アナログ入力ユニット2は、アナログ回路21、処理部22を内蔵し、制御対象からアナログ入力ユニット2に入力されたアナログ信号は、所定のサンプリング周期ごとにアナログ回路21でA/D変換され、その出力(ディジタルデータ)が処理部22に与えられ、処理部22は、そのディジタルデータに演算を行い、サンプリング周期ごとのディジタル値を出力し、この演算には、A/D変換器のオフセット補正及びゲイン補正が含まれ(【0022】)、 CPUユニット1はアナログ入力ユニット2とバス通信を行ってディジタル値を読み出し(【0025】)、 アナログ入力ユニット中のアナログ回路及び処理部の内部では、複数のアナログ回路21が処理部22に接続され、複数の制御対象から複数のアナログ信号を同時に(並行して)入力できるように構成され、アナログ回路21の出力(ディジタル信号)が処理部22へ渡され(【0026】)、 アナログ回路21は、基準電圧発生回路(VREF)211、マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213及びA/D変換器(ADC)214を内蔵し、基準電圧発生回路211は、A/D変換器214のばらつき補正及び温度補正のための基準電圧(基準アナログ信号)を発生する基準アナログ信号発生部に相当し、マルチプレクサ212は、制御対象からのアナログ信号入力と基準電圧発生回路211からの基準電圧とを択一的に切り替える働きを有し、マルチプレクサ212から出力されたアナログ電圧信号は増幅器213で増幅された後、A/D変換器214でディジタル信号(データ)に変換され、アナログ回路21からの出力となり、この出力は、処理部22に渡され(【0027】)、 0V(下限値)及び10V(上限値)が、各アナログ回路21の基準電圧発生回路211によって発生され、マルチプレクサ212の入力は基準電圧発生回路211側に切り替えられてオフセット補正値及びゲイン補正値の取得が実行され(【0032】)、 処理部22は、ディジタル値演算部221、サンプリング周期設定部222を有し、ディジタル値演算部221は、アナログ回路21のA/D変換器214から与えられたディジタルデータにオフセット補正及びゲイン補正を施してサンプリング周期ごとのディジタル値を出力し(【0028】)、 A/D変換器214の出力が周囲温度によって変動する温度特性を有するので、その補償(温度補正)を行う必要があり、オフセット補正値及びゲイン補正値を補正することによって温度補正を行ない(【0033】)、 通常のデータ取得が終了した後のサンプリング周期Tsにおける残り時間を有効に用いて、オフセット温度補正用データ及びゲイン温度補正用データを続けて取得することができ、測定データの欠落を回避しながら温度補正を迅速に行うことができる(【0041】)、 温度補正機能を備えるアナログ信号処理装置(【0001】)。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開平06-094576号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0008】 【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。 【0009】図1において、1はジェットエンジンの試験設備で、この試験設備1はジェットエンジン2を取付けるためのアダプタ3を備えている。このアダプタ3は天井に架設したレール4に懸垂支持されて走行する走行装置5の下部に設けられ、ジェットエンジン2は図示しない準備室でアダプタ3に取付けられ、走行装置5により試験室6に搬送されるようになっている。 【0010】試験室6には上記走行装置5を位置決め固定する試験ステーション7が設けられ、この試験ステーション7にはアダプタ3を介して得られるエンジン運転時の情報を検出するセンサ8およびシグナルコンディショナ9が配置されている。センサ8は、ジェットエンジン2から導かれた圧力等の物理量を電気信号に変換する機器で、シグナルコンディショナ9はジェットエンジン2から温度センサ等を介して得られる電気信号を後述の制御部10で処理し易い別の電気信号に変換する機器である。」 したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「ジェットエンジンの試験設備1はジェットエンジン2を取付けるためのアダプタ3を備え、ジェットエンジン2は試験室6に搬送され、試験室6には試験ステーション7が設けられ、この試験ステーション7にはアダプタ3を介して得られるエンジン運転時の情報を検出するセンサ8およびシグナルコンディショナ9が配置され、センサ8は、ジェットエンジン2から導かれた圧力等の物理量を電気信号に変換する機器で、シグナルコンディショナ9はジェットエンジン2から温度センサ等を介して得られる電気信号を後述の制御部10で処理し易い別の電気信号に変換する機器である、試験設備1。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 ア 引用発明における「各種センサー装置」は、「アナログ信号(電圧、電流等)」を「出力信号」としているから、本願発明1における「アナログセンサ出力を生成するため」の「センサ(20)」に相当する。 イ 引用発明の「アナログ入力ユニット」が、「複数の制御対象から複数のアナログ信号を同時に(並行して)入力できるように構成され」ていることが、本願発明1における「前記センサ(20)からアナログセンサ出力を受けるように適応され」ていることに相当する。 ウ 引用発明の「増幅器(AMP)213」が、本願発明1における「制御回路ボード」が備える「1つの増幅器(62)」に相当する。 また、引用発明では「各種センサー装置の出力信号である」「アナログ電圧信号は増幅器213で増幅された後、A/D変換器214でディジタル信号(データ)に変換され」ているのであるから、引用発明における「増幅器(AMP)213」が、本願発明1における(制御回路ボード(22)及び信号調整回路ボード(24)の両方に跨がる)「アナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素」の一つに相当することは明らかである。 また、「増幅器(AMP)213」が周囲温度によって出力がドリフトす温度特性を有すること技術常識であるから、このことと、本願発明1における「前記電気回路構成要素が」「温度変化に応答して精度がドリフトする特性を有」することは、「前記電気回路構成要素が」「温度変化に応答して出力がドリフトする特性を有」する点で共通するといえる。 エ 引用発明における「A/D変換器(ADC)214」は、「制御対象からのアナログ信号入力」つまり、「各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号」を「ディジタル信号(データ)に変換」しているから、本願発明1における(制御回路ボード(22)及び信号調整回路ボード(24)の両方に跨がって)「前記アナログセンサ出力に対応するデジタルデータを生成する」「アナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素」の一つに相当する。 オ 引用発明における「A/D変換器214の出力が周囲温度によって変動する温度特性を有する」ことと、本願発明1における「前記電気回路構成要素」が「温度変化に応答して精度がドリフトする特性を有」することとは、「前記電気回路構成要素」が「温度変化に応答して出力がドリフトする特性を有」する点で共通する。 カ 引用発明における「アナログ入力ユニット」は、「複数の制御対象から複数のアナログ信号を同時に(並行して)入力できるように構成され」、「「CPUユニット1はアナログ入力ユニット2とバス通信を行ってディジタル値を読み出し」ているから、引用発明における「アナログ入力ユニット」が、複数の制御対象からの複数のアナログ信号を集約する「ハブ」の機能を有していることは明らかである。 よって、引用発明における「アナログ入力ユニット」が、本願発明1における「ハブユニット(14)」に相当するといえる。 キ 引用発明における「複数のアナログ回路21」は、各「アナログ回路21」が「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」を内蔵している。そして、「増幅器(AMP)213」による増幅は、通常、その後段の「A/D変換器214」の入力レベルを調整するために行われるものである。よって、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各々において、各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」からなる回路部分と、本願発明1における「信号調整回路ボード」とは、「信号調整回路」の点で共通するといえる。 ク 上記「イ」を踏まえると、引用発明における各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」からなる回路部分が、「各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号」を入力できるように構成されていることは、引用文献1の図2に記載されているとおり、明らかであるから、上記「キ」を踏まえると、引用発明における各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」がアナログ信号を入力できるように構成されていることと、本願発明1における「前記信号調整回路ボード(24)が前記センサ(20)からアナログセンサ出力を受けるように適応され」ていることは、「前記信号調整回路が前記センサ(20)からアナログセンサ出力を受けるように適応され」ている点で共通するといえる。 ケ 引用発明における「処理部22」は、「ディジタル値演算部221、サンプリング周期設定部222を有し」、「A/D変換され」た「ディジタルデータに演算を行い、サンプリング周期ごとのディジタル値を出力し」ている。よって、引用発明における「処理部22」が「サンプリング周期」等の各種の制御を行っていることは明らかである。 これに対し、本願発明1における「制御回路ボード」について、本願明細書の段落【0019】には「・・・プロセッサ制御ボード22は、・・・マイクロプロセッサ46を備えるように表され、・・・・マイクロプロセッサ46は・・・センサ20の個々の信号チャンネル又は信号チャンネルのブロックのどれが読み出されるか、データ収集のタイミング、・・・アナログ-デジタル変換、・・・、並びにデジタルデータの収集、・・・を制御/選択する。」(下線は、強調のため、当審で付与した。)と記載されているから、本願発明1における「制御回路ボード」は、アナログ-デジタル変換を行ない、またデータ収集のタイミングの制御を行なうものとされている。 よって、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に「内蔵」された「A/D変換器(ADC)214」、及び「処理部22」と、本願発明1における「制御回路ボード」とは「制御回路」の点で共通するといえる。 コ 引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に「内蔵」された「A/D変換器(ADC)214」、及び「処理部22」は、「増幅器213」(上記「キ」のとおり、本願発明1における「信号調整回路」の一つの回路要素に相当する。)に接続され、且つ「各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号」を「ディジタル信号(データ)に変換」している。 よって、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に「内蔵」された「A/D変換器(ADC)214」、及び「処理部22」が、「増幅器213」(上記「キ」のとおり、本願発明1における「信号調整回路」の一つの回路要素に相当する。)に(電気的に)接続され、且つ「各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号」を「ディジタル信号(データ)に変換」することと、本願発明1における「前記制御回路ボード(22)が、前記信号調整回路ボード(24)に接続され且つ前記アナログセンサ出力に対応するデジタルデータを生成するよう適応されて」いることとは「前記制御回路が、前記信号調整回路に接続され且つ前記アナログセンサ出力に対応するデジタルデータを生成するよう適応されて」いる点で共通するといえる。 サ 引用発明における「10V(上限値)」及び「0V(下限値)」は、引用文献1の段落【0008】に記載された「ゲイン補正値に対応する基準電圧」及び「オフセット補正値」「に対応する基準電圧」であるから、本願発明1における「標準電圧及びゼロ電圧」に相当する。 シ 引用発明では、「通常のデータ取得が終了した後のサンプリング周期Tsにおける残り時間」において、「0V(下限値)及び10V(上限値)」が「A/D変換器214のばらつき補正及び温度補正のため」に「基準電圧発生回路211によって発生され、マルチプレクサ212の入力は基準電圧発生回路211側に切り替えられ」、「オフセット温度補正用データ及びゲイン温度補正用データを続けて取得することができ、測定データの欠落を回避しながら温度補正を迅速に行」なわれている。 よって、引用発明における「温度補正」は、データ取得のサンプリング周期における残り時間を利用することによって、データ取得のサンプリング周期ごとに、つまりデータ取得と並行して、連続的に行われているから、引用発明における「温度補正」の方式は、本願発明1における「連続較正方式」に相当するといえる。 ス (ア)本願のFIG.4及びFIG.3には、「フルスケール」及び「GND」(本願発明1における、較正用の「標準電圧及びゼロ電圧」に対応する)を、計測用増幅器を介してA/Dコンバータに入力することが示されている。 (イ)これに対し、引用発明では、「マルチプレクサ212は、制御対象からのアナログ信号入力と基準電圧発生回路211からの基準電圧とを択一的に切り替える働きを有し、マルチプレクサ212から出力されたアナログ電圧信号は増幅器213で増幅された後、A/D変換器214でディジタル信号(データ)に変換され、アナログ回路21からの出力とな」っているから、「マルチプレクサ212」が「基準電圧発生回路211からの基準電圧」に「切り替え」た場合には、「マルチプレクサ212から出力された」「基準電圧発生回路211からの基準電圧」が「増幅器213で増幅された後、A/D変換器214でディジタル信号(データ)に変換され」ることになる。 よって、引用発明における「基準電圧」(「0V(下限値)及び10V(上限値)」)を用いた「温度補正」は、「A/D変換器214」だけでなく、「増幅器213」による出力のドリフト(上記「ウ」参照)についても行われていることになる。 (エ)よって、上記「ウ」、「オ」、「キ」、「ク」、「ケ」及び「シ」を踏まえると、引用発明の「アナログ入力ユニット」において、「0V(下限値)及び10V(上限値)」が 「サンプリング周期Tsにおける残り時間」ごとに 「マルチプレクサ212の入力」とされ、「A/D変換器214のばらつき補正及び温度補正」が「測定データの欠落を回避しながら」行うことができるようにする「温度補正機能」のための手段と、本願発明1における「標準電圧及びゼロ電圧を前記信号調整回路ボード(24)に周期的に印加して、前記制御回路ボード(22)及び前記信号調整回路ボード(24)の電気回路構成要素のドリフトにより生じる前記アナログ信号処理経路における誤差を決定及び除去することによる連続較正方式を実施する手段(22)」とは、「標準電圧及びゼロ電圧を前記信号調整回路に周期的に印加して、前記制御回路及び前記信号調整回路の電気回路構成要素のドリフトにより生じる前記アナログ信号処理経路における誤差を決定及び除去することによる連続較正方式を実施する手段(22)」の点で共通するといえる。 セ 上記「キ」を踏まえると、引用発明における「複数のアナログ回路21」の個々の各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」からなる回路部分が、「複数の制御対象から」「各種センサー装置の出力信号」として「アナログ入力ユニット」に「同時に(並行して)入力」された「複数のアナログ信号」の個々の「アナログ信号」を、個々に「増幅器213」で増幅することと、本願発明1における「前記信号調整回路ボード(24)上で、前記センサ(20)によって発生する複数の前記アナログセンサ出力を多重化して、個々の多重アナログ出力を生成する手段(60、62、64)と、前記個々の多重アナログ出力のアナログセンサ出力をスケール調整し、対応するデジタルデータが生成される個々の調整済み多重アナログ出力を生成するため、調整可能ゲイン(64)を備えた少なくとも1つの増幅器(62)とを備え、前記増幅器(62)及び調整可能ゲイン(64)が、前記制御回路ボード(22)により制御され、前記増幅器(62)が差動増幅器であり、全ての電圧をA/D変換に必要な正のみの電圧範囲にスケール調整する」こととは、「信号調整回路が、少なくとも1つの増幅器(62)とを備え」る点で共通する。 したがって、引用発明と本願発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「ハブユニット(14)であって、 制御回路及び少なくとも1つの信号調整回路と、 を備え、前記信号調整回路が前記センサ(20)からアナログセンサ出力を受けるように適応され、前記制御回路が、前記信号調整回路に接続され且つ前記アナログセンサ出力に対応するデジタルデータを生成するよう適応されており、 前記制御回路及び前記信号調整回路が、アナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素を備え、前記電気回路構成要素は、前記ハブユニット(14)が受ける温度変化に応答して出力がドリフトする特性を有し、 前記ハブユニット(14)が更に、 標準電圧及びゼロ電圧を前記信号調整回路に周期的に印加して、前記制御回路及び前記信号調整回路の電気回路構成要素のドリフトにより生じる前記アナログ信号処理経路における誤差を決定及び除去することによる連続較正方式を実施する手段(22)と、 前記信号調整回路が、少なくとも1つの増幅器(62)とを備え、 る、ハブユニット(14)。」 (相違点1) 本願発明1における「ハブユニット(14)」は、「アナログセンサ出力を生成するためセンサ(20)を含んで使用するよう適応され」、「運転中のガスタービンエンジン(108)のエンジン性能パラメータを検知してアナログセンサ出力を生成するため該エンジン(108)上に装着されるセンサ(20)を含むエンジン性能パラメータを監視するための監視システム(10)において使用するよう適応され」ているのに対し、引用発明では、「アナログ入力ユニット2」が、複数の制御対象から複数のアナログ信号を集約する「ハブ」の機能を有していることは明らかであるものの、「プログラマブルロジックコントローラー用」の入力ユニットである点。 (相違点2) 本願発明1では、ハブユニット(14)が「ハウジング(44)」を有し、「前記ハウジング(44)」内に「制御回路ボード(22)及び少なくとも1つの信号調整回路ボード(24)」があるのに対し、 引用発明では、「アナログ入力ユニット2」がハウジングを有しているか、明らかでなく、また、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」からなる回路部分(本願発明1における「信号調整回路」に相当する)が「ボード(24)」に搭載されているか明らかでなく、また、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に「内蔵」された「A/D変換器(ADC)214」及び「処理部22」(本願発明1における「制御回路」に相当する)が「ボード(22)」に搭載されているか明らかでない点。 (相違点3) 本願発明1では、アナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素が、「経年変化」よって「精度」がドリフトする特性を有しているのに対し、引用発明では、「増幅器(AMP)213」及び「A/D変換器(ADC)214」がアナログ信号処理経路として機能する電気回路構成要素であることは明らかであるものの、「経年変化」によって「精度」がドリフトする特性を有していることは示されていない点。 (相違点4) 本願発明1では、「前記信号調整回路ボード(24)上で、前記センサ(20)によって発生する複数の前記アナログセンサ出力を多重化して、個々の多重アナログ出力を生成する手段(60、62、64)と、前記個々の多重アナログ出力のアナログセンサ出力をスケール調整し、対応するデジタルデータが生成される個々の調整済み多重アナログ出力を生成するため、調整可能ゲイン(64)を備えた少なくとも1つの増幅器(62)とを備え、前記増幅器(62)及び調整可能ゲイン(64)が、前記制御回路ボード(22)により制御され、前記増幅器(62)が差動増幅器であり、全ての電圧をA/D変換に必要な正のみの電圧範囲にスケール調整する」のに対し、 引用発明では、「各種センサー装置の出力信号であるアナログ信号(電圧、電流等)がアナログ入力ユニットに入力され」、「複数の制御対象から複数のアナログ信号を同時に(並行して)入力できるように構成され」ているものの、「複数のアナログ信号」は多重化されずに、「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」にそれぞれ入力され、また、引用発明における「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に内蔵された「マルチプレクサ(MPX)212、増幅器(AMP)213」からなる回路部分(本願発明1でいう「信号調整回路」に相当する。)は、「増幅器(AMP)213」を備えているものの、該「増幅器(AMP)213」は、多重アナログ出力を増幅するものではないから、個々の多重アナログ出力のアナログセンサ出力をスケール調整し、対応するデジタルデータが生成される個々の調整済み多重アナログ出力を生成するための、調整可能ゲインを備えておらず、また「増幅器(AMP)213」及び「調整可能ゲイン」が、「複数のアナログ回路21」の各「アナログ回路21」に「内蔵」された「A/D変換器(ADC)214」及び「処理部22」(本願発明1でいう「制御回路」に相当する。)により制御され、前記「増幅器(AMP)213」が差動増幅器であり、全ての電圧をA/D変換に必要な正のみの電圧範囲にスケール調整する構成を備えることも示されていない点。 (相違点5) 本願発明1では、「電気回路構成要素」が「温度変化に応答して精度がドリフトする特性を有」するのに対し、引用発明1では、「A/D変換器214の出力が周囲温度によって変動する温度特性を有する」ことが示され、また、「増幅器(AMP211)」の出力が周囲温度によって変動する温度特性を有することは明らかであるものの、「精度」が変動すると示されているわけではない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み、上記相違点4について判断する。 「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、「ジェットエンジンの試験設備1はジェットエンジン2を取付けるためのアダプタ3を備え、ジェットエンジン2は試験室6に搬送され、試験室6には試験ステーション7が設けられ、この試験ステーション7にはアダプタ3を介して得られるエンジン運転時の情報を検出するセンサ8およびシグナルコンディショナ9が配置され、センサ8は、ジェットエンジン2から導かれた圧力等の物理量を電気信号に変換する機器で、シグナルコンディショナ9はジェットエンジン2から温度センサ等を介して得られる電気信号を後述の制御部10で処理し易い別の電気信号に変換する機器である、試験設備1。」という技術的事項が記載されている。 しかしながら、相違点4に係る本願発明1の「前記信号調整回路ボード(24)上で、前記センサ(20)によって発生する複数の前記アナログセンサ出力を多重化して、個々の多重アナログ出力を生成する手段(60、62、64)と、前記個々の多重アナログ出力のアナログセンサ出力をスケール調整し、対応するデジタルデータが生成される個々の調整済み多重アナログ出力を生成するため、調整可能ゲイン(64)を備えた少なくとも1つの増幅器(62)とを備え、前記増幅器(62)及び調整可能ゲイン(64)が、前記制御回路ボード(22)により制御され、前記増幅器(62)が差動増幅器であり、全ての電圧をA/D変換に必要な正のみの電圧範囲にスケール調整する」構成は、引用文献2に記載されていない。 また、本願発明1における上記構成は、周知技術であるとも、設計的事項であるともいえない。 したがって、本願発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2-9について 本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同一の構成を備えるものである。よって、本願発明2-9は、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1-9(なお、審判請求時の補正は、原査定における請求項1を削除し、請求項10を、請求項1とする補正である。)は、上記「相違点4に係る本願発明1の構成」を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-03-22 |
出願番号 | 特願2011-278139(P2011-278139) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 谷垣 圭二、北川 創 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
▲うし▼田 真悟 清水 稔 |
発明の名称 | 高温電子監視システム用ハブユニット |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 田中 拓人 |