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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1338522
審判番号 不服2016-7570  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-24 
確定日 2018-03-14 
事件の表示 特願2012-555139「調節可能な繰り返し率を有する高出力のフェムト秒レーザ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日国際公開、WO2011/106498、平成25年 6月 6日国内公表、特表2013-520846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)2月24日(パリ条約による優先権主張 2010年2月24日(以下、「優先日」という。)米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年10月 4日 国際出願翻訳文の提出
平成26年 2月21日 手続補正書の提出
平成27年 2月 4日付け 拒絶理由の通知
平成27年 8月10日 意見書、誤訳訂正書の提出
平成28年 1月13日付け 拒絶査定(同年同月26日送達)
平成28年 5月24日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成28年5月24日付け手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成28年5月24日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、そのうち特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成27年8月10日付けの誤訳訂正書)の請求項1に、

「繰り返し率可変のレーザ・エンジンであって、
フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、
前記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、
前記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器と、を備えるレーザ・エンジンであって、
前記伸張器/圧縮器は、前記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、
前記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、
前記増幅器は、光学的構成要素により引き起こされた前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器と、50kHzから1MHzの範囲内の繰り返し率で作用するように構成された切換え可能な電気光学的偏光子と、を備え、
前記レーザ・エンジンが0.1Wよりも大きな出力パワーを以ってレーザ光線を出力する、
レーザ・エンジン。」
とあったものを、

「繰り返し率可変のレーザ・エンジンであって、
フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、
前記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、
前記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器と、を備えるレーザ・エンジンであって、
前記伸張器/圧縮器は、前記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、
前記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、
前記増幅器は、光学的構成要素により引き起こされた前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器と、50kHzから1MHzの範囲内の繰り返し率で作用するように構成された切換え可能な電気光学的偏光子と、を備え、往復の間において前記増幅器の光学的構成要素により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入し、
前記レーザ・エンジンが0.1Wよりも大きな出力パワーを以ってレーザ光線を出力する、
レーザ・エンジン。」

と補正することを含むものである(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

2 補正の適否
補正前の「分散補償器」について、「往復の間において前記増幅器の光学的構成要素により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入し」、とする限定する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に本件補正後の請求項1として記載されたとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項、引用発明、技術事項
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、米国特許第5499134号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、原文の後に日本語訳(当審訳)を付す。また、下線は当審で付したものである。)。
「As shown in FIG. 2, the system with a single Bragg grating 1 includes a dispersion compensator 7 to compensate the dispersion of the optical amplifier 9 or any other additional optical components on the path of the optical beam. The system with two gratings 1a and 1b, shown in FIG. 3, can also compensate for the difference of the dispersions of these two gratings 1a and 1b via a dispersion compensator 7. Such dispersion compensation can be achieved using, e.g., a suitable material, a waveguide structure, or an optical fiber with positive or negative dispersion (whichever is required in a particular system). This would allow the system to attain bandwidth limited pulses at the output of the system even with femtosecond optical pulses.」(第4欄第36行ないし第48行)
「図2に示すように、単一のブラッグ格子1を備えたシステムは、光ビームの経路上に光増幅器9または任意の他の付加的な光学構成要素の分散を補償する分散補償器7を含む。図3に示されている2つの格子1a,1bを有するシステムは、分散補償器7によって、これら2つの格子1aおよび1bの分散の相違をも補償することができる。このような分散の補正は、例えば、適正な材料、導波路構造、または正負いずれかの分散(どちらかは個々のシステムで異なる)をもつ光ファイバを用いて達成することができる。これにより、フェムト秒光パルスであっても、システムの出力においてバンド幅限界パルスが得られるシステムを可能にする。」

「Femtosecond pulses were generated with a passively mode-locked fiber laser (not shown). Initial pulses 10a had a 330 fs bandwidth-limited duration and a repetition rate of 8 MHz.」(第5欄第35行ないし第38行)
「フェムト秒パルスは、受動モードロックファイバレーザ(図示せず)で生成される。初期パルス10aは330fsの帯域幅が制限された持続期間及び8MHzの繰り返し率を有した。 」

「Embodiments with a single Bragg grating 1 for stretching and recompressing, and with a standard fiber stretcher 13 instead of the first Bragg grating (as in FIG. 5b), were also constructed; experimental results are presented in FIGS. 7a and 7b, respectively. Using two propagation directions in a single chirped Bragg grating for stretching and recompressing, 408 fs recompressed pulses were obtained for 330 fs bandwidth limited initial pulses. Thus, the grating arrangement increased the pulse width by only 20%. As shown in FIG. 7a, the pulse shape after recompression here remained essentially the same as at the input of the system. 」(第6欄第6行ないし第16行)
「(図5bにおけるように)伸長と再圧縮のための単一のブラッグ格子1と、第1のブラッグ格子の代わりの標準ファイバ伸長器13とを有する実施形態も構築した。実験結果は図7aおよび図7bにそれぞれ示されている。伸長と再圧縮のために、単一のチャープ・ブラッグ格子における2方向の伝搬を使用して、330fsの帯域幅に制限された初期パルスに対して、再圧縮された408fsのパルスが得られた。したがって、格子装置はパルス幅を20%増加させただけである。図7aに示すように再圧縮後のパルス形状は、システムの入力において本質的に同じままであった。 」

「1.An apparatus for amplifying an optical pulse, comprising:
generating means for generating an optical pulse;
spreading means, optically connected to said generating means, for reducing the peak amplitude of said optical pulse and increasing the duration of said optical pulse;
amplifying means, optically connected to said spreading means, for increasing the amplitude of said optical pulse after said optical pulse is output from said spreading means; and
recompressing means, optically connected to the output of said amplifying means, for decreasing the duration of said optical pulse after said optical pulse is output from said amplifying means;
wherein at least one of said spreading and recompressing means comprises a chirped Bragg grating.」(第6欄第51行ないし末行)
「1.光パルスを増幅するための装置であって、
光パルスを生成する発生手段と、
前記発生手段に光学的に接続され、前記光パルスのピーク振幅を減少させ、前記光パルスの持続時間を増加させるための伸張手段と、
前記伸張手段に光学的に接続され、前記光パルスが前記伸張手段から出力された後、前記光パルスの振幅を増大させるための増幅手段と、
前記増幅手段の出力に光学的に接続され、前記光パルスが前記増幅手段から出力された後、前記光パルスの持続時間を減少させる再圧縮手段と、
を備え、
前記伸張手段及び再圧縮手段の少なくとも1つは、チャープ・ブラッグ格子を備えている、
光パルスを増幅するための装置。 」

Fig.2



イ 引用発明
受動モードロックファイバレーザで生成された初期パルス10aは、発生手段で生成されたものであることを踏まえると、以上の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「光パルスを増幅するための装置であって、
光パルスを生成する発生手段と、
前記発生手段に光学的に接続され、前記光パルスのピーク振幅を減少させ、前記光パルスの持続時間を増加させるための伸張手段と、
前記伸張手段に光学的に接続され、前記光パルスが前記伸張手段から出力された後、前記光パルスの振幅を増大させるための増幅手段と、
前記増幅手段の出力に光学的に接続され、前記光パルスが前記増幅手段から出力された後、前記光パルスの持続時間を減少させる再圧縮手段と、
を備え、
前記伸張手段及び再圧縮手段の少なくとも1つは、チャープ・ブラッグ格子を備え、
光ビームの経路上に光増幅器9または任意の他の付加的な光学構成要素の分散を補償する分散補償器7を含み、
発生手段である受動モードロックファイバレーザで生成される初期パルス10aは、330fsの帯域幅が制限された持続期間を有し、
伸長と再圧縮のために、単一のチャープ・ブラッグ格子における2方向の伝搬を使用して、330fsの帯域幅に制限された初期パルスに対して、再圧縮された408fsのパルスが得られる、
光パルスを増幅するための装置。」

ウ 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、国際公開第2004/068651号(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、原文の後に日本語訳(当審訳)を付す。また、下線は当審で付したものである。)。





(第2頁第20行ないし第3頁第15行)
「さらに、増幅レーザパルスの多重回転の間に正の分散によって蓄積された全パルス持続時間の補償の場合には、特に個々のレーザパルスの回転数が一定でない場合、結合されたレーザパルスから結合レーザパルスまで変化するという問題が生じる。一方、本発明による解決策の利点は、各回転中に増幅器レーザパルスのパルス持続時間を増加させる正の分散が、循環自体においても補償され得るということである。少なくとも1つの分散補償素子の必要な負の分散は、すべてのサイクル中に発生するパルス持続時間の合計を補償するほど大きい必要はなく、増幅レーザパルスの正の分散によって個々の回路の間に生じるパルス持続時間の増加を打ち消すだけでよい。
したがって、再生増幅器における増幅レーザパルスの循環の多重度の場合、正の分散による著しいパルス持続時間の増幅は全く生じず、補償することができて、高価な手段によって補償する必要はない。」






(第12頁第20行ないし第13頁第9行)
「共振器50は、第1端部ミラー72、第2の端部ミラー74と、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許第0632551号に記載されているように、例えば、冷却器78によって冷却可能な薄い円板の形態のレーザ活性媒体76とを含む。
さらに、薄膜ポラライザ68と第1端部ミラー72との間の共振器50内に、例えば、いわゆるプッシュ/プル回路によって制御することができる結合要素としてポッケルスセル80が配置され、制御素子82のトリガーは、端部ミラー74に関連するフォトダイオード75や、フォトダイオード26から受信する。」




(第15頁第4行ないし第7行)
「ポッケルスセル80は、最初に結合されたシードレーザパルス20が約100倍以上、より好ましくは約150倍以上に増幅されるように駆動ユニット82によって制御される。」






(第15頁第16行ないし第16頁第3行)
「このため、循環増幅器レーザパルス60によって貫通された分散補償素子は、共振器50内に直接設けられ、共振器50の個々の要素、特にポッケルスセル80の正の分散を補償する負の分散を有する。そのような分散補償素子は、例えば、ポッケルスセルによって生成された正の分散の補償を共に可能にする、いわゆるGires Tournois干渉ミラーとして設計された、第1の端部ミラー72、偏向要素86および偏向要素98である。」




(第16頁第7行ないし第12行)
「共振器50の残りの構成要素の分散に応じて、対応する数および対応する分散の分散補償素子を提供することが可能になり、各回転時に直ちに共振器50を循環する増幅器レーザパルス60の分散を補償することが可能となり、シードレーザパルス20のパルス持続時間を維持することができる。」






(第16頁第20行ないし第17頁第2行)
「好ましくは、結合されたレーザパルス70の高い繰り返し率を得る為に、ポッケルスセル80は、周波数が数キロヘルツ、好ましくは1?10kHzまたはそれ以上のサイクルで動作される。」




エ 引用文献2に記載された技術事項
Fig.1には、共振器50を構成する第1の端部ミラー72と第2の端部ミラー74の経路中に、ポッケルスセル80、偏向要素86、偏向要素98、活性媒体76が配置されていることが図示されており、分散補償素子(いわゆるGires Tournois干渉ミラーとして設計された、第1の端部ミラー72、偏向要素86および偏向要素98)が共振器50内に直接設けられていることが読み取れる。

これらのことから、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「増幅レーザパルスの多重回転の間に正の分散によって蓄積された全パルス持続時間の補償の場合、特に個々のレーザパルスの回転数が一定でない場合には、問題が生じることから、
分散補償素子は、共振器50内に直接設け、
各回転時に直ちに共振器50を循環する増幅器レーザパルス60の分散を補償する。
ここで、分散補償素子は、例えば、ポッケルスセルによって生成された正の分散の補償を共に可能にする、いわゆるGires Tournois干渉ミラーとして設計された、第1の端部ミラー72、偏向要素86および偏向要素98である。」(以下、「技術事項(ア)」という。)

「共振器50内に、シードレーザパルスが増幅されるように10kHzまたはそれ以上のサイクルで動作されるポッケルスセル80が配置されること。」(以下、「技術事項(イ)」という。)

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の装置は、「ファイバレーザで生成され」た「光パルスを増幅するための装置」であるから、本件補正発明の「レーザ・エンジン」に相当する。

引用発明の「発生手段である受動モードロックファイバレーザで生成される初期パルス10aは、330fsの帯域幅が制限された持続期間を有」することは、本件補正発明の「フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器」を引用発明の発生手段は有しているといえる。

引用発明の「光パルスの持続時間を増加させるための伸張手段」と「光パルスの持続時間を減少させる再圧縮手段」は、本件補正発明の「前記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器」に相当する。

引用発明の「前記伸張手段に光学的に接続され、前記光パルスが前記伸張手段から出力された後、前記光パルスの振幅を増大させるための増幅手段」は、本件補正発明の「前記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器」に相当する。

引用発明の「前記増幅手段の出力に光学的に接続され、前記光パルスが前記増幅手段から出力された後、前記光パルスの持続時間を減少させる再圧縮手段」は、「330fsの帯域幅に制限された初期パルスに対して、再圧縮された408fsのパルスが得られる」ものであるから、本件補正発明の「前記伸張器/圧縮器は、前記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、前記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力」することに相当する。

引用発明の「光増幅器9または任意の他の付加的な光学構成要素の分散を補償する分散補償器7」は、本件補正発明の「光学的構成要素により引き起こされた前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(ア)一致点
「レーザ・エンジンであって、
フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、
前記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、
前記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器と、を備えるレーザ・エンジンであって、
前記伸張器/圧縮器は、前記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、
前記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、
光学的構成要素により引き起こされた前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器を備える、
レーザ・エンジン。」

(イ)相違点1
本件補正発明は、「繰り返し率可変のレーザ・エンジン」であるのに対し、引用発明の「光パルスを増幅するための装置」は、繰り返し率可変であるか不明である点。

(ウ)相違点2
本件補正発明は、「前記増幅器は、光学的構成要素により引き起こされた前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器と、50kHzから1MHzの範囲内の繰り返し率で作用するように構成された切換え可能な電気光学的偏光子と、を備え、往復の間において前記増幅器の光学的構成要素により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入し、」ているのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(エ)相違点3
本件補正発明は「前記レーザ・エンジンが0.1Wよりも大きな出力パワーを以ってレーザ光線を出力する」のに対し、引用発明は出力が不明である点。

(4)判断
ア 事案に鑑み、相違点2について先に検討する。
引用文献2に「共振器50内に、シードレーザパルスが増幅されるように10kHzまたはそれ以上のサイクルで動作されるポッケルスセル80が配置される。」との技術事項(イ)が記載されているように、増幅手段内に電気光学的偏光子であるポッケルスセルを設け、所定のサイクルで動作させ増幅することはシードレーザパルスの増幅手段として周知技術であるといえる。そして、そのサイクルとして、「50kHzから1MHzの範囲内」とすることは、当業者が適宜設定し得るものである。
また、引用文献2に「増幅レーザパルスの多重回転の間に正の分散によって蓄積された全パルス持続時間の補償の場合、特に個々のレーザパルスの回転数が一定でない場合には、問題が生じることから、分散補償素子は、共振器50内に直接設け、各回転時に直ちに共振器50を循環する増幅器レーザパルス60の分散を補償する。ここで、分散補償素子は、例えば、ポッケルスセルによって生成された正の分散の補償を共に可能にする、いわゆるGires Tournois干渉ミラーとして設計された、第1の端部ミラー72、偏向要素86および偏向要素98である。」との技術事項(ア)が記載されている。
引用発明は、増幅手段の外である「光ビームの経路上に」「光増幅器9」「の分散を補償する分散補償器7を含」むものであるから、引用文献2に記載された技術事項(ア)の「増幅レーザパルスの多重回転の間に正の分散によって蓄積された全パルス持続時間の補償の場合」、つまり「問題が生じる」場合に相当する。
してみると、技術事項(ア)に接した当業者ならば、引用発明は問題が生じる場合であると理解して、引用発明の「光増幅器9」「の分散を補償する分散補償器7」を増幅手段内に直接設け、各回転時に直ちに増幅手段内を循環する光パルスの分散を補償するようにする動機付けがされるといえる。
ここで、「各回転時に直ちに増幅手段内を循環する光パルスの分散を補償する」ことは、相違点2に係る「往復の間において前記増幅器の光学的構成要素により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入」することを意味するものである。
以上のことから、本件補正発明の相違点2に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

イ 相違点1について検討する。
一般に、光パルスを扱う装置において、「繰り返し率可変」とすることは周知のことであり、引用発明においても同様である。
また、引用発明に引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)を適用した場合においても、「繰り返し率可変」とすることに阻害要因はない。
したがって、本件補正発明の相違点1に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 相違点3について検討する。
一般に、光パルスを扱う装置において、「増幅手段」の増幅率を可変とすることは周知のことであり、また、引用発明に引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)を適用した場合においても、「増幅手段」の増幅率を可変とすることに阻害要因はない。
そして、引用発明において、「増幅手段」の増幅率を調節して「0.1Wよりも大きな出力パワー」とすることは、当業者が適宜選択し得る設計事項である。
したがって、本件補正発明の相違点1に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

エ 判断のまとめ
したがって、本件補正発明の相違点1に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年5月24日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成27年8月10日付けの誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1に本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 引用文献の記載事項、引用発明、技術事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、引用発明、引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された技術事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「分散補償器」について、「往復の間において前記増幅器の光学的構成要素により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入し」とする限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)(4)で検討したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同じ理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術事項(ア)(イ)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-10 
結審通知日 2017-10-17 
審決日 2017-10-31 
出願番号 特願2012-555139(P2012-555139)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古田 敦浩佐藤 秀樹  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
森 竜介
発明の名称 調節可能な繰り返し率を有する高出力のフェムト秒レーザ  
代理人 大橋 康史  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 前島 一夫  
代理人 島田 哲郎  
代理人 三橋 真二  

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