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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1338554 |
審判番号 | 不服2016-15419 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-10-14 |
確定日 | 2018-04-03 |
事件の表示 | 特願2014-508384「光拡散性光ファイバを採用した光結合型光学システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 1日国際公開,WO2012/148670,平成26年 8月 7日国内公表,特表2014-519049,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2012年4月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月26日,米国,2011年10月10日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年9月10日付けで拒絶理由が通知され,同年12月10日に意見書の提出と同時に手続補正がされ,同年12月24日付けで拒絶理由が通知され,平成28年5月24日に意見書が提出され,同年6月8日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年10月14日に審判請求がされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?10に係る発明は,平成27年12月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1,6及び8に係る発明は,それぞれ特許請求の範囲の請求項1,6及び8に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 光結合型光学システムにおいて, 実質的に平行な対向する上方表面および下方表面を備え,かつ第1屈折率を有している,透明シート, 前記透明シートの前記下方表面に接触して配置され,かつ前記第1屈折率と実質的に同一の第2屈折率を有している,屈折率整合層, ガラスコアと,該コアを包囲しているクラッドと,さらに長さとを有し,前記長さの一部が前記屈折率整合層内に少なくとも部分的に配置されている,少なくとも1つの光拡散性光ファイバであって,前記ガラスコアが,少なくとも前記長さの前記一部に沿って前記ガラスコアから前記クラッド外へと出てさらに前記透明シートに入る実質的に空間的に連続した光放射を提供するよう構成された不規則に配列された空洞を有している,少なくとも1つの光拡散性光ファイバ,および 前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバに光学的に接続されかつ該少なくとも1つの光拡散性光ファイバ内へと光を放射する,少なくとも1つの光源であって,前記光が,前記光拡散性光ファイバから散乱光として散乱する導波光として,該光拡散性光ファイバ内を移動するものである,少なくとも1つの光源, を備え, 前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバによりもたらされた前記散乱光が,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱されるように,前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバが配置されていることを特徴とするシステム。」 「【請求項6】 上方表面と下方表面とを有している透明シートを通して照明を提供する方法であって, ガラスコアと,クラッドと,長さとを有している少なくとも1つの光拡散性光ファイバの少なくとも一部を,前記透明シートの前記下方表面に直接隣接し,前記透明シートと実質的に同一の屈折率を有する屈折率整合層内に配置するステップであって,前記ガラスコアの少なくとも一部が,導波光が該ガラスコアに沿って移動するときに前記光拡散性光ファイバの前記少なくとも一部に沿って前記コアから前記クラッド外へと出て行く実質的に連続した光放射を提供するよう構成された,不規則に配列された空洞を備えたものである,ステップ, 前記導波光が前記光放射をもたらすように前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバの前記ガラスコアに沿って光を送るステップであって,該放射された光が,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動するステップ,および, 前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を移動している前記光の少なくとも一部を,前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱させるステップ, を含むことを特徴とする方法。」 「【請求項8】 光結合型光学システムであって, 上方表面および下方表面を備え,かつ第1屈折率を有している,透明シート, 前記透明シートの前記下方表面に接触して配置され,かつ前記第1屈折率と実質的に同一の第2屈折率を有している,屈折率整合層, 光を放射する光源,および 前記屈折率整合層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された不規則に配列された空洞を有している,光拡散性光ファイバ,を備え, 前記散乱された光が前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱された光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されていることを特徴とするシステム。」 また,請求項2?5に係る発明は,請求項1に係る発明を減縮した発明であり,請求項7に係る発明は,請求項6に係る発明を減縮した発明であり,請求項9及び10に係る発明は,請求項1または8に係る発明を減縮した発明であり,請求項10に係る発明は,請求項1,8または上記請求項9に係る発明を減縮した発明である。 3 原査定の理由の概要 原査定(平成28年6月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 引用文献1には, 「光結合型光学システムにおいて, 屈折率整合層(透光材14), ガラスコアと,該コアを包囲しているクラッドと,さらに長さとを有し,前記長さの一部が前記屈折率整合層内に少なくとも部分的に配置されている,少なくとも1つの光拡散性光ファイバ(光ファイバ12),および 前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバに光学的に接続されかつ該少なくとも1つの光拡散性光ファイバ内へと光を放射する,少なくとも1つの光源(白熱電球24,蛍光灯26)であって,前記光が,前記光拡散性光ファイバから散乱光として散乱する導波光として,該光拡散性光ファイバ内を移動するものである,少なくとも1つの光源, を備えているシステム。」 が記載されており,これにおいて, 引用文献2に記載された,光拡散性光ファイバとして,光ファイバ内に気泡を有するものを用いること, 及び,引用例3に記載された,光源からの光が入射される導光板1の表面に,それと同じ屈折率であり,凹部7が形成された散乱透過層膜層8を積層することを適用して,前記屈折率整合層(透光材14)の表面に,それと同じ屈折率の,散乱フィーチャ(凹部7)を有する透光シート(散乱透過層膜層8)を積層することは,当業者が格別な困難なくなし得たことであり,この際,当該透光シートを積層すれば,前記光拡散性光ファイバによりもたらされた散乱光は,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動するとともに,前記散乱フィーチャによって前記透明シートの上方表面から外へと散乱されるものであるから,本願請求項1,6及び8に係る発明は,当業者が容易に発明をすることができたものである, というものである。 ---< 引用例等一覧>----- 引用例1 実願昭62-162664号(実開平1-67603号)の マイクロフィルム 引用例2 特開2007-273380号公報 引用例3 特開平8-160423号公報 ----------------- ここで,上記引用例1?3は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である。 4 引用例に記載された発明 (1)引用例1に記載された発明 ア 引用例1には,第1図及び第2図とともに以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。 「第1図はこの考案の一実施例を示す図解図であり,第2図は第1図の線II-IIにおける断面図である。この照明具10は複数の光ファイバ12を含む。光ファイバ12としては,ステップ形ファイバやグレーテッド形ファイバなどを使用することができる。光ファイバ12の表面12aには,たとえばサンドペーパなとで擦ることによって凹凸が形成される。この凹凸は,光ファイバ12の表面12aから光の通過域にまで達するように形成される。したがって,ステップ形ファイバでは,少なくともコアに達するように凹凸が形成される。また,グレーテッド形ファイバでは,少なくとも光の通過域のうちもっとも外周に近い部分に達するように凹凸が形成される。光ファイバ12に入射された光は,この光ファイバ12に形成された凹凸によって散乱される。なお,第2図に示すように,光ファイバ12を隙間なく並べることによって,光ファイバ12から散乱した光の明暗のむらを少なくすることができる。 光ファイバ12の凹凸が形成された表面12aの周囲には,透光材14が形成される。透光材14は,たとえばポリエステルなどのような透光性を有する材料で形成される。この透光材14は,このような材料を溶融し,溶融した材料を型に流し込むことによってたとえば板状に形成される。なお,透光材14の形成されていない部分の光ファイバ12の表面には,凹凸が形成されない。したがって,この部分から光が散乱しない。この透光材14の形成されていない部分の光ファイバ12は,糸などで束ねておけば使用するときに便利である。また,透光材14の材料としては,ポリエステル以外にも,アクリルなどの低温で溶融可能な材料を用いることができる。この透光材14は,その厚みをたとえば10mm以下の薄さに形成すれば透光性に優れ,さらにこの照明具10を天井や壁などに取り付けるためのスペースを小さくすることができる。 透光材14の一方主面上には,反射層16が形成される。反射層16としては,たとえば金属箔,金属板および鏡などを貼り付けることによって形成される。この反射層16によって,光ファイバ12の表面から透光材14の一方主面側に散乱した光が反射する。したがって,光ファイバ12の表面から散乱した光は,透光材14の反射層16が形成されていない面からだけ放射する。 透光材14の一端には,光源部18が形成される。光源部18はケース20を含む。ケース20は,たとえば金属などの光を透さない材料で箱形に形成される。ケース20の内部には,2つのレンズ22aおよび22bが形成される。これらのレンズ22aおよび22bに,それぞれ光ファイバ12の半数ずつが取り付けられる。このレンズ22aおよび22bから光ファイバ12に光が入射される。 レンズ22aからは,白熱電球24の光が入射される。さらに,レンズ22bからは,蛍光灯26の光が入射される。こうすることによって,光ファイバ12の表面から2種類の光が散乱し,それによって透光材14の表面からカクテル光線を放射することができる。 また,白熱電球24の光と蛍光灯26の光とを切り換えれば,必要に応じて透光材14の表面から2種類の光を得ることができる。 このように,この照明具10では,面光源として使用することができ,さらに反射層16によってその効率を高めることができる。」(3ページ17行?7ページ2行) イ 以上の記載から,引用例1には,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。 「複数の光ファイバ12を含む照明具10であって, 光ファイバ12としては,ステップ形ファイバやグレーテッド形ファイバなどを使用することができ,光ファイバ12の表面12aには,たとえばサンドペーパなとで擦ることによって凹凸が形成され,この凹凸は,光ファイバ12の表面12aから光の通過域にまで達するように形成され,光ファイバ12に入射された光は,この光ファイバ12に形成された凹凸によって散乱されるものであり, 光ファイバ12を隙間なく並べることによって,光ファイバ12から散乱した光の明暗のむらを少なくすることができるものであり, 光ファイバ12の凹凸が形成された表面12aの周囲には,透光材14が形成され,透光材14は,たとえばポリエステルなどのような透光性を有する材料で形成されるものであり, 透光材14の一端には,光源部18が形成され,光源部18はケース20を含み,ケース20は,たとえば金属などの光を透さない材料で箱形に形成され,ケース20の内部には,2つのレンズ22aおよび22bが形成され,これらのレンズ22aおよび22bに,それぞれ光ファイバ12の半数ずつが取り付けられて,このレンズ22aおよび22bから光ファイバ12に光が入射されるものであり, 透光材14の一方主面上には,反射層16が形成され,この反射層16によって,光ファイバ12の表面から透光材14の一方主面側に散乱した光が反射することで,光ファイバ12の表面から散乱した光は,透光材14の反射層16が形成されていない面からだけ放射され,これによってその効率を高めることができる, 照明具10。」 (2)引用例2に記載された事項 ア 引用例2には,以下の記載がある (ア)「【0005】 前記課題を解決するための手段としては,以下の通りである。即ち, <1> 点光源を含む光源部と,該光源部と光結合部を介して連結した透過型光ファイバと,該透過型光ファイバと連結した光拡散型光ファイバとを備えたバックライト光源であって, 前記バックライト光源は,その発光面に光拡散型光ファイバを1つ以上平面状に配置してなることを特徴とするバックライト光源である。該<1>に記載のバックライト光源においては,その発光面に光拡散型光ファイバを1つ以上平面状に配置しているので,ファイバ長を変えることで様々な寸法に容易に対応することができ,またファイバ密度を変えることで輝度分布を容易に調整可能であり,光源部を一箇所に集めることができるため,電気配線や冷却装置等の設計の自由度が増し,各種表示装置のバックライトとして好適に用いられる。 <2> ・・・(後略)・・・」 (イ)「【0013】 <光拡散型光ファイバ> 前記光拡散型光ファイバは,バックライト光源の発光面を形成するものであり,(1)光ファイバ内に散乱体を混ぜてあるもの,(2)光ファイバ内に気泡を有するもの,(3)光ファイバのクラッド部に傷をつけ,散乱させてあるもの,(4)光ファイバ材料の吸収スペクトルをフラットにするため,吸収剤を混ぜたもの,などが挙げられる。 前記光拡散型光ファイバとしても,機械的に柔軟であり,安価であることからプラスチック光ファイバが好適である。 【0014】 前記(1)としては,白色散乱体,又は屈折率が異なる微小な粒子を混入した光ファイバが挙げられる。 前記(2)としては,中空プリフォームを延伸する際に気泡を混入させるように作製した光ファイバなどが挙げられる。 前記(3)としては,傷のついたクラッド部からの漏れ光を取り出す光ファイバが挙げられる。この場合,傷の密度を長手方向に分布を持たせることで,長手方向の光の取り出し量を制御し長手方向に均一な拡散光量を持つ光ファイバを使うこともできる。 前記(4)としては,プラスチック光ファイバ等で特有の吸収波長域を持つものについて,吸収が可視光波長域において均一な吸収スペクトルを持つような吸収剤を添加させた光ファイバが挙げられる。 【0015】 前記透過型光ファイバと光拡散型光ファイバとは,両者を接合させた後,接着剤で固着することが好ましい。 前記接着剤としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,エポキシ系接着剤,アクリル系接着剤,ウレタン系接着剤,シリコーン系接着剤などが挙げられる。なお,各種光コネクタを用いて両者を接合することもできる。 【0016】 前記光拡散型光ファイバは,1つ以上発光面に平面状に配置(敷設)されており,その敷設密度を自由に変えることができる。また,前記光ファイバの拡散光量は光源から遠くなるにしたがって弱くなっていくので,それを補うように光ファイバの敷設密度を高くすることで均一な光源を得ることができる。具体的には,図2Aに示すように,光拡散型光ファイバを所定の間隔を空けて配置することが好ましい。」 イ 以上の各記載から,引用例2には, 「点光源を含む光源部と,該光源部と光結合部を介して連結した透過型光ファイバと,該透過型光ファイバと連結した光拡散型光ファイバとを備えたバックライト光源であって, 前記バックライト光源は,その発光面に光拡散型光ファイバを1つ以上平面状に配置してなるものであり, 前記光拡散型光ファイバは,バックライト光源の発光面を形成するものであり,(1)光ファイバ内に散乱体を混ぜてあるもの,(2)光ファイバ内に気泡を有するもの,(3)光ファイバのクラッド部に傷をつけ,散乱させてあるもの,(4)光ファイバ材料の吸収スペクトルをフラットにするため,吸収剤を混ぜたものである, バックライト光源。」 が記載されているものと認められる。 (3)引用例3に記載された事項 ア 引用例3には,第1図及び第2図とともに以下の記載がある (ア)「【0010】 【課題を解決するための手段】本発明は,平板状の透明導光板(1)と,その少なくとも一端面から光を入射させる光源(2)と,その光源(2)から出る光を導光板の端面に集光させる反射鏡(3)と,導光板(1)の底面側を覆う反射シート(5)とを具備してなる面光源装置に於いて,光出射面である導光板(1)の上面(1b)に,微細な円形状の凹部(7)が平面状に複数個分布した構造からなる散乱透過膜層(8)が形成されていることを特徴とする面光源装置であり(図1参照), ・・・(後略)・・・。」 (イ)「【0012】本発明に用いることが出来る散乱透過膜層(8)の材料としては,光吸収損失の少ない透明材料で,導光板(1)と同程度の屈折率を有するものが好ましい。例えば,ポリメタアクリル酸メチル,ポリアクリル酸メチル,メタアクリル酸メチル-アクリル酸エステル共重合体,アクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体,ポリスチレン,アクリロニトリル-スチレン共重合体,ポリメチルスチレン,アリル,ポリ酢酸ビニル,ポリ塩化ビニル,ポリカーボネイト,ポリプロピレン等の樹脂がある。 【0013】導光板(1)上に形成される散乱透過膜層(8)の構造は,微細な円形状の凹部(7)が平面状に複数個分布したものであり,凹部(7)の平均径をl,散乱透過膜層(8)の厚さをdとすると,以下の(I),(II)式を共に満足しているものが好ましい。 l/d < 5 (I) l:凹部の平均径(μm) d < 3 (II) d:散乱透過膜層の厚さ(μm)」 (ウ)「【0023】図1に示すように微細な円形状の凹部(7)が平面状に複数個分布した散乱透過膜層(8)が導光板(1)の上面(1b)に形成されている為,凹部(7)に入射した光は散乱し,導光板上面から出射すると共に屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送される。従って透過散乱ドットのように光源近傍での散乱が強く出過ぎることなく,また光源から遠方へ光を伝達することが可能になる。」 イ 以上の各記載から,引用例3には以下の事項が記載されているものと認められる。 「平板状の透明導光板(1)と,その少なくとも一端面から光を入射させる光源(2)と,その光源(2)から出る光を導光板の端面に集光させる反射鏡(3)と,導光板(1)の底面側を覆う反射シート(5)とを具備してなる面光源装置に於いて,光出射面である導光板(1)の上面(1b)に,微細な円形状の凹部(7)が平面状に複数個分布した構造からなる散乱透過膜層(8)が形成され,凹部(7)に入射した光は散乱し,導光板上面から出射すると共に屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送される,面光源装置。」 5 当審の判断 (1)対比 まず,引用発明と,本願請求項8に係る発明(以下「本願発明8」という。)とを対比する。 ア 引用発明においては,「透光材14は,たとえばポリエステルなどのような透光性を有する材料で形成されるものであ」るところ,「ポリエステルなどのような透光性を有する材料」が屈折率を有することは明らかであるから,当該「透光材14」は,本願発明8の「前記透明シートの前記下方表面に接触して配置され,かつ前記第1屈折率と実質的に同一の第2屈折率を有している,屈折率整合層」とは,「屈折率を有している層」である点で一致する。 イ 引用発明の「光源部18」は,本願発明8の「光を放射する光源」に相当する。 ウ 引用発明においては,「光ファイバ12の凹凸が形成された表面12aの周囲には,透光材14が形成され,」また, 「光源部18が形成され,光源部18はケース20を含み,ケース20は,たとえば金属などの光を透さない材料で箱形に形成され,ケース20の内部には,2つのレンズ22aおよび22bが形成され,これらのレンズ22aおよび22bに,それぞれ光ファイバ12の半数ずつが取り付けられて,このレンズ22aおよび22bから光ファイバ12に光が入射されるものであ」り,さらに, 「光ファイバ12としては,ステップ形ファイバやグレーテッド形ファイバなどを使用することができ,」「光ファイバ12の表面12aには,たとえばサンドペーパなとで擦ることによって凹凸が形成され,この凹凸は,光ファイバ12の表面12aから光の通過域にまで達するように形成され,光ファイバ12に入射された光は,この光ファイバ12に形成された凹凸によって散乱されるものであ」るから, 当該各構成を備える「光ファイバ12」は, 本願発明8の「前記屈折率整合層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された不規則に配列された空洞を有している,光拡散性光ファイバ」とは, 「前記屈折率を有している層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された,光拡散性光ファイバ」である点で一致する。 エ 引用発明における,「光ファイバ12の表面から透光材14の一方主面側に散乱した光が反射することで,光ファイバ12の表面から散乱した光は,透光材14の反射層16が形成されていない面からだけ放射され」ることと,請求項8の「前記散乱された光が前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱された光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されている」こととは, 「前記散乱された光が前記屈折を有している層の内部を移動し上方表面から外へと放射されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されている」点で一致する。 オ 引用発明に係る「照明具10」は,光結合を備えるから,本願発明8の「光結合型光学システム」に相当する。 カ よって,両者は以下の点で一致する。 「光結合型光学システムであって, 屈折率を有している層, 光を放射する光源,および 前記屈折率を有している層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された,光拡散性光ファイバ,を備え, 前記散乱された光が前記屈折率を有している層の内部を移動し上方表面から外へと放射されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されていることを特徴とするシステム。」 キ 一方,両者は,以下の点で相違する。 《相違点1》 本願発明8は,「上方表面および下方表面を備え,かつ第1屈折率を有している,透明シート」を備えるのに対して,引用発明は当該構成を備えない点。 《相違点2》 本願発明8は,「前記透明シートの前記下方表面に接触して配置され,かつ前記第1屈折率と実質的に同一の第2屈折率を有している,屈折率整合層」を備えるのに対して,引用発明は,「屈折率を有している層」に相当するものは備えるものの,前記本願発明8に係る「前記透明シートの前記下方表面に接触して配置され,かつ前記第1屈折率と実質的に同一の第2屈折率を有している,屈折率整合層」との構成は備えない点。 《相違点3》 本願発明8は,「前記屈折率整合層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された不規則に配列された空洞を有している,光拡散性光ファイバ」を備えるのに対して,引用発明は,「前記屈折率を有している層内に少なくとも部分的に配置され,かつ前記光源に光学的に結合されて前記光を導波光として運ぶ,光拡散性光ファイバであって,前記導波光を該光拡散性光ファイバの外表面から外へと散乱させることによって実質的に空間的に連続した光放射を提供するように構成された,光拡散性光ファイバ」を備えるものの,「不規則に配列された空洞を有している」構成までは備えない点。 《相違点4》 本願発明8は,「前記散乱された光が前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱された光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されている」構成を備えるのに対して,引用発明は,「前記散乱された光が前記屈折率を有している層の内部を移動し上方表面から外へと放射されるように,前記光拡散性光ファイバが配置されている」ことに対応する構成は備えるものの,「前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱された光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱される」構成までは備えない点。 (2)判断 上記各相違点について,まず相違点1及び4を併せて検討する。 《相違点1及び4について》 ア 上記4(3)イのとおり,引用例3には,「平板状の透明導光板(1)と,その少なくとも一端面から光を入射させる光源(2)と,その光源(2)から出る光を導光板の端面に集光させる反射鏡(3)と,導光板(1)の底面側を覆う反射シート(5)とを具備してなる面光源装置に於いて,光出射面である導光板(1)の上面(1b)に,微細な円形状の凹部(7)が平面状に複数個分布した構造からなる散乱透過膜層(8)が形成され,凹部(7)に入射した光は散乱し,導光板上面から出射すると共に屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送される,面光源装置」が記載されている。 イ 引用例3には,上記「面光源装置」に関し,散乱透過膜層(8)の凹部(7)に入射した光は散乱し,導光板上面から出射すると共に屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送される技術が記載されているといえるところ,上記面光源装置の構成から見て,引用例3に記載された上記技術は,導光板の端面から光を入射させ,導光板上面から出射すると共に屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送されることを前提とするものである。 ウ その一方,引用発明は,「光ファイバ12を隙間なく並べることによって,光ファイバ12から散乱した光の明暗のむらを少なくすることができるものであ」る。すなわち,光ファイバ12を設ける間隔の大小により,発光面における明暗のむらの程度が変わるものであるから,引用発明は,光ファイバ12に形成された凹凸によって散乱された光のうち,直接透光材14の反射層16が形成されていない面に向かって進行し放射される光,及び,反射層16によって反射されて,透光材14の反射層16が形成されていない面に向かって進行し放射される光を利用するものであり,仮に,透光材14内において全反射で導光する成分があるとしても,当該成分の利用は想定されていないといえる。 エ そうすると,引用例3に記載された「面光源装置」と引用発明は,ともに,平面状の光源装置である点で共通するものの,光源装置内部の光の経路について,両者は大きく異なるものであるから,引用発明において,屈折あるいは全反射により導光板内へ再び戻り伝送されることを前提とする,引用例3に記載された前記技術を適用することは,当業者が容易に想到できたこととはいえない。 したがって,引用発明において,相違点1及び4に係る構成を備えることは,引用例3に記載された事項を勘案しても当業者が容易になし得たことではない。 (3)まとめ よって,相違点2及び3について検討するまでもなく,本願発明8は,引用例2及び3に記載された事項を勘案しても,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本願の請求項2?10について ア 本願の請求項9及び10は,請求項8を引用するものであるから,当該各請求項に係る発明は請求項8に係る発明特定事項を含むものである。 そして,前記(1)?(3)で検討したとおり,請求項8に係る発明は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本願の請求項9及び10に係る発明についても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,「実質的に平行な対向する上方表面および下方表面を備え,かつ第1屈折率を有している,透明シート」,及び「前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバによりもたらされた前記散乱光が,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動しかつ該散乱光が前記透明シートの少なくとも1つの散乱フィーチャによって前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱されるように,前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバが配置されていること」を発明特定事項を含み,当該各事項に係る構成は,前記(1)における本願発明8と引用発明との比較と同様に,引用発明と本願発明1の間の相違点となる。 そして,前記(2)における検討と同様に,引用発明において,当該各事項に係る構成を備えることは,引用例3に記載された事項を勘案しても当業者が容易になし得たことではないから,本願発明1についても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。請求項1を引用する請求項2?5に係る発明についても,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本願の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)は,「前記導波光が前記光放射をもたらすように前記少なくとも1つの光拡散性光ファイバの前記ガラスコアに沿って光を送るステップであって,該放射された光が,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を全反射で移動するステップ,および,前記透明シートと前記屈折率整合層との内部を移動している前記光の少なくとも一部を,前記透明シートの前記上方表面から外へと散乱させるステップ」を備える「方法」であるところ,前記(1)における本願発明8と引用発明との比較と同様に,当該各ステップを備える点は,少なくとも,請求項6に係る発明と,引用発明を方法の発明として捉えたものとの間の相違点となる。 そして,前記(2)における検討と同様に,引用発明において,当該各ステップを備える点は,引用例3に記載された事項を勘案しても当業者が容易になし得たことではないから,本願発明6についても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。請求項6を引用する請求項7に係る発明についても,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおり,本願の請求項1?10に係る発明は,引用発明,及び引用例2,3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-03-19 |
出願番号 | 特願2014-508384(P2014-508384) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 吉田 英一 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 光拡散性光ファイバを採用した光結合型光学システムおよび方法 |
代理人 | 柳田 征史 |
代理人 | 佐久間 剛 |