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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1338582 |
審判番号 | 不服2016-18079 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-02 |
確定日 | 2018-03-15 |
事件の表示 | 特願2013-507567「反射防止フィルム及び偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日国際公開、WO2012/133339〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 (1)手続の経緯 本願は、2012年3月26日(優先権主張平成23年3月29日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成28年 2月25日:拒絶理由通知 平成28年 5月13日:意見書 平成28年 5月13日:手続補正書 平成28年10月12日:拒絶査定 平成28年12月 2日:審判請求書 平成28年12月 2日:手続補正書 平成29年10月18日:拒絶理由通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。) 平成29年12月14日:意見書 平成29年12月14日:手続補正書(以下「本件補正」という。) (2)本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。 「透明基材と、第1層と、屈折率が前記第1層の屈折率と比較して低い第2層とをこの順で積層してなる反射防止フィルムであって、 前記第1層は、電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料とレベリング材料と光重合開始剤とを含んだ塗膜を硬化させてなり、 前記レベリング材料は、フッ素系レベリング材料であり、 前記レベリング材料の量は、前記電離放射線硬化型材料と前記4級アンモニウム塩材料と前記レベリング材料との合計100質量部中、0.05乃至5.0質量部の範囲内であり、 前記光重合開始剤は、第1層形成用塗液の固形分100質量部に対して0.5乃至10.0質量部の範囲内であり、 前記第1層の表面の中心線平均粗さRaが0.001μm乃至0.10μmの範囲内であり、かつ、前記第1層表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm乃至1.00mmの範囲内であり、 前記第2層の形成前の前記第1層の表面について、圧子の押し込み深さを100nmとして得られる微小押し込み硬さが0.45GPa乃至1.0GPaの範囲内である反射防止フィルム。」(以下「本願発明」という。) 2 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は概ね次のとおりである。 (1)本願の平成28年12月2日付けで手続補正がなされた請求項1及び2に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1ないし8に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用例1.特開2010-243879号公報 引用例2.特開2008-250315号公報 引用例3.特開2010-174201号公報 引用例4.特開2009-37046号公報 引用例5.特開2008-286878号公報 引用例6.特開2005-111339号公報 引用例7.特開2006-39024号公報 引用例8.特表2006-505395号公報 ハードコート層に含まれるレベリング剤としてフッ素系レベリング剤を用い、該レベリング剤の配合量が固形分の0.01?5質量%程度であること(例.引用例2(特に【0207】、【0223】参照。)、引用例3(特に請求項6ないし8、【0041】参照。))、表面の中心線平均粗さRaが0.10μm以下、かつ、前記表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm以上であるハードコート層(例.引用例4(特に請求項1参照。)、引用例5(特に請求項1参照。)。なお、算術平均粗さが中心線平均粗さとほぼ等しい値となることは技術常識である。)、ハードコート層の微小押し込み硬さが0.45?1.00GPaの範囲内にあること(引用例6(特に請求項1、【0023】参照。)、引用例7(特に請求項5、【0307】参照。)、引用例8(特に請求項3参照。))は、それぞれ周知であるから、これらの周知の事項に基づけば、引用例1に記載された発明において、本願発明の構成のようになすことは当業者が適宜なし得たことである。 (2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本願の明細書の【0110】に記載されているとおり、比較例1は、ハードコート層形成用塗液3を使用した以外は実施例1と同様にして得られた反射防止フィルムであるところ、(1)前記ハードコート層形成用塗液3の組成、(2)微小押し込み硬さ「0.5GPa」(【0123】【表1】)、及び、(3)ハードコート層の表面の中心線平均粗さRa「0.004μm」かつ前記表面の凹凸の平均間隔Sm「0.47mm」が全て請求項1に記載されたの条件を満たすものである。 しかしながら、比較例1は、【0123】【表1】及び【0125】に記載されているように、耐擦傷性が弱い(「耐擦傷性」に「×」)ことが認められたものである。 してみると、請求項1には、本願の発明の課題を解決できない態様を含むこととなっているから、請求項1において、本願の発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。 3 引用例の記載事項 (1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例1として引用された特開2010-243879号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、反射防止機能及び帯電防止機能を備える反射防止フィルムに関する。さらには、LCD、PDP、CRT、プロジェクションディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイの表示画面に適用される反射防止フィルムに関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 反射防止フィルムにあっては、透明基材とハードコート層の間もしくは反射防止層とハードコート層の間に新たに帯電防止層を設けるにあっては製造工程がコストアップに繋がることから、帯電防止機能を有するハードコート層の備える反射防止フィルムの開発が望まれている。 【0010】 ハードコート層に帯電防止機能を付与するにあっては、ハードコート層中に金属材料または金属酸化物材料からなる導電性粒子を含有させる方法が一般的である。しかしながら、ハードコート層中に導電性粒子を含有させる場合には、ハードコート層中に相当量の導電性粒子を含有させる必要があり、このとき、ハードコート層の全光線透過率が低下するという問題が発生する。また、ハードコート層の屈折率が上昇することにより、干渉縞が発生するという問題が発生する。一方、イオン伝導性の材料を用いて反射防止フィルムを作製する場合にあっては、反射防止フィルムに熱を加えると帯電防止機能が低下するという課題がある。 【0011】 本発明にあっては、透明基材上にハードコート層、反射防止層を順に備える反射防止フィルムにあって、十分な反射防止機能と帯電防止機能を有し、全光線透過率が高く、干渉縞の発生の無い反射防止フィルムであって、さらに、熱等を加えても十分な帯電防止機能を維持できる反射防止フィルムを提供することを課題とする。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0012】 上記課題を解決するために請求項1記載の発明としては、透明基材上にハードコート層、低屈折率層を順に備える反射防止フィルムであって、前記ハードコート層が4級アンモニウム塩材料を含み、且つ、前記低屈折率層が内部に空隙を有するシリカ粒子を備えることを含むことを特徴とする反射防止フィルムとした。 【0013】 また、請求項2記載の発明としては、前記4級アンモニウム塩材料の重量平均分子量が500以上30000以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルムとした。 【0014】 また、請求項3記載の発明としては、前記低屈折率層表面の平均視感反射率が0.5%以上1.5%以下の範囲内であり、且つ、低屈折率層表面での表面抵抗値が1×10^(5)Ω/cm^(2)以上1×10^(10)Ω/cm^(2)以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の反射防止フィルムとした。 【0015】 また、請求項4記載の発明としては、前記反射防止フィルムを温度100℃、湿度50%の環境下に500時間保管した後における低屈折率層表面の表面抵抗値が1×10^(5)Ω/cm^(2)以上1×10^(10)Ω/cm^(2)以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の反射防止フィルムとした。 【0016】 また、請求項5記載の発明としては、該低屈折率層が少なくともフッ素化合物、シリコーン化合物のいずれかを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反射防止フィルムとした。 【0017】 また、請求項6記載の発明としては、前記反射防止層表面の水接触角が80°以上であることを特徴とする請求項5記載の反射防止フィルムとした。 【0018】 また、請求項7記載の発明としては、請求項1乃至6のいずれかに記載の反射防止フィルムを備える偏光板とした。 【0019】 また、請求項8記載の発明としては、請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルムを備えるディスプレイとした。」 エ 「【発明を実施するための形態】 【0025】 本発明の反射防止フィルムについて説明する。 【0026】 図1に本発明の反射防止フィルムの模式断面図を示した。本発明の反射防止フィルム1にあっては、透明基材11上に、ハードコート層12、低屈折率層13を順に備えることを特徴とする。 【0027】 本発明の反射防止フィルムにあっては、ハードコート層12が電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料を含み、低屈折率層13が内部に空隙を有するシリカ粒子を備えることを特徴とする。 【0028】 本発明の反射防止フィルムにあっては、ハードコート層が4級アンモニウム塩材料を含むことによりハードコート層が帯電防止機能を有する。新たに帯電防止層を設けることなく、ハードコート層に帯電防止機能を付与させることにより、本発明の反射防止フィルムは安価に製造することができる。 【0029】 4級アンモニウム塩材料を用いてハードコート層を形成することにより、金属粒子や金属酸化物粒子といった導電性粒子のみを用いて帯電防止性を有するハードコート層を形成する場合と比較して、全光線透過率の低下を防ぐことができ、さらには、干渉ムラの発生を抑えることができる。 【0030】 反射防止フィルムの干渉ムラは、透明基材とハードコート層の屈折率差が大きくなるにつれて顕著に発生する。本発明の反射防止フィルムにあっては4級アンモニウム塩材料を用いることにより、金属粒子や金属酸化物粒子といった導電性粒子のみを用いてハードコート層を形成した場合と比較して、ハードコート層の屈折率の上昇を防ぐことができ、干渉ムラの無い反射防止フィルムとすることができる。さらには、金属粒子や金属酸化物粒子といった導電性粒子のみを用いてハードコート層を形成した場合には、低屈折率層表面の耐擦傷性の低下やハードコート層と透明基材の間の密着性の低下が懸念される。 【0031】 特に、複屈折が少なく透明性が良好であり透明基材として液晶ディスプレイに好適に適用することのできるトリアセチルセルロースフィルムは屈折率が1.50程度でり、金属粒子や金属酸化物粒子をハードコート層に含有させることにより帯電防止機能を発現させると干渉縞が発生しやすい。本発明の反射防止フィルムにあっては透明基材としてトリアセチルセルロースフィルムを用いた際に干渉縞の発生を防ぐことができ、好適に使用することができる。 ・・・略・・・ 【0039】 本発明の反射防止フィルムは、低屈折率層表面の表面抵抗値が1×10^(5)Ω/cm^(2)以上1×10^(10)(Ω/cm^(2))以下であることが好ましい。表面の表面抵抗値が1×10^(10)(Ω/cm^(2))以下といった高い帯電防止性をハードコート層に付与するにあっては、金属粒子や金属酸化物粒子といった導電性粒子を用いて帯電防止性を有するハードコート層を形成する場合には相当量の導電性粒子を添加する必要があり、このとき、全光線透過率が低下し、干渉ムラが発生する。しかしながら、4級アンモニウム塩材料を用い、帯電防止性を有するハードコート層を形成するにあっては、全光線透過率の低下を防ぐことができ、さらには、干渉ムラの発生を抑えることができる。また、低屈折率層表面の表面抵抗値が1×10^(5)Ω/cm^(2)を下回る反射防止フィルムを形成することは材料設計上困難である。 ・・・略・・・ 【0057】 四級アンモニウム塩を官能基として分子内に含むアクリル系材料として具体的には、ライトエステルDQ-100(共栄社化学株式会社製)等を用いることができる。 ・・・略・・・ 【0067】 ハードコート層形成用塗液にあっては、ハードコート層形成用塗液を塗布し、形成される塗膜においてハジキ、ムラといった塗膜欠陥の発生を防止するために、表面調整剤と呼ばれる添加剤を加えても良い。表面調整剤は、その働きに応じて、レベリング剤、消泡剤、界面張力調整剤、表面張力調整剤とも呼ばれるが、いずれも形成される塗膜(防眩層)の表面張力を低下させる働きを備える。 【0068】 また、ハードコート層形成用塗液においては、塗液中に先に述べた表面調整剤のほかにも、他の添加剤を加えても良い。機能性添加剤としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、密着性向上剤、硬化剤などを用いることができる。 【0069】 以上の材料を調整して得られるハードコート層形成用塗液を湿式成膜法により透明基材上に塗布し、塗膜を形成し、必要に応じて塗膜の乾燥をおこなったあとに、電離放射線である紫外線もしくは電子線を照射することにより、ハードコート層が形成される。 ・・・略・・・ 【0073】 なお、本発明の反射防止フィルムにおいて、形成されるハードコート層の鉛筆硬度は、物理的な耐擦傷性を備えるために、H以上であることが好ましい。」 オ 「【実施例】 【0094】 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。 ・・・略・・・ 【0096】 ・・・略・・・ <調整例2> (ハードコート層形成用塗液2) 4級アンモニウム塩を含有するライトエステルDQ100(共栄社化学製/分子量500未満)5重量部、ジペンタエリスリトールトリアクリレート25質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート25質量部、ウレタンアクリレート50質量部、イルガキュア184(チバジャパン株式会社製(光重合開始剤))5質量部を用い、これをメチルエチルケトンに溶解してハードコート層形成塗液2を調整した。 ・・・略・・・ 【0097】 <調整例4> (低屈折率層形成用塗液1) 多孔質シリカ微粒子分散液(平均粒子径50nm、固形分20%、溶剤:メチルイソブチルケトン)14.94重量部、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:DPEA-12、日本化薬製)1.99重量部、重合開始剤(チバジャパン株式会社製製、商品名;イルガキュア184)0.07重量部を、溶媒であるメチルイソブチルケトン82重量部で希釈して低屈折率層形成用塗液を調整した。 ・・・略・・・ 【0098】 <実施例1> (ハードコート層の形成) トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム製:膜厚80μm)の片面にハードコート層形成用塗液1を塗布し、80℃・60秒オーブンで乾燥し、乾燥後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン、光源Hバルブ)を用いて照射線量300mJ/m^(2)で紫外線照射をおこなうことにより乾燥膜厚5μmの透明なハードコート層を形成させた。 (低屈折率層の形成) 上記方法にて形成した帯電防止層上に低屈折率層形成用塗液1を乾燥後の膜厚が100nmとなるように塗布した。 紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン、光源Hバルブ)を用いて照射線量192mJ/m^(2)で紫外線照射をおこなって硬化させて低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを作製した。 【0099】 <実施例2> ハードコート層形成用塗液1のかわりにハードコート層形成用塗液2を使用した以外は実施例1と同様に、トリアセチルセルロースフィルム上にハードコート層及び低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。」 カ 上記アないしオからみて、引用例1には、実施例1(【0098】)で使用したハードコート層形成用塗液1のかわりにハードコート層形成用塗液2を使用した実施例2(【0099】)として、次の発明が記載されているものと認められる。なお、【0098】に「(ハードコート層の形成) ・・・ハードコート層を形成させた。(低屈折率層の形成) 上記方法にて形成した帯電防止層上に低屈折率層形成用塗液1を乾燥後の膜厚が100nmとなるように塗布した。」と記載され、当該記載中の「帯電防止層」が帯電機能を有する「ハードコート層」を指すことは、文脈及び技術常識からみて明らかである。 「トリアセチルセルロースフィルム上にハードコート層及び低屈折率層を形成して得た反射防止フィルムであって、 前記ハードコート層は、トリアセチルセルロースフィルムの片面に下記ハードコート層形成用塗液2を塗布し、乾燥後、紫外線照射をおこなうことにより、乾燥膜厚5μmで透明に形成させたものであり、 前記低屈折率層は、前記ハードコート層上に下記低屈折率層形成用塗液1を塗布し、紫外線照射をおこなって硬化させて形成された、 反射防止フィルム。 (ハードコート層形成用塗液2) 4級アンモニウム塩を含有するライトエステルDQ100(共栄社化学製/分子量500未満)5重量部、ジペンタエリスリトールトリアクリレート25質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート25質量部、ウレタンアクリレート50質量部、イルガキュア184(チバジャパン株式会社製(光重合開始剤))5質量部を用い、これをメチルエチルケトンに溶解してハードコート層形成塗液2を調整した。 (低屈折率層形成用塗液1) 多孔質シリカ微粒子分散液(平均粒子径50nm、固形分20%、溶剤:メチルイソブチルケトン)14.94重量部、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:DPEA-12、日本化薬製)1.99重量部、重合開始剤(チバジャパン株式会社製製、商品名;イルガキュア184)0.07重量部を、溶媒であるメチルイソブチルケトン82重量部で希釈して低屈折率層形成用塗液を調整した。」(以下「引用発明」という。) (2)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例2として引用された特開2008-250315号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、反射防止積層体、偏光板及び画像表示装置に関する。」 イ 「【0207】 (レベリング剤) 本発明のハードコート層、オーバーコート層に、面状改良(ムラ防止)を目的として各種のレベリング剤を使用することが好ましい。さらに、本発明の低屈折率層に、同じく、ムラ防止を目的として各種のレベリング剤を使用することが好ましい。レベリング剤としては、具体的にはフッ素系レベリング剤、又はシリコーン系レベリング剤が好ましく、特にフッ素系レベリング剤とシリコーン系レベリング剤の両方を併用することはムラ防止能が高くより好ましい。また、全層にレベリング剤が使用されることがより好ましい。 また、レベリング剤は、低分子化合物よりもオリゴマーやポリマーであることが好ましい。レベリング剤を添加すると、塗布された液膜の表面にレベリング剤が速やかに偏在し、膜乾燥後もレベリング剤がそのまま表面に偏在することになるので、レベリング剤を添加したハードコート層、オーバーコート層、低屈折率層の膜の表面エネルギーは、レベリング剤によって低下する。 ・・・略・・・ 【0208】 ハードコート層の好ましい表面エネルギーは、45mJ/m^(2)以下の範囲であり、20?45mJ/m^(2)の範囲がより好ましく、20?40mJ/m^(2)の範囲がさらに好ましい。ハードコート層の表面エネルギーを45mJ/m^(2)以下とすることにより、ハードコート層のムラが生じにくいという効果が得られる。 ただし、ハードコート層の上にさらに低屈折率層などの上層を塗布する場合には、レベリング剤は上層へ溶出することが好ましく、ハードコート層の上層塗布液の溶媒(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、等)でハードコート層を浸漬、洗い流しした後のハードコート層の表面エネルギーは、むしろ高いことが好ましく、表面エネルギー35?70mJ/m^(2)であることが好ましい。 【0209】 以下ではハードコート層またはオーバーコート層のレベリング剤として好ましいフッ素系レベリング剤について説明する。シリコーン系レベリング剤については後述する。 ・・・略・・・ 【0223】 塗布液に対する上記含フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤の添加量は、0.001質量%?1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%?0.2質量%である。 【0224】 (塗布溶剤) 本発明の各層を形成するための塗布組成物に用いられる溶剤としては、各成分を溶解または分散可能であること、塗布工程、乾燥工程において均一な面状となり易いこと、液保存性が確保できること、適度な飽和蒸気圧を有すること、等の観点で選ばれる各種の溶剤が使用できる。 溶媒は2種類以上のものを混合して用いることができる。特に、乾燥負荷の観点から、常圧室温における沸点が120℃以下の溶剤を主成分とし、乾燥速度の調整のために沸点が120℃以上の溶剤を少量含有することが好ましい。 低屈折率用塗布組成物に含まれる溶剤の内、沸点120℃以上の溶剤が3?50質量%、好ましくは3質量%?40質量%、さらに5質量%?30質量%含んでいることが好ましい。」 (3)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例3として引用された特開2010-174201号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマー、(メタ)アクリロイル基を有する第四級アンモニウム塩及び/又はそのオリゴマー、(メタ)アクリロイル基と親水基とを有する相溶化剤分子及び/又はそのオリゴマー、及び重合開始剤を含有する、紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項2】 前記2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項3】 前記(メタ)アクリロイル基を有する第四級アンモニウム塩が、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドである、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項4】 前記(メタ)アクリロイル基と親水基とを有する相溶化剤分子が、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項5】 前記重合開始剤の配合量が、固形分の0.1?10質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項6】 防汚性を有する添加剤として、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基を含有するシリコーンオリゴマー及び/又はフッ素含有有機高分子オリゴマーが、1種類以上含まれている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項7】 前記シリコーンオリゴマー及び/又はフッ素オリゴマーの配合量が、固形分の0.01?5質量%である、請求項6に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。 【請求項8】 請求項1?7のいずれか1項に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の層が基材フィルム上に形成され、この層が硬化して、前記基材フィルム上にハードコート層が形成されてなる、帯電防止ハードコートフィルム。 【請求項9】 前記ハードコート層に低屈折率層が積層され、反射防止機能を有する、請求項8に記載した帯電防止ハードコートフィルム。 【請求項10】 フッ素含有付加重合性モノマー及び/又はそのオリゴマーと、粒子径が100nm以下の中空又は多孔質シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有する低屈折率紫外線硬化性樹脂材料組成物を溶解又は分散させた低屈折率紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液の層が、前記ハードコート層上に被着され、この塗液層から溶媒が蒸発した後に、得られた低屈折率紫外線硬化性樹脂材料組成物層が硬化することによって、前記ハードコート層上に前記低屈折率層が形成されてなる、請求項9に記載した帯電防止ハードコートフィルム。 【請求項11】 前記中空又は多孔質シリカ微粒子が、末端に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基をもつ有機系分散剤で表面処理されている、請求項10に記載した帯電防止ハードコートフィルム。 【請求項12】 前記低屈折率紫外線硬化性樹脂材料組成物に、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれている、請求項10に記載した帯電防止ハードコートフィルム。 【請求項13】 前記低屈折率紫外線硬化性樹脂材料組成物に、(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれている、請求項10に記載した帯電防止ハードコートフィルム。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、導電性を有し、基材フィルムの帯電を防止する機能を有するハードコート層を備えた帯電防止ハードコートフィルム、および帯電防止ハードコート層の形成材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物に関するものである。」 ウ 「【0040】 重合開始剤としては、公知の材料を適宜選択して用いるのがよい。前記重合開始剤の配合量は、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の0.1?10質量%であるのがよい。配合量が0.1質量%よりも少ないと、光硬化性が不足し、実質的に工業生産に適さない。一方、配合量が10質量%よりも多いと、照射光量が少ない場合に、ハードコート層2に臭気が残ることがある。 【0041】 また、レベリング剤として、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基を含有するシリコーンオリゴマー及び/又はフッ素含有有機高分子オリゴマーが、1種類以上含まれているのがよい。レベリング剤は、ハードコート層2に防汚性を付与する働きをする。この際、これらのオリゴマーの配合量は、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の0.01?5質量%であるのがよい。配合量が0.01質量%よりも少ない場合、充分な防汚特性が得られない。一方、配合量が5質量%よりも多い場合、塗工性が悪くなる傾向がある。」 エ 「【実施例】 【0050】 以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。本実施例では、図1に示した帯電防止ハードコートフィルム10、または反射防止機能を有する帯電防止ハードコートフィルム20を作製し、特性を調べた。 【実施例1】 【0051】 実施例1では、実施の形態で説明した帯電防止ハードコートフィルム10を作製し、その特性を調べた。 【0052】 まず、紫外線硬化性樹脂組成物における各成分を下記の通り配合し、イソプロピルアルコール(IPA)3gに溶解または分散させ、紫外線硬化性樹脂組成物の塗液を調製した。 ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 1.89g ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート 0.15g 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.21g メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド 0.60g A-TMM-3 0.20g アクリル変性シリコンオイル 0.015g 【0053】 ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名KAYARAD DPHA;日本化薬社製)、およびジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(商品名ライトアクリレートDCP-A;共栄社化学社製)は、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有するアクリル系モノマーである。1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名IRGACURE 184;チバ・ジャパン社製)は、光重合開始剤である。メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(商品名DQ100;共栄社化学社製)は、メタクリロイル基を有する第四級アンモニウム塩である。A-TMM-3(商品名;新中村化学工業社製)は、37%のペンタエリスリトールトリアクリレートを含む。このトリアクリレートが、1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、且つ親水基を有する相溶化剤として機能する。アクリル変性シリコンオイルは、平坦性および防汚性を向上させるシリコーン系レベリング剤である。ここでは、アクリル変性シリコンオイルとして、アクリロイルオキシ基含有のシロキサン-ポリアルキレン共重合体(商品名モメンティブ3509;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を用いた。 【0054】 次に、基材フィルム1として厚さ80μmのTACフィルム(富士フィルム社製)を用い、このフィルム上にコイルバーを用いて上記の紫外線硬化型樹脂組成物塗液を塗布した。塗布後、80℃で1分間加熱処理し、溶媒を蒸発させた。その後、窒素雰囲気下で300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、厚さ10μmの帯電防止ハードコート層2を形成し、帯電防止ハードコートフィルム10を作製した。 【0055】 実施例1によって得られた帯電防止ハードコートフィルム10は、相分離や干渉むらがなく、目視による概観は良好であった。その特性を下記に示す。 初期表面抵抗値:7×10^(8)Ω/□ ジャーミル水中攪拌を2時間行った後の表面抵抗値:4×10^(9)Ω/□ 4.5mol/L水酸化カリウム水溶液に70℃で1分間浸漬する処理をした後の表面抵抗値:1×10^(9)Ω/□ 光学特性:ヘイズ 0.3%、全光線透過率 92.4% 鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H、500g荷重にて3H 碁盤目試験による初期密着性:良 以上から、実施例1の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物における成分同士の混合状態は良好である、と判定できる。なお、表面抵抗値は、1×10^(8)?1×10^(9)Ω/□程度以下であればよい。また、水酸化カリウム水溶液に浸漬処理する試験は、偏向板化処理におけるけん化処理に対する耐性を調べるためのものである。 ・・・略・・・ 【0070】 表1に、以上の結果をまとめて示した。なお、表中、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184)、およびアクリル変性シリコンオイルは、それぞれ、184および3509と略記した。 【0071】 【表1】 【実施例4】 【0072】 実施例4では、実施例1で作製した帯電防止ハードコートフィルム10上に低屈折率層3を形成し、反射防止機能を有する帯電防止ハードコートフィルム20を作製した。」 (4)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例4として引用された特開2009-37046号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 セルロース系材料よりなる透明基材上に、活性エネルギー線硬化型樹脂、光重合開始剤及び透光性有機微粒子を含有する防眩性ハードコート層形成用組成物の硬化物よりなる防眩性ハードコート層が形成されている防眩性フィルムであって、 前記活性エネルギー線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含有するバインダーの硬化物と透光性有機微粒子との屈折率差を0?0.05に調整し、防眩性ハードコート層の表面におけるJIS B 0601-1994に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01?0.30μm及び凹凸の平均間隔(Sm)が10?300μmであると共に、全体ヘイズ値が10%以下であり、かつ全体ヘイズ値に対する内部ヘイズ値の割合が50%以上であることを特徴とする液晶ディスプレイ用防眩性フィルム。 【請求項2】 前記透光性有機微粒子は、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂又はそれらの架橋物により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶ディスプレイ用防眩性フィルム。 【請求項3】 前記防眩性ハードコート層の膜厚(A)に対する透光性有機微粒子の平均粒子径(a)の比a/Aが0.3?1.5であることを特徴とする請求項2に記載の液晶ディスプレイ用防眩性フィルム。 【請求項4】 前記防眩性ハードコート層上には、防眩性ハードコート層の屈折率よりも屈折率の低い低屈折率層を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ用防眩性フィルム。 【請求項5】 画像を表示する側の最表面に請求項1に記載の液晶ディスプレイ用防眩性フィルムを備えていることを特徴とする液晶ディスプレイ。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ディスプレイの画像表示側の最表面に貼付して用いられる液晶ディスプレイ用防眩性フィルム及びそれを備える液晶ディスプレイに関する。特に、高精細な画像を表示する液晶ディスプレイ上に設置したときのぎらつきを抑制し、黒濃度の低下及び像鮮明度の悪化を抑制した防眩性フィルム及びそれを備える液晶ディスプレイに関する。」 (5)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例5として引用された特開2008-286878号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 透明支持体上に、活性エネルギー線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含むバインダーに透光性微粒子を含有する防眩性ハードコート層形成用組成物を硬化させた防眩性ハードコート層が形成されている防眩性フィルムであって、 前記バインダーの硬化物と透光性微粒子との屈折率差が0?0.05であり、かつ防眩性ハードコート層の表面におけるJIS B 0601-1994に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01?0.30μm及び凹凸の平均間隔(Sm)が10?300μmであることを特徴とする防眩性フィルム。 【請求項2】 前記バインダー中には、透光性微粒子よりも平均粒子径の小さい無機微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の防眩性フィルム。 【請求項3】 JIS K 7105-1981に基づく像鮮明度測定装置を用いて2mmの幅を有する光学クシを通して測定される像鮮明度の値が50%以上であり、かつ60°反射で測定される像鮮明度の値が60%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防眩性フィルム。 【請求項4】 前記防眩性ハードコート層の上には、防眩性ハードコート層の屈折率よりも屈折率の低い低屈折率層を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防眩性フィルム。 【請求項5】 画像を表示する側の最表面に請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防眩性フィルムを備えていることを特徴とするディスプレイ。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、各種ディスプレイの観察側の最表面に貼付して用いられる防眩性フィルム、特に画像を表示する高精細ディスプレイ上に設置したときのぎらつきを抑制するために好適な防眩性フィルム及びそれを用いたディスプレイに関するものである。」 (6)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例6として引用された特開2005-111339号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 超微小押し込み硬度が0.5GPa?4.8GPaの範囲にあることを特徴とするハードコート膜。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、基材を保護するハードコート膜およびその製造方法、このハードコート膜を有する積層体およびその製造方法、液晶ディスプレイなどの表示媒体に関する。 ・・・略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、ハードコート膜表面の中心線平均粗さが特許文献1に記載の範囲になくても密着性が優れることがあった。従って、密着性とハードコート膜表面の中心線平均粗さとは相関性を有しているとはいえず、密着性の高いハードコート膜を得るためには、ハードコート膜表面の中心線平均粗さを特定することは適切ではなかった。また、密着性の高いハードコート膜を得るために、ハードコート膜の鉛筆硬度を特定することもあるが、その相関性は精度が低く、鉛筆硬度を特定しても密着性の高いハードコート膜が得られるとは限らなかった。 このように、従来では、密着性と相関するハードコート膜の特性が見出されていないのが実情であった。 本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、ハードコート膜の特性が特定され、密着性に優れたハードコート膜およびその製造方法を提供することを目的とする。さらには、このハードコート膜を有する積層体およびその製造方法、表示媒体を提供することを目的とする。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 はじめに、本発明のハードコート膜について説明する。本発明のハードコート膜は、超微小押し込み硬度が0.5GPa?4.8GPaの範囲にあるものである。超微小押し込み硬度が0.5GPa?4.8GPaの範囲にあれば、ハードコート膜上に機能膜を設けた際に、ハードコート膜と機能膜との密着性を高くすることができる。また、超微小押し込み硬度が0.5GPa未満であると、ハードコート膜自体の結合が弱いため、ハードコート膜自体が破壊してしまって密着性が低くなり、4.8GPaを超えると、ハードコート膜表面において機能膜との結合に関与する分子が少なくなるので、密着性が低くなる。 【0008】 ここで、超微小押し込み硬度の測定方法について説明する。超微小押し込み硬度は、日本電気社製微小押し込み硬度計MHA-400を用いて測定する。図2に、その微小押し込み硬度計の概略構成図を示す。微小押し込み硬度計20は、測定試料21を載せる試料台22と、試料台22の上面に取り付けられた反射鏡23と、試料台22に接続された電子天秤24と、圧電アクチュエータ25に取り付けられ、測定試料21に接する圧子26と、圧電アクチュエータ25と一体化され、測定試料21に圧子26を押し込んだ際の押し込み深さを測定する変位計プローブ27とを有して概略構成されるものである。 この微小押し込み硬度計20において、圧電アクチュエータ25はXYテーブル28に取り付けられて水平方向に自由に移動できるようになっている。また、圧子26は圧子駆動モータ29によって上下方向に移動可能になっている。 【0009】 また、圧子26は、先端に向かって細くなっているものであり、例えば、三角錐、四角錐、円錐状のものである。圧子の中でも、三角錐状の圧子は容易に作製できるため好ましい。これに対し、円錐のものは断面円形に加工することが困難であることから好ましいものではなく、四角錐のものは単一の頂点を持つように加工することが困難であることから好ましいものではない。なお、圧子26の先端の曲率半径、稜角度が小さいほど高精度に超微小押し込み硬度を測定できるが、圧子26は、通常、機械加工により作製されるため、加工精度の点から、先端の曲率半径が50nm?120nm、先端の稜角度が70°?90°の範囲内にされている。例えば、先端の曲率半径が100nm程度、稜角度が80°程度である。 変位計プローブ27は、反射鏡23に向けて光を発して反射鏡23との距離を測定し、圧電アクチュエータ25を駆動させた際の圧子26の変位量を求めるものである。圧子26の変位量を求めることで、測定試料21中への圧子26の押し込み深さを測定できる。 【0010】 このような微小押し込み硬度計20を用いて超微小押し込み硬度を測定する際には、微小押し込み硬度計20および測定試料21の温度を十分に安定させた後、測定試料21を試料台22の上に載せ、圧電アクチュエータ25を駆動させて圧子26を下方に移動させる。次いで、圧子26を測定試料21に接触させ、さらに圧子26を測定試料21内に押し込んで変位計プローブ27によって押し込み深さを測定する。そして、押し込み深さと、電子天秤24で測定される荷重値とから超微小押し込み硬度を算出する。 この測定においては、圧電アクチュエータ25に印加する電圧をコンピュータで制御することにより、圧子26の押し込み速度を制御することができる。 また、押し込み速度は、データ数が多くなり、高精度になるという点では、できるだけ遅い方が好ましいが、遅くしすぎた場合には1回の測定時間が長くなるため、1nm/秒?20nm/秒であることが好ましい。 さらに、圧子26の押し込み深さは、再現性の点から100nm±20nmであることが好ましい。 【0011】 このようにして求められた超微小押し込み硬度は、測定試料21全体の硬度を示す鉛筆硬度とは異なり、測定試料21表面の硬度を表す特性値である。そして、表面の硬度は、ハードコート膜上に機能膜を形成した場合の密着性と密接な関係を有するので、超微小押し込み硬度を特定すれば、機能膜との密着性に優れたハードコート膜が得られる。」 エ 「【実施例】 【0022】 以下のようにして基材上にハードコート膜を成膜した。まず、アクリル酸誘導体(共栄社製ライトアクリレートDPE-6A)80質量部と光重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184)5質量部とをメチルエチルケトン中で混合して塗工液を調製した。次いで、その塗工液をポリエチレンテレフタレートからなる基材上にバーコート法により約10μmの厚さで塗工して単量体塗膜を形成した。次いで、オーブン中に入れ、加熱して、単量体塗膜中のメチルエチルケトンを除去した後、表1に示す酸素濃度、紫外線積算光量で、超高圧水銀ランプにより発生した紫外線を単量体塗膜に照射し、硬化させてハードコート膜を形成させた。 【0023】 【表1】 【0024】 そして、上記製造方法によって得たハードコート膜の超微小押し込み硬度を、図2に示す微小押し込み硬度計を用いて測定した。その際、圧子としては、三角錐状のものであって、先端曲率半径が100nm、稜角度が80°のものを用いた。また、圧電アクチュエータに印加する電圧をコンピュータで制御することにより、圧子の押し込み速度を10.5nm/秒に制御し、押し込み深さが100nm以上になるような荷重をかけて、押し込み深さ100nm近傍での超微小押し込み硬度を測定した。測定は4回行い、それらの平均値を超微小押し込み硬度の測定値とした。このような条件で測定すれば、測定値の再現性が高い。 また、ハードコート膜の鉛筆硬度を、JIS K5401に準拠して測定した。 超微小押し込み硬度および鉛筆硬度の測定結果を表1に示す。 【0025】 また、上記ハードコート膜の上に、TiO_(2)、SiO_(2)を交互に積層した反射防止膜を成膜した。そして、JIS K5400の碁盤目テープ法によるハードコート膜と反射防止膜との密着性を評価した。その結果を表1に示す。なお、剥離数は、X/100(Xは、剥離しなかったマス目の数)で表している。 【0026】 表1に示す結果から明らかなように、超微小押し込み硬度が0.5?4.8GPaの範囲にあるハードコート膜は、反射防止膜との密着性に優れていた。一方、超微小押し込み硬度が0.5?4.8GPaの範囲になかったハードコート膜は密着性が低かった。すなわち、超微小押し込み硬度と密着性との相関性は高かった。なお、鉛筆硬度は精度が低いため、同じ鉛筆硬度であっても、密着性が高いものと低いものとがあった。」 (7)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例7として引用された特開2006-39024号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 液晶表示装置の液晶セルのバックライト側に用いられる偏光板であって、偏光膜の両側に保護フィルムを有する偏光板において、該偏光膜はポリビニルアルコール系偏光膜であり、液晶セル側偏光膜保護フィルムはセルロースエステルフィルムを延伸して作製され、23℃、55%RHの条件下で、下記式で定義されるリタデーションRoが20?300nm、リタデーションRtが70?400nmの位相差フィルムであり、かつ、バックライト側偏光膜保護フィルムはバックライト側にハードコート層を有し、23℃、55%RHの条件下で、下記式で定義されるリタデーションRoが、0nm<Ro<20nm、リタデーションRtが、0nm<Rt<70nmのセルロースエステルフィルムであることを特徴とする偏光板。 Ro=(Nx-Ny)×d Rt=((Nx+Ny)/2-Nz)×d (式中、Nx、Ny、Nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、Nx、Nyはフィルム面内方向の屈折率を、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、Nx≧Nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表す。) ・・・略・・・ 【請求項5】 前記ハードコート層のナノインデンテーション硬度(H)が0.8?2.0GPaで、かつ、ナノインデンテーション弾性率(Er)が6?15GPaであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の偏光板。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶表示装置用の偏光板及び液晶表示装置に関する。」 ウ 「【0231】 本発明に係るハードコート層のナノインデンテーション硬度(H)と弾性率(Er)は、ハードコート層の膜厚の15±3%の押し込み量もしくは250nmの押し込み量で測定されるが、本発明では、ハードコート層の膜厚の15±3%の値が250nm以上の場合には、押し込み量を250nmに設定して測定を行う。 【0232】 本発明に係るハードコート層に十分な耐傷性を付与し、かつ、加熱条件下でのクラック発生を防止する観点から、ナノインデンテーション硬度(H)を0.8?2.0GPaの範囲に調整し、かつ、弾性率(Er)を6?15GPaの範囲に調整することが好ましい。 【0233】 本発明に係るバックライト側偏光膜保護フィルムの最表面層であるハードコート層のナノインデンテーション硬度(H)及びナノインデンテーション弾性率(Er)の測定は、Hysitron社製TriboscopeをDigital Instruments社製NanoscopeIIIに装着し測定した。 【0234】 測定には、圧子としてベルコビッチ型圧子(先端稜角142.3°)と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を用いた。 【0235】 三角錘型ダイヤモンド製圧子を試料表面に直角に当て、徐々に荷重を印加し、最大荷重到達後に荷重を0にまで徐々に戻した。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aをナノインデンテーション硬度(H)として算出した。ナノインデンテーション弾性率(Er)は、除荷曲線の傾きSとしたとき、下記式を用いて算出した。 【0236】 (式) Er=(S×√π)/(2√A)(πは円周率) なお、標準試料として、付属の溶融石英を押し込んだ結果得られる硬さが9.5±1.5GPaとなるよう、事前に装置を校正して測定した。」 エ 「【実施例】 【0259】 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。 ・・・略・・・ 【0307】 【表1】 【0308】 表1より、本発明の液晶表示装置は比較品に比べ、長期耐久性を予測する強制劣化試験で液晶画面の周辺部が白っぽく見える現象が解決されていることが分かる。また、本発明の液晶表示装置は、下記方法で行う視認性に優れ、及び低コストで量産性に優れていた。」 (8)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例8として引用された特表2006-505395号公報には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 単層反射防止硬質コート。 【請求項2】 構造化表面、好ましくはナノ構造化表面を含む請求項1に記載の単層反射防止硬質コート。 【請求項3】 ナノ圧痕法によって測定したとき、0.5GPaを超え、好ましくは0.7GPaを超え、最も好ましくは1.0GPaを超える硬度を有する材料を含む、請求項1または2に記載の硬質コート。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は機械的に耐久性のある、反射防止特性を有する単一コーティング、それらのコーティングの製造方法、およびそれらのコーティングを製造するための組成物に関する。コーティングは典型的にはナノ構造化表面を呈する。」 ウ 「【0076】 (実施例4) <コーティングの硬度および換算弾性係数の測定> スピンコートしたコーティングの硬度および換算弾性係数を測定するために、6個の平坦なサンプルを洗浄ステップなしで調製した。使用した配合を表3に示す。硬度測定は、較正されたBerkovichダイアモンドチップを圧痕器として用い、Hysitron TriboScopeで行った。チップを既知の負荷でコーティングの中に挿入し、コーティング中への侵入深さを記録した。使用した典型的な負荷関数を図1に示し、得られた力-変位曲線を図2に示す。硬度は、H(GPaで)=Fmax/24.5d2の関係(式中Fmaxは加えた最大負荷であり、dは侵入深さである。)によって計算した。換算弾性係数はEr=0.5(π/24.5d2)1/2(δF/δd)を用いて、力-変位曲線から計算した。ナノ圧痕法実験に関するさらなる詳細はF.J.Balta Calleja & S.Fakirov、Microhardness of Polymer、Cambridge Un.Press、2000に見出すことができる。 【0077】 【表3】 【0078】 これらの6個の平坦な(非表面構造化)サンプルから得られた値を表4に示す。硬度および換算弾性係数の結果は、反応性ナノ粒子を含む混合物から調製したコーティングが、(反応性)ナノ粒子のない混合物から調製したコーティングよりも高い硬度と弾性係数を有することを示す。さらに、架橋基に関して2よりも大きな官能性のモノマーを含む架橋系において、硬度と換算弾性係数の大きな増加を得ることができる。 【0079】 【表4】 」 4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「トリアセチルセルロースフィルム」は、引用例1の【0031】等に記載されている「透明基材」として用いられたものであり、透明であることは明らかであるから、本願発明の「透明基材」に相当する。 (2)引用発明の「『ジペンタエリスリトールトリアクリレート』、『ペンタエリスリトールテトラアクリレート』及び『ウレタンアクリレート』」及び「イルガキュア184(チバジャパン株式会社製(光重合開始剤))」は、それぞれ本願発明の「電離放射線硬化型材料」及び「光重合開始剤」に相当する。また、引用発明の「4級アンモニウム塩を含有するライトエステルDQ100」は、本願発明の「電離放射線硬化型材料」に相当するとともに「4級アンモニウム塩材料」にも相当する。そして、引用発明における、4級アンモニウム塩を含有するライトエステルDQ100、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ウレタンアクリレート、イルガキュア184を用い、これをメチルエチルケトンに溶解して調整したハードコート層形成塗液2をトリアセチルセルロースフィルムの片面に塗布し、乾燥後、紫外線照射することにより形成された「ハードコート層」は、本願発明の「第1層」に相当する。また、前述のとおり、引用発明の「ハードコート層」は、本願発明の「電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料と光重合開始剤とを含んだ塗膜を硬化させてな」る構成を備えることは明らかである。 (3)引用発明の「低屈折率層」は、技術常識からして、本願発明の「屈折率が前記第1層の屈折率と比較して低い第2層」に相当することは明らかである。そして、引用発明の「反射防止フィルム」は、技術的にみて、本願発明の「反射防止フィルム」に相当し、引用発明の「反射防止フィルム」は、本願発明の「透明基材と、第1層と、屈折率が前記第1層の屈折率と比較して低い第2層とをこの順で積層してなる」との構成を備えることは明らかである。 (4)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、 「透明基材と、第1層と、屈折率が前記第1層の屈折率と比較して低い第2層とをこの順で積層してなる反射防止フィルムであって、 前記第1層は、電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料と光重合開始剤とを含んだ塗膜を硬化させてなる、 反射防止フィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。 ・相違点1 本願発明では、「前記第1層」が「レベリング材料」「を含んだ塗膜を硬化させてなり」、「レベリング材料は、フッ素系レベリング材料であり、前記レベリング材料の量は、電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料と前記レベリング材料との合計100質量部中、0.05乃至5.0質量部の範囲内であり、前記光重合開始剤は、第1層形成用塗液の固形分100質量部に対して0.5乃至10.0質量部の範囲内であ」るのに対し、 引用発明では、ハードコート層(第1層)がフッ素系レベリング材料を含む塗膜を硬化させたものではなく、イルガキュア184(光重合開始剤)がハードコート層形成用塗液2(第1層形成用塗液)の固形分に対して4.5重量%程度であるが、当該含有率は、前記ハードコート層形成用塗液2がフッ素系レベリング材料を含んだ場合の値ではない点。 ・相違点2 本願発明では、「第1層の表面の中心線平均粗さRaが0.001μm乃至0.10μmの範囲内であり、かつ、前記第1層表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm乃至1.00mmの範囲内であ」るのに対し、 引用発明では、ハードコート層(第1層)の表面の中心線平均粗さ及び凹凸の平均間隔が明らかでない点。 ・相違点3 本願発明では、「第2層の形成前の第1層の表面について、圧子の押し込み深さを100nmとして得られる微小押し込み硬さが0.45GPa乃至1.0GPaの範囲内である」のに対し、 引用発明では、低屈折率層(第2層)形成前のハードコート層(第1層)の表面の微小押し込み硬さについては明らかでない点。 5 判断 (1)相違点1について ア ハードコート層に含まれるレベリング剤としてフッ素系レベリング剤を用い、該レベリング剤の配合量が固形分の0.01?5質量%程度であることは周知(以下「周知技術1」という。例.引用例2(【0207】、【0223】、【0224】(上記3(2))参照。特に【0223】の「塗布液に対する上記含フッ素系レベリング剤・・・の添加量は、・・・より好ましくは0.01質量%?0.2質量%である」の記載より、前記塗布液が溶媒を含んでいることを考慮すれば、レベリング剤の配合量が固形分の0.01?5質量%の範囲にあることは自明である。)、引用例3(請求項6ないし8、【0041】(上記3(3))参照。))である。 イ 引用例1には、その【0067】(上記3(1)エ)に、ハードコート層形成用塗液にレベリング剤を加えることの示唆がある。当該示唆に基づき、上記アで示した周知技術1を考慮すれば、引用発明において、ハードコート層形成用塗液2にフッ素系レベリング材料を加え、前記フッ素系レベリング材料の量を電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料と前記レベリング材料との合計100質量部中、0.05乃至5.0質量部の範囲内となすことは当業者が適宜なし得たことである。 ウ 引用発明において、イルガキュア184(光重合開始剤)はハードコート層形成用塗液2の固形分に対し約4.5重量%(=5÷(5+25+25+50+5))配合されており、上記イのごとく、フッ素系レベリング材料の量を電離放射線硬化型材料と4級アンモニウム塩材料と前記レベリング材料との合計100質量部中0.05乃至5.0質量部の範囲内となるようにした場合であっても、イルガキュア184(光重合開始剤)の量は、最小でも4重量%程度になるにすぎず、ハードコート層形成用塗液2(第1層形成用塗液)の固形分100質量部に対して0.5乃至10.0質量部の範囲内となる。 エ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得たものである。 (2)相違点2について ア 表面の中心線平均粗さRaが0.10μm以下、かつ、前記表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm以上であるハードコート層は周知(以下「周知技術2」という。例.引用例4(請求項1(上記3(4)ア)参照。)、引用例5(請求項1(上記3(5)ア)参照。)である。なお、算術平均粗さが中心線平均粗さとほぼ等しい値となることは技術常識である。)である。 イ 上記(1)イのとおり、引用例1では、ハードコート層(第1層)にレベリング剤を含むことの示唆があるとともに、ハードコート層の表面を凹凸とするという積極的な記載がない限り、前記表面を平滑化することは当業者に自明な課題である。そうすると、引用発明において、平滑化する際に、上記アで示した周知技術2を考慮して、具体的に表面の中心線平均粗さRaが0.10μm以下、かつ、前記表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm以上とし、その上で、本願の明細書の【0037】に、現実的に可能な平滑化面として記載されているように、前記表面の中心線平均粗さRaが0.001μm以上、かつ、前記表面の凹凸の平均間隔Smが1.00mm以下となすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。 (3)相違点3について ア 表面に形成する機能層との密着性を優れたものとするためや、十分な耐傷性を付与するとともに加熱条件下でのクラック発生を防止するために、微小押し込み硬さを0.45?1.0GPa程度としたハードコート層は周知(以下「周知技術3」という。引用例6(請求項1、【0023】(上記3(6))参照。)、引用例7(請求項5、【0307】(上記3(7))参照。))である。 イ 引用発明のハードコート層においても、低屈折率層との密着性に優れていることや、十分な耐傷性と加熱条件下でのクラック発生防止とが可能であることが望ましいことは当業者に自明であるから、引用発明において、ハードコート層の表面の微小押し込み硬さを0.45?1.0GPaの範囲内となし、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得たことである。 (4)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術1ないし3から当業者が予測することができた程度のことである。 (5)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (6)審判請求人の主張について ア 審判請求人は、平成29年12月14日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張している。 (ア)引用例1に対する引用例2の組合せについて 引用例1も凝集性の金属酸化物粒子や数μmの径を有した有機微粒子を含有しない構成であると考えられる。一方、引用例2は、凹凸の平均間隔(Sm)に関する記載は見られるが、凝集性の金属酸化物微粒子や有機樹脂粒子に起因した凹凸を目止めする理由からフッ素系レベリング剤を含有している。つまり、レベリング剤を含有する理由が粒子に起因した凹凸が発現することを前提としている点で相違していると考えられる。 よって、凝集性の金属酸化物粒子や数μmの径を有した有機微粒子を含有しない引用例1に引用例2を組み合わせる動機付けはないと思料する。 (イ)引用例1に対する引用例4および5の組合せについて 引用例1に対して引用例4および5は、反射防止機能を発現するための技術が異なるものであり、異なる技術思想を反映した発明である。また、表面凹凸の形成理由が異なることから、Ra、Smの規定を同視することは適切ではない。そのため、RaおよびSmに関する示唆の見られない引用例1に対して、引用例4および5を組み合わせることは当業者であればこそ困難であると思料する。 (ウ)引用例1に対する引用例6の組合せについて 引用例6は、背景技術における特許文献1において、ハードコート膜表面の中心線平均粗さ(Ra)が特定の値にあることで、反射防止膜との密着性が優れる、といった記載は見られる(【0006】等)。しかしながら、密着性の高いハードコート膜を得るためには、ハードコート膜表面の中心線平均粗さを特定することは適切ではなかったとし、中心線平均粗さによる規定を好ましくないものとしている(【0003】)。そのため、超微小押し込み硬度による規定をしている。このように、引用例6は超微小押し込み硬度に関する記載は見られるものの、中心線平均粗さ(Ra)を規定することに対する阻害理由を有しているものと考えられる。そのため、中心線平均粗さ(Ra)の示唆が見られない引用例1に引用例6を組み合わせることの阻害要因が存在する。 (エ)引用例1に対する引用例7および8の組合せについて 引用例1は、基材の上にハードコート層(第1層)を形成し、その上に低屈折率層(第2層)を形成した層構成が前提であり、層間の密着性を考慮するために、超微小押し込み硬度を規定している。そのため、超微小押し込み硬度に関する示唆の見られない引用例1に対して、ハードコート層(第1層)の上に低屈折率層等を形成することを前提としない引用例7および8を引用例1に組み合わせる動機付けは存在しないと思料する。 イ 審判請求人の主張について検討する。 (ア)上記ア(ア)について 引用例2において、ハードコート層にレベリング剤を使用する目的は面状改良(ムラ防止)(【0207】)である。すなわち、ハードコート層の表面に、「凝集性の金属酸化微粒子や有機樹脂粒子に起因した凹凸」以外の塗膜欠陥が生じないようにするために用いられているのであって、「凹凸を目止めする」という作用機能を有しているのは、当該レベリング剤ではなくオーバーコート層である(【0012】)。そうすると、引用例1のレベリング剤(【0067】)は、形成される塗膜において塗膜欠陥の発生を防止するためにハードコート形成用塗液に添加されるものであるから、引用発明に用いるレベリング剤の例として、引用例2に記載されたレベリング剤が不適当との請求人の主張には理由がない。 (イ)上記ア(イ)について 引用例4、5は、防眩性を持たせるために凹凸を設けたものであるものの、このような凹凸を設けたハードコート層の表面でさえ、中心線平均粗さRaが0.10μm以下、かつ、前記表面の凹凸の平均間隔Smが0.15mm以上であるのならば、凹凸を積極的に付与しない引用発明のハードコート層の表面が、周知技術2のハードコート層の表面より平滑であることは技術常識であるから、引用発明のハードコート層の表面は、周知技術2の中心線平均粗さRa及び平均間隔Smと同等か、それより平滑性を示す値となることは明らかである。 (ウ)上記ア(ウ)及び(エ)について 上記(3)で示したとおり、ハードコート層の微小押し込み硬さが0.45?1.0GPaであることは周知技術3のとおり通常の範囲であり、引用例6ないし8はそのことを示す周知例として提示したものにすぎないから、引用例6ないし8のハードコート層の表面粗さやハードコート層上の低屈折率層の存在如何にかかわらず、引用発明のハードコート層の微小押し込み硬さを0.45?1.0GPaの範囲とすることは当業者にとって格別困難なことではない。 なお、請求人の主張に沿って、引用例6又は7を周知例ではなく副引例として、引用発明に適用することについて検討しても、次のとおり、請求人の主張はいずれも採用できない。 すなわち、引用例6の適用については、ハードコート層の表面に形成する機能層との密着性を優れたものとするために、ハードコート層の表面の微小押し込み硬さを規定するとともに、当該密着性とは別の目的で、例えば、反射防止フィルムを通して見える画像の鮮明性を確保する等のために、ハードコート層表面の中心線平均粗さを規定することは当然あり得るのであるから、引用発明において、中心線平均粗さの規定とともに、引用例6に記載の微小押し込み硬さの規定を採用することに、請求人のいう阻害要因などない。 また、引用例7には、十分な耐傷性を付与するとともに加熱条件下でのクラック発生を防止するために、ハードコート層表面の微小押し込み硬さを特定の範囲に規定することが記載されているところ、引用発明においても、十分な耐傷性を付与するとともに加熱条件下でのクラック発生を防止することができたほうが望ましいことは、上記(3)イでも示したように、当業者に自明であるから、引用発明において、引用例7に記載の微小押し込み硬さを採用することには動機付けがある。 以上のとおりであるから、請求人の主張は、採用することができない。 6 むすび 本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-15 |
結審通知日 | 2018-01-16 |
審決日 | 2018-01-29 |
出願番号 | 特願2013-507567(P2013-507567) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 清水 康司 |
発明の名称 | 反射防止フィルム及び偏光板 |