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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1338584
審判番号 不服2016-19135  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-21 
確定日 2018-03-15 
事件の表示 特願2015- 95858「電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月13日出願公開、特開2015-146467〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年10月2日に出願した特願2006-271154号の一部を平成24年8月22日に出願した特願2012-182958号の一部を平成26年2月14日に出願した特願2014-26162号の一部を平成27年5月8日に新たな特許出願とするものであって、平成28年3月24日付け拒絶理由通知に対して同年5月24日付けで手続補正がなされたが、同年9月23日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年12月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成29年10月16日付け当審の拒絶理由通知に対して同年12月24日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成29年12月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
第1面を有する第1配線部材と、
第1主面、前記第1主面とは反対側の第2主面および前記第2主面よりも前記第1主面の近くに配置された配線層を有し、前記第2主面と前記第1配線部材の前記第1面とが対向するように前記第1面上に設置されたインターポーザとしての第2配線部材と、
第1表面および前記第1表面上に設置された第1電極を有し、前記第1表面と前記第2配線部材の前記第1主面が対向するように前記第1主面上に搭載され、積層された複数のメモリーチップを有する第1半導体チップと、
第2表面および前記第2表面上に設置された第2電極を有し、前記第2表面と前記第2配線部材の前記第1主面とが対向するように前記第1主面上に搭載され、且つ、前記第1半導体チップと並んで設置され、前記複数のメモリーチップを制御するためのCPUを有する第2半導体チップと、を備え、
前記第2配線部材の前記配線層は、一終端部とその反対側の他終端部を有する第1配線を含み、
前記一終端部は、前記第1電極を介して前記第1半導体チップとフリップチップ接続されており、
前記他終端部は、前記第2電極を介して、前記第2半導体チップとフリップチップ接続されており、
前記第1半導体チップの前記第1電極は、前記第2半導体チップの前記第2電極と前記第2配線部材の前記第1配線を介して、電気的に接続されている電子装置。」


第3 平成29年10月16日付け当審の拒絶理由通知の概要

この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1-13
・備考
本願明細書の段落【0005】【0008】【0010】【0011】【0032】【0037】によれば、本願の目的は、低コストながらも(比較的安価な樹脂を一部用いて)配線層と電子部品の微細な接続が得られる電子装置を実現することであり、具体的な構成は、配線層20を構成する絶縁樹脂24(請求項1の「第1配線部材」に含まれるもの。)として、配線層10を構成する絶縁樹脂14(請求項1の「第2配線部材」に含まれるもの。)よりも「熱分解温度」が低い樹脂を用いたものである。
しかしながら、請求項1に係る発明は、「第1配線部材」および「第2配線部材」にどのような樹脂を用いたのか記載がなく、明細書等に記載された課題を解決することができないものを含んでいるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
よって、請求項1ないし13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(第1配線部材および第2配線部材に、それぞれ樹脂が含まれることを明記し、更に、当該樹脂の熱分解温度の関係を明記すれば、拒絶の理由は解消される。)


第4 審判請求人の主張の概要

審判請求人は、平成29年12月24日付け意見書において、以下のとおりの主張をしている。なお、下記文中の「・・・」は、意見書の記載を省略した箇所を示す。

(1)総論
・・・(略)・・・本願の発明の詳細な説明に記載された発明は、「配線層20を構成する絶縁樹脂24(請求項1の『第1配線部材』に含まれるもの。)として、配線層10を構成する絶縁樹脂14(請求項1の『第2配線部材』に含まれるもの。)よりも『熱分解温度』が低い樹脂を用いたもの」(本拒絶理由通知書)に限定されないと本審判請求人は思料致します。

(2)本願の発明の詳細な説明に記載された少なくとも2つの観点の発明
ア 本願の発明の詳細な説明には、「配線層と電子部品との微細な接続を得られる電子装置とその製造方法」(本願段落0011)について、以下の少なくとも2つの観点の発明が記載されております。
イ 第1の観点の発明
本願の第1の観点の発明は、「熱分解温度」が低い樹脂にかかわる発明で、「低コスト」(本願の例えば段落0011)の製造方法に関する発明となります。
・・・(略)・・・
そこで本願の第1の観点の発明では、半導体チップ搭載面側の第2配線部材を高温に耐える(熱分解温度が高い)配線部材を用い、半田ボール搭載する第1配線部材に第2配線部材より低温に耐える(熱分解温度が低い)配線部材を用いています。
ウ 第2の観点の発明
本願の第2の観点の発明は、「前記第2主面よりも前記第1主面の近くに配置された配線層を有」すること(本願請求項1)であり、これにより「配線層と電子部品との微細な接続を得られる」こと(本願段落0011)です。
このことは、以下のとおり、図1、段落[0011]、[0014]、[0015]、[0017]、[0019]及び[0034]に記載されております。
・・・(略)・・・
一般的にビルドアップにより配線層を形成する場合(本願の例えば段落[0030]及び[0031]並びに図7)、ビルドアップにより形成する配線層の層数が増えれば増えるほど、積み上げた配線層の平坦性が確保できなくなり、このため微細な配線の形成ができなくなります。本願発明者はこの技術的課題に出願当初に気付いたからこそ、第2主面よりも第1および第2半導体チップを搭載した第1主面により近い配線層に微細な配線を形成することで、言い換えれば微細な配線を形成した配線層側へ、ICチップを搭載することで、高密度配線を実現しパッケージサイズ(ICチップサイズと配線基板サイズ)の
小型化を実現する本願第2の観点の発明を考案するに至ったのです。

(3)小括
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明には、上述した第1の観点の発明だけでなく、上述した第2の観点の発明も記載されています。したがって、本願請求項1?12は、特許法第36条第6項第1号の拒絶理由に該当しないと本審判請求人は思料致します。


第5 当審の判断

上記「第4 (2)ウ」及び「第4 (3)」によれば、審判請求人は、本願発明は「前記第2主面よりも前記第1主面の近くに配置された配線層を有」することを観点としており、これにより「配線層と電子部品との微細な接続を得られる」旨を主張している。
この点について、【発明の効果】として記載された本願明細書の段落【0011】の「微細な接続を得られる」こととはどのようなことかは、その前段の【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】を参照して以下判断する。なお、下線は当審で付与したものである。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】 ところで、上記電子装置において、配線層と電子部品との微細な接続のためには、多層配線層を構成する配線層のうち電子部品側の配線層には、微細加工に適した樹脂を用いることが求められる。一方で、上記半田ボール側の配線層には、微細加工に適した樹脂を用いることが要求されない場合も多い。その場合、電子装置の低コスト化を図るべく、半田ボール側の配線層には、比較的安価な樹脂を用いることが好ましい。
【0006】 しかしながら、特許文献1の製造方法においては、上述のとおり、支持基板上に複数の配線層を順に積層することにより多層配線層を形成している。したがって、半田ボール側の配線層は、電子部品側の配線層よりも前に形成されることとなる。そのため、半田ボール側の配線層を構成する樹脂として、電子部品側の配線層を構成する樹脂よりも熱分解温度が低い樹脂を用いることができないという制約がある。かかる制約のために半田ボール側の配線層に用いる樹脂が限定され、それにより電子装置の低コスト化が妨げられている。
【課題を解決するための手段】
【0007】 本発明による電子装置の製造方法は、支持基板上に第1の配線層を形成する第1配線層形成工程と、上記支持基板を除去する支持基板除去工程と、上記支持基板除去工程よりも後に、上記第1の配線層の上記支持基板が設けられていた面上に、上記第1の配線層より外側まで延在する第2の配線層を形成する第2配線層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】 この製造方法においては、電子部品が載置される第1の配線層を支持基板上に形成する一方で、第2の配線層を支持基板の除去後に形成している。これにより、第2の配線層を構成する樹脂として、第1の配線層を構成する樹脂よりも熱分解温度が低い樹脂を用いることができないという制約から免れることができる。したがって、第1の配線層には微細加工に適した樹脂を用い、一方で第2の配線層には比較的安価な樹脂を用いることが可能となる。
【0009】 また、本発明による電子装置は、第1の配線層と、上記第1の配線層上に設けられ、上記第1の配線層より外側まで延在する第2の配線層と、を備えることを特徴とする。
【0010】 この電子装置においては、第2の配線層を構成する樹脂として、第1の配線層を構成する樹脂よりも熱分解温度が低い樹脂を用いることができる。したがって、第1の配線層には微細加工に適した樹脂を用い、一方で第2の配線層には比較的安価な樹脂を用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】 本発明によれば、低コストながらも、配線層と電子部品との微細な接続を得られる電子装置およびその製造方法が実現される。」

上記段落【0005】ないし【0011】によれば、「第1の配線層には微細加工に適した樹脂を用い、第2の配線層には比較的安価な樹脂を用いる(第1の配線層の樹脂よりも第2の配線層の樹脂の方が熱分解温度が低い樹脂を用いる)」こと、「第1の配線層を支持基板上で形成し、この支持基板を除去後に、第2の配線層を形成する」ことにより、「低コストながらも、配線層と電子部品との微細な接続が得られる」ものと認められる。なお、本願明細書の段落【0032】ないし【0037】にも同様の事項が記載されている。

また、出願人が上記「第4 (2)ウ」において主張している本願明細書の段落【0014】、【0015】、【0017】、【0019】及び【0034】には、以下のとおり記載されている。
「【0014】 図1は、本発明による電子装置の第1実施形態を示す断面図である。電子装置1は、配線層10(第1の配線層)、および配線層20(第2の配線層)を備えている。
【0015】 配線層10は、ビアプラグ12(第1の導電プラグ)、絶縁樹脂14および導体配線16を有している。ビアプラグ12は、絶縁樹脂14中に形成されている。図からわかるように、ビアプラグ12は、配線層20に近づくにつれて径が小さくなるテーパ状をしている。したがって、ビアプラグ12の配線層20側の端面の面積は、その反対側の端面すなわち後述するICチップ32,36側の端面の面積よりも小さい。
【0017】 配線層10の上面(第1面)上には、ICチップ32,36(電子部品)が載置されている。これらのICチップ32,36は、それぞれバンプ33,37を介して導体配線16にフリップチップ接続されている。ICチップ32と配線層10との間の間隙には、アンダーフィル樹脂34が充填されている。同様に、ICチップ36と配線層10との間の間隙には、アンダーフィル樹脂38が充填されている。ICチップ36は複数設けられており、それらは互いに積層されている。ICチップ32およびICチップ36は、例えば、それぞれCPUおよび積層メモリである。積層メモリとは、ICチップ(メモリ)を三次元的に積層し、チップ(メモリ)間を電気的に接続したものである。
【0019】 配線層10の下面(第2面)上には、配線層20が形成されている。配線層20は、平面視での面積が配線層10よりも大きく、配線層10より外側まで延在している。すなわち、配線層20は、配線層10からはみ出している。
【0034】 剛性の高い支持基板90上にて導体配線16の配線パターンを形成しているので、微細な導体配線16を得ることができる。また、支持基板90上で配線層10とICチップ32,36とを接合しているので、配線層10とICチップ32,36とを微細ピッチでバンプ接続することができる。このことは、配線層数の減少、およびICチップ32,36のサイズの縮小につながる。」

当該段落を参酌しても、配線層(第1の配線層、第2の配線層)、導体配線、ビアプラグが形成されていること、ICチップのバンプ33,37が導体配線にフリップチップ接続されていることが記載されているだけで、「微細な接続」がどのようなものかは明記されていない。
なお、段落【0034】には、支持基板上で配線パターンを形成すれば「微細な」導体配線が得られると記載されているが、本願発明には特定されていない事項である。
そして、本願明細書全体を参酌しても、どのような構成であれば「微細な接続」であるのか明記されておらず、「前記第2主面よりも前記第1主面の近くに配置された配線層を有」することが「微細な接続を得られる」ことである示唆も認められない。

以上のとおり、本願明細書には「前記第2主面よりも前記第1主面の近くに配置された配線層を有」することにより、「配線層と電子部品との微細な接続を得られる」ことは記載されていないので、審判請求人の上記「第4 (2)ウ」における主張を認めることはできない。
結局のところ、発明を解決しようとする課題(段落【0005】ないし【0006】)、課題を解決するための手段(段落【0007】ないし【0010】)、及び発明の効果(段落【0011】)からして、物を特定している本願発明は、上記「第2 (2)イ」の「低コスト」を達成するための構成である「第1の配線部材と第2の配線部材に含まれる樹脂」を特定しなければならない。
したがって、本願発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものである。


第6 むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-09 
結審通知日 2018-01-16 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2015-95858(P2015-95858)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 幸司深沢 正志  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 電子装置  
代理人 速水 進治  
代理人 天城 聡  

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