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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1338597
審判番号 不服2017-6353  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-01 
確定日 2018-03-15 
事件の表示 特願2012-175904「塗料用樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月24日出願公開、特開2014- 34617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成24年8月8日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は概略以下のとおりのものである。

平成27年10月22日 手続補正書提出
平成27年10月30日 上申書提出
平成28年 1月20日付け 拒絶理由通知
平成28年 3月26日 意見書及び手続補正書提出
平成28年 8月31日付け 拒絶理由通知(最後)
平成28年12月28日 意見書
平成29年 1月26日付け 拒絶査定
平成29年 5月 1日 本件審判請求及び手続補正書提出
平成29年 6月 2日付け 前置報告

第2 平成29年5月1日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成29年5月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

平成29年5月1日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、上記平成28年3月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので、本件補正前の請求項1を引用する請求項2についての補正を含むところ、本件補正前の請求項1を引用する請求項2に対応する本件補正後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1) 補正前

「【請求項1】
単量体成分を乳化重合させてなるエマルション粒子を含有するトップコート用樹脂エマルションであって、前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤を含有し、前記エマルション粒子が内層と外層との2層構造を有し、外層に用いられる単量体成分がピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体を含有することを特徴とするトップコート用樹脂エマルション。

【請求項2】
エマルション粒子の外層を構成する樹脂の原料が単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤を含有する単量体成分である請求項1に記載のトップコート用樹脂エマルション。」

(2) 補正後

「【請求項1】
単量体成分を乳化重合させてなるエマルション粒子を含有するトップコート用樹脂エマルションであって、前記エマルション粒子が内層と外層との2層構造を有し、内層および外層を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分として単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、外層を構成する樹脂の原料が前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤と、ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体とを含有する単量体成分であることを特徴とするトップコート用樹脂エマルション。」

2 補正の適否

本件補正のうち、特許請求の範囲の本件補正後の請求項1に係る上記補正は、「内層」および「外層」を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分について、「単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、」との限定を付すものである。

願書に最初に添付した明細書の【0013】、及び【0031】には、それぞれ、「単量体成分としては、単官能単量体および多官能単量体があるが、本発明は、これらをいずれも用いることができる。単官能単量体および多官能単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。」、及び「好適な単官能単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体、スチレン系単量体などが挙げられ、これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。」(下線は当審で付与した。以後、同じ。)と記載されている。
よって、本件補正が、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

また、本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2の構成要件に限定を付すものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2に係る発明と、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明との、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 独立特許要件について

(1) 引用文献

ア 原査定の拒絶の理由に、引用文献2として引用された本願出願日前に頒布された引用文献である特開2010-59379号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「高耐久性アクリル系エマルジョン(当審注:「エマルジョン」については、日本工業規格(JIS規格)にしたがって、以後、「エマルション」と表記する。)」(発明の名称)について、以下の記載がある(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は造膜助剤が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられるアクリル系エマルションに関する。(ブロッキングとは、塗料を金属、木材、紙、プラスチック、無機建材等の各種基材に塗装後、保護シートを介して基材を積み重ねた際に、基材の保護シートと塗膜が接着する現象をさす。)」

「【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から水性塗料の使用が多くなっており、アクリル系エマルション(以下、単にエマルションと略す)は、塗料やコーティング用途に広く用いられている。特に外壁材、屋根材等の基材のトップコートとして用いられる塗料に対しては、高いレベルの耐ブロッキング性が要求される。
一般に塗膜の耐ブロッキング性は、重合体のガラス転移温度(Tg)が大いに関係し、Tgが高いほど優れた耐ブロッキング性を示す。しかしながら、Tgが高い重合体から得られる塗膜は、一般に柔軟性に劣り、クラックが発生しやすいという問題がある。更には、造膜(皮膜形成)は、ポリマー粒子の融合により行われるため、Tgが高いものは造膜助剤を多量に使用して造膜させなければならない。したがって、環境に対する影響も懸念される上、塗膜の乾燥が不十分な場合には、残存する造膜助剤の影響で耐ブロッキング性が悪くなる問題点があった。
一方、Tgが低い重合体から得られる塗膜は、一般に柔軟性が高く、優れた耐クラック性を示すが、形成された塗膜は乾燥後も粘着性が残り、耐ブロッキング性が悪くなる問題がある。耐ブロッキング性が悪いと、塗膜の破損や光沢の変化が生じ、塗装本来の目的である被覆物の保護や美観を向上させるという目的が達成されないため、工場塗装用等に用いられる塗料(エマルション)には耐ブロッキング性が必要になる。
また耐ブロッキング性が要求される塗料は、基材の最表面に塗装されるのが一般的であり、優れた耐久性、即ち耐候性及び耐クラック性に優れることが重要である。特に家屋の外壁に塗装される塗料については、20?30年という長期に渡って太陽光エネルギーや雨等にさらされ、塗膜の艶の低下、変色、ふくれ、ひび割れ等が生じることがあり、外観の維持及び建材の保護が可能な高耐久性塗料が望まれている。
前述の問題に対して、様々な検討がなされている。特許文献1に示すように、コア部に高いTg成分の単量体を用い、シェル部に低いTg成分の単量体を使用したハードコア/ソフトシェルタイプのエマルションが提案され、一般にトレードオフの関係にある耐ブロッキング性と耐クラック性の問題を解決することができるようになった。しかしながら、特許文献1にはシリコーン変性剤の使用量に関する記載が無く、また実施例に記載されているシリコーン変性量では、長期に渡る塗膜の耐候性の維持という点では不十分である。
特許文献2には造膜助剤の使用が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性に優れるエマルションに関する記載があるが、シリコーンによる複合化がなされていないため、塗膜の耐候性が劣る。また特許文献3には、塗膜が優れた耐候性を示すエマルションに関する記載があるが、Tgが50℃以上の重合体の割合が低いため、耐ブロッキング性が劣る。
【特許文献1】特開2008-38115号公報
【特許文献2】特開2001-164178号公報
【特許文献3】特開2008-38116号公報」

「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、造膜助剤が低減でき、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性、に優れた塗膜を形成し得る高耐久アクリル系エマルションを提供することである。」

「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、シリコーン変性剤〔A〕の存在下で、重合性単量体を多段乳化重合することにより得られるアクリル系エマルションであって、該アクリル系エマルションの中心部分(コア)は、ガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体からなり、該アクリル系エマルションの最も外側に位置する部分(シェル)はガラス転移温度(Tg)40℃以下のアクリル系重合体からなる異相構造からなり、該シリコーン変性剤〔A〕が・・・(中略)・・・を含むことを特徴とするアクリル系エマルションである。」

「【発明の効果】
【0005】
本発明のアクリル系エマルションにより得られる塗膜は、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れるため、高耐久性塗料の原料として好適である。」

「【0006】
本発明について、以下に具体的に説明する。本発明のアクリル系エマルション(以下、単にエマルションと略す)は、通常の多段乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中で重合性単量体、乳化剤、ラジカル重合開始剤および必要に応じて用いられる他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、通常60?90℃の加温下にて単量体成分の乳化重合を行い、この工程を少なくとも2回以上繰り返す方法である。重合系内への単量体組成物の供給方法としては、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルション法、あるいはこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
本発明のエマルションにおけるコア部とシェル部の定義は、異相構造粒子が3相以上(3種類以上の重合体)で構成されている場合、中心に位置する重合体をコア部とし、その他の2相以上の部分をシェル部と定義する。シェル部が2相以上で構成されている場合のTgは平均値を用いることとする。」

「【0012】
本発明に用いられる乳化剤としては、特に限定はなく、例えばアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤などのアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又は前述の骨格と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性乳化剤などのノニオン性乳化剤;アルキルアミン塩や、第四級アンモニウム塩などのカチオン性乳化剤;(変性)ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの乳化剤は、単独で用いても良いし、数種類を組み合わせて用いても良い。また高度な耐水性を達成するためには、反応性乳化剤を用いることが好ましい。
【0013】
また本発明には、上記乳化剤に加えて、下記式(4)で示されるスルフォコハク酸系乳化剤を併せて用いると、重合安定性が高まり、乳化重合時に発生する前記シラン[1]由来の凝集物の発生を大幅に低減することができるため、好ましい。
【化3】

{式中、R^(a),R^(b)は同一でも、異なっていてもよく、水素、炭素数1?20のアルキル基、炭素数1?20のアルケニル基、炭素数5?12のシクロアルキル基、炭素数5?10のアリール基、炭素数6?19アラルキル基等の炭化水素基、またはその一部が水酸基、カルボン酸基などで置換されたもの、もしくはポリオキシアルキレンアルキルエーテル基(アルキル部分の炭素数が2?4、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル基(アルキル部分の炭素数が0?20、およびアルキレン部分の炭素数が2?4)などのアルキレンオキサイド化合物を含む有機基またはアルカリ金属、アンモニウム、有機アミン塩基または有機第四級アンモニウム塩基であり、Mはアルカリ金属、アンモニウム、有機アミン塩基または有機第四級アンモニウム塩基を示す。)
【0014】
本発明において、前記式(4)で表されるものとして、例えばラジカル重合性二重結合を有さないスルフォコハク酸系乳化剤として、スルフォコハク酸ジオクチルナトリウム{花王(株)製ペレックス(商標)OT-P、または三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)OT-75など}、スルフォコハク酸ジヘキシルナトリウム{三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)MA-80など}、三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)TR-70、A-196-85、AY-100、IB-45、A-102、A-103、501などがある。ラジカル重合性二重結合を有するスルフォコハク酸系乳化剤として、三洋化成(株)製エレミノール(商標)JS-20、花王(株)製ラテムル(商標)S-120、S-180、S-180Aなどがある。」

「【0017】
その他、本発明のエマルションには、通常水系塗料に添加配合される成分、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を任意に配合することができる。」

「【0022】
紫外線吸収剤にはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系がある。・・・(中略)・・・
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として具体的には、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル-3-〔3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN1130)、イソオクチル-3-〔3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN384)、2-(3-ドデシル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN571)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN900)などがある。
・・・(中略)・・・
【0023】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、その中で塩基性の低いものがより好ましく、塩基定数(pKb)が8以上のものが特に好ましい。具体的には、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、1-〔2-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕-4-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル-セバケートの混合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN292)、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(製品名、日本チバガイギー(株)製)などがある。」

「【0024】
本発明において、紫外線吸収剤および/または光安定剤は、アクリル系エマルションを製造する乳化重合時に存在させることによりアクリル系エマルションに導入する方法、紫外線吸収剤および/または光安定剤を成膜助剤などと混合してアクリル系エマルションに添加することにより導入する方法、紫外線吸収剤および/または光安定剤を成膜助剤と混合し、界面活性剤、水を加え乳化させた後、アクリル系エマルションに添加することにより導入する方法が挙げられる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、相乗効果により卓越した耐久性を示す。」

「【0026】
本発明によって製造されるエマルションは、分散質の平均粒子径として、10?1000nmであることが好ましい。また得られたエマルション中の分散質(固形分)と分散媒としての水性媒体との質量比は、30/70以上65/35以下であることが好ましい。更には、エマルションの長期の分散安定性を保つため、塩基性物質、例えばアンモニア、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類を始めとする塩基性有機化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を始めとする塩基性無機化合物等を用いてpH5?10の範囲に調整することが好ましい。」

「【0031】
[実施例1]
第1段階の乳化重合で異相構造粒子のコア部を形成させ、第2段階の乳化重合でシェル部を形成させる2段階乳化重合を行った。まず第1段階として、撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水472部、乳化剤としてハイテノール LA-14(第一工業製薬(株)製)の20%溶液を4部添加し、反応容器を加熱した。反応容器内の液温が80℃に到達したところで、2%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を4.8部添加した。その5分後、重合性単量体、乳化剤、重合開始剤、水よりなる表2に示す組成の乳化液及び、表2に示す組成のシリコーン変性剤の混合液を別々の滴下用容器より90分かけて滴下した。滴下中は反応容器内の液温を80℃に保った。滴下終了後、乳化液の入っていた容器に水17.5部を投入して容器の底面を簡単にすすぎ、そのすすぎ液を反応容器内に投入して、30分間80℃に保った。
第2段階として、同様に表2に示す組成の乳化液及びシリコーン変性剤の混合液を別々の滴下用容器より90分かけて滴下した。滴下終了後は第1段階と同様に乳化液の容器すすぎ液17.5部を反応容器へ投入し、液温80℃で90分保った後、室温まで冷却した。得られたアクリル系エマルションの水素イオン濃度を測定したところ、pHは2.9であった。次いで、エマルションを110メッシュのフィルターで濾過し、残渣率を測定した。
得られたエマルションを再び80℃に加熱し、12.5質量%アンモニア水を180g添加して4.5時間ホールド後、蒸留により濃縮した。pHを8.5に調整し、エマルションの固形分を40質量%に調整して前記の評価を行った。その結果を表2に示す。全般的に耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性のバランスに優れる。
なお、実施例及び比較例で用いた乳化剤は、アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)、エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)である。また用いたシリコーン変性剤は、シラン(1)としては、ジフェニルジメトキシシラン KR217(信越化学工業(株)製)、シラン(2)としては、メチルトリメトキシシラン SZ6070(東レ・ダウコーニング(株)製)、シラン(3)としては、ジメチルジメトキシシラン AY43-004(東レ・ダウコーニング(株)製)である。更に重合性シランとして、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン SZ6030(東レ・ダウコーニング(株)製)を用いた。
【0032】
[実施例2?5]
シリコーン変性剤の組成を変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして2段階乳化重合を行い、得られたエマルションを同様にして調整し、同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
全般的に耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性が優れる。また実施例2及び3では、乳化剤OT-75を使用したことで、ジフェニルジメトキシシラン(KR217)による凝集物の発生が抑えられ、重合安定性が大幅に向上した。
【0033】
[比較例1及び2]
シリコーン変性剤の組成を変更した点以外は、すべて実施例1?4と同様にして2段階乳化重合を行い、得られたエマルションを同様にして調整し、同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
全般的に耐ブロッキング性と耐クラック性のバランスに優れる。ジフェニルジメトキシシラン(KR217)を用いていないため、重合安定性には優れるものの、実施例の塗膜に比べて、耐候性が劣る。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】



イ 原査定の拒絶の理由に、引用文献5(周知技術を示す文献)として引用された本願出願日前に頒布された引用文献である特開2003-226793号公報(以下、「引用文献5」という。)には、「水性樹脂分散体およびその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗料やコーティング用途等に用いられる水性樹脂分散体に関する。」

「【0002】
【従来の技術】近年、無公害性、火災の危険性が少ないことなどの利点から水性塗料の使用が多くなっており、水性樹脂分散体が塗料やコーティング用途に広く用いられている。一般に、水性樹脂分散体は乳化重合で得られるが、乳化重合は親水性物質である乳化剤を必要とするために、水性樹脂分散体は、溶剤型樹脂に比べ、塗膜の耐水性、具体的には、耐透水性、耐吸水性、耐温水白化性等が劣るという欠点があった。そこで、塗膜の耐水性を改良するために、水性樹脂分散体について様々な検討が行われており、その一つの手法として、水性樹脂分散体の小粒子径化が考えられる。小粒子径化することにより、乳化剤が局在化し易くなる粒子間隙が微分散し、緻密な塗膜が形成されることで、塗膜内への水の浸入が抑制されることが期待されるが、これまでの水性樹脂分散体の小粒子径化には、製造方法や実用上等に問題があった。例えば、特開平7-133305号公報には、樹脂分散粒子を微粒子化し均一系に近づけたものが提案されているが、同号公報提案のものは、乳化剤として親水性の強い臨界ミセル濃度の小さいものが多量に使用されているために、耐水性はあまり期待できない。このような乳化剤多量使用の問題を解消するために、特開平8-48705号公報には、シード重合法により得られる重合安定性が高くかつ粒子径分布が狭い共重合体ラテックスが提案されている。しかし、その製造には、シード粒子を別の反応釜で調製する必要があり、工程が繁雑でかつ時間を要するという問題がある。特開平9-302006号公報には、平均粒子径1?50nmの超微粒子であり、かつ乳化剤含有量の少ないポリマーラテックスの製造方法が提案されているが、同号公報提案のものは固形分が極めて低く、固形分が低くなると経済性が低くなり、実用性に欠けるという問題がある。特開平10-182706号公報には、粒子径が小さく、残留モノマーの少ない水分散型樹脂組成物の製造方法が提案されているが、同号公報提案のものは、その製造に乳化活性をもつ水溶性ポリマーが多量に使用されるために、耐水性は期待できない。」

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐水性、特に耐温水白化性と、耐ブロッキング性と、耐凍害性とに優れる塗膜の形成を可能とする水性樹脂分散体およびその製造方法を提供することにある。」

「【0011】
【発明の実施の形態】(水性樹脂分散体)本発明の水性樹脂分散体は、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分の個々が重合する過程で一体化してなる樹脂複合体を含むものである。該樹脂複合体は、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分を各段で用いた多段の乳化重合により容易に得られるものであり、コアシェル構造の樹脂粒子であることが好ましい。さらに好ましくは、該コアシェル構造の樹脂粒子は、その中心部分が、複数の重合性単量体成分のうちガラス転移温度が最も高い重合性単量体成分(以下、「高Tg成分」と称することもある。)より形成され、その最外殻部分が、複数の重合性単量体成分のうちガラス転移温度が最も低い重合性単量体成分(以下、「低Tg成分」と称することもある。)により形成されていることが望ましく、このようなコアシェル構造の樹脂粒子は、後述する本発明の製造方法により容易に得ることができる。」

「【0017】前記Si含有モノマーの含有割合は、特に制限されないが、例えば、全重合性単量体成分(複数の重合性単量体成分の総量)中、好ましくは0.1?30重量%、より好ましくは0.3?10重量%、最も好ましくは0.5?5重量%であるのがよい。前記Si含有モノマーの含有割合が、前記範囲より少ないと、耐温水白化性や耐水白化性等の耐水性が充分に向上しない傾向があり、一方、前記範囲よりも多いと、得られた水性樹脂分散液の保存安定性が悪くなる恐れがある。前記複数の重合性単量体成分をそれぞれ構成するモノマーとしては、複数の重合性単量体成分のうちの少なくとも1つが前記Si含有モノマーを必須とすること以外は、特に制限されるものではなく、前記Si含有モノマーのほかに、例えば、次のような重合性不飽和単量体が好ましく挙げられる。すなわち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸等の酸性官能基を有する(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール等のオキソ基を有する重合性単量体類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のビニル化合物類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有重合性単量体類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアセトンアクリルアミド、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の窒素原子含有重合性単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する重合性単量体類;2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(2-(メタ)アクロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン等の紫外線吸収性重合性単量体類;4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性単量体類;等である。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、水酸基を有する(メタ)アクリレート類、酸性官能基を有する(メタ)アクリレート類、ビニル化合物類、エポキシ基を有する重合性単量体類、紫外線吸収性重合性単量体類、紫外線安定性重合性単量体類が特に好ましい。これら重合性不飽和単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。なお、重合性単量体成分に占める前記重合性不飽和単量体の割合としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜設定すればよい。」

「【0023】前記Si含有化合物の含有割合は、特に制限されないが、例えば、水性樹脂分散体中、好ましくは0.1?20重量%、より好ましくは0.5?10重量%、最も好ましくは1?5重量%であるのがよい。前記Si含有化合物の含有割合が、前記範囲より少ないと、耐温水白化性や耐水白化性等の耐水性が充分に向上しない傾向があり、一方、前記範囲よりも多いと、得られた水性樹脂分散液の保存安定性が悪くなる恐れがある。本発明の水性樹脂分散体は、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収能のある物質や紫外線安定化能のある物質を含有していてもよい。これにより、耐候性を付与することができる。紫外線吸収能のある物質や紫外線安定化能のある物質を含有させるには、例えば、重合性基をもたない低分子量の紫外線吸収剤や紫外線安定化剤を、多段の乳化重合で得られた樹脂複合体に添加するか、前記乳化重合時に重合性単量体成分とともに添加すればよい。また、前記の紫外線吸収性の単量体や紫外線安定性の重合性単量体を重合した高分子量の水溶性または水分散型樹脂を添加してもよい。」

「【0024】本発明の水性樹脂分散体には、さらに必要に応じて、例えば、多官能イソシアネートや多官能ヒドラジンなどの硬化剤、成膜助剤、顔料、分散剤、増粘剤、防腐剤、充填剤、帯電防止剤、艶消し剤等の公知の添加剤が、本発明の効果を損なわない範囲で配合されていてもよい。本発明の水性樹脂分散体は、耐水性、特に耐温水白化性、耐ブロッキング性、耐凍害性に優れた塗膜を形成することができるので、例えば、建築、建材用塗料、特に耐ブロッキング性の必要な工場塗装用塗料、風雨に曝される構造物の保護や窯業系無機建材、木材、紙などの耐水性の低い基材の保護などのコーティング用途等に広く用いられる。また、本発明の水性樹脂分散体は、耐水性改良剤、耐ブロッキング性改良剤、または耐凍害性改良剤として、他の水性樹脂分散体や水溶性樹脂とブレンドして使用することができる。また、本発明の水性樹脂分散体を、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂等の耐候性樹脂や、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の耐食性樹脂などと組み合わせることも、有効な使用方法である。」

「【0025】(水性樹脂分散体の製造方法)本発明の水性樹脂分散体の製造方法は、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分を各段で用いた多段の乳化重合工程を必須とするものである。本発明において、多段の乳化重合とは、前段までに用いた重合性単量体成分の80重量%以上、好ましくは90重量%以上が重合してから、新たに重合性単量体成分を加えて次の段の重合を行う重合方法を指す。乳化重合の段数は、特に限定されないが、製造工程を簡略化するためには、2段または3段が望ましい。2段の場合は、第一段と最終段のみとなる。」

「【0029】本発明の製造方法において各段の重合工程で用いられる重合性単量体成分は、それぞれ、1種もしくは2種以上のモノマーを含むものであり、各段の重合工程で用いられる重合性単量体成分を構成するモノマーのうち前記Si含有モノマー以外のモノマーについては、水性樹脂分散体の説明において前述した通りである。多段の乳化重合工程のうち、第一段の重合工程においては、まず、水性媒体、乳化剤、および第一段の重合工程で用いる重合性単量体成分の一部に、重合開始剤を添加して重合を開始する初期重合を行い、初期重合の終了後、第一段目の本重合を行うようにする。前記初期重合は、投入した重合性単量体成分の80重量%以上、好ましくは90重量%以上を重合させ、樹脂粒子の核、すなわち樹脂粒子の中心部分を形成させるものである。第二段目以降の重合工程においては、初期重合を行う必要はなく、直ちに本重合を行えばよい。」

「【0031】乳化重合工程で用いることのできる乳化剤としては、特に限定はなく、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。前記アニオン性乳化剤としては、具体的には、例えば、アンモニウムドデシルスルフォネート、ナトリウムドデシルスルフォネート等のアルキルスルフォネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルフォネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルフォネート等のアルキルアリールスルフォネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、ハイテノール18Eなど);ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、ハイテノールN-08など);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレート等の脂肪酸塩;等が挙げられる。」

「【0033】前記両性乳化剤としては、具体的には、例えば、ベタインエステル型乳化剤;等が挙げられる。前記高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール; ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;またはこれらの重合体を構成する重合性単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体;等が挙げられる。また、特に、耐水性を重視する場合には、前記乳化剤として、重合性基を有する乳化剤を使用するのが好ましい。具体的には、重合性基を有するアニオン性乳化剤としては、例えば、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤(株)製、アントックスMS-60など)、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業(株)製、エレミノールRS-30など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンHS-10など)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンKH-10など)やアリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープSE-10など)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)等が挙げられ、重合性基を有するノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンRN-20など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープNE-10など)等が挙げられる。」

「【0035】前記乳化剤の使用量は、特に限定はされないが、例えば、全重合性単量体成分の合計使用量に対して、好ましくは0.5?5重量%、より好ましくは1?3重量%とするのがよい。乳化剤の使用量が多すぎると、塗膜の耐水性を低下させる恐れがあり、一方、少なすぎると、重合安定性が低下しやすい。乳化剤は、初期重合および各段の本重合に適宜配分して使用することができるが、樹脂の微粒子化を図るためには、初期重合に全使用量の40?80重量%を配分するのが好ましい。乳化重合工程で用いることのできる水性媒体としては、通常、水が使用されるが、必要に応じて、例えばメタノールのような低級アルコール等の親水性溶媒を併用することもできる。なお、水性媒体の使用量は、得ようとするエマルションの所望の樹脂固形分を考慮して適宜設定すればよい。また、水性媒体の添加時期については、特に制限はなく、例えば、初期重合のために予め反応釜に仕込んでおいてもよいし、本重合の際にプレエマルションとして投入してもよい。また、水性媒体は、必要に応じて、冷却、洗浄、固形分調整、粘度調整等の工程で用いてもよい。」

「【0040】
【実施例】以下に、実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、特に断りのない限り「%」は「重量%」を示すものとする。
・・・(中略)・・・
【0042】
・・・(中略)・・・
〔実施例2〕滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水76.8g及びアクリル酸0.6gを仕込んだ。滴下ロートに、アクアロンHS-10の25%水溶液4.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液4.0g、脱イオン水4.0g、シクロヘキシルメタクリレート26.0g、アクリル酸0.4gからなる一段目のプレエマルションを調製し、そのうち全重合性単量体成分の総量の8%にあたる11.8gをフラスコに添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に75℃まで昇温した。昇温後、5%の過硫酸カリウム水溶液を6.0g添加し、重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し10分間維持した。ここまでを初期重合とした。
【0043】初期重合終了後、反応系内を80℃に維持したまま、調製した1段目用のプレエマルションの残部を50分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持し、一段目の重合を終了した。次に、25%アンモニア水を0.45g添加し、同温度で10分間撹拌した。引き続いて、アクアロンHS-10の25%水溶液2.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液2.0g、脱イオン水25.0g、2-エチルヘキシルアクリレート46.0g、シクロヘキシルメタクリレート24.0g、γ?メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0g、4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン2.0gからなる二段目のプレエマルションを130分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持し、二段目の重合を終了した。
【0044】次に25%アンモニア水を0.45g添加し、同温度で30分維持した。得られた反応液を室温まで冷却後、100メッシュの金網でろ過して、水性樹脂分散体を得た。なお、表1に、一段目および二段目でそれぞれ使用した各重合性単量体の量を、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
〔実施例3?10〕一段目および二段目でそれぞれ用いる重合性単量体の種類および量を、表1および表2に示すように変更したこと以外は、実施例2と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。なお、各重合性単量体の量は、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
【0045】〔実施例11〕実施例1で用いた1段目用の乳化剤(アクアロンHS-10の25%水溶液4.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液4.0g)を、乳化剤(「ハイテノールN-08」第一工業製薬製;以下、「ハイテノールN-08」と称す)の15%水溶液6.6g、乳化剤(「ノニポール200」三洋化成製;以下、「ノニポール200」と称す)の25%水溶液4.0gに変更し、2段目用の乳化剤(アクアロンHS-10の25%水溶液2.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液2.0g)を、ハイテノールN-08の15%水溶液3.3g、ノニポール200の25%水溶液2.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。なお、表2に、一段目および二段目でそれぞれ使用した各重合性単量体の量を、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
【0046】〔実施例12〕実施例1で用いた1段目用の乳化剤(アクアロンHS-10の25%水溶液4.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液4.0g)を、乳化剤(「アデカリアソープSR-10N」旭電化工業製;以下、「アデカリアソープSR-10N」と称す)の25%水溶液4.0g、乳化剤(「アデカリアソープER-20」旭電化工業製;以下、「アデカリアソープER-20」と称す)の25%水溶液4.0gに変更し、2段目用の乳化剤(アクアロンHS-10の25%水溶液2.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液2.0g)を、アデカリアソープSR-10Nの25%水溶液4.0g、アデカリアソープER-20の25%水溶液2.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。なお、表2に、一段目および二段目でそれぞれ使用した各重合性単量体の量を、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
【0047】〔実施例13〕滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水76.8gを仕込んだ。滴下ロートに、アクアロンHS-10の25%水溶液5.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液5.0g、脱イオン水19.0g、2-エチルヘキシルアクリレート36.0g、シクロヘキシルメタクリレート12.0g、n-ブチルメタクリレート20.0g、アクリル酸1.0gからなる一段目のプレエマルションを調製し、そのうち全重合性単量体成分の総量の5%にあたる7.3gをフラスコに添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に75℃まで昇温した。昇温後、5%の過硫酸カリウム水溶液を6.0g添加し、重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し10分間維持した。ここまでを初期重合とした。
【0048】初期重合終了後、反応系内を80℃に維持したまま、調製した1段目用のプレエマルションの残部を130分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持し、一段目の重合を終了した。次に、25%アンモニア水を0.9g添加し、同温度で10分間撹拌した。引き続いて、アクアロンHS-10の25%水溶液1.0g、アクアロンRN-20の25%水溶液1.0g、脱イオン水10.0g、メチルメタクリレート14.0g、n-ブチルメタクリレート7.0g、シクロヘキシルメタクリレート8.0g、γ?メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0g、4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン1.0gからなる二段目のプレエマルションを50分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持し、二段目の重合を終了した。
【0049】得られた反応液を室温まで冷却後、100メッシュの金網でろ過して、水性樹脂分散体を得た。なお、表2に、一段目および二段目でそれぞれ使用した各重合性単量体の量を、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
〔実施例14〕実施例1で用いた2段目用の重合性単量体成分のうち、n-ブチルメタクリレート20.0gおよびγ?メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0gの代わりに、n-ブチルメタクリレート21.0gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、二段目の重合までを行った。
【0050】得られた反応液を室温まで冷却後、メチルトリメトキシシラン(「SZ-6070」東レダウコーニング製)4.0gを添加し、30分間攪拌して、水性樹脂分散体を得た。なお、表2に、一段目および二段目でそれぞれ使用した各重合性単量体の量を、両段で使用した重合性単量体成分合計量100重量部に対する比率(重量部)で示した。
・・・(中略)・・・
【0051】 【0052】
【表1】 【表2】

・・・(中略)・・・
【0054】なお、表中の略号は以下の通りである。また、後述するFoxの式により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するために使用した各々のホモポリマーのTg値を( )内に示した。
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(-70℃)
St:スチレン(100℃)
MMA:メチルメタクリレート(105℃)
BA:n-ブチルアクリレート(-56℃)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(66℃)
AA:アクリル酸(95℃)
MAA:メタクリル酸(130℃)
RUVA:2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(100℃)
n-BMA:n-ブチルメタクリレート(20℃)
GMA:グリシジルメタクリレート(40℃)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(55℃)
DVB:ジビニルベンゼン
AMA:アリルメタクリレート
TMPMA:4-メタアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(130℃)
PMPMA:4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(130℃)
TMSMA:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(70℃)
以上の実施例および比較例で得られた水性樹脂分散体について、下記の方法で物性測定および評価試験を行った。結果を表1?3(当審注:表3は省略)に示す。」

(2) 引用文献2に記載された発明の認定

ア 引用文献2の【0001】より、引用文献2は、「造膜助剤が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられるアクリル系エマルション(ブロッキングとは、塗料を金属、木材、紙、プラスチック、無機建材等の各種基材に塗装後、保護シートを介して基材を積み重ねた際に、基材の保護シートと塗膜が接着する現象をさす。)」が記載されていることがわかる。

イ 同【0002】より、上記「耐ブロッキング性」が要求される対象が、「外壁材、屋根材等の基材のトップコートとして用いられる塗料(エマルション)」であることがわかる。

ウ 同【0002】、【0004】、【0006】より、上記アクリル系エマルションは、重合性単量体を多段乳化重合することにより得られる、コア部とシェル部を有する異相構造粒子からなっていることがわかる。

エ 同【0031】?【0035】の表2の実施例2、3から、具体的には、コア部、及びシェル部が、共に、重合性単量体、乳化剤、重合開始剤、水よりなる表2に示す組成の乳化液、及び表2に示す組成のシリコーン変性剤の混合液から形成されるものであり、そして、コア部とシェル部を形成するために用いられる上記重合性単量体が、MMA(メチルアクリレート)、CHMA(シクロヘキシルメタクリレート)、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であり、また、シェル部を形成するために用いられる上記乳化剤が、KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕、及びOT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕であり、さらに、シェル部を形成するために用いられる上記重合性単量体が、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であることもわかる。

オ 以上のことから、引用文献2の実施例2、3に着目すると、引用文献2には、

「重合性単量体を多段乳化重合することにより得られる、コア部とシェル部を有する異相構造粒子であるアクリル系エマルションであって、コア部とシェル部を形成するために用いられる重合性単量体が、MMA(メチルアクリレート)、CHMA(シクロヘキシルメタクリレート)、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であり、シェル部を形成するために用いられる上記乳化剤が、KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕、及びOT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕であり、シェル部を形成するために用いられる上記重合性単量体が、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であるアクリル系エマルション。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3) 引用文献5に記載された事項について

引用文献5には、上記(1)イのとおり記載されているところ、これに接した当業者は、次の技術的事項を理解する。

ア 引用文献5の【0001】より、引用文献5は、塗料やコーティング用途等に用いられる水性樹脂分散体が記載されていることがわかる。

イ 同【0005】より、上記水性樹脂分散体は、耐ブロッキング性に優れる塗膜の形成を課題の一つとしていることがわかる。

ウ 同【0011】より、上記水性樹脂分散体は、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分の個々が重合(多段の乳化重合)する過程で一体化してなるコアシェル構造の樹脂粒子であることもわかり、同【0025】より、段数が2段の場合、第1段と最終段のみであることもわかり、ここで、当該「最終段」を「第2段」ということができ、第1段目の乳化重合により内層(コア)ができ、第2段目の乳化重合により外層(シェル)ができることもわかり、この場合、当該「コアシェル構造の樹脂粒子」は、2層構造を有しているといえる。
また、同【0035】より、当該「樹脂粒子」は、エマルションとして得られるものであるから、「エマルション粒子」と言い換えることができる。

エ 同【0017】より、上記複数の重合性単量体成分をそれぞれ構成するモノマー(単量体)としては、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性重合性単量体類や、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性単量体類等が、特に好ましいものとして挙げられていることがわかり、また、同【0023】に、「紫外線吸収能のある物質や紫外線安定化能のある物質を含有していてもよい。これにより、耐候性を付与することができる。」と記載されていることもあり、上記紫外線吸収性重合性単量体類、及び上記紫外線安定性重合性単量体類は、耐候性を付与することができる物質(原料)であるともいえる。

オ 同【0029】、【0040】?【0054】の表1、2の実施例1、2、5?8、11?14から、第二段目の本重合に用いられる重合性単量体は、RUVA〔2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(100℃)〕、TMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(130℃)〕、または、PMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(130℃)〕のいずれか少なくとも一つであることもわかり、ここで、上記エより、当該「RUVA〔2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(100℃)〕」が、紫外線吸収性重合性単量体であり、また、当該「TMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(130℃)〕」、及び「PMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(130℃)〕」が、紫外線安定性重合性単量体であって、上記実施例1、2、5?8、11?14で用いられているいずれの重合性単量体も耐候性を付与するためのものであることがわかる。
そして、当該「RUVA〔2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(100℃)〕」は、本願明細書の【0036】に、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体としては、例えば、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、・・・(中略)・・・などが挙げられる」と記載されていることもあり、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体の一種であることは、当業者に自明である。
さらに、当該「TMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(130℃)〕」、及び「PMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(130℃)〕」も、本願明細書の【0020】に、「ピペリジン基含有単量体としては、例えば、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、・・・(中略)・・・などが挙げられる」と記載されていることもあり、ピペリジン基含有単量体の一種であることは、当業者に自明である。

カ 以上のことから、耐ブロッキング性を有する水性樹脂分散体(塗料)に用いる内層(コア)と外層(シェル)との2相構造を有するエマルション粒子(樹脂粒子)において、耐候性を向上させるために、第2段目の乳化重合により外層を形成する際、当該外層を構成する樹脂の原料として、RUVA〔2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロイルオキシエチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(100℃)〕等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、TMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(130℃)〕(紫外線安定性重合性単量体)、または、PMPMA〔4-メタアクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(130℃)〕等のピペリジン基含有単量体(紫外線安定性重合性単量体)のいずれか少なくとも一つを含有させることが、引用文献5には記載されている(以下、当該技術を「引用文献5記載の従来技術」という。)。

(4) 対比・判断

ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

イ 引用発明の「重合性単量体」は、本件補正発明の「単量体成分」に相当する。

ウ 引用発明の「コア部」、「シェル部」は、本件補正発明の「内層」、「外層」に相当し、そのことから、引用発明の「コア部とシェル部を有する異相構造粒子」は、本件補正発明の「内層と外層との2層構造を有」する「粒子」に相当するといえる。
してみると、引用発明の「重合性単量体を多段乳化重合することにより得られる、コア部とシェル部を有する異相構造粒子であるアクリル系エマルション」は、本件補正発明の「単量体成分を乳化重合させてなるエマルション粒子を含有する」「樹脂エマルションであって、前記エマルション粒子が内層と外層との2層構造を有」する構成に相当するといえる。

エ 引用発明の「コア部とシェル部に用いられる重合性単量体」は、「MMA(メチルアクリレート)、CHMA(シクロヘキシルメタクリレート)、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であ」って、これらが、単官能単量体に属することは、当業者に自明である。
そして、引用発明の「MMA(メチルアクリレート)、CHMA(シクロヘキシルメタクリレート)、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)」は、本願明細書の【0018】に、「アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、・・・(中略)・・・などのエステル基の炭素数が1?18のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる」と記載されていることもあり、本件補正発明の「アルキル(メタ)アクリレート」に相当する。
また、引用発明の「2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)」は、本願明細書の【0019】に、「水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、・・・(中略)・・・などのエステル基の炭素数が1?18の水酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる」と記載されていることもあり、本件補正発明の「水酸基含有(メタ)アクリレート」に相当する。
また、引用発明の「AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)」は、本願明細書の【0017】に、「カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、・・・(中略)・・・などが挙げられる・・・(中略)・・・これらのカルボキシル基含有単量体のなかでは、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、・・・(中略)・・・アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。」と記載されていることもあり、本件補正発明の「カルボキシル基含有単量体」に相当する。
さらに、引用発明の「AAM(アクリルアミド)」は、本願明細書の【0023】に、「 窒素原子含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、・・・(中略)・・・などの窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、・・・(中略)・・・などが挙げられる」と記載されていることもあり、本件補正発明の「窒素原子含有単量体」に相当する。
してみると、引用発明の「コア部とシェル部に用いられる重合性単量体は、MMA(メチルアクリレート)、CHMA(シクロヘキシルメタクリレート)、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)であ」る構成は、本件補正発明の「内層および外層を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分として単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であ」る構成に相当するといえる。

オ 引用発明の「シェル部を形成するために用いられる上記乳化剤が、KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕、及びOT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕であり」の点について、「KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕」は、例えば、特開2009-197051号公報の【0014】に、「前記アニオン系反応性乳化剤(a2)のなかでも、乳化重合が容易で、貯蔵安定性に優れる水性被覆剤が得られることから、ポリオキシエチレン含有硫酸エステル塩類が好ましく、更にその中でも速乾性に優れる水性被覆剤が得られることから、アンモニア等の揮発性塩基で中和されたポリオキシエチレン含有硫酸エステル塩が好ましい。その具体例として、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩〔製品名:第一工業製薬(株)製アクアロンKH-1025〕、・・・(中略)・・・などが挙げられる。」と記載されているように、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩で表されるアニオン系反応性乳化剤であり、エマルション粒子の外層を構成する樹脂の原料である単量体と反応性を有することは、当業者に自明であるから、「KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕」は、外層を構成する樹脂の原料の一部となるものである。
そうすると、本件補正発明の「外層を構成する樹脂の原料が前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤」と、引用発明の「シェル部を形成するために用いられる上記乳化剤が、KH-1025〔アクアロンKH-1025(第一工業製薬(株)製)〕、及びOT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕」とは、「外層を構成する樹脂の原料が」「前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤を含む」点で一致している。

カ そうすると、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>

「単量体成分を乳化重合させてなるエマルション粒子を含有する樹脂エマルションであって、前記エマルション粒子が内層と外層との2層構造を有し、内層および外層を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分として単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、外層を構成する樹脂の原料が前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤を含む樹脂エマルション。」

<相違点1>

樹脂エマルションの用途について、本件補正発明が、「トップコート用」と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

<相違点2>

外層を構成する樹脂の原料である乳化剤について、本件補正発明が、「前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤であ」ると特定しているのに対して、引用発明は、単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤が含まれているのか不明な点。

<相違点3>

外層を構成する樹脂の原料である単量体成分について、本件補正発明では、「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体」を含有しているのに対して、引用発明では、「BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)という重合性単量体」を含有しているものの、「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体」は、含有していない点。

キ 検討

上記カの相違点1?3について、順に検討する。

<相違点1>について

本件補正発明における「トップコート用」という発明特定事項は、発明に係る樹脂エマルションの用途を限定するものと認められる。
ここで、上記「トップコート」については、本願明細書の【0001】によれば、「建築物の外装や建材などの表面に塗装されるトップコートと呼ばれている上塗り塗料」と記載されていることから、「建築物の外装や建材などの表面に塗装される上塗り塗料」の意味であることがわかる。

そして、本願明細書の【0113】、【0115】、【0152】等の記載を参酌しつつ、本件補正発明を改めて俯瞰すれば、本願明細書の【0006】には、「本発明は、また、耐候性、耐水性、さらに機械的安定性にも優れた塗膜を形成するトップコート用樹脂エマルションおよび当該トップコート用樹脂エマルションを含有する上塗り塗料を提供することを課題とする。」と記載されていることから、「トップコート」への適用という用途限定は、結局のところ、建築物の外装や窯業系建材などの基材の表面に適用して、耐候性、耐水性、さらに機械的安定性にも優れた塗膜を形成することということができる。

これに対して、引用文献2の【0001】には、「本発明は造膜助剤が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられるアクリル系エマルションに関する。(ブロッキングとは、塗料を金属、木材、紙、プラスチック、無機建材等の各種基材に塗装後、保護シートを介して基材を積み重ねた際に、基材の保護シートと塗膜が接着する現象をさす。)」と、同【0002】には、「近年、環境問題の観点から水性塗料の使用が多くなっており、アクリル系エマルション(以下、単にエマルションと略す)は、塗料やコーティング用途に広く用いられている。特に外壁材、屋根材等の基材のトップコートとして用いられる塗料に対しては、高いレベルの耐ブロッキング性が要求される。
・・・(中略)・・・
一方、Tgが低い重合体から得られる塗膜は、一般に柔軟性が高く、優れた耐クラック性を示すが、形成された塗膜は乾燥後も粘着性が残り、耐ブロッキング性が悪くなる問題がある。耐ブロッキング性が悪いと、塗膜の破損や光沢の変化が生じ、塗装本来の目的である被覆物の保護や美観を向上させるという目的が達成されないため、工場塗装用等に用いられる塗料(エマルジョン)には耐ブロッキング性が必要になる。
また耐ブロッキング性が要求される塗料は、基材の最表面に塗装されるのが一般的であり、優れた耐久性、即ち耐候性及び耐クラック性に優れることが重要である。」と、同【0003】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、造膜助剤が低減でき、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性、に優れた塗膜を形成し得る高耐久アクリル系エマルションを提供することである。」と記載されていることから、引用発明の樹脂エマルションの用途も、外壁材、屋根材等の基材の表面に適用して、耐候性等に優れた塗膜を形成することということができる。

そうすると、引用発明の樹脂エマルションの用途として、トップコート用と特定することは、上記引用文献2の記載を考慮するならば当業者が容易になし得たものである。

<相違点2>について

本願明細書には、例えば、【0012】に、「樹脂エマルションに含まれるエマルション粒子が複数層で形成されている場合、当該複数層のうち最外層が、単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤と単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤との存在下で単量体成分を乳化重合させることによって形成されていることが、耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れた塗膜を形成する観点から好ましい。したがって、エマルション粒子が複数層で形成されている場合、前記複数層のうち最外層のみが、単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤と単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤との存在下で単量体成分を乳化重合させることによって形成されていることが、耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れた塗膜を形成する観点から好ましい。」と、また、【0125】に、「滴下終了後、フラスコの内容物を70℃で50分間維持し、25%アンモニア水6部をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を70℃で10分間維持し、引き続いて滴下ロートに脱イオン水228部、単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH-10〕の25%水溶液10部、単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤〔日本乳化剤(株)製、商品名:ニューコール707SF〕の25%水溶液20部、メチルメタクリレート230部、シクロヘキシルメタクリレート150部、2-エチルヘキシルアクリレート100部、アクリルアミド5部および4-メタクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン15部からなる2段目滴下用プレエマルションおよび5%過硫酸アンモニウム水溶液15部を120分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。」と記載されていることから、本件補正発明の「外層を構成する樹脂の原料が前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤」との特定は、アニオン性乳化剤の存在下で外層を構成する単量体の乳化重合を行うことを表しているものと認められる。

一方、引用発明の「乳化剤」の一つである「OT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕」は、例えば、特許第3325023号公報の第10頁右欄第26?27行に、「33.03gのAEROSOL OT-75(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム;アニオン性乳化剤)」と記載され、しかも、本願明細書の【0047】に、「単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤としては、例えば、・・・(中略)・・・;ジアルキルスルホコハク酸塩;・・・(中略)・・・などが挙げられる」と記載されていることもあり、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムで表されるジアルキルスルホコハク酸塩に属するものであって、非反応性を有するアニオン性乳化剤であることは、当業者に自明であるから、本件補正発明の「前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤」に相当するといえる。
そして、引用文献2の【0031】の「第2段階として、同様に表2に示す組成の乳化液及びシリコーン変性剤の混合液を別々の滴下用容器より90分かけて滴下した。滴下終了後は第1段階と同様に乳化液の容器すすぎ液17.5部を反応容器へ投入し、液温80℃で90分保った後、室温まで冷却した。」との記載によれば、引用発明の異相構造粒子のシェル部は、「単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤」である「OT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕」の存在下でシェル部を構成する単量体の乳化重合を行っているから、前述の本件発明の「外層を構成する樹脂の原料」の意味するところに照らせば、引用発明の「OT-75〔エアロゾルOT-75(三井サイテック(株)製)〕」も、シェル部(外層)を構成する樹脂の原料に含有されるものであると認められる。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点とはならない。

<相違点3>について

引用文献2の【0002】には、【背景技術】として、「耐ブロッキング性が要求される塗料は、基材の最表面に塗装されるのが一般的であり、優れた耐久性、即ち耐候性及び耐クラック性に優れることが重要である。特に家屋の外壁に塗装される塗料については、20?30年という長期に渡って太陽光エネルギーや雨等にさらされ、塗膜の艶の低下、変色、ふくれ、ひび割れ等が生じることがあり、外観の維持及び建材の保護が可能な高耐久性塗料が望まれている。」と記載されており、同【0003】からみて、引用発明は、耐候性に優れた塗膜を形成し得ることを課題の一つとして内在しており、同【0024】には、「本発明において、紫外線吸収剤および/または光安定剤は、アクリル系エマルションを製造する乳化重合時に存在させることによりアクリル系エマルションに導入する方法、・・・(中略)・・・が挙げられる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、相乗効果により卓越した耐久性を示す。」ことから、引用文献2には、アクリル系エマルジョンを製造する乳化重合時に含有させる原料として、紫外線吸収剤や光安定剤は、耐久性、すなわち、耐候性等に優れた塗膜が形成し得ることを予期するものである。
そして、上記(3)のとおり、耐ブロッキング性を有する水性樹脂分散体(塗料)に用いる内層(コア)と外層(シェル)との2相構造を有するエマルション粒子(樹脂粒子)において、耐候性を向上させるために、第2段目の乳化重合により外層を形成する際、当該外層を構成する樹脂の原料として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、または、ピペリジン基含有単量体(紫外線安定性重合性単量体)を用いることが、引用文献5に記載のとおり知られているから(なお、下記「<従来技術文献一覧>」のとおり、当該技術は、当該分野における周知技術である。)、耐候性に優れた塗膜を形成するという課題が内在する引用発明においても、BMA(ブチルメタクリレート)、2-EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、BA(ブチルアクリレート)、2-HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、AA(アクリル酸)、MAA(メタクリル酸)、及びAAM(アクリルアミド)という重合性単量体の他に、引用文献5記載の従来技術と同様に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、または、ピペリジン基含有単量体(紫外線安定性重合性単量体)を用いることは、当業者が容易に想到し得るといえる。
以上によると、引用発明において、相違点2に係る「外層を構成する樹脂の原料が」「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体とを含有する単量体成分である」という本件補正発明の構成とすることは、引用発明に引用文献5に記載された事項(引用文献5記載の従来技術)を適用することにより当業者が容易に想到し得たことと認められる。

<従来技術文献一覧>

(ア) 特開2008-133361号公報(平成28年8月31日付け拒絶理由通知(最後)で引用された引用文献3、【0001】、【0028】?【0030】等)

(イ) 特開2005-281339号公報(平成28年8月31日付け拒絶理由通知(最後)で引用された引用文献4、【0001】、【0013】等)

(ウ) 特開2010-229167号公報(【0001】、【0007】、【0025】?【0028】、【0036】、【0040】?【0046】、【0050】、【0060】、【0075】、【0076】、【0080】?【0089】等)

(エ) 特開2008-38116号公報(【0001】、【0003】、【0008】、【0041】、【0046】?【0058】、【0059】?【0061】、【0065】、【0072】、【0073】?【0076】等)

(オ) 国際公開第2012/014761号([0001]、[0030]、[0031]、[0051]、[0054]、[0055]、[0072]、[0077]、[0080]、[0081]、[0086]、[0087]、[0167]?[0168]等)

(カ) 特開2004-83632号公報(【0001】、【0004】、【0008】?【0010】、【0032】、【0035】、【0060】?【0083】等)

(キ) 特開2008-69249号公報(【0001】、【0006】、【0023】、【0024】、【0033】等)

<作用効果>について

本願明細書の【0008】によれば、「本発明のトップコート用樹脂エマルションは、耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れた塗膜を形成するという優れた効果を奏する。」との効果を記載しているが、同【0012】によれば、「単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤と単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤との存在下で単量体成分を乳化重合させることによって形成されていること」によって達成される効果であるといえ、この点については、上記「<相違点2>について」で検討したとおり、引用発明でも相違するところがなく、したがって、引用発明においても既に達成していると言わざるを得ない。
仮に、耐候性に関し、ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体による効果があったとしても、耐候性の向上について述べている引用文献5から予測される効果であって、格別顕著なものとは認められない。

なお、平成29年5月1日に提出された審判請求書第7?8頁にかけて、請求人によると、「外層を構成する樹脂の原料が前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤(以下、「特定の乳化剤」という)と、ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体とを含有する単量体成分であることから、耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れた塗膜が形成されるという格別顕著に優れた効果が奏されるのであります(本願明細書の段落[0008]、[0009]、[0012]などをご参照ください)。」と述べており、「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体」について、「耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れた塗膜が形成される」という効果を主張しているところ、本願明細書には、「耐候性、耐水性および機械的安定性に総合的に優れ」ることと「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体」とを直接的に関連づける記載も示唆もなく、当該「ピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体」については、上記「<相違点3>について」で述べたとおり、内層(コア)と外層(シェル)との2相構造を有するエマルション粒子(樹脂粒子)において、第2段目の乳化重合により外層を形成する際、当該外層を構成する樹脂の原料として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、または、ピペリジン基含有単量体(紫外線安定性重合性単量体)を用いることによって、当該エマルション粒子(樹脂粒子)の耐候性を向上させることができるという技術常識はあるものの、耐候性以外の「耐水性および機械的安定性に優れた」に関する作用機序が不明であり、また、本願出願日の時点において、そのような技術常識があるとも認められないことから、上記請求人が主張する顕著な作用効果を採用する余地はない。

(5) 小括

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献5記載の従来技術、及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているものではない。

4 補正の却下の決定のまとめ

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について

1 本件発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成28年3月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2の1の(1)に示したとおりのものであり、再掲すると以下のとおりである。

「【請求項1】
単量体成分を乳化重合させてなるエマルション粒子を含有するトップコート用樹脂エマルションであって、前記単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および前記単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤を含有し、前記エマルション粒子が内層と外層との2層構造を有し、外層に用いられる単量体成分がピペリジン基含有単量体またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体を含有することを特徴とするトップコート用樹脂エマルション。
【請求項2】
エマルション粒子の外層を構成する樹脂の原料が単量体成分に対する反応性を有するアニオン性乳化剤および単量体成分に対する非反応性を有するアニオン性乳化剤を含有する単量体成分である請求項1に記載のトップコート用樹脂エマルション。」

2 引用文献・引用発明

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2、5及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の3の(1)?(3)に示したとおりである。

3 判断

本件補正のうち、特許請求の範囲の本件補正後の請求項1に係る上記補正は、「内層」および「外層」を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分について、「単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、」との限定を付すものである。

本件発明は、前記第2で検討した本件補正発明の発明特定事項である、「内層」および「外層」を構成する樹脂の原料として用いられる単量体成分について、「単官能単量体が用いられてなり、当該単官能単量体がカルボキシル基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ピペリジン基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体およびスチレン系単量体からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、」との限定を省いたものに相当する。

そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記第2の3の(4)、(5)に記載したとおり、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献5記載の従来技術、及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献5記載の従来技術、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結語

以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-09 
結審通知日 2018-01-16 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2012-175904(P2012-175904)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村松 宏紀磯貝 香苗  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
國島 明弘
発明の名称 塗料用樹脂組成物  
代理人 赤松 善弘  

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