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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1338678
審判番号 不服2014-8788  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-12 
確定日 2018-04-10 
事件の表示 特願2011-506377「脂質含有組成物およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月29日国際公開、WO2009/131939、平成23年 6月23日国内公表、特表2011-518223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年 4月20日(パリ条約による優先権主張2008年 4月21日(US)アメリカ合衆国、2008年 6月25日(US)アメリカ合衆国、2008年11月 5日(US)アメリカ合衆国、2009年 4月17日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年 9月 2日付けで拒絶理由が通知されたことに対して平成25年12月 4日に手続補正書及び意見書が提出され、平成25年12月5日に手続補足書が提出された後、平成26年 1月 6日付けで拒絶査定がなされたものである。その後、平成26年 5月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成26年 8月11日に上申書が提出され、平成26年 8月20日に上申書及び手続補足書が提出され、平成26年12月 4日に上申書が提出され、平成26年12月 5日に手続補足書が提出された後、当審から平成27年 7月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成28年 2月 4日に手続補正書及び意見書が提出され、平成28年 2月 5日に手続補足書が提出され、平成28年 2月29日に上申書が提出されたものである。

2 本願発明
本願請求項1?27に係る発明は、平成28年 2月 4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項25には以下のとおり記載されている。
「 【請求項25】
前記医学的状態が、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される、請求項20?24のいずれか一項以上に記載の配合物。」
そして、この請求項25が引用する請求項20には以下のとおり記載されている。
「 【請求項20】
対象における医学的状態の予防および/または治療における使用のための、請求項1?19のいずれか一項以上に記載の配合物。」
そして、この請求項20が引用する請求項1には以下のとおり記載されている。
「 【請求項1】
異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって、前記配合物は、ある用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み、ω-6対ω-3の比が4:1以上であり:
(i)ω-3脂肪酸は、総脂質の0.1?20重量%であるか;または
(ii)ω-6脂肪酸の用量は、40g以下である、脂質含有配合物。」
したがって、本願の請求項1を引用する請求項20を、さらに引用する請求項25に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態の予防および/または治療における使用のための、
異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって、前記配合物は、ある用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み、ω-6対ω-3の比が4:1以上であり:
(i)ω-3脂肪酸は、総脂質の0.1?20重量%であるか;または
(ii)ω-6脂肪酸の用量は、40g以下である、脂質含有配合物。」

3 当審から通知した拒絶理由3、4
一方、当審から平成27年 7月30日付けで通知した拒絶理由のうち、拒絶理由3、4の(2)の概要は、次のとおりである。
「3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(中略)
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(中略)
・理由 3、4
(中略)
(2)請求項16にいう「対象における医学的状態の予防」や、請求項20にいう「脂質の不均衡と関連している」医学的状態の予防に有効であるとする根拠、請求項21に列挙された全ての医学的状態に対して、各請求項に記載される配合物が有効であるとする根拠が不明である。(列記される全ての医学的状態に対しての釈明が必要と考える。) 」

4 発明の詳細な説明の記載事項
発明の詳細な説明には、以下(ア)?(ニ)の記載がある。

(ア)
「【0006】
多数の研究により、ω-3脂肪酸の補給を用いた医学的状態の予防および治療についての証拠が示され、ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されている。関係する医学的状態としては、更年期、心血管疾患、精神障害、神経障害、筋骨格障害、内分泌障害、癌、消化器系障害、加齢症状、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、過体重、腎疾患、肺障害、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、および、自己免疫などの免疫系疾患が挙げられる。例えば、特許文献1では、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸およびω-9脂肪酸を含む潰瘍性大腸炎患者用の脂質配合物が教示された。こうした脂質配合物中のω-3脂肪酸の含有量は、顕著に高かった。同様に、最近公開された特許文献2では、糖尿病患者用に使用される、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸およびω-9脂肪酸を含有しω-6対ω-3の具体的な比率が0.25:1?3:1の間である脂質組成物が開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,780,451号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0039525号明細書」(段落0006?0007)

(イ)
「 (実施例6)
医学的状態に基づく配合物
多様な実施形態では、本明細書中に記載の脂質組成物は、疾患、障害または状態の予防および/または治療のために個体に投与される。例えば、この脂質配合物は、更年期、すなわち月経の停止する過程の症状を緩和するために使用される。この脂質配合物は、内分泌障害の症状を緩和するためにも使用される。
【0062】
表13は、本開示により開示されるとおりの医学的適応を有する対象について、総脂肪酸内容物についての用量範囲(単位:グラム)、一価不飽和脂肪酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲および一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲、ω-6脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)、ω-9脂肪酸対ω-6脂肪酸の比率範囲、ω-3脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)およびω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲を示すものである。
【0063】
【表13】

」(段落0061?段落0063)

(ウ)
「【0071】
(実施例10)
毎日摂取用配合物
液体脂質および固形脂質の組成物のパラメーターを、1日2回投与(すなわち2つの構成要素の毎日摂取用配合物)用に構築した。この組成物は、さまざまなナッツ油、種子油、植物油、果実油および他の油で構成された。液体および固形の配合物の各成分についての範囲を、固形配合物および液体配合物のそれぞれについて示す。この固形配合物は、組成物全体に占める重量%で、以下のうち2つ以上を含む:アーモンド(10%?25%)、カシュー(7%?15%)、細かく刻んだココナッツ(1%?4%)、亜麻仁(0%?1%)、オリーブ(15%?25%)、ピーナッツ(4%?15%)、ピスタチオ(2%?9%)、カボチャ種子(2%?12%)、ゴマ(0%?0%)、大豆(8%?20%)、ヒマワリ種子(1%?4%)および/またはクルミ(5%?15%)。この液体配合物は、組成物全体に対する重量%で、以下のうち2つ以上を含む:アボカド油(3%?14%)、コーン油(15%?30%)、カラシ油(0%?2%)、オリーブ油(10%?22%)、パーム油(0%?2%)、ピーナッツ油(15%?35%)、ベニバナ油(高オレイン酸のもの)(5%?15%)、大豆レシチン(0%?2%)、ヒマワリ油(高オレイン酸のもの)(10%?25%)および/または無水バターオイル(5%?15%)。
【0072】
1回または複数回の毎日の投与(例えば、1、2または3つの構成要素の毎日摂取用配合物)についても、いくつかのパラメーターが構築された。この組成物は、さまざまなナッツ、種子、ナッツ油、種子油、植物油、果実油および他の油で構成された。この配合物の各成分についての範囲を、固形および液体の成分のそれぞれについて示す。この配合物は、組成物全体に対する重量%で、以下のうち2つ以上を含むことができる:ピーナッツまたはピーナッツ油(4?35)、アーモンドまたはアーモンド油(2%?25%)、オリーブまたはオリーブ油(3%?45%)、豆または穀物(15%?45%)、カシューまたはカシュー油(10%?40%)、ピスタチオまたはピスタチオ油(5%?25%)、カボチャ種子またはカボチャ種子油(4%?25%)、ヒマワリ種子またはヒマワリ種子油(2%?30%)、ゴマ種子またはゴマ種子油(0%?20%)、クルミまたはクルミ油(5%?25%)、亜麻仁または亜麻仁油(0%?10%)、無水バターオイル、または、チーズなどの乳製品(5%?45%)、ココナッツ果肉またはココナッツ油(2%?8%)、コーン油(3%?20%)、アボカド油(3%?8%)、ベニバナ油(2%?20%)、カラシ油(0%?8%)、パーム油(0%?8%)および/または大豆レシチン(0%?2%)。
【0073】
(実施例11)
更年期、加齢および筋骨格障害についてのケーススタディー
更年期に関連するのぼせを発症している47歳女性。この対象の食餌に、6週間にわたり植物油、種子油、ナッツおよび種子の組合せを補給した。この対象に実施例10に記載の1日2回の投与配合物を提供した。ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸およびこの組成物に関する場合の比率を最適化することにより、のぼせの強さが徐々に低下する適応期間があることが観察された。軽減した他の症状は、対象により報告されるように、寝汗、性欲減退、膣乾燥、疲労、脱毛、暑さおよび寒さへの過敏、睡眠障害、集中困難、記憶力低下、体重増加、鼓腸、気分変動、うつ、不安、被刺激性、乳房の圧痛、片頭痛、関節痛、舌の灼熱感、電気ショックの感覚、消化異常、歯肉の異常、筋肉の緊張、肌のかゆみおよび四肢の刺痛であった。6週間コースの治療の間、対象の姿勢がよくなり(これは、筋肉量が増加したことを示すものである)、関節および/または腱の強度および柔軟性ならびに骨密度が改善された。骨粗鬆症に及ぼす効果は、油、ナッツおよび種子の補給を用いた治療をより長期間にわたり続け、治療前、治療中および治療後に標準的な方法を用いて骨密度を測定することにより試験できる。
【0074】
治療の有益な効果が更年期関連の症状に及んだのは、ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の補給に由来する性ホルモン様の安定な利益と、抗酸化物質および植物性化学物質に関する最適化が達成されたことによったと思われる。食餌性脂肪の量、その組成、および、当該栄養素が動物に与えられる期間は、アンドロゲンおよび内因性ステロイドの分泌および代謝、ならびに、細胞表面上での性ホルモン受容体の提示に影響することが公知である。エストロゲンおよび多価不飽和脂肪酸も同様の作用を有すると考えられる。ホルモン変動を少なくするには、量および組成に加え、比較的安定な用量も重要であると考えられる。Das UN、Estrogen, statins, and polyunsaturated fatty acids: similarities in their actions and benefits-is there a common link? Nutrition、2002年2月、18巻(2号)、178?88頁。McVey MJ、Cooke GM、Curran IH、Chan HM、Kubow S、Lok E、Mehta R、Epub、2007年9月11日、Effects of dietary fats and proteins on rat testicular steroidogenic enzymes and serum testosterone levels.、Food Chem Toxicol.、2008年1月、46巻(1号)、259?69頁。Gromadzka-Ostrowska J、Effects of dietary fat on androgen secretion and metabolism.、Reprod Biol.、2006年、6巻、補遺2、13?20頁。
【0075】
投与された脂質組成物を含めた食餌全体に由来する栄養素(天然供給源)を、下記のとおり表20に示す。
【0076】
【表20ー1】

【0077】
【表20ー2】

」(段落0071?段落0077)

(エ)
「 (実施例12)
高コレステロール血症、心血管疾患についてのケーススタディー
宿主対象は、大部分がオリーブ油(75%が一価不飽和脂肪)、魚油栄養補助食品1グラムを毎日、および総必須脂肪酸(EFA)栄養補助食品1グラムを毎日の、低脂肪の菜食主義食を摂取していて、高コレステロール血症に罹患した。治療の一部として、魚油およびEFA栄養補助食品は中止した。次に、対象に、植物油およびナッツおよび種子の組合せで主に構成される、ω-6脂肪酸11グラムおよびω-3脂肪酸1.2グラムを含有する毎日摂取用の脂質組成物の栄養補助食品を投与した。この脂質組成物を投与した結果、LDLは160mgから120mgに減少した。ω-3を1.8グラムに増加すると非常に低レベルの血圧90/55mmHgが観察されたが、血圧レベルは、ω-6脂肪酸11グラムおよびω-3脂肪酸1.2グラムで105/70mmHgで正常化した。ω-3を1日当たり1.8グラムから1.2グラムに減らすと対象は不規則な心拍を起こし、この不規則な心拍は、2?3週間かかって鎮静化した。しかし、ω-3を1日当たり0.5グラムにさらに減らすと、不整脈が継続する結果となった。
【0078】
このケーススタディーにより、ω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率が約9:1である植物油、ナッツおよび種子を補給すると、血中のLDLコレステロールレベル(アテローム性硬化症と関連のある異常脂血症)が顕著に低下し得ることが実証された。このケーススタディーにより、本明細書中に記載の脂質組成物および比率は、血圧および不整脈を和らげるうえで有用であり得ることも実証された。
【0079】
別のヒト対象においては、ω-6脂肪酸の多い食事に続いて左の胸腔/胸壁から生じる激しい筋痙攣が観察されたが、この対象の典型的な食餌には、主に、一価不飽和脂肪酸および非常に少量の飽和脂肪酸が含まれた。体が慢性的に欠乏状態であるときにω-6を突然増加させると有害である可能性があるとの仮説が立てられる。
【0080】
多価不飽和脂肪酸(ω-3およびω-6、とりわけγ-リノレン酸)は、冠動脈心疾患を減らすために、飽和脂肪酸を減少させる勧告と共にしばしば推奨されてきた。しかし、すべての飽和脂肪が肝臓内のコレステロール合成に同じ効果を及ぼすわけではない。鎖長が12、14および16の飽和脂肪(ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸)は、血中コレステロールを上昇させることが示されている。ステアリン酸(18-炭素、飽和)は、コレステロールを21%低下させることが示されており、この数値は、LDLを15%低下させるオレイン酸(18-炭素、一価不飽和)をさらに超える。多価不飽和脂肪酸は、細胞膜流動性、ひいては組織柔軟性(動脈の柔軟性など)を高める。必須脂肪酸を代謝する酵素であるδ6デサチュラーゼおよびδ5デサチュラーゼの活性低下は、アテローム性硬化症の発症および進行の要素である可能性があることが示唆されている。Das UN、A defect in the activity of Delta6 and Delta5 desaturases may be a factor in the initiation and progression of atherosclerosis.、Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids.、2007年5月、76巻(5号)、251?68頁、Epub、2007年4月26日。しかし、ある種の植物性化学物質は、この酵素活性を阻害することが示されている。Fujiyama-Fujiwara Y、Umeda R、Igarashi O、Effects of sesamin and curcumin on delta 5-desaturation and chain elongation of polyunsaturated fatty acid metabolism in primary cultured rat hepatocytes.、J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo).、1992年8月、38巻(4号)、353?63頁。このことから、食餌性の植物性化学物質は必須脂肪酸の必要量/代謝を変化させる可能性があることが示唆される。長鎖ω-6アラキドン酸の形成の減少は、その過剰な活性を低下させるためには望ましいと考えられるが、ある点を超えると、その減少により、決定的に重要な細胞膜の成分およびその代謝産物の欠乏が引き起こされる場合がある。」(段落0077?段落0080)

(オ)
「【0081】
(実施例13)
気分変動、精神機能についてのケーススタディー
対象宿主に、多様な油およびナッツの組合せを用いたω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の比率を変化させる試験を実施した。ω-3を減らすかまたはω-6を増やす度に対象は抑鬱状態となり、ほんのわずかな刺激で泣くようになった。ω-3を増やすと、対象の気分は即座に目に見えて上昇した。しかし、ω-6およびω-3のある一定の範囲内ではその効果は自己調節され、例えば、気分は3?6週間かかって正常化した。ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の当該範囲内では、対象は3?6週間にわたり、実際、ω-6のレベルが高まると家に閉じこもることが増え、ω-3のレベルが高まると多幸状態になることも観察された。ω-3を増加させると認知機能が向上したが、これは、即座に顕著であった。ω-3を減少させると、混乱、失読症および認知機能低下を引き起こしたが、こうした症状は時間の経過と共に鎮静化し、ある一定のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸範囲内に再び収まった。対象は、3?6週間かかってω-6およびω-3を最適化させた後、注意持続時間の増加および集中の向上も示し、読む速度および理解力が高まった。したがって、ω-3脂肪酸のレベルが低い方が対象の能力は高かったことから、食餌性ω-3脂肪酸のレベルが高まると、必要なω-6代謝産物のレベルを補うために適応機序が活性化されることが示唆される。食餌からの供給が不十分な場合には、必要なω-3代謝産物レベルについて同様の適応機序が存在すると考えられる。そのような適応が累積した結果、長期的に見てその個体に脅威となる可能性がある。
【0082】
食餌性脂肪を操作すると、脳の細胞膜の脂肪酸組成が変化する可能性があり、思考処理および行動に影響が及ぶ。多価不飽和脂肪酸は、神経伝達のさまざまな段階に影響する膜流動性におけるその役割により、また、神経伝達を妨げる炎症促進性サイトカインおよびエイコサノイドの前駆体としてのその機能により、異なるレベルで脳機能に関与することがあると考えられる。過剰な場合には有害であっても、サイトカインおよび脂質の過酸化産生物は、低レベルで有益な効果を発揮することがある。いくつかの研究により、小児の間の注意欠陥過活動性障害においては脂質過酸化の低下が見出されており、このことから、抗酸化物質に関し脂質を均衡させる必要性が示唆される。Spahis Sら、「Lipid profile, fatty acid composition and pro- and anti-oxidant status in pediatric patients with attention-deficit/hyperactivity disorder.」、Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids.、2008年7?8月、79巻(1?2号)、47?53頁、Epub、2008年8月30日。」(段落0081?段落0082)

(カ)
「【0083】
(実施例14)
神経障害についてのケーススタディー
1.進行性核上性麻痺
対象宿主は、症状に、歯の過敏、筋肉量低下、時々生じる呼吸困難、痣になりやすさ、軽度の不整脈および便通困難が含まれる50歳女性であった。この女性の敏感な歯への解決策として、歯科医は、彼女の歯を抜き、50歳で義歯に入れ替えていた。他の症状はそれぞれ、独立した症状として治療され、脂質以外の薬剤を用いて治療された。60歳で、彼女は平衡感覚欠如、二重視(複視)および発語不明瞭を発症した。最終的に、骨を砕くような転倒が見られるようになると、彼女は、脳幹内の神経組織の欠損を主に特徴とする神経疾患である進行性核上性麻痺(PSP)を有していると診断された。次に、この対象は歩行運動および話すことができなくなり、嚥下障害を発症した。彼女は67歳で肺炎により死亡した。
【0084】
この女性はそれまでに4回健康な出産を経験し50歳までは健康な生活を送っており、家族に神経疾患は発生していなかった。50歳前後の生活における変化をより詳細に調べると、脂肪は心疾患の原因となるからすべての脂肪は有害であるという1980年代の流行りの学説を理由に、その時点前後、食餌中の脂肪が著しく減らされていたことが明らかになった。この女性の両親は二人とも70歳代前半に、兄弟は48歳で、心筋梗塞により死亡している。したがって、脂肪を減らしたことは心疾患を回避するための予防手段であったが、その後、心疾患は強力な遺伝的要素を有すると考えられた。しかし、本開示においては、ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の両方が彼女に極度に欠乏するようになる程度まで脂肪が減らされたと仮説を立てる。この女性は、抗酸化物質および植物性化学物質を多く摂取する閉経後の菜食主義者であり、食餌中に含まれたわずかな脂肪は、飽和脂肪(総脂肪の20%未満)または一価不飽和脂肪(総脂肪の70?90%)のいずれか、オリーブ油を他のすべてに勝ると考える当時の学説に従って、ほとんどがオリーブ油であった。オリーブ油は75%が一価不飽和油であり、ポリフェノールに富む。すべての脂肪酸は代謝経路において競合し、抗酸化物質および植物性化学物質はω-6の必要量を増加させることから、彼女の場合は、ω-6酸の欠乏がより大きな原因であると思われる。ω-6の欠乏は、彼女の初期症状からも明らかである。すなわち、筋肉量にはω-6およびω-3の均衡が必要であり、ω-6誘導体のロイコトリエンを欠くと喘息様の呼吸上の問題を引き起こすことがあり(逆に、過剰なロイコトリエンが喘息様の症状を引き起こす場合もある)、ω-3の欠乏は不整脈と関係しており、ω-6に誘導されるトロンボキサンの欠乏は、痣になりやすい状態を引き起こすことがあり、ω-6に誘導されるプロスタグランジンの欠如は、平滑筋活性、ひいては便通を妨げることがある。本開示において仮説を立てるように、エストロゲンおよびアンドロゲンは多価不飽和脂肪と同様の作用および利益を有することから、彼女が閉経後であったという事実は、ω-6およびω-3の必要性をより決定的に重要なものとした。生殖ホルモンが減少すると、体は、生理機能についてω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸およびその代謝産物に次第に依存すると考えられる。
【0085】
神経組織、とりわけ神経シナプスの膜の中に非常に多量に存在する、リノール酸(LA)代謝産物のアラキドン酸(AA)、およびα-リノレン酸(ALA)代謝産物のドコサヘキサエン酸(DHA)の欠乏が神経変性の原因となり得ることは、本開示の一実施形態である。神経炎症は、脳の正常な構造および機能の侵害の無効化および回復と関連のある宿主防御機構であり、すべての主要な神経疾患に特徴的である。LAおよびALAの食餌性欠乏、およびその結果生じる、組織における望ましくないAA対DHA比が、急性の神経外傷および神経変性疾患と関連のある神経変性をもたらした可能性がある。
【0086】
すべてのω-6脂肪酸またはω-3脂肪酸の欠乏または不均衡がPSPにつながるわけではないことに注目することは重要である。この欠乏または不均衡は体内での窮迫を作り出すのみであり、発症する疾患は、それ以外の体内化学物質に依存する。西洋では、ω-3脂肪酸は大きな注目を集めているが、それは、大衆の消費がω-6に対し非常に歪んでおり、抗酸化物質および植物性化学物質の摂取が不十分であることが理由である。ω-3の必要量は非常に小さい場合があり、その必要量はω-6の増加に伴ってのみ増加し得る。本明細書中で開示するのは、人口統計学的要素に照らした、ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸とを均衡させるための、およびその安定な送達のための、方法および組成物である。」(段落0083?段落0086)

(キ)
「【0087】
2.筋萎縮性側索硬化症
対象は、主にオリーブ油およびナッツを用いた低脂肪食を摂取する30歳代半ばの菜食主義女性であった。彼女は、以下のような筋萎縮性側索硬化症(ALS)様の症状を発症していた:手、腕、脚および話す際に使う筋肉の筋力低下、筋肉の単収縮および痙攣、息切れならびに嚥下困難。左半身は右半身より症状が重かった。脂質組成物を投与し食餌を変化させてω-6脂肪酸を約12グラムに増やすと、症状は消え、筋緊張は、症状の発症前より良好に改善された。この場合、組織中のω-6に対するω-3の量は、体が忍容する比率を超えていたとの仮説が立てられる。この菜食主義食およびナッツにより抗酸化物質および植物性化学物質が多量になったことから、この対象は、食餌性ω-3脂肪酸が適度なレベルであったにもかかわらず、ω-6脂肪酸および必要な代謝産物が欠乏するようになった可能性がある。
【0088】
ALSの初期症状は、人により相当違う場合がある。ある人はカーペットの縁でのつまずきを経験する場合があり、別の人は物を持ち上げるのが困難である場合があり、3人目の人の初期症状は発語不明瞭である場合がある。少数の人においては、ALSはその進行を緩めまたは停止することが公知であるが、このことが起こる機序および理由については科学的に解明されていない。本発明においては、ALSはω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の摂取の無意識の変更と関係があるとの仮説を立てている。多くの人間は、好き嫌い、家族から受け継いだ習慣、ある一定の食品の入手しやすさ、料理の癖およびたまたま流行の食品に基づいて、ある一定の食パターンになる。しかし、そのような変化は生活において常にあり、友人宅での夕食会、好意を寄せる人からの食品の贈り物、または離れた場所への休暇、または気に入った新しい油、そうしたことが食餌の変化をもたらす。一握りのナッツ、またはスプーン1杯分の多量のω-6油および/またはω-3油があれば、一時的にではあっても均衡を傾けるには十分である。どんなにわずかであっても、それにより体内で実際に影響が出る。
【0089】
他の宿主対象において、本開示の組成物によるω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸のレベルの実験的な調節に次いで、運動協調性、手書き、バランス、および体がリズムについていく能力(例えば、ダンスのステップにおいて)の改善が観察された。」(段落0087?段落0089)

(ク)
「【0090】
(実施例15)
筋骨格障害についてのケーススタディー
1.筋肉の性能
宿主対象において、脂質組成物の投与によるω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸療法のコースにわたり、多くの筋骨格問題が現れ、消失した。10?11グラムのω-6を摂取した菜食主義の宿主においては、ω-3が0.5gを超えて増加すると、筋肉の性能がより良好となり、関節痛が減り、関節の鳴る音が減り、空間作業の性能が良好になった。しかし、限界収益逓減点には、ω-3約1.2グラムで到達した。ω-3が1.2グラムを超えて増加すると、筋緊張、姿勢および運動の持久性が低下する結果となった。ω-3を1.2グラムに向けて徐々に戻すと、対象は、脚のつり、背下部の痛み、頭皮内の灼熱感、膝関節の坐屈(buckling)、ならびに、膝および肩の関節痛を経験した。3?6週間かかって、こうした症状は鎮静化した。」(段落0090)

(ケ)
「【0091】
2.痛風
別の宿主対象は、低脂肪食、主にオリーブ油およびナッツを摂取しており、痛風、関節障害を発症していた。食餌中のω-6を増やすと、症状は消失した。」(段落0091)

(コ)
「【0092】
3.筋筋膜痛および胸郭出口症候群
食餌中の主要脂肪としてオリーブ油を用いた低脂肪食を摂取している35歳の菜食主義女性において、急性筋筋膜痛のエピソードの発症が観察された。この対象は、体の数個所、頸肩、傍脊椎筋、大腿、手および腕において重度の筋緊張を経験した。
【0093】
宿主は、筋筋膜痛症候群(MFS)および胸郭出口症候群(TOS)に罹患していると診断された。TOSは、腕神経叢(頸部から腕の中へ通る神経)および頸基部と腋窩(腋の下)との間の鎖骨下動静脈血管の神経に影響する一群の別々の障害からなる。ほとんどの場合、こうした障害は、腕神経叢の構成要素(頸部から腕に通る神経の大きな塊)、鎖骨下動脈または鎖骨下静脈が圧迫されることにより生じる。神経原性型のTOSは、TOSの全症例の95?98%を占めることから、神経疾患が疑われた。宿主対象は、CNS全体のMRI、X線、血液検査、薬物療法、マッサージ療法およびカイロプラクティック治療を含む多数の試験を受けた。症状は消えても、その後、数カ月後または1年後に再発することになった。本開示の脂質組成物の投与により対象の食餌中のω-6およびω-3を最適化させた後、TOSおよび筋筋膜痛のエピソードは鎮静化した。本発明においては、こうしたエピソードは、体にω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸が極度に欠乏している結果であったとの仮説を立てる。ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸、より詳細には、ω-6脂肪酸が無意識に増加する(これは、食餌の何らかの偶発的変化により生じ得る)度に、プロスタグランジン、トロンボキサンおよびロイコトリエンの突然の急増、ならびに、神経細胞および筋細胞の興奮が生じ、その結果、重度の筋緊張が生じた可能性がある。関与している可能性のある脂質に関する他の機序は、未だ解明されていない。
【0094】
筋骨格障害との脂肪酸の関係は、非常に複雑である。アラキドン酸および他の多価不飽和脂肪酸は、主に、神経細胞および筋細胞において、電位開口型のカルシウムチャネル、ナトリウムチャネルおよびカリウムチャネルの機能を調節して細胞の興奮性に影響することを実証する多くの研究がある。Boland LM、Drzewiecki MM、Polyunsaturated Fatty Acid modulation of voltage-gated ion channels.、Cell Biochem Biophys.、2008年、52巻(2号)、59?84頁、Epub、2008年10月2日。いくつかの研究においては、脂肪酸の量および種類の変化と共に筋線維の型が変化することが観察されている(と考えられる)。de Wilde J、Mohren R、van den Berg S、Boekschoten M、Dijk KW、de Groot P、Muller M、Mariman E、Smit E、Short-term high fat-feeding results in morphological and metabolic adaptations in the skeletal muscle of C57BL/6J mice.、Physiol Genomics.、2008年2月19日、32巻(3号)、360?9頁、Epub、2007年11月27日。骨格について言えば、骨量は、骨芽細胞(骨形成細胞)および破骨細胞(骨吸収細胞)の均衡のとれた作用により支配される。多様な長鎖多価不飽和脂肪酸およびその代謝産物は、カルシウム均衡、骨芽細胞形成、破骨細胞形成、ならびに、骨芽細胞および破骨細胞の機能に影響するという証拠が増えている。Poulsen RC、Moughan PJ、Kruger MC、Long-chain polyunsaturated fatty acids and the regulation of bone metabolism.、Exp Biol Med (Maywood)、2007年11月、232巻(10号)、1275?88頁。Rahman MM、Bhattacharya A、Fernandes G、Docosahexaenoic acid is more potent inhibitor of osteoclast differentiation in RAW 264.7 cells than eicosapentaenoic acid.、J Cell Physiol.、2008年1月、214巻(1号)、201?9頁。」(段落0092?段落0094)

(サ)
「【0095】
(実施例16)
甲状腺障害についてのケーススタディー
宿主対象においては、ω-3脂肪酸の減少に伴う甲状腺障害の症状、疲労および衰弱、低温不耐、脱毛、手足の冷え、体重増加、不眠症、便秘、うつ、記憶力低下、健忘症および神経過敏が観察され、脂肪酸の最適範囲内では自己調節された。」(段落0095)

(シ)
「【0096】
(実施例17)
体重増加、肥満についてのケーススタディー
菜食主義の宿主対象において、それを超えると対象の体重が増加する、ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の最適な量および比率の幅が存在することが発見された。ω-6 11グラムおよびω-3 2グラムでは、対象は134ポンドであった。ω-3を1.2グラムまで徐々に減らすと、対象は最初6ポンド増えた後、6週間後12ポンド減り、最終的な体重は128ポンドとなった。肥満は代謝の遅さにしばしば関係があった。同様に、代謝速度は細胞膜組成に関係があった。Hulbert AJ、Membrane fatty acids as pacemakers of animal metabolism.、Lipids、2007年9月、42巻(9号)、811?9頁、Epub、2007年4月27日。多量の多価不飽和膜組成は、膜関連の速い過程と関係があると考えられる。膜組成は、エネルギー平衡方程式のすべての側面、すなわち、電解質勾配の均衡、神経ペプチド調節、遺伝子調節およびグルコース調節に影響する。」(段落0096)

(ス)
「【0097】
(実施例18)
糖尿病についてのケーススタディー
糖尿病のごく初期の症状が誘導される可能性があるかどうかを見るために、さまざまな量および比率のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を、その他の点では健康な対象に投与した。本開示の組成物に関する場合のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸のある一定の比率および量により、高血糖、過剰な尿生成、過剰な口渇および水分摂取の増加、かすみ目、原因不明の体重増加および嗜眠が誘導された。非常に高レベルのω-3に伴うこのような模擬的な症状は、用量を減らすことによっても回復させることができる。一例では、インスリン抵抗性は低レベルのω-6脂肪酸と関連があると考えられる。Summers LK、Fielding BA、Bradshaw HA、Ilic V、Beysen C、Clark ML、Moore NR、Frayn KN、Substituting dietary saturated fat with polyunsaturated fat changes abdominal fat distribution and improves insulin sensitivity.、Diabetologia、2002年3月、45巻(3号)、369?77頁。」(段落0097)

(セ)
「【0098】
(実施例19)
消化器系障害についてのケーススタディー
宿主対象においては、酸逆流疾患、腸の過敏、消化不良および胃弱の発症が観察された。ω-6脂肪酸を増やすか、またはω-3脂肪酸を減らす度に、以下の症状:胃痛、鼓腸、胸やけ、悪心(胃のむかつき)およびゲップが現れたが、ω-6増加に体が適応するにつれ、こうした症状はすべて消失した。ω-6は、最大11グラム試験した。特定の宿主においてはその点を超えると症状が持続するだろうとの仮説が立てられる。2グラムを超えてω-3を増やすと、濃色で固いペレット様の便が生成された。ω-6およびω-3の最適な均衡においては、便の黄褐色により判定されるように、胆汁の生成は最適であった。口腔中の粘液生成を指標として用い、正しいω-6およびω-3の量および比率では消化管中の粘液生成が最適であることも観察された。ω-3が2グラムの場合には口臭も観察され、ω-3を減らすと悪化した後、3?6週間かかって正常化した。アラキドン酸は、腸の粘膜の保護および完全性において中心的役割を果たす。過剰なω-3は、アラキドン酸に置き換わり、胃腸粘膜の損傷を引き起こすことがある。」(段落0098)

(ソ)
「【0099】
(実施例20)
排卵、生殖障害についてのケーススタディー
宿主対象の35歳女性においては、食餌中のω-6脂肪酸が極めて少ない場合には、排卵の停止(水のように薄い月経周期により示されるとおり)、排卵に伴う強烈な痛みおよび無排卵(anovulatry)月経が観察されたが、オリーブ油が主要な脂肪源であった。本明細書中では、このことは、排卵を助ける、ω-6により誘導されるプロスタグランジンの欠乏によるものであったと仮説を立てている。対象が、シクロオキシゲナーゼ活性、ひいてはプロスタグランジン合成を遮断するAdvilを処方されたときに、同じ現象が観察された。
【0100】
食餌性脂肪酸は、月経から、受精、妊娠関連の合併症(糖尿病など)、胎児の発育、早産、出生後の母子の健康まで、生殖と複雑に関連する。」(段落0099?段落0100)

(タ)
「【0101】
(実施例21)
加齢、組織修復についてのケーススタディー
宿主対象においては、本開示の組成物によりω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を均衡および最適化することにより、筋肉量回復、睡眠の安定化、精神的な鮮明さの向上、エネルギーおよび活力の向上、皮膚の改善、脱毛の減少、腸機能の改善、性欲および性的機能の改善ならびに体重管理を含め、加齢症状が調節された。本開示の組成物によるω-6およびω-3の理想的な均衡に伴う頻尿の管理も観察された。これは、組織中のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸、関連するエイコサノイドの管理の効果の組合せ、ならびに、それらが生理機能に及ぼす効果によるものであり、また、こうした脂質の性ホルモン様の効果によるものであり、また、それらが性ホルモン産生の最適化に及ぼす効果によるものであり、この組成物中の抗酸化物質および植物性化学物質によりさらに促進されたとの仮説が立てられる。
【0102】
脂質過酸化は、適度なレベルでは必要であるが、加齢における重大な要素である可能性があることが示唆されている。酸化ストレスは、核酸およびタンパク質といった他の重要な生体分子を損傷する可能性もある。Hulbert AJ、「Life and Death: Metabolic Rate, Membrane Composition, and Life Span of Animals」、Physiol Rev.、2007年10月、87巻(4号)、1175?213頁。膜流動性は若々しさと関連があると考えられるが、最初の2?3個を超えて二重結合がどんどん導入されると、追加的な流動性が生まれない可能性がある。さらに、脂質過酸化は、膜流動性の低下と関連があると考えられる。本開示の組成物は、天然の抗酸化物質および植物性化学物質を効果的に使用して、過剰なω-3送達を回避しながら、過酸化を管理し膜流動性を保持する。3?6つの二重結合を有するω-3系の脂肪酸は、最も過酸化しやすい脂肪酸だからである。線維芽細胞は、動物組織の構造の骨格である細胞外マトリックスおよびコラーゲンを合成する種類の細胞である。線維芽細胞が正しく機能することは、組織の最適な修復および再生にとって必須である。多価不飽和脂肪酸、抗酸化物質およびステロールは、望ましい線維芽細胞膜の環境を構築し得、二重層の脂質膜をはさんだ電気化学勾配に関与していると考えられる。Schroeder F、Kier AB、Sweet WD、Role of polyunsaturated fatty acids and lipid peroxidation in LM fibroblast plasma membrane transbilayer structure.、Arch Biochem Biophys.、1990年1月、276巻(1号)、55?64頁。Haines TH、Do sterols reduce proton and sodium leaks through lipid bilayers?、Prog Lipid Res.、2001年7月、40巻(4号)、299?324頁。本開示は、幹細胞が増殖および/または分化するための環境を提供することによるなど、内因性幹細胞の増殖および/または分化を誘導および管理することによる、組織の修復および/または再生のための組成物および方法も提供する。腸細胞および骨髄細胞は、継続的で生涯にわたる循環細胞の生理的補充におけるその存在量およびその役割についての成人幹細胞の例を示す。本開示の組成物および方法はカロリーも制限することから、酸化ストレスが制限され膜不飽和指数がより低くなることにより寿命が長期化する可能性がある。」(段落0101?段落0102)

(チ)
「【0103】
(実施例22)
肺障害についてのケーススタディー
宿主対象においては、ω-6脂肪酸の増加またはω-3脂肪酸の減少は、呼吸困難、鼻うっ血、耳痛、くしゃみおよび粘液過多を伴った。しかし、ω-6およびω-3の最適範囲内では、そうした症状は一定期間をかけて自己調節された。低脂肪食、すなわち、主に一価不飽和脂肪、総必須脂肪酸(EFA)の栄養補助食品1グラムおよび魚油栄養補助食品の食餌が、宿主対象の呼吸困難の原因となった。ω-6脂肪酸10?11グラムを補給すると呼吸困難は消失した。EFA栄養補助食品は、必要なロイコトリエンを十分産生していなかったとの仮説が立てられる。ω-6およびω-3に誘導されるロイコトリエンは、肺機能における非常に重要な物質である。ロイコトリエンは、必要とされる細胞を組織に運ぶのを助け、血管の透過性を増加させる。過剰な場合には、ロイコトリエンは、気道閉塞、粘液の分泌および蓄積の増加、気管支狭窄および炎症の原因となることがある。調節期間は、EFAの突然且つ広範な変化が免疫系を混乱させ、病原体への脆弱性が高まった期間を作り出す可能性があることを示している。さらなる研究により、感冒およびインフルエンザへの罹りやすさとω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の突然且つ広範な変化との関連が見出される可能性がある。」(段落0103)

(ツ)
「【0104】
(実施例23)
眼障害についてのケーススタディー
宿主対象において、ω-3脂肪酸を減らしω-6脂肪酸を増やした際に、ドライアイおよび眼内の圧迫されるような痛みが観察された。ω-6およびω-3のレベルが人口統計学的タイプにより適当な範囲内で維持されたときは、時間の経過と共に症状は消失した。ドルーゼン、すなわち、眼角の中に集まることの多い過剰な目の粘液が、本開示の組成物について言う場合の正しいω-6/ω-3の均衡で排除できることも観察された。しかし、ω-6またはω-3が過剰に増加したときは、ドライアイ症候群が持続した。過剰なω-3は血液が非常に薄くなる結果をもたらしたが、恐らくこれは、トロンボキサン作用の低下、それにより引き起こされた目の充血によるものであった。
【0105】
ドコサヘキサエン酸(ω-3)は、網膜の光受容体および脳のシナプス膜の重要な成分であり、アラキドン酸(ω-6)は、血管内皮細胞の重要な成分である。さらに、ω-6は血管の血圧にも関与していることから、ω-6およびω-3は両方とも、眼の健康に決定的に重要である。ω-3脂肪酸、ならびに、ビタミンC、E、βカロテンおよび亜鉛の配合物は加齢黄斑変性症(AMD)の進行を予防することが示されているが、ルテイン/ゼアキサンチン(xeaxanthin)およびω-3脂肪酸の摂取増加はAMDの進行と関連があるのに対し、ルテイン/ゼアキサンチンおよびω-3の適度な摂取はより良好な眼の健康と関連があり、このことから、植物性化学物質の役割、および、用量の重要性が示唆される。Robman L、Vu H、Hodge A、Tikellis G、Dimitrov P、McCarty C、Guymer R、Dietary lutein, zeaxanthin, and fats and the progression of age-related macular degeneration.、Can J Ophthalmol.、2007年10月、42巻(5号)、720?6頁。」(段落0104?段落0105)

(テ)
「【0106】
(実施例24)
皮膚障害についてのケーススタディー
宿主対象は、食餌中に多量のω-3脂肪酸があると毛穴のサイズが大きくなり、食餌中に多量のω-6脂肪酸があると皮膚が乾燥することを実証した。2つを均衡させると、最良の結果が得られた。本開示の組成物に関して言う場合の正しい均衡を用いると、小皺が減る可能性がある。時々ω-3が減少するのは、頸部領域周辺での発疹の出現と関連があると考えられる。ω-6代謝の増加に由来するサイトカイン活性の突然の増加により皮膚の発疹が発生したとの仮説が立てられる。脆い爪および魚の目およびたこは、本開示の組成物により脂肪酸を適切に均衡させれば消失すると考えられる。ω-3脂肪酸を減らした後で表面に現れる死細胞と同様、皮膚の脱落も観察された。
【0107】
皮膚は、多価不飽和脂肪酸の高度に活発な代謝を示す。食餌性ω-6、リノール酸が欠乏すると、うろこ状の皮膚疾患および皮膚の防御系の崩壊を招くことが示されており、ビタミンCの多量摂取と組み合わせたリノール酸摂取は、皮膚加齢のより良好な外見と関連がある。食餌性の麻種子油は、血漿中の脂肪酸プロファイルの著しい変化およびアトピー性皮膚炎の臨床症状改善をもたらすことが示されており、このことは、麻種子油中のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の両方が豊富に供給されることによると考えられる。Ziboh VA、Prostaglandins, leukotrienes, and hydroxy fatty acids in epidermis.、Semin Dermatol.、1992年6月、11巻(2号)、114?20頁。Ziboh VA、Cho Y、Mani I、Xi S、Biological significance of essential fatty acids/ prostanoids/ lipoxygenase-derived monohydroxy fatty acids in the skin.、Arch Pharm Res.、2002年12月、25巻(6号)、747?58頁。Cosgrove MC、Franco OH、Granger SP、Murray PG、Mayes AE、Dietary nutrient intakes and skin-aging appearance among middle-aged American women.、Am J Clin Nutr.、2008年8月、88巻(2号)、480頁。」(段落0106?段落0107)

(ト)
「【0108】
(実施例25)
睡眠障害についてのケーススタディー
人口統計学的なタイプによる本開示の脂質組成物により、最適化されたレベルのω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を使用すると、宿主対象においてより良好な安眠、ならびに、睡眠時間および覚醒時間の正常化が達成され得ることが観察された。事実、1人の宿主対象において8時間から7時間へ睡眠時間を減らした場合に、時間の経過と共により良好な安眠が観察された。下肢静止不能症候群も、宿主対象において軽減すると考えられる。ω-6およびω-3の量を変更する度に、宿主には調節期間が訪れた。ω-3の方が睡眠をより強く誘導し合計睡眠時間を増加させたのに対し、ω-6は、最初は睡眠を誘導したものの、数時間後には、一時的な不眠症を引き起こすほどの覚醒の強い反動を引き起こしたが、2週間かかって睡眠パターンは正常化した。こうしたことは、ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸が甲状腺機能に及ぼす効果、ならびに、甲状腺機能が、他の機序の中でも、PGD2作用など睡眠に及ぼす効果が理由であるとの仮説が立てられる。
【0109】
ω-6代謝産物のPGD2は、不眠症に至る覚醒の強い反動および用量依存的なベル型の応答曲線を伴う強力な睡眠誘導物質であると考えられる。他の研究においては、ω-3が欠乏した食餌は、松果体のメラトニンリズムを低下させ、概日時計の内因性の機能を弱め、夜間の睡眠障害に関与することが示されている。他の脂肪酸の中でも、パルミトレイン酸およびオレイン酸は睡眠障害にとって重要であることが示されているが、これは恐らく、これらの物質が、睡眠を誘導するオレアミドの前駆体としての機能を有することによるものである。」(段落0108?段落0109)

(ナ)
「【0110】
(実施例26)
歯科疾患についてのケーススタディー
菜食主義の宿主対象において、ω-6を11グラムで一定に維持しながらω-3脂肪酸を2グラムから1.2グラムに減らすと、歯の鋭敏性の低下、歯肉の後退の回復、歯のエナメル質の輝き、ならびに、歯の染みおよびプラークの減少が観察された。ナッツおよび油を含む脂質組成物が、ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の供給源であった。症状が宿主対象において悪化してから回復するまで3?6週間の調節期間があった。介入期間中の歯の喪失を調査することにより、さらに長期の介入研究から、この仮説を検証できるはずである。脂質の生物活性は、歯周炎/歯の喪失と冠動脈心疾患との間の関連を説明すると考えられる。」(段落0110)

(ニ)
「【0111】
(実施例27)
免疫、自己免疫および感染性疾患および炎症性疾患についてのケーススタディー
油およびナッツからリノール酸(LA)11gおよびα-リノレン酸(ALA)1.8gを摂取している菜食主義の宿主対象、48歳の閉経期女性において、脊椎の灼熱感、体内、皮膚および足の熱、ならびに創傷治癒の遅延が観察された。この対象は、さらに、膣の酵母菌感染症も発症した。症状は、最初の調節期間の後でALAを1.2gに減らすと消失した。とりわけ、食餌性脂肪酸が大きく変化した後の調節期間中に、ω-6脂肪酸/ω-3脂肪酸の不均衡により、炎症、免疫低下および感染症が生じたとの仮説が立てられる。とりわけ、植物性化学物質との相互作用の可能性に照らせば、ω-6およびω-3は両方とも低用量では抗炎症性であり、高用量では炎症性であることがさらに疑われる。一実施形態では、ω-3、植物性化学物質および他の食餌性構成要素による過度の免疫系抑制は、いくつかの疾患を引き起こす調節不全の炎症の原因となる代償的な機序の上方調節に繋がることがある。したがって、免疫系の自己調節が抑制されている閾値を下回るすべての食餌性免疫調節の正味の効果は、より効果的な栄養的アプローチであると考えられることは、本開示の一実施形態である。」(段落0111)

5 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により本願出願時における当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても本願出願時における当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のいわゆるサポート要件については、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
ここで、本願発明は、前記「2 本願発明」に示すとおりの「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態の予防および/または治療における使用のための」脂質含有配合物の発明であって、その課題は、対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態を予防および/または治療することにほかならない。

そこで、発明の詳細な説明の記載を検討すると、記載事項(ア)には、従来おこなわれてきた多数の研究により、更年期、心血管疾患、精神障害、神経障害、筋骨格障害、内分泌障害、癌、消化器系障害、加齢症状、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、過体重、腎疾患、肺障害、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、および、自己免疫などの免疫系疾患に関して、ω-3脂肪酸の補給を用いた予防および治療についての証拠が示され、ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されているということが開示されているが、本願発明は、記載事項(ア)に示された従来おこなわれてきた多数の研究で示された証拠あるいは研究に基づく推奨に反して「ω-6対ω-3の比が4:1以上」を発明特定事項としたものと認められるので、記載事項(ア)の開示内容は、本願発明が、本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることの根拠にはならない。
また、記載事項(イ)には、「表13.医学的状態に基づく脂質配合物」との表題の下、本願発明の課題における医学的状態のうち、更年期障害、心血管疾患、精神障害、筋骨格障害、加齢症状、内分泌障害、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、腎疾患、肺障害、眼障害、癌を有する対象についての、総脂肪の用量範囲、一価不飽和脂肪酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲、一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲、ω-6脂肪酸含有量の範囲、ω-9脂肪酸対ω-6脂肪酸の比率範囲、ω-3脂肪酸含有量の範囲およびω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲を示す表13が記載されているが、この表13に示されたω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲は1:1?45:1であって、本願発明の発明特定事項「ω-6対ω-3の比が4:1以上」と異なっている。また、この表13に示されたω-6脂肪酸含有量の範囲は、肥満以外の医学的状態では上限が40gとされておらず、またいずれの医学的状態でも下限がある点で、本願発明の発明特定事項「(ii)ω-6脂肪酸の用量は、40g以下」と異なっている。また、この表13には、本願発明の発明特定事項「(i)ω-3脂肪酸は、総脂質の0.1?20重量%である」に対応する記載はない。さらに、記載事項(イ)には、本願発明の課題における医学的状態が、本願発明により予防および/または治療できたことを示す記載もない。したがって、記載事項(イ)の開示内容は、本願発明が、本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることの根拠にはならない。
また、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)には、本願発明の課題における医学的状態のうち、更年期、加齢および筋骨格障害についてのケーススタディー(実施例11)、高コレステロール血症、心血管疾患についてのケーススタディー(実施例12)、気分変動、精神機能についてのケーススタディー(実施例13)、神経障害(進行性核上性麻痺、筋萎縮性側索硬化症)についてのケーススタディー(実施例14)、筋骨格障害(筋肉の性能、痛風、筋筋膜痛および胸郭出口症候群)についてのケーススタディー(実施例15)、甲状腺障害についてのケーススタディー(実施例16)、体重増加、肥満についてのケーススタディー(実施例17)、糖尿病についてのケーススタディー(実施例18)、消化器系障害についてのケーススタディー(実施例19)、排卵、生殖障害についてのケーススタディー(実施例20)、加齢、組織修復についてのケーススタディー(実施例21)、肺障害についてのケーススタディー(実施例22)、眼障害についてのケーススタディー(実施例23)、皮膚障害についてのケーススタディー(実施例24)、睡眠障害についてのケーススタディー(実施例25)、歯科疾患についてのケーススタディー(実施例26)、及び、免疫、自己免疫および感染性疾患および炎症性疾患についてのケーススタディー(実施例27)が示されているものの、本願発明の課題における医学的状態のうち、内分泌障害、腎疾患、癌についての記載は見出せない。しかも、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)に示された医学的状態の予防および治療に用いられる配合物と同じ配合物によって、内分泌障害、腎疾患、癌の予防および治療ができることが、本願出願時における当業界の技術常識であったことの根拠も見出せない。したがって、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)の開示内容によっても、本願出願時における当業者が、本願発明が内分泌障害、腎疾患または癌の予防および治療をするという本願発明の課題を解決できるものと認識できるとは認められず、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)の開示内容は、本願発明が、本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることの根拠にはならない。
また、発明の詳細な説明における他の記載を検討しても、本願発明が、本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることの根拠となる記載は見出せない。
さらに、本願発明が、本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは出願時の技術常識から明らかであるとする根拠も見出せない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、当業者が出願時の技術常識に照らして本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。
ここで、本願発明の発明特定事項から、本願発明は「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態を予防および/または治療する」ことをその用途とする、医薬用途発明であるといえる。
そこで、発明の詳細な説明の記載を検討すると、記載事項(ア)には、従来おこなわれてきた多数の研究により、更年期、心血管疾患、精神障害、神経障害、筋骨格障害、内分泌障害、癌、消化器系障害、加齢症状、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、過体重、腎疾患、肺障害、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、および、自己免疫などの免疫系疾患に関して、従来おこなわれてきた多数の研究では、ω-3脂肪酸の補給を用いた予防および治療についての証拠が示され、ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されているということが開示されているが、本願発明は、記載事項(ア)に示された従来おこなわれてきた多数の研究で示された証拠あるいは研究に基づく推奨に反して「ω-6対ω-3の比が4:1以上」を発明特定事項としたものと認められるので、記載事項(ア)の開示内容は、本願発明で特定される医学的状態の予防および/または治療することに、本願発明が有用であると当業者が理解できるとする根拠にはならない。
また、記載事項(イ)には、「表13.医学的状態に基づく脂質配合物」との表題の下、本願発明の課題における医学的状態のうち、更年期障害、心血管疾患、精神障害、筋骨格障害、加齢症状、内分泌障害、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、腎疾患、肺障害、眼障害、癌を有する対象についての、総脂肪の用量範囲、一価不飽和脂肪酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲、一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲、ω-6脂肪酸含有量の範囲、ω-9脂肪酸対ω-6脂肪酸の比率範囲、ω-3脂肪酸含有量の範囲およびω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲を示す表13が記載されているが、この表13に示されたω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲は1:1?45:1であって、本願発明の発明特定事項「ω-6対ω-3の比が4:1以上」と異なっている。また、この表13に示されたω-6脂肪酸含有量の範囲は、肥満以外の医学的状態では上限が40gとされておらず、またいずれの医学的状態でも下限がある点で、本願発明の発明特定事項「(ii)ω-6脂肪酸の用量は、40g以下」と異なっている。また、この表13には、本願発明の発明特定事項「(i)ω-3脂肪酸は、総脂質の0.1?20重量%である」に対応する記載はない。さらに、記載事項(イ)には、本願発明の課題における医学的状態が、本願発明により予防および/または治療できたことを示す記載もない。したがって、記載事項(イ)の開示内容は、本願発明で特定される医学的状態の予防および/または治療することに、本願発明が有用であると当業者が理解できるとする根拠にはならない。
また、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)には、本願発明の課題における医学的状態のうち、更年期、加齢および筋骨格障害についてのケーススタディー(実施例11)、高コレステロール血症、心血管疾患についてのケーススタディー(実施例12)、気分変動、精神機能についてのケーススタディー(実施例13)、神経障害(進行性核上性麻痺、筋萎縮性側索硬化症)についてのケーススタディー(実施例14)、筋骨格障害(筋肉の性能、痛風、筋筋膜痛および胸郭出口症候群)についてのケーススタディー(実施例15)、甲状腺障害についてのケーススタディー(実施例16)、体重増加、肥満についてのケーススタディー(実施例17)、糖尿病についてのケーススタディー(実施例18)、消化器系障害についてのケーススタディー(実施例19)、排卵、生殖障害についてのケーススタディー(実施例20)、加齢、組織修復についてのケーススタディー(実施例21)、肺障害についてのケーススタディー(実施例22)、眼障害についてのケーススタディー(実施例23)、皮膚障害についてのケーススタディー(実施例24)、睡眠障害についてのケーススタディー(実施例25)、歯科疾患についてのケーススタディー(実施例26)、及び、免疫、自己免疫および感染性疾患および炎症性疾患についてのケーススタディー(実施例27)が示されているものの、本願発明の課題における医学的状態のうち、内分泌障害、腎疾患、癌についての記載は見出せない。しかも、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)に示された医学的状態の予防および治療に用いられる配合物と同じ配合物によって、内分泌障害、腎疾患、癌の予防および治療ができることが、本願出願時における当業界の技術常識であったことの根拠も見出せない。したがって、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)の開示内容によっても、本願発明で特定される医学的状態のうち内分泌障害、腎疾患または癌の予防および/または治療することに、本願発明が有用であると当業者が理解できるとする根拠にはならない。
また、発明の詳細な説明における他の記載を検討しても、本願発明が、「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態」のうち、内分泌、腎疾患、癌を予防および/または治療することに、本願発明が有用であると当業者が理解できるとする根拠となる記載は見出せない。
さらに、本願発明が、「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態」のうち、内分泌、腎疾患、癌を予防および/または治療することに、本願発明が有用であることは出願時の技術常識から明らかであるとする根拠も見出せない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明は、「対象における、更年期、加齢、筋骨格障害、気分変動、認知機能低下、神経障害、精神障害、甲状腺障害、過体重、肥満、糖尿病、内分泌障害、消化器系障害、生殖障害、肺障害、腎疾患、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、癌、自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、高コレステロール血症、脂質異常症、または心血管疾患から選択される医学的状態」のうち、内分泌、腎疾患、癌を予防および/または治療することをその用途とする、本願発明の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていない。

(3)平成28年 2月 4日付け意見書「3-4-2.指摘事項(2)について」における請求人の主張及び平成28年 2月29日付け上申書における請求人の主張の検討
請求人は、当審から平成27年 7月30日付けで通知された拒絶理由に対して提出した、平成28年 2月 4日付け意見書の「3-4-2.指摘事項(2)について」において、拒絶理由3、4の(2)について、「ω-6は、重要な栄養素であり、細胞膜の重要成分、重要な生体メッセンジャーの前躯体、並びに細胞機能及び遺伝子のレギュレーターです(段落[0002]?[0004]等参照)。ω-6の活動に影響を与える、ω-3及び他の脂質(段落[0004]、[0005]、[0023]参照)のような、その他の脂質に関連した正しいω-6の量を有することは、それ故、健康にとって重量であり、不均衡な脂質レベルに関連する医学的状態を回避します。本願は、当業者に、他の脂質と関連したω-6の正しい量が何であるかを教示します。これらの理由より、本願発明は、請求項20(補正前の請求項16)で記載された「対象における医学的状態の予防」や、請求項24(補正前の請求項20)で記載された「前記対象において、脂質の不均衡と関連している」医学的状態の予防に有効であるとして記載されております。 更に、他の脂質と関連したω-6の正しい送達は、幅広い範囲の病気や障害に治療的効果を有します(段落[0002]?[0006]参照)。そして本願明細書は、容易に関連付けられる22を超える実施例を開示しております。」と述べつつ、出願時の技術常識に関しては「本願の優先日において、当業者は、ω-6レベルにより影響を受ける病気および状態を把握しておりました。これらは、更年期障害、心血管疾患、精神障害、神経障害、筋骨格障害、内分泌障害、癌、消化器系障害、加齢症状、ウイルス感染症、細菌感染症、肥満、過体重、腎疾患、肺障害、眼障害、皮膚障害、睡眠障害、歯科疾患、および、自己免疫などの免疫系疾患を含みます(段落[0006]参照)。
(中略)
また、添付資料9(Lands WE, Ann. N.Y. Acad. Sci. 1055: 179-192 (2005))の183頁には、以下のように記載されております。
(中略)
(日本語訳:長期間にわたるω-6エイコサノイドの制御不可能な過度の産出は、心臓発作、脳血栓、不整脈、関節炎、ぜんそく、頭痛、月経困難(月経痙攣)、炎症、腫瘍転移、及び骨そしょう症に関連します・・・大部分の人々は、必要量よりも約20倍以上の必須ビタミン様n-6リノール酸を食してします。・・・・証拠は、これらの物質を約0.5%又はそれ以下のカロリーの量で必要とすることです。)更に上記添付資料8は、ω-6とω-3の比が3:1未満であること、ω-6は6.67g/日未満であり、かつエネルギーの3%未満であること(即ち、食餌の脂肪/脂質の7.5%未満)を教示し(129頁の表1参照)、更にこの供述に、基礎的な健康(fundamental health)のため30人の科学者が同意しております(129頁?130頁参照)。対照的に本願は、ω-6の欠如が特定のメカニズムを促進し、その結果ω-6の突然の増加が、心筋梗塞、脳卒中、感染症、および生理的な障害を引き起こし得るオーバーフロー効果を有するという完全に反対のことを教示しております。ω-6とω-3の比が4:1を超え、そしてω?6が全脂質の20%を超えて投与される多くの実施例(表15?17)が明細書中に記載されており、11g/日を超えるω-6が、健康への悪影響を克服するため必要とされております(実施例11、12、14.2、17、19、26および27参照)。即ち、カロリーの少なくとも5.82%であり(11g×9cal=99cal/1700=5.82%、表20参照。)、脂質の22%です(11gのリノール酸/50gの全脂質、表20参照)。
(中略)
故に、当業者は、本願の出願前にもω-6レベルが多くの病気に影響を与えることを認識していたが、正しい送達に関するビジョンは完全に反対です。即ち、ω-6は幅広く軽んじられており、ω-6とω-3の比は4:1未満であることが幅広く教示されていました(段落[0006]及び添付資料8参照)。」
この請求人の主張によれば、本願発明は、出願時の技術常識では医学的状態の予防および/または治療には適さないと考えられていたω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率、総脂質に対するω-3脂肪酸の割合及びω-6脂肪酸の用量を採用したものといえる。してみると、本願発明により医学的状態の予防および/または治療ができることは、出願時の技術常識に反するものであるといえるにもかかわらず、請求人は、本願発明によって、医学的状態のうち、内分泌障害、腎疾患、癌の予防および治療ができる根拠を示しておらず、記載事項(ウ)?記載事項(ニ)に示された医学的状態の予防および治療に用いられる配合物と同じ配合物によって、内分泌障害、腎疾患、癌の予防および治療ができる根拠も示していない。

また、請求人が提出した平成28年 2月29日付け上申書において、請求人は「審判請求人は、現在の特許請求の範囲および明細書の内容で特許され得るものであると強く確信しておりますが、合議体が、万一特許を受けることができない発明とご判断された場合には、審決に対する訴えも検討する所存であります。しかしながら、合議体が、更なる補正および/または証拠の提出を求められる場合は、今一度拒絶理由を通知される等して対応の機会を頂けましたら幸いです。審判請求人には、そのような対応を行う意思がございます。」と述べているが、当審から通知した平成27年 7月30日付け拒絶理由に対し、平成28年 2月 4日に手続補正書及び意見書が提出され、平成28年 2月 5日に手続補足書が提出されており、適法に補正書及び意見書提出の機会並びに証拠提出の機会は与えられたので、さらに拒絶理由を通知する必要性を認めない。
したがって、拒絶理由3、4の(2)についての請求人の主張を受け入れることはできず、上記(1)及び(2)における検討結果を覆すことはできない。

(4)検討の結果
上記の検討の結果、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-12 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-16 
出願番号 特願2011-506377(P2011-506377)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 文彦  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
渕野 留香
発明の名称 脂質含有組成物およびその使用方法  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 憲司  
代理人 上村 欣浩  

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