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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1338753
審判番号 不服2017-2895  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-28 
確定日 2018-03-22 
事件の表示 特願2014-256669「忌避剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日出願公開、特開2015- 96534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2004年1月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年1月17日(DE)ドイツ)を国際出願日とする特願2006-500515号の一部を平成23年4月7日に新たに特許出願した特願2011-85589号の一部を平成26年12月18日に新たな特許出願としたものであって、平成27年1月6日に手続補正書及び上申書が提出され、平成28年1月29日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書が提出され、同年10月28日付けで拒絶査定がされ、平成29年2月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月12日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成27年1月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「イミダクロプリドおよびフルメトリンを含むマダニ忌避剤。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成28年1月29日付け拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1 国際公開02/43494号
引用文献2 国際公開02/078443号
引用文献3 特開昭62-289505号公報
引用文献4 特開平11-349409号公報
引用文献5 米国特許第4178384号明細書

第4 当審の判断
当審は、拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:国際公開02/43494号(原審における引用文献1)
刊行物3:特開昭62-289505号公報(原審における引用文献3)
刊行物4:特開平11-349409号公報(原審における引用文献4)
刊行物5:米国特許第4178384号明細書(原審における引用文献5)

なお、刊行物3?5は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。

2 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載されている。(以下、刊行物1の記載事項を訳文で示す。訳文は、刊行物1のパテントファミリーである特表2004-514682号公報に基づいて当審が作成した。)
(1a)「請求の範囲
1.ピレスロイド及びニコチニル化合物の組合せを含む寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物。
・・・
4.ニコチニル化合物がイミダクロプリドである請求項1の組成物。」

(1b)「驚くべきことに、ピレスロイドとニコチニル化合物の組合せが強化された殺ダニ活性を生じ、且つノミ類に対する持続的な優れた活性を保持することが見出された。
発明の概略
前記に従い、本発明はピレスロイド及びニコチニル化合物を含む活性成分の組合せを含有する、寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物を包含する。組成物は、哺乳類上の寄生性ダニ類及び昆虫、特にダニ類、ダニ類及びノミ類の皮膚的抑制ならびにノミ類、ダニ類及びダニ類ならびに他の感受性の昆虫の居住地抑制に特に適している。本明細書においては「抑制」または「抑制する」という用語により、好ましくは昆虫及びダニ類を、少なくとも80%が適用から数日以内、好ましくは2日以内に死亡する程度まで殺すことにより、昆虫及びダニ類を無害にすることを意味する。」(第1頁第25行?第2頁第11行)

(1c)「代表的であるが制限ではないピレスロイドの例は、ペルメトリン、フェントリン、シペルメトリン、シハロトリン、ラムダシハロトリン、シフルトリン、シフェノトリン、トラロメトリン、トラロシトリン、デルタメトリン、スルバリネート、フルバリネート、フルメトリン及びフェンバレレートである。本明細書において好ましいのはペルメトリン、[(3-フェノキシ-フェニル)メチル-3-92,2-ジクロロビニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート]である。」(第3頁第27?32行)

(1d)「クロロニコチニル化合物は、・・・既知である。
特定的に以下の化合物を挙げることができる。

・・・
」(第4頁第1行?第8頁第13行の下 左側の化学式)

(1e)「組合せは、ノミ類及びダニ類に対して特に有効である。驚くべきことに、組合せはイヌ上のダニ類の種、デマセントル・バリアビリス及びリピセファラス・サンギネアスに対して特に有効であることが見出された。・・・
【実施例】
実施例1
この研究の目的は、イヌに皮膚的に適用されるピレスロイド及びクロロニコチニル殺虫剤の組合せ適用のノミ及びダニの抑制を、30日の間隔を経て比較として決定することであった。この組合せをペルメトリンのみ、イミダクロプリドのみ、フィプロニル及びセラメクチンと比較した。後者の2つの化合物は現在ダニ及びノミの両方の抑制に関する要求を有している製品中に存在する。
36匹のイヌを群当たりに6匹のイヌの6つの群に分けた。各イヌに45%w/wのペルメトリンを含有するバイエル社から入手可能な製品である「キルティクス」、9.1%w/wのイミダクロプリドを含有するバイエル社から入手可能な製品であるアドバンテージ^(R)、45%w/wのペルメトリン+9.1%w/wイミダクロプリドを含有するキルティクスとアドバンテージの組合せ、9.7%のフィプロニルを含有するメリアル社から入手可能な製品であるトップスポット^(R)又は12%w/vのセラメクチンを含有するファイザー社から入手可能な製品であるレボリューション^(R)の1回の局所-適用処置を、適した投薬量及び種々の製品適用に関するラベル指示に従って施した。標準のイヌは未処置のままであった。すべての製品は商業的単位投薬量アプリケーターチューブで与えられた。
処置から7?14日前にマイルドな非-薬剤添加シャンプーを用いてイヌを入浴させ、十分にくしで梳き、存在するのみ類又はダニ類を除去した3日前に餌を与えられていない100匹の成虫のダニ(50匹のデルマセントル・バリアビリス及び50匹のリピセファラス・サンギネアス)ならびに餌を与えられていない100匹の成虫のノミをイヌに蔓延させた。1日前に、生存しているノミ類及びダニ類を数えた。全予備処置生存ダニカウントに従ってイヌを最高から最低までにランク付けした。最高のカウントを有する36匹のイヌを研究のために選んだ。6匹のイヌの連続する各群が1つのブロックを構成した。イヌの各ブロック内で無作為に処置を指定した。
処置から後の1、7、14、21及び28日に、ノミ類及びダニ類に関して各イヌを視覚により調べた。親指及び他の指について毛を分け、ノミ類及びダニ類を数えた。生存しているダニのカウントを種により記録した。生存しているダニ類のみを2、8、15、22及び29日に視覚により数えた。3、9、16、23及び30日にイヌをくしで梳いた。残って生存しているノミ類及びダニ類のすべてを数え、除去した。
種々の化合物に関する投薬量を表1に示す。

表1 イヌの皮膚に適用される化合物の投薬量

この研究の結果を表2、3及び4に示す。

表2 有効性の比較 D.バリアビリス パーセント標準

^(*) フィプロニルは、イミダクロプリド+ペルメトリンと有意に異なる
^(** )イミダクロプリド+ペルメトリンは、フィプロニルと有意に異なる

表3 有効性の比較 R.サンギネアス パーセント標準

」(第13頁第12行?第18頁)

(2)刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「2.特許請求の範囲
(1)ピレスリンあるいはピレスロイド活性物質、溶媒担体、カルボキシビニルポリマー及びカルボキシビニルポリマーの中和剤から成る本質的に無水のゲルの形態の昆虫防除用組成物。」

(3b)「3.発明の詳細な説明
・・・
ピレスリン及びピレスロイドは、非常に有効な殺虫剤及び昆虫忌避剤として知られている(Kirk-Othmer,Encylopedia of Chemical Technology第3版、第13巻、pp424-425及びpp456-458を参照)。」(第2頁左上欄第5?13行)

(3c)「ピレスリンは天然に存在する産物に由来する。又、ピレスロイドは、合成品由来である。両者は、有効な昆虫防除の性質を有しており、特にピレスロイドは、すぐれた殺虫性と昆虫忌避性及び非常に低い毒性をも有している。」(第2頁左下欄第19行?右下欄第3行)

(3d)「組成物は主として蚊、ブヨ、ダニ、及びシラミを防除するのに使用される。」(第4頁右下欄第17?18行)

(3)刊行物4
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 組成物の総重量に基づいて、
a.約6?約30パーセントのエステル、アミド、ウレタンまたはそれらの組み合わせから選択される官能基を含有する昆虫忌避活性物質;
b.i.エタノール;
ii.イソプロパノール;
iii.アルキルが約1?約4個の炭素原子を有するグリコールモノアルキルエーテル;
iv.約3?約6個の炭素原子を含有するグリコール;
v.エチレングリコールもしくはプロピレングリコールのオリゴマー;または
vi.それらの混合物から選択される約5?約30パーセントのアルコール;及び
c.約1?約10重量パーセントの界面活性剤を含んでなる昆虫忌避組成物。」

(4b)「【0011】
【発明の詳細な記述】本発明の1つの態様は宿主から昆虫を忌避するのに有用な昆虫忌避組成物に関する。「宿主」は昆虫により影響を受けるあらゆる植物またはヒト、哺乳類、動物等のような生き物を意味する。
【0012】本発明の組成物の第一の成分はエステル、アミド、ウレタンまたはそれらの組み合わせから選択される官能基を含有する昆虫忌避活性物質である。好ましくは、昆虫忌避活性物質は
a.N,N-ジエチルトルアミド、
b.式
【0013】
【化1】

・・・
の化合物、
c.1つもしくはそれ以上の天然もしくは合成のピレスロイド、または
d.それらの混合物から選択される。
【0014】・・・天然のピレスロイドはジョチュウギク、クリサンテマム・シネラリエフォリウム(Chrysanthemum cinerariaefolium)またはクリサンテマム・コッシネウム(C coccineum)のすりつぶした花の抽出物中に含まれる。合成のピレスロイドは合成的に誘導され、そしてジョチュウギク中に見いだされる昆虫忌避活性物質の1つまたはそれ以上と構造的に同じであるかまたは構造的に類似する可能性がある。」

(4c)「【0016】本発明の組成物により忌避される特定の昆虫は選択する昆虫忌避活性物質により決まる。ある昆虫忌避活性物質は特定の昆虫種に特異的である可能性があるが、ある活性物質は種々の昆虫を広く忌避することができる。選択する活性物質により、組成物はマダニ、ダニ、シラミ、ハエ、ノミ、カ等のような昆虫を忌避するのに有用であることが見いだされた。」

(4)刊行物5
刊行物5には、以下の事項が記載されている。(以下、刊行物5の記載事項を訳文で示す。訳文は、当審が作成した。)
(5a)「発明の背景
1.発明の分野
この発明は、害虫を殺虫する殺虫剤ではなく、特に有害昆虫を出現させない忌避物質である、有害昆虫の防除である化学物質の一般的な分野に関する。」(第1欄第8?13行)

(5b)「ピレトリンは広い昆虫種の殺虫に効果的であるし、そして、それらは昆虫忌避剤としても機能を有するが[・・・]、しかし、それらは使用期間が短い。・・・数年間、欠点を克服した合成シクロプロパンカルボン酸エステル殺虫剤であるピレスロイドを製造することに対する努力が行われている。・・・これらの努力の顕著な最近の成果は、以前では達成されない光酸化安定性のレベルをもつ天然ピレトリンとレスメスリンの毒性とノックダウン性の性質を有する、3-フェノキシベンジル 3-(β,β-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸エステルであるピレスロイドの発見だった。[・・・]」(第1欄第63行?第2欄第19行)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求の範囲の請求項1には、「ピレスロイド及びニコチニル化合物の組合せを含む寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物。」が記載され、その請求項4には、「ニコチニル化合物がイミダクロプリドである請求項1の組成物。」が記載されており(摘記(1a))、請求項4について、請求項1を引用しない形で書き下すと、「ピレスロイド及びニコチニル化合物がイミダクロプリドである組合せを含む寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物。」であるといえる。また、刊行物1の実施例1では、請求項4に対応する、ダニに対してピレスロイドとしてペルメトリンを使用し、イミダクロプリドと組み合わせた組成物を使用した具体例が記載されている(摘記(1e))。

そうすると、刊行物1には、「ピレスロイド及びニコチニル化合物がイミダクロプリドである組合せを含む寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

4 対比・判断
(1)対比
ピレスロイドは、殺虫成分であるピレトリンとその類縁化合物の総称であって(農薬ハンドブック1998年版編集委員会編集、農薬ハンドブック1998年版、社団法人日本植物防疫協会、平成10年12月15日発行、第89頁には、「III ピレスロイド系殺虫剤」の項目において、「ピレスロイドはシロバナムシヨケギクの花に含まれる主殺虫成分ピレトリンとその類縁化合物の総称」との記載がある。)、本願発明のフルメトリンはピレスロイドに含まれる化合物であるから、引用発明におけるピレスロイドは、本願発明のフルメトリンとの対比において、ピレスロイドであるという限りにおいて一致する。
また、本願発明のマダニ忌避剤は、イミダクロプリドとフルメトリンを含むものであるから「組成物」ということができる。

そうすると、本願発明と引用発明とでは、
「イミダクロプリドおよびピレスロイドを含む組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本願発明では、ピレスロイドが「フルメトリン」と特定しているのに対して、引用発明ではこのような特定がされていない点

(相違点2)本願発明では、組成物が「マダニ忌避剤」であるのに対して、引用発明では、「寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物」である点

(2)判断
ア 相違点1について
刊行物1には、寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物に用いることができるピレスロイドの代表的な例として、フルメトリンが例示の1つとして記載されている(摘記(1c))。ここで、刊行物1には実施例として、ピレスロイド化合物としてペルメトリンを用い、イミダクロプリドと組み合わせた組成物が記載されており(摘記(1e))、ピレスロイドとしてフルメトリンを使用した例は実施例としては記載されていないが、上記したように、ピレスロイドの代表的な例としてフルメトリンが記載されている。
そして、発明の詳細な説明の記載をみても、ニコチニル化合物としてイミダクロプリドを使用した場合に組み合わせるピレスロイドとしてフルメトリンを使用することができないという事情は何ら存在せず、ピレスロイドとイミダクロプリドを含む組成物である引用発明において、ピレスロイドとして刊行物1の中で使用できる化合物の代表的な例として例示されたものの中からフルメトリンを選択することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項であるといえる。

イ 相違点2について
引用発明の「寄生性昆虫及びダニ類の抑制」のうち、「抑制」とは、刊行物1の以下の記載「本明細書においては「抑制」・・・という用語により、好ましくは昆虫及びダニ類を、少なくとも80%が適用から数日以内、好ましくは2日以内に死亡する程度まで殺すことにより、昆虫及びダニ類を無害にすることを意味する。」からみて(摘記(1b)参照)、「殺虫」を意図していると解することができる。このことを前提に相違点2について検討する。

刊行物3には、ピレスロイド活性物質を含む昆虫防除用組成物が記載され(摘記(3a))、ピレスロイドは、有効で優れた殺虫性と昆虫忌避性を有することが記載され(摘記(3b)(3c))、ダニに対して使用できることも記載されている(摘記(3d))。
また、刊行物4には、昆虫忌避組成物が記載され(摘記(4a))、この組成物に含まれる昆虫忌避活性物質として天然もしくは合成のピレスロイドが好ましく用いられる化合物として記載されている(摘記(4b))。
さらに、刊行物5には、ピレトリンは昆虫の殺虫だけでなく、昆虫忌避剤の機能も有することが記載されており(摘記(5b))、ピレトリンがピレスロイドに含まれることは技術的に明らかであるといえる。
このように、刊行物3?5の記載をみると、ピレスロイドは、ダニに対する殺虫剤として使用するだけでなく、ダニに対する忌避剤として使用することができることも技術常識であるといえる。

そして、刊行物1の実施例では、R.サンギネアスに対する殺虫効果を確認しており(摘記(1e))、このR.サンギネアスは、本願明細書の【0127】以降に記載された実施例において忌避試験に使用されたマダニであるR.サンギネアスと同じであるから、刊行物1の実施例で用いられたR.サンギネアスは、マダニであり、刊行物1の実施例は、マダニに対する殺虫効果を示しているといえる。
また、引用発明における寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための、すなわちダニに対する殺虫のための組成物は、刊行物3?5に記載されるとおりの技術常識から同時にダニに対する忌避剤としても使用可能なピレスロイドを含む組成物であるといえる。
したがって、引用発明において、殺虫のための組成物の用途を忌避剤とし、対象をマダニとすることは当業者が容易に想到できたことであるといえる。

なお、相違点2は、上記で述べたとおり引用発明及び上記技術常識から当業者が容易に想到できたものであるが、念のため本願明細書の記載も考慮して、殺虫性と忌避性に関してさらに検討してみる。

殺虫性と忌避性とに関して、本願明細書の記載をみてみると、その【0008】には、「驚くべきことに、この度、ピレスロイド/ピレトリン群からの活性化合物を、節足動物のニコチン受容体にアゴニスト的に作用する活性化合物と組み合わせて含有する組成物は、例えばマダニ、ユスリカおよびハエなどの節足動物に対して、ピレスロイド/ピレトリンを単独で含有する製剤の忌避効果を超越する、非常に良好な忌避特性を有することが判明した。これは、処置された動物と外寄生生物の相対的接触時間と、接触後100%の死亡率を達成するのに必要な接触時間との両方に関する。」と記載され、同【0009】には、「従って、本明細書で以下により詳しく説明するタイプの係る組合せ製剤は、既に動物を攻撃した寄生虫を制御することができるのみならず、驚くべきことに、急性攻撃を非常に効率的に防止し、」と記載され、同【0045】には、「驚くべきことに、ピレスロイド/ピレトリンの群からの活性化合物と組み合わせた、ニコチン性アゴニストの群からの活性化合物の、本発明に従い使用される組合せの忌避効果および短い接触での死亡率は、個々の成分の活性に基づいて予想されたものを上回る。」と記載されており、一般的な記載として、本願発明の組成物が忌避効果と殺虫効果の両方を有する旨が記載され、また、具体的な実施例の記載として、同【0127】?【0146】には、「A. 動体(moving-object)バイオアッセイにおけるマダニの忌避」という試験においては、マダニの忌避試験を行い、その効果が確認され、そして、同【0147】以降の「B.動体バイオアッセイにおけるマダニの死亡率」という試験においては、マダニの殺虫試験とその効果が確認されている。

このように、本願明細書には、本願発明におけるピレスロイド及びニコチニル化合物の組成物の用途は、マダニに対する忌避剤だけでなく、良好な特性を有する殺虫剤としても記載されているといえるのであり、その他殺虫剤を忌避剤として使用することはできないとする記載はない。
よって、本願明細書の記載を考慮して殺虫性と忌避性について検討しても、相違点2に関して、当業者が容易に想到することができたとする判断は覆るものではない。

以上のとおりであるので、寄生性昆虫及びダニ類の抑制のための組成物である引用発明において、マダニ忌避剤とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

ウ 効果について
刊行物3?5の記載をみると、ピレスロイドが忌避効果を有し、ピレスロイドの具体的な化合物であるフルメトリンを含む組成物も忌避効果を有することが当業者であれば予測できるといえる。
一方、本願の明細書の段落【0008】、【0045】には、ピレスロイド/ピレトリン群からの活性化合物を、節足動物のニコチン受容体にアゴニスト的に作用する活性化合物と組み合わせて含有する組成物は、マダニに対して、ピレスロイド/ピレトリンの単独での忌避効果を超越する、非常に良好な忌避特性を有する旨の一般的な記載がされているものの、具体的に実施例として効果が確認されているのは、同【0087】に記載された実施例1である、ピレスロイドとして45gのペルメトリン(40%シスおよび60%トランス異性体を含む)と10gのイミダクロプリドを含む組成物を用い、同【0127】以降に記載された試験により、忌避剤を含まない溶媒だけの対照実験(同【0128】を参照)及び、忌避剤としてペルメトリンのみを含有するExspot^(R)と対比して改善された忌避効果が具体的なデータとともに示されており、非常に良好な忌避特性を奏するということができるが、ピレスロイドとして、フルメトリンを用いた実施例は記載されておらず、どの程度の効果が得られたのかについての具体的なデータは何ら記載されていない。
そして、本願発明が、具体的な効果がないことを前提に、仮に、フルメトリンとイミダクロプリドとの組合せにより、一定の忌避効果を奏するものであるとしても、そのような効果は、上記した刊行物3?5に記載されたピレスロイドが忌避効果を有するという当業者の予測の範囲であるといえ、格別顕著な効果であるということはできない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用されたいずれの文献にもイミダクロプリドがマダニの忌避作用を有することは記載されておらず、マダニ忌避に何ら資することのないイミダクロプリドをフルメトリンと組み合わせてマダニ忌避剤を使用する動機はない旨を主張する。

しかしながら、上記したように、刊行物1には、ピレスロイドとイミダクロプリドとの組み合わせたマダニの殺虫組成物が記載され、ピレスロイドの代表的な例示としてフルメトリンが記載され、また上記したとおり、前記技術常識からこれを忌避剤とすることは当業者が容易に想到できたことである。したがって、引用文献中において、イミダクロプリドがマダニ忌避作用を有することの直接の記載の有無に関わらず、本願発明の構成は当業者が容易に想到できたものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その他の請求項について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-17 
結審通知日 2017-10-24 
審決日 2017-11-09 
出願番号 特願2014-256669(P2014-256669)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 典之伊藤 佑一  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐藤 健史
瀬下 浩一
発明の名称 忌避剤  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 城山 康文  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 重森 一輝  
代理人 小野 誠  
代理人 市川 英彦  
代理人 安藤 健司  
代理人 金山 賢教  
代理人 坪倉 道明  
代理人 青木 孝博  
代理人 今藤 敏和  
代理人 五味渕 琢也  

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