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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1338811
審判番号 不服2017-6290  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-01 
確定日 2018-03-23 
事件の表示 特願2013- 75078「液体吐出器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日出願公開、特開2014-198309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年3月29日の出願であって、平成28年6月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年8月26日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成29年1月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年5月1日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

2.平成29年5月1日提出の手続補正書による補正について
平成29年5月1日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の(すなわち平成28年8月26日提出の手続補正書の)特許請求の範囲の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を本件補正後の請求項1とするとともに、本件補正前の請求項2を引用する請求項3及び4を各々本件補正後の請求項1を引用する請求項2及び3とするものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。

3.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成29年5月1日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「容器体の口頸部(N)内への挿入用のシリンダ周壁(4)の上部外面から外向きフランジ(6)を突出するとともに、シリンダ周壁(4)の下端から内方突出する内向きフランジ状壁部(8)の上面内周に第1逆止弁(V1)形成用の第1弁座(10)を設けたシリンダ(2)と、
基台部(22)の外縁部から、上記内向きフランジ状壁部(8)の上面外周部に当接する脚筒部(24)を垂下するとともに、この脚筒部(24)の内部に弾性支持片(30)を介して支承させた第1弁部(32)により、上記第1弁座(10)の上面を開閉可能にシールした弁部材(20)と、
弁部材(20)より上方のシリンダ周壁分内に昇降自在な可動頂壁(44)と、可動頂壁(44)の中央部から起立するジョイント用突起(52)とからなり、上記可動頂壁(44)は下限位置で上記基台部(22)の上に載置可能であるとともに、可動頂壁(44)の外周部に第2逆止弁(V2)形成用の第2弁座(46)を周設したピストンガイド(42)と、
シリンダ周壁(4)内に摺接する外筒部(60a)及び内筒部(60b)を含み、内筒部(60b)の下部で形成する第2弁部(62)により上記第2弁座(46)を開閉自在にシールした環状ピストン(60)と、
筒壁下部を大径筒部(66a)に、かつ残りの筒壁部分を小径筒部(66b)にそれぞれ形成するとともに、その大径筒部(66a)を上記内筒部(60b)に対して摺動可能に嵌合させ、かつ小径筒部(66b)の下部を上記ジョイント用突起(52)に嵌合させたステム(66)と、
小径筒部(66b)の上部に取り付けた、ノズル(75)付きの押下げヘッド(74)と、
を具備し、
上記ジョイント用突起(52)の外面に上記小径筒部(66b)の下部との嵌合箇所の上下方向全体に亘って断面が縦長に設けた係合凹部(56)を、前記小径筒部(66b)の下部内面に係合凸部(68)をそれぞれ形成して、係合凹部(56)と係合凸部(68)とがかみ合うように設けられており、
ピストンガイド(42)と環状ピストン(60)とステム(66)と押下げヘッド(74)とでシリンダ(2)に対して昇降する作動部材(40)を構成するとともに、そのピストンガイド(42)と弁部材(20)との間にポンプ室(P)を設け、
かつ上記ジョイント用突起(52)の適所に第2逆止弁(V2)からステム(66)内部へ至る通液路(54)を設けて、
シリンダ(2)を容器体(B)の口頸部へ装着させた状態で、上記作動部材(40)の上昇により第2逆止弁(V2)が閉じるとともに第1逆止弁(V1)が開いて、容器体内の液体が第1逆止弁(V1)を通ってポンプ室(P)へ流入し、かつ作動部材(40)の下降により、第1逆止弁(V1)が閉じるとともに第2逆止弁(V2)が開いて、ポンプ室(P)内の液体が第2逆止弁(V2)と通液路(54)とを通ってノズル(75)から吐出されるように構成しており、
上記係合凹部(56)は、ジョイント用突起(52)の外面に断面縦長矩形に形成されており、
また上記小径筒部(66b)の対応箇所に係合凹部(56)の上下両側の隅部とかみ合うエッジ(70、70)を有する係合凸部(68)が形成されていることを特徴とする、液体吐出器。」

4.引用文献

(1) 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献である国際公開第2011/093027号(以下、「引用文献」という。)には、「ポンプ」に関し、図面とともに次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。

ア.「図1は容器体100に装着したポンプ1の一例を示す。容器体100は胴部101より肩部102を介して口頸部103を起立している。
ポンプ1は、装着キャップAと、シリンダBと、吸込み弁部材Cと、作動部材Dとを備えている。
装着キャップAは、口頸部103外周に螺着した螺筒10を頂板11の外周下面より垂設し、頂板11の上面より案内筒12を起立している。案内筒12の内面には一対の案内凹溝13を縦設している。
シリンダBは上下端を開口した筒状をなし、外周上端より外方へ延設したフランジ20を、頂板11裏面に嵌合させて装着キャップAに固定している。また、シリンダBの上端部にはコイルスプリングsの下端部を係止する係止部材B1を嵌着している。更に、下端部の開口は筒状の吸込み弁座21で囲成された吸込み弁孔22として構成している。また、下面からは吸込み弁孔22と連通するパイプ嵌合筒23を延設している。そして、容器体100内に挿入垂下させるとともに、パッキン24を介して口頸部103上にフランジ20を載置し、口頸部103と装着キャップ頂板11とで挟持固定している。また、パイプ嵌合筒23にはパイプ25の上端を嵌着し、パイプ25の下端は容器体100内底部に垂下している。さらに、シリンダの周壁には、負圧解除孔26が穿設されている。
吸込み弁部材Cは、シリンダBの下部内面に嵌着固定した嵌合筒部30を備え、嵌合筒部30の内周には周方向複数の弾性片31を介して圧接弁体32を延設し、圧接弁体32をシリンダBの下端の吸込み弁座21上に圧設して吸込み弁33を構成している。この吸込み弁33はシリンダB内の負圧化により開弁し、負圧化が解消すると各弾性片31の弾性復元力によりもとの閉弁状態に戻る如く作用する。また、嵌合筒部30の両側から起立した一対の支持板34の上端間に支持台板35を掛け渡している。上記支持台板35は、ステムの下降限位置を規定するように構成してもよい。
作動部材Dは、ステムD1と、連結筒部材D2と、装着筒部材D3と、環状ピストンD4と、押下ヘッドD5とを備えている。
ステムD1は、係止部材B1に下端部を係止させたコイルスプリングsにより上方へ付勢された上端開口の有底筒状をなし、外周下部から径方向外方に環状の吐出弁座40を突設し、吐出弁座40直上の筒壁部分には複数の吐出弁孔41を穿設している。また、ステムD1の上部には連結筒部材D2を介して装着筒部材D3を連結している。連結筒部材D2は下部をステムD1の上部に嵌着させ、嵌着部分の下端部は大径のシール筒部50に形成してステムD1との間に環状ピストンD4の一部を嵌合させる環状空間を形成している。連結筒部材D2の外周上端部にはコイルスプリングsの上部を係止する係止部材51を嵌着している。
装着筒部材D3は、連結筒部材D2の内周上部に嵌合させた装着筒60を頂板部61裏面より垂設するとともに、頂板部61中央には装着筒60内と連通する摺動筒62を立設している。更に、頂板部61周縁部にはその上下に亘り案内筒部63を周設している。
環状ピストンD4は、外周筒状部70と内周筒状部71とを連結部72で連結した断面H形状をなし、外周筒状部70の上下端縁をシリンダB内周に液密摺動可能に嵌合させ、内周筒状部71の上端縁を連結筒部材D2のシール筒部50内周に液密摺動可能に嵌合させている。また、内周筒状部71の下端を吐出弁座40に密接した状態から連結部72上面がシール筒部50の下端面に当接するまでの間を、ステムD1に対して相対上下動が可能に構成し、吐出弁座40とで吐出弁73を形成している。」(段落[0016]ないし[0024])

イ.「押下ヘッドD5は、ステムD1に装着筒部材D3を介して押下げ可能に連結したもので、摺動筒62外周に摺動下降可能に嵌合させたシリンダ部80の上方に、先端に吐出口81を開口した弁室Rを備え、装着筒部材D3に対して押し下げ可能に設けている。
また、弁室R内には開閉弁部材D6を吐出口81側へ付勢状態で装着している。開閉弁部材D6は、弁室R内周に外周(逆スカート状部)を摺動可能に嵌合させるとともに、前方付勢状態で吐出口81を閉塞している。また、弁室R内とシリンダ部80内とは連絡口により連通させ、これにより、シリンダ部80内から連絡口を介して吐出口81に至る液流路を画成している。前方付勢手段としては、弁室Rの後壁前面と、開閉弁部材D6の逆スカート状部の分岐部分とに第2コイルスプリングs1を介在させて行っている。更に、開閉弁部材D6の後端部を弁室Rの後壁の窓孔より突設し、突出部分に梃部材係合用の環状凹部を凹設している。」(段落[0026]及び[0027])

ウ.「上記の如く構成したポンプ1は、図1の状態から押下ヘッドD5を押し下げると、最初ステムD1は下がらず、装着筒部材D3に対して押下ヘッドD5が下降する。この際、梃部材D7の下端部が装着筒部材D3の頂板部61上面に押し上げられて枢着軸を中心に回動し、その上端部が後方へ回動して開閉弁部材D6を第2コイルスプリングs1の弾発力に抗して後方へ移行させ、吐出口81が開く。
次いでステムD1が下降し、該ステムD1の下降により環状ピストンD4がステムD1に対して相対上昇して吐出弁73が開き、シリンダB内の加圧液が吐出弁孔41を介してステムD1内を通り、摺動筒62内に導入され、次いでシリンダ部80内、弁室R内を通り、吐出口81より吐出される。
次に押下ヘッドD5の押圧を解除すると、最初ステムD1の上方付勢力により押下ヘッドD5が上昇する。この際、例えば押下ヘッドD5上面を押圧した手が離れないうちにステムD1の上昇が行われ、吐出口81は開いたままの状態で行われる。同時に環状ピストンD4がステムD1に対して相対的に下降して吐出弁73が閉じる。この際、環状ピストンD4のストローク幅を大きくしているため、環状ピストンD4が閉じるまでの間にステムD1内及び弁室R内は、バックサクション機能を発揮するのに充分な負圧状態となり、良好なバックサクション機能を発揮する。次いで、手を離す余地ができ、第2コイルスプリングs1の弾発力により開閉弁部材D6が前方へ移行して吐出口81を閉塞し、それに伴い梃部材D7により押下ヘッドD5を装着筒部材D3に対して上方へ押し上げ、装着筒部材D3と押下ヘッドD5との関係が元の状態に戻る。
作動部材Dの上昇に伴いシリンダB内は負圧化し、それに伴って吸込み弁33が開いてパイプ25を介して容器体100内の液がシリンダB内に導入される。」(段落[0033]ないし[0036])

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること
ア.上記(1)ア.及び図1の記載から、シリンダBは、容器体100の口頸部103内への挿入用のシリンダ周壁の上部外面からフランジ20を突出するとともに、シリンダ周壁の下端からパイプ嵌合筒23に向けて内方突出する内向きフランジ状壁部の上面内周に吸込み弁33形成用の吸込み弁座21を設けていることが明らかである。

イ.上記(1)ア.及び図1の記載から、吸込み弁部材Cは、支持台板35の外縁部から、内向きフランジ状壁部の上面外周部に当接する嵌合筒部30を垂下するとともに、この嵌合筒部30の内部に弾性片31を介して支承させた圧接弁体32により、吸込み弁座21の上面を開閉可能にシールしていることが明らかである。

ウ.上記(1)ア.及び図1の記載から、ステムD1は、吸込み弁部材Cより上方のシリンダ周壁内に昇降自在な吐出弁座40と、可動頂壁の中央部から起立する筒壁部分とからなり、吐出弁座40は下限位置で支持台板35の上に載置可能であるとともに、吐出弁座40の外周部に吐出弁73形成用の弁座を周設していることが明らかである。

エ.上記(1)ア.及び図1の記載から、環状ピストンD4は、シリンダ周壁内に摺接する外周筒状部70及び内周筒状部71を含み、内周筒状部71の下部に形成する弁体により吐出弁座40の上記弁座を開閉自在にシールしていることが明らかである。

オ.上記(1)ア.及び図1の記載から、連結筒部材D2は、筒壁下部をシール筒部50に、かつ残りの筒壁部分を小径筒部にそれぞれ形成するとともに、そのシール筒部50を内周筒状部71に対して摺動可能に嵌合させ、かつ小径筒部の下部をステムD1の筒壁部分に嵌合させていることが明らかである。

カ.上記(1)イ.及び図1の記載から、吐出口81付きの押下げヘッドD5及び装着筒部材D3は、小径筒部の上部に取り付けられていることが明らかである。

キ.図1、図3及び図4の記載から、上記筒壁部分の外面に小径筒部の下部との嵌合箇所に断面が縦長に設けた係合凹部を、小径筒部の下部内面に係合凸部をそれぞれ形成して、係合凹部と係合凸部とがかみ合うように設けていることが明らかである。

ク.図1、図3及び図4の記載から、筒壁部分の適所に吐出弁73から連結筒部材D2内部へ至る吐出弁孔41を設けられていることが明らかである。

ケ.上記(1)ウ.及び図1の記載から、シリンダBを容器体100の口頸部103へ装着させた状態で、作動部材Dの上昇により吐出弁73が閉じるとともに吸込み弁33が開いて、容器体100内の液体が吸込み弁33を通ってシリンダB内室へ流入し、かつ作動部材Dの下降により、吸込み弁33が閉じるとともに吐出弁73が開いて、シリンダB内室内の液体が吐出弁73と吐出弁孔41とを通って吐出口81から吐出されることが明らかである。

(3)引用発明
上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

<引用発明>
「容器体100の口頸部103内への挿入用のシリンダ周壁の上部外面からフランジ20を突出するとともに、シリンダ周壁の下端から内方突出する内向きフランジ状壁部の上面内周に吸込み弁33形成用の吸込み弁座21を設けたシリンダBと、
支持台板35の外縁部から、上記内向きフランジ状壁部の上面外周部に当接する嵌合筒部30を垂下するとともに、この嵌合筒部30の内部に弾性片31を介して支承させた圧接弁体32により、上記吸込み弁座21の上面を開閉可能にシールした吸込み弁部材Cと、
吸込み弁部材Cより上方のシリンダ周壁内に昇降自在な吐出弁座40と、吐出弁座40の中央部から起立する筒壁部分とからなり、上記吐出弁座40は下限位置で上記支持台板35の上に載置可能であるとともに、吐出弁座40の外周部に吐出弁73形成用の弁座を周設したステムD1と、
シリンダ周壁内に摺接する外周筒状部70及び内周筒状部71を含み、内周筒状部71の下部に形成する弁体により上記弁座を開閉自在にシールした環状ピストンD4と、
筒壁下部をシール筒部50に、かつ残りの筒壁部分を小径筒部にそれぞれ形成するとともに、そのシール筒部50を上記内周筒状部71に対して摺動可能に嵌合させ、かつ小径筒部の下部を上記筒壁部分に嵌合させた連結筒部材D2と、
小径筒部の上部に取り付けた、吐出口81付きの押下げヘッドD5及び装着筒部材D3と、
を具備し、
上記筒壁部分の外面に上記小径筒部の下部との嵌合箇所に断面が縦長に設けた係合凹部を、前記小径筒部の下部内面に係合凸部をそれぞれ形成して、係合凹部と係合凸部とがかみ合うように設けられており、
ステムD1と環状ピストンD4と連結筒部材D2と押下げヘッドD5及び装着筒部材D3とでシリンダBに対して昇降する作動部材Dを構成するとともに、そのステムD1と吸込み弁部材Cとの間にシリンダB内室を設け、
かつ上記筒壁部分の適所に吐出弁73から連結筒部材D2内部へ至る吐出弁孔41を設けて、
シリンダBを容器体100の口頸部103へ装着させた状態で、上記作動部材Dの上昇により吐出弁73が閉じるとともに吸込み弁33が開いて、容器体100内の液体が吸込み弁33を通ってシリンダB内室へ流入し、かつ作動部材Dの下降により、吸込み弁33が閉じるとともに吐出弁73が開いて、シリンダB内室内の液体が吐出弁73と吐出弁孔41とを通って吐出口81から吐出されるように構成している、ポンプ。」

5.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造、機能又は技術的意義からみて、引用発明における「容器体」は本願発明における「容器体100」に相当し、以下同様に、「口頸部103」は「口頸部(N)」に、「フランジ20」は「外向きフランジ(6)」に、「吸込み弁33」は「第1逆止弁(V1)」に、「吸込み弁座21」は「第1弁座(10)」に、「シリンダB」は「シリンダ(2)」に、「支持台板35」は「基台部(22)」に、「嵌合筒部30」は「脚筒部(24)」に、「弾性片31」は「弾性支持片(30)」に、「圧接弁体32」は「第1弁部(32)」に、「吸込み弁部材C」は「弁部材20」に、「吐出弁73」は「第2逆止弁(V2)」に、ステムD1の「弁座」は「第2弁座(46)」に、「吐出弁座40」は「可動頂壁(44)」に、「周壁部分」は「ジョイント用突起(52)」に、「ステムD1」は「ピストンガイド(42)」に、「外周筒状部70」は「外筒部(60a)」に、「内周筒状部71」は「内筒部(60b)」に、環状ピストンD4の「弁体」は「第2弁部(62)」に、「環状ピストンD4」は「環状ピストン(60)」に、「シール筒部50」は「大径筒部(66a)」に、「連結筒部材D2」は「ステム(66)」に、「吐出口81」は「ノズル(75)」に、「押し下げヘッドD5」及び「装着筒部材D3」は「押し下げヘッド(74)」に、「シリンダB内室」は「ポンプ室(P)」に、「吐出弁孔41」は「通液路(54)」に、「作動部材D」は「作動部材(40)」に、「ポンプ」は「液体吐出器」にそれぞれ相当する。

以上から、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と引用発明とは、
「容器体の口頸部内への挿入用のシリンダ周壁の上部外面から外向きフランジを突出するとともに、シリンダ周壁の下端から内方突出する内向きフランジ状壁部の上面内周に第1逆止弁形成用の第1弁座を設けたシリンダと、
基台部の外縁部から、上記内向きフランジ状壁部の上面外周部に当接する脚筒部を垂下するとともに、この脚筒部の内部に弾性支持片を介して支承させた第1弁部により、上記第1弁座の上面を開閉可能にシールした弁部材と、
弁部材より上方のシリンダ周壁分内に昇降自在な可動頂壁と、可動頂壁の中央部から起立するジョイント用突起とからなり、上記可動頂壁は下限位置で上記基台部の上に載置可能であるとともに、可動頂壁の外周部に第2逆止弁形成用の第2弁座を周設したピストンガイドと、
シリンダ周壁内に摺接する外筒部及び内筒部を含み、内筒部の下部で形成する第2弁部により上記第2弁座を開閉自在にシールした環状ピストンと、
筒壁下部を大径筒部に、かつ残りの筒壁部分を小径筒部にそれぞれ形成するとともに、その大径筒部を上記内筒部に対して摺動可能に嵌合させ、かつ小径筒部の下部を上記ジョイント用突起に嵌合させたステムと、
小径筒部の上部に取り付けた、ノズル付きの押下げヘッドと、
を具備し、
上記ジョイント用突起の外面に上記小径筒部の下部との嵌合箇所に断面が縦長に設けた係合凹部を、前記小径筒部の下部内面に係合凸部をそれぞれ形成して、係合凹部と係合凸部とがかみ合うように設けられており、
ピストンガイドと環状ピストンとステムと押下げヘッドとでシリンダに対して昇降する作動部材を構成するとともに、そのピストンガイドと弁部材との間にポンプ室を設け、
かつ上記ジョイント用突起の適所に第2逆止弁からステム内部へ至る通液路を設けて、
シリンダを容器体の口頸部へ装着させた状態で、上記作動部材の上昇により第2逆止弁が閉じるとともに第1逆止弁が開いて、容器体内の液体が第1逆止弁を通ってポンプ室へ流入し、かつ作動部材の下降により、第1逆止弁が閉じるとともに第2逆止弁が開いて、ポンプ室内の液体が第2逆止弁と通液路とを通ってノズルから吐出されるように構成した、液体吐出器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明においては、係合凹部(56)を、ジョイント用突起(52)の外面に小径筒部(66b)の下部との嵌合箇所の「上下方向全体に亘って」設けたのに対し、
引用発明においては、係合凹部を、ジョイント用突起の外面に小径筒部の下部との嵌合箇所の上下方向全体に亘って設けていない点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本願発明においては、「係合凹部(56)は、ジョイント用突起(52)の外面に断面縦長矩形に形成されており、また小径筒部(66b)の対応箇所に係合凹部(56)の上下両側の隅部とかみ合うエッジ(70、70)を有する係合凸部(68)が形成されている」のに対し、
引用発明においては、係合凹部は、ジョイント用突起の外面に断面縦長矩形に形成されているか否か、また小径筒部の対応箇所に係合凹部の上下両側の隅部とかみ合うエッジを有する係合凸部が形成されているか否か明らかでない点。(以下、「相違点2」という。)

各相違点について検討する。

<相違点1> について
まず、本願発明において、「上記ジョイント用突起(52)の外面に上記小径筒部(66b)の下部との嵌合箇所の上下方向全体に亘って断面が縦長に設けた係合凹部(56)を、前記小径筒部(66b)の下部内面に係合凸部(68)をそれぞれ形成して、係合凹部(56)と係合凸部(68)とがかみ合うように設けられて」いることの技術的意義について検討する。
ここで、「上下方向全体に亘って」との文言は、平成28年8月26日の手続補正により請求項1に加えられたものであるところ、出願当初明細書の段落【0025】には、「係合凹部56の縦断面形状は縦長の矩形である。」との記載があるものの、「嵌合箇所の上下方向全体に亘って」の文言の記載はなく、請求人は平成28年8月26日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)において、「どの程度に“縦長”であり、或いは“巾広”であるかというと、小径筒部との嵌合箇所の下端部から上端側へ亘って形成されていることが図1に記載されています」と述べているように、図面の記載を補正の根拠としたものである。
そして、係合凹部56を嵌合箇所の上下方向全体に亘って形成することによる効果についても、当初明細書には、一切記載がなく、請求人は、意見書において、かかる構成の効果として、「それだからこそ、係合凸部とのかみ合いにより、上下のかみ合い箇所との間に距離をとることができ、係合凸部と係合凹部とをしっかりと連結させることができるのです。」と述べるとともに、審判請求書において、「そしてまた前記係合凹部56を小径筒部66bとの嵌合箇所の上下方向の略全体に亘って形成されており、前記かみ合いの作用を一層向上させています。こうすることにより、係合凹部56の隅部と係合凸部68のエッジとの上下のかみ合い箇所の間に距離をとることができ、それにより係合凸部68が係合凹部56から外れるほどの変形が起こりにくくしているのです。」と述べている。
技術常識を参酌すると、係合凸部と係合凹部の係合の強度は、両者の係合の深さ、両者の接触面における摩擦力の大きさ並びにジョイント用突起及び小径筒部の材質の強度などに関連すると考えられるところ、そもそも本願発明において、嵌合箇所の距離は不明であるが、係合凹部56を嵌合箇所の上下方向全体に亘って形成して、上下のかみ合い箇所の間に距離をとることにより、なぜ、係合凸部68と係合凹部56とをしっかりと連結させ、係合凸部68が係合凹部56から外れるほどの変形が起こりにくくすることができるのか、技術常識を参酌しても不明であり、本願明細書、意見書及び審判請求書には、かかる事項について何ら具体的な説明はない。
そして、引用発明における係合凹部は、引用文献の図1、図3及び図4を参照すると、断面が縦長に設けたものであるものの、周壁部分の外面と小径筒部の下部との嵌合箇所の上下方向全体に亘って形成されるものではないが、上下方向に力がかかったときに、係合部が外れるほどの変形が生じない程度の強度を持たせるように、周壁部分および小径筒部の材質を踏まえて係合凹部及び係合凸部の上下方向の長さや深さを設計することは、当業者が当然考慮すべき事項であって、その際、周壁部分および小径筒部の嵌合箇所の長さとの関係で、係合凹部を当該嵌合箇所の上下方向全体に亘って形成することも、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎず、格別の効果は認められない。
なお、特開2012-106784号公報には、本願発明及び引用発明と同様の液体吐出器において、図7及び図8に示されるものは、係合凹部と係合凸部の係合の上下方向の長さが、図1ないし図3並びに図5及び図6に示されるものよりも長くされているものが開示されているように、係合凹部と係合凸部の係合の上下方向の長さは、当業者が適宜設定し得るものといえる。

<相違点2>について
引用文献には、係合凹部が、周壁部分の外面に断面縦長矩形に形成され、小径筒部の対応箇所に係合凹部の上下両側の隅部とかみ合うエッジを有する係合凸部が形成されている旨明記はないが、図1、図3及び図4を参照すると、係合凹部が、周壁部分の外面に断面縦長矩形に形成され、小径筒部の対応箇所に係合凹部の上下両側の隅部とかみ合うエッジを有する係合凸部が形成されていることが看取でき、したがって、この点は実質的な相違点ではない。
請求人は、審判請求書において、「B)引用文献では、両部材の関係について、“ステム相当部分の下部をピストンガイド相当部分の上部に嵌着させている”としか記載しておらず、その技術内容は図面を参酌して判断するよりありません。
(C)そして引用文献の図1及び図3を見ると、係合凹部に相当する部分の形状は一応縦に長いものと思われますが、係合凹部相当部分の隅部に係合凸部相当部分のエッジがフィットしているかどうかという点は不明です。この部分の構成は引用文献の発明の目的からは些細なことであり、どの程度の意識を持って図面を作図しているのかが分からないからです。」と述べている。
仮に、引用文献の図1、図3及び図4には、小径筒部の対応箇所に係合凹部の上下両側の隅部とかみ合うエッジを有する係合凸部が形成されていることが記載されているものとはいえないとしても、引用発明は、係合凹部と係合凸部を介して、周壁部分と小径筒部との間で上下方向の力を伝達するものであるから、かかる力を効率よく伝達するために係合凹部と係合凸部の接触面積を最大限大きくすべく小径筒部の対応箇所に係合凹部の上下両側の隅部とかみ合うエッジを有する係合凸部を形成することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎない。
なお、請求人は、引用発明の認定において、「どの程度の意識を持って図面を作図しているのかが分からない」としている一方で、上記「<相違点1> について」において記載したように、本願発明の「嵌合箇所の上下方向全体に亘って」に関して、どの程度の意識を持って図面を作図しているのか客観的な判断材料が存在しないところで、図面の記載のみを補正の根拠としており、請求人の図面の記載に対する態度は、本願発明と引用発明の間で齟齬があるものといえる。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.結語
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-22 
結審通知日 2018-01-25 
審決日 2018-02-07 
出願番号 特願2013-75078(P2013-75078)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (B05B)
P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤澤 高之  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 佐々木 芳枝
金澤 俊郎
発明の名称 液体吐出器  
代理人 今岡 憲  

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