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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1338860
審判番号 不服2015-18422  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-09 
確定日 2018-03-28 
事件の表示 特願2013-513676「新規なプロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月15日国際公開、WO2011/154444、平成25年 7月 8日国内公表、特表2013-528196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成23年6月8日(パリ条約に基づく優先権主張 平成22年6月10日,グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)にされたとみなされる特許出願であって,平成27年6月1日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年10月9日に拒絶査定不服審判が請求され,平成29年3月17日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知され,同年9月1日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正されたものである。

2 本件拒絶理由
本件拒絶理由は,要するに,この出願は特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしていないという理由を含むものである。

3 特許を受けようとする発明(特許請求の範囲の記載)について
特許を受けようとする発明は,平成29年9月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち,請求項1の記載は,次のとおりである。(以下,請求項1の記載に係る発明を「本願発明1」という。)
「以下のステップ:
(a)サブミクロンの水中油型エマルションの調製,
(b)水中油型エマルションのろ過,
(c)ステップ(b)に従ってろ過した水中油型エマルションの,無菌グレードのフィルターによるろ過,
(d)ステップ(c)に従ってろ過した水中油型エマルションの,ステップ(b)又はステップ(c)のフィルターと別のフィルターによるろ過,並びに,
(e)ステップ(d)に従ってろ過した水中油型エマルションの,ステップ(b),(c),及び/又は(d)のフィルターと別の無菌グレードフィルターによるろ過,
を含む,サブミクロンの水中油型エマルションの生産のためのプロセスであって,
ステップ(c)及び(e)の無菌グレードのフィルターが0.2μm又は0.22μmの孔径を有し,フィルターの膜が親水性ポリエーテルスルホンを含み,ステップ(b)及び/又はステップ(d)において用いられるフィルターの孔径の範囲が,無菌グレードフィルターから0.6μmである,前記プロセス。」

4 本願が拒絶されるべき理由
(1) 本願明細書の記載
本願発明1について,本願の願書に添付された明細書(以下「本願明細書」という。)には次の記載がある(なお,下線は,審決による。)。
・「【0001】
本発明は,サブミクロンの水中油型エマルションの生産,特に,サブミクロンの水中油型エマルションのろ過のための改善されたプロセスに関する。」
・「【0006】
本発明の目的はサブミクロンの水中油型エマルションの生産,特に,水中油型エマルションのろ過のためのプロセスを提供することである。」
・「【0009】
水中油型エマルション,特にサブミクロンの水中油型エマルションは,免疫学的アジュバントとして用いることができる。インフルエンザ抗原等の抗原と併せて前記水中油型エマルションを含むワクチン組成物は,非経口的に投与されるので,水中油型エマルションが無菌であることが必要である。本発明者は,無菌のサブミクロンの水中油型エマルションを生産するには,エマルションを単一の無菌グレードのフィルターでろ過するだけでは不十分であることを示した。本発明者は,無菌の水中油型エマルションを製造するには,無菌グレードのフィルターによるろ過に先立って,水中油型エマルションを事前ろ過する事が必要であることを示した。」
・「【実施例】
【0031】
方法
乳化プロセス
水相はタンク2で,注射用水,リン酸緩衝生理食塩水及びTWEENを混合して調製した。油相はタンク1で,トコフェロール及びスクアレンを混合して調製した。両相を均一になるまで攪拌した。全装置を,トコフェロールの酸化を防ぐために窒素を流して洗浄した。
【0032】
膜ポンプによって高圧ホモジナイザーに供給した。両相を必要な流速比で供給した。最初,両相を高せん断ホモジナイザーに通過させ,粗いエマルションを得た。その後,高せん断ホモジナイザーに続いて高圧ホモジナイザーに産物を入れ,微細なエマルションを得た。
【0033】
混合装置の出口から,産物をタンク3に回収した(最初の通過)。タンク2及び1が空になったら,タンク3からエマルションを混合装置の入り口に送り,2回目の通過を行った。2回目の通過が終わったら,産物はタンク2に回収した。タンク3が空になったら,タンク2からエマルションを混合装置の入り口に送り,3回目の通過を行った。エマルションはタンク3に回収し,窒素下でろ過まで保管した。」
・「【0034】
ろ過プロセス
ろ過は0.5/0.2μmの膜の組み合わせから成る2つの滅菌フィルターによって,最大圧力1barで,18℃?26℃の温度で,及び接触時間最大3時間で行う。ろ過プロセスの有効性を明らかにするために,フィルターの膜は,10^(7) CFU/膜cm^(2)の濃度でエマルションに懸濁したB. diminutaの接種を行う必要がある。幾つかの構成を試験して,最適な設定を見出した。
【0035】
最初の構成では,産物にB. diminuta細菌を10^(7) CFU/膜cm^(2)の濃度で接種し,二つの0.5/0.2μmのフィルターで,最大圧力1bar,及び18℃?26℃の温度でろ過した。菌を接種した産物とフィルターの接触時間は最大3時間であった。
【0036】
あるいは,産物は最初に0.5μmの平らな膜で事前ろ過した。その後,産物にB. diminuta細菌を10^(7) CFU/膜cm^(2)の濃度で接種し,0.2又は0.5/0.2又は0.2/0.2μmの平らな膜で,最大圧力1barで,及び18℃?26℃の温度でろ過した。菌を接種した産物とフィルターの接触時間は最大1.5時間であった。
【0037】
最後に,産物は0.5μm及び0.2μmのフィルターを含むカプセルで最初に事前ろ過した。その後,産物はB. diminuta細菌を10^(7) CFU/膜cm^(2)の濃度で接種し,0.2μm(審決注:【表1】などの記載から,「0.5/0.2μm」の誤記と解する。)のカプセルで,最大圧力1barで,及び18℃?26℃の温度でろ過した。菌を接種した産物とフィルターの接触時間は最大3時間であった。
【0038】
全ての場合において,フィルターは最後の膜滅菌の後に回収し,全容量を0.45μm回収フィルターでろ過し,B. diminutaの存在を確認した。0.45μmフィルターをTSAプレート上に配置し,7日間30℃でインキュベートした。その後プレートは2日,3日,4日及び7日目に視覚的に観察した。コロニーが認められた場合,カウントし,確認した。」
・「【0039】
結果
事前ろ過が行われない場合,又は0.5μmの事前ろ過が行われた場合,目詰まり前にフィルターを通過する容量は,10^(7) CFU/cm^(2)のBCT必要量を満たすのに必要な目標保持容量19.14ml/cm^(2)に達するのに必要な最小保持容量よりも少なかった。0.5/0.2μmの膜を含むカプセルが事前ろ過のフィルターとして用いられた場合には,保持容量は19.4ml/cm^(2)(審決注:同様に「19.14ml/cm^(2)」の誤記と解する。)まで上昇し,いずれの通過も全く観察されなかった。
【表1】


・「【0040】
結論
これらの結果によって明らかとなったのは,エマルションにおいては,少なくとも0.2μmのフィルターを含む事前ろ過の実施が滅菌フィルターのキャパシティーを改善する事,及び前記実施が無菌溶出液を得たことを示すための必要条件である事である。…」

(2) 本願がサポート要件を満たさない具体的理由について
ア 本願発明1の解決課題は,本願明細書(特に【0009】,【0039】,【0040】及び【表1】)の記載からみて,「滅菌フィルターのキャパシティーを改善」しつつ「無菌のサブミクロンの水中油型エマルションを生産する」方法を提供することにあるものと認められ,また,その解決手段として,本願明細書は,エマルションを単一の無菌グレードのフィルターでろ過するだけでは不十分であるとの知見のもと,無菌グレードのフィルターによるろ過に先立って水中油型エマルションを事前ろ過する事が必要であると記載する。
しかし,以下述べるように,本願明細書には,請求項1に記載の方法であれば上記課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体的な説明が記載されていないため,本願発明1の範囲まで本願明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ まず,本願明細書の実施例の記載,特に条件1及び2によるろ過プロセスと条件6?8によるろ過プロセスとを対比するに,条件6?8は,【0037】及び【表1】の記載によれば,0.5/0.2μmの膜の組み合わせからなる二つのフィルターでろ過するものであり,このような二つのフィルターでろ過する工程は,本願発明1のステップ(b)?(e)に相当する(具体的には,最初のフィルターの0.5μmの膜によるろ過がステップ(b)に,最初のフィルターの0.2μmの膜によるろ過がステップ(c)に,2番目のフィルターの0.5μmの膜によるろ過がステップ(d)に,2番目のフィルターの0.2μmの膜によるろ過がステップ(e)にそれぞれ相当する)。また,本願明細書には,このような条件によるろ過によって,BCTは「可」との評価結果が得られるとの記載がある。
他方,条件1及び2は,【0035】及び【表1】の記載によれば,条件6?8と同様に,0.5/0.2μmの膜の組み合わせからなる二つのフィルターでろ過するもの,すなわち,本願発明1の条件を満たすものであるにもかかわらず,BCTは「不可」との評価結果が得られている。条件1及び2の場合,本願発明1は上記課題を解決するものとはなっていない。
ウ ところで,0.5/0.2μmの膜の組み合わせからなる二つのフィルターのうちの最初のフィルターについて,条件6?8は「事前ろ過」と指呼し,他方で,条件1及び2についてはそのような記載はされていない点で両条件は異なるようにもみえる(例えば,【表1】参照)。しかし,本願発明1の発明特定事項からみたとき,条件1及び2に基づく構成と条件6?8に基づく構成との間に差異を認めることができない。
また,【0035】及び【0037】の記載から,B.diminuta細菌の接種の段階の違いにより,BCTの評価結果が異なるようにもみえる。しかし,本願発明1は細菌接種を発明特定事項とするものでも,無菌グレードのフィルターによるろ過に先立って水中油型エマルションを事前ろ過することを発明特定事項とするものでもないから,その意味においても,条件1及び2に基づく構成と条件6?8に基づく構成との間に差異を認めることはできない。
エ 以上のとおり,出願時の技術常識に照らしても,本願発明1の範囲まで明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから,本願発明1はいわゆるサポート要件を満足しないと判断される。

(3) 平成29年9月1日付け意見書における請求人の主張について
請求人は,条件6?8で使用するシステムは条件1及び2で使用したシステムと同等のものであり,条件6?8と条件1及び2との相違点はバクテリアを投入する時点であるところ,条件6?8ではバクテリア投入前にエマルションを濾過することでバクテリアチャレンジテスト(BCT)に合格できることを示しているのに対し,条件1及び2はバリデーションの試みが何故失敗するのかをエマルション及びバクテリア投入の両方の原因からより良く理解させるためのものに過ぎず,本願発明の貢献を損なわせるものではない旨主張する。
しかし,上記(2)で検討のとおり,本願明細書には,発明の課題を解決するにあたり,無菌グレードのフィルターによるろ過に先立って水中油型エマルションを事前ろ過することが必要な構成である旨の記載があり(特に【0009】),さらに,本願明細書は,「事前ろ過」と「BCTの合否」との関連性をみるため,例えば条件1?2及び条件6?8という,条件の異なる実施例を提示するものであることが理解される。
さすれば,請求人の上記主張は,上記「事前ろ過」が発明の課題解決とは無関係であることを前提とするものであるところ,そのような主張は,本願明細書の記載に反する独自の見解を述べているにすぎないものといわざるを得ず,その前提において採用できない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではないといわざるを得ず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから,いわゆるサポート要件を満たさない。

5 むすび
以上のとおり,本願は,請求項1について,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号で規定する要件を満たしていない。
そうすると,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-27 
結審通知日 2017-10-31 
審決日 2017-11-13 
出願番号 特願2013-513676(P2013-513676)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理杉江 渉  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
発明の名称 新規なプロセス  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  

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