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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1338882
審判番号 不服2016-16581  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-05 
確定日 2018-03-27 
事件の表示 特願2014-542498号「車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月30日国際公開、WO2013/078093、平成26年12月15日国内公表、特表2014-533626号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年11月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年11月22日米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成27年10月19日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年11月5日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年11月5日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について補正前後の記載を示すと以下のとおりである。

(1)補正前の請求項1

「車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムにおいて、
プロセッサと、
フィルタ処理された第1の出力と、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理された第2の出力とを有し、前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が車両安定性制御システムと通信する、慣性センサとを備え、
前記プロセッサは、慣性測定ユニット目的のために前記第1の出力を使用するように構成され、
前記プロセッサは、前記慣性センサの前記第2の出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するように構成され、
車両のバンパーに隣接して取り付けられて前記プロセッサと通信する少なくとも1つのサテライトセンサであって、車両衝撃情報を前記プロセッサへ出力する当該サテライトセンサを更に備え、
前記プロセッサは、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すとともに車両が衝突状態にあったことを前記少なくとも1つのサテライトセンサが示すときに車両安全システムを展開するように構成されたこと
を特徴とするシステム。」

(2)補正後の請求項1(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)

「車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムにおいて、
車両の安定した走行を制御する車両安定性制御システムと、
前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行うプロセッサと、
フィルタ処理された第1の出力と、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理された第2の出力とを有する慣性センサであって、前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が前記車両安定性制御システムと通信する、当該慣性センサとを備え、
前記プロセッサは、前記車両安定性制御システムによる制御のために前記第1の出力を使用するように構成され、
前記プロセッサは、前記慣性センサの前記第2の出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するように構成され、
車両のバンパーに隣接して取り付けられて前記プロセッサと通信する少なくとも1つのサテライトセンサであって、車両衝撃情報を前記プロセッサへ出力する当該サテライトセンサを更に備え、
前記プロセッサは、前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前記少なくとも1つのサテライトセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すときに車両安全システムを展開するように構成されたこと
を特徴とするシステム。」

(審決注:補正後の請求項1には、「車両安定制御システム」及び「車両安定性制御システム」との記載が存在するが、本願明細書の段落【0013】?【0014】等の記載からみて、前者の「車両安定制御システム」は後者の「車両安定性制御システム」の誤記と認められるので、上記のとおり認定した。)

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、特別な技術的特徴の変更の有無及び補正の目的の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明である「システム」について、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、単に「翻訳文等」という。)の段落【0013】?【0014】の記載を根拠に「車両の安定した走行を制御する車両安定性制御システム」との構成を追加して限定するものである。また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「プロセッサ」について、翻訳文等の段落【0013】,【0016】の記載を根拠に「前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行う」との構成に限定し、同じく、「プロセッサ」について、第1の出力を使用するのを「慣性測定ユニット目的のため」としていたものを、翻訳文等の段落【0013】?【0014】の記載を根拠に「前記車両安定性制御システムによる制御のため」と記載を明瞭化又は具体化して限定し、プロセッサが車両安全システムを展開するときについて「車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すとともに車両が衝突状態にあったことを前記少なくとも1つのサテライトセンサが示すときに」としていたものを、翻訳文等の段落【0020】?【0021】の記載及び図4を根拠に「前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前記少なくとも1つのサテライトセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すとき」と限定するものであって、新規事項を追加するものではない。また、本件補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではないことも明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものであり、また、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(2)独立特許要件(特許法第29条第2項)
ア 本件補正発明及び明細書の記載事項
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。
また、本願明細書における発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「A」?「E」の記載事項は、それぞれ「記載事項A」?「記載事項E」という。)。

A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムおよび方法に関する。」

B
「【背景技術】
【0002】
車両安全システムは、一般に、車両の搭乗者の負傷を防止するための様々な異なる安全システムを含む。周知の安全システムの一つとして、エアバッグ安全システムが挙げられる。本質的に、車両の搭乗者室は1つ以上のエアバッグシステムを収容する。これらのエアバッグシステムは、車両が衝突に関与するときに急速に膨張するように構成される。エアバッグシステムは、車両の搭乗者室内に位置される複数のエアバッグを含むように長年にわたって益々進歩してきた。例えば、旧来のエアバッグシステムは、車両のステアリングホイールに結合される単一のエアバッグのみを有していた。そのため、車両が正面衝突に関与するときには、自動車のステアリングホイールから膨張するエアバッグによってドライバーの前方への勢いある動きが減少される。
【0003】
後に、車両が正面衝突に関与するときにドライバー以外の搭乗者の勢いある動きを減衰させるためのエアバッグを含むように更に進歩したエアバッグシステムが開発された。また、より近代的なエアバッグシステムは、車両が側方から或いは後方から激突されるときに搭乗者の勢いある動きを減衰させるためのエアバッグを含む。
【0004】
車両が1つ以上のエアバッグを展開すべきであることを決定するために、車両は、一般に、車両の外部付近に位置される様々な衛星センサを含む。本質的に、これらのセンサのうちの1つが作動されると、衛星センサに接続されるマイクロプロセッサは、衝撃が生じたかどうか、また、その衝撃がどの程度激しいのかを決定する。衝撃が十分に激しい場合には、マイクロプロセッサがエアバッグを展開する。しかしながら、どんな誤検出をも回避するために、マイクロプロセッサは、通常、1つ以上の加速度計に接続される。加速度計も車両の衝突を示し且つ加速度計により与えられる加速度計データが衛星センサデータと一致する場合、マイクロプロセッサは、車両が確かに衝突に関与したことおよび適切な安全システムが展開されるべきであることを支障なく決定できる。
【0005】
しかしながら、加速度計からの情報は、極めて急速にマイクロプロセッサへ与えられなければならない。長い群遅延を有する加速度計は、一般に、車両安全システムを展開させることを決定する際に用いるには実用的でない。この問題を克服するため、現在の解決策は、異なる車両目的のために異なる加速度計を利用することである。例えば、長い群遅延を有する加速度計は、転倒検出および安定性制御など、他の車両安全システムのために利用することができる。
【発明の概要】
【0006】
車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムおよび方法は、プロセッサと慣性センサとを含む。慣性センサは、フィルタ処理される出力と、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力とを有する。フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力は、プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与える。慣性センサのフィルタ処理される出力は車両安定性制御システムと通信する。プロセッサは、慣性測定ユニット目的のために、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力をフィルタ処理するように構成されてもよい。プロセッサは、慣性センサのフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力を監視して、車両が衝突に関与したことを慣性情報が示すかどうかを決定するように更に構成される。車両が衝突に関与した場合、プロセッサは、車両安全システムを展開するように構成される。
【0007】
このようにすることにより、車両安全システムがプロセッサによって展開されるべきかどうかを決定するために、また、車両安定性制御システムへ情報を与えるために、単一の慣性センサを利用することができる。これにより、従来技術で必要とされるような複数の慣性センサの代わりに単一の慣性センサが必要とされるだけであるため、システムの開発に関連するコストが低減される。」

C
「【0012】
図2を参照すると、システム10の更に詳しい例示が示される。システム10は、その主要な構成要素として、プロセッサ20と慣性センサ22とを含む。慣性センサ22は、ドイツのゲルリンゲンのRobert Bosch社によって製造されるSMI540であってもよい。慣性センサ22は、フィルタ処理される出力24と、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26とを有する。フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26は、プロセッサ20の慣性測定ユニット診断ロジック28および衝突ロジック30と通信する。慣性センサ22のフィルタ処理される出力24は、プロセッサ20の慣性測定ユニットロジック31と通信する。
【0013】
プロセッサ20は車両安定性制御システム32とも通信する。車両安定性制御システム32は、車両12のパワートレイン36を制御するパワートレイン制御モジュール34と通信してもよい。これに加えて或いはこれに代えて、車両安定性制御システム32は、車両10の少なくとも1つのブレーキ40を制御するためのブレーキ制御ユニット38と通信してもよい。更に、車両安定性制御システム32は、プロセッサ20の慣性測定ユニットロジック31に組み込まれてもよい。
【0014】
車両安定性制御システム32は、プロセッサ20から、より具体的にはプロセッサ20の慣性測定ユニットロジック31から情報を受ける。既に述べたように、プロセッサ20の慣性測定ユニットロジック31は、慣性センサ22のフィルタ処理される出力24から情報を受ける。一般に、フィルタ処理される出力24へ与えられるデータにおける群遅延は約9ミリ秒である。この遅延は、車両安定性制御に関連する用途において許容できる。車両安定性制御システム32は、滑りを検出して最小限に抑えることによって車両12の安定性の安全を高める。車両安定性制御システム32が車両12のステアリング制御の損失を検出すると、車両安定性制御システム32は、オーバーステアまたはアンダーステアに対抗するために自動的にブレーキをかけるおよび/またはパワートレイン36を調整する。
【0015】
システム10は少なくとも1つの車両安全システム42も含む。車両安全システム42は、エアバッグなどの様々な異なる能動的または受動的な安全システムのうちのいずれか1つであってもよい。プロセッサ20の衝突ロジック30は、慣性センサ22のフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26からデータを受ける。慣性センサ22からのこのフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26は、フィルタ処理される出力24ほどフィルタ処理されないが、群遅延は、一般に、フィルタ処理される出力24よりもかなり短い。例えば、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26の群遅延はたった2ミリ秒以下であってもよい。また、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力における伝達関数は、直線位相を有するout=in・(z^(0)+4z^(-1)+8z^(-2)+10z^(-3)+8z^(-4)+4z^(-5)+z^(-6))であり、したがって、約2ミリ秒の一定の群遅延である。
【0016】
プロセッサ20の衝突ロジック30は、慣性センサ22のフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26から情報を受けて、車両が衝突状態にあったかどうかを決定する。車両12が衝突状態にあった場合、プロセッサ20の衝突ロジック30は、前述したようにエアバッグであってもよい車両安全システム42を展開する。」

D
「【0017】
システム10は、随意的に、1つ以上の衛星センサ44,46を含んでもよい。衛星センサ44,46は一般に自動車12の外部に位置される。例えば、図1を参照すると、衛星センサ44,46は、フロントバンパー16、リアバンパー18、または、任意のボディパネル14に或いはその近傍に位置されてもよい。衛星センサ44,46は、物理的衝撃が生じた場合には、プロセッサ20の衝突ロジック30へ通信する。その結果、衝突ロジック30は、慣性センサ22により与えられる情報をフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26を介して見ることにより、センサ44,46からの情報を検証できる。衝突が生じたことをセンサ44,46が示すとともに、慣性センサ22のフィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理される出力26から受けられる情報も衝突が生じたことを示す場合には、適した安全システム42が展開される。」

イ 引用文献の記載事項
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の優先日前に頒布された特表2008-535725号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
車両(1)内に配設する中央制御ユニット(6)及びセンサ構成(4A、4B、8、9、10、11、13)を備えて、該センサ構成の温度を可変にし、前記センサ構成には、信号(82、83)を生成するMEMS加速度計(81)及びMEMSジャイロメータ(80)を備える慣性測定ユニット(8)を備え、前記慣性測定ユニット(8)を、前記中央制御ユニット(6)に前記車両(1)の挙動に関するデジタル情報をデジタル信号プロセッサ(85)を用いて提供するよう配設して、前記車両(1)の少なくとも1つの電子システム(61、62、63、64、65)を作動及び/又は動作停止を可能にする車両用制御システムであって、前記デジタル・サンプリング・プロセッサ(85)を設け、該プロセッサには、前記センサ(80、81)及びデータ入力受信装置の各々に関連して、予め保存したデータ処理能力(850、851、852、853、854、855、856、857)を有して、該プロセッサを、前記デジタル情報を積分前に補償して、それにより前記中央制御ユニット(6)に補償した正確なデジタル情報を送信するよう、配設すること、を特徴とする車両用制御システム。」

(1b)「【請求項7】
前記IMUには、600Hz超、好適には1?1OkHzの範囲で動作する高速インタフェース(88)を備えること、を特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項8】
前記IMUには、通常動作経路(86)及び高速動作経路(88)を備えること、を特徴とする請求項7に記載の制御システム。
【請求項9】
前記制御システムを、衝突対応中、前記IMU(8)から中央ユニット(6)により少ない情報を送信するよう配設すること、を特徴とする何れかの前請求項に記載の制御システム。
【請求項10】
前記高速経路は、通常動作経路より少ない信号処理を使用すること、を特徴とする請求項8に記載の制御システム。
【請求項11】
前記電子システム(6)により、少なくとも1つのエアバッグ(7)の作動、好適にはエアバッグ組(7)の作動を制御して、少なくともある程度まで、前記慣性測定ユニット(8)からの前記デジタル情報を使用して、最適なエアバッグ組の作動を、状況に応じた作動シーケンスで制御すること、を特徴とする何れかの前請求項に記載の制御システム。」

(1c)「【請求項13】
前記電子システムは動的車両対応システム(63)に関し、前記慣性測定ユニット(8)からの入力データを使用して、車両の安全なハンドリングを達成すること、を特徴とする何れかの前請求項に記載の制御システム。」

(1d)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内に配設する中央制御ユニット及びセンサ構成を備えて、該センサ構成の温度を可変させる車両用制御システムに関し、該センサ構成には、信号を生成するMEMS加速度計及びMEMSジャイロメータを搭載する慣性測定ユニットを備え、該慣性測定ユニットを、上記中央制御ユニットに上記車両の挙動に関するデジタル情報を、デジタル信号プロセッサを用いて、提供して、上記車両の少なくとも1つの電子システムを作動及び/又は動作停止可能にするよう配設する。」

(1e)「【背景技術】
【0002】
慣性測定ユニット(IMU)を使用して、様々なシステムをより正確に制御できる可能性があること、がよく知られている。例えば、航空機内での高度なIMUの使用が知られており、即ち、ジャイロメータを組合せて使用し、効率的且つ正確なナビゲーションを行う等が挙げられる。しかしながら、こうしたユニット、特にジャイロメータは、高精度な機械部品及び他の高価な部品を必要とする。
【0003】
大分前から、電子工学分野での発展により、微小電気機械システム(MEMS)製のセンサ、例えばジャイロメータが製造可能になった。機械的部品製ジャイロメータに比べて、MEMS製ジャイロメータは、その費用は機械的ジャイロメータのほんの何分の一であるため、極めて安価である。このことは一般的に、他のMEMSセンサ、例えば加速度計についても、当てはまる。結果として、費用が手頃なために、更なるセンサ、例えばジャイロメータ等を様々なシステムに含む可能性が大幅に増加した。更にその上、MEMSセンサは、極めて狭い所要空間を有する。
【0004】
多くのシステムが、MEMSセンサ、例えば加速度計等を使用して、例えば国際公開第WO0109637号及び米国特許第6282496号では車両ナビゲーション(INS)を、又は、例えば米国特許第5504482号、米国特許第5805079号、欧州特許第709257号及び米国特許第5014810号では車両安全性を向上させたものとして既知である。
【0005】
更にその上、様々な用途が知られており、そうした用途でもMEMSジャイロメータの使用を示唆している。例えば、米国特許第6516238号、米国特許第6480152号及び米国特許第5504482号から、例えばMEMSジャイロメータ・センサを含むMEMS製IMUを使用して、車両のより安全なハンドリング及びナビゲーションを支援することを示唆するシステムが既知である。しかしながら、これら後者のシステムは、地磁気センサの使用に基づいて制御ユニットを較正するため、係るシステムは複雑で比較的高価になってしまう。
【0006】
その上、MEMSジャイロメータ等のこれら既知のシステムに関する一般的な問題点は、精度が比較的低い点である。例えば、ドリフトが6度/秒にまでなる市販のジャイロさえある。こうした低精度が、MEMSジャイロメータを含む制御システムの実用化に関して厳しい限界の原因となることは、明白である。
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題/短所を解消する、又は少なくとも最小限にすることであり、これを、車両用制御システムによって達成するが、該システムには、車両内に配設する中央制御ユニット及びセンサ構成を備えて、該センサ構成の温度を可変にし、上記センサ構成には慣性測定ユニットを備え、該ユニットには信号を生成するMEMS加速度計及びMEMSジャイロメータを搭載し、上記慣性測定ユニットを、上記中央制御ユニットに上記車両の挙動に関するデジタル情報を、デジタル信号プロセッサを用いて、提供して、上記車両の少なくとも1つの電子システムを作動及び/又は動作停止可能にするよう配設し、上記デジタルサンプリングプロセッサを設け、該プロセッサには、上記センサ及びデータ入力受信装置の夫々に関して予め保存したデータを有し、上記プロセッサを、上記デジタル情報を積分前に補償して、それにより補償した正確なデジタル情報を上記中央制御ユニットに送信するよう、配設する。
【0008】
本発明により、MEMSセンサ、特にジャイロメータが本来有する誤差を、効率的に補償でき、従って極めて少ない所要スペースを有する極めて費用効果が良く高精度なセンサを獲得できる可能性がある。結果として、かかるMEMSセンサ、特にジャイロメータを、車両用制御システムで使用する場合に、驚くべき相乗効果を達成する可能性がある、というのは、それにより容易に高精度のIMUを高費用効率で製造でき、少ない所要スペースで済むため、該センサを多くの異なる種類の可動物体に設置して、ナビゲーション、安全等、多様な分野で機能性を向上させる可能性があるためである。特に、かかるMEMSユニットを包含することで、車両内の乗員に対する内部安全を向上するために、相当な相乗成果を得る可能性を提供することが証明された。ここでは、用語「乗員」を使用するが、これにはドライバも含む。」

(1f)「【0010】
図1では、本発明による好適な実施例に関する原理について示しており、車両1を、自動車形状として、該車両には幾つかの基本的機能及び幾つかのオプション機能を搭載する。自動車1には、変速機3を用いて動力を車輪へ供給するエンジン2を有する。伝導系3の各端部には、“ブラックボックス”4A、4Bを示しており、該ボックスは各車輪5を個別に制御するのに使用する可能性がある車両の既知の装置について記号化したものである。従って、この装置4A、4Bには、適当なセンサ(例えばABS、ESP等)アクティブ・サスペンション、アクティブ・ディファレンシャル等を含むブレーキ系のような多数のサブシステムを含む。その上、車両1には、様々な目的、例えばエアバッグ7の制御用に多数の他の電子サブシステムを搭載する。これらの電子システムの全てを、中央制御ユニット6(CCU)で制御してもよい。
【0011】
中央制御ユニット6では、多数の異なるセンサ及び測定ユニットから入力データを受信する。慣性測定ユニット8を含み、該ユニットにより、三次元加速度情報及び三次元変位/回転情報(以下でより詳細に記述する)を提供する。更に、全地球的航法システム9(GNS)を示してあり、GNSを好適にはGPS(又はDGPS)の形とし、正確な測位情報を提供する。また、ドライバ情報システム10(DIS)も含み、DISにより、中央制御ユニット6にドライバの挙動に関する様々なパラメータに関連する情報及び車両自体に関連するデータを提供する。車両1にはRFIDユニット11も搭載してもよく、該ユニットに、無線ICタグを用いて、道路に沿いに配設される現地の送信ユニット(図示せず)から情報を提供してもよい。レーダユニット13も提供して、中央制御ユニット6に、周囲近傍にある物体に関する情報を供給してもよい。最後に、車両1について補助センサ14も搭載して示しており、該センサ14により、例えば温度センサ、大気圧センサ、湿度センサ等のセンサの何れかを最適に使用可能にするのに有用な可能性があるあらゆる種類の情報を提供してもよい。
【0012】
図2では、一例として、どういった種類の入力データを、中央制御ユニット6に供給して、様々な出力データを提供し、それにより車両の電子サブシステムを制御するのかについて、示している。従って、例えばドライバ入力データ10、ブレーキ入力データ4A、4B及び車輪入力データ4A、4Bを含み、それらを中央制御ユニット6で使用して、積極的にブレーキを制御してもよい。同様の方法で、同じ入力データ及び場合によってはレーダセンサも使用して、積極的にステアリングを制御してもよい。エアバッグ7を制御する電子システムを、好適には中央制御ユニット6で、慣性測定ユニット8からの入力データ、場合によってはDIS10及び/又はレーダセンサ13からの入力データとの組合せに基づいて制御する。同様の方法で、エンジンを、中央制御ユニット6によって、様々な補助センサ14、DIS 10及びRFID 11から入力データを供給することで、制御してもよい。変速機3及びアクティブ・サスペンション4A、4Bを、好適には中央制御ユニット6によって、慣性測定ユニット8からの入力データ、またDIS10に関する入力データを用いて、制御してもよい。従って、車両の様々なサブシステムを、様々な状況において最適に対応するように、(適切なソフトウェアを用いて)柔軟に制御してもよく、これを、センサからの様々な入力データの選択的組合せに基づき行うが、IMUからの正確なデータを使用すると、驚くべき相乗効果が得られる。
【0013】
図3では、本発明による中央制御ユニット6の概略配置図を示している。中央制御ユニット6には、例えば、プロセッサ装置、メモリユニット装置等の、必要なハードウェア(図示せず)を搭載する。適当なソフトウェアにより、中央制御ユニット6が、通信インタフェース60を用いて受信する入力データに基づいて、多数の異なる電子サブシステムに関して所望する機能を提供可能になる。エアバッグ7の作動を制御する衝突対応システム(CHS)が存在する。このシステムは、そうしたサブシステムに含まれる衝突検知システムも含み、且つ該衝突検知システムにより管理される。衝突検知システムでは、主に慣性測定ユニット8からの入力データを使用して、衝突の発生を識別するだけでなく、更なる情報源、例えば車両の前方部分に備えた加速度計等からの入力も使用して、より早期に正面衝突を検知してもよい。CHSでは、エアバックの作動を、IMU及び他のセンサからの入力を用いて、制御し、個々の状況に応じたエアバッグ7及び他の安全手段の作動に関するシーケンスを作成できる。その結果、各エアバッグ7を最適な時点で作動させられる。その上、上記CHSには衝突記録装置を含み、該装置で衝突中に所望の入力データを記録して、後で衝突原因の分析及び開発を可能にしてもよく、これは一層安全な設計及び/又はプログラミングを獲得するために有用であるかも知れない。その上、ロールオーバ検出システムを含み、該システムにより、エアバックシステムの動作停止を支援して、作動が不要な状況でエアバッグの作動を解除してもよい。また、車両運動システム(VMS)も含むが、該システムは、短期的な観点での車両運動データと組合せた車両運動アルゴリズムに基づく。
【0014】
中央制御ユニット6には、車両動的システム(VDS)も含み、該システムを使用して、トラクションコントロール、横滑り防止、走行制御、ドライバ補正、ブレーキ制御及びステアリング制御を、上記センサの構成、即ち慣性測定ユニット8を含むセンサからの適切な入力データに関連させて作動及び動作停止を行うことで、提供する。」

(1g)「【0017】
図4では、本発明に従う慣性測定ユニット8の略図を示す。3軸MEMSジャイロメータ80及び3軸MEMS加速度計81を示している。3軸に沿って測定するために、あらゆる方向における各偏差を、アンチ・エイリアシング・フィルタ82を用いて、感知し、信号を発信する。これらの信号を、AD-コンバータ83で変換する。AD-コンバータを、周波数4?20kHzのオーバ・サンプリング・クロックでサンプリングする。更に、温度センサtG及びtAを含み、温度センサtGにより全てのジャイロセンサGx、Gy、Gzの温度を感知し、tAでは対応するように、加速度計センサAx、Ay、Azの温度を感知する。温度センサtA及びtGで夫々信号を生成し、該信号を夫々のAD-コンバータを介して、デジタル温度信号を供給するが、これらAD-コンバータを、極めて低い周波数、例えば1?10Hzを有する別のサンプリングクロック89でサンプリングする。デジタル化した信号を、デジタル信号プロセッサ85(DSP)に供給する。DSP 85で処理した後、信号をCANバス86及び/又は高速インタフェース88で送信する。通常の目的には、CANバス86を使用するが、状況によっては、例えば車両が衝突した状況では、情報をより迅速に送信可能にすると、有利である。高速インタフェース88を、そうした理由で実装し、速いインタフェースを提供して、それで最も必要な情報だけを送信する。CANバスは通常、周波数200?600Hzで動作するのに対して、高速インタフェース88は、周波数600Hz超、通常1?10kHzで動作する。IMUはDC/DCユニット87を動力源とする。」

(1h)「【0019】
更にその上、試験から、高精度を獲得するよう管理し続けるには、バイアス及びバイアスの安定性が十分なパラメータでないことが証明された。それより入念な試験から、MEMSユニットのパラメータの多くを、周囲条件の影響に応じて、補償する必要があることが証明された。例えば、バイアス及びスケール係数から、温度に関連して様々に変化することが証明された。非線形性は、MEMS線形性が悪くなるという理由で、補償する必要がある。また、帯域幅も極めて重要である。温度等の環境パラメータの影響を個々に試験して登録し、デジタル信号プロセッサ(DSP)を、好適には適切なアルゴリズムの形で、用いて適切に補償することで、極めて良好な精度を有するIMUを獲得するための基礎を形成してもよく、本発明によるIMUユニットで、0.01°/秒を容易に獲得できる。好適には、CANバス及び/又は高速インタフェース88を、中央制御ユニット6とのインタフェースとして使用する。約200?600Hzで動作するCANバスは、自動車産業部門では標準であるが、例えば別々の高速インタフェース88による一層の高速度が、効率的に衝突に対応するためには必要である。」

(1i)「【0021】
図5では、本発明によるデジタル信号プロセッサ85(DSP)の略図を示している。入力信号83をAD-コンバータから提供することを示す。更にその上、記憶装置856を示しており、該記憶装置では較正済データを保存する、即ち各センサGx、Gy、Gz、Ax、Ay、及びAzの初期較正(この較正は受入れ試験前に行われる)で得た補償係数及び補償アルゴリズムを夫々記憶装置856に、保存している。その後、受信したデジタル信号の様々な補償を、デジタル信号プロセッサ85を用いて達成する。
【0022】
信号用に2経路を設け、信号処理を最低限に保つ1高速経路と、通常の動作経路とする。高速経路を使用して、最低量の情報をジャイロ及び加速度計から送信するが、該経路は、最小限必要な信号処理を使用して、受信ユニットに、出来るだけ殆ど遅延なく、情報を送信するために、必要な経路であり、例えば、衝突状況では、衝撃の瞬間から、衝突対応システム61(図3参照)がデータをIMUから受信する瞬間までの遅延を、出来るだけ低くに抑えられることは、利点である。これをDSP 85での信号処理を減少することで実行できるが、というのは衝突時の信号は比較して区別でき、また衝突は短期間で起るために、信号を長期的に程補償する必要はないからである。更にその上、最も重要なデータだけを提供できるが、例えば実際の実施例によれば、加速度計データを高速経路を介して送信することだけを選択可能である。まず、受信信号の無関係な部分(雑音)を除去するデジタルフィルタリング855Bを含む。通常のIMU動作及び/又は衝突対応動作(高速経路)用に、異なる種類のデジタルフィルタリングを使用できる。フィルタ出力を、次に、出力周波数854Bにダウンサンプリングする。高速経路及び通常動作経路用の出力周波数を、異なるものとしてよい。その後、高速データハンドラ857により、適当なデータを高速インタフェース88に送信する。
【0023】
通常動作経路では、第1に、受信信号の無関係な部分(雑音)を除去するデジタルフィルタリング855Aを含む。フィルタ出力を、次に出力周波数854Aにダウンサンプリングする。ダウンサンプリングしたデータをまず温度についてのバイアス及び温度についてのスケール係数に対して補償する852、853。第2に、直線性補償851を含み、該補償により完全に線形でないセンサ信号を補償する。第3に、軸アライメント補償850を含み、該補償によりミスアライメントに関連して起こり得る偏差を補償する。
【0024】
明白なように、様々な補償を、記憶装置856に予め保存したデータ、及び使用する各センサユニットに関する入力信号83を、使用することにより、上記補償を実行するための基礎を形成して、達成する。様々な補償を、デジタル信号プロセッサ85内で処理する適切なアルゴリズムを使用して、実行する。
【0025】
衝突対応用出力をより少なく補償してもよい、例えば非線形性及びミスアライメントの補償を省略して、通常のIMU出力と比較して、高速インタフェースでより高周波数で出力してもよい。更に、高速経路88で、同期サンプルを通常動作経路86から、例えば高速度を1000Hzで、通常経路で100Hzで動作させる場合、高速経路の10サンプル毎に、使用して、データを補償可能である。勿論、信号処理を十分に速く、即ち、少なくとも600Hz超とする場合、別々の高速経路を提供する必要はないかも知れない。」

(1j)刊行物1には以下の図が示されている。


また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(1k)【請求項1】の「慣性測定ユニット(8)」(記載事項(1a))という記載及び段落【0002】の「慣性測定ユニット(IMU)」(記載事項(1e))という記載によれば、IMUは慣性測定ユニット8と同一のものを意味する。

(1l)【請求項13】の「動的車両対応システム(63)」(記載事項(1c))という記載及び段落【0014】の「中央制御ユニット6には、車両動的システム(VDS)も含み」(記載事項(1f))という記載及び図3(記載事項(1j))によれば、動的車両対応システム(63)は車両動的対応システム(VDS)と同一のものを意味する。

(1m)【請求項1】の「中央制御ユニット(6)」(記載事項(1a))という記載、【請求項9】の「中央ユニット(6)」(記載事項(1b))という記載及び【請求項11】の「前記電子システム(6)」(記載事項(1b))という記載によれば、中央ユニット(6)及び電子システム(6)は中央制御ユニット6と同一のものを意味する。

(1n)【請求項1】の「MEMSジャイロメータ(80)」(記載事項(1a))という記載、【請求項1】の「MEMS加速度計(81)」(記載事項(1a))という記載、【請求項1】の「センサ(80、81)」(記載事項(1a))という記載、段落【0017】の「3軸MEMSジャイロメータ80」(記載事項(1g))という記載、段落【0017】の「3軸MEMS加速度計81」(記載事項(1g))という記載及び段落【0022】の「ジャイロ及び加速度計」(記載事項(1i))という記載によれば、「センサ(80、81)」のうちセンサ80、3軸MEMSジャイロメータ80及びジャイロはMEMSジャイロメータ80と同一のものを意味し、「センサ(80、81)」のうちセンサ81、3軸MEMS加速度計81及び加速度計はMEMS加速度計81と同一のものを意味する。

(1o)【請求項1】の「デジタル信号プロセッサ(85)」(記載事項(1a))という記載、【請求項1】の「デジタル・サンプリング・プロセッサ(85)」(記載事項(1a))という記載及び【請求項1】のプロセッサ(記載事項(1a))という記載によれば、デジタル・サンプリング・プロセッサ85及びプロセッサは、デジタル信号プロセッサ85と同一のものを意味する。

(1p)【請求項7】の「高速インタフェース(88)」(記載事項(1b))という記載、【請求項8】の「高速動作経路(88)」(記載事項(1b))という記載、【請求項10】の「高速経路」(記載事項(1b))という記載、段落【0022】の「1高速経路」(記載事項(1i))という記載及び図4(記載事項(1j))の図示内容によれば、高速動作経路88、高速経路及び1高速経路は高速インタフェース88と同一ものを意味する。

(1q)【請求項8】の「通常動作経路(86)」(記載事項(1b))という記載、段落【0017】の「CANバス86」(記載事項(1g))という記載及び図4(記載事項(1j))の図示内容によれば、通常動作経路86はCANバス86と同一のものを意味する。

(1r)【請求項1】の「車両用制御システム」(記載事項(1a))という記載及び【請求項9】の「前記制御システム」(記載事項(1b))という記載によれば、制御システムは車両用制御システムと同一のものを意味する。

(1s)段落【0013】の「衝突対応システム(CHS)」(記載事項(1f))という記載及び段落【0022】の「衝突対応システム61」(記載事項(1i))という記載によれば、CHSは衝突対応システム61と同一のものを意味する。

(1t)段落【0013】の「エアバッグ7の作動を制御する衝突対応システム(CHS)が存在する。このシステムは、そうしたサブシステムに含まれる衝突検知システムも含み、且つ該衝突検知システムにより管理される。衝突検知システムでは、主に慣性測定ユニット8からの入力データを使用して、衝突の発生を識別するだけでなく、更なる情報源、例えば車両の前方部分に備えた加速度計等からの入力も使用して、より早期に正面衝突を検知してもよい。CHSでは、エアバックの作動を、IMU及び他のセンサからの入力を用いて、制御し、個々の状況に応じたエアバッグ7及び他の安全手段の作動に関するシーケンスを作成できる。その結果、各エアバッグ7を最適な時点で作動させられる。」(記載事項(1f))という記載によれば、刊行物1には、衝突対応システム(CHS)61は、エアバッグの作動を慣性測定ユニット(IMU)8からの入力を用いて制御し、各エアバッグ7を作動させることが記載されている。

(1u)段落【0012】の「エアバッグ7を制御する電子システムを、好適には中央制御ユニット6で、慣性測定ユニット8からの入力データ、場合によってはDIS10及び/又はレーダセンサ13からの入力データとの組合せに基づいて制御する。」(記載事項(1f))という記載及び段落【0013】の「エアバッグ7の作動を制御する衝突対応システム(CHS)が存在する。このシステムは、そうしたサブシステムに含まれる衝突検知システムも含み、且つ該衝突検知システムにより管理される。衝突検知システムでは、主に慣性測定ユニット8からの入力データを使用して、衝突の発生を識別するだけでなく、更なる情報源、例えば車両の前方部分に備えた加速度計等からの入力も使用して、より早期に正面衝突を検知してもよい。CHSでは、エアバックの作動を、IMU及び他のセンサからの入力を用いて、制御し、個々の状況に応じたエアバッグ7及び他の安全手段の作動に関するシーケンスを作成できる。その結果、各エアバッグ7を最適な時点で作動させられる。」(記載事項(1f))という記載によれば、「エアバッグ7を制御する電子システム」は、衝突対応システム(CHS)と同一のものを意味する。

以上の記載事項(1a)?(1j)、認定事項(1k)?(1u)を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「車両1内に配設する中央制御ユニット6及びセンサ構成4A、4B、8、9、10、11、13を備えて、該センサ構成の温度を可変にし、前記センサ構成には、信号82、83を生成するMEMS加速度計81及びMEMSジャイロメータ80を備える慣性測定ユニット(IMU)8を備え、前記慣性測定ユニット(IMU)8を、前記中央制御ユニット6に前記車両1の挙動に関するデジタル情報をデジタル信号プロセッサ85を用いて提供するよう配設して、前記車両1の少なくとも1つの電子システム61、62、63、64、65を作動及び/又は動作停止を可能にする車両用制御システムであって、前記デジタル信号プロセッサ85を設け、該デジタル信号プロセッサ85には、前記MEMSジャイロメータ80、MEMS加速度センサ81及びデータ入力受信装置の各々に関連して、予め保存したデータ処理能力850、851、852、853、854、855、856、857を有して、該デジタル信号プロセッサ85を、前記デジタル情報を積分前に補償して、それにより前記中央制御ユニット6に補償した正確なデジタル情報を送信するよう、配設する車両用制御システムにおいて、
前記慣性測定ユニット(IMU)8には、CANバス(通常動作経路)86及び高速インタフェース(高速動作経路)88を備え、
前記車両用制御システムを、衝突対応中、前記慣性測定ユニット(IMU)8から中央制御ユニット6により少ない情報を送信するよう配設し、
前記高速インタフェース(高速動作経路)88は、CANバス(通常動作経路)86より少ない信号処理を使用し、
前記中央制御ユニット6により、少なくとも1つのエアバッグ7の作動、好適にはエアバッグ組7の作動を制御して、少なくともある程度まで、前記慣性測定ユニット(IMU)8からの前記デジタル情報を使用して、最適なエアバッグ組の作動を、状況に応じた作動シーケンスで制御し、
前記中央制御ユニット6は車両動的システム(VDS)63に関し、前記慣性測定ユニット(IMU)8からの入力データを使用して、車両の安全なハンドリングを達成し、
中央制御ユニット6では、多数の異なるセンサ及び測定ユニットから入力データを受信し、慣性測定ユニット(IMU)8を含み、該ユニットにより、三次元加速度情報及び三次元変位/回転情報を提供し、
エアバッグ7を制御する衝突対応システム(CHS)61を、中央制御ユニット6で、慣性測定ユニット(IMU)8からの入力データに基づいて制御し、
中央制御ユニット6には、プロセッサ装置を搭載し、ソフトウェアにより、中央制御ユニット6が、通信インタフェース60を用いて受信する入力データに基づいて、多数の異なる電子サブシステムに関して所望する機能を提供可能になり、
中央制御ユニット6には、車両動的システム(VDS)63も含み、該システムを使用して、トラクションコントロール、横滑り防止、走行制御、ドライバ補正、ブレーキ制御及びステアリング制御を、上記センサの構成、即ち慣性測定ユニット(IMU)8を含むセンサからの適切な入力データに関連させて作動及び動作停止を行うことで、提供し、
慣性測定ユニット(IMU)8は、信号をCANバス(通常動作経路)86及び/又は高速インタフェース(高速動作経路)88で送信し、通常の目的には、CANバス(通常動作経路)86を使用するが、車両が衝突した状況では、情報をより迅速に送信可能にし、
CANバス(通常動作経路)86及び/又は高速インタフェース(高速動作経路)88を、中央制御ユニット6とのインタフェースとして使用し、
信号用に2経路を設け、信号処理を最低限に保つ高速インタフェース(高速動作経路)88と、CANバス(通常動作経路)86とし、高速インタフェース(高速動作経路)88を使用して、最低量の情報をMEMSジャイロメータ80及びMEMS加速度計81から送信するが、該高速インタフェース(高速動作経路)88は、最小限必要な信号処理を使用して、受信ユニットに、出来るだけ殆ど遅延なく、情報を送信するために、必要な経路であり、衝突状況では、衝撃の瞬間から、衝突対応システム(CHS)61がデータを慣性測定ユニット(IMU)8から受信する瞬間までの遅延を、出来るだけ低くに抑えられ、
衝突対応システム(CHS)61は、エアバッグの作動を慣性測定ユニット(IMU)8からの入力を用いて制御し、各エアバッグ7を作動させる
車両用制御システム」

(イ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の優先日前に頒布された特開2004-189107号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a) 「【0002】
【従来の技術】
従来、エアバッグ装置の起動制御装置は、車体中央部に配設されるフロアセンサ(減速度センサ)と車体前部に配設されるサテライトセンサ(減速度センサ)とを備え、主制御部が各センサの出力信号に基づいて車両の衝突状態を判定し、エアバッグ装置の起動を制御している。フロアセンサは一般的に、主制御部の近辺に配設され、その出力信号は主制御部に直接に接続される。あるいは、主制御部にフロアセンサを内蔵する。主制御部は例えばセンターコンソール付近に配設される。
【0003】
一方、サテライトセンサは例えばフロントバンパー付近に配設され、その出力信号は通信ケーブルを介して主制御部に伝送される。例えば、サテライトセンサが、検知信号をデジタル化し、このデジタル信号を常時、主制御部に送信する。また、サテライトセンサが予め所定の閾値を有し、検知した減速度がその閾値を超えた時に、閾値超過を示す出力信号を主制御部に送信するものもある(例えば、特許文献1参照)。上記したサテライトセンサと主制御部間の通信方式には、車両に配設するケーブル数を削減する等の理由から、シリアル通信方式が用いられる。」

(2b)「【0028】
図8は衝突判定アルゴリズムの一例を示す概略図である。この図8に示す衝突判定アルゴリズムは従来と同様のものである。図8において、主制御部1(ECU)の制御回路12(CPU)は、通信I/F11により、車両前右側に配設されたサテライトセンサ2(FCS;Front Crash Sensor、[R])と車両前左側に配設されたサテライトセンサ2(FCS;Front Crash Sensor、[L])からそれぞれ送信データを受信し、各送信データに対応する超過した閾値を検出する。そして、それらサテライトセンサ2の減速度の検出結果(超過した閾値)と、主制御部1に備えている加速度センサ14(ECU、[X]、Gセンサ)の出力信号に基づいて検出した減速度とから、図8に示す衝突判定アルゴリズムの流れに従って制御回路12(CPU)が衝突判定を行う。
【0029】
図8の衝突判定アルゴリズムでは、2つのFCSの減速度データを使用して、セーフィングファンクション(Safing Function)とFCS衝突判定アルゴリズムを実行する。また、衝突判定アルゴリズムの実行結果とECUのGセンサの減速度データを使用して、メイン衝突判定アルゴリズムを実行する。このメイン衝突判定アルゴリズムは、高速衝突の判定と低速衝突の判定を行い、これら判定結果の論理和を出力する。そして、セーフィングファンクションの出力とメイン衝突判定アルゴリズムの出力の論理積を、エアバッグ装置の起動信号として出力する。」

(2c)刊行物2には以下の図が示されている。


また上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(2d)段落【0029】の「このメイン衝突判定アルゴリズムは、高速衝突の判定と低速衝突の判定を行い、これら判定結果の論理和を出力する。そして、セーフィングファンクションの出力とメイン衝突判定アルゴリズムの出力の論理積を、エアバッグ装置の起動信号として出力する。」(記載事項(2b))という記載及び図8(記載事項(2c))の図示内容によれば、刊行物2には、セーフィングファンクション(Safing Function)を、衝突判定の暴発冗長のために設けることが記載されている。

ウ 対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)本件補正発明の「車両安全システム」の意義は、段落【0016】の「車両12が衝突状態にあった場合、プロセッサ20の衝突ロジック30は、前述したようにエアバッグであってもよい車両安全システム42を展開する。」(記載事項C)という記載を参照すると、エアバッグを含むものと解される。したがって、引用発明の「エアバッグ7」は、その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「車両安全システム」に相当する。
また、引用発明の「車両用制御システム」は、「衝突対応システム(CHS)61はエアバッグの作動を、慣性測定ユニット(IMU)8からの入力を用いて制御し、各エアバッグ7を作動させる」ものであるが、「最適なエアバッグ組の作動を、状況に応じた作動シーケンスで制御し」ているから経時的な制御を行っている。したがって、エアバッグ7の作動態様は展開であるという技術常識を併せて考慮すると、引用発明の「車両安全システム」はエアバッグ7をいつ展開すべきかを決定する機能を有することが明らかである。
したがって、引用発明の「前記中央制御ユニット6により、少なくとも1つのエアバッグ7の作動、好適にはエアバッグ組7の作動を制御して、少なくともある程度まで、前記慣性測定ユニット(IMU)8からの前記デジタル情報を使用して、最適なエアバッグ組の作動を、状況に応じた作動シーケンスで制御」しており、「衝突対応システム(CHS)61は、エアバッグの作動を慣性測定ユニット(IMU)8からの入力を用いて制御し、各エアバッグ7を作動させ」る「車両用制御システム」は、本件補正発明の「車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステム」に相当する。

(イ)本件補正発明の「車両安定性制御システム」の意義は、段落【0014】の「車両安定性制御システム32は、滑りを検出して最小限に抑えることによって車両12の安定性の安全を高める。車両安定性制御システム32が車両12のステアリング制御の損失を検出すると、車両安定性制御システム32は、オーバーステアまたはアンダーステアに対抗するために自動的にブレーキをかけるおよび/またはパワートレイン36を調整する。」(記載事項C)という記載を参照すると、滑りを検出した際に、車両の安定性を高めるために、自動的にパワートレインの調整等を行い、滑りを抑えることを含むものと解される。
引用発明は「車両動的システム(VDS)63も含み、該システムを使用して、トラクションコントロール、横滑り防止、走行制御、ドライバ補正、ブレーキ制御及びステアリング制御を、上記センサの構成、即ち慣性測定ユニット(IMU)8を含むセンサからの適切な入力データに関連させて作動及び動作停止を行うことで、提供」するものであるが、特に、トラクションコントロール及び横滑り防止が、滑りを検出した際に、車両の安定性を高めるために、自動的にパワートレインの調整等を行い、滑りを抑えるものであることは技術常識である。
そうすると、引用発明の「車両動的システム(VDS)63」は、 その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「車両の安定した走行を制御する車両安定性制御システム」に相当する。

(ウ)引用発明の「中央制御ユニット6」は、「プロセッサ装置を搭載」し、「多数の異なる電子サブシステムに関して所望する機能を提供可能」なものであり、「エアバッグ7を制御する電子システム」を「慣性測定ユニット(IMU)8からの入力データに基づいて制御」するとともに「車両動的システム(VDS)63も含み、該システムを使用して、トラクションコントロール、横滑り防止、走行制御、ドライバ補正、ブレーキ制御及びステアリング制御を、上記センサの構成、即ち慣性測定ユニット(IMU)8を含むセンサからの適切な入力データに関連させて作動及び動作停止を行うことで、提供」するものである。
したがって、引用発明の「中央制御ユニット6」における「プロセッサ装置」は、その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行うプロセッサ」に相当する。

(エ)本件補正発明の「慣性センサ」の意義について検討すると、請求項1の記載からみて、「慣性センサ」は「第1の出力」と「第2の出力」とを有しており、第1の出力が「前記車両安定性制御システムによる制御のために」プロセッサに与えられ、また、第2の出力が「前記慣性センサの前記第2の出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するように」プロセッサに与えられるものである。
引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は、「CANバス(通常動作経路)86及び/又は高速インタフェース(高速動作経路)88を、中央制御ユニット6とのインタフェースとして使用」するものであり、「信号をCANバス(通常動作経路)86及び/又は高速インタフェース(高速動作経路)88で送信し、通常の目的には、CANバス(通常動作経路)86を使用するが、車両が衝突した状況では、情報をより迅速に送信可能」となっており、「高速インタフェース(高速動作経路)88を使用して、最低量の情報をMEMSジャイロメータ80及びMEMS加速度計81から送信するが、該高速インタフェース(高速動作経路)88は、最小限必要な信号処理を使用して、受信ユニットに、出来るだけ殆ど遅延なく、情報を送信するために、必要な経路であり、衝突状況では、衝撃の瞬間から、衝突対応システム(CHS)61がデータを慣性測定ユニット(IMU)8から受信する瞬間までの遅延を、出来るだけ低くに抑えられ」る構成とされたものである。
また、「中央制御ユニット6には、車両動的システム(VDS)63も含」まれるから、上記「通常の目的」には、「車両動的システム(VDS)63」による制御も含まれるといえる。
さらに、上記(ウ)のとおり、引用発明の「中央制御ユニット6」における「プロセッサ装置」は、本件補正発明の「前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行うプロセッサ」に相当する。
そうすると、引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は、 2つの出力を有しており、一方の出力が車両安定性制御システムによる制御のためにプロセッサに与えられ、他方の出力がその出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するようにプロセッサに与えられる点で、本件補正発明の「慣性センサ」と共通する構成を有している。

本件補正発明の「慣性センサ」の意義についてさらに検討すると、請求項1の記載からみて、「慣性センサ」は「車両に関連する慣性情報を与え」るものでもある。引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は、「前記中央制御ユニット6に前記車両1の挙動に関するデジタル情報をデジタル信号プロセッサ85を用いて提供」しているから、引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は車両に関連する慣性情報を与える点で、本件補正発明の「慣性センサ」と共通する機能を有している。
さらに、本件補正発明の「慣性センサ」について、段落【0012】の「図2を参照すると、システム10の更に詳しい例示が示される。システム10は、その主要な構成要素として、プロセッサ20と慣性センサ22とを含む。慣性センサ22は、ドイツのゲルリンゲンのRobert Bosch社によって製造されるSMI540であってもよい。」(記載事項C)との記載を参照すると、具体的な「慣性センサ」としてRobert Bosch社のSMI540が例示されている。Robert Bosch社のSMI540が角速度センサ及び加速度センサからなるセンサであることは、当業者にとって周知の技術的事項である(必要ならば、「Automotive Electronics Semiconductors and sensors Product overview 2011(Spring 2011 edition)」,Robert Bosch GMBH の第12ページのSMI540の項を参照。)。
そうすると、引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」も、段落【0017】の「図4では、本発明に従う慣性測定ユニット8の略図を示す。3軸MEMSジャイロメータ80及び3軸MEMS加速度計81を示している。3軸に沿って測定するために、あらゆる方向における各偏差を、アンチ・エイリアシング・フィルタ82を用いて、感知し、信号を発信する。これらの信号を、AD-コンバータ83で変換する。」(記載事項(1g))という記載にあるとおり、3軸MEMSジャイロメータ80及び3軸MEMS加速度計81からなるセンサであるから、引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は、 その具体的な実施の態様においても、本件補正発明の「慣性センサ」と共通している。

以上に鑑みて、引用発明の「慣性測定ユニット(IMU)8」は、本件補正発明の「慣性センサ」 と「第1の出力と、第2の出力とを有」し、「前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が前記車両安定性制御システムと通信する」限りにおいて一致する。

(オ)上記(エ)のとおり、本件補正発明の「第1の出力」は、車両安定性制御システムによる制御のためにプロセッサに与えられるものである。
また、上記(エ)のとおり、引用発明の「CANバス(通常動作経路)86」は、「慣性測定ユニット(IMU)8」において「中央制御ユニット6とのインタフェースとして使用」され、「通常の目的」、すなわち、車両動的システム(VDS)63による制御のためにプロセッサに与えられるものである。
そうすると、引用発明の「CANバス(通常動作経路)86」は、 その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「第1の出力」に相当する。

(カ)上記(エ)のとおり、本件補正発明の「第2の出力」は、車両が衝突状態にあったことを慣性情報が示すかどうかを決定するプロセッサに与えられるものである。
また、上記(エ)のとおり、引用発明の「高速インタフェース(高速動作経路)88」は、「慣性測定ユニット(IMU)8」において「中央制御ユニット6とのインタフェースとして使用」され、プロセッサ装置が、車両が衝突状態にあったことを慣性情報が示すかどうかを決定するように与えられている。
そうすると、引用発明の「高速インタフェース(高速動作経路)88」は、 その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「第2の出力」に相当する。

(キ)上記(エ)?(カ)を踏まえると、引用発明において、上記「慣性測定ユニット(IMU)8」を備えることは、本件補正発明の「フィルタ処理された第1の出力と、フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理された第2の出力とを有する慣性センサであって、前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が前記車両安定性制御システムと通信する、当該慣性センサとを備え」ることと、「第1の出力と、第2の出力とを有する慣性センサであって、前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が前記車両安定性制御システムと通信する、当該慣性センサとを備え」る限りにおいて一致する。

(ク)上記(ウ)、(エ)を踏まえると、引用発明における上記「プロセッサ装置」の構成は、本件補正発明の「プロセッサ」と「前記車両安定性制御システムによる制御のために前記第1の出力を使用するように構成され」る点及び「前記慣性センサの前記第2の出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するように構成され」る点で一致する。

(ケ)上記(ウ)、(エ)を踏まえると、引用発明の「エアバッグ7を制御する衝突対応システム(CHS)61」を「プロセッサ装置を搭載し」た「中央制御ユニット6で、慣性測定ユニット(IMU)8からの入力データに基づいて制御」し、「衝突対応システム(CHS)61」は「各エアバッグ7を適当な時点で作動させる」ことは、本件補正発明の「前記プロセッサは、前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前記少なくとも1つのサテライトセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すときに車両安全システムを展開するように構成された」ことと、「プロセッサ」が「前記第2の出力を通じて提供される慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すときに車両安全システムを展開するように構成され」ている限りにおいて一致する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点>

「車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムにおいて、
車両の安定した走行を制御する車両安定性制御システムと、
前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行うプロセッサと、
第1の出力と、第2の出力とを有する慣性センサであって、前記第2の出力は、前記プロセッサと通信して、車両に関連する慣性情報を与え、前記第1の出力が前記車両安定性制御システムと通信する、当該慣性センサとを備え、
前記プロセッサは、前記車両安定性制御システムによる制御のために前記第1の出力を使用するように構成され、
前記プロセッサは、前記慣性センサの前記第2の出力を監視して、車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すかどうかを決定するように構成され、
前記プロセッサは、前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すときに車両安全システムを展開するように構成された
システム。」

<相違点1>

「第1の出力」及び「第2の出力」に関し、
本件補正発明は、第1の出力が「フィルタ処理された」ものであり、第2の出力が「フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理された」ものであるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

<相違点2>

「車両安全システム」の展開に関し、
本件補正発明は、「車両のバンパーに隣接して取り付けられて前記プロセッサと通信する少なくとも1つのサテライトセンサであって、車両衝撃情報を前記プロセッサへ出力する当該サテライトセンサを更に備え、
前記プロセッサは、前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前記少なくとも1つのサテライトセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すときに車両安全システムを展開するように構成された」ものであるのに対し、
引用発明は、「衝突対応システム(CHS)61は、エアバッグの作動を慣性測定ユニット(IMU)8からの入力を用いて制御し、各エアバッグ7を適当な時点で作動させる」ものである点。

ウ 判断

以下、相違点について検討する。
<相違点1について>
(ア)本件補正発明は、少なくとも車両安全システムがプロセッサによって展開されるべきかどうかを決定するために、また、車両安定性制御システムへ情報を与えるために、単一の慣性センサを利用するという課題を解決するためになされたものである(記載事項B)。
ここで本件補正発明において、第1の出力が「フィルタ処理され」、また第2の出力が「フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理され」ることの意義について、当該課題及び記載事項Cを踏まえて検討すると、第1の出力については、車両安定性制御に関連する用途において許容できる程度の遅延が発生するフィルタ処理を行い、第2の出力については、極めて急速に慣性センサからの情報を与えられるように、遅延のかなり短いフィルタ処理を行うか、或いはフィルタ処理を行わないことによって、安全システムが展開されるべきかどうか決定できるとともに、単一の慣性センサを利用することができることにあると理解できる。

(イ)これに対して、刊行物1の段落【0008】の「本発明により、MEMSセンサ、特にジャイロメータが本来有する誤差を、効率的に補償でき、従って極めて少ない所要スペースを有する極めて費用効果が良く高精度なセンサを獲得できる可能性がある。・・・それにより容易に高精度のIMUを高費用効率で製造でき、少ない所要スペースで済むため、・・・」(記載事項(1e))という記載及び段落【0022】の「信号用に2経路を設け、信号処理を最低限に保つ1高速経路と、通常の動作経路とする。高速経路を使用して、最低量の情報をジャイロ及び加速度計から送信するが、該経路は、最小限必要な信号処理を使用して、受信ユニットに、出来るだけ殆ど遅延なく、情報を送信するために、必要な経路であり、例えば、衝突状況では、衝撃の瞬間から、衝突対応システム61(図3参照)がデータをIMUから受信する瞬間までの遅延を、出来るだけ低くに抑えられることは、利点である。」(記載事項(1i))という記載を参照すると、引用発明では、CANバス(通常動作経路)86(第1の出力)については、車両動的システム(VDS)63(車両安定性制御)を含む用途では、MEMSジャイロメータ80が本来有する誤差を、効率的に補償でき、従って極めて少ない所要スペースを有する極めて費用効果が良く高精度なセンサを獲得できるような信号処理を行い、また、高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)については、衝突対応システム(CHS)61に出来るだけ殆ど遅延無く慣性測定ユニット(IMU)8(慣性センサ)からの情報を与えられるように少ない信号処理としていることが理解できる。

(ウ)してみれば、引用発明は、高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)はCANバス(通常動作経路)86(第1の出力)と比較して、遅延を減少することを優先した信号処理を行い、エアバッグ7(安全システム)が展開されるべきかどうかを決定できるとともに、単一の慣性測定ユニット(IMU)8(慣性センサ)を利用することができる点で、本件補正発明と軌を一にしている。

(エ)そうすると、刊行物1に「フィルタ処理された」第1の出力と、「軽くフィルタ処理された」第2の出力とを有する慣性センサを備えていることは記載されていないが、デジタル信号の信号処理のためにフィルタ処理を適用することは技術常識であるから、引用発明におけるCANバス86(通常動作経路)(第1の出力)及び高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)の上記意義を踏まえて、CANバス(通常動作経路)86(第1の出力)における信号処理を車両安定性制御に関連する用途に適した「フィルタ処理され」たものとし、高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)における信号処理をエアバッグ7(安全システム)が展開されるべきかどうかを決定することに適した「フィルタ処理されない或いは軽くフィルタ処理された」ものとすることで、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易になし得たといえる。

<相違点2について>
(ア)刊行物1の段落【0013】の「エアバッグ7の作動を制御する衝突対応システム(CHS)が存在する。このシステムは、そうしたサブシステムに含まれる衝突検知システムも含み、且つ該衝突検知システムにより管理される。衝突検知システムでは、主に慣性測定ユニット8からの入力データを使用して、衝突の発生を識別するだけでなく、更なる情報源、例えば車両の前方部分に備えた加速度計等からの入力も使用して、より早期に正面衝突を検知してもよい。」(記載事項(1f))という記載を参照すると、刊行物1には、引用発明において、高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)を通じて提供される慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサの入力をも利用してエアバッグ7の作動を制御することが示唆されている。

(イ)ここで、車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサの入力をも利用してエアバッグ7の作動を制御することについて、刊行物2の段落【0002】には「エアバッグ装置の起動制御装置は、車体中央部に配設されるフロアセンサ(減速度センサ)と車体前部に配設されるサテライトセンサ(減速度センサ)とを備え、主制御部が各センサの出力信号に基づいて車両の衝突状態を判定し、エアバッグ装置の起動を制御している。」と、段落【0003】には「サテライトセンサは例えばフロントバンパー付近に配設され、その出力信号は通信ケーブルを介して主制御部に伝送される。」(記載事項(2a))と記載されており、エアバッグの作動を制御するために車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサとして、車両のフロントバンパーに隣接して取り付けられてプロセッサと通信する少なくとも1つのサテライトセンサであって、車両衝撃情報を前記プロセッサへ出力する当該サテライトセンサは周知といえる。
また、刊行物1の段落【0013】の「衝突検知システムでは、主に慣性測定ユニット8からの入力データを使用して、衝突の発生を識別するだけでなく、更なる情報源、例えば車両の前方部分に備えた加速度計等からの入力も使用して、より早期に正面衝突を検知してもよい。・・・CHSでは、エアバックの作動を、IMU及び他のセンサからの入力を用いて、制御し、個々の状況に応じたエアバッグ7及び他の安全手段の作動に関するシーケンスを作成できる。その結果、各エアバッグ7を最適な時点で作動させられる。」(記載事項(1f))という記載を参照すると、引用発明において、車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサの入力をも利用することで、慣性測定ユニット(IMU)8(慣性センサ)からの入力データのみを利用する場合に比較して、誤動作の少ないエアバッグの作動を行えるものと理解できる。
刊行物2の段落【0029】の「このメイン衝突判定アルゴリズムは、高速衝突の判定と低速衝突の判定を行い、これら判定結果の論理和を出力する。そして、セーフィングファンクションの出力とメイン衝突判定アルゴリズムの出力の論理積を、エアバッグ装置の起動信号として出力する。」(記載事項(2b))という記載及び認定事項(2d)を参照すると、刊行物2に記載された技術的事項は、メイン衝突判定アルゴリズムの入力とセーフィングファンクションの入力との論理積を使用してエアバッグ装置の暴発を防止するものであって、要は、エアバッグ装置の起動における誤動作を少なくするものと理解することができる。
そうすると、上記(ア)で述べたとおり、車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサの入力をも利用してエアバッグ7の作動を制御することが想定されている引用発明において、誤動作の少ないエアバッグの作動を行える点で軌を一にする刊行物2の記載を参考とし、エアバッグ7(車両安全システム)の作動を制御するために車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサとして、車両のフロントバンパーに隣接して取り付けられてプロセッサと通信する少なくとも1つのサテライトセンサであって、車両衝撃情報を前記プロセッサへ出力する当該サテライトセンサを採用するとともに、慣性測定ユニット(IMU)8(慣性センサ)から提供される慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前方のセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すときにエアバッグ7(車両安全システム)を作動するものとすることは、当業者であれば容易になし得たといえる。

(ウ)ここで請求人は、審判請求書(【請求の理由】5.)において、「何れの引用文献にも、サテライトセンサと慣性センサの高速出力(第2の出力)との両方が衝突状態を検出した場合に安全システムを展開することについて、一切開示も示唆もありません。」と主張するが、上記(ア)?(イ)で述べたとおり、刊行物1には、引用発明において、車両の前方部分に備えた加速度計等のセンサの入力をも利用してエアバッグ7の作動を制御することが示唆されており、また刊行物2の記載事項(2a)、(2b)も参考にすれば、サテライトセンサと慣性測定ユニット(IMU)8の高速インタフェース(高速動作経路)88(第2の出力)との両方が衝突状態を検出した場合に安全システムを展開する構成は、当業者が容易になし得たといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

(エ)以上のとおりであるから、上記相違点2に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易になし得たといえる。

<作用効果について>
そして、本件補正発明の作用効果について検討しても、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項(周知の技術的事項)から当業者が予測できる範囲のものといえる。

エ 小括
したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない。

(3) むすび

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成28年1月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。

2 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び刊行物2並びにそれらの記載事項は、上記「第2 2(2)イ(ア)及び(イ)」に記載したとおりであり、刊行物1に記載された発明は、上記「第2 2(2)イ(ア)」に示した「引用発明」のとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本件補正発明から、「システム」について、「車両の安定した走行を制御する車両安定性制御システム」との構成を省き、発明を特定するために必要な事項である「プロセッサ」について、「前記安全システム及び前記車両安定性制御システムを制御するための処理を行う」との限定を省き、同じく、「プロセッサ」について、第1の出力を使用するのを「前記車両安定性制御システムによる制御のため」と明瞭化又は具体化して限定したものを「慣性測定ユニット目的」とし、プロセッサが車両安全システムを展開するときについて「前記第2の出力を通じて提供される前記慣性情報が車両が衝突状態にあることを示すとともに、前記少なくとも1つのサテライトセンサの出力が車両が衝突状態にあることを示すとき」と限定していたものを「車両が衝突状態にあったことを前記慣性情報が示すとともに車両が衝突状態にあったことを前記少なくとも1つのサテライトセンサが示すときに」とするものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 2(2)」で述べたとおり、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-23 
結審通知日 2017-11-02 
審決日 2017-11-14 
出願番号 特願2014-542498(P2014-542498)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
中田 善邦
発明の名称 車両安全システムをいつ展開すべきかを決定するためのシステムおよび方法  
代理人 飯塚 雄二  

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