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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1338909
審判番号 不服2016-18465  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-08 
確定日 2018-03-29 
事件の表示 特願2012- 85521「レジストパターンの形成方法、永久マスクレジスト及び感光性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-217954〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月4日の出願であって、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、これに対する意見書の提出がなく同年8月31日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年12月8日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。その後、平成29年6月9日付けで上申書が提出されている。


第2 原査定の概要
原査定は、請求項1に係る発明に対し拒絶理由3(進歩性)を通知するものであり、その拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

3.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1、4?6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-265388号公報
2.特開2004-85803号公報
3.特開2005-202023号公報
4.特開2009-15158号公報
5.特開2007-71966号公報
6.特開2009-300873号公報


第3 本件発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年12月8日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。
なお、請求項1に係る発明は、平成28年12月8日付けの手続補正の前後において同じものである。
「【請求項1】
基板上に、(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)塩素含有量が500ppm以下であるエポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層を設け、前記感光層の所定部分を活性光線により硬化後、前記所定部分以外の前記感光層領域を除去し、2価の金属イオンを含有する水溶液で処理することを特徴とする、レジストパターンの形成方法。」(以下、「本件発明」という。)


第4 引用刊行物の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-265388号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付与した。以下同様。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用、半導体パッケージ基板用、フレキシブル配線板用の感光性樹脂組成物及びそれを用いた感光性永久レジスト、感光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の小型化、軽量化に伴い、プリント配線板、半導体パッケージ基板、フレキシブル配線板には、微細な開口パターンを形成する目的で感光性のソルダーレジストが用いられている。そのようなソルダーレジストには、現像性、高解像性、クラック耐性、絶縁信頼性及びはんだ耐熱性、金めっき耐性等が要求される。近年では、上記特性の中でも絶縁信頼性に項目の重要度が増しており、特に半導体パッケージ基板用のソルダーレジストには、微細配線間でのHAST耐性について要求されている。HASTの試験は、130℃、85%RH条件下で配線間に電圧を印加し、マイグレーションの発生レベル、絶縁耐性を評価する試験で、従来まで一般的に行われてきた85℃、60%RH、若しくは85℃、85%で電圧を印加する試験に比べ試験温度が高く条件が厳しいのが特徴である。さらに最近では、配線間のピッチが狭まっており、ライン/スペースが10μm/10μmや8μm/8μmでのHAST時の耐性が要求されており、従来のソルダーレジストでは、対応できなくなっている。
一方、近年では、膜厚均一性、表面平滑性及び薄膜形成性の観点から、ドライフィルムタイプのソルダーレジストが注目されている。ドライフィルムタイプは、工程簡便化、溶剤排出量の低減化などの利点も有している。
現在使用されている一般的なソルダーレジストは、硬化剤のエポキシ樹脂とアルカリ現像性を付与させるためのカルボン酸含有感光性プレポリマを別々に分けた液状2液タイプが主流である。感光性プレポリマとしては、特開昭61‐243869号公報に示されるようなクレゾールノボラック型エポキシ樹脂にアクリル酸を付加し、その後、酸変性したアルカリ現像可能な感光性プレポリマが広く使用されている。また、耐クラック性を改善するために、特開2002‐162738号公報に示されるような、感光性樹脂組成物中にエラストマを加える手法も実用化されている。しかし、上記、感光性樹脂組成物は、はんだ耐熱性等には優れるが、近年のHASTの試験条件では絶縁信頼性が十分ではなくさらなる耐性の向上が要求されている。
また、従来の液状2液タイプのソルダーレジストであるため、硬化剤のエポキシ樹脂と現像性付与に必要なカルボン酸を有する感光性プレポリマが、室温で反応するため、2液混合後の安定性(ポットライフ)に問題があり、また、これのドライフィルム化を行うと保管安定性に課題があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭61‐243869号公報
【特許文献2】特開2002‐162738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は保管安定性に優れ、かつ、HAST耐性に優れた感光性樹脂組成物、及びこれを用いたドライフィルムタイプのアルカリ現像可能な感光性永久レジスト、感光性フィルムを提供することを目的とする。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明における(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びそれに対応するメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレート及びそれに対応するメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基及びそれに対応するメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリロキシ基とはアクリロキシ基及びそれに対応するメタクリロキシ基を意味する。
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下であるカルボキシル基、及び光重合性不飽和基を有する感光性プレポリマ、(B)分子中に少なくとも1個以上のエチレン性不飽和基を有する光重合性モノマ、(C)光重合開始剤、(D)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂、(E)硬化促進剤、を含有する。
本発明の大きな特徴となすところは、感光性樹脂組成物の塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下になるところにあり、感光性樹脂組成物として、高純度な(A)カルボキシル基、及び光重合性不飽和基を有する感光性プレポリマ、と高純度な(D)エポキシ樹脂、を用いるところに特徴がある。
本発明で用いる(A)カルボキシル基、及び光重合性不飽和基を有する感光性プレポリマは、高純度で塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下であるあればいずれでもよいが、高純度な感光性プレポリマは作製することが難しく、以下に述べる化合物を使用するのが望ましい。
【0007】
本発明の感光性プレポリマとしては、例えば、(a)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物と分子中にエチレン性不飽和基を有するモノカルボン酸化合物とを反応させて得られるエポキシカルボキシレート化合物、(b)ジイソシアネート化合物、(c)カルボキシル基を有するジオール化合物、(d)分子中にエチレン性不飽和基を有するエポキシ化合物、を反応させて得られる、塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下であるポリウレタン化合物を用いることが望ましい。特開昭61‐243869号公報に示されるようなクレゾールノボラック型エポキシ樹脂にアクリル酸を付加し、その後、酸変性したアルカリ現像可能な感光性プレポリマに比べ、本ポリウレタン化合物は、ジオール、及びジイソシアネートを用いることで塩素と加水分解性塩素量の含有量を低減し易く高純度化が可能な点で特徴がある。また、高純度なエポキシ樹脂は、製造工程が複雑となり、一般的に高価となるが、本ポリウレタン化合物では感光性プレポリマ中のエポキシ樹脂含有量が少なくて済み価格の面からも有効である。また、上記ポリウレタン化合物は、ウレタン構造に起因した強靭かつ伸びに優れた硬化膜となり、耐クラック性に優れたソルダーレジストとなる。
【0008】
ここで、ポリウレタンの主骨格の一つとなる原料の分子内に2個以上の水酸基とエチレン性不飽和基を有するエポキシアクリレート化合物のハードセグメント部の構造はビスフェノールA型構造のものが好ましく、このようなものは、UXEシリーズ(日本化薬株式会社製)として市販されており、UXE-3011、UXE-3012、UXE-3024(サンプル名、日本化薬株式会社製)として入手可能である。」

ウ 「【0023】
本発明で用いる(D)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂、としては、一般的にエポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンを反応させて得られるが、その反応の際に不純物として発生する塩素や加水分解性塩素が少ないものを示している。具体的には、本発明では、塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下のものを用いる。
なお、加水分解性塩素とは、水の存在下に容易に加水分解して塩素イオンを発生するものを指し、樹脂を溶剤に溶解しアルカリで所定温度、所定時間処理を行い、塩素を分解して発生する塩を、電位差滴定により定量することが可能である。
【0024】
上記エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、分子蒸留し高純度化している、YD-8125、YDF-8170C、ZX-1059やYD-825GS、YDF-870GS、ZX-1658、ZX-1627(製品名、東都化成株式会社製)、YX-8000、YX-8034(製品名、ジャパンエポキシレジン株式会社製)、N-655EXP-S、N-665EXP、N-670EXP-S、N-672EXP、N-685EXP-S(製品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、R140P、R140S、R140Q(製品名、三井化学株式会社製)、ED-509S、ED-518S(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、高純度であれば良く、上記に限られるものではない。また、上記エポキシ樹脂であって、室温(25℃)で固体であり、軟化点が30℃?100℃、さらに望ましくは軟化点が50℃?100℃であるエポキシ樹脂を用いることが望ましい。」

エ 「【0038】
本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを用いたレジストパターンの形成方法は、初めに、其々、公知のスクリーン印刷、ロールコータにより塗布する工程、又はラミネート等により貼り付ける工程により、レジストを形成する基板上に積層する。次いで、必要に応じて上述した感光性フィルムから保護フィルムを除去する除去工程を行い、活性光線を、マスクパターンを通して、感光性樹脂組成物層の所定部分に照射して、照射部の感光性樹脂組成物層を光硬化させる露光工程を行う。照射部以外の感光性樹脂組成物層は、次の現像工程により除去される。なお、レジストを形成する基板とは、プリント配線板、半導体パッケージ用基板、フレキシブル配線板を指す。
活性光線の光源としては、公知の光源、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等の紫外線を有効に放射するものが用いられる。また、写真用フラッド電球、太陽ランプ等の可視光を有効に放射するものも用いられる。
【0039】
現像工程では、現像液として、例えば、20?50℃の炭酸ナトリウムの希薄溶液(1?5重量%水溶液)等のアルカリ現像液が用いられ、スプレー、揺動浸漬、ブラッシング、スクラッピング等の公知の方法により現像する。
上記現像工程終了後、はんだ耐熱性、耐薬品性等を向上させる目的で、高圧水銀ランプによる紫外線照射や加熱を行うことが好ましい。紫外線を照射させる場合は必要に応じてその照射量を調整することができ、例えば0.2?10J/cm^(2)程度の照射量で照射を行うこともできる。また、レジストパターンを加熱する場合は、100?170℃程度の範囲で15?90分程行われることが好ましい。さらに紫外線照射と加熱とを同時に行うこともでき、いずれか一方を実施した後、他方を実施することもできる。紫外線の照射と加熱とを同時に行う場合、はんだ耐熱性、耐薬品性等を効果的に付与する観点から、60?150℃に加熱することがより好ましい。
この感光性樹脂組成物層は、基板にはんだ付けを施した後の配線の保護膜を兼ね、優れた耐クラック性、HAST耐性、金めっき性を有するので、プリント配線板用、半導体パッケージ基板用、フレキシブル配線板用のソルダーレジストとして有効である。
このようにしてレジストパターンを備えられた基板は、その後、半導体素子などの実装(例えば、ワイヤーボンディング、はんだ接続)がなされ、そして、パソコン等の電子機器へ装着される。」

オ 「【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1?4、比較例1?3)
表1に示す各成分をそこに示す固形分の配合比(質量基準)で混合することにより、感光性樹脂組成物溶液を得た。なお、表中、樹脂(2)は、カルボキシル基含有アクリルポリマで、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルの共重合体で重量平均分子量100000、酸価110mgKOH/gである。
その他、市販の材料として、ポリウレタン化合物(UXE-3024、日本化薬株式会社製)、ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレート(FA-321M、日立化成工業株式会社製、商品名)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬株式会社製、商品名)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフェリノフェニル)-ブタノン-1(I-369、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポトートYD-8125、東都化成株式会社製、商品名)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-685EXP-S、大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)、希釈剤には、メチルエチルケトンを使用した。
【0041】
【表1】

【0042】
「UXE-3024」:ポリウレタン化合物(日本化薬株式会社製、サンプル名、重量平均分子量:10000、酸価:60mgKOH/g)。
「ZFR-1158」:酸変性ビスフェノールF型エポキシアクリレート(日本化薬株式会社製、商品名、重量平均分子量:10000、酸価:60mgKOH/g)。
「ZAR-2003H」:酸変性ビスフェノールA型エポキシアクリレート(日本化薬株式会社製、商品名、重量平均分子量:13000、酸価:82mgKOH/g)。
「樹脂(1)」:カルボキシル基含有アクリル樹脂(メタクリル酸/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチルを共重合させて得られた、重量平均分子量100000、酸価110mgKOH/g)
「FA-321M」:2,2-ビス(4-(メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル)プロパン(日立化成工業株式会社製、商品名)。
「IRGACURE-369」:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)。
「YD8125」:分子蒸留品、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名)
「YDF-8170C」:分子蒸留品、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名)
「N-685EXP-S」:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(高純度品、大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)
「エピコート828」:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(標準品、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)
「YD011」:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(標準品、東都化成株式会社製、商品名)
「YX4000H」:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)。
「BMI-5100」:3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’- ジフェニルメタンビスマレイミド(大和化成工業株式会社製、商品名)
「バリエースB-30」:硫酸バリウム「バリエースB-30」(堺化学工業株式会社製、商品名)
【0043】
次いで、この感光性樹脂組成物溶液を支持層である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(G2-16、帝人株式会社製、商品名)上に均一に塗布することにより感光性樹脂組成物層を形成し、それを、熱風対流式乾燥機を用いて100℃で約10分間乾燥した。感光性樹脂組成物層の乾燥後の膜厚は、25μmであった。
続いて、感光性樹脂組成物層の支持層と接している側とは反対側の表面上に、ポリエチレンフィルム(NF-15、タマポリ株式会社製、商品名)を保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルムを得た。
【0044】
[塗膜性の評価]
得られた感光性フィルムに対し、露光を行わずに、感光性フィルム上のポリエチレンテレフタレートを剥離し、その塗膜表面に指を軽く押し付け、指に対する張り付き程度を以下の基準で評価した。すなわち、指に対する張り付きが認められない、または、ほとんど認められないものは「○」とし、指に対する張り付きが認められるものは「×」とした。結果を表2に示した。
【0045】
[はんだ耐熱性の評価]
12μm厚の銅箔をガラスエポキシ基材に積層したプリント配線板用基板(E-679、日立化成工業株式会社製、商品名)の銅表面を砥粒ブラシで研磨し、水洗後、乾燥した。このプリント配線板用基板上に連プレス式真空ラミネータ(MVLP-500、株式会社名機製作所製、商品名)を用いて、プレス熱板温度70℃、真空引き時間20秒、ラミネートプレス時間30秒、気圧4kPa以下、圧着圧力0.4MPaの条件の下、前記感光性フィルムのポリエチレンフィルムを剥離して積層し、評価用積層体を得た。
評価用積層体上に、ネガとして2mm角のパターンを有するフォトツールを密着させ、株式会社オーク製作所社製EXM‐1201型露光機を使用して、ストーファー21段ステップタブレットの現像後の残存ステップ段数が8.0となるエネルギー量で露光を行った。次いで、常温(25℃)で1時間静置した後、該積層体上のポリエチレンテレフタレートを剥離し、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液で、最小現像時間(未露光部が現像される最小時間)の1.5倍の時間でスプレー現像を行い、パターンを形成した。
続いて、株式会社オーク製作所社製紫外線照射装置を使用して1J/cm^(2)のエネルギー量で紫外線照射を行い、更に160℃で60分間加熱処理を行うことにより、2mm角の開口部を有するソルダーレジストを形成した評価用積層体基板を得た。
次いで、該評価用基板にロジン系フラックス(MH-820V、タムラ化研株式会社製、商品名)を塗布した後、260℃のはんだ浴中に30秒間浸漬してはんだ処理を行った。
このようにしてはんだめっきを施された評価基板上のソルダーレジストのクラック発生状況並びに基板からのソルダーレジストの浮き程度及び剥離程度を目視により観察し、次の基準で評価した。すなわち、ソルダーレジストのクラックの発生が認められず、ソルダーレジストの浮き及び剥離も認められないものは「○」とし、それらのいずれかが認められるものは「×」とした。結果を表2に示した。
【0046】
[金めっき性の評価]
上述のソルダーレジストを形成した評価用積層体基板を市販の無電解ニッケル/金めっき液を用いて、ニッケルめっき厚5μm、金めっき厚0.1μmとなるようにめっきを行い、ソルダーレジストの外観を観察し次の基準で評価した。すなわち、ソルダーレジストに白化が認められないものは「○」とし、認められるものは「×」とした。結果を表2に示した。
【0047】
[クラック耐性の評価]
上述のソルダーレジストを形成した評価用積層体基板を、-55℃の大気中に15分間晒した後、180℃/分の昇温速度で昇温し、次いで、125℃の大気中に15分間晒した後、180℃/分の降温速度で降温する熱サイクルを1000回繰り返した。このような環境下に晒した後、評価基板の永久レジスト膜のクラック及び剥離程度を100倍の金属顕微鏡により観察し、次の基準で評価した。すなわち、永久レジスト膜のクラック及び剥離を観察できなかったものは「○」とし、それらのいずれかを確認できたものは「×」とした。結果を表2に示した。
【0048】
[HAST耐性の評価]
12μm厚の銅箔をガラスエポキシ基材に積層したプリント配線板用基板(E-679、日立化成工業株式会社製、商品名)の銅表面を、エッチングによりライン/スペースが50μm/50μmのくし型電極を形成した。この基板を評価基板とし、基板上に上述のようにレジストの硬化物を形成し、その後、130℃、85%RH、5V条件下に100時間試験した。その後、マイグレーションの発生の程度を、100倍の金属顕微鏡により観察し、次の基準で評価した。すなわち、永久レジスト膜に大きなマイグレーションが発生しなかったものは「○」とし、大きくマイグレーションが発生したものは「×」とした。結果を表2に示した。
【0049】
[保管安定性]
作製した感光性フィルムを室温(25℃)で10日間放置した後、前記の露光、現像、UV照射、加熱工程を経て形成されたパターンを実体顕微鏡で観察し以下の基準にて判定した。結果を表2に示した。
○ 未露光部分に樹脂残りがないもの
× 未露光部分に樹脂残りがあるもの
【0050】
【表2】

【0051】
本発明によれば、保管安定性に優れ、かつ、HAST耐性に優れた感光性樹脂組成物、及びドライフィルムタイプのアルカリ現像可能な感光性ソルダーレジスト、を提供することができる。」

(2)上記記載から、引用文献には次の技術事項が示されている。
記載事項オの表1には、実施例4の感光性樹脂組成物溶液が、固形分の配合比(質量基準)で、(A)成分としてUXE-3024を60、(B)成分としてDPHAを10及びFA-321Mを30、(C)成分としてI-369を1.5、(D)成分としてYD-8125を20、(E)成分としてジシアンジアミドを1.0、(G)成分としてSP-1108を2.0、(H)成分としてB-30を40及び微粉シリカを10、その他成分としてフタロシアニンブルーを0.2を、混合することにより得たものであることが開示されている。

(3)記載事項オ及び上記技術事項に基づけば、引用文献1には、実施例4として、以下の発明が記載されていると認められる。
「固形分の配合比(質量基準)で、(A)成分としてUXE-3024を60、(B)成分としてDPHAを10及びFA-321Mを30、(C)成分としてI-369を1.5、(D)成分としてYD-8125を20、(E)成分としてジシアンジアミドを1.0、(G)成分としてSP-1108を2.0、(H)成分としてB-30を40及び微粉シリカを10、その他成分としてフタロシアニンブルーを0.2の各成分を混合することにより感光性樹脂組成物溶液を得て、
次いで、この感光性樹脂組成物溶液を支持層である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布することにより感光性樹脂組成物層を形成し、それを、熱風対流式乾燥機を用いて100℃で約10分間乾燥し、
続いて、感光性樹脂組成物層の支持層と接している側とは反対側の表面上に、ポリエチレンフィルムを保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルムを得て、
プリント配線板用基板上に連プレス式真空ラミネータを用いて、プレス熱板温度70℃、真空引き時間20秒、ラミネートプレス時間30秒、気圧4kPa以下、圧着圧力0.4MPaの条件の下、前記感光性フィルムのポリエチレンフィルムを剥離して積層し、評価用積層体を得て、
評価用積層体上に、ネガとして2mm角のパターンを有するフォトツールを密着させ、露光機を使用して、ストーファー21段ステップタブレットの現像後の残存ステップ段数が8.0となるエネルギー量で露光を行い、
次いで、常温(25℃)で1時間静置した後、該積層体上のポリエチレンテレフタレートを剥離し、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液で、最小現像時間(未露光部が現像される最小時間)の1.5倍の時間でスプレー現像を行い、パターンを形成し、
続いて、紫外線照射装置を使用して1J/cm^(2)のエネルギー量で紫外線照射を行い、
更に160℃で60分間加熱処理を行うことにより、2mm角の開口部を有するソルダーレジストを形成した評価用積層体基板を得る方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-15158号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化、小型化、軽量化に伴い、これら電子機器に用いられる電子部品に対しても、さらなる小型化、軽薄化が要求されている。そのため、プリント配線板上での半導体素子などの高密度実装や、配線の微細化、プリント配線板の多層化等を行うことにより、電子部品の高機能化や高性能化を図ることが求められている。また、配線の微細化に対応するためには、配線を保護する必要があるが、この配線の保護には、高い電気絶縁性を有する絶縁材料が用いられる。該絶縁材料としては、例えば、感光性材料が用いられている。このような感光性材料は、プリント配線板において、プリント配線板表面やパターン回路を保護するための保護層の形成、多層プリント配線板の層間絶縁層の形成に加えて、プリント配線板の基板上へのパターン化された回路(パターン回路)の形成など種々の用途に用いられている。
【0003】
従来、プリント配線板表面やパターン回路を保護するために感光性材料を用いて保護層を形成する場合、可撓性のあるフレキシブルプリント配線板(Flexible Print Circuit Board、以下、「FPC」ともいう)の表面に、カバーレイフィルムと呼ばれる感光性の高分子フィルムが貼り合わされる。この際、主としてエポキシ系やアクリル系等の接着剤を用いて貼り合わされる。このような接着剤を用いると、カバーレイフィルムとして用いられている高分子フィルムの性能を充分活かすことができず、得られるプリント配線板の(1)半田耐熱性や高温時の接着強度などが低い、(2)可撓性に乏しい等の問題がある。
【0004】
さらに、カバーレイフィルムを、FPC上の正しい位置に貼り合わせるための位置合わせは、ほとんど手作業に近い。そのため、作業性及び位置精度が悪く、またコストがかかるという問題がある。
【0005】
そこで、プリント配線板の品質向上、作業性の向上、及び位置精度の向上を図る技術の開発が進められている。そのような技術としては、例えば、感光性樹脂組成物の溶液をFPCの導体面に塗布・乾燥し保護層を形成する方法、フィルム状感光性ドライフィルムレジスト(感光性カバーレイフィルムとも呼ばれる)を積層する方法等が挙げられる。
【0006】
上記フィルム状感光性材料は、液状の感光性材料に比べて、膜厚の均一性や作業性に優れている。そのため、フィルム状感光性材料は、プリント配線板の基板上へのパターン回路の形成に用いるパターン回路用レジストフィルム(パターン回路の形成に用いる感光性ドライフィルムレジスト)、プリント配線板表面やパターン回路の保護層の形成に用いる感光性カバーレイフィルム、及び多層プリント配線板の層間絶縁層の形成に用いる感光性ドライフィルムレジストとして、幅広い用途に用いられている。
【0007】
感光性ドライフィルムレジストを用いて、プリント配線板に絶縁保護層を形成する場合、例えば、まず、該感光性ドライフィルムレジストを、回路基板上に、ラミネート等により積層する。続いて、該感光性ドライフィルムレジストを露光し、その後、現像及び洗浄を行う。そして、最後に、該感光性ドライフィルムレジストを加熱することにより、該感光性ドライフィルムレジストを硬化させる。こうして、プリント配線板に絶縁保護層が形成される。
【0008】
上記感光性ドライフィルムレジストの現像では、一般的に現像液として、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムといったアルカリが用いられる。これらの現像液に含まれるNaイオンやKイオンが最終的に絶縁保護層(レジスト)表面に残存すると、高温高湿下での絶縁信頼性が低下するという問題がある。そのため、上記のように、現像後に洗浄を行うことによって、NaイオンやKイオンを除去する。ここで、NaイオンやKイオンを効率よく除去するために、様々な技術が開発されている(特許文献1?4を参照)。
【0009】
具体的には、特許文献1には、感光性ポリイミド樹脂を用いて基板上に形成された塗膜を露光、アルカリ現像した後、25℃の水溶液中で測定した酸解離指数pK_(a)が5.0以下の酸性化合物を含有する水溶液からなるリンス液を用いて洗浄することが記載されている。さらに、上記リンス液は、酸性化合物の濃度が0.005?10.0Mの範囲であること、非プロトン性極性溶媒を0.01?30重量%の範囲でさらに含有することが記載されている。また、これにより、処理工程中の剥離を抑制しつつ、熱処理によりイミド化したポリイミド膜の物性を回復することができ、金属薄膜との間の密着力も回復することができることが記載されている。
【0010】
また、特許文献2には、導体パターンの表面に塗布した液体レジストを露光し、アルカリ現像した後、Caイオン濃度を17?20mg/Lにした水洗用液を用いて水洗することが記載されている。また、上記水洗用液は、イオン交換による純水にCaCl_(2) を添加して作製されることが記載されている。
【0011】
特許文献3には、永久マスクレジストの製造法において、基板上の感光性樹脂組成物の層に、活性光線を照射し、ついで現像し、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを混合又は溶解させてなる水洗液で水洗することが記載されている。
【0012】
さらに、特許文献4には、回路配線パターンの表面保護層として感光性絶縁樹脂を塗布又はラミネートした後、露光、現像、水洗、硬化処理により表面保護層を形成する工程に於いて、現像後の水洗工程に於ける水洗水に、Caイオン又はMgイオンより選ばれる少なくとも1種を50ppm?500ppm含ませることが記載されている。
【特許文献1】特開平11-352701号公報(平成11(1999)年12月24日公開)
【特許文献2】特開2000-208904号公報(平成12(2000)年7月28日公開)
【特許文献3】特開2002-162739号公報(平成14(2002)年6月7日公開)
【特許文献4】特開2002-305368号公報(平成14(2002)年10月18日公開)」

(2)「【0275】
(I-4)洗浄工程
上記露光・現像工程後、露光及び現像された感光性ドライフィルムレジストを、リンス液にて洗浄する。
【0276】
上記リンス液としては、Mgイオン又はCaイオンを含有する水溶液、又は酸性水溶液を用いることが好ましい。
【0277】
上記Mgイオン又はCaイオンを含有する水溶液は、Mgイオン又はCaイオンを10ppm?1000ppm含有することが好ましく、50ppm?800ppm含有することがより好ましく、100ppm?500ppm含有することがさらに好ましい。このようなMgイオン又はCaイオンを含有する水溶液は、Mg塩又はCa塩を水に溶解することにより得ることができる。上記Mg塩は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、及び水酸化マグネシウム等を挙げることができる。上記Ca塩もまた、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、及び水酸化カルシウム等を挙げることができる。これらのMg塩及びCa塩は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、Mg塩とCa塩とを組み合わせて用いてもよい。

(中略)

【0279】
本発明では、感光性ドライフィルムレジストに含有されるバインダーポリマーはカルボキシル基(酸性官能基)を有する。そのため、上記露光・現像工程においてアルカリ現像した際、現像液に含まれるNaイオンやKイオンと、上記バインダーポリマーのカルボキシル基とがイオン結合を形成する。このバインダーポリマーのカルボキシル基とイオン結合したNaイオン及びKイオンが、最終的にレジストに残存すると、得られるプリント配線板の絶縁信頼性が低下する。具体的には、NaイオンやKイオンは、物理的に不安定な1価の陽イオンである。そのため、NaイオンやKイオンやレジストに残存していると、配線パターン上で電解質として働く。その結果、高温高湿下での絶縁信頼性に悪影響を及ぼす。そのため、アルカリ現像処理後、上記バインダーポリマーのカルボキシル基の水素と置換されたNaイオンやKイオンを洗浄により除去する。従来は、この洗浄工程において、リンス液として水道水での水洗、イオン交換水での水洗を適宜組み合わせて行っていた。水道水にも微量のCaイオンは含まれるものの、十分な洗浄効果は得られず、また成分も不安定なため、品質も安定しなかった。
【0280】
しかし、上記Mgイオン又はCaイオンを10ppm?1000ppm含有する水溶液によれば、上記バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンをMgイオン又はCaイオンによって置換し、NaイオンやKイオンを完全に除去することができる。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-71966号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の製造方法では、水の薄い層を均一に付着させるため、基板表面を清浄にしなければならず、また、小径スルーホール等が存在する場合は、スルーホール中に溜まった水分と感光性樹脂組成物層とが反応を起こしやすく、現像性を低下させるため、充分な製造歩留まりが得られない等の問題があった。

(中略)

【0016】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、永久レジストとしての可とう性、はんだ耐熱性及び耐薬品性を低下させずに、十分な耐湿絶縁性を示し、且つ、十分な凹凸追従性を示す永久レジストを形成することが可能な永久レジストの製造方法及びプリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、支持フィルム、膜厚が20?100μmのクッション層及び感光層がこの順に積層されてなる感光性フィルムを、基板上に、上記感光層が上記基板と隣接するように積層する積層工程と、上記感光層の所定部分に活性光線を照射して露光部を形成する露光工程と、上記感光層の上記露光部以外の部分を除去する現像工程と、上記露光部を水洗する水洗工程と、を含み、上記感光層は、(A)カルボキシル基を有するバインダーポリマー、(B)分子内に少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、及び、(C)光重合開始剤を含有してなる層であり、上記現像工程及び/又は上記水洗工程は、上記感光層における上記(A)カルボキシル基を有するバインダーポリマーが下記一般式(I):
-(COO^(-))_(n)・X^(n+) (I)
[式中、X^(n+)はn価の金属イオンを示し、nは2以上の整数を示す。]
で表わされる基を有するものとなるように、2価以上の金属イオンを含む現像液及び/又は水洗液で処理する工程であることを特徴とする永久レジストの製造方法を提供する。」

(2)「【0077】
上記水洗工程は、現像液を洗い流すために、基板18上に形成された感光層14の露光部を水洗液により洗浄することによって行われる。
【0078】
本発明の永久レジストの製造方法において、上記現像工程及び/又は上記水洗工程は、感光層14における(A)カルボキシル基を有するバインダーポリマーが、下記一般式(I):
-(COO^(-))_(n)・X^(n+) (I)
[式中、X^(n+)はn価の金属イオンを示し、nは2以上の整数を示す。]
で表わされる基を有するものとなるように、2価以上の金属イオンを含む現像液及び/又は水洗液で処理する工程である。
【0079】
ここで、現像液及び/又は水洗液に含有される2価以上の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等のイオンが挙げられるが、多価金属の陽イオンとなりやすく、上記一般式(I)で表される基を構成して物理的に安定な状態となり、永久マスクレジスト表面の耐湿絶縁性を十分に向上させることができる観点から、アルカリ土類金属のイオンであることが好ましい。
【0080】
上記アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ベリリウム等が挙げられるが、永久マスクレジスト表面の耐湿絶縁性を十分に向上させることができ、また、材料入手がしやすいといった見地から、カルシウム又はマグネシウムであることが好ましい。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-300873号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記の特許文献1?2に記載されている末端ハーフエステル化イミドシロキサンオリゴマーを含む樹脂組成物を用いた回路基板の製造方法では、末端ハーフエステル化イミドシロキサンオリゴマーを含む感光性樹脂組成物から形成される硬化膜表面の濡れ性が悪く、各種封止剤との密着性に劣り、また、露光・現像処理により微細パターンを形成する際、柔軟なシロキサン骨格を有するため、現像液中のイオン性不純物が塗膜内部の深層部まで取り込まれ、このイオン性不純物が熱硬化を阻害するため、電気絶縁信頼性に劣るという問題がある。
【0010】
上記の特許文献3では、金属イオンを混合又は溶解させてなる水洗液や現像液で水洗現像する工程を経由するため、硬化膜中に現像液中のイオン性不純物が混入しにくく、熱硬化反応を阻害しないものの、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる感光性樹脂組成物を用いているため、ポリイミド型やポリアミド酸型の感光性樹脂組成物をカバーコートインクとして用いた場合と比べ、高温高湿下での電気絶縁信頼性や耐熱性に乏しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、基板上に感光性樹脂組成物硬化膜を形成する際に、少なくとも、現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程を経由することにより、感光性を有するため微細加工が可能であり、希アルカリ水溶液で現像可能であり、低温(200℃以下)で硬化可能であり、柔軟性に富み、電気絶縁信頼性、ハンダ耐熱性、耐有機溶剤性、封止剤との密着性に優れ、硬化後の基板の反りが小さい感光性樹脂組成物硬化膜が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本願発明にかかる回路基板の製造方法は、少なくとも、(1)感光性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程と、(2)露光工程、さらに(3)アルカリ現像工程を経て、(4)アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程を経由した後、(5)熱硬化工程によって基板上に感光性樹脂組成物硬化膜を形成することを特徴とする回路基板の製造方法であって、上記感光性樹脂組成物が、(A)イミド化したテトラカルボン酸、(B)ジアミノ化合物及び/又はイソシアネート系化合物、(C)感光性樹脂、(D)光重合開始剤を少なくとも含有することを特徴とする回路基板の製造方法である。
【0013】
また、本願発明にかかる回路基板の製造方法では、上記(A)イミド化したテトラカルボン酸は、テトラカルボン酸ウレタンイミドオリゴマーであることが好ましい。
【0014】
また、本願発明にかかる回路基板の製造方法では、上記(4)アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程で用いられる洗浄液が、酸性化合物を含有する水溶液であることが好ましい。
【0015】
また、本願発明にかかる回路基板の製造方法では、上記酸性化合物を含有する水溶液の濃度が0.005?0.5Mであることが好ましい。
【0016】
また、本願発明にかかる回路基板の製造方法では、上記(4)アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程で用いられる洗浄液が、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液であることも好ましい。
【0017】
また、本願発明にかかる回路基板の製造方法では、上記カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液のイオン濃度が50?5000ppmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の回路基板の製造方法は、以上のように、基板上に感光性樹脂組成物硬化膜を形成する際に、少なくとも、現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程を経由することにより、感光性を有するため微細加工が可能であり、希アルカリ水溶液で現像可能であり、低温(200℃以下)で硬化可能であり、柔軟性に富み、電気絶縁信頼性、ハンダ耐熱性、耐有機溶剤性、封止剤との密着性に優れ、硬化後の基板の反りが小さい感光性樹脂組成物硬化膜を形成することができる。従って、本願発明の回路基板の製造方法は、種々の回路基板の製造に使用でき、優れた効果を奏するものである。」

(2)「【0030】
<(4)アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程>
本願発明の(4)アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程とは、例えば、酸性化合物を含有する水溶液、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液などの洗浄液を用いて、アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を除去する工程のことである。ここで、洗浄方式としては、シャワー、パドル、浸漬または超音波等の各種方式を用いることができる。尚、洗浄装置の噴霧圧力や流速、洗浄液の温度によりイオン性不純物が除去されるまでの時間が異なる為、適宜最適な装置条件を見出すことが好ましい。

(中略)

【0035】
上記カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液としては、例えば、水道水、純水、イオン交換水などにカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを混合又は溶解させた水溶液が好ましく、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを混合又は溶解させる方法としては、例えば、硫酸カルシウム、塩酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等を水に混合又は溶解させることが好ましい。
【0036】
上記カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液のイオン濃度は、重量基準で、好ましくは50?5000ppm、さらに好ましくは100?2500ppm、特に好ましくは、250?1000ppmである。
【0037】
上記範囲内にカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液のイオン濃度を制御することにより、アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を効率的に除去することが可能となり、熱硬化反応が十分に進行し、硬化膜の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁信頼性に優れるので好ましい。」


第5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
1 本願の段落【0016】には、「本発明の高純度なエポキシ樹脂を含有した感光性樹脂組成物を用い、所定の開口パターンで露光し、希アルカリ水溶液により現像し、2価の金属イオンを含む水溶液を用いて処理した後、硬化させることにより、解像性、微細開口性(丸穴解像性)、金めっき耐性、はんだ耐性及びHAST耐性に優れたレジストパターンを形成させることができる。これにより得られた永久マスクレジストは、同等な性能を有し、プリント配線板、半導体パッケージ基板、フレキシブル配線板に最適なソルダーレジストを形成することができる。」(下線は合議体が付与した。)と記載されている。当該記載に基づけば本件発明の「基板」には、プリント配線板に用いられる基板も含まれるといえる。
そうすると、引用発明の「プリント配線板用基板」は本件発明の「基板」に相当するといえる。

2 引用発明の「UXE-3024」は、「(A)成分」として含有されるものである。ここで、引用文献1の記載事項イの「(A)塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下であるカルボキシル基、及び光重合性不飽和基を有する感光性プレポリマ」との記載によれば、引用文献1における「(A)成分」は「カルボキシル基、及び光重合性不飽和基を有する感光性プレポリマ」である。そして、引用文献1の記載事項イの「本発明の感光性プレポリマとしては、例えば、(a)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物と分子中にエチレン性不飽和基を有するモノカルボン酸化合物とを反応させて得られるエポキシカルボキシレート化合物、・・・を反応させて得られる、塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が100ppm以下であるポリウレタン化合物を用いることが望ましい。」及び「ポリウレタンの主骨格の一つとなる原料の分子内に2個以上の水酸基とエチレン性不飽和基を有するエポキシアクリレート化合物のハードセグメント部の構造はビスフェノールA型構造のものが好ましく、このようなものは、UXEシリーズ(日本化薬株式会社製)として市販されており、UXE-3011、UXE-3012、UXE-3024(サンプル名、日本化薬株式会社製)として入手可能である。」との記載によれば、「UXE-3024」は、光重合性不飽和基として、エチレン性不飽和基を有するものである。そうすると、引用発明の「UXE-3024」は、「カルボキシル基」及び「エチレン性不飽和基」を有する感光性プレポリマであるといえる。
したがって、引用発明の「感光性樹脂組成物層」を構成する(A)成分の「UXE-3024」は、本件発明の「(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂」に相当する。

3 引用発明の「DPHA」及び「FA-321M」は、「(B)成分」として含有されるものである。ここで、引用文献1の記載事項イの「(B)分子中に少なくとも1個以上のエチレン性不飽和基を有する光重合性モノマ」との記載によれば、引用文献1における「(B)成分」は、エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマであるといえる。そうすると、引用発明の「DPHA」及び「FA-321M」は、エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマであるといえる。
したがって、引用発明の「感光性樹脂組成物層」を構成する(B)成分の「DPHA」及び「FA-321M」は、本件発明の「(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマー」に相当する。

4 引用発明の「I-369」は、「(C)成分」として含有されるものである。ここで、引用文献1の記載事項イの「(C)光重合開始剤」との記載によれば、引用文献1における「(C)成分」は、光重合開始剤として作用するものといえる。そうすると、引用発明の「I-369」は、光重合開始剤であるといえる。
したがって、引用発明の「感光性樹脂組成物層」を構成する(C)成分の「I-369」は、本件発明の「(c)光重合開始剤」に相当する。

5 引用発明の「YD-8125」は「(D)成分」として含有されるものである。ここで、引用発明1の記載事項イの「(D)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂」との記載によれば、引用文献1における「(D)成分」は「塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂」である。そうすると、引用発明の「YD-8125」は「塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂」であるといえる。
したがって、引用発明の「感光性樹脂組成物層」を構成する(D)成分の「YD-8125」と本件発明の「(d)塩素含有量が500ppm以下であるエポキシ樹脂」とは、「(d)」「エポキシ樹脂」である点で共通する。

6 上記2ないし5より、引用発明の「固形分の配合比(質量基準)で、(A)成分としてUXE-3024を60、(B)成分としてDPHAを10及びFA-321Mを30、(C)成分としてI-369を1.5、(D)成分としてYD-8125を20、(E)成分としてジシアンジアミドを1.0、(G)成分としてSP-1108を2.0、(H)成分としてB-30を40及び微粉シリカを10、その他成分としてフタロシアニンブルーを0.2の各成分を混合することにより感光性樹脂組成物溶液を得て、次いで、この感光性樹脂組成物溶液を支持層である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布すること」により形成された「感光性樹脂組成物層」と本件発明の「(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)塩素含有量が500ppm以下であるエポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層」とは、「(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)」「エポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層」である点で共通する。

7 引用発明の「感光性フィルム」は、「感光性樹脂組成物層の支持層と接している側とは反対側の表面上に、ポリエチレンフィルムを保護フィルムとして貼り合わせ」たものである。したがって、引用発明における「感光性フィルムのポリエチレンフィルムを剥離」したものは、上記1における「プリント配線板用基板」上に、上記6における「感光性樹脂組成物層」を設けたものである。
そうすると、引用発明の「プリント配線板用基板上に連プレス式真空ラミネータを用いて、プレス熱板温度70℃、真空引き時間20秒、ラミネートプレス時間30秒、気圧4kPa以下、圧着圧力0.4MPaの条件の下、前記感光性フィルムのポリエチレンフィルムを剥離して積層し、評価用積層体を得」る工程と、本件発明の「基板上に、(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)塩素含有量が500ppm以下であるエポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層を設け」る工程とは、「基板上に、(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)」「エポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層を設け」る工程である点で共通する。

8 引用発明では、「評価用積層体上に、ネガとして2mm角のパターンを有するフォトツールを密着させ、露光機を使用して、ストーファー21段ステップタブレットの現像後の残存ステップ段数が8.0となるエネルギー量で露光を行」うことにより、評価用積層体の感光性樹脂組成物層のネガにより覆われていない所定部分が、光重合反応により硬化しているといえる。そして、引用発明において「ストーファー21段ステップタブレットの現像後の残存ステップ段数が8.0となるエネルギー量で露光」するに際して用いられる光線は、本件発明の「活性光線」に相当する。さらに、引用発明では、「30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液で、最小現像時間(未露光部が現像される最小時間)の1.5倍の時間でスプレー現像を行」うことにより、評価用積層体の感光性樹脂組成物層のネガにより覆われた所定部分以外の領域が除去されるといえる。
そうすると、引用発明の「評価用積層体上に、ネガとして2mm角のパターンを有するフォトツールを密着させ、露光機を使用して、ストーファー21段ステップタブレットの現像後の残存ステップ段数が8.0となるエネルギー量で露光を行い、次いで、常温(25℃)で1時間静置した後、該積層体上のポリエチレンテレフタレートを剥離し、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液で、最小現像時間(未露光部が現像される最小時間)の1.5倍の時間でスプレー現像を行い、パターンを形成」する工程は、本件発明の「前記感光層の所定部分を活性光線により硬化後、前記所定部分以外の前記感光層領域を除去」する工程に相当する。

9 引用発明の「2mm角の開口部を有するソルダーレジスト」は、レジストによるパターンが形成されたものといえる。そうすると、引用発明の「2mm角の開口部を有するソルダーレジストを形成した評価用積層体基板を得る方法」は、本件発明の「レジストパターンの形成方法」に相当する。

10 以上1ないし9より、本件発明と引用発明とは、
「基板上に、(a)エチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する樹脂と、(b)エチレン性不飽和基を有する光重合性モノマーと、(c)光重合開始剤と、(d)エポキシ樹脂と、を含有する感光性樹脂組成物からなる感光層を設け、前記感光層の所定部分を活性光線により硬化後、前記所定部分以外の前記感光層領域を除去するレジストパターンの形成方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明のエポキシ樹脂は、塩素含有量が500ppm以下であるのに対し、引用発明のYD-8125は、塩素含有量が明らかにされていない点。
[相違点2]本件発明は、2価の金属イオンを含有する水溶液で処理する工程を有するのに対し、引用発明は、2価の金属イオンを含有する水溶液で処理する工程を有さない点。


第6 判断
1 [相違点1]について
引用発明の「YD-8125」は、本件発明でいうところの「塩素含有量」について具体的な数値が明記されていない。しかし、引用発明の「YD-8125」は「(D)成分」として含有されるものである。そして、引用文献1の記載事項ウの「本発明で用いる(D)塩素含有量が200ppm以下であり、加水分解性塩素の含有量が500ppm以下である高純度なエポキシ樹脂、としては、一般的にエポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンを反応させて得られるが、その反応の際に不純物として発生する塩素や加水分解性塩素が少ないものを示している。」、「上記エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、分子蒸留し高純度化している、YD-8125、・・・等が挙げられる。」との記載によれば、引用文献1における「YD-8125」は、分子蒸留によって高純度化されたものであり、不純物として発生する塩素や加水分解性塩素が除去されたものであり、その含有量が少ないものといえる。そして、東都化成株式会社による市販品とされる上記「YD-8125」は、「塩素含有量が500ppm以下であるエポキシ樹脂」の具体例として、本願明細書の段落【0077】にも例示されるものである。
以上より、引用発明の「YD-8125」は、本件発明でいうところの「塩素含有量」が500ppm以下である蓋然性が高い。
よって、上記[相違点1]は、実質的な相違点ではない。

あるいは、引用文献1の記載事項ウの段落【0023】の記載に基づけば、引用発明は(D)成分として、塩素や加水分解性塩素が少ないものを要するとされている。当該記載を考慮すれば、引用発明の(D)成分として相違点1に係る本件発明の要件を満たすものを採用することは、当業者が容易になし得ることである。

2 [相違点2]について
引用文献2の記載事項(2)には、露光及び現像された感光性ドライフィルムレジストを、Mgイオン又はCaイオンを含有する水溶液をリンス液として洗浄することにより、バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンがMgイオン又はCaイオンによって置換され、NaイオンやKイオンが完全に除去されることが記載されている。また、バインダーポリマーのカルボキシル基とイオン結合したNaイオン及びKイオンが、最終的にレジストに残存すると、得られるプリント配線板の絶縁信頼性が低下することも記載されており、バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンをMgイオン又はCaイオンによって置換することにより、得られるプリント配線板の絶縁信頼性が向上することが理解できる。また、引用文献3の記載事項(2)にも、現像液を洗い流すための水洗工程を、アルカリ土類金属のイオンを含有する水洗液を用いて行うことが記載されており、水洗液に含有される2価以上の金属イオンがアルカリ土類金属のイオンであると、一般式(I)で表される基を構成して物理的に安定な状態となり、永久マスクレジスト表面の耐湿絶縁性を十分に向上させることも記載されている。また、引用文献3の記載事項(1)にも、十分な耐湿絶縁性を示す永久レジストを形成することが可能な永久レジストの製造方法を提供できると記載されている。さらに、引用文献4の記載事項(2)にも、アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去するにあたり、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水溶液などの洗浄液を用いることが記載されており、アルカリ現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を効率的に除去することで、熱硬化反応が十分に進行し、硬化膜の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁信頼性に優れることも記載されている。さらに、引用文献4の記載事項(1)にも、基板上に感光性樹脂組成物硬化膜を形成する際に、現像時に塗膜中に混入したイオン性不純物を洗浄することにより除去する工程を経由することにより、感光性を有するため微細加工が可能であり、希アルカリ水溶液で現像可能であり、低温(200℃以下)で硬化可能であり、柔軟性に富み、電気絶縁信頼性、ハンダ耐熱性、耐有機溶剤性、封止剤との密着性に優れ、硬化後の基板の反りが小さい感光性樹脂組成物硬化膜を形成することができることが記載されている。
以上のとおり、アルカリ現像を行ったレジストパターンにおいて、バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンをMgイオン又はCaイオンによって置換するために、Mgイオン又はCaイオンからなる2価の金属イオンを含有する水溶液で処理すること、及び、アルカリ現像時に混入したイオン性不純物を置換して除去することにより硬化膜の電気絶縁信頼性等の永久レジスト膜に要求される諸特性が優れたものとなることは、本願の出願前に、プリント配線板用などに用いられる感光性永久レジストの分野において広く知られていたことである。
そして、引用発明も、引用文献1の記載事項アによれば、プリント配線板用や半導体パッケージ基板用の感光性永久レジストに関する発明であって、絶縁耐性に優れた感光性永久レジストを提供しようとするものである。そして、引用発明は、カルボキシル基を有する感光性プレポリマを含有する感光性樹脂組成物層に露光を行い次いで炭酸ナトリウム水溶液で現像を行うものであるから、引用発明も、アルカリ現像時に感光性プレポリマが有するカルボキシル基にNaイオンが不純物として混入すると予測されるものである。そうすると、絶縁耐性に優れた感光性永久レジストを得ようとする引用発明において、本願の出願前に当該分野において広く知られた永久レジスト膜の電気絶縁信頼性の向上のために用いられる、2価の金属イオンを含有する水溶液で処理する工程を採用することは、当業者が容易に想到しうることであるといえる。そして、2価の金属イオンを含有する水溶液で処理する工程を採用することによる効果も、引用文献2?4の上記記載から当業者が把握できたものに過ぎない。
なお、本件明細書の段落【0100】には、「現像工程の際、現像液に含まれる1価のナトリウムイオンやカリウムイオンがソルダーレジスト表層に取り込まれてしまい、取り込まれた1価の陽イオンは、カルボン酸と1:1のイオン結合をしているものと考えられる。上記1価の陽イオンを2価の金属イオンに置換させることで、2価の金属イオンは、カルボン酸と1:2のイオン結合をすることが可能となる。すると見かけ上ソルダーレジスト表面の架橋が向上し、HAST耐性が向上するものと考えられる。上述のように現像後、2価の金属イオンを含む水溶液により処理することでHAST耐性を向上できる。」と記載されている。引用文献2?4には、見かけ上ソルダーレジスト表面の架橋が向上することについて言及されていない。しかしながら、引用文献2?4は、いずれもバインダーがアルカリ現像を行うに足りる量のカルボキシル基を有しており、Mgイオン又はCaイオンからなる2価の金属イオンを含有する水溶液で処理することにより、カルボン酸と2価の金属イオンがイオン結合するものである。2価の金属イオンは、当然2つのカルボン酸と結合するものであるから、引用文献2?4に記載されたように、アルカリ現像を行ったレジストパターンにおいて、バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンをMgイオン又はCaイオンによって置換するために、Mgイオン又はCaイオンからなる2価の金属イオンを含有する水溶液で処理することにより、2価の金属イオンがカルボン酸と1:2のイオン結合をすることとなることは、当業者にとって自明である。

3 請求人の主張
(1)請求の理由における主張
ア 請求人は、審判請求書の請求の理由の「(b-2)請求項1、2に係る理由3(進歩性)について」において、「引用文献1?3には、レジストパターンの形成方法において、2価の金属イオンを含有する水溶液を用いて処理することの動機はありません。」と主張している。
しかし、引用発明は、引用文献1の記載事項アによれば、従来よりソルダーレジストに要求されていた、現像性、高解像性、クラック耐性、絶縁信頼性及びはんだ耐熱性、金めっき耐性等について、更に優れたものとすることを課題としている。そして、引用文献1の記載事項エには、「上記現像工程終了後、はんだ耐熱性、耐薬品性等を向上させる目的で、高圧水銀ランプによる紫外線照射や加熱を行うことが好ましい。」という記載もあるから、引用発明は、従来よりソルダーレジストに供給されていた諸特性を向上させるための手段として、塩素と加水分解性塩素の含有量の合計が特定の範囲の感光性樹脂組成物を用いるという手段以外の解決手段の採用を排除しているものではない。
したがって、引用発明は、従来よりソルダーレジストに要求されていた諸特性を向上させることを課題とするものであり、そのような課題を解決するための手段を採用する動機があるといえる。

イ 請求人は、さらに、引用文献2?4について、「引用文献1?3に記載の感光性樹脂組成物を、2価の金属イオンを含有する水溶液を用いて処理することを含むレジストパターンの形成方法に適用する動機となる記載ないし示唆はありません。」と主張している。
しかし、引用文献2?4のいずれも、2価の金属イオンを含有する水溶液を用いた処理の作用機序を、アルカリ現像を行ったレジストパターンにおいて、バインダーポリマーのカルボキシル基に水素結合したNaイオンやKイオンをMgイオン又はCaイオンによって置換することであるとしており、絶縁信頼性が向上することも開示している。引用発明も、上記2において既に検討したとおり、カルボキシル基を有する感光性プレポリマを含有する感光性樹脂組成物層に露光を行い次いで炭酸ナトリウム水溶液で現像を行うものであるから、引用発明も、アルカリ現像時に感光性プレポリマが有するカルボキシル基にNaイオンが不純物として混入すると予測されるものである。
したがって、引用発明も引用文献2?4と同じ課題を内在することは当業者であれば当然理解できることであり、引用発明の感光性樹脂組成物において2価の金属イオンを含有する水溶液を用いて処理すれば、同様の作用効果をもたらすことは、当業者であれば自明のことに過ぎない。

(2)上申書における主張
請求人は平成29年6月9日付けの上申書の「(4)請求項1、2、4に係る理由2(進歩性)について」において、「引用文献1-3に記載の感光性樹脂組成物について、2価の金属イオンを含有する水溶液を用いて処理を行った場合に、引用文献1-3に記載の発明における課題を解決できるか否かは不明」とし、単に課題が共通しているからといって、引用文献2?4に記載の技術を適用する動機があるということはできないと主張している。
しかし、上記(1)イにおいて検討したとおり、引用発明の感光性樹脂組成物において2価の金属イオンを含有する水溶液を用いて処理すれば、同様の作用効果をもたらすことは、当業者であれば自明のことに過ぎない。
したがって、引用発明に引用文献2?4に記載の技術を適用する動機があることは明らかである。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明は引用発明および引用文献2?4に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-29 
結審通知日 2018-01-30 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2012-85521(P2012-85521)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石附 直弥高橋 純平  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 レジストパターンの形成方法、永久マスクレジスト及び感光性樹脂組成物  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  

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