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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1338920 |
審判番号 | 不服2018-187 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-09 |
確定日 | 2018-03-29 |
事件の表示 | 特願2012-284081「液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月13日出願公開,特開2014-44389〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2012-284081号(以下「本件出願」という。)は,平成24年12月27日(優先権主張 平成23年12月28日,平成24年7月31日)に出願された特許出願であって,その手続等の経緯は,以下のとおりである。 平成28年 7月25日付け:拒絶理由の通知 平成28年 9月29日 :意見書の提出 平成28年 9月29日 :手続補正書の提出 平成29年 2月28日付け:拒絶理由の通知 平成29年 4月24日 :意見書の提出 平成29年 4月24日 :手続補正書の提出 (この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。) 平成29年 9月29日付け:拒絶の査定(以下「原査定」という。) 平成30年 1月 9日 :審判請求書の提出 2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。 「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)を主成分とし,(A)と(B)の重量比が(A):(B)=80:20?20:80である,表面層が設けられており,該ポリエステルフィルムのリタデーションが3000?30000nmである,連続的な発光スペクトルを有する白色光源をバックライト光源とする液晶表示装置用偏光子保護フィルム(但し,該表面層は,オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を含まない)。」 3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。ここで,本願発明に関係して,原査定で引用された引用文献は,以下のとおりである。 引用文献3:特開2011-59488号公報(引用発明を示す文献) 引用文献4:特開2002-71921号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:特開2001-334623号公報(周知技術を示す文献) 第2 当合議体の判断 1 引用例の記載及び引用発明 (1) 引用例の記載 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された特開2011-59488号公報(以下「引用例」という。)には,以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと, 前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備え, 前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y),厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板。 【請求項2】 前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値である請求項1に記載の偏光板。 …(省略)… 【請求項8】 前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける前記偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備える請求項1?7のいずれかに記載の偏光板。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。 …(省略)… 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 そこで,本発明の目的は,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また,本発明のもう一つの目的は,前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0022】 <偏光板> 本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,該偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備えるものである。 …(省略)… 【0038】 (延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム) 本発明に用いる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し,横延伸してなる一層以上の一軸延伸フィルム,または,製膜後引き続いて縦延伸し,次いで横延伸してなる一層以上の二軸延伸フィルムである。ポリエチレンテレフタレートは,延伸により屈折率の異方性および,それらで規定される位相差値,Nz値,光軸を任意に制御することができ,本発明においては,必要な光学性能を効率よく付与できることから一軸延伸品が好ましく用いられる。 …(省略)… 【0071】 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて,上記縦延伸または横延伸における延伸倍率は,フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であるn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率であるn_(y),厚み方向の屈折率であるn_(z)を制御する上で最も重要な因子であり,一般的に延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの作製において,一軸延伸は,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が比較的小さい,二軸延伸は比較的大きいフィルムを作製することに適している。 【0072】 本発明の偏光板においては,かかる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとして,Nz係数が2.0未満であるものを用いる。このため,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,一軸延伸にて作製することが好ましい。このような光学性能の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用することで,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラを効果的に低減することが可能となる。Nz係数は,2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮し,好ましくは1.5以下,より好ましくは1.0以下である。Nz係数が2.0以上の場合は,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置において強い色ムラが発生し,視認性に劣るものとなる。Nz係数が2.0以上4未満である場合,色ムラ低減効果を得ることができない。なお,Nz係数が4以上である場合であっても色ムラ低減効果を得ることができ,この場合,Nz係数の値が高いほど,色ムラ低減に有利である。 【0073】 また,本発明の偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,膜厚をdとしたときに,(n_(x)-n_(y))×dで定義される面内位相差値R_(0)が200?1200nmもしくは2000?7000nmのものが好適に採用できる。R_(0)がかかる範囲外,すなわちR_(0)が1200を超え,2000nm未満の範囲にある場合は,比較的目立つ色ムラが発生する傾向にある。したがって,より効果的に色ムラを低減する観点から,面内位相差値R_(0)は,1200nm以下もしくは2000nm以上であることが好ましい。また,R_(0)が200nm未満と小さい場合は,安定的にNz係数を2.0未満に制御することが困難であり,生産性やコストの面に問題を有する。一方で,R_(0)が7000nmを超える場合は,Nz係数は低減させやすいものの,機械的強度に劣るフィルムとなる傾向にある。 …(省略)… 【0081】 (機能層) 本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合,偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。 【0082】 防眩層は,外光の映り込みやギラツキを防ぐために設けられる。ハードコート層は,表面の耐擦傷性などを改善するために設けられる。反射防止層は,外光の反射を防ぐために設けられる。また帯電防止層は,静電気の発生を防ぐために設けられる。これらの機能層を本発明の偏光板に形成する場合,塗工など公知の方法で直接延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けてもよいし,基材上にこれらの機能層が設けられたフィルムを延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに貼合してもよい。また,これらの機能層を予め延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに形成しておき,これをその機能層とは反対側の面で偏光フィルムに貼合する方法も採用できる。 【0083】 防眩層は,たとえば,フィラーが添加された紫外線硬化型樹脂を塗工し,そこに紫外線を照射して硬化させ,フィラーに基づく凹凸を現出させる方式,紫外線硬化型樹脂にエンボス型を接触させた状態で紫外線を照射し,硬化させて凹凸を現出させる方式などにより設けることができる。ハードコート層は,紫外線硬化型のハードコート樹脂を塗工し,そこに紫外線を照射して硬化させる方式などにより設けることができる。反射防止層は,金属酸化物などを一層または複数層蒸着する方式などにより設けることができる。帯電防止層は,帯電防止剤入りの紫外線硬化型樹脂を塗工し,そこに紫外線を照射して硬化させる方式などにより設けることができる。また,一般に偏光板の表面には,易剥離性の粘着剤層を有するプロテクトフィルムを貼合し,使用時までその表面を仮着保護するのが通例である。かかるプロテクトフィルムを構成する粘着剤層に帯電防止剤を配合しておき,それを偏光板の透明保護フィルムである延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に貼合することも,好適な帯電防止層の形態のひとつである。 【0084】 さらに,本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,本発明の効果を妨げない限り,上記以外にも様々な機能層を片面または両面に積層することができる。積層される上記以外の機能層としては,たとえば,導電層,平滑化層,易滑化層,ブロッキング防止層,および易接着層等が挙げられる。中でも,この延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから易接着層が積層されていることが好ましい。 【0085】 易接着層を構成する成分は,特に限定されるものではないが,たとえば,極性基を骨格に有し比較的低分子量で低ガラス転移温度である,ポリエステル系樹脂,ウレタン系樹脂,またはアクリル系樹脂等が挙げられる。また,必要に応じて架橋剤,有機または無機フィラー,界面活性剤,および滑剤等を含有することができる。 【0086】 上記導電層,平滑化層,易滑化層,ブロッキング防止層,および易接着層等の機能層を延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに形成する方法は,特に限定されるものではないが,たとえば,すべての延伸工程が終了したフィルムに形成する方法,ポリエチレンテレフタレート系樹脂を延伸している工程中,たとえば縦延伸と横延伸工程の間に形成する方法,および偏光フィルムと接着される直前または接着された後に形成する方法等が採用される。二軸延伸のポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては,生産性の観点から,ポリエチレンテレフタレート系樹脂を縦延伸した後に形成し,引き続き横延伸する方法が好ましく採用される。 【0087】 (第一の接着剤層) 本発明の偏光板において,偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,通常,透明で光学的に等方性の接着剤を介して貼着される。これらの接着には,それぞれのフィルムに対する接着性を考慮して任意のものを用いることができる。たとえば,ポリビニルアルコール系接着剤,アクリル系接着剤,ウレタン系接着剤,エポキシ系接着剤などが挙げられるが,本発明においては,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を採用することが好ましく,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物を採用することがより好ましい。 …(省略)… 【0218】 本発明の偏光板は,たとえば,液晶表示装置において,光出射側(視認側)に配置される偏光板として用いることができる。光出射側とは,液晶セルを基準に,液晶表示装置のバックライト側とは反対側を指す。光出射側の偏光板として本発明の偏光板が採用される場合,当該偏光板は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を備えることが好ましい。 …(省略)… 【0222】 液晶表示装置を構成するバックライトも,一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば,拡散板とその背後に配置された光源で構成され,光源からの光を拡散板で均一に拡散させたうえで前面側に出射するように構成されている直下型のバックライトや,導光板とその側方に配置された光源で構成され,光源からの光を一旦導光板の中に取り込んだうえで,その光を前面側に均一に出射するように構成されているサイドライト型のバックライトなどを挙げることができる。バックライトにおける光源としては,蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや,発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。」 エ 「【実施例】 【0223】 …(省略)… 【0225】 <実施例1> (a)偏光フィルムの作製 平均重合度約2400,ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを,30℃の純水に浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後,65℃で乾燥して,ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は,主に,ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない,トータル延伸倍率は5.3倍であった。 【0226】 (b)粘着剤付き偏光板の作製 厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(Nz係数:1.0,R_(0):2160nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を,チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。また,厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R_(0):63nm,厚み方向位相差値R_(th):225nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工した。 【0227】 次いで,直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,もう一方の面に上記光学補償フィルムを,各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。この際,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレは0度とした。その後,この積層物の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から,メタルハライドランプを320?400nmの波長における積算光量が600mJ/cm^(2)となるように照射し,両面の接着剤を硬化させた。さらに,得られた偏光板の光学補償フィルムの外面に,厚み25μmのアクリル系粘着剤の層(セパレートフィルム付き)を設けた。 …(省略)… 【0229】 <実施例2> Nz係数が1.4,面内位相差値R_(0)が3360nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)と同様にして偏光板を作製し,さらに,実施例1の(c)と同様にして,液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく,視認性は良好であった。 【0230】 <実施例3> Nz係数が1.8,面内位相差値R_(0)が3950nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)同様にして偏光板を作製し,さらに,実施例1の(c)と同様にして,液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は比較的小さく,視認性は比較的良好であった。 …(省略)… 【0234】 各例につき,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの光学特性と試験結果を表1にまとめた。 【0235】 【表1】 【0236】 表1に示されるように,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのNz係数が2.0未満である実施例1?5については,偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラが少なく,視認性に優れる効果が認められた。一方で,Nz係数が2.0以上である比較例1については,色ムラが強く,視認性に劣るものであった。」 (2) 引用発明 ア 引用発明A 引用例の請求項8に係る発明(請求項1及び請求項2に記載された発明特定事項を具備するもの)に関して,引用例の【0084】には,「本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,本発明の効果を妨げない限り,上記以外にも様々な機能層を片面または両面に積層することができる。積層される上記以外の機能層としては,たとえば,導電層,平滑化層,易滑化層,ブロッキング防止層,および易接着層等が挙げられる。中でも,この延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから易接着層が積層されていることが好ましい。」と記載されている。また,請求項2には,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値である」と記載されているから,当業者ならば,少なくとも,面内の位相差値が境界値の発明(例:7000nmである発明)を把握することができる。 以上踏まえると,引用例には,「ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板」(【0010】)として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。なお,用語を統一して記載している。)。 「 ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと, 偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備え, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y),厚み方向の屈折率をnzとしたときに,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であり, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が7000nmであり, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備え, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,易接着層が積層され, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板。」 イ 引用発明B 同様に,引用例には,実施例3に係る発明として,以下の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。 「 Nz係数が1.8,面内位相差値R_(0)が3950nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの貼合面に,コロナ処理を施した後,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を,チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工し,また,厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R_(0):63nm,厚み方向位相差値R_(th):225nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工し, 次いで,直ちに偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,もう一方の面に上記光学補償フィルムを,各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合し,この際,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合し, その後,この積層物の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から,メタルハライドランプを320?400nmの波長における積算光量が600mJ/cm^(2)となるように照射し,両面の接着剤を硬化させ,さらに,得られた偏光板の光学補償フィルムの外面に,厚み25μmのアクリル系粘着剤の層(セパレートフィルム付き)を設けてなる, 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板。」 2 周知例の記載 (1) 周知例1の記載 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献(引用文献4)として引用された特開2002-71921号公報(以下「周知例1」という。)には,以下の記載がある。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,面光源用反射フィルムに関し,詳しくは液晶素子を用いた液晶表示装置のバックライト機構に使用される面光源用反射フィルムに関する。」 イ 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は,酸化重合型のインキやUV硬化型のインキに対して優れた接着性を有する面光源用反射フィルムの提供を目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は次の構成を有する。 (1)微細な空洞を多数含有するポリエステル系樹脂層を少なくとも有する基材の少なくとも片面に,高分子易接着層を有することを特徴とする面光源用反射フィルム。 …(省略)… (3)前記高分子易接着層が,分岐したグリコールを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂,およびブロック型イソシアネート基を含有する樹脂を含有する組成物からなることを特徴とする(1)または(2)記載の面光源用反射フィルム。 …(省略)… 【0008】 【発明の実施の形態】本発明の面光源用反射フィルムに使用する基材は,少なくとも微細な空洞を多数含有するポリエステル系樹脂層を有する。 …(省略)… 【0020】本発明の面光源用反射フィルムに使用する基材は,上記の少なくとも微細な空洞を多数含有するポリエステル系樹脂層(A層)のみの単層であっても良いが,本発明の作用を阻害しない範囲で他層を有する多層構成であってもよい。特に,少なくとも後述の高分子易接着層を有する側の片面に,実質的に空洞を含有しないポリエステル系樹脂層を有する構成であるのが,基材と高分子易接着層との密着性がさらに向上して,好ましい。 …(省略)… 【0026】以下に,逐次2軸延伸を行う場合の延伸方法の例を挙げる。本発明において基材,特にA層の形成にあたっては,横延伸を施す際,2段階以上の異なる温度領域で行うと共に,最終横延伸の温度を180℃以上の範囲とすることが好ましい。このように横延伸において,通常一般に用いられる延伸温度(80?140℃)より高い温度で延伸を行うことにより,空洞が十分に変形し,厚さに対して充分長い空洞を形成できる。 …(省略)… 【0030】本発明において,高分子易接着層の構成材料や形成方法は特に限定されないが,高分子易接着層が,高分子易接着層表面に,UV硬化型インキ層を積層した場合の,UV硬化型インキ層の高分子易接着層に対する密着性(JIS K5400 8.5.1に準拠して測定)と,酸化重合型インキ層を積層した場合の,酸化重合型インキ層の高分子易接着層に対する密着性(JIS K5400 8.5.1に準拠して測定)がそれぞれ95%以上であるようにするのが好ましい。 【0031】UV硬化型インキ層または酸化重合型インキ層の高分子易接着層に対する密着性を上記のようにするためには,例えば高分子易接着層の構成材料として,分岐したグリコールを構成成分として含有する共重合ポリエステル樹脂,およびブロック型イソシアネート基を含有する樹脂を含有する組成物を用いる方法が挙げられる。 …(省略)… 【0037】高分子易接着層に使用されるブロック型イソシアネートを含有する樹脂としては,末端イソシアネート基を親水性基により封鎖(以下ブロックと言う)した,熱反応型水溶性ウレタン樹脂が好ましい。 …(省略)… 【0045】上記熱反応型水溶性ウレタン樹脂は一般に市販されているものを使用でき,その一例としては,第一工業製薬(株)製の商品名エラストロンH-3が代表的に例示される。エラストロンは,重亜硫酸ソーダによってイソシアネート基をブロックしたものであり,分子末端に強力な親水性を有するカルバモイルスルホネート基が存在するため,水溶性となっている。 【0046】本発明において,高分子易接着層を構成する組成物中の,分岐したグリコールを構成成分として含有する共重合ポリエステル樹脂とブロック型イソシアネート基を含有する樹脂との配合比は固形分中の重量比で,分岐したグリコールを構成成分として含有する共重合ポリエステル樹脂/ブロック型イソシアネート基を含有する樹脂=10/90?90/10が好ましく,更に好ましくは30/70?70/30の範囲である。固形分中の分岐したグリコールを構成成分として含有する共重合ポリエステル樹脂の割合が10重量%未満では,基材への高分子易接着層の密着性が低下しやすくなり,酸化重合タイプのインキとの密着性が悪くなる。また,90重量%を超えると,高分子易接着層表面へUV硬化型インキからなるインキ層を形成した場合のインキ層の密着性が低下しやすい。」 (2) 周知例2の記載 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献(引用文献5)として引用された特開2001-334623号公報(以下「周知例2」という。)には,以下の記載がある。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,ポリエステル系樹脂よりなるフォーム印刷用空洞含有積層フィルムに関する。より詳しくは,紫外線(UV)硬化型インキ,酸化重合型インキ,および裏カーボンインキ等との密着性に優れた,配送伝票を主用途とするフォーム印刷用材料として好適なフォーム印刷用空洞含有ポリエステル系積層フィルムに関する。 …(省略)… 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,前記従来技術の欠点を解消し,紫外線硬化型インキや酸化重合型インキとの接着性及び裏カーボンインキとの密着性に優れた,フォーム印刷用材料として好適な空洞含有ポリエステル系積層フィルムを提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明は,ポリエステル樹脂を主原料とし,その内部に空洞を含有する空洞含有ポリエステル系フィルムにおいて,基材ポリエステル中に分散させる空洞発現剤の溶融粘度を最適な状態とし,空洞積層数密度が0.20個/μm以上とすることにより,高い裏カーボンインキ密着性を発現できるを見出し,また易接着層を設けることにより,紫外線(UV)硬化型インキや酸化重合型インキとの接着性を解決するに至った。 …(省略)… 【0018】 【発明の実施の形態】以下に,本発明の空洞含有ポリエステル系フィルムの実施形態について,詳細に説明する。 …(省略)… 【0022】本発明の離型フィルムの基材として使用する空洞含有ポリエステル系フィルムは,ポリエステル系樹脂中にポリオレフィン系樹脂およびポリスチレン系樹脂を含む非相溶の熱可塑性樹脂が分散されていることが好ましい。 …(省略)… 【0039】本発明で用いる空洞含有ポリエステル系フィルムとして,ポリエステル樹脂に非相溶な熱可塑性樹脂としてポリスチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などを使用した際,これらの樹脂中の可塑剤などの添加剤がフィルム表面にブリードアウトし,フォーム印刷する際にインキやコーティング液のはじきやむら,インキとの密着性を悪化させる場合がある。そのため,空洞含有ポリエステル系フィルムと各種インキとの接着性を悪化させないために,またフィルム表面強度,滑り性などのその他の機能を付与するために,空洞含有ポリエステル系フィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリエステル樹脂からなる層またはポリエステル系樹脂に対し接着性を有する熱可塑性樹脂からなる層を共押出し法により積層させても構わない。 …(省略)… 【0041】また,本発明で用いる空洞含有ポリエステル系フィルムは,前記フィルム基材の少なくとも片面に各種インキとの接着性に優れる樹脂組成物からなる易接着層を設ける必要がある。前記易接着層に使用する樹脂組成物としては,分岐したグリコールを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂(A),ブロック型イソシアネート基を含有する樹脂(B)および表面粗面化物質(C)を含有する組成物が好ましく,この樹脂組成物を塗布・乾燥し,熱処理を施して基材フィルム表面の少なくとも片面に易接着層を形成させる。 …(省略)… 【0049】本発明で易接着層として使用する樹脂組成物において,共重合ポリエステル樹脂(A)とブロック型イソシアネートを含有する樹脂(B)の重量比は,(A):(B)=10:90?90:10が好ましく,更に好ましくは(A):(B)=30:70?70:30の範囲である。固形分重量に対する共重合ポリエステル樹脂(A)の割合が10重量%未満では,基材フィルムへの塗布性や塗布層とフィルム間の密着性が不十分となりやすく,酸化重合(あるいは溶剤)タイプのインキとの密着性が悪くなる傾向もある。一方,90重量%を超えると,酸化重合(あるいは溶剤)タイプのインキとの密着性は良いが,紫外線(UV)硬化型インキとの密着性が不十分となりやすい。 …(省略)… 【0059】上記の様にして得た未延伸フィルムを延伸,配向処理する条件は,フィルムの物性と密接に関係する。以下では,最も一般的な逐次二軸延伸方法,特に未延伸フィルムを長手方向次いで幅方向に延伸する方法を例にとり,延伸,配向条件を説明する。 【0060】縦延伸工程では,周速が異なる2本あるいは多数本のロール間で延伸する。このときの加熱手段としては,加熱ロールを用いる方法でも非接触の加熱方法を用いる方法でもよく,それらを併用してもよい。次いで一軸延伸フィルムをテンターに導入し,幅方向に(Tm-10℃)以下の温度で2.5?5倍に延伸する。但し,Tmはポリエステルの融点を意味する。」 イ 「【0062】 【実施例】次に,本発明の実施例および比較例を示す。 …(省略)… 【0079】(コート液の調整)原料として分岐したグリコールを構成成分とする水分散性共重合ポリエステル樹脂(A)(東洋紡績社製,バイロナールMD-16),ブロック型イソシアネート基を含有する熱反応型水溶性ウレタン樹脂(B)(第一工業製薬社製,エラストロンH-3)および平均粒径が2μmのベンゾグアナミン・メラミン共重合体樹脂粒子(C)(日本触媒社製)を用いた。」 3 対比及び判断 (1) 対比 本願発明と引用発明Aを対比すると,以下のとおりとなる。 ア ポリエステルフィルム 引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,その名のとおり,「ポリエチレンテレフタレート」という樹脂からなる「フィルム」(薄膜)である。ここで,「ポリエチレンテレフタレート」が「ポリエステル」の一種であることは技術常識である。そして,引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,「面内の位相差値」,すなわちリタデーションが,「7000nm」である。 そうしてみると,引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,本願発明の「ポリエステルフィルム」に相当する。また,引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,本願発明の「該ポリエステルフィルムのリタデーションが3000?30000nmである」という要件を満たすものといえる。 イ 表面層 引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」には,「易接着層が積層され」ている。ここで,易接着層は,技術的にみて,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の接着性を改善するために,その表面に積層される層である。 そうしてみると,引用発明Aの「易接着層」は,本願発明の「表面層」に相当するとともに,引用発明Aは,本願発明の「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に」「表面層が設けられており」という構成を具備するものといえる。 ウ 偏光子保護フィルム 引用発明Aの「偏光フィルム」は,その文言から技術的に理解されるとおり,偏光子として機能するフィルムである。したがって,引用発明Aの「偏光フィルム」は,本願発明の「偏光子」に該当する。また,引用発明Aの「偏光板」は,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板」であるから,引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,偏光フィルムを保護するためのものといえる。 そうしてみると,引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」と「易接着層」を併せたものは,本願発明の「偏光子保護フィルム」に相当する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明A(当合議体注:厳密には,「引用発明A」ではなく,「引用発明Aの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと易接着層を併せたもの」であるが,簡略に「引用発明A」と記載する。)は,次の構成で一致する。 「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,表面層が設けられており,該ポリエステルフィルムのリタデーションが3000?30000nmである,偏光子保護フィルム。」 イ 相違点 本願発明と引用発明Aは,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明の「表面層」は,「共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)を主成分とし,(A)と(B)の重量比が(A):(B)=80:20?20:80である,表面層」であり,また,「該表面層は,オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を含まない」のに対して,引用発明Aの「易接着層」は,このような材料の特定がないものである点。 (相違点2) 本願発明の「偏光子保護フィルム」は,「連続的な発光スペクトルを有する白色光源をバックライト光源とする液晶表示装置用偏光子保護フィルム」であるのに対して,引用発明Aは,一応,これが明らかではない点。 (3) 判断 ア 相違点1について 引用発明Aの「易接着層」は「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」に積層されるものであるところ,ポリエステルフィルムの密着性の向上が期待できる易接着層として,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)を主成分とする樹脂を用いることは周知技術(必要ならば,周知例1の【0006】,【0037】及び【0045】,周知例2の【0041】を参照。)である。 そうしてみると,密着強度の向上等のために,引用発明Aの「易接着層」の材料として,上記周知技術のものを採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。また,共重合ポリエステル樹脂(A)とブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)の重量比を,相違点1に係る本願発明の範囲内のものとすることは,ポリエステルフィルムに対する密着性を勘案した当業者における設計的な事項に過ぎない(なお,周知例1の【0046】及び周知例2の【0049】にも示唆されている。)。 加えて,上記周知技術の樹脂は,「オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を含まない」ものである。 以上勘案すると,引用発明Aの「易接着層」を相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,当業者が容易に発明できたものである。 イ 相違点2について 引用発明Aの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」のリタデーションは,本願発明のリタデーションの数値範囲の要件を満たすのであるから,「連続的な発光スペクトルを有する白色光源をバックライト光源とする液晶表示装置用」として適したものといえる。また,引用例の【0222】には,液晶表示装置を構成するバックライトとして,発光ダイオードが例示されているところでもある。 そうしてみると,相違点2は,事実上,相違点ではない。 (4) 発明の効果について 発明の効果に関して,本件出願の発明の詳細な説明の【0009】には,「本発明の液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルムは,いずれの観察角度においても顕著な虹状の色斑が見られない良好な視認性を有する。」と記載されている。 これに対して,引用発明Aの偏光板は,「液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ」たものである。 そうしてみると,本願発明の効果は,引用発明Aが奏する効果にすぎない。 なお,本件出願の発明の詳細な説明の【0009】には,「本発明の偏光子保護フィルムは,ハードコート層等の機能層との強固な接着性を有する。」とも記載されている。しかしながら,本願発明は,「ハードコート層等の機能層」を,特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要とする事項として含むものではないから,この効果は本願発明の効果ではない。仮に,この効果が本願発明の効果であるとしても,この効果は,引用発明Aにおいて前記(3)アで述べたとおり容易推考してなるものも奏する効果,すなわち,当業者が期待する効果の範囲内の効果にとどまる。 (5) 小括 本願発明は,引用発明A及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。 4 引用発明Bに基づく容易推考 本願発明と引用発明Bを対比すると,相違点1に替えて以下の相違点3及び前記相違点2が抽出される。 (相違点3) 本願発明は,「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)を主成分とし,(A)と(B)の重量比が(A):(B)=80:20?20:80である,表面層が設けられており」,「該表面層は,オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を含まない」のに対して,引用発明Bは,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの貼合面に,コロナ処理を施した」ものである点。 そこで,相違点3について検討すると,引用発明Bの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,偏光フィルムの片面に貼合されるものである。また,引用発明Bの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」において,偏光フィルムが積層される面とは反対側の面に,ハードコート層等の機能層を設けることが好ましいことは,技術常識である(引用例の【0081】の記載からも理解できる事項である。)。ここで,引用発明Bは,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの貼合面に,コロナ処理を施した」ものであるから,ある程度の接着性は確保されているものと考えられる。ただし,接着性に関して引用例に開示された構成は,【0084】に記載されたとおり,易接着層の採用である。 そうしてみると,引用発明Bの「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の両面の接着性を勘案した当業者が,上記コロナ処理を施すことに加えて,あるいは上記コロナ処理に替えて,易接着層に関する前記3(3)アで述べた周知技術を採用し,相違点3に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,引用例が示唆する範囲内の創意工夫にすぎない。 相違点2についての判断は前記3(3)イと同様であり,また,発明の効果についても前記3(4)と,同様である。 したがって,本願発明は,引用発明B及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。 5 請求人の主張について 請求人は,審判請求書において,概略,引用例と周知例1及び周知例2とでは,密着させるフィルムと層の種類が全く異なるため,引用例に触れた当業者が周知例1及び周知例2を参照することはなく,また,周知例1及び周知例2においてポリエステル樹脂層と印刷層とを密着させるための層として開示されたものを引用例の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム及び機能層において密着性を向上させるために使用することも考えられないと主張する。 しかしながら,周知技術の樹脂は,その成分として共重合ポリエステル樹脂(A)を含むものである。したがって,周知技術の樹脂が,ポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層材料として適したものであることは,技術的にみて明らかである。また,本願発明は,「ハードコート層等の機能層」を,特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要とする事項として含むものではないが,周知技術の樹脂は,その成分として,ブロック型イソシアネート基を含有するウレタン樹脂(B)を含むものである。また,ハードコート層等の機能層は,通常,アクリル樹脂等のUV硬化型樹脂により形成される。したがって,周知技術の樹脂が,ポリエチレンテレフタレートフィルムとハードコート層等の機能層との密着強度の向上に寄与しうることも,技術的にみて明らかである(この点は,例えば,特開2004-10671号公報の【0006】,【0007】,【0014】及び【0015】の記載,特開2008-132768号公報の【0009】,【0050】及び【0065】の記載,特開2007-55222号公報の【0001】,【0021】,【0046】及び【0127】の記載からも確認できる事項である。)。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用できない。 第3 まとめ 本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-24 |
結審通知日 | 2018-01-30 |
審決日 | 2018-02-13 |
出願番号 | 特願2012-284081(P2012-284081) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 樋口 信宏 |
発明の名称 | 液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |