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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1339022
審判番号 不服2016-19  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-04 
確定日 2018-04-04 
事件の表示 特願2015- 33453「カラーフィルタ用ガラスシートの製造方法、カラーフィルタパネルの製造方法、および、ディスプレイ用ガラス基板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月13日出願公開、特開2015-146019〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月29日に出願した特願2013-156661号(国内優先権主張 平成24年8月6日)の一部を平成27年2月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成27年 3月26日付け:拒絶理由通知書
平成27年 6月29日提出:意見書
平成27年 6月29日提出:手続補正書
平成27年 8月28日付け:拒絶査定
平成28年 1月 4日請求:審判請求書
平成28年 1月 4日提出:手続補正書
平成28年 9月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月 8日提出:意見書
平成28年12月 8日提出:補正書
平成28年12月28日付け:拒絶理由通知書
平成29年 3月29日提出:意見書
平成29年 3月29日提出:手続補正書
平成29年 6月29日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成29年10月 3日提出:意見書
平成29年10月 3日提出:手続補正書

第2 平成29年10月3日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定

[結論]
平成29年10月3日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成29年10月3日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、本件補正前の特許請求の範囲が次の(1)のとおりであったものを、次の(2)のとおりに補正するものである(下線部は、当合議体が付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
液晶ディスプレイの製造に用いられ、ブラックマトリックス樹脂が表面に形成されるカラーフィルタ用ガラスシートであって、
0.1質量%?0.5質量%のR’_(2)Oを含み、かつ、R’がLi、NaおよびKから選択される少なくとも1種であり、
As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)およびPbOを実質的に含有せず、
前記表面における疎水性有機物である芳香族化合物の付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngであり、
前記疎水性有機物は、前記表面に存在している有機物のうち、無極性カラムを用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり、
前記芳香族化合物は、前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であり、
前記密着性の低下は、膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する、
カラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項2】
前記表面における有機物の付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?8ngである、
請求項1に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項3】
0.7nm未満の表面粗さRaを有する、
請求項1または2に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項4】
SiO_(2):50質量%?70質量%、Al_(2)O_(3):0質量%?25質量%、B_(2)O_(3):1質量%?15質量%、MgO:0質量%?10質量%、CaO:0質量%?20質量%、SrO:0質量%?20質量%、BaO:0質量%?10質量%の組成を有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量が5質量%?30質量%である微アルカリガラスである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項5】
樹脂膜形成工程において前記ブラックマトリックス樹脂が3μm?15μmの線幅で前記表面にパターニングされる、
請求項1から4のいずれか1項に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
液晶ディスプレイの製造に用いられ、ブラックマトリックス樹脂が表面に形成されるカラーフィルタ用ガラスシートであって、
0.15nm?0.67nmの表面粗さRaを有し、
0.1質量%?0.5質量%のR’_(2)Oを含み、かつ、R’がLi、NaおよびKから選択される少なくとも1種であり、
0.01質量%?0.08質量%のFe_(2)O_(3)を含有し、
As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)およびPbOを実質的に含有せず、
前記表面における疎水性有機物である芳香族化合物の付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngであり、
前記疎水性有機物は、前記表面に存在している有機物のうち、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり、
前記芳香族化合物は、前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であり、かつ、前記ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、前記ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物であり、
前記密着性の低下は、膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する、
カラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項2】
前記表面における有機物の付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?8ngである、
請求項1に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項3】
SiO_(2):50質量%?70質量%、Al_(2)O_(3):0質量%?25質量%、B_(2)O_(3):1質量%?15質量%、MgO:0質量%?10質量%、CaO:0質量%?20質量%、SrO:0質量%?20質量%、BaO:0質量%?10質量%の組成を有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量が5質量%?30質量%である微アルカリガラスである、
請求項1または2に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。
【請求項4】
樹脂膜形成工程において前記ブラックマトリックス樹脂が3μm?15μmの線幅で前記表面にパターニングされる、
請求項1から3のいずれか1項に記載のカラーフィルタ用ガラスシート。」

2 新規事項
(1) 本件補正後の特許請求の範囲における請求項1には、「液晶ディスプレイの製造に用いられ、ブラックマトリックス樹脂が表面に形成されるカラーフィルタ用ガラスシート」表面における「疎水性有機物」が、「前記表面に存在している有機物のうち、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であ」ることが記載されている。
また、本件補正後の特許請求の範囲における請求項1には、「前記芳香族化合物」は、「前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であり、かつ、前記ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、前記ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物であり、前記密着性の低下は、膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味」し、前記「ガラスシート」が、「0.15nm?0.67nmの表面粗さRaを有」することも記載されている。
そこで、本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否かを検討する。

(2) 当初明細書等には、以下の事項が記載されている。(下線部は、当合議体が付したものである。以下、同じ。)。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フラットパネルディスプレイの製造に用いられるガラスシートの表面には、高い清浄度が要求される。そのため、ガラスシートの表面に付着している異物を除去するために、特許文献2(特開2001-181686号公報)に開示されるように、無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシートの表面を洗浄する方法が用いられている。しかし、このような洗浄方法では、洗浄後にガラスシートの表面に残留している有機物に起因して、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の高い密着性が十分に達成できないおそれがある。
【0007】
本発明は、表面への樹脂の密着性を向上させたカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法、カラーフィルタパネルの製造方法、および、ディスプレイ用ガラス基板を提供することである。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、ブラックマトリックス樹脂が表面に形成されるカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法は、ガラスシート製造工程と、ガラスシート洗浄工程とを備える。ガラスシート製造工程では、熔融ガラスからガラスリボンを成形し、ガラスリボンを切断してガラスシートを形成する。ガラスシート洗浄工程では、ガラスシートの表面を洗浄して、表面に付着している異物を除去する。ガラスシート洗浄工程は、第1洗浄工程と、第2洗浄工程とを有する。第1洗浄工程では、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いて表面を洗浄する。第2洗浄工程では、0.1%?2.38%の濃度を有する水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いて表面を洗浄する。ガラスシート洗浄工程において、ガラスシートは、表面に存在している有機物の質量が、表面1cm^(2)当たり8ng以下となるように洗浄される。また、第1洗浄工程の終了から第2洗浄工程の開始までの間において、ガラスシートの表面は、ウェットな状態に保たれる。これにより、第2洗浄工程後におけるガラス基板の表面の有機物の付着量のコントロールが可能となる。
【0009】
本発明に係るカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法では、ダウンドロー法またはフロート法により製造されたガラスシートは、最初に、無機アルカリ系の洗浄剤を用いて表面を洗浄する第1洗浄工程が行われ、次に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いて表面を洗浄する第2洗浄工程が行われる。TMAHは、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物を、ガラスシートの表面から除去する効果を有する。また、第1洗浄工程を行った後に第2洗浄工程を行うことで、第1洗浄工程において無機アルカリ系の洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来する有機物がガラスシートの表面に付着しても、続く第2洗浄工程において、その有機物はガラスシートの表面から除去される。すなわち、このカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法では、第2洗浄工程によって、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物を、ガラスシートの表面から効果的に除去することができる。従って、本発明に係るカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法は、ガラスシート表面への樹脂の密着性を向上させることができる。
【0010】
また、ガラスシート洗浄工程において、ガラスシートは、疎水性有機物の質量が、表面1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngとなるように洗浄されることが好ましい。疎水性有機物は、ガラスシートの表面に存在している有機物のうち、GC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物である。また、疎水性有機物は、芳香族化合物である。ガラスシートの表面に付着している有機物であって、GC/MSにおける保持時間が18分以上である疎水性有機物には、ベンゼン環を有する有機物である芳香族化合物が含まれる。芳香族化合物は、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物である。
【0011】
また、ガラスシート洗浄工程において、ガラスシートは、表面に存在している疎水性有機物の質量が、表面1cm^(2)当たり0.01ng?0.15ngとなるように洗浄されることが好ましい。疎水性有機物は、ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物である。言い換えると、疎水性有機物は、ガラスシートよりも水に対する親和性が低い有機物である。
【0012】
また、ガラスシートの表面は、0.7nm未満の表面粗さRaを有することが好ましい。表面粗さRaは、ガラスシートの表面の粗さを表すパラメータの一種である「中心線平均粗さ」である。ガラスシートの表面粗さRaが0.7nm未満の場合、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性に影響がない。
【0013】
本発明に係る、ガラス基板の表面に樹脂膜が形成されたカラーフィルタパネルの製造方法は、第1洗浄工程と、第2洗浄工程と、樹脂膜形成工程とを備える。第1洗浄工程では、樹脂膜が形成される表面を、界面活性剤を含む無機アルカリ系の洗浄剤を用いて洗浄する。第2洗浄工程では、樹脂膜が形成される表面を、0.1%?2.38%の濃度を有する水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて洗浄する。樹脂膜形成工程では、表面における有機物の付着量が1cm^(2)当たり8ng以下であり、かつ、GC/MSにおける保持時間が18分以上である疎水性有機物の表面における付着量が1cm^(2)当たり0.25ng以下である表面に、樹脂膜を形成する。また、第1洗浄工程の終了から第2洗浄工程の開始までの間において、ガラス基板の表面は、ウェットな状態に保たれる。これにより、第2洗浄工程後におけるガラス基板の表面の有機物の付着量のコントロールが可能となる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法は、ガラスシート表面への樹脂の密着性を向上させることができる。
・・・(中略)・・・
【0019】
また、本発明に係るディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板表面への樹脂の密着性が高い。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)ガラスシートの組成
本発明に係るカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法について、実施形態に基づいて説明する。本実施形態で製造されるカラーフィルタ用ガラスシートは、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられるガラスシートである。このガラスシートは、ブラックマトリックス、および、赤色(R)・緑色(G)・青色(B)の光を透過させる波長選択素子であるRGB画素が表面に配置されることで、カラーフィルタが形成される。
・・・(中略)・・・
ガラスシートの厚みは、例えば、0.1mm?0.7mmである。ガラスシートのサイズは、例えば、680mm×880mm(G4サイズ)、2200mm×2500mm(G8サイズ)である。
【0022】
FPDの製造に用いられるガラスシートは、無アルカリガラス、または、微アルカリガラスが好適である。ガラスシートが無アルカリガラスである場合、ガラスの組成は、例えば、SiO_(2):50質量%?70質量%、Al_(2)O_(3):0質量%?25質量%、B_(2)O_(3):1質量%?15質量%、MgO:0質量%?10質量%、CaO:0質量%?20質量%、SrO:0質量%?20質量%、BaO:0質量%?10質量%である。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%?30質量%である。
【0023】
ガラスシートが、微量のアルカリ金属を含む微アルカリガラスである場合、ガラスの組成は、さらに、0.1質量%?0.5質量%のR’_(2)Oを含み、・・・(中略)・・・R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。
・・・(中略)・・・
【0024】
また、ガラスシートは、上記成分に加えて、・・・(中略)・・・Fe_(2)O_(3):0質量%?0.2質量%(好ましくは、0.01質量%?0.08質量%)をさらに含有してもよく、環境負荷を考慮して、As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)およびPbOを実質的に含有しなくてもよい。
【0025】
(2)ガラスシートの製造方法の流れ
図1は、ガラスシートの製造方法の流れを示すフローチャートである。以下、フローチャートの各ステップS1?S10について説明する。
【0026】
・・・(中略)・・・
【0028】
次に、ステップS6において、ガラスシートの洗浄が行われる。ガラスシートの洗浄工程では、ガラスシートの表面に付着した、ガラスの微小片であるカレット、塵、汚れ、粘着性の異物等が除去される。また、ガラスシートの洗浄工程では、洗浄されたガラスシートの表面にこれらの異物が再度付着しないように、界面活性剤が含まれる無機アルカリ系の洗浄剤が用いられる。
【0029】
・・・(中略)・・・
【0031】
(3)ガラスシートの洗浄工程の流れ
次に、図1のステップS6で行われるガラスシートの洗浄工程の詳細について説明する。ガラスシートの洗浄工程は、第1洗浄工程および第2洗浄工程からなる。第1洗浄工程では、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシート表面の洗浄が行われる。第2洗浄工程では、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いてガラスシート表面の洗浄が行われる。
【0032】
第1洗浄工程で用いられる無機アルカリ系の洗浄剤は、市販のガラスシート用洗浄液を水で希釈して得られた希釈液に、アルカリ成分を添加することで生成される。ガラスシート用洗浄液としては、例えば、パーカーコーポレーション社製のPK-LCGシリーズ、あるいは、横浜油脂工業株式会社製のセミクリーンシリーズ等が用いられる。ガラスシート用洗浄液は、例えば、1wt%?5wt%の濃度になるように、水で希釈される。希釈液のアルカリ成分の濃度は、水酸化カリウム(KOH)の濃度に換算して、例えば、0.02wt%?0.15wt%である。
【0033】
・・・(中略)・・・
【0035】
本実施形態では、ガラスシート用洗浄液の希釈液に、KOH、NaOH、ETDA-4Na、ETDA-4K、Na4P2O7およびK4P2O7からなる群から選択される1種以上のアルカリ成分が添加されて、第1洗浄工程で用いられる洗浄剤が生成される。この洗浄剤のアルカリ成分の濃度は、水酸化カリウム(KOH)の濃度に換算して、1wt%以上である。上記のアルカリ成分は、他のアルカリ成分と比較して、ガラスに対するエッチング性が高く、かつ、溶解性に優れている。特に、エッチング性、溶解性、および、ガラスシートに形成される薄膜トランジスタに対する悪影響を防止する観点から、アルカリ成分としてKOHを単独で用いることが好ましい。また、KOHおよびNaOHは、他のアルカリ成分と比較して、排水処理の点で有利である。
【0036】
・・・(中略)・・・
【0037】
本実施形態において、ガラスシートの洗浄方法には、枚葉洗浄およびバッチ洗浄の2種類の洗浄方法がある。最初に、枚葉洗浄によるガラスシートの洗浄方法について説明する。図2は、枚葉洗浄を行うガラスシートGの枚葉洗浄装置1の概略図である。枚葉洗浄装置1は、第1洗浄工程を行う第1洗浄ユニット10と、第2洗浄工程を行う第2洗浄ユニット20とから構成される。ガラスシートGは、最初に、第1洗浄ユニット10において、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤で洗浄され、次に、第2洗浄ユニット20において、TMAHで洗浄される。
【0038】
図3は、第1洗浄ユニット10の平面図であり、図4は、第1洗浄ユニット10の側面図である。図3および図4において、ガラスシートGを搬送する搬送装置は省略されている。なお、第2洗浄ユニット20の構成は、第1洗浄ユニット10の構成と実質的に同じであるので、以下、第1洗浄ユニット10の構成のみについて説明する。第1洗浄ユニット10と第2洗浄ユニット20との相違点については、後述する。
【0039】
第1洗浄ユニット10は、図3に示されるように、ブラシユニット12と、スポンジユニット14と、シャワーユニット16とを備えている。これらのユニットは、ガラスシートGの搬送方向の上流側から下流側に向かって、この順番に配置されている。第1洗浄ユニット10は、図4に示されるように、さらに、洗浄剤タンク18と、純水タンク19と、ノズル18a,18b,18c,18d,19a,19bを備えている。
【0040】
ブラシユニット12は、洗浄ブラシロール12a,12bを有する。洗浄ブラシロール12a,12bは、ガラスシートGの搬送方向に沿って配置されている。洗浄ブラシロール12a,12bは、それぞれ、搬送されるガラスシートGの両表面を洗浄可能なように、ガラスシートGの上下に一対配置される。洗浄ブラシロール12a,12bは、それぞれ、ガラスシートGの搬送方向を横切るように配置される。洗浄ブラシロール12a,12bの外周面には、複数の洗浄ブラシが取り付けられている。洗浄ブラシロール12a,12bの軸回転によって、搬送されるガラスシートGの表面に洗浄ブラシが接触して、ガラスシートGの表面が洗浄される。図3において、洗浄ブラシロール12a,12bは、ガラスシートGの搬送方向に沿って2列配置されているが、1列のみ配置されてもよく、3列以上配置されてもよい。
【0041】
スポンジユニット14は、洗浄スポンジロール14a,14bを有する。洗浄スポンジロール14a,14bは、ガラスシートGの搬送方向に沿って配置されている。洗浄スポンジロール14a,14bは、それぞれ、搬送されるガラスシートGの両表面を洗浄可能なように、ガラスシートGの上下に一対配置される。洗浄スポンジロール14a,14bは、それぞれ、ガラスシートGの搬送方向を横切るように配置される。洗浄スポンジロール14a,14bの外周面には、洗浄スポンジが取り付けられている。洗浄スポンジロール14a,14bの軸回転によって、搬送されるガラスシートGの表面に洗浄スポンジが接触して、ガラスシートGの表面が洗浄される。図3において、洗浄スポンジロール14a,14bは、ガラスシートGの搬送方向に沿って2列配置されているが、1列のみ配置されてもよく、3列以上配置されてもよい。
【0042】
第1洗浄ユニット10の洗浄剤タンク18は、第1洗浄工程で用いられる、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を貯留する。洗浄剤タンク18は、例えば、50℃?80℃の温度範囲に洗浄剤を加熱して保温する機能を有する。ノズル18a,18bは、洗浄剤タンク18から供給される洗浄剤を、ブラシユニット12内を搬送されるガラスシートGの両表面に噴射する。ノズル18c,18dは、洗浄剤タンク18から供給される洗浄剤を、スポンジユニット14内を搬送されるガラスシートGの両表面に噴射する。
【0043】
・・・(中略)・・・
【0044】
第2洗浄ユニット20は、第1洗浄ユニット10と同じ構成を有する。しかし、第2洗浄ユニット20の洗浄剤タンク18は、第2洗浄工程で用いられるTMAHを貯留する。TMAHの濃度は、0.1%?2.38%であるが、好ましくは、0.25%?1.5%であり、より好ましくは、0.35%?1.0%である。
【0045】
なお、本実施形態では、図4に示されるように、ブラシユニット12およびスポンジユニット14は共通の洗浄剤タンク18を用いているが、別々の洗浄剤タンク18を用いてもよい。この場合、ブラシユニット12およびスポンジユニット14は、異なる濃度の洗浄剤を用いてガラスシートGを洗浄してもよい。
【0046】
次に、枚葉洗浄装置1におけるガラスシートGの洗浄の流れについて説明する。最初に、第1洗浄ユニット10のブラシユニット12において、ガラスシートGのブラシ洗浄が行われる。具体的には、ノズル18a,18bから噴射された無機アルカリ系の洗浄剤が、ガラスシートGの両表面に付着して、洗浄ブラシロール12a,12bの軸回転によってガラスシートGの両表面が洗浄される。
【0047】
次に、第1洗浄ユニット10のスポンジユニット14において、ガラスシートGのスポンジ洗浄が行われる。具体的には、ノズル18c,18dから噴射された無機アルカリ系の洗浄剤が、ガラスシートGの両表面に付着して、洗浄スポンジロール14a,14bの軸回転によってガラスシートGの両表面が洗浄される。
【0048】
次に、第1洗浄ユニット10のシャワーユニット16において、ガラスシートGの表面に付着した無機アルカリ系の洗浄剤が除去される。具体的には、ノズル19a,19bから噴射された純水または超純水が、ガラスシートGの両表面に付着することで、ガラスシートGの表面が純水または超純水ですすがれて、表面に付着した無機アルカリ系の洗浄剤が洗い流される。なお、シャワーユニット16を通過したガラスシートGの表面は、純水または超純水が付着してウェットな状態にある。第1洗浄ユニット10を通過したガラスシートGは、表面がウェットな状態のまま、第2洗浄ユニット20の内部に搬送される。これにより、第2洗浄ユニット20を通過したガラスシートGの表面の異物の付着量のコントロールが可能となる。
【0049】
次に、第2洗浄ユニット20のブラシユニット12において、ガラスシートGのブラシ洗浄が行われる。具体的には、ノズル18a,18bから噴射されたTMAHが、ガラスシートGの両表面に付着して、洗浄ブラシロール12a,12bの軸回転によってガラスシートGの両表面が洗浄される。
【0050】
次に、第2洗浄ユニット20のスポンジユニット14において、ガラスシートGのスポンジ洗浄が行われる。具体的には、ノズル18c,18dから噴射されたTMAHが、ガラスシートGの両表面に付着して、洗浄スポンジロール14a,14bの軸回転によってガラスシートGの両表面が洗浄される。
【0051】
・・・(中略)・・・
【0052】
以上、枚葉洗浄によるガラスシートの洗浄方法について説明した。次に、バッチ洗浄によるガラスシートの洗浄方法について説明する。図5は、バッチ洗浄を行うガラスシートのバッチ洗浄装置101の概略図である。バッチ洗浄装置101は、複数のガラスシートGを収容可能なカセット120を搬送する搬送機構(図示せず)と、複数の液槽130とを備えている。各液槽130は、必要に応じて、ガラスシートGを液体Lに浸漬した状態で超音波によりガラスシートGを洗浄する超音波洗浄機構、および、液体Lの温度を調節する温度調節機構を備えている。バッチ洗浄装置101は、さらに、各液槽130に液体Lを供給するタンク(図示せず)を備えている。
【0053】
複数のガラスシートGを収容したカセット120は、搬送機構によって搬送され、液槽130に貯留された複数種類の液体Lに、順次、浸漬されて洗浄される。バッチ洗浄装置101において、ガラスシートGが浸漬される液体Lの種類および順序は、適宜に決定される。バッチ洗浄工程の一例として、1番目にフッ酸、2番目に純水、3番目に無機アルカリ系の洗浄剤、4番目に純水、5番目にTMAH、6番目に純水、7番目に超純水を用いてガラスシートGを洗浄する工程がある。2,4,6番目の工程で用いられる純水、および、7番目の工程で用いられる超純水は、それぞれ、上述の枚葉洗浄装置1において使用される純水および超純水と同じである。3番目の工程で用いられる無機アルカリ系の洗浄剤は、上述の枚葉洗浄装置1において使用される洗浄剤と同じである。ガラスシートGが各液槽130において液体Lに浸漬される時間は、液体Lに応じて、45秒?180秒である。なお、1番目の工程であるフッ酸によるガラスシートGの表面処理は、行われなくてもよい。
【0054】
(4)特徴
(4-1)
従来、ガラスシートの表面に付着している有機物を除去するために、無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシートの表面を洗浄する方法が用いられている。FPDの製造に用いられるガラスシートの表面には、TFT等の半導体素子が形成される。このようなガラスシートは、剥離帯電や短絡等による半導体素子の破壊を抑制するために、表面に極めて高い清浄度が要求される。そのため、無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシートの表面を洗浄することで、極めて高い清浄度を有するガラスシートを製造する方法が用いられている。
【0055】
しかし、高い清浄度を目的としてKOHまたはNaOH系の無機アルカリ系の洗浄剤を用いて洗浄されたガラスシートは、表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性が低く、ブラックマトリックスがガラスシートの表面から剥離してしまう問題を有していることが分かってきた。特に、近年、ディスプレイの高精細化に伴い、ガラスシートの表面に配置されるブラックマトリックスの線幅およびピッチが小さくなっているので、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下は、重要な問題である。従って、上述のガラスシートの洗浄方法は、ブラックマトリックスの高精細化に対応することができない。
【0056】
また、ガラスシートの表面に付着している特定の有機物が、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因である可能性がある。具体的には、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシートの表面を洗浄すると、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性が低下する。そのため、界面活性剤に由来する有機物が、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因である可能性がある。また、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下に起因する有機物には、例えば、ガラスシートの積層体に含まれる合紙に由来する有機物、および、ガラスシートの積層体の保管および搬送環境下における雰囲気中の有機物も含まれる可能性がある。
【0057】
本実施形態では、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いてガラスシート表面を洗浄する第1洗浄工程の後に、TMAHを用いてガラスシート表面を洗浄する第2洗浄工程を行うことで、極めて高い清浄度を有しつつ、ブラックマトリックス樹脂の密着性が低下しないガラスシートを製造することができる。第2洗浄工程において、TMAHを用いてガラスシート表面を洗浄することで、第1洗浄工程で使用された洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来する有機物であって、第1洗浄工程によってガラスシートの表面に付着した有機物が除去される。この有機物は、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物である。この有機物は、GC/MSにおける保持時間が18分以上である疎水性有機物であり、例えば、芳香族化合物である。すなわち、第2洗浄工程によって、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる疎水性有機物が、ガラスシートの表面から効果的に除去される。従って、本実施形態に係るガラスシートの製造方法は、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を向上させることができる。なお、GC/MSで使用されるキャピラリーカラムとして、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1が用いられる。
【0058】
本実施形態において、ガラスシートの洗浄工程後におけるガラスシートの表面に付着している疎水性有機物の質量は、ガラスシート表面1cm^(2)当たり0.05ng?0.50ngであることが好ましく、0.05ng?0.25ngであることがより好ましい。
【0059】
また、本実施形態に係るガラスシートの製造方法は、ブラックマトリックスの線幅およびピッチが小さいカラーフィルタパネルの製造に、特に有効である。カラーフィルタパネルは、ブラックマトリックスおよびRGB画素が表面に配置されて、カラーフィルタが形成されたガラスシートである。本実施形態に係るガラスシートの製造方法で製造されたガラスシートは、10μm未満の線幅を有するブラックマトリックスを表面に配置しても、ブラックマトリックスの剥離が十分に抑制されるガラスシートである。従って、このガラスシートは、3μm?5μmの線幅を有する高精細のブラックマトリックスを表面に配置することができる。
【0060】
(4-2)
本実施形態では、第1洗浄ユニット10のブラシユニット12およびスポンジユニット14において、無機アルカリ系の洗浄剤でガラスシートGの表面が洗浄された後、第1洗浄ユニット10のシャワーユニット16において、ガラスシートGの表面に付着した無機アルカリ系の洗浄剤が、純水または超純水で洗い流されて除去される。これにより、第1洗浄工程においてガラスシートGの表面に付着した洗浄剤によって、続く第2洗浄工程におけるTMAHによるガラスシートGの洗浄効果が低下することが抑制される。
【0061】
第1洗浄工程で用いられる無機アルカリ系の洗浄剤は、界面活性剤を含んでいる。界面活性剤は、上述したように、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物である。そのため、第1洗浄工程の最後に、ガラスシートGの表面を純水または超純水ですすいで、ガラスシートGの表面に付着している洗浄剤を洗い流すことで、第2洗浄工程における、ガラスシートGの表面に付着した有機物を除去する効果を向上させることができる。第2洗浄工程は、ガラスシートGの表面に付着した異物を除去する効果と、第1洗浄工程によってガラスシートGの表面に付着した洗浄剤に由来する有機物を除去する効果とを有している。
【0062】
また、第2洗浄工程の最後においても、第2洗浄ユニット20のシャワーユニット16によって、ガラスシートGの表面に付着しているTMAHが純水または超純水で洗い流されて除去される。従って、枚葉洗浄装置1またはバッチ洗浄装置101によって洗浄されたガラスシートGは、極めて高い清浄度を有する。
【0063】
(4-3)
本実施形態では、第1洗浄工程で使用される洗浄剤は、市販のガラス基板用洗浄液を水で希釈して得られた希釈液に、KOH等のアルカリ成分を添加して生成される。具体的には、ガラス基板用洗浄液の希釈液に、KOH等のアルカリ成分を添加して、1wt%以上の濃度を有する洗浄剤が生成される。アルカリ成分を添加することにより、アルカリ成分の濃度が非常に高い洗浄液を製造および取り扱うことなく、アルカリ成分の濃度が高い洗浄剤を容易に生成することができる。アルカリ成分の濃度が高い洗浄剤は、ガラスシートのエッチング性を向上させ、かつ、カレットや塵等の異物、および、荷重を受けた状態でガラスシートの表面に付着した粘着性の異物等を、ガラスシートの表面から剥離させて効果的に除去することができる。
【0064】
また、ガラス基板用洗浄液の希釈液にアルカリ成分を添加することで生成される洗浄剤の表面張力は、希釈液よりも低い。すなわち、界面活性剤を含むガラス基板用洗浄液の希釈液に、KOH等のアルカリ成分を添加することで、アルカリ成分を単独で純水に添加する場合ではほとんど得られない、洗浄剤の表面張力を低下させる効果を得ることができる。これにより、洗浄剤が粘着異物とガラス板との間に浸透しやすくなる。さらに、洗浄剤によるガラスシートのエッチング性の向上との相乗効果により、ガラスシートに付着した異物がより効果的に除去される。
【0065】
また、ガラス基板用洗浄液の希釈液に添加するアルカリ成分の濃度を高くすることで、数週間または数ヶ月以上の長期に亘って保管されたガラスシートの表面に付着した粘着性の異物を除去する効果が向上する。

エ 「【0066】
(5)実施例
本発明に係るカラーフィルタ用ガラスシートの製造方法の実施例について説明する。本実施例では、ガラスシートの洗浄後に、ガラスシート表面にブラックマトリックス樹脂を塗布して、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を確認した。以下、具体的な手順について説明する。
【0067】
最初に、上述した図1に示されるステップS3に基づいて、素板ガラスと合紙とがパレット上で交互に積層された積層体を用意した。次に、ステップS4に基づいて、素板ガラスの積層体から素板ガラスを取り出し、素板ガラスを所定のサイズに切断して、ガラスシートを得た。次に、ステップS5に基づいて、ガラスシートの端面加工を行った。次に、ステップS6に基づいて、本実施形態で説明した枚葉洗浄装置1を用いて、ガラスシートの枚葉洗浄を行った。ガラスシートの第1洗浄工程では、横浜油脂工業株式会社製の無機アルカリ性洗浄剤であるKGを純水で希釈して、アルカリ成分としてKOHを添加して生成された洗浄剤を使用した。ガラスシートの第2洗浄工程では、0.1%?2.38%の濃度を有するTMAHを使用した。
【0068】
次に、ガラスシートの表面にブラックマトリックス樹脂を塗布した。具体的には、ガラスシートの表面に、膜厚が1μmになるようにブラックマトリックス樹脂を塗布した。次に、ブラックマトリックス樹脂が塗布されたガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を判定した。具体的には、ガラスシート表面におけるブラックマトリックスの剥離および残渣の有無を確認した。
【0069】
本実施例では、ガラスシートの表面に塗布されたブラックマトリックス樹脂は、5μm?30μmの線幅において、剥離および残渣が確認されなかった。なお、洗浄されたガラスシートの表面におけるTMAHの残留量は、イオンクロマトグラフィーによる検出下限0.01ng/cm^(2)以下であった。
【0070】
また、ガラスシートの第1洗浄工程において、横浜油脂工業株式会社製の無機アルカリ性洗浄剤であるL.G.Lを純水で希釈して、アルカリ成分としてKOHを添加して生成された洗浄剤を使用しても、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の判定結果は変わらなかった。また、ガラスシートの表面粗さRaは、0.15nm?0.67nmであった。
【0071】
なお、比較例として、ガラスシートの第1洗浄工程において、界面活性剤を含む無機アルカリ系の洗浄剤を用いる替わりに、TMAHを用いて、ガラスシートの洗浄を行った。すなわち、第1洗浄工程および第2洗浄工程の両方において、TMAHを用いたガラスシートの洗浄を行った。その結果、ガラスシートの表面に付着した異物の量が、上述の実施例より多くなった。この原因として、TMAHは、KG等の無機アルカリ系の洗浄剤に比べて洗浄力が弱く、素板ガラスに付着した汚れを除去しきれないからであると考えられる。この洗浄方法を用いた場合、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の判定に関しては、異物の付着が原因と思われるブラックマトリックスの剥離および残渣が確認された。
【0072】
また、上述した図1のステップS6におけるガラスシートの洗浄工程において、ガラスシートの枚葉洗浄ではなく、ガラスシートのバッチ洗浄を行った実施例について説明する。この場合においても、ガラスシートの表面に塗布された3μm?30μmの線幅を有するブラックマトリックス樹脂は、いずれの線幅においても、剥離および残渣が確認されなかった。
【0073】
また、狭い線幅を有するブラックマトリックス樹脂のパターンについて、ブラックマトリックスの剥離および残渣の確認を行った。最初に、ガラスシートの第2洗浄工程において、濃度0.5%のTMAHを用いてガラスシートを洗浄した。次に、洗浄されたガラスシートの表面に、膜厚1μm、かつ、線幅1μm?15μmとなるようにブラックマトリックス樹脂を塗布してパターンを形成し、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を判定した。その結果、3μm?15μmの線幅において、ガラスシートの表面におけるブラックマトリックスの剥離および残渣は確認されなかった。また、1μmの線幅において、一部、ブラックマトリックスの剥離が確認された。しかし、1μmの線幅におけるブラックマトリックスの剥離または残渣の発生確率を低減することができた。従って、特定の表面異物をコントロールしない従来の方法と比べて、特に狭い線幅を有するブラックマトリックス樹脂のパターンにおける歩留まりの向上が可能となった。
【0074】
なお、比較例として、ガラスシートの第2洗浄工程において、TMAHにガラスシートを浸漬して洗浄を行う替わりに、アンモニア水にガラスシートを浸漬して超音波洗浄を行った。その結果、ガラスシートの表面に塗布された、20μmより線幅が狭いブラックマトリックス樹脂に関しては、ブラックマトリックスの成膜条件および現像条件を変更しても、剥離および残渣の発生が確認された。
【0075】
(6)変形例
(6-1)変形例A
・・・(中略)・・・
【0076】
本変形例では、このロール状の素板ガラスから、合紙または樹脂フィルムを除去しつつ、ガラスフィルムを徐々に引き出す。そして、ガラスフィルムの端面をエッチング処理した後に、ガラスフィルムの表面を洗浄する。ガラスフィルムの洗浄工程では、本実施形態と同様に、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を用いて表面を洗浄して、純水または超純水で表面をすすいだ後、TMAHを用いて表面を洗浄して、純水または超純水で表面を再びすすぐ。そして、洗浄されたガラスフィルムを、ロールツーロールでカラーフィルタの製造工程に搬送する。または、洗浄されたガラスフィルムを、製品用の合紙や樹脂フィルムを介して再び巻き取って、製品であるガラスフィルムロールを形成する。
【0077】
(6-2)変形例B
本実施形態では、枚葉洗浄装置1における第2洗浄工程において、TMAHを用いてガラスシートGをブラシ洗浄およびスポンジ洗浄し、その後、純水または超純水を用いてガラスシートGをシャワー洗浄してガラスシートGの表面に残留している有機物を除去する。しかし、第2洗浄工程において、スポンジ洗浄が行われなくてもよい。具体的には、第1洗浄工程における異物除去能力に応じて、適宜に、第2洗浄工程において、ブラシ洗浄およびスポンジ洗浄の少なくとも一方を行えばよい。
【0078】
(6-3)変形例C
本実施形態では、枚葉洗浄装置1における第2洗浄工程において、枚葉洗浄が行われたガラスシートGは、図1に示されるステップS7の検査工程に送られる。しかし、枚葉洗浄が行われたガラスシートGは、さらに、バッチ洗浄が行われてもよい。バッチ洗浄では、図5に示されるように、複数枚のガラスシートGがカセット120に収容され、ガラスシートGが複数の液槽130に、順次、浸漬されて洗浄される。
【0079】
(6-4)変形例D
本実施形態では、ガラスシートの表面は、0.7nm未満の表面粗さRaを有することが好ましい。表面粗さRaは、ガラスシートの表面の粗さを表すパラメータの一種である「中心線平均粗さ」である。ガラスシートの表面粗さRaが0.7nm未満の場合、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性に影響が出ないので、ガラスシート表面におけるブラックマトリックス樹脂の密着性のコントロールがより容易に可能となる。」

(3) 上記(2)より、当初明細書等に記載された事項として以下の事項を把握することができる。
ア 第2の洗浄工程において用いられるTMAHにより、第1洗浄工程で使用された無機アルカリ系の洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来する有機物であって、第1洗浄工程によってガラスシートの表面に付着し、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる疎水性有機物がガラスシートの表面から除去されること。(段落【0008】,【0009】,【0057】等)

イ (前記)疎水性有機物は、ガラスシートの表面に存在している有機物のうち、キャピラリーカラムとしてジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1が用いられるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり、芳香族化合物が含まれること。(段落【0010】,【0013】【0057】等)

ウ 洗浄後のガラスシートは、表面に存在している(前記)疎水性有機物の質量が、表面1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngであること。(段落【0010】,【0011】等)

エ 前記疎水性有機物は、ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物である(ガラスシートよりも水に対する親和性が低い有機物である)こと。(段落【0011】等)

オ 前記ガラスシートが、表面粗さRaが、0.15nm?0.67nmであり、0.1質量%?0.5質量%のR’_(2)Oを含み、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種であり、0.01質量%?0.08質量%のFe_(2)O_(3):を含有し、As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)およびPbOを実質的に含有しないこと。(段落【0023】,【0024】等)

カ 枚葉洗浄によるガラスシートの洗浄方法においては、ガラスシートGは、第1洗浄ユニット10において、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤で洗浄された後に、第2洗浄ユニット20において、TMAHで洗浄され、
第2洗浄ユニット20の構成は、第1洗浄ユニット10の構成と実質的に同じであり、
第1洗浄ユニット10の洗浄剤タンク18は、第1洗浄工程で用いられる、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を貯留する。洗浄剤タンク18は、例えば、50℃?80℃の温度範囲に洗浄剤を加熱して保温する機能を有し、
第2洗浄ユニット20の洗浄剤タンク18は、第2洗浄工程で用いられるTMAHを貯留すること。(段落【0037】,【0038】,【0042】,【0044】等)

キ バッチ洗浄によるガラスシートの洗浄方法においては、洗浄液の温度を調節する温度調節機構を備え、ガラスシートGが各液槽130において洗浄液に浸漬される時間は、液体Lに応じて、45秒?180秒であること。(段落【0052】,【0053】等)

ク ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性を判定は、表面に膜厚が1μmになるようにブラックマトリックス樹脂が塗布されたガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、ガラスシート表面におけるブラックマトリックスの剥離および残渣の有無を確認することによるものであること。(段落【0068】,【0069】等)

ケ 第2洗浄工程においてTMAHを用いた実施例では、ガラスシートの表面に塗布されたブラックマトリックス樹脂は5μm?30μmの線幅において、剥離および残渣が確認されず、TMAHにガラスシートを浸漬して洗浄を行う替わりに、アンモニア水にガラスシートを浸漬して超音波洗浄を行った比較例においては、20μmより線幅が狭いブラックマトリックス樹脂に関して、ブラックマトリックスの成膜条件および現像条件を変更しても、剥離および残渣の発生が確認されたこと。(段落【0074】等)

コ ガラスシートの表面粗さRaが0.7nm未満の場合、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性に影響が出ないこと。(段落【0079】,【0074】等)

(4) 上記(3)をまとめると、当初明細書等には、第1洗浄工程で使用される無機アルカリ系の洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物であって、第1洗浄工程によってガラスシートの表面に付着し、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となり、第2の洗浄工程において用いられるTMAHにより、ガラスシートの表面から除去されて、表面に存在している質量が表面1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngとされる、「疎水性有機物」は、キャピラリーカラムとしてジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1が用いられるGC/MSにおける保持時間が18分以上のものであることは、当初明細書等に記載されていると認められる。
しかしながら、当初明細書等には、該「疎水性有機物」を特定する際に、キャピラリーカラムとしてジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いたGC/MSを「50℃?80℃の温度範囲」で行うことは記載されておらず、また、どのような温度条件で行うかについて示唆もされてない。
そして、ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来する「疎水性有機物である芳香族化合物」を、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いたGC/MSにおける保持時間により特定する時に、50℃?80℃の温度範囲で行うことが技術常識であるとも認められない。
そうすると、本件補正により、請求項1に記載された「疎水性有機物」の特定手段を、「前記表面に存在している有機物のうち、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であ」るとすることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(5) 請求人の主張について
ア 請求人は、平成29年10月3日提出の意見書において、「明細書の段落0042には、『第1洗浄ユニット10の洗浄剤タンク18は、第1洗浄工程で用いられる、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を貯留する。洗浄剤タンク18は、例えば、50℃?80℃の温度範囲に洗浄剤を加熱して保温する機能を有する。』と記載されています。さらに、明細書の段落0044には、『第2洗浄ユニット20は、第1洗浄ユニット10と同じ構成を有する。しかし、第2洗浄ユニット20の洗浄剤タンク18は、第2洗浄工程で用いられるTMAHを貯留する。』と記載されています。すなわち、第1洗浄ユニット10と第2洗浄ユニット20とは、貯留する対象が異なりますが、同じ構成を有しています。そのため、第2洗浄ユニット20の洗浄剤タンクは、第1洗浄ユニット10の洗浄剤タンクと同様に、タンク内の物質を、50℃?80℃の温度範囲に加熱して保温する機能を有します。従って、明細書には、第2洗浄工程におけるTMAHの温度範囲が50℃?80℃であることが示唆されています。また、第2洗浄工程は、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる疎水性有機物が、ガラスシートの表面から除去される工程です。そして、請求項1では、第2洗浄工程で除去される疎水性有機物は、GC/MSにおける保持時間が18分以上である疎水性有機物です。そのため、GC/MSの温度条件は、第2洗浄工程におけるTMAHの温度範囲である50℃?80℃であると考えられます。」旨主張している。

イ 請求人が主張するように、当初明細書等の段落【0042】及び【0044】の記載によれば、洗浄剤タンクにおいて、第1洗浄工程で用いられる界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤が、例えば、50℃?80℃の温度範囲に加熱して保温されることが記載され、第2洗浄工程で用いられるTMAHも例示された温度と同程度の温度範囲に加熱・保温されることが示唆されている。

ウ しかしながら、請求人は、「第2洗浄工程におけるTMAHの温度範囲が50℃?80℃である」こと、「第2洗浄工程は、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる疎水性有機物が、ガラスシートの表面から除去される工程で」あること、及び「第2洗浄工程で除去される疎水性有機物は、GC/MSにおける保持時間が18分以上である疎水性有機物で」あることから、どうして、「GC/MSの温度条件は、第2洗浄工程におけるTMAHの温度範囲である50℃?80℃である」ことが導かれるのか、その具体的な根拠・理由を示していない。

エ ここで、当初明細書等に記載された「50℃?80℃の温度範囲」は、洗浄剤タンクにおいて、洗浄剤が加熱・保温される温度範囲であることから、洗浄剤がその洗浄効果を好適に発揮できる適温として示されたものと理解される。

オ 一方、ガスクロマトグラフィー(GC)においては、キャピラリーカラムの温度条件は、試料の材料・成分数、沸点等のガス化の条件、分析精度(ピークの分離、ピーク形状等)及び分析時間(保持時間)などの諸条件を考慮の上、カラム条件(材質、長さ、内径、膜厚等)及びキャリアガス条件(材料、速度等)の選定と共に決定されるものであることは技術常識である。

カ そうすると、出願当初明細書等に記載された「50℃?80℃の温度範囲」は、洗浄剤がその洗浄効果を好適に発揮できる適温として示されたものであって、上記オのように決定されるGCの温度条件として記載されたものとは、当業者が理解することはない。

キ また、「洗浄剤」における「50℃?80℃の温度範囲」は、「ガラスシート」表面に「付着」した「疎水性有機物」が「洗浄剤」により好適に「洗浄」・「除去」されるという技術的意義を持つものであって、「固定層」を「100%ジメチルポリシロキサン」からなる「液相」(後記3イ(コ)参照)とする「無極性カラムTC-1」を用いて行われるGC/MSにおいて、キャリアーガスにより運ばれる「気体」状の「疎水性有機物」が「固定層」中へ「分配」されることによる「保持時間」や「疎水性有機物」の「ガス化」を考慮の上、カラム条件及びキャリアガス条件と共に決定されるカラムの温度条件とは、その技術的意義が相違するものであるから、両者を一致させる必要性はない。

ク むしろ、第1洗浄工程で用いられる、界面活性剤が添加された無機アルカリ系の洗浄剤を貯留する洗浄剤タンクにおいて、洗浄剤が50℃?80℃の温度範囲に加熱・保温されるということから、界面活性剤は50℃?80℃の温度範囲においては、ガス化せずに安定して存在し得るものと考えられるところ、界面活性剤に由来する疎水性有機物をGCにおける保持時間により特定する時には、カラム温度は疎水性有機物がガス化される温度に設定しなければならないことから、カラム温度は界面活性剤に由来する疎水性有機物のガス化のために50℃?80℃の温度範囲より高い温度に設定されるものと考えられる。

ケ そうしてみると、「50℃?80℃」の温度範囲は、「ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて」行われる「GC/MSにおける保持時間が18分以上である」ということにより「疎水性有機物」を特定する際のカラムの温度条件に係るものでないことは明らかである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(6) まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。本件補正は、カラーフィルタ用ガラスシートを、「0.15nm?0.67nmの表面粗さRaを有し」、「0.01質量%?0.08質量%のFe_(2)O_(3)を含有」する構成に限定しているから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するところ、仮に、本件補正が新規事項の追加にあたらないとして、本件補正後の特許請求の範囲に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 本件補正後の特許請求の範囲における請求項1には、ガラスシート表面における「疎水性有機物」は、「前記表面に存在している有機物のうち」の「ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物」であることが記載されている。

イ ジーエルサイエンス株式会社製の「TC-1」は、固定層の材料が「液相」の「100%ジメチルポリシロキサン」である「無極性カラム」であることが知られている(例えば、下記(コ)参照。)。
しかしながら、「TC-1」は、製品としては、そのカラムの長さ、内径、膜厚等その構造が異なる複数の種類が存在する(例えば、以下(ア)?(コ)を参照。)。
ここで、GCにおいて、保持時間は、固定層の材料やカラム温度以外にキャピラリーカラムの長さ、膜厚、内径や分析精度、キャリアガス条件等にも依存することは、技術常識であるところ、ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来する「疎水性有機物である芳香族化合物」の「疎水性有機物」を、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて行われるGC/MSにおける保持時間(18分以上)により特定する際に、どのような長さ、内径、膜厚のものを用いるのかについて、また、キャリアガスの成分や線速度等キャリアガス条件や分析精度をどのようにするのかについての技術常識や規格があるとも認められない。
そうしてみると、本件補正後の特許請求の範囲における請求項1において、「疎水性有機物である芳香族化合物」について、「芳香族化合物は、前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であり、かつ、前記ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、前記ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物であり」、「前記密着性の低下は、膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味」し、ガラスシートが「0.15nm?0.67nmの表面粗さRaを有」することがさらに特定されていたとしても、「疎水性有機物」は、「前記表面に存在している有機物のうち、ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1を用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であ」るというだけでは、「保持時間」に影響を与える「ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1」が、どのような長さ、膜厚、内径を有するものであるのか不明なのであるから、「疎水性有機物」が十分に特定されているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。

(ア) 国際公開第2011/115132号
「<ガスクロマトグラフィー分析>
実施例C1?C7、および参考例C1におけるガスクロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
分析カラム:GLサイエンス社製TC-1キャピラリーカラム、カラム長30m、内径0.53mm、膜厚1.5μm)、カラム温度:70から300℃、昇温速度5℃/分)」(段落【0276】)

(イ) 特開2011-241161号公報
「GC分析装置、及び分析条件を以下に示す。
装置:GC-2010(島津製作所社製)
カラム:TC-1:長さ30m、外径0.25mm、肉厚0.25μm(GLサイエンス)
分析条件
カラム温度:100℃(2分)、100から290℃(8℃/分)、290℃(15分)
キャリアガス:ヘリウム」(段落【0031】)

(ウ) 特開2004-211142号公報
「(2)GCの測定条件
カラム:TC-1 0.32mm内径×30m長さ、膜厚0.25μm
注入温度:250℃
カラム温度(昇温条件):100℃(1分)→昇温20℃/min.→140℃(0分)
測定には内標準法を使用し、測定結果を標準物質の測定結果と比較することによって、試料の定量分析を行った。」(【0018】)

(エ) 特開2008-297242号公報
「<ガスクロマトグラフ分析>
カラム:TC-1(内径0.25mm、充填剤の厚み0.25μm、長さ60m)
注入口温度:150℃
検出器:FID
検出器温度:280℃
カラムオーブン条件:100℃で3分保持した後、10℃/分で180℃に昇温し、180℃で5分間保持し、保持後、更に、10℃/分で280℃に昇温し、280℃で5分保持した。」(【0049】)

(オ) 特開2006-188559号公報
「有機硫黄化合物の含有量は、硫黄化学発光検出器(SCD)を備えたガスクロマトグラフィー(GC)を用いて二硫化炭素換算値として測定した。このGC分析には、ジーエルサイエンス社製のTC-1カラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.0μm)を用いた。キャリアーガスとしてヘリウムを2.0ml/分の流量で流した。試料注入口温度は150℃とした。オーブン温度は50℃で5分間保持後、10℃/分の昇温速度で昇温し、250℃に到達後5分間保持した。」(【0047】)

(カ) 特開2002-328121号公報
「装置構成
注入口?(急速加熱装置+モノリスカラム)?GC(FID)
モノリスカラム;20cm,内径0.2mm,外径0.35mm
マクロ細孔 直径3μm,ミクロ細孔 直径8nm
分離カラム;TC?1,内径0.25mm,膜圧0.1μm,15m
注入口温度120℃,カラム温度120℃,検出器温度120℃
キャリアーガス;He,キャリア圧350kPa
試料
ベンゼン505ppmに調整した標準ガス(窒素ベース)を用いてベンゼン18ngを注入。」(【0024】)

(キ) 特開2010-29119号公報
「 [GCによる分析方法]
培養液を遠心分離し、得られた上清を膜濾過した後、下記に示す条件により測定した。
・装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
・カラム:TC-1;15m*0.53mm*1.5μm(ジーエルサイエンス社製)
・注入方法:スプリット(30:1)
・キャリアガス:ヘリウム
・メイクアップガス:ヘリウム
・気化室温度:200℃
・カラム温度:100℃」(段落【0040】)

(ク) 特開2006-83068号公報
「○ガスクロマトグラフィーの分析条件
カラム:GLサイエンス社製 TC-1
長さ:15m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm
昇温プログラム:150℃から10℃/minで280℃まで
キャリアーガス:窒素ガス
検出器:FID」(段落【0031】)

(ケ) Patcharaporn Wongsa et al., "Isolation and Characterization of Novel Strains of Pseudomonas aeruginosa and Serratia marcescens Possessing High Efficiency to Degrade Gasoline, Kerosene, Diesel Oil, and Lubricating Oil", Current Microbiology, 2004, Vol.49, p415-422(特に、416頁左欄最下行?右欄4行)
「・・・and the extract was analyzed with a gas-liquid chromatograph(GC; model GC 355B, GL Science, Tokyo, Japan)equipped with a flame ionization detector(FID) and a capillary column(TC-1, length 30m, ID 0.25 mm, film thickness 0.1 μm) obtained from GL Science.」
(日本語訳)
「・・・そして抽出物は、GLサイエンス社から得られる水素炎イオン化型検出器(FID)とキャピラリーカラム(TC-1,長さ30m,内径0.25mm,膜厚0.1μm)を備えた気体-液体クロマトグラフ(GC:モデルGC355B,GLサイエンス,東京,日本)を用いて解析された。」

(コ) 「ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラム総合カタログ InterCap^(R) TCシリーズ」(当合議体注:登録商標を示す丸付きの「R」の「丸」を省略している。),44頁,[online],2014年3月,ジーエルサイエンス株式会社,[平成29年10月30日検索],インターメット<https://abh30.com/glsciences/general_GC_Column/_SWF_Window.html?pagecode=66>
「TC-1



ウ また、本件補正後の特許請求の範囲における請求項1には、「疎水性有機物である芳香族化合物」に関し、「前記芳香族化合物」は、「前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であり」、「前記密着性の低下は、膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する」と記載されている。

エ ここで、「前記芳香族化合物」に関し、補正後の請求項1には、「前記ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、前記ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物であ」ること、及び「前記表面における」「付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngであ」ることが特定されるとともに、「ガラスシート」に関し、「0.15nm?0.67nmの表面粗さRaを有し」、「0.01質量%?0.08質量%のFe_(2)O_(3)を含有」することが特定され、本願の明細書には、「ガラスシートの表面粗さRaが0.7nm未満の場合、ガラスシート表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性に影響が出ない」(段落【0079】等)ことが記載されている。
しかし、ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生の有無は、「疎水性有機物である芳香族化合物」の組成だけでなく、塗布されるブラックマトリクス樹脂の組成やガラスの(他の)組成や露光・現像条件などによっても異なることが技術常識から明らかなことであるから、「前記表面への前記ブラックスマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる」「疎水性有機物である芳香族化合物」が十分に特定されているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。

オ 請求人の主張
請求人は、平成29年10月3日提出の意見書において、「補正後の請求項1では、無極性カラムは、『ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1』に限定されており、カラムの長さ、内径、膜圧等の構造、および、固定層の材料・組成が特定されています。そのため、疎水性有機物も特定することができます。」、「補正後の請求項1では、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物(芳香族化合物)が、『前記ガラスシートの洗浄に用いられる洗浄剤に含まれる界面活性剤に由来し、前記ガラスシートと比較して疎水性が高い有機物』に限定されています。また、ブラックマトリックス樹脂の密着性は、ガラスシート表面における芳香族化合物の付着量によって変化するところ、補正後の請求項1では、芳香族化合物の付着量が、1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ngに限定されています。そのため、補正後の請求項1では、芳香族化合物を特定することができます。」、「また、補正後の請求項1では、ガラスシートの表面粗さRaが0.7nm未満、具体的には、0.15nm?0.67nmに限定され、この数値範囲の表面粗さRaは、ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下に影響が出ない範囲に相当します。そのため、ガラスシートの表面粗さRaの数値範囲の限定によって、請求項1に係るガラスシートがどのようなものであるのか明確になっています。」旨主張している。
しかしながら、「無極性カラム」が「ジーエルサイエンス株式会社製の無極性カラムTC-1」に特定されたとしても、そのカラムの長さ、内径、膜圧等の構造が依然として特定されないことは、上記イのとおりである。
また、「芳香族化合物の付着量」が、「1cm^(2)当たり0.01ng?0.25ng」に限定されるとともに、「ガラスシートの表面粗さRa」が「0.15nm?0.67nm」に限定されて、「この数値範囲の表面粗さRa」が「ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下に影響が出ない範囲に相当」するものになったとしても、「前記表面への前記ブラックスマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる」「疎水性有機物である芳香族化合物」が依然として特定されないことは、上記エのとおりである。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

カ したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2) 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲は、平成29年3月29日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記第2[理由]1(1)参照。)。

(1)当審の拒絶理由
当審で平成29年6月29日付けで通知した拒絶理由通知は概要は以下のとおりである。

「理由1 平成29年3月29日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1において、「疎水性有機物」を特定する「GC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり」という記載が、「無極性カラムを用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり」に補正された。
しかしながら、当初明細書等には、「GC/MSにおける保持時間」により「疎水性有機物」を特定する際に、「無極性カラム」を用いることは記載されているものの、「50℃?80℃の温度範囲」で行うことについては記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて、当業者にとって自明の事項とも認められない。
よって、「GC/MSにおける保持時間」により「疎水性有機物」を特定する際に、「50℃?80℃の温度範囲」で行うとの補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

理由2 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1) 平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1の記載が補正され、「疎水性有機物」は、「無極性カラムを用いて」行われる「GC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物」であるものとなった。
しかしながら、一般的に、カラムの長さ・内径・膜厚等の構造や固定層の材料・組成が異なる様々な「無極性カラム」が存在し、用いる「無極性カラム」によって「GC/MSにおける保持時間」は異なるものと考えられる。したがって、「無極性カラムを用いて」行われる「GC/MSにおける保持時間が18分以上である」という記載のみでは、「疎水性有機物」が十分に特定されない。
よって、請求項1に係る発明のガラスシートがどのようなものであるのか明確でない。
請求項1の記載を引用する請求項2?5に係る発明についても同様である。

(2) 平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1の記載が補正され、「疎水性有機物である芳香族化合物」に関し、「前記芳香族化合物は、前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であ」るところ、「前記密着性の低下」とは、「膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する」ものとなった。
しかしながら、ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生の有無は、「疎水性有機物である芳香族化合物」の組成だけでなく、塗布されるブラックマトリクス樹脂の組成やガラスの組成や露光・現像条件などによっても異なる。そうすると、「前記密着性の低下」が、「膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する」という記載では、「前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる」「疎水性有機物である芳香族化合物」が特定されない。
よって、請求項1に係る発明のガラスシートがどのようなものであるのか明確でない。
請求項1の記載を引用する請求項2?5に係る発明についても同様である。

理由3 本件出願の請求項1?5に係る発明は、その優先権主張の日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(引用例等一覧)
引用例1:特開2006-195450号公報
引用例2:特開2012-82286号公報
引用例3:特開2003-266030号公報
引用例4:特開2009-203080号公報
引用例5:特開2012-13840号公報
引用例6:国際公開第2012/053399号

・請求項1,2について
・引用例1?4

・請求項3?5について
・引用例1?6」

(3)当審の拒絶の理由についての判断
ア 理由1について
(ア) 平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1において、「疎水性有機物」を特定する「GC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり」という記載が、「無極性カラムを用いて50℃?80℃の温度範囲で行われるGC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物であり」に補正された。

(イ) しかしながら、上記「第2[理由]2 新規事項」で既に示したとおり、当初明細書等には、「GC/MSにおける保持時間」により「疎水性有機物」を特定する際に、「無極性カラム」を用いることは記載されているものの、「50℃?80℃の温度範囲」で行うことについては記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて、当業者にとって自明の事項とも認められない。
よって、「GC/MSにおける保持時間」により「疎水性有機物」を特定する際に、「50℃?80℃の温度範囲」で行うとの補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(ウ) よって、平成29年3月29日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

イ 理由2について
(ア)理由2(1)について
a 平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1の記載が補正され、「疎水性有機物」は、「無極性カラムを用いて」50℃?80℃の温度範囲で行われる「GC/MSにおける保持時間が18分以上である有機物」であるものとなった。

b しかしながら、「無極性カラム」としては、例えば、ジーエルサイエンス社製TC-1シリーズ(上記第2[理由]3イ(ア)?(コ)参照)の他、アジレント社製DB-1msシリーズ・HP-1msシリーズ(固定層:100%ジメチルポリシロキサン)、DB-5msシリーズ(固定層:(5%フェニル)・メチルポリシロキサンとほぼ同等のフェニル基ポリマー)、HP-5msシリーズ(固定層:(5%フェニル)・メチルポリシロキサン)(例えば、「Agilent J&W GCカラムセレクションガイド」,69-72頁,[online],2012年10月30日,Agilent Technologies,[平成29年10月30日検索],インターネット<http://www.chem-agilent.com/pdf/5990-9867JP.pdf>参照。)など、固定層の材料・組成やカラムの長さ・内径・膜厚等の構造が異なる様々な「無極性カラム」が存在している。
そして、GCにおいて、保持時間は、カラム温度以外にキャピラリーカラムの固定層の材料・組成や、長さ、膜厚、内径や分析精度、キャリアガス条件等にも依存することは技術常識であり、「疎水性有機物」を、無極性カラムを用いて行われるGC/MSラムにおける保持時間(18分以上)により特定する際に、無極性カラムとして、どのような固定層の材料・組成、どのような長さ、内径、膜厚のカラムを用いるのかについての技術常識や規格があるとも認められない。
したがって、したがって、「無極性カラムを用いて」行われる「GC/MSにおける保持時間が18分以上である」という記載のみでは、「疎水性有機物」が十分に特定されているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明のガラスシートがどのようなものであるのか明確でない。

(イ)理由2(2)について
a 平成29年3月29日付けでした手続補正により、請求項1の記載が補正され、「疎水性有機物である芳香族化合物」に関し、「前記芳香族化合物は、前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物であ」るところ、「前記密着性の低下」とは、「膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する」ものとなった。

b しかしながら、ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生の有無は、「疎水性有機物である芳香族化合物」の組成だけでなく、塗布されるブラックマトリクス樹脂の組成やガラスの組成や露光・現像条件などによっても異なることは技術常識から明らかなことである。
そうすると、「前記密着性の低下」が、「膜厚が1μmになるように前記ブラックマトリックス樹脂を塗布した前記ガラスシートを、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μmおよび30μmのパターンが描かれたフォトマスクを用いて露光および現像して、20μmより線幅が狭い前記ブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の発生が確認されたことを意味する」という記載では、「前記表面への前記ブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる」「疎水性有機物である芳香族化合物」が十分に特定されているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明のガラスシートがどのようなものであるのか明確でない。

(ウ) よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 まとめ
したがって、平成29年3月29日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-02 
結審通知日 2017-11-07 
審決日 2017-11-22 
出願番号 特願2015-33453(P2015-33453)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
中田 誠
発明の名称 カラーフィルタ用ガラスシートの製造方法、カラーフィルタパネルの製造方法、および、ディスプレイ用ガラス基板  
代理人 加藤 秀忠  
代理人 石川 貴之  
代理人 石川 貴之  
代理人 加藤 秀忠  

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