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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23B
管理番号 1339027
審判番号 不服2016-12291  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-15 
確定日 2018-04-04 
事件の表示 特願2013-552131「穿孔工具及び穴の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年8月9日国際公開,WO2012/104066,平成26年2月24日国内公表,特表2014-504559〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年2月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月2日,ドイツ連邦共和国,2011年4月13日,ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって,主な手続の経緯は,以下のとおりである。
平成27年 7月10日付け 拒絶理由通知
平成27年12月14日 意見書及び手続補正書提出
平成28年 5月17日付け 拒絶査定
平成28年 8月15日 審判請求書及び手続補正書提出


第2 平成28年8月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月15日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は,平成27年12月14日にされた手続補正に係る特許請求の範囲をさらに補正するものであって,特許請求の範囲の請求項3に関する以下の補正を含んでいる。
なお,当該請求項3は,出願当初の請求項1及び請求項13に係る事項が,平成27年12月14日にされた手続補正により,新たな独立請求項3として記載され,本件補正によって,さらに補正されたものである。また,下線は,補正事項を明らかにするために付したものである。

(1)本件補正前の請求項3
「 【請求項3】
穴を作製するための穿孔工具であって,
先端(3)と,前記穿孔工具の長手軸(7)の方向に視て前記先端(3)の反対側に配置されるシャフト(5)とを有し,
前記穿孔工具(1)が,前記先端(3)の領域に少なくとも一つの幾何学的に規定された切刃を備え,
前記先端(3)から長手方向に視て前記先端(3)の後方に拡径部(23)を有し,前記穿孔工具(1)が,前記拡径部(23)の前方にある第1の直径を有する第1の領域(25)と,前記拡径部(23)の後方にある第2の直径を有する第2の領域(27)とを有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも大きい穿孔工具において,
幾何学的に特定されない切刃により被加工材を加工する場合に形成される切屑に相当する切屑が,被加工材を加工する際に前記拡径部(23)の領域内及び/又は前記第2の領域(27)内で形成されるように,前記拡径部(23)及び/又は前記第2の領域(27)が形成されており,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きいことを特徴とする穿孔工具。」

(2)本件補正後の請求項3
「 【請求項3】
穴を作製するための穿孔工具であって,
先端(3)と,前記穿孔工具の長手軸(7)の方向に視て前記先端(3)の反対側に配置されるシャフト(5)とを有し,
前記穿孔工具(1)が,前記先端(3)の領域に被加工材から切屑を除去するための少なくとも一つの第1の切断部分を備え,
前記先端(3)から長手方向に視て前記先端(3)の後方に拡径部(23)を有し,前記穿孔工具(1)が,前記拡径部(23)の前方にある第1の直径を有する第1の領域(25)と,前記拡径部(23)の後方にある第2の直径を有する第2の領域(27)とを有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも大きい穿孔工具において,
前記拡径部(23)及び/又は前記第2の領域(27)が,前記被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去するための少なくとも一つの第2の切断部分を含んでおり,
前記穿孔工具(1)が,溝(38,38’)を有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きいことを特徴とする穿孔工具。」


2.補正の適否
(1)請求項3に係る補正の目的
請求項3に係る補正のうち,「前記拡径部(23)及び/又は前記第2の領域(27)が,前記被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去するための少なくとも一つの第2の切断部分を含んでおり,」という補正事項(以下「補正事項1」という。)は,平成27年7月10日付けの拒絶理由通知の理由1において,請求項1及び請求項13に対して,また,平成28年5月17日付けの拒絶査定の理由1において,請求項3に対して,それぞれ,「幾何学的に特定されない切刃」が明確でなく,「幾何学的に規定された切刃」と「幾何学的に特定されない切刃」の差が理解できないという旨の拒絶の理由が通知されたことに対して釈明するものであるから,その補正の目的は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当する。
また,請求項3に係る補正のうち,「被加工材から切屑を除去するための少なくとも一つの第1の切断部分」という補正事項は,上記の補正事項1と同様に,「幾何学的に規定された切刃」を釈明するものであるから,その補正の目的は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項に該当する。
そして,請求項3に係る補正のうち,「前記穿孔工具(1)が,溝(38,38’)を有し,」という事項は,本件補正前の請求項3に記載された穿孔工具について,溝を有するものに限定するものである。また,請求項3に係る発明の産業上の利用分野は,穿孔工具に関する分野として,本件補正の前後で同一であり,請求項3に係る発明が解決しようとする課題は,直径が一定の穴を一つの作業工程で作成することとして,本件補正の前後で同一であるから,その補正の目的は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」に該当する。

(2)特許法第126条第7項の規定の適否
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とする補正事項を含むから,本件補正後の請求項3に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

ア.引用例の記載事項及び引用発明
本願優先日前に日本国内において頒布され,平成27年7月10日付けの拒絶理由通知の理由3において,請求項1及び請求項13に対して引用され,平成28年5月17日付けの拒絶査定の理由3において,請求項3に対して引用された引用文献である,実願昭49-121800号(実開昭51-48790号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には,以下の事項及び発明が記載されている。

(ア)引用例に係る明細書第1ページ第10行ないし第2ページ第6行
「本考案は穿孔加工と研削加工とを可能にしたドリルに関する。
従来,穿孔加工は錐体に一様に螺旋状切れ刃を形成したドリルによつて行なわれていた。
このドリルによる穿孔加工では,加工された孔内面の面粗さが大きくなり,高精度に加工することが不可能であつた。特に加工された孔の内面にメツキ等の表面処理をするプリンリ配線基板等では,孔内面を高精度に仕上げる必要があり,従来のドリル加工のままでは,孔内面を均一に表面処理することができず,電気的な接触不良を生じていた。
本考案は上記ドリルの欠点を除去するために開発したもので,一本の錐体の下部と上部とにそれぞれ螺旋状切れ刃と砥粒を固着した部分とを構成し,穿孔と研削加工とを同時に可能にしたドリルを提供することを目的とする。」

(イ)引用例に係る明細書第2ページ第9行ないし第3ページ第7行
「第1図は本考案の一実施例側面図で,図において,円筒形状の錐体(1)の先端には,従来のドリルと同様に切屑を排出しやすくするための螺旋状に形成された切れ刃(2)が設けられてあり,この切れ刃(2)の上部には,ダイヤモンド粒等の砥粒(3)が電着等で固着されている。そしてこの切れ刃(2)の外径は,工作物(図示せず。)の穿孔寸法より1/100?1/10の研削代の量だけ小さい寸法とし,砥粒を固着した部分は穿孔する寸法と同寸法にしておく。
次に使用状態を説明する。
まず錐体(1)のシヤンク部(4)をボール盤,ジグボール盤等のチヤツク機構(図示せず)で把持し,切れ刃を下部にして垂直に保つ。そしてこの錐体(1)を回転する。加工に際しては,まず切れ刃(2)を工作物の所定位置上に位置決めして穿孔加工し,この穿孔加工後さらにこの錐体(1)を工作物中に押し進め,錐体(1)の周囲に固着された砥粒(3)により研削加工する。」

(ウ)引用例に係る明細書第3ページ第12ないし17行
「本考案は上記に詳述したように,螺旋状の切れ刃上部に砥粒を固着した部分を形成したので,工作物に穿孔された孔の寸法精度及び孔内面の面粗さが良くなり,プリント配線基板等の穿孔加工に本案のドリルを使用すれば,メツキ等の表面処理不良に伴なう,電気的な接触不良がなくなつた。」

(エ)第1図の図示
第1図には,ドリルの先端側に切れ刃(2)が設けられ,ドリルの長手軸の方向に見て後方に,砥粒(3)を固着した部分が設けられ,長手軸の方向に視て前記先端の反対側にシャンク部(4)が設けられ,切れ刃(2)に螺旋状の溝が設けられていることが示されている。


(オ)引用発明
上記(イ)には,「切れ刃(2)の外径は,工作物(図示せず。)の穿孔寸法より1/100?1/10の研削代の量だけ小さい寸法とし,砥粒を固着した部分は穿孔する寸法と同寸法にしておく」ことが示されており,切れ刃(2)の外径は,砥粒を固着した部分の外形よりも小さいから,切れ刃(2)と砥粒を固着した部分との境界には,外形が大きくなる拡径部が存在することは明らかである。
また,拡径部よりも前方側(切れ刃(2)の側)を第1の領域,後方側(砥粒を固着した部分の側)を第2の領域とすれば,第2の領域の直径(外形)は,第1の領域の直径(外形)よりも,穿孔寸法の1/100?1/10の研削代の量だけ大きいことは明らかである。
そして,上記(ア)ないし(ウ)に係る記載事項及び(エ)に係る図示,並びにそれらの記載事項や図示から明らかな事項を整理すると,引用例には次の発明が記載されているということができる。
「プリント配線基板に穿孔加工するためのドリルであって,
先端と,前記ドリルの長手軸の方向に視て前記先端の反対側に配置されるシャンク部(4)とを有し,
前記ドリルが,前記先端の領域に切屑を排出するための螺旋状に形成された切れ刃(2)を備え,
前記先端から長手方向に視て前記先端の後方に拡径部を有し,前記ドリルが,前記拡径部の前方にある第1の直径を有する第1の領域と,前記拡径部の後方にある第2の直径を有する第2の領域とを有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも大きいドリルにおいて,
前記拡径部及び前記第2の領域が,砥粒を固着した部分を含んでおり,
前記ドリルが,溝を有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも,穿孔寸法の1/100?1/10の研削代の量だけ大きいドリル。」(以下,当該発明を「引用発明」という。)

イ.対比
本件補正発明と引用発明を対比すると,引用発明の「プリント配線基板に穿孔加工」することが本件補正発明の「穴を作製する」ことに相当することは明らかであり,以下同様に,「ドリル」が「穿孔工具」に相当し,「シャンク部(4)」が「シャフト(5)」に相当し,「切屑を排出するための螺旋状に形成された切れ刃(2)」が「被加工材から切屑を除去するための少なくとも一つの第1の切断部分」に相当する。
また,引用発明の「砥粒を固着した部分」と本件補正発明の「前記被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去するための少なくとも一つの第2の切断部分」は,「2番目の切断部分」という点で共通する。
以上から,本件補正発明と引用発明は,以下の点で一致及び相違する。

<本件補正発明に対する一致点>
「穴を作製するための穿孔工具であって,
先端と,前記穿孔工具の長手軸の方向に視て前記先端の反対側に配置されるシャフトとを有し,
前記穿孔工具が,前記先端の領域に被加工材から切屑を除去するための少なくとも一つの第1の切断部分を備え,
前記先端から長手方向に視て前記先端の後方に拡径部を有し,前記穿孔工具が,前記拡径部の前方にある第1の直径を有する第1の領域と,前記拡径部の後方にある第2の直径を有する第2の領域とを有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも大きい穿孔工具において,
前記拡径部及び前記第2の領域が,2番目の切断部分を含んでおり,
前記穿孔工具が,溝を有している穿孔工具。」

<本件補正発明に対する相違点1>
2番目の切断部分が,本件補正発明は「前記被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去するための少なくとも一つの第2の切断部分」であるのに対して,引用発明は「砥粒を固着した部分」である点。

<本件補正発明に対する相違点2>
本件補正発明は,「前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きい」ものであるのに対して,引用発明は,「前記第2の直径が前記第1の直径よりも,穿孔寸法の1/100?1/10の研削代の量だけ大きい」ものである点。

ウ.判断
(ア)本件補正発明に対する相違点1について
引用発明の「砥粒を固着した部分」は,具体的には,ダイヤモンド砥粒が固着されており,当該ダイヤモンド砥粒で穴の内面を研削加工する部分であるところ,研削加工の技術常識を考慮すると,当該研削加工では,被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去することが行われるといえるから,引用発明の「砥粒を固着した部分」も,「前記被加工材から粉塵状の粒子の形態の細かい材料を除去するための少なくとも一つの第2の切断部分」ということができる。
そうすると,上記本件補正発明に対する相違点1は,表現上の相違にすぎず,実質的な相違点ではない。

(イ)本件補正発明に対する相違点2について
引用発明は,「前記第2の直径が前記第1の直径よりも,穿孔寸法の1/100?1/10の研削代の量だけ大きい」ものであるところ,引用発明が加工する穴はプリント配線基板の電気的な接続を行う穴であり,その穴直径は種々の大きさのものが存在し,例えば直径を1mmないし3mm程度にすることは,改めて例示するまでもない周知の技術的事項といえる。
引用発明の研削代は,穿孔寸法の1/100?1/10であるから,穿孔寸法が1mmであれば,研削代は10μmないし100μmであり,穿孔寸法が3mmであれば,研削代は30μmないし300μmとなり,本件補正発明が特定する「0μm?60μmの間」にある大きさも含んでいるし,具体的な研削代の大きさをどの程度とするかは,穴の大きさや精度等を考慮して当業者が適宜に決定すべき数値範囲の最適化にすぎない。
したがって,引用発明において,「前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きい」ものとすることは,引用例の記載や周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

(ウ)作用効果について
本件補正発明が奏する作用や効果は,引用発明及び引用例の記載事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。

(エ)審判請求書の主張について
請求人は,本件補正発明(補正後の請求項3に係る発明)が,引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得るものでないことについて,審判請求書の特に(3.2)欄において,「引用文献1には,・・・本願発明1,3の上記各構成,特に,本願発明1の構成(B)のうち「前記穿孔工具の直径が前記先端(3)から前記シャフト(5)へ向かって連続的に増加する拡張領域(29)」に関する構成は一切開示されていない。」と主張しているが,本件補正発明は,上記1.(2)に示すとおりであり,「連続的に増加する拡張領域」は,特定されていない。また,他に,本件補正発明と引用発明との具体的な相違については主張されていない。
したがって,本件補正発明についての審判請求書の主張は採用できない。

エ.補正の適否についてのむすび
以上のとおり,本件補正発明は,引用発明,引用例の記載事項及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明の認定
ア.本願発明の記載
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成27年12月14日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて,上記第2の1.(1)に示すとおりのものである。

イ.「幾何学的に特定されない切刃」及び「幾何学的に規定された切刃」について
本願発明の記載のうち,「幾何学的に特定されない切刃」とは,幾何学的にどのように特定されないことをいうのか明確でないため,発明の詳細な説明を参照すると,段落【0034】の「ダイヤモンドコーティングの粒子は、好ましくは幾何学的に特定されない切刃を提供する」,段落【0036】の「好ましくは粗粒状のコーティングにより好ましくは幾何学的に特定されない切刃による研磨段階が形成される」,段落【0039】の「コーティングが粗いダイヤモンド粒子を含んでいる場合、そこでは、研磨プロセス又は研ぎプロセスの材料除去、つまり結局のところ幾何学的に特定されない切刃による加工に相当する材料除去が保証される」,段落【0042】の「研磨バンクは幾何学的に特定されない切刃,例えば祖粒状のコーティングを含んでいる。」との記載からみて,「研磨を実現する刃」を意味すると解することができる。
また,「幾何学的に規定された切刃」について,発明の詳細な説明には,明確な定義はないが,本願の図1の螺旋状の切刃を「幾何学的に規定された切刃」としているから,少なくとも螺旋状の切刃が「幾何学的に規定された切刃」に含まれることは明らかである。
そして,平成27年12月14日付けの意見書の(2-2)欄において,請求人も,「幾何学的に特定されない切刃」及び「幾何学的に規定された切刃」について,同様の説明をしている。

2.引用例の記載事項及び引用発明
平成27年7月10日付けの拒絶理由通知及び平成28年5月17日付けの拒絶査定において引用された引用例,その記載事項及び引用発明は,上記第2の2.(2)ア.に記載したとおりである。

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「プリント配線基板に穿孔加工」することが本願発明の「穴を作製する」ことに相当することは明らかであり,以下同様に,「ドリル」が「穿孔工具」に相当し,「シャンク部(4)」が「シャフト(5)」に相当し,「切屑を排出するための螺旋状に形成された切れ刃(2)」が「少なくとも一つの幾何学的に規定された切刃」に相当する。
以上から,本件補正発明と引用発明は,以下の点で一致及び相違する。

<本願発明に対する一致点>
「穴を作製するための穿孔工具であって,
先端と,前記穿孔工具の長手軸の方向に視て前記先端の反対側に配置されるシャフトとを有し,
前記穿孔工具が,前記先端の領域に少なくとも一つの幾何学的に規定された切刃を備え,
前記先端から長手方向に視て前記先端の後方に拡径部を有し,前記穿孔工具が,前記拡径部の前方にある第1の直径を有する第1の領域と,前記拡径部の後方にある第2の直径を有する第2の領域とを有し,
前記第2の直径が前記第1の直径よりも大きい穿孔工具。」

<本願発明に対する相違点1>
本願発明は「幾何学的に特定されない切刃により被加工材を加工する場合に形成される切屑に相当する切屑が,被加工材を加工する際に前記拡径部(23)の領域内及び/又は前記第2の領域(27)内で形成されるように,前記拡径部(23)及び/又は前記第2の領域(27)が形成されて」いるのに対して,引用発明は「前記拡径部及び前記第2の領域が,砥粒を固着した部分を含んで」いる点。

<本願発明に対する相違点2>
本願発明は「前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きい」ものであるのに対して,引用発明は「前記第2の直径が前記第1の直径よりも,穿孔寸法の1/100?1/10の研削代の量だけ大きい」ものである点。

4.判断
(1)本願発明に対する相違点1について
本願発明の「幾何学的に特定されない切刃」は,上記1.イ.に示すとおり,「研磨を実現する刃」と解釈できるところ,引用発明の「砥粒を固着した部分」は,具体的には,ダイヤモンド砥粒が固着されており,当該ダイヤモンド砥粒で穴の内面を研削加工する部分である。そして,本願発明の「幾何学的に特定されない切刃」による「研磨」の加工と,引用発明の「砥粒を固着した部分」による「研削」の加工は,同じ研ぎ加工であるから,引用発明の「砥粒を固着した部分」は,「研磨を実現する刃」,すなわち本願発明の「幾何学的に特定されない切刃」と表現することができる。
そして,本願発明は,「幾何学的に特定されない切刃」によって,「被加工材を加工する場合に形成される切屑に相当する切屑が,被加工材を加工する際に前記拡径部(23)の領域内及び/又は前記第2の領域(27)内で形成されるように,前記拡径部(23)及び/又は前記第2の領域(27)が形成されて」いるというものであるが,引用発明の「砥粒を固着した部分」によって,「被加工材を加工する場合に形成される切屑に相当する切屑」が形成されることは明らかであるし,その切屑は,「砥粒を固着した部分」が存在する領域,すなわち拡径部及び第2の領域内で形成されることも明らかである。
そうすると,引用発明において「前記拡径部及び前記第2の領域が,砥粒を固着した部分を含んで」いることを,本願発明と同様に,「幾何学的に特定されない切刃により被加工材を加工する場合に形成される切屑に相当する切屑が,被加工材を加工する際に前記拡径部の領域内及び前記第2の領域内で形成されるように,前記拡径部及び前記第2の領域が形成されて」いると表現することができるから,本願発明に対する相違点1は,表現上の相違にすぎず,実質的な相違点ではない。

(2)本願発明に対する相違点2について
本願発明に対する相違点2は,上記第2の2.(2)イ.に示す,本件補正発明に対する相違点2と同じものであるから,その判断は,上記第2の2.(2)ウ.(イ)に示すとおりであり,引用発明において,「前記第2の直径が前記第1の直径よりも0μm?60μmの間で,若しくは10?50μmの間で,又は30μm大きい」ものとすることは,引用例の記載や周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

(3)作用効果について
本願発明が奏する作用や効果は,引用発明及び引用例の記載事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例の記載事項及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-01 
結審通知日 2017-11-07 
審決日 2017-11-21 
出願番号 特願2013-552131(P2013-552131)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23B)
P 1 8・ 121- Z (B23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 彬大山 健  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 柏原 郁昭
刈間 宏信
発明の名称 穿孔工具及び穴の作製方法  
代理人 石川 滝治  
代理人 平木 祐輔  

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