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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1339047
審判番号 不服2016-18917  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-16 
確定日 2018-04-05 
事件の表示 特願2015-522680「表面改質方法及び表面改質体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月24日国際公開、WO2014/203668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月20日(優先権主張 平成25年6月20日)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月30日付け(発送日:同年7月5日)で拒絶理由が通知され、同年8月31日に手続補正書及び意見書が提出され、同年9月13日付け(発送日:同年9月20日)で拒絶査定がされたところ、これに対して、同年12月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成29年2月1日付けで前置報告書が作成され、同年2月22日に上申書が提出され、同年10月18日付け(発送日:同年10月24日)で当審から拒絶理由が通知され、同年12月25日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし25に係る発明は、平成29年12月25日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1及び2に係る発明は、次のとおりのものである(以下、順に「本願発明1」及び「本願発明2」といい、併せて「本願発明」という。)。

「【請求項1】
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)を改質対象物とする表面改質方法であって、
前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、
前記重合開始点を起点にして、300?400nmのUV光を照射して親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含み、
前記親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である表面改質方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)を改質対象物とする表面改質方法であって、
光重合開始剤の存在下で300?400nmのUV光を照射して親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含み、
前記親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である表面改質方法。」

第3 平成29年10月18日付けの拒絶理由の概要
当審における平成29年10月18日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、要するに、

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)請求項1ないし27
(2)引用文献等
引用文献1 特開平10-298320号公報」
との内容を含むものである。

第4 当審拒絶理由についての判断
1 刊行物の記載事項
(1)引用文献1には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】 電磁線によって又は熱的に誘導された、少なくとも1種のオレフィン系不飽和モノマーのグラフト重合によってポリマー支持体の表面を改質する方法において、ポリマー支持体をグラフト前に光重合開始剤又は熱重合開始剤及び少なくとも1種の脂肪族不飽和モノマーで前処理することを特徴とする、ポリマー支持体の表面の改質方法。
【請求項2】 グラフトを前処理直後に行いかつ前処理のために使用したモノマーのみをグラフト重合させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】 前処理したポリマー支持体上に、前処理のために使用したモノマーと同じであるか又はそれとは異なっていてもよい、少なくとも1種の別のモノマーを施し、次に前処理のために使用したモノマー及びあとから施したモノマーを一緒にグラフト重合させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】 ポリマー支持体がポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリエステルアミド又はポリエステルイミド、PVC、ポリシロキサン、ポリメタクリレート又はポリテレフタレートから成る請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】 少なくとも1種の前処理用モノマー及び場合により後から施した少なくとも1種の別のモノマーが同じか又は異なっておりかつ一般式
H_(2)=CR^(1)-COOR^(2) (当審注:「CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) 」の誤記と認める。)
で示されるアクリル-又はメタクリル化合物又は一般式
H_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3) (当審注:「CH_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3) 」の誤記と認める。)
で示されるアクリルアミド又はメタクリルアミドであり、前記式中、
R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、
R^(2)及びR^(3)は同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、金属原子又は20個までの炭素原子を有する枝分れ又は枝なし脂肪族、脂環式、複素環式又は芳香族炭化水素残基又はカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホネート基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルフェート基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、ホスホンアミド基又はこれらの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わす、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】 モノマーが、カルボキシル基又はカルボキシレート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、アミノ基又はアンモニウム基及び/又はホスフェート基を有するモノマーである、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】 ポリマー支持体を、少なくとも大体において光重合開始剤又は熱重合開始剤及び少なくとも1種のモノマーから成る混合物で前処理する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】 電磁線の波長が200?400nmである、請求項1から11又は請求項13から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】 医学工学的製品の製造のための、請求項1から18により改質したポリマー支持体の使用。」(特許請求の範囲 請求項1?5、7、9、16、19)

(イ)「本発明による方法の特定の実施態様の場合には、前処理の直後に、つまり別の手段を用いることなくグラフトを行う。従ってこの場合には、前処理のために使用したモノマー又は前処理のために使用したモノマー混合物のみをグラフト重合させる(変法A)。他の変法の場合には、前処理したポリマー支持体上に、前処理のために使用したモノマーと同じであるか又は同モノマーとは異なっていてもよい少なくとも1種のモノマーを塗布し、次に前処理のために使用したモノマー及び後から塗布したモノマーを一緒にグラフト重合させる(変法B)。」(段落【0017】)

(ウ)「本発明方法は、注目すべき利点の結合を有する。任意のモノマーによって、溶剤及び摩擦力を含む環境の影響に対する抜群の安定性を有する封止的で均質な被覆が得られる。そのためには費用のかかる真空装置は不要である。光化学的に誘導された(放射線誘導)グラフト重合は、その他の点では同一の条件下で、前処理なしのグラフト重合よりも短い照射時間を可能にする。さらに、光化学的に誘導される重合の活性化エネルギーを、光重合開始剤の適当な選択によってその都度のポリマー支持体に適合させて、支持体の機械的又は化学的特性の望ましくない変化を回避することもできる。本発明方法によって改質することができるプラスチック表面は、特定な形態を有しなくてもよい。つまり、三次元的に造形された構造を有する物体も平滑な面と同様に適当である。これは特に予め製造した物体の後からの改質の場合に有利である。・・・」(段落【0020】)

(エ)「1. ポリマー支持体
本発明により改質される表面を有するポリマー支持体には以下のものが挙げられる:ホモポリマー及びコポリマー、例えばポリオレフィン、すなわちポリエチレン(HDPE及びLDPE)、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム及びポリエチレン-コプロピレン;ハロゲンを含むポリマー、すなわちポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロプレン及びポリテトラフルオロエチレン;ビニル芳香族モノマーから成るポリマー及びコポリマー、すなわちポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリスチレン-コ-ビニルトルエン、ポリスチレン-コ-アクリルニトリル、ポリスチレン-コ-ブタジエン-コ-アクリルニトリル;重縮合物、例えばポリエステル、すなわちポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート;ポリアミド、すなわちポリカプロラクタム、ポリラウリンラクタム及びヘキサメチレンジアミン及びアジピン酸からの重縮合物;例えばラウリンラクタム及びエチレンオキシ基平均8、12又は16個を有するポリエチレングリコールから成るポリエーテルブロックアミド;ポリウレタン、ポリエーテル、ポリカルボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエステルアミド及びポリエステルイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリレート及びポリメタクリレート。また2種以上のポリマー又はコポリマーから成るブレンドも、本発明方法により表面を改質することができ、また接着、溶接又は融合によって相互に結合されている種々のポリマーから成る、移行部を包含する結合物も同様である。
2. オレフィン系不飽和モノマー
・・・ポリマー支持体の表面が如何なる意図で、例えば親水性、疎水性、溶剤安定性、汚れ抵抗性、細菌抵抗性、細胞増殖抑制性等を意図して改質されるかは、モノマーの官能基に依存する。モノマーは、前記のように本発明方法の2段階で、つまり先ずポリマー支持体の前処理で及び場合によりさらに前処理後及びグラフト重合前に適用されうる。・・・」(段落【0022】?【0025】)

(オ)「3. 光重合開始剤
重合開始剤としては、すべての慣用の光重合開始剤を使用することができる。・・・」(段落【0053】?【0054】)

(カ)「ポリマー支持体を処理するためのモノマー及び開始剤から成るか又はこれらを含む溶液は、常用の被覆法、例えば噴霧、塗布又は浸漬によってポリマー支持体上に施すことができる。」(段落【0061】)

(キ)「7. グラフト重合
モノマーのグラフト重合は、熱重合開始剤を使用した場合には支持体の加熱によって惹起され、光重合開始剤の使用の場合には放射線の照射によって開始される。ポリマー支持体は、前記のように前処理のみがなされうる(変法A)か又はさらに少なくとも1種の別のモノマーを施すことができる(変法B)。・・・光重合開始剤を使用する場合には、モノマーのグラフト重合は一般に波長範囲180?1200nm、好ましくは200?800nm、特に200?400nmの電磁線によって誘導される。この波長範囲の放射線は比較的軟らかくかつ一般にポリマー支持体を侵害しない。例えばHeraeus社製のエキシマー紫外線放射器(Excimer-UV-Strahler)、例えば放射媒質としてXeCl又はXeFを有する、連続放射線を用いるD-63801 Neuostheimで作業を行う。また原則として広い紫外線スペクトル及び可視範囲又は前記範囲の放射線部分を有する水銀灯も使用することができる。・・・」(段落【0066】?【0068】)

(ク)「改質したポリマー支持体の使用
本発明の他の対象は、本発明により改質したポリマー支持体の医学工学的製品の製造のための使用及びこのように製造した医学工学的製品それ自体である。該製品は本発明により改質されたポリマー支持体を含有するか又は同支持体から成っている。このような製品は、好ましくは、本発明により改質された表面、好ましくはカルボキシル基又はカルボキシレート基、スルホネート基、ヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有するモノマーで改質された表面を有する、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリエステルアミド又はポリエステルイミド、PVC、ポリシロキサン、ポリメタクリレート又はポリテレフタレートを基材としている。この種の医学工学的製品は、例えば、そして特にカテーテル、?液バッグ(Blutbeutel)、排液管、案内線(Fuehrungsdraehte)、手術用器具、眼内レンズ及びコンタクトレンズである。」(段落【0072】?【0073】)

(ケ)「例11-変法B/放射線誘導グラフト
2,2′-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン40gを、アクリル酸60g中に溶かす。次にこの混合物を60℃に加熱する。この混合物中に5×8cmのポリアミド12-シートの小片を15秒間浸漬する。次に同シートを取出し、保護ガス下で石英ガラスを有する照射室中に置く。次いで同シートを、アクリル酸14g、ナトリウムスチレンスルホネート6g及び脱塩水80gから成る混合物20ml中に予め浸漬した刷毛でなでる。照射室を閉じ、10cmの間隔をおいて、波長308nmの放射を有するHeraeus社製のエキシマー照射装置の下に置く。照射を開始する。照射時間は60秒である。次にシートを取出し、50℃の脱塩水300ml中で3時間6回洗浄する。
・・・
例14-変法A/放射線誘導グラフト
2,2′-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン40gを、アクリル酸60g中に溶かす。次にこの混合物を60℃に加熱する。この混合物中に5×8cmのポリアミド12-シートの小片を15秒間浸漬する。次にこのシートを取出し、保護ガスとしてのアルゴン又は窒素下で石英ガラスカバーを有する照射室中に置く。照射室を閉じ、波長308nmの放射を有するHeraeus社製エキシマー照射装置(定格出力1,000ワット)の下に10cmの間隔をおいて置く。照射を開始する。照射時間は40秒である。次にシートを取出し、脱塩水300ml中でその都度3時間6回洗浄する。」(段落【0096】?【0103】)

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記摘示(ア)の請求項1、3?5、16より、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「電磁線によって誘導された、少なくとも1種のオレフィン系不飽和モノマーのグラフト重合によってポリマー支持体の表面を改質する方法において、ポリマー支持体をグラフト前に光重合開始剤及び少なくとも1種の脂肪族不飽和モノマーで前処理し、前処理したポリマー支持体上に、前処理のために使用したモノマーと同じであるか又はそれとは異なっていてもよい、少なくとも1種の別のモノマーを施し、次に前処理のために使用したモノマー及びあとから施したモノマーを一緒にグラフト重合させ、
ポリマー支持体がポリアミド、PVC、ポリメタクリレート又はポリテレフタレートから成り、
少なくとも1種の前処理用モノマー及び場合により後から施した少なくとも1種の別のモノマーが同じか又は異なっておりかつ一般式
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示される
アクリル-又はメタクリル化合物又は一般式
CH_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3)
で示されるアクリルアミド又はメタクリルアミドであり、前記式中、
R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、
R^(2)及びR^(3)は同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、金属原子又は20個までの炭素原子を有する枝分れ又は枝なし脂肪族、脂環式、複素環式又は芳香族炭化水素残基又はカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホネート基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルフェート基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、ホスホンアミド基又はこれらの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わし、
電磁線の波長が200?400nmである、ポリマー支持体の表面の改質方法。」

また、引用文献1には、上記摘示(ア)の請求項1、2、4、5、16より、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「電磁線によって誘導された、少なくとも1種のオレフィン系不飽和モノマーのグラフト重合によってポリマー支持体の表面を改質する方法において、ポリマー支持体をグラフト前に光重合開始剤及び少なくとも1種の脂肪族不飽和モノマーで前処理し、グラフトを前処理直後に行いかつ前処理のために使用したモノマーのみをグラフト重合させ、
ポリマー支持体がポリアミド、PVC、ポリメタクリレート又はポリテレフタレートから成り、
少なくとも1種の前処理用モノマーが一般式
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2)
で示されるアクリル-又はメタクリル化合物又は一般式
CH_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3)
で示されるアクリルアミド又はメタクリルアミドであり、前記式中、
R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、
R^(2)及びR^(3)は同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、金属原子又は20個までの炭素原子を有する枝分れ又は枝なし脂肪族、脂環式、複素環式又は芳香族炭化水素残基又はカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホネート基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルフェート基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、ホスホンアミド基又はこれらの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わし、
電磁線の波長が200?400nmである、ポリマー支持体の表面の改質方法。」

3 本願発明1について
ア 対比
引用発明1の「ポリマー支持体」は、表面を改質されるものであるから、本願発明1の「改質対象物」に相当する。
引用発明1の「ポリアミド、PVC、ポリメタクリレート又はポリテレフタレート」はいずれも熱可塑性樹脂であってエラストマーではないから、本願発明1の「熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)」に相当する。
引用発明1の「ポリマー支持体をグラフト前に光重合開始剤及び少なくとも1種の脂肪族不飽和モノマーで前処理し」は、光重合開始剤がポリマー支持体に保持されることになるから、本願発明1の「改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1」に相当する。
UV光は電磁線の1種であるから、引用発明1において、「電磁線によって誘導された、少なくとも1種のオレフィン系不飽和モノマーのグラフト重合」であって、「前処理したポリマー支持体上に、前処理のために使用したモノマーと同じであるか又はそれとは異なっていてもよい、少なくとも1種の別のモノマーを施し、次に前処理のために使用したモノマー及びあとから施したモノマーを一緒にグラフト重合させ」ることは、本願発明1と「重合開始点を起点にして、電磁線を照射してモノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2」である限りにおいて一致する。
そして、引用発明1の「ポリマー支持体の表面の改質方法」は、本願発明1の「表面改質方法」に相当する。

そうすると、両者は、

[一致点]
「熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)を改質対象物とする表面改質方法であって、
前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、
前記重合開始点を起点にして、電磁線を照射してモノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む、
表面改質方法。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
電磁波の種類に関し、本願発明1は「300?400nmのUV光」と特定するのに対して、引用発明1は「電磁線の波長が200?400nm」である点

[相違点2]
ラジカル重合させるモノマーに関し、本願発明1は「親水性モノマー」であって、「親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である」と特定するのに対して、引用発明1は「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示される アクリル-又はメタクリル化合物又は一般式 CH_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3) で示されるアクリルアミド又はメタクリルアミドであり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)及びR^(3)は同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、金属原子又は20個までの炭素原子を有する枝分れ又は枝なし脂肪族、脂環式、複素環式又は芳香族炭化水素残基又はカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホネート基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルフェート基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、ホスホンアミド基又はこれらの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」すものである点

イ 判断
(ア)相違点1について
引用文献1には、上記摘示(キ)に、電磁線の照射装置としてエキシマー紫外線放射器(Excimer-UV-Strahler)、広い紫外線スペクトル及び可視範囲又は前記範囲の放射線部分を有する水銀灯等が記載され、紫外線とは、「(ultraviolet radiation)スペクトルが紫色の外側に現れる電磁波。波長は可視光線より短く、X線より長い1?400ナノメートルの間。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるから、引用発明1の波長が200?400nmである電磁線は、UV光であるし、また、波長について、引用発明1と本願発明1とは重複している。
そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。

また、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、上記摘示(ケ)の例11において波長308nmの電磁波を用いているから、引用発明1において、具体例で用いられる波長の電磁波を使用することは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)相違点2について
引用発明1のモノマーのうち、「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物であり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)は、アルコキシ基又はこの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」す化合物は、書き下すと、R^(2) がアルコキシ基を有する炭化水素基を有するものとなり、本願発明1の「アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である」「親水性モノマー」に相当する。
そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。

また、相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、上記摘示(エ)に、親水性、疎水性、溶剤安定性、汚れ抵抗性、細菌抵抗性、細胞増殖抑制性等の意図に応じた表面改質は、モノマーの官能基に依存することが記載されているから、引用発明1において、親水性を意図した表面改質を行うために、親水性を付与する官能基であるアルコキシアルキル基を有する所定の親水性モノマーである、一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物を選択することは当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)平成29年12月25日提出の意見書における主張について
審判請求人は、上記意見書において、モノマーとして2-メトキシエチルアクリレートを用いた実施例7について、アクリル酸を用いた例(比較実験例2)、アクリル酸とアクリル酸メチルを用いた例(比較実験例3)とを対比した結果を新たに提示して、「2-メトキシエチルアクリレート」を用いたことで、優れたタンパク質に対する低吸着性、耐久性を付与することの効果について主張している。

しかしながら、上記「(イ)相違点2について」で述べたとおり、引用発明1の「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物であり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)は、アルコキシ基又はこの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」す化合物は、所定の親水性モノマーに相当するから、これを用いて改質することで、ポリマー支持体について、親水性と関連した何らかの表面改質がされることは明らかである。
そして、上記主張の効果は、「2-メトキシエチルアクリレート」を用いた場合の特定の対象(タンパク質)に対する効果に限られたものであり、一方、請求項1に記載される方法はそれに限定されるものではなく、また、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体を用いた場合についての効果の開示はないことから、用途や表面特性の特定もない表面改質方法である本願発明1全体の効果とは認められない。
また、高分子からなる医療材料支持体等において、アルコキシ(メタ)アクリレートが適度の親水性を有するモノマーであり(例えば、特開平4-152952号公報の第4頁右下欄第12行?第5頁左上欄第1行参照)、これによる表面改質により、タンパク質の吸着が少なく、生体適合性を示すことは、そもそも周知な事項であり(例えば、特開平4-152952号公報の特許請求の範囲、第4頁右下欄第5行?第5頁左上欄第16行、第5頁右上欄第5行?第6頁右上欄末行、特開平10-333103号公報の段落【0006】、特表2012-532966号公報の請求項1、段落【0107】、特開2009-227887号公報の段落【0003】等参照。)、他のモノマーよりも優れるとの点で、この周知の効果を有することが特別なものとは認識できないので、審判請求人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1、すなわち引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明、あるいは引用文献1に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

4 本願発明2について
ア 対比
引用発明2の「ポリマー支持体」は、表面を改質されるものであるから、本願発明2の「改質対象物」に相当する。
引用発明2の「ポリアミド、PVC、ポリメタクリレート又はポリテレフタレート」はいずれも熱可塑性樹脂であってエラストマーではないから、本願発明2の「熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)」に相当する。
引用発明2の「光重合開始剤」は、本願発明2の「光重合開始剤」に相当する。
UV光は電磁線の1種であるから、引用発明2において、「電磁線によって誘導された、少なくとも1種のオレフィン系不飽和モノマーのグラフト重合」であって、「グラフトを前処理直後に行いかつ前処理のために使用したモノマーのみをグラフト重合させ」ることは、本願発明2と「光重合開始剤の存在下で電磁線を照射してモノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程I」である限りにおいて一致する。
そして、引用発明2の「ポリマー支持体の表面の改質方法」は、本願発明2の「表面改質方法」に相当する。

そうすると、両者は、

[一致点]
「熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを除く)を改質対象物とする表面改質方法であって、
光重合開始剤の存在下で電磁線を照射してモノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む、
表面改質方法。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点3]
電磁波の種類に関し、本願発明2は「300?400nmのUV光」と特定するのに対して、引用発明2は「電磁線の波長が200?400nm」である点

[相違点4]
ラジカル重合させるモノマーに関し、本願発明2は「親水性モノマー」であって、「親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である」と特定するのに対して、引用発明2は「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示される アクリル-又はメタクリル化合物又は一般式 CH_(2)=CR^(1)-CONR^(2)R^(3) で示されるアクリルアミド又はメタクリルアミドであり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)及びR^(3)は同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、金属原子又は20個までの炭素原子を有する枝分れ又は枝なし脂肪族、脂環式、複素環式又は芳香族炭化水素残基又はカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホネート基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルフェート基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、ホスホンアミド基又はこれらの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」すものである点

イ 判断
(ア)相違点3について
引用文献1には、上記摘示(キ)に、電磁線の照射装置としてエキシマー紫外線放射器(Excimer-UV-Strahler)、広い紫外線スペクトル及び可視範囲又は前記範囲の放射線部分を有する水銀灯等が記載され、紫外線とは、「(ultraviolet radiation)スペクトルが紫色の外側に現れる電磁波。波長は可視光線より短く、X線より長い1?400ナノメートルの間。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるから、引用発明1の波長が200?400nmである電磁線は、UV光であるし、また、波長について、引用発明2と本願発明2とは重複している。
そうすると、相違点3は実質的な相違点ではない。

また、相違点3が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、上記摘示(ケ)の例14において波長308nmの電磁波を用いているから、引用発明2において、具体例で用いられる波長の電磁波を使用することは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)相違点4について
引用発明2のモノマーのうち、「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物であり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)は、アルコキシ基又はこの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」す化合物は、書き下すと、R^(2) がアルコキシ基を有する炭化水素基を有するものとなり、本願発明2の「アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である」「親水性モノマー」に相当する。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではない。

また、相違点4が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、上記摘示(エ)に、親水性、疎水性、溶剤安定性、汚れ抵抗性、細菌抵抗性、細胞増殖抑制性等の意図に応じた表面改質は、モノマーの官能基に依存することが記載されているから、引用発明2において、親水性を意図した表面改質を行うために、親水性を付与する官能基であるアルコキシアルキル基を有する所定の親水性モノマーである、一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物を選択することは当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)平成29年12月25日提出の意見書における主張について
審判請求人は、上記意見書において、モノマーとして2-メトキシエチルアクリレートを用いた実施例7について、アクリル酸を用いた例(比較実験例2)、アクリル酸とアクリル酸メチルを用いた例(比較実験例3)とを対比した結果を新たに提示して、「2-メトキシエチルアクリレート」を用いたことで、優れたタンパク質に対する低吸着性、耐久性を付与することの効果について主張している。

しかしながら、上記「(イ)相違点4について」で述べたとおり、引用発明2の「一般式 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) で示されるアクリル-又はメタクリル化合物であり、前記式中、R^(1)は水素原子又はメチル基を表わし、R^(2)は、アルコキシ基又はこの基の結合基によって誘導されているような炭化水素残基を表わ」す化合物は、所定の親水性モノマーに相当するから、これを用いて改質することで、ポリマー支持体について、親水性と関連した何らかの表面改質がされることは明らかである。
そして、上記主張の効果は、「2-メトキシエチルアクリレート」を用いた場合の特定の対象(タンパク質)に対する効果に限られたものであり、一方、請求項2に記載される方法はそれに限定されるものではなく、また、環状基を有するアクリルアミド誘導体及び環状基を有するメタクリルアミド誘導体を用いた場合についての効果の開示はないことから、用途や表面特性の特定もない表面改質方法である本願発明2全体の効果とは認められない。
また、高分子からなる医療材料支持体等において、アルコキシ(メタ)アクリレートが適度の親水性を有するモノマーであり(例えば、特開平4-152952号公報の第4頁右下欄第12行?第5頁左上欄第1行参照)、これによる表面改質により、タンパク質の吸着が少なく、生体適合性を示すことは、そもそも周知な事項であり(例えば、特開平4-152952号公報の特許請求の範囲、第4頁右下欄第5行?第5頁左上欄第16行、第5頁右上欄第5行?第6頁右上欄末行、特開平10-333103号公報の段落【0006】、特表2012-532966号公報の請求項1、段落【0107】、特開2009-227887号公報の段落【0003】等参照。)、他のモノマーよりも優れるとの点で、この周知の効果を有することが特別なものとは認識できないので、審判請求人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本願発明2は、引用発明2、すなわち引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明、あるいは引用文献1に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、平成29年12月25日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明、すなわち、平成29年12月25日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明、または、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-31 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-19 
出願番号 特願2015-522680(P2015-522680)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08F)
P 1 8・ 121- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興平井 裕彰  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
大島 祥吾
発明の名称 表面改質方法及び表面改質体  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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