• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
管理番号 1339134
異議申立番号 異議2016-700959  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5899921号発明「包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5899921号の特許請求の範囲を、平成29年11月21日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5899921号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5899921号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年3月18日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 土田裕介(申立番号01、以下「申立人01」ともいう。)、及び、特許異議申立人 青山裕樹(申立番号02、以下、「申立人02」ともいう。)より、各々、請求項1?5に対して特許異議の申立てがされ、同年12月5日付けで取消理由が通知され、平成29年2月3日に、意見書の提出及び訂正請求がされ、同年3月15日に、両申立人から意見書が提出され、その後、同年4月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月26日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年8月2日に、両申立人から意見書が提出され、さらに、同年9月19日付けで再度の取消理由(決定の予告)が通知され、同年11月21日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月21日に申立人02から、また、同年12月26日(受理日は12月27日)に申立人01から、それぞれ、意見書が提出された。
なお、平成29年2月3日及び同年6月26日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定より、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1及び2のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%含む、包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする、上記包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」と記載されているのを、
「フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む、単層の包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする、上記包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、4及び5も同様に訂正されることとなる。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「植物由来ではないポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」と記載されているのを、
「植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなり、
該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであり、
フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む
包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4及び5も同様に訂正されることとなる。)

なお、本件訂正請求書の6頁の請求項3についての訂正(訂正事項2)及び本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び請求項3における、密度の単位「g/cm3」は、「g/cm^(3)」の誤記と認める。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5は、訂正前の請求項2?5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」ごとにされたものである。

(2)訂正事項1についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
まず、訂正の目的について検討する。
訂正事項1は、訂正前の請求項1では、「植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%含む、包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム」と特定されており、ポリエチレン系樹脂フィルム中の植物由来のポリエチレン系樹脂以外の成分、つまり、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」の種類については特定されていなかったのを、「植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む」ことを特定するとともに、「フィルム」の層構造について「単層」のフィルムであることを特定して発明を限定するものであるから、訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、4及び5についての訂正も同様である。

次に、新規事項の有無について検討する。
本件特許の願書に添付した明細書(本件特許明細書)の【0040】には、「本発明のー態様において、単層構成の本発明の樹脂フィルムは、石油由来のポリエチレン系樹脂と、全体に対して10?20質量%となる量の植物由来のポリエチレン系樹脂と、場合により任意の添加剤とを含む樹脂組成物を溶融混練し、・・・製膜することができる。」と「単層フィルム」であって、植物由来のポリエチレン系樹脂以外のポリエチレン系樹脂(つまり、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」)が90?80質量%含まれるものが記載されている。
また、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」を「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂」に限定する点に関しては、【0035】には、「<III>植物由来ではない(石油由来の)ポリエチレン系樹脂」と記載され、続いて、【0036】に、「本発明において、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム中に配合する植物由来ではないポリエチレン系樹脂としては、包装材のシーラントとして慣用の任意のポリエチレンを使用することができる。」と記載されているところ、包装材のシーラントに使用されるポリエチレンとしてLLDPEやLDPEは汎用されている(例えば、特開平11-221887号公報(申立人02が提出した甲第1号証)の請求項1及び【0002】の従来技術の記載、特開平10-114037号公報(申立人01が提出した甲第1号証)、「コンバーティングのすべて-過去から未来ヘ-」、加工技術研究会、1993年6月30日、180-185頁、特に184-185頁の項目「5-2」(同甲第9号証)、「食品包装用複合フィルム便覧」、日本食品出版株式会社、1997年3月、64-70頁、特に67頁左欄下から3段落目(同甲第10号証)、「包材構成100問100答」、株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス、1994年4月4日、49-54頁(同甲第11号証)、「次世代ポリエチレン樹脂 アジア・パシフィック、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー、2009年8月(同甲第12号証)参照。)。
さらに、本件特許の願書に添付した明細書の【0037】には、「包装材の内容物が液体洗剤またはシャンプーまたはリンスの場合、破袋防止のために特にシール強度を高くする必要があり、密度0.915?0.921g/cm^(3)のLLDPEが特に好ましいが、その他にシングルサイト系触媒を用いて重合したエチレン-α-オレフィン共重合体、低密度ポリエチレン(LDPE)、・・・等を使用することもできる。」と記載され、実施例1(【0069】)においては、植物由来LLDPEと併用する石油系ポリエチレン系樹脂として、「石油由来のLLDPEと石油由来のLDPEとの混合物」が使用されている。
よって、訂正事項1による上記訂正は、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、4及び5についての訂正も同様である。

そして、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同条第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、4及び5についての訂正も同様である。

(3)訂正事項2についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
まず、訂正の目的について検討する。
訂正事項2は、(i)訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったものを請求項1を引用するもののみに限定した上で、訂正前の請求項3に係る発明において、少なくとも3層からなるフィルムの両最外層が「植物由来ではないポリエチレン系樹脂からなる」とのみ特定されていたのを、「植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる」と、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」を「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含む」ものに限定するとともに、ポリエチレン系樹脂フィルム全体に含まれる植物由来のポリエチレン系樹脂以外の成分について、訂正事項1と同様の限定を加え、(ii)請求項1を引用する記載を、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項に改めるものである。
そして、(i)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、(ii)は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同項ただし書き第4号に規定する請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4及び5についての訂正も同様である。

次に、新規事項の有無について検討する。
訂正前の請求項3が引用する請求項1には、「植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%含む」と記載されおり、同様の記載が【0008】にあり、訂正前の請求項3に特定される層構造のフィルムとして、植物由来のポリエチレン系樹脂以外のポリエチレン系樹脂(つまり、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」)が90?80質量%が含まれるものが記載されている。
また、「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」を「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂」に限定する点に関しては、(2)で指摘した本件特許の願書に添付した明細書の【0035】?【0037】の記載、包装材のシーラントに使用されるポリエチレンとしてLLDPEやLDPEは汎用されている(必要なら、上記(2)で指摘した各種文献参照。)こと、本件特許の願書に添付した明細書の実施例2(【0070】?【0071】)において、植物由来LLDPEと併用する石油系ポリエチレン系樹脂として、「石油由来のLLDPEと石油由来のLDPEとの混合物」を使用する例が記載されている。
よって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4及び5についての訂正も同様である。

さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5同条第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するし、訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4及び5についての訂正についても同様である。

(4)小括
以上のとおり、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?5について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件訂正発明
第2で記載のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるし、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び請求項3における密度の単位「g/cm3」は、「g/cm^(3)」の誤記と認めるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)は、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む単層の包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、
該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする、上記包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
詰め替えパウチ用であることを特徴とする、請求項1に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなり、
該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであり、
フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む
包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項4】
バイオマス度が8.5?18%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムを用いてなることを特徴とする、詰め替えパウチ。」


第4 取消理由通知(決定の予告)において採用した特許異議申立理由の概要
訂正前の請求項1?5(平成29年6月26日に提出された訂正請求書に記載の請求項1?5)に係る特許に対して当審が通知した、平成29年9月19日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由は、概略以下のとおりである。

<取消理由1>
本件特許に係る特許請求の範囲の記載には以下の点で不備があり、本件特許は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 訂正前の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」ともいう。)が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0002】?【0007】)によれば、「フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリエチレン系樹脂を含むことで環境への負荷が低減されているにもかかわらず、フィルムに植物由来のポリエチレン系樹脂が高い配合量で含まれることで生じる耐衝撃性及び手切れ性の低下の問題が解決された、耐衝撃性手切れ性の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム或いは、該フィルムを用いた詰め替えパウチを提供すること」であると認められる。
そして、本件特許の出願時の技術常識を踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が本件発明1?5が解決しようとする課題を解決できると認識できるといえるためには、
(i)「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」、及び、
(ii)本件発明1?5の構成(本件発明1であれば、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム。」)を備えることによって、この問題が解決できること、
を裏付けるような、具体的な試験結果等の記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている必要がある。
しかしながら、本件特許明細書の記載からは、上記の本件発明1?5が解決しようとする課題が存在すること、つまり、「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」は当業者に理解できないし、当該課題(問題)が、「本件発明1?5の包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムによって解決できること」も当業者は理解できない。

そして、本件特許明細書の記載に基づいて、本件特許発明が解決しようとする課題を上記のとおりのものと理解した場合には、本件特許の出願時の技術常識及び本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、当該課題自体が存在するとはいえないのであるから、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないし、また、上記のとおりの課題が存在すると仮定した場合であっても、そのような課題が訂正前の請求項1?5に記載の発明特定事項により解決できることを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できないから、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

イ ポリエチレン系樹脂は、同じ製造条件で得られた、同じ化学構造(コモノマー、MFR及び密度)を有するものであれば、石油由来でも植物由来でも同じ物性のフィルムが得られるとの本件特許の出願時の技術常識からすると、本件特許明細書の【0002】?【0005】に記載の背景技術にあるような問題点は存在せず、アで指摘した課題自体が請求項1?5に係る発明の課題として不合理なものとなる。
したがって、特許庁の審査基準の運用に従い、本件特許の出願時の技術常識に基づいて合議体が課題を認定した場合、本件発明が解決しようとする課題は、「優れた耐衝撃性及び手切れ性を示し、且つ、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリオレフィン系樹脂を含むことから環境への負荷が低減された、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム、及びそれを用いた詰め替えパウチを提供すること」であると認められる。
そして、(訂正前の)請求項3に係る発明及び請求項3を引用する請求項4及び5に係る発明における、ポリエチレン系樹脂フィルムに含まれる「植物由来ではないポリエチレン系樹脂」が、「LLDPEとLDPEとの混合物からなるものであって、ポリエチレン系樹脂フィルム中に90?80質量%含まれる場合以外の場合(例えば、植物由来ではないポリエチレン系樹脂がLLDPEのみからなる場合や、HDPEを含む場合)」については、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、(訂正前の)請求項3?5に係る発明が解決しようとする課題であると合議体が認定した、「優れた耐衝撃性及び手切れ性を示し、且つ、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリオレフィン系樹脂を含むことから環境への負荷が低減された、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム、及びそれを用いた詰め替えパウチを提供すること」が解決できることを、当業者は理解できない。
よって、(訂正前の)請求項3?5に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

ウ したがって、(訂正前の)請求項3?5に係る本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。


また、訂正前の請求項1?5(平成29年2月3日に提出された訂正請求書に記載の請求項1?5)に係る特許に対して当審が通知した、平成29年4月25日付けの取消理由通知(決定の予告)においては、上記取消理由1(イを除く部分)に加えて、以下の取消理由も通知していた。

<取消理由2>
(訂正前の)請求項1、2、4及び5に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
よって、(訂正前の)請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[引用刊行物]
刊行物1 特開平11-221887号公報(申立人02の甲第1号証)
刊行物2 杉山英路ら、「地球環境にやさしい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、第63?65頁(申立人01の甲第4号証、申立人02の甲第2号証)
刊行物3 牧野太宣、「サトウキビから作られたプラスチック包装材料『Bipro-PE』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2011年2月15日、第39巻、第2号、通巻455号、第83?85頁(申立人01の甲第5号証、申立人02の甲第3号証)
刊行物4 特開平10-114037号公報(申立人01の甲第1号証)


第5 取消理由1(特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号))についての合議体の判断

(1) 特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されており、当該規定を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、そして、請求項に係る発明が、本願明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合には、該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に反するものとなる。

これを本件特許出願についてみると、本件訂正発明は、上記第3に記載したとおりのものであり、また、本件特許明細書(本願明細書)には、従来技術及び本件訂正発明が解決しようとする課題に関し、以下の記載がある。
「【0002】
近年、環境への負荷を低減する等の目的から、シーラント等のポリエチレン系樹脂フィルムの原料の一部を、石油由来のポリオレフィン系樹脂から、植物由来のポリオレフィン系樹脂に置き換えることが検討されている(・・・)。植物由来のポリオレフィン系樹脂は、従来の石油由来のポリオレフィン系樹脂と、化学構造的には変わらず、同等の物性を有することが期待されている。
【0003】
しかしながら、実際には、植物由来のポリオレフィン系樹脂を含む樹脂フィルムは、石油由来のポリオレフィン系樹脂のみからなる樹脂フィルムとは異なる性質を示す。
【0004】
特に、植物由来のポリオレフィン系樹脂を含む樹脂フィルムは、植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下することが分かった。
【0005】
したがって、植物由来のポリオレフィン系樹脂を高い配合率で含む樹脂フィルムは、耐衝撃性や手切れ性を必要とする用途の包装材、例えば詰め替え用のシャンプーやリンス、食品等を密封包装する詰め替えパウチ等のシーラントとしては不適であり、実用性に欠けるものであった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、優れた耐衝撃性及び手切れ性を示し、且つ、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリオレフィン系樹脂を含むことから環境への負荷が低減された、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム、及びそれを用いた詰め替えパウチを提供することを目的とする。」

特許請求の範囲及び上記の本件特許明細書の記載によれば、本件訂正発明が解決しようとする課題は、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリエチレン系樹脂を含むことで環境への負荷が低減されているにもかかわらず、フィルムに植物由来のポリエチレン系樹脂が高い配合量で含まれることで生じる耐衝撃性及び手切れ性の低下の問題が解決された、耐衝撃性手切れ性の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム(本件訂正発明1?4)或いは、該フィルムを用いた詰め替えパウチ(本件訂正発明5)を提供することであると読みとれる。

(2) ここで、本件特許出願時の技術常識について検討する。
本件特許出願時の技術常識を示す文献A、B及びDには、以下の記載がある。

<本件特許の出願時の技術常識を示す文献A>
杉山英路ら、「地球環境にやさしい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、第63?65頁(申立人01の甲第4号証、申立人02の甲第2号証)

ア 「私たち人類はあらゆる利便性を追求した結果、社会は豊かになった。しかしその反面、大量消費→大量廃棄した結果、(1)資源、エネルギーの不足、(2)CO_(2)(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきた。・・・ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の生育時のCO_(2)吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」
(第63頁の項、なお、文中(1)、(2)は、文献中では○の中に数字が記載されているが、この異議の決定中では表記できないため、括弧書きで表記した。)

イ 「サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を遠心分離機により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノールを作る。次にバイオエタノールを300?400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。



(第63頁「2.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程」の項及び図1)

ウ 「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性
・・・
当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。
(1)エチレン
試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来のエチレンとの品質同等性を確認した。
(2)ポリエチレン
試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同1条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(第63頁「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性」の項)




」(表1)

オ 「今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じであり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、^(14)C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTM D68662)測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオペースであることが確認された。」(第65頁「6.バイオマス度の判別法(^(14)Cによる分析手法)」の項)


<本件特許の出願時の技術常識を示す文献B>
牧野太宣、「サトウキビから作られたプラスチック包装材料『Bipro-PE』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2011年2月15日、第39巻、第2号、通巻455号、第83?85頁(申立人01の甲第5号証、申立人02の甲第3号証)

カ 「CO_(2)削減や石油資源代替が重視される現在の環境配慮ニ-ズに応えられ、包材として広く利用可能な材料はないか?という探求から生まれたのが、植物由来ポリエチレン(PE)を使用した包装材料『Bipro-PE(ビプロ-ポリエチレン)』である(写真1)」(第83頁「1.開発経緯」の項)

キ 「植物由来PEは、サトウキビという植物資源を原料として用いているにもかかわらず、化学的にも物理的にも従来の石油由来PEと全く同じものとなる。従来のバイオマスプラスチックのような生分解性はないが、物性面での不足、扱いにくさは全くない。」(第83?84頁「2.植物由来PE」の項)

ク 「3.1 特徴
・・・
(3)従来のPEからの容易な転換ができる
Bipro-PEは、サトウキビから作られた植物由来PEを原料としているため、その化学的な構造は従来の石油由来のPEフィルムと全く同じである。風合い、物性も全く同じでリサイクルも可能と、従来のバイオマスプラスチックに比べて扱いが容易である。よって、従来よりPEを使用している用途に対して容易な置換が可能。また、石油由来PEとのブレンドも可能なことから、様々な機能性の付与も可能であり、幅広い用途で使用が可能である。

3.2 基本物性
表2の基本物性の通り、石油由来PEと同等である。・・・


(第84頁「3.Bipro-PE」の項及び第85頁表2)

<本件特許の出願時の技術常識を示す文献D>
松浦一雄ら編集、「ポリエチレン技術読」、(株)工業調査会、2001年7月1日、第163?195頁
(申立人02による平成29年3月15日提出の意見書に添付された資料3)
なお、摘示にあたり、文献中の参考文献番号の記載は省略した。

「LLDPEプロセスの違いによる品質への影響を調べる場合,コモノマーの種類を考慮する必要がある。図4.13、図4.14に引張り破壊強さおよび引張り衝撃強度に関して,製造プロセスとコモノマーの組み合わせによる比較を示した。
まず,両性能とも1-ヘキセン,・・・など、いわゆる高級α-オレフィン(HAO)を使用した場合が、1-ブテンを使用したものより高いことがわかる。


(第180頁下から第11?5行、第181頁図4.13及び図4.14)
なお、上記記載に関し、「1-ヘキセン」の炭素数は6であり、「1-ブテン」の炭素数は4である。

(3)上記本件特許の出願時の技術常識を示す文献Aによれば、本件特許の出願時、植物由来(バイオマス系)のエチレンと石油由来のエチレンを、同じコモノマーを使用して、同1条件で、それぞれ重合して得られる植物由来のポリエチレン樹脂と石油由来のポリエチレン樹脂とは、化学構造が同じで、MFR及び密度もほぼ同じ物性となり、樹脂の成形性や品質も同等であることが知られていた(文献Aの記載事項ウ及びエ)。また、上記本件特許の出願時の技術常識を示す文献Bによれば、植物由来のポリエチレン樹脂からのフィルム(Bipro-PE)は、石油由来のポリエチレン樹脂からのフィルムと化学的な構造は同じであり(文献Bの記載事項ク)、植物由来のポリエチレン樹脂からのフィルム(Bipro-PEの2種の製品)と一般的な石油由来のポリエチレン樹脂からのフィルムとは、製法や厚みによって変化はあるにせよ、引張弾性率や引張破壊強さ等の基本物性はほぼ同等であることが知られていた(同カ及び同クの表2)。
一方、文献Dによれば、LLDPEを構成するα-オレフィンコモノマー及びMFRの違いによって、LLDPEフィルムの引裂強さや引張衝撃強度といった物性がかなり変化することが当業者に知られていた。
(なお、MFRの違いによって物性が変化することは、後述の文献Cの図31,32(記載事項ス)からも読み取れる。)

そうすると、文献A、B及びDに示される技術常識に鑑みて、本件特許の出願時、当業者は、ポリエチレン樹脂が植物由来であるか石油由来であるかにかかわらず、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じポリエチレン樹脂からのフィルムについては、引張弾性率や引張破壊強さ等の基本物性が同等であると認識していたと認められる。
(なお、申立人02が平成29年3月15日付けの意見書に添付して提出した資料1(ブラスケム社のカタログ(http://www.braskem.com.br/products-catalog?key=6)の「GreenPE」に関する表中に記載された植物由来LLDPEである「SLH118」は、密度が0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分であるところ、同カタログの「PE・Polyethylene」に関する表に記載された、「SLH118」と密度及びMFRが同じで石油由来LLDPEである「LH118」と比較した場合、Tensile Strength(引張強度)、Dart DropImpact(ダートインパクト強さ)、及びElemendorf Tearstrength(エレメンドルフ引裂き強さ)の各値は、いずれも、「SLH118」と「LH118」とで完全に一致していることからも、石油由来のLLDPEと植物(サトウキビ)由来のLLDPEでは、得られるフィルムの物性は同等であることが推認される。)

さらに、石油由来のポリエチレン樹脂の用途として、包装材料である「シーラント用のフィルム」は、本件特許の出願時周知であったところ、文献Bによれば、植物由来のポリエチレン樹脂は、包装材料の用途に使用可能なものであって(タイトル、記載事項カ及びク)、「従来よりポリエチレンを使用している用途に対して容易な転換が可能」(同ク)とされているのであるから、当業者は、植物由来のポリエチレン樹脂が、従来から石油由来のポリエチレン樹脂の用途として知られる「シーラント用のフィルム」用途にも適用可能であり、その場合の物性も、石油由来ポリエチレン樹脂からのシーラント用のフィルムの場合と同等と考えるのが自然である。また、シーラント用のフィルム用途の場合には、一般的な包装材料用途の場合とは異なり、植物由来のポリエチレン樹脂フィルムの場合と石油由来のポリエチレン樹脂フィルムの場合とで、フィルムの物性が大きく異なることを伺わせるような特段の事情も見いだせない。
そうすると、ポリエチレン樹脂が植物由来であるか石油由来であるかにかかわらず、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じポリエチレン樹脂からのフィルムについては、引張弾性率や引張破壊強さ等の基本物性が同等であるとの当業者の認識は、フィルムがシーラント用の場合にも当てはまると言える。

そして、ポリエチレン樹脂が植物由来であるか石油由来であるかにかかわらず、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じポリエチレン樹脂からのシーラント用フィルムについては、引張弾性率や引張破壊強さ等の基本物性が同等であるとの当業者の認識に照らせば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が本件訂正発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるといえるためには、
本件訂正発明1、2及びこれらを引用する本件訂正発明4及び5については、
(i)「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」、及び、
(ii-1)「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む単層の包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムであることによって、この問題が解決できること」
を裏付けるような、具体的な試験結果等の記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている必要があるし、
また、本件訂正発明3及びこれを引用する本件訂正発明4及び5については、
上記(i)、及び、
(ii-2)「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチン系樹脂からなる両最外層と、該植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなる包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムであることによって、この問題が解決できること」
を裏付けるような、具体的な試験結果等の記載が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている必要がある。

そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、上記(i)、及び、(ii-1)又は(ii-2)の点が裏付けられているかを検討する。

(4) 本件訂正発明に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審合議体による。)
「【0008】
本発明者は、種々研究の結果、植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%含む、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムであって、該植物由来のポリエチレン系樹脂は、該植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%含む、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムであって、該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、メルトフローレート(MFR)0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であることを特徴とする、上記包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムが、上記の目的を達成することを見出した。」
「【0011】
本発明の樹脂フィルムは、樹脂フィルム中に配合する植物由来のポリオレフィン系樹脂として、特定の密度及びMFRを有する植物由来のLLDPEを使用する。その結果、フィルム全体に対して10?20質量%という高い配合率で植物由来樹脂を含んでいる場合においても、耐衝撃性及び手切れ性の低下が生じない。
【0012】
また、本発明の樹脂フィルムは、植物由来のポリエチレン系樹脂を高い配合率で含む中間層を、植物由来ではない(石油由来の)ポリエチレン系樹脂からなる最外層で挟む、少なくとも3層構成とすることもでき、この多層構成により、他のフィルムと積層する際のラミネート強度を高めることができる。」
「【0025】
植物由来のポリエチレン系樹脂の密度が0.910g/cm^(3)よりも小さいと、フィルム全体に対して10?20質量%以上の量で配合したときに、手切れ性が低下し、また0.922g/cm^(3)よりも大きいと耐衝撃性が低下するため、好ましくない。
【0026】
また、MFRの値が0.7g/10分より小さいと、フィルム全体に対して10?20質量%以上の量で配合したときに、インフレーションによる製膜性が劣り、フィルム外観が損なわれる。また3.1g/10分より大きいと耐衝撃性が低下するため、好ましくない。
【0027】
さらに、植物由来のポリエチレン系樹脂の配合量が、フィルム全体に対して10質量%より少ないと、カーボンニュートラルの観点から望まれるバイオマス度を達成することが困難である。また、フィルム全体に対する配合量が20質量%を超えると、樹脂フィルムの耐衝撃性及び手切れ性が損なわれ得る。」

しかしながら、上記の記載はいずれも、「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」(上記(3)で記載した(i))、及び、この問題が、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む単層の包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム」(同(ii-1))、あるいは、「「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチン系樹脂からなる両最外層と、該植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなる包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム」(同(ii-2)であることによって解決できることを裏付けるような、具体的な試験結果等の記載には該当しない。
そして、(3)で記載した、ポリエチレン樹脂が植物由来であるか石油由来であるかにかかわらず、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じポリエチレン樹脂からのフィルムについては、引張弾性率や引張破壊強さ等の基本物性が同等であると当業者に認識されていたとの本件特許の出願時の技術常識を考慮すれば、このような具体的な試験結果等による実証を伴わない一般的な記載からは、「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」(上記(i))を、当業者は理解できないし、この問題が本件訂正発明によって解決できること(上記(ii-1)及び(ii-2))も理解できない。

次に、具体的な試験結果等の記載に相当するものとして、本件特許明細書の【0068】?【0083】に実施例及び比較例として具体的な試験結果が記載されているので、以下、これについて検討する。

「【0068】
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0069】
[実施例1]
石油由来のLLDPE(三井化学(株)製エボリュー^((R))SP2020、密度0.916g/cm^(3)、MFR2.3g/10分)と石油由来のLDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N、密度0.920kg/m^(3)、(当審合議体注;これは、「0.920kg/cm^(3)」の誤記と認める。)MFR1.2g/10分)との混合物(質量比70:30)85質量部に対し、植物由来のLLDPE(ブラスケム社製C4-SLL118、密度0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分)15質量部を配合し、200℃で溶融混練して、樹脂組成物を得た。
次いで、得られた樹脂組成物を、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により成形し、厚み120μmの樹脂フィルムを製膜した。
フィルム全体のバイオマス度は13%であった。
【0070】
[実施例2]
石油由来のLLDPE(三井化学(株)製エボリュー^((R))SP2020)と石油由来のLDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N)との混合物(質量比70:30)70質量部に対し、植物由来のLLDPE(ブラスケム社製C4-SLL118、密度0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分)30質量部を配合し、200℃で溶融混練して、第一の樹脂組成物を得た。
また、上記の石油由来のLLDPE70質量部と石油由来のLDPE30質量部とを、200℃で溶融混練し、第二の樹脂組成物を得た。
【0071】
次いで、「第二の樹脂組成物からなる最外層(b1)/第一の樹脂組成物からなる中間層(a)/第二の樹脂組成物からなる最外層(b2)」の3層構成となるように、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により成形し、総厚み120μm(b1 30μm/a 60μm/b2 30μm)の樹脂フィルムを製膜した。
植物由来のLLDPEのフィルム全体に対する配合率は15質量%であり、フィルム全体のバイオマス度は13%であった。
【0072】
[比較例1]
実施例1、2で用いた石油由来のLLDPE70質量部及び石油由来のLDPE30質量部を、200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得、これを上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により成形し、厚み120μmの樹脂フィルムを製膜した。
フィルム全体のバイオマス度は0%であった。
【0073】
[比較例2]
第一の樹脂組成物中の石油由来のLLDPEとLDPEとの混合物20質量部に対し、植物由来のLLDPE80質量部を配合した以外は、実施例2と同様にして、3層構成の樹脂フィルムを製膜した。
植物由来のLLDPEのフィルム全体に対する配合率は40質量%であり、フィルム全体のバイオマス度は35%であった。
【0074】
[評価]
(耐衝撃性テスト)
実施例1、2及び比較例1、2の樹脂フィルムをシーラントとして使用し、・・・パウチの胴材用の積層体を得た。
【0075】
これとは別に、・・・パウチの底材用の積層体を得た。
【0076】
得られた胴材用の積層体及び底材用の積層体を用いて・・・スタンディングパウチを製造した。また、底部は舟底型のシールパターンでヒートシールした。
得られたパウチについて、以下のとおり、耐衝撃性テストを実施した。
【0077】
上記のとおり製造したパウチを各実施例/比較例につき10個ずつ用意し、各パウチ中に、水400ccを充填し、ヒートシールして密封した。次いで、これらのパウチを3℃で3日間保存した後で、1.2mの高さから、床と水平に(胴部が床に当たるように)5回、及びさらに床と垂直に(底部が床に当たるように)5回落下させて、パウチ10個中の何個が破袋したかを調べた。
結果を以下の表1に示す。
【0078】
【表1】


【0079】
(手切れ性テスト)
上記の耐衝撃性テストで製造した胴材用の積層体について、引き裂き強度JIS K 7128-2(エルメンドルフ引き裂き法)に準拠して、以下のとおり、手切れ性テストを実施した。
【0080】
・・・試験サンプルを作製した。
【0081】
試験サンプルを、各実施例/比較例につき3個ずつ用意し、テスター産業(株)製エルメンドルフ引き裂き試験機を用いて、予め設けておいたスリットから規定された距離まで引き裂きを伝えるのに要する力を測定した。測定値が1.3N以下であれば、手で引っ張ることによって、容易に引き裂くことができる。
結果を以下の表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
(結果)
実施例1及び2の樹脂フィルムを用いてなるパウチは、高いバイオマス度を示し、且つ、植物由来のポリエチレン系樹脂を含まない比較例1のパウチと同等の優れた耐衝撃性を示し、更に、良好な手切れ性を示した。これに対し、比較例2の樹脂フィルムを用いてなるパウチは、落下の衝撃に耐えられず、また、手切れ性に劣り、詰め替えパウチとしての実用性に欠けるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の樹脂フィルムは、前述したように、特に、液体洗剤、シャンプー、リンスを包装するための詰め替えパウチのシーラントとして好適に使用できるものであるが、その性能を有効に利用できる用途であれば、内容物や用途等に関して特に制限はない。」


上記具体的な記載によると、実施例1には、石油由来のLLDPE(密度0.916g/cm^(3)、MFR2.3g/10分)と石油由来のLDPE(密度0.920kg/m^(3)、MFR1.2g/10分)との混合物(質量比70:30)(以下、「石油由来PE混合物」という。)85質量部に対し、植物由来のLLDPE(密度0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分)15質量部を配合した樹脂組成物からの単層のインフレーションフィルム(フィルム全体のバイオマス度13%)が、
実施例2には、石油由来PE混合物70質量部に対し、実施例1と同じ植物由来のLLDPE30質量部を配合した第一の樹脂組成物と、石油由来PE混合物である第二の樹脂組成物を、「第二の樹脂組成物からなる最外層(b1)/第一の樹脂組成物からなる中間層(a)/第二の樹脂組成物からなる最外層(b2)」の3層構成となるようにインフレーション共押出成形した、総厚み120μm(b1 30μm/a 60μm/b2 30μm)の樹脂フィルム(植物由来のLLDPEのフィルム全体に対する配合率15質量%、フィルム全体のバイオマス度は13%)が、
比較例1には、石油由来PE混合物からのインフレーションフィルム(フィルム全体のバイオマス度0%)が、さらに、
比較例2には、第一の樹脂組成物中の石油由来のLLDPEとLDPEとの混合物20質量部に対し、植物由来のLLDPE80質量部を配合した以外は、実施例2と同様にして製膜した3層構成の樹脂フィルム(植物由来のLLDPEのフィルム全体に対する配合率40質量%、フィルム全体のバイオマス度35%)が、
それぞれ記載されている。
そして、【0074】?【0083】に記載された耐衝撃性テスト及び手切れ性テストの結果によれば、植物由来のポリエチレン系樹脂の、包装用シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム全体に対する配合量のみに着目した場合、植物由来のLLDPE(密度0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分)をシーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム全体に対して15質量%含む実施例1及び2の樹脂フィルムを用いてなるパウチは、植物由来のポリエチレン系樹脂を含まない比較例1のパウチと同等の耐衝撃性と、良好な手切れ性を示しており、また、植物由来のポリエチレン系樹脂をシーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム全体に対して40質量%含む比較例2の樹脂フィルムを用いたパウチは、耐衝撃性及び手切れ性が劣る結果となっており、一見すると、植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高いと、シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムの耐衝撃性及び手切れ性が低下し、また、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%の範囲内の15重量%含む包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムでは、耐衝撃性及び手切れ性の問題はないことが示されているようにも見える。

(5) しかしながら、実施例1,2及び比較例1,2のフィルムに使用されているLLDPEは、植物由来のLLDPEが、ブラスケム社のC4-SLL118(MFR(メルトフローレート)1.0g/10分)であるのに対して、石油由来のLLDPEは、三井化学(株)製エボリユーSP2020(登録商標)(MFR2.3g/10分;なお、エボリユーSP2020は、申立人02による平成29年3月15日提出の意見書に添付された資料2(株式会社プライムポリマーのホームページのエボリユーに関する製品情報(http://www.primepolymer.co.jp/produt/pe/evolue.html))によれば、これはC6-LLDPE(すなわち、LLDPEの製造に使用される、エチレンと共重合するためのα-オレフィンコモノマーがC6のもの)であり、上記実施例及び比較例で使用されている植物由来のLLDPEと石油由来のLLDPEは、LLDPEを構成するα-オレフィンコモノマーの種類及びMFRの点でも相違している。
そして、実施例1,2及び比較例1,2の記載を、LLDPEの種類(α-オレフィンコモノマー(以下、単に「コモノマー」という。)の種類の違い及びMFR)に着目した場合、LLDPEとLDPEの合計100質量部に対するフィルム全体でのそれぞれのLLDPEの配合量は、実施例1及び2では、コモノマーがC4(すなわち、炭素数が4)、MFRが1.0g/10分のLLDPE(C4-SLL118)が15質量部、及び、コモノマーがC6(すなわち、炭素数が6)、MFRが2.3g/10分のLLDPE(エボリユーSP2020)が59.5質量部含まれており、比較例1では、コモノマーがC6、MFRが2.3g/10分のLLDPEが70質量部含まれており、比較例2では、コモノマーがC4、MFRが1.0g/10分のLLDPEが40質量部、及び、コモノマーがC6、MFRが2.3g/10分のLLDPEが42質量部含まれており、植物由来か石油由来かの違いのみならずLLDPE自体としてそもそも性質が異なると解されるLLDPEが使用されている。
また、植物由来LLDPEが含まれる層(中間層)に着目してみた場合、それぞれのLLDPEの配合量は、実施例2では、コモノマーがC4、MFRが1.0g/10分のLLDPEが30質量部、及び、コモノマーがC6、MFRが2.3g/10分のLLDPEが49質量部含まれており、比較例2では、コモノマーがC4、MFRが1.0g/10分のLLDPEが80質量部、及び、コモノマーがC6、MFRが2.3g/10分のLLDPEが14質量部含まれており、実施例1、2、比較例1、2の全てにおいてそれぞれのLDPEの配合量も異なる。
これをフィルム全体(或いは、括弧内は、中間層のみ)に対する百分率で記載すると、以下のとおりりとなる。

植物由来LLDPE 石油由来LLDPE LLDPE合計
(C4、MFR1.0g/10分)(C6、MFR2.3g/10分)
実施例1 15% 59.5% 74.5%
実施例2 15% 59.5% 74.5%
(30%) (49%) (79%)
比較例1 0% 70% 70%
比較例2 40% 42% 82%
(80%) (14%) (94%)

ここで、例えば、コモノマーがC6、MFRが2.3g/10分の(石油由来)LLDPEの配合量に着目して、本件特許明細書の表1,2に示される耐衝撃性及び手切れ性の結果を見ると、該LLDPEが、フィルム全体で59.5%(実施例2では、中間層では49%)含まれる実施例1及び2のフィルムや、フィルム全体で70%含まれる比較例1のフィルムからのパウチに比べ、フィルム全体で42%(中間層では14%)と少量しか含まれない比較例2では、耐衝撃性や手切れ性の点で劣る結果となっており、これらの結果の違いが、フィルム全体あるいは中間層に含まれるコモノマーがC6、MFRが2.3g/10分の(石油由来)LLDPEの配合量の違いによる可能性も否定できない。

(6) さらに、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載は、実施例1,2及び比較例1,2の全てにおいてそれぞれのLLDPEの配合量が異なっているのみならず、実施例と比較例とでは、包装用シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム中に含まれる、全LLDPEとLDPEの比率も異なっている。
すなわち、包装用シーラント用フィルム中に含まれる、全LLDPEとLDPEの比率に着目した場合、全LLDPEとLDPEの合計100質量部に対するフィルム全体でのLLDPEの配合量は、実施例1及び2では、74.5質量部、比較例1では70質量部、比較例2では82質量部となり、一致していない。
また、植物由来LLDPEが含まれる層(中間層)に着目して、該層中の全LLDPEとLDPEの合計100質量部に対するLLDPEの配合量をみた場合、実施例2では、79質量部、比較例2では94質量部となり、実施例1、2、比較例1、2の全てにおいて全LLDPEの配合量が異なる。

一方、以下の技術常識を示す文献Cに示すとおり、LDPEとLLDPEとのポリマーブレンドフィルムでは、各ポリマーの混合比により物性が変化することが当業者に広く知られており、特に、フィルムの引裂強さについても、(試験法により挙動は異なるが、)LDPEとLLDPEとの混合割合により、その性質が大きく変化することが知られていた。

<本件特許の出願時の技術常識を示す文献C>
藤本省三ら、「L-LDPEのフイルム加工について」、東洋曹達研究報告、東洋曹達工業株式会社、1983年7月1日、第27巻、第2号、第87?98頁(申立人01の甲第6号証)

ケ 「1.まえがき
直鎖状低密度ポリエチレン(以下L-LDPE)は、ブテン-1,ヘキセン-1,4-メチルペンテン-1およびオクテン-1などのα-オレフィンとエチレンとの共重合体・・・
L-LDPEは、従来の高圧法低密度ポリエチレン(以下、HP-LDPE)に比較して,優れた物理的性質をもっている反面,・・・インフレーション成形加工においては,下記の留意点があげられる。」(第87頁左欄第1行?右欄第4行)

コ 「実験に用いられたL-LDPEおよびHP-LDPEの性状をTable1に示す。・・・


(第88頁左欄第13?15行及び表1)

サ 「〔2〕ブレンドによるフィルム物性について
HP-LDPEにL-LDPEをブレンドすることにより、フィルムの物理的性質やドローダウン性を改良でき,またL-LDPEにHP-LDPEを若干ブレンドすることにより,伸張粘度や高シェアー域における溶融粘度が改善され,バブル安定性やメルトフラクチャーに良い影響を与えることが報告されている1)。またブレンド比率によっては,従来のHP-LDPEの加工機を改造することなしに使用できるので,フィルム市場においては各種用途に利用されはじめている。
今後の市場展開の上からも,ブレンドフィルムの検討が必要であるので,MFR=0.3?2までの4種のHP-LDPEとFW1294のブレンドフィルムについて検討した。」(第94頁左欄第1?14行)

シ 「(4) ダートインパクト強さ
FW1294のブレンドにより,フィルムの衝撃強度は若干改良傾向を示すが,概略変化しない(・・・)。HP-LDPEの種類やブレンド比率による相溶性の差も考えられるので,メルトブレンドによる検討もおこなったがほぼ同様の結果(・・・)となり,練りの問題ではないと考えられる。」(第96頁左欄第6?12行)

ス 「(5) 引裂強さ
フィルムを引裂く方法および引裂スピードにより,その挙動は異なる。引裂スピードがゆっくりである直角引裂強さは引張破断強さと同様,FW1294の比率が多くなると強度は大きくなる(Flg.31)。しかし,引裂スピードが速いエレメンドルフ引裂強さは,FW1294の比率が40?80wt%でMD方向の引裂強さが最小値をもち,高密度ポリエチレンのバランスフィルム並みの値となる(Flg.32)。


(第98頁左欄第3?10行及び図31,32)

(7) 以上のとおり、本件特許明細書の実施例1、2と比較例1、2による試験結果を検討すると、実施例と比較例では、フィルムに配合される植物由来のポリエチレン系樹脂の配合量のみならず、LLDPEとLDPEの比率、LLDPEを構成するコモノマーの種類、MFRの点でも種々に条件が異なる場合についての試験結果が比較されているに過ぎず、包装用シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルム中に含まれるLLDPEとLDPEの比率が同じで、かつ、石油由来及び植物由来のLLDPEが、その密度のみならず、コモノマーの種類が同じで、MFRもほぼ同じものを使用した場合についての比較はされていない。
そうすると、上記文献A?Dに示される本件特許の出願時の技術常識を踏まえると、本件特許明細書の記載からは、本件訂正発明が解決しようとする課題が存在すること、つまり、「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」(上記(4)で記載した(i))も、当該課題(問題)が、本件訂正発明1及びこれを引用する本件訂正発明2、4及び5に関しては、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む単層の包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムであることによって、この問題が解決できること」(同(ii-1))、本件訂正発明3及びこれを引用する本件訂正発明4及び5に関しては、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン植物由来のポリエチレン系樹脂を、フィルム全体に対して10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチン系樹脂からなる両最外層と、該植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなる包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムあることによって、この問題が解決できること」(ii-2))
も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に裏付けられているとはいえない。
また、特許権者は、他に、上記の問題(課題)が存在し、その問題点(課題)を本件訂正発明の構成を採用することで解決できることを示す具体的な試験結果を示している訳でもない。

そうすると、本件特許明細書の記載に基づいて、本件特許発明が解決しようとする課題を(1)で記載したとおりのものと理解した場合には、本件特許の出願時の技術常識及び本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、「植物由来のポリエチレン系樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来のポリエチレン樹脂が、同じコモノマーを使用して製造された、MFR及び密度がほぼ同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来のポリオレフィン系樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合の耐衝撃性及び手切れ性が低下するという問題が存在すること」は当業者に理解できず、(1)で記載した課題自体が存在するとはいえないし、また、(1)で記載した課題が存在するとした場合であっても、当該課題(問題)が、本件訂正発明1?5で特定される包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルムによって解決できることも当業者は理解できないから、本件訂正発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(8) (2)及び(3)で説示したとおり、ポリエチレン系樹脂は、同じ製造条件で得られた、同じ化学構造、(コモノマー、MFR及び密度)を有するものであれば、石油由来でも植物由来でも同じ物性のフィルムが得られることが本件特許の出願時の技術常識であり、本件特許明細書の【0002】?【0005】に記載の背景技術にあるような問題点は存在しないし、(4)?(7)で説示したとおり、そのような問題点の存在が、本件特許明細書の記載から当業者に理解可能であるとも認められないのであるから、(1)で指摘した、本件特許明細書の記載に基づいて理解される課題自体は、本件訂正発明1?5が解決しようとする課題として不合理なものである。

そして、本件特許明細書の記載に基づいて理解される課題が、請求項に係る発明の課題として不合理なものである場合の取り扱いに関しては、特許権者が平成29年6月26日付けの意見書の2?3頁にも抜粋しているとおり、特許庁の審査基準(第II部第2章第2節のサポート要件の、「2.サポート要件についての判断」(特許庁HPの制度・手続>法令・基準>基準・便覧・ガイドライン>特許・実用新案のファイル参照)の2.1(3)に、次のとおり記載されている。

「審査官は、発明の課題を、原則として、発明の詳細な説明の記載から把握する。
ただし、以下の(i)又は(ii)のいずれかの場合には、明細書及び図面の全ての記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮して課題を把握する。
(i)・・・
(ii)明示的に記載された課題が、発明の詳細な説明の他の記載や出願時の技術常識からみて、請求項に係る発明の課題として不合理なものである場合(・・・)」

そこで、審査基準の運用に従い、ポリエチレン系樹脂は、同じ製造条件で得られた、同じ化学構造、(コモノマー、MFR及び密度)を有するものであれば、石油由来でも植物由来でも同じ物性のフィルムが得られるとの技術常識を前提として、本件訂正発明1?5が解決しようとする課題を把握した場合、本件訂正発明1?5が解決しようとする課題は、「優れた耐衝撃性及び手切れ性を示し、且つ、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリオレフィン系樹脂を含むことから環境への負荷が低減された、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム、及びそれを用いた詰め替えパウチを提供すること」であると認められる。(なお、上記の前提については、平成29年11月21日付けの意見書において、特許権者も認めている。)

そこで、本件特許明細書の記載から、当該本件訂正発明1?5が解決しようとする課題を、訂正後の請求項1?5に記載の発明特定事項により解決できることを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者認識できるかについて、以下に検討する。

(9) 第2 2.(2)でも指摘したとおり、本件特許の出願時、包装材のシーラントに使用されるポリエチレンとしてLLDPEやLDPEといったポリエチレン系樹脂からなるものが汎用されていた(例えば、申立人02が提出した甲第1号証、並びに、申立人01が提出した甲第1号証及び甲第9号証?甲第12号証参照。)ところ、本件訂正発明1?5のフィルムは、第3で特定されるとおりのものであり、従来から包装材のシーラントに使用されその特性も当業者に十分知られていた、植物由来ではない、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%と高含有量で含むものである。
そして、(4)及び(5)で記載したとおり、本件特許明細書には、比較例1として、石油由来のLLDPEと石油由来のLDPEとの混合物(質量比70:30)からなるシーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムが、耐衝撃性及び手切れ性の点で優れることが示されており、また、本件訂正発明1?5で特定される、フィルム全体に対して植物由来のポリエチレン系樹脂が10?20質量%含有されるシーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムについても、実施例1に、石油由来のLLDPEと石油由来のLDPEとの混合物(質量比70:30)((4)でも記載した「石油由来PE混合物」)85質量部に対し、植物由来のLLDPE(コモノマーがC4コモノマーで、密度0.916g/cm^(3)、MFR1.0g/10分)15質量部を配合した樹脂組成物からの単層フィルムからのパウチが耐衝撃性及び手切れ性に優れることが、また、実施例2に、上記石油由来PE混合物70質量部に対し、実施例1と同じ植物由来のLLDPE30質量部を配合した第一の樹脂組成物と、石油由来PE混合物である第二の樹脂組成物を、「第二の樹脂組成物からなる最外層(b1)/第一の樹脂組成物からなる中間層(a)/第二の樹脂組成物からなる最外層(b2)」の3層から構成されるフィルムからのパウチが耐衝撃性及び手切れ性に優れることが記載されている。
そうすると、ポリエチレン系樹脂からなる包装材シーラント用のフィルムについての知識を有する当業者であれば、本件特許の出願時の技術常識及び本件特許明細書の記載から、訂正後の請求項1?5に特定されるフィルムであって、耐衝撃性及び手切れ性のものを理解することができるといえるから、「優れた耐衝撃性及び手切れ性を示し、且つ、フィルム全体に対して10質量%以上の量で植物由来のポリオレフィン系樹脂を含むことから環境への負荷が低減された、包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム、及びそれを用いた詰め替えパウチを提供すること」という、本件訂正発明1?5が解決しようとする課題が、訂正後の請求項1?5に記載の発明特定事項により解決できることを、当業者は認識できるといえる。

したがって、本件訂正発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえ、訂正後の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(10) むすび
以上のとおり、平成29年9月19日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由1によっては、訂正後の請求項1?5に係る本件特許を取り消すことはできない。


第6 取消理由2(特許法第29条第2項(同法第113条第2号))についての合議体の判断

1.刊行物1に記載された事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1には、
「3層構成のシーラントフィルムであって、密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるA層、密度0.935?0.950g/cm^(3)、メルトフローレート1?10g/10分であり、示差走査熱量計を用いた測定における結晶融解ピークが単一である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるB層、及び密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるC層とからなり、全厚み中のB層の割合が2/5?2/3であり、かつA層、C層それぞれの最低厚みが5μmであることを特徴とするシーラントフィルム。」(請求項1)と記載されており、【0001】には、「本発明は食品等の包装に用いられる軟質包装材料に関し、より詳しくは、袋(パウチ)の最内層に用いられるシーラントフィルムに関する。」と、【0005】には、「本発明は、・・・強靱でありながら、引き裂き性に優れたシーラントフィルムを提供することを目的とする。」と記載されている。
また、発明の実施の態様として、実施例1(【0019】)には、
「A層として密度=0.915g/cm^(3)、MFR=2.0g/10分であるLLDPE、B層として密度=0.935g/cm^(3)、MFR=2.0g/10分の結晶融解ピーク温度が単一であるLLDPE、C層としてA層と同一のLLDPEを用い、インフレーションによる共押出法によって製膜をし、A層15μm厚、B層40μm厚、C層15μm厚からなる全体厚み70μmの3層シーラントフィルムを得た」ことが記載され、得られたフィルムの性能に関し、【0028】に「耐衝撃性(落下強度)」の試験方法が、【0030】に「引裂開封性(官能試験)」の試験方法として、20人のモニターによりヒートシールした袋の開封のしやすさの官能試験をしたことが、それぞれ記載され、表1に、実施例1のシーラントフィルムが、耐衝撃性及び引裂開封性の評価が示され、【0033】には、「本発明の3層シーラントフィルムは、従来のシーラントフィルムに比較して・・・耐衝撃性に優れる一方、引き裂き性にも優れるものであり、包装袋としたときの開封性も良好・・」と記載されている。

これらの記載によれば、刊行物1には、
「3層構成のシーラントフィルムであって、密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるA層、密度0.935?0.950g/cm^(3)、メルトフローレート1?10g/10分であり、示差走査熱量計を用いた測定における結晶融解ピークが単一である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるからなるB層、及び密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるC層とからなり、全厚み中のB層の割合が2/5?2/3であり、かつA層、C層それぞれの最低厚みが5μmである、包装材シーラント用の耐衝撃性引裂開封性ポリエチレン系樹脂フィルム。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

また、刊行物2に記載された事項は、上記第5の(2)における、本件特許の出願時の技術常識を示す文献Aの記載事項ア?オのとおりであり、刊行物3に記載された事項は、本件特許の出願時の技術常識を示す文献Bの記載事項カ?クのとおりである。

さらに、刊行物4の【0005】には、「省資源化のため、肉厚の液体洗剤等のボトルを再使用し、、ラミネートフィルムで構成された詰め替え用の自立式袋が最近盛んに汎用されている。この袋に要求される特性として、従来の耐衝撃性と耐環境ストレスクラッキング性に加え、易開封性が求められている・・・」と記載されている。

2.本件訂正発明1について

本件訂正発明1と引用発明とを対比する。
刊行物1の「引裂開封性」は、ヒートシールした袋の開封のしやすさを、人(20人のモニター)により官能試験するものである(【0030】)から、引用発明の「引裂開封性」は、本件訂正発明1の「手切れ性」に相当すると認められる。
また、引用発明のシーラントフィルムのA層及びC層に含まれる直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の密度及びメルトフローレートについての物性「密度0.910?0.925g/cm^(3)、MFR1?5g/10分」は、本件訂正発明1のシーラントフィルムに含まれる植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の物性である「密度0.910?0.922g/cm^(3) 、メルトフローレート0.7?3.1g/10分」と、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR1?3.1g/10分」の範囲で重複一致しているし、引用発明の具体的な態様(実施例1;密度0.915g/cm^(3)、MFR=2.0g/10分)でも、本件訂正発明1と一致しているから、引用発明には、本件訂正発明1の「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン」がその態様として含まれている。
そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、
「ポリエチレン系樹脂を、含む、包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、
該ポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンである、上記包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」
で一致し、
少なくとも、
<相違点>
本件訂正発明1の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは「単層」であるのに対し、引用発明の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは「3層構成」である点。
で、相違する。

そこで、検討すると、
引用発明の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは、A?Cの層が必須であるし、当該層を設ける点に関し、刊行物1には、
「全厚み中のB層の割合が2/5未満では引き裂き性が不充分となる場合があり、2/3を超えると、フィルム全体が硬くなりすぎて、耐衝撃性が著しく低下する恐れがあるので、上記範囲に限定される。
またA層の最低厚みが5μm未満では、ヒートシール性が悪くなる恐れがあり、さらに、C層の最低厚みが5μm未満では、フィルム製膜後にフィルムがカールしてしまい、2次加工時などで、フィルムが扱いにくくなる恐れがあるので、上記範囲に限定される。」(【0014】?【0015】)
と記載されている。
そうすると、引用発明の、A?Cの3層構造からなる包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムを、単層とすることを当業者は容易に想到し得たこととはいえない。
よって、引用発明を、上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることは、当業者にとって容易とはいえず、そうである以上、少なくとも上記の相違点で引用発明と異なる本件訂正発明1が、引用発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。また、他の刊行物を参酌しても同様である。

したがって、本件訂正発明1は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

3.本件訂正発明2、4及び5について
本件訂正発明2、4及び5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記本件訂正発明1について2.で説示したと同様の理由により、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、平成29年4月25日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由2によっては、訂正後の請求項1、2、4及び5に係る本件特許を取り消すことはできない。


第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立人が主張する取消理由について
(1)申立人02が主張する取消理由の概略
申立人02は、訂正前の請求項3に係る発明及び請求項3が引用する請求項4及び5に係る発明について、特許異議申立書において概略、以下の取消理由を主張している。
訂正前の本件請求項3?5に係る発明は、甲第1号証に甲第2?4号証を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[申立人02が提示した各甲号証]
甲第1号証:特開平11-221887号公報(第4で記載した刊行物1であるので、以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:2009年8月15日発行 コンバーテック2009年8月号第63?65頁(第5(2)で記載した文献Aである。)
甲第3号証:2011年2月15日発行 コンバーテック2011年2月号第83?84頁(同文献Bである。)
甲第4号証:国際公開2011/140496号
参考資料1:Braskem社 Green PEカタログ 12頁
(http://www.braskkem.com/Portal/Principal/Arquivos/ModuloHTML/Documentos/846/AF_Catalogo_PE%20Verde_2014_ING_site.pdf)

また、申立人02は、平成29年3月15日提出の意見書に添付して資料1?6(なお、このうち、資料3は、第5(2)で記載した文献Dである。)を、同年8月2日付けの意見書に添付して資料1?3を、提出している。

(2)申立人01が主張する取消理由の概略
申立人01は、訂正前の請求項1?5に係る発明について、特許異議申立書において概略、以下の取消理由を主張している。
訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証(主引例)及び甲第2?8号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[申立人01が提示した各甲号証]
甲第1号証:特開平10-114037号公報(第4で記載した刊行物4である。)
甲第2号証:リニアポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE-L^((R))」、スミカセンーL^((R))」、住友化学工業株式会社、1992年3月
甲第3号証:高圧法ポリエチレンカタログ「SUMI KATHENE^((R)) スミカセン^((R))」、住友化学工業株式会社、2001年3月
甲第4号証:杉山 英路ら、「地球環境に優しい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、第63?67頁(第5(2)で記載した文献Aである。)
甲第5号証:牧野 太宣、「サトウキビから作られたプラスチック包装材料『Bipro-PE』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2011年2月15日、第39巻、第2号、第83?85頁(第5(2)で記載した文献Bである。)
甲第6号証:藤本省三ら、「L-LDPEのフイルム加工について」、東洋曹達研究報告、東洋曹達工業株式会社、1983年7月1日、第27巻、第2号、第87-98頁(第5(6)で記載した文献Cである。)
甲第7号証:特開2008-265115号公報
甲第8号証:特開2009-149013号公報
(なお、甲第2号証及び甲第3号証の(R)は、正しくは、○囲みのRであるが、この決定中では、表記できないため(R)と記載している。)

また、申立人01は、平成29年12月21日提出の意見書に添付して下記の甲第9号証?甲第12号証を提出した。
甲第9号証:「コンバーティングのすべて-過去から未来ヘ-」、加工技術研究会、1993年6月30日、180-185頁
甲第10号証:「食品包装用複合フィルム便覧」、日本食品出版株式会社、1997年3月、64-70頁
甲第11号証:「包材構成100問100答」、株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス、1994年4月4日、49-54頁
甲第12号証:「次世代ポリエチレン樹脂 アジア・パシフィック、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー、2009年8月

2.申立人02が主張する取消理由についての判断
(1)本件訂正発明3について
甲第1号証(刊行物1)に記載された事項及び刊行物1に記載された発明(引用発明)は、第6 1.で記載したとおりである。

ここで、第6 2.における対比を踏まえて本件訂正発明3と引用発明とを対比する。
引用発明の「引裂開封性」は、本件訂正発明3の「手切れ性」に相当すると認められるし、引用発明の「3層構成」は、本件訂正発明3の「少なくとも3層」に相当する。
また、引用発明の「密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」からなる「A層」及び「C層」は、本件訂正発明3の「植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる両最外層」のそれぞれに、引用発明の特定の「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるB層」は、本件訂正発明3の「ポリエチレン系樹脂を含む中間層」に相当する。引用発明のシーラントフィルムのA層及びC層に含まれる直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の密度及びメルトフローレートについての物性「密度0.910?0.925g/cm^(3)、MFR1?5g/10分」は、本件訂正発明3のシーラントフィルムの中間層に含まれる植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の物性である「密度0.910?0.922g/cm^(3)、メルトフローレート0.7?3.1g/10分」と、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR1?3.1g/10分」で重複一致する。

そうすると、本件訂正発明3と引用発明とは、
<一致点>
「植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、ポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなる、包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、
密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンを含む、包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」
である点で一致し、
少なくとも、
<相違点>
包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムについて、本件訂正発明3では、両最外層に含まれる植物由来ではないポリエチレン系樹脂について、「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂」と特定され、また、中間層に含まれるポリエチレン系樹脂について、「植物由来」の「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンを含む」と特定されているのに対して、引用発明では、A層及びC層(両最外層)に含まれるポリエチレン系樹脂は、「密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる」ものであって、「低密度ポリエチレン」は含まれず、また、B層(中間層)は、「密度0.935?0.950g/cm^(3)、メルトフローレート1?10g/10分であり、示差走査熱量計を用いた測定における結晶融解ピークが単一である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるからなる」と特定されている点。
で、相違する。

上記相違点について検討する。
引用発明の「3層構成のシーラントフィルム」は、「密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるA層」、「密度0.935?0.950g/cm^(3)、メルトフローレート1?10g/10分であり、示差走査熱量計を用いた測定における結晶融解ピークが単一である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるB層」、及び「密度0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート1?5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるC層」とからなるものであって、引用発明では、A層及びC層が上記特定の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、B層が上記特定の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%及び上記特定の高密度ポリエチレン0?20重量%と、各層を構成するポリエチレン系樹脂の種類が特定されている。
そして、刊行物1には、A?C各層を構成するポリエチレン系樹脂を上記特定のポリエチレン樹脂とする点の技術的意義が、【0007】?【0012】に具体的に記載されており、【0031】の【表1】においても、各層を構成するポリエチレン樹脂が上記の条件を満たさない場合には、耐衝撃性や引裂開封性、カール性に劣ることが具体的に示されており、引用発明においては、A?Cの各層を構成するポリエチレン系樹脂を他の樹脂に変更することは想定されていない。
そうすると、刊行物1に接した当業者は、引用発明におけるA層及びC層を構成するポリエチレン系樹脂を、「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる」ものに替えて、本件訂正発明3のように、「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含む」ものとしたり、引用発明のB層のポリエチレン系樹脂層を構成する「密度0.935?0.950g/cm^(3)」の特定の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100?80重量%と高密度ポリエチレン系樹脂0?20重量%からなるからなる樹脂を、本件訂正発明3のように、引用発明とは異なる、「密度0.910?0.922g/cm^(3)」の特定の(植物由来の)ポリエチレン系樹脂に変更した場合、刊行物1に記載の効果を奏さないフィルムとなる蓋然性が高いと理解するものと認められる。
そうすると、引用発明を、本件訂正発明3に特定されるポリエチレン系樹脂からなる層構成を備えたものとすることは、刊行物1からは当業者は動機付けられない。また、申立人02が提出した他の甲号証及び資料を参酌しても同様である。
よって、引用発明を、上記相違点に係る本件訂正発明3の構成を備えたものとすることは、当業者にとって容易とはいえず、そうである以上、少なくとも上記の相違点で引用発明と異なる本件訂正発明3が、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、本件訂正発明3について、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本件訂正発明4及び5について
本件訂正発明4及び5は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項に係る発明であるから、本件訂正発明3について(1)で説示したと同様の理由により、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、申立人02が特許異議申立書において主張する取消理由には理由がなく、申立人02が主張する取消理由によっては、訂正後の請求項3?5に係る本件特許を取り消すことはできない。


3.申立人01が主張する取消理由についての判断
(1)刊行物4に記載された発明
申立人01が提出した甲第1号証(刊行物4)の請求項1のシーラントフィルム(B)についての記載、【0001】の「包装袋」なる記載、及び、実施例1(【0011】)の記載、及び、表1(【0017】)の記載によれば、刊行物4には、以下の発明が記載されているといえる。
「内外層として、それぞれ30μの、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層、
中間層として、70μの、引裂きの方向性がある、通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物である樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0);100重量部と、住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)からなるフィルム層、
を、組み合わせた3層からなる包装袋用シーラントフィルム。」(以下、「刊行物4発明」という。)

(2)本件訂正発明1について
刊行物4発明における「住友化学工業(株)製FA101-0」は、甲第2号証によれば、密度が0.919g/cm^(3)、メルトフローレートが0.8g/10分のリニア(直鎖状)ポリエチレンであり、これは、本件訂正発明の「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン」に相当する。また、「住友化学工業(株)製FA102-0」は、甲第3号証によれば、高圧法ポリエチレンである。
また、刊行物4によれば、実施例1のシーラントフィルムを袋の表基材フィルムとラミネートして得られたフィルムは、手での引き裂き易さに優れるものである(【0017】及び【0018】)から、刊行物4発明のシーラントフィルムは、「手切れ性」のポリエチレン系樹脂フィルムであるといえる。
そうすると、
本件訂正発明3と刊行物4発明とを対比すると、両者は、
<一致点>
「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンを含有する包装材シーラント用の手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」でー致し、
少なくとも、
<相違点>
本件訂正発明1の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは「単層」であるのに対し、刊行物4発明の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは「3層構成」である点。
で、相違する。

そして、刊行物4発明の包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムは、刊行物4の請求項1の記載からも明らかなとおり、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレンフィルム層からなる内外層、及び、引裂きの方向性がある、通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる中間層からなる3層が必須であるし、刊行物4発明では、かかる特定の層構成を備えることで、袋の表基材とラミネートして性ラミネートフィルム袋とした場合に、ラミネート強度、バリヤー性、機械強度、生産性、耐環境ストレスクラッキング性等が低下することなく、易開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供することができる(【0019】)のであるから、刊行物4発明の3層構造からなる包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムを、単層とすることを当業者は動機付けられない。
よって、刊行物4発明を、上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることは、当業者にとって容易とはいえず、そうである以上、少なくとも上記の相違点で刊行物4発明と異なる本件訂正発明1が、刊行物4発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
また、申立人01が提出した他の甲号証を参酌しても同様である。

したがって、本件訂正発明1は、刊行物4に記載された発明(刊行物4発明)及び甲第2?12号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件訂正発明2、4及び5について
本件訂正発明2、4及び5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記本件訂正発明1について(2)で説示したと同様の理由により、刊行物4に記載された発明(刊行物4発明)及び甲第2?12号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)本件訂正発明3について
刊行物4発明は(1)で記載したとおりのものであるところ、本件訂正発明3と刊行物4発明は、(2)での検討を踏まえて対比すると、
<一致点>
「植物由来ではないポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンを含む中間層との少なくとも3層からなり、
植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を含む包装材シーラント用の手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。」で一致し、
少なくとも、
<相違点>
包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムの中間層に含まれる、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン」について、本件訂正発明3では、「植物由来」と特定され、その含有量についても、「フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%」と特定され、また、フィルムの両最外層に含まれるポリエチレン系樹脂については、「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂」と特定されているのに対して、刊行物4発明では、包装材シーラント用のポリエチレン系樹脂フィルムの中間層に含まれる、「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン」は、「植物由来」ではなく、「フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%」とする特定もなされていないし、フィルムの内外層に含まれるポリエチレン系樹脂は、「引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)からなる」ものであって、内外層に「低密度ポリエチレン」は含まれていない点。
で相違する。

相違点に関し、特許異議申立書において申立人01が主張する進歩性の取消理由は、より具体的には、甲第1号証(刊行物4)の実施例1のシーラントフィルムに含まれる通常の直鎖状低密度ポリエチレンである「住友化学工業(株)製FA101-0」(これは、(2)で説示したとおり、本件訂正発明3の「密度0.910?0.922g/cm^(3)、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン」に相当する。)の一部又は全部を甲第4号証(刊行物2)の表2に記載のサトウキビ(植物)由来の直鎖状低密度ポリエチレン「LL-118」に置き換えることは、甲第4号証及び甲第5号証(第5(2)で説示した技術常識を示す文献A及びBである。)を踏まえれば、当業者が容易に想到し得ることであるというものである。

そこで、検討する。
技術常識を示す文献A及びB(甲第4号証及び甲第5号証)によれば、刊行物4発明の3層フィルムを構成する石油由来(植物由来ではない)のポリエチレン樹脂を、一般に認識されている石油資源の枯渇や、地球温暖化等の問題に対処するために、同じ種類のコモノマーからなる、密度等が同程度の植物由来の原料に置き換えることについての動機付けはあるといえ、3層からなるシーラントフィルの中間層に含まれる、直鎖状低密度ポリエチレンであるFA101-0のみを一部植物由来のものに変更した場合には、本件訂正発明3で特定される植物由来の中間層を有するフィルムとなる可能性はある。
しかしながら、刊行物4発明のシーラントフィルムの「中間層」は、「引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0;100重量部と住友化学工業 (株) 製F102-0;40重量部との混合物) からなるフィルム層」であって、中間層は、「引裂きの方向性がある樹脂組成物」である必要があるところ、申立人01の提出した他の証拠を参酌しても「LL-118」が「引裂きの方向性がある樹脂組成物」に相当するものであることを示す証拠は存在しないし、そもそも、「LL-118」が、刊行物4のシーラントフィルムの中間層に含まれる「住友化学工業(株)製FA101-0」とそのコモノマー組成等の点で一致しており、同等の機能を達成できるかも不明である。
そうすると、刊行物4のシーラントフィルムに含まれる通常の直鎖状低密度ポリエチレンである「住友化学工業(株)製FA101-0」を「引裂きの方向性がある樹脂組成物」に相当するかが不明な刊行物4の表2に記載の植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン「LL-118」に置き換えることの動機付けがあるとはいえない。
しかも、刊行物4のシーラントフィルムを構成するポリエチレンを植物由来のものに置き換える場合、本件訂正発明3に特定される、「フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%」を満足するフィルムとするためには、フィルムの中間層のみに着目し、かつ、中間層に存在するポリエチレン系樹脂2種の中の、「住友化学工業(株)製FA101-0」に着目して植物由来のものに置き換える必要があるが、仮に、この点が当業者にとって適宜なし得ることであるとしても、中間層に含まれる「住友化学工業(株)製FA101-0」の全部を刊行物4の表2に記載のサトウキビ(植物)由来の直鎖状低密度ポリエチレン「LL-118」に置き換えた場合、フィルム全体に含まれる植物由来の直鎖状低密度ポリエチレンは、ポリエチレン樹脂の比重を1とした場合、中間層の割合×中間層に含まれる「住友化学工業(株)製FA101-0」の割合(%)は、[70μ(中間層の厚み)÷130μ(フィルム全体の厚み=30+70+30)]×[100重量部÷140重量部(=100+40)]×100(%)=38%となり、本件訂正発明で特定される植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の含有量(10?20質量%)を(大きく)超えている点でも相違することとなり、含有割合を10?20重量%の範囲とする点も、刊行物4からは、直ちには導き出せない。

さらには、本件訂正発明3は、両最外層が、「直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる」ものであるが、刊行物4発明のシーラントフィルムの「内外層」は、「引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフイルム層」であって、これらの層には、「低密度ポリエチレン」が含まれていないところ、刊行物4発明のフィルムの内外層を、フィルムの性質を変化させ得る低密度ポリエチレンを配合したものとする動機付けもない。

そうすると、刊行物4発明のフィルムを、上記の相違点に係る本件訂正発明3の構成を備えたものとすることは、刊行物4から当業者に動機付けられるとはいえないし、また、申立人01が提出した他の甲号証に記載の技術的事項を参酌しても同様である。

そして、刊行物4発明及び各甲号証に記載の技術的事項に基づいて、上記の相違点に係る本件訂正発明3の構成を備えたものとすることが容易とはいえない以上、少なくとも上記の相違点で刊行物4発明と異なる本件訂正発明3が、甲第1号証(刊行物4)に記載の発明及び甲第2号証?甲第12号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
よって、本件訂正発明3について、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

(5)本件訂正発明4及び5について
本件訂正発明4及び5は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記本件訂正発明3について(4)で説示したと同様の理由により、甲第1号証(刊行物4)に記載された発明(刊行物4発明)及び甲第2?12号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(6)むすび
以上のとおり、申立人01が特許異議申立書において主張する取消理由には理由がなく、申立人01が主張する取消理由によっては、訂正後の請求項1?5に係る本件特許を取り消すことはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人土田裕介(申立人01)、及び、申立人青山裕樹(申立人02)が、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?5に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む単層の包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムであって、該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm3、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする、上記包装材シ-ラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
詰め替えパウチ用であることを特徴とする、請求項1に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる両最外層と、植物由来のポリエチレン系樹脂を含む中間層との少なくとも3層からなり、
該植物由来のポリエチレン系樹脂は、密度0.910?0.922g/cm3、MFR0.7?3.1g/10分の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレンであり、
フィルム全体に対して、植物由来のポリエチレン系樹脂を10?20質量%、植物由来ではない直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂を90?80質量%含む
包装材シーラント用の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項4】
バイオマス度が8.5?18%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の耐衝撃性手切れ性ポリエチレン系樹脂フィルムを用いてなることを特徴とする、詰め替えパウチ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-29 
出願番号 特願2011-288685(P2011-288685)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 857- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督前田 孝泰  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 渕野 留香
大島 祥吾
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5899921号(P5899921)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 包装材シーラント用ポリエチレン系樹脂フィルム  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 竹林 則幸  
代理人 吉住 和之  
代理人 結田 純次  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ