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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1339142
異議申立番号 異議2017-700144  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-16 
確定日 2018-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5970796号発明「太陽電池基板用鋼箔およびその製造方法、並びに太陽電池基板、太陽電池およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5970796号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。 特許第5970796号の請求項1ないし5、7、8、10ないし15に係る特許を維持する。 特許第5970796号の請求項6及び9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5970796号の請求項1-15に係る特許についての出願は、平成23年12月1日に特許出願(国内優先権主張平成22年12月10日)したものであって、平成28年7月22日付けでその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人岡林茂により特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 4月28日:取消理由通知書(同年5月8日発送)
平成29年 6月26日:訂正請求書、意見書(特許権者提出)
平成29年 7月 4日:訂正拒絶理由通知書(同年7月7日発送)
平成29年 8月 2日:手続補正書(平成29年6月26日付け訂正請 求書の請求の理由の補正、特許権者提出)
意見書(特許権者提出)
平成29年10月 2日:取消理由通知書(決定の予告 同年10月10 日発送)
平成29年11月22日:訂正請求書、意見書(特許権者提出)
平成29年12月 5日:訂正請求があった旨の通知書(同年12月7日 発送)
平成30年 1月 5日:意見書(特許異議申立人提出)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年11月22日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許請求の範囲を訂正後の請求項1?15について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項からなる。なお、上記訂正請求より先にした平成29年6月26日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が930MPa以上であり、
0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下であることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。」
と記載されているのを、
「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、
0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。」
に訂正する。
上記訂正は、
(ア)引張強度が「930MPa以上」であったものを、「1000MPa以上」にする訂正事項(以下「訂正事項1-1」という。)、
(イ)「厚さが20?200μmである」との発明特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項1-2」という。)、
からなる。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が930MPa以上であり、ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。」
と記載されているのを、
「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。」
に訂正する。
上記訂正は、
(ア)引張強度が「930MPa以上」であったものを、「1000MPa以上」にする訂正事項(以下「訂正事項2-1」という。)、
(イ)「厚さが20?200μmである」との発明特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項2-2」という。)、
からなる。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。」
と記載されているのを、
「請求項1?5のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1?7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法であり、厚さ1mm以下の光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を、圧下率50%以上で冷間圧延することを特徴とする太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法であり、厚さ1mm以下の光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を、圧下率70%以上で冷間圧延することを特徴とする太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に
「請求項8または9に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」
と記載されているのを、
「請求項8に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に
「請求項8?10のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」
と記載されているのを、
「請求項8または10に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。」

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に
「請求項1?7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔を用いたことを特徴とする太陽電池基板。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔を用いたことを特徴とする太陽電池基板。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項1-1は、引張り強度の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項1-2は、構成要件を直列的に付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)願書に添付した明細書には、「【0008】本発明の太陽電池基板用鋼箔では、圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であったり、…であることが好ましい。」との記載があるから、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
(イ)願書に添付した明細書には、「【0001】本発明は、太陽電池基板用鋼箔、特に、厚さ20?200μmの太陽電池基板用鋼箔に関する。」との記載があるから、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1-1、1-2はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項2-1は、引張り強度の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものである。
(イ)訂正事項2-2は、構成要件を直列的に付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)願書に添付した明細書には、「【0008】本発明の太陽電池基板用鋼箔では、圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であったり、…であることが好ましい。」との記載があるから、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
(イ)願書に添付した明細書には、「【0001】本発明は、太陽電池基板用鋼箔、特に、厚さ20?200μmの太陽電池基板用鋼箔に関する。」との記載があるから、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2-1、2-2はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3で請求項6を削除することに伴って、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項3で請求項6を削除することに伴って、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項9を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項6で請求項9を削除することに伴って、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正事項6で請求項9を削除することに伴って、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項3で請求項6を削除することに伴って、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1-15は、一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求するものである。

3 訂正のまとめ
本件訂正請求に係る訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び第9項で準用する第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?15]について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5、7、8、9?15に係る発明(以下、その順に「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5、7、8、9?15に記載された事項によ特定されるとおりのものである。なお、請求項6、9は、本件訂正請求により削除されている。

【請求項1】
質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、
0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。
【請求項2】
質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。
【請求項3】
質量%で、さらに、Nb、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも一種を合計で1.0%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項4】
質量%で、さらに、Al:0.20%以下、N:0.05%以下、Mo:0.02?4.0%のうちから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項5】
質量%で、さらに、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、V:1.0%以下、W:1.0%以下、Ca:0.1%以下、Mg:0.1%以下、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
ミクロ組織が圧延組織のままであることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項8】
請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法であり、厚さ1mm以下の光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を、圧下率70%以上で冷間圧延することを特徴とする太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
フェライト組織を有する光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を用いることを特徴とする請求項8に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項11】
冷間圧延後、不活性ガス雰囲気中で400?700℃の熱処理を施すことを特徴とする請求項8または10に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項12】
請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔を用いたことを特徴とする太陽電池基板。
【請求項13】
請求項12に記載の太陽電池基板を用いたことを特徴とする太陽電池。
【請求項14】
請求項12に記載の太陽電池基板を用いてRoll-to-Roll方式の連続プロセスにより製造することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項15】
Roll-to-Roll方式の連続プロセスが、クリーニング-バック電極スパッタリング-太陽電池処理-セレン化処理-バッファー層形成-トップ電極スパッタリング-電極形成-スリットの工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の太陽電池の製造方法。

第4 取消理由の概要
訂正前の特許請求の範囲の請求項1-15に係る発明(以下、その順に「本件特許発明1」等という。)に対して、平成29年10月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 本件特許発明1-15は、優先権の利益を享受することはできない。

2 本件特許発明1-10は、当業者が、甲1発明及び周知の技術手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1-10の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 本件特許発明1、2、5、7、8、10、12-14は、甲2発明と実質的に同一であるから、本件特許発明1、2、5、7、8、10、12-14の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、本件特許発明1-5、7、8、10-15に係る特許は、当業者が、甲2発明、甲10に開示された技術事項、甲12に開示された技術事項及び周知の技術手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1-5、7、8、10-15の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 したがって、本件特許発明1-15に係る特許は取り消すべきものである。



特許異議申立人が提出した証拠
甲第1号証:特開昭63-169331号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開昭63-138783号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:国際公開第2005/014873号(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2001-87802号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特開平10-82000号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:特開2011-204723号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特願2010-275653号優先権証明書(以下「甲7」という。)
甲第8号証:JISハンドブック[1]鉄鋼I、日本規格協会、2005、p980(注:「[1]」は、丸数字の1である。)(以下「甲8」という。)
甲第9号証:ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧(第3版)、日刊工業新聞社、1995年1月24日 p529 (以下「甲9」という。)
甲第10号証:特開平5-171362号公報(以下「甲10」という。)
甲第11号証:特開2011-124526号公報(以下「甲11」という。)
甲第12号証:特開2001-339081号公報(以下「甲12」という。)

以下は、平成30年1月5日付け意見書に添付して提出した参考資料。
参考資料1:特開2002-94095号公報
参考資料2:特開2011-176285号公報
参考資料3:ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧(第3版)、日刊工業 新聞社、1995年1月24日 p172

第5 優先権について
本件発明1は、「0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下であ」ることを発明特定事項とし、本件発明2は「ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であ」ることを発明特定事項とする。しかしながら、前記発明特定事項は、何れも、優先権の主張の基礎とされた出願(特願2010-275653号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲7参照。)に記載されていない。
そして、本件発明3-15は、何れも、本件発明1又は本件発明2を、直接または間接に引用し、減縮する発明である。
したがって、請求項1-15に係る発明は、何れも、優先権の利益を享受することはできない。

第6 引用する発明等
1 甲1
(1)甲1の記載事項
ア 「特許請求の範囲」の記載
「(1) 重量%において、
C:0.10%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:4.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Ni:4.0%以下、
Cr:10.0%以上で20.0%以下、
N:0.12%以下、
O:0.02%以下、
Cu:4.0%以下、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼であって、且つ
0.01%≦C+N≦0.20%
0.5%≦Ni+(Mn+Cu)/3≦5.0%
の関係を満足する鋼のスラブを製造し、これを熱間圧延して熱延鋼帯を製造する工程、
中間焼鈍無しの一回冷延によって製品板厚にまで冷間圧延して冷延鋼帯を製造する冷間圧延工程、そして、
得られた冷延鋼帯を連続熱処理炉に通板して、Ac1点以上1100℃以下のフェライト+オーステナイトの二相域温度に10分以内の保持のあと、最高加熱温度から100℃までを平均冷却速度1℃/sec以上500℃/sec以下で冷却する仕上熱処理を施す連続仕上熱処理工程、
からなる、HV200以上の硬さを有し且つ延性に優れた高強度複相組織クロムステンレス鋼帯の製造法。」(1頁左下欄6行?同欄右下欄14行)

イ 「産業上の利用分野」の記載
「本発明は、延性に優れ強度および延性の面内異方性の小さい高強度複相組織クロムステンレス鋼帯の新規な工業的製造法に関し、高強度が必要とされ且つプレス成形などの加工が施される成形用素材としての高強度高延性ステンレス鋼帯の製造法を提供するものである。」(2頁左下欄6行?同欄11行)

ウ 「この分野の背景」の記載
「クロムを主合金成分として含有するクロムステンレス鋼にはマルテンサイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼とがある。いずれも、クロムおよびニッケルを主合金成分として含有するオーステナイト系ステンレス鋼に比べて安価であり、そして強磁性を有し熱膨張係数が小さいなどの物性面でオーステナイト系ステンレス鋼には見られない特徴を有するので、単に経済的な理由のみならず特性面からクロムステンレス鋼に限定される用途も多い。特に近年の電子機器や精密機械部品などの分野では、その需要拡大にともなってクロムステンレス鋼板を使用する用途において加工成品の高機能化、小型化、一体化、高精度化並びに加工工程の簡略化に対する要求が益々厳しくなってきている。このために、ステンレス鋼本来の耐食性や上述のクロムステンレス鋼の特質に加えて、クロムステンレス鋼板の素材面では、一層の強度、加工性や精度が必要とされる。したがって、高強度と高延性という相反する特性を兼備したもの、素材鋼板時点での形状や板厚精度に優れたもの、加工後の形状精度に優れるといった諸特性を合わせもつクロムステンレス鋼板素材の出現が待たれている。」(2頁左下欄13行?同頁右下欄16行)

エ 「従来の技術」の記載
「一方、クロムステンレス鋼であるフェライト系ステンレス鋼板では熱処理による硬化があまり期待できないので、強度を上昇させる方法としては焼なまし後、さらに冷間で調質圧延を行って加工硬化による強度上昇を図ることが行われている。」(3頁左上欄19行?同頁右上欄3行)

オ 「発明の詳述」の記載
「下記の第2表は、第1表の鋼Bの熱延板(熱延焼鈍および酸洗後の熱延板)を用いて、
(a)、0.7mm厚まで中間焼鈍を行なうことなく冷間圧延し(冷間圧延率80.6%)、この冷間圧延板を1000℃に1分間均熱したあと、この温度から100℃までを平均冷却速度20℃/secで仕上熱処理した複相組織材、
(b)、前記の(a)の複相組織材と同等の強度を冷間圧延によって板厚0.7mmの状態で付与した調質圧延材、
の各板の引張強さ(kgf/mm^(2))および伸び(%)を圧延方向の値(L)、圧延方向に対して45°方向の値(D)および圧延方向に対し90°方向の値(T)を示したものである。」(7頁左下欄20行?同頁右下欄13行)

カ 「実施例」の記載
「第3表に示す化学成分を有する鋼を溶製してスラブを製造した。そしていずれも板厚3.6mmに熱間圧延後、780℃×6時間加熱・炉冷の熱延板焼鈍を行い、酸洗のあと、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延して板厚0.7mmの冷延鋼帯とし(冷間圧延率80.6%)、第4表に示した仕上熱処理条件のもとで連続熱処理炉にて連続仕上熱処理(ただし比較例No.4は箱型炉によるバッチ焼鈍処理)を施した。得られた鋼帯材料の特性を第4表に併記した。」(10頁右上欄18行?同頁左下欄8行)

キ 「比較例No.5は、調質圧延材であり、本発明のものに比較して伸びが著しく低い。また引張強さに対する0、2%耐力の比、すなわち降伏比が高いと共に、0.2%耐力、引張強さ、伸びの異方性が大きい。したがって本発明法によって得られた鋼帯に比べて加工性並びに加工後の形状性に劣ることが明らかである。」(12頁右上欄12行?同欄18行)

ク 第3表、第4表は以下のとおりである。



(2)甲1発明
甲1に記載された比較例No.5に基づいて甲1発明を認定する。
ア 上記(1)カの記載と第4表によれば、比較例No.5は、第3表の鋼No.1に示す化学成分を有する鋼を溶製してスラブを製造し、板厚3.6mmに熱間圧延後、780℃×6時間加熱・炉冷の熱延板焼鈍を行い、酸洗のあと、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延して板厚0.7mmの冷延鋼帯(冷間圧延率80.6%)とした鋼帯材料である。

イ してみると、甲1には、以下の発明が記載されている。
「C:0.025%、
Si:0.31%、
Mn:0.16%、
P:0.015%、
S:0.005%、
Ni:0.70%、
Cr:13.21%、
N:0.017%、
Al<0.005%、
O:0.012%、
Cu:0.06%、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を溶製してスラブを製造し、板厚3.6mmに熱間圧延後、780℃×6時間加熱・炉冷の熱延板焼鈍を行い、酸洗のあと、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延して板厚0.7mmの冷延鋼帯(冷間圧延率80.6%)とした鋼帯材料であって、
連続仕上げ熱処理を実施していない調質圧延材であり、
マルテンサイト量が0%であり、
圧延方向に対し90°方向の引張強さの値(T)が104.6kgf/mm^(2)である、
鋼帯材料、及び前記鋼帯材料の製造方法。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2
(1)甲2の記載事項
ア 「産業上の利用分野」の記載
「本発明は、太陽電池基板用母板の製造方法に係り、特に太陽電池の受光面に供されるアモルファス層に対するすぐれた適合性を有する基板用母板の低コストでの製造方法に関し、太陽電池製造分野で利用される。」(1頁右下欄10行?同欄15行)

イ 「従来の技術」の記載
「従来基板材料として使用されて来たガラス系材料は、基板自体が光透過性を持つほか電池表面の保護の役割を同時に果すという利点があるものの、ガラスの宿命とも言える破損し易い欠点は遁れがたい上に、特に無アルカリである石英ガラスは高価であり、太陽電池製造に際してロール・ツウ・ロールの量産性の高い方式を採用できないという問題点がある。
これに対しステンレス鋼は機械的強度が高く、しかも強靭なため、0.8mm程度以下の薄い板を使うことができ、また可撓性を有することからコイル状の材料を用いた量産が可能であり、さらにアモルファス層が薄いため基板材に十分な可撓性があれば太陽電池としても曲面状に配置することが可能であるなど材料としてすぐれた特性を有している。」(1頁左下欄17行?同頁右下欄20行)
「このような研磨方法では大面積の基板材製造が困難であり、まして太陽電池の大量生産方式とて有利と考えられているロール・ツウ・ロールの製造方式で必要となるコイル状基板材の製造はさらに困難となる。」(2頁左上欄18行?同頁右右欄3行)

ウ 「作用」の記載
「また、冷間圧延で付与される素材の強度上昇は板厚0.2mm以下の極薄鋼板の場合とくに有利で面折れのしにくい極薄の太陽電池基板用母板を得ることができる。」(3頁左上欄9行?同欄13行)

エ 作用の記載
「本発明方法で得られる太陽電池基板母板の表面はなだらかな凹凸面からなるため、一般に乳白色を呈しており、粗度に関しても、SUS430の0.2mm冷延鋼板(冷延圧下率50%)で、酸溶解量と最大粗さの関係を第1図に示すごとく、酸洗前の最大粗さ0.4μmに対し、酸溶解とともに最大粗さは増大しており、従来の鏡面研磨型ステンレス基板の特性からは本発明方法によって太陽電池基板を製造できることは全く予想されない。」(3頁右上欄18行?同頁左下欄7行)

オ 「実施例」の記載
「以下本発明の実施例について述べる。
SUS430の厚み0.3mmの焼鈍酸洗板とSUS304の厚み0.2mm光輝焼鈍板に0?30%の冷間圧延を加えたのち、前者は20%硫酸、40℃、後者は5%弗酸+15%硫酸、40℃、の酸に浸漬し、表層5μmまでの溶解を行った。
これらの鋼板を基板とするITO/pin/SS型のa-Si太陽電池を製造し、その開放電圧で基板表面の微細傷に起因する短絡発生の有無を判定した。」(3頁左下欄9行?同欄19行)

(2)甲2発明
上記(1)によれば、甲2には以下の発明が記載されている。
「SUS430の組成を有し、
冷延圧下率50%で0.2mmに冷間圧延された、
太陽電池基板母板及び太陽電池簿板の製造方法。」(以下「甲2発明」という。)

3 甲3
(1)甲3の記載事項
ア 「請求の範囲」の記載
「1.C:0.15質量%以下,Si:1.0質量%以下,Mn:1.0質量%以下,S:0.005質量%以下,Cr:10?20質量%,Ni:0.5質量%以下,A1:0.001?0.05質量%,Fe:実質的に残部の組成で、
サイズ:10μm以下のΑl_(2)Ο_(3)系及び/又はAl_(2)0_(3)・MgO系介在物が清浄度:0.06以下で分散した加工フェライト組織をもつことを特徴とするステンレス鋼板の加工硬化材。
2.更にMo:0.5?2.0質量%,Cu:0.5?3.0質量%,Nb:0.05?1.0質量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載の加工硬化材。
3.0.2%耐力が500?900N/mm^(2)の範囲にある請求項1又は2記載の加工硬化材。」(15頁2行?同頁11行)

イ 「技術分野」の記載
「本発明は、強度,曲げ加工性に優れ、加工硬化でフェライト組織を高強度化したステンレス鋼加工硬化材に関する。」(1頁4行?同頁5行)

ウ 「背景技術」の記載
「ポータブル型のノートパソコンにみられるように、テレビ,パソコンに代表される家電製品やOA機器用では軽量部材が要求されており、部材の薄肉化によって軽量化の要求に応えている。軽量化しても必要強度を確保する上で、圧延方向の0.2%耐力≧約500N/mm^(2)又はビッカース硬度HV≧約200が目安とされている。」(1頁7行?同頁11行)

エ 「発明の開示」の記載
「冷間加工率によって0.2%耐カを500?900N/mm^(2)の範囲に調整している。」(3頁20行?同頁21行)

オ 「発明を実施するための最良の形態」の記載
「ステンレス鋼板の強度は、冷間加工によってフェライト組織を加工硬化することにより付与され、要求レベルの0.2%耐カを達成するための特別な成分設計を必要としない。」(4頁14行?同頁16行)
「加工率に応じ0.2%耐カを500?900N/mm^(2)の範囲,ビツカース硬さをHV:200?300の範囲で自在に調整できるため、成分設計を変更する必要なく要求レベルに応じて高強度化された素材が提供される。」(6頁16行?同頁19行)

カ 「実施例1」の記載
「ステンレス溶鋼をSi脱酸し、表1の組成をもつステンレス鋼を用意した。表中、サンプルS-1は、熱延後の焼鈍でフェライト単層組織に再結晶させた後、圧延率25%で冷間圧延した板厚1.8mmのステンレス鋼板であり、加工フェラィト組織をもつ。」(6頁25行?同頁28行)


「金属組織が異なる各サンプルから圧延方向(L方向),圧延方向に直交する方向(C方向)の二方向に沿ってJIS13B号試験片を切り出し、引張試験で0.2% 耐カ,伸びを測定した。各サンプルの0.2%耐カ,伸びを表2に対比する。」(7頁7行から同頁9行)



(2)甲3に開示された技術事項
甲3には、フェライト単層組織のステンレス鋼において冷間圧延により高強度化すること、得られる強度として900MPaを超える引っ張り強度が技術事項として開示されている。

4 甲8
(1)甲8の記載事項


(2)甲8に開示された技術事項
SUS405の化学成分は、C:0.12%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00?18.00%であることが、開示されている。
備考1には、「SUS447J1及びSUSXM27以外は、Ni0.60%以下を含有しても良い。」と記載されているから、SUS430はNiを0.60%以下を含有しても良いことが開示されている。
SUS430LXは、Ti又はNbを0.10?1.00%含有することが記載されている。

5 甲9
(1)甲9の記載事項


「3.3.3 耐食性
中Crフェライト系ステンレス鋼は、一般耐久消費財として広く使用されており、耐食性の点では、特に中性塩化物環境での孔食、発銹、応力腐食割れなどに対する耐局部腐食性が重要である。これら中Crフェライト系ステンレス鋼の耐食性の面から見た改良の経緯をみると、17Cr鋼であるSUS430をベースとして低C、低N化およびNbやTiを添加して耐粒界腐食性を改善し、Mo、Cu、Niなどの添加およびCr量増大による耐孔食性などの改善が図られ、用途に適した細かい改良が行われている。」

(2)甲9に開示された技術事項
SUS430の平均線膨張係数(10^(-6)℃)は10.4(0?100℃)であることが開示されている。
また、NbやTiを添加し、耐粒界腐食性を改善すること、Mo、Cu、Niなどの添加により耐孔食性を改善することが開示されている。

6 甲10
(1)甲10の記載事項
ア 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】 重量%でCr:10?40%,Al:1?10%を含有し、板厚が150μm以下、0.2%耐力が120kgf/mm^(2)以上200kgf/mm^(2)以下、ばね限界値が55kgf/mm^(2)以上150kgf/mm^(2)以下であることを特徴とする波付け加工用高強度ステンレス鋼箔。
【請求項2】 重量%でCr:10?40%,Al:1?10%を含有するステンレス鋼の波付け加工用箔の製造において、板厚0.1mm以上0.5mm以下の箔圧延用素材板を焼鈍し、続いて冷間圧延工程において第一パスから最終パスまでの全圧下率を75%以上とする冷間圧延をし、続いて80℃以上500℃以下の熱処理を行うことを特徴とする波付け加工用高強度ステンレス鋼箔の製造方法。」

イ 「作用」の記載
「本発明のステンレス鋼箔およびその製造方法は、冷間圧延の全圧下率をアップして加工硬化したステンレス鋼箔に、次いで熱処理(時効熱処理)を行って強度を0.2耐力で120kgf/mm^(2)以上200kgf/mm^(2)以下、ばね限界値が55kgf/mm^(2)以上150kgf/mm^(2)以下にまで向上させ、強度不足に起因する加工時の延性破断を防止することにより箔の波付け加工性を格段に向上させることを特徴としている。」(【0007】)
「Alは本発明においては耐酸化性を確保する基本元素である。1%未満では耐酸化性が低下する。従って、Alの含有量は1%以上、10%以下とする。その他耐酸化性、靭性および強度などを向上させる成分元素を加えることができる。以下にその成分組成の作用と望ましい量を述べる。希土類元素のY,Ln(Lanthanoid:但し、LnはLa,Ce,Pr,Ndの混合物),La,Ceはステンレス鋼と酸化皮膜との密着を強固にし耐酸化性を向上させるのみならず、箔としての寿命を著しく向上させる。Y,Ln,La,Ceの1種または2種以上が総量で0.01%未満の場合は効果が十分確保されなく、一方、1%を超えて含有する場合にはこれらの性質が飽和する上、非常に高価な元素であるため原料コストが著しく高いものになってしまう。従って、添加範囲は、Y,Ln,La,Ceの1種または2種以上を総量で0.01%以上、1%以下が望ましい。」(【0010】)
「このような高強度ステンレス鋼箔の製造方法としては、冷間圧延によって加工硬化させる方法があり、冷間圧延を繰り返し、90%を超える圧下率をとれば、0.2%耐力で120kgf/mm^(2)以上に強度を高めることができる。しかしながら、表2の比較例No20,24,25に示すように0.2%耐力の向上だけでは波付け加工性には十分ではなく、ばね限界値の向上を図る必要があったが、限界値は冷間圧延だけではあまり向上しない。このため本発明では冷間圧延による加工硬化に加え、熱処理による時効硬化を施し、ばね限界値を高め、かつ高強度化により、満足すべき材料がえられた。その詳細を述べると、本発明の材料に付与する冷間圧延率は、冷間圧延によって箔を加工硬化させるのみならず、時効硬化を起こす転位密度にも影響し、圧下率が高い程転位密度が高くなり時効熱処理の効果が顕著となるため、十分高くとる必要があり、一方、時効硬化は冷間圧延によって生じた転位へ鋼中のN,Cが拡散、固着して起こるため、時効硬化のための加熱処理は十分高い温度で行う必要がある。表2に示す種々の圧下率、加熱処理温度において実験を行った結果、本発明において、全圧下率としては75%以上、加熱処理温度としては80℃以上が必要である。同時に、あまり高温での熱処理を行うと転位の回復がおこり、逆に素材が軟化するため、加熱処理温度は500℃以下とする。加熱時間は高温加熱ほど短時間でよく例えば300℃では30秒以上でよい。加熱雰囲気は大気中でも良いが、真空中や不活性ガス等の無酸化雰囲気中で加熱することが望ましい。」(【0013】)

ウ 「実施例」の記載
「表1に実施例に用いた合金の化学成分を示し、表2に本発明例および比較例を示す。冷間圧延の供試材はいづれも、熱間圧延、熱処理および酸洗を行った材料である。」(【0014】)


(2)甲10に開示された技術事項
甲10には、高強度ステンレス鋼箔において、冷間圧延に加え、500℃以下の熱処理を行って強度を向上させること、及びかかる熱処理の雰囲気として不活性ガス雰囲気中が望ましい旨が開示されている。

7 甲11
(1)甲11の記載事項
ア 「発明が解決しようとする課題」の記載
「本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、陽極酸化膜を有する絶縁層付金属基板を備えた太陽電池において、その製造工程において良好な光電変換効率を有する化合物半導体層の製造温度である500℃以上の高温を経験しても、良好な絶縁特性と強度を維持することが可能な基板を備えた太陽電池およびその製造方法を提供することを目的とし、特に、電力系統連携が可能な大面積のモジュール構造太陽電池をロールツーロールで製造することができる基板を備えた太陽電池を提供するものである。」(【0014】)

イ 「発明を実施するための形態」の記載
「本実施形態の太陽電池1は、図1に示す絶縁層付金属基板10の表面の陽極酸化膜12上に、下部電極20と化合物半導体からなる光電変換層30とバッファ層40と上部電極(透明電極)50とが順次積層されてなるものである。」(【0065】)
「光電変換層30は、CuInSe_(2)(CIS)、および/またはこれにGaを固溶したCu(In,Ga)Se_(2)(CIGS)を含むことが特に好ましい。」(【0070】)
「CIGS層の成膜方法としては、1)多源同時蒸着法(J.R.Tuttle et.al ,Mat.Res.Soc.Symp.Proc., Vol.426 (1996)p.143.およびH.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、2)セレン化法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.およびT.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890.等)、3)スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic Specialists Conf.(1985)1655-1658.およびT.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)、4)ハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)、および5)メカノケミカルプロセス法(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)等が知られている。」(【0072】)
「例えば、下部電極20の材料としてMoを用いることができる。下部電極20の厚みは100nm以上であることが好ましく、0.45?1.0μmであることがより好ましい。下部電極20の成膜方法は特に制限されず、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等の気相成膜法が挙げられる。上部電極50の主成分としては、ZnO,ITO(インジウム錫酸化物),SnO2,およびこれらの組合せが好ましい。」(【0077】)

(2)甲11に開示された技術事項
甲11には、太陽電池の製造方法として、ロールツーロールのプロセスであって、下部電極20をスパッタリングする工程と、化合物半導体からなる光電変換層30を形成する工程と、バッファ層40を形成する工程と、上部電極(透明電極)50を形成する工程が記載されていると言える。さらに、光電変換層30(CIGS層)の成膜方法としては、セレン化法が周知である点も記載されている。

8 甲12
(1)甲12の記載事項
ア 「発明の実施の形態」の記載
「基体11は、導電性を有する材料からなる。具体的には、基体11は、金属を用いて形成でき、たとえば、ステンレス、またはデュラルミンなどのアルミニウム合金を用いて形成できる。基体11は可撓性を有することが好ましい。可撓性を有する基体11を用いた場合、基体11をロール状にして連続的に太陽電池を形成できるため、生産が容易になる。」(【0033】)

イ 「実施例」の記載
「【0054】まず、基体11として、可撓性を有するステンレスシート(厚さ:100μm)を準備した。次に、ステンレスシートの両面に、ディップ・コート法(浸漬法)によって、SiO_(2)層(第1および第2の絶縁層12aおよび12b)を形成した。次に、RFスパッタリングによって、片面のSiO_(2)層上にMo層(導電層13)を形成した。SiO_(2)層の厚さは0.5μmとし、Mo層の厚さは0.4μmとした。
【0055】次に、以下に示す方法によって、Cu(In,Ga)Se_(2)層(光吸収層14)を形成した。
【0056】まず、In、Ga、およびSeを電離真空計で圧力を制御しながらMo層上に堆積させた。このとき、基板温度を350℃とした。堆積時において、Seの圧力を2.66×10^(-3)Pa(2×10^(-5)Torr)とし、Inの圧力を1.064×10^(-4)Pa(8×10^(-7)Torr)とし、Gaの圧力を3.99×10^(-5)Pa(3×10^(-7)Torr)とした。その後、基板温度を600℃に上げ、Seの圧力が2.66×10^(-3)Pa(2×10^(-5)Torr)、Cuの圧力が3.99×10^(-5)Pa(3×10^(-7)Torr)となる条件で、SeおよびCuを堆積させた。その後、基板温度を600℃に保ったままIn、Ga、およびSeを堆積させた。このようにして、Cu(In,Ga)Se_(2)層を形成した。
【0057】次に、化学浴析出法によって、Cu(In,Ga)Se_(2)層上にCdS層(第1の半導体層15)を形成し、これによってpn接合を形成した。次に、ZnO層(第2の半導体層16)と、ITO層(透明導電層17)とをスパッタリング法で順次形成した。最後に、Auからなる取り出し電極を形成した。このようにして、実施形態1の太陽電池を作製した。」

(2)甲12に開示された技術事項
甲12には、太陽電池の製造方法として、基体11をロール状にして連続的に太陽電池を形成するプロセスであって、RFスパッタリングによってMo層(導電層13)を形成する工程と、Cu(In,Ga)Se_(2)層(光吸収層14)を形成する工程と、CdS層(第1の半導体層15)を形成する工程と、ITO層(透明導電層17)をスパッタリング法で形成する工程と、Auからなる取り出し電極を形成する工程を含む製造方法が記載されていると言える。

第7 対比・判断
1 本件発明1について
(1)甲1発明を主引用発明とする新規性進歩性について
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)本件発明1の「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有」することと、甲1発明の「C:0.025%、Si:0.31%、Mn:0.16%、P:0.015%、S:0.005%、Ni:0.70%、Cr:13.21%、N:0.017%、Al<0.005%、O:0.012%、Cu:0.06%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる」ことを対比すると、両者は、「質量%で、C:0.025%、Si:0.31%、Mn:0.16%、S:0.005%、P:0.015%、Cr:13.21%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有」する点で一致する。
(イ)本件発明1の「圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であ」ることと、甲1発明の「圧延方向に対し90°方向の引張強さの値(T)が104.6kgf/mm^(2)である」ことを対比する。
1kgf/mm^(2)が9.81MPaであることは技術常識であるから、104.6kgf/mm^(2)は、1026MPaである。してみると、両者は、「圧延方向に直角方向の引張強度が1026MPaであ」る点で一致する。
(ウ)本件発明1の「太陽電池基板用鋼箔」と、甲1発明の「板厚0.7mmの…鋼帯材料」を対比すると、両者は「鋼箔」の点で一致する。
(エ)以上によれば、両者は、
「質量%で、C:0.025%、Si:0.31%、Mn:0.16%、S:0.005%、P:0.015%、Cr:13.21%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1026MPaである鋼箔。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1:0?100℃における線膨張率が、本件発明1では「12.0×10^(-6)/℃以下」であるのに対し、甲1発明ではそのようなものなのか否か明らかでない点。
相違点1-2:鋼箔が、本件発明1では「太陽電池基板用鋼箔」であるのに対し、甲1発明ではそのようなものなのか否か明らかでない点。
相違点1-5:鋼箔の厚さが、本件発明1では「20?200μm」であるのに対し、甲1発明では、0.7mmである点。

イ 上記相違点について検討する
(ア)相違点1-1について
本件特許明細書には、線膨張率に関し、以下の記載がある。
「【0031】
さらに、SUS304などの0?100℃における線膨脹率が12.0×10^(-6)/℃を超える鋼箔を基板に使用すると、Cu(In_(1-X)Ga_(X))Se_(2)薄膜(以後、CIGS薄膜と呼ぶ)が基板との線膨脹率の違いで、製造中に剥離する問題が発生する。したがって、0?100℃における線膨脹率は12.0×10^(-6)/℃以下とすることが望ましい。0?100℃における線膨脹率を12.0×10^(-6)/℃以下とするためには、SUS430やSUH409Lなどのフェライト系ステンレス鋼、フェライト組織を有する9%Cr鋼などのフェライト組織を主体とする組織にすることが好ましい。フェライト組織を主体とする組織とは、フェライトの面積率が95%以上であることを意味する。残部の組織は、オーステナイト組織、マルテンサイト組織の1種以上が、5%未満である。」
「【0033】
また、0?100℃における線膨脹率が12.0×10^(-6)/℃以下である鋼箔にするには、SUS430やSUH409Lなどのフェライト系ステンレス鋼、フェライト組織を有する9%Cr鋼などのフェライト組織を有する光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を用いればよい。」
上記記載によれば、「SUS430やSUH409Lなどのフェライト系ステンレス鋼、フェライト組織を有する9%Cr鋼などのフェライト組織を有する光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板」を用いることにより、鋼箔の0?100℃における線膨脹率は12.0×10^(-6)/℃以下である旨、理解できる。
一方、甲1発明は、Crを13.21%含み、マルテンサイト量が0%であるフェライト系ステンレス鋼であって、熱延板焼鈍、酸洗した冷延鋼帯である。そうすると、甲1には、0?100℃における線膨脹率が明記されていないものの、実質的に12.0×10^(-6)/℃以下であるものと認められる。してみると、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
(イ)相違点1-2について
甲2には、上記「第6 2(1)イ」に記載されるように、太陽電池の基板材料としてステンレス鋼を用いることが記載されており、ステンレス鋼を太陽電池の基板材料として用いることは周知の技術事項である。そうすると、甲1発明の鋼帯材料を太陽電池の基板材料として用い、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(ウ)相違点1-5について
甲1発明は、鋼帯材料の厚さが「0.7mm」で「圧延方向に対し90°方向の引張強さの値(T)が104.6kgf/mm^(2)である」ところ、甲1には厚さを「20?200μm」に薄くする旨の記載や示唆はない。また、一般に、鋼帯の厚さを薄くすれば、圧延方向に対し90°方向の引張強さの値も小さくなるところ、甲1発明の鋼帯材料の厚さを「0.7mm」から「20?200μm」に薄くれば、圧延方向に対し90°方向の引張強さの値が104.6kgf/mm^(2)から小さくなるから、1000MPa(101.9kgf/mm^(2))以上であるとは認められない。
そうすると、甲1発明において、鋼帯材料の厚さを「20?200μm」にすることは、当業者が容易に想到しうるものとはいえない。
(エ)小括
上記のとおり、本件発明1は、当業者が、甲1発明と周知の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2発明を主引用発明とする新規性進歩性について
ア 本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)本件発明1の「質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有」することと、甲2発明の「SUS430の組成を有」することを対比する。
SUS430の化学成分は、甲8(上記「第6 4(2)」参照。)によれば、C:0.12%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00?18.00%である。してみると、両者は、「質量%で、C:0.12%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.040%以下、Crを16?18%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有」する点で一致する。
(イ)本件発明1の「厚さが20?200μm」であることと、甲1発明の「0.2mm」に冷間圧延されることを対比すると、両者は「厚さが200μm」である点で一致する。
(ウ)本件発明1の「太陽電池基板用鋼箔」と、甲2発明の「太陽電池基板母板」を対比する。
本件特許明細書には、「【0005】本発明は、Roll-to-Roll方式の連続プロセスに適用しても、座屈の起こりにくい太陽電池基板用鋼箔…を提供することを目的とする。」との記載があり、本件発明1の「太陽電池基板用鋼箔」は、Roll-to-Roll方式に適用できる「太陽電池基板用鋼箔」である。
一方、甲2発明は、上記「第6 2(1)イ」に記載されるように、「ロール・ツウ・ロールの製造方式」の適用を想定した「太陽電池基板母板」である。
してみると、両者は相当関係にある。
(エ)以上によれば、両者は、
「質量%で、C:0.12%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.040%以下、Crを16?18%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さが200μmである、
太陽電池基板用鋼箔。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点1-3:本件発明1は、「圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であ」るのに対し、甲2発明はそのようなものなのか否か明らかでない点。
相違点1-4:本件発明1は、「0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下である」のに対し、甲2発明は、そのようなものなのか否か明らかでない点。

イ 上記相違点について検討する。
(ア)相違点1-3について
フェライト組織を冷間圧延により高強度化することは甲3(上記「第6 3(2)」参照。)に開示されている。
また、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0032】
2)太陽電池基板用鋼箔の製造方法
本発明である太陽電池基板用鋼箔は、Crを7?40質量%含み、厚さ1mm以下の光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を、圧下率50%以上で冷間圧延することによって製造できる。これは、図1に示すように、SUS430などでは圧下率を50%以上にすれば930MPa以上の引張強度が得られるためである。圧下率を70%以上にすれば1000MPa以上の引張強度が得られる。」
甲3の記載と上記記載によれば、ステンレス鋼SUS430は、圧下率を50%以上にすれば930MPa以上の引張強度が得られ、圧下率を70%以上にすれば1000MPa以上の引張強度が得られることが理解できる。甲2発明は、「SUS430の組成を有し、冷延圧下率50%で0.2mmに冷間圧延」したものであるから、930MPa以上の引張強度を有するものと認められる。しかしながら、甲2には、「このステンレス鋼板は20%以上の冷間圧延により製造された冷延鋼板であることが必要である」、「0?30%の冷間圧延」を加える旨の記載はあるものの、圧下率を70%以上にする旨の記載はない。そして、甲2は、ステンレス表面の微細欠陥を酸溶解で取り除く技術を開示する刊行物であるところ、圧下率を70%にする動機付けは認められない。してみると、甲2において、圧下率を70%以上とし、圧延方向に直角方向の引張強度を1000MPa以上として、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点1-4について
上記(1)イ(ア)で検討したとおり、本件特許明細書の記載によれば、「SUS430やSUH409Lなどのフェライト系ステンレス鋼、フェライト組織を有する9%Cr鋼などのフェライト組織を有する光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板」を用いることで、鋼箔の0?100℃における線膨脹率は12.0×10^(-6)/℃以下である旨、理解できる。甲2発明は、SUS430の組成を有し、焼鈍酸洗板を用いること(「第6 2(1)オ」参照)が開示されているから、0?100℃における線膨脹率は12.0×10^(-6)/℃以下であると認められる。してみると、相違点1-4は実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上によれば、本件発明1は、甲2発明と実質的に同一ではなく、また甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

2 本件発明2について
(1)甲1発明を主引用発明とする新規性進歩性について
ア 本件発明2と甲1発明を対比する。
(ア)上記1(1)ア(ア)?(ウ)の対比は、本件発明2と甲1発明の対比に当て嵌まる。
(イ)本件発明2の「ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織である」ことと、甲1発明の「マルテンサイト量が0%であ」ることを対比する。
上記「第6 1(1)ウ」に記載されるように、「クロムを主合金成分として含有するクロムステンレス鋼にはマルテンサイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼とがある」ところ、甲1発明は、「マルテンサイト量が0%であ」る。してみると、甲1発明は、ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であるといえるから、両者は相当関係にある。
(ウ)してみると、両者は、
「質量%で、C:0.025%、Si:0.31%、Mn:0.16%、S:0.005%、P:0.015%、Cr:13.21%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1026MPaである鋼箔。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-1:鋼箔が、本件発明2では「太陽電池基板用鋼箔」であるのに対し、甲1発明ではそのようなものなのか否か明らかでない点。
相違点2-4:鋼箔の厚さが、本件発明2では「20?200μm」であるのに対し、甲1発明では、0.7mmである点。

イ 上記相違点について検討する。
(ア)相違点2-1について
上記「1(1)イ(イ)」と同様の理由により、甲1発明において、上記相違点2-1に係る本件発明2の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(イ)相違点2-4について
上記「1(1)イ(ウ)」と同様の理由により、甲2発明において、鋼帯材料の厚さを「20?200μm」にすることは、当業者が容易に想到しうるものとはいえない。
(ウ)小括
上記のとおり、本件発明2は、当業者が、甲1発明と周知の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2発明を主引用発明とする新規性進歩性について
ア 本件発明2と甲2発明を対比する。
(ア)上記1(2)ア(ア)、(イ)の対比は、本件発明2と甲2発明の対比に当て嵌まる。
(イ)してみると、両者は、
「質量%で、C:0.12%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.040%以下、Crを16?18%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さが200μmである、
太陽電池基板用鋼箔。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点2-2:本件発明2は、「圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であ」るのに対し、甲2発明はそのようなものなのか否か明らかでない点。
相違点2-3:本件発明2は、「ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織である」のに対し、甲2発明はそのようなものなのか否か明らかでない点。

イ 上記相違点について検討する。
(ア)相違点2-2について
上記「1(2)イ(ア)」と同様の理由により、甲2発明において、鋼帯材料の「圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上」にすることは、当業者が容易に想到しうるものとはいえない。

(イ)相違点2-3について
甲2発明の「SUS430」は、フェライト系ステンレス鋼であり、「ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織である」といえる。してみると、相違点2-3は、実質的な相違点ではない。

(ウ)小括
以上によれば、本件発明2は、甲2発明と実質的に同一ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

3 本件発明3-5、7、8、10-15について
本件発明3-5、7、8、10-15は、何れも本件発明1又は2を直接に、あるいは間接に引用し、本件発明1又は2を減縮する発明である。そうすると、本件発明1又は2同様の理由により、本件発明3-5、7、8、10-15は、甲1発明あるいは甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

第8 むすび
以上のとおり、請求項1-5、7、8、10-15に係る特許は、平成29年10月2日付けの取消理由取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立て理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1-5、7、8、10-15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項6、9が削除されたため、請求項6、9に係る特許に対して、特許異議申立人岡林茂がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項に係る特許が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、
0?100℃における線膨張率が12.0×10^(-6)/℃以下であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。
【請求項2】
質量%で、C:0.12%以下、Si:2.5%以下、Mn:1.0%以下、S:0.030%以下、P:0.050%以下、Crを7?40%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に直角方向の引張強度が1000MPa以上であり、ミクロ組織がフェライト組織を主体とする組織であり、厚さが20?200μmであることを特徴とする太陽電池基板用鋼箔。
【請求項3】
質量%で、さらに、Nb、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも一種を合計で1.0%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項4】
質量%で、さらに、Al:0.20%以下、N:0.05%以下、Mo:0.02?4.0%のうちから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項5】
質量%で、さらに、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、V:1.0%以下、W:1.0%以下、Ca:0.1%以下、Mg:0.1%以下、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
ミクロ組織が圧延組織のままであることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔。
【請求項8】
請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法であり、厚さ1mm以下の光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を、圧下率70%以上で冷間圧延することを特徴とする太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
フェライト組織を有する光輝焼鈍後または焼鈍し、酸洗後の鋼板を用いることを特徴とする請求項8に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項11】
冷間圧延後、不活性ガス雰囲気中で400?700℃の熱処理を施すことを特徴とする請求項8または10に記載の太陽電池基板用鋼箔の製造方法。
【請求項12】
請求項1?5、7のいずれか一項に記載の太陽電池基板用鋼箔を用いたことを特徴とする太陽電池基板。
【請求項13】
請求項12に記載の太陽電池基板を用いたことを特徴とする太陽電池。
【請求項14】
請求項12に記載の太陽電池基板を用いてRoll-to-Roll方式の連続プロセスにより製造することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項15】
Roll-to-Roll方式の連続プロセスが、クリーニング-バック電極スパッタリング-太陽電池処理-セレン化処理-バッファー層形成-トップ電極スパッタリング-電極形成-スリットの工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の太陽電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-09 
出願番号 特願2011-263517(P2011-263517)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 851- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐竹 政彦清水 靖記河村 麻梨子井上 徹  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
小松 徹三
登録日 2016-07-22 
登録番号 特許第5970796号(P5970796)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 太陽電池基板用鋼箔およびその製造方法、並びに太陽電池基板、太陽電池およびその製造方法  
代理人 井上 茂  
代理人 森 和弘  
復代理人 坂井 哲也  
復代理人 坂井 哲也  
代理人 井上 茂  
代理人 森 和弘  

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