• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:12  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
管理番号 1339157
異議申立番号 異議2016-700796  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-31 
確定日 2018-02-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5872063号発明「銅粉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5872063号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4、6〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第5872063号の請求項2?6に係る特許を維持する。 特許第5872063号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5872063号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2013年 6月20日(優先権主張 平成24年11月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年 1月22日に特許の設定の登録がされ、同年 3月 1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年 8月31日付けで特許異議申立人 村野 親(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたので、これを検討した結果として同年12月16日付けで当審から取消理由を通知したところ、特許権者より平成29年 2月20日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、これに対して申立人より同年 4月10日付けで意見書が提出され、当審から同年 7月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して特許権者より同年 9月 1日付けで上申書が提出され、同年10月23日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、これに対して申立人より同年11月29日付けで意見書が提出さたものである。

第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成29年10月23日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、平成29年 2月20日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である請求項1に記載の銅粉。」と記載されているのを、独立形式に改め、「一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、結晶子径が39nm以下であり、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。」に訂正する。
また、請求項2を引用する請求項3、4、6も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「ナトリウム、硫黄及び塩素の含有量の総和が、0.10質量%以下である請求項1又は2に記載の銅粉。」と記載されているのを、「ナトリウム、硫黄及び塩素の含有量の総和が、0.10質量%以下である請求項2に記載の銅粉。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「焼結開始温度が170℃以上240℃以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の銅粉。」と記載されているのを、「焼結開始温度が170℃以上240℃以下である請求項2又は3のいずれか一項に記載の銅粉。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、焼結開始温度が170℃以上240℃以下である銅粉。」と記載されているのを、「一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、焼結開始温度が170℃以上240℃以下であり、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。」に訂正する。
また、請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1ないし5のいずれか一項に記載の銅粉と有機溶媒とを含む導電性組成物。」と記載されているのを、「請求項2ないし5のいずれか一項に記載の銅粉と有機溶媒とを含む導電性組成物。」に訂正する。

(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の【0024】に「D/D_(BET)の値の評価は、基本的に、銅粉の粒子表面に細孔が少なく均質であることに加え、連続分布(1山分布)を有することを前提条件とする。この前提条件下、D/D_(BET)の値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できる。一方、D/D_(BET)の値が1よりも大きいほど、銅粉の粒径分布が広く、粒径が不揃いであるか、又は凝集が多いと推測できる。D/D_(BET)の値が1よりも小さいことは稀であり、これは、銅粉が前記の前提条件から外れた状態にある場合に観察されることが多い。前記の前提条件から外れた状態とは、例えば粒子表面に細孔がある状態や、粒子表面が不均一である状態、凝集が局所的に存在する状態等が挙げられる。」と記載されているのを、「D/D_(BET)の値の評価は、基本的に、銅粉の粒子表面に細孔が少なく均質であることに加え、連続分布(1山分布)を有することを前提条件とする。この前提条件下、D/D_(BET)の値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できる。一方、D/D_(BET)の値が1よりも大きいほど、銅粉の粒径分布が広く、粒径が不揃いであるか、又は凝集が多いと推測できる。D/D_(BET)の値が1よりも小さいことは稀であり、これは、銅粉が前記の前提条件から外れた状態にある場合に観察されることが多い。前記の前提条件から外れた状態とは、例えば凝集が局所的に存在する状態等が挙げられる。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項2において、請求項1を引用する記載を、引用関係を解消して独立形式の記載に改めるとともに、銅粉の結晶子径について「60nm以下」とされていたものを、「39nm以下」に限定するものであるから、他の請求項を引用する記載を、当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、銅粉の結晶子径を「39nm以下」とすることは、願書に添付した明細書【0027】、【0072】【表1】「実施例1?6、8、9、11」に記載されているから、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
請求項2を引用する請求項3、4、6における訂正事項2による訂正も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、請求項3において引用請求項を「1又は2」から「2」に訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、請求項4において引用請求項を「1ないし3」から「2又は3」に訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、請求項5において、「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である」との記載により、銅粉の含有成分を更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、銅粉において「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である」ことは、願書に添付した明細書【0017】、【0072】【表1】「実施例1?13」に記載されているから、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、請求項6において引用請求項を「1ないし5」から「2ないし5」に訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(7)訂正事項7について
願書に添付した明細書には、「D/D_(BET)の値の評価は、基本的に、銅粉の粒子表面に細孔が少なく均質であることに加え、連続分布(1山分布)を有することを前提条件とする。・・・D/D_(BET)の値が1よりも小さいことは稀であり、これは、銅粉が前記の前提条件から外れた状態にある場合に観察されることが多い。前記の前提条件から外れた状態とは、例えば粒子表面に細孔がある状態や、粒子表面が不均一である状態、凝集が局所的に存在する状態等が挙げられる。」(【0024】)(当審注:「・・・」は省略を表す。)と記載されているが、粒子表面に細孔がある状態や、粒子表面が不均一である状態では、BET比表面積は大きくなり、D_(BET)は小さくなるから、D/D_(BET)の値が1よりも小さくなるとはいえず、上記記載が技術常識と合致しないことは明らかである。
よって、訂正事項7による訂正は、技術的に明らかな誤りを削除するものであって、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(8)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4及び6はいずれも請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1?4及び6に対応する訂正後の請求項1?4及び6は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項6は請求項5を引用しているから、本件訂正前の請求項5、6に対応する訂正後の請求項5、6は一群の請求項である。
なお、本件特許異議申立ては、本件訂正前の請求項1?6の全ての請求項に対して申し立てられているので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4、6〕、〔5?6〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、特許第5899259号の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、平成29年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
結晶子径が39nm以下であり、
炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。
【請求項3】
ナトリウム、硫黄及び塩素の含有量の総和が、0.10質量%以下である請求項2に記載の銅粉。
【請求項4】
焼結開始温度が170℃以上240℃以下である請求項2又は3のいずれか一項に記載の銅粉。
【請求項5】
一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
焼結開始温度が170℃以上240℃以下であり、
炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか一項に記載の銅粉と有機溶媒とを含む導電性組成物。」

第4 申立理由の概要
申立人は、以下の申立理由1?6によって、訂正前の請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1
「D/D_(BET)」の値は一次粒子径/一次粒子径を意味するから、凝集の程度の尺度とはならず、本件特許発明の課題解決において何ら技術的意味がないことと、本件特許明細書において、「D/D_(BET)」に関する説明に矛盾があるためにその説明自体も意味不明であることから、当業者は本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、「D/D_(BET)」の値と本件特許発明の課題との実施関係が理解することができず、本件特許発明の課題の解決手段を理解することができないので、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 申立理由2
本件特許発明の面会合を明確にするためには、本件特許明細書に、実施例1の銅粉の160℃1時間加熱と170℃1時間加熱の状態の写真を示す必要があるが、その写真の記載及びそれに変わる定義が記載されておらず、このような写真がなければ、250℃や350℃といった温度で2時間加熱したときに【図1】(b)のようになる銅粉について、その銅粉の焼結開始温度が170?240℃の範囲にあるのかを判断することができない。
よって、本件特許明細書の記載及び技術常識からでは、当業者は焼結開始温度を理解することができないので、訂正前の請求項4?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 申立理由3
本件特許発明の実施例には、「一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下」(以下、「文節1A」という。)を満たすが、「一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下」(以下、「文節1B」という。)及び「結晶子径が60nm以下」(以下、「文節1D」という。)の少なくとも一方を満たさない銅粉の例が記載されておらず、言い換えれば、本件特許発明の実施例には、文節1Aを満たす銅粉は、必ず、文節1B及び文節1Dのいずれも満たすことが記載されているといえる。
すると、本件特許発明1は、文節1Aの数値限定のみを行えば、その結果、必ず文節1B及び文節1Dのいずれの結果にも含まれていることとなるが、3つの数値に対して直列的限定を行って請求項が形成されている時に、一の数値の限定の結果が他の2つの数値の限定の結果に含まれてしまうような場合には、他の2つの数値の限定には技術的意義がないこととなり、数値限定として請求項に記載すること自体が不明確な記載となっている。
また同時に、3つの数値に対して直列的限定を行って請求項が形成されている時に、一の数値の限定の結果が他の2つの数値の限定の結果に全て含まれるような場合には、請求項の記載としては一の数値の限定のみで足りるものの、意味のない他の2つの数値の限定を加えることによって、請求項の記載が簡潔でなくなっている。
以上から、請求項の記載が不明確であり、簡潔でないので、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び第3号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証、甲第8号証?甲第10号証に基づいて容易に想到できる発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5 申立理由5
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第6号証、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第7号証?甲第10号証に基づいて容易に想到できる発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

6 申立理由6
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第3号証、甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証?甲第10号証に基づいて容易に想到できる発明であるから、訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2011-202208号公報
甲第2号証:特開2009-79269号公報
甲第3号証:特開2012-92432号公報
甲第4号証:特開平5-179317号公報
甲第5号証:特開2010-144197号公報
甲第6号証:特開2012-162807号公報
甲第7号証:特開2005-154861号公報
甲第8号証:特開2005-298903号公報
甲第9号証:特開2008-31491号公報
甲第10号証:特開2006-176836号公報
甲第11号証:「硫酸銅水溶液の水素加圧還元による銅微粉末製造法の研究」 資源・素材学会誌105 (1989) No.2 p169-173

第5 取消理由の概要
1 平成28年12月16日付け取消理由の概要
当審から通知した平成28年12月16日付け取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1、2
訂正前の請求項1?6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
具体的理由については、特許異議申立書の第34頁下から7行?第81頁第6行、第116頁第11行?第129頁第1行、第129頁第2行?第138頁末行に記載のとおりである。

(2)取消理由3、4
訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
具体的理由については、特許異議申立書の第34頁下から7行?第35頁第20行、第81頁第7行?第84頁第12行に記載のとおりである。

2 平成29年 7月14日付け取消理由の概要
当審から通知した平成29年 7月14日付け取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由3、4について
本件特許明細書の記載からは、「D/D_(BET)」の値の技術的意義が明らかではなく、また、「D/D_(BET)」の値の範囲を特定することが、本件発明の「保護層がなくても銅粒子が凝集しにくく、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、かつ基材との密着性が高い導体膜を容易に形成し得る銅粉の提供」との課題の解決にどのように関係しているのかも明らかではない。
よって、本件訂正前の請求項1及びそれを引用する請求項2ないし6に記載される発明によって、どのように課題が解決されるのか明らかでないから、本件特許明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の委任省令要件を満たしておらず、また、平成29年 2月20日付け訂正請求書により訂正された請求項1ないし6の記載は同条第6項第1号の規定を満たしているとはいえない。

(2)取消理由1、2について
(2-1)甲第6号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の請求項1?6に記載される発明は、甲第6号証に記載される発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第7?甲第9号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)甲第3号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の請求項1、2、4?6に記載される発明は、甲第3号証に記載された発明であり、同請求項3?6に記載される発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線部は当審にて付与した。以下同様である。)。
(a)「【0007】
特許文献1ないし3に記載の方法によれば、一次粒子の粒径がサブミクロンオーダーのものが得られやすい。一方、特許文献4ないし6に記載の方法によれば、ナノ粒子と呼ばれる範囲の粒径を有する銅粒子が得られやすい。ところで、サブミクロンオーダーの粒径を有する銅粒子を用いて導体膜を形成すると、粒子が大きいことに起因して粒子間に空隙が生じやすく、該空隙が導体膜の電気抵抗を上昇させる一因となる。一方、銅のナノ粒子を用いて導体膜を形成しようとすると、膜形成時の焼成工程において加わる熱によって粒子が甚だしく収縮してしまい、膜の形成が困難である。更にナノ粒子は、表面エネルギーが大きく凝集を起こしやすいことから、通常は粒子表面に保護剤の層を設けて凝集を抑制しているところ、該保護剤の存在に起因して導体膜形成時の焼結温度が上昇してしまい、エネルギー的に不利になりやすい。
【0008】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る銅粉及びその製造方法を提供することにある。」

(b)「【0013】
以下本発明の銅粉を、その好ましい実施形態に基づき説明する。以下では、銅粉というとき、文脈に応じて、複数の銅粒子の集合体である銅粉を指すこともあれば、銅粉を構成する個々の銅粒子を指すこともある。
【0014】
本発明の銅粉は、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下というサブミクロンオーダーの範囲に粒径を有することを特徴の一つとする。当該技術分野におけるこれまでの技術では、前記範囲よりも粒径が小さい特に0.1μm以下のナノオーダーの銅粒子や、前記範囲よりも粒径が大きいサブミクロンオーダーの銅粒子に関する検討が主であり、前記範囲の粒径を有する銅粒子に関する検討例は少ない。本発明者は、後述する製造方法を採用することによって、前記範囲の粒径を有する銅粒子を合成すると、意外にも、該銅粒子の表面に保護層を設けなくても粒子間の凝集が起こりづらく、かつ該銅粒子から形成される導体膜が緻密で導電性が高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の銅粉の平均粒径Dを0.6μm以下に設定することによって、該銅粉を用いて導体膜を形成するときに、銅粉が低温で焼結しやすくなる。また、粒子間に空隙が生じにくく、導体膜の比抵抗を低下させることができる。一方、銅粉の平均粒径Dを0.15μm以上に設定することによって、銅粉を焼成するときの粒子の収縮を防止することができる。これらの観点から、前記の平均粒径Dは、0.15?0.6μmであることが好ましく、0.15?0.4μmであることが一層好ましい。本発明において、銅粉の一次粒子の平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡による観察像を用いて測定した複数の粒子のフェレ径を、球に換算した体積平均粒径であり、具体的には後述する実施例記載の測定方法で測定することができる。本発明の銅粉の粒子形状は球状であることが、銅粉の分散性を高める観点から好ましい。
【0016】
本発明の銅粉は、粒子間での凝集を抑制するための層(以下、保護層ともいう)を粒子表面に有していない。本発明の銅粉が、前記の数値範囲の平均粒径Dを有し、かつ粒子表面に保護層を有しないことは、その良好な低温焼結性に大きく寄与していると考えられる。前記の保護層は、例えば分散性等を高める目的で、銅粉製造の後工程において銅粒子表面を表面処理剤で処理することによって形成される。このような表面処理剤としては、ステアリン酸、ラウリル酸、オレイン酸といった脂肪酸等の各種の有機化合物が挙げられる。また、ケイ素、チタン、ジルコニウム等の半金属又は金属を含有するカップリング剤等も挙げられる。更に銅粉製造の後工程において表面処理剤を用いない場合であったとしても、湿式還元法によって銅粉を製造する際に、銅源を含有する反応液に分散剤を添加することによって、保護層が形成される場合もある。このような分散剤としては、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩や、アラビアゴム等の有機化合物が挙げられる。
【0017】
本発明の銅粉の低温焼結性を一層良好とする観点から、該銅粉は、前記保護層を形成する元素の含有量が極力少ないことが好ましい。具体的には、従来、保護層の成分として銅粉に存在していた炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、銅粉に対して0.10質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることが更に好ましく、0.06質量%以下であることが更に一層好ましい。例えば、本発明者の試算によれば、表面処理剤としてラウリル酸を用いて粒径0.6μmの銅粒子の表面を被覆する保護層を形成しようとすると、該銅粒子の炭素含有量は0.13%質量以上となる。
【0018】
前記の含有量の総和は、小さければ小さいほどよいが、下限が0.06質量%程度であれば、十分に銅粉の低温焼結性を高めることができる。また、銅粉の炭素含有量が過度に多いと、銅粉を焼成して導体膜を形成する際に炭素を含むガスが発生し、そのガスに起因して膜にクラックが発生したり、膜が基板から剥離したりすることがある。本発明の銅粉において前記の含有量の総和が低い場合には、炭素含有ガスの発生による不具合を防止することができる。」

(c)「【0023】
本発明の銅粉は、上述したとおり、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないにも関わらず、一次粒子の凝集が少ないものである。一次粒子の凝集の程度は、BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)と一次粒子の平均粒径Dとの比であるD/D_(BET)の値を尺度として評価することができる。本発明の銅粉は、このD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である。D/D_(BET)の値は、銅粉の粒径が均一で凝集のない理想の単分散状態に比べて、どれほど粒径分布が広いかを示す尺度であり、凝集度の推定に用いることができる。
【0024】
D/D_(BET)の値の評価は、基本的に、銅粉の粒子表面に細孔が少なく均質であることに加え、連続分布(1山分布)を有することを前提条件とする。この前提条件下、D/D_(BET)の値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できる。一方、D/D_(BET)の値が1よりも大きいほど、銅粉の粒径分布が広く、粒径が不揃いであるか、又は凝集が多いと推測できる。D/D_(BET)の値が1よりも小さいことは稀であり、これは、銅粉が前記の前提条件から外れた状態にある場合に観察されることが多い。前記の前提条件から外れた状態とは、例えば凝集が局所的に存在する状態等が挙げられる。
【0025】
本発明の銅粉を、一次粒子の凝集が一層少ないものとする観点から、D/D_(BET)の値は、好ましくは、0.8以上4.0以下であり、より好ましくは0.9以上1.8以下である。D_(BET)の値は、銅粉のBET比表面積をガス吸着法で測定することによって求めることができる。具体的には、BET比表面積及びD_(BET)の値は、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0026】
本発明の銅粉におけるD/D_(BET)の値は上述のとおりであるところ、D_(BET)の値そのものは好ましくは0.08μm以上0.6μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上0.4μm以下であり、更に一層好ましくは0.2μm以上0.4μm以下である。また、本発明の銅粉におけるBET比表面積の値は、好ましくは1.7m^(2)/g以上8.5m^(2)/g以下であり、更に好ましくは2.5m^(2)/g以上4m^(2)/g以下である。
【0027】
本発明の銅粉は、その結晶子径が好ましくは60nm以下、更に好ましくは50nm以下、更に一層好ましくは40nm以下である。下限値は20nmであることが好ましい。結晶子径の大きさをこの範囲に設定することで、銅粉の低焼結性が一層良好となる。銅粉の結晶子径は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。」

(d)「【0028】
本発明の銅粉は低温で焼結可能なものである。具体的には焼結開始温度が好ましくは170℃以上240℃以下であり、更に好ましくは170℃以上235℃以下であり、更に一層好ましくは170℃以上230℃である。特に、焼結開始温度が前記の範囲であると、ポリイミドからなるフレキシブル基板の配線材料として本発明の銅粉を好適に用いることができる。この理由は、一般にフレキシブル基板に用いるポリイミドのガラス転移点が240℃超であることによる。
【0029】
上述した焼結開始温度は、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気の炉の中に銅粉を静置し、炉の温度を次第に上昇させることによって測定することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。焼結が開始したか否かは、炉から取り出した銅粉を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子同士の間に面会合が起きているか否かによって判断する。面会合とは、一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態をいう。例えば、図1(b)に示す導体膜の観察像では、粒子同士の面会合が起きている。」

(e)「【0062】
〔実施例1〕
撹拌羽を取り付けた容量500mlの丸底フラスコを用意した。この丸底フラスコに、銅源として酢酸銅一水和物15.71gを投入した。丸底フラスコに、更に水10gと、有機溶媒としてイソプロパノール70.65gとを加えて反応液を得た。この反応液を、150rpmで撹拌しながら液温を60℃まで上げた。撹拌を続けたまま、反応液にヒドラジン一水和物1.97gを一度に添加した。次いで、反応液を30分間撹拌した。その後、反応液にヒドラジン一水和物17.73gを添加した。更に反応液を30分間撹拌した。その後、反応液にヒドラジン一水和物7.88gを添加した。その後、反応液を、液温を60℃に保ったまま、1時間撹拌し続けた。反応終了後、反応液全量を固液分離した。得られた固形分について、純水を用いたデカンテーション法による洗浄を行った。洗浄は、上澄み液の導電率が1000μS/cm以下になるまで繰り返した。洗浄物を固液分離した。得られた固形分にエタノール160gを加え、加圧濾過器を用いて濾過した。得られた固形分を常温で減圧乾燥し、目的とする銅粉を得た。
【0063】
〔実施例2ないし13〕
有機溶媒の種類、水及び有機溶媒の使用量、又は銅源の種類を下記の表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0064】
〔比較例1及び2〕
比較例1の銅粉として、表面に保護層が形成された銅粉である三井金属鉱業株式会社製「CT500」を使用した。比較例2の銅粉として、表面に保護層が形成された銅粉である三井金属鉱業株会社製「1050Y」を使用した。
【0065】
〔測定・評価〕
実施例1ないし13で得られた銅粉並びに比較例1及び2の銅粉について、以下の方法で、一次粒子の平均粒径D(μm)、BET比表面積(m^(2)/g)、BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)(μm)を求めた。更に、得られたD及びD_(BET)の値からD/D_(BET)を算出した。また、以下の方法で、炭素、リン、ケイ素、チタン、ジルコニウムの含有量(質量%)を測定し、これら5つの元素の総和を求めた。更に、ナトリウム、硫黄、塩素の含有量(質量%)を測定し、これら3つの元素の総和を求めた。カリウム、鉄、窒素、銅の含有量(質量%)も測定した。また、以下の方法で、結晶子径(nm)を求めた。また、以下の方法で、焼結開始温度(℃)を求めた。これらの結果を表1に示す。ただし、銅以外の個別の元素の含有量は、表2に示す。
【0066】
〔一次粒子の平均粒径D〕
走査型電子顕微鏡(日本エフイー・アイ(株)製XL30SFEG)を用い、倍率10,000倍又は30,000倍で、銅粉を観察し、視野中の粒子200個について水平方向フェレ径を測定した。測定した値から、球に換算した体積平均粒径を算出し、一次粒子の平均粒径D(μm)とした。
【0067】
〔BET比表面積〕
(株)島津製作所製フローソーブII2300を用い、1点法で測定した。測定粉末の量を1.0gとし、予備脱気条件は150℃で15分間とした。
【0068】
〔BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)〕
前記で得られたBET比表面積(SSA)の値及び銅の室温近傍の密度(8.94g/cm^(3))から下記式によって求めた。
D_(BET)(μm)=6/(SSA(m^(2)/g)×8.94(g/cm^(3)))」

(f)「【0071】
〔焼結開始温度〕
銅粉をアルミニウム製の台に乗せて、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下、160℃の設定温度で1時間保持した。その後、炉から銅粉を取り出し、前記の走査型電子顕微鏡を用いて倍率50,000倍で銅粉を観察し、面会合の有無を調べた。面会合が観察されない場合、炉の設定温度を、前記の設定温度から10℃高い温度に設定し直し、新たな設定温度において面会合の有無を前記と同様にして調べた。この操作を繰り返し、面会合が観察された炉の設定温度を、焼結開始温度(℃)とした。
【0072】
【表1】



(g)「【0074】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の銅粉は、各比較例の銅粉に比して焼結開始温度が低く、低温焼結性が良好であることが判る。また、実施例14の導体膜の比抵抗値及び図1(b)から明らかなように、本発明の銅粉は230℃以下の温度で焼結し、かつ比抵抗の低い導体膜が得られることが判る。
【0075】
〔実施例14:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例1で得られた銅粉を用いて、以下のようにして、濃度40質量%の銅粉のスラリー(導電性組成物)を得た。
銅粉4gとテトラエチレングリコール6gを、3本ロールミルを用いて混合しスラリーとした。得られたスラリーを、ガラス基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、230℃の3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下で2時間にわたって熱処理して、厚さ12μmの導体膜を得た。
【0076】
実施例1で得られた銅粉及び本実施例で得られた導体膜について、前記の走査型電子顕微鏡を用い、倍率50000倍で観察した。銅粉の観察像を図1(a)に示し、導体膜の観察像を図1(b)に示す。得られた導体膜の比抵抗を、抵抗率計(三菱化学社製MCP-T600)にて表面抵抗測定を行った後、膜厚を換算して算出したところ、6μΩ・cmであり、バルク銅の比抵抗(1.7μΩ・cm)に近いものであった。」

(h)「【0077】
〔実施例15:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例4で得られた銅粉92質量%と、テトラエチレングリコール6質量%と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(trion X-100)2質量%とからなる導電性インク(導電性組成物)を調製した。得られた導電性インクを、ポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製ユーピレックス25S)上にスクリーン印刷法を用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、230℃の3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下で2時間にわたって熱処理して、厚さ34μmの導体膜を得た。得られた導体膜にセロハンテープを貼り付けて剥離テストを行い、剥離の有無を調べたところ、剥離は観察されなかった。また、この導体膜の比抵抗を実施例14と同様の方法で測定したところ、9μΩ・cmであった。
【0078】
〔比較例3:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例15において用いた実施例4の銅粉に代えて、三井金属鉱業(株)製の銅粉である「CT500」(粒径0.67μm)を用いた以外は、実施例15と同様にして導電性インクを調製した。この導電性インクを用い、実施例15と同様にして導体膜を得た。得られた導体膜について実施例15と同様の剥離テストを行ったところ、ポリイミドフィルムからの導体膜の剥離が観察された。また導体膜の比抵抗は45μΩ・cmであった。」

(i)「【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、低温焼結性が良好である銅粉及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、比抵抗が低く、かつ基材との密着性が高い導体膜を容易に形成し得る銅粉及びその製造方法が提供される。」

(j)「【図1】



第7 甲各号証の記載事項
申立人が証拠方法として提出した甲第1号証?甲第11号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第1号証である特開2011-202208号公報には以下の事項が記載されている。
(1-a)「【0001】
本発明は、金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法、金属微粒子・金属酸化物微粒子、並びに金属含有ペーストおよび金属膜・金属酸化物膜に関する。本発明により製造される金属微粒子、金属酸化物微粒子は、電子材料における電子回路形成や導体膜形成、はんだ材料、電線シールド層形成、触媒材料、セラミックス焼結体などに使用される。」

(1-b)「【0026】
本発明の一実施形態に係る製造方法の特徴は、金属源(固体)と気体という固気反応、あるいは金属源(固体)と液体という固液反応を利用しており、目的とする金属または金属酸化物微粒子に比較して大きな塊状の金属源(安価な金属のバルク体、粒状体、粉状体など)を汎用的なプロセスで微細化していくというトップダウン型のプロセスであることである。
金属源の微細化のためには、従来の物理的手法(均一気相反応、気体-気体反応)では高価な装置の使用が必須であったが、本実施形態はこのような装置を必要としないため低コストで製造が可能である。また、本実施形態における化学反応は固気反応や固液反応という不均一系の反応であることから、従来の化学的手法(均一液相系におけるイオン反応)の問題点である、アニオンの残存や、合成濃度が希薄なことに由来する大量の廃液発生などの問題を解決することが可能である。」

(1-c)「【0038】
本実施形態では、金属微粒子表面を被覆する役割を果たす保護剤と呼ばれる化合物群を添加せずとも、粒径500nm以下の金属微粒子や金属酸化物微粒子を製造可能である。また、より微細な粒子を製造する目的で、必要に応じて保護剤を添加することも可能である。保護剤を添加することで、微粒子の凝集を抑制するだけでなく、金属微粒子の酸化等の変性を抑制したり、溶媒中での分散性を向上することも可能である。保護剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやアミン類などの有機物が例示される。非イオン系だけではなく、イオン系の界面活性剤の使用も可能である。
【0039】
保護剤の添加量が多いと、廃液量が増加する問題が生じる。そのため、保護剤は、金属重量比として50wt%以下の添加量がより望ましい。保護剤の添加条件を調節することで、金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子の粒子径を、0.5nm?100μmの範囲で制御することができる。また、異なる粒度分布域をもつ粒子が混合した形態の作製も可能である。さらには生成する微粒子の形状制御も可能であり、球形、多角形、プレート状の微粒子を得ることもできる。
【0040】
本実施形態の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法により製造された金属微粒子または金属酸化物微粒子と、溶剤組成物とを混合すること金属含有ペースト(導電性金属ペースト(金属ペースト)または金属酸化物ペースト)を作製することができる。また、導電性金属ペーストを配線基板、電線などの対象物に塗布あるいは印刷した後、焼結することにより金属膜を形成できる。また、導電性金属ペーストと同様にして、金属酸化物ペーストを用いて金属酸化物膜を形成できる。
【0041】
本実施形態の金属微粒子を用いた金属ペーストにおいて、利用可能な溶剤組成物の種類としては、水、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、チオール類、単糖類、多糖類、直鎖の炭化水素類、脂肪酸類、芳香族類の群から選択することが可能であり、複数の溶剤を組み合わせて使用することも可能である。上記の群の中から、金属微粒子を覆う保護剤と親和性のある溶剤を選択することが望ましい。また溶剤は、導電性金属ペーストをコーティング可能な適正な粘度に調整し、また室温で容易に蒸発しない、比較的高沸点な低極性溶剤あるいは非極性溶剤であることが望ましく、より具体的には、炭素数10?16個のノルマルの炭化水素やトルエン、キシレン、1-デカノール、テルピネオールなどが好適である。また、導電性ペーストの成型性、粘度などを調節する目的で、溶剤中にワックスや樹脂を添加剤として微量に加えることも可能である。
本実施形態における金属微粒子は残存イオンなどの不純物が少なく、触媒活性や焼結性に優れ、純度の高い金属膜を形成できる。金属膜の基本的な特性、例えば体積抵抗率や反射率、密度なども良好なものとなる。」

(1-d)「【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
各実施例における物性・粒径の測定は、次のようにして実施した。
(1)定性分析
生成物の相同定は、理学電機製の粉末X線回折装置「RINT-2000PC型CuKα線」を用いて行った。
(2)粒子観察と粒度分布測定
生成物を超音波によりエタノール中に分散し、このエタノールを金スパッタを施したガラス板に滴下した。ガラス板を乾燥後、観察用ステージ上にガラス板をカーボンテープで貼り付け、日本電子製の電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)「JSM-6500F」により観察した。観察した粒子画像をノギス(ミツトヨ製)により直接測定した。1試料につき100?200個程度の粒子の粒径を測定し、個数平均粒子径(粒径の算術平均)を算出した。
【0046】
[実施例1]
図1に、実施例1における銅微粒子の製造方法の流れ図を示す。
(酸化工程)
原料(出発原料)として、添川理化学製の銅粒子(純度99.99%、個数平均粒子径3μm)を用意した(S1)。この銅粒子0.1molをアルミナ坩堝へ入れ、大気中で500℃まで10℃/分で昇温した後、500℃で30分間保持して、銅粒子の酸化を行った(S2)。
(粉砕工程)
次に、上記酸化工程で得られた焼結体をアルミナ乳鉢で15分間粉砕した(S3)。図2に、1回酸化後の生成物のX線回折パターンによる相同定の結果を示す。図2には、原料の銅粒子のX線回折パターンも示す。1回酸化後の生成物は、酸化第一銅(Cu_(2)O)と酸化第二銅(CuO)との混合物であった。
【0047】
(還元工程)
上記粉砕工程で得られた生成物(酸化第一銅と酸化第二銅の混合物)と2-プロパノール100mlとを、300mlの三角フラスコに入れ、超音波を照射し懸濁液を得た(S4)。この懸濁液を300mlの三口フラスコへ移し、ヒドラジン一水和物0.1molを加え、溶液の温度が80℃で一定となるように、四国計測工業製のマイクロ波加熱装置「μリアクター」を用いて2.45GHzのマイクロ波を1時間照射した(S5)。生成物を濾過によって回収し、エタノールを用いて洗浄し、大気中で数時間放置して乾燥させることで粉末状の生成物を得た(S6)。
【0048】
(酸化工程、粉砕工程および還元工程の繰り返し)
上記還元工程で得られた粉末状の生成物を再びアルミナ坩堝へ入れ、前述の酸化工程と同様の条件で酸化させた。得られた酸化銅の生成物をアルミナ乳鉢で粉砕し、前述の還元工程と同様の条件で還元した。以降、酸化工程、粉砕工程および還元工程を1サイクルとして5サイクルを繰り返し(S7)、生成物を得た(S8)。
【0049】
(最終生成物)
5回目の還元で得られた生成物のX線回折パターンを図2に示す。図2から、生成物は金属銅に還元されたことが分かった。(111)面、(200)面、(220)面の回折ピークについて、定数K=0.9としてScherrerの式を適用したところ、結晶子径は還元を繰り返すごとに減少し、原料のCu粒子の結晶子径57.4nmに対して、5回目の還元で得られたCu微粒子の結晶子径は37.6nmとなった。原料と5回還元後の生成物とのFE-SEM像を図3に示す。原料の個数平均粒子径3μmのCu粒子(図3(a))が微細化し、Cu微粒子(図3(b))になっていることが確認できる。この生成物の粒度分布を測定したところ、測定結果は図4のようになり、個数平均粒径は187nmであった。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、原料(出発原料)に酸化第二銅粒子を用い、最終生成物として銅微粒子を製造した。
(還元工程)
300mlの三角フラスコに2-プロパノール100mlを入れ、さらに高純度化学製の酸化第二銅粒子(99%、個数平均粒子径1?2μm)を0.1mol加え、超音波により分散させた。得られた懸濁液を300mlの三口フラスコへ移し、ヒドラジン一水和物0.1molを加え、溶液の温度が70℃で一定となるように、四国計測工業製のマイクロ波加熱装置「μリアクター」を用いて2.45GHzのマイクロ波を1時間照射した。生成物を濾過によって回収し、エタノールを用いて洗浄し、大気中で数時間放置して乾燥させることで粉末状の生成物を得た。
【0051】
(酸化工程および粉砕工程)
上記還元工程で得られた粉末状の生成物を再びアルミナ坩堝へ入れ、上記実施例1の酸化工程と同様の条件で酸化させた。得られた酸化銅の生成物をアルミナ乳鉢で粉砕し、上記実施例1の粉砕工程と同様の条件で粉砕した。
【0052】
(最終生成物)
上記粉砕工程で得られた粉末状の酸化銅の生成物に、2回目の還元工程を実施して最終生成物としての銅微粒子を得た。最後の2回目の還元工程で得られた生成物のX線回折パターンを図5に示す。酸化銅は完全に還元し、金属銅となっていた。また、図5には、原料の酸化第二銅粒子のX線回折パターンも示す。(111)面、(200)面、(220)面の回折ピークについて、定数K=0.9としてScherrerの式を適用したところ、原料のCuO粒子の結晶子径40.6nmに対して、生成物の結晶子径は39.1nmとなっていた。原料CuOのFE-SEM像を図6(a)に、生成物とのFE-SEM像を図6(b)にそれぞれ示す。図6(b)の画像から、生成物の粒度分布を測定した結果を図7に示す。生成物の個数平均粒径は307.5nmであった。」

(1-e)「【図1】



(1-f)「【図2】



(1-g)「【図3】



(1-h)「【図4】



(1-i)「【図5】



(1-j)「【図6】



(1-k)「【図7】



上記(1-a)?(1-c)によれば、甲第1号証には金属微粒子に係る発明が記載されており、上記(1-d)によれば、当該金属微粒子は具体的には銅微粒子であって、個数平均粒径が187nmであり、結晶子径が37.6nmであるものである。
また、上記(1-c)によれば、上記金属微粒子は、その表面を被覆する役割を果たす保護剤と呼ばれる化合物群を添加せずとも、粒径500nm以下の金属微粒子や金属酸化物微粒子を製造可能なものであるが、より微細な粒子を製造する目的で、必要に応じて保護剤を添加することも可能であるものであり、上記(1-d)によれば、上記銅微粒子は、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないものである。
よって、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「個数平均粒径が187nmであり、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅微粒子であって、結晶子径が37.6nmである銅微粒子。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第2号証である特開2009-79269号公報には以下の事項が記載されいる。
(2-a)「【0001】
本発明は、導電性ペースト用銅粉およびその製造方法、並びに、導電性ペーストに関し、とくに、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ等の積層セラミック電子部品の内部電極を形成するのに用いて有効なものに関する。」

(2-b)「【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
(1)銅粉の作製:
特級試薬の固体硝酸銅を含有銅換算で2.29mol計量し、純水1100gに溶解させた。さらに、この硝酸銅水溶液にクエン酸水溶液を加えて混合した。クエン酸水溶液は、硝酸銅に対して0.15mol%のクエン酸を純水700gに溶解させたものである。この混合液をA液とする。
【0075】
一方、攪拌機が備え付けられた5Lビーカー内に苛性ソーダ水溶液を準備した。苛性ソーダ水溶液は、硝酸銅に対し1.14当量分の苛性ソーダを計量し、これに純水700gを添加して希釈させた後、十分に窒素抜気して溶存酸素濃度を0%としたものである。
【0076】
ビーカー内の苛性ソーダ水溶液を27℃に保ったところに、上記A液を添加し、350rpmの回転数で攪拌しながら、水酸化銅を生成させた後、水和ヒドラジン溶液を加え、70℃に昇温させた後、2時間保持して亜酸化銅を生成させた。これにより亜酸化銅スラリー溶液が作製された。水和ヒドラジン溶液は、銅イオン還元分に対して1.0当量分の80%水和ヒドラジンを秤量し、これに純水700gに希釈して作製した。
【0077】
上記亜酸化銅スラリー溶液に、銅イオン還元分に対して3.0当量分の80%水和ヒドラジンを添加した後、90℃に昇温して銅粉末スラリー溶液を得た。この溶液を固液分離したのち、純水にて十分に水洗し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させて銅粉を得た。得られた銅粉を以下の項目について評価した。
【0078】
粒度分布(SYMPATEC社 HELOS&RODOS-KF)、化学組成分析、比表面積(BET法 ユアサオイオニクス社 4ソーブ)、TAP密度(同和法)、SEM径、2.0μm以上の粗粒評価、焼結開始温度(ULVAC社 TM7000)、酸化開始温度(セイコーインスツルメンツ社 TG/DTA 6300)、後述するゲルコーティング膜厚。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に示す。
【0079】
上記測定において、2.0μm以上の粗粒評価方法は、得られた銅粉5.0gをアセトン500g中に超音波を照射しながら20分間分散させた後、捕集粒子が2.0μm以上の焼結金網フィルターの中へ注いで濾過させた。
【0080】
この際、焼結金網フィルターの濾液側にアセトン溶媒(3Lビーカーに入れたもの)が接触するようにセットし、超音波をかけて銅粉がフィルターを通過しなくなるまで実施した後、焼結金網フィルター上に残った銅粉量を計量することで求めた。
【0081】
焼結開始温度は、銅粉1.0gと有機ビヒクル数滴を混合して円柱状に成型する。この成型体を鉛直方向にし、かつ円柱の軸方向に加重を付与した状態で昇温炉に装填し、窒素雰囲気中で、常温から1000℃まで昇温速度10℃/minで連続的に昇温しながら、成型体の高さ変化(収縮・膨張の変化)を自動記録する。そして、成型体の高さ変化(収縮)が始まり、その収縮率が0.5%達したところの温度を「焼結開始温度」とした。
【0082】
酸化開始温度の測定は、空気中での示差熱分析計(TG)で行った。酸化開始温度とは、「示差熱分析計において、サンプル銅粉の重量が初期値から0.5%増加したときの温度」と定義した。
【0083】
ゲルコーティング膜厚は、実施例・比較例で得られた銅粉の20万倍のTEM写真から膜厚を3点で測定し、その平均値より求めた。SEM径は、3視野2万倍で観測した粒子500個のフェレ径の平均より算出した。
尚、フェレ径とは、粒子径を定義する統計的径の一つであって、当該粒子を挟む2本の平行線間の距離で定義される定方向接線径のことである。
【0084】
(2)SiO_(2)ゲルコーティング膜の被着:
(1)で作製した銅粉100gを、500mLビーカーにイソプロピルアルコール250gと純水34gを混合した溶液中に分散させた。これを、窒素雰囲気中で、640rpmの回転数で攪拌した。酸素濃度がゼロになるのを確認した後、40℃に昇温した。これにテトラエトキシシランを12.3g添加して5分間熟成させた。
【0085】
この溶液に、20.5%のアンモニア水33gを45分間かけて添加した(約0.73g/minの速度)。60分間熟成した後、スラリーを固液分離し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させることより、SiO_(2)ゲルコーティング膜が被覆された銅粉を得た。
【0086】
この銅粉の評価については、前述した測定項目・方法で実施した。その測定結果は表1、2に示し、さらに図1に○と実線で示す。」

(2-c)「【0094】
〔比較例1〕
実施例1と同様だが、SiO_(2)ゲルコーティング工程を省いて銅粉を作製した。
このようにして得られた銅粉の評価については、実施例1と同様に実施した。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に◇と破線で示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
以上の結果から、実施例1,3では、1000℃まで焼結しない、耐酸化性に優れた銅粉を得ることが出来た。また、SiO_(2)ゲルコーティング膜の被着による凝集と、2.0μm以上の粗粒分の増加は、どちらも見られなかった。
【0098】
実施例2では、比較例1、実施例1に対し、耐酸化性を保持したまま、焼結開始温度を低温度側へ制御することができている。
【0099】
現状は、誘電体セラミックの焼結開始温度が1000℃以上であることから、実施例1,3を用いることで、内部電極と誘電体の同時焼成の際にセラミック基材と内部電極材料の熱収縮の相違に起因して発生するデラミネーション、クラック、および導電性粉末の酸化による電気的特性への問題を解決できる。
【0100】
今後、誘電体の焼結開始温度が1000℃以下の低温度側へシフトして行った場合には、実施例2のような耐酸化性を保持したまま、焼結開始温度を制御できるものが有用になると考えられる。」

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第3号証である、特開2012-92432号公報には以下の事項が記載されている。
(3-a)「【0001】
本発明は、導電性ペースト用銅粉およびその製造方法に関し、特に、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極や、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極を形成するための導電性ペーストに使用する銅粉およびその製造方法に関する。」

(3-b)「【0003】
従来、このような積層セラミックコンデンサなどの内部電極を形成するための導電性ペーストに使用する金属材料として、パラジウム、銀-パラジウム、白金などが使用されていたが、これらは高価な貴金属であるため、コストがかかるという問題があった。そのため、近年では、ニッケルや銅などの卑金属を使用するのが主流になってきており、現在では、主にニッケル微粒子(積層セラミックコンデンサの大きさや容量などにもよるが、一般に平均粒径0.1?0.5μmのニッケル微粒子)が使用されている。また、銅は、ニッケルと比べて、導電率が高く、融点が低いため、積層セラミックコンデンサの特性を改善し、焼成時の低温化などの生産時の省エネに寄与することが可能であり、今後の内部電極用の金属材料の有望な一つとして期待されている。
【0004】
一方、近年、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために、内部電極の薄層化が求められている。また、積層セラミックコンデンサなどの用途の拡大により、内部インダクタが小さく、高周波数特性としてGHzオーダーまで使用可能な特性を有する積層セラミックコンデンサなどが求められている。
【0005】
このような背景から、積層セラミックコンデンサなどの内部電極用の金属材料として、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まないなどの特性を有する銅微粒子が求められている。」

(3-c)「【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まない球状の銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉を安定して製造することができる。」

(3-d)「【0036】
このようにして得られた銅粉含有スラリーをろ過し、水洗することによって、塊状の銅ケーキが得られる。ろ過および水洗の方法としては、フィルタープレスなどにより粉体を固定した状態で水洗する方法や、スラリーをデカントし、その上澄み液を除去した後に純水を加えて攪拌し、その後、再びデカントして上澄み液を除去する操作を繰り返し行う方法や、ろ過後の銅粉をリパルプした後に再度ろ過する操作を繰り返し行う方法などのいずれでもよいが、銅粉体中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することができる方法が好ましく、これにより、乾燥処理中の凝集を防止する効果や、銅粉の表面に存在する官能基の活性度合いが高まることにより脂肪酸を表面処理した際の脂肪酸や表面処理剤などの銅粉への付着率が高まる効果があると考えられる。その後、脂肪酸およびベンゾトリアゾールなどの防錆効果ある物質を低級アルコールなどに溶解し、水洗した銅ケーキに通液またはリパルプさせることにより、その物質で被覆してもよいし、また、銅ケーキの乾燥を早めるために、銅ケーキ中の水分を低級アルコールにより置換してもよい。また、得られた銅ケーキを、酸化させない雰囲気において乾燥(窒素雰囲気中の乾燥や真空乾燥)することによって銅微粒子を得ることができる。また、必要に応じて、乾式解砕処理、篩分け、風力分級などの処理を行ってもよい。
【0037】
上述した本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まないものであり、積層セラミックコンデンサの内部電極の導電性ペースト用や外部電極の導電性ペースト用の銅粉として適した銅粉であり、この導電性ペースト用銅粉を用いて、公知の方法により導電性ペーストを製造することができる。このようにして製造した導電性ペーストは、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にし、積層セラミックコンデンサの内部電極用や外部電極用の導電性ペーストとして使用することができる。
【0038】
また、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μm、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下である。レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μmであれば、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために必要な内部電極の薄層化(近年では層の厚さ1.5μm以下)を実現することができる。また、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下であれば、内部電極と誘電体セラミックグリーンシートを積層させた際に、内部電極の薄層における粗粒の存在により誘電体層を突き破って絶縁不良を引き起こすおそれがない。
【0039】
さらに、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、化学吸着法によって測定されたBET比表面積が3m^(2)/g以上であり、4m^(2)/g以上であるのが好ましい。化学吸着法によって測定されたBET比表面積が3m^(2)/g以上であれば、単分散した微粒子で粗粒を含まない銅微粒子になり、一方、化学吸着法によって測定されたBET比表面積が3m^(2)/gより小さいと、内部電極などを形成するための導電性ペーストに使用する銅粉として適さない粗大粒子を含む可能性があるからである。

(3-e)「【実施例】
【0040】
以下、本発明による導電性ペースト用銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0041】
[実施例1]
まず、5Lの反応槽内に純水3800gを入れ、反応槽の下部から0.5L/分の流量で空気を吹き込み、反応槽内の攪拌棒を回転させた。次に、錯化剤としてクエン酸(扶桑化学工業株式会社製)5.33g(0.042当量)を反応槽内に投入するとともに、亜酸化銅(日進ケムコ株式会社製のNC-301、平均粒径2.5μm)43.17gとを反応槽内に投入して、30℃で2時間反応させて錯体化処理を行った後、空気の供給を停止して反応槽の上部から2.0L/分の流量で窒素を導入した。次に、90℃まで昇温を行い、還元剤として抱水ヒドラジン(大塚化学工業株式会社製の80%ヒドラジン水和物)40.2g(8.54当量)を反応槽内に投入して還元反応を行い1時間保持した後、攪拌を止め、洗浄し、乾燥させて、銅粒子を得た。
【0042】
[実施例2]
クエン酸の投入量を4.70g(0.037当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0043】
[実施例3]
クエン酸の投入量を8.00g(0.063当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0044】
[実施例4]
抱水ヒドラジンの投入量を15.08g(3.20当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0045】
[実施例5]
抱水ヒドラジンの投入量を20.10g(4.27当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0046】
[実施例6]
抱水ヒドラジンの投入量を22.62g(4.81当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0047】
[実施例7]
抱水ヒドラジンの投入量を27.66g(5.88当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0048】
[実施例8]
抱水ヒドラジンの投入量を30.17g(6.41当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0049】
[実施例9]
抱水ヒドラジンの投入量を60.30g(12.81当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0050】
[実施例10]
抱水ヒドラジンの投入量を90.45g(19.22当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0051】
[実施例11]
30℃で15分間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0052】
[実施例12]
30℃で30分間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0053】
[実施例13]
30℃で6時間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0054】
[実施例14]
30℃で12時間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0055】
[実施例15]
30℃で24時間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0056】
[実施例16]
30℃で38時間反応させて錯体化処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0057】
[比較例1]
窒素雰囲気下において、濃度48.3%のNaOH水溶液0.578kgを純水4.12kgに溶かして27℃に保持したアルカリ水溶液に、硫酸銅五水塩(CuSO_(4)・5H_(2)O)0.6925kgを純水2.20kgに溶かした29℃の硫酸銅水溶液を添加して強攪拌した後、発熱により硫酸銅水溶液およびアルカリ水溶液の温度が34℃まで上昇し、水酸化銅が析出した懸濁液が得られた。この懸濁液のpHは13.74であった。硫酸銅水溶液とアルカリ水溶液は、液中の銅に対して苛性ソーダの当量比が1.25になるように混合した。得られた水酸化銅の懸濁液に、ブドウ糖0.9935kgを純水1.41kgに溶かしたブドウ糖溶液を添加して30分間で70℃まで昇温させた後、15分間保持した。
【0058】
次いで、液中に0.7L/分の流量で空気を200分間バブリングさせた。このバブリング後の液のpHは6.2であった。この懸濁液を窒素雰囲気中において2日間静置した後、上澄液(pH6.92)を除去して、沈殿をほぼ全量採取した。この沈殿物に純水0.7kgを追加して、得られた懸濁液に抱水ヒドラジン0.065kg(2.1当量)を添加した後、液の温度は発熱反応により50℃まで昇温し、最終的に80℃まで昇温して、反応を終了した。反応終了後の懸濁液を固液分離し、銅粉を採取し、120℃の窒素雰囲気中において乾燥して粒状銅粉を得た。
【0059】
[比較例2]
クエン酸の投入量を0.51g(0.004当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0060】
[比較例3]
クエン酸の投入量を2.67g(0.021当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0061】
[比較例4]
クエン酸の投入量を4.06g(0.032当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0062】
[比較例5]
クエン酸の投入量を10.66g(0.084当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0063】
[比較例6]
抱水ヒドラジンの投入量を10.05g(2.14当量)とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0064】
[比較例7]
空気を吹き込まないで反応させた(錯体化処理時間を0時間とした)以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0065】
[比較例8]
錯体化処理の際の供給ガスを空気から窒素にした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0066】
これらの実施例および比較例において、錯化剤として投入したクエン酸の当量、還元剤として投入した抱水ヒドラジンの当量および錯体化処理時間を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
また、実施例および比較例で得られた銅粉の粒度分布、50%粒径(D_(50))およびD_(max)(検出の最大粒径)を、レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製のLS-230)を用いて測定した。なお、測定試料として、実施例および比較例で得られた銅粉と純水をビーカーに入れて超音波分散槽などにより十分に分散させた液を使用した。また、光学モデルとして、液体の屈折率の実数部は、レーザー、PIDS(偏光散乱強度差)450nm、PIDS600nm、PIDS900nmでは1.322、試料の屈折率の実数部は、レーザー、PIDS450nm、PIDS600nm、PIDS900nmでは1.5、試料の屈折率の虚数部は、レーザーでは0、PIDS450nmでは10、PIDS600nm、PIDS900nmでは0.3として設定した。
【0069】
これらの結果を表2に示す。また、錯化剤として投入したクエン酸の当量、還元剤として投入した抱水ヒドラジンの当量および錯体化処理時間に対するD_(max)(検出の最大粒径)をそれぞれ図1?図3に示し、実施例および比較例で得られた銅粉のD_(max)(検出の最大粒径)を図4に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
また、実施例および比較例で得られた銅粉の粒子形状および平均粒径を電界放出形走査電子顕微鏡(SEM)(日立製作所製のS-4700形)により評価した。なお、SEMによって観測した銅単体粒子の平均粒径(単体粒子径)は、粒子200個の50%Heywood径から算出した。また、2万倍の撮影視野を用いて粒子径を算出したが、200個の粒子数を測定できない場合には、視野内における銅単体粒子すべての粒子径を算出した。
【0072】
また、実施例および比較例で得られた銅粉の比表面積をBET比表面積測定装置(ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を用いてBET法により求めるとともに、求めた比表面積から銅単体粒子の密度を8.9g/cm^(2)としてBET粒径を算出した。
【0073】
これらの結果を表3に示す。また、実施例1で得られた銅粉のSEM写真を図5および図6に示し、比較例7で得られた銅粉のSEM写真を図7および図8に示し、比較例8で得られた銅粉のSEM写真を図9および図10に示す。
【0074】
【表3】



上記(3-a)?(3-e)によれば、甲第3号証には、導電性ペーストに用いられる銅粉として、ヒドラジンにより液中の亜酸化銅を還元して製造する湿式銅粉について記載され、実施例1?16として、単体粒子のSEM平均粒径Dが0.17?0.27μm、BET粒径D_(BET)が0.12?0.19のものが記載されている。
そして、実施例1?16のD及びD_(BET)の値からD/D_(BET)を算出すると、以下のとおりであり、D/D_(BET)が1.2?1.6のものが記載されている。


また、上記(3-e)(【0041】)によれば、上記銅粉は、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないものである。
よって、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「単体粒子のSEM平均粒径が0.17?0.27μm、単体粒子のSEM平均粒径/BET粒径の比が1.2?1.6であり、粒子間の凝集を抑制するための層を粒子表面には有していない導電ペースト用湿式銅粉。」(以下、「甲3発明」という。)

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第4号証である特開平5-179317号公報には以下の事項が記載されている。
(4-a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、蟻酸銅の熱分解による微細銅粉の製造法の改良に関するものであり、一次粒子径 0.1?0.5μm、凝集粒子径10μm以下、比表面積1?5m^(2)/g、酸素含有量0.2wt%以下の範囲で、球状かつ粒子形状の揃った、全不純物金属が50ppm以下の高純度微細銅粉の製造法である。この高純度微細銅粉は、塗料、ペースト、樹脂などの導電性フィラー或いは防カビ様添加剤、粉末冶金用粉末などの用途に好適に使用できるものである。」

(4-b)「【0003】また、不純物を含む無水蟻酸銅を用い、熱分解してなる生成銅粉は酸素含有量が 0.4%以下であるものの Na,S,Clなどの不純物が吸着しており、この不純物を除去する操作を施した場合、含酸素濃度が 1%前後まで上昇するという課題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にもNaを含む無水蟻酸銅を用いることにより一次粒子径が球状に近く粒の揃った銅粉を安定的に生成させるが可能であることを見いだし、この高純度化についてさらに検討を進め、本発明を完成させるに至った。」

(4-c)「【0024】
【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%、ppm は特に断らない限り重量基準である。
実施例1
硫酸銅・5水和物2kgと無水炭酸ソーダ1.1kgをそれぞれ濃度20%の水溶液とし、攪拌しながら混合した。この混合液を昇温し80℃で 1.5時間反応させ、生成した反応物スラリーを濾別して塩基性炭酸銅956g を得た。
【0025】上記で得た塩基性炭酸銅を0.1%炭酸ソーダ水溶液9リットル、80℃純水6リットル、0.01%酢酸水溶液6リットル、80℃純水6リットル、メタノール 3.5リットルの順序で洗浄し、Na 1,300ppm 、Ca 20ppm、Mg 17ppmを含有する塩基性炭酸銅のケーキを得た。
【0026】この塩基性炭酸銅ケーキに、90%蟻酸水溶液1,230gを室温で加え、攪拌しながら昇温し65 ℃のリフラックス下、30分間反応させた後、濾過、乾燥して無水蟻酸銅1,250gの結晶を得た。この無水蟻酸銅は、Na 100ppm 、Ca 1ppm 、Mg 0.2ppm を含有していた。
【0027】得られた無水蟻酸銅の結晶を100メッシュ以下に粉砕した後、30cm×30cmで高さ5cmの箱に充填し、内容積60リットルの電気炉内に投入し、窒素置換した後、電気炉を昇温速度を4℃/minで、温度180℃でまで昇温し、同温度で1時間保持して熱分解を行った後、室温まで冷却し、500gの銅粉を取り出した。この銅粉は、一次粒子径0.5μmの球状で粒の揃ったものであり、凝集粒子径13μmであった。また、銅粉は、Na 230ppm、Ca 3ppm、Mg 0.4ppmで酸素含有量0.12 %であった。
【0028】上記で得た銅粉を容量5リットルのミキサーに純水3リットルと共に入れ、回転数1万回/分で2時間解砕処理した。この解砕銅粉の凝集粒子径5.8μmであった。銅粉を濾別し、減圧下、80℃で乾燥し、雰囲気を水素に置換した後、温度110℃まで昇温後、1 時間保持して室温まで冷却した。得られた銅粉は、一次粒子径0.5μmの球状で粒の揃ったものであり、凝集粒子径6.0μm、比表面積2.0m^(2)/gであり、Na 15ppm、Ca 2ppm、Mg 0.2ppmでFe、Ni、K、Alなどの金属、Cl、Sなども検出されず、酸素含有量0.11 %であった。
【0029】実施例2
Na 4,000ppm、K 30ppm、Ca 300ppm、Mg 50ppm、S 250ppmを含有する市販の塩基性炭酸銅 (日本化学産業製)1kgを90%蟻酸1,300gとを実施例1に準じた方法で反応させて、Na 1,000ppm、K 15ppm、Ca 300ppm、Mg 20ppm、S 150ppmを含有する無水蟻酸銅1,260gを得た。
【0030】上記で得た無水蟻酸銅を使用すること、得られた銅粉の解砕処理に0.1%酢酸水溶液を用いることの他は実施例1と同様にして銅粉500gを得た。得られた銅粉は、一次粒子径0.3μmの球状で粒の揃ったものであり、凝集粒子径4.0μm、比表面積2.0m^(2)/gで、Na 30ppm、K 1ppm、Ca 8ppm 、Mg 2ppm、S 10ppm以下であり、酸素含有量0.2%であった。
【0031】実施例3
実施例1と同様にして得た塩基性炭酸銅956gを0.1%炭酸ソーダ水溶液9リットル、80℃純水6リットル、メタノール3.5リットルの順序で洗浄し、Na 3,600ppm、Ca 15ppm、Mg 3ppm、S 700ppmを含有する塩基性炭酸銅のケーキを得た。この塩基性炭酸銅ケーキを用いる他は実施例1と同様にして無水蟻酸銅1,250gの結晶を得た。この無水蟻酸銅は、Na 500ppm、Ca 10ppm、Mg 1ppm、S 100ppmを含有していた。
【0032】この無水蟻酸銅を用い、温度160℃でまで昇温し、同温度で1時間保持して熱分解を行うこと、解砕処理した銅粉を温度140℃の水素雰囲気中で還元処理することの他は実施例2と同様にして500gの銅粉を得た。得られた銅粉は、一次粒子径0.1?0.3μmの球状で粒の揃ったものであり、凝集粒子径7.5μm、比表面積3.5m^(2)/gであり、主な不純物はNa 35ppm、S 7ppmであり酸素含有量 0.13 %であった。
【0033】比較例1
硫酸銅・5水和物500gと重炭酸アンモニウム350g をそれぞれ濃度20%の水溶液とし、攪拌しながら40℃で混合した。この混合液を55℃まで昇温し、1時間反応させ、濾別して塩基性炭酸銅240gを得た。この塩基性炭酸銅を80 ℃純水5リットルで4回、メタノール1.5リットルで5回洗浄し、塩基性炭酸銅のケーキを得た。この塩基性炭酸銅ケーキを用いる他は実施例1と同様にしてNa 9ppm、K 11.2ppm、Ca 2.3ppm を含有する無水蟻酸銅 630gを得た。
【0034】この無水蟻酸銅を用い、実施例1と同様に温度180℃にて熱分解を試みたが完全には分解しないものであったので、温度200℃で1時間として熱分解し、室温まで冷却し、250gの銅粉を取り出した。得られた銅粉は、一次粒子径1.0?1.5μmと大きく粒も不揃いであった。また、実施例1と同様に2時間の解砕処理した後の凝集粒子径は10.5μmであった。また、水素還元開始温度も200℃と高いものであった。
【0035】
【発明の効果】以上、発明の詳細な説明、実施例、比較例から明瞭なように、本発明の無水蟻酸銅の熱分解による微細銅粉の製造法は、Naを特定範囲で含む無水蟻酸銅を用い、熱分解、解砕・洗浄、還元などの一連の工程を特定範囲で選択することにより、一次粒子径が小さく、かつ、球状に近く、粒の揃ったものとし、その凝集性も小さく、純度の高い微細銅粉を工業的に安定的に製造することを可能とするものである。さらに、無水蟻酸銅もより安価な銅化合物から安価に容易に工業的製造が可能であり、その際、原料中のNa も本願発明のものを製造可能である。以上により、本願発明は、高純度微細銅粉を工業的に生産する生産性・信頼性の高い方法を提供するものであり、その意義は極めて大きいものである。」

(5)甲第5号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第5号証である特開2010-144197号公報には以下の事項が記載されている。
(5-a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉及び金属粉の製造方法に関し、特に微細で分散性に優れた金属粉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属粉は、各種導電性ペーストの原料として広く用いられてきた。導電性ペーストは、主に電子産業用途を中心に、簡便に導体を形成するために使用される。例えば、プリント配線板の導体回路形成、多層プリント配線板の層間導通導体の形成、各種電極形成、低温焼成セラミック基板等に用いられる。そして、導電性ペーストにて得られた電極や回路には大幅なファイン化が要求されており、配線の高密度化、高精度化が必要であることはいうまでもない。
たとえば、チップ部品、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の電極や回路の形成には、銀粉が使用されているが、上記配線の高密度化、高精度化を目的として、微細で高分散性のものが求められている。
このようなファインライン化が進むPDP等の電極や回路の導電パターン形成に好適に使用できる銀粉を製造することを目的とした銀粉の製造方法が開示されている(特許文献1)。」

(5-b)「【0004】
最近の配線の高密度化、高精度化に伴って、微細で分散性に優れた金属粉が求められていることは上記のとおりである。
一方、それとは別に、金属粉中に含まれる好ましくない粗大凝集粒子が、用途によるものの、電極や回路の導電パターン形成の際の信頼性に多大な影響を及ぼす。したがって、そのような粗大凝集粒子の低減化がより望まれている。
しかしながら、この特許文献1の方法により得られる銀粉では、ハンドリング時の取扱い形態に起因して、乾燥に伴う凝集粒子の低減が徹底できず、分散性の面で劣るのみならず、粗大凝集粒子が多く含まれるものである。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑み、微細で分散性に優れるのみならず、粗大凝集粒子が少ない金属粉及びその製造方法を提供することを目的とする。」

(5-c)「【実施例】
【0022】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
(銀粒子を含有する原料銀スラリーの作成)
硝酸銀63.3gを純水3.1Lに溶解させ硝酸銀水溶液を調製し、濃度25質量%のアンモニア水235mLを添加して攪拌することにより、銀アンミン錯体水溶液を得た。次いで、20℃で、この銀アンミン錯体水溶液に濃度21g/Lのヒドロキノン水溶液3.4Lを混合することにより銀粒子を析出させて原料銀スラリーを得た。
【0023】
(銅粒子を含有する原料銅スラリーの作成)
硫酸銅(五塩水)4kg及びアミノ酢酸120gを水に溶解させて、液温60℃の8Lの銅塩水溶液を作製した。そして、この水溶液を攪拌しながら6.25kgの25wt%水酸化ナトリウム溶液を約5分間かけて定量的に添加し、液温60℃で60分間の攪拌を行い、液色が完全に黒色になるまで熟成させて酸化銅第二銅を生成した。その後、30分間放置しグルコース1.5kgを添加して、1時間熟成することで酸化第二銅を酸化第一銅に還元した。さらに、水和ヒドラジン1kgを5分間かけて定量的に添加して酸化第一銅を還元することで金属銅にして、原料銅スラリーを生成した。
【0024】
(実施例1)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が100g/Lとなるように水を加え、スプレードライヤー(大川厚化工機株式会社製スプレードライヤーCOC-12)で乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:80mL/分、乾燥時間:1秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は5460質量%/分であった。
【0025】
(実施例2)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が1000g/Lとなるように水を加え、スプレードライヤーCOC-12で乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:80mL/分、乾燥時間:1秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は2820質量%/分であった。
【0026】
(実施例3)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が100g/Lとなるように水を加え、フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業株式会社製フラッシュジェットドライヤーFJD-4)で乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、スラリー流量:150mL/分、乾燥時間:0.7秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は7799質量%/分であった。
【0027】
(実施例4)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が1000g/Lとなるように水を加え、フラッシュジェットドライヤーFJD-4で乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、スラリー流量:150mL/分、乾燥時間:0.7秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は4029質量%/分であった。
【0028】
(実施例5)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が100g/Lとなるように水を加え、マイクロミストドライヤー(藤崎電機株式会社製マイクロミストドライヤーMDL-050B)で乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:40mL/分、乾燥時間:0.6秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は9100質量%/分であった。
【0029】
(実施例6)
上記原料銀スラリーに銀粒子の濃度が1000g/Lとなるように水を加え、マイクロミストドライヤーMDL-050Bで乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:80mL/分、乾燥時間:0.6秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は4700質量%/分であった。
【0030】
(実施例7)
上記原料銅スラリーに、水:メタノール:銅粒子=45.5:45.5:9(質量比)となるように水及びメタノールを加え、スプレードライヤーCOC-12で乾燥して、銅粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:80mL/分、乾燥時間:1秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は5460質量%/分であった。
【0031】
(実施例8)
上記原料銅スラリーに、水:メタノール:銅粒子=23.5:23.5:53(質量比)となるように水及びメタノールを加え、スプレードライヤーCOC-12で乾燥して、銅粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:70℃、スラリー流量:80mL/分、乾燥時間:1秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は2820質量%/分であった。
【0032】
(実施例9)
上記原料銅スラリーに、水:メタノール:銅粒子=45.5:45.5:9(質量比)となるように水及びメタノールを加え、フラッシュジェットドライヤーFJD-4で乾燥して、銅粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、スラリー流量:150mL/分、乾燥時間:0.7秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は7799質量%/分であった。
【0033】
(実施例10)
上記原料銅スラリーに、水:メタノール:銅粒子=23.5:23.5:53(質量比)となるように水及びメタノールを加え、フラッシュジェットドライヤーFJD-4で乾燥して、銅粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、スラリー流量:150mL/分、乾燥時間:0.7秒としたところ、スラリーの水分率の低下速度は4029質量%/分であった。
【0034】
(比較例1)
上記原料銀スラリーを、ろ過し水洗して水分率が10質量%の銀ケーキ(ケーキ中銀粒子濃度:4737g/L)を得た。この銀ケーキ10kgをバットに入れて乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、温度:70℃、時間:6時間、風量:1m^(3)/分で乾燥したところ、水分率の低下速度は0.028質量%/分であった。
【0035】
(比較例2)
上記原料銀スラリーを、ろ過し水洗して銀スラリー(スラリー中銀粒子濃度:900g/L)を得た。この銀スラリー20kgを真空流動乾燥機(中央化工機株式会社製VH-25)に入れて乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、設定温度:110℃、時間:7時間、振動:10秒/分で乾燥したところ、水分率の低下速度は0.12質量%/分であった。
【0036】
(比較例3)
上記原料銀スラリーを、ろ過し水洗して水分率が7質量%の銀ケーキ(ケーキ中銀粒子濃度:5700g/L)を得た。この銀ケーキ10kgをフラッシュジェットドライヤーFJD-4に入れて乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、原料ケーキ供給速度:1500g/分、乾燥時間:0.7秒で乾燥したところ、水分率の低下速度は600質量%/分であった。
【0037】
(比較例4)
上記原料銅スラリーを、ろ過し水洗して水分率が7質量%の銅ケーキ(ケーキ中銅粒子濃度:5700g/L)を得た。この銅ケーキ10kgをフラッシュジェットドライヤーFJD-4に入れて乾燥して、銀粉を得た。乾燥条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、原料ケーキ供給速度:1500g/分、乾燥時間:0.7秒で乾燥したところ、水分率の低下速度は600質量%/分であった。
【0038】
(比較例5)
上記原料銀スラリーを、ろ過し水洗して水分率が7質量%の銀ケーキ(ケーキ中銀粒子濃度:5700g/L)を得た。この銀ケーキ10kgを図1の乾燥装置10を用いて乾燥して銀粉を得た。乾燥装置10は、断面図である図1に示すように、20cmの均熱帯11を有する縦型管状炉12内に全長800mm、外径13mm、内径9mmのアルミナ管13が設けられており、均熱帯11は縦型管状炉12内のアルミナ管13の垂直方向のほぼ中央部に位置している。該均熱帯11は800℃に加熱され、アルミナ管13の上端近傍に設けられた開口部14からアルミナ管13内に空気が100mL/minで上から下に向けて吹き込まれている。そして、原料である銀ケーキをアルミナ管13の上部に設けられたホッパー15に入れ、ホッパー15の電磁フィーダーにより銀ケーキを0.5g/minの速度でアルミナ管13の上部から投入し、原料銀ケーキをアルミナ管13内で自由落下させて、均熱帯11を通過するときに瞬間乾燥させて銀粉を得た。この時の銀ケーキの水分率の低下速度を均熱帯11の長さとケーキの落下速度から算出すると、5800質量%/分であった。
【0039】
上記実施例1?10及び比較例1?5で得られた銀粉又は銅粉について、それぞれ、1000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)により10箇所観察した際に各視野で観察される10μm以上の粗大粒子の個数の合計(表1中、「SEM10視野」と表記)、一次粒子径、BET比表面積、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積粒径D_(10)、D_(50)、D_(90)、D_(100)(D_(max))、タップ密度(TD)、銀粉をペースト化した際のグラインドゲージ(GG)を測定した。各評価方法は以下に記すとおりで、結果は表1に示す。
【0040】
1000倍の走査型電子顕微鏡により10箇所観察した際に各視野で観察される10μm以上の粗大粒子の個数の合計は、1000倍の走査型電子顕微鏡(視野:縦130μm×横90μm)による観察で10μm以上の粗大粒子を一つ探し当該粗大粒子を含む視野の範囲内に含まれる10μm以上の粗大粒子の個数を求める操作を観察箇所を変えて10箇所で行い、各視野で観察される10μm以上の粒子の個数を合計して求めた。この際、10μm以上の粗大粒子が見つからなかった場合は、零とした。
【0041】
一次粒子径は、上記走査型電子顕微鏡による観察像を撮像し、当該粉末粒子径を視野中より粒子を100個無作為に選び、フェレ径を直接測定し、観察倍率で換算し、平均を求めた。
【0042】
BET比表面積は、試料1gを取り比表面積測定装置(QUANTACHROEM社製MONOSORB)を用いBET法(窒素吸着1点法)により測定した。
【0043】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積粒径は、スラリーに含まれる銀粉又は銅粉0.1gをイオン交換水と混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US-300T)で5分間分散させた後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置 Micro Trac HRA 9320-X100型(Leeds+Northrup社製)を用いて測定した。
【0044】
グラインドゲージは、JIS K 5101-1991に準拠した測定方法で測定し、銀粉又は銅粉25gをペースト化したものを用い、一端の深さが100μmで他端の深さが0μmであるみぞを掘った板上を水平方向に深さ100μmから0μmに向って、ペーストをスクレーパーで溝に押し付けながら引き動かし、溝のペースト膜面に現れた線の開始位置を測定することにより求めた。また、上記測定値から、D_(50)/BET、D_(max)/D_(50)径を算出した。
【0045】
タップ密度は、試料100gを精秤して150mlのメスシリンダーに入れ、筒井理化学社製タップデンサーを用い、ストローク(落下距離)40mmで1000回タッピングした後試料の容積を測定し、下記式にて算出した。
タップ密度TD[g/cm^(3)]=100[g]÷X[cm^(3)]
X:試料の容積
【0046】
表1に示すように、金属粒子の濃度が100?1000g/Lのスラリーを、水分率の低下速度が0.3質量%/分以上10000質量%/分未満の条件で乾燥させた実施例1?10では、粗大微粒子の頻度が格段に少ないことが明白である。また、乾燥凝集が抑制され微細で分散性に優れた銀粉又は銅粉が得られていた。一方、比較例1?5では、粗大微粒子の頻度が相当大きいのみならず、分散性等の面でも実施例の銅粉より劣るものであった。
【0047】
【表1】



(6)甲第6号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第6号証である特開2012-162807号公報には以下の事項が記載されている。
(6-a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、銅微粒子及びその製造方法に関し、特に積層セラミックスコンデンサーの電極や、プリント配線基板の回路等を製造する際に好適に用いられる銅微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅微粒子は良好な電気伝導性を有する廉価な材料であり、プリント配線基板の回路形成部材、各種電気的接点部材、コンデンサー等の外部電極部材などの電気的導通を確保するための材料として幅広く用いられ、近年、積層セラミックスコンデンサーの内部電極にも用いられ始めている。積層セラミックスコンデンサーは、電解コンデンサー、フィルムコンデンサー等他の形式のコンデンサーと比較して、大容量が得られ易く、実装性に優れ、安全性・安定性が高いので、急速に普及している。最近の電子機器の小型化に伴い、積層セラミックスコンデンサーも小型化する方向にあるが、大容量を維持するには、セラミックスシートの積層数を減らさずに小型化する必要があり、強度等の点でシートの薄層化には限界があるため微細な金属銅粒子を用い内部電極を薄層化することで、積層セラミックスコンデンサーの小型化を実現している。
【0003】
金属銅微粒子を電気的導通を確保する材料として用いるには、通常銅微粒子を溶媒に分散したり、エポキシ樹脂などのバインダーと混合してペースト化あるいは塗料化あるいはインキ化して、銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物とする。そして、例えば、プリント配線基板の回路等の形成では、前記の流動性組成物をスクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法で基板上に回路や電極のパターンに塗布した後、加熱して金属銅微粒子を融着させ、微細な電極を形成している。また、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の形成では、薄層のセラミックスシート上に前記の流動性組成物を塗布し、シートを積層した後、加熱焼成して内部電極を形成している。」

(6-b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では微細な金属銅粒子が得られるものの、金属銅の一次粒子が単分散ではなく著しく凝集した状態で生成したり、二次粒子の形状が粒塊状で、大きさも形状も不揃いになったりするため、流動性組成物への分散性が十分でなく、回路、電極等を形成した際に充填性が悪く、欠陥が生じ易いという問題があり、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の薄層化や、プリント配線板の回路の極細化にも対応でき難い。このため、金属銅微粒子としては、微細であるにもかかわらず、凝集粒子がほとんどなく、粒子形状が整い、分散性に優れた銅微粒子が要望されている。
また、金属銅微粒子を製造する際に、保護コロイドを分散安定化剤として用いると、銅微粒子表面に保護コロイドが被着または吸着し、銅微粒子を凝集させずに単分散の状態で得られ易いが、保護コロイドの存在により、生成した銅微粒子が高度に分散しているため、凝集剤を添加したとしても、原料の銅化合物、還元剤の残分、保護コロイドのほかpH調整剤などの添加剤に由来する陰イオンや陽イオンが多量に存在する媒液から銅微粒子を固液分離し難く、大量生産に不向きな限外濾過を行わなければならないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく原料の銅化合物や保護コロイド等の添加剤を中心に鋭意研究を重ねた結果、前記の特許文献2、3のように原料の銅化合物として1価の銅酸化物を用いたり、2価の銅酸化物から還元によって1価の銅酸化物を生成した後に1価の銅酸化物を再度還元する2段階の反応で金属銅微粒子を生成すると、1価の銅酸化物が非常に還元され易いので還元反応が非常に速く進行すること、しかも、銅酸化物と錯体を形成して還元剤との反応速度を制御する錯化剤を用いても反応速度の制御が困難であること、このため、反応液中に多量の金属銅の微結晶が不均一な濃度分布で生成するので、粒子成長も不均一になり、銅微粒子の形状が不揃いになったり、凝集粒子の生成を抑制できなくなること、しかも、生成した銅微粒子の表面に被着または吸着して銅微粒子の凝集を抑制する保護コロイドが存在しても凝集粒子の生成を抑制できないことを見出した。一方、2価の銅酸化物は1価の銅酸化物に比べて還元速度が遅く、しかも、反応液に錯化剤を添加すると少量の金属銅の微結晶が生成し、この微結晶が核となって、還元反応の進行に従って均一に粒子成長すること、さらに、保護コロイドを添加すると微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散の、しかも粒子形状の整った銅微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
次に、本発明者らは、保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、反応液に保護コロイド除去剤を添加すると銅微粒子を凝集させることができ、通常の手段でも銅微粒子を濾過できることを見出し、本発明を完成した。」

(6-c)「【0019】
前記の方法により錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、必要に応じて分別、洗浄を行うが、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別するのが好ましい。「保護コロイド除去剤」は、保護コロイドを分解または溶解して保護コロイドの作用を抑制する化合物であり、媒液から保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば、本発明の効果が得られる。保護コロイド除去剤の種類は、用いる保護コロイドに応じて適宜選択する。具体的には、タンパク質系の保護コロイドに対しては、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、チオールプロテアーゼ(例えば、パパイン等)、酸性プロテアーゼ(例えば、ペプシン等)、金属プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を、デンプン系に対しては、アミラーゼ、マルターゼ等のデンプン分解酵素を、セルロース系にはセルラーゼ、セロビアーゼ等のセルロース分解酵素を用いることができる。ビニル系、アクリル酸系、ポリエチレングリコール等の保護コロイドには、ホルムアミド、グリセリン、グリコール等の有機溶剤や、酸、アルカリ等を用いることができる。保護コロイド除去剤の添加量は銅微粒子を凝集させ分別できる程度に保護コロイドを除去できる量であれば良く、その種類によって異なるが、タンパク質分解酵素であれば、タンパク質系保護コロイド1000重量部に対し0.001?1000重量部の範囲が好ましく、0.01?200重量部がより好ましく、0.01?100重量部が更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加する際の媒液の温度は適宜設定することができ、還元反応温度を保持した状態でも良く、あるいは、10℃?用いた媒液の沸点の範囲であれば、保護コロイドの除去が進み易いので好ましく、40?95℃の範囲であれば更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加した後、その状態を適宜保持すれば保護コロイドを分解することができ、例えば10分?10時間程度が適当である。保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させた後、通常の方法で分別する。分別手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。」

(6-d)「【0026】
次に、本発明はインキ、塗料、ペースト等の流動性組成物であって、前記の金属銅微粒子と分散媒を少なくとも含有する。金属銅微粒子の配合量は少なくとも1重量%程度であれば良く、5重量%以上の高濃度が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上が更に好ましい。金属銅微粒子を分散させる分散媒としては、用いる銅微粒子との親和性に応じて適宜選択し、例えば、水溶媒、アルコール類、ケトン類等の親水性有機溶媒、直鎖状炭化水素類、環状炭化水素類、芳香族炭化水素類等の疎水性有機溶媒等を用いることができ、これらから選ばれる1種を用いても、または相溶性を有する2種以上を混合分散媒として用いても良く、あるいは、親水性有機溶媒を相溶化剤として用いて水と疎水性有機溶媒を混合して用いることもできる。具体的には、アルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、α-テルピネオールが挙げられ、ケトン類としては例えばシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセトンが挙げられる。更に有機溶媒としてトルエン、ミネラルスピリットなども好適に用いることができる。インキ、塗料に用いられる好ましい分散媒は、水溶媒または水を主体とする親水性有機溶媒との混合分散媒であり、この場合、水は、通常、混合分散媒中に50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれていれば良い。」

(6-e)「【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0031】
1.銅微粒子の調製と評価
【0032】
実施例1?16
平均結晶子径が90.2nmの工業用酸化第二銅(N-120:エヌシーテック社製)24g、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤(用いた錯化剤の種類及び添加量を表1に示す)の溶液と、80%のヒドラジン一水和物28gとを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを試料A?Pとする。
【0033】
実施例17
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、保護コロイドとしてゼラチン2.8gを150ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%の3-メルカプトプロピオン酸溶液0.24g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物10gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料Q)を得た。
【0034】
実施例18
実施例1で用いた工業用酸化第二銅64g、保護コロイドとしてゼラチン5.1gを650ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液6.4g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物75gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料R)を得た。
【0035】
実施例19
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、錯化剤として3-メルカプトプロピオン酸0.065g(添加量は表1に示す)、保護コロイドとしてゼラチン3.8gを400ミリリットルの純水に添加、混合し、10%の硫酸を用いて混合液のpHを4に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら80%ヒドラジン一水和物を添加し、2時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料S)を得た。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例20?22
実施例8、12、18において、銅微粒子が生成した後、保護コロイド除去剤としてセリンプロテアーゼ(プロテナーゼK:ワシントン・バイオ・ケミカル社製)5ミリリットルを添加して1時間保持し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料a?cとする。尚、セリンプロテアーゼの添加量は、ゼラチン1000重量部に対し100重量部であった。
【0038】
実施例23?25
実施例20?22において、セリンプロテアーゼを添加して1時間保持した後、更にポリアミジン系高分子凝集剤(SC-700:ハイモ社製)を添加し、同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料d?fとする。尚、ポリアミジン系高分子凝集剤の添加量は銅微粒子1000重量部に対して30重量部であった。
【0039】
実施例26?28
実施例20?22において、タンパク質分解酵素を添加し1時間保持した後、硫酸を用いてpHを5に調整し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料g?iとする。
【0040】
比較例1
錯化剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料T)を得た。
【0041】
比較例2
ゼラチンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料U)を得た。
【0042】
比較例3
平均結晶子径が5.1nmの水酸化第二銅29g、錯化剤としてCuO1000重量部に対し18重量部に相当するトリ-n-プロピルアミンの水溶液、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から60℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、ブドウ糖20gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて反応させ、中間生成物を得た。引き続き、温度を60℃に保持しながら、80%のヒドラジン一水和物28gを添加し、1時間かけて中間生成物と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、銅微粒子(試料V)を得た。
【0043】
評価1:平均粒子径の測定
実施例1?28、比較例1?4で得られた試料A?V、a?iの平均一次粒子径(D)を電子顕微鏡法により測定し、平均二次粒子径(d)を動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定した。平均二次粒子径(d)の測定には、試料を超音波分散機を用いて水中に十分に分散させ、レーザーの信号強度が0.6?0.8になるように濃度調整した水系スラリーを用いた。結果を表2に示す。本発明より得られた銅微粒子は、平均粒子径(D)が、すなわち、一次粒子径が微細であることが判る。また、平均粒子径(d)、すなわち、二次粒子径も微細であり、同じにd/Dが1に近似しており、ほとんど凝集粒子を含まないことが判る。
【0044】
【表2】

【0045】
評価2:粒子形状の確認
実施例1、2、12、13、17、18、19、比較例1、2で得られた試料A、B、L、M、Q?Uの電子顕微鏡写真を撮影した。その結果を図1?9に示す。本発明により得られた銅微粒子は、多面体構造の整った粒子形状を有することが判る。
【0046】
評価3:酸化第一銅生成の確認
実施例14において、還元剤を添加してから25分後、35分後、55分後に還元反応途中の媒液を分取し、蒸発乾固した。これらを試料j?lとする。試料j?l及び出発物質として用いた酸化第二銅(N-120)のX線回折を測定し比較した。結果を図10に示す。試料j?lには、酸化第一銅に由来するピークが認められず、酸化第二銅から酸化第一銅を経由せず金属銅に還元されたことが判る。尚、他の実施例についても同様の評価を行ったところ、還元反応中に酸化第一銅が生成していないことが確認された。また、比較例3において、得られた中間生成物を含む媒液を濾別、乾燥し、この乾燥物(試料m)のX線回折を測定した。その結果を図11に示す。中間生成物が酸化第一銅であることが判る。
【0047】
評価4:収率、洗浄性の評価
実施例20?28、比較例3について、ブフナーロートを用いて吸引濾過により固液分離し、濾過中に純水で洗浄を行って、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまでに要する洗浄時間を測定した。また、回収した銅微粒子の重量を測定し、収率((銅微粒子の回収量/使用した銅化合物量から算出した金属銅換算量)×100)を算出した。結果を表3に示す。保護コロイド除去剤の使用、及び、保護コロイド除去剤と凝集剤またはpH調整との併用により、濾過洗浄性、収率が向上していることが判る。
【0048】
【表3】

【0049】
2.銅ペーストの調製と評価
【0050】
実施例29、比較例4、5
実施例11、比較例1、3で得られた銅微粒子(試料K、T、V)を、表4に示す処方で、3本ロール(ロール径65mmΦ)を用い、3パス(ロールクリアランス:1パス目30μm、2及び3パス目1μm)して混練して、本発明及び比較対象の銅ペーストを得た。それぞれを試料n?pとする。
【0051】
【表4】

【0052】
評価5:分散性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n?p)を、つぶゲージを用い、JISK5400に準じた方法で分散性を測定した。結果を表5に示す。測定値が小さい程分散性が優れていることを表すことから、本発明の銅微粒子は銅ペーストにした際の分散性が優れていることが判る。
【0053】
評価6:導電性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n?p)を、4ミルアプリケーターを用い、アルミニウム板上に塗布し、80℃の温度で2時間予備乾燥した。その後、窒素雰囲気中(窒素流量:500cc/分)で300℃の温度で1時間焼き付けて塗膜化し、更に、濃度2%の水素雰囲気下で500℃の温度で1時間焼成し還元した。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の体積抵抗率を、ロレスタ-GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。体積抵抗率が小さい程導電性が高いことを表すことから、本発明の銅微粒子を配合した銅ペーストは導電性が高いことが判る。
【0054】
【表5】



(6-f)「【図10】



上記(6-a)によると、甲第6号証には、積層セラミックスコンデンサーの電極や、プリント配線基板の回路等製造用の銅微粒子が記載されている。
そして、上記(6-e)(【0044】【表2】)には、実施例14(試料N)として、平均一次粒子径Dが0.20μm、平均二次粒子径dが0.21μm、d/Dが1.05である銅微粒子が示されており、上記(6-e)(【0043】)によれば、該銅微粒子は、微細で、ほとんど凝集粒子を含まないものである。
また、上記(6-e)(【0032】)によれば、実施例14の銅微粒子は、工業用酸化第二銅(N-120:エヌシーテック社製))、保護コロイドとしてのゼラチンを純水に添加し、pH11に調整後90℃に昇温し、ヒドラジンと純水を含む液を添加して酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を形成し、その後、濾過洗浄、乾燥して実施例14(試料N)を得たことが記載され、上記(6-b)(【0007】)によれば、保護コロイドは銅微粒子の表面に被着または吸着していると認められるから、当該銅微粒子は、保護コロイドとしてのゼラチンが被着または付着している湿式銅粉である。
よって、甲第6号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「平均一次粒子径Dが0.20μmであり、ほとんど凝集粒子を含まず、かつ、保護コロイドとしてのゼラチンが表面に被着または吸着している湿式銅粉。」(以下、「甲6発明」という。)

(7)甲第7号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第7号証である、特開2005-154861号公報には以下の事項が記載されている。
(7-a)「【0001】
本件出願に係る発明は、芯材である銅粉の粉粒表面に第1無機物コート層と第2無機物コート層とを備える二層コート銅粉及びその二層コート銅粉の製造方法並びにその二層コート銅粉を用いた導電性ペーストに関する。なお、特に低温焼成セラミック材料用途に好適な銅粉の提供を目的とする。」

(7-b)「【0005】
最初に結晶子径の制御に関して述べることとする。一般的に銅粉の製造は、大別して乾式製造法と湿式製造法とに分類して捉えることができる。後者の湿式製造法とは、目的とする金属元素を含む溶液中から銅粉を直接析出させることにより製造する方法であると言える。これに対し、前者の乾式製造法には、完全にメカニカルな手法のみを用いる粉砕法はもちろん、溶融金属を用いるアトマイズ法を含むものと言える。
【0006】
これらの手法で得られる銅粉の特徴としては、前者の乾式製造法で得られる銅粉は、その結晶子径が40?50nmの範囲にあり比較的大きく、当該銅粉は焼成を行う場合の耐酸化性及び耐熱収縮性に優れるという長所を有している。これに対し、湿式製造法で製造した銅粉は、その結晶子径が一般的に35nm以下であり乾式製造法で得られる銅粉と比較して小さく、焼成時の耐酸化性及び耐熱収縮性に劣るという短所を有している。耐熱収縮性は、一般的に結晶子の大きさによる影響が大きいと言われ、結晶子径が大きいほど、高温加熱されたときの収縮性が小さく、耐熱収縮性に優れるものとなる。これらのことを考える限り、乾式製造法で製造した銅粉を用いることで全ての問題を解決できるように考えられる。ところが、現実の乾式製造法で得られた粉体と湿式製造法で得られた粉体との耐熱収縮性の差も極めて大きなものではなく、しかも、いずれの製造方法で得られた粉体も低温での焼結が早く起きるという焼結特性を有するものである。」

(8)甲第8号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第8号証である、特開2005-298903号公報には以下の事項が記載されている。
(8-a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてセラミックス基板の導電路や積層セラミックス部品の電極の形成等に用いられる焼成型導電性ペースト用の導電フィラーとして適し、金属ペーストの添加剤、触媒材料、フィルター用材料にも適した銅粉末の製造方法および銅粉末並びに当該銅粉末を用いた焼成型導電性ペーストに関するものである。」

(8-b)「【0023】
銅微粉末元粉の表面の一部分が互いに結合した凝集状態とは、前記銅微粉末元粉が有する、粒子形状、BET特性、酸素濃度特性、炭素を代表とする不純物濃度特性、熱収縮特性が、実質的に保たれたまま凝集体となり、本発明に係る銅粉末の構成粒子となっていることをいう。この結果、本発明に係る銅粉末は、前記銅微粉末元粉の形状、BET特性、不純物濃度、等を実質的に維持したままタップ密度が制御された銅粉末となっている。そして、銅微粉末元粉の凝集状態を制御することで、当該銅粉末のタップ密度を前記銅微粉末元粉が有するタップ密度の0.98?0.50倍の範囲、即ち、タップ密度で2?5g/cm^(3)の範囲で制御することができた。
尚、本発明において、タップ密度はJIS Z 2504に準拠して測定したものであり、単位はg/cm^(3)である。」

(8-c)「【0041】
(実施例1)公知の湿式法にて製造した、タップ密度が4.35g/cm^(3)で平均粒径3μmの球状単分散銅微粉末20gを磁製皿に取り分け、水素雰囲気中1時間で240℃まで昇温し、その温度を5時間保持する条件で熱処理をおこなった。解砕・篩がけ後のタップ密度は4.25g/cm^(3)であった。また、不純物としての炭素の濃度は0.11wt%であり、銅および酸素以外の不純物(炭素およびその他の不純物)濃度は、0.2wt%以下であった。」

(9)甲第9号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第9号証である、特開2008-31491号公報には以下の事項が記載されている。
(9-a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料の配線形成用として有用な銅微粉及びその製造方法、並びにその銅微粉を含有する導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅等の金属微粉は、導電性ペーストのような電子部品の配線形成材料として、プリント配線、半導体の内部配線、プリント配線板と電子部品との接続等に利用されている。特に粒径が100nm以下の金属微粉は、通常のサブミクロン以上の粒子と異なり、極めて活性であるため融点が降下する現象が認められ、その融点降下現象を利用した低温焼成が検討されている。
【0003】
特に最近では、印刷技術の進歩により、スクリーン印刷やディスペンサーにより導電性ペーストを用いて配線パターンの印刷を行い、300℃以下の低温焼成して配線を形成するアディティブ法が提案され、研究開発が進められている。アディティブ法は、従来の金属膜積層板へのフォトレジストによるパターニング、露光、エッチング、レジスト除去の各工程によるサブトラクティブ法と比較して、工程の大幅な簡略化と資源の節約の観点から着目されている。
【0004】
また、電子部品の配線用材料として用いられる導電性ペーストでは、配線を形成した後の不純物の影響が問題となる。即ち、不純物元素が配線中の金属の腐食を促進し、絶縁部分にも金属元素が移動するマイグレーションが発生する結果、電界の影響もあって絶縁不良が発生する。不純物の中でも、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及びハロゲン元素が有害であることが知られている。特に300℃以下の低温域での焼成では、高温での焼成と比較して焼成時の揮発による除去がほとんど期待できないため、金属微粉の合成段階で有害な不純物を極力低減させる必要がある。」

(9-b)「【0007】
更に、気相法で合成する金属微粉は、金属が高温で気化して凝縮する過程を経るため、個々の微粒子がほぼ単結晶であり、液相から合成する微粒子よりも焼結活性が低いという特性を有するため、本質的に低温焼成による回路形成の用途には適していない。」

(9-c)「【0038】
本発明の銅微粉は、有機溶剤を加えて混練することによって、導電性ペーストとすることができる。有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ターピネオールなどが用いられる。有機溶剤の添加量は、特に限定されるものではないが、スクリーン印刷やディスペンサーなどの導電膜形成方法に適した粘度となるように、銅微粉の粒度を考慮して添加量を調整すればよい。」

(10)甲第10号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第10号証である、特開2006-176836号公報には以下の事項が記載されている。
(10-a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、超微粒銅粉スラリー及び当該超微粒銅粉スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の電極や電子回路の配線を形成する方法として、銅粉を導電性フィラーとして含有させた導電性ペーストや導電性インクを基板に印刷する方法が広く知られており、例えば、上記銅粉はスラリー状にされてからターピオネール等の有機物質に混入され、導電性ペーストや導電性インクとしての材料として使用される。」

(10-b)「【0008】
なお、特許文献1は銅の微粉に関する技術を開示するものであるが、分散の良い微粒を製造するために分散剤や耐酸化処理剤が用いられており、必然的に銅粉粒子表面上に低温で分解し難い物質がコートされた状態にある。したがって、特許文献1の方法によれば上述の配線部の低抵抗化は難しいと考えられる。
【特許文献1】特開2004-211108号公報
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の目的は、一次粒子径(D_(TEM))を0.01μm?0.1μmとし銅粉粒子の超微粉化を図ること、銅粉粒子表面に粒子同士の焼結に悪影響を与える物質が少ないこと、また、粉末の分散性も高いため分散剤を加える必要もなく、もって、低温での銅粒子同士の焼結性に優れていること、を達成することができる超微粒銅粉スラリー及び当該超微粒銅粉スラリーの製造方法を提供することにある。
本発明者等は、鋭意検討の結果、以下に述べる超微粒銅粉スラリー及びその製造方法を見出し、上記目的を達成し得ることを知見した。」

(11)甲第11号証の記載事項
本件特許の出願に係る優先権主張の日前に国内で頒布された甲第11号証である、「硫酸銅水溶液の水素加圧還元による銅微粉末製造法の研究」 資源・素材学会誌105 (1989) No.2 p169-173には以下の事項が記載されている。
(11-a)「1.緒言 近年,導電ペースト用金属粉末として貴金属粉末にかわる銅微粉末の利用が進んでいる。ハイブリッド回路の高密度下に伴い,微細な厚膜回路を基板上に印刷するために,導電ペースト用金属粉末としては,一般に,粒径は0.2?2μm程度で,できるだけ粒度分布が狭いこと,比表面積が小さいこと,分散性がよいこと等が要求されるが,特に銅微粉末に対しては,耐酸化性が優れていることが要求される。」(169頁左欄1行?8行)

第8 当審の判断
1 取消理由3及び4について
(ア)本件特許発明における一次粒子の凝集について、特許権者は、平成29年10月23日付け意見書(4頁9行?7頁21行)において、10,000倍又は30,000倍の倍率のSEM観察で認識できる最小単位の粒子である一次粒子が、多数の粒界を有する結晶粒の集合体である多結晶粒子から構成されている場合における該結晶粒の凝集のことである旨を主張している。

(イ)ところが、本件特許明細書には、本件特許発明における一次粒子の凝集が、一次粒子が多結晶粒子から構成されている場合における該結晶粒の凝集のことであることは記載されていない。
かつ、例えば上記第6の(b)(【0014】)には、本件特許発明の銅粉は、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下というサブミクロンオーダーの範囲に粒径を有することを特徴の一つとするものであって、前記範囲の粒径を有する銅粒子を合成すると、該銅粒子の表面に保護層を設けなくても粒子間の凝集が起こりづらいことが記載され、上記第6の(c)(【0023】)には、本件特許発明の銅粉は、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないにも関わらず、一次粒子の凝集が少ないものであることが記載されており、これらの記載からみれば、本件特許明細書には、一次粒子の凝集を少なくすることが記載されているのであって、結晶粒の凝集について記載されるものではなく、まして結晶粒の凝集を起こりづらくして少なくすることが記載されるものでもないことは、明らかである。
したがって、特許権者の上記意見書における主張は採用できない。

(ウ)そして、平成28年12月16日付け取消理由通知における取消理由3、4と、平成29年 7月14日付け取消理由通知における取消理由3、4は、実質的に同じものであって、具体的には、上記第6の(c)、(e)によれば、本件特許発明における「一次粒子の平均粒径D」は、電子顕微鏡による観察像において直接測定した粒子径に基づく球換算体積平均粒径である。
これに対し、「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」は、BET比表面積に基いて算出されるものであるが、申立人が提出した平成29年 4月10日付け意見書に添付された参考資料1である、株式会社島津製作所のWebサイト「粉博士のやさしい粉講座:初級コース」、検索日:平成29年4月1日、印刷日:平成29年4月1日(http://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/beginner/b11.htm)によれば、d=6/(ρs)(d:粒子の直径、ρ:密度、s:比表面積)という式による比表面積に基づく粒子径の評価は、凝集状態のままで、一次粒子の大小関係を評価できるという可能性を有するものである。
そうすると、本件特許発明においてBET比表面積に基いて算出される「D_(BET)」も一次粒子径といえるから、「D/D_(BET)」の値は、異なる2つの方法で算出される一次粒子径の関係を示すとはいえるものの、上記第6の(c)(【0023】)に記載されるような一次粒子の凝集の程度を示すものとはいえない。
次に、本件特許明細書における実施例に関する記載を見てみると、上記第6の(f)(【表1】)には、保護層がなく、「一次粒子径D」及び「結晶子径」の値が本件発明の範囲を満たし、「D/D_(BET)」の値のみが本件発明の範囲を外れるような比較例の記載はなく、実施例、比較例からは、「D/D_(BET)」の値の技術的意義を確認することはできない。
そうすると、本件特許明細書の記載からは、「D/D_(BET)」の値の技術的意義が明らかではなく、また、「D/D_(BET)」の値の範囲を特定することが、本件発明の「保護層がなくても銅粒子が凝集しにくく、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、かつ基材との密着性が高い導体膜を容易に形成し得る銅粉の提供」との課題の解決にどのように関係しているのかも明らかではない。
よって、本件特許の請求項1及びそれを引用する請求項2?6に記載される発明によって、どのように課題が解決されるのか明らかでないから、本件特許明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の委任省令要件を満たしておらず、また、本件特許請求の範囲の請求項1?6の記載は同条第6項第1号の規定を満たしているとはいえない、というものである。

(エ)そこで検討すると、上記参考資料1の記載は、凝集状態でも分散状態でもガスの吸着量が等しいと考え、全ての一次粒子が球体で単分散と仮定すれば、一次粒子の平均粒子径D=6/(密度×比表面積)の式で、一次粒子の平均粒子径Dを求めることができる、という技術事項を意味しているのであり、このことは、技術常識として当審において明らかである。
すると、上記参考資料1の記載は、そのような仮定の下に、凝集状態のままで、一次粒子の大小関係を、ガス吸着法による比表面積による粒子径の評価により評価できる可能性があることをいうものに過ぎず、このことから直ちに、「D_(BET)」が一次粒子径のことのみを意味するとはいえない。

(オ)一方、特許権者が提出した平成29年10月23日付け意見書に添付された乙16号証である特開2001-72434号公報には、以下の記載がある。
「【0007】
【発明の実施の形態】以下本発明について詳細に説明する。チタン酸マグネシウムの比誘電率が18(文献値)と低く、屈折率を測定した結果、2.2?2.3という高い値が得られ、屈折率が高いことを確認し、チタン酸マグネシウムがPDP隔壁材フィラーとして用い得ることを見出した。しかし、PDP隔壁材料であるガラス粉末との混合を考えると、ガラス粉末との粒径差が少ない、SEM写真による一次粒径が0.1μm以上10μm以下の範囲が好適であり、好ましくは0.3?5μmの範囲である。0.1μm未満または10μmを超える場合はガラス粉末との混合が適切に行えない場合がある。粒子形状については球状のものよりも反射や散乱に適したが多面体形状が好適である。
【0008】粒子が大きく、かつ粒子表面の凹凸が少ないことを示す低いBET比表面積範囲、すなわち0.1m^(2)/g以上10m^(2)/g以下が好ましく、0.3?5m^(2)/gがさらに好ましい。BET比表面積から算出した粒径が10μmの場合のBET比表面積は0.1m^(2)/gであるのでBET比表面積は0.1m^(2)/g以上である。
【0009】SEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した一次粒径で除した値が0.1以上5以下、好ましくは0.5以上1.5以下である凝集粒子の少ないチタン酸マグネシウム粉末が好適である。BET比表面積から粒径を算出するには、6(定数)÷3.9(チタン酸マグネシウムの理論密度で単位はg/cm^(3))÷BET比表面積(m^(2)/g)によりもとめることができる。凝集粒子が多い場合は粒子の面同士がつながっているため表面積が小さくなり、その結果SEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値が小さくなるので、0.1以上が望ましく、0.5以上がさらに望ましい。凝集粒子は隔壁を形成した場合の隔壁中の欠陥の原因となる。一方、粒子形状が不定形で面に欠陥が多く、凹凸が多い場合はSEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値は大きくなり、3以下が好ましく、1.5以下がさらに好ましい。粒子表面に欠陥が多く凹凸が多い場合は、光の反射効果が十分発現しない。」

(カ)上記(オ)の記載からみれば、上記乙16号証には、粒子中の凝集粒子の多少を、SEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値で評価することが開示されているといえる。
すなわち、凝集粒子が多い場合は粒子の面同士がつながっているため表面積が小さくなり、その結果SEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値が小さくなるのであり、このときBET比表面積から粒径を算出するには、6(定数)÷3.9(チタン酸マグネシウムの理論密度で単位はg/cm^(3))÷BET比表面積(m^(2)/g)により求めることができるものである。

(キ)ここで、上記乙16号証に記載されるSEM写真による一次粒径は、本件特許発明における「一次粒子径D」といえる。
また、上記乙16号証に記載される
「6(定数)÷3.9(チタン酸マグネシウムの理論密度で単位はg/cm^(3))÷BET比表面積(m^(2)/g)」
という式と、上記第6の(e)(【0068】)に記載される
「D_(BET)(μm)=6/(SSA(m^(2)/g)×8.94(g/cm^(3))」
という式を比較した場合、「3.9」が「チタン酸マグネシウムの理論密度で単位はg/cm^(3)」であり、「8.94(g/cm^(3))」が銅の室温近傍の密度であることからみれば、上記乙16号証においてBET比表面積から算出した粒径も、本件特許発明における「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」も、
「6/(SSA(BET比表面積)(m^(2)/g)×対象とする物質の密度(g/cm^(3)))」
という実質的に同じ式に基づいて算出されるものであるから、上記乙16号証においてBET比表面積から算出した粒径は、本件特許発明における「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」といえるものであり、これは、対象となる物質が異なるとしても、その物質の密度に応じて算出されるものである。
すると、上記乙第16号証におけるSEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値は、本件特許発明における「D/D_(BET)」に相当するものである。

(ク)してみれば、上記乙16号証には、粒子中の凝集粒子の多少を、「D/D_(BET)」により評価することが開示されているといえ、本件特許発明においても、乙16号証に記載されるのと同様に、銅の室温近傍の密度(8.94(g/cm^(3)))に基づいて、粒子中の凝集粒子の多少を「D/D_(BET)」により評価できることは明らかである。
このことと、上記(エ)の検討によれば、「D/D_(BET)」が一次粒子の凝集の程度を示すものではないとまではいえない。

(ケ)そうすると、本件特許明細書における実施例に、保護層がなく、「一次粒子径D」及び「結晶子径」の値が本件発明の範囲を満たし、「D/D_(BET)」の値のみが本件発明の範囲を外れるような比較例の記載がないからといって、このことから直ちに、「D/D_(BET)」の値の技術的意義を確認することができないともいえない。

(コ)なお、上記乙16号証の記載によれば、凝集粒子が多い場合は粒子の面同士がつながっているため表面積が小さくなり、その結果SEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値が小さくなるのであるが、上記第6の(c)(【0024】)には、「D/D_(BET)」の値が1よりも大きいほど、銅粉の粒径分布が広く、粒径が不揃いであるか、又は凝集が多いと推測できることが記載されており、本件特許明細書の上記記載は、上記乙16号証の、凝集粒子が多い場合はSEM写真による一次粒径をBET比表面積から算出した粒径で除した値が小さくなる、という記載と整合していないが、いずれにしろ「D/D_(BET)」の値が1に近ければ凝集粒子が少ないと判断できることに変わりはないから、このことのみにより、「D/D_(BET)」の値の技術的意義が明らかでないとまではいえない。

(サ)したがって、本件特許発明1によって、どのように課題が解決されるのかが明らかでないとまではいえないから、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の委任省令要件を満たしていないとはいえないし、本件特許請求の範囲の請求項1の記載が、同条第6項第1号の規定を満たしていないともいえない。
このことは、請求項1を引用する本件特許発明2?本件特許発明6についても同様である。

2 取消理由1及び2について
(1)甲第6号証を主引用例とする場合について
(1-1)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)本件特許発明2と甲6発明とを対比すると、甲6発明の「湿式銅粉」は、本件特許発明2の「銅粉」に対応する。
また、甲6発明の「湿式銅粉」と本件特許発明2の「銅粉」は、一次粒子の平均粒径Dが0.20μmである点で重複している。
更に、上記第6の(c)(【0023】?【0024】)に記載のとおり、「D/D_(BET)」の値が、銅粉の粒径が均一で凝集のない理想の単分散状態に比べて、どれほど粒径分布が広いかを示す尺度であり、凝集度の推定に用いることができるものであって、その値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できるとするならば、甲6発明における「ほとんど凝集粒子を含ま」ないものは、本件発明における「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」と一次粒子の平均粒径Dとの比である「D/D_(BET)」の値を尺度として評価することができるから、本発明の銅粉は、この「D/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である」に相当するものと認められる。

(イ)よって、本件特許発明2と甲6発明は、「一次粒子の平均粒径Dが0.20μmであり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である銅粉」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点6-1:本件特許発明2では、「粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない」のに対し、甲6発明では、「表面に保護コロイドとしてのゼラチンが被着または吸着している」点。

相違点6-2:本件特許発明2では、「結晶子径が39nm以下である」の対し、甲6発明では、結晶子径が不明である点。

相違点6-3:本件特許発明2では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であるのに対して、甲6発明では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点6-2について
(ア)申立人は、上記第7の(6-f)の図面の測定結果から算出すると、上記第7の(6-e)(実施例14)の銅粉として、「結晶子径が31.69?37.21nm程度の銅粉」が記載されている旨、上記第7の(7-b)(【0006】)には、湿式製造法で製造した銅粉は、その結晶子径が一般的に35nm以下であることが記載されているから、甲6発明は結晶子径が60nm以下の銅粉である旨(特許異議申立書(以下、「申立書」という。)119頁下から9行?122頁下から5行)を主張している。

(イ)ところが、上記図面自体が、必ずしも正確な測定値を開示するものとはいえないから、上記図面の測定結果から正確な結晶子径を算出できると直ちにはいえない。
また、特許権者は、平成29年10月23日付け意見書(11頁下から9行?14頁3行)において、上記図面の測定結果から結晶子径を算出すると、甲6発明の結晶子径は40nm以上となる旨を主張しており、このことからみれば、上記図面の測定結果から結晶子径を一義的に算出できるものでもない。
更に、湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が一般的に35nm以下であるからといって、甲第6号証における湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が必ず39nm以下となるとはいえないし、湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が決定される機序が明らかにされるものでもないから、甲第7号証の上記記載から、直ちに、甲第6号証の実施例14の銅粉の結晶子径が39nm以下であるということもできない。
したがって、上記相違点6-2は実質的な相違点である。

(ウ)そして、上記第6の(c)(【0027】)によれば、本件特許発明は、結晶子径を39nm以下とすることにより、銅粉の低焼結性が一層良好となるものであるが、甲第1号証?甲第11号証に、結晶子径を39nm以下とすることにより、銅粉の低焼結性が一層良好となることが記載も示唆もされるものではないので、甲6発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-2)相違点6-3について
(ア)上記第7の(6-b)?(6-c)によれば、甲6発明は、錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、必要に応じて分別、洗浄を行うものであるが、媒液に「保護コロイド除去剤」を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別するのが好ましいものであり、「保護コロイド除去剤」は、保護コロイドを分解または溶解して保護コロイドの作用を抑制する化合物であり、媒液から保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば効果が得られるものである。
すると、甲6発明は、金属銅微粒子の表面の保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できればよいものであるから、甲6発明において「保護コロイド除去剤」が添加されているとしても、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が0.10質量%以下であるとまではいえない。
したがって、上記相違点6-3は実質的な相違点である。

(イ)上記第6の(b)によれば、本件特許発明2は、0.15以上0.6μm以下の平均粒径Dを有し、かつ粒子表面に保護層を有しないことにより、その良好な低温焼結性に大きく寄与するものであるが、更に銅粉の低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくするものであって、具体的には、従来、保護層の成分として銅粉に存在していた炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、銅粉に対して0.10質量%以下とするものである。

(ウ)これに対して、上記第7の(6-b)?(6-c)によれば、甲6発明は、保護コロイドに関して、該保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば効果が得られるという程度にとどまるものであって、甲6発明において、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくする必要はないから、甲6発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を0.10質量%以下とする合理的な動機付けは存在しない。

(エ)また、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証には、銅粉において、低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくすることが記載も示唆もされるものではない。
してみれば、甲6発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点6-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-3)まとめ
従って、上記相違点6-1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(1-2)本件特許発明3?4について
(ア)本件特許発明3?4は請求項2を引用するものであるから、甲6発明と比較した場合、少なくとも上記相違点6-2、6-3の点で相違するものである。
そして、上記相違点6-2、6-3は実質的な相違点であるところ、甲6発明において、銅粉の結晶子径を上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、及び、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を上記相違点6-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2は、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるともいえないことは、上記(1-1)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記相違点6-1について検討するまでもなく、本件特許発明3?4も、上記(1-1)イに記載したのと同じ理由により、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(1-3)本件特許発明5について
ア 対比
(ア)本件特許発明5と甲6発明とを対比すると、甲6発明の「湿式銅粉」は、本件特許発明5の「銅粉」に対応する。
また、甲6発明の「湿式銅粉」と本件特許発明2の「銅粉」は、一次粒子の平均粒径Dが0.20μmである点で重複している。
更に、上記第6の(c)(【0023】?【0024】)に記載のとおり、「D/D_(BET)」の値が、銅粉の粒径が均一で凝集のない理想の単分散状態に比べて、どれほど粒径分布が広いかを示す尺度であり、凝集度の推定に用いることができるものであって、その値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できるとするならば、甲6発明における「ほとんど凝集粒子を含ま」ないものは、本件発明における「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」と一次粒子の平均粒径Dとの比である「D/D_(BET)」の値を尺度として評価することができるから、本発明の銅粉は、この「D/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である」に相当するものと認められる。

(イ)よって、本件特許発明5と甲6発明は、「一次粒子の平均粒径Dが0.20μmであり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である銅粉」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点6-1’:本件特許発明5では、「粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない」のに対し、甲6発明では、「表面に保護コロイドとしてのゼラチンが被着または吸着している」点。

相違点6-3’:本件特許発明5では、「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である」のに対して、甲1発明では、「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和」が不明である点。

相違点6-4:本件特許発明5では、「焼結開始温度が170℃以上240℃以下」であるの対し、甲6発明では、「焼結開始温度」が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点6-3’について
(ア)上記相違点6-3’は、上記相違点6-3と同じものであって、上記相違点6-3は実質的な相違点であること、及び、甲6発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点6-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(1-1)イ(イ-2)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同じ理由により、上記相違点6-3’も実質的な相違点であって、甲6発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点6-3’に係る発明特定事項のものに特定することも、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-2)まとめ
したがって、上記相違点6-1’、6-4について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(1-4)本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6は、請求項2?5を引用する銅粉を含むものであるから、甲6発明と比較した場合、少なくとも上記相違点6-2、6-3及び6-3’の点で相違するものであり、上記相違点6-3’は、上記相違点6-3と同じものである。
そして、上記相違点6-2、6-3は実質的な相違点であるところ、甲6発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点6-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2?5は、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるともいえないことは、上記(1-1)イ、(1-2)、(1-3)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記(1-1)イ、(1-2)、(1-3)イに記載したのと同じ理由により、本件特許発明6も、甲6発明と同一であるとはいえないし、甲6発明と、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(2)甲第3号証を主引用例とする場合について
(2-1)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)本件特許発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「導電ペースト用湿式銅粉」は、本件特許発明2の「銅粉」に対応する。
また、甲3発明の「導電ペースト用湿式銅粉」と本件特許発明2の「銅粉」は、一次粒子の平均粒径Dが0.17?0.27μmである点で重複し、一次粒子の平均粒径Dと「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」との比である「D/D_(BET)」の値が1.2?1.6である点で重複している。

(イ)よって、両者は、「一次粒子の平均粒径Dが0.17?0.27μmであり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が1.2?1.6であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3-1:本件特許発明2では、「結晶子径が39nm以下である」のに対し、甲3発明ではそれが明らかでない点。

相違点3-2:本件特許発明2では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であるのに対して、甲3発明では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点3-1について
(ア)申立人は、上記第7の(3-e)(【0041】)によれば、甲第3号証の実施例1?16、比較例2及び4の銅粉は、湿式製造法により作製されており、上記第7の(7-b)によれば、湿式製造法で製造した銅粉は、その結晶子径が一般的に35nm以下であるから、甲第3号証には、実施例1?16、比較例2及び4の銅粉として、結晶子径が60nm以下の銅粉が記載されている旨を主張している(特許異議申立書133頁4行?18行。当審注:申立書133頁7行の「甲第6号証」は「甲第3号証」の誤記と認められる。)。

(イ)しかしながら、湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が一般的に35nm以下であるからといって、甲第3号証における湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が必ず39nm以下となるとはいえないし、湿式製造法で製造した銅粉の結晶子径が決定される機序が明らかにされるものでもないから、甲第7号証の上記記載から、直ちに、甲第3号証の実施例1?16、比較例2及び4の銅粉の結晶子径が39nm以下であるということはできない。
したがって、上記相違点3-1は実質的な相違点である。

(ウ)そして、上記第6の(c)(【0027】)によれば、本件特許発明は、結晶子径を39nm以下とすることにより、銅粉の低焼結性が一層良好となるものであるが、甲第1号証?甲第11号証に、結晶子径を39nm以下とすることにより、銅粉の低焼結性が一層良好となることが記載も示唆もされるものではないので、甲3発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イー2)相違点3-2について
(ア)上記第7の(3-e)(【0041】?【0043】)によれば、甲3発明は、銅微粒子の製造過程で少なくとも4.70?8.00gのクエン酸を使用するから、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないとしても、このことから直ちに、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であるということはできない。
したがって、上記相違点3-2は実質的な相違点である。

(イ)上記第6の(b)によれば、本件特許発明2は、0.15以上0.6μm以下の平均粒径Dを有し、かつ粒子表面に保護層を有しないことにより、その良好な低温焼結性に大きく寄与するものであるが、更に銅粉の低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくするものであって、具体的には、従来、保護層の成分として銅粉に存在していた炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、銅粉に対して0.10質量%以下とするものである。

(ウ)これに対して、上記第7の(3-d)(【0036】)によれば、甲3発明は、銅粉体中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することができる方法が好ましく、これにより、乾燥処理中の凝集を防止する効果や、銅粉の表面に存在する官能基の活性度合いが高まることにより脂肪酸を表面処理した際の脂肪酸や表面処理剤などの銅粉への付着率が高まる効果があると考えられるものであり、その後、脂肪酸およびベンゾトリアゾールなどの防錆効果ある物質を低級アルコールなどに溶解し、水洗した銅ケーキに通液またはリパルプさせることにより、その物質で被覆してもよいし、また、銅ケーキの乾燥を早めるために、銅ケーキ中の水分を低級アルコールにより置換してもよいものである。
してみれば、甲3発明は、保護層に関して、製造過程で保護層を形成するものではないから、その結果、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有しない、という程度にとどまるものであって、甲3発明が、低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくするものとはいえないので、甲3発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を0.10質量%以下とする合理的な動機付けは存在しない。

(エ)また、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証には、銅粉において、低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくすることが記載も示唆もされるものではない。
してみれば、甲3発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点3-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-3)まとめ
従って、本件特許発明2は、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(2-2)本件特許発明3?4について
(ア)本件特許発明3?4は請求項2を引用するものであるから、甲3発明と比較した場合、少なくとも上記相違点3-1、3-2の点で相違するものである。
そして、上記相違点3-1、3-2は実質的な相違点であるところ、甲3発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、及び、甲3発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点3-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2は、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえないことは、上記(2-1)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記(2-1)イに記載したのと同じ理由により、本件特許発明3?4も、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(2-3)本件特許発明5について
ア 対比
(ア)本件特許発明5と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「導電ペースト用湿式銅粉」は、本件特許発明5の「銅粉」に対応する。
また、甲3発明の「導電ペースト用湿式銅粉」と本件特許発明2の「銅粉」は、一次粒子の平均粒径Dが0.17?0.27μmである点で重複し、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が1.2?1.6である点で重複している。

(イ)よって、両者は、「一次粒子の平均粒径Dが0.17?0.27μmであり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が1.2?1.6であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3-2’:本件特許発明5では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であるのに対して、甲3発明では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が不明である点。

相違点3-3:本件特許発明5では、「焼結開始温度が170℃以上240℃以下」であるのに対し、甲3発明では、「焼結開始温度」が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点3-2’について
(ア)上記相違点3-2’は、上記相違点3-2と同じものであって、上記相違点3-2は実質的な相違点であること、及び、甲3発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点3-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(2-1)イ(イ-2)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同じ理由により、上記相違点3-2’も実質的な相違点であって、甲3発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点3-2’に係る発明特定事項のものに特定することも、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-2)まとめ
したがって、上記相違点3-3について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(2-4)本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6は、請求項2?5を引用する銅粉を含むものであるから、甲3発明と比較した場合、少なくとも上記相違点3-1、3-2及び3-2’の点で相違するものであり、上記相違点3-2’は、上記相違点3-2と同じものである。
そして、上記相違点3-1、3-2は実質的な相違点であるところ、甲3発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点3-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2?5は、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえないことは、上記(2-1)イ、(2-2)、(2-3)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記(2-1)イ、(2-2)、(2-3)イに記載したのと同じ理由により、本件特許発明6も、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明と、甲第1号証?甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

3 当審で採用しなかった異議申立理由について
申立理由1、申立理由5及び申立理由6については、上記「1 取消理由3及び4について」、「2 取消理由1及び2について」に記載のとおりであるので、申立理由2?申立理由4について、以下、検討する。
(1)申立理由2について
(ア)上記第6の(d)、(f)、(g)によれば、本件特許発明における焼結開始温度は、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気の炉の中に銅粉を静置し、炉の温度を次第に上昇させることによって測定することができるものであり、具体的には、銅粉をアルミニウム製の台に乗せて、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下、160℃の設定温度で1時間保持し、その後、炉から銅粉を取り出し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率50,000倍で銅粉を観察し、面会合の有無を調べ、上記第6の(j)(【図1】(a))のように、面会合が観察されない場合、炉の設定温度を、前記の設定温度から10℃高い温度に設定し直し、新たな設定温度において面会合の有無を前記と同様にして調べ、この操作を繰り返し、上記第6の(j)(【図1】(a))とは異なり、面会合が観察された炉の設定温度を、焼結開始温度(℃)とするものである。
ここで、面会合とは、一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態をいうものであり、上記第6の(j)(【図1】(b))には、230℃で2時間熱処理した粒子同士の面会合が起きている観察像が例示されるものである。

(イ)そして、上記(ア)によれば、本件特許明細書には、焼結開始温度の具体的な測定方法が記載され、また、面会合の定義が、「一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態をいう」ものとして記載されており、更に、上記第6の(j)(【図1】(b))には、請求項4で特定される温度範囲の熱処理で面会合が起きている組織の観察像が例示されているから、これらの記載に接した当業者は、焼結開始温度を測定する過程で、上記定義及び例示される観察像に基づいて、「一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態」の有無を調べることにより、面会合の有無を調べることができるものである。
また、本件特許明細書には、面会合の定義が記載されていることと、請求項4において、焼結開始温度が170℃以上240℃以下と特定されていることからみれば、面会合の有無を調べる場合の観察像の例が、必ずしも、160℃1時間加熱と170℃1時間加熱の状態の写真である必要はないことは明らかである。

(ウ)してみれば、本件特許発明の明細書の記載から、当業者が焼結開始温度を理解することができないということはできない。

(2)申立理由3について
(ア)文節1Aにおける「一次粒子の平均粒径D」と、文節1Bにおける「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」及び文節1Dにおける「結晶子径」は、それぞれが独立した変数であることは、技術常識からして明らかであり、例えば、「一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下」であれば、必ず「D_(BET)」の値の範囲が決定されるとか、結晶子径が39nm以下となる、といった機序が存在するものでもない。
してみれば、本件特許発明の実施例に、たまたま文節1Aを満たすが、文節1B及び文節1Dの少なくとも一方を満たさない銅粉の例が記載されていないからといって、文節1Aを満たす銅粉が、必ず、文節1B及び文節1Dのいずれも満たすことが記載されているということはできない。

(イ)そうすると、本件特許発明1において、文節1Aの数値限定のみを行えば、その結果、必ず文節1B及び文節1Dのいずれの結果にも含まれていることとなるものではないし、3つの数値に対して直列的限定を行って請求項が形成されている時に、一の数値の限定の結果が他の2つの数値の限定の結果に全て含まれるようなものでもないから、申立理由3は前提において誤っているので、特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえないし、簡素でないともいえない。

(3)申立理由4について
(3-1)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「銅微粒子」は、本件特許発明2の「銅粉」に対応する。
また、甲1発明の「銅微粒子」と本件特許発明2の「銅粉」は、共に、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有しないものであり、更に結晶子径が37.6nmである点で重複している。

(イ)してみると、本件特許発明2と甲1発明は、「粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、結晶子径が37.6nmである銅粉。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明2では、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であるのに対して、甲1発明では、「銅粉」の個数平均粒径が187nmである点。

相違点1-2:本件特許発明2では、一次粒子の平均粒径Dと「BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)」との比である「D/D_(BET)」の値が0.8以上4.0以下であるのに対して、甲1発明では、「D/D_(BET)」の値が不明である点。

相違点1-3:本件特許発明2では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であるのに対して、甲1発明では、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点1-1について
(ア)甲1発明では、「銅粉」の個数平均粒径が187nmであるのに対して、上記第6の(b)(【0015】)によれば、本件特許発明における銅粉の一次粒子の平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡による観察像を用いて測定した複数の粒子のフェレ径を球に換算した体積平均粒径である。
これについて申立人は、上記第7の(1-d)、(1-h)、(1-k)によれば、【図4】及び【図7】に示された個数基準の粒度分布から、体積基準の50%累積径D50、10%累積径D10、90%累積径D90、(D90-D10)/D50を算出した結果、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下である銅粉が記載されているといえる旨を主張している(申立書89頁8行?96頁3行。)。

(イ)上記算出は、甲第1号証の実施例1及び2のCu微粒子が略球状で、凝集が少ない粒子であるから、これの粒度分布から求めたD50は本件特許発明におけるDに十分対応するものであることを前提として、【図4】の粒度分布の粒径軸の各目盛の半分のところをセンター値Cと定め、【図4】を拡大し、センター値Cが490nmを示す箇所の粒径の個数を示す棒グラフの長さを実測し、その実測値R1の長さを粒子1個分の長さと定義して、各センター値Cでの棒グラフの長さを実測し、粒径490nmの粒子数1個を基準とし、各センター値Cでの粒子数を算出する、といった過程を経るものである。

(ウ)ところが、甲第1号証の実施例1及び2のCu微粒子の形状や凝集の程度が、上記前提が正しく成り立つ範囲のものであることは明らかにされていないし、【図4】が必ずしも正確な数値を表示しているともいえないから、これを実測した数値が、各センター値Cでの粒子数として正確な数値であると、必ずしもいうことはできない。
そうすると、上記算出結果も、必ずしも正しいとはいえないから、甲第1号証に、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下である銅粉が記載されていると直ちにはいえないので、上記相違点1-1は実質的な相違点である。

(エ)そして、上記第6の(b)(【0015】)によれば、本件特許発明は、銅粉の平均粒径Dを0.6μm以下に設定することによって、該銅粉を用いて導体膜を形成するときに、銅粉が低温で焼結しやすくなり、また、粒子間に空隙が生じにくく、導体膜の比抵抗を低下させることができる一方、銅粉の平均粒径Dを0.15μm以上に設定することによって、銅粉を焼成するときの粒子の収縮を防止することができるものであるが、甲第2号証?甲第11号証に、銅粉の平均粒径Dを0.15μm以上0.6μm以下に設定することによって、該銅粉を用いて導体膜を形成するときに、銅粉が低温で焼結しやすくなる、粒子間に空隙が生じにくく、導体膜の比抵抗を低下させることができる、銅粉を焼成するときの粒子の収縮を防止することができる、といったことが記載も示唆もされるものではないので、甲1発明において、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dを、上記相違点1-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-2)相違点1-3について
(ア)上記第7の(1-d)によれば、甲1発明は、銅微粒子の製造過程で少なくとも2-プロパノールやエタノールを使用するから、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないとしても、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下であると直ちにいうことはできない。
このため、上記相違点1-3は実質的な相違点である。

(イ)上記第6の(b)によれば、本件特許発明2は、0.15以上0.6μm以下の平均粒径Dを有し、かつ粒子表面に保護層を有しないことにより、その良好な低温焼結性に大きく寄与するものであるが、更に銅粉の低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくするものであって、具体的には、従来、保護層の成分として銅粉に存在していた炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、銅粉に対して0.10質量%以下とするものである。

(ウ)これに対して、上記第7の(1-c)によれば、甲1発明は、銅微粒子表面を被覆する役割を果たす保護剤と呼ばれる化合物群を添加せずとも、粒径500nm以下の金属微粒子や金属酸化物微粒子を製造可能なものであるが、より微細な粒子を製造する目的で、必要に応じて保護剤を添加することも可能であるものである。
そうすると、甲1発明は、保護剤に関して、該保護剤を添加せずとも、粒径500nm以下の金属微粒子や金属酸化物微粒子を製造可能であるという程度にとどまるものであって、甲1発明が、低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくするものとはいえないから、甲1発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を0.10質量%以下とする合理的な動機付けは存在しない。

(エ)また、甲第2号証?甲第11号証には、銅粉において、低温焼結性を一層良好とする観点から、保護層を形成する元素の含有量を極力少なくすることが記載も示唆もされるものではない。
してみれば、甲1発明において、銅粉が、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないとしても、そこから進んで、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点1-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-3)まとめ
従って、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(3-2)本件特許発明3?4について
(ア)本件特許発明3?4は請求項2を引用するものであるから、甲1発明と比較した場合、少なくとも上記相違点1-1、相違点1-3の点で相違するものである。
そして、上記相違点1-1、1-3は実質的な相違点であるところ、甲1発明において、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dを、上記相違点1-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点1-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2は、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるともいえないことは、上記(3-1)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明3?4も、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(3-3)本件特許発明5について
ア 対比
(ア)本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「銅微粒子」は、本件特許発明5の「銅粉」に対応する。
また、甲1発明の「銅微粒子」と本件特許発明5の「銅粉」は、共に、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないものである。

(イ)してみると、本件特許発明5と甲1発明は、「粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉。」の点で一致する。

(ウ)一方、本件特許発明5と甲1発明は、以下の点で相違する。

相違点1-1’:本件特許発明5では、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であるのに対して、甲1発明では、「銅粉」の個数平均粒径が187nmである点。

相違点1-2’:本件特許発明5では、「一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である」のに対して、甲1発明では、「D/D_(BET)」の値が不明である点。

相違点1-3’:本件特許発明5では、「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である」のに対して、甲1発明では、「炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和」が不明である点。

相違点1-4:本件特許発明5では、銅粉の「焼結開始温度が170℃以上240℃以下である」のに対して、甲1発明では、「焼結開始温度」が不明である点。

イ 判断
(イ-1)相違点1-1’について
(ア)上記相違点1-1’は、上記相違点1-1と同じものであって、上記相違点1-1は実質的な相違点であること、及び、甲1発明において、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dを、上記相違点1-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(3-1)イ(イ-1)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同じ理由により、上記相違点1-1’も実質的な相違点であって、甲1発明において、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dを、上記相違点1-1’に係る発明特定事項のものに特定することも、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-2)相違点1-3’について
(ア)上記相違点1-3’は、上記相違点1-3と同じものであって、上記相違点1-3は実質的な相違点であること、及び、甲1発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点1-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(3-1)イ(イ-2)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同じ理由により、上記相違点1-3’も実質的な相違点であって、甲1発明において、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点1-3’に係る発明特定事項のものに特定することも、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ-3)まとめ
したがって、上記相違点1-2’、1-4について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(3-4)本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6は、請求項2?5を引用する銅粉を含むものであるから、甲1発明と比較した場合、少なくとも上記相違点1-1、1-3及び1-3’の点で相違するものであり、上記相違点1-3’は、上記相違点1-3と同じものである。
そして、上記相違点1-1、1-3は実質的な相違点であるところ、甲1発明において、「銅微粒子」の一次粒子の平均粒径Dを、上記相違点1-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないこと、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を、上記相違点1-3に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことから、本件特許発明2?5は、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえないことは、上記(3-1)イ、(3-2)、(3-3)イに記載のとおりである。

(イ)従って、上記(3-1)イ、(3-2)、(3-3)イに記載したのと同じ理由により、本件特許発明6も、甲1発明と同一であるとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

4 申立人の意見書における主張について
(4-1)申立人の平成29年 4月10日付け意見書における主張の概要
申立人の平成29年 4月10日付け意見書における主張の概要は、以下のとおりである。
ア 平成29年 2月20日付け訂正請求書の訂正事項2及び同日付け意見書の「5-5-2-2」について(1頁下から9行?3頁下から3行)
(ア)参考資料1の記載から、粒子が凝集しているときであっても、「D_(BET)」が凝集粒子径を表すものでないことは明らかであるので、「D/D_(BET)」を凝集度の推定に用いることはできない。

(イ)上記第6の(c)(【0023】?【0024】)の記載は、特許権者の主張から導出される事項と矛盾しているから、「D_(BET)」が凝集粒子径を表すものであったとしても、「D/D_(BET)」の技術的意義は不明である。

イ 甲第6号証に「D/D_(BET)」の記載はないとの主張について(4頁1行?下から7行、18頁14行?23行)
(ア)甲第6号証の実施例14の銅粉は、平均一次粒子径と平均二次粒子径とがほぼ等しいから、当該銅粉の「D/D_(BET)」は0.8?4.0の範囲にあるといえ、特許権者の主張は平成28年12月16日付け取消理由通知の認定に対して何らの実質的な回答をするものではない。

(イ)よって、「D/D_(BET)」が0.8?4.0の範囲にあることは甲第6号証に記載されているといえる。

ウ 甲第6号証に粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉についての記載はないとの主張について(4頁下から6行?7頁7行、18頁14行?23行)
(ア)甲第6号証は、保護コロイドを除去した銅粒子は回収効率が上がるように積極的に凝集しているのだから、「粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって」に該当する。

(イ)ペプチドは本件特許明細書に例示される保護層の物質に該当していない。仮に、ペプチドが凝集抑制効果を有する物質であったとしても、積極的に凝集している銅粒子の表面に残存する程度のペプチドまでもが本件特許発明1の「粒子間での凝集を抑制するための層」に該当するのであれば、「粒子間での凝集を抑制するための層」がどのような層であるか著しく不明瞭である。

(ウ)特許権者は、一方で乙第8号証の比較例1に記載の銅粉の表面には多少なりとも凝集抑制効果のある物質が付着しているのに、当該銅粉には「粒子間での凝集を抑制するための層」は有さないと主張し、他方で類似の状態の甲第6号証の銅粉には「粒子間での凝集を抑制するための層」が有すると主張しており、主張に一貫性がない。

(エ)以上から、甲第6号証には、実施例14の銅粉として、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉が記載されているといえる。

エ 甲第6号証に結晶子径についての記載はないとの主張について(7頁8行?16頁8行)
(ア)乙第1号証、参考資料6、参考資料7の記載に基づいて甲第6号証の実施例14の銅粉の結晶子径の計算を行うと、その結晶子径は39nm以下である。

(イ)特許権者は、異議申立書の122頁4行?13行の主張に意見を主張していない。

(ウ)特許権者は、湿式銅粉の結晶子径が35nm以下とは限らないことを主張しているが、甲第7号証、参考資料2の記載によれば、上記主張には根拠がなく、甲第6号証の実施例14の銅粉は、結晶子径が39nm以下である。

(エ)甲第6号証の実施例14の銅粉の結晶子径が39nmより大きかったとしても、その結晶子径を39nm以下とすることは、甲第9号証、参考資料3、参考資料4、参考資料5、甲第10号証、甲第7号証の記載から当業者にとって容易である。
そして、本件特許明細書には、銅粉の結晶子径を39nm以下とすることによる顕著な効果は示されていない。

オ 甲第3号証に結晶子径の記載はないとの主張について(16頁10行?17頁7行)
(ア)甲第3号証の実施例1?16、比較例2及び4の銅粉は、その結晶子径が39nm以下である蓋然性がきわめて高い。

(イ)仮に、甲第3号証の実施例1?16、比較例2及び4の銅粉の結晶子径が39nm以下でないとしても、その結晶子径を39nm以下とすることは、甲第9号証、参考資料3、参考資料4、参考資料5、甲第10号証、甲第7号証の記載から当業者にとって容易である。
そして、本件特許明細書には、銅粉の結晶子径を39nm以下とすることによる顕著な効果は示されていない。

カ 顕著な効果の主張について(17頁10行?18頁12行、23頁4行?17行)
(ア)本件特許発明により、低温焼結性について顕著な効果が奏されているとは認められない上、密着性についても顕著な効果が奏されているとは認められない。

キ 甲第6号証に焼結開始温度の記載はないとの主張について(18頁下から3行?20頁下から4行)
(ア)特許権者の「甲第6号証の銅粒子の表面にはペプチドが残存しているから、甲第6号証の銅粒子は請求項5の文節5D(焼結開始温度)の範囲を上回る蓋然性が極めて高い。」という主張は、根拠が示されていない。

(イ)甲第6号証の銅粉は、請求項1の文節1A?1D、請求項2の文節2A、請求項3の文節3Aを満たすから、請求項5の文節5D(焼結開始温度)を満たすといえる。

(ウ)甲第6号証の銅粉において、焼結開始温度自体を170℃以上240℃以下とすることは、甲第3号証、甲第4号証、甲第9号証、及び甲第10号証の記載から当業者が適宜なし得る事項でもあり、焼結開始温度が低いこと自体は、導電性ペースト用の銅粉の求められる特性の一つを規定したに過ぎないともいえる。

ク 甲第3号証に焼結開始温度の記載はないとの主張について(20頁下から2行?23頁1行)
(ア)請求項1の文節1A?1D、請求項2の文節2A、請求項3の文節3Aを満たせば、請求項5の文節5D(焼結開始温度)も満たすはずであり、そうでないのなら、どのように焼結開始温度を制御するのか当業者には理解することができない。

(イ)甲第3号証の銅粉は、請求項1の文節1A?1D、請求項2の文節2A、請求項3の文節3Aを満たすから、請求項5の文節5D(焼結開始温度)も満たすといえる。

(ウ)甲第3号証の銅粉において、焼結開始温度自体を170℃以上240℃以下とすることは、甲第3号証、甲第4号証、甲第9号証、及び甲第10号証の記載から当業者が適宜なし得る事項でもある。

ケ 平成29年 2月20日付け意見書「5-2-2-1」について(23頁下から7行?24頁7行)
(ア)「D/D_(BET)」の技術的意義は、特許権者の主張のとおりであったとしても不明であり、「D/D_(BET)」により本件特許発明の何らかの効果が奏されているとはいえない。

コ その他について(24頁8行?26頁8行)
(ア)面会合を明確にするためには、本件特許発明の明細書に、実施例1の銅粉の160℃1時間加熱と170℃1時間加熱の状態の写真を示す必要があるが、その写真の記載及びそれに変わる定義が記載されておらず、このような写真がなければ、250℃や350℃といった温度で2時間加熱したときに【図1】(b)のようになる銅粉について、その銅粉の焼結開始温度が170?240℃の範囲にあるのかを判断することができない。
よって、本件特許発明の明細書の記載及び技術常識からでは、当業者は焼結開始温度を理解することができない。

[申立人が提出した参考資料]
参考資料1:株式会社島津製作所のWebサイト「粉博士のやさしい粉講座:初級コース」、検索日:平成29年4月1日、印刷日:平成29年4月1日(http://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/beginner/b11.htm)
参考資料2:特開2001-89803号公報
参考資料3:「高機能電子デバイス向けに期待の導電性複合粉末と金属微粒子」、工業材料2005年2月号、第46頁?第50頁、発行日:平成17年 2月 1日
参考資料4:特開2011-80094号公報
参考資料5:特開2010-021101号公報
参考資料6:「粉末X線回折の実際」第2版、第30頁?第48頁、第59頁?第65頁、第254頁、発行所:株式会社朝倉書店、発行日:2009年 7月10日
参考資料7:X線分析の進歩 第41集(2010)「回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価」、第75頁?第85頁、発行日:2010年末日
参考資料8:「国立国会図書館サーチ」(NDL Search)のWEBサイト、検索日:平成29年 4月 9日、印刷日:平成29年 4月 9日(http://iss.ndl.go.jp)
参考資料9:「国立国会図書館サーチ」(NDL Search)のWEBサイトにおける「回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価」の検索結果、検索日:平成29年 4月 9日、印刷日:平成29年 4月 9日(http://iss.ndl.go.jp/books/r000000004-I10640944-00)

(4-2)申立人の平成29年11月29日付け意見書における主張の概要
申立人の平成29年11月29日付け意見書における主張の概要は、以下のとおりである。
ア 取消理由3及び4について(1頁下から11行?13頁15行)
(ア)本件特許明細書によれば、「凝集」は結晶粒同士ではなく一次粒子同士の凝集のことを指していることは明らかであり、本件特許明細書には、「一次粒子を構成する複数の結晶粒の凝集」は記載されていないから、「D/D_(BET)は、一次粒子を構成する複数の結晶粒の凝集を表す」という技術的意義も記載されていない。
そして、本件特許明細書に記載のない「技術的意義」に関する主張や立証は許されるべきではない。

(イ)特許権者のD_(BET)に関する主張は一貫性がなく、本件特許明細書の記載と矛盾しているから、「D/D_(BET)」の技術的意義は不明である。

(ウ)特許権者が提示した乙9号証?乙16号証は、いずれも銅粉について述べたものではなく、銅粉の一次粒子が結晶粒の集合体であることやその集合の仕方、銅粉の一次粒子における結晶粒の集合の状態を評価するためにSEM観察径とBET径の比が一般的に用いられていることについての根拠とはならないから、特許権者の主張の根拠とはなり得ない。

イ 甲第3号証に基づく取消理由1及び2について(13頁16行?20頁8行)
(ア)乙第22号証の実施例5や乙第23号証の実施例1?6は結晶子径を意図的に大きくしたものといえる。

(イ)甲第3号証の銅粉は、乙第22号証や乙第23号証のように結晶子径を意図的に大きくする物質を添加する処方で製造されていないから、甲第7号証の記載からみれば、その結晶子径は29nm以下と解するのが妥当であるので、上記相違点3-1は相違点にならない。

(ウ)乙第24号証の追試験が行われた実施例1では、クエン酸が0.042当量使用されているのに対して、比較例2は0.004当量、比較例4は0.032当量と少ないから、比較例2は炭素量が0.1%より大きく下回っていることは明らかであり、比較例4についても炭素量が0.1%を下回っている可能性がある。
従って、甲3発明は上記相違点3-2を満たしている。

(エ)乙第24号証による追試試験では、ろ液の(比)電導率が1000μS/cm以下になった時点で洗浄を終了しており、甲第3号証の実施例1の銅粉そのものを再現したとはいえない。100μS/cm以下程度になるまで洗浄を行えば、得られる銅粉の炭素量は0.1質量%以下になるはずであるから、乙第24号証の追試試験は不適切であり、甲第3号証の銅粉は、上記相違点3-2を満たしている。
同じ理由により、甲第3号証の銅粉は、相違点3-2’を満たしている。

[申立人が提出した参考資料]
参考資料10:特開2016-145404号公報
参考資料11:特開2013-147678号公報
参考資料12:特開2011-047021号公報
参考資料13:国際公開第2010/024385号
参考資料14:特開2007-039765号公報
参考資料15:「粉体 その機能と応用」第1版、第114頁?第115頁、編著者:神保元二他、発行所:財団法人日本規格協会、発行日:1991年11月20日
参考資料16:「粉体工学用語辞典」第2版、第75頁?第76頁、編者:粉体工学会、発行所:日本工業新聞社、発行日:2000年 3月30日
参考資料17:「初めての粉体技術」初版、第112頁?第113頁、著者:羽多野重信他、発行所:株式会社工業調査会、発行日:2000年11月15日

(4-3)判断
ア 「(4-1)ア、ケ」、「(4-2)ア」について
(ア)特許権者の平成29年10月23日付け意見書(4頁9行?5頁22行)における、本件特許発明における一次粒子の凝集とは、10,000倍又は30,000倍の倍率のSEM観察で認識できる最小単位の粒子である一次粒子が、多数の粒界を有する結晶粒の集合体である多結晶粒子から構成されている場合における該結晶粒の凝集のことである旨の主張は採用できないことは、上記1(イ)に記載のとおりである。

(イ)そして、乙16号証は、ガラスペースト配合用の無機フィラーであるチタン酸マグネシウム粉末に関する文献であり、銅粉について記載されていないとしても、本件特許発明において、乙16号証に記載されるのと同様に、銅の室温近傍の密度(8.94(g/cm^(3)))に基づいて、粒子中の凝集粒子の多少を「D/D_(BET)」により評価できることは明らかであることは、上記1(カ)?(サ)に記載のとおりである。

(ウ)また、上記第6の(c)(【0024】)の記載は乙16号証の記載事項と整合していないが、このことのみにより、「D/D_(BET)」の値の技術的意義が明らかでないとまではいえないことは、上記1(シ)に記載のとおりである。

(エ)そして、上記第6の(e)?(j)によれば、本件特許明細書には,本件特許発明の特定事項を満たす実施例により、焼結開始温度が低く、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、基材との密着性のよい銅粉が得られることが記載されているから、「D/D_(BET)」を0.8以上4.0以下に特定することにより本件特許発明の課題が解決されていないとはいえない。

(オ)したがって、上記「(4-1)ア、ケ」、「(4-2)ア」の主張は採用できない。

イ 「(4-1)イ?エ、キ」について
(ア)甲第7号証の上記記載から、直ちに、甲第6号証の実施例14の銅粉の結晶子径が39nm以下であるということはできないし、甲6発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(1-1)イ(イ-1)に記載のとおりである。
本件特許発明は、結晶子径に加えて、一次粒子の平均粒径D、「D/D_(BET)」、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和を特定し、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有しないものとすることにより、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、基材との密着性のよい銅粉が得られるものである。
そして、甲6発明において、単に銅粉の結晶子径を上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することにより、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、基材との密着性のよい銅粉が得られることを予測することは困難であるから、甲第9号証、参考資料3、参考資料4、参考資料5、甲第10号証、甲第7号証の記載から、結晶子径が小さくなると金属粉がより低温で焼結することは周知の技術事項であり、導電性ペースト用銅粉に低温焼結性が求められるのは周知の課題であるとしても、甲6発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点6-2に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ)そして、甲第6号証における「D/D_(BET)」の記載の有無、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉についての記載の有無、焼結開始温度の記載の有無、焼結開始温度を170℃以上240℃以下とすることの想到容易性は、上記(ア)の結論に影響しないから、上記「(4-1)イ?エ、キ」の主張は採用できない。

ウ 「(4-1)オ、ク」、「(4-2)イ」について
(ア)甲第7号証の上記記載から、直ちに、甲第3号証の実施例1?16、比較例2及び4の銅粉の結晶子径が39nm以下であるということはできないし、甲3発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(2-1)イ(イ-1)に記載のとおりであり、このことは、乙第22号証及び乙第23号証の記載事項に左右されるものではない。
また、甲3発明において、単に銅粉の結晶子径を上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することにより、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、基材との密着性のよい銅粉が得られることを予測することは困難であるから、甲第9号証、参考資料3、参考資料4、参考資料5、甲第10号証、甲第7号証の記載から、結晶子径が小さくなると金属粉がより低温で焼結することは周知の技術事項であり、導電性ペースト用銅粉に低温焼結性が求められるのは周知の課題であるとしても、甲3発明において、銅粉の結晶子径を、上記相違点3-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ)そして、甲第3号証における焼結開始温度の記載の有無、焼結開始温度を170℃以上240℃以下とすることの想到容易性、乙第24号証の追試験の適否は、上記(ア)の結論に影響しないから、上記「(4-1)オ、ク」、「(4-2)イ」の主張は採用できない。

エ 「(4-1)カ」について
(ア)上記第6の(e)?(j)によれば、本件特許明細書には,本件特許発明の特定事項を満たす実施例により、焼結開始温度が低く、低温焼結性が良好であり、比抵抗が低く、密着性のよい銅粉が得られることが記載されているから、本件特許発明により顕著な効果が奏されていないとはいえない。

(イ)なお、上記第6の(h)によれば、実施例15においては、導体膜にセロハンテープを貼り付けて剥離テストを行い、剥離の有無を調べたところ、剥離は観察されなかったのに対して、比較例3においては、導体膜について実施例15と同様の剥離テストを行ったところ、ポリイミドフィルムからの導体膜の剥離が観察されたのであり、同じ条件下の試験で剥離の有無が相違しているのであるから、セロハンテープの粘着力等が記載されていないとしても、密着性について効果を把握できることは明らかである。

(ウ)そして、このことは、低温焼結性が達成されれば密着性も必然的に達成されることに左右されるものでもないから、上記「(4-1)カ」の主張は採用できない。

オ 「(4-1)コ」について
(ア)「(4-1)コ」の主張は、上記申立理由2と同じものであって、本件特許発明の明細書の記載から、当業者が焼結開始温度を理解することができないということはできないことは、上記「3(1)」に記載のとおりである。
したがって、上記「(4-1)コ」の主張は採用できない。

第9 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項2?6に係る特許は、各取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項1に係る特許に対して特許異議申立人村野 親がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
銅粉
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元剤を用いて液中で銅イオンを還元する湿式の銅粉の製造方法に関する従来の技術としては、例えば還元剤としてヒドラジンを用いた方法が知られている(特許文献1ないし3参照)。特許文献1においては、水酸化銅のスラリーにヒドラジンやヒドラジン化合物を添加して酸化銅を生成させ、この酸化銅をヒドラジンやヒドラジン化合物によって銅に還元する方法が記載されている。特許文献2には、ヒドラジン系還元剤の添加前に銅塩水溶液のpHを12以上に調整した後、還元糖を添加してからヒドラジン系還元剤を添加することが記載されている。特許文献3には、水酸化銅スラリーを第1還元剤で還元して亜酸化銅スラリーとし、該亜酸化銅スラリーを第2還元剤で還元して銅粉を得る方法において、第1還元剤としてヒドラジンを用い、かつpH調整剤としてアンモニア水溶液を併用することが記載されている。
【0003】
銅粉の別の製造方法として、本出願人は先に、銅化合物が有機溶剤に溶解してなる油相と、還元剤が水に溶解してなる水相とを混合し、油相と水相との界面において銅を還元する方法を提案した(特許文献4参照)。
【0004】
銅粉の更に別の製造方法として、特許文献5には、還元剤を添加して銅化合物の溶液から金属を還元析出させることによって銅微粒子を製造する方法において、(i)銅塩の溶液に還元剤を添加することにより銅超微粒子からなる独立単分散状態にある核を生成させ、次いで(ii)該銅超微粒子及び還元剤の存在下、銅塩の溶液から金属銅を還元析出させることが記載されている。
【0005】
特許文献6には、硫酸第二銅塩と、エチレングリコールと、水酸化ナトリウムとを混合して水酸化銅を生成させ、次いでショ糖を加えた後に液を加熱して銅粒子を生成させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-99406号公報
【特許文献2】特開平4-116109号公報
【特許文献3】特開2007-254846号公報
【特許文献4】特開2009-62598号公報
【特許文献5】特開平10-317022号公報
【特許文献6】特開2004-225087号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1ないし3に記載の方法によれば、一次粒子の粒径がサブミクロンオーダーのものが得られやすい。一方、特許文献4ないし6に記載の方法によれば、ナノ粒子と呼ばれる範囲の粒径を有する銅粒子が得られやすい。ところで、サブミクロンオーダーの粒径を有する銅粒子を用いて導体膜を形成すると、粒子が大きいことに起因して粒子間に空隙が生じやすく、該空隙が導体膜の電気抵抗を上昇させる一因となる。一方、銅のナノ粒子を用いて導体膜を形成しようとすると、膜形成時の焼成工程において加わる熱によって粒子が甚だしく収縮してしまい、膜の形成が困難である。更にナノ粒子は、表面エネルギーが大きく凝集を起こしやすいことから、通常は粒子表面に保護剤の層を設けて凝集を抑制しているところ、該保護剤の存在に起因して導体膜形成時の焼結温度が上昇してしまい、エネルギー的に不利になりやすい。
【0008】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る銅粉及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明は、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
結晶子径が60nm以下である銅粉を提供するものである。
【0010】
また本発明は、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
焼結開始温度が170℃以上240℃以下である銅粉を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、前記の銅粉と有機溶媒とを含む導電性組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は、実施例1で得られた銅粉の電子顕微鏡像であり、図1(b)は、実施例14で得られた導体膜の電子顕微鏡像である。
【発明の詳細な説明】
【0013】
以下本発明の銅粉を、その好ましい実施形態に基づき説明する。以下では、銅粉というとき、文脈に応じて、複数の銅粒子の集合体である銅粉を指すこともあれば、銅粉を構成する個々の銅粒子を指すこともある。
【0014】
本発明の銅粉は、一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下というサブミクロンオーダーの範囲に粒径を有することを特徴の一つとする。当該技術分野におけるこれまでの技術では、前記範囲よりも粒径が小さい特に0.1μm以下のナノオーダーの銅粒子や、前記範囲よりも粒径が大きいサブミクロンオーダーの銅粒子に関する検討が主であり、前記範囲の粒径を有する銅粒子に関する検討例は少ない。本発明者は、後述する製造方法を採用することによって、前記範囲の粒径を有する銅粒子を合成すると、意外にも、該銅粒子の表面に保護層を設けなくても粒子間の凝集が起こりづらく、かつ該銅粒子から形成される導体膜が緻密で導電性が高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の銅粉の平均粒径Dを0.6μm以下に設定することによって、該銅粉を用いて導体膜を形成するときに、銅粉が低温で焼結しやすくなる。また、粒子間に空隙が生じにくく、導体膜の比抵抗を低下させることができる。一方、銅粉の平均粒径Dを0.15μm以上に設定することによって、銅粉を焼成するときの粒子の収縮を防止することができる。これらの観点から、前記の平均粒径Dは、0.15?0.6μmであることが好ましく、0.15?0.4μmであることが一層好ましい。本発明において、銅粉の一次粒子の平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡による観察像を用いて測定した複数の粒子のフェレ径を、球に換算した体積平均粒径であり、具体的には後述する実施例記載の測定方法で測定することができる。本発明の銅粉の粒子形状は球状であることが、銅粉の分散性を高める観点から好ましい。
【0016】
本発明の銅粉は、粒子間での凝集を抑制するための層(以下、保護層ともいう)を粒子表面に有していない。本発明の銅粉が、前記の数値範囲の平均粒径Dを有し、かつ粒子表面に保護層を有しないことは、その良好な低温焼結性に大きく寄与していると考えられる。前記の保護層は、例えば分散性等を高める目的で、銅粉製造の後工程において銅粒子表面を表面処理剤で処理することによって形成される。このような表面処理剤としては、ステアリン酸、ラウリル酸、オレイン酸といった脂肪酸等の各種の有機化合物が挙げられる。また、ケイ素、チタン、ジルコニウム等の半金属又は金属を含有するカップリング剤等も挙げられる。更に銅粉製造の後工程において表面処理剤を用いない場合であったとしても、湿式還元法によって銅粉を製造する際に、銅源を含有する反応液に分散剤を添加することによって、保護層が形成される場合もある。このような分散剤としては、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩や、アラビアゴム等の有機化合物が挙げられる。
【0017】
本発明の銅粉の低温焼結性を一層良好とする観点から、該銅粉は、前記保護層を形成する元素の含有量が極力少ないことが好ましい。具体的には、従来、保護層の成分として銅粉に存在していた炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、銅粉に対して0.10質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることが更に好ましく、0.06質量%以下であることが更に一層好ましい。例えば、本発明者の試算によれば、表面処理剤としてラウリル酸を用いて粒径0.6μmの銅粒子の表面を被覆する保護層を形成しようとすると、該銅粒子の炭素含有量は0.13%質量以上となる。
【0018】
前記の含有量の総和は、小さければ小さいほどよいが、下限が0.06質量%程度であれば、十分に銅粉の低温焼結性を高めることができる。また、銅粉の炭素含有量が過度に多いと、銅粉を焼成して導体膜を形成する際に炭素を含むガスが発生し、そのガスに起因して膜にクラックが発生したり、膜が基板から剥離したりすることがある。本発明の銅粉において前記の含有量の総和が低い場合には、炭素含有ガスの発生による不具合を防止することができる。
【0019】
上述した含有量は、炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの総和であったところ、個々の元素についての含有量は以下のとおりであることが好ましい。すなわち炭素の含有量は、0質量%以上0.08質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.05質量%以下であることが一層好ましい。リンの含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。ケイ素の含有量は、0質量%以上0.005質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.001質量%以下であることが一層好ましい。チタンの含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。ジルコニウムの含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。
【0020】
本発明の銅粉を、電子デバイスの回路形成用原料として用いる場合には、前記の各元素の他にも、不純物元素の含有量が極力少ないことが好ましい。このような不純物の代表的なものとして、ナトリウム、硫黄及び塩素が挙げられる。これらの元素は、例えば銅粉製造時に使用する還元剤や銅源等に由来して、不可避的に銅粉に混入されやすい。本発明の銅粉は、これら3つの元素の含有量の総和が、0.10質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることが更に好ましく、0.015質量%以下であることが更に一層好ましい。前記の含有量の総和は、小さければ小さいほどよいが、下限を0.0015質量%程度とすることで、満足すべき特性を有する銅粉となすことができる。なお、上述した元素以外の不純物として、カリウム及び鉄等も挙げられる。
【0021】
上述した不純物元素の含有量は、ナトリウム、硫黄及び塩素の総和であったところ、個々の不純物元素についての含有量は以下のとおりであることが好ましい。すなわちナトリウムの含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。硫黄の含有量は、0質量%以上0.02質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.01質量%以下であることが一層好ましい。塩素の含有量は、0質量%以上0.005質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0005質量%以下であることが一層好ましい。カリウムの含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。鉄の含有量は、0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.0001質量%以下であることが一層好ましい。
【0022】
以上のとおり本発明の銅粉は、不純物の含有量が少なく、銅の純度が高いものである。具体的には、本発明の銅粉における銅の含有量は98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、99.8質量%以上であることが更に一層好ましい。なお、これまでに述べた各元素の含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0023】
本発明の銅粉は、上述したとおり、粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していないにも関わらず、一次粒子の凝集が少ないものである。一次粒子の凝集の程度は、BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)と一次粒子の平均粒径Dとの比であるD/D_(BET)の値を尺度として評価することができる。本発明の銅粉は、このD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下である。D/D_(BET)の値は、銅粉の粒径が均一で凝集のない理想の単分散状態に比べて、どれほど粒径分布が広いかを示す尺度であり、凝集度の推定に用いることができる。
【0024】
D/D_(BET)の値の評価は、基本的に、銅粉の粒子表面に細孔が少なく均質であることに加え、連続分布(1山分布)を有することを前提条件とする。この前提条件下、D/D_(BET)の値が1である場合、銅粉は前述した理想の単分散状態と解釈できる。一方、D/D_(BET)の値が1よりも大きいほど、銅粉の粒径分布が広く、粒径が不揃いであるか、又は凝集が多いと推測できる。D/D_(BET)の値が1よりも小さいことは稀であり、これは、銅粉が前記の前提条件から外れた状態にある場合に観察されることが多い。前記の前提条件から外れた状態とは、例えば凝集が局所的に存在する状態等が挙げられる。
【0025】
本発明の銅粉を、一次粒子の凝集が一層少ないものとする観点から、D/D_(BET)の値は、好ましくは、0.8以上4.0以下であり、より好ましくは0.9以上1.8以下である。D_(BET)の値は、銅粉のBET比表面積をガス吸着法で測定することによって求めることができる。具体的には、BET比表面積及びD_(BET)の値は、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0026】
本発明の銅粉におけるD/D_(BET)の値は上述のとおりであるところ、D_(BET)の値そのものは好ましくは0.08μm以上0.6μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上0.4μm以下であり、更に一層好ましくは0.2μm以上0.4μm以下である。また、本発明の銅粉におけるBET比表面積の値は、好ましくは1.7m^(2)/g以上8.5m^(2)/g以下であり、更に好ましくは2.5m^(2)/g以上4m^(2)/g以下である。
【0027】
本発明の銅粉は、その結晶子径が好ましくは60nm以下、更に好ましくは50nm以下、更に一層好ましくは40nm以下である。下限値は20nmであることが好ましい。結晶子径の大きさをこの範囲に設定することで、銅粉の低焼結性が一層良好となる。銅粉の結晶子径は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0028】
本発明の銅粉は低温で焼結可能なものである。具体的には焼結開始温度が好ましくは170℃以上240℃以下であり、更に好ましくは170℃以上235℃以下であり、更に一層好ましくは170℃以上230℃である。特に、焼結開始温度が前記の範囲であると、ポリイミドからなるフレキシブル基板の配線材料として本発明の銅粉を好適に用いることができる。この理由は、一般にフレキシブル基板に用いるポリイミドのガラス転移点が240℃超であることによる。
【0029】
上述した焼結開始温度は、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気の炉の中に銅粉を静置し、炉の温度を次第に上昇させることによって測定することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。焼結が開始したか否かは、炉から取り出した銅粉を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子同士の間に面会合が起きているか否かによって判断する。面会合とは、一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態をいう。例えば、図1(b)に示す導体膜の観察像では、粒子同士の面会合が起きている。
【0030】
次に本発明の銅粉の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、還元剤としてヒドラジンを用いた湿式での銅イオンの還元において、溶媒として、水と相溶性を有し、かつ水の表面張力を低下させ得る有機溶媒を用いることを特徴の一つとする。本製造方法は、該有機溶媒を用いることによって、本発明の銅粉を、容易かつ簡便に製造できるものである。
【0031】
本製造方法においては、水及び前記有機溶媒を液媒体とし、かつ一価又は二価の銅源を含む反応液と、ヒドラジンとを混合し、該銅源を還元して銅粒子を生成させる。本製造方法においては、意図的に保護層を形成する操作は行わない。
【0032】
前記有機溶媒としては、例えば、一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのエステル、ケトン、エーテル等を挙げることができる。一価アルコールとしては、炭素原子数が1以上5以下、特に1以上4以下のものが好ましい。具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、t-ブタノール等を挙げることができる。
【0033】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール及び1,3-プロピレングリコール等のジオール、グリセリン等のトリオール等を挙げることができる。
【0034】
多価アルコールのエステルとしては、上述した多価アルコールの脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸としては例えば炭素原子数が1以上8以下、特に1以上5以下の一価脂肪酸が好ましい。多価アルコールのエステルは、少なくとも1個の水酸基を有していることが好ましい。
【0035】
ケトンとしては、カルボニル基に結合しているアルキル基の炭素原子数が1以上6以下、特に1以上4以下のものが好ましい。ケトンの具体例としては、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。
【0036】
エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテルや、環状エーテルであるオキタセン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランや、ポリエーテルであるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の高分子化合物等が挙げられる。
【0037】
上述した各種の有機溶媒のうち、一価アルコールを用いることが、経済性及び安全性等の観点から好ましい。
【0038】
前記の液媒体は、水の質量に対する前記有機溶媒の質量の比率(有機溶媒の質量/水の質量)が好ましくは1/99から90/10であり、更に好ましくは 1.5/98.5から90/10である。水及び有機溶媒の比率がこの範囲内であると、湿式還元時における水の表面張力を適度に低下させることができ、D及びD/D_(BET)の値が前記の範囲内にある銅粉を容易に得ることができる。
【0039】
前記の液媒体は、好ましくは前記有機溶媒及び水のみからなる。このことは、分散剤等を用いずに、保護層を有さずかつ不純物の少ない銅粉を製造する観点等から好ましい。
【0040】
本製造方法においては、前記の液媒体に、銅源を溶解又は分散させることによって反応液を調製する。反応液の調製方法としては、例えば、液媒体と銅源とを混合して撹拌する方法が挙げられる。反応液において、液媒体に対する銅源の割合は、銅源1gに対して液媒体の質量が好ましくは4g以上2000g以下、更に好ましくは8g以上1000g以下とする。液媒体に対する銅源の割合がこの範囲内であると、銅粉合成の生産性が高くなるので好ましい。
【0041】
前記の銅源としては、一価又は二価の各種の銅化合物を用いることができる。特に、酢酸銅、水酸化銅、硫酸銅、酸化銅又は亜酸化銅を用いることが好ましい。銅源としてこれらの銅化合物を用いると、D及びD/D_(BET)の値が前記の範囲内にある銅粉を容易に得ることができる。また不純物が少ない銅粉を得ることができる。
【0042】
次いで、前記の反応液とヒドラジンとを混合する。ヒドラジンの添加量は、銅1モルに対して好ましくは0.5モル以上50モル以下、更に好ましく1モル以上20モル以下となるような量とする。ヒドラジンの添加量がこの範囲であると、D/D_(BET)の値が前記の範囲内となる銅粉が得やれやすい。同様の理由から、反応液の温度は、混合開始時点から終了時点にわたって、40℃以上90℃以下、特に50℃以上80℃以下に維持することが好ましい。同様の理由から、混合開始時点から反応終了時点にわたって、反応液の撹拌を継続することが好ましい。
【0043】
前記反応液とヒドラジンとの混合は、以下の(a)及び(b)のいずれかのように行うことが好ましい。こうすることで、急激な反応に起因して不都合が生じることを効果的に防止することができる。
(a)前記反応液中に、ヒドラジンを、時間をおいて複数回にわたって添加する。
(b)前記反応液中に、ヒドラジンを、連続して所定時間にわたって添加する。
(a)の場合、複数回とは、2回以上6回以下程度であることが好ましい。ヒドラジンの各添加の間隔は5分以上90分以下程度であることが好ましい。
(b)の場合、前記の所定時間とは1分以上180分以下程度であることが好ましい。反応液は、ヒドラジンとの混合が終了した後も、撹拌を継続して、熟成することが好ましい。こうすることで、D/D_(BET)の値が前記の範囲内となる銅粉が得やすいからである。
【0044】
本製造方法においては、還元剤としてヒドラジンのみを用いることが、不純物の少ない銅粉を得られるので好ましい。
【0045】
このようにして得られた本発明の銅粉は、デカンテーション法等による洗浄後、水や有機溶剤等に分散させてスラリーとしてもよい。また本発明の銅粉は、乾燥させて乾燥粉としてもよい。また、本発明の銅粉は、後述するように溶剤や樹脂等を添加して導電性インクや導電性ペースト等の導電性組成物としてもよい。
【0046】
従来、保護層を有さず、サブミクロンオーダーの粒径を有する銅粉は、乾燥させると凝集してしまうため、乾燥粉として取り出すことは難しかった。このため、従来、このような銅粉を保管・搬送する際には、銅粉に水や有機溶媒、樹脂等を添加して、水性スラリーやペーストの形態としていた。これに対し、本発明の銅粉は、保護層を有していないにも関わらず、乾燥させても凝集しにくいので、乾燥粉として保管・搬送できる。このことは、銅粉の保管スペースを削減でき、搬送しやすい等の点で有利である。
【0047】
本発明の銅粉を含む導電性組成物は、該銅粉及び有機溶媒を少なくとも含んで構成される。有機溶媒としては、金属粉を含む導電性組成物の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを特に制限なく用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
モノアルコールとしては、例えば1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、グリシドール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、2-メチル1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-n-ブトキシエタノール、2-フェノキシエタノールなどを用いることができる。
【0049】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を用いることができる。
【0050】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0051】
多価アルコールアリールエーテルとしては、エチレングリコールモノフェニルエーテル等を用いることができる。エステル類としては、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン等を用いることができる。含窒素複素環化合物としては、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等を用いることができる。アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等を用いることができる。
【0052】
飽和炭化水素としては、例えばヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンなどを用いることができる。
【0053】
本発明の導電性組成物には、必要に応じて分散剤を添加してもよい。分散剤としては、ナトリウム、カルシウム、リン、硫黄及び塩素等を含有しない非イオン性界面活性剤が好適であり、該非イオン性界面活性剤としては、例えば多価アルコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどを用いることができる。
【0054】
本発明の導電性組成物に、有機ビヒクルやガラスフリットを更に含有させることもできる。有機ビヒクルは、樹脂成分と溶剤とを含む。樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤や、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル系溶剤が挙げられる。ガラスフリットとしては、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス等が挙げられる。
【0055】
また本発明の導電性組成物には、導電性組成物の各種の性能を一層高めることを目的として、必要に応じて、本発明の銅粉に加えて他の銅粉を適宜配合してもよい。
【0056】
本発明の導電性組成物における銅粉及び有機溶媒の配合量は、該導電性組成物の具体的な用途や該導電性組成物の塗布方法に応じて広い範囲で調整することができる。塗布方法としては、例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
【0057】
本発明の導電性組成物は、銅粉の含有割合に応じて粘度が異なり、粘度の違いに応じてインク、スラリー、ペースト等の種々の名称で呼称される。本発明の導電性組成物における銅粉の含有割合は、例えば5質量%以上95質量%以下という広い範囲で設定ができる。この範囲の中で、塗布方法としてインクジェット印刷法を用いる場合には、銅粉の含有割合を例えば10質量%以上50質量%以下に設定することが好ましい。スクリーン印刷法を用いる場合には、例えば60質量%以上95質量%以下に設定することが好ましい。アプリケータを用いる場合には、例えば5質量%以上90質量%以下に設定することが好ましい。銅粉の含有割合が高い場合、例えば90質量%前後である場合には、塗布方法としてはディスペンサ法を用いることが好ましい。
【0058】
本発明の導電性組成物は、これを基板上に塗布して塗膜とし、この塗膜を焼成することによって、導体膜を形成することができる。導体膜は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のために好適に用いられる。基板としては、銅粉が用いられる電子回路の種類に応じて、ガラスエポキシ樹脂等からなるプリント基板や、ポリイミド等からなるフレキシブルプリント基板が挙げられる。
【0059】
形成された塗膜の焼成温度は、前述した銅粉の焼成開始温度以上であればよい。塗膜の焼成温度は例えば、170?240℃とすることができる。焼成の雰囲気は例えば非酸化性雰囲気下で行うことができる。非酸化性雰囲気としては、例えば水素や一酸化炭素等の還元性雰囲気、水素-窒素混合雰囲気等の弱還元性雰囲気、アルゴン、ネオン、ヘリウム及び窒素等の不活性雰囲気が挙げられる。還元雰囲気、弱還元雰囲気及び不活性雰囲気のいずれの場合であっても、加熱に先立ち加熱炉内を一旦真空吸引して酸素を除去した後に、それぞれの雰囲気とすることが好ましい。水素-窒素混合雰囲気下に焼成を行う場合、水素の濃度は爆発限界濃度以下の濃度とすることが好ましい。具体的には水素の濃度は1体積%以上4体積%以下程度であることが好ましい。いずれの雰囲気を用いる場合であっても、焼成時間は10分以上3時間以下、特に30分以上2時間以下とすることが好ましい。
【0060】
このようにして得られた導体膜は、導電性組成物の構成成分として配合されている本発明の銅粉に起因して導電性が高いものとなる。また、導電性組成物の塗布対象物との密着性が高いものとなる。この理由は、本発明の銅粉が、低温焼結性が良好であることに起因しているものと本発明者は考えている。詳細には、低温焼結性が良好な本発明の銅粉は、該銅粉を含む塗膜の焼成工程において容易に溶融して粒子同士が面会合するので、導電性が高くなると考えられる。これに対して低温焼結性が良好でない場合には、塗膜を焼成しても粒子同士が点接触しているに過ぎないので、導電性を高めることが容易でない。密着性に関しては、焼成工程における粒子の溶融によって、溶融した粒子と基材の表面との接触面積が大きくなるとともに、溶融した粒子と基材の表面との間にアンカー効果が生じて密着性が高くなると考えられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0062】
〔実施例1〕
撹拌羽を取り付けた容量500mlの丸底フラスコを用意した。この丸底フラスコに、銅源として酢酸銅一水和物15.71gを投入した。丸底フラスコに、更に水10gと、有機溶媒としてイソプロパノール70.65gとを加えて反応液を得た。この反応液を、150rpmで撹拌しながら液温を60℃まで上げた。撹拌を続けたまま、反応液にヒドラジン一水和物1.97gを一度に添加した。次いで、反応液を30分間撹拌した。その後、反応液にヒドラジン一水和物17.73gを添加した。更に反応液を30分間撹拌した。その後、反応液にヒドラジン一水和物7.88gを添加した。その後、反応液を、液温を60℃に保ったまま、1時間撹拌し続けた。反応終了後、反応液全量を固液分離した。得られた固形分について、純水を用いたデカンテーション法による洗浄を行った。洗浄は、上澄み液の導電率が1000μS/cm以下になるまで繰り返した。洗浄物を固液分離した。得られた固形分にエタノール160gを加え、加圧濾過器を用いて濾過した。得られた固形分を常温で減圧乾燥し、目的とする銅粉を得た。
【0063】
〔実施例2ないし13〕
有機溶媒の種類、水及び有機溶媒の使用量、又は銅源の種類を下記の表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0064】
〔比較例1及び2〕
比較例1の銅粉として、表面に保護層が形成された銅粉である三井金属鉱業株式会社製「CT500」を使用した。比較例2の銅粉として、表面に保護層が形成された銅粉である三井金属鉱業株会社製「1050Y」を使用した。
【0065】
〔測定・評価〕
実施例1ないし13で得られた銅粉並びに比較例1及び2の銅粉について、以下の方法で、一次粒子の平均粒径D(μm)、BET比表面積(m^(2)/g)、BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)(μm)を求めた。更に、得られたD及びD_(BET)の値からD/D_(BET)を算出した。また、以下の方法で、炭素、リン、ケイ素、チタン、ジルコニウムの含有量(質量%)を測定し、これら5つの元素の総和を求めた。更に、ナトリウム、硫黄、塩素の含有量(質量%)を測定し、これら3つの元素の総和を求めた。カリウム、鉄、窒素、銅の含有量(質量%)も測定した。また、以下の方法で、結晶子径(nm)を求めた。また、以下の方法で、焼結開始温度(℃)を求めた。これらの結果を表1に示す。ただし、銅以外の個別の元素の含有量は、表2に示す。
【0066】
〔一次粒子の平均粒径D〕
走査型電子顕微鏡(日本エフイー・アイ(株)製XL30SFEG)を用い、倍率10,000倍又は30,000倍で、銅粉を観察し、視野中の粒子200個について水平方向フェレ径を測定した。測定した値から、球に換算した体積平均粒径を算出し、一次粒子の平均粒径D(μm)とした。
【0067】
〔BET比表面積〕
(株)島津製作所製フローソーブII2300を用い、1点法で測定した。測定粉末の量を1.0gとし、予備脱気条件は150℃で15分間とした。
【0068】
〔BET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)〕
前記で得られたBET比表面積(SSA)の値及び銅の室温近傍の密度(8.94g/cm^(3))から下記式によって求めた。
D_(BET)(μm)=6/(SSA(m^(2)/g)×8.94(g/cm^(3)))
【0069】
〔各種元素の含有量〕
炭素及び硫黄の含有量(質量%)は、ガス分析装置((株)堀場製作所製EMIA-920V)を用いて測定した。リン、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、カリウム及び鉄の含有量(質量%)は、ICP発光分析(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製ICP-SPS-3000)で測定した。塩素の含有量(質量%)は、イオンクロマトグラフィー((株)三菱化学アナリテック製AQF-2100F)で測定した。銅の含有量(質量%)は100%から測定した不純物量を差し引いた値で表した。
【0070】
〔結晶子径〕
(株)リガク製のRINT-TTRIIIを用いて銅粉のX線回折測定を行った。得られた(111)ピークを用いて、シェラー(Scherrer)法によって結晶子径(nm)を算出した。
【0071】
〔焼結開始温度〕
銅粉をアルミニウム製の台に乗せて、3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下、160℃の設定温度で1時間保持した。その後、炉から銅粉を取り出し、前記の走査型電子顕微鏡を用いて倍率50,000倍で銅粉を観察し、面会合の有無を調べた。面会合が観察されない場合、炉の設定温度を、前記の設定温度から10℃高い温度に設定し直し、新たな設定温度において面会合の有無を前記と同様にして調べた。この操作を繰り返し、面会合が観察された炉の設定温度を、焼結開始温度(℃)とした。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の銅粉は、各比較例の銅粉に比して焼結開始温度が低く、低温焼結性が良好であることが判る。また、実施例14の導体膜の比抵抗値及び図1(b)から明らかなように、本発明の銅粉は230℃以下の温度で焼結し、かつ比抵抗の低い導体膜が得られることが判る。
【0075】
〔実施例14:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例1で得られた銅粉を用いて、以下のようにして、濃度40質量%の銅粉のスラリー(導電性組成物)を得た。
銅粉4gとテトラエチレングリコール6gを、3本ロールミルを用いて混合しスラリーとした。得られたスラリーを、ガラス基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、230℃の3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下で2時間にわたって熱処理して、厚さ12μmの導体膜を得た。
【0076】
実施例1で得られた銅粉及び本実施例で得られた導体膜について、前記の走査型電子顕微鏡を用い、倍率50000倍で観察した。銅粉の観察像を図1(a)に示し、導体膜の観察像を図1(b)に示す。得られた導体膜の比抵抗を、抵抗率計(三菱化学社製MCP-T600)にて表面抵抗測定を行った後、膜厚を換算して算出したところ、6μΩ・cmであり、バルク銅の比抵抗(1.7μΩ・cm)に近いものであった。
【0077】
〔実施例15:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例4で得られた銅粉92質量%と、テトラエチレングリコール6質量%と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(trion X-100)2質量%とからなる導電性インク(導電性組成物)を調製した。得られた導電性インクを、ポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製ユーピレックス25S)上にスクリーン印刷法を用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、230℃の3体積%H_(2)-N_(2)雰囲気下で2時間にわたって熱処理して、厚さ34μmの導体膜を得た。得られた導体膜にセロハンテープを貼り付けて剥離テストを行い、剥離の有無を調べたところ、剥離は観察されなかった。また、この導体膜の比抵抗を実施例14と同様の方法で測定したところ、9μΩ・cmであった。
【0078】
〔比較例3:導電性組成物の調製及び導体膜の製造〕
実施例15において用いた実施例4の銅粉に代えて、三井金属鉱業(株)製の銅粉である「CT500」(粒径0.67μm)を用いた以外は、実施例15と同様にして導電性インクを調製した。この導電性インクを用い、実施例15と同様にして導体膜を得た。得られた導体膜について実施例15と同様の剥離テストを行ったところ、ポリイミドフィルムからの導体膜の剥離が観察された。また導体膜の比抵抗は45μΩ・cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、低温焼結性が良好である銅粉及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、比抵抗が低く、かつ基材との密着性が高い導体膜を容易に形成し得る銅粉及びその製造方法が提供される。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
結晶子径が39nm以下であり、
炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。
【請求項3】
ナトリウム、硫黄及び塩素の含有量の総和が、0.10質量%以下である請求項2に記載の銅粉。
【請求項4】
焼結開始温度が170℃以上240℃以下である請求項2又は3のいずれか一項に記載の銅粉。
【請求項5】
一次粒子の平均粒径Dが0.15以上0.6μm以下であり、一次粒子の平均粒径DとBET比表面積に基づく真球換算での平均粒径D_(BET)との比であるD/D_(BET)の値が0.8以上4.0以下であり、かつ粒子間での凝集を抑制するための層を粒子表面に有していない銅粉であって、
焼結開始温度が170℃以上240℃以下であり、
炭素、リン、ケイ素、チタン及びジルコニウムの含有量の総和が、0.10質量%以下である銅粉。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか一項に記載の銅粉と有機溶媒とを含む導電性組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-13 
出願番号 特願2014-548473(P2014-548473)
審決分類 P 1 651・ 12- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
P 1 651・ 537- YAA (B22F)
P 1 651・ 536- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
小川 進
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5872063号(P5872063)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 銅粉  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 北口 智英  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ