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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C10M 審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C10M |
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管理番号 | 1339172 |
異議申立番号 | 異議2016-701093 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-11-25 |
確定日 | 2018-03-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5947745号発明「建設機械用油圧作動油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5947745号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5947745号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5947745号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年11月25日に特許異議申立人株式会社御園貴美代(以下、単に「異議申立人」ともいう。)より請求項1?3に対して特許異議の申立てがされ、平成29年3月2日付けで取消理由が通知され、同年4月26日に意見書の提出及び訂正請求がされ、上記訂正請求に対して、同年6月22日に、異議申立人から意見書が提出され、同年7月3日付けで取消理由が通知され、同年9月4日に意見書の提出及び訂正請求がされ、上記訂正請求に対して、同年10月18日に、異議申立人から意見書が提出され、同年11月9日付けで取消理由が通知され、同年12月12日に意見書の提出及び訂正請求がされ、上記訂正請求に対して、異議申立人からは意見書が提出されなかったものである。 なお、平成29年4月26日及び同年9月4日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 平成29年12月12日にされた訂正請求の趣旨は、特許第5947745号の特許請求の範囲を同日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める、というものであって、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を下記訂正事項1のとおりに訂正することを求めるというものである。 特許請求の範囲の請求項1に、「該無灰系摩擦調整剤が、多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤であり、該多価アルコールハーフエステルは、炭素数が12?24の脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル、炭素数が12?24の脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は炭素数が12?24の脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステルであり、該カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸であり、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸アミドであること、」との事項を追加する。 (請求項1を引用する請求項2、3についても同様に訂正する。) (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0034】の「(d)無灰系摩擦調整剤としては、水酸基を有する無灰系摩擦調整剤、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤が好ましく、適度に低い摩擦係数(μ0/μd)を付与しつつも、湿式ブレーキの性能に適した高い静摩擦係数(μs)を付与し易いという点で、水酸基を有する無灰系摩擦調整剤が特に好ましく、水酸基を2つ以上有する無灰系摩擦調整剤がより好ましく、多価アルコールハーフエステルが更に好ましい。」という記載、同【0035】の「(d)無灰系摩擦調整剤に係る水酸基を有する無灰系摩擦調整剤としては、多価アルコール、多価アルコールハーフエステル、水酸基含有脂肪酸、多価アルコールの重合物、多価アルコールハーフエステルの重合物、水酸基含有脂肪酸の重合物、水酸基含有ポリグリコール等が挙げられ、多価アルコールハーフエステルが好ましい。水酸基を有する無灰系摩擦調整剤に係る多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。水酸基を有する無灰系摩擦調整剤に係る多価アルコールハーフエステルとしては、グリセリンのモノエステル又はジエステル、ペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル又はトリエステル、トリメチロールプロパンのモノエステル又はジエステル等が挙げられ、グリセリンのモノエステル又はジエステルが好ましく、グリセリンの脂肪酸モノエステルが特に好ましい。多価アルコールとエステルを形成する脂肪酸は、特に制限はないが、炭素数が6?28の脂肪酸が好ましく、基油への溶解性が高い点で炭素数12?24の脂肪酸が特に好ましい。」という記載、同【0036】の「(d)無灰系摩擦調整剤に係るカルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤としては、脂肪酸が挙げられる。カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤に係る脂肪酸としては、炭素数が6?28の脂肪酸が好ましく、基油への溶解性が高い点で炭素数が12?24の脂肪酸が特に好ましい。」という記載、及び、同【0037】の「(d)無灰系摩擦調整剤に係るアミド基を有する無灰系摩擦調整剤としては、脂肪酸アミドが挙げられる。アミド基を有する無灰系摩擦調整剤に係る脂肪酸アミドとしては、炭素数が6?40の脂肪酸アミドが好ましく、基油への溶解性が高い点で炭素数が12?24の脂肪酸アミドが特に好ましい。」という記載等に基き、請求項1に係る発明における「無灰系摩擦調整剤」について、「該無灰系摩擦調整剤が、多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤であり、該多価アルコールハーフエステルは、炭素数が12?24の脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル炭素数が12?24の脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は炭素数が12?24の脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステルであり、該カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸であり、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸アミドであること」を特定するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項1?3は、請求項2?3が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 (3)まとめ 以上のことから、上記訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?3について訂正することを認める。 3.本件訂正発明 本件特許の特許請求の範囲は、上記2のとおり訂正が認められるから、本件訂正特許の請求項1?3に係る発明(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)は、平成29年12月12日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 (a)基油、 (b)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.01?0.8質量%、 (c)塩基性カルシウムサリシレートを0.03?1質量%、 (d)N原子又はO原子を含有しP原子を含有しない無灰系摩擦調整剤を50?5000質量ppm、 を含有し、 亜鉛の原子換算の含有量が100?500質量ppmであり、 該無灰系摩擦調整剤が、多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤であり、 該多価アルコールハーフエステルは、炭素数が12?24の脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル、炭素数が12?24の脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は炭素数が12?24の脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステルであり、該カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸であり、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸アミドであること、 を特徴とする建設機械用油圧作動油組成物。 【請求項2】 前記(a)が、%CAが5%以下の基油であり、前記(b)が、アルキル基の炭素数が3?18のプライマリージアルキルジチオリン酸亜鉛であり、且つ、前記(d)が、水酸基を有する無灰系摩擦調整剤であることを特徴とする請求項1記載の建設機械用油圧作動油組成物。 【請求項3】 更に、(e)重量平均分子量が2万?15万のポリ(メタ)アクリレートを0.1?7質量%含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の建設機械用油圧作動油組成物。」 4.特許異議申立てについて (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由は、概ね、平成29年3月2日付けのものは次のアのとおりであり、同年7月3日付けのものは次のイのとおりであり、同年11月9日付けのものは次のウのとおりである。 ア(ア)本件特許の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 引用例1:特開平5-311187号公報(甲第1号証、以下「甲1」などという。) 引用例2:並木直人、「摩擦調整剤の動向」、トライボロジスト、社団法人トライボロジスト、2003年、第48巻、第11号、903?909頁(甲2) 引用例3:国際公開第2008/142795号(甲3) (イ)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 本件発明の課題は、「亜鉛系でありながら、高温及び高圧の条件下でも耐摩耗性及びスラッジ発生抑制性に優れ、更に、油圧シリンダー等の始動時や停止直前のスムーズな動きを確保できる程度に低摩擦係数であり、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用の油圧作動油組成物を提供することにある」ところ、本件発明の課題を解決することができた油圧作動油組成物の無灰系摩擦調整剤は、「グリセリンモノオレエート」、「オレイン酸」及び「オレイン酸アミド」のみである。 そして、発明の詳細な説明には、無灰系摩擦調整剤の組成にかかわらず、無灰系摩擦調整剤として機能するものであれば、本件発明の課題が解決できるといった、無灰系摩擦調整剤の作用機序の説明は見当たらない。 また、無灰系摩擦調整剤が水酸基を有すれば、本件発明の課題が解決できるといった、無灰系摩擦調整剤の作用機序の説明も見当たらない。 そうすると、技術常識に照らしても、無灰系摩擦調整剤の組成によっては、本件発明の課題を解決することができるかどうかは明らかではなく、本件発明1?3は、本件発明の課題を解決しない発明を包含するといわざるを得ない。 また、仮に、発明の詳細な説明に例示がある、「水酸基を有する無灰系摩擦調整剤」(【0035】)、「カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤」(【0036】)及び「アミド基を有する無灰系摩擦調整剤」(【0037】?【0046】)を含有する建設機械用油圧作動油が、本件発明の課題を解決することができるものであるとしても、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3は、これらについて特定されておらず、本件発明の課題を解決しない発明を包含するといわざるを得ない。 (ウ)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 本件発明1の「無灰系摩擦調整剤」は、どのようなものか明らかではない。 引用発明1の「ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル」を包含するのか、そうでないのかを、明確にする必要がある。 イ 本件特許の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 引用例1:特開平5-311187号公報(甲1) 引用例2:並木直人、「摩擦調整剤の動向」、トライボロジスト、社団法人トライボロジスト、2003年、第48巻、第11号、903?909頁(甲2) 引用例4:萩原敏也、岩崎徹治、「特集 潤滑油添加剤の課題とその対応 乳化剤の種類と性能 (6)乳化剤・抗乳化剤」(トライボロジスト Vol 40、No.4、349-352頁、1995年発行(甲5) 引用例5:特開平4-68082号公報(甲4) ウ(ア)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 請求項1の「該無灰系摩擦調整剤が、・・・(略)・・・無灰系摩擦調整剤であり、 該多価アルコールハーフエステルは、・・・(略)・・・、炭素数が6?28の脂肪酸とジエステル若しくはトリエステル、・・・(略)・・・の脂肪酸アミドであること」という記載において、「炭素数が6?28の脂肪酸とジエステル若しくはトリエステル」は、「炭素数が6?28の脂肪酸」と「どのような物質」の「ジエステル若しくはトリエステル」なのか明らかではなく、「多価アルコールハーフエステル」が明確に特定されているとはいえない。 したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 (イ)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 本件訂正発明の課題は、「亜鉛系でありながら、高温及び高圧の条件下でも耐摩耗性及びスラッジ発生抑制性に優れ、更に、油圧シリンダー等の始動時や停止直前のスムーズな動きを確保できる程度に低摩擦係数であり、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用の油圧作動油組成物を提供することにある」ところ、本件訂正発明の課題を解決することができた油圧作動油組成物の無灰系摩擦調整剤は、「グリセリンモノオレエート」、「オレイン酸」及び「オレイン酸アミド」のみである。 そして、発明の詳細な説明には、本件訂正発明における無灰系摩擦調整剤を含有することで、本件訂正発明の課題が解決できるといった、本件訂正発明における無灰系摩擦調整剤の作用機序の説明は見当たらない。 そうすると、技術常識に照らしても、本件訂正発明における無灰系摩擦調整剤によって、本件訂正発明の課題を解決することができるかどうかは明らかではなく、本件訂正発明1?3は、本件訂正発明の課題を解決しない発明を包含するといわざるを得ない。 なお、本件特許明細書の【0035】の「水酸基を有する無灰系摩擦調整剤に係る多価アルコールとしては、・・・、基油への溶解性が高い点で炭素数12?24の脂肪酸が特に好ましい。」という記載、同【0036】の「カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤に係る脂肪酸としては、・・・、基油への溶解性が高い点で炭素数が12?24の脂肪酸が特に好ましい。」という記載、及び、【0037】の「アミド基を有する無灰系摩擦調整剤に係る脂肪酸アミドとしては、・・・、基油への溶解性が高い点で炭素数が12?24の脂肪酸アミドが特に好ましい。」という記載によれば、本件訂正発明では、基油への溶解性が高い無灰系摩擦調整剤を含有することで、「油圧シリンダー等の始動時や停止直前のスムーズな動きを確保できる程度に低摩擦係数であり、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用の油圧作動油組成物を提供すること」ができたものであるとしても、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2、3は、これらの特定の炭素数について特定されておらず、やはり、本件訂正発明の課題を解決しない発明を包含するといわざるを得ない。 (2)まず、上記取消理由のうち、特許法第29条第1項第3号、同条第2項について検討する。 主たる引用例(引用例1)は、いずれの取消理由においても同じであるから、特許法第29条第1項第3号、同条第2項に関する取消理由について、まとめて検討することにする。 ア 引用例の記載 (ア)引用例1 引用例1には、「耐熱作動油組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)硫黄分100ppm以下の基油と、組成物全重量に基づき、(B)ジチオリン酸亜鉛0.2?1重量%,(C)サリチル酸のアルカリ土類金属塩0.2?1重量%及び(D)水分離剤0.01?0.5重量%とを含有することを特徴とする耐熱作動油組成物。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、耐熱性及び耐摩耗性に優れ、高温雰囲気下で使用してもスラッジを発生せず、かつ水分離性も良好で、高出力の油圧装置などに好適に用いられる耐熱作動油組成物を提供することを目的になされたものである。」 「【0013】本発明の作動油組成物には、所望に応じ、本発明の目的が損なわれない範囲で、(E)成分として従来作動油に慣用されている他の添加剤、例えば防錆剤,酸化防止剤,消泡剤などを添加することができる。該防錆剤としては、例えば石油スルホン酸,ジノニルナフタレンスルホン酸,重質アルキルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩のようなスルホネートや、アルキル又はアルケニルコハク酸の部分エステルなどが好ましく用いられる。また、酸化防止剤としては、例えばフェノール系やアミン系のものが挙げられる。消泡剤としては、シリコーンオイル,金属石ケン,エステル類,シリケートなどが挙げられる。」 「【0014】 【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、作動油組成物の外観及び性能は次のようにして求めた。 (1)色相(ASTM) JIS K-2580に準じて求めた。 (2)水分離性 JIS K-2520に準じて、乳化相が3ミリリットル以下になる時間(分)を求めた。 (3)耐摩耗性 ASTM D-2783に準じて、1200rpm,30kgf,30分の条件で摩耗試験を行い、摩耗痕径を測定した。 (4)耐熱性 JIS K-2540の潤滑油熱安定試験法に準じて、170℃で48時間熱劣化試験を行ったのちの性能を求めた。 (5)錆止め性 JIS K-2510 2.5.1法に準じて求めた。 【0015】実施例1,2及び比較例1?6 第1表に示す組成の作動油組成物を調製し、その性能を評価した。その結果を第1表に示す。 【0016】 【表1】」 「【0019】注1)水添精製鉱油(40℃の動粘度46cSt,S分3ppm以下,%CA 1以下,N分5ppm,色(ASTM)L0.5) 2)溶剤精製鉱油(40℃の動粘度46cSt,S分1500ppm以下,%CA 5以下,N分30ppm,色(ASTM)L0.5) 3)Zn-ジオクチル-ジチオホスフェート 4)塩基価180mgKOH/g 5)塩基価300mgKOH/g 6)ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル 7)Ca-スルホネート(塩基価20mgKOH/g)」 「【0020】 【発明の効果】本発明の耐熱性作動油組成物は、耐熱性及び耐摩耗性に優れ、高温雰囲気下で使用してもスラッジを発生せず、かつ水分離性が良好であって、高出力の油圧装置の作動油、例えば建設機械,射出成形機,ダイキャストマシンなどの油圧駆動機械用潤滑油などとして好適に用いられる。」 (イ)引用例2 引用例2には、「摩擦調整剤の動向」(標題)について記載され、次の記載がある。 「2.摩擦調整剤の種類と作用機構 一般に作用機構の違いにより摩擦調整剤は油性剤,固体潤滑剤,有機モリブデンの3種類に分類される. 油性剤は一種の油溶性界面活性剤で長鎖化合物の末端にCOOHやOHなどの極性基を持ち,潤滑表面に物理吸着または化学吸着し,他端の非極性基の相互結合力で吸着膜を強固につくる.例として脂肪酸,脂肪酸エステル,アルコール,アミン,アマイド,アミンエトキシレートなどが挙げられる.」(903頁右欄下から7行?904頁左欄4行) 「4.無灰型摩擦調整剤 4.1分子構造と潤滑性の関係 ・・・(略)・・・ 一般にアミン,アミド系はエステル,エーテル系に比べ吸着力が高く,摩擦低減効果の差が期待されたが,図11に示すようにエステル,エーテル系とアミン,アミド系で差はほとんど見られない.一方でアミンエトキシレートが高い摩擦低減作用をもつことを確認している.」(906頁左欄下から4行?907頁右欄1行) (ウ)引用例3 引用例3には、「機能性流体」(発明の名称)について、次の記載がある。 「[0001] 本発明は、ブレーキ液、作動液、エンジン冷媒液、トランスミッション液、潤滑剤及び金属工作用液などの多様な用途において有用である機能性流体に関し、更に詳しくは、耐腐食性及び耐沈殿物生成性に優れた機能性流体に関する。」 「[0028] 粘度指数向上剤としては、ポリ(C1?18)アルキルメタクリメート、(C1?18)アルキルアクリレート/(C1?18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1?18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1?18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等を挙げることができる。また、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いることもできる。なお、粘度指数向上剤の重量平均分子量は、10,000?1,500,000程度である。」 (エ)引用例4 引用例4には、次の記載がある。 「1.はじめに 溶液中で溶質が気体-液体,液体-液体,液体-固体界面に吸着して,それらの界面の性質を著しく変える性質を界面活性といい,通常著しい界面活性を示す物質を界面活性剤という。この界面活性剤は1分子中に1個以上の親水基と1個以上の親油基をもち,その両親媒性によって界面に吸着し.湿潤,浸透,乳化,可溶化,分散,起泡(当審注:原文は「泡」の「己」は、「巳」となっている。以下、同じ。),潤滑等の作用を示す。この作用を利用した界面活性型潤滑油添加剤には,防錆剤,金属不活性化剤,流動点降下剤,乳化剤/抗乳化剤,清浄分散剤,消泡剤,油性向上剤等がある。・・・(略)・・・ 逆に,抗乳化剤は,安定なエマルションにおいて,油と水の界面張力を増大させてエマルションを熱力学的により不安定な状態にし破壊する。」(77頁左欄1行?右欄17行) 表2「 」(79頁) (オ)引用例5 引用例5には、「油圧作動油組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。 「2.特許請求の範囲 1 全芳香族含有量が2?15重量%、 飽和分中のイソパラフィンと一環ナフテンの合計含有量が60重量%以上、 全芳香族分中のアルキルベンゼン含有量が30重量%以上、 全芳香族分中の三環および四環芳香族含有量が4重量%以下 の組成を有し、かつ、粘度指数が105以上で、流動点が-10℃以下である鉱油を、基油の主成分としたことを特徴とする油圧作動油組成物。 2 組成物全量に対し、摩耗防止剤0.01?10重量%を必須成分として含有せしめたことを特徴とする請求項1記載の油圧作動油組成物。 3 前記鉱油が、減圧蒸留留出油(WVGO)、WVGOのマイルドハイドロクラッキング(MHC)、処理油(HIX)、脱れき油(DAO)、DAOのMHC処理油またはこれらの混合油を、水素化分解触媒の存在下、全圧力150kg/cm^(2)以下、温度360?440℃、LHSV 0.5hr^(-1)以下の反応条件で、分解率40重量%以上になるように水素化分解して、当該生成物をそのまま、もしくは潤滑留分を回収し、次に脱ろう処理した後、脱芳香族処理するかまたは脱芳香族処理した後、脱ろう処理することにより製造されるものである請求項1または2記載の油圧作動油組成物。」(1頁左下欄4行?右欄9行) イ 引用発明の認定 引用例1の【請求項1】から、引用例1には、「(A)硫黄分100ppm以下の基油と、組成物全重量に基づき、(B)ジチオリン酸亜鉛0.2?1重量%,(C)サリチル酸のアルカリ土類金属塩0.2?1重量%及び(D)水分離剤0.01?0.5重量%とを含有する」「耐熱作動油組成物。」が記載されており、同【0003】から、該耐熱作動油組成物は、「耐熱性及び耐摩耗性に優れ、高温雰囲気下で使用してもスラッジを発生せず、かつ水分離性も良好で、高出力の油圧装置などに好適に用いられる」ものであるといえる。 また、同【0020】から、該耐熱作動油組成物は、建設機械等用であるといえる。 そして、該耐熱作動油組成物を具体化した、実施例1、2は、同【0014】?【0016】、【0016】の【表1】及び【0019】に記載されたとおりのものである。 そうすると、引用例1には、 実施例1に基く、 「(A)硫黄分100ppm以下の基油として、水添精製鉱油(40℃の動粘度46cSt,S分3ppm以下,%CA 1以下,N分5ppm,色(ASTM)L0.5)の基油A 98.45重量%、 (B)ジチオリン酸亜鉛として、Zn-ジオクチル-ジチオホスフェート 0.5重量%、 (C)サリチル酸のアルカリ土類金属塩として、塩基価が180mgKOH/gのCa-サリチレート 0.5重量%、 (D)水分離剤として、ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル 0.05重量%、及び、 (E)防錆剤(Ca-スルホネート(塩基価20mgKOH/g))0.5重量% からなる建設機械等用作動油組成物。」(以下、「引用発明1」という。)、及び、 実施例2に基く、 「(A)硫黄分100ppm以下の基油として、水添精製鉱油(40℃の動粘度46cSt,S分3ppm以下,%CA 1以下,N分5ppm,色(ASTM)L0.5)の基油A 97.95重量%、 (B)ジチオリン酸亜鉛として、Zn-ジオクチル-ジチオホスフェート 0.5重量%、 (C)サリチル酸のアルカリ土類金属塩として、塩基価が180mgKOH/gのCa-サリチレート 1.0重量%、 (D)水分離剤として、ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル 0.05重量%、及び、 (E)防錆剤(Ca-スルホネート(塩基価20mgKOH/g)) 0.5重量% からなる建設機械等用作動油組成物。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 (ア)本件発明1について 本件発明1と引用発明1、2とを対比する。なお、引用発明1と引用発明2とは、「(A)硫黄分100ppm以下の基油A」及び「(C)サリチル酸のアルカリ土類金属塩」の量(重量%)が違うだけなので、まとめて引用発明と呼ぶこともある。 (i)引用発明の「(A)硫黄分100ppm以下の基油として、水添精製鉱油(40℃の動粘度46cSt,S分3ppm以下,%CA 1以下,N分5ppm,色(ASTM)L0.5)の基油A」は、本件発明1の「(a)基油」に相当する。 (ii)引用発明の「(B)ジチオリン酸亜鉛として、Zn一ジオクチルージチオホスフェート」は、本件発明1の「(b)ジアルキルジチオリン酸亜鉛」に相当し、引用発明における含有量である0.5重量%は、「重量%」と「質量%」は等価であるから、本件発明1における含有量の範囲である0.01?0.8質量%に含まれる。 (iii)引用発明の「サリチル酸のアルカリ土類金属塩として、塩基価が180mgKOH/gのCa-サリチレート」の「サリチレート」(salicylate)は、「サリシレート」(salicylate)とも表記されるものであるから、該「Ca-サリチレート」は、本件発明1の「(C)塩基性 カルシウムサリシレート」に相当し、これを0.5重量%含有する引用発明1及び同1重量%含有する引用発明2の含有量は、本件発明1の「(C)塩基性 カルシウムサリシレート」の含有量の「0.03?1質量%」の範囲に含まれる。 (iv)本件発明1は、本件明細書の「本発明の建設機械用油圧作動油組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて(f)各種の添加剤を含有することができる。」(【0059】)という記載からも明らかなように、他に各種の添加剤を含むことができるものであるから、水分離剤を含有することを排除するものではない。 (v)引用発明における、亜鉛の原子換算の含有量を算出すると、「(B)ジチオリン酸亜鉛」以外には亜鉛は他には含まれず、「(B)ジチオリン酸亜鉛」として用いられているZn-ジオクチル-ジチオホスフェートの分子量は約772.46であるから、これを0.5重量%含有する引用発明は、原子換算で423重量ppmの亜鉛を含有するものであって、この含有量は、本件発明1の「亜鉛の原子換算の含有量」の「100?500質量ppm」の範囲に含まれる。 (vi)引用発明の「建設機械等用作動油組成物」は、建設機械用油圧作動油組成物としても用いられることは明らかであるから、本件発明1の「建設機械用油圧作動油組成物」に相当する。 (vii)そうすると、本件発明1と引用発明とは、 「(a)基油、 (b)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.01?0.8質量%、 (c)塩基性カルシウムサリシレートを0.03?1質量%、 を含有し、 亜鉛の原子換算の含有量が100?500質量ppmである 建設機械用油圧作動油組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) 本件発明1は、「(d)N原子又はO原子を含有しP原子を含有しない無灰系摩擦調整剤を50?5000質量ppm」を含有し、「該無灰系摩擦調整剤が、多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤であり、該多価アルコールハーフエステルは、炭素数が12?24の脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル、炭素数が12?24の脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は炭素数が12?24の脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステルであり、該カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸であり、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸アミドである」のに対し、引用発明1、2は、そのような無灰系摩擦調整剤について規定はない点。 ここで、相違点について検討する。 引用発明は、「(D)水分離剤として、ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル 0.05重量%」を含有するところ、「ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル」は、化学式で表せば、「C_(8)H_(17)-(OC_(2)H_(4))_(4)-OH」と表されることから、N原子又はO原子を含有しP原子を含有しない物質であるということができる。 しかしながら、該「ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル」は、その組成から明らかなように、本件発明1において規定された上記無灰系摩擦調整剤には含まれない。 そして、本件発明1では、「多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤」において、 「該多価アルコールハーフエステルを有する無灰系摩擦調整剤」は、「脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル、脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステル」であって、該脂肪酸の炭素数が12?24であり、「カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤」は「脂肪酸」であって、該脂肪酸の炭素数が12?24であり、「アミド基を有する無灰系摩擦調整剤」は、「脂肪酸アミド」であって、該脂肪酸アミドの炭素数が12?24であるものを採用することにより、基油への溶解性が高いもの(【0035】?【0037】)となり、「充分な耐摩耗性を有し、スラッジ発生抑制性に優れ、油圧シリンダー等の始動時や停止直前のスムーズな動きを確保できる程度に低摩擦係数であり、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用の油圧作動油組成物を提供できる」(【0014】)という、本件明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明であるとすることはできない。 また、引用例2?5(甲2?甲5)の記載及び異議申立人の主張からは、引用発明における「(D)水分離剤として、ポリオキシエチレン(4モル付加)オクチルエーテル 0.05重量%」に替えて、上記相違点に係る、基油への溶解性が高い無灰系摩擦調整剤を含有させる動機付けを見出すことはできず、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。 (イ)本件発明2?3について 本件発明2?3は、本件発明1を引用し、さらに限定したものであるから、本件発明1と同様な理由により、本件発明2?3は、引用発明であるとすることはできないし、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。 (2)次に、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号の取消理由について、まとめて検討する。 ア 特許法第36条第6項第1号について 本件発明の課題は、「亜鉛系でありながら、高温及び高圧の条件下でも耐摩耗性及びスラッジ発生抑制性に優れ、更に、油圧シリンダー等の始動時や停止直前のスムーズな動きを確保できる程度に低摩擦係数であり、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用の油圧作動油組成物を提供することにある」(【0012】)ところ、本件明細書の【0031】から、本件発明1は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を本件発明1で規定される含有量の範囲とすることで、ジアルキルジチオリン酸亜鉛による耐摩耗性や過酸化物分解作用が十分に得られることが理解でき、同【0033】から、塩基性カルシウムサリシレートを本件発明1で規定される含有量の範囲とすることで、塩基性カルシウムサリシレートによるスラッジ抑制性が十分に得られることが理解でき、同【0035】?【0037】、【0048】から、無灰系摩擦調整剤を本件発明1で規定される組成及び含有量の範囲とすることで、基油への溶解性の高い無灰系摩擦調整剤であって、無灰系摩擦調整剤による低い摩擦係数が得られることが理解できる。 そうすると、本件発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである、とはいえず、本件特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。 イ 特許法第36条第6項第2号について 本件発明において、「無灰系摩擦調整剤」は、請求項1に規定されるように明らかなものであって、本件発明が明確でない、とはいえず、本件特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。 (3)以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 (4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 異議申立人は、特許法第36条第4項第1号の違反として、次のように主張している。 「本件発明において、成分(d)は、「無灰系摩擦調整剤」という機能で特定されているが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、成分(d)が「摩擦調整剤」として機能していることが把渥できないので、本件明細書に接した当業者は、本件発明を実施することができない。」 しかしながら、上記(2)で述べたように、本件発明において「無灰系摩擦調整剤」は明確に特定され、「摩擦調整剤」として機能していることが理解できる。 したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。 (5)異議申立人の意見について 平成29年9月4日付けの訂正請求に対して、異議申立人からは意見書が提出されなかった。 5.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)基油、 (b)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.01?0.8質量%、 (c)塩基性カルシウムサリシレートを0.03?1質量%、 (d)N原子又はO原子を含有しP原子を含有しない無灰系摩擦調整剤を50?5000質量ppm、 を含有し、 亜鉛の原子換算の含有量が100?500質量ppmであり、 該無灰系摩擦調整剤が、多価アルコールハーフエステル、カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤又はアミド基を有する無灰系摩擦調整剤であり、 該多価アルコールハーフエステルは、炭素数が12?24の脂肪酸とグリセリンのモノエステル若しくはジエステル、炭素数が12?24の脂肪酸とペンタエリスリトールのモノエステル、ジエステル若しくはトリエステル、又は炭素数が12?24の脂肪酸とトリメチロールプロパンのモノエステル若しくはジエステルであり、該カルボキシル基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸であり、アミド基を有する無灰系摩擦調整剤は、炭素数が12?24の脂肪酸アミドであること、 を特徴とする建設機械用油圧作動油組成物。 【請求項2】 前記(a)が、%CAが5%以下の基油であり、前記(b)が、アルキル基の炭素数が3?18のプライマリージアルキルジチオリン酸亜鉛であり、且つ、前記(d)が、水酸基を有する無灰系摩擦調整剤であることを特徴とする請求項1記載の建設機械用油圧作動油組成物。 【請求項3】 更に、(e)重量平均分子量が2万?15万のポリ(メタ)アクリレートを0.1?7質量%含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の建設機械用油圧作動油組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-02-19 |
出願番号 | 特願2013-100219(P2013-100219) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C10M)
P 1 651・ 113- YAA (C10M) P 1 651・ 536- YAA (C10M) P 1 651・ 121- YAA (C10M) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 川端 修 |
登録日 | 2016-06-10 |
登録番号 | 特許第5947745号(P5947745) |
権利者 | コスモ石油ルブリカンツ株式会社 |
発明の名称 | 建設機械用油圧作動油組成物 |
代理人 | 赤塚 賢次 |
代理人 | 特許業務法人あしたば国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人あしたば国際特許事務所 |
代理人 | 赤塚 賢次 |