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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1339180
異議申立番号 異議2017-700790  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-14 
確定日 2018-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6079103号発明「シーラントフィルム、並びにそれを用いた包装材及び包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6079103号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6079103号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年9月28日にされた出願であって、平成29年1月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年8月14日に、その請求項1?6について、特許異議申立人土田裕介(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、当審において、平成29年9月29日付けで、特許権者に対して取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月1日に特許権者から意見書が提出された。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材層に積層して用いるシーラントフィルムであって、
1層またはそれ以上の石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層と、1層またはそれ以上の植物由来ポリエチレン系樹脂からなる多層積層フィルムであり、
基材層積層面を形成する、植物由来ポリエチレン系樹脂中の低分子量化合物の基材層積層面へのブリードアウトを防ぎ基材層とのラミネート強度を高めるための石油由来ポリエチレン系樹脂は、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により得られる分子量分布図において、分子量1000以下の低分子量領域の面積割合が、全ピーク面積に対して0.5面積%以下であり、
上記石油由来ポリエチレン系樹脂は、石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合した樹脂であり、
シーラントフィルム全体のバイオマス度が50?80%であることを特徴とする、上記シーラントフィルム。
【請求項2】
1層の石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層と、1層の植物由来ポリエチレン系樹脂からなる層とからなる2層積層フィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
2層の石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層と、1層の植物由来ポリエチレン系樹脂からなる層とからなる3層積層フィルムであって、
基材層積層面を形成する最表層に加えて、その反対側のヒートシール面を形成する最表層も、石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層であり、
これらの間の中間層が、植物由来ポリエチレン系樹脂からなる層であることを特徴とする、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項4】
基材層と、請求項1?3のいずれか1項に記載のシーラントフィルムからなる層とを有することを特徴とする包装材。
【請求項5】
請求項4に記載の包装材を用いてなる包装袋。
【請求項6】
詰め替え用スタンディングパウチであることを特徴とする、請求項5に記載の包装袋。」

第3 取消理由の概要
本件発明1?6のそれぞれに係る特許に対して、平成29年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。本件取消理由の通知によって、本件特許異議の申立てに係る全ての取消理由が通知された。なお、甲第1号証等を、以下、「甲1」等という。甲1等に記載された発明あるいは事項を、ぞれぞれ、「甲1発明」あるいは「甲1事項」等という。

【理由1】(サポート要件) 本件特許の特許請求の範囲の記載は下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
【理由2】(進歩性) 本件発明1?6は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


< 刊 行 物 一 覧 >
甲1:特開2012-167172号公報
甲2:杉山英路、前田純「地球環境にやさしい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック 2009年8月号 第37巻 第8号 通巻437号、(株)加工技術研究会、2009年8月15日発行、63?67ページ
甲3:牧野太宣「サトウキビから作られたプラスチック包装材料『Bipro-PE』」、コンバーテック 2011年2月号 第39巻 第2号 通巻455号、(株)加工技術研究会、2011年2月15日発行、83?85ページ
甲4:松浦一雄、三上尚孝「ポリエチレン技術読本」、(株)工業調査会、2001年7月1日初版第1刷発行、163?196ページ
甲5:大浜俊生「メタロセン系ポリエチレンの構造・物性と応用展開」、成形加工 10月号、Vol.8 No.10 1996、(社)プラスチック成形加工学会、1996年10月20日発行、631?637ページ
甲6:藤本省三、安田陽一、三木康弘、兼重洋右「L-LDPEのフィルム加工について」、東洋曹達研究報告 第27巻 第2号 通巻54号、東洋曹達工業(株)研究本部、昭和58年7月1日発行、87?98ページ
甲7:羽田正紀、「プラスティックフィルムの表面改質」、日本印刷学会誌 第47巻 第2号、(社)日本印刷学会、平成22年4月30日発行、78?82ページ
甲8:特開2009-297935号公報
甲9:特開昭54-158477号公報
甲10:特開昭56-64865号公報
甲11:特開平4-135852号公報

【理由1】
・請求項1?6
・備考
(1)甲1?5事項から把握される技術常識を踏まえると、本件特許明細書の記載から、植物由来ポリエチレン樹脂を含む樹脂フィルムは、(フィルム中の石油由来ポリエチレン系樹脂が、同じコモノマーを使用して同1条件で製造された、MFR及び密度や低分子量化合物の量が同じ植物由来のポリエチレン系樹脂に置換されて、)植物由来ポリエチレン樹脂の配合率が高くなるにつれて、シーラントとして使用する場合のラミネート強度が低下するとの課題が存在することを、当業者が認識するすることはできない。したがって、本件特許明細書の記載から、本件発明1?6に係るシーラントフィルムによって、当該課題が解決できることが理解できない(以下、「理由1-1」という)。
(2)本件特許の特許請求の範囲の各請求項には、スリップ剤が記載されておらず、各請求項に係る発明がフィルム中にスリップ剤が存在しないものも包含する記載となっている。
一方、本件特許明細書の段落【0015】の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものは、フィルム中にスリップ剤等が存在するものが前提であることが理解できる。したがって、本件特許の各請求項に係る発明のうち、フィルム中にスリップ剤が存在しないものは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない(以下、「理由1-2」という)。
(3)本件特許明細書(段落【0068】?【0090】)記載の実施例及び比較例をみても、本件特許の請求項1?6に係る発明が、本件発明の「ラミネート強度低下」や「滑り性低下」に関する課題を解決できることが理解できない(以下、「理由1-3」という)。

【理由2】
・請求項1?6
・引用文献:甲1
・備考
本件発明1?6は、甲1発明及び従来周知(周知例:甲6)の事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、一般の樹脂フィルムの積層体において、積層するフィルム中の低分子量化合物が表面にブリードアウトし、基材となる層との接着性を低下させる問題は本件特許に係る出願時において当業者によく知られており、この問題を解決するために積層フィルムと基材となる層との間に別の層を設けることは、当業者にとって常套手段であったといえる。

第4 当審の判断
1.【理由1】について
(1)理由1-1について
本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を低減するために、樹脂フィルムの原料の一部を、石油由来の樹脂から、植物由来成分を主成分とする樹脂(以下「植物由来樹脂」と呼ぶ)に置き換えることが検討されている(特許文献1)。そして、植物由来樹脂は、従来の石油由来の樹脂と、化学構造的には変わりがなく、同等の物性を有することが期待されている。
【0003】
しかしながら、実際には、植物由来樹脂を含む樹脂フィルム、例えば植物由来ポリエチレン系樹脂を含むシーラントフィルムは、石油由来のポリエチレン系樹脂のみからなるシーラントフィルムとは異なる性質を示す。
【0004】
例えば、石油由来のポリエチレン系樹脂を含んでなるシーラントフィルムにおいて、原料のポリエチレン系樹脂の一部を、植物由来ポリエチレン系樹脂に変えると、その配合率が高くなるにつれて、その上に積層する基材層とのラミネート強度が低下し、層間剥離が起き易くなることが分かった。
【0005】
したがって、基材層との高いラミネート強度と、高いバイオマス度との両方を達成することは困難であった。
この問題に対し、シーラントフィルム中にブリードアウト抑制剤を存在させることにより、基材層とのラミネート強度を高めることができたが、その一方で、滑り性が低下するという問題が生じた。
【0006】
そして、シーラントフィルムの滑り性が低下することにより、フィルム成形工程、スリット工程、製袋工程、内容物充填工程等において、フィルム同士が癒着する、いわゆるブロッキング現象が起こるため、巻き皺が発生したり、長期保存や高温状態で保存すると、使用時にフィルムの展開性が悪くなり、製袋作業性、充填作業性等が著しく低下する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、基材層と高いラミネート強度を示し、且つ、滑り性に優れ、且つ、フィルム全体として少なくとも45%の高いバイオマス度を示すことから環境への負荷が低減されたシーラントフィルム、並びにそれを用いた包装材及び包装袋を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々研究の結果、植物由来ポリエチレン系樹脂の配合率が上がるにつれて起きるラミネート強度の低下が、植物由来ポリエチレン系樹脂中の低分子量化合物、例えばモノマー、オリゴマー等のフィルム表面上へのブリードアウト(析出)に起因していることを見出した。さらに、植物由来ポリエチレン系樹脂を含むシーラントフィルムにおいて、その基材層積層面を、低分子量成分をほとんど含まない石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層で覆うことにより、滑り性を低下させることなく、該植物由来樹脂中の低分子量化合物の基材層積層面へのブリードアウトを防ぎ、基材層とのラミネート強度を高められることを見出した。」
「【0070】
[実施例1]
石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020、密度0.916kg/m^(3)、MFR=2.3g/10分)70質量%、石油由来LDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N、密度0.920kg/m^(3)、MFR=1.2g/10分)29質量%、及びスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%を十分に溶融混練し、第1の樹脂組成物を調製した。第1の樹脂組成物における分子量1000以下の低分子量成分の割合は、0.5面積%であった。
【0071】
また、植物由来LLDPE(ブラスケム社製C4-SLL118、密度0.916kg/m^(3)、MFR=1.0g/10分、バイオマス度87%)99質量%とスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%とを十分に溶融混練し、第2の樹脂組成物を調整した。
【0072】
第1及び第2の樹脂組成物を用いて、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により製膜し、第1の樹脂組成物(基材層積層面、厚さ25μm)/第2の樹脂組成物(中間層、厚さ70μm)/第1の樹脂組成物(ヒートシール面、厚さ25μm)の3層からなる、本発明のシーラントフィルムを製造した。バイオマス度は50%であった。
【0073】
[実施例2]
第1の樹脂組成物において、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020)の代わりに、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP1540、密度0.913kg/m^(3)、MFR=3.8g/10分)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のシーラントフィルムを製造した。第1の樹脂組成物における分子量1000以下の低分子量成分の割合は、0.3面積%であった。また、バイオマス度は50%であった。
【0074】
[実施例3]
石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020、密度0.916kg/m^(3)、MFR=2.3g/10分)99質量%とスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%とを十分に溶融混練し、第1の樹脂組成物を調製した。第1の樹脂組成物における分子量1000以下の低分子量成分の割合は、0.4面積%であった。
【0075】
また、植物由来LLDPE(ブラスケム社製C4-SLL118、密度0.916kg/m^(3)、MFR=1.0g/10分、バイオマス度87%)99質量%とスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%とを十分に溶融混練し、第2の樹脂組成物を調整した。
【0076】
第1及び第2の樹脂組成物を用いて、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により製膜し、第1の樹脂組成物(基材層積層面、厚さ10μm)/第2の樹脂組成物(ヒートシール面、厚さ120μm)の2層からなる、本発明のシーラントフィルムを製造した。バイオマス度は80%であった。
【0077】
[比較例1]
第1の樹脂組成物において、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020)の代わりに、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製ウルトラゼックス2022L、密度0.919kg/m^(3)、MFR=2.0g/10分)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シーラントフィルムを製造した。第1の樹脂組成物における分子量1000以下の低分子量成分の割合は、0.6面積%であった。また、バイオマス度は50%であった。
【0078】
[比較例2]
第1の樹脂組成物において、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020)の代わりに、石油由来LDPE(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLD、LC600A密度0.918kg/m^(3)、MFR=7.2g/10分)を用いた以外は、実施例3と同様にして、シーラントフィルムを製造した。第1の樹脂組成物における分子量1000以下の低分子量成分の割合は、3.3面積%であった。また、バイオマス度は80%であった。
【0079】
[比較例3]
植物由来LLDPE(ブラスケム社製C4-SLL118、密度0.916kg/m^(3)、MFR=1.0g/10分、バイオマス度87%)58質量%、石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020、密度0.916kg/m^(3)、MFR=2.3g/10分)12質量%、石油由来LDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N、密度0.920kg/m^(3)、MFR=1.2g/10分)29質量%、及びスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%を十分に溶融混練し、得られた樹脂組成物を上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により製膜し、厚さ120μmのシーラントフィルムを製造した。バイオマス度は50%であった。
【0080】
[比較例4]
石油由来LLDPE((株)プライムポリマー製エボリューSP2020、密度0.916kg/m^(3)、MFR=2.3g/10分)70質量%、石油由来LDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N、密度0.920kg/m^(3)、MFR=1.2g/10分)29質量%、及びスリップ剤(日本ユニカー(株)製M-3)1質量%を十分に溶融混練し、得られた樹脂組成物を上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により製膜し、厚さ120μmのシーラントフィルムを製造した。バイオマス度は0%であった。
【0081】
[評価]
(ラミネート強度)
実施例1?3のシーラントフィルムの基材層積層面、及び比較例1?2のシーラントフィルムの一方の面に、コロナ処理を施し、その処理面に、接着剤層を介して二軸延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)をドライラミネートして、積層フィルムを作製した。この積層フィルムを、40℃×3日間エージングし、さらに23℃で2週間経過後のラミネート強度を、15mm幅あたり、T型剥離、引張速度50mm/min.にて測定した。
【0082】
(滑り性)
実施例1?3及び比較例1?2のシーラントフィルムをそれぞれ2枚用意し、フィルム(ヒートシール面)対フィルム(ヒートシール面)の滑り性について、JIS K7125:1999(摩擦係数試験方法)に準拠して摩擦係数を測定した。
結果を以下の表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1?3のシーラントフィルムは、50?80%もの高いバイオマス度を有しているにも関わらず、比較例4のシーラントフィルム(バイオマス度0%)と同等の、優れたラミネート強度や滑り性を示した。
・・・」

以上の摘記から、近年、環境への負荷を低減するために、樹脂フィルムの原料の一部を、石油由来の樹脂から、植物由来樹脂に置き換えることが検討されていて、植物由来樹脂は、従来の石油由来の樹脂と、化学構造的には変わりがなく、同等の物性を有することが期待されているところ、実際は、石油由来のポリエチレン系樹脂を含んでなるシーラントフィルムにおいて、原料のポリエチレン系樹脂の一部を、植物由来ポリエチレン系樹脂に変えると、その配合率が高くなるにつれて、その上に積層する基材層とのラミネート強度が低下し、層間剥離が起き易くなるとの問題が生じることがわかった(段落【0002】?【0004】)。また、この問題に対して、シーラントフィルム中にブリードアウト抑制剤を存在させることは、シーラントフィルムのすべり性が低下し、製袋作業性、充填作業性が著しく低下するとの問題が生じた(段落【0006】)。
そうすると、本件発明は、上記問題点を解決し、基材層と高いラミネート強度を示し、且つ、滑り性に優れ、且つ、フィルム全体として少なくとも45%の高いバイオマス度を示すことから環境への負荷が低減されたシーラントフィルム、並びにそれを用いた包装材及び包装袋を提供することを、その課題とするものである。
ここで、上記摘記の段落【0070】?【0083】に記載された実施例1?3、比較例1?4についてみてみると、上記第2に示した本件特許の請求項1の特定事項の範囲内にある実施例1及び2は、ラミネート強度が、それぞれ「8.9N/15mm」及び「11.5N/15mm」(段落【0083】)と、植物由来成分を全く含まない比較例4の「8.6N/15mm」以上の強度が実現されている。そして、滑り性(μs/μD)は、実施例1、実施例2及び比較例4において、それぞれ「0.11/0.13」、「0.12/0.13」及び「0.11/0.13」とほぼ同等の数値である。
したがって、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、かつ、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、本件発明の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない、とはいえない。

なお、申立人は、「比較例4と比べて比較例3でラミネート強度が低下した理由は、シーラントフィルムを構成する樹脂組成物が植物由来ポリエチレン系樹脂を高い配合率で含んだこと自体にあるのではなく、植物由来であるか石油由来であるかにかかわらず樹脂組成物が低分子量化合物を多く含んでいたことにあるともいえる。」(特許異議申立書 27ページ4?8行)と主張する。しかし、「比較例3」と「比較例4」とを対比すると、バイオマス度が0%の「比較例4」の70質量%を占める「石油由来LLDPE((株))プライムポリマー製エボリューSP2020)」のうち、58質量%を「植物由来LLDPE(ブラスケム社製 C4-SLL118)」に置き換えてバイオマス度が50%の「比較例3」としたときに、ラミネート強度(N/15mm)が、8.6から1.1へ低下したことが示されている。そして、甲8の「・・・低分子量物質がブリードアウトして外観不良、シール不良の原因となることも多い。」(段落【0014】)との記載を踏まえると、「比較例3」のラミネート強度が「比較例4」のものより低下したのは、植物由来のLLDPEから、低分子量成分がブリードアウトしたことによるものであると、当業者であれば一応理解できるから、申立人の上記主張は採用できない。
さらに、申立人は、「比較例1」及び「比較例2」を対比して、それぞれの低分子領域の面積割合がそれぞれ0.6面積%及び3.3面積%であり、ラミネート強度がそれぞれ3.4N/15mm及び4.0N/15mmと実施例と比べて低くなっている点について、「しかしながら、この評価結果の違いは、植物由来ポリエチレン系樹脂中の低分子量化合物のブリードアウトとは関係がなく、単に基材層積層面を形成する石油由来ポリエチレン系樹脂中の低分子量化合物のブリードアウトによるとも考えられる」(特許異議申立書 27ページ(vi))と主張する。しかし、上記したとおり、「比較例3」及び「比較例4」との対比から、植物由来のLLDPEから、低分子量成分がブリードアウトしたことによるラミネート強度の低下が、一応理解できるし、そのような理解のもとに、上記「比較例1」及び「比較例2」をみると、植物由来ポリエチレン系樹脂からなる層から、低分子量化合物のブリードアウトにより、ラミネート強度の低下が生じたと理解することができるので、申立人のこの主張も採用できない。

(2)理由1-2について
本件特許明細書には、「・・・ここで、該石油由来ポリエチレン系樹脂中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、少量の、例えば5質量%以下の添加剤、具体的には、スリップ剤(滑剤)、耐電防止剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、結晶化促進剤、安定化剤(老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤など)、粘着付与剤、軟化剤、着色剤、カップリング剤、防腐剤、防カビ剤等を添加してもよい。」(段落【0049】)、「・・・樹脂フィルムには、加工適性を確保すべく滑り性が要求される。そして、必要に応じて、フィルム中にスリップ剤、耐電防止剤等の滑り製付与剤を配合して、滑り性の向上を図ることが行われている。」(段落【0050】)との記載がある。すると、「スリップ剤」とは、本件発明においては、樹脂フィルムに要求される滑り性を確保するために、「必要に応じて」加えるものであるに過ぎず、スリップ剤を添加せずとも滑り性が確保出来るのであれば、添加する必要はないものであることが理解できる。
したがって、上記第3の「理由1-2」についての申立人の主張は採用できない。

(3)理由1-3について
本件発明1は、「基材層積層面を形成する」「石油由来ポリエチレン系樹脂」は、「石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合した樹脂」であるところ、「実施例3」は、基材層積層面を形成する石油由来ポリエチレン系樹脂が、石油由来のLDPEのみであるから、本件発明1に含まれないものである。そして、上記(1)に示したように、本件発明1の範囲に含まれる実施例1及び2の、それぞれの、ラミネート強度及び滑り性は、石油由来のみの成分から構成される比較例4のラミネート強度より大きく、滑り性はほぼ同等のものであるから、本件発明1、及び、本件発明1を引用する本件発明2?6が、本件発明の「ラミネート強度低下」や「滑り性低下」に関する課題を解決できることは明らかである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
よって、本件発明1?6の各々に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

2.【理由2】について
(1)甲1及び甲1発明
甲1の段落【請求項1】、【請求項4】?【請求項7】、【0015】、【0029】、【0033】、【0038】、【0040】、【0044】、【0047】、【0048】、【0054】、【実施例3】【0057】、【図4】、【図6】の、特に【図6】に記載されたシーラントフィルム4を、「F3」(段落【0040】、【図4】)としたものに着目すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。

「基材フィルム5に積層して用いるシーラントフィルム4であって、
2層の石油由来ポリエチレン系樹脂からなる層2と、1層の植物由来ポリエチレン系樹脂であるブラスケム社C4LL-LL118からなる層1により構成される多層積層フィルムであり、
基材フィルム5積層面を形成する、石油由来ポリエチレン系樹脂は、三井化学C6LL-エボリューSP2020であり、
シーラントフィルム4全体のバイオマス度は、約29%である、上記シーラントフィルム4。」

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>
基材層積層面を形成する石油由来ポリエチレン系樹脂に関して、本件発明1は、石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合した樹脂であるのに対し、甲1発明は、三井化学C6LL-エボリューSP2020である点。
<相違点2>
シーラントフィルム全体のバイオマス度については、本件発明1が50?80%であるのに対し、甲1発明は約29%である点。

イ.相違点についての判断
<相違点1>について検討する。
甲1には、基材フィルム5積層面を形成する石油由来ポリエチレン系樹脂2を、石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合した樹脂とすることの記載はないし、示唆する記載もない。
甲6には、「LLDPEとLDPEとを混合することにより、フィルムの引き裂き強さが大きく変化する旨、示されている(94ページ左欄1?10行、98ページ左欄3?14行、97ページ右下欄Fig.31、98ページ左欄Fig.32)。しかし、甲6には、当該混合して作成したフィルムを、基材フィルム5積層面を形成する石油由来ポリエチレン系樹脂として用いることまでは記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2?5、7?11にも、その点は記載されていないし、示唆する記載もない。
本件発明1は、当該石油由来ポリエチレン系樹脂を、石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合した樹脂としたことで、「植物由来ポリエチレン系樹脂中の低分子量化合物の基材層積層面へのブリードアウトを防ぎ基材層とのラミネート強度を高め」(本件特許の【請求項1】)つつ、「・・・石油由来LLDPEと石油由来LDPEとを混合して用いることにより、手切れ性に優れる」(段落【0044】)との格別な作用効果を奏する。
よって、甲1発明について、相違点1における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そうすると、<相違点2>について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び従来周知(周知例:甲6)の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記(2)に示したように、本件発明1は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2?6のいずれも、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないとはいえないから、本件発明1?6に係る特許は特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

第5 むすび
上記第4で検討したとおりであるから、上記取消理由によっては、本家発明1?6の各々に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2018-03-20 
出願番号 特願2012-217699(P2012-217699)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 玲奈  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 谿花 正由輝
久保 克彦
登録日 2017-01-27 
登録番号 特許第6079103号(P6079103)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 シーラントフィルム、並びにそれを用いた包装材及び包装袋  
代理人 黒木 義樹  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 池田 正人  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  

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