• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1339193
異議申立番号 異議2017-701050  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-09 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6124660号発明「酸化型毛髪処理剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6124660号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6124660号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年4月18日に特許出願され、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし4に係る特許に対し、平成29年11月9日に特許異議申立人 板倉 昭夫 により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明

特許第6124660号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、本件発明1ないし4を総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの本件発明1は以下のとおりである。

(本件発明1)
「【請求項1】
アルカリ剤が配合された第1剤と酸化剤が配合された第2剤とで構成され、上記第1剤と上記第2剤とが混合されてから染毛または毛髪の脱色に使用される酸化型毛髪処理剤であって、
上記第1剤は、
(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸、
(b)カチオン化セルロース、
(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子、および
(e)アルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩、エステル含有3級アミン塩、アーコベル型3級アミン塩、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチルアンモニウム塩、トリ長鎖アルキルモノメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩およびモノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩より選ばれる1種または2種以上のカチオン性界面活性剤が配合されていることを特徴とする酸化型毛髪処理剤。」


第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、下記の甲第1号証ないし甲第6号証並びに参考資料1及び2を提出し、(1)本件発明1ないし4は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、(2)本件発明1ないし4は、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、上記(1)及び(2)より本件発明1ないし4に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから同法第113条第2号に該当し取り消すべきものであり、本件発明4に係る特許は、(3)その特許請求の範囲が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものであり、さらに、本件発明1ないし4に係る特許は、(4)その特許請求の範囲が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、(5)その発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、上記(4)及び(5)より同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである旨主張している(以下、上記(1)ないし(5)に係る申立理由をそれぞれ「取消理由1」ないし「取消理由5」という。)。

特許異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第6号証及び参考資料1及び2
甲第1号証:衛署粧輸字第016164號(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2009-209082号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2008-150333号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2008-137958号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2007-039352号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2000-297019号公報(以下「甲6」という。)
参考資料1:化粧品原材料データベース,Merquat^(TM) 295 Polymer,株式会社マツモト交商
参考資料2:chemical-navi,NIKKOL BC-30(セテス-30)


第4 各証拠の記載事項

1 甲1の記載事項

(1)甲1は、公衆に利用可能な台湾衛生福利部食品藥物管理署の医薬品・医療機器・化粧品登録許可証検索データベースによって衛署粧輸字第016164號を検索した結果を表示した画面の写しであり、「發證日期98/05/26」(当審訳:発行日付 98年5月26日(西暦2009年5月26日))と記載されていることから、甲1に記載されている技術事項は、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であると推認できる。

そして、甲1には、以下の記載がある。
(甲1-1)「用途 染髪。
劑型 983膏劑 ・・・
・・・
化粧品類別 0110染髪劑
主成分略述 AMMONIA WATER(AMMONIUM HYDROXIDE),1-NAPHTHOL,P-AMINOPHENOL,P-PHENYLENEDIAMINE,2,4-DIAMINOPHENOXYETHANOL HCL(EQ TO 2,4-DIAMINOPHENOXYETHANOL DIHYDROCHLORIDE),N,N,-BIS(2-HYDROXYETHYL)-P-PHENYLENEDIAMINE SULFATE」
(当審訳:用途 染毛。
剤型 983クリーム剤 ・・・
・・・
化粧品類別 0110染毛剤
主成分概要 アンモニア水(水酸化アンモニウム),1-ナフトール、p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール(2,4-ジアミノフェノキシエタノール二塩酸塩に同じ)、硫酸N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン)

(甲1-2)倣單標籤粘貼表(当審注:原文では「倣」は人偏に「方」。当審訳:能書ラベル添付表)の其他成分(当審注:原文では「分」は人偏に「分」。当審訳:その他成分)の項
「WATER,CETEARYL ALCOHOL,PEG-20,CETETH-30,PETROLATUM,STEARETH-2,BEESWAX,MINERAL OIL,MICROCRYSTALLINE WAX,STEARIC ACID,STEARTRIMONIUM CHLORIDE,STEARYL ALCOHOL,OLEIC ACID,DIGLYCERIN,DIMETHICONE,HYDROLYZED CONCHIOLIN PROTEIN,HYDROXYETHYLCELLULOSE,POLYQUATERNIUM-4,POLYQUATERNIUM-22,TAURINE,THEANINE AMMONIUM CHLORIDE,ASCORBIC ACID,SODIUM SULFITE,TRISODIUM HEDTA,FRAGRANCE」
(当審訳:水、セテアリルアルコール、PEG-20、セテス-30、ペトロラタム、ステアレス-2、蜜蝋、鉱油、マイクロクリスタリンワックス、ステアリン酸、ステアルトリモニウムクロリド、ステアリルアルコール、オレイン酸、ジグリセリン、ジメチコン、コンキオリンタンパク質分解物、ヒドロキシエチルセルロース、ポリクオタニウム-4、ポリクオタニウム-22、タウリン、テアニン、塩化アンモニウム、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、香料)

(2)甲1に記載された発明
(甲1-1)及び(甲1-2)の記載から、甲1には、

「 アンモニア水、1-ナフトール、p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール、硫酸N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン、水、セテアリルアルコール、PEG-20、セテス-30、ペトロラタム、ステアレス-2、蜜蝋、鉱油、マイクロクリスタリンワックス、ステアリン酸、ステアルトリモニウムクロリド、ステアリルアルコール、オレイン酸、ジグリセリン、ジメチコン、コンキオリンタンパク質分解物、ヒドロキシエチルセルロース、ポリクオタニウム-4、ポリクオタニウム-22、タウリン、テアニン、塩化アンモニウム、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、及び香料を含む染毛剤。」

の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 甲2の記載事項

(1)甲2には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(甲2-1)「【請求項1】
酸化染料中間体、カプラー及びアルカリ剤を含む第1剤、並びに酸化剤を含む第2剤を、使用時に混合して調製される酸化染毛剤であって、一般式(1)で示される構成単位を有する両性高分子(A)を含有することを特徴とする酸化染毛剤。
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子、メチル基又はエチル基、R^(2)は炭素数1?6のアルキレン基、R^(3)及びR^(5)は炭素数1?6のアルキル基、R^(4)は炭素数1?3のアルキレン基、Qは酸素原子又は-NH-、Zは-COO又は-SO_(3)である。)
・・・
【請求項5】
さらに、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性高分子及び前記(A)以外の両性高分子からなる群から選ばれる1種以上を含有してなる請求項1?4のいずれか記載の酸化染毛剤。」


(甲2-2)「【0001】
本発明は酸化染毛剤に関する。詳しくは、酸化染毛料とアルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤からなる、いわれる酸化染毛剤に関するものである。
・・・
【0005】
本発明の酸化染毛剤は、毛髪が傷つきにくく、パサパサになりにくく、染色堅牢性に優れている。」

(甲2-3)「【0008】
本発明の両性高分子(A)は、両性単量体を重合する方法又は高分子反応による方法によって製造できる。」

(甲2-4)「【0014】
(2)両性化反応(ベタイン化反応);
ジアルキルアミノアルキルα-(ヒドロキシアルキル)アクリレートと一般式(3)で示される化合物(B)とを反応させて両性化する。
X-R^(5)-Z^(-)M^(+) (3)
式中、R^(5)及びZは一般式(1)におけると同様であり、好ましいものも同様である。
Xはハロゲン原子、Mはカチオンである。Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Mで示されるカチオンとしては、アルカリ金属原子(ナトリウム、カリウム及びリチウムなど)カチオン、アルカリ土類金属原子(カルシウム及びマグネシウムなど)カチオン、アンモニウムカチオン、有機アミン(モノメチルアミン、モノエチルアミン及びモノブチルアミンなどのモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジブチルアミンなどのジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン及びトリブチルアミンなどのトリアルキルアミン;シクロヘキシルアミンなどの環状アミン;並びに、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン)カチオン、及び第4級アンモニウムカチオン(テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン及びトリメチルベンジルアンモニウムカチオンなど)などが挙げられる。一般式(4)で示される化合物(B)の具体例としては、モノクロル酢酸ナトリウム、モノクロル酢酸カリウム、モノクロル酢酸モノエタノールアミン塩などが挙げられる。両性化反応における仕込みモル比、温度、時間及び精製方法などは、通常の方法でよく、例えば、ジアルキルアミノアルキルα-(ヒドロキシアルキル)アクリレートと一般式(4)で示される化合物との仕込みモル比(アクリレート/化合物)は、通常0.8/1?1/1.3、好ましくは1/1?1/1.2である。なお、反応中の重合を防止するために重合禁止剤(例えば、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン及びフェノチアジンなど)を、アクリレートの重量に対して0.1?3重量%添加することが好ましい。 溶剤としては、水、親水性有機溶剤(メタノール、エタノール及びイソプロパノールなどのアルコール類、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類)、又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤が使用できる。溶剤として水の使用割合が多いほど両性化反応が進行しやすい。一方、水の使用量が少なく親水性有機溶剤の使用割合が多い(例えば90%以上)ほど副生する塩が析出し易く、副生塩の除去がし易いという利点がある。従って、工程上のコスト、及び得られる両性化物の使用目的を考慮して、溶剤の使用量や割合は適宜選択できる。反応温度は、通常は50?100℃、好ましくは60?90℃であり、反応時間は通常4?30時間、好ましくは5?20時間である。精製方法としては、副生塩が析出している場合は濾過、副生塩が溶解している場合は透析やイオン交換などが挙げられる。なお、反応条件、特に反応系の水分の量やpHによっては、副生物としてジアルキルアミノアルキルα-(ヒドロキシアルキル)アクリレートのヒドロキシル基が化合物(B)と反応してできるカルボキシアルキルエーテル化物(例えば、ジアルキルアミノアルキルα-(カルボキシメチルオキシメチル)アクリレート及びα-(カルボキシメチルオキシメチル)アクリロイルオキシエチルジメチルベタインなど)が生成することもあるが、これらの副生物は一般式(2)で示される単量体の重量に対して20重量%未満であれば、本願発明の効果に大きな影響を与えることがない。」

(甲2-5)「【0017】
本発明における両性高分子(A)は、前記の両性単量体(a)のみを重合した単独重合体であってもよいが、その他の単量体との共重合体であってもよい。その他の単量体としては、例えば、下記の(b1)親水性ノニオン性ビニル単量体、(b2)疎水性ノニオン性ビニル単量体、(b3)アニオン性ビニル単量体、(b4)カチオン性ビニル単量体、及び(b5)前記の両性単量体以外の両性単量体が挙げられる。」

(甲2-6)「【0048】
さらに、この第1液には本発明の効果を妨げない範囲において、公知の成分を添加配合することができる。例えば、カチオン性高分子、アニオン性高分子、非イオン性高分子、両性高分子(A)以外の両性高分子、界面活性剤、溶剤、炭化水素類(流動パラフィン、ワセリン等)、高級アルコール、エステル油、高級脂肪酸、シリコーン及びその誘導体、多価アルコール、紫外線吸収剤、防腐剤、増粘剤、pH調整剤、香料、パール化剤などが挙げられる。
【0049】
カチオン性高分子としては、ジメチルジアリルアンモニウムハライド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン又はこれらの4級化物を構成単位として含む水溶性カチオン性高分子、カチオン化セルロース誘導体、カチオン性澱粉、並びにカチオン化グアーガム誘導体などが挙げられる。
・・・
【0052】
両性高分子(A)以外の両性高分子としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどと(メタ)アクリル酸などとの共重合体、並びにジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを他の非イオン性単量体と共重合してハロゲン化酢酸で両性化した高分子などが挙げられる。」

(甲2-7)「【0053】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性 界面活性剤が挙げられる。
・・・
【0055】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン等が挙げられる。
【0056】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-アルキルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。これらの中でも酸やアルカリ剤に強いことからポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテル類の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル及びポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。」

(甲2-8)「【0060】
炭化水素類としては、流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、マイクロクリスタ燐ワックス及びワセリン等が挙げられる。高級アルコールとしては、炭素数10?24の飽和もしくは不飽和アルコール、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール及びラノリンアルコールなどが挙げられる。エステル油としては、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオクチル、ラウリン酸ヘキシル及びミリスチン酸イソプロピルなどが挙げられる。高級脂肪酸としては、炭素数10?24の飽和もしくは不飽和脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びリシノール酸などが挙げられる。シリコーン及びその誘導体としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、及びアミノ変性シリコーンなどが挙げられる。」

(甲2-9)「【0068】
[実施例]
以下の製造例及び実施例により本発明を更に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。部及び%は特記しない限り重量部および重量%を意味する。
【0069】
<両性単量体(a-1)の製造例>
[ジメチルアミノエチル(α-ヒドロキシメチル)アクリレートのカルボキシベタイン化物の製造];
加熱撹拌装置および冷却器を備えたガラス製反応容器に、ジメチルアミノエチルアクリレート(以下、「DMAEA」と略記)143部(1.0モル部;興人株式会社製)、37%ホルムアルデヒド水溶液(メタノール含有量7%)78.4部(1.0モル部)及び1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(以下、DABCOと略記)7部(63ミリモル部;サンアプロ株式会社製)を仕込み、均一混合した後、28℃で48時間激しく攪拌して反応させた。この反応液に1N塩酸を加えてpHを5.8に調整した後、ジクロルメタン100mLで3回抽出し、有機相を飽和食塩水100mLで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、揮発成分を減圧で除去した。132部のジメチルアミノエチル(α-ヒドロキシメチル)アクリレート(以下、「OH-DMAEA」と略記)(純度98%、収率78%)が得られた。その後、加熱撹拌装置及び環流冷却器を備えたガラス製反応容器に、溶媒としてのイソプロピルアルコール300部、上記のOH-DMAEA132部(0.76モル部)、モノクロル酢酸カリウム126部(0.84モル部)及びメトキシハイドロキノン0.5部を仕込み、空気吹き込み下に80℃で5時間環流加熱して両性化反応を行った。反応終了後、反応系を室温まで冷却し、副生する塩化カリウムを直径8.5cmの5Cの濾紙を用いて加圧濾過器で1kg/cm^(2)の圧力で濾過を行ない、イソプロピルアルコールで濃度を50%に調整し、OH-DMAEAのベタイン化物からなる両性単量体(a-1)の50%イソプロピルアルコール溶液を得た(収率95%、両性化率96%、塩素含量0.2%)。
【0070】
製造例1:
加熱冷却装置、攪拌機、温度計、2つの滴下ロートを装着した反応フラスコに、水76部及びイソプロピルアルコール180部を仕込み、一つの滴下ロートに両性単量体(a-1)の50%イソプロピルアルコール溶液157部(0.34モル部)、アクリルアミド(以下、AAmと略記)28.4部(0.4モル部)、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAと略記)9.1部(0.07モル部)を仕込んで均一に攪拌し単量体溶液を調製した。また他の滴下ロートに開始剤溶液として5%過硫酸ナトリウム水溶液72部を仕込んだ。系内を窒素気流下に80℃に加熱し、単量体溶液及び開始剤溶液を4時間かけて等速度で滴下した。更に窒素気流下2時間同温度に保持して重合反応を行なった。
80℃以下で減圧下にイソプロピルアルコールと水の混合物を、系内のイソプロピルアルコールが無くなるまで留去し、全量が800部になるように水を加えて有効成分濃度を15重量%に調整し、(a-1)/AAm/HEMA=42/49/9モル%からなる両性高分子(A1)の有効成分15重量%水溶液を得た。Mnは9,000であった。」

(甲2-10)「【0077】
実施例1?6及び比較例1?3:
酸化染毛剤は、以下のようにして調製した。
【0078】
第1剤:
両性高分子(A1)?(A6)、カチオン性高分子(X1)、又は両性高分子(X2)?(X3)のうちのいずれか1種を有効成分換算で1部(表2に、実施例及び比較例のNo.と使用した高分子の品名を記載した);酸化染料中間体としてのp-フェニレンジアミンを0.4部とp-アミノフェノールを0.1部;カプラーとしてのレゾルシンを0.6部、アルカリ剤としてのモノエタノールアミンを4.8部と28%アンモニア水を1.5部;溶剤としてのプロピレングリコールを5.5部;非イオン性高分子としてのポリエチレングリコール(数平均分子量400)を1.5部;流動パラフィンを0.8部;セタノールを1.0部;精製水を残量加えて、全量を100部とし、攪拌混合して第1剤とした。
【0079】
第2剤:
酸化剤としての35%過酸化水素を15部;セタノールを1.5部;ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエーテルを1.0部;塩化ラウリルトリメチルアンモニウムを0.5部;精製水を残量加えて、全量を100部とし、攪拌混合して、さらにpHが3.3になるように微量のクエン酸を添加し、第2剤とした。」

(2)甲2に記載された発明
(甲2-1)ないし(甲2-10)、特に実施例1の記載から、甲2には、

「 酸化染毛料とアルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤からなる酸化染毛剤であって、
第1剤は、ジメチルアミノエチル(α-ヒドロキシメチル)アクリレートのベタイン化物からなる両性単量体/アクリルアミド/ヒドロキシエチルメタクリレート=42/49/9モル%からなる両性高分子(A1)の有効成分15重量%水溶液を有効成分換算で1部;酸化染料中間体としてのp-フェニレンジアミンを0.4部とp-アミノフェノールを0.1部;カプラーとしてのレゾルシンを0.6部、アルカリ剤としてのモノエタノールアミンを4.8部と28%アンモニア水を1.5部;溶剤としてのプロピレングリコールを5.5部;非イオン性高分子としてのポリエチレングリコール(数平均分子量400)を1.5部;流動パラフィンを0.8部;セタノールを1.0部;精製水を残量加えて、全量を100部とし、攪拌混合したものであり、
第2剤は、酸化剤としての35%過酸化水素を15部;セタノールを1.5部;ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエーテルを1.0部;塩化ラウリルトリメチルアンモニウムを0.5部;精製水を残量加えて、全量を100部とし、攪拌混合して、さらにpHが3.3になるように微量のクエン酸を添加したものである、
酸化染毛剤。」

の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 甲3の記載事項

(1)甲3には、以下の記載がある。
(甲3-1)「【0001】
本発明は、毛髪化粧料に関するものである。詳細には、毛髪に対してべたつかず、柔軟性を付与でき、かつ毛髪(特に毛先)のまとまり感に優れた、トリートメント剤、スタイリング剤、整髪剤、染毛剤、ブリーチ剤、パーマネントウェーブ剤、育毛剤、及び養毛剤など、浴室外で毛髪を乾いた状態で使用し、塗布直後に洗い流さないタイプ(リーブオンタイプ)の所謂アウトバスタイプの毛髪化粧料に関するものである。」

(甲3-2)「【0005】
本発明により(A)一般式(I)で表される短鎖アルキルエーテル型エステル基含有モノ長鎖第4級アンモニウム塩、および一般式(II)で表される短鎖アルキルエーテル型エステル基含有ジ長鎖第4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種以上と、低級アルコールとを含有することを特徴とする毛髪化粧料を提供する。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R_(1), R_(5)は、夫々エステル基を1つ含む総炭素数10?26のアルキル基又はアルケニル基を表し、R_(2)は、メチル基、エチル基、炭素数1?4のヒドロキシアルキル基又はC_(p)H_(2p)OR_(3)で表される基を表し、p=2?4の整数であり、R_(3), R_(4)は、夫々独立してメチル基又はエチル基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毛髪に対してべたつかず、柔軟性を付与でき、かつ毛髪のまとまり感に優れた洗い流さないタイプ(リーブオンタイプ)の毛髪化粧料が提供される。」

(甲3-3)「【0030】
本発明の毛髪化粧料は、更に、カチオン性界面活性剤を含有することができる。
本発明で用いることのできる(A)成分及び(B)成分以外のカチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミンおよびその4級アンモニウム塩、脂肪酸アミドアミン塩、アルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩、アシルグアニジン誘導体、モノ-N-長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩などのアミノ酸系カチオン性界面活性剤、アルキルベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。」

(甲3-4)「【0038】
本発明の毛髪化粧料は、更に、水溶性高分子化合物を含有することができる。
水溶性高分子化合物としては、アニオン性高分子化合物、非イオン性高分子化合物、カチオン性残基を有する両性又はカチオン性高分子化合物が挙げられる。・・・
【0039】
・・・
カチオン性高分子化合物としては、官能基がジメチルジアリルアンモニウムハライドである塩化ジメチルジアリルアンモニウムホモポリマー、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド・アクリル酸3元共重合体(カルゴン社、マーコートシリーズ)等が挙げられる。さらに、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム、カチオン化デキストラン、カチオン化プルラン、四級化ビニルピロリドン・アミノエチルメタクリレート共重合体、ポリエチレンイミン、ジプロピレントリアミン縮合物、アジピン酸ジメチル-アミノヒドロキシプロピルジエチルトリアミン共重合体、第四級窒素含有スターチ等の他、カチオン化加水分解ケラチン、カチオン化加水分解シルク、カチオン化加水分解コラーゲン、カチオン化加水分解小麦、シリコーン化加水分解コラーゲン、シリコーン化加水分解シルクのタンパク加水分解にカチオン基を導入したもの等が挙げられる。」

(甲3-5)「【0041】
本発明の毛髪化粧料には、上記成分以外に、通常の毛髪化粧料に用いられている成分、例えば、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、半極性非イオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤、油脂、高級アルコール、ステロール、有機酸、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、水(5質量%?95質量%)等を適宜必要に応じて更に配合することができる。毛髪化粧料に添加される任意成分は、前述のものに限定されるものではない。
・・・
【0045】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸モノエタノールアミド等が挙げられる。中でもポリエチレングリコールモノステアレート、モノラウリン酸デカグリセリル、ベヘニン酸モノグリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノステアリ酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール等が好ましい。その他に、ヤシ油脂肪酸アルカノールアミド、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルグリコシド、メチルグルコシド脂肪酸エステル、脂肪酸モノエタノールアミド等が挙げられる。
・・・
【0047】
高級アルコールとしては、C6-40、好ましくはC14?24の直鎖又は分岐アルキルアルコール、具体的には、カプリルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、エイコサノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、2-オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、リノリルアルコール、リノレニルアルコールが挙げられる。このうち、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エイコサノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールが好ましい。
・・・
【0048】
有機酸としては、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソパルミチン酸、イソノナン酸、イソオクタン酸、セバシン酸、アジピン酸、ネオペンタン酸、オレイン酸、オクタン酸、イソステアリン酸、エルカ酸、エイコセン酸、ヒドロキシステアリン酸、リノール酸、イノシン酸、エライジン酸、ペトロセリニン酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、エルシン酸、ブラシジン酸、ロジン酸、ヤシ油脂肪酸、ラノリン脂肪酸、ホホバ油脂肪酸、(C10-40)分岐アルキル脂肪酸、パーフルオロ脂肪酸、キシレンスルホン酸、パントテン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ココアンホ酢酸、アルキルスルホン酸、没食子酸、没食子酸-3、5ジグルコシド、没食子酸-3、4ジグルコシド、没食子酸メチル-3、5ジグルコシド、没食子酸ブチル-3、5ジグルコシド、没食子酸-3、5ジマンノシド、エデト酸、ソルビン酸、安息香酸、サリチル酸、アクリル酸、メタクリル酸、ピロリドンカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ラウリルアミノプロピオン酸、ココイルアミノプロピオン酸のほか、α-ヒドロキシ酸であるグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸等が挙げられる。
中でも分子内に水酸基を有するα-ヒドロキシ酸が好ましく、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸がさらに好ましい。
上記有機酸は、唯1種を含有することも出来るし、異なる2種以上を組み合わせて含有することも出来る。本発明の有機酸の配合量は、毛髪化粧料中0.001?10質量%が好ましく、0.01?5質量%がより好ましい。0.01質量%未満では、仕上がり時のなめらかさが十分ではない場合があり、5質量%を超えると、乳化物の安定化を妨げる場合がある。」

(甲3-6)「【0052】
本発明の毛髪化粧料は、例えば、液状、クリーム状、ワックス状、ジェル状、泡状、霧状等の各種形状に調製して利用でき、上記成分及び水(残部)を混合し、各剤系の常法に準じて調製することができる。さらに、本発明に係る毛髪化粧料は、洗い流さないタイプのヘアトリートメント、ヘアウォーター、ヘアオイル、ヘアクリーム、ヘアワックス、ヘアフォーム、ヘアスプレー、ヘアミスト等として利用できる。これらの中でヘアトリーメントが最も好ましい。また、泡沫生成エアゾール型として使用する場合、配合する噴射剤としては、例えば液化石油ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等を使用することができる。塗布後に洗い流さないトリートメント剤、スタイリング剤、整髪剤、染毛剤、ブリーチ剤、パーマネントウェーブ剤、育毛剤、及び養毛剤などの毛髪化粧料に用いることができる。」

(2)甲3に記載された発明
(甲3-1)ないし(甲3-6)の記載から、甲3には、

「 下記一般式(I)で表される短鎖アルキルエーテル型エステル基含有モノ長鎖第4級アンモニウム塩、及び一般式(II)で表される短鎖アルキルエーテル型エステル基含有ジ長鎖第4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種以上と、低級アルコールとを含有する毛髪化粧料。

(式中、R_(1), R_(5)は、夫々エステル基を1つ含む総炭素数10?26のアルキル基又はアルケニル基を表し、R_(2)は、メチル基、エチル基、炭素数1?4のヒドロキシアルキル基又はC_(p)H_(2p)OR_(3)で表される基を表し、p=2?4の整数であり、R_(3), R_(4)は、夫々独立してメチル基又はエチル基を表す。)」

の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 甲4の記載事項

(1)甲4には以下の記載がある。
(甲4-1)「【0001】
本発明は、染毛剤組成物に関するものであり、詳しくは酸化剤を含む染毛用第2剤組成物と混合して用いる酸化染料中間体を含む染毛用第1剤組成物であり、毛髪に均一な染まりと高い明度を与えることができ、しかも毛髪になめらかな感触を付与できる酸化型染毛剤を構成できる染毛用第1剤組成物に関するものである。
・・・
【0005】
ところで、酸化型染毛剤には、その第1剤にアルカリ剤が配合されているため、染毛処理を施した毛髪は、このアルカリ剤により損傷を受け、毛髪が本来持つなめらかで柔らかい感触や艶が失われ易い。特に、繰り返し染毛処理を行った毛髪に再度染毛処理を施すと、上記の現象はより顕著となる。
・・・
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、染毛力が高く、しかも染毛処理後の毛髪になめらかな感触を保持させ得る酸化型染毛剤を構成できる染毛用第1剤組成物を提供することにある。」

(甲4-2)「【0008】
上記目的を達成し得た本発明の染毛用第1剤組成物は、酸化剤を配合してなる染毛用第2剤組成物と混合して酸化型染毛剤とするための組成物であって、(A)酸化染料中間体、(B)下記一般式(1)または(2)で示されるリン酸系アニオン性界面活性剤の少なくとも1種、および(C)カチオン性高分子を配合してなり、上記(B)成分の配合量に対する上記(C)成分の配合量の質量比(C)/(B)が、0.005?100であることを特徴とするものである。
【0009】
【化1】

【0010】
[上記一般式(1)中、R^(1)およびR^(2)は、同一でも異なっていてもよく、炭素数8?24の直鎖状アルキル基またはナトリウムを表す。]
【0011】
【化2】

【0012】
[上記一般式(2)中、R^(3)は、炭素数8?24の直鎖状アルキル基を表わし、nは5?20の中から選ばれる整数である。]
【0013】
本発明の染毛用第1剤組成物に係る上記(A)成分、(B)成分および(C)成分のうち、(B)成分である上記一般式(1)または(2)で示されるリン酸系アニオン性界面活性剤(以下、単に「リン酸系アニオン性界面活性剤」という場合がある)は、染毛用第1剤組成物と、酸化剤を配合してなる染毛用第2剤組成物とを混合して得られる酸化型染毛剤において、その染毛力を高めて、毛髪をより均一に染めることができるようにし、また染毛処理後の毛髪に高い明度を付与できるようにする作用を有する成分である。
【0014】
なお、(B)成分のリン酸系アニオン性界面活性剤は、アニオン性を呈するものであり、カチオン性を呈する材料と共存させるとコンプレックスを形成する。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、カチオン性を呈する材料の中でも(C)成分のカチオン性高分子を用いた場合に、(B)成分のリン酸系アニオン性界面活性剤と共存させて形成されるコンプレックスによって、染毛処理後の毛髪の感触を、毛髪自身が本来有するなめらかな感触にできることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲4-3)「【0015】
本発明によれば、染毛力が高く、しかも染毛処理後の毛髪になめらかな感触を保持させ得る酸化型染毛剤を構成できる染毛用第1剤組成物を提供することができる。」

(甲4-4)「【0020】
染毛用第1剤組成物にかかる(C)成分のカチオン性高分子としては、例えば、4級化セルロース(塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなど)、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアーガム、ビニルピロリドン・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム、ジアリル4級アンモニウム塩を構成単位として含有する高分子(塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体など)、アクリル酸・アクリルアミド・メタクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド、カチオン化澱粉、カチオン化ポリペプタイドなどが挙げられる。
【0021】
なお、上記例示のカチオン性高分子は市販品を入手することが可能であるが、例えば、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースとしては、Emerchol社製の「Ucare Polymer JR-30M(商品名)」などが、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアーガムとしては、Meyhall社製の「JAGUAR C-17(商品名)」などが、ビニルピロリドン・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩としては、ISP社製の「GAFQUAT 734(商品名)」などが、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウムとしては、カルゴン社製の「Merquat100(商品名)」などが、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体としては、カルゴン社製の「Merquat280(商品名)」や「Merquat550(商品名)」などが、アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体としては、カルゴン社製の「Merquat3330(商品名)」などが、アクリル酸・アクリルアミド・メタクリルアミドプロピルトリモニウムクロリドとしては、カルゴン社製の「Merquat2003(商品名)」などが、それぞれ知られている。
【0022】
カチオン性高分子は、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ジアリル4級アンモニウム塩を構成単位として含有する高分子および/または4級化セルロースを用いることが好ましく、この場合には、染毛処理後の毛髪の毛先がしっとりとおさまるようになる。」

(甲4-5)「【0025】
染毛用第1剤組成物には、上記(A)成分、上記(B)成分、および上記(C)成分以外に、(D)カチオン性界面活性剤を配合することが好ましい。カチオン性界面活性剤を併用することで、染毛処理後の毛髪の感触を更に向上させることができる。
【0026】
(D)成分であるカチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウムなどのモノアルキル型4級アンモニウム塩;塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウムなどのジアルキル型4級アンモニウム塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウムなどのベンザルコニウム型4級アンモニウム;などが挙げられる。これらのカチオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。」

(甲4-6)「【0031】
更に、染毛用第1剤組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、通常の化粧料に配合されている各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、(B)成分および(D)成分以外の界面活性剤、(C)成分以外の高分子、アルコール類、油脂、エステル、炭化水素、脂肪酸、多価アルコール、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料などが挙げられる。
【0032】
(B)成分および(D)成分以外の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、自己乳化型モノステアリン酸エチレングリコール、ポリオキシエチレン(20)ステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリン酸ポリオキシエチレン(3)ソルビット、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリ(2?10)グリセリル、ショ糖脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤・・・が挙げられる。
【0033】
・・・
アルコール類としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどの低級アルコール;ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;が挙げられる。
【0034】
・・・脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。」

(甲4-7)「【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の表1、表2および表3では染毛用第1剤組成物全体で100%となるように、また表4では染毛用第2剤組成物全体で100%となるように、それぞれ各成分の配合量を%で示すが、その%はいずれも質量%であり、また、これらの表中ではその%の表示を省略し、配合量を表す数値のみで表示する。
・・・
【0053】
【表2】

・・・
【0055】
表1?表3において、精製水の欄の「計100とする」とは、染毛用第1剤組成物を構成する精製水以外の各成分の合計量に、精製水の量を加えて100%となるようにしたことを意味している。また、表1?表3中、「ポリマーJR-30M」は、Emerchol社製の塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース「Ucare Polymer JR-30M(商品名)」であり、「Merquat280」は、カルゴン社製の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体「Merquat280(商品名)」である。
【0056】
実施例1?17および比較例1?2の染毛用第1剤組成物と、表4に示す組成の染毛用第2剤組成物とを混合して酸化型染毛剤とし、これらの酸化型染毛剤によって下記の方法で染毛処理を行い、下記のようにして染毛力、染毛処理後の毛髪のなめらかさ、および染毛処理後の毛髪のやわらかさを評価した。結果を表5および表6に示す。
【0057】
【表4】



(2)甲4に記載された発明
(甲4-1)ないし(甲4-7)、特に実施例15の記載から、甲4には、

「 染毛用第1剤組成物と染毛用第2剤組成物とを混合して得られる酸化型染毛剤であって、
染毛用第1剤組成物は、パラフェニレンジアミン0.3質量%、5-アミノオルトクレゾール0.3質量%、リン酸ジセチル0.05質量%、Merquat280(商品名)1質量%、Ucare Polymer JR-30M(商品名)0.1質量%、塩化セチルトリメチルアンモニウム1質量%、ステアリルアルコール9質量%、パラフィン9質量%、ポリオキシエチレンセチルエーテル4質量%、ジエチレントリアミン五酢酸0.3質量%、アンモニア水(25%濃度)5質量%、精製水を加えて100質量%となるようにしたものであり、
染毛用第2剤組成物は、過酸化水素(35%濃度)6質量%、セチルアルコール2.5質量%、ポリオキシエチレンセチルエーテル1.1質量%、流動パラフィン0.3質量%、ヒドロキシエタンジホスホン酸0.12質量%、フェノキシエタノール0.01質量%、精製水を加えて100質量%となるようにしたものである、
酸化型染毛剤。」

の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

5 甲5の記載事項

(1)甲5には以下の記載がある。
(甲5-1)「【0001】
本発明は、2剤式酸化染毛・脱色剤組成物に関するものであり、特に毛髪に対するコンディショニング効果に優れ、しかも頭皮刺激性を低減した2剤式酸化染毛・脱色剤組成物に関するものである。
・・・
【0010】
本発明はこうした状況の下でなされたものであり、その目的は、毛髪の染色力(若しくは脱色力)に優れ、染毛〈脱色〉後のすすぎ時、仕上がり後のしっとり感、櫛通り等のコンディショニング効果に優れ、しかも頭皮刺激を緩和できる2剤式酸化染毛・脱色剤組成物を提供することにある。」

(甲5-2)「【0011】
上記目的を達成することができた本発明の2剤式酸化染毛・脱色剤組成物とは、少なくともアルカリ剤を含有する第1剤と、少なくとも酸化剤を含有する第2剤から構成される2剤式酸化染毛・脱色剤組成物において、(A)フィチン酸またはその塩と、(B)塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体および/または塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体を、第1剤および第2剤の少なくともいずれかに配合したものである点に要旨を有するものである。
・・・
【0015】
本発明では、少なくともアルカリ剤を含有する第1剤と、少なくとも酸化剤を含有する第2剤から構成される2剤式酸化染毛・脱色剤組成物において、塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体および/または塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体と共に、フィチン酸またはその塩を、第1剤および第2剤の少なくともいずれかに配合することによって、毛髪の染色力(若しくは脱色力)に優れ、染毛〈脱色〉後のすすぎ時、仕上がり後のしっとり感、櫛通り等のコンディショニング効果に優れ、しかも頭皮刺激を緩和できる2剤式酸化染毛・脱色剤組成物が実現できた。」

(甲5-3)「【0019】
本発明の2剤式酸化染毛・脱色剤組成物では、塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体および/または塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体を含有するものであるが、これらの成分はコンディショニング成分として知られているカチオン化ポリマーの一種である。本発明では、カチオン化ポリマーのうち特に塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体および/または塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体を選び、これにフィチン酸を併用することによって、本発明の目的が達成される。このカチオン化ポリマーによる効果を有効に達成するためには、第1剤と第2剤の混合時に、その含有量は0.01?5質量%程度が好ましい。より好ましくは、0.1?3質量%程度である。
【0020】
尚、本発明の2剤式染毛・脱色剤組成物において、塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体および/または塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体並びにフィチン酸は、2剤式染毛・脱色剤組成物の第1剤または第2剤のいずれかに含有させても良く、また第1剤と第2剤の両方に含有させることも可能である。第2剤だけに含有させた場合であっても、使用時に第1剤と第2剤が混合して用いられるものであるので、これらの成分を配合することによる効果が達成される。但し、これらの成分を第1剤と第2剤の両方に配合する場合には、その含有量は双方の合計で上記の範囲内となるように調整すれば良い。」

(甲5-4)「【0022】
本発明の2剤式酸化染毛・脱色剤組成物には、アニオン性界面活性剤とカチオン化ポリマーがコンプレックスを形成することにより、毛髪への付着性が高まるという観点から、更に、アニオン界面活性剤および/または脂肪酸類若しくは塩を含有させることもできる。こうした成分を含有させるときには、その含有量は0.01?5質量%程度であることが好ましい。尚、本発明で用いることのできるアニオン界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、例えば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム等)、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン脂肪アミン硫酸塩、アシルN-メチルタウリン塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N-アシルアミノ酸塩等が挙げられる。また本発明で用いることのできる脂肪酸類としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン等が挙げられる。また、脂肪酸塩類としては、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等が挙げられる。」

(甲5-5)「【0024】
本発明の2剤式酸化染毛・脱色剤組成物には、第1剤に少なくともアンモニア水やモノエタノールアミン等のアルカリ剤[染毛剤の場合には、更に酸化染料(例えば、パラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール、レゾルシン等)]を含有(例えば、モノエタノールアミンなら0.1質量%以上)すると共に、第2剤に少なくとも過酸化水素等の酸化剤を含有(例えば、過酸化水素なら6質量%以下)するものであるが、上記成分の他、これら第1剤および第2剤に通常含まれる添加剤を含むものであって良い。こうした添加剤としては、例えば保湿剤、油脂類、高級アルコール類、ラノリン類、ワセリン・ワックス類、フッ素化合物、シリコーン類、カチオン化ポリマー(上記したものを除く)、界面活性剤(カチオン性界面活性剤・非イオン性界面活性剤・両性界面活性剤)、増粘・ゲル化剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤・酸・アルカリ、酸化防止剤、溶剤、消炎剤、香料、色素等を通常程度配合することができる。」

(甲5-6)「【0027】
高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル(バチルアルコール)、2-デシルテトラデシノール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、ヘキシルドデカノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
・・・
【0032】
カチオン化ポリマー類としては、カチオン化セルロース誘導体、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、4級化ポリビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。
【0033】
カチオン性界面活性剤としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルソルビタン脂肪酸部分エステル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリグリコシド、アルキルグルコシド等が挙げられる。」

(甲5-7)「【0048】
【表2】



(2)甲5に記載された発明
(甲5-1)ないし(甲5-7)、特にNo.10の実施例の記載から、甲5には、

「 少なくともアルカリ剤を含有する第1剤と、少なくとも酸化剤を含有する第2剤から構成される2剤式酸化染毛剤組成物であって、
第1剤は、セトステアリルアルコール5.0質量%、パルミチン酸イソプロピル1.5質量%、パラフィン4.0質量%、ステアリン酸2.5質量%、ラウリル硫酸ナトリウム2.5質量%、POEセチルエーテル8.0質量%、パラフェニレンジアミン0.5質量%、レゾルシン0.3質量%、アスコルビン酸ナトリウム0.5質量%、亜硫酸ナトリウム0.2質量%、エデト酸四ナトリウム0.1質量%、25%アンモニア4.0質量%、モノエタノールアミン4.5質量%、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体液(40質量%)2.5質量%、炭酸水素アンモニウム2.5質量%、フィチン酸0.2質量%、アミノ変性シリコーンエマルション(40質量%)2.0質量%、精製水適量からなり、
第2剤は、セトステアリルアルコール0.6質量%、ミリスチルアルコール1.0質量%、流動パラフィン0.2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.1質量%、POEセチルエーテル2.0質量%、ヒドロキシエタンジホスホン酸0.17質量%、リン酸水素二ナトリウム適量、リン酸適量、サルチル酸0.24質量%、エタノール2.0質量%、35%過酸化水素17.0質量%、精製水適量からなり、pHを2.5?3.5付近に調整したものである、
2剤式酸化染毛剤組成物。」

の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。

6 甲6の記載事項

(1)甲6には以下の記載がある。
(甲6-1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は酸化染毛剤に関するもので、詳しくは、毛髪につやを与え、染色性及び堅牢性に優れ、さらに、毛髪に塗布した際に垂れ落ちしにくく、操作性に優れる酸化染毛剤組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、染毛剤としては酸化染料中間体を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤よりなる二剤型の酸化染毛剤が広く利用されている。・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の酸化染毛剤では、染毛処理によって毛髪が損傷しがちであったため、毛髪のつややうるおいがなくなったり、染め上がりが不自然な色となり第三者に違和感を与えたり、また、櫛通りが悪く、髪のしなやかさがなくなるといった課題があった。これらの課題を解決するために、しばしば、カチオン性ポリマーが用いられることがあるが、カチオン性ポリマーのみを配合した場合、毛髪に塗布した際に垂れ落ちしやすく、また、毛髪との親和性が高いため、過剰に作用して毛髪にゴワつきやパサつきが生じることもあり、十分な解決には至っていない。
【0004】従って、毛髪のつやや柔軟性を向上させ、自然な染め上がりが得られ、操作性にも優れ、さらに、毛髪にゴワつきが生じない酸化染毛剤の開発が望まれていた。」

(甲6-2)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記実状を鑑み鋭意研究を重ねた結果、(A)特定の両性ターポリマーと、(B)カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー及び非イオン性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上のポリマーとを組み合わせることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲6-3)「【0007】本発明で用いられる成分(A)の両性ターポリマーとしては、アクリルアミド/アクリル酸/塩化ジアルキルジアリルアンモニウム共重合体が好ましい。分子量としては、220万?800万の間のものが好ましい。具体例としては、アクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体が挙げられる。これは、ポリクォータニウム39(Polyquaternium-39)として知られる水溶性の両性ターポリマーで、市販品としてはマーコートプラス3330,3331(カルゴン社製)が挙げられる。なお、これら市販品はアクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体を有効成分として10重量%含有する。」

(甲6-4)「【0010】カチオン性ポリマー
カチオン性ポリマーとしては、ポリマー鎖に結合してアミノ基又はアンモニウム基を含むか、又は少なくともジメチルジアリルアンモニウムハライドを構成単位として含む水溶液のものであり、例えばカチオン化セルロース誘導体、カチオン性澱粉、カチオン化グアーガム誘導体、ジアリル4級アンモニウム塩の重合体又は共重合体、及び4級化ポリビニルピロリドン誘導体などが挙げられる。カチオン化セルロース誘導体としては例えば・・・
・・・
【0014】・・・市販品としては、ライオン(株)のレオガードG,GP、ユニオンカーバイド社のポリマーJR-125,JR-400,JR-30M,LR-400,LR-30M等が挙げられる。その他のカチオン化セルロース誘導体としてはヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリドが挙げられ、市販品としてはナショナルスターチアンドケミカル社のセルコートH-100,L-200等が挙げられる。」

(甲6-5)「【0037】さらに、カチオン性界面活性剤を加えると、染色性及び堅牢性の面で優れた効果が得られる。カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が挙げられ、具体例としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等が挙げられる。」

(甲6-6)「【0043】また、必要に応じて、高級脂肪酸、高級アルコール、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び溶剤を配合することができる。
【0044】高級脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、アラキン酸、アラキドン酸、リノレイン酸、リノール酸などが挙げられ、これらを1種又は2種以上配合することができる。
【0045】高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、2-ヘキシルデカノール、2-オクチルドデカノール、2-デシルテトラデカノールなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上配合することができる。
【0046】アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、あるいは両性界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。
【0047】アニオン性界面活性剤
・・・
4.カルボン酸塩
4-1)高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物
ラウロイルサルコシンナトリウムなどのN-アシルサルコシン塩、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸二ナトリウム、N-ミリストイル-L-グルタミン酸ナトリウムなどN-アシルグルタミン酸塩
4-2)脂肪酸石鹸
オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸などのナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩あるいはアンモニウム塩
【0048】非イオン性界面活性剤
1.POEアルキルエーテル
POEセチルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POEオレイルエーテル、POEラウリルエーテル、POE2級アルキルエーテルなど
2.POEアルキルフェニルエーテル
POEノニルフェニルエーテル、POEオクチルフェニルエーテルなど
3.POEソルビタン脂肪酸エステル
モノオレイン酸POEソルビタン、モノステアリン酸POEソルビタン、モノパルミチン酸POEソルビタン、モノラウリン酸POEソルビタン、トリオレイン酸POEソルビタンなど
4.POEグリセリルモノ脂肪酸エステル
モノステアリン酸POEグリセリン、モノミリスチン酸POEグリセリンなど
5.POEソルビトール脂肪酸エステル
テトラオレイン酸POEソルビット、ヘキサステアリン酸POEソルビット、モノラウリン酸POEソルビット、POEソルビットミツロウなど」

(甲6-7)「【0057】
【実施例】実施例1?5及び比較例1?5
表1に示す組成の実施例1?5及び表2に示す組成の比較例1?5のクリーム状酸化染毛剤組成物をそれぞれ常法に従って調製した。
・・・
【0060】また、次に示す組成の酸化剤を常法により調製した。
【0061】
(酸化剤) 重量%
過酸化水素水(35%) 16.0
EDTA 0.5
セタノール 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.5
フェナセチン 0.1
精製水 適 量
合計 100.0
【0062】比較試験1
ヒトの黒髪毛束(約20cm)、ヤギ毛束(白色)、及びヒトの白髪(約30%)まじりの黒髪毛束をラウリル硫酸ナトリウム水溶液(5%)にて洗浄し、微温湯で十分にすすいだ後、風乾させた。その後、実施例1?5及び比較例1?5と、上記の酸化剤とをそれぞれ1:1で混合したものを各々の毛束に塗布し、30℃で20分間放置した。次いで、水洗、通常のシャンプー、リンスで仕上げた後、風乾させた。そして、専門のパネラーにより、プレーンリンス時の感触、乾燥後の感触、毛髪のつや、染色性及び塗布時の垂れ落ちについて、以下に示す評価基準により比較評価した。」

(甲6-8)「【0066】以下に示す組成の実施例6?8のクリーム状酸化染毛剤組成物を常法により調製し、実施例1と同様の試験を行ったところ、良好な結果が得られた。
【0067】
実施例6
重量%
マーコートプラス3331 1.5
セルコートL-200 0.2
ポリマーJR-125 0.2
ヒドロキシエチルセルロース 0.2
塩化セチルトリメチルアンモニウム 1.0
ポリオキシエチレン(5.5)セチルエーテル 1.0
ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム 2.0
セタノール 10.0
プロピレングリコール 5.0
28%アンモニア水 pH9.5とする量
無水亜硫酸ナトリウム 0.1
EDTA二ナトリウム 0.1
p-フェニレンジアミン 0.5
p-トルイレンジアミン 0.5
レゾルシン 0.5
m-アミノフェノール 0.2
p-アミノフェノール 0.3
5-アミノ-o-クレゾール 0.2
精製水 適 量
合計 100.0」

(甲6-9)「【0072】
【発明の効果】本発明によれば、毛髪の櫛通り性、柔軟性を向上させ、毛髪につやを与え、より深い色調や染まりを得ることができ、堅牢性も優れている。さらに、毛髪上にうまく付着し、のびがよく、垂れ落ちしにくいので操作性にも優れる。」

(2)甲6に記載された発明
(甲6-1)ないし(甲6-9)、特に実施例6の記載から、甲6には、

「 酸化染料中間体を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤よりなる二剤型の酸化染毛剤であって、
第1剤は、マーコートプラス3331を1.5重量%、セルコートL-200を0.2重量%、ポリマーJR-125を0.2重量%、ヒドロキシエチルセルロース0.2重量%、塩化セチルトリメチルアンモニウム1.0重量%、ポリオキシエチレン(5.5)セチルエーテル1.0重量%、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム2.0重量%、セタノール10.0重量%、プロピレングリコール5.0重量%、pH9.5とする量の28%アンモニア水、無水亜硫酸ナトリウム0.1重量%、EDTA二ナトリウム0.1重量%、p-フェニレンジアミン0.5重量%、p-トルイレンジアミン0.5重量%、レゾルシン0.5重量%、m-アミノフェノール0.2重量%、p-アミノフェノール0.3重量%、5-アミノ-o-クレゾール0.2重量%、精製水適量からなり、
第2剤は、過酸化水素水(35%)16.0重量%、EDTA0.5重量%、セタノール2.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.5重量%、フェナセチン0.1重量%、精製水適量からなる、
酸化染毛剤。」

の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。


第5 判断

1 特許法第29条の規定に係る申立て(取消理由1及び2)について

(1)本件発明1について

ア 甲1発明を引用発明とする対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1は、第1剤に「(b)カチオン化セルロース」が配合されているのに対し、甲1発明は、「ヒドロキシエチルセルロース」を含むものの、「カチオン化セルロース」は配合されていない点(以下「相違点1」という。)において少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

特許異議申立人は、甲1発明のヒドロキシエチルセルロースは、本件発明1のカチオン化セルロースに該当するかのように述べている。
しかし、ヒドロキシエチルセルロース自体は非イオン性であり、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)【0016】に「本発明の酸化型毛髪処理剤の第1剤に係る(b)成分であるカチオン化セルロースの具他例としては、例えば、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリドなどが挙げられ・・・」と例示されているようなカチオン化セルロースには該当しない。

イ 甲2発明を引用発明とする対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「ジメチルアミノエチル(α-ヒドロキシメチル)アクリレートのベタイン化物からなる両性単量体/アクリルアミド/ヒドロキシエチルメタクリレート=42/49/9モル%からなる両性高分子(A1)」は、両性単量体由来の構造単位を含む両性高分子であるから、本件発明1の「(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子」と、「両性高分子」である点において共通する。
そして、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも次の2点で相違する。

(相違点2-1)
第1剤について、本件発明1は「(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸」、及び「(b)カチオン化セルロース」が配合されているのに対し、甲2発明はそれらが配合されていない点

(相違点2-2)
第1剤に配合される両性高分子((c)成分)について、本件発明1は「アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む」ものであるのに対し、甲2発明は「両性単量体由来の構造単位を含む」ものを含むものの、「アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む」ものは配合されていない点。

したがって、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。

特許異議申立人は、甲2には、本件発明1の第1剤に配合される全ての成分が記載された染髪剤が開示されていることから、本件発明1は甲2に記載された発明である旨主張している。
確かに、甲2には、下記(イ)に示すように本件発明1の第1剤に配合される各成分に該当する成分を、酸化染毛剤の第1剤に配合することができる旨の記載はあるものの、それらは他の成分を含めて任意選択的に配合することができる成分として記載されているにすぎず、本件発明1の第1剤に配合される各成分を組み合わせて配合することまでは記載されていない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ)次に、上記相違点2-1及び2-2に係る構成が容易想到であるかについて検討する。
a 甲2には、本件発明1の(a)成分、(b)成分及び(c)成分に関連する記載として、以下の記載がある。
(甲2-6)の【0048】には、「さらに、この第1液には本発明の効果を妨げない範囲において、公知の成分を添加配合することができる。例えば、カチオン性高分子、アニオン性高分子、非イオン性高分子、両性高分子(A)以外の両性高分子、界面活性剤、溶剤、炭化水素類(流動パラフィン、ワセリン等)、高級アルコール、エステル油、高級脂肪酸、シリコーン及びその誘導体、多価アルコール、紫外線吸収剤、防腐剤、増粘剤、pH調整剤、香料、パール化剤などが挙げられる。」と記載されており、【0049】に「カチオン性高分子としては、ジメチルジアリルアンモニウムハライド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン又はこれらの4級化物を構成単位として含む水溶性カチオン性高分子、カチオン化セルロース誘導体、カチオン性澱粉、並びにカチオン化グアーガム誘導体などが挙げられる。」、【0052】に「両性高分子(A)以外の両性高分子としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどと(メタ)アクリル酸などとの共重合体、並びにジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを他の非イオン性単量体と共重合してハロゲン化酢酸で両性化した高分子などが挙げられる。」、(甲2-8)の【0060】に「高級脂肪酸としては、炭素数10?24の飽和もしくは不飽和脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びリシノール酸などが挙げられる。」との記載がある。
これらの記載から、甲2には、甲2発明に対して追加配合し得る成分として、本件発明1の(a)成分に相当するステアリン酸、イソステアリン酸、(b)成分に相当するカチオン化セルロース誘導体、及び(c)成分に相当するジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどと(メタ)アクリル酸などとの共重合体が、それぞれ他の成分も含めて任意選択的に配合することができる成分の例として記載されているといえる。

b そこで、本件発明1の奏する作用効果について検討する。

本件明細書には、本件発明の奏する効果について以下の記載がある。

「【0010】
本発明によれば、処理後の毛髪に良好な艶を付与し得る酸化型毛髪処理剤を提供することができる。」

「【0012】
(第1剤)
本発明の酸化型毛髪処理剤の第1剤には、(a)上記一般式(1)で表される飽和脂肪酸、(b)カチオン化セルロース、および(c)アニオン性モノマー由来の構造単位と、カチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子が配合されており、これを酸化剤が配合された第2剤と混合して使用することで、処理後(染毛後または脱色後)の毛髪に良好な艶を付与することができ、更に毛先のまとまりもよくすることができる。
【0013】
その理由は定かではないが、以下のような機構によるものと推測される。酸化型毛髪処理剤の第1剤においては、アルカリ剤と(a)成分である飽和脂肪酸とが脂肪酸塩を形成し、これがアニオン性界面活性剤として機能していると考えられる。そして、前記の脂肪酸塩と、(b)成分であるカチオン化ポリマーと、(c)成分である両性高分子とが、第1剤中で共存することによって、何らかの相互作用が生じ、これらの成分が何らかの複合体を形成して、処理後の毛髪の艶を高めるように作用しているのではないかと推測される。(c)成分である両性高分子は、その分子内にアニオン性の部分とカチオン性の部分とを有しており、これが(a)成分である飽和脂肪酸由来のアニオン性界面活性剤(脂肪酸塩)および(b)成分であるカチオン化セルロースとの複合化に寄与していると考えられる。」

「【0018】
本発明の酸化型毛髪処理剤の第1剤では、(c)成分である両性高分子に、アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む高分子(共重合体)の1種または2種以上を使用する。両性高分子には、分子内にカチオン性の部分とアニオン性の部分とを有するモノマーの重合体もあるが、このような両性高分子を使用した場合には、処理後の毛髪の艶を十分に高めることができない。」

「【0070】
表1?表3に示す通り、(a)上記一般式(1)で表される飽和脂肪酸、(b)カチオン化セルロース、および(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子〔両性高分子(A)〕を配合した第1剤と、第2剤とを組み合わせて構成した実施例1?3の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪に良好な艶を付与できており、また、毛先のまとまりも良好である。更に、実施例1?3の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪の染まり具合も良好であった。
【0071】
これに対し、(a)成分を配合していない第1剤を用いた比較例1の酸化型毛髪処理剤、(b)成分および/または(c)成分を配合していない比較例2?4の酸化型毛髪処理剤、(c)成分に代えて、アニオン性の部分とカチオン性の部分とを有するモノマー由来の構造単位を含む両性高分子〔両性高分子(B)〕を配合した比較例5の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪の艶、毛先のまとまりのいずれもが劣っている。
【0072】
また、(a)成分に代えて、上記一般式(1)を満たさない脂肪酸を使用した比較例6?11の酸化型毛髪処理剤のうち、カプリン酸を使用した比較例6の酸化型毛髪処理剤は乳化できず、ラウリン酸を使用した比較例7の酸化型毛髪処理剤は油性成分の分離が認められた。よって、これらの酸化型毛髪処理剤では、染毛処理評価を行っていない。更に、ミリスチン酸を使用した比較例8の酸化型毛髪処理剤およびオレイン酸を使用した比較例10の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪の艶、毛先のまとまりのいずれもが劣っており、ベヘン酸を使用した比較例9の酸化型毛髪処理剤およびヒドロキシステアリン酸を使用した比較例11の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪の艶が劣っている。
【0073】
また、(b)成分および(c)成分を配合していない第1剤と、(b)成分および(c)成分を配合した第2剤とを組み合わせて構成した比較例12の酸化型毛髪処理剤では、処理後の毛髪の艶が劣っている。」

これらの記載から、本件発明1は、第1剤に(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸、(b)カチオン化セルロース、及び(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子を併用することにより、処理後の毛髪の艶と毛先のまとまりの双方を良好なものとするという作用効果(以下「本件作用効果」という。)を奏するものと認められる。

c これに対し、甲2の記載からは、第1剤にステアリン酸又はイソステアリン酸、カチオン化セルロース誘導体、及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどと(メタ)アクリル酸などとの共重合体を併用することにより、処理後の毛髪の艶と毛先のまとまりの双方を良好なものとするという作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。

d したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲3発明を引用発明とする対比・判断
(ア)本件発明1と甲3発明とを対比すると、本件発明1においては、第1剤に「(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸、(b)カチオン化セルロース、及び(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子」が配合されているのに対し、甲3発明においては、それらの成分を配合することが特定されていない点(以下「相違点3」という。)において少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は甲3に記載された発明ではない。

特許異議申立人は、甲3には、本件発明1の第1剤における全ての成分が配合された毛髪化粧料が開示されていることから、本件発明1は甲3に記載された発明である旨主張している。
確かに、甲3には、下記(イ)に示すように本件発明1の第1剤に配合される各成分に該当する成分を毛髪化粧料に配合することができる旨の記載はあるものの、それらは他の成分を含めて任意選択的に配合することができる成分として記載されているにすぎず、本件発明1の第1剤に配合される各成分を組み合わせて配合することまでは記載されていない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ)次に、上記相違点3に係る構成が容易想到であるかについて検討する。
a 甲3には、本件発明1の(a)成分、(b)成分及び(c)成分に関連する記載として、以下の記載がある。
(甲3-4)の【0038】には、「本発明の毛髪化粧料は、更に、水溶性高分子化合物を含有することができる。水溶性高分子化合物としては、アニオン性高分子化合物、非イオン性高分子化合物、カチオン性残基を有する両性又はカチオン性高分子化合物が挙げられる。」と記載されており、【0039】に「カチオン性高分子化合物としては、官能基がジメチルジアリルアンモニウムハライドである塩化ジメチルジアリルアンモニウムホモポリマー、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド・アクリル酸3元共重合体(カルゴン社、マーコートシリーズ)等が挙げられる。さらに、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム、カチオン化デキストラン、カチオン化プルラン、四級化ビニルピロリドン・アミノエチルメタクリレート共重合体、ポリエチレンイミン、ジプロピレントリアミン縮合物、アジピン酸ジメチル-アミノヒドロキシプロピルジエチルトリアミン共重合体、第四級窒素含有スターチ等の他、カチオン化加水分解ケラチン、カチオン化加水分解シルク、カチオン化加水分解コラーゲン、カチオン化加水分解小麦、シリコーン化加水分解コラーゲン、シリコーン化加水分解シルクのタンパク加水分解にカチオン基を導入したもの等が挙げられる。」との記載がある。
また、(甲3-5)の【0041】には、「本発明の毛髪化粧料には、上記成分以外に、通常の毛髪化粧料に用いられている成分、例えば、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、半極性非イオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤、油脂、高級アルコール、ステロール、有機酸、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、水(5質量%?95質量%)等を適宜必要に応じて更に配合することができる。」と記載されており、【0048】に「有機酸としては、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソパルミチン酸、イソノナン酸、イソオクタン酸、セバシン酸、アジピン酸、ネオペンタン酸、オレイン酸、オクタン酸、イソステアリン酸、エルカ酸、エイコセン酸、ヒドロキシステアリン酸、リノール酸、イノシン酸、エライジン酸、ペトロセリニン酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、エルシン酸、ブラシジン酸、ロジン酸、ヤシ油脂肪酸、ラノリン脂肪酸、ホホバ油脂肪酸、(C10-40)分岐アルキル脂肪酸、パーフルオロ脂肪酸、キシレンスルホン酸、パントテン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ココアンホ酢酸、アルキルスルホン酸、没食子酸、没食子酸-3、5ジグルコシド、没食子酸-3、4ジグルコシド、没食子酸メチル-3、5ジグルコシド、没食子酸ブチル-3、5ジグルコシド、没食子酸-3、5ジマンノシド、エデト酸、ソルビン酸、安息香酸、サリチル酸、アクリル酸、メタクリル酸、ピロリドンカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ラウリルアミノプロピオン酸、ココイルアミノプロピオン酸のほか、α-ヒドロキシ酸であるグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸等が挙げられる。
中でも分子内に水酸基を有するα-ヒドロキシ酸が好ましく、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸がさらに好ましい。」との記載がある。
これらの記載から、甲3には、甲3発明に対して追加配合し得る成分として、本件発明1の(a)成分に相当するパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、(b)成分に相当するカチオン化セルロース、及び(c)成分に相当する塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド・アクリル酸3元共重合体が、それぞれ他の成分も含めて任意選択的に配合することができる成分の例として記載されているといえる。

b しかしながら、甲3の記載からは、毛髪化粧料にパルミチン酸、ステアリン酸又はイソステアリン酸、カチオン化セルロース、及び、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体又は塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド・アクリル酸3元共重合体を併用することにより、上記本件作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。

c したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 甲4発明を引用発明とする対比・判断
(ア)本件発明1と甲4発明とを対比すると、次のことがいえる。
甲4発明の「アンモニア水(25%濃度)」及び「過酸化水素(35%濃度)」は、それぞれ本件発明1の「アルカリ剤」及び「酸化剤」に相当する。
(甲4-4)の【0021】及び(甲4-7)の【0055】を参酌するに、甲4発明の「Ucare Polymer JR-30M(商品名)」は塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースであるから、本件発明1の「(b)カチオン化セルロース」に相当する。
また、(甲4-4)の【0021】及び(甲4-7)の【0055】を参酌するに、甲4発明の「Merquat280(商品名)」はカチオン性高分子である塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体として用いられているが、本件明細書【0022】に「(c)成分である両性高分子には、Lubrizol社製の「マーコート280」、「マーコート281」、「マーコート295」、「マーコート2001」、「マーコート2003」、「マーコート3300」、「マーコート3331」、「マーコート3333」など(いずれも商品名)の市販品を使用することができる。」と記載されていることから、甲4発明の「Merquat280(商品名)」は、本件発明1の「(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子」に相当するといえる。
甲4発明の「塩化セチルトリメチルアンモニウム」は、本件発明1の「(e)長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であるカチオン性界面活性剤」に相当する。

他方、本件発明1と甲4発明とは、次の点で相違する。

(相違点4)
第1剤について、本件発明1は「(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸」が配合されているのに対し、甲4発明はそのような飽和脂肪酸が配合されていない点。

したがって、本件発明1は甲4に記載された発明ではない。

特許異議申立人は、甲4には、本件発明1の第1剤における全ての成分が配合された染毛用第1剤組成物が開示されていることから、本件発明1は甲4に記載された発明である旨主張している。
確かに、甲4には、下記(イ)に示すように本件発明1の第1剤に配合される各成分に該当する成分を、酸化型染毛剤の第1剤に配合することができる旨の記載はあるものの、それらは他の成分を含めて任意選択的に配合することができる成分として記載されているにすぎず、本件発明1の第1剤に配合される各成分を組み合わせて配合することまでは記載されていない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ)次に、上記相違点4に係る構成が容易想到であるかについて検討する。
a 甲4には、本件発明1の(a)成分に関連する記載として、以下の記載がある。
(甲4-6)の【0031】には、「更に、染毛用第1剤組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、通常の化粧料に配合されている各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、(B)成分および(D)成分以外の界面活性剤、(C)成分以外の高分子、アルコール類、油脂、エステル、炭化水素、脂肪酸、多価アルコール、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料などが挙げられる。」と記載されており、【0034】に「脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。」との記載がある。
これらの記載から、甲4には、甲4発明に対して追加配合し得る成分として、本件発明1の(a)成分に相当するパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸が、他の成分も含めて任意選択的に配合することができる成分の例として記載されているといえる。

b しかしながら、甲4の記載からは、染毛用第1剤組成物にカチオン性高分子としての塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(Ucare Polymer JR-30M(商品名))及び塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体(Merquat280(商品名))とともに脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸又はイソステアリン酸を併用することにより、上記本件作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。

c したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 甲5発明を引用発明とする対比・判断
(ア)本件発明1と甲5発明とを対比すると、次のことがいえる。
甲5発明の「ステアリン酸」は、本件発明1の「(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸」に相当する。
また、(甲5-3)の【0019】を参酌するに、甲5発明の「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体液(40質量%)」はカチオン化ポリマーとして用いられているが、(甲5-7)の【0048】によれば、具体的にはONDEO Nalco社製のマーコート280、295(商品名)が使用されているところ、本件明細書【0022】に「(c)成分である両性高分子には、Lubrizol社製の「マーコート280」、「マーコート281」、「マーコート295」、「マーコート2001」、「マーコート2003」、「マーコート3300」、「マーコート3331」、「マーコート3333」など(いずれも商品名)の市販品を使用することができる。」と記載されていることから、甲5発明の「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体液(40質量%)」は、本件発明1の「(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子」に相当するといえる。

他方、本件発明1と甲5発明とは、少なくとも次の点で相違する。

(相違点5)
第1剤について、本件発明1は「(b)カチオン化セルロース」が配合されているのに対し、甲5発明はカチオン化セルロースが配合されていない点。

(イ)次に、上記相違点5に係る構成が容易想到であるかについて検討する。
a 甲5には、本件発明1の(b)成分に関連する記載として、以下の記載がある。
(甲5-5)の【0024】には、「上記成分の他、これら第1剤および第2剤に通常含まれる添加剤を含むものであって良い。こうした添加剤としては、例えば保湿剤、油脂類、高級アルコール類、ラノリン類、ワセリン・ワックス類、フッ素化合物、シリコーン類、カチオン化ポリマー(上記したものを除く)、界面活性剤(カチオン性界面活性剤・非イオン性界面活性剤・両性界面活性剤)、増粘・ゲル化剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤・酸・アルカリ、酸化防止剤、溶剤、消炎剤、香料、色素等を通常程度配合することができる。」と記載されており、(甲5-6)の【0032】に「カチオン化ポリマー類としては、カチオン化セルロース誘導体、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、4級化ポリビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。」との記載がある。
これらの記載から、甲5には、甲5発明に対して追加配合し得る成分として、本件発明1の(b)成分に相当するカチオン化セルロース誘導体が、他の成分も含めて任意選択的に配合することができる成分の例として記載されているといえる。

b しかしながら、甲5の記載からは、第1剤にステアリン酸及びカチオン化ポリマーとしての塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体とともにカチオン化ポリマーとしてカチオン化セルロース誘導体を併用することにより、上記本件作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。

c したがって、本件発明1は、甲5発明及び甲5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 甲6発明を引用発明とする対比・判断
(ア)本件発明1と甲6発明とを対比すると、次のことがいえる。
甲6発明の「28%アンモニア水」及び「過酸化水素水(35%)」は、それぞれ本件発明1の「アルカリ剤」及び「酸化剤」に相当する。
(甲6-4)の【0010】及び【0014】を参酌するに、甲6発明の「セルコートL-200」及び「ポリマーJR-125」はカチオン化セルロース誘導体であるから、本件発明1の「(b)カチオン化セルロース」に相当する。
(甲6-3)の【0007】を参酌するに、甲6発明の「マーコートプラス3331」は両性ターポリマーであるアクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体を含有するものであるから、本件発明1の「(c)アニオン性モノマー由来の構造単位とカチオン性モノマー由来の構造単位とを含む両性高分子」に相当する。
甲6発明の「塩化セチルトリメチルアンモニウム」は、本件発明1の「(e)長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であるカチオン性界面活性剤」に相当する。

他方、本件発明1と甲6発明とは、次の点で相違する。

(相違点6)
第1剤について、本件発明1は「(a)一般式R-COOH(ただし、Rは置換基を有しない炭素数が15?17のアルキル基)で表される飽和脂肪酸」が配合されているのに対し、甲6発明はそのような飽和脂肪酸が配合されていない点。

(イ)次に、上記相違点6に係る構成が容易想到であるかについて検討する。
a 甲6には、本件発明1の(a)成分に関連する記載として、以下の記載がある。
(甲6-6)の【0043】には、「必要に応じて、高級脂肪酸、高級アルコール、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び溶剤を配合することができる。」と記載されており、【0044】に「高級脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、アラキン酸、アラキドン酸、リノレイン酸、リノール酸などが挙げられ、これらを1種又は2種以上配合することができる。」との記載がある。
これらの記載から、甲6には、甲6発明に対して追加配合し得る成分として、本件発明1の(a)成分に相当するステアリン酸、イソステアリン酸が、他の成分も含めて任意選択的に配合することができる成分の例として記載されているといえる。

b しかしながら、甲6の記載からは、第1剤にカチオン化ポリマーとしてのカチオン化セルロース誘導体(セルコートL-200、ポリマーJR-125)及び両性ターポリマーであるアクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(マーコートプラス3331)とともに高級脂肪酸としてステアリン酸又はイソステアリン酸を併用することにより、上記本件作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。

c したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 甲2発明ないし甲6発明の組合せに基づく進歩性の判断

上記イないしカで示したように、甲2ないし甲6の記載からは、2剤式酸化型毛髪処理剤の第1剤に本件発明1の(a)成分、(b)成分及び(c)成分を併用することにより、上記本件作用効果を奏するものであることの認識は、見いだすことはできない。
してみると、甲2ないし甲6の全てに接した当業者といえども、本件発明1を容易に発明をすることができたとはいえない。

ク 小括

以上のとおりであるから、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由1及び2には理由がない。

(2)本件発明2ないし4について

本件発明2ないし4は、本件発明1を更に減縮したものであるところ、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由1及び2に理由がないことは、上記「(1)本件発明1について」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし4についての特許異議申立人の取消理由1及び2も同様に理由がない。

2 特許法第36条第6項第2号に規定する要件に係る申立て(取消理由3)について

特許異議申立人は、請求項4に「クリーム状である請求項1?3のいずれかに記載の酸化型毛髪処理剤。」とあるところ、本件明細書には「クリーム状」とはどのような性状であるのか全く記載されていないことから、当業者が「クリーム状」なる用語の意味、内容を理解することができず、本件発明4は明確でない旨主張している。
しかしながら、毛髪処理剤の技術分野において、「クリーム状」という用語は、甲2ないし甲6においても特段の説明なしに用いられているように普通に使用されている用語であり、当業者であれば「クリーム状」という用語がどのような性状で表すものであるかを理解できることは明らかである。
よって、本件発明4についての特許異議申立人の取消理由3には理由がない。

3 特許法第36条第6項第1号に規定する要件に係る申立て(取消理由4)について

(1)本件発明1について

特許異議申立人は、本件発明1は、各々の成分の配合量は全く特定されていないものであるところ、発明の詳細な説明において配合量による効果に言及しつつも、効果が確認されている配合量は実施例の1点のみであり配合量の違いによる効果の相違は全く確認されていないこと、また、(b)成分、(c)成分及び(e)成分の種類についても発明の詳細な説明において効果が確認されている種類は実施例の1点のみであることから、本件発明1の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない旨主張している。

そこで、特許異議申立人の上記主張について検討する。
本件明細書【0006】によれば、本件発明の解決しようとする課題は処理後の毛髪に良好な艶を付与し得る酸化型毛髪処理剤を提供することであるところ、本件発明1は、複数の特定の成分を配合することにより上記課題を解決しようとするものであって、上記課題を解決することができるそれら特定の成分の配合量を特定するものではない。
そして、本件明細書【0015】、【0017】及び【0023】には、それぞれ処理後の毛髪の艶を高める効果をより良好に確保する観点から定まる、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の配合量の好ましい下限値と、処理後の毛髪の艶を高める効果とは異なる観点から定まる(a)成分、(b)成分及び(c)成分の配合量の好ましい上限値とが記載されており、本件明細書【0028】には、(e)成分は処理後の毛髪の感触をより良好にするための成分であることが記載されていることから、本件発明1の各成分の配合量が実施例の値からずれた場合であっても、程度の差はあるとしても上記本件作用効果を奏するものと推測される。
また、(b)成分、(c)成分及び(e)成分の種類についても、本件明細書【0016】、【0019】ないし【0021】及び【0029】に、それぞれ(b)成分、(c)成分及び(e)成分に含まれる物質が例示されており、それらは実施例で用いられた物質と共通の性質を有しているものであることから、本件発明1の各成分の物質が実施例で使用されている物質以外の共通の性質を有する他の物質の場合であっても、程度の差はあるとしても上記本件作用効果を奏するものと推測される。
そうすると、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとまではいえない。
よって、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由4には理由がない。

(2)本件発明2について

特許異議申立人は、本件発明2に対して、本件発明1に対する取消理由4と同様の取消理由4を主張しているが、本件発明2は、本件発明1を更に減縮したものであるところ、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由4に理由がないことは、上記「(1)本件発明1について」で検討したとおりであるから、本件発明2についての特許異議申立人の取消理由4も同様に理由がない。

(3)本件発明3について

本件発明3は、本件発明1又は2を更に減縮したものであるところ、特許異議申立人は、本件発明3に対して、本件発明1に対する取消理由4と同様の取消理由4に加えて、次の点を主張している。

本件発明3は、(d)成分及び(f)成分の配合量は全く特定されていないものであるところ、発明の詳細な説明において配合量による効果に言及しつつも、効果が確認されている配合量は実施例の1点のみであり配合量の違いによる効果の相違は全く確認されていないこと、また、(d)成分及び(f)成分の種類についても発明の詳細な説明において効果が確認されている種類は実施例の1点のみであることから、本件発明3の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。

そこで、特許異議申立人の上記主張について検討する。
上記(1)で示したように、本件発明の解決しようとする課題は処理後の毛髪に良好な艶を付与し得る酸化型毛髪処理剤を提供することである。
そして、本件明細書【0025】には、(d)成分は酸化型毛髪処理剤の粘度調整を容易にするための成分であることが記載され、【0031】には、(f)成分は第1剤の乳化安定性を高めるための成分であることが記載されていることから、(d)成分及び(f)成分が上記本件作用効果に与える影響は小さいものと認められる。
したがって、本件発明3の(d)成分及び(f)成分の物質の種類及び配合量が実施例で使用されている物質及び配合量以外の場合であっても、程度の差はあるとしても上記本件作用効果を奏するものと推測される。

そして、本件発明1に対する取消理由4については、上記「(1)本件発明1について」で検討したとおりである。
そうすると、本件発明3が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとまではいえない。
よって、本件発明3についての特許異議申立人の取消理由4には理由がない。

(4)本件発明4について

特許異議申立人は、本件発明4に対して、本件発明1及び3に対する取消理由4と同様の取消理由4を主張しているが、本件発明4は、本件発明1、2又は3を更に減縮したものであるところ、本件発明1ないし3についての特許異議申立人の取消理由4に理由がないことは、上記「(1)本件発明1について」ないし「(3)本件発明3について」で検討したとおりであるから、本件発明4についての特許異議申立人の取消理由4も同様に理由がない。

5 特許法第36条第4項第1号に規定する要件に係る申立て(取消理由5)について

特許異議申立人は、本件発明1ないし4は、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる範囲を超えたものであることから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨主張している。

しかしながら、本件発明1ないし4が本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとはいえないことは、上記4で検討したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
しかも、そもそも本件明細書の発明の詳細な説明の【0054】ないし【0073】には、本件発明1ないし4に相当する実施例1ないし3が記載されており、【0014】ないし【0033】には、本件発明1ないし4の(a)成分ないし(f)成分に相当する物質の複数の具体例及び好ましい配合量の範囲が記載されていることから、当業者であれば特段の困難を要さずに本件発明1ないし4を実施できるものと認められる。

よって、本件発明1ないし4についての特許異議申立人の取消理由5には理由がない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-12 
出願番号 特願2013-87218(P2013-87218)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松村 真里  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 渡戸 正義
安川 聡
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6124660号(P6124660)
権利者 株式会社ミルボン
発明の名称 酸化型毛髪処理剤  
代理人 三輪 英樹  
代理人 三輪 鐵雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ