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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H04M
管理番号 1339203
異議申立番号 異議2017-700824  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-01 
確定日 2018-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6088223号発明「緊急通報システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6088223号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6088223号の請求項1、2、4に係る特許についての出願は、平成24年11月26日に特許出願され、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月1日に特許異議申立人 小林 敏樹(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年11月22日付けで取消理由を通知し、平成30年1月16日に特許権者より意見書が提出されたものである。

第2 本件特許の請求項に係る発明について
本件特許の請求項1、2、4に係る発明(以下、それぞれ「特許発明1」、「特許発明2」、「特許発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、4に記載された事項により特定されるものであり、それぞれ以下のとおりである。

「【請求項1】
可搬型通信端末を用いた緊急通報システムであって、
前記緊急通報システムは、
可搬型通信端末で取得した位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報を前記可搬型通信端末から受け付ける緊急通報受付処理部と、
利用者情報を記憶する利用者情報記憶部と、
緊急通報の通報者を、前記受け付けた利用者識別情報に基づいて前記利用者情報記憶部から特定する通報者特定処理部と、
前記特定した通報者の利用者に関する情報を前記利用者情報記憶部から抽出して表示させる担当者通知処理部と、
前記受け付けた位置情報に基づいて、前記特定した通報者の位置情報を地図上で特定して表示させる位置特定処理部と、
前記特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部と、
前記可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部と、
を有することを特徴とする緊急通報システム。」

「【請求項2】
可搬型通信端末を用いた緊急通報システムであって、
前記緊急通報システムは、
可搬型通信端末で取得した位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報を前記可搬型通信端末から受け付ける緊急通報受付処理部と、
利用者情報を記憶する利用者情報記憶部と、
緊急通報の通報者を、前記受け付けた利用者識別情報に基づいて前記利用者情報記憶部から特定する通報者特定処理部と、
前記特定した通報者の利用者に関する情報を前記利用者情報記憶部から抽出して表示させる担当者通知処理部と、
前記受け付けた位置情報に基づいて、前記特定した通報者の位置情報を地図上で特定して表示させる位置特定処理部と、
前記特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部と、
前記可搬型通信端末において監視する充電完了の検出による充電完了の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部と、
を有することを特徴とする緊急通報システム。」

「【請求項4】
前記充電通知受付処理部は、さらに、
前記可搬型通信端末において監視する電池残量について、電池残量が所定値以下であることの通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の緊急通報システム。」

第3 取消理由の概要
当審において、請求項1、2、4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

特許発明1、2、4は、当業者であれば、甲第1号証(特開2001-8265号公報)に記載された発明、甲第4号証(特表2011-519583号公報)に記載された技術的事項、刊行物3(特開2001-109977号公報)に例示される周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第4 取消理由において引用した甲各号証、刊行物について
1.甲第1号証及び引用発明について
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

(1)「【0004】本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、その目的とするところは、管理センターから離れた広範囲を警備対象エリアとすることができ、しかも非常発信の位置を精度良く把握でき、更に非常時に移動体通信端末器の所有者に対して管理センターから適切な指示を与えることや所有者の自宅等特定場所への通報や緊急出動車への出動指令の発令ができ、適切な対処が迅速に行えるパーソナルセキュリティシステムを提供するにある。」

(2)「【0010】管理センター2は非常用釦付移動体通信端末器1とともに本実施形態のシステムの主要な構成となる管理装置7を設けており、この管理装置7は移動体通信端末器1に対してPHSサービス制御装置6の制御の下で、公衆回線網4と、PHS通信網の基地局3とを通じて接続され、移動体通信端末器1からの非常通報を受け取るようになっている。尚図1中8は緊急出動車、9は管理装置に付設される電話機を示す。」

(3)「【0013】図3、図4は本発明に用いるPHSの移動体通信端末器1の外観を示しており、移動体通信端末器本体39の上部には受話器としてのスピーカ14が内蔵され、その音出孔41を移動体通信端末器本体39の表面上部に開口させている。この音出孔41のやや下方の移動体通信端末器本体39の表面にはLCD28の表示面を露出し、更にこの表示面より移動体通信端末器本体39の下端に至る表面部には開閉自在に枢支された扉40で覆われるキーパッド部27が設けられている。扉40は開成した状態で送話器となり、開いた時に表側となる裏面部にマイク12を内蔵し、また表面部には透明カバー41で覆ってある非常用釦37を設けている。透明カバー42はスライド自在に開閉するもので、通常時には非常用釦37が不用意に操作されるのを防ぐために閉じられ、非常時には所有者がこの透明カバー42を矢印方向にスライドして開いた状態で非常用釦37を操作するか、透明カバー42を強い力で壊して非常用釦37を操作するようになっている。 キーパッド部27には通常PHSの移動体通信端末器として必要なキーの他に管理センター2の電話番号を入力するモードを設定するためのモードキー43を設けてある。このモードキー43を操作して入力モードを設定しこの設定時にテンキーを使用して通常PHSの移動体通信端末器に機能として備わっている電話番号メモリ機能と同様に管理センター2の電話番号を記憶させるのである。この記憶はEEPROM34により行われ、バッテリ35切れがあっても変更されるまで保存される。この保存された管理センター2の電話番号は、非常用釦37が操作されたことをコンピュータ部33が検出した時に発呼先として自動的に呼び出されてダイヤリングされることになる。つまり自動発呼機能が働くことになる。 管理センター2には図5に示すようにISDN回線からなる公衆回線網4に接続された管理装置7が設置されている。この管理装置7はISDN回線からなる公衆回線網4にDSU70を通じて接続されたCPUからなるメイン制御部71と、情報表示を行うためのCRT等から構成される表示装置72と、指令やその他必要な操作を行うためのキーボードからなる操作部73と、契約顧客、つまり非常用釦37を備えたPHSの移動体通信端末器1を所有する者のデータや地図データファイルを格納した記憶装置74と、通話用の電話機9とで構成される。 上記契約顧客のデータとしては、登録されている移動通信端末器1の電話番号、所有者の氏名、性別、年齢、自宅の電話番号、顔写真、身長等の体の特徴、病気の経歴、血液型、家族内容、勤務先等が格納される。」

(4)「【0022】このようにして当該移動体通信端末器1と管理装置7との間が通話状態になり、応答信号を受けた当該移動体通信端末器1は基地局3、公衆回線網4を通じて管理装置7に非常通報の情報と、GPS受信部38で測位演算によって求めた現在の位置情報と、当該移動体通信端末器1の識別情報として当該移動体通信端末器1の電話番号とを非常状態発生を示す情報として送る。
【0023】管理装置7のメイン制御部71は非常通報の情報を受け取ると、非常時の着信であると判定し、同時に送られくる位置情報により当該移動通信端末器1の位置を割り出し、該位置を含む地図データを記憶装置74に格納している地図データファイルより読み出し、該地図データ上に当該移動通信端末器1の位置をマッピングして表示装置72に地図を表示させるとともに、受け取った電話番号より当該移動通信端末器1の所有者の登録データを読み出して表示装置72に表示させる。
【0024】従ってオペレータはこの表示により非常の通報があったことと、当該移動体通信端末器1の存在位置を知るとともに、当該移動体通信端末器1の所有者を知ることになる。そして操作部73の接続操作スイッチの操作により電話機9による通話を可能とし当該移動体通信端末器1の所有者との通話を行う。この通話により所有者の状況を確認し、所有者に対して通話によるアドバイスを行ったり、或いは必要に応じて所有者の自宅に非常事態の発生の通報を行ったり、更には緊急出動車8に対して緊急指令を発令する。
【0025】ここで上記自宅への通報を通報を必要と判断したオペレータは表示装置72に表示される当該所有者の電話番号を見て電話機9により発呼操作を行なう。また緊急出動車8に対しては表示装置72で表示される緊急出動車8の自動車電話、携帯電話機、PHSの移動体通信端末器等の移動用電話機の電話番号を見て発呼操作を行う。勿論この場合無線機を利用した呼出しを行うようにしても良い。更に警察、消防署等の公的機関への通報を行なう処理も、非常事態の内容に即応して行なう。
【0026】緊急出動車8に対する呼出しができた場合には、オペレータは緊急出動車8の運転者或いは搭乗者に対して当該移動体通信端末器1の所有者、発信位置データ等の諸情報を通知する。また所有者の自宅に電話をかけた場合には、所有者の状態等を家人に通知する。」

(5)「【0028】ところで移動体通信端末器1では上記のように管理センター2との間で接続が行えない圏外に位置する場合や、話中の場合にはそれをLCD28で表示するとともに、リダイヤル操作を予め設定されている回数まで自動的に行い、リダイヤル操作の回数が設定回数を越えると操作チェックに戻ることになるまた管理センター2の管理装置7の電話機9から必要に応じて移動体通信端末器1を呼び出すこともできる。」

甲第1号証の記載から、以下のことがいえる。
上記(1)及び(2)によれば、「管理センター2」及び「移動体通信端末器」を含んでなる「パーソナルセキュリティシステム」であって、「管理センター2」は「管理装置7を設けており」、該「管理装置7」は「移動体通信端末器1」に接続され、「移動体通信端末器1からの非常通報を受け取る」から、「パーソナルセキュリティシステム」は「移動体通信端末器1を用いた非常通報システム」であるといえる。
上記(3)によれば、「管理センター2」には「公衆回線網4に接続された管理装置7が設置され」、該「管理装置7」は、「公衆回線網4にDSU70を通じて接続されたCPUからなるメイン制御部71」、「情報表示を行うためのCRT等から構成される表示装置72」、「契約顧客、つまり非常用釦37を備えたPHSの移動体通信端末器1を所有する者のデータや地図データファイルを格納した記憶装置74」、「電話機9」を含み、「契約顧客のデータ」として、「移動通信端末器1の電話番号、所有者の氏名」等が「記憶装置74」」に格納されているから、管理センター2に設置された「管理装置7」は、「メイン制御部71」、「移動体通信端末器1の電話番号、所有者の氏名等を格納した記憶装置74」、「表示装置72」及び「電話機9」を有するといえる。
上記(4)によれば、「移動体通信端末器1」は「管理装置7」に「非常通報の情報」と「GPS受信部38で測位演算によって求めた現在の位置情報」と「当該移動体通信端末器1の識別情報として当該移動体通信端末器1の電話番号」とを「非常状態発生を示す情報」として送り、「管理装置7のメイン制御部71」は「非常通報の情報を受け取」り、「同時に送られくる位置情報」及び「受け取った電話番号」より「表示装置72に表示させる」から、管理装置7の「メイン制御部71」は「移動体通信端末器1で取得した位置情報と当該移動体通信端末器1の電話番号とを含む非常状態発生を示す情報を当該移動体通信端末器1から受け取る」処理を行うといえる。また、「管理装置7のメイン制御部71」は「位置情報により当該移動通信端末器1の位置を割り出し」、「地図データ上に当該移動通信端末器1の位置をマッピングして表示装置72に地図を表示させるとともに」、「受け取った電話番号より当該移動通信端末器1の所有者の登録データを読み出して表示装置72に表示させる」から、管理装置7の「メイン制御部71」は「電話番号より」非常状態発生を示す情報を送った「当該移動体通信端末器1の所有者」の「データ」を「読み出して表示装置72に表示させ」る処理と、「位置情報により」「地図データ上に」非常状態発生を示す情報を送った「当該移動体通信端末器1の位置をマッピングして表示装置72に地図を表示させ」る処理を行うといえる。
上記(2)、(4)及び(5)によれば、「電話機9」は「管理装置に付設され」、「オペレータ」が「発呼操作」をして通話するものであり、「移動体通信端末器1を呼び出す」こともできるものであるから、「管理センター2」は、「管理装置7」に付設され、「オペレータ」が「移動体通信端末器1」に通話するための「電話機9」を有しているといえる。

これらの記載から、甲第1号証には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「移動体通信端末器1を用いたパーソナルセキュリティシステムであって、前記パーソナルセキュリティシステムは、
前記移動体通信端末器1の電話番号、所有者の氏名等を格納した記憶装置74と、
前記移動体通信端末器1で取得した位置情報と前記移動体通信端末器1の電話番号とを含む非常状態発生を示す情報を受け取る処理と、
前記電話番号より前記データを前記記憶装置74から読み出して表示装置72に表示させる処理と、
前記位置情報により地図データ上に前記移動体通信端末器1の位置をマッピングして前記表示装置72に地図を表示させる処理と、
を行うメイン制御部71と、
オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9と
を有する前記移動体通信端末器1を用いたパーソナルセキュリティシステム。」

2.甲第4号証について
平成30年1月16日に提出された意見書を踏まえると、甲第4号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

「【0002】
多くの患者は、広範な期間に渡って連続的に心臓を監視する必要があることが証明されている。この患者集団は、心房細動、心房粗動、及び他の上室性頻拍症のような不整脈、心房又は心室期外収縮、除脈性不整脈、間欠的脚ブロック並びに甲状腺機能亢進症若しくは慢性肺病のような症状に関連する不整脈を有する者を含む。他の患者は、目眩若しくは立ちくらみ、失神、又は呼吸困難のような心不整脈による症状を示しうる。他の患者は、患者のリズムを症状に関連付けることが望ましい動悸を経験しうる。薬の及ぼす不整脈作用又は不整脈を抑制する薬の影響が監視されるべき状況では、他の患者の症状は、薬の心臓に与える影響のために監視される必要がありうる。知られている不整脈作用を有する薬では、QT間隔の起こり得る長期化が監視される。睡眠時無呼吸のような睡眠呼吸障害と診断された患者、脳卒中又は一過性虚血を有する患者、又は心臓手術から回復している患者は、屡々連続的な心臓の監視の利益を享受しうる。
【0003】
幾つかの監視装置は、現在これらの症状の幾つかのために用いられている。ホルターモニタは、患者のECG波形を24時間のような期間に渡って連続的に記録するために用いられる。しかしながら、ホルターモニタにより記録されたデータは、記録期間が終了した後にのみ分かり分析される。ECGデータが記録されるのみで即時に報告されない場合には、ECGの即時分析は可能ではない。また、多くの患者は、ホルターモニタ及びその多くのリード配線や電極を装着しているとき通常の動作に従事することに制約を感じ、屡々これらのモニタの不快さ及び不便さを嫌う。
【0004】
現在用いられている別の監視装置は、ループ又はイベント・モニタである。ループ・モニタは、連続ループ記録でデータを記録する。ループが終了すると、ループ・モニタは前に記録されたデータを上書きする。従って、データが失われうるので、ループ・モニタは延長された期間の間完全な開示レコーダとしての効果がない。イベント・モニタでは、患者は多数の電極及び配線を取り付けられ、患者が症状を示したと感じたときは何時でも、モニタが患者により作動できるようにする。患者が痛み又は不快症状を感じたとき、患者はモニタを作動し、症状が出た時のECGを記録する。また、幾つかの監視システムは、不整脈について即座に精査できる診断センタへECGデータを電話により中継する局所基地局へECGデータを送信させる。しかしながら、これは、患者が絶えず局所基地局の範囲内に居なければならないので、患者の通常の日常活動を制約してしまう。」
【0005】
更に他のモニタは、心臓の事象により自動的に始動され事象が起きた時にECGを記録するレコーダを有する。次に患者は、モニタを電話線モデムに接続し、ECGデータを監視センタへ検査のために転送する。これらのシステムは多くの問題を引き起こす。1つは、患者がモニタを電話機器に接続するとき又は機器を動作させるときに間違えて、その結果アップロードされるデータが失われてしまうことである。別の問題は、失神のような心臓の事象が患者を意識不明にするか又は頭を混乱させ、アップロード処理を正しく、ある場合には全く行うことができないことである。更に、患者が車で移動している間に心臓の事象が起こった場合、患者がアップロード機器の場所に戻りデータのアップロード処理を実行できるまでに有意な時間が経過してしまいうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、心臓監視システムではこれらの装置の欠点を克服することが望ましい。このような監視システムは、患者のECG波形を連続的に記録し、不整脈についてECGをリアルタイムで分析し、できる限り重要な不整脈が検出されたときは何時でも診断を行う臨床医学者へECGデータを送信しうる。また、システムは、症状を示す事象を望ましくは事象の口頭による説明とともに記録するために患者により動作可能であり、次に症状の説明及び関連するECGデータを臨床医学者又は監視センタへ検査のために自動的に送信してもよい。監視システムは、望ましくは非常に快適であり患者の通常の日常活動を乱すことなく患者にとって使用するのに便利でありうる。」

「【0009】
図1は、本発明の原理に従って構成された無線ECG監視システムの有意な患者の快適さ及び使い易さを示す。図1に描かれた人は、通常の日常的な活動を行っており、彼が装着している連続的なECG監視システムにより悩まされず妨げられない。これは、彼が装着しているECG監視システムが薄く、軽く且つ装着するのに快適であるからである。概して、これは、ECG監視システムがこの人の体の周りに如何なる配線も垂らしていないからである。身体の他の領域にモニタから電極への如何なる配線もなく、モニタを通信機に接続する如何なる配線もなく、通信機を通信ネットワークに接続する如何なる配線もない。ECG監視システムは、完全にワイヤレスである。無関心な観察者には、彼は彼の腰の円で囲まれた携帯用ケース10に入れた携帯電話を装着しているとしか見えないだろう。彼の胸に示されるものは、本発明の無線ECGモニタ12である。ECGモニタ12の場所が図1に示されるが、実際には、モニタは彼のシャツの下にあるので観察者には見えないだろう。直径2.5’’未満、厚さ0.5’’、重さ1オンス未満を有し、モニタは彼の服の下にあり事実上見えないだろう。彼が彼の日常活動に取り組むとき、ECGモニタ12は、各心拍のECGを連続的に監視し、分析し及び記録する。不整脈がモニタにより検出された場合、警告及びECGストリップは携帯用ケース10内の携帯電話端末へ無線で送信される。携帯電話端末は、数百又は数千マイルも離れた監視センタに静かに電話をかけ、警告及びECGストリップを監視センタへ中継する。監視センタでは、この心臓の情報は直ちに専門医により検査され、必要な処置が取られ又は患者の医師へ報告が行われる。患者の心臓の機能は、このように標準的には数週間(10-30日間)、1日に24時間監視され、本発明によらなければ外来患者に利用可能でなかったECG情報のアーカイブ及び不整脈予防のレベルを提供する。」

「【0011】
図3Aは、本発明の原理に従い構成されたECGモニタ30の外側の正面の平面図である。ECGモニタ30は、超音波で継ぎ目なしに閉じられた又は接着剤若しくは溶剤で密閉されて閉じられたプラスチックの2枚貝の貝殻ケースに入れられる。図3Bの例に示されるように、ケースの裏面38には、ケース表面に挿入され一平面内に熱的に封印された1列の電気接点36がある。作図された実施形態では、3列の電気接点36がある。これらの列のうちの1つはクリップ24の弾性接点26に接続し、ECG信号をモニタに結合し、基準電極に小さい信号を印加する。他の2列は、以下に記載されるようにモニタ30が再充電されているとき、充電ドック内で接点の列を整合させる。本例のモニタは、如何なる外部制御若しくはディスプレイもなく、如何なるオン/オフ・スイッチもなく、ケースの裏面に電気接点36があるだけである。作図された実施形態では、ECGモニタの寸法は幅2.4’’、高さ1.9’’、厚さ0.5’’及び重さ0.9オンスである。ケースは、その外周付近に密閉され、また裏面の接点は完全に密封されるので、患者又はモニタの何れにも如何なる危険を引き起こさずに、モニタはシャワーを浴びている間も装着されうる。本実施形態ではケースは永久に閉じられているので、この設計では内部バッテリ又は構成要素の交換はできない。モニタが正しく動作しない又はバッテリがもはや十分な電荷を保持できない場合には、適切に捨てられる。」

「【0047】
図29は、通知ウインドウ282及び事象ウインドウ284が展開されている図28のECGビューア画面を示す。図示された実施形態では、モニタ30は、モニタの状態が変化する度に通知を送信する。そして該通知は、携帯電話端末の状態変化から生じた通知と共に、携帯電話端末により監視センタへ転送される。例えば、モニタが、該モニタが患者に取り付けられたこと及び該患者からECG信号を受信していることを検知すると、状態メッセージは監視センタへ送信される。モニタが緩んだリードを検出すると、状態メッセージは監視センタへ送信される。緩んだリードが再び取り付けられると、状態メッセージは監視センタへ送信される。モニタがパッチから取り外されると、状態メッセージは監視センタへ送信される。このように、状態メッセージの連続的な流れは、監視センタに患者によるモニタの使用を評価させ、メッセージの流れが患者が問題を抱えていること又は何かを見過ごしていることを示す場合に、監視センタの技術者は患者の携帯電話端末に電話をかけて介入することができる。次の表1は、監視システムの使用中に送信されてもよい標準的なメッセージの一部の一覧を示す。
【0048】
【表1】

異なる通知は異なる方法で処理されうる。例えば、Bluetooth通信の中断は頻繁に発生しうる。患者は、携帯電話端末を置いて立ち去り、何かの作業をしているかも知れない。その結果、モニタが携帯電話端末の範囲から出るとBluetooth通信断となる。数分後、患者が携帯電話端末のところに戻り、携帯電話端末を拾い上げて携帯用ケース、ハンドバッグ又はポケットに戻すと、モニタ及び携帯電話端末が互いにBluetooth信号の範囲内に入ったとき、Bluetooth通信が再び確立される。このような環境では、Bluetooth通信断の通知は5又は10分間遅延され、通知を送信する前に通信が復旧するための時間を許容することが望ましい。或いは、通信断の通知は状態メッセージとして直ちに送信されてもよく、その後間もなく通信が復旧したという通知が受信された場合に、該通信断の通知は取り消されるか又は自動的に解決したとしてマークされてもよい。解決通知が5若しくは10分、又は特定の他の所定期間内に受信されない場合、技術者の注意を引くために監視センタで通知の優先度が上げられる。同様に、リードが緩んでいる通知は、遅延されるか優先度の段階に従い、通知が送信されることなく又は監視センタにより応答されることなく、患者に状況を認識し正させてもよい。」

ここで、段落【0047】の「モニタ30」は、段落【0011】の記載によれば、「本発明の原理に従い構成されたECGモニタ30」である。また、段落【0009】の記載によれば、「ECGモニタ12」は、「本発明の無線ECGモニタ12」であるから、「モニタ30」と「ECGモニタ12」は、同じものを意味しているといえる。

したがって、甲第4号証には、以下の技術的事項が記載されている。
「携帯電話端末から、心拍を連続的に監視するモニタの状態が変化する度に携帯電話端末に送信される通知と、前記携帯電話端末における状態変化から生じた通知を含む通知を、監視センタが受け取ることであって、前記監視センタが受け取る前記通知には、「患者のモニタが正常に動作している」、「低バッテリ(モニタ)」、「低バッテリ(端末)」、「携帯電話の充電開始」、「携帯電話の充電完了」、「事情情報+ECGストリップが送信された」等の情報が含まれること。」

3.刊行物3に例示される周知技術について
刊行物3には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)。

「【0014】図5は本発明の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図5において、1は基地局、PはPHS又は携帯用端末HTを所持した救援を求める者であり、Tは救援タクシーである。この実施形態においては、端末HTがGPS受信機を備えており、常に端末HTの現在位置(緯度、経度)をGPSから取得していることと、位置情報センター2を必要としていない点で図1に示した構成と異なる。
【0015】次に、システムの動作について説明する。端末HTを所持した者Pが、端末HTの緊急ボタンを押すと基地局1に緊急通報が端末HTの番号及び発信者Pの現在位置と共に発信される。基地局1はこの送受信部12で緊急通報を受けると現在位置の位置情報を入力し、発信者Pの現在地付近の地図を表示装置15に表示し、地図上に発信者Pの位置を表示する。一方、GPSを搭載した救援タクシーTの位置を受信して上記地図上に救援タクシーの位置も表示する。他方、必要とあれば基地局1のコンピュータCPU11が顧客情報データベース13から端末所持者Pの顧客情報を出力すると共に、発信者に電話をかけ、発信者が話をできる状態であれば状況を聞いて現状を把握する。発信者Pと救援タクシーの位置を表示した地図は、図2に示した通りである。次に、基地局では地図上で発信者Pから最も距離的に近い救援タクシーを選択し、選択されたタクシーに出動指令を発信する。一方、救援タクシーはこれを受けて発信者Pのいる場所に緊急出動し、発信者Pを救護する。」

「【0017】この実施形態の場合、発信者の緊急通報を受ければ発信者の位置情報もすぐに判明し、また救援タクシーの位置情報も常時入力されているため、緊急通報の受信から救援タクシーの選択、そして出動まですべて基地局のCPU11により自動的に行うことができる。即ち、図6のS1?S7までの動作をすべて自動的に行うことができる。また、救援タクシーTがGPS受信機を備えていない場合は、基地局1のオペレータがタクシー無線等でタクシーTの現在位置及び空車かどうかを問い合わせて選択し、救援指令を発することもできる。」

刊行物3において「基地局1」には「オペレータ」が存在するから、「基地局1のコンピュータCPU11」が「端末所持者Pの顧客情報を出力すると共に、発信者に電話をかけ」た際には、「基地局1」の「オペレータ」が「発信者」との間で通話をすることもできるものと解される。

したがって、刊行物3には、 「携帯用端末HT」からの「緊急通報」を「基地局1」が受けるシステムにおいて、「必要とあれば基地局1のコンピュータCPU11」が「顧客情報データベース13から端末所持者Pの顧客情報を出力すると共に、発信者に電話をかけ」、「オペレータ」が通話することが記載されている。
したがって、刊行物3によれば、「コンピュータが、前記コンピュータが記憶している電話番号に基づいて、電話をかけて、オペレータが通話すること。」は、周知技術である。

第5 取消理由についての判断
1.特許発明1について
特許発明1と引用発明とを対比すると、以下の点で相違する。
(相違点1)特許発明1は「可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、引用発明にはそのような特定がない点。
(相違点2)各処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、引用発明は「メイン制御部71」である点。
(相違点3)特許発明1は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するが、引用発明は「オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9」である点。

相違点1について検討する。
甲第4号証には、上記のとおり、「携帯電話端末から、心拍を連続的に監視するモニタの状態が変化する度に携帯電話端末に送信される通知と、前記携帯電話端末における状態変化から生じた通知を含む通知を、監視センタが受け取ることであって、前記監視センタが受け取る前記通知には、「患者のモニタが正常に動作している」、「低バッテリ(モニタ)」、「低バッテリ(端末)」、「携帯電話の充電開始」、「携帯電話の充電完了」、「事情情報+ECGストリップが送信された」等の情報が含まれること。」(再掲)という技術的事項が記載されている。

ここで、引用発明に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるかについて検討する。

甲第4号証に記載された技術的事項における携帯電話端末は、心拍を連続的に監視するモニタからの通知を常に待ち受けており、モニタから通知があると監視センタに通知するものであるから、この点において、通常の携帯電話端末の消費量と比べて電池の消費量が大きくなるものといえる。また、一般的に、心臓等に疾患のある患者や心臓手術を受けた患者の心臓は健常者の心臓よりも異常が発生しやすく、異常があった場合には緊急の措置が必要となり得るから、甲第4号証に記載された技術的事項においては、モニタや携帯電話端末が電池切れによって動作しなくなることを極力防止する必要がある。
以上のことに鑑みれば、甲第4号証に記載された技術的事項には、モニタや携帯電話端末の充電状態を監視する必要があるという課題があるといえる。
他方、引用発明における移動体通信端末器は、所有者が非常用釦を操作した場合に、管理センターに非常通報をするものであって、所有者の身体の状態を常に監視して管理センターに通知するようなものではないから、この点において、電池の消費量は、通常の携帯電話端末の消費量と比べて差がない。加えて、甲第1号証の段落【0013】に「・・・通常PHSの移動体通信端末器に機能として備わっている電話番号メモリ機能と同様に管理センター2の電話番号を記憶させるのである。この記憶はEEPROM34により行われ、バッテリ35切れがあっても変更されるまで保存される。」と記載されているように、甲第1号証には、移動体通信端末器のバッテリ切れを想定して管理センターの電話番号を移動体通信端末器のEEPROM34に記憶することも記載されているから、引用発明において、移動体通信端末器の充電状態を管理センターが監視する必然性は認められない。
してみると、引用発明においては、移動体通信端末器の充電状態を管理センターが監視しなければならない課題が見出せないから、そのような引用発明に、モニタや携帯電話端末の充電状態を監視する必要があるという課題がある甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

また、引用発明と、甲第4号証に記載された技術的事項は、移動体通信端末器(携帯電話端末)から管理センター(監視センタ)に緊急事態を通報できるシステム(以下、「緊急通報システム」という。)という点で共通の技術分野に属し、同様の点で共通の機能(以下、「緊急通報機能」という。)を有するものであるが、移動体端末からセンターへ充電状態を通知するという技術的事項は、緊急通報システムや緊急通報機能とは独立したものであって、緊急通報システムや緊急通報機能に必ずしも関連するものではないから、引用発明と、甲第4号証に記載された技術的事項が、緊急通報システムという点で共通の技術分野に属し、緊急通報機能という点で共通の機能を有していたとしても、それをもって、引用発明に、携帯電話端末の充電開始や終了を監視センタに通知するという甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、甲第4号証に記載された技術的事項において、携帯電話端末から監視センタに送る通知の中に「携帯電話の充電開始」が含まれていたとしても、相違点1に係る特許発明1の構成は、当業者が、引用発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明1は、当業者であっても、引用発明、甲第4号証に記載された技術的事項及び刊行物3に例示される周知技術に基づいて容易に発明できたものではない。

2.特許発明2について
特許発明2と引用発明とを対比すると、以下の点で相違する。
(相違点4)特許発明2は「可搬型通信端末において監視する充電完了の検出による充電完了の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、引用発明にはそのような特定がない点。
(相違点5)各処理を行う処理部が、特許発明2では個別の処理部として記載されているのに対し、引用発明は「メイン制御部71」である点。
(相違点6)特許発明2は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するが、引用発明は「オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9」である点。

相違点4について検討すると、引用発明に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがないことについては、「1.特許発明1について」の(相違点1)において検討したとおりである。
したがって、甲第4号証に記載された技術的事項において、携帯電話端末から監視センタに送る通知の中に「携帯電話の充電完了」が含まれていたとしても、相違点4に係る特許発明2の構成は、当業者が、引用発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明2は、当業者であっても、引用発明、甲第4号証に記載された技術的事項及び刊行物3に例示される周知技術に基づいて容易に発明できたものではない。

3.特許発明4について
特許発明4は特許発明1又は2を減縮したものであり、「1.特許発明1について」、「2.特許発明2について」に記載したとおり、相違点1に係る特許発明1の構成、及び、相違点4に係る特許発明2の構成は、当業者であっても、引用発明、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

よって、他の点について検討するまでもなく、特許発明4は、当業者であっても、引用発明、甲第4号証に記載された技術的事項、刊行物3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について
異議申立書では、特許発明1、2、4に係る特許について、甲第1号証、甲第2号証(特開平11-112695号公報)、甲第3号証(特開2002-186052号公報)のそれぞれを主引例として、容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、との申立てをしている。そこで、以下、それぞれの甲号証を主引例とした場合について検討する

1.甲第1号証を主引例とする特許法第29条第2項の異議申立理由について
(1)異議申立理由の概要
特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に、甲第4号証、甲第5号証(特開2008-98744号公報)に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に、甲第4号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明4は、甲第1号証に記載された発明に、甲第4、5号証に記載されている周知の事項、及び、甲第3、5号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。

(2)特許発明1について
ア.甲第1号証、甲第4号証について
甲第1号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術的事項は、それぞれ「第4」の「1.甲第1号証及び引用発明について」、「2.甲第4号証について」に記載したとおりである。

イ.甲第5号証について
異議申立書(第28ページから第29ページまで、第39ページ)では、甲第5号証の段落【0045】、段落【0062】から【0063】までの記載に基づいて、特許発明1の「前記可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」は、甲第5号証に記載されている旨を主張している。

そこで、甲第5号証についてみると、甲第5号証には以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

「【0043】
図2は、本システムを構成する被保護者101の携帯電話102において、安否確認に関する処理を行なうための機能構成の具体例を示すブロック図である。
【0044】
図2を参照して、携帯電話102の上記機能は、キー制御部202、充電制御部203、異常なし検出部204、全体制御部205、時間計測部206、メール送受信制御部207、通知メール検出部214、および認証処理部215を含んで構成される。さらに、記憶部130には、記憶領域として、異常なし通知メール送信間隔格納部208、送信先アドレス格納部209、異常なし検出有無格納部210、一時停止設定格納部211、メール格納部212、および異常あり判定時間格納部213が含まれる。
【0045】
キー制御部202はキー142が操作されたことによる操作信号をキー142から受取り、異常なし検出部204に操作信号を入力する。充電制御部203は、図示しない充電池の充電具合を監視し、携帯電話102が充電台にセットされ充電が開始されたことや、充電台から取り外されたことを検出すると、異常なし検出部204に検出信号を入力する。また、電池の残量がしきい値以下であることを検出すると、全体制御部205に検出信号を入力する。加速度センサ150は当該携帯電話102の加速度が検出されると、異常なし検出部204に検出信号を入力する。
【0046】
異常なし検出有無格納部210には、異常なしが検出された否かを示す情報が格納されている。一例としては、異常なしが検出された否かを示す情報としての安否確認済みフラグが格納されており、異常なしが検出された場合には上記フラグがONに、異常なしが検出されていない場合には上記フラグがOFFにされている。
【0047】
異常なし検出部204は、キー制御部202からの操作信号、充電制御部203からの検出信号、および/または加速度センサ150からの検出信号に基づいて異常なしを検出し、検出結果を全体制御部205に入力する。全体制御部205は、異常なし検出有無格納部210に異常なしが検出されたことを格納するため、上述の安否確認済みフラグをOFFからONにする。
【0048】
異常なし通知メール送信間隔格納部208には、予め被保護者101や保護者103等によって設定されている、後述する異常なし通知メールを携帯電話104に送信する時間間隔が格納されている。時間計測部206は、異常なし通知メール送信間隔格納部208に格納されている時間間隔を読出し、後述する全体制御部205からの制御信号に従って先の異常なし通知メールの送信から上記時間間隔の経過を測定して、上記時間間隔の経過を全体制御部205に通知する。
【0049】
送信先アドレス格納部209には、予め被保護者101や保護者103等によって設定されている、後述する異常なし通知メールの送信先アドレス(ここでは携帯電話104のメールアドレス)が格納されている。全体制御部205は、時間計測部206からの上記通知に基づいて所定のタイミングで送信先アドレス格納部209から格納されている携帯電話104のメールアドレスを読出し、メール送受信制御部207に対して異常なし通知メールを送信するよう制御信号を入力する。また、時間計測部206に対して新たに時間間隔を計測するよう制御信号を入力する。また、全体制御部205は異常なし検出有無格納部210に格納されている上記の安否確認済みフラグをONからOFFにし、異常なしの検出結果をリセットする。また、全体制御部205は、現在位置測定装置160から現在位置を取得し、充電制御部203から現在の電池の残り量を取得し、これらの情報をメール送受信制御部207に入力する。」

「【0052】
メール送受信制御部207は、全体制御部205からの上記制御信号に従い、異常なし検出有無格納部210に格納されている安否確認済みフラグに応じて、メール格納部212に格納されている異常なし通知メールの定型データを読出して、入力された現在位置等の情報を用いて異常なし通知メールを作成し、上述の格納部に格納されているフラグ等を参照して異常なし通知メールの送信のタイミングを判断して、作成された異常なし通知メールを送信する。」

「【0055】
図3は、本システムを構成する保護者103の携帯電話104において、安否確認に関する処理を行なうための機能構成の具体例を示すブロック図である。
【0056】
図3を参照して、携帯電話104の上記機能は、メール送受信制御部302、時間計測部303、全体制御部305、メール種別判断部309、および異常検出部310を含んで構成される。さらに、記憶部130には、記憶領域として、一般メール格納部306、異常なし通知メール格納部307、異常あり判定時間格納部308、および一時停止設定格納部312が含まれる。」

「【0058】
異常あり判定時間格納部308には、予め保護者103等によって設定されている、異常の発生を検出するための時間間隔である異常あり判定時間が格納されている。異常検出部310は、時間計測部303より、直前に異常なし通知メールを受取った時から次の異常なし通知メールを受取った時までの経過時間を取得し、異常あり判定時間格納部308に格納されている異常あり判定時間を読出して、異常の発生を検出し、検出信号を全体制御部305に入力する。全体制御部305は検出結果に応じて、スピーカ148に対して警報音を鳴らすように制御信号を入力する。」

以上の記載によれば、甲第5号証には、以下の技術的事項が記載されている。
「キー制御部202、充電制御部203、異常なし検出部204、全体制御部205、時間計測部206、メール送受信制御部207、通知メール検出部214、認証処理部215、記憶部130であって異常なし通知メール送信間隔格納部208、異常なし検出有無格納部210を含む記憶部130、を含んで構成される被保護者101の携帯電話102と、
メール送受信制御部302、時間計測部303、全体制御部305、メール種別判断部309、異常検出部310、記憶部130であって異常あり判定時間格納部308を含む記憶部130、を含んで構成される保護者103の携帯電話104と、
からなる安否確認システムにおいて
前記被保護者101の携帯電話102では、
前記充電制御部203は、携帯電話102が充電台にセットされ充電が開始されたことを検出すると、異常なし検出部204に検出信号を入力し、
前記異常なし検出部204は、キー制御部202からの操作信号、充電制御部203からの検出信号、および/または加速度センサ150からの検出信号に基づいて異常なしを検出し、検出結果を前記全体制御部205に入力し、
前記全体制御部205は、異常なし検出有無格納部210に異常なしが検出されたことを格納するため、安否確認済みフラグをOFFからONにし、
また、前記異常なし通知メール送信間隔格納部208には、異常なし通知メールを前記保護者103の携帯電話104に送信する時間間隔が格納されており、
前記時間計測部206は、前記異常なし通知メール送信間隔格納部208に格納されている時間間隔を読出し、前記全体制御部205からの制御信号に従って先の異常なし通知メールの送信から上記時間間隔の経過を測定して、上記時間間隔の経過を前記全体制御部205に通知し、
前記全体制御部205は、前記時間計測部206からの上記通知に基づいて所定のタイミングで前記保護者103の携帯電話104のメールアドレスを読出し、前記メール送受信制御部207に対して異常なし通知メールを送信するよう制御信号を入力し、
前記メール送受信制御部207は、前記全体制御部205からの前記制御信号に従い、異常なし通知メールの送信のタイミングを判断して、作成された異常なし通知メールを送信するものであり、
前記保護者103の携帯電話104では、
前記異常あり判定時間格納部308に、異常の発生を検出するための時間間隔である異常あり判定時間が格納されており、
前記異常検出部310は、直前に異常なし通知メールを受取った時から次の異常なし通知メールを受取った時までの経過時間を取得し、前記異常あり判定時間格納部308に格納されている異常あり判定時間を読出して、異常の発生を検出し、検出信号を前記全体制御部305に入力して、
前記全体制御部305は検出結果に応じて、スピーカ148に対して警報音を鳴らすように制御信号を入力するものであること。」

ウ.対比・判断
特許発明1と、甲第1号証に記載された発明を対比すると、以下の点で相違する。
(相違点1)特許発明1は「可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、甲第1号証に記載された発明にはそのような特定がない点。
(相違点2)各処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、甲第1号証に記載された発明は「メイン制御部71」である点。
(相違点3)特許発明1は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するが、甲第1号証に記載された発明は「オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9」である点。

相違点1について検討する。
甲第1号証に記載された発明に甲第4号証に記載された技術的事項を適用することに動機付けがない点については、「第5」の「1.特許発明1について」において検討したとおりである。

甲第5号証についてみると、甲第5号証に記載された技術的事項においては、被保護者101の携帯電話102において「異常なし」と判定された場合に、所定の時間間隔で保護者103の携帯電話104に対して「異常なし通知メール」を送信するものであり、「異常なし」と判定をする際の一要素として、「充電が開始されたこと」は含まれている。しかしながら、「異常なし通知メール」は、被保護者101に異常がなかったことを保護者103に伝えるものであって、「充電が開始されたこと」を一義的に伝えるものではない。
また、甲第5号証に記載された技術的事項における「充電が開始されたこと」の通知は、携帯電話102内の充電制御部203から異常なし検出部204に通知されるものであって、被保護者101の保持する携帯電話102から、保護者103の保持する携帯電話104に通知されるものではない。
したがって、甲第5号証に記載された技術的事項における「異常なし通知メール」、「充電が開始されたこと」の通知、は、いずれも、特許発明1の、緊急通報システムの緊急通報受付処理部が可搬型通信端末から受け付ける「充電開始の通知」には相当しない。

してみると、甲第5号証には、特許発明1の「前記可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」は記載されていないから、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて、相違点1に係る特許発明1の構成を容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1に係る特許発明1の構成については、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明1は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(2)特許発明2について
特許発明2と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、以下の点で相違する。
(相違点4)特許発明2は「可搬型通信端末において監視する充電完了の検出による充電完了の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、甲第1号証に記載された発明にはそのような特定がない点。
(相違点5)各処理を行う処理部が、特許発明2では個別の処理部として記載されているのに対し、甲第1号証に記載された発明は「メイン制御部71」である点。
(相違点6)特許発明2は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するが、甲第1号証に記載された発明は「オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9」である点。

相違点4について検討すると、甲第1号証に記載された発明に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがない点については、「第5」の「2.特許発明2について」において検討したとおりである。

したがって、相違点4に係る特許発明2の構成については、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明2は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(3)特許発明4について
特許発明4は特許発明1又は2を減縮したものであり、相違点1に係る特許発明1の構成、及び、相違点4に係る特許発明2の構成は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の点について検討するまでもなく、特許発明4は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、甲第4、5号証に記載された技術的事項、及び、甲第3、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

2.甲第2号証を主引例とする特許法第29条第2項の異議申立理由について
(1)異議申立理由の概要
特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に、甲第4、5号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明2は、甲第2号証に記載された発明に、甲第4号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明4は、甲第2号証に記載された発明に、甲第4、5号証に記載されている周知の事項、及び、甲第3、5号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。

(2)特許発明1について
ア.甲第2号証について
甲第2号証には以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の緊急通報システムでは、病院や老人ホームなどの屋内に設置された監視区域において発生した緊急事態に対しては対処ができるが、外出した場合において発生した緊急事態には対処することが出来ないという問題点があった。
【0006】更に、病院などに入院などをせずに、外来患者として通院をしている、例えば、心臓病患者や老齢者などにおいては、外出中において発生した緊急事態を通報することができず、迅速な処置が行えないという問題点があった。
【0007】本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、外出中において、緊急事態を通報して、迅速な処置を行うことのできる緊急通報システムを提供することを目的とする。」

「【0019】図2は、図1中の携帯電話機の機能ブロック図である。携帯電話機2は、通常の携帯電話機としての機能に加えて、緊急事態が発生した時に、1次処置の携帯者へ指示、緊急事態の発生と携帯者の位置情報を緊急通報センタ22へ送信及び緊急通報センタ22からの指示を携帯者へ行う機能を有し、GPS受信アンテナ4、送受信用アンテナ6、赤色ランプ8、スピーカ10、表示・キー部12、緊急通報ボタン14、マイクロフォン16、RF部18、TDMA制御回路20、音声処理部22、GPS受信部24、測位処理部26、3秒保持回路28、主制御部30及びメッセージ蓄積部32を有する。」

「【0029】図3は、図1中の緊急通報センタの機能ブロック図である。緊急通報センタ60は、携帯電話機2から携帯者ID及び位置情報を受信して、携帯電話機2の携帯者に関する個人情報を表示などをして、携帯者へ対処内容の通知、DGPS基準局90からの補正情報を基に、携帯者の位置情報の位置補正をして正確な携帯者の位置を計算して、その位置が含まれる周辺の地図を表示して、病院130や消防署140などに携帯者のもとへ出動を要請などをするための電話連絡を取るものである。」

「【0035】個人情報データベース76は、携帯者に2次処理の指示をするために必要となる携帯者の個人情報を記憶するデータベースファイルであり、例えば、個人情報としては、カルテなどである。地図情報データベース78は、地図情報を記憶するデータベースファイルである。表示装置80は、個人情報や地図を表示するためのディスプレイである。」

「(a) 携帯電話機2の動作
図7は、携帯電話機処理フローを示す図である。
【0048】携帯者は、外出に際しては、携帯電話機2を携帯している。携帯者は、自身に急病などの緊急事態が発生した場合は、緊急通報ボタン14を押下げる。ステップS2において、3秒保持回路28は、緊急通報ボタン14が押下げられた状態が3秒以上経過すると、緊急状態検出信号をアクティブにする。
【0049】ステップS4において、主制御部30は、緊急通報検出信号がアクティブになると、赤色ランプ8を点滅する。これにより、携帯者の周囲の人にも携帯者に緊急事態が発生したことが分かり、1次処置が的確に行うことが可能となる。
【0050】ステップS6において、主制御部30は、予めメモリなどに記憶している緊急通報センタ60のダイヤル番号をTDMA制御回路20、RF部18及びアンテナ6を通して、基地局40に発信する。基地局40は、ダイヤル番号を受信すると、交換局50を通して、緊急通報センタ60に着信をする。」

「【0052】ステップS8において、主制御部30は、緊急通報センタ60から応答(オフフック)があったかを判断して、応答があると、ステップS10に進み、応答があるまで、ステップS8で待つ。」

「【0055】ステップS12において、主制御部30は、位置情報及びメモリに予め記憶しておいた携帯者ID(例えば、携帯電話番号)の緊急情報をTDMA制御回路20、RF部18及びアンテナ6を通して、基地局40に送信する。基地局40は、位置情報及び携帯者IDを受信すると、交換局50を通して、緊急通報センタ60に送信する。」

「【0061】(c) 緊急通報センタ60の動作
図8は、緊急通報センタ処理フローを示す図である。ステップS20において、緊急通報メッセージ受送信部61は、携帯電話機2から着信があったかを判別して、携帯電話機2から着信があれば、ステップS22に進む。
【0062】ステップS22において、緊急通報メッセージ受送信部61は、携帯電話機2に着信応答(オフフック)する。ステップS24において、緊急通報メッセージ受送信部61は、携帯者ID及び位置情報を受信して、携帯者IDをシステム制御コンピータ74に出力し、位置情報を測位プロセッサ66に出力する。
【0063】ステップS24において、測位プロセッサ66は、位置情報を受信する。ステップS26において、データリンク受信部68は、アナログ専用線などを通して、補正信号を受信して、データフォーマッタ70に出力する。
【0064】データフォーマッタ70は、データの正当性(CRCチェック、「緊急情報システム」の設定がなされている)をチェックして、正当であれば、フォーマッティングされた補正信号を取り出して、デファレンシャルデータプロセッサ72に出力する。
【0065】ステップS28において、デファレンシャルデータプロセッサ72は、補正信号から緯度、経度の補正量を算出して、測位プロセッサ66に出力する。測位プロセッサ66は、携帯電話機2の位置情報とデファレンシャルデータプロセッサ72からの補正量とから携帯電話機2の位置補正をして、補正した位置情報をシステム制御コンピュータ74に出力する。ここで補正された位置情報は、±10m程度の誤差範囲内となっている。
【0066】ステップS30において、システム制御コンピュータ74は、補正した位置情報から地図情報データベース78を検索して、位置情報を含む周辺の地図情報を表示装置80に出力する。
【0067】ステップS32において、システム制御コンピュータ74は、携帯者IDから個人情報データベース76を検索して、携帯者の個人情報を表示装置80に出力する。
【0068】診断者は、表示装置80に表示された個人情報及び地図情報を参照して、病院130や消防署140に救急車の出動を要請して、その状況や2次処置などを示す緊急メッセージを携帯者に通知するべくマイクロフォン62より入力する。
【0069】ステップS34において、緊急通報メッセージ受送信部61は、マイクロフォン62より入力された音声信号を受信して、交換局50及び基地局40を通して、携帯電話機2に緊急メッセージを送信する。」

以上の記載によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認める。
「携帯電話機2を用いた緊急通報システムであって、
前記緊急通報システムは、
前記携帯電話機2から着信があると、前記携帯電話機2に着信応答(オフフック)して、前記携帯電話機2から、位置情報と携帯者を特定する携帯者IDの緊急情報を受信して、前記携帯者IDをシステム制御コンピュータ74に出力し、前記位置情報を測位プロセッサ66に出力して、また、マイクロフォン62より入力された音声信号を受信して前記携帯電話機2に緊急メッセージを送信する緊急通報メッセージ受送信部61と、
携帯者の個人情報を記憶する個人情報データベース76と、
前記緊急通報メッセージ受送信部61から受信した前記位置情報を、デファレンシャルデータプロセッサ72から出力された補正量に基づいて補正して、前記補正した位置情報を、システム制御コンピュータ74に出力する測位プロセッサ66と、
前記測位プロセッサ66から受信した前記補正した位置情報から地図情報データベース78を検索して、前記補正した位置情報を含む周辺の地図情報を表示装置80に出力するとともに、前記緊急通報メッセージ受送信部61から受信した前記携帯者IDから前記個人情報データベース76を検索して、前記携帯者の個人情報を前記表示装置80に出力するシステム制御コンピュータ74と、
を有することを特徴とする緊急通報システム。」

イ.甲第4、5号証について
甲第4号証に記載された技術的事項については、「第4」の「2.甲第4号証について」に記載したとおりである。
甲第5号証に記載された技術的事項については、「第6」の「1.」の「(2)」の「イ.甲第5号証について」に記載したとおりである。

ウ.対比・判断
特許発明1と、甲第2号証に記載された発明とを対比すると、以下の点で相違する。
(相違点1)特許発明1は「可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、甲第2号証に記載された発明にはそのような特定がない点。
(相違点2)通報者の特定処理と、利用者情報の表示処理、通報者の位置情報の表示処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、一つの処理部(システム制御コンピュータ)が行っている点。
(相違点3)電話の発信・着信に関して、特許発明1の架電処理部は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる」ものであるが、甲第2号証に記載された発明は、「携帯電話機から着信があると、前記携帯電話機に緊急メッセージを送信する」ものである点。

相違点1について検討する。
甲第4号証には、「第4」の「2.甲第4号証について」に記載したとおり、「携帯電話端末から、心拍を連続的に監視するモニタの状態が変化する度に携帯電話端末に送信される通知と、前記携帯電話端末における状態変化から生じた通知を含む通知を、監視センタが受け取ることであって、前記通知には、「患者のモニタが正常に動作している」、「低バッテリ(モニタ)」、「低バッテリ(端末)」、「携帯電話の充電開始」、「携帯電話の充電完了」、「事情情報+ECGストリップが送信された」等の情報が含まれること。」という技術的事項が記載されている。

そこで、甲第2号証に記載された発明に、甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるかについて検討する。

甲第4号証に記載された技術的事項における携帯電話端末は、心拍を連続的に監視するモニタからの通知を常に待ち受けており、モニタから通知があると監視センタに通知するものであるから、この点において、通常の携帯電話端末と比べての電池の消費量が大きくなるものといえる。また、一般的に、心臓等に疾患のある患者や心臓手術を受けた患者の心臓は健常者の心臓よりも異常が発生しやすく、異常があった場合には緊急の措置が必要となり得るから、甲第4号証に記載された技術的事項においては、モニタや携帯電話端末が電池切れによって動作しなくなることを防止する必要がある。
以上のことに鑑みれば、甲第4号証に記載された技術的事項には、モニタや携帯電話端末の充電状態を監視する必要があるという課題があるといえる。
他方、甲第2号証に記載された発明における携帯電話機は、所有者が緊急通報ボタンを押下げた場合に、緊急通報センタに着信して緊急情報を送信するものであって、所有者の身体の状態を携帯電話機が常に監視して緊急通報センタに通知するようなものではないから、この点において、電池の消費量は通常の携帯電話端末の消費量と差がなく、甲第2号証に記載された発明において、携帯電話機の充電状態を緊急通報センタが監視しなければならない課題を見出せない。
そして、携帯電話機の充電状態を緊急通報センタが監視しなければならない課題を見出せない甲第2号証に記載された発明に、モニタや携帯電話端末の充電状態を監視する必要があるという課題がある甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

また、甲第2号証に記載された発明と、甲第4号証に記載された技術的事項は、所有者が携帯電話機(携帯電話端末)を操作することで、緊急通報センター(監視センタ)に緊急事態を通報できるシステム(緊急通報システム)という点で共通の技術分野に属し、同様の点で共通の機能(緊急通報機能)を有するものであるが、移動体端末からセンターへ充電状態を通知するという技術的事項は、緊急通報システムや緊急通報機能とは独立したものであって、緊急通報システムや緊急通報機能に必ずしも関連するものではないから、甲第2号証に記載された発明と、甲第4号証に記載された技術的事項が、緊急通報システムという点で共通の技術分野に属し、緊急通報機能という点で共通の機能を有していたとしても、それをもって、甲第2号証に記載された発明に、携帯電話端末の充電開始や終了を監視センタに通知するという甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、甲第4号証に記載された技術的事項において、携帯電話端末から監視センタに送る通知の中に「携帯電話の充電開始」が含まれていたとしても、相違点1に係る特許発明2の構成は、当業者が、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

また、甲第5号証については、「第6」の「1.」の「(2)」の「ウ.対比・判断」に記載したとおり、特許発明1の「前記可搬型通信端末において監視する充電開始の検出による充電開始の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」は記載されていない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明1は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(3)特許発明2について
特許発明2と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、以下の点で相違する。
(相違点4)特許発明2は「可搬型通信端末において監視する充電完了の検出による充電完了の通知を、前記可搬型通信端末から受け付ける充電通知受付処理部」を有するが、甲第2号証に記載された発明にはそのような特定がない点。
(相違点5)通報者の特定処理と、利用者情報の表示処理、通報者の位置情報の表示処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、一つの処理部(システム制御コンピュータ)が行っている点。
(相違点6)電話の発信・着信に関して、特許発明1の架電処理部は「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる」ものであるが、甲第2号証に記載された発明は、「携帯電話機から着信があると、前記携帯電話機に緊急メッセージを送信する」ものである点。

相違点4について検討すると、甲第2号証に記載された発明に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがない点については、「(2)特許発明1について」の(相違点1)において検討したとおりである。
したがって、甲第4号証に記載された技術的事項において、携帯電話端末から監視センタに送る通知の中に「携帯電話の充電完了」が含まれていたとしても、相違点4に係る特許発明2の構成は、当業者が、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明2は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(4)特許発明4について
特許発明4は特許発明1又は2を減縮したものであり、相違点1に係る特許発明1の構成、及び、相違点4に係る特許発明2の構成は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の点について検討するまでもなく、特許発明4は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明、甲第4、5号証に記載された技術的事項、及び、甲第3、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

3.甲第3号証を主引例とする第29条第2項の異議申立理由について
(1)異議申立理由の概要
特許発明1は、甲第3号証に記載された発明に、甲第1、2号証に記載されている周知の事項、及び、甲第4、5号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明2は、甲第3号証に記載された発明に、甲第1、2号証に記載されている周知の事項、甲第4号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。
特許発明4は、甲第3号証に記載された発明に、甲第1、2号証に記載されている周知の事項、甲第4、5号証に記載されている周知の事項、及び、甲第3、5号証に記載されている周知の事項を適用して、容易に想到し得るものである。

(2)特許発明1について
ア.甲第3号証について
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような位置情報通知システムの充電催促構造においては、定期的に残量を観測する場合については、端末器11と利用者が離れていると、利用者は報知を認知することが困難であり、利用者が認知するまで端末器11はLED31や音による報知を続け、電力を消費してしまうものであった。そして、そのまま報知を続けると、電池が放電し端末器11の内部回路が正常に動作する電圧を得られなくなるものであり、その後も電池が内部回路に接続され続けると、電池は過放電となり、電池の劣化を招いてしまうという問題があった。その上、端末器11は、図14の(b)および(d)に示すように、省エネルギー状態と電池が放電してしまい動かなくなっている状態との間に表示上の差がないために、利用者は端末器11は動作するものだとして携帯し、緊急時に動作させようとしても、結果として、動作せず、通報ができなくなってしまうという問題があった。
【0008】本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであって、その目的とするところは、端末器の電池の電力消費量を抑えることができるとともに、充電の催促を行うことができる位置情報通知システムの充電催促構造を提供することにある。」

「【0010】本発明の請求項2に係る位置情報通知システムの充電催促構造は、端末器と、センターで構成され、この端末器とセンターとを公衆無線回線、および公衆回線網を通じて、双方向にデータ伝送を行うシステムであり、同端末器は、少なくとも外部の充電器から端末器内部の電池を充電する充電部と、電源部と、GPS信号を受信するGPS受信部と、受信したGPS信号等から緯度、経度等の位置情報を演算する演算部と、端末器全体の制御をおこなう主制御部と、位置情報演算結果をセンターに公衆無線回線、公衆回線網を通じて、伝送する公衆無線回線インターフェイス部と、端末器の利用者がセンターへ演算結果等の通知を行うために利用するボタンとで構成され、ボタンを押下されるまでは省エネルギー状態、ボタンが押下されると通常動作状態となり、上記センターは、端末器より伝送された演算結果をもとに、端末器すなわち利用者の所在を判断し、緊急車両の派遣など、各種サービスを利用者に提供する位置情報通知システムにおいて、上記端末器は、充電する際、公衆無線回線、公衆回線網を通じてセンター通信する手段を備え、センターは、その通信した時間を保存する記憶手段と、計時手段と、その計時手段による充電してからの経過時間と所定の時間とを比較する手段と、経過時間が所定の時間を超過すると端末器の電池残量が少なくなったと判断し、端末器の利用者に対し、電話、FAX、電子メールのようななんらかのメディアで報知する手段を備えたことを特徴とする。」

「【0017】(実施形態1)図1から図5に本発明の請求項1、請求項4、および請求項5による実施形態1を示した(図1はシステム図、図2は端末器の構成、図3はセンターの構成、図4は充電器の構成、図5は充電催促の動作の流れを示している)。この位置情報通知システムは、端末器41、センター42、公衆無線回線43、公衆回線網44、GPS衛星45、充電器46からなっているものである。」

「【0023】(実施形態2)図6から図9に本発明の請求項2、請求項3、請求項4および請求項5による実施形態2を示した(図6はシステム図、図7は端末器の構成、図8はセンターの構成、図9は動作の流れを示している)。この位置情報通知システムは、端末器91、センター92、公衆無線回線93、公衆回線網94、GPS衛星95、充電器96からなっているものである。端末器91は、電源部101、GPS受信部102、測位演算部103、記憶部104、主制御部105、公衆無線回線インターフェイス部106、位置情報通知ボタン107、報知部108、電池109、および充電部1010からなっており、充電器96と接続され充電が終了すると、センター92に通信する機能を持つものである。センター92は、通信した時刻を記憶する記憶部111と、計時部112と、利用者の個人情報(身体情報、報知のメディア、報知先1、2など)が登録されたデータベース113と、そのデータベース113を基に充電催促手段を判断する主制御部114と、公衆回線インターフェイス115からなっているものである。
【0024】次に、動作について説明する。端末器91は、充電器96に接続されると充電を開始し、充電が完了すると主制御部105は、公衆無線回線インターフェイス部106を通して、公衆無線回線93、公衆回線網94を介し、センター92と通信し、充電の終了を伝えるものである。
【0025】センター92では、この通信時の時刻を記憶部111にて記憶し、充電が行われる毎に更新するものである。センター92で持つ計時部112の計時を用いて、主制御部114は最後に充電終了した時刻からの経過時間を算出し、その結果が所定のしきい値1を超えている場合、電池には充電が必要と判断し、データベース113から利用者に適した報知手段を、公衆回線インターフェイス115、公衆回線網94、公衆無線回線93を介して充電器96に伝送するものである。
【0026】充電器96は、実施形態1の場合に示した図4のごとく、公衆無線回線インターフェイス71を通じて受信し、主制御部72は受信したデータを基に、利用者に適した報知手段を報知部73にて報知するものである。
【0027】この報知後も充電されず、センター92で算出する経過時間が所定のしきい値2を超える場合は、図8に示すごとく、センター92の主制御部114は、データベース113で登録されている第2の報知先に報知する。これにより、端末器91の電力消費を抑え、かつ、利用者に適した充電催促の報知が可能となるものである。また、第2の報知先への報知は、利用者がなんらかのトラブルが生じたものとしての救援の補助となるものである。」

以上の記載によれば、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認める。
「端末器91を用いた位置情報通知システムであって、
前記端末器91は、
受信したGPS信号等から緯度、経度等の位置情報を演算する測位演算部103と、
位置情報の演算結果をセンター92に伝送する公衆無線回線インターフェイス部106と、
前記端末器91の利用者が前記センター92へ前記演算結果等の通知を行うために利用するボタンと、
充電器96と接続され充電が終了すると、前記センター92に通信する機能を有し、
前記センター92は、
利用者の個人情報(身体情報、報知のメディア、報知先1、2など)が登録されたデータベース113と、
前記充電の終了が通知された時刻を記憶する記憶部111と、
最後に充電終了した時刻からの経過時間を算出し、その結果が所定のしきい値1を超えている場合、電池には充電が必要と判断し、前記データベース113から前記利用者に適した報知手段を、公衆回線インターフェイス115を介して前記充電器96に伝送し、さらに、この報知後も充電されず、前記経過時間が所定のしきい値2を超える場合は、前記データベース113に登録されている第2の報知先に報知する主制御部114を有し、
前記端末器91から前記演算結果等を受信して、前記演算結果をもとに、前記端末器91すなわち利用者の所在を判断し、緊急車輌の派遣など、各種サービスを利用者に提供し、
前記端末器91の充電が完了したときに、前記端末器91から充電の終了という情報を受信する、
ことを特徴とする位置情報通知システム。」

なお、甲第3号証においては、段落【0017】、段落【0023】に記載のとおり、請求項1と請求項2に係る発明の実施の形態は区別されて記載されており、また、甲第3号証の明細書には請求項1と請求項2を組み合わせることについての記載や示唆もないから、甲第3号証において、請求項1に係る発明の実施の形態(端末器の電池残量が少ないと、センターにその旨を通知する実施の形態)と、請求項2に係る発明の実施の形態(端末器が充電を開始して終了した際に、センターにその旨を通知して、センターが充電終了からの経過時間が所定のしきい値をこえても端末器から通知がないと報知先に報知する形態)とは、それぞれ異なる実施の形態といえる。

イ.甲第1、2号証について
甲第1号証には、「第4」の「1.甲第1号証及び引用発明について」に記載した技術的事項が記載されている。
甲第2号証には、「第6」の「2.」の「(2)」の「ア.甲第2号証について」に記載した技術的事項が記載されている。

ウ.甲第4、5号証について
甲第4号証には、「第4」の「2.甲第4号証について」に記載した技術的事項が記載されている。
甲第5号証には、「第6」の「1.」の「(2)」の「イ.甲第5号証について」に記載した技術的事項が記載されている。

エ.対比・判断
甲第3号証における端末器91は、ボタンが押下されると、演算した位置情報(演算結果)等をセンター92に通知して、センター92は、受信した演算結果をもとに端末機の所在を判断して、緊急車輌の派遣などを行うものであり、「緊急車輌の派遣」という記載からみて、甲第3号証における、端末器91のボタンの押下による「通知」は、特許発明1の「緊急通報」に含まれる。

他方、甲第3号証における「充電終了の通知」は、端末器91の充電が終了したことを通知するものであり、特許発明1の、移動体通信端末器の所有書の非常事態を通報するための「緊急通報」とは異なるものである。

してみると、特許発明1と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、以下の点で相違する。

(相違点1)緊急通報システム(位置情報通知システム)が受け付ける情報が、特許発明1では「位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報」であるのに対して、甲第3号証に記載された発明では「位置情報(演算結果)等」を含む通知、と、「充電終了の通知」である点。
(相違点2)利用者情報記憶部(データベース)に基づいて特定する利用者の情報が、特許発明1では、「位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報」の「通報者」であるのに対して、甲第3号証に記載された発明では、最後に充電終了した時刻からの経過時間が所定のしきい値1を超えており、電池に充電が必要と判断された端末器の「利用者」である点。
(相違点3)特許発明1は、「前記特定した通報者の利用者に関する情報を前記利用者情報記憶部から抽出して表示させる担当者通知処理部」及び「前記受け付けた位置情報に基づいて、前記特定した通報者の位置情報を地図上で特定して表示させる位置特定処理部」を有するのに対して、甲第3号証に記載された発明では、そのような特定はない点。
(相違点4)特許発明1は、「前記特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するのに対して、甲第3号証に記載された発明では、そのような特定がない点。
(相違点5)緊急通報システム(位置情報通知システム)における各処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、甲3号証に記載された発明では、特定されていない点。
(相違点6)可搬型通信端末(端末器)から受信する情報が、特許発明1は「充電開始の通知」であるのに対して、甲第3号証に記載された発明は、「充電の終了」である点。

上記相違点について検討する。
事案に鑑みて相違点4について検討すると、甲第3号証の段落【0026】から【0027】によれば、甲第3号証に記載された発明は、充電終了からの経過時間が所定のしきい値1を超えると、適切な報知手段を充電器96に伝送して、充電器96が利用者に適した報知手段で報知し、その報知後も充電されずに充電終了からの経過時間が所定のしきい値2を超えた場合は、主制御部114が第2の報知先に報知することで、端末器91の電力消費を抑えることを可能とするものである。甲第3号証に記載された発明において、センター92から端末器91に架電するように構成すると、端末器91の電力消費を抑えることを可能とするという甲第3号証に記載された上記目的の達成を阻害することになるから、甲第3号証に記載された発明において、センターから端末器に架電するように構成するという技術的事項を適用することには阻害要因がある。

また、「第5」の「1.」において、相違点3として記載したとおり、甲第1号証に記載された技術的事項は「オペレータが前記移動体通信端末器1に通話するための電話機9」を有するものの、特許発明1の「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」は有していない。
甲第2号証に記載された技術的事項は、「携帯電話機から着信があると、前記携帯電話機に緊急メッセージを送信する」を有するものの、特許発明1の「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる」という構成は有していない。
したがって、甲第1、2号証に記載された技術的事項のいずれも、相違点4に係る本件特許発明1の「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」は有していない。

したがって、上記相違点4に係る特許発明1の構成については、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明1は、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された技術的事項、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(3)特許発明2について
特許発明2と、甲第3号証に記載された発明を対比すると、以下の点で相違する。

(相違点7)緊急通報システム(位置情報通知システム)が受け付ける情報が、「充電完了の通知」のほか、特許発明1では「位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報」であるのに対して、甲第3号証に記載された発明では「位置情報(演算結果)等」を含む通知である点。
(相違点8)利用者情報記憶部(データベース)に基づいて特定する利用者の情報が、特許発明1では、「位置情報と利用者識別情報とを含む緊急通報」の「通報者」であるのに対して、甲第3号証に記載された発明では、最後に充電終了した時刻からの経過時間が所定のしきい値1を超えており、電池に充電が必要と判断された端末器の「利用者」である点。
(相違点9)特許発明1は、「前記特定した通報者の利用者に関する情報を前記利用者情報記憶部から抽出して表示させる担当者通知処理部」及び「前記受け付けた位置情報に基づいて、前記特定した通報者の位置情報を地図上で特定して表示させる位置特定処理部」を有するのに対して、甲第3号証に記載された発明では、そのような特定はない点。
(相違点10)特許発明1は、「前記特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」を有するのに対して、甲第3号証に記載された発明では、そのような特定がない点。
(相違点11)緊急通報システム(位置情報通知システム)における各処理を行う処理部が、特許発明1では個別の処理部として記載されているのに対し、甲3号証に記載された発明では、特定されていない点。

事案に鑑みて相違点11について検討すると、「(1)特許発明1について」において検討したとおり、甲第3号証に記載された発明において、センター92から端末器91に架電するように構成することは、端末器91の電力消費を抑えることを可能とするという甲第3号証に記載された上記目的の達成を阻害することになるから、甲第3号証に記載された発明において、センターから端末器に架電するように構成するという技術的事項を適用することには阻害要因がある。
また、甲第1、2号証に記載された技術的事項のいずれも、本件特許発明2の「特定した通報者の前記可搬型通信端末に対して架電を行わせる架電処理部」は有していない。

したがって、相違点11に係る特許発明2の構成については、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第1、2号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、特許発明2は、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された技術的事項、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

(4)特許発明4について
特許発明4は特許発明1又は2を減縮したものであり、相違点4に係る特許発明1の構成、及び、相違点11に係る特許発明2の構成は、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第1、2号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものではない。

よって、特許発明4は、当業者であっても、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された技術的事項、及び、甲第4、5号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、2、4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっても特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっても、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-23 
出願番号 特願2012-257539(P2012-257539)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H04M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永田 義仁  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 大塚 良平
玉木 宏治
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6088223号(P6088223)
権利者 安全センター株式会社
発明の名称 緊急通報システム  
代理人 吉浦 洋一  
代理人 名越 秀夫  

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