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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1339211
異議申立番号 異議2017-701233  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-26 
確定日 2018-04-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6157148号発明「コンクリート組成物およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6157148号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6157148号は、平成25年2月28日に出願された特願2013-38108号の特許請求の範囲に記載された請求項1?4に係る発明について、平成29年6月16日に設定登録、同年7月5日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対し、同年12月26日付けの特許異議の申立てが「羽川照江」(以下、「申立人」という。)によりされたものである。

第2.本件発明の認定

本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
炭酸化処理したポルトランドセメントクリンカーである骨材と、膨張材とを含有するコンクリート組成物。
【請求項2】
骨材のCO_(2)含有量が2%以上である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
骨材が、5?40mmの粗骨材および/または5mm下の細骨材である請求項1または2に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
ポルトランドセメントクリンカーを粉砕して水に浸しながら炭酸化してなる骨材に膨張材を配合することを特徴とするコンクリート組成物の製造方法。

第3.申立理由の概要

申立人は、証拠として、下記の甲第1?11号証(以下、「甲1?11」という。)を提出し、甲1、甲2、甲4及び甲5、甲8及び甲9をそれぞれ主引用文献とすることで、本件発明1?4は、甲1?11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張している。

甲1 :特開2012-101962号公報
甲2 :特開昭49-126721号公報
甲3 :「宇部三菱セメント研究報告 No.5 2004」
株式会社宇部三菱セメント研究所、平成16年1月5日、56?64頁
甲4 :特開2012-56801号公報
甲5 :特開2012-56802号公報
甲6 :特開2001-158676号公報
甲7 :特開2009-57257号公報
甲8 :特開2001-97750号公報
甲9 :特開平5-2338791号公報
甲10:三浦尚著「土木材料学(改訂版)」株式会社コロナ社、
2012年2月20日、41?44頁
甲11:特開2002-121054号公報

第4.当審の判断

1.甲1を主引用文献とする場合

(1)甲1の【請求項1】には、
「最大粒径5mm以下で、45μm以下を2質量%以下、45μmを超え?1mmを10質量%以上含むクリンカーからなる自己治癒コンクリート用細骨材。」、
【請求項3】には、
「請求項1または2に記載の自己治癒コンクリート用細骨材を、150kg/m^(3)以上配合したことを特徴とする自己治癒コンクリート。」
【請求項4】には、
「さらに、膨張材を配合したことを特徴とする請求項3に記載の自己治癒コンクリート。」
が記載されており、これらの記載から、甲1には、
「クリンカーを細骨材とし、膨張材を配合した自己治癒コンクリート。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1のクリンカーが炭酸化処理されている点で相違する。
ここで、申立人は、クリンカーに遊離石灰が含まれることが甲2,3に記載され、当該遊離石灰を炭酸化処理により低減することが甲4,5に記載されていること、あるいは、骨材表面のポルトランドセメント層を炭酸化処理して緻密化することが甲8,9に記載されているから、甲1発明のクリンカーを炭酸化処理することは、当業者が容易になし得ると主張している。

(3)そこで検討するに、甲1の【0018】には、
「本発明で使用する膨張材とは、CaO原料、Al_(2)O_(3)原料、Fe_(2)O_(3)原料、SiO_(2)原料、およびCaSO_(4)原料を適宜混合して熱処理して得られるもので、遊離石灰-水硬性化合物-無水石膏を主体とするもので、エトリンガイト系、石灰系、エトリンガイト石灰複合系などが市販されている。」
と、甲1発明では、遊離石灰をむしろ膨張材として利用することが記載されているから、甲1発明のクリンカーに、甲4,5に記載されるような遊離石灰低減のための炭酸化処理をする必要性は見いだせない。
次に、甲8の【0013】には、
「本発明における炭酸化処理とは、セメント水和反応中の原料もしくはセメント水和物のアルカリ成分、特にカルシウム成分が二酸化炭素の反応を受けて炭酸化される処理をいう。」、
甲9の【0004】には、
「【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、セメント硬化体中のセメント水和物に多く存在する水酸化カルシウムは、炭酸ガスと接触することで炭酸カルシウムに変化し、その際約12%の体積膨張をともなうことによってセメント水和物中の細孔が充填され、細孔量が減少することによってセメント硬化体の強度が上がり、吸水率が低下するとの知見を得、本発明を完成した。」
と記載されており、甲8,9には、セメント(クリンカーと石膏の粉砕混合物)を水和硬化させた後に炭酸化処理することが記載されているにすぎず、クリンカーを炭酸化処理することについて記載も示唆もない。
したがって、上記主張は採用できない。

2.甲2を主引用文献とする場合

(1)甲2の特許請求の範囲には、
「コンクリート用細骨材および(または)粗骨材としてセメントクリンカを配合し、混練りし、養生してコンクリートを製造するにあたり、個々のセメントクリンカ粒の遊離石灰含有量が1.5%以下であるものを使用することを特徴とするセメントクリンカを骨材として用いて安定なコンクリートを製造する方法。」
が記載されているから、甲2には、
「遊離石灰含有量が1.5%以下であるセメントクリンカ粒を細骨材および(または)粗骨材とするコンクリート。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1のクリンカーが炭酸化処理されている点、さらに膨張材を含有する点でそれぞれ相違する。
ここで、申立人は、後者の相違点について、コンクリートの乾燥収縮防止のために膨張材を配合することは、甲10,11に記載されるように周知であるから、当業者が容易になし得ると主張している。

(3)そこで検討するに、甲2の5頁右上欄14?20行には、
「これらの試験結果は、クリンカの平均試料についての遊離石灰含有量が少なく、JISによる安定性が良であっても、遊離石灰を1.5%以上含むような不安定な粒が混入しているクリンカをコンクリートの骨材として用いた場合には、そのコンクリートは膨張による破損ないし破壊を起こす危険があることを示すものである。」
と、甲2発明のコンクリートが、クリンカ骨材中の遊離石灰含有量を限定することで膨張を防止していることが記載されているのだから、甲2発明に膨張材の配合が不要なことは明らかである。
したがって、上記主張は採用できない。

3.甲4及び甲5を主引用文献とする場合

(1)甲4の【0015】及び甲5の【0012】には、
「[排ガスによるクリンカ残存フリーライムの低減作用]
混合器6内のクリンカ粉は、排ガス供給手段100から供給された排ガスと接触する。その際、排ガスに含まれるCO_(2)、および大気中または排ガス中に含まれる水分によってクリンカに残存するフリーライムが炭酸化する。具体的には以下(1),(2)式により炭酸カルシウムが生成する。
CaO+H_(2)O→Ca(OH)_(2)・・・(1)
Ca(OH)_(2)+H_(2)O+CO_(2) → Ca(OH)_(2)+H^(+)+HCO_(3)^(-)
→ CaCO_(3)+2H_(2)O・・・(2)
これにより、クリンカ中の残存フリーライムが低減される。」
と記載されているから、甲4及び甲5には、いずれも
「CO_(2)および水分との接触によって残存フリーライムが低減されたクリンカ。」
の発明(以下、「甲4(甲5)発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲4(甲5)発明とを対比すると、本件発明1のクリンカーが骨材である点、さらに膨張材を含む点で相違する。
ここで、申立人は、甲4(甲5)発明のクリンカを骨材とすることは、甲1?3の記載から、コンクリートの乾燥収縮防止のために膨張材を配合することは、甲10,11の記載から、いずれも当業者が容易になし得たことであると主張している。

(3)そこで検討するに、甲4及び甲5の【0004】には、
「クリンカ中の残存フリーライムはセメント品質を低下させるため、クリンカに残存するフリーライム量の増大は好ましくない。」
と、甲4(甲5)発明のクリンカが、フリーライムを低減させる目的について、骨材にするためではなく、セメント(クリンカーと石膏の粉砕混合物)にするためであることが記載されている。さらに、フリーライム(遊離石灰)を低減させた甲4(甲5)発明に、甲1【0018】に記載されるような遊離石灰を主体とする膨張材を配合する必要性も見いだせない。
したがって、上記主張は採用できない。

4.甲8及び甲9を主引用文献とする場合

(1)甲8の【請求項1】には、
「石膏系廃材の表面が炭酸化処理されたセメント硬化体にて被覆されてなることを特徴とする廃石膏利用骨材。」、
甲9の【請求項3】には、
「コンクリート構造物を解体したときに発生する廃棄コンクリートまたは生コンクリート工場やコンクリート製品工場で発生するスラッジが破砕・ふるい分けされてセメント水和物を高割合で含む微粉部分が取り出され、この微粉部分に水、もしくは水とセメントとが添加されさらに加圧成形・硬化せしめられて硬化体とされ、該硬化体が粗砕されて硬化体粗砕物とされ、該粗砕物が炭酸ガスと接触せしめられて粗砕物中のセメント水和物が炭酸化されて得られることを特徴とするコンクリート用人工骨材。」
がそれぞれ記載されている。
してみると、甲8には、
「表面が炭酸化処理されたセメント硬化体にて被覆されてなることを特徴とする廃石膏利用骨材。」
の発明(以下、「甲8発明」という。)、
甲9には、
「廃棄コンクリートまたはスラッジの硬化体粗砕物を炭酸化して得られるコンクリート用人工骨材。」
の発明(以下、「甲9発明」という。)がそれぞれ記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲8発明又は甲9発明とを対比すると、本件発明1が、セメントクリンカー骨材である点、さらに膨張材を配合している点で相違する。
ここで、申立人は、前者の相違点について、甲8発明も、甲9発明も、表面はセメントクリンカーが炭酸化処理されたものであり、廃棄物の有効利用を図る必要がなければ、甲1,2に記載されるように、全体をセメントクリンカーとすることは容易であると主張している。

(3)そこで検討するに、甲8発明も甲9発明も、廃棄物の有効利用を図ることを目的とするものであり、しかも、「1.(3)」で述べたとおり、甲8発明の表面も甲9発明の表面も、セメント(クリンカーと石膏の粉砕混合物)を水和硬化させた後に炭酸化処理したものであって、セメントクリンカー自体を炭酸化処理したものではない。
したがって、上記主張は採用できない。

5.まとめ

以上、申立人の主張する各文献をそれぞれ主引用文献として検討したが、いずれの場合も、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたものといえない。なお、甲6には、炭酸ガス含有水溶液で軽量骨材を処理すること、甲7には、水中にてスラグを炭酸化処理することがそれぞれ記載されているが、これらの記載を考慮しても、上記判断に変更は要しない。
また、本件発明1に従属する本件発明2,3、及び、本件発明1の製造方法である本件発明4についても同様の判断をすることができる。

第5.むすび

以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-12 
出願番号 特願2013-38108(P2013-38108)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 大橋 賢一
山崎 直也
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6157148号(P6157148)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 コンクリート組成物およびその製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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