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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C12Q
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C12Q
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12Q
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12Q
管理番号 1339213
異議申立番号 異議2018-700065  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6169085号発明「抗ERBB3抗体に対する腫瘍応答の推定」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6169085号の請求項1ないし5、9ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6169085号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成24年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年10月6日 米国、2012年4月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月7日に特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?5、9?12に係る特許に対して、特許異議申立人 清水正憲により平成30年1月25日に特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6169085号の請求項1?5、9?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?5、9?12」といい、これらを併せて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5、9?12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(本件発明1)は、以下の通りである。

【請求項1】
NRG1遺伝子発現のみを、腫瘍が抗ERBB3抗体での処置に感受性であるかもしくは耐性であるかの可能性の指標とする方法であって、該方法は、
(a)該腫瘍に由来する組織サンプル中のNRG1遺伝子発現を測定し、それによって、NRG1スコアを決定する工程;および
(b)該NRG1スコアを、閾値決定分析によって規定される閾値スコアに対して比較する工程であって、ここで該閾値スコアに等しいかもしくはそれより高いNRG1スコアのみが、該腫瘍が抗ERBB3抗体での処置に対して応答性である可能性が高いことを示す、工程、
を包含する、方法。

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、(1)証拠として甲第1号証を提出し、請求項1、2、9?12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張し、(2)請求項1?5に係る発明に関して、当業者がその実施をすることができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第4項第1号および第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。

4.当審の判断
(1)新規性進歩性(特許法第29条第1項第3号・第2項)
ア 甲第1号証に係る「Cancer Res., 2010, Vol.70, No.6, pp.2485-2494」の記載事項
甲第1号証は、平成28年7月19日付け拒絶理由通知における引用文献1であって、特許異議申立人が特許異議申立書において指摘するように、以下の記載がある。
なお、英語で記載された甲第1号証の翻訳は特許異議申立人による。また、下線は当審による。

(甲1-1)「ErbB3は、上皮成長因子レセプター(EGFR;ErbB1)、ErbB2[ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)]、および[肝細胞増殖因子レセプター(MET)]依存の(addicted)癌におけるホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)シグナル伝達の重要なアクチベーターであり、ErbB3の再活性化は癌がErbBインヒビターに耐性になるための優れた方法である。本研究では、我々は、治療用抗ErbB3抗体であるMM-121のインビボでの有効性を評価した。我々は、MM-121が、EGFR、HER2、またはMETのいずれかによって誘導されたリガンド依存性のErbB3の活性化を有効に阻止することを見出した。幾つかの癌細胞株の評価は、ErbB3のリガンド依存性活性化を有する癌において最も有効にMM-121が基礎ErbB3リン酸化を低減することを明らかにした。これら癌では、MM-121処置は低減したErbB3リン酸化、幾つかの場合には低減したErbB3発現に導いた。」(第2485頁要約1?8行)

(甲1-2)「レセプターチロシンキナーゼのErbBファミリーには、上皮成長因子(EGF)レセプター(EGFR)、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)、およびErbB4(HER4)が含まれる。過去10年の間に、多くの上皮癌がその増殖と生存のためにEGFRまたはHER2シグナル伝達を必要とすることが明らかになってきた。EGFRを標的とする薬剤は、肺癌、直腸癌、頭部癌および頚部癌の治療に広く用いられるようになってきており、一方、HER2を標的とする薬剤は、HER2が増幅された乳癌の治療に一般に用いられている。 EGFRおよびHER2のインヒビターは、小分子のチロシンキナーゼインヒビター(TKI)や標的抗体の形で現れている。」(第2485頁左欄2行?右欄4行)

(甲1-3)「図3:MM-121はErbB3のリガンド依存性活性化の形跡のある腫瘍においてインビボ有効性を示す。・・・C.MM-121応答性および非応答性の異種移植片は、ErbBレセプターおよびリガンド(BTCおよびヘレグリン)発現値という単一の特徴に基づいて分類した。MM-121レスポンダー(赤色)および部分レスポンダー(緑色)は、非レスポンダー(青色)よりもErbB1、BTC、およびヘレグリン(HRG1-β1)のレベルが高かった。レセプターおよびリガンドの値の一覧は補助表S1にある。・・・」(第2489頁図3C)

(甲1-4)「MM-121へのインビボ応答性を予測するためのErbBバイオマーカーの評価:インビボでの応答細胞株vs非応答細胞株のより良い理解を得るため、我々は所定の細胞株から確立した非処理腫瘍でのレセプター発現レベルを定量した(補助表S1)。BTCおよびヘレグリンはともにErbB3リン酸化を活性化する強力なリガンドであるので、これら2つのリガンドも同様に評価した(15)。ErbB4発現は本質的に検出不能であったため、その後の分析から除外した。異なる腫瘍タイプにおいて定量化したすべてのリガンドおよびレセプターから、ヘレグリン発現レベルは、応答細胞株を非応答細胞株から分離する最良の単一の特徴であるようだが(図3C)、明確な分離は単一の特徴の評価によっては得られなかった。」(第2490頁左欄12行?右欄2行)

(甲1-5)「これらバイオマーカーは、この抗体に対する応答性の背後にある生物学を理解するのに有用ではあるが、それらがこの抗体の臨床開発においてどのように適用され得るのかを予測することは困難であり、見込まれるバイオマーカー-応答の関係性を解明するためにさらなる研究が行われる必要がある。実際、応答を予測することは、ヘレグリンをおそらく含むバイオマーカーのパネルを必要とし得る。」(第2493頁左欄下から16行?下から9行)

イ 甲第1号証に記載された発明
上記(甲1-1)および(甲1-3)の記載から、甲第1証には、「腫瘍治療用抗ErbB3抗体であるMM-121のインビボでの有効性の指標として、ヘレグリン(HRG1-β1)の発現レベルを測定する方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

ウ 本件発明1と甲1発明の対比
本件明細書の段落【0039】に記載されているように、本件発明1の「NRG1」は、引用発明の「ヘレグリン」に相当する。
また、引用発明は、「インビボでの有効性を評価した」(甲1-1)ことから、「腫瘍に由来する組織サンプル」中のヘレグリン(HRG1-β1)の発現レベルを測定したことは明らかである。
そこで、本件発明1と甲1発明を対比すると、以下の一致点および相違点がある。

(一致点)
「NRG1遺伝子発現を、腫瘍が抗ERBB3抗体での処置に感受性であるかもしくは耐性であるかの可能性の指標とする方法であって、該方法は、
(a)該腫瘍に由来する組織サンプル中のNRG1遺伝子発現を測定し、それによって、NRG1スコアを決定する工程を包含する方法。」

(相違点)
本件発明1において、「(b)該NRG1スコアを、閾値決定分析によって規定される閾値スコアに対して比較する工程であって、ここで該閾値スコアに等しいかもしくはそれより高いNRG1スコアのみが、該腫瘍が抗ERBB3抗体での処置に対して応答性である可能性が高いことを示す、工程」が特定されているのに対して、甲1発明にはこのような特定がないこと

エ 相違点に対する異議申立人の主張
これに対して、異議申立人は、特許異議申立書において、
「マーカー遺伝子の発現量を用いて治療有効性の有無を評価するにあたり、閾値を設定してそれに対する大小を評価基準とすることは当業者の常套手段であり、同号証に接した当業者が当然に認識することである。」および
「本件特許の方法においては、100%に近い応答率である必要はなく、50%を超える応答の可能性であればよいのである。この観点からすると、甲第1号証には、『NRG1遺伝子発現のみ』との限定も含めて請求項1の構成が記載されている。」と主張している。

オ 相違点に対する判断
(新規性)
確かに、相違点に係る「該腫瘍が抗ERBB3抗体での処置に対して応答性である可能性が高いことを示す」という記載は、異議申立人が主張するように、「100%に近い応答率である必要はなく、50%を超える応答の可能性であればよい」と解釈できる。
しかしながら、甲第1号証には、「ヘレグリン発現レベルは、応答細胞株を非応答細胞株から分離する最良の単一の特徴であるようだが(図3C)、明確な分離は単一の特徴の評価によっては得られなかった。」(甲1-4)および「応答を予測することは、ヘレグリンをおそらく含むバイオマーカーのパネルを必要とし得る。」(甲1-5)と記載されているように、相違点に係る「NRG1スコアのみ」を用いて応答の可能性を推定することは、甲第1号証には記載がなく示唆もされていない。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載されていないので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当する、とすることはできない。

(進歩性)
また、甲第1号証には、「ヘレグリン発現レベルは、応答細胞株を非応答細胞株から分離する最良の単一の特徴であるようだが(図3C)、明確な分離は単一の特徴の評価によっては得られなかった。」(甲1-4)および「応答を予測することは、ヘレグリンをおそらく含むバイオマーカーのパネルを必要とし得る。」(甲1-5)と記載されているように、甲第1号証において、「ヘレグリン発現レベル」すなわち「NRG1スコアのみ」を単独で用いて、応答の可能性を推定することは想定されておらず、甲第1号証を読んだ当業者において「NRG1スコアのみ」を単独で用いる動機付けは存在しない。
一方、甲第1号証に記載された否定的な示唆に反して、本件明細書の実施例1?7においては、「NRG1スコアのみ」を単独で用いることにより、各種の腫瘍細胞に対する抗ERBB3抗体での処置の応答性が「統計的有意性」をもって確認されており、本件発明1の奏する効果は、甲第1号証の記載からは当業者が予期できない顕著なものである。
してみると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に反する、とすることはできない。

(従属請求項)
本件発明2、9?12は、請求項1を直接または間接的に引用しているので、本件発明1が新規性進歩性を有すると判断される以上、同様に新規性進歩性を有すると判断される。

(2)実施可能要件・サポート要件(特許法第36条第4項第1号・第6項第1号)
ア 異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、
「本件請求項1?5の「抗ERBB3抗体」として実施例に具体的に記載されているのは、「AV-203」(実施例1?6)と「11GO1」(実施例7)の2つの抗体のみである。しかも、「11GO1」については実施例7で試験されてはいるものの、高NRG1レベルを発現する腫瘍モデルでのみ試験されており、低NRG1レベルを発現する腫瘍モデルについては実施されていない。従って、「11GO1」については実質的に予測値としてのNRG1遺伝子発現は確立されていないので、本件請求項1?5の「抗ERBB3抗体」として実施例に具体的に記載され、その効果が実証されているのは、「AV-203」のみである。」と主張している。

実施可能要件・サポート要件に対する判断
本件明細書の段落【0046】によると、「抗ERBB3抗体」には、(1)NRG1のERBB3への結合を阻害するかもしくは妨げるもの(例えば、抗ERBB3抗体AV-203、04D01、12A07、18H02および22A02)および(2)ERBB3へのNRG1の結合を妨げることなしに、ERBB3ダイマー化を阻害するかもしくは妨げるもの(例えば、抗ERBB3抗体09D03および11G01)に分類されることが記載されている。
そして、段落【0048】?【0054】には、段落【0046】において例示された各種の「抗ERBB3抗体」の化学構造であるアミノ酸配列が開示されている。
また、実施例1?6においては、(1)NRG1のERBB3への結合を阻害するかもしくは妨げる「抗ERBB3抗体」を代表した「AV-203」抗体を用いて、各種「腫瘍」における本件発明の効果が「統計的有意性」をもって確認されており、実施例7においては、(2)ERBB3へのNRG1の結合を妨げることなしに、ERBB3ダイマー化を阻害するかもしくは妨げる「抗ERBB3抗体」を代表した「11GO1」抗体を用いて、各種「腫瘍」における本件発明の効果が確認されている。
してみれば、本件発明1?5に関して、当業者がその実施をすることができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第4項第1号および第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5、9?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5、9?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-03 
出願番号 特願2014-534749(P2014-534749)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (C12Q)
P 1 652・ 121- Y (C12Q)
P 1 652・ 536- Y (C12Q)
P 1 652・ 537- Y (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星 浩臣  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 田村 明照
長井 啓子
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6169085号(P6169085)
権利者 アベオ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
発明の名称 抗ERBB3抗体に対する腫瘍応答の推定  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 石川 大輔  
代理人 森下 夏樹  

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