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審決分類 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C
管理番号 1339365
審判番号 訂正2017-390129  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-11-24 
確定日 2018-03-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5050587号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5050587号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5050587号は、平成19年3月15日に出願され、その請求項1?3に係る発明は、平成24年8月3日に特許権の設定登録がされたものであって、平成29年11月24日に本件訂正審判請求がされ、その後、同年12月28日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年2月5日付け手続補正書による訂正審判の審判請求書の補正、及びその適否
1 訂正審判の審判請求書の補正
平成30年2月5日付け手続補正書の補正の内容のうち、訂正の要旨に関する補正は、以下のとおりである。

(1)補正事項1
平成29年11月24日付け審判請求書の訂正事項1の「(請求項2を直接的に引用する請求項3についても同様に訂正する)」との記載を削除する。

(2)補正事項2
訂正事項4として、「特許請求の範囲の請求項3を削除する。」を追加する。

(3)補正事項3
訂正事項5として、「明細書の段落【0013】の『さらに、本発明に係る請求項3の車輪支持用転がり軸受装置は、請求項1又は請求項2に記載の車輪支持用転がり軸受装置において、前記ハブホイール及び前記外輪は焼入れが施されていない非焼入れ部を有しており、前記非焼入れ部の硬さは、前記冷間鍛造での加工硬化によりHv200以上350以下とされていることを特徴とする。非焼入れ部の硬さがHv200未満であると、ハブホイールや外輪の疲労強度が不十分となるおそれがある。一方、Hv350超過であると、衝撃的な荷重が負荷された場合に破損するおそれがある。』との記載を削除する。」を追加する。

(4)補正事項4
訂正事項6として、「明細書の段落【0032】の『実施例3』を『参考例3』に訂正する。」を追加する(下線は特許権者が付与。以下同様。)。

2 補正の適否
平成29年11月24日付け訂正審判の審判請求書に記載の訂正事項1では、特許請求の範囲の請求項2を訂正するとともに、請求項2を直接的に引用する請求項3についても同様に訂正することを請求していた。
そこで、補正事項2は、訂正事項1の一部である請求項3の訂正について、当該請求項3の削除という事項を、訂正事項4として追加するものであり、また、補正事項1は、補正事項2による請求項3の削除にともなって、訂正事項1の記載を修正するものであり、更に、補正事項3及び4は、この請求項3の削除に整合させるために、明細書についての訂正事項を追加するものである。
ところで、特許法第131条の2の趣旨は、審理対象の拡張変更による審理遅延を防止することと解されるところ、上記補正事項1?4による補正は、審理の対象としての請求項3がなくなることにすぎず、審理遅延を生じさせるものではない。
したがって、当該補正は、請求書の要旨を変更するものとはせず、当該補正を認める。

第3 請求の要旨
本件訂正審判の請求の要旨は、審判請求書の請求の趣旨に記載されるとおり、特許第5050587号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その内容は次のとおりである(以下、「本件訂正」という。)。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2の「球状化セメンタイトの最大粒径が1μm以上7μm以下」との記載を、「球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μm」に訂正する。

2 訂正事項2
明細書の段落【0009】の「球状化セメンタイトの最大粒径が1μm以上7μm以下」との記載を、「球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μm」に訂正する。

3 訂正事項3
明細書の段落【0027】の表1の「実施例2?4」を、「参考例2?4」に訂正する。

4 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

5 訂正事項5
明細書の段落【0013】の「さらに、本発明に係る請求項3の車輪支持用転がり軸受装置は、請求項1又は請求項2に記載の車輪支持用転がり軸受装置において、前記ハブホイール及び前記外輪は焼入れが施されていない非焼入れ部を有しており、前記非焼入れ部の硬さは、前記冷間鍛造での加工硬化によりHv200以上350以下とされていることを特徴とする。非焼入れ部の硬さがHv200未満であると、ハブホイールや外輪の疲労強度が不十分となるおそれがある。一方、Hv350超過であると、衝撃的な荷重が負荷された場合に破損するおそれがある。」との記載を削除する。

6 訂正事項6
明細書の段落【0032】の「実施例3」を「参考例3」に訂正する。

第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、「球状化セメンタイトの最大粒径」の数値範囲について、「1μm以上7μm以下」と記載されているのを、「1.1μm」に狭めるものであるから、当該訂正事項は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の段落【0027】の表1には、実施例1として、球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μmの場合の割れ発生率が0%であり、良好であったことが示されているから、訂正事項1の「球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μm」との事項は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
前記「(1)」のとおり、訂正事項1は、「球状化セメンタイトの最大粒径」の数値範囲について、より狭くするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、前記「(1)」のとおり、「球状化セメンタイトの最大粒径」の数値範囲について、より狭くするものであるから、当該請求項に係る発明について特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、訂正事項1により当該請求項に係る発明が特許法第36条第4項第1項又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
そして、訂正後の請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項3を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
なお、訂正事項4は、請求項を削除する訂正であるから、特許法第126条第7項に規定する独立特許要件についての判断を要しない。

3 訂正事項2、3、5及び6について
(1)訂正の目的について
訂正事項2、3、5及び6は、上記訂正事項1及び4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である、
したがって、当該訂正事項は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
前記「1(2)」と同様の理由により、訂正事項2、3、5及び6は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項2、3、5及び6は、特許請求の範囲の記載との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2及び3は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4 当審が通知した訂正拒絶理由について
当審では、平成30年2月5日付けの手続補正書による補正の、その補正前の訂正請求のうち、訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正に伴って生じる発明の詳細な説明中の明瞭でない記載以外の事項を含むものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえず、また、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることの、いずれかを目的とするものともいえないから、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれにも該当しないと認められるので、訂正事項3を含む本件訂正は不適法なものであり、これを認めることはできない旨を、平成29年12月28日付けで通知した。
しかし、前記「第2」に記載したように、平成30年2月5日付けの手続補正書の補正事項1?4によって、訂正事項3は、訂正事項4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正となり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものとなった。
その結果、この訂正拒絶理由は解消した。

第5 まとめ
以上のとおり、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車輪支持用転がり軸受装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪支持用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪支持用転がり軸受装置は、一般には以下のような構成である。すなわち、車輪が取り付けられ一体に回転するハブホイールと、このハブホイールの外方に配されハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、ハブホイールが転動体の転動を介して外輪に回転自在に支持された構成である。そして、ハブホイールの外周面には、車輪を取り付けるためのフランジが設けられ、外輪の外周面には、懸架装置を取り付けるためのフランジが設けられている。
【0003】
このような従来の車輪支持用転がり軸受装置においては、ハブホイールや外輪が、高炭素鋼材(例えばS50?S55Cに相当する鋼材やSAE1070)を熱間鍛造した後に所定の形状に切削加工することにより形成されているため、ハブホイールや外輪の製造に多くの手間と時間を要するという難点があった。そこで、炭素鋼板を所定の形状にプレス成形することによってハブホイールや外輪を製造した車輪支持用転がり軸受装置が提案されている(特許文献1?5を参照)。
【特許文献1】特開2003-25803号公報
【特許文献2】特許第3352226号公報
【特許文献3】特開平9-151950号公報
【特許文献4】特開平7-317777号公報
【特許文献5】特開2006-64036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素鋼板をプレス成形することによってハブホイールや外輪を製造する場合には、鋼板に絞り加工を施すことによりシャフト(軸)を形成する必要があるため、小径のシャフトを製造する場合には強い絞り加工が必要であった。よって、ハブホイールや外輪を製造する方法としてより良好な方法が望まれていた。
また、プレス成形のような塑性加工においては、焼鈍しの後の硬さが低いほど加工性が良好になるが、ハブホイールのような複雑な形状を有する部材を塑性加工により製造する場合には、素材の硬さだけでなく炭化物組織の状態,大きさ,分布が関係するため、炭化物組織を制御した素材を用いる必要がある。
【0005】
一方、近年における自動車の燃費向上及び走行性能向上の要求に伴って、車輪支持用転がり軸受装置のフランジの薄肉化が検討されている。しかしながら、フランジを薄肉化するということはフランジに加わる応力が大きくなるということを意味するので、フランジの強度が不十分となって不具合が生じやすくなることが懸念される。
例えば、ハブホイールの外周面に設けられたフランジには、車軸と車輪との間に加わるラジアル荷重が伝わるため、フランジの強度が不十分である場合には、長期間にわたる使用に伴って、フランジの根元部に亀裂等の損傷が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決するものであり、優れた疲労強度を有していて大きな荷重が負荷されても変形や損傷が生じにくく、且つ、加工性に優れるため製造時に損傷が生じにくい車輪支持用転がり軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、車輪支持用転がり軸受装置のハブホイール及び外輪の少なくとも一方を塑性加工で製造する場合において、素材の硬さと成形性との関係だけでなく前組織と成形性との関係について鋭意研究を行い、良好な成形性が得られる素材の組織状態に関する知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。本発明に係る請求項1の車輪支持用転がり軸受装置は、車輪が取り付けられ一体に回転するハブホイールと、前記ハブホイールの外方に配され前記ハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記ハブホイールが前記転動体の転動を介して前記外輪に回転自在に支持された車輪支持用転がり軸受装置において、前記ハブホイール及び前記外輪の少なくとも一方は、0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有する鋼からなり且つ軟化焼鈍しが施されてフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有する円柱状素材を、冷間鍛造で成形して得られたものであるとともに、前記ハブホイールは、軌道面に高周波焼入れが施されており且つ側方押出しにより形成されたフランジを有することを特徴とする。
【0008】
このような円柱状素材は、フェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有していて塑性加工性に優れているため、冷間鍛造で成形してハブホイールや外輪とする際に割れ等の損傷が生じにくい。また、ハブホイールや外輪が優れた疲労強度を有しているため、大きな荷重が負荷されても変形や損傷が生じにくい。
炭素は鋼に強度及び焼入れ性を付与するために必要な元素であり、車輪支持用転がり軸受装置に必要な性能を付与するためには、鋼中の含有量を0.45質量%以上とする必要がある。ただし、含有量が0.75質量%を超えると、鋼の加工性が低下して生産性が悪化するおそれがある。
【0009】
また、本発明に係る請求項2の車輪支持用転がり軸受装置は、請求項1に記載の車輪支持用転がり軸受装置において、前記円柱状素材は、前記軟化焼鈍しによって、球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μmとされているとともに、硬さがHv180以下とされていることを特徴とする。
このような円柱状素材は塑性加工性がより優れているため、冷間鍛造で成形してハブホイールや外輪とする際に割れ等の損傷がより生じにくく、ハブホイールや外輪の製造が容易である。
【0010】
円柱状素材を冷間鍛造で成形する前に軟化焼鈍しを施すことにより、硬さが低下して塑性加工性の向上が図られるとともに、加工時の損傷が抑制される。十分な塑性加工性が得るためには、軟化焼鈍しが施された円柱状素材の硬さはHv180以下であることが好ましいが、硬さがより低い方が塑性加工性が高まるので、硬さはHv170以下であることがより好ましい。
【0011】
また、鋼中の炭化物の大きさによっても塑性加工性が変化する。すなわち、軟化焼鈍しを施した際に炭化物の粒径が大きくなるほど、基地組織であるフェライト中の炭素濃度が低下して、塑性加工性が向上する。したがって、球状化セメンタイトの粒径が大きいほど、塑性加工性が向上する。球状化セメンタイトの最大粒径が1μm未満であると、塑性加工性が不十分となり、円柱状素材を冷間鍛造で成形する際に割れ等の損傷が生じるおそれがある。
【0012】
ただし、球状化セメンタイトの粒径が大き過ぎると、冷間鍛造で成形する際に球状化セメンタイト自身において損傷が発生したり、粗大なセメンタイトとフェライトとの界面が歪みの集中源となってボイドが形成され破断が発生したりしやすくなる。さらに、成形後には、転動体が転動する軌道面に高周波焼入れが施されて硬化層が形成されるが、球状化セメンタイトの粒径が大き過ぎると、高周波焼入れのような短時間の加熱ではセメンタイトが基地組織に溶け込みにくくなり、十分な硬さが得られないおそれがある。このような理由から、球状化セメンタイトの最大粒径は7μm以下であることが好ましい。
【0013】(削除)
【発明の効果】
【0014】
本発明の車輪支持用転がり軸受装置は、優れた疲労強度を有していて大きな荷重が負荷されても変形や損傷が生じにくい。また、加工性に優れるため、製造時に損傷が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る車輪支持用転がり軸受装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る車輪支持用転がり軸受装置の一実施形態の構造を示す断面図である。なお、本実施形態においては、車輪支持用転がり軸受装置を自動車等の車両に取り付けた状態において、車両の幅方向外側を向いた部分を外端側部分と称し、幅方向中央側を向いた部分を内端側部分と称する。すなわち、図1においては、左側が外端側となり、右側が内端側となる。
【0016】
図1の車輪支持用転がり軸受装置1は、ハブ輪2と、ハブ輪2に一体的に固定された内輪3と、ハブ輪2の外方に同軸に配された略円筒状の外輪4と、二列の転動体5,5と、転動体5を保持する保持器6,6と、を備えている。また、外輪4の内端側部分の内周面と内輪3の内端側部分の外周面との間、並びに、外輪4の外端側部分の内周面とハブ輪2の中間部の外周面との間には、それぞれシール装置7a,7bが設けられている。
【0017】
さらに、外輪4の内方に配されたハブ輪2のうち外輪4から突出している外端側部分の外周面には、図示しない車輪を支持するための車輪取り付け用フランジ10が設けられている。そして、外輪4の外周面には、車輪取り付け用フランジ10から離間する側の端部に、懸架装置取り付け用フランジ13が設けられている。
ハブ輪2の内端側部分には外径の小さい円筒部11が形成されており、該円筒部11に内輪3が圧入され、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されている。なお、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが、本発明の構成要件であるハブホイールに相当し、外輪4が本発明の構成要件である外輪に相当する。
【0018】
ハブ輪2の外周面の軸方向中間部及び内輪3の外周面には、それぞれ軌道面が形成されており、ハブ輪2の軌道面は第一内側軌道面20a、内輪3の軌道面は第二内側軌道面20bとされている。また、外輪4の内周面には、前記両内側軌道面20a,20bに対向する軌道面が形成されており、第一内側軌道面20aに対向する軌道面は第一外側軌道面21a、第二内側軌道面20bに対向する軌道面は第二外側軌道面21bとされている。さらに、第一内側軌道面20aと第一外側軌道面21aとの間、及び、第二内側軌道面20bと第二外側軌道面21bとの間には、それぞれ複数の転動体5が転動自在に配置されている。なお、図示の例では、転動体として玉を使用しているが、車輪支持用転がり軸受装置1の用途等に応じて、ころを使用してもよい。
【0019】
また、ハブ輪2の外周面と外輪4の内周面とには、高周波焼入れによる硬化層22が形成されている。これにより、第一内側軌道面20a,第一外側軌道面21a,及び第二外側軌道面21bには、高周波焼入れによる硬化層22が形成されている。ハブ輪2及び外輪4のうち硬化層22以外の部分には焼入れは施されていない(以降は、このような部分を非焼入れ部と記す)。そして、内輪3には、例えば浸炭処理又は浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施され、第二内側軌道面20bには浸炭処理又は浸炭窒化処理による硬化層(図示せず)が形成されている。
【0020】
このような車輪支持用転がり軸受装置1を自動車に組み付けるには、懸架装置取り付け用フランジ13を懸架装置に固定し、車輪を車輪取り付け用フランジ10に固定する。その結果、車輪支持用転がり軸受装置1によって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。すなわち、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたハブホイールが、車輪と一体に回転する回転輪となり、外輪4が、転動体5の転動を介してハブホイールを回転自在に支持する固定輪(非回転輪)となる。
【0021】
この車輪支持用転がり軸受装置1においては、ハブ輪2,内輪3,及び外輪4は、炭素の含有量が0.45質量%以上0.75質量%以下である鋼で構成されている。そして、ハブ輪2,内輪3,及び外輪4は、上記のような鋼からなる円柱状素材(ビレット)に軟化焼鈍しを施した後に冷間鍛造を施すことにより成形されたものである。
この円柱状素材は、軟化焼鈍しによって硬さがHv180以下とされていることが好ましい。また、円柱状素材はフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有しているが(図2の組織図を参照)、球状化セメンタイトの最大粒径は軟化焼鈍しによって1μm以上7μm以下とされていることが好ましい。
【0022】
さらに、この円柱状素材に冷間鍛造を施すことにより成形されたハブ輪2,内輪3,及び外輪4は、前述の非焼入れ部を有しているが、この非焼入れ部のビッカース硬さHvは、冷間鍛造での加工硬化により200以上350以下とされていることが好ましい。
このような車輪支持用転がり軸受装置1は、ハブ輪2,内輪3,及び外輪4が優れた疲労強度を有しているので、大きな荷重が負荷されても変形や損傷が生じにくい。また、円柱状素材がフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有していて塑性加工性に優れているため、冷間鍛造で成形してハブ輪2,内輪3,及び外輪4とする際に割れ等の損傷が生じにくい。
【0023】
以下に、ハブ輪2の製造方法の一例を説明する。まず、炭素の含有量が0.45質量%以上0.75質量%以下である鋼で構成された円柱状素材に、軟化焼鈍しを施す。焼鈍し条件の一例を示す。円柱状素材をA1変態点以上の740?860℃で0.1h以上保持した後に、20?70℃/hの冷却速度で680?720℃へ冷却し、1?5h保持する。続いて、10?100℃/hの冷却速度で620?680℃へ冷却し、さらに、10?150℃/hの冷却速度で500?560℃へ冷却する。このような軟化焼鈍しにより、鋼はフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有する組織となる。
【0024】
次に、軟化焼鈍しを施した円柱状素材に冷間鍛造を施し、前方押出しを2段階行う。さらに、冷間鍛造を施して段付けを行った後に、側方押出しを行いフランジを形成する(図3を参照)。
得られたハブ輪2の軌道面を含む外周面に高周波焼入れ及び焼戻しを施して、硬化層22を形成した後、研削仕上げや超仕上げを施して、ハブ輪2を完成した。
内輪3及び外輪4もハブ輪2と同様に製造して、これらを組み立てれば、車輪支持用転がり軸受装置1が得られる。
【0025】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、円柱状素材に冷間鍛造を施した際の割れ発生率と、円柱状素材を構成する鋼が含有する球状化セメンタイトの最大粒径との関係を調査した。
JIS S55Cに相当する鋼(炭素の含有量は0.55質量%)で構成された直径60mmの円柱状素材に、軟化焼鈍しを施して、フェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有する組織とした。その際には、軟化焼鈍しの条件を後述のように種々変更することにより、球状化セメンタイトの最大粒径及び硬さが異なるものを製造した(表1を参照)。
【0026】
このような円柱状素材に図3に示したような冷間鍛造を施して、フランジを有するハブ輪を製造し、フランジの外周部にマイクロクラックが発生しているか否かを顕微鏡にて確認した。球状化セメンタイトの最大粒径が同一の円柱状素材をそれぞれ100個用意して冷間鍛造を施し、マイクロクラックの発生率(割れ発生率)を算出した。
【0027】
【表1】

【0028】
軟化焼鈍しの条件は、以下の通りである。
条件1:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して1h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
条件2:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して2h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
【0029】
条件3:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して3h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
条件4:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して5h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
【0030】
条件5:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して0.5h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
条件6:780℃で0.5h保持した後に、20℃/hの冷却速度で700℃まで冷却して0.25h保持した。続いて、50℃/hの冷却速度で650℃まで冷却し、さらに70℃/hの冷却速度で520℃まで冷却した。
【0031】
また、球状化セメンタイトの最大粒径の測定方法は、以下の通りである。軟化焼鈍しを施した円柱状素材を破断し、その断面を研磨した後にナイタール腐食液でエッチングした。エッチングした断面を光学顕微鏡で倍率1000倍に拡大し、5箇所について写真を撮り、球状化セメンタイトの粒径を測定した。なお、様々な形状のセメンタイトのうち、アスペクト比(長径/短径)が2.0以下のものを球状化セメンタイトと定義した。
試験結果を表1及び図4のグラフに示す。この結果から分かるように、球状化セメンタイトの最大粒径が1μm以上であると、冷間鍛造によるマイクロクラックの発生はなかった。
【0032】
次に、下記のようにしてハブ輪の非焼入れ部の硬さと疲労寿命との関係を調査した。上記の参考例3のハブ輪を用いて、前述の車輪支持用転がり軸受装置1とほぼ同様の構成の車輪支持用転がり軸受装置を製造した。このとき、ハブ輪のフランジに種々の強さのしごきを加えることにより加工度を変え、非焼入れ部の硬さが種々異なるハブ輪を備えた車輪支持用転がり軸受装置を用意した。
【0033】
車輪支持用転がり軸受装置の外輪を治具で固定し、ラジアル荷重4000N及びアキシアル荷重3500Nを負荷した状態で、ハブ輪を回転速度300min^(-1)で回転させた。そして、ハブ輪の外周面に形成されたフランジの根元部の外端側に、破損が発生したら回転を終了し、破損が発生するまでの回転数を疲労寿命とした。
結果を図5のグラフに示す。非焼入れ部の硬さがHv200以上であると、疲労寿命が合格ラインである1.0×10^(7)回に達していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る車輪支持用転がり軸受装置の一実施形態の構造を示す断面図である。
【図2】円柱状素材が含有するフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトの組織図である。
【図3】円柱状素材に冷間鍛造を施してハブ輪を製造する工程を説明する工程図である。
【図4】球状化セメンタイトの最大粒径と円柱状素材に冷間鍛造を施した際の割れ発生率との関係を示すグラフである。
【図5】非焼入れ部の硬さと疲労寿命との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 車輪支持用転がり軸受装置
2 ハブ輪
3 内輪
4 外輪
5 転動体
10 車輪取り付け用フランジ
13 懸架装置取り付け用フランジ
20a 第一内側軌道面
20b 第二内側軌道面
21a 第一外側軌道面
21b 第二外側軌道面
22 硬化層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が取り付けられ一体に回転するハブホイールと、前記ハブホイールの外方に配され前記ハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記ハブホイールが前記転動体の転動を介して前記外輪に回転自在に支持された車輪支持用転がり軸受装置において、
前記ハブホイール及び前記外輪の少なくとも一方は、0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有する鋼からなり且つ軟化焼鈍しが施されてフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有する円柱状素材を、冷間鍛造で成形して得られたものであるとともに、前記ハブホイールは、軌道面に高周波焼入れが施されており且つ側方押出しにより形成されたフランジを有することを特徴とする車輪支持用転がり軸受装置。
【請求項2】
前記円柱状素材は、前記軟化焼鈍しによって、球状化セメンタイトの最大粒径が1.1μmとされているとともに、硬さがHv180以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の車輪支持用転がり軸受装置。
【請求項3】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-02-19 
結審通知日 2018-02-21 
審決日 2018-03-07 
出願番号 特願2007-66867(P2007-66867)
審決分類 P 1 41・ 855- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 856- Y (F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C)
P 1 41・ 854- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 滝谷 亮一
小関 峰夫
登録日 2012-08-03 
登録番号 特許第5050587号(P5050587)
発明の名称 車輪支持用転がり軸受装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
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