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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C |
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管理番号 | 1339366 |
審判番号 | 訂正2018-390011 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-01-17 |
確定日 | 2018-03-15 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5644881号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5644881号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判に係る特許第5644881号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成19年4月16日に出願された特願2007-107122号の一部を平成25年3月5日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明について、平成26年11月14日に特許権の設定登録がなされ、平成30年1月17日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 第2 審判請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第5644881号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」ものであり、その訂正の内容は次のとおりである。(下線は特許権者が付した。以下同様。) 1 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「条件A」について「0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有するJIS又はSAEに規定された機械構造用炭素鋼」との記載を、「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」に訂正し、同「条件D」について「係数aが-700以上-120以下である」との記載を「係数aが-532である」に訂正する。 2 訂正事項2 明細書の段落【0008】の「条件A」について、「0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有するJIS又はSAEに規定された機械構造用炭素鋼」との記載を「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」に訂正する。 3 訂正事項3 明細書の段落【0009】の「条件D」について、「係数aが-700以上-120以下である」との記載を「係数aが-532である」に訂正する。 4 訂正事項4 明細書の段落【0032】の【表1】の「実施例1」?「実施例5」及び「実施例7」?「実施例12」を、それぞれ「参考例1」?「参考例5」及び「参考例7」?「参考例12」に訂正し、明細書の段落【0035】の「実施例1?4」との記載を「参考例1?4」に訂正し、同段落の「実施例5?8」との記載を「実施例6、参考例5、7及び8」に訂正し、同段落の「実施例9?12」との記載を「参考例9?12」に訂正する。 第3 当審の判断 1 訂正事項1 (1)訂正の目的の適否について 訂正後の請求項1に記載された「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」は、炭素の含有量が0.45質量%より多く、0.75質量%より少ないことが技術常識である。 そうすると、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有するJIS又はSAEに規定された機械構造用炭素鋼」との記載を、「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」に減縮し、「係数aが-700以上-120以下である」との記載を「係数aが-532である」に減縮するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 (2)新規事項の有無について 訂正事項1における、「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」及び「係数aが-532である」とする訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0032】の【表1】の、「鋼の種類」及び「係数a」の欄の、実施例6における「S55C」及び「-532」との記載に基くと解されるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものといえる。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。 (3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、「0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有する」ことを「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」とすることで実質的に許容される炭素の含有量を限定し、「JIS又はSAEに規定された機械構造用炭素鋼」を「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」に減縮し、「係数aが-700以上-120以下である」ことを「係数aが-532である」ことに減縮するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。 (4)独立特許要件について 訂正事項1により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、拒絶すべき理由を有しないとして特許された訂正前の特許発明を減縮したものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではないことは明らかであり、特許法126条第7項の規定を満たすものである。 2 訂正事項2 (1)訂正の目的の適否について 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正(請求項1の減縮)に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0008】の、「0.45質量%以上0.75質量%以下の炭素を含有するJIS又はSAEに規定された機械構造用炭素鋼」との記載を「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」に訂正するものである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。 (2)新規事項の有無について 訂正事項2における、「JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0032】の【表1】の「鋼の種類」の欄の実施例6における「S55C」との記載に基くと解されるから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。 (3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 訂正事項2に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、訂正事項1と同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。 3 訂正事項3 (1)訂正の目的の適否について 訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正(請求項1の減縮)に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0009】の、「係数aが-700以上-120以下である」との記載を「係数aが-532である」に訂正するものである。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。 (2)新規事項の有無について 訂正事項3における、「係数aが-532である」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0032】の【表1】の「係数a」の欄の実施例6における「-532」との記載に基くと解されるから、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。 (3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 訂正事項3に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、訂正事項1と同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。 4 訂正事項4 (1)訂正の目的の適否について 訂正事項4に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正(請求項1の減縮)に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、訂正後の請求項1に含まれなくなった発明の実施例である訂正前の本件特許明細書の段落【0032】の【表1】の「実施例1」?「実施例5」及び「実施例7」?「実施例12」を、それぞれ「参考例1」?「参考例5」及び「参考例7」?「参考例12」に訂正し、段落【0035】の「実施例1?4」との記載を「参考例1?4」に訂正し、同段落の「実施例5?8」との記載を「実施例6、参考例5、7及び8」に訂正し、同段落の「実施例9?12」との記載を「参考例9?12」に訂正するものである。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。 (2)新規事項の有無について 訂正事項4に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、訂正後の請求項1に含まれなくなった実施例を参考例に訂正するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。 (3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 訂正事項4に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、訂正事項1と同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定を満たすものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 車輪支持用転がり軸受装置の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪支持用転がり軸受装置の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪支持用転がり軸受装置は、一般には以下のような構成である。すなわち、車輪が取り付けられ一体に回転する円筒状のハブホイールと、このハブホイールの外方に配されハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、ハブホイールが転動体の転動を介して外輪に回転自在に支持された構成である。そして、ハブホイールの外周面には、車輪を取り付けるためのフランジが設けられ(すなわち、ハブホイールは円筒部とフランジ部とからなる)、外輪の外周面には、懸架装置を取り付けるためのフランジが設けられている。 【0003】 このような従来の車輪支持用転がり軸受装置においては、ハブホイールや外輪が、中炭素鋼材(例えばS50?S55Cに相当する鋼材やSAE1070)からなる素材を熱間鍛造した後に所定の形状に切削加工することにより形成されているため、ハブホイールや外輪の製造に多くの手間と時間を要するという難点があった。そこで、炭素鋼板を所定の形状にプレス成形することによってハブホイールや外輪を製造した車輪支持用転がり軸受装置が提案されている(特許文献1?5を参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2003-25803号公報 【特許文献2】特許第3352226号公報 【特許文献3】特開平9-151950号公報 【特許文献4】特開平7-317777号公報 【特許文献5】特開2006-64036号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、炭素鋼板をプレス成形することによってハブホイールを製造する場合には、鋼板に絞り加工を施すことにより円筒状に形成する必要があるため、円筒部が小径のハブホイールを製造する場合には強い絞り加工が必要であった。よって、ハブホイールを製造する方法としてより容易で良好な方法が望まれていた。 【0006】 一方、近年においては自動車の使用条件は厳しくなっており、ハブホイールや外輪には大きな荷重が負荷される場合がある。例えば、車輪が縁石等に乗り上げた際には、ハブホイールの円筒部にフランジを介して大きな荷重が負荷される。そのため、車輪支持用転がり軸受装置には、大きな荷重に耐える強度が要求されている。 そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、大きな荷重が負荷されても損傷が生じにくい車輪支持用転がり軸受装置を容易に製造することができる方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る車輪支持用転がり軸受装置の製造方法は、車輪が取り付けられ一体に回転するハブホイールと、前記ハブホイールの外方に配され前記ハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記ハブホイールが前記転動体の転動を介して前記外輪に回転自在に支持された車輪支持用転がり軸受装置を製造する方法であって、以下の5つの条件を満たしていることを特徴とする。 【0008】 条件A)JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼からなり軟化焼鈍しが施されてフェライト、球状化セメンタイト、及び針状セメンタイトを含有する組織を有する円柱状素材を、熱間鍛造を行うことなく冷間鍛造で所定の形状に成形した後に、前記軌道面に高周波焼入れを施して前記ハブホイールを得る。 条件B)前記ハブホイールの軌道面には、前記高周波焼入れにより硬化層が形成されている。 【0009】 条件C)前記硬化層のうち表面から深さ1mmまでの部分は、ビッカース硬さHvが650以上である。 条件D)前記硬化層のうちビッカース硬さHvが300以上600以下の部分について、ビッカース硬さHと深さD(mm)との関係をH=aD+bなる式で表したときに、該式の係数aが-532である。 条件E)前記ハブホイールは、前記車輪を取り付けるためのフランジを備えており、前記冷間鍛造が、前記フランジを形成するための側方押出しを含む。 【0010】 車輪支持用転がり軸受装置のハブホイールには大きな荷重が負荷される場合があるが、上記のような構成の硬化層が形成されていれば、ハブホイールの強度が優れているため、大きな荷重が負荷されても損傷が生じにくい。つまり、高周波焼入れを施すと、焼入れ部と非焼入れ部との界面において引張残留応力が発生し、この引張残留応力が大きい場合には、ハブホイールに大きな荷重が負荷された際に、表面ではなく内部(前記界面)を起点とした破壊が発生しやすくなるが、上記のような構成の硬化層が形成されていれば、前述の引張残留応力の発生が緩和されるので、内部を起点とした破壊が発生しにくくなり、ハブホイールに大きな荷重が負荷されても損傷が生じにくい。 【0011】 また、軟化焼鈍しが施された素材を冷間鍛造で所定の形状に成形した後に高周波焼入れを施せば、上記のような構成の硬化層を容易に形成することができる。また、熱間鍛造,切削加工,絞り加工等が不要であるため、車輪支持用転がり軸受装置を容易に製造することができる。 【0012】 ここで、前記各条件における各数値の臨界的意義について説明する。 〔条件Aについて〕 炭素の含有量が0.45質量%未満であると、硬化層のうち表面から深さ1mmまでの部分のビッカース硬さHvを650以上とすることが困難となる場合がある。一方、0.75質量%超過であると、鋼の加工性が不十分となるおそれがある。 【0013】 〔条件Cについて〕 車輪支持用転がり軸受装置が十分な転がり寿命を有するためには、ハブホイールの軌道面に、十分な硬さ及び厚さの硬化層が形成されている必要がある。そして、十分な転がり寿命を得るためには、表面から深さ1mmまでの部分のビッカース硬さHvを650以上とする必要がある。なお、車輪支持用転がり軸受装置の転がり寿命をより長寿命とするためには、硬化層のうち表面から深さ1mmまでの部分のビッカース硬さHvは720以上であることが好ましい。 【0014】 〔条件Dについて〕 前記式の係数aが-700未満であると、大きな荷重が負荷された際にハブホイールに損傷が生じやすくなるおそれがある。一方、-120超過であると、高周波焼入れに長時間を要したり、結晶粒等が粗大化するおそれがある。 【発明の効果】 【0015】 本発明に係る車輪支持用転がり軸受装置の製造方法は、大きな荷重が負荷されても損傷が生じにくい車輪支持用転がり軸受装置を容易に製造することができる。 【図面の簡単な説明】 【0016】 【図1】本発明の一実施形態に係る車輪支持用転がり軸受装置の構造を示す断面図である。 【図2】円柱状素材に冷間鍛造を施してハブ輪を製造する工程を説明する工程図である。 【図3】ハブ輪の硬化層のビッカース硬さと深さとの関係を示すグラフである。 【図4】係数aを求める方法を説明する図である。 【図5】静的強度試験装置の構造を示す図である。 【図6】ハブ輪の静的強度と係数aとの関係を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明に係る車輪支持用転がり軸受装置の製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車輪支持用転がり軸受装置の構造を示す断面図である。なお、本実施形態においては、車輪支持用転がり軸受装置を自動車等の車両に取り付けた状態において、車両の幅方向外側を向いた部分を外端側部分と称し、幅方向中央側を向いた部分を内端側部分と称する。すなわち、図1においては、左側が外端側となり、右側が内端側となる。 【0018】 図1の車輪支持用転がり軸受装置1は、略円筒状のハブ輪2と、ハブ輪2に一体的に固定された内輪3と、ハブ輪2の外方に同軸に配された略円筒状の外輪4と、二列の転動体5,5と、転動体5を保持する保持器6,6と、を備えている。また、外輪4の内端側部分の内周面と内輪3の内端側部分の外周面との間、並びに、外輪4の外端側部分の内周面とハブ輪2の中間部の外周面との間には、それぞれシール装置7a,7bが設けられている。 【0019】 さらに、外輪4の内方に配されたハブ輪2のうち外輪4から突出している外端側部分の外周面には、図示しない車輪を支持するための車輪取り付け用フランジ10が設けられている。そして、外輪4の外周面には、車輪取り付け用フランジ10から離間する側の端部に、懸架装置取り付け用フランジ13が設けられている。 ハブ輪2の内端側部分には外径の小さい小径部11が形成されており、該小径部11に内輪3が圧入され、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されている。なお、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが、本発明の構成要件であるハブホイールに相当し、外輪4が本発明の構成要件である外輪に相当する。 【0020】 ハブ輪2の外周面の軸方向中間部及び内輪3の外周面には、それぞれ軌道面が形成されており、ハブ輪2の軌道面は第一内側軌道面20a、内輪3の軌道面は第二内側軌道面20bとされている。また、外輪4の内周面には、前記両内側軌道面20a,20bに対向する軌道面が形成されており、第一内側軌道面20aに対向する軌道面は第一外側軌道面21a、第二内側軌道面20bに対向する軌道面は第二外側軌道面21bとされている。さらに、第一内側軌道面20aと第一外側軌道面21aとの間、及び、第二内側軌道面20bと第二外側軌道面21bとの間には、それぞれ複数の転動体5が転動自在に配置されている。なお、図示の例では、転動体として玉を使用しているが、車輪支持用転がり軸受装置1の用途等に応じて、ころを使用してもよい。 【0021】 また、ハブ輪2の外周面と外輪4の内周面とには、高周波焼入れによる硬化層22が形成されている。これにより、第一内側軌道面20a,第一外側軌道面21a,及び第二外側軌道面21bには、高周波焼入れによる硬化層22が形成されている。ハブ輪2及び外輪4のうち硬化層22以外の部分には焼入れは施されていない(以降は、このような部分を非焼入れ部と記す)。そして、内輪3には、例えば焼入れと焼戻しとが施され、第二内側軌道面20bは焼入れ焼戻しより硬化されている。 【0022】 このような車輪支持用転がり軸受装置1を自動車に組み付けるには、懸架装置取り付け用フランジ13を懸架装置に固定し、車輪を車輪取り付け用フランジ10に固定する。その結果、車輪支持用転がり軸受装置1によって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。すなわち、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたハブホイールが、車輪と一体に回転する回転輪となり、外輪4が、転動体5の転動を介してハブホイールを回転自在に支持する固定輪(非回転輪)となる。 【0023】 この車輪支持用転がり軸受装置1においては、ハブ輪2は、炭素の含有量が0.45質量%以上0.75質量%以下である鋼で構成されている。このような鋼としては、JISやSAEに規定された機械構造用炭素鋼のうち、炭素の含有量が0.45質量%以上0.75質量%以下であるものがあげられる。そして、ハブ輪2は、上記のような鋼からなる円柱状素材(ビレット)に軟化焼鈍しを施した後に冷間鍛造で所定の形状に成形し、さらに外周面に高周波焼入れを施して硬化層22を形成することにより製造されている。なお、内輪3及び外輪4についても、ハブ輪2と同様の方法で製造されたものでもよい。 【0024】 このようにして製造されたハブ輪2に形成された硬化層22は、以下のような構成となっている。すなわち、硬化層22のうち表面から深さ1mmまでの部分は、ビッカース硬さHvが650以上である。また、硬化層22のうちビッカース硬さHvが300以上600以下の部分について、ビッカース硬さHと深さD(mm)との関係をH=aD+bなる式で表したときに、該式の係数aが-700以上-120以下である。軟化焼鈍しによって鋼中の炭化物が球状化されているため、その後の高周波焼入れによって上記のような構成の硬化層22が形成される。 【0025】 このような車輪支持用転がり軸受装置1は、ハブ輪2が優れた静的強度を有しているので、大きな荷重が負荷されても損傷が生じにくい。また、軟化焼鈍しが施されたことにより円柱状素材が塑性加工性に優れているため、冷間鍛造で成形してハブ輪2とする際に割れ等の損傷が生じにくい。さらに、この車輪支持用転がり軸受装置1は、熱間鍛造,切削加工,絞り加工等が不要であるため、容易に製造することができる。 【0026】 以下に、ハブ輪2の製造方法の一例を説明する。まず、炭素の含有量が0.45質量%以上0.75質量%以下である鋼で構成された円柱状素材に、軟化焼鈍しを施す。軟化焼鈍しの条件の一例を示す。円柱状素材をA1変態点以上の740?860℃で0.1時間以上保持した後に、20?70℃/hの冷却速度で680?720℃へ冷却し、1?5時間保持する。続いて、10?100℃/hの冷却速度で620?680℃へ冷却し、さらに、10?150℃/hの冷却速度で500?560℃へ冷却する。このような軟化焼鈍しにより、鋼はフェライト,球状化セメンタイト,及び針状セメンタイトを含有する組織となる。 【0027】 次に、軟化焼鈍しを施した円柱状素材に冷間鍛造を施し、前方押出しを2段階行う。さらに、冷間鍛造を施して段付けを行った後に、側方押出しを行いフランジを形成する(図2を参照)。 得られたハブ輪2の軌道面を含む外周面に高周波焼入れ及び焼戻しを施して、硬化層22を形成した後、研削仕上げや超仕上げを施して、ハブ輪2を完成した。 内輪3及び外輪4もハブ輪2と同様に製造して、これらを組み立てれば、車輪支持用転がり軸受装置1が得られる。 【0028】 〔実施例〕 以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。JIS S45C,S55C,又はS75Cで構成された直径60mmの円柱状素材に、軟化焼鈍しを施した後に、図2のような冷間鍛造により成形を行った。そして、その外周面に高周波焼入れを施して硬化層を形成した後に、170℃で2時間焼戻しを行った。 【0029】 形成された硬化層のうち表面から深さ1mmまでの部分は、ビッカース硬さHvが650以上となっている。また、硬化層のうちビッカース硬さHvが300以上600以下の部分について、ビッカース硬さHと深さD(mm)との関係をH=aD+bなる式で表したときに、該式の係数aは-700以上-120以下である。高周波焼入れの条件は、出力85?90kW、周波数10kHz、加熱時間6.5?8.0秒、冷却時間10?15秒であるが、これらの条件を変更することにより、前記係数aが種々異なる硬化層を有するハブ輪を製造した。 【0030】 比較例として、以下のようにして製造したハブ輪を用意した。実施例と同様の円柱状素材を熱間鍛造により成形し、実施例と同様の高周波焼入れ及び焼戻しを行うことにより、硬化層を有するハブ輪を製造した。 これらのハブ輪について、硬化層の種々の深さ位置におけるビッカース硬さHvを測定した。ビッカース硬さHvの測定は、ビッカース硬度計(負荷荷重9.8N)により行った。 【0031】 ビッカース硬さと深さとの関係の一例を、図3のグラフに示す。このグラフから分かるように、冷間鍛造により成形を行った実施例と、熱間鍛造により成形を行った比較例とでは、硬化層の構成が異なっている。そして、このグラフから、ビッカース硬さHと深さD(mm)との関係をH=aD+bなる式で表したときの、係数aを求めることができる。図3のグラフの比較例(熱間鍛造品)のプロットについて、係数aを求める方法を示したものが、図4のグラフである。図4のグラフのようにして各ハブ輪の係数aを求めた結果を、表1にまとめて示す。 【0032】 【表1】 【0033】 次に、これらのハブ輪を用いて、前述の車輪支持用転がり軸受装置1と同様の構成の転がり軸受装置を製造した。そして、図5に示すような静的強度試験装置に装着して大きな荷重を負荷し、ハブ輪に損傷が生じる静的強度を測定した。 転がり軸受装置の静的強度試験装置への装着は、以下のようにして行った。転がり軸受装置の外端側を上方に向けて静的強度試験装置の基台上に設置し、外輪をナックル又はキャリア締結部で固定した。そして、ハブ輪のフランジと静的強度試験装置の治具とをインローで固定した。なお、ハブ輪の円筒部と外輪との干渉が生じないように、外輪の外端側端部を切断して軸方向長さを短くしてある。 【0034】 静的強度試験装置の前記治具から延びる把手を押し下げると、梃子の原理により、転がり軸受装置に下方(内端側)に向く荷重が負荷される。把手を押し下げる際に加える力の力点と、転がり軸受装置に負荷される荷重の作用点との間の距離は、233.5mmである。 【0035】 ハブ輪に損傷が生じた静的強度の結果を、表1及び図6のグラフに示す。なお、表1及び図6のグラフの静的強度の数値は、参考例1?4については比較例1の静的強度を1.0とした場合の相対値で示してある。また、実施例6、参考例5、7及び8については比較例2の静的強度、参考例9?12については比較例3の静的強度をそれぞれ1.0とした場合の相対値で示してある。 図6のグラフから、前記係数aが-700以上であると、ハブ輪の静的強度が高いことが分かる。 【符号の説明】 【0036】 1 車輪支持用転がり軸受装置 2 ハブ輪 3 内輪 4 外輪 5 転動体 10 車輪取り付け用フランジ 13 懸架装置取り付け用フランジ 20a 第一内側軌道面 20b 第二内側軌道面 21a 第一外側軌道面 21b 第二外側軌道面 22 硬化層 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 車輪が取り付けられ一体に回転するハブホイールと、前記ハブホイールの外方に配され前記ハブホイールの外周面に形成された軌道面に対向する軌道面を内周面に有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記ハブホイールが前記転動体の転動を介して前記外輪に回転自在に支持された車輪支持用転がり軸受装置を製造する方法であって、以下の5つの条件を満たしていることを特徴とする車輪支持用転がり軸受装置の製造方法。 条件A)JIS S55Cに規定された機械構造用炭素鋼からなり軟化焼鈍しが施されてフェライト、球状化セメンタイト、及び針状セメンタイトを含有する組織を有する円柱状素材を、熱間鍛造を行うことなく冷間鍛造で所定の形状に成形した後に、前記軌道面に高周波焼入れを施して前記ハブホイールを得る。 条件B)前記ハブホイールの軌道面には、前記高周波焼入れにより硬化層が形成されている。 条件C)前記硬化層のうち表面から深さ1mmまでの部分は、ビッカース硬さHvが650以上である。 条件D)前記硬化層のうちビッカース硬さHvが300以上600以下の部分について、ビッカース硬さHと深さD(mm)との関係をH=aD+bなる式で表したときに、該式の係数aが-532である。 条件E)前記ハブホイールは、前記車輪を取り付けるためのフランジを備えており、前記冷間鍛造が、前記フランジを形成するための側方押出しを含む。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-02-20 |
結審通知日 | 2018-02-22 |
審決日 | 2018-03-07 |
出願番号 | 特願2013-43171(P2013-43171) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C) P 1 41・ 853- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 堀内 亮吾 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
滝谷 亮一 内田 博之 |
登録日 | 2014-11-14 |
登録番号 | 特許第5644881号(P5644881) |
発明の名称 | 車輪支持用転がり軸受装置の製造方法 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |