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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01D
管理番号 1339391
審判番号 訂正2018-390029  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2018-04-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4586475号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4586475号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4586475号に係る出願は、平成16年9月27日付けで特願2004-279596号として出願されたものであって、平成22年9月17日に特許権の設定登録がなされたものである。

第2 請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第4586475号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。

1 訂正事項1
明細書段落【0033】、【0036】、及び【0040】の「実施例」との記載を「参考例」に訂正し、明細書段落【0037】の表1中の「実施例1」との記載を「参考例1」に訂正し、同表中の「実施例2」との記載を「参考例2」に訂正し、明細書段落【0038】の「実施例1、2」との記載を「参考例1、2」に訂正し、同段落【0039】の表2中の「実施例1」との記載を「参考例1」に訂正し、同表中の「実施例2」との記載を「参考例2」に訂正する。

第3 当審の判断
訂正事項1について、訂正の適否を検討する。

1 訂正の目的
上記訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の【請求項1】には「前記磁石材料の前記磁性体粉の含有量は、60?80体積%であり」と記載されているのに対し、訂正前の明細書段落【0033】?【0040】に記載されている実施例では、ストロンチウムフェライト磁性体粉の含有量が重量%で特定されており、特許請求の範囲の記載と明細書の記載が整合しておらず、不明瞭となっているものを、明細書に記載の「実施例」を「参考例」とすることにより明瞭とするものである。
よって、上記訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

2 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
上記訂正は、設定登録時の明細書に対して新たな技術事項を導入するものではなく、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって、上記訂正は、特許法第126条第5項及び同第6項の規定に適合する。

第4 むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項及び第6項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気エンコーダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転速度を検出するために用いられる磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のスキッド(車輪が略停止状態で滑る現象)を防止するためのアンチスキッド、又は有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール(発進や加速時に生じやすい駆動輪の不要な空転の制御)などに用いられる回転数検出装置としては、N極とS極とを円周方向に交互に着磁された円環状の磁気エンコーダと、磁気エンコーダの近傍における磁場の変化を検出するセンサとを有し、車輪を支持する軸受を密封するための密封装置に磁気エンコーダを併設して配置することにより車輪の回転と共に磁気エンコーダを回転せしめ、車輪の回転に同期した磁場変化をセンサにより検出するものが知られている。
【0003】
上記の車輪用軸受に使用される磁気エンコーダとしては、磁性体粉を混入させた磁性ゴムをスリンガに加硫接着したものや、磁性体粉をプラスチックに混入したプラスチック磁石をスリンガに接着接合したものが使用されている。更には、円環状のプラスチック磁石とスリンガを所謂、弾性接着剤で接着接合するものが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2003-222150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゴム磁石を用いる最大の利点は、低モジュラスのため内部応力の発生をある程度抑制できることと、発生した内部応力を粘弾性挙動により効率的に緩和吸収できる点にある。従って、ゴム磁石による磁気エンコーダは、過酷な温度環境下(例えば、-40℃?120℃)に曝されても過大な応力が発生することがなく、剥がれの問題が生じにくいのである。
【0005】
近年、磁気エンコーダは、よりコンパクトに、軸受シール装置の一部として組み込まれることが多くなっているが、そのような構成とした場合、エンコーダとセンサとのエアギャップを大きく採ったほうが組立性の面から都合がよい。このため、エアギャップを拡大することが望まれるが、この場合、高精度の回転検出機能を確保するためには、より強力なエンコーダ能力が要求されることになる。つまり、磁気エンコーダには、更なる磁束密度の向上が強く求められる。
【0006】
このような磁力増大の要望に対応するには、磁性体粉の混入量を多くすれば良いが、この場合、ゴム磁石のモジュラスが増加すると同時に粘弾的側面が失われるため、応力の発生の抑制とその緩和吸収能力が極端に低下していくことになる。即ち、磁性体粉を増量した場合、過酷な温度環境下では、ゴム磁石とスリンガの熱膨張係数の差に基づき過大な応力が発生することになり、これが緩和されずに(力学的欠陥部とみなされる)接着界面層に集中する結果として、ゴム磁石とスリンガ間の固着力が徐々に低下して、最終的に剥がれる可能性があった。
【0007】
一方、プラスチック磁石を用いた場合には、ゴム磁石に対して、比較的多量の磁性体粉を混入することが可能であり、この点において、ゴム磁石を凌ぐ磁気特性を有するエンコーダ素材となり得る可能性のある材料となる。更に、プラスチック磁石は、磁界をかけた状態での射出成形(磁場成形)が容易であり、優れた磁気特性発現に不可欠な異方性磁石を得ることができる。
【0008】
しかしながら、プラスチック磁石をスリンガに接着接合して多極磁化された磁気エンコーダとした場合、過酷な温度環境下において、磁性体粉の配合量を高めたゴム磁石と同様に、剥がれの問題が生じることが予想される。また、信頼性の高い(過酷な温度環境下でも剥がれることのない)強固な接着を確保した場合であっても、この場合、プラスチック磁石内部に最大応力が集中することが想定されるため、最悪の場合、プラスチック磁石が応力によって自壊することが想定される。さらに、このような問題を解決するために、特許文献1に記載の磁気エンコーダのような弾性接着剤を使用する手法が考えられるが、コストが掛かり、生産性が悪くなるといった問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、良好な磁気特性を有すると共に、過酷な温度環境下でもスリンガから脱落したり、自壊することがない信頼性の高い磁気エンコーダ、及び、それを用いた転がり軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダであって、
前記磁石部はポリアミド樹脂組成物と磁性体粉とを含有する磁石材料からなり、
前記磁性体粉は、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄の群から選ばれる一つであり、
前記磁石材料の前記磁性体粉の含有量は、60?80体積%であり、
前記磁石部は、接着剤を焼き付けた前記固定部材をコアにして、前記磁石材料をインサート成形することで、前記固定部材に一体的に接合されており、
前記磁石部の厚さは0.6?1.2mmで、前記固定部材の厚さは0.4?1.0mmである
ことを特徴とする磁気エンコーダ。
(2) 前記ポリアミド樹脂組成物は、少なくともポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド612の群から選ばれるポリアミド樹脂と、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイからなる樹脂組成物であることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ。
(3) 前記固定部材に焼き付ける前記接着剤が、フェノール樹脂系接着剤であることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ。(4) 前記接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、前記磁石材料のインサート成形が行われることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ。
(5) 前記インサート成形の後に行われる二次加熱で、前記接着剤が完全に硬化することを特徴とする(4)に記載の磁気エンコーダ。
(6) 前記磁性体粉がストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトであり、ランタンとコバルトが混入されることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ。
(7) 固定輪と、回転輪と、前記固定輪及び回転輪の間で周方向に転動自在に配置された複数の転動体とを備える転がり軸受ユニットにおいて、(1)?(6)のいずれかに記載の磁気エンコーダが、前記回転輪に固定されていることを特徴とする転がり軸受ユニット。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンコーダは、良好な磁気特性を有すると共に、過酷な温度環境下でもスリンガから脱落したり、自壊することがない信頼性の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のエンコーダ、及び転がり軸受ユニットの各実施形態例について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態の一例として、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニット2aに、本発明を適用した場合について示している。尚、本発明の特徴以外の構成及び作用については、従来から広く知られている構造と同等であるから、説明は簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げる事により形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付ける事で、ハブ7aに結合固定されている。そして、このハブ7aと内輪16aは回転輪を構成している。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、固定輪である外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取付けフランジ12に円周方向に所定間隔で植設されたスタッド8によって、結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0015】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれシールリング21a、21bを設けている。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面と上記ハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた空間と外部空間とを遮断している。
【0016】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0017】
また、図2に示すように、磁気エンコーダ26は、固定部材であるスリンガ25と、スリンガ25の側面に一体接合された磁石部である磁極形成リング27とで構成される。図3に示すように、磁極形成リング27は多極磁石であり、その周方向には、交互にN、Sが形成されている。そして、この磁極形成リング27に磁気センサ28が対面配置される(図1参照。)。
【0018】
以下、本発明に係る磁気エンコーダ26の基本仕様について説明する。磁気エンコーダ26の磁極形成リング27は、磁性体粉とそのバインダーとなる樹脂組成物とを含有した磁石材料からなる多極プラスチック磁石により構成される。また、磁気エンコーダは、フェノール樹脂系接着剤を焼き付けたスリンガをコアにして、磁石材料のインサート成形を行い、磁極形成リングを構成するプラスチック磁石とスリンガを成形と同時に一体的に接着接合し、その後、得られる接着体を円周方向に多極磁化することで製造される。プラスチック磁石のバインダーとしては、ポリアミド系樹脂、具体的には、融雪材として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるという点を考慮して、吸水性が少ないポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612を用いる。また、スリンガの接着表面には、プラスチック磁石とスリンガとの接着をより強固なものとするため、化学エッチング処理が施される。
【0019】
本発明者らは、既に上記のような基本仕様とすれば、性能と耐久性に優れた磁気エンコーダが得られることを見出していたが、より信頼性を向上させるべく、鋭意研究を重ねた結果、磁気エンコーダにおけるプラスチック磁石及びスリンガの厚さを、各々好ましい範囲内に設定し、更に、プラスチック磁石のバインダーである樹脂組成物をポリアミド樹脂とその分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイとすることによって磁気エンコーダとしての要求機能を十分満足しながらも、過酷な温度環境下でもクラック発生等問題を生じることがない高信頼性の磁気エンコーダが得られることを見出した。
【0020】
まず、本発明者らは、磁気エンコーダの構成とその性能、及び耐久性との関係を究明した結果、高性能且つ高信頼性を確保するには、スリンガ上に形成されるプラスチック磁石の厚さ(最大厚さを意味する:以下単に厚さと記載する)を0.6mm?1.2mm、スリンガの厚さを0.4mm?1.0mmの範囲内とするべきであるという結論に達した。即ち、本発明に係る磁気エンコーダの基本仕様によれば、プラスチック磁石とスリンガは、フェノール樹脂系接着剤により非常に強固に接着接合されている。このため、過酷な温度環境下でのプラスチック磁石とスリンガの冷熱変形量差に基づき生じる応力の最大集中点は、接着層から少しプラスチック磁石側に入ったところに存在する可能性があった。ここで、プラスチック磁石とスリンガの変形機構に注目してみると、プラスチック磁石の厚さが増大すればするほど、プラスチック磁石とスリンガとの環境温度変化に伴う変形量の差は大きくなると推察されるが、これは、接着界面層から距離を取れば取るほど、フェノール樹脂接着層の拘束効果が減少するため、接着界面層からより離れたプラスチック磁石の樹脂は、より自由に大きく変形できることによる(尚、接着界面付近のプラスチック磁石の樹脂成分は、フェノール樹脂接着層に強く固定化されているため、その変形はある程度拘束されていると解釈される)。以上の理由から、プラスチック磁石の厚さの増大に伴い、その環境温度変化に伴う変形量が大きくなる結果として、スリンガとの相対的な変形量差が増大することで、より大きな応力がプラスチック磁石内部に発生してしまう可能性が十分考えられた。このため、プラスチック磁石の厚さの増大は耐久性の面で好ましくないという結論に達した。
【0021】
しかしながら、性能面を考慮するとプラスチック磁石の厚さをあまり薄くすることはできない。即ち、プラスチック磁石の厚さが薄すぎると要求される磁気特性(磁気特性として最大エネルギー積(BHmax)で1.3?15MGOe、より好ましくは1.8?12MGOeの範囲)を満足することが極めて困難となる。このことを本発明者らは実験により見出し、本発明仕様の磁気エンコーダにおける高性能、尚且つ、高信頼性の確保には、スリンガ上に形成されるプラスチック磁石の厚さを0.6mm?1.2mmの範囲内とするべきであるという結論に達した。即ち、プラスチック磁石の厚さが0.6mm未満の場合は磁気特性が要求性能を満足しないため好ましくなく、1.2mmより厚い場合は、上記説明したように、スリンガとの相対的な変形量の差が大きくなり耐久性の面で不利となる傾向があるため好ましくない。
【0022】
また、以下で詳述するように、本発明者はスリンガについても適正値があることを見出している。本発明に係る磁気エンコーダのスリンガの材質としては、プラスチック磁石の磁気特性を低下させず、尚且つ使用環境からいって、一定レベルの耐食性を有するフェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の磁性ステンレス鋼が用いられるが、本発明者は、このような磁性ステンレス鋼からなるスリンガの厚さを少なくとも0.4mm以上としないと、プラスチック磁石のバックヨークとしての作用効果が十分に期待できないことを見出した。即ち、スリンガの厚さが0.4mm未満となると、スリンガとして剛性不足となるだけでなく、バックヨークとしての作用効果が不十分となり好ましくないのである。一方、1.0mmより厚くした場合においては、成形加工性が低下することになり製造コストの面で不利となる傾向となるために好ましくない。以上のような理由により、スリンガの厚さは0.4mm?1.0mmの範囲内とする必要があるという結論に達した。
【0023】
ところで、本発明に係るような磁気エンコーダは、過酷な使用環境下、即ち、繰り返し冷熱衝撃が印加されるような環境下で使用されることが十分想定されるが、このような状況下、例えば、-40℃?120℃の繰り返し冷熱衝撃が印加されるような状況下での信頼性をより確実なものとするために、本発明においては、プラスチック磁石のバインダーである樹脂組成物を、ポリアミド樹脂と、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイとしている。その理由は次の通りである。先ず、本発明仕様の磁気エンコーダ(ただし、プラスチック磁石のバインダーは通常(未改良)のポリアミド樹脂とする)を120℃に昇温させた場合を考えると、この場合、プラスチック磁石とスリンガの熱膨張差に起因して生じる応力は、接着界面より幾分プラスチック磁石側に入った部分に集中すると考えられるが、この温度領域では、プラスチック磁石のバインダーであるポリアミド樹脂の非晶中の分子鎖は、ゴム状態にあるため、応力を一部緩和吸収する能力をもつ。このため、プラスチック磁石内部に生じる応力は、その分子鎖運動によって、ある程度緩和されると推測されるが、一方で、-40℃に降温させた場合を考えると、この場合は、120℃の時とは異なり、ポリアミド樹脂のガラス転移温度以下のため、分子鎖運動による応力の緩和吸収作用はほとんど期待できない。以上の考察から、低温領域においての割れ発生の可能性が非常に大きいであろうという結論に達した。つまり、本発明仕様の磁気エンコーダにおいては、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド612等のポリアミド樹脂が本来有する柔軟性では必ずしも十分とはいえず、過酷な温度環境下での信頼性を更に向上させるには、柔軟性、特に低温での柔軟性(もしくは低温耐衝撃性)を改良することが最も重要であると考えた。具体的には、本発明仕様の磁気エンコーダにおいて、磁石材料のバインダーとなる樹脂組成物を、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド612のポリアミド樹脂と、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイを主成分とする樹脂組成物とすることで、特に低温での柔軟性を確保することができた。
【0024】
尚、本発明に係るポリアミド系ブロック共重合体の軟質セグメントとしては、ガラス転移温度が-40℃以下であれば良く、その他性質等によって特に限定されない。該軟質セグメントの候補としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、及びポリカプロラクタム等が考えられ、選択肢が多い。ただし、市場からの入手し易さという点を考慮すると、本発明に係るポリアミド系ブロック共重合体としては、ポリエステル、あるいはポリエーテルを軟質セグメントに有するポリアミド系ブロック共重合体を選択するのが現状として最適であろう。特に、耐加水分解性を考慮すると後者のポリエーテルセグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体の方がより好適であるとすることができる。また、本発明に係るポリエーテルセグメントの具体例としては、ポリテトラメチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、あるいは、これらの共重合体等を挙げることができる。尚、以上説明したポリアミド系ブロック共重合体の配合量は、樹脂組成物の総重量に対して、5?50重量%、好ましくは10?35重量%である。5重量%未満では絶対量が少なすぎて、所望の低温柔軟性を付与することができない。また、50重量%を超えた場合は、特に耐熱性が不十分となり、磁気エンコーダの磁石材料としての用途に適さない。
【0025】
本発明に係る樹脂組成物には、可塑剤を添加して更に低温特性を改良しても良い。特に、-40℃以下の凝固点を有するものが好適であり、具体的には、アジピン酸ジ2-エチルヘキシル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、及びアゼライン酸ジ2-エチルヘキシル等の脂肪族エステル類、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、及び2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート等の多価アルコールエステル類、及びリン酸トリブチル、リン酸トリ2-エチルヘキシル、及びリン酸トリブトキシエチル等が特に好適に使用できる。また、これらの特に低温特性の改善を狙った可塑剤と共に、他のポリアミド用可塑剤を併用しても差し支えない。例えば、ベンゼンスルホン酸アルキルアミド類、トルエンスルホン酸アルキドアミド類、及びヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル等、あるいは、高温においても揮発することなく安定的に可塑化効果を発揮するフェノールあるいはクレゾールと不飽和脂肪族エステル類との付加物を主成分とした、具体的には、フェノールとオレイン酸メチル、もしくはクレゾールとオレイン酸2-エチルヘキシルとの反応により得られるフェノール樹脂系の組成物等を添加しても良い。
尚、以上説明した可塑剤(複数使用した場合は総量)の配合量は、樹脂組成物の総重量に対して、1?20重量%、好ましくは3?15重量%である。1重量%未満では絶対量が少なすぎて十分な柔軟性を付与することができない。また、20重量%を超えた場合は、材料全体の強度や耐熱性の低下などの悪影響が顕在化するため好ましくない。
【0026】
また、本発明に係る樹脂組成物には、酸化防止剤、耐候性改良材、帯電防止材、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強材等を必要に応じて適宜添加してもよい。
【0027】
一方、本発明に係る磁気エンコーダに含まれる磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄等の希土類磁性粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。尚、本発明では、磁極形成リングの磁気特性を十分に確保するため、その含有量を60?80体積%としているが、これは、磁性粉の含有量が60体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になるためであり、一方、80体積%を越える場合は、樹脂バインダー量が少なくなりすぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下するためである。
【0028】
本発明に係る磁気エンコーダは、ポリアミド樹脂とその分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイと磁性体粉からなる、円環状の多極磁石(厚さ:0.6mm?1.2mm)とスリンガ(厚さ:0.4mm?1.0mm)により構成される。尚、以下には、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法について詳述する。
【0029】
本発明に係る磁気エンコーダは、フェノール樹脂系接着剤を焼き付けたスリンガをコアにして、プラスチック磁石のインサート成形を行った後、二次加熱によって該フェノール樹脂系接着剤を完全に硬化させることで該磁石材料とスリンガを一体的に接着接合した後、円周方向に多極磁化することで、製造される。
【0030】
尚、本発明で用いるフェノール樹脂系接着剤は、少なくともレゾール型フェノール樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を含み、例えば100℃?120℃、数分?30分程度の硬化条件で、インサート成形時の高温高圧の溶融プラスチック磁石材料によって流失されない程度の半硬化状態でスリンガに焼き付けることができ、更に、インサート成形時の溶融プラスチック磁石からの熱、更には、それに引き続く二次加熱(例えば150℃、2時間程度)によって完全に硬化するものである。
【0031】
更に、エンコーダ部の成形に関して言及するが、エンコーダ部の成形は、内径厚み部から溶融したプラスチック磁石材料が同時に金型中に高圧で流れ込み、金型中で急冷され固形化するディスクゲート方式の射出成形が好ましい。溶融樹脂はディスク状に広がってから、内径厚み部にあたる部分の金型に流入することで、中に含有する燐片状の磁性粉が面に対して平行に配向する。特に、内径厚み部近傍の、回転センサの検出する内径部と外径部との間の部分はより配向性が高く、厚さ方向に配向させたアキシアル異方性に非常に近くなっている。成形時に金型に、厚さ方向に磁場をかけるようにすると、異方性はより完全に近いものとなる。尚、磁場成形を行っても、ゲートをディスクゲート以外の、例えばピンゲートとした場合、徐々に固形化に向かって樹脂粘度が上がって行く過程で、ウェルド部での配向を完全に異方化するのは困難であり、それによって、磁気特性が低下すると共に、機械的強度が低下するウェイド部に、長期間の使用によって亀裂等が発生する可能性があり好ましくない。
本発明のプラスチック磁石材料のペレットは、例えば以下の方法により作製できる。2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、磁性体粉に、ポリアミド樹脂とガラス転移温度が-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイからなる樹脂組成物を混練した後、得られるプラスチック磁石材料を通例の方法によりペレット化することによって得られる。
【0032】
従って、本発明の磁気エンコーダによれば、プラスチック磁石エンコーダの磁石厚さとスリンガ厚さを本発明で規定する範囲内に定めると共に、プラスチック磁石のバインダーを、高温特性、低温柔軟性に優れ、幅広い温度領域において高いレベルで安定的な性能を発揮できるような樹脂組成物とすることによって、繰り返しの振動や過酷な冷熱変化といった使用条件下においても、スリンガより剥離して脱落することやプラスチック磁石の自壊がない、高信頼性の磁気エンコーダの作製が可能となる。また、本発明の製造方法によって得られるプラスチック磁石中の磁性体粉は、円環状の磁石の厚さ方向に高度に配向しているため、その着磁により得られるエンコーダの磁気特性は極めて良好なものとなる。このため、磁石中の磁性粉体の含有量によっては、従来では20mT程度であった磁束密度を26mT以上に向上させることが可能である。よって磁気エンコーダとセンサとのギャップを従来と同様に1mmとした場合に、従来では96極に多極磁化されていた物を、一極当りの磁束を維持して120極以上に多極磁化することが可能である。この時、単一ピッチ誤差は±2%以下とできる。即ち、本発明に係る磁気エンコーダによれば、従来と同等のエアギャップとした場合に、極数を増加させて車輪の回転速度の検出精度を向上させることができる。また、本発明に係るプラスチック磁石を従来と同数の極数とした場合に、エアギャップを大きくとることができ、センサを配置する際の自由度を向上させることができる。
【実施例】
【0033】
以下に参考例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0034】
本発明の磁気エンコーダを構成するプラスチック磁石材料は、例えば以下の方法により作製できる。先ず、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、ポリアミド樹脂中に、-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体、更に可塑剤等の添加剤加えて練り込む。混練は、160℃?280℃の温度で、1分間?20分間行う。その時、該樹脂組成物を通例の方法によりペレット化する。更に、磁性体粉に該樹脂組成物のペレットを投入し、2軸押し出し機を用いて、160℃?280℃の温度で加熱しながら1分間?20分間混練した後、押し出す。次いで、この押し出した磁性体粉含有樹脂組成物をペレット化することで、プラスチック磁石材料を得ることができる。
【0035】
また、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、例えば以下に述べる手順に従う。先ず、フェノール樹脂系接着剤を、化学エッチング処理したスリンガ(厚さ:0.4mm?1.0mm)上に塗布し、室温条件下に20?60分放置して風乾させた後、約120℃で約30分間の加熱処理を行う。加熱処理して接着剤を焼き付けたスリンガを、成形後のプラスチック磁石の厚さが0.6mm?1.2mmの範囲内となるような金型にセットし、これをコアとして上記のようにして作製した本発明に係るプラスチック磁石材料のインサート成形を行う。その後、得られた成形体を、約150℃、約2時間、加熱(二次硬化)処理して得られるプラスチック磁石とスリンガの接着物を、ヨークコイルを用いて多極に着磁することで、磁気エンコーダを得ることができる。
【0036】
ここで、表1に示したようなプラスチック磁石の配合量、プラスチック磁石の厚さ、及びスリンガの厚さを持った、参考例、及び比較例の磁気エンコーダを用いて、磁気特性評価試験、ヒートショック試験を行った。尚、磁気特性の評価に関しては、本発明者らが定めた要求性能値を上回ったものを合格(○)としており、比較例2は、プラスチック磁石厚が適正でない(薄い)ため、要求性能を満足しなかったために実用上問題有りと判断し、一方、比較例3には、作製後、徐々に磁気特性が低下していくという傾向が認められたため、実用上問題有りと判断して不合格(×)とした。
【0037】
【表1】

【0038】
[耐熱衝撃性評価]
磁気特性が要求性能を満足した参考例1、2と比較例1に関しては耐熱衝撃性を評価するために、繰り返しヒートショック試験を実施した。表2はその結果を示す。試験条件は、(120℃、30分)と(-40℃、30分)を1サイクルとして1000サイクル実施した。尚、試験途中の外観は100サイクル毎にチェックした。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果から明らかなように、適正厚さで作製されたスリンガ上に、低温柔軟性が改良されたプラスチック磁石を同じく適正な厚さとなるように形成し作製した参考例は、磁気エンコーダとして所望の機能を確保しつつも、過酷な温度環境下におけるクラック発生が完全に防止されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の一例である車輪支持用転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態の一例である磁気エンコーダを備えたシール装置を示す断面図である。
【図3】エンコーダ磁石の円周方向に多極磁化された例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
2a 車輪支持用転がり軸受ユニット
5a 外輪
7a ハブ
8 スタッド
10a、10b 外輪軌道
11 結合フランジ
12 取付フランジ
14、14a、14b 内輪軌道
15 小径段部
16a 内輪
17a 玉
18 保持器
21a シールリング
22、22a、22b 弾性材
23 かしめ部
24b 芯金
25 スリンガ
26 磁気エンコーダ磁極形成リング
27 磁極形成リング
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-16 
結審通知日 2018-03-20 
審決日 2018-04-02 
出願番号 特願2004-279596(P2004-279596)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡田 卓弥  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
清水 稔
登録日 2010-09-17 
登録番号 特許第4586475号(P4586475)
発明の名称 磁気エンコーダ  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
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